IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大成建設株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-拡翼掘削機 図1
  • 特開-拡翼掘削機 図2
  • 特開-拡翼掘削機 図3
  • 特開-拡翼掘削機 図4
  • 特開-拡翼掘削機 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024164552
(43)【公開日】2024-11-27
(54)【発明の名称】拡翼掘削機
(51)【国際特許分類】
   E21B 10/32 20060101AFI20241120BHJP
【FI】
E21B10/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080122
(22)【出願日】2023-05-15
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 雅樹
(72)【発明者】
【氏名】岩田 曉洋
(72)【発明者】
【氏名】秋月 通孝
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 徹
(72)【発明者】
【氏名】森川 泰成
(72)【発明者】
【氏名】矢島 清志
【テーマコード(参考)】
2D129
【Fターム(参考)】
2D129AB16
2D129BA01
2D129BA10
2D129BB08
2D129CA02
2D129CA13
2D129DA11
2D129EB21
2D129GA34
(57)【要約】
【課題】掘削時の安定性が高い拡翼掘削機を提供する。
【解決手段】ベースマシンと、ベースマシンからワイヤ3にて吊り下げられている拡翼掘削体10と、を有し、直方体状の壁杭の二つの広幅面の少なくとも一方に拡幅部を有する壁杭2の孔壁5を造成する、拡翼掘削機1である。拡翼掘削体10は、平面視において壁杭2の壁厚方向に直交する方向に延在する回動軸14と、孔壁5に反力を取るスタビライザ15と、を有する架構11と、スタビライザ15を孔壁5に対して出没させる出没手段12と、出没手段12を作動させる第一油圧系統と、回動軸14を中心にして壁杭2の壁厚方向に回動可能な拡翼カッタ30と、拡翼カッタ30を回動させる回動駆動手段31と、拡翼カッタ30を回転させる回転駆動手段32と、回動駆動手段31および回転駆動手段32を作動させる第二油圧系統と、を備えたことを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースマシンと、前記ベースマシンからワイヤにて吊り下げられている拡翼掘削体と、を有し、直方体状の壁杭の二つの広幅面の少なくとも一方に拡幅部を有する壁杭の孔壁を造成する、拡翼掘削機であって、
前記拡翼掘削体は、
平面視において前記壁杭の壁厚方向に直交する方向に延在する回動軸と、前記孔壁に反力を取るスタビライザと、を有する架構と、
前記スタビライザを前記孔壁に対して出没させる出没手段と、
前記出没手段を作動させる第一油圧系統と、
前記回動軸を中心にして前記壁杭の壁厚方向に回動可能な拡翼カッタと、
前記拡翼カッタを回動させる回動駆動手段と、
前記拡翼カッタを回転させる回転駆動手段と、
前記回動駆動手段および前記回転駆動手段を作動させる第二油圧系統と、を備えた
ことを特徴とする拡翼掘削機。
【請求項2】
前記スタビライザの前記孔壁への接触面には、複数の係止穴が形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の拡翼掘削機。
【請求項3】
前記拡翼掘削体は、
前記拡翼掘削体の上部に回転可能に設けられたワイヤ固定部と、
前記ワイヤ固定部を前記拡翼掘削体に対して回転させる固定部回転手段と、をさらに備えた
ことを特徴とする請求項1に記載の拡翼掘削機。
【請求項4】
前記ワイヤ固定部の上端部には、カバー部材が設けられている
ことを特徴とする請求項3に記載の拡翼掘削機。
【請求項5】
前記架構は、前記拡翼カッタで掘削された土砂を排出する浚渫ポンプを備えていない
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の拡翼掘削機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、拡翼掘削機に関する。
【背景技術】
【0002】
連続地中壁等の壁杭の支持力を強化する工法として、壁杭の有する二つの広幅面の一方もしくは双方に拡幅部(もしくは、拡底部、拡張部)を形成する工法があり、拡幅部を形成する掘削機として拡翼掘削機が知られている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1の拡翼掘削機は、ベースマシンと、ベースマシンからワイヤにて吊り下げられている拡翼掘削体と、を有し、直方体状の壁杭の二つの広幅面の少なくとも一方に拡幅部を有する壁杭の孔壁を造成する、拡翼掘削機である。拡翼掘削体は、平面視において壁杭の壁厚に直交する方向に延在する回動軸を有し、孔壁に反力を取るスタビライザを有する架構と、回動軸に対して壁杭の壁厚方向に回動自在な拡翼カッタと、回動軸に対して拡翼カッタを回動させる回動駆動手段と、拡翼カッタを回転させる回転駆動手段と、を有している。拡翼カッタの底面には、複数の掘削ビットが設けられている。なお、特許文献1の拡翼掘削体においては、スタビライザと拡翼カッタは、ともに共用の油圧機構にて駆動されるようになっている。このような拡翼掘削機では、まず油圧機構でスタビライザを広げて孔壁に押し付けた後に、油圧機構で拡翼カッタを駆動させて地盤を掘削する。これにより拡翼カッタによる掘削の反力を、スタビライザを介して孔壁に取ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-14816号公報
【特許文献2】特開2011-190645号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
施工場所の上方に障害物がある場合にも対応できるよう、拡翼掘削体の高さ寸法を小さくする低空頭化が要求されている。スタビライザは、拡翼掘削体の上部と下部に設けられていることが多いが、拡翼掘削体の高さ寸法が小さいと、上下のスタビライザの配置間隔が小さくなる。すると、拡翼カッタを広げて掘削する際に、拡翼カッタを支持する拡翼掘削体が回転し易くなり、安定性が低下してしまうという問題があった。
このような観点から、本発明は、掘削時の安定性が高い拡翼掘削機を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような課題を解決するための本発明は、ベースマシンと、前記ベースマシンからワイヤにて吊り下げられている拡翼掘削体と、を有し、直方体状の壁杭の二つの広幅面の少なくとも一方に拡幅部を有する壁杭の孔壁を造成する、拡翼掘削機である。前記拡翼掘削体は、平面視において前記壁杭の壁厚方向に直交する方向に延在する回動軸と、前記孔壁に反力を取るスタビライザと、を有する架構と、前記スタビライザを前記孔壁に対して出没させる出没手段と、前記出没手段を作動させる第一油圧系統と、前記回動軸を中心にして前記壁杭の壁厚方向に回動可能な拡翼カッタと、前記拡翼カッタを回動させる回動駆動手段と、前記拡翼カッタを回転させる回転駆動手段と、前記回動駆動手段および前記回転駆動手段を作動させる第二油圧系統と、を備えたことを特徴とする。
従来は、拡翼カッタを回動および回転させる油圧系統と、スタビライザを出没させる油圧系統が同一であったため、拡翼カッタとスタビライザの制御を同時に行うことができなかったが、本発明の拡翼掘削機によれば、拡翼カッタを回動および回転させる油圧系統と、スタビライザを出没させる油圧系統とが別系統であるので、拡翼カッタの回動および回転の制御と、スタビライザの出没の制御とを独立して同時に行うことができる。これによって、拡翼カッタの作動により拡翼掘削体に作用する応力に応じて、拡翼カッタの回動および回転を制御しつつ、スタビライザの出没を制御することができるので、掘削時の安定性を確保することができる。
【0006】
本発明の拡翼掘削機においては、0前記スタビライザの前記孔壁への接触面には、複数の係止穴が形成されているものが好ましい。このような構成によれば、スタビライザの係止穴に孔壁が入り込んで、スタビライザと孔壁との間の摩擦力が大きくなる。これによって、スタビライザの面内方向に拡翼掘削体がずれるのを抑制できる。
本発明の拡翼掘削機においては、前記拡翼掘削体は、前記拡翼掘削体の上部に回転可能に設けられたワイヤ固定部と、前記ワイヤ固定部を前記拡翼掘削体に対して回転させる固定部回転手段と、をさらに備えたものが好ましい。このような構成によれば、拡翼掘削体をワイヤおよびベースマシンに対して回転させることができるので、拡翼掘削体を所望の角度に設置することができ、施工性が向上する。
本発明の拡翼掘削機においては、前記ワイヤ固定部の上端部には、カバー部材が設けられているものが好ましい。このような構成によれば、拡翼掘削体およびワイヤ固定部の上方から土塊が落下しても、カバー部材で止められるので、油圧ホースやその接続部に土塊が衝突するのを防止することができる。
本発明の拡翼掘削機においては、前記架構が、前記拡翼カッタで掘削された土砂を排出する浚渫ポンプを備えていないものが好ましい。このような構成によれば、拡翼掘削体の低空頭化を図れる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の拡翼掘削機によれば、掘削時の安定性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態に係る拡翼掘削機の拡翼掘削体を示した側面図である。
図2】本発明の実施形態に係る拡翼掘削機の拡翼掘削体を示した図であって、(a)は平面図、(b)は正面図である。
図3】本発明の実施形態に係る拡翼掘削機の拡翼掘削体を示した斜視図である。
図4】本発明の実施形態に係る拡翼掘削機の拡翼掘削体のワイヤ固定部を示した要部拡大斜視図である。
図5】本発明の実施形態に係る拡翼掘削機の拡翼掘削体の固定部回転手段を示した図であって、(a)はワイヤ固定部が原位置にある状態を示した平面図、(b)はワイヤ固定部が傾斜位置にある状態を示した平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施形態に係る拡翼掘削機について、添付した図面を参照しながら説明する。図1は本発明の実施形態に係る拡翼掘削機の拡翼掘削体を示した側面図、図2の(a)は拡翼掘削体を示した平面図、(b)は正面図、図3は拡翼掘削体を示した斜視図である。
図1に示すように、本実施形態の拡翼掘削機1は、例えば、直方体状の壁杭2の一般部と、この一般部の二つの広幅面の少なくとも一方にある拡幅部と、を有する壁杭2の施工に当たり、直方体状の壁杭2の一般部造成孔D1(もしくはガイド造成孔)から拡幅部造成孔D2を造成する際に適用される掘削機である。一般部造成孔D1の造成は水平多軸型掘削機等の他の一般部掘削機により行われる。なお、造成される壁杭2は、直方体状の壁杭2の一般部の二つの広幅面の双方において、もしくは、二つの広幅面の一方において、壁の延伸方向に間欠的に複数の突起状もしくは節状の拡幅部が形成される形態や、壁の延伸方向に連続する拡幅部が形成される形態などがある。
【0010】
図1に示すように、拡翼掘削機1は、ベースマシン(図示せず)と、拡翼掘削体10とを備えている。
ベースマシンは、地盤Gの地表面において走行可能な例えばクローラクレーンからなり、ブームから吊り下げられているワイヤ3によって拡翼掘削体10を支持する。なお、ベースマシンは、クローラクレーンに限定されるものではなく、走行可能であって、ワイヤ3を介して拡翼掘削体10を掘削孔内にワイヤリングできるトラッククレーン等の他の重機であってもよい。
【0011】
図2および図3にも示すように、拡翼掘削体10は、ベースマシンからワイヤ3にて吊り下げられている。拡翼掘削体10は、架構11と、出没手段12と、第一油圧系統と、拡翼カッタ30と、回動駆動手段31と、回転駆動手段32と、第二油圧系統と、ワイヤ固定部50と、固定部回転手段51と、を備えている。
架構11は、各種部品を支持する基体となる部位であって、鋼材を組み付けてフレーム状に構成されている。架構11は、拡翼カッタ30を回動可能に支持する回動軸14と、壁杭2の孔壁5に反力を取るスタビライザ15とを有している。回動軸14は、拡翼カッタ30を回動可能に支持する部材であって、架構11の下端部において、平面視において壁杭2の壁厚方向に直交する方向(壁杭2の延在方向、図2において左右方向)に延在している。
【0012】
スタビライザ15は、孔壁5に沿った板状の部材であり、図1中、架構11の上下の左右位置において、架構11から孔壁5に対して出没可能に設けられている。スタビライザ15は、孔壁5に押し付けられることで反力を取る。スタビライザ15は、孔壁5に反力を取りながら拡翼掘削体10の姿勢制御を実行することができる。スタビライザ15の孔壁5への接触面には、複数の係止穴16,16・・が形成されている(図2および図3参照)。係止穴16は、円形を呈し、板材の表面から一定深さで形成されている。複数の係止穴16,16・・は、正面視で千鳥形状に配置されている。係止穴16は、孔壁5の土砂が入り込むことで、スタビライザ15と孔壁5との間の摩擦力を大きくする。
【0013】
出没手段12は、スタビライザ15を孔壁5に対して出没させるものである。本実施形態では、出没手段12は、リンク機構12a(図1参照)と油圧シリンダ(図示せず)とを備えて構成されている。リンク機構12aは、スタビライザ15を含む平行リンクとなっている。油圧シリンダを伸縮させて平行リンクを作動させることで、スタビライザ15が孔壁5に対して平行な状態を維持しながら出没し、近接離反するようになっている。このような出没手段12によりスタビライザ15を孔壁5に押し付けることで、スタビライザ15は孔壁5に反力を得る。また、出没手段12によりスタビライザ15の出没量を調整することにより、多様な壁厚の一般部造成孔D1に対応することができる。
第一油圧系統(図示せず)は、出没手段12を作動させる油圧系統であり、後記する第二油圧系統とは独立して作動する別系統のものである。第一油圧系統は、所定の圧力で油が流入される第一ポートと、第一ポートから延在する流路と、流路から上下左右の出没手段12の油圧シリンダに分岐して繋がる分岐流路とを備えている。各分岐流路には、開閉弁が設けられており、各油圧シリンダを独立で作動させることができる。
【0014】
拡翼カッタ30は、回動軸14に回動可能に支持されており、回動した状態で拡幅部造成孔D2を造成する。拡翼カッタ30は、回動軸14の軸方向に間隔をあけて複数本(本実施形態では三本)並設されている。このように本実施形態の拡翼掘削機1は、一列多軸型(一列三軸型)の掘削機である。
三本の拡翼カッタ30のうち、左右端の拡翼カッタ30の頭部には自身を回転させる油圧式の回転モータ35(図2中、破線にて示す)が搭載されており、中央の拡翼カッタ30はギヤリング36を介して左側の回転モータ35から伝達された駆動力により回転する。よって、左端の拡翼カッタ30の回転によって中央の拡翼カッタ30がギアを介して左端の拡翼カッタ30とは逆方向に回転する。右端の拡翼カッタ30は中央の拡翼カッタ30とは独立して自身の回転モータ35により回転する。本実施形態では、回転モータ35とギヤリンク36が、拡翼カッタ30を自身の中心軸回りに回転(自転)させる回転駆動手段32となる。すなわち、回転駆動手段32は、拡翼カッタ30をその中心軸(長手方向に沿う軸)回りに回転させるための駆動源である。
【0015】
拡翼カッタ30は、回動軸14を中心にして回動(壁杭2の中心軸に対して傾動)する中空のシャフト30aと、シャフト30aの外周面に配設されている複数の掘削ビット30bとを有している。さらに、拡翼カッタ30は、シャフト30aの先端で径方向外側に延設する複数の径方向翼30cと、各径方向翼30cの下縁において間隔を置いて設けられた複数の掘削ビット30dとを有している。
そして、隣接する拡翼カッタ30,30は、双方の掘削ビット30bが干渉しない態様で相互に一部がラップするようにして配設されている。これにより、拡翼カッタ30,30の各シャフト30aが、シャフト30aの中心軸回りに回転して掘削した際に、掘削されない領域が発生することはなく、全体が均一に三本の拡翼カッタ30により掘削される。
【0016】
本実施形態では、図1に示すように、別途の軸部掘削機(図示せず)で、一般部造成孔D1を掘削する際に、その下方に余掘り部D3を形成しておく。そして、拡翼掘削機10で拡幅部造成孔D2を造成する際に発生した掘削土を余掘り部D3に溜めておく。その後、再度別途の軸部掘削機を挿入し、余掘り部D3に溜めた掘削土を底浚いして排出する。このようにすることで、従来、拡翼掘削体10に設けられていた浚渫ポンプを設けなくて良いので、拡翼掘削体10の低空頭化が達成できる。
なお、本実施形態では、中央の拡翼カッタ30が頭部に回転モータを備えていないことにより、浚渫ポンプ(図示せず)に通じる流通管と中空のシャフト30aを連通させることができる。そこで、拡翼カッタ30で掘削された土砂を排出する浚渫ポンプを、地上に配置して、地上より土砂を排出するようにしてもよい。この場合、流通管は、架構11の内部を通過させ、壁杭2内を上方に延在させて、地上の浚渫ポンプに繋げる。そして、地上の浚渫ポンプを稼働させることにより、拡翼カッタ30にて掘削されて発生した土砂を地上に排出することができる。このような構成によっても、従来、拡翼掘削体10に設けられていた浚渫ポンプを設けなくて良いので、拡翼掘削体10の低空頭化が達成できる。
【0017】
また、径方向翼30cは、拡翼カッタ30の先端(下端)において、拡翼カッタ30の中心軸から径方向外側に延設している。掘削ビット30dは、各径方向翼30cの下縁で間隔を置いて複数配設されている。
回動軸14を中心とした複数の拡翼カッタ30の回動(壁杭2の中心軸に対する傾動)は、回動軸14の上方斜め左右位置にある二本の油圧シリンダ37(図1,2参照)により実行される。複数の拡翼カッタ30を左方向であるX1方向に回動させる際には、右側にある油圧シリンダ37を下方に伸長させることにより、ピストンロッドの先端に回動自在に装着されているリンクを介して、複数の拡翼カッタ30を同時にX1方向に回動させる。一方、複数の拡翼カッタ30を右方向であるX2方向に回動させる際には、左側にある油圧シリンダ37を下方に伸長させることにより、ピストンロッドの先端に回動自在に装着されているリンクを介して、複数の拡翼カッタ30を同時にX2方向に回動させる。本実施形態では、油圧シリンダ37とリンクが、拡翼カッタ30を回動軸14回りに回動させる回動駆動手段31となる。すなわち、回動駆動手段31は、回動軸14を中心にして拡翼カッタ30を回動させるための駆動源である。
【0018】
第二油圧系統(図示せず)は、回動駆動手段31および回転駆動手段32を作動させる油圧系統であり、第一油圧系統とは独立して作動する別系統のものである。第二油圧系統は、所定の圧力で油が流入される第二ポートと、第二ポートから延在する流路と、流路から回動駆動手段31の油圧シリンダ37と、回転駆動手段32の回転モータ35とに分岐して繋がる分岐流路とを備えている。各分岐流路には、開閉弁が設けられており、各油圧シリンダ37および回転モータ35を独立で作動させることができる。
【0019】
図4は本実施形態に係る拡翼掘削機の拡翼掘削体のワイヤ固定部を示した要部拡大斜視図、図5は固定部回転手段を示した図であって、(a)はワイヤ固定部が原位置にある状態を示した平面図、(b)はワイヤ固定部が傾斜位置にある状態を示した平面図である。
図4および図5に示すように、ワイヤ固定部50は、ワイヤ3を固定する部位であって、拡翼掘削体10の上部に回転可能に設けられている。ワイヤ固定部50は、架構52とプーリ53とカバー部材54とを備えている。
【0020】
図4に示すように、架構52は、各種部品を支持する基体となる部位であって、鋼材を組み付けて箱状に構成されている。架構52の下端部は断面円形に形成されており、拡翼掘削体10の上部に回転可能に装着されている。
プーリ53は、ワイヤ3を巻き掛ける部材であって、壁杭2の壁厚方向に間隔をあけて一対設けられている。各プーリ53には、ベースマシンのブームから吊り下げられているワイヤ3がU字状に巻き掛けられる。
【0021】
カバー部材54は、ワイヤ固定部50の上部開口部を覆う部材であって、ワイヤ固定部50の上端部に設けられている。上部開口部の内部には、油圧ホースの接続部等が設けられており、ここをカバー部材54で覆うことによって、油圧の流路の破損を防止することができる。
【0022】
固定部回転手段51は、ワイヤ固定部50を拡翼掘削体10に対して回転させるものであって、図5に示すように、油圧シリンダ55を備えている。油圧シリンダ55は、架構11の上端部と、架構52の円形部分の側面に設けられたブラケット56との間に掛け渡されている。油圧シリンダ55を伸長させると、図5の(a)の状態から、図5の(b)に示すようにワイヤ固定部50が左回転する。逆に油圧シリンダ55を縮退させると、ワイヤ固定部50が右回転する。油圧シリンダ55は、第一油圧系統の流路に接続されており、出没手段12を作動させる油圧系統にて作動する。
【0023】
以下に、本実施形態の拡翼掘削機1の作用効果を説明する。かかる拡翼掘削機1によれば、拡翼カッタ30の回動および回転の制御と、スタビライザ15の出没の制御とを同時に行うことができる。これによって、拡翼カッタ30による掘削により拡翼掘削体10が傾いた場合でも、拡翼カッタ30の回動および回転を制御しつつ、スタビライザ15の出没を制御することができるので、掘削を行いつつ、拡翼掘削体10の姿勢を戻すことができる。これに対して、従来の拡翼掘削機では、拡翼カッタを回動および回転させる油圧系統と、スタビライザを出没させる油圧系統が同一であったため、拡翼カッタを停止させてからスタビライザの制御を行わなければならなかった。そのため、安定性および施工効率が悪かった。つまり、本実施形態の拡翼掘削機1では、拡翼カッタ30の作動により拡翼掘削体10に作用する応力に応じて、拡翼カッタ30の回動および回転を制御しつつ、スタビライザ15の出没を制御することができるので、従来と比較して掘削時の安定性が大幅に向上するとともに、施工効率も向上する。
【0024】
また、本実施形態では、スタビライザ15の孔壁5への接触面には、複数の係止穴16が形成されているので、係止穴16に孔壁5の土砂が食い込んで、スタビライザ15と孔壁5との間の摩擦力が大きくなる。これによって、スタビライザ15の面内方向に拡翼掘削体10がずれるのを抑制できるので、掘削時の安定性がより一層向上する。
さらに、本実施形態の拡翼掘削機1は、ワイヤ固定部50と固定部回転手段51とを備えているので、拡翼掘削体10をワイヤ3およびベースマシンに対して回転させることができる。これにより、拡翼掘削体10を所望の角度に設置することができ、マタギ施工に対応できるようになり、施工性が向上する。
【0025】
また、本実施形態では、ワイヤ固定部50の上端部に、カバー部材54を設けたことで、掘削時にワイヤ固定部50の上方から土塊が剥離して落下しても、油圧ホースやその接続部に土塊が衝突するのを防止することができる。したがって、拡翼カッタ30の制御やスタビライザ15の制御が中断されないので、施工効率が低下することはない。
さらに、本実施形態では、拡翼カッタ30で掘削された土砂を排出する浚渫ポンプが地上に配置されているので、拡翼掘削体10に浚渫ポンプを設ける必要がない。したがって、浚渫ポンプが拡翼掘削体に設けられていた従来のものと比較して、浚渫ポンプの設置スペースを省略できるので、拡翼掘削体10の低空頭化を図ることができる。
【0026】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定する趣旨ではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更が可能である。例えば、前記実施形態では、係止穴16は円形で千鳥状に配置されているが、これに限定されるものではない。係止穴の形状は、例えば、楕円形や多角形等の他の形状であってもよい。また、係止穴16の配置は、例えば、上下左右に一定間隔で配置してもよいし、ランダムに配置してもよい。
【符号の説明】
【0027】
1 拡翼掘削機
2 壁杭
3 ワイヤ
5 孔壁
10 拡翼掘削体
11 架構
12 出没手段
14 回動軸
15 スタビライザ
16 係止穴
30 拡翼カッタ
31 回動駆動手段
32 回転駆動手段
50 ワイヤ固定部
51 固定部回転手段
54 カバー部材
図1
図2
図3
図4
図5