(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024164538
(43)【公開日】2024-11-27
(54)【発明の名称】直流事故検出装置、直流事故検出方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
H02J 1/00 20060101AFI20241120BHJP
H02G 1/02 20060101ALI20241120BHJP
G01R 31/08 20200101ALI20241120BHJP
【FI】
H02J1/00 301D
H02G1/02
G01R31/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080094
(22)【出願日】2023-05-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】工藤 悠生
(72)【発明者】
【氏名】川崎 圭
(72)【発明者】
【氏名】直井 伸也
(72)【発明者】
【氏名】飯尾 尚隆
【テーマコード(参考)】
2G033
5G165
5G352
【Fターム(参考)】
2G033AA05
2G033AB04
2G033AC02
2G033AD21
2G033AF01
2G033AG14
5G165BB08
5G165CA02
5G165CA05
5G165DA01
5G165DA06
5G165EA10
5G165LA02
5G165MA03
5G352AM02
(57)【要約】
【課題】多端子HVDCシステムの安定稼働のための事故区間の早期検出をすることができる直流事故検出装置、直流事故検出方法、およびプログラムを提供することである。
【解決手段】実施形態の直流事故検出装置は、変化算出部と、事故判定部とを持つ。変化算出部は、直流送電線を構成し対象端子に接続された複数の送電線における対象端子の近傍を流れる複数の電流値を取得し、取得した複数の電流値と予め定めた所定サンプル数前の対応する電流値との差分をそれぞれ算出する。事故判定部は、複数の差分のすべてが条件を満たす場合に、対象端子を構成する母線において事故が発生したと判定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
交直変換器を含む三以上の端子があり、前記三以上の端子のそれぞれの直流側が直流送電線によって直接的または間接的に接続されている多端子送電システムにおいて、前記三以上の端子のうち対象端子に付随して設けられる事故検出装置であって、
前記直流送電線を構成し前記対象端子に接続された複数の送電線における前記対象端子を構成する母線の近傍を流れる複数の電流値を取得し、取得した複数の電流値と予め定めた所定サンプル数前の対応する電流値との差分をそれぞれ算出する変化算出部と、
複数の差分のすべてが条件を満たす場合に、前記対象端子を構成する母線において事故が発生したと判定する事故判定部と、
を備える直流事故検出装置。
【請求項2】
前記変化算出部は、
前記対象端子に接続された複数の送電線ごとに、前記複数の差分のそれぞれと比較するための複数の閾値を設定する、
請求項1記載の直流事故検出装置。
【請求項3】
交直変換器を含む三以上の端子があり、前記三以上の端子のそれぞれの直流側が直流送電線を介して互いに接続されている多端子送電システムにおいて、前記三以上の端子のうち対象端子に付随して設けられる事故検出装置であって、
前記直流送電線を構成し前記対象端子に接続された複数の送電線における前記対象端子の近傍を流れる複数の電流値を取得し、取得した複数の電流値と予め定めた所定サンプル数前の対応する電流値との差分をそれぞれ算出し、連続で複数回にわたり、複数の差分のすべてが条件を満たす場合、前記対象端子を構成する母線において事故が発生したと判定する事故判定部を備える、
直流事故検出装置。
【請求項4】
前記複数の差分に置換される値として、前記複数の差分を含む時系列値に対してデジタルフィルタ処理を行った値を計算するフィルタ適用部を更に備える、
請求項1記載の直流事故検出装置。
【請求項5】
交直変換器を含む三以上の端子があり、前記三以上の端子のそれぞれの直流側が直流送電線によって直接的または間接的に接続されている多端子送電システムにおいて、
前記三以上の端子のうち対象端子に付随して設けられる直流事故検出装置が、
前記直流送電線を構成し前記対象端子に接続された複数の送電線における前記対象端子の近傍を流れる複数の電流値を取得し、取得した複数の電流値と予め定めた所定サンプル数前の対応する電流値との差分をそれぞれ算出する処理と、
複数の差分のすべてが条件を満たす場合に前記対象端子を構成する母線において事故が発生したと判定する処理と、
を実行する直流事故検出方法。
【請求項6】
交直変換器を含む三以上の端子があり、前記三以上の端子のそれぞれの直流側が直流送電線によって直接的または間接的に接続されている多端子送電システムにおいて、
前記三以上の端子のうち対象端子に付随して設けられる直流事故検出装置に、
前記直流送電線を構成し前記対象端子に接続された複数の送電線における前記対象端子の近傍を流れる複数の電流値を取得し、取得した複数の電流値と予め定めた所定サンプル数前の対応する電流値との差分をそれぞれ算出する処理と、
複数の差分のすべてが条件を満たす場合に前記対象端子を構成する母線において事故が発生したと判定する処理と、
を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、直流事故検出装置、直流事故検出方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、HVDC(High-Voltage Direct Current)システムの急速な需要の拡大が進んでいる。HVDCシステムは、従来の交流送電と比較して長距離送電、大容量送電に適しているため、更なる需要の拡大が見込まれている。多端子HVDCシステムは、三以上の端子が直流送電線に接続されたものである。洋上風力発電所に適用される場合、通常のHVDCシステムは一つの洋上風力発電所と陸上電気系統を接続するものであるのに対し、多端子HVDCシステムは、複数の洋上風力発電所と複数の陸上電気系統を一つの(電気的に一つとみなせる)直流送電線に接続するものである。なお、端子は、交流電力を直流電力に(あるいはその逆に)変換する交直変換器、複数の送電線に接続される母線等を含む概念である。
【0003】
直流電力での送電は、交流電力での送電と比較して電力の損失を抑制できることから、特に大容量、且つ長距離の送電に好適に適用される。ところで、多端子HVDCシステムでは、接続する送電線が増えるため、短絡事故等の事故を速やかに検出し除去できることが望まれる。直流側の地絡事故や短絡事故が生じた場合でも健全区間の運転継続が求められるが、従来の直流事故検出装置では、事故区間の誤検出が問題となる可能性があった。また、誤検出を防ぐために、端子間の通信を用いて検出精度を向上させる方法もあるが、その場合には、通信による遅延の影響を受けるため、事故を検出する速度が低下することが懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、多端子HVDCシステムの安定稼働のための事故区間の早期検出をすることができる直流事故検出装置、直流事故検出方法、およびプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の直流事故検出装置は、変化算出部と、事故判定部とを持つ。変化算出部は、直流送電線を構成し対象端子に接続された複数の送電線における対象端子の近傍を流れる複数の電流値を取得し、取得した複数の電流値と予め定めた所定サンプル数前の対応する電流値との差分をそれぞれ算出する。事故判定部は、複数の差分のそれぞれと閾値とを比較した結果のすべてが条件を満たす場合に、対象端子を構成する母線において事故が発生したと判定する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施形態に係る直流事故検出装置が適用される多端子送電システムの構成の一例を示す図。
【
図2】第1実施形態に係る直流事故検出装置100の構成の一例を示す図。
【
図3】ある端子において事故が発生していない場合の電流の流れを例示した図。
【
図4】ある端子の正極母線30において事故が発生した場合の電流の流れを例示した図。
【
図5】第1実施形態に係る直流事故検出装置100によって実施される処理の一例を示すフローチャート。
【
図6】第1実施形態に係る直流事故検出装置100によって実施される処理の別の一例を示すフローチャート。
【
図7】第2実施形態に係る直流事故検出装置100Aの構成の一例を示す図。
【
図8】第2実施形態に係るフィルタ適用部106が適用する移動平均フィルタの一例。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施形態の直流事故検出装置、直流事故検出方法、およびプログラムを、図面を参照して説明する。直流事故検出装置100は、多端子送電システムの端子に付随して設けられる装置である。
【0009】
(共通構成)
図1は、実施形態に係る直流事故検出装置が適用される多端子送電システムの構成の一例を示す図である。
図1において、ハイフン以下の符号は、どの端子に属するかを示すものである。以下の説明においていずれの端子であるかを区別しないときは、ハイフン以下の符号を省略して説明する。多端子送電システムの一つの端子は、交流系統10と、直流送電線50のいずれかとを接続するものである。直流送電線50には、例えば、洋上風力発電と陸上電気系統とを接続するもの(50#1p、50#1n、50#4p、50#4n)と、洋上風力発電同士を接続するもの(50#2p、50#2n、50#3p、50#3n)とがある。直流送電線50において#以降の数字は送電線の識別番号、その後のpは正側送電線であることを示し、nは負側送電線であることを示す。これらの直流送電線50の全ては、正負ごとに互いに電気的に接続されている。いずれの送電線であるかを区別しないときは、単に直流送電線50(或いは正負のみ区別して50p、50n)と称する。一つの端子は、例えば、交直変換器20と、正極母線30と、負極母線32と、直流遮断器40~45とを含む。
図1では全ての端子に直流事故検出装置100が付随しているように示しているが、一部の端子にのみ付随して設けられてもよい。一つの直流事故検出装置100が直流事故の検出対象とする端子(直流事故検出装置100が付随して設けられる端子)のことを対象端子と称する場合がある。「付随する」とは、通信時間が問題にならない程度の距離範囲(例えば、100数十[m]~百[m]程度の範囲)に設置されることである。
【0010】
交流系統10のそれぞれは、例えば、交流電力を発電する発電設備であってもよいし、他の送電側の交流系統から送電されてきた交流電力を、さらに受電側の他の交流系統に送電する設備や、接続された先に存在するそれぞれの需要家に供給する設備(陸上電気系統)であってもよい。例えば、10-1~10-3は洋上風力発電であり、10-4、10-5は陸上電気系統である。多端子送電システムは、出電側の交流系統10である10-1、10-2、10-3から受電側の交流系統10である10-4、10-5へ大容量の電力を送電するものである。正側の送電線はグランド電位に対して正の電圧となっており、負側の送電線はグランド電位に対して負の電圧となっている。そして、その絶対電位は、例えば同じ位の値になるように制御されている。
【0011】
交流系統10の交流電力は、交直変換器20によって、直流電力に変換される。交直変換器20は、交流電力と直流電力とを相互に変換可能なものである。交直変換器20は、交流側端子から受け入れた交流の電力を直流側端子から直流の電力として出力したり、直流側端子から受け入れた直流の電力を交流側端子から交流の電力として出力したりする。交直変換器20は、例えば、MMC(Modular Multilevel Converter)である。MMCとは、直列に接続された複数のセル(サブモジュール)を単位変換器として搭載したアームを三相ごとに、正側と負側のそれぞれに備え、それぞれのセルにより出力される電圧を加算することによって、多段に出力電圧を調整可能なものである。それぞれのセルは、例えば、スイッチング素子や、ダイオード、セルコンデンサなどによって構成されている。
【0012】
正極母線30は、交直変換器20の直流側端子のうち正側端子に接続される。負極母線32は、交直変換器20の直流側端子のうち負側端子に接続される。正極母線30-1は、交直変換器20-1の一方の直流側端子に接続され、正極性の直流電圧が印加されている。負極母線32-1は、交直変換器20-1の他方の直流側端子に接続され、負極性の直流電圧が印加されている。正極母線30と負極母線32から出力された電力は、直流遮断器40~45を介して直流送電線50に送電される。直流遮断器40~45は、正極母線30およびと負極母線32の両側に設けられており、接続している直流送電線50の区間において直流系統事故が発生した場合、電力を遮断する役割をする。直流系統事故の一例は、直流送電線50を流れる電流が急激に変化する事故、例えば、落雷により発生する地絡事故である。
【0013】
直流遮断器40~45のそれぞれは、例えば、転流回路と機械式接点と、半導体遮断器とを有する。直流遮断器40~45は、機械式接点に流れる電流を、転流回路を動作状態に制御することによって半導体遮断器に転流させ、半導体遮断器が電流を遮断することによって、特定の送電線路を遮断する。機械式接点に流れる電流を半導体遮断器に転流させる際に、転流回路は、機械式接点の電極間のアークを消弧するように電流を流すように動作する。これによって、機械式接点は、電気的にも機械的にも開状態に制御され、機械式接点に流れる電流は半導体遮断器に転流される。
【0014】
端子「-1」に関していうと、直流遮断器40-1は交直変換器20-1と正極母線30との間に設けられ、直流遮断器41-1は交直変換器20-1と負極母線32との間に設けられる。直流遮断器42-1は、直流送電線50#1pにおける正極母線30-1の近傍に設けられる。直流遮断器43-1は、直流送電線50#2pにおける正極母線30-1の近傍に設けられる。直流遮断器44-1は、直流送電線50#1nにおける負極母線32-1の近傍に設けられる。直流遮断器45-1は、直流送電線50#2nにおける負極母線32-1の近傍に設けられる。
【0015】
直流送電線50は、直流電力を送電する送電線である。直流送電線50は、例えば、海底ケーブルや、架空送電線などである。直流送電線50は、それらに限定されず、いかなる種類のものであってもよい。
【0016】
(第1実施形態)
図2は、第1実施形態に係る直流事故検出装置100の構成の一例を示す図である。直流事故検出装置100は、変化算出部102と、事故判定部104を備える。これらの構成要素は、例えば、それぞれFPGA(Field-Programmable Gate Array)によって実現される。
【0017】
変化算出部102は、対象端子における正極母線30または負極母線32に接続された複数の送電線における、対象端子の近傍(前述したように、通信時間が問題にならない程度の距離範囲内にあることをいう)を流れる電流値を、図示しない電流センサ(CT)から所定のサンプリング周期で繰り返し取得する。変化算出部102は、検出タイミング(すなわち現在)で取得した複数の電流値と、検出タイミングに比して予め定めた所定サンプル数前の対応する電流値との差分をそれぞれ算出する。所定サンプル数は、例えば1であるが、2以上の値であってもよい。
図1において、DPと示されているものが(端子「-1」と直流送電線50#1nに関する電流検出箇所の一例である。以下の説明において、正極側では正極母線30に流れる電流を正、負極側では負極母線32から流れる電流を負と定義する。対象端子の母線の近傍を流れる電流値と所定サンプル数前の対応する電流値の差分を電流差と称し、「Δik」を用いて表記する。以下の説明において、正側と負側のいずれかに関して、対象端子に接続された送電線が1~Nまで存在するものとし、それらのそれぞれにおける電流値と所定サンプル数前の対応する電流値の差分をΔikと表記する(k=1~N)。また、交直変換器20と正極母線30との間の電流をIと表記し、その電流値と所定サンプル数前の対応する電流値の差分をΔIと表記する。つまり、変化算出部102は、電流差ΔI、電流差Δi1、電流差Δi2、…、電流差ΔiNを電流差として算出する。
【0018】
事故判定部104は、端子の正側と負側のそれぞれについて以下の判定を行う。事故判定部104は、複数の電流差ΔIおよびΔikが、すべて条件を満たす場合に、対象端子の近傍の母線において事故が発生したと判定する。条件とは、ΔIおよび各Δikが、それぞれに対して予め設定された閾値Ithおよび閾値ithkを超えることである。閾値Ithと閾値ithkのそれぞれは、異なる値であってもよいし、同じ値であってもよい。
【0019】
図3は、ある端子において事故が発生していない場合の電流の流れを例示した図である。この図では正側のみ示しており、正極母線30に2つの直流送電線50が接続されているものとする。通常運転時、正極母線30から直流送電線50に流れる電流をI、正極母線30から2つの直流送電線に流れる電流をそれぞれi1、i2と表す。それぞれの電流は、矢印の方向に流れている。直流遮断器42-1を通る電流は、対象端子から陸上に流れる電流である。直流遮断器43-1を通る電流は、別の端子から対象端子に流れる電流である。
【0020】
図4は、ある端子の正極母線30において事故が発生した場合の電流の流れを例示した図である。正極母線30において地絡事故が発生した場合、電流は、正極母線30の電圧の低下により、正極母線30に接続されたすべての直流送電線50から正極母線30に対して急激に流れ込む。同時に、交直変換器20から正極母線30に流れる電流も急増する。従って、正極母線30の近傍における電流の全てが急増していることを検知できれば、高確率に正極母線30に地絡が生じたと判定することができる。そこで、事故判定部104は、複数の電流差ΔIおよびΔikが全て、それぞれに対して予め設定された閾値ithkを超える場合に、正極母線30に地絡が生じたことを検知する。
【0021】
負極母線32において地絡事故が発生した場合も同様に、電流は、負極母線32の電圧の上昇(マイナス電位からグランド電位への上昇)により、負極母線32から、負極母線32に接続されたすべての直流送電線50に対して急激に流出する。同時に、負極母線32から交直交換機に流れる電流も急増する。従って、負極母線32の近傍における電流の全てが急増している(前述したように電流の向きは正側とが逆に定義されている)ことを検知できれば、高確率に負極母線32に地絡が生じたと判定することができる。
【0022】
更に、正極母線30と負極母線32において短絡事故が発生した場合、正極母線30はプラス電位、負極母線32はマイナス電位を持つように制御されているのであるから、それらの電位は打ち消し合ってグランド電位に近づく。この結果、地絡が生じたのと同様の現象が生じる。
【0023】
図5は、第1実施形態に係る直流事故検出装置100によって実施される処理の一例を示すフローチャートである。まず、変化算出部102は、対象端子の近傍の母線を流れる電流の電流値を取得する(ステップS100)。
【0024】
次に、変化算出部102は、取得した電流値と所定サンプル数前の電流値との差分の電流差を算出する(ステップS102)。
【0025】
次に、事故判定部104は、電流差ΔIが閾値Ithよりも大きいか否かを判定する(ステップS104)。
【0026】
電流差ΔIが閾値Ithよりも大きいと判定した場合、事故判定部104は、電流差Δi1が閾値ith1よりも大きいか否かを判定する(ステップS106)。
【0027】
ステップS104で電流差Δi1が閾値ith1よりも大きいと判定した場合、事故判定部104は、電流差Δi2が閾値ith2よりも大きいか否かを判定する(ステップS108)。同様に、k=3以降についても判定処理を行い、k=Nまで判定を行う(ステップS110)
【0028】
ステップS104~ステップS110のすべての処理において電流差が閾値より大きいと判定した場合、事故判定部104は、対象端子を構成する母線が事故区間と判定する(ステップS112)。ステップS112の処理の後、本フローチャートは、ステップS100に処理が戻され、本フローチャートの処理が繰り返される。
【0029】
一方、ステップS104~ステップS110のいずれかの処理において、電流差が閾値以下であると判定された場合、対象端子を構成する母線を事故区間として判定しない(ステップS114)。つまり、直流事故検出装置100の判定規則の範囲内では対象端子を構成する母線には事故が発生していないと判定する。ステップS114の処理の後、本フローチャートは、ステップS100に処理が戻され、本フローチャートの処理が繰り返される。
【0030】
なお、変化算出部102と事故判定部104は、電流値の分解能を高くすることができる。分解能を高く設定すると、測定対象となる電流を細かく検出できる能力が上がるため誤検出を防ぐことができる。特許文献1に記載の技術では、母線に流れ込む電流の総和を閾値と比較して事故判定を行っている。この場合、FPGAなどの高速なデバイスを使用することを想定すると、総和を求める際に桁が溢れることを防止するために電流値の分解能を低下させる必要が生じ得る。そのため、事故の検出精度が低下する場合がある。これに対して本実施形態の直流事故検出装置100では、個別検出値をそれぞれ閾値と比較しているため、電流の総和を計算する必要がない。したがって、電流値の分解能をあえて低下させる必要がないため、上記のような問題は生じない。この結果、本実施形態によれば、高い分解能でより高精度に事故判定を行うことが可能となる。
【0031】
なお、上記の説明では、1回でも算出された電流差が閾値より大きいという条件をすべて満たした場合に事故判定を行うものとしたが、算出された複数の電流差(m回分)が閾値より大きいという条件をすべて満たした場合に事故判定を行うものとしてもよい。以下、その場合の処理の流れについて説明する。
【0032】
図6は、第1実施形態に係る直流事故検出装置100によって実施される処理の別の一例を示すフローチャートである。図中、Aはカウント値であり、本フローチャートの実行開始時にはゼロに設定される。ステップS200~S210の処理は
図5のフローチャートにおけるステップS100~S110の処理と同様であるため、再度の説明を省略する。
【0033】
ステップS204~ステップS210のすべての処理において電流差が閾値より大きいと判定された場合、事故判定部104は、Aを1インクリメントする(ステップS212)。
【0034】
次に、事故判定部104は、Aとmを比較してAがm以上であるか否かを判定する(ステップS214)。Aがm未満である合は、ステップS200に処理が戻される。
【0035】
ステップS214の処理においてAがm以上である場合と判定した場合、事故判定部104は、対象端子を構成する母線を事故区間と判定する(ステップS216)。
【0036】
ステップS204~212の処理において、電流差が閾値より小さいと判断された場合、事故判定部104は、Aをリセットしてゼロに設定する(ステップS218)。この場合、事故判定部104は、対象端子を構成する母線を事故区間として判定しない(ステップS220)。つまり、直流事故検出装置100の判定規則の範囲内では対象端子を構成する母線には事故が発生していないと判定する。ステップS220の処理の後、本フローチャートは、ステップS200に処理が戻され、本フローチャートの処理が繰り返される。
【0037】
以上説明した第1実施形態の直流事故検出装置100は、対象端子において検出できる電流値を用いて事故判定を行うため、端子間の通信が必要ない。そのため高速に事故を検出することが可能となる。また、すべての条件を満たした場合のみ直線事故が発生していると判定するため、単条件で判定するよりも正確に事故判定を行うことができる。この結果、速やかに事故区間を直流系統から除去することもできる。
【0038】
また、
図6で説明したように、複数回すべての条件を満たした場合事故判定を行う一例によれば、検出誤差等による異常値によって事故を誤検出する頻度を低下させることができる。
【0039】
(第2実施形態)
図7は、第2実施形態に係る直流事故検出装置100Aの構成の一例を示す図である。以下の説明において、第1の実施形態で説明した内容と同様の機能を有する部分については、同様の名称および符号を付するものとし、その機能に関する具体的な説明は省略する。
図7に示す直流事故検出装置100Aは、
図1に示す構成に加え、フィルタ適用部106を更に備える。フィルタ適用部106は、判定に使用する電流差に移動平均フィルタなどのノイズ除去を目的としたデジタルフィルタを適用する。例えば、フィルタ適用部106は、変化算出部102により所定時間ごとに計算する時系列データにおいて、異なる時点で計算された電流差を、ある時点からある時点まで平均化する。所定範囲は任意に設定することができてもよい。
【0040】
図8は、第2実施形態に係るフィルタ適用部106が適用する移動平均フィルタの一例である。フィルタ適用部106は、例えば、判定時刻のpステップ前からqステップ分の移動平均を求める。
【0041】
第2実施形態の事故判定部104は、フィルタ適用部106の処理によって得られた値(フィルタ値)を判定に使用する。
【0042】
これによって、
図6で説明した例と同様、誤検出の可能性を低下させることができる。
【0043】
また、上記実施形態では、FPGAによって実現されるものとしたが、CPU(Central Processing Unit)などのハードウェアプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することにより実現される。これらの構成要素のうち一部または全部は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)などのハードウェア(回路部;circuitryを含む)によって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。プログラムは、予めHDD(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリなどの記憶装置(非一過性の記憶媒体を備える記憶装置)に格納されていてもよいし、DVDやCD-ROMなどの着脱可能な記憶媒体(非一過性の記憶媒体)に格納されており、記憶媒体がドライブ装置に装着されることでインストールされてもよい。
【0044】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、対象端子の近傍の母線の直流事故を検出することにより、多端子HVDCシステムの安定稼働のための事故区間の早期検出と除去をすることができる。
【0045】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0046】
10…交流系統、20…交直変換器、30‥正極母線、32…負極母線、40…直流遮断器、41…直流遮断器、42…直流遮断器、43…直流遮断器、44…直流遮断器、45…直流遮断器、50…直流送電線、100…直流事故検出装置、102…変化算出部、104…事故判定部、106…フィルタ適用部