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特開2024-164555極低温装置、極低温装置の冷却方法及び熱スイッチ
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  • 特開-極低温装置、極低温装置の冷却方法及び熱スイッチ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024164555
(43)【公開日】2024-11-27
(54)【発明の名称】極低温装置、極低温装置の冷却方法及び熱スイッチ
(51)【国際特許分類】
   F25B 9/00 20060101AFI20241120BHJP
   H01F 6/04 20060101ALI20241120BHJP
【FI】
F25B9/00 H
H01F6/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080127
(22)【出願日】2023-05-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上野 航生
(72)【発明者】
【氏名】栗山 透
(72)【発明者】
【氏名】高橋 政彦
(72)【発明者】
【氏名】高木 紀和
(57)【要約】
【課題】複数の伝熱部材の接続部における接触面の状態を安定に保持して、上記接触面における接触熱抵抗の値の変更を良好に反復して実現できること。
【解決手段】極低温冷凍機11と、極低温冷凍機及び超電導コイル17を収納する真空容器12と、真空容器内で極低温冷凍機と超電導コイルとを熱的に接続する第1伝熱部材21及び第2伝熱部材22と、を有する極低温装置10において、第1伝熱部材と第2伝熱部材との接続部23における接触面21E、22Eを常に接触状態に保持させつつ、接触面に所定値以上の接触面圧を加えて超電導コイルから極低温冷凍機への伝熱量を変化させる加圧機構14を、更に有して構成されたものである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却源と、この冷却源及び被冷却物を収納する真空容器と、この真空容器内で前記冷却源と前記被冷却物を熱的に接続する伝熱部材と、を有する極低温装置において、
前記伝熱部材が複数設けられ、
これら複数の伝熱部材の接続部における接触面を常に接触状態に保持させつつ、前記接触面に所定値以上の接触面圧を加えて前記被冷却物から前記冷却源への伝熱量を変化させる加圧機構を、更に有して構成されたことを特徴とする極低温装置。
【請求項2】
前記加圧機構は、複数の伝熱部材の接続部における接触面に接触面圧を常時付与する弾性部材と、この弾性部材の変位量を調整して前記接触面への前記接触面圧を変化させる面圧可変機構と、を有して構成されたことを特徴とする請求項1に記載の極低温装置。
【請求項3】
複数の前記伝熱部材の接続部におけるそれぞれの接触面では、少なくとも一方の前記接触面に、前記伝熱部材よりも柔軟な金属からなるメッキ層が設けられたことを特徴とする請求項1または2に記載の極低温装置。
【請求項4】
前記メッキ層は、インジウム、金、銀、亜鉛、ニッケルの少なくとも1つからなることを特徴とする請求項3に記載の極低温装置。
【請求項5】
複数の前記伝熱部材の接続部におけるそれぞれの接触面の一方にメッキ層が設けられ、このメッキ層に対向する前記接触面の他方に、前記メッキ層を構成する金属のメッキ層形成面からの剥離を抑制可能な離型層が設けられたことを特徴とする請求項3に記載の極低温装置。
【請求項6】
冷却源と、この冷却源及び被冷却物を収納する真空容器と、この真空容器内で前記冷却源と前記被冷却物を熱的に接続する伝熱部材と、を有する極低温装置の冷却方法であって、
複数の前記伝熱部材の接続部における接触面を常に接触させた状態で、
前記接触面に所定値以上の接触面圧を加えて前記被冷却物から前記冷却源への伝熱量を変化させ、前記被冷却物を冷却することを特徴とする極低温装置の冷却方法。
【請求項7】
複数の伝熱部材間で伝熱状態と断熱状態を切り替える熱スイッチであって、
複数の前記伝熱部材の接続部における接触面に接触面圧を常時付与して前記接触面を常に接触状態に保持する弾性部材と、
前記弾性部材の変位量を調整して前記接触面への前記接触面圧を変化させる面圧可変機構と、を有して構成されたことを特徴とする熱スイッチ。
【請求項8】
複数の前記伝熱部材の接続部におけるそれぞれの接触面では、少なくとも一方の前記接触面に、前記伝熱部材よりも柔軟な金属からなるメッキ層が設けられたことを特徴とする請求項7に記載の熱スイッチ。
【請求項9】
前記メッキ層は、インジウム、金、銀、亜鉛、ニッケルの少なくとも1つからなることを特徴とする請求項8に記載の熱スイッチ。
【請求項10】
複数の前記伝熱部材の接続部におけるそれぞれの接触面の一方にメッキ層が設けられ、このメッキ層に対向する前記接触面の他方に、前記メッキ層を構成する金属のメッキ層形成面からの剥離を抑制可能な離型層が設けられたことを特徴とする請求項8に記載の熱スイッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、冷却源により被冷却物を極低温に伝導冷却する極低温装置、及び極低温装置の冷却方法、並びに熱スイッチに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、77K以下の極低温まで冷却可能な極低温冷凍機等の冷却源を利用し、超電導コイルなどの被冷却物を、良熱伝導体からなる伝熱部材の固体熱伝導を利用して冷却する伝導冷却方式の極低温装置が開発されている。この方式では、極低温冷凍機の冷却ステージと被冷却物とが伝熱部材を介して熱的に接続され、この伝熱部材が、被冷却物から極低温冷凍機の冷却ステージまでの伝熱経路を形成している。
【0003】
極低温冷凍機として一般的に使用されているギフォード・マクマフォン(GM)冷凍機は、定期的にメンテナンスが必要になる。このメンテナンスでは、極低温冷凍機のシリンダ内部のディスプレーサの抜き差しを行うため、空気の流入による凍結や熱膨張率の差によりシリンダがディスプレーサを締め付けて固着することを防ぐために、極低温冷凍機のシリンダを室温まで加熱により昇温させる必要がある。この加熱は、極低温冷凍機の冷却ステージから伝熱経路を通して被冷却物である超電導コイルに伝わり、超電導コイルの温度上昇を招く。メンテナンス終了後、超電導コイルは極低温冷凍機により冷却する必要があるが、この再冷却時間に長時間を要する課題がある。
【0004】
このような課題に対して、極低温冷凍機のメンテナンス時のように被冷却物に対して極低温冷凍機側が高温になる際には、伝熱経路を遮断して、極低温冷凍機から被冷却物側に熱が流れないようにする熱スイッチ機能が従来から考えられている。つまり、熱スイッチのOFF時には、極低温冷凍機と被冷却物との熱抵抗が大きくなり、極低温冷凍機側から被冷却物への熱流が抑制される。一方、熱スイッチのON時には、極低温冷凍機と被冷却物との熱抵抗が小さくなり、極低温冷凍機により被冷却物を効果的に冷却することが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-209381号公報
【特許文献2】特開2021-139554号公報
【特許文献3】特開2023-6063号公報
【特許文献4】特許第5520740号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような熱スイッチを備えた極低温装置が、例えば特許文献1及び2に開示されている。また、特許文献3には、極低温冷凍機のメンテナンス時において、極低温冷凍機の本体が上下方向に移動可能に構成されて、極低温冷凍機の冷却ステージと伝熱ステージとの接触、非接触により熱スイッチとする構造が開示されている。更に、特許文献4には、接続部に熱収縮の大きな熱収縮リングを利用し、極低温冷凍機側が低温の際には、熱収縮リングが熱収縮により接続部を締め付け、極低温冷凍機側が高温の際には、熱収縮リングが緩む構造が開示されている。
【0007】
上述の特許文献1~4に記載のように、熱スイッチとしては、接触と非接触(離間)の切り替えによって単純にONとOFFを切り替えるものが考えられている。機械加工された常用の伝熱部材(第1伝熱部材、第2伝熱部材)を用いてこのような接触面を構成する場合、接触熱抵抗と呼ばれる伝熱部材の本体よりも大きな熱抵抗が生ずる。この接触熱抵抗は、図5に示すように、伝熱部材の接触面をミクロに観察したとき、この接触面に空隙が生じて熱流が妨げられることにより生ずる。
【0008】
従って、接触熱抵抗Rが大きい場合には、極低温冷凍機と被冷却物との間に温度差が生じて、被冷却物を充分に冷却することができなくなる場合がある。一般的には接触熱抵抗Rは、[数1]に示すように整理されており、表面粗さσに比例し、押し付け面圧(接触面圧)Pappに反比例する傾向がある。しかしながら、伝熱部材の実際の接触面では、これらの因子以外にも、接触面のうねりや圧力分布、構造材のたわみなどによって接触熱抵抗Rが大きな影響を受ける。
【0009】
【数1】
【0010】
極低温装置の場合、伝熱部材の接触面は真空容器内に設けられる。例えば、特許文献2及び3のように、真空容器の外部に駆動部を設け、この駆動部の動作により伝熱部材の接触面について接触と非接触の切り替えを行う熱スイッチとする場合、真空容器内にある接触面を切り離して熱スイッチをOFFとした後に、接触面を再度接触させて熱スイッチをONとした際、前回のON時と同様の接触熱抵抗Rが得られる接触面を再現することが困難である。このため、熱スイッチには、再現性(反復性)の高い駆動部構造や、軸ずれを防ぐための大がかりな追加のガイド構造が必要になる。また、熱収縮リングの熱収縮で接続部に面圧を発生させる特許文献4に記載の技術においても、接続部の接触面が非接触状態になった際の接触面の脱落の危険や、上述と同様に接触面の再現性(反復性)が低下して繰り返しの実用に適さないという課題が生じていた。
【0011】
本発明の実施形態は、上述の事情を考慮してなされたものであり、複数の伝熱部材の接続部における接触面の状態を安定に保持して、上記接触面における接触熱抵抗の値の変更を良好に反復して実現することができる極低温装置、極低温装置の冷却方法及び熱スイッチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の実施形態における極低温装置は、冷却源と、この冷却源及び被冷却物を収納する真空容器と、この真空容器内で前記冷却源と前記被冷却物を熱的に接続する伝熱部材と、を有する極低温装置において、前記伝熱部材が複数設けられ、これら複数の伝熱部材の接続部における接触面を常に接触状態に保持させつつ、前記接触面に所定値以上の接触面圧を加えて前記被冷却物から前記冷却源への伝熱量を変化させる加圧機構を、更に有して構成されたことを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明の実施形態における極低温装置の冷却方法は、冷却源と、この冷却源及び被冷却物を収納する真空容器と、この真空容器内で前記冷却源と前記被冷却物を熱的に接続する伝熱部材と、を有する極低温装置の冷却方法であって、複数の前記伝熱部材の接続部における接触面を常に接触させた状態で、前記接触面に所定値以上の接触面圧を加えて前記被冷却物から前記冷却源への伝熱量を変化させ、前記被冷却物を冷却することを特徴とするものである。
【0014】
更に、本発明の実施形態における熱スイッチは、複数の伝熱部材間で伝熱状態と断熱状態を切り替える熱スイッチであって、複数の前記伝熱部材の接続部における接触面に接触面圧を常時付与して前記接触面を常に接触状態に保持する弾性部材と、前記弾性部材の変位量を調整して前記接触面への前記接触面圧を変化させる面圧可変機構と、を有して構成されたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の実施形態によれば、複数の伝熱部材の接続部における接触面の状態を安定に保持して、上記接触面における接触熱抵抗の値の変更を良好に反復して実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1実施形態に係る極低温装置の構成を示す概略断面図。
図2図1の加圧装置としての熱スイッチの構成を伝熱部材と共に示す概略断面図。
図3】第2実施形態に係る極低温装置における伝熱部材の構成を示す概略断面図。
図4】第3実施形態に係る極低温装置における伝熱部材の構成を示す概略断面図。
図5】接触熱抵抗の概念を説明する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態を、図面に基づき説明する。
[A]第1実施形態(図1図2
図1は、第1実施形態に係る極低温装置の構成を示す概略断面図である。この図1に示す極低温装置10は、冷却源により被冷却物を極低温に伝導冷却するものであり、冷却源としての極低温冷凍機11、真空容器12、伝熱部材13、及び加圧機構14としての熱スイッチ15を有して構成され、被冷却物としての熱シールド16及び超電導コイル17を、例えば77K以下の極低温に冷却する。
【0018】
極低温冷凍機11は、ギフォード・マクマフォン(GM)冷凍機やパルスチューブ冷凍機が用いられ、第1冷却ステージ18では20K~50K程度、第2冷却ステージ19では3K~30K程度の寒冷を発生させて被冷却物を冷却する。通常、第1冷却ステージ18は、熱シールド16に接続されてこの熱シールド16を冷却し、第2冷却ステージ19は、超電導コイル17に伝熱部材13を介して熱的に接続されて超電導コイル17を冷却する。
【0019】
真空容器12は容器内部を真空状態に保つ。この真空容器12内に極低温冷凍機11の第1冷却ステージ18及び第2冷却ステージ19、伝熱部材13、熱シールド16、超電導コイル17、並びに熱スイッチ15の主要部などが収納される。
【0020】
伝熱部材13は、真空容器12内で極低温冷凍機11の第2冷却ステージ19と超電導コイル17とを熱的に接続し、超電導コイル17から極低温冷凍機11の第2冷却ステージ19までの固体熱伝導による伝熱経路を形成する。この伝熱部材13は複数設けられ、少なくとも第1伝熱部材21と第2伝熱部材22とが接続されて構成される。伝熱部材13は、上述の第1伝熱部材21及び第2伝熱部材22に他の伝熱部材が接続されて構成されてもよい。第1伝熱部材21と第2伝熱部材22は、第1伝熱部材21の接触面21Eと第2伝熱部材22の接触面22Eとが接触することで接続される接続部23を備える。
【0021】
これらの第1伝熱部材21及び第2伝熱部材22は、極低温で熱伝導率が高い材料が望ましく、純アルミニウムA1050材や無酸素銅C1020材が好適であり、更に好ましくは、純度99.99%以上の高純度アルミニウムや高純度銅が用いられる。その他、第1伝熱部材21及び第2伝熱部材22は、熱伝導率が良好な炭素繊維を使用してもよく、また、アルミニウム、銅、炭素繊維を、例えばより線構造や層状構造のように並列に配列して構成してもよい。なお、第1伝熱部材21及び第2伝熱部材22は、その熱収縮差を吸収させるために一部に可撓性を備えてもよい。その場合、第1伝熱部材21及び第2伝熱部材22は、高純度アルミニウム、銅、炭素繊維等の熱伝導率が高い材料の一部を細線や箔等に加工し、その細線等の端部を、細線等以外の伝熱部材に溶接や圧接等により結合させて可撓性を実現してもよい。
【0022】
加圧機構14としての熱スイッチ15は、第1伝熱部材21と第2伝熱部材22との接続部23における接触面21E、22Eを常に接触状態に保持させる接触面圧が所定値未満の低い状態と、この状態から上記接触面21E、22Eに所定値以上の接触面圧を加えて超電導コイル17から極低温冷凍機11への伝熱量を変化させる接触面圧が高い状態とを切り替えるものである。接触面21E、22Eへの接触面圧が所定値未満(後述の初期設定値)の低い状態では、第1伝熱部材21と第2伝熱部材22との接続部23が断熱状態になる。また、接触面21E、22Eへの接触面圧が所定値以上の高い状態では、第1伝熱部材21と第2伝熱部材22との接続部23が伝熱状態になる。
【0023】
つまり、熱スイッチ15は、図2に示すように、対向配置された一対の支持部材24と、これらの支持部材24を連結する複数本の支持ボルト25と、弾性部材としての圧力調整用ばね26と、この圧力調整用ばね26の変位量を調整して接触面21E、22Eへの接触面圧を変化させる面圧可変機構27と、を有して構成される。このうち面圧可変機構27は、変位調整ロッド28及び変位調整ユニット29を備えてなる。
【0024】
一対の支持部材24間に第1伝熱部材21と第2伝熱部材22の接続部23が配置される。また、圧力調整用ばね26は、支持部材24の一方と第1伝熱部材21及び第2伝熱部材22の接続部23との間に設置され、この接続部23の接触面21E、22Eに接触面圧を常時付与して、これらの接触面21E、22Eを常に接触状態に保持する。上述の圧力調整用ばね26による接触面21E、22Eへの接触面圧は、圧力調整用ばね26のばね定数を予め確認し、支持ボルト25の締め付けにより圧力調整用ばね26の変位量を調整することで、初期設定値に設定される。
【0025】
面圧可変機構27の変位調整ロッド28は、真空容器12に支持されると共に、先端が断熱層30を介して支持部材24に当接し、基端が、室温部に配置された変位調整ユニット29に連結される。この変位調整ユニット29は、例えば駆動用ボルト31及び固定ナット32により構成されて変位調整ロッド28を駆動し、これにより変位調整ロッド28が圧力調整用ばね26の変位量を調整する。この圧力調整用ばね26の変位量の調整によって、第1伝熱部材21と第2伝熱部材22の接続部23における接触面21E、22Eに作用する接触面圧が、初期設定値から所定値以上の値に変更されて切り替わる。
【0026】
接触面21E、22Eにおける接触面圧(押し付け面圧)が所定値未満の初期設定値である場合には、前述の[数1]により接触熱抵抗Rの値が大きくなって、第1伝熱部材21と第2伝熱部材22との接続部23が断熱状態になり、熱スイッチ15がOFF状態になる。また、接触面21E、22Eにおける接触面圧(押し付け面圧)が所定値以上の場合には、[数1]により接触熱抵抗Rの値が小さくなって、第1伝熱部材21と第2伝熱部材22との接続部23が伝熱状態になり、熱スイッチ15がON状態になる。
【0027】
ここで、変位調整ユニット29は、変位調整ロッド28の変位量を調整可能であれば、モータ駆動ユニット、または油圧もしくは空圧シリンダ装置であってもよい。変位調整ロッド28は、室温部からの熱侵入を低減するために中空形状としてもよい。また、変位調整ロッド28は、熱シールド16と熱的に接触させてサーマルアンカーを形成することで、室温部からの熱流入を低減させてもよい。断熱層30は、室温部からの熱流を抑制するものであり、熱伝導率の小さな繊維強化プラスチックを用いることが好適である。
【0028】
ところで、第1伝熱部材21と第2伝熱部材22との接続部23における接触面21E、22Eには、図5に示すように、固体の機械加工面の微細な凹凸により熱流が妨げられることで、第1伝熱部材21や第2伝熱部材22の本体よりも大きな接触熱抵抗Rが生じている。この接触熱抵抗Rは、[数1]に示すように、押し付け面圧(接触面圧)の0.95乗に反比例する性質がある。従って、加圧機構14としての熱スイッチ15を用いて、接触面圧を例えば0.05MPaから1.00MPaに変更する(切り替える)ことで、接触熱抵抗Rは約1/17倍になる。なお、上述の接触面圧の値は単なる例示に過ぎず、極低温装置10の熱的性能に合わせて任意の値とすることが可能である。
【0029】
これにより、極低温冷凍機11よりも超電導コイル17の温度が高い場合には、1.00MPaの接触面圧に設定することで、第1伝熱部材21と第2伝熱部材22との接続部23における接触面21E、22Eにおいて、接触熱抵抗Rの値が低い状態となって熱スイッチ15がON状態(伝熱状態)となり、超電導コイル17は小さな温度差で極低温冷凍機11により冷却される。一方、極低温冷凍機11のメンテナンス時のように極低温冷凍機11が加熱されて超電導コイル17の温度より高くなる場合には、0.05MPaの接触面圧に変更することで、接触面21E、22Eにおける接触熱抵抗Rの値が高い状態となって熱スイッチ15がOFF状態(断熱状態)となり、極低温冷凍機11からの熱が超電導コイル17に流れ難くなる。
【0030】
以上に構成されたことから、本第1実施形態によれば、次の効果(1)及び(2)を奏する。
(1)第1伝熱部材21と第2伝熱部材22の接続部23における接触面21E、22Eを接離させず、常に接触状態に保持して、加圧機構14(熱スイッチ15)により接触面21E、22Eに所定値以上または未満の接触面圧を加えて、接触面21E、22E間の接触熱抵抗Rを調整するよう構成されている。このため、第1伝熱部材21と第2伝熱部材22の接続部23の接触面21E、22Eを接触及び離間させることで生ずる恐れがある接続部23の接触状態の変化や軸ずれが発生せず、この接続部23における接触面21E、22Eの接触状態を安定して保持できる。この結果、第1伝熱部材21と第2伝熱部材22の接続部23の接触面21E、22Eにおける接触熱抵抗Rの値の変更(切り替え)を良好に反復して実現することができる。これにより、極低温冷凍機11が超電導コイル17よりも高温になったときには、上述の熱スイッチ15によって、超電導コイル17の温度上昇を抑制した後、再度、極低温冷凍機で冷却する際にも、確実に被冷却物を再冷却することができる。
【0031】
(2)面圧可変機構27の動作により圧力調整用ばね26の変位量を調整することで、この圧力調整用ばね26が、第1伝熱部材21と第2伝熱部材22の接続部23の接触面21E、22Eに付与する接触面圧を変化させ、これにより接触面21E、22Eにおける接触熱抵抗Rの値を変更する(切り替える)。この結果、第1伝熱部材21と第2伝熱部材22の接続部23の接触面21E、22Eにおける接触熱抵抗Rの値の切替によってON、OFF動作を実行する熱スイッチ15を良好に実現できる。この熱スイッチ15では、第1伝熱部材21と第2伝熱部材22の接続部23の接触面21E、22Eが常に接触状態に保持されているので、熱スイッチ15のON、OFF動作の反復性能を向上させることができる。
【0032】
[B]第2実施形態(図3
図3は、第2実施形態に係る極低温装置における伝熱部材の構成を示す概略断面図である。この第2実施形態において第1実施形態と同様な部分については、第1実施形態と同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
【0033】
本第2実施形態の極低温装置40が第1実施形態と異なる点は、第1伝熱部材21と第2伝熱部材22との接続部23における接触面21E、22Eの少なくとも一方、例えば接触面22Eに、第1伝熱部材21、第2伝熱部材20によりも柔軟な金属からなるメッキ層41が設けられた点である。
【0034】
第1伝熱部材21と第2伝熱部材22は、前述のように、極低温にて熱伝導率が大きな高純度銅や高純度アルミニウムが用いられるが、接続部23における接触面21E、22E(例えば接触面22E)に、より柔軟な金属材料のメッキ層41が設けられる。これにより、例えば接触面22Eに設けられたメッキ層41の弾性変形が促進されることで、第1伝熱部材21と第2伝熱部材22は、高純度銅や高純度アルミニウムのみの状態よりも、熱スイッチ15のON時に、低い接触熱抵抗Rでの接続が可能になる。
【0035】
このようなメッキ層41の材料としては、少なくとも銅よりも表面の柔らかな材料が好ましく、金、銀、インジウム、ニッケル、亜鉛等があり、またはこれらの組み合わせであってもよい。特に、インジウムは、最も柔軟で且つ極低温で熱伝導率が高いため好適である。これらの金属によるメッキ層41の形成は電解メッキが好ましいが、コールドスプレーや溶着等といった施工方法でもよい。
【0036】
以上のように構成されたことから、本第2実施形態によれば、第1実施形態の効果(1)及び(2)と同様な効果を奏するほか、次の効果(3)を奏する。
【0037】
(3)第1伝熱部材21と第2伝熱部材22との接続部23における接触面21E、22Eの少なくとも一方に、第1伝熱部材21、第2伝熱部材20によりも柔軟な金属からなるメッキ層41が設けられている。これらの接触面21E、22Eを形成する材料の硬度が第1伝熱部材21、第2伝熱部材22よりも柔軟であるほど、接触面21E、22Eは、小さな接触面圧で表面の微細な凹凸を弾性変形させて実接触面積が増加する。これにより、第1実施形態の場合よりも小さな接触面圧であっても、第1伝熱部材21と第2伝熱部材22の接続部23における接触面21E、22Eの接触熱抵抗Rを低下させることができる。この結果、接触熱抵抗Rが小さな領域において、この接触熱抵抗Rの値を好適に調整することができる。
【0038】
[C]第3実施形態(図4
図4は、第3実施形態に係る極低温装置における伝熱部材の構成を示す概略断面図である。この第3実施形態において第1及び第2実施形態と同様な部分については、第1及び第2実施形態と同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
【0039】
本第3実施形態の極低温装置50が第1及び第2実施形態と異なる点は、第1伝熱部材21と第2伝熱部材22との接続部23における接触面21E、22Eの一方(例えば接触面22E)にメッキ層41が設けられ、このメッキ層41に対向する接触面21E、22Eの他方(例えば接触面21E)に、メッキ層41を構成する金属のメッキ層形成面からの剥離を抑制可能な離型層51が設けられた点である。
【0040】
離型層51は、非金属から構成されるため熱伝導率が低くなり、熱抵抗の増加の原因となる。従って、離型層51の膜厚を薄くする必要があり、膜厚としては1μm以下とすることが好適である。このような離型層51の処理方法としては、例えば、OH基によりフッ素原子を金属表面に結合させる成膜技術が望ましい。
【0041】
以上のように構成されたことから、本第3実施形態においても、第1及び第2実施形態の効果(1)~(3)と同様な効果を奏するほか、次の効果(4)を奏する。
【0042】
(4)第1伝熱部材21と第2伝熱部材22との接続部23における接触面21E、22Eのいずれか一方に設けられたメッキ層41を形成する金属材料の硬度が柔らかいほど、小さい接触面圧でメッキ層41の表面の微細な凹凸が弾性変形するが、メッキ層41を形成する金属が接触面21E、22Eの他方に移行してしまうことがある。メッキ層41が接触面21E、22Eの他方へ移行した場合、熱スイッチ15のOFF時に接触面圧を除荷しても、両接触面21E、22Eが熱的に接続された状態になる。この場合には、熱スイッチ15のON、OFF時における接触熱抵抗Rの比が小さくなって、熱スイッチ15としての性能が低下してしまう。
【0043】
これに対し、第1伝熱部材21と第2伝熱部材22との接続部23における接触面21E、22Eの一方にメッキ層41が設けられ、このメッキ層41に対向する接触面21E、22Eの他方に離型層51が設けられたことで、メッキ層41が、対向する他方の接触面21E、22Eへ移行することを防止できる。従って、熱スイッチ15のOFF時に接触面圧が除荷された際、第1伝熱部材21と第2伝熱部材22との接続部23の接触熱抵抗Rを確実に高い状態に移行させることができる。この結果、熱スイッチ15のON時とOFF時における接触熱抵抗Rの比が大きくなって、高性能な熱スイッチ15を実現することができる。
【0044】
以上、本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができ、また、それらの置き換えや変更、組み合わせは、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0045】
10…極低温装置、11…極低温冷凍機(冷却源)、12…真空容器、13…伝熱部材、14…加圧機構、15…熱スイッチ、16…熱シールド、17…超電導コイル(被冷却物)、21…第1伝熱部材、22…第2伝熱部材、21E、22E…接触面、23…接続部、26…圧力調整用ばね(弾性部材)、27…面圧可変機構、40…極低温装置、41…メッキ層、50…極低温装置、51…離型層、R…接触熱抵抗
図1
図2
図3
図4
図5