(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024164556
(43)【公開日】2024-11-27
(54)【発明の名称】窒化物半導体装置及び窒化物半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 29/78 20060101AFI20241120BHJP
H01L 29/12 20060101ALI20241120BHJP
H01L 21/336 20060101ALI20241120BHJP
【FI】
H01L29/78 652D
H01L29/78 652T
H01L29/78 652F
H01L29/78 652S
H01L29/78 658A
H01L29/78 652J
H01L29/78 653A
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080128
(22)【出願日】2023-05-15
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(72)【発明者】
【氏名】大内 祐貴
(72)【発明者】
【氏名】上野 勝典
(72)【発明者】
【氏名】田中 亮
(72)【発明者】
【氏名】高島 信也
(57)【要約】
【課題】高濃度のp型領域を実現することが可能な窒化物半導体装置及び窒化物半導体装置の製造方法を提供する。
【解決手段】窒化物半導体装置は、窒化物結晶層と、窒化物結晶層に設けられたp型領域と、を備える。p型領域は、3×10
18cm
-3以上1×10
21cm
-3以下の濃度でMgと、3×10
17cm
-3以上5×10
21cm
-3以下の濃度で13族元素及びアクセプタ元素の少なくとも一方と、を含む。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化物結晶層と、
前記窒化物結晶層に設けられたp型領域と、を備え、
前記p型領域は、
3×1018cm-3以上1×1021cm-3以下の濃度でMgと、
3×1017cm-3以上5×1021cm-3以下の濃度で13族元素及びアクセプタ元素の少なくとも一方と、を含む窒化物半導体装置。
【請求項2】
前記13族元素は、B及びAlの少なくとも一方である、請求項1に記載の窒化物半導体装置。
【請求項3】
前記アクセプタ元素は、Li及びBeの少なくとも一方である、請求項1又は2に記載の窒化物半導体装置。
【請求項4】
窒化物結晶基板をさらに備え、
前記窒化物結晶層は前記窒化物結晶基板の一方の面上に設けられており、
前記p型領域の格子定数であって、前記一方の面に平行な第1方向の格子定数と、前記一方の面に平行で前記第1方向と交差する第2方向の格子定数は、前記窒化物結晶基板の前記第1方向及び前記第2方向の各格子定数とそれぞれ等しい、請求項1又は2に記載の窒化物半導体装置。
【請求項5】
前記窒化物結晶層に設けられたp型のウェル領域と、
前記窒化物結晶層に設けられ、前記ウェル領域にチャネルが形成される電界効果トランジスタと、を備え、
前記p型領域は、前記ウェル領域よりも前記アクセプタ元素の濃度が高く、かつ前記ウェル領域に電気的に接続する、請求項1又は2に記載の窒化物半導体装置。
【請求項6】
前記窒化物結晶層に設けられたダイオードを備え、
前記p型領域は前記ダイオードのアノード領域である、請求項1又は2に記載の窒化物半導体装置。
【請求項7】
窒化物結晶層に3×1018cm-3以上1×1021cm-3以下の濃度でMgを導入する工程と、
前記窒化物結晶層において前記Mgが導入される領域に、3×1017cm-3以上5×1021cm-3以下の濃度で13族元素及びアクセプタ元素の少なくとも一方を導入する工程と、
前記Mgが導入され、かつ前記13族元素及び前記アクセプタ元素の少なくとも一方が導入された前記窒化物結晶層に熱処理を施して、前記Mgを活性化することによって、前記窒化物結晶層にp型領域を形成する工程と、を備える窒化物半導体装置の製造方法。
【請求項8】
前記窒化物結晶層において前記Mgが導入される領域にNをイオン注入する工程をさらに備え、
前記p型領域を形成する工程では、
前記Nがイオン注入された前記窒化物結晶層に前記熱処理を施す、請求項7に記載の窒化物半導体装置の製造方法。
【請求項9】
前記Mgが導入され、前記Nがイオン注入された前記窒化物結晶層上に保護膜を形成する工程をさらに備え、
前記p型領域を形成する工程では、
前記保護膜が形成された前記窒化物結晶層に前記熱処理を施す、請求項8に記載の窒化物半導体装置の製造方法。
【請求項10】
前記Mgを前記窒化物結晶層に導入する工程は、
前記Mgを前記窒化物結晶層にイオン注入することで行う、請求項7又は8に記載の窒化物半導体装置の製造方法。
【請求項11】
前記Mgを前記窒化物結晶層に導入する工程は、
前記Mgを含む第1膜を前記窒化物結晶層上に形成し、
前記第1膜が形成された前記窒化物結晶層に第1熱処理を施して、前記第1膜から前記窒化物結晶層に前記Mgを熱拡散させることで行う、請求項7又は8に記載の窒化物半導体装置の製造方法。
【請求項12】
前記13族元素及び前記アクセプタ元素の少なくとも一方を前記窒化物結晶層に導入する工程は、
前記13族元素及び前記アクセプタ元素の少なくとも一方を前記窒化物結晶層にイオン注入することで行う、請求項7又は8に記載の窒化物半導体装置の製造方法。
【請求項13】
前記13族元素及び前記アクセプタ元素の少なくとも一方を導入する工程は、
前記13族元素及び前記アクセプタ元素の少なくとも一方を含む第2膜を前記窒化物結晶層上に形成し、
前記第2膜が形成された前記窒化物結晶層に第2熱処理を施して、前記第2膜から前記窒化物結晶層に前記13族元素及び前記アクセプタ元素の少なくとも一方を熱拡散させることで行う、請求項7又は8に記載の窒化物半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、窒化物半導体装置及び窒化物半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
縦型のMOS(Metal Oxide Semiconductor)構造を有する窒化物半導体装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、窒化物半導体装置では、マグネシウム(Mg)をドーパントとして用いることによりp型の伝導度制御が可能である(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-096744号公報
【特許文献2】特開2014-086698号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
窒化物半導体装置において、良好なオーミック接触を実現するためには、高濃度のp型領域を窒化物半導体に選択的に形成する必要がある。しかし、高濃度のp型領域をイオン注入で形成しようとすると、Mgが偏析して濃度が低下する傾向があり、その実現は難しかった。本開示は上記課題に着目してなされたものであって、高濃度のp型領域を実現することが可能な窒化物半導体装置及び窒化物半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本開示の一態様に係る窒化物半導体装置は、窒化物結晶層と、前記窒化物結晶層に設けられたp型領域と、を備える。前記p型領域は、3×1018cm-3以上1×1021cm-3以下の濃度でMgと、3×1017cm-3以上5×1021cm-3以下の濃度で13族元素及びアクセプタ元素の少なくとも一方と、を含む。
【0006】
本開示の一態様に係る窒化物半導体装置の製造方法は、窒化物結晶層に3×1018cm-3以上1×1021cm-3以下の濃度でMgを導入する工程と、前記窒化物結晶層において前記Mgがイオン注入される領域に、3×1017cm-3以上5×1021cm-3以下の濃度で13族元素及びアクセプタ元素の少なくとも一方を導入する工程と、前記Mgがイオン注入され、かつ前記13族元素及び前記アクセプタ元素の少なくとも一方が導入された前記窒化物結晶層に熱処理を施して、前記Mgを活性化することによって、前記窒化物結晶層にp型領域を形成する工程と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、高濃度のp型領域を実現することが可能な窒化物半導体装置及び窒化物半導体装置の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本開示の実施形態1に係るGaN半導体装置の構成例を示す平面図である。
【
図2】
図2は、本開示の実施形態1に係るGaN半導体装置の構成例を示す断面図である。
【
図3】
図3は、
図2の断面図を拡大した図であり、1つの縦型MOSFETを示す図である。
【
図4】
図4は、MgをドープしたGaN結晶の原子の結合状態を示すモデル図である。
【
図5】
図5は、GaN結晶のGaサイトをB、Al、Li、又は、Beで置換した場合のGaN結晶の内部圧力を、第一原理計算で計算した結果を示すグラフである。
【
図6】
図6は、GaN結晶のGaサイトをAl及びBeの少なくとも一方とMgとで置換した場合のGaN結晶の内部圧力を、第一原理計算で計算した結果を示すグラフである。
【
図7】
図7は、本開示の実施形態1に係るGaN半導体装置の製造方法例1を工程順に示す断面図である。
【
図8】
図8は、本開示の実施形態1に係るGaN半導体装置の製造方法例1を工程順に示す断面図である。
【
図9】
図9は、本開示の実施形態1に係るGaN半導体装置の製造方法例2を工程順に示す断面図である。
【
図10】
図10は、本開示の実施形態1に係るGaN半導体装置の製造方法例2を工程順に示す断面図である。
【
図11】
図11は、本開示の実施形態1に係るGaN半導体装置の製造方法例3を工程順に示す断面図である。
【
図12】
図12は、本開示の実施形態1に係るGaN半導体装置の製造方法例3を工程順に示す断面図である。
【
図13】
図13は、本開示の実施形態1に係るGaN半導体装置の製造方法例4を工程順に示す断面図である。
【
図14】
図14は、本開示の実施形態1に係るGaN半導体装置の製造方法例4を工程順に示す断面図である。
【
図15】
図15は、本開示の実施形態1の変形例に係る縦型MOSFETの構成を示す断面図である。
【
図16】
図16は、本開示の実施形態2に係る縦型MOSFETの構成例を示す断面図である。
【
図17】
図17は、本開示の実施形態2の変形例1に係る縦型MOSFETの構成を示す断面図である。
【
図18】
図18は、本開示の実施形態2の変形例2に係る縦型MOSFETの構成を示す断面図である。
【
図19】
図19は、本開示の実施形態3に係るpnダイオードの構成例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本開示の実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。但し、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各装置や各部材の厚みの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判定すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0010】
以下の説明では、X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向の文言を用いて、方向を説明する場合がある。例えば、X軸方向及びY軸方向は、後述のGaN基板10の表面10aに平行な方向である。また、Z軸方向は、GaN基板10の表面10aと垂直に交わる方向である。X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向は、互いに直交する。
【0011】
以下の説明では、Z軸の正方向を「上」と称し、Z軸の負方向を「下」と称する場合がある。「上」及び「下」は、必ずしも地面に対する鉛直方向を意味しない。つまり、「上」及び「下」の方向は、重力方向に限定されない。「上」及び「下」は、領域、層、膜及び基板等における相対的な位置関係を特定する便宜的な表現に過ぎず、本開示の技術的思想を限定するものではない。例えば、紙面を180度回転すれば「上」が「下」に、「下」が「上」になることは勿論である。
【0012】
以下の説明では、第1導電型がp型、第2導電型がn型の場合について例示的に説明する。しかし、導電型を逆の関係に選択して、第1導電型をn型、第2導電型をp型としても構わない。またpやnに付す+や-は、+及び-が付記されていない半導体領域に比して、それぞれ相対的に不純物濃度が高い又は低い半導体領域であることを意味する。但し、同じpとp(または、nとn)とが付された半導体領域であっても、それぞれの半導体領域の不純物濃度が厳密に同じであることを意味するものではない。
【0013】
<実施形態1>
(構成例)
図1は、本開示の実施形態1に係るGaN(窒化ガリウム)半導体装置100(本開示の「窒化物半導体装置」の一例)の構成例を示す平面図である。
図2は、本開示の実施形態1に係るGaN半導体装置100の構成例を示す断面図である。
図2は、
図1の平面図をA-A´線で切断した断面を示している。
図3は、
図2の断面図を拡大した図であり、1つの縦型MOSFET1を示す図である。
【0014】
図1及び
図2に示すGaN半導体装置100は、パワーデバイスである。
図1及び
図2に示すように、GaN半導体装置100は、表面10a及び裏面10bを有するGaN基板10と、GaN基板10に設けられた複数の縦型MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)1とを備える。
縦型MOSFET1は、本開示の「電界効果トランジスタ」の一例である。例えば、複数の縦型MOSFET1は、一方向(例えば、X軸方向)に繰り返し設けられている。1つの縦型MOSFET1が繰り返しの単位構造であり、この単位構造が一方向に並んで配置されている。
【0015】
図1から
図3に示すように、GaN基板10は、n+型のGaN単結晶基板11(本開示の「窒化物結晶基板」の一例)と、GaN単結晶基板11上に設けられたn-型のGaN層12(本開示の「窒化物結晶層」の一例)と、を有する。
GaN単結晶基板11は、例えばn+型のc面GaN単結晶基板である。GaN単結晶基板11に含まれるn型不純物は、Si(シリコン)、O(酸素)及びGe(ゲルマニウム)のうちの一種類以上である。一例を挙げると、GaN単結晶基板11はn型不純物としてSiを含み、GaN単結晶基板11におけるSiの不純物濃度は5×10
17cm
-3以上である。
【0016】
GaN単結晶基板11は、転位密度が1×107cm-2未満の低転位自立基板であってもよい。GaN単結晶基板11が低転位自立基板であることにより、GaN単結晶基板11上に形成されるGaN層12の転位密度も低くなる。また、低転位自立基板を用いることで、GaN基板10に大面積のパワーデバイスが形成される場合でも、パワーデバイスにおけるリーク電流を少なくすることができる。これにより、製造装置は、パワーデバイスを高い良品率で製造することができる。また、熱処理において、イオン注入された不純物が転位に沿って深く拡散することを防ぐことができる。
【0017】
GaN層12は、GaN単結晶基板11の一方の面上にエピタキシャル成長された単結晶GaN層である。GaN層12は、エピタキシャル成長の過程でn型不純物がドープされることにより形成される。n型不純物は、例えばSiである。GaN層12は、n型不純物として例えばSiを1×1015cm-3以上5×1016cm-3以下の濃度で含む。
【0018】
縦型MOSFET1は、GaN基板10の表面10a(すなわち、n-型のGaN層12の表面)側に設けられたp-型のウェル領域13、p+型のコンタクト領域15とを有する。また、縦型MOSFET1は、GaN基板10の表面10a側に設けられたゲート絶縁膜21と、ゲート絶縁膜21上に設けられたゲート電極22と、GaN基板10の表面10a側に設けられてソース領域23及びコンタクト領域15と接するソース電極25と、GaN基板10の裏面10b側に設けられてn+型のGaN単結晶基板11と接するドレイン電極26とを備える。
GaN基板10の表面10a(すなわち、n-型のGaN層12の表面)側には、P-型のウェル領域13と、n+型のソース領域23と、p+型のコンタクト領域15(本開示の「p型領域」の一例)とが設けられている。以下、p-型のウェル領域13を、p型のGaN層ともいう。
【0019】
ウェル領域13は、GaN基板10の表面10a側にMg等のp型不純物がイオン注入され、熱処理によりp型不純物が活性化されて形成されたp型層である。ウェル領域13は、p型不純物として例えばMgを1×1017cm-3以上3×1018cm-3以下の濃度で含む。ウェル領域13は、GaN基板10の表面10aに面している。ウェル領域13の表面は、ゲート絶縁膜21と接している。ゲート絶縁膜21と接しているウェル領域13の表面及びその近傍に、縦型MOSFET1のチャネルが形成される。
【0020】
ソース領域23は、GaN基板10の表面10a側にSi又はO等のn型不純物がイオン注入され、熱処理によりn型不純物が活性化されて形成されたn+型層である。ソース領域23は、n型不純物として例えばSiを1×1019cm-3以上5×1020cm-3以下の濃度で含む。ソース領域23は、ゲート電極22の両側下のウェル領域13に設けられており、GaN基板10の表面10aに面している。ソース領域23は、ウェル領域13の内側に位置し、ウェル領域13と接している。
【0021】
コンタクト領域15は、例えば、GaN基板10の表面10a側にMg等のp型不純物がイオン注入され、熱処理によりp型不純物が活性化されて形成されたp+型層である。コンタクト領域15は、p型不純物としてMgを3×1018cm-3以上1×1021cm-3以下の濃度で含み、より好ましくは1×1019cm-3以上2×1020cm-3以下の濃度で含む。
【0022】
また、コンタクト領域15は、Mgの周囲に形成される圧縮応力場を緩和するために、13族元素及びアクセプタ元素の少なくとも一方を、3×1017cm-3以上5×1021cm-3以下の濃度で含み、より好ましくは5×1018cm-3以上4×1020cm-3以下の濃度で含む。13族元素は、例えばB及びAlの少なくとも一方である。アクセプタ元素は、例えばLi及びBeの少なくとも一方である。
一例を挙げると、コンタクト領域15は、上記の13族元素として、Alを3×1017cm-3以上5×1021cm-3以下の濃度で含み、より好ましくは5×1018cm-3以上4×1020cm-3以下の濃度で含む。
【0023】
上述したように、GaN層12は、GaN単結晶基板11の一方の面上にエピタキシャル成長された単結晶GaN層である。ウェル領域13及びコンタクト領域15は、この単結晶GaN層に設けられている。これにより、コンタクト領域15の格子定数であって、X軸方向(本開示の「第1方向」の一例)の格子定数と、Y軸方向(本開示の「第2方向」の一例)の格子定数は、GaN単結晶基板11のX軸方向及びY軸方向の各格子定数とそれぞれ等しくなっている。
【0024】
コンタクト領域15は、GaN基板10の表面10aに面している。コンタクト領域15は、ウェル領域13の内側に位置し、ウェル領域13と接している。また、コンタクト領域15はソース領域23とも接している。
コンタクト領域15を介して、ウェル領域13はソース電極25に接続している。これにより、ウェル領域13の電位は、ソース電極25の電位(例えば、接地電位(GND)等の基準電位)に固定される。
【0025】
ゲート絶縁膜21は、例えばSiO2膜である。また、ゲート絶縁膜21は、Al2O3膜、SiON膜、AlSiO膜、AlON膜のいずれか1つを含む単層膜であってもよいし、SiO2膜、Al2O3膜、SiON膜、AlSiO膜、AlON膜のいずれか1つ以上を含む積層膜であってもよい。ゲート絶縁膜21の厚さは、例えば50nm以上150nm以下であり、一例を挙げると100nmである。
【0026】
ゲート電極22は、ゲート絶縁膜21を介してチャネルが形成される領域(以下、チャネル領域)と隣り合っている。ゲート電極22は、Al、Ti、Ni、Wなどの金属又は不純物をドープしたポリシリコンで構成されている。また、ゲート電極22は、WSi、NiSiなどのシリサイドで構成されていてもよい。
ソース電極25は、n+型層であるソース領域23とp+型層であるコンタクト領域15とにそれぞれオーミック接続している。ドレイン電極26は、n+型のGaN単結晶基板11の他方の面(すなわち、GaN層12と接する面の反対側の面)にオーミック接続している。
【0027】
ソース電極25及びドレイン電極26は、Al又はAl-Siの合金、Ni、Ni合金、Ti-Al合金、Ni-Au合金などで構成されている。また、ソース電極25は、ソース領域23との間にバリアメタル層を有してもよい。ドレイン電極26は、n+型のGaN単結晶基板11との間にバリアメタル層を有してもよい。バリアメタル層はTi(チタン)で構成されていてもよい。
【0028】
すなわち、ソース電極25及びドレイン電極26は、Ti層及びAl層の積層、又は、Ti層及びAl-Siの合金層の積層であってもよい。ソース電極25は、図示しないソースパッドを兼ねた電極であってもよいし、ソースパッドとは別に設けられた電極であってもよい。ドレイン電極26は、図示しないドレインパッドを兼ねた電極であってもよいし、ドレインパッドとは別に設けられた電極であってもよい。
【0029】
(圧縮応力場の形成)
図4は、MgをドープしたGaN結晶の原子の結合状態を示すモデル図である。本開示者は、第一原理計算でGaN結晶中のMgの構造最適化を行った。その結果、GaN結晶の格子定数を固定した場合、MgはGaよりも原子半径が大きいため、結晶内に圧縮応力場が形成されることがわかった。
【0030】
より具体的に説明する。
図4において、d1は、構造最適化後のGa原子とN原子のc軸方向における中心間距離を示す。d2は、構造最適化後のMg原子とN原子のc軸方向における中心間距離を示す。Ga-Nの中心間距離d1は1.974Åであり、Mg-Nの中心間距離d2は2.057Åである。d2はd1よりも4.2%大きい。Mg原子はGa原子よりも原子半径が大きいため、N原子との中心間距離が大きい。本開示者が行った第一原理計算では、
図4に示すMgを含むGaN結晶の内部圧力は0.406GPaであった。結晶内部の圧力がプラス値であるため、結晶内部に圧縮応力場が形成されていることがわかった。
【0031】
(圧縮応力場の緩和)
本開示者は、圧縮応力場が形成される結晶内のGaサイトに、Mg以外の別の原子を置換することで、この圧縮応力場をMgがない状態(無欠陥結晶)、もしくはMgの現状の固溶限界と考えられる3e18cm-3のMgを含む状態まで緩和できるのではないかと考えた。圧縮応力場を緩和することができれば、Mgを高濃度に含むGaN結晶でも、歪みによる固溶限界を緩和し、Gaサイトにより多くのMgを導入できるのではないか、と考えた。
【0032】
そこで、本開示者は、GaN結晶にドーパントとして用いられるいくつかの元素について、Mgと同様の計算を行い、GaN結晶の内部圧力を
図5のようにプロットした。
図5は、GaN結晶のGaサイトをホウ素(B)、アルミニウム(Al)、リチウム(Li)、又は、ベリリウム(Be)で置換した場合のGaN結晶の内部圧力を、第一原理計算で計算した結果を示すグラフである。
図5は、GaN格子定数を固定したときの結晶内部の圧力(GPa)を示している。なお、
図5では、比較のため、GaサイトをMgで置換した場合の内部圧力も示している。
【0033】
図5に示すように、B、Al、Li又はBeをGaN結晶にドープすると、結晶内に引張応力場が形成されることがわかった。この結果から、GaN結晶中にMgとともに、B、Al、Li又はBeを加えることで、Mgにより形成される圧縮応力場を、B、Al、Li又はBeにより形成される引張応力場で相殺できることがわかった。B、Alは13族元素であり、Li、Beはアクセプタ元素である。これらの元素は、n型ドーパントにならないため、Mgと共にドープしてもMgによる高濃度のp型伝導(すなわち、p+型層の形成)を阻害しない。
【0034】
図6は、GaN結晶のGaサイトをAl及びBeの少なくとも一方とMgとで置換した場合のGaN結晶の内部圧力を、第一原理計算で計算した結果を示すグラフである。
図6は、GaN格子定数を固定したときの結晶内部の圧力(GPa)を示している。なお、
図6では、比較のため、GaサイトをMgのみで置換した場合の内部圧力も示している。
【0035】
また、
図6の横軸の項目である「Al+Mg置換(Ga)」は、AlとMgを1:1の割合で、Gaサイトを置換するとともに、置換後のAlとMgとが互いに離れている場合を意味する。「Al+Mg(隣接)置換(Ga)」は、AlとMgの原子数比が1:1とし、これらの原子(元素)でGaサイトを置換するとともに、置換後のAlとMgとが互いに隣接している場合を意味する。「Al+3Mg+Be置換(Ga)」は、AlとMgとBeの原子数比を1:3:1とし、これらの原子(元素)でGaサイトを置換するとともに、置換後のAlとMgとBeとが互いに離れている場合を意味する。これ以外の項目も同様である。
【0036】
図6に示すように、Mgと共に、Al及びBeの少なくとも一方を導入することで、Mgだけを導入した場合と比べて、内部圧力を大きく低減することができ、ゼロ(=無欠陥の結晶)に近づけることができる、ということがわかった。
図6に示す第一原理計算では、Mgに対して1:1になるようにAlを導入することで、MgとAlとが互いに隣接する場合も、そうでない場合も、Mgによる圧縮応力場をゼロ(0)GPaに近い値にすることができる、ということがわかった。
【0037】
図6に示す第一原理計算では、Mgに対して1:1になるようなAlの供給では、圧縮応力場がわずかに残る。しかし、Mgに対して1:2までAlの供給を増やすと、圧縮応力場が完全になくなり、むしろAlが誘起する引張応力場が優勢になる、ということもわかった。
また、本開示者が第一原理計算の結果によれば、GaN結晶中のMg濃度が高いほど内部圧力は高くなり、Mg濃度が低いほど内部圧力は低くなることがわかった。Mg濃度が例えば3×10
18cm
-3以上1×10
21cm
-3以下の範囲内では、全てのMg濃度において、Alを導入することで内部圧力が低減されることがわかった。
【0038】
また、本開示者は、Ga以外の13族元素をカチオンにもつウルツ鉱型窒化物結晶についても、結晶中のMgが誘起する応力場を第一原理計算で計算した。その結果、ウルツ鉱型窒化物結晶の一種であって、カチオン-窒素間の距離が短いAlN結晶では、Mg置換を行うことでより大きな圧縮応力場が誘起されることがわかった。このため、GaN結晶だけでなく、AlN結晶においても、本技術による応力緩和(AlN結晶の場合は、B及びBeの少なくとも一方による置換)が有効であると期待される。他の混晶系についても、Mg置換で圧縮応力場が誘起される場合は、本技術による応力緩和が有効であると期待される。
【0039】
(製造方法)
次に、
図1から
図3に示したGaN半導体装置100の製造方法を説明する。ここでは、4通りの製造方法を説明する。製造方法例1から4のいずれを用いた場合でも、GaN半導体装置100を製造することが可能である。
【0040】
(1)製造方法例1
図7及び
図8は、本開示の実施形態1に係るGaN半導体装置100の製造方法例1を工程順に示す断面図である。なお、
図7及び
図8は、X軸方向に繰り返し配置される複数の縦型MOSFET1のうちの、1つの縦型MOSFET1について、その製造方法を工程順に示している。また、GaN半導体装置100は、成膜装置、露光装置、エッチング装置、イオン注入装置、熱処理装置など、各種の装置によって製造される。以下、これらの装置を、製造装置と総称する。
【0041】
図7のステップST1に示すように、製造装置は、n+型のGaN単結晶基板11の一方の面上に、n-型のGaN層12をエピタキシャル成長させる。
次に、
図7のステップST2に示すように、製造装置は、GaN基板10において、p-型のウェル領域13(
図3参照)が形成される予定領域(以下、ウェル形成領域)13´に、アクセプタ元素としてMgをイオン注入する。このイオン注入をMg(p-)イオン注入ともいう。例えば、製造装置は、GaN基板10の表面10a上にマスク(図示せず)を形成する。マスクは、GaN基板10に対して選択的に除去可能なSiO
2膜又はフォトレジストである。マスクは、ウェル形成領域13´の上方を開口し、他の領域の上方を覆う形状を有する。製造装置は、マスクが形成されたGaN基板10の表面10a側にMgをイオン注入する。ここでは、ウェル形成領域13´におけるMg濃度が1×10
18cm
-3となるようにMgをイオン注入する。イオン注入後、製造装置は、GaN基板10上からマスクを除去する。
【0042】
次に、製造装置は、GaN基板10において、n+型のソース領域23(
図3参照)が形成される予定領域(以下、ソース形成領域)23´に、ドナー元素としてSiをイオン注入する。このイオン注入をSi(n+)イオン注入ともいう。例えば、製造装置は、GaN基板10の表面10a上にマスク(図示せず)を形成する。マスクは、ソース形成領域23´の上方を開口し、他の領域の上方を覆う形状を有する。製造装置は、マスクが形成されたGaN基板10の表面10a側にSiをイオン注入する。ここでは、ソース形成領域23´におけるSi濃度が例えば1×10
19cm
-3となるようにSiをイオン注入する。イオン注入後、製造装置は、GaN基板10上からマスクを除去する。
【0043】
次に、
図7のステップST3に示すように、製造装置は、GaN基板10において、p+型のコンタクト領域15(
図3参照)が形成される予定領域(以下、コンタクト形成領域)15´に、本開示の「13族元素及びアクセプタ元素の少なくとも一方」の一例として、Alをイオン注入する。このイオン注入をAlイオン注入ともいう。例えば、製造装置は、GaN基板10の表面10a上にマスク(図示せず)を形成する。マスクは、コンタクト形成領域15´の上方を開口し、他の領域の上方を覆う形状を有する。製造装置は、マスクが形成されたGaN基板10の表面10a側にAlをイオン注入する。ここでは、コンタクト形成領域15´におけるAl濃度が3×10
17cm
-3以上5×10
21cm
-3以下(一例として、1.5×10
19cm
-3)となるようにAlをイオン注入する。
【0044】
次に、
図8のステップST4に示すように、製造装置は、GaN基板10のコンタクト形成領域15´にMgをイオン注入する。このイオン注入をMg(p+)イオン注入ともいう。例えば、製造装置は、Alイオン注入で使用したマスクをそのまま用いて、GaN基板10の表面10a側にMgをイオン注入する。ここでは、コンタクト形成領域15´におけるMg濃度が3×10
18cm
-3以上1×10
21cm
-3以下(一例として、1×10
19cm
-3)となるようにMgをイオン注入する。
【0045】
次に、製造装置は、GaN基板10のコンタクト形成領域15´に窒素(N)をイオン注入する。このイオン注入をNイオン注入ともいう。例えば、製造装置は、Alイオン注入及びp+イオン注入で使用したマスクをそのまま用いて、GaN基板10の表面10a側にNをイオン注入する。ここでは、コンタクト形成領域15´におけるN濃度が例えば1×10
19cm
-3となるようにNをイオン注入する。イオン注入後、製造装置は、GaN基板10上からマスクを除去する。
なお、Nイオン注入は、次に説明する熱処理で窒素空孔が生成されることを抑制するためにイオン注入する。しかしながら、本開示の実施形態1において、Nイオン注入は省いてもよい。Nイオン注入を行わない場合でも、p+型のコンタクト領域15(
図3参照)を形成することができる。
【0046】
また、
図7のステップST1から
図8のステップST4では、各種のイオン注入を、Mg(p-)イオン注入、Si(n+)イオン注入、Alイオン注入、Mg(p+)イオン注入、Nイオン注入の順で行うことを説明した。しかしながら、本開示の実施形態において、イオン注入を行う順番はこれに限定されない。Mg(p-)イオン注入、Si(n+)イオン注入、Alイオン注入、Mg(p+)イオン注入及びNイオン注入は、任意の順番で行ってよい。任意の順番で行った場合でも、
図1から
図3に示したGaN半導体装置100を製造することができる。
【0047】
次に、製造装置は、GaN基板10の表面10a上に保護膜14を形成する。保護膜14は、例えば窒化アルミニウム(AlN)膜である。これにより、GaN基板10のコンタクト形成領域15´等は保護膜14で覆われる。なお、本開示の実施形態1において、保護膜14の形成は必須ではなく、省いてもよい。
【0048】
次に、製造装置は、GaN基板10に、最大温度が1300℃以上2000℃以下の熱処理を施す。この熱処理は、例えば急速加熱処理である。また、この熱処理は、例えば500MPaなどの、高圧N
2雰囲気下で行ってもよい。この熱処理により、GaN基板10にイオン注入されたMg及びSiが活性化される。その結果、
図8のステップST5に示すように、GaN基板10に、p-型のウェル領域13と、n+型のソース領域23と、p+型のコンタクト領域15とが形成される。
また、この熱処理により、GaN基板10において、各種のイオン注入により生じた欠陥をある程度回復することができる。熱処理後、製造装置は、GaN基板10の表面10a上から保護膜14を除去する。
【0049】
次に、製造装置は、GaN基板10の表面10a上にゲート絶縁膜21(
図3参照)を形成する。次に、製造装置は、ゲート電極22(
図3参照)とソース電極25(
図3参照)とを形成する。次に、製造装置は、GaN基板10の裏面10b側にドレイン電極26(
図3参照)を形成する。このような工程を経て、縦型MOSFET1を備えるGaN半導体装置100が完成する。
【0050】
(2)製造方法例2
上記の製造方法例1では、GaN層12へのAlドープをイオン注入で行う場合を説明した。しかしながら、本開示の実施形態1において、Alドープはイオン注入に限定されない。Alドープは、以下で説明するように、Alドープ層31をGaN層12上にエピタキシャル成長させることで行ってもよい。
【0051】
図9及び
図10は、本開示の実施形態1に係るGaN半導体装置100の製造方法例2を工程順に示す断面図である。
図9のステップST11に示すように、製造装置は、n+型のGaN単結晶基板11の一方の面上に、n-型のGaN層12と、Alドープ層31とをこの順でエピタキシャル成長させる。Alドープ層31は、Alを含む単結晶のGaN層である。例えば、Alドープ層31は、Alを1.5×10
19cm
-3の濃度で含む。Alドープ層31の厚さは、20nm以上100nm以下である。この例では、GaN層12及びAlドープ層31が、本開示の「窒化物結晶層」の一例となる。
【0052】
次に、
図9のステップST12に示すように、製造装置は、Alドープ層31を含むGaN基板10のウェル形成領域13´に、アクセプタ元素としてMgをイオン注入する。製造方法例1と同様に、このMg(p-)イオン注入はマスク(図示せず)を用いて行う。ここでは、製造方法例1と同様に、ウェル形成領域13´におけるMg濃度が例えば1×10
18cm
-3となるようにMgをイオン注入する。
【0053】
次に、
図9のステップST13に示すように、製造装置は、Alドープ層31を含むGaN基板10のソース形成領域23´に、ドナー元素としてSiをイオン注入する。製造方法例1と同様に、このSi(n+)イオン注入はマスク(図示せず)を用いて行う。ここでは、製造方法例1と同様に、ソース形成領域23´におけるSi濃度が例えば1×10
19cm
-3となるようにSiをイオン注入する。
【0054】
次に、
図10のステップST14に示すように、製造装置は、Alドープ層31を含むGaN基板10のコンタクト形成領域15´に、Mgをイオン注入する。製造方法例1と同様に、このMg(p+)イオン注入はマスク(図示せず)を用いて行う。ここでは、製造方法例1と同様に、コンタクト形成領域15´におけるMg濃度が例えば1×10
19cm
-3となるようにMgをイオン注入する。また、GaN基板10の表面10aからのMg注入ピーク深さが、Alドープ層31の厚さよりも浅くなるように、Mg(p+)イオン注入の注入エネルギーを設定する。すなわち、Alドープ層31内にMg注入ピーク深さが位置するように、Mg(p+)イオン注入の注入エネルギーを設定する。
【0055】
これにより、Alドープ層31の一部がコンタクト形成領域15´となる。コンタクト形成領域15´は、Alを1.5×1019cm-3の濃度で含むとともに、Mgを1×1019cm-3の濃度で含む。
なお、製造方法例1と同様に、製造装置は、Mg等を活性化するための熱処理を行う前に、GaN基板10に窒素(N)をイオン注入したり、保護膜を形成したりしてもよい。Nの注入及び保護膜の形成は、任意である。また、製造方法例1と同様に、Mg(p-)イオン注入、Si(n+)イオン注入、Mg(p+)イオン注入及びNイオン注入は、任意の順番で行ってよい。
【0056】
次に、製造装置は、GaN基板10に、最大温度が1300℃以上2000℃以下の熱処理を施す。この熱処理は、例えば急速加熱処理である。また、この熱処理は、例えば500MPaなどの、高圧N
2雰囲気下で行ってもよい。この熱処理により、GaN基板10にイオン注入されたMg及びSiが活性化される。その結果、
図10のステップST15に示すように、GaN基板10に、p-型のウェル領域13と、n+型のソース領域23と、p+型のコンタクト領域15とが形成される。
【0057】
また、この熱処理により、GaN基板10において、各種のイオン注入により生じた欠陥をある程度回復することができる。さらに、製造方法例2では、Alドープ層31内にコンタクト形成領域15´が形成されるため、Alをイオン注入する必要はなく、Alイオン注入による結晶欠陥も無い。これにより、製造方法例1と比べて、イオン注入に起因する結晶欠陥をさらに低減できる可能性がある。
【0058】
なお、Alドープ層31の厚さは20nm以上100nm以下である。この厚さは、一般的なAlGaNに比べて薄い。また、Alドープ層31に含まれるAl濃度は、3×10
17cm
-3以上5×10
21cm
-3以下であり、例えば1.5×10
19cm
-3である。Alドープ層31は薄く、Al濃度も上記の範囲内であれば、Alドープ層31をGaN層12上に配置した場合でも、GaNの格子定数の変化を最小限に抑えることができる。また、自発分極などによる伝導特性の制御性低下も十分に抑制可能である。
これ以降の工程は、製造方法例1と同じである。製造装置は、
図3に示したゲート絶縁膜21、ゲート電極22、ソース電極25及びドレイン電極26を形成する。このような工程を経て、縦型MOSFET1を備えるGaN半導体装置100が完成する。
【0059】
(3)製造方法例3
Alドープは、イオン注入やエピタキシャル成長に限定されない。Alドープは、Alを含む膜からGaN層12への熱拡散で行ってもよい。また、この膜は、Alだけでなく、Mgを含むMgAl混合物であってもよい。MgAl混合物からGaN層12へAl及びMgを熱拡散させることで、p+型のコンタクト領域15を形成してもよい。
【0060】
図11及び
図12は、本開示の実施形態1に係るGaN半導体装置100の製造方法例3を工程順に示す断面図である。
図11のステップST21において、ウェル形成領域13´及びソース形成領域23´を形成する工程までは、
図7に示したステップST1、ST2と同じである。
【0061】
ウェル形成領域13´及びソース形成領域23´の形成後、
図11のステップST22に示すように、製造装置は、GaN基板10の表面10a上に、MgとAlとを含むMgAl混合物33(本開示の「第1膜」の一例であり、本開示の「第2膜」の一例でもある)を形成する。MgAl混合物33は、例えばAl
3Mg
2である。Al
3Mg
2の形成は、例えば、スパッタ法、電子線蒸着法、又は、熱蒸着法などで行う。
【0062】
なお、MgAl混合物33を形成する前に予め、GaN層12においてMgAl混合物33が配置される領域(すなわち、コンタクト形成領域15´)に窒素(N)をイオン注入しておいてもよい。ここでは、MgAl混合物33が配置される領域におけるN濃度が例えば2×1019cm-3となるようにNをイオン注入してもよい。
【0063】
次に、
図12のステップST23に示すように、製造装置は、MgAl混合物33及びGaN層12を含む基板全体に熱処理(本開示の「第1熱処理」の一例であり、本開示の「第2熱処理」の一例でもある)を施して、MgAl混合物33からGaN層12へMg及びAlを熱拡散させる。このMg及びAlを熱拡散するための熱処理は、例えば、N
2雰囲気中で、最大温度が800℃、最大温度での処理時間が5分の条件で行う。これにより、コンタクト形成領域15´にMg及びAlを導入する。
コンタクト形成領域15´にMg及びAlを導入した後、製造装置は、GaN基板10の表面10a上からMgAl混合物33を除去する。
【0064】
次に、製造装置は、GaN基板10に、最大温度が1300℃以上2000℃以下の熱処理を施す。この熱処理は、例えば急速加熱処理である。また、この熱処理は、例えば500MPaなどの、高圧N
2雰囲気下で行ってもよい。この熱処理により、GaN基板10に導入されたMg及びSiが活性化される。その結果、
図12のステップST24に示すように、GaN基板10に、p-型のウェル領域13と、n+型のソース領域23と、p+型のコンタクト領域15とが形成される。
【0065】
また、この熱処理により、GaN基板10において、各種のイオン注入により生じた欠陥をある程度回復することができる。さらに、製造方法例3では、コンタクト形成領域15´へのAl及びMgの導入をイオン注入ではなく、熱拡散で行う。これにより、製造方法例1と比べて、イオン注入に起因する結晶欠陥をさらに低減できる可能性がある。
これ以降の工程は、製造方法例1と同じである。製造装置は、
図3に示したゲート絶縁膜21、ゲート電極22、ソース電極25及びドレイン電極26を形成する。このような工程を経て、縦型MOSFET1を備えるGaN半導体装置100が完成する。
【0066】
(製造方法例4)
本開示の実施形態1では、製造方法例2と製造方法例3とを組み合わせてもよい。例えば、GaN層12へのAl導入は、Alドープ層31をエピタキシャル成長させることで行ってもよい。GaN層12へのMg導入は、Alドープ層31上にMgの供給源となる膜(例えば、Mg膜)を形成し、この膜からAlドープ層31にMgを熱拡散させることで行ってもよい。
【0067】
図13及び
図14は、本開示の実施形態1に係るGaN半導体装置100の製造方法例4を工程順に示す断面図である。
図13のステップST31において、Alドープ層31を形成する工程と、ウェル形成領域13´及びソース形成領域23´を形成する工程までは、
図9に示したステップST11、ST12、ST13と同じである。
【0068】
ウェル形成領域13´及びソース形成領域23´の形成後、
図13のステップST32に示すように、製造装置は、GaN基板10の表面10a上に、Mg膜35(本開示の「第1膜」の一例)を形成する。Mg膜35の形成は、例えば、スパッタ法、電子線蒸着法、又は、熱蒸着法などで行う。
なお、Mg膜35を形成する前に予め、GaN層12においてMg膜35が配置される領域(すなわち、コンタクト形成領域15´)に窒素(N)をイオン注入しておいてもよい。ここでは、Mg膜35が配置される領域におけるN濃度が例えば2×10
19cm
-3となるようにNをイオン注入してもよい。
【0069】
次に、
図14のステップST33に示すように、製造装置は、Mg膜35及びGaN層12を含む基板全体に熱処理(本開示の「第1熱処理」の一例)を施して、Mg膜35からGaN層12へMgを熱拡散させる。このMgを熱拡散するための熱処理は、例えば、N
2雰囲気中で、最大温度が800℃、最大温度での処理時間が5分の条件で行う。これにより、コンタクト形成領域15´にMgを導入する。
Alを含むコンタクト形成領域15´にMgを導入した後、製造装置は、GaN基板10の表面10a上からMg膜35を除去する。
【0070】
次に、製造装置は、GaN基板10に、最大温度が1300℃以上2000℃以下の熱処理を施す。この熱処理は、例えば急速加熱処理である。また、この熱処理は、例えば500MPaなどの、高圧N
2雰囲気下で行ってもよい。この熱処理により、GaN基板10に導入されたMg及びSiが活性化される。その結果、
図14のステップST34に示すように、GaN基板10に、p-型のウェル領域13と、n+型のソース領域23と、p+型のコンタクト領域15とが形成される。
【0071】
また、この熱処理により、GaN基板10において、各種のイオン注入により生じた欠陥をある程度回復することができる。さらに、製造方法例4では、コンタクト形成領域15´へのAl及びMgの導入をイオン注入ではなく、Alドープ層31の形成と、Mgの熱拡散とで行う。これにより、製造方法例1と比べて、イオン注入に起因する結晶欠陥をさらに低減できる可能性がある。
これ以降の工程は、製造方法例1と同じである。製造装置は、
図3に示したゲート絶縁膜21、ゲート電極22、ソース電極25及びドレイン電極26を形成する。このような工程を経て、縦型MOSFET1を備えるGaN半導体装置100が完成する。
【0072】
(実施形態1の効果)
以上説明したように、本開示の実施形態1に係るGaN半導体装置100は、n-型のGaN層12と、GaN層12に設けられたp+型のコンタクト領域15とを有する。コンタクト領域15は、3×1018cm-3以上1×1021cm-3以下の濃度でMgと、3×1017cm-3以上5×1021cm-3以下の濃度で13族元素及びアクセプタ元素の少なくとも一方と、を含む。
【0073】
これによれば、p+型のコンタクト領域15において、Mgにより形成される圧縮応力場を、13族元素及びアクセプタ元素の少なくとも一方(例えば、Al)により形成される圧縮応力場で相殺することができる。これにより、Mgの周囲に形成される圧縮応力場を緩和することができ、Mgの固溶限界を向上させることが可能となる。Gaサイトへ入るMg量を増やすことが可能となり、Mgの偏析を抑制することが可能となるため、高濃度のp+型領域(この例では、p+型のコンタクト領域15)を実現することが可能である。p+型のコンタクト領域15とソース電極25との間で良好なオーミック接続を実現することができる。
【0074】
(実施形態1の変形例)
上記の実施形態1では、本開示の「p型領域」として、p+型のコンタクト領域15を例示した。しかしながら、本開示の「p型領域」はp+型のコンタクト領域に限定されない。本開示の「p型領域」は、例えば耐圧維持用のp+型層であってもよいし、p+型のコンタクト領域と耐圧維持用のp+型層の両方であってもよい。
【0075】
図15は、本開示の実施形態1の変形例に係る縦型MOSFET1Aの構成を示す断面図である。
図15に示すように、縦型MOSFET1Aにおいて、GaN基板10は、p-型のウェル領域13とn-型のGaN層12(ドリフト領域)との間に配置されたp+型埋込層17を有する。この変形例では、p+型のコンタクト領域15とp+型埋込層17の各々が本開示の「p型領域」の一例となる。
【0076】
p+型埋込層17は、例えば、GaN基板10の表面10a側にMg等のp型不純物がイオン注入され、熱処理によりp型不純物が活性化されて形成される。p+型埋込層17は、p型不純物としてMgを3×1018cm-3以上1×1021cm-3以下の濃度で含む。p+型埋込層17の深さ方向におけるMgのピーク濃度は、例えば、5×1018cm-3以上であり、好ましくは8×1019cm-3以上であり、より好ましくは1×1019cm-3以上である。
【0077】
また、p+型埋込層17は、Mgの周囲に形成される圧縮応力場を緩和するために、13族元素及びアクセプタ元素の少なくとも一方を、3×1017cm-3以上5×1021cm-3以下の濃度で含み、より好ましくは2×1018cm-3以上5×1021cm-3以下の濃度で含む。13族元素は、例えばB及びAlの少なくとも一方である。アクセプタ元素は、例えばLi及びBeの少なくとも一方である。
一例を挙げると、p+型埋込層17は、上記の13族元素として、Alを3×1017cm-3以上5×1021cm-3以下の濃度で含み、より好ましくは2×1018cm-3以上5×1021cm-3以下の濃度で含む。p+型埋込層17の厚さは、例えば0.1μm以上0.5μm以下である。
【0078】
p-型のウェル領域13とn-型のGaN層12(ドリフト領域)との間にp+型埋込層17が配置されることにより、p+型埋込層17とドリフト領域との間で空乏層が広がり、p+型埋込層17とドリフト領域との間で耐圧が向上する。例えば、p+型埋込層17は、ゲート電極22への入力電圧がLowレベルであるとき(つまり、ゲートオフ時)に、p+型埋込層17が無い場合と比較して縦型MOSFET1Aの耐圧を高めることができる。
実施形態1の変形例に係るGaN半導体装置は、
図15に示す縦型MOSFET1Aを複数備える。1つの縦型MOSFET1Aが繰り返しの単位構造である。この変形例に係るGaN半導体装置では、この単位構造が一方向(例えば、X軸方向)に並んで配置されている。
【0079】
以上説明したように、実施形態1の変形例に係る縦型MOSFET1Aは、n-型のGaN層12に設けられたp+型のコンタクト領域15とp+型埋込層17とを有する。p+型のコンタクト領域15とp+型埋込層17はそれぞれ、3×1018cm-3以上1×1021cm-3以下の濃度でMgと、3×1017cm-3以上5×1021cm-3以下の濃度で13族元素及びアクセプタ元素の少なくとも一方(例えば、Al)と、を含む。
【0080】
これによれば、p+型のコンタクト領域15とp+型埋込層17の各々において、Mgにより形成される圧縮応力場を、Alにより形成される圧縮応力場で相殺することができる。これにより、Mgの周囲に形成される圧縮応力場を緩和することができ、Mgの固溶限界を向上させることが可能となる。Gaサイトへ入るMg量を増やすことが可能となり、Mgの偏析を抑制することが可能となるため、高濃度のp型領域(この例では、p+型のコンタクト領域15及びp+型埋込層17)を実現することが可能である。
また、p-型のウェル領域13とn-型のGaN層12(ドリフト領域)との間にp+型埋込層17が配置されることにより、p+型埋込層17とドリフト領域との間で空乏層が広がるため、例えばゲートオフ時の耐圧を高めることができる。
【0081】
<実施形態2>
上記の実施形態2では、縦型MOSFET1、1Aが、プレーナ構造を有する合を示した。しかしながら、本開示の「p型領域」を有する縦型MOSFETは、プレーナ構造ではなく、トレンチゲート構造を有しもよい。
【0082】
(構成例)
図16は、本開示の実施形態2に係る縦型MOSFET1Bの構成例を示す断面図である。
図16に示すように、実施形態2に係る縦型MOSFET1Bは、トレンチゲート構造を有する。具体的には、縦型MOSFET1Eは、GaN基板10に設けられたトレンチHを有する。トレンチHは、GaN基板10の表面10a側に開口している。トレンチHはp-型のウェル領域13よりも深く形成されており、トレンチHの底部はn-型のGaN層12まで達している。
【0083】
トレンチHの内側には、ゲート絶縁膜21とゲート電極22とが配置されている。トレンチHの内側の側面と底面とをゲート絶縁膜21が覆っている。また、ゲート電極22は、ゲート絶縁膜21を介してトレンチHに埋め込まれている。縦型MOSFET1Bでは、p-型のウェル領域13のうち、トレンチHの内側の側面に設けられたゲート絶縁膜21を介してゲート電極22と向かい合う領域がチャネル領域となる。
【0084】
(実施形態2の効果)
縦型MOSFET1Bにおいても、p+型のコンタクト領域15は、3×1018cm-3以上1×1021cm-3以下の濃度でMgと、3×1017cm-3以上5×1021cm-3以下の濃度で13族元素及びアクセプタ元素の少なくとも一方(例えば、Al)と、を含む。
【0085】
これによれば、実施形態1に係る縦型MOSFET1の場合と同様に、p+型のコンタクト領域15において、Mgの周囲に形成される圧縮応力場を緩和することができ、Mgの固溶限界を向上させることが可能となる。Gaサイトへ入るMg量を増やすことが可能となり、Mgの偏析を抑制することが可能となるため、高濃度のp型領域(この例では、p+型のコンタクト領域15)を実現することが可能である。p+型のコンタクト領域15とソース電極25との間で良好なオーミック接続を実現することができる。
また、 縦型MOSFET1Bは、トレンチゲート構造を有することにより、微細化が可能となる。チャネル密度の向上が図れるため、低オン抵抗化が可能である。
【0086】
(実施形態2の変形例)
(1)変形例1
図17は、本開示の実施形態2の変形例1に係る縦型MOSFET1Cの構成を示す断面図である。
図17に示すように、実施形態2の変形例1に係る縦型MOSFET1Cは、実施形態1の変形例1に係る縦型MOSFET1A(
図15参照)と同様に、p-型のウェル領域13とn-型のGaN層12(ドリフト領域)との間に配置されたp+型埋込層17を有する。この変形例1では、p+型のコンタクト領域15とp+型埋込層17の各々が本開示の「p型領域」の一例となる。
【0087】
図17に示すp+型埋込層17の構成は、
図15に示したp+型埋込層17の構成と同じである。すなわち、p+型埋込層17は、p型不純物としてMgを3×10
18cm
-3以上1×10
21cm
-3以下の濃度で含む。また、p+型埋込層17は、Mgの周囲に形成される圧縮応力場を緩和するために、13族元素及びアクセプタ元素の少なくとも一方(例えば、Al)を、3×10
17cm
-3以上5×10
21cm
-3以下の濃度で含み、より好ましくは1×10
18cm
-3以上2×10
21cm
-3以下の濃度で含む。
【0088】
このような構成であれば、実施形態1の変形例と同様に、p+型のコンタクト領域15とp+型埋込層17の各々において、Mgの周囲に形成される圧縮応力場を緩和することができ、Mgの固溶限界を向上させることが可能となる。Gaサイトへ入るMg量を増やすことが可能となり、Mgの偏析を抑制することが可能となるため、高濃度のp型領域(この例では、p+型のコンタクト領域15及びp+型埋込層17)を実現することが可能である。
【0089】
また、p-型のウェル領域13とn-型のGaN層12(ドリフト領域)との間に、p-型のウェル領域13よりもp型不純物濃度が高いp+型埋込層17が配置される。例えば、p+型埋込層17は、チャネル領域から離間して配置され、トレンチHの底部よりも深い位置まで存在する。これにより、p+埋込層17とドリフト領域との間で空乏層が広がり、トレンチ底部への電界集中が緩和されるため、例えばゲートオフ時の耐圧を高めることができる。
【0090】
(2)変形例2
図18は、本開示の実施形態2の変形例2に係る縦型MOSFET1Dの構成を示す断面図である。
図18に示すように、実施形態2の変形例2に係る縦型MOSFET1Dでは、トレンチHの底部にp+型埋込層17が配置されている。例えば、p+型埋込層17は、トレンチHの底部よりもX軸方向及びY軸方向において幅広に形成されている。また、p+型埋込層17は、トレンチHの底面よりも浅い位置(すなわち、表面10aに近い位置)から、トレンチHの底面よりも深い位置(すなわち、裏面10bに近い位置)まで、連続して設けられている。これにより、トレンチHの底部は、その角部HCも含めて、p+型埋込層17で覆われている。
【0091】
このような構成であっても、上記の実施形態2の変形例1と同様に、高濃度のp型領域(p+型のコンタクト領域15及びp+型埋込層17)を実現することが可能である。
また、トレンチHの底部はドレイン電極26に近く、特に角部HCには電界が集中し易い傾向があるが、トレンチHの底部に配置されたp+型埋込層17からドリフト領域側へ空乏層が広がるため、トレンチHの底部やその角部HCへの電界集中を緩和することができる。これにより、トレンチHの底部やその角部HCへの電界集中が原因でゲート絶縁膜21が破壊されることを抑制することができる。
【0092】
なお、
図18では、p+型埋込層17が、トレンチHの底部よりも幅広に形成されている態様を示した。しかし、変形例2はこれに限定されない。p+型埋込層17は、トレンチHの底部よりも幅広に形成されていなくてもよい。例えば、p+型埋込層17は、トレンチHの底部と同じ幅で形成されていてもよい。
【0093】
また、
図18では、p+型埋込層17が、トレンチHの底面よりも浅い位置から、トレンチHの底面よりも深い位置まで形成されている態様を示した。しかし、変形例2はこれに限定されない。p+型埋込層17はトレンチHの底面と接していればよい。例えば、p+型埋込層17は、トレンチHの底面と同じ深さの位置から、トレンチHの底面よりも深い位置まで形成されていてもよい。
【0094】
<実施形態3>
本開示の「p型領域」の適用は、電界効果トランジスタに限定されない。本開示の「p型領域」は、例えばpnダイオードに適用してもよい。
図19は、本開示の実施形態3に係るpnダイオード2の構成例を示す断面図である。
図19に示すように、pnダイオード2は、n+型のGaN単結晶基板11及びn-型のGaN層12を有するGaN基板10と、GaN基板10に設けられてn-型のGaN層12と接するp-型のウェル領域13と、GaN基板10に設けられてウェル領域13と接するp+型層18と、を備える。p+型層18は、p-型のウェル領域13の内側に位置し、GaN基板10の表面10aに面している。
【0095】
pnダイオード2において、p+型層18及びp-型のウェル領域13はアノード領域であり、n+型のGaN単結晶基板11及びn-型のGaN層12はカソード領域である。実施形態3では、p+型層18が本開示の「p型領域」の一例となる。
また、pnダイオード2は、GaN基板10の表面10a側に設けられてp+型層18と接するアノード電極125と、GaN基板10の裏面10b側に設けられてn+型のGaN単結晶基板11と接するカソード電極126と、を備える。アノード電極125及びカソード電極126は、例えば、AlまたはAl-Siの合金で構成されている。アノード電極125及びカソード電極126は、GaN基板10との間にバリアメタル層を有してもよい。バリアメタル層の材料としてTiを使用してもよい。
【0096】
p+型層18の構成は、例えば、実施形態1、2で説明したp+型のコンタクト領域15の構成と同じである。すなわち、p+型層18は、p型不純物としてMgを3×1018cm-3以上1×1021cm-3以下の濃度で含み、より好ましくは1×1019cm-3以上2×1020cm-3以下の濃度で含む。また、p+型層18は、Mgの周囲に形成される圧縮応力場を緩和するために、13族元素及びアクセプタ元素の少なくとも一方(例えば、Al)を、3×1017cm-3以上5×1021cm-3以下の濃度で含み、より好ましくは5×1018cm-3以上4×1020cm-3以下の濃度で含む。
【0097】
このような構成であれば、pnダイオード2のアノード領域を構成するp+型層18において、Mgにより形成される圧縮応力場を、Alにより形成される圧縮応力場で相殺することができる。これにより、Mgの周囲に形成される圧縮応力場を緩和することができ、Mgの固溶限界を向上させることが可能となる。Gaサイトへ入るMg量を増やすことが可能となり、Mgの偏析を抑制することが可能となるため、高濃度のp+型領域(この例では、p+型層18)を実現することが可能である。p+型層18とアノード電極125との間で良好なオーミック接続を実現することができる。
【0098】
<その他の実施形態>
上記のように、本開示は実施形態1から3及びその変形例によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面は本開示を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、変形例が明らかとなろう。例えば、
図1では、p+型のコンタクト領域15のZ軸方向からの平面視による形状が、Y軸方向に延設された帯状である場合を示した。しかしながら、コンタクト領域15のZ軸方向からの平面視による形状は帯状に限定されない。p+型のコンタクト領域15のZ軸方向からの平面視による形状は、四角形、六角形、八角形等の多角形でもよいし、円形でもよい。
【0099】
このように、本開示はここでは記載していない様々な実施形態等を含むことは勿論である。上述した実施形態1から3及びその変形例の要旨を逸脱しない範囲で、構成要素の種々の省略、置換及び変更のうち少なくとも1つを行うことができる。また、本明細書に記載された効果はあくまでも例示であって限定されるものでは無く、また他の効果があってもよい。本開示の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【0100】
なお、本開示は以下のような構成も取ることができる。
(1)
窒化物結晶層と、
前記窒化物結晶層に設けられたp型領域と、を備え、
前記p型領域は、
3×1018cm-3以上1×1021cm-3以下の濃度でMgと、
3×1017cm-3以上5×1021cm-3以下の濃度で13族元素及びアクセプタ元素の少なくとも一方と、を含む窒化物半導体装置。
(2)
前記13族元素は、B及びAlの少なくとも一方である、前記(1)に記載の窒化物半導体装置。
(3)
前記アクセプタ元素は、Li及びBeの少なくとも一方である、前記(1)又は(2)に記載の窒化物半導体装置。
(4)
窒化物結晶基板をさらに備え、
前記窒化物結晶層は前記窒化物結晶基板の一方の面上に設けられており、
前記p型領域の格子定数であって、前記一方の面に平行な第1方向の格子定数と、前記一方の面に平行で前記第1方向と交差する第2方向の格子定数は、前記窒化物結晶基板の前記第1方向及び前記第2方向の各格子定数とそれぞれ等しい、前記(1)から(3)のいずれか1項に記載の窒化物半導体装置。
(5)
前記窒化物結晶層に設けられたp型のウェル領域と、
前記窒化物結晶層に設けられ、前記ウェル領域にチャネルが形成される電界効果トランジスタと、を備え、
前記p型領域は、前記ウェル領域よりも前記アクセプタ元素の濃度が高く、かつ前記ウェル領域に電気的に接続する、前記(1)から(4)のいずれか1項に記載の窒化物半導体装置。
(6)
前記窒化物結晶層に設けられたダイオードを備え、
前記p型領域は前記ダイオードのアノード領域である、前記(1)から(4)のいずれか1項に記載の窒化物半導体装置。
(7)
窒化物結晶層に3×1018cm-3以上1×1021cm-3以下の濃度でMgを導入する工程と、
前記窒化物結晶層において前記Mgが導入される領域に、3×1017cm-3以上5×1021cm-3以下の濃度で13族元素及びアクセプタ元素の少なくとも一方を導入する工程と、
前記Mgが導入され、かつ前記13族元素及び前記アクセプタ元素の少なくとも一方が導入された前記窒化物結晶層に熱処理を施して、前記Mgを活性化することによって、前記窒化物結晶層にp型領域を形成する工程と、を備える窒化物半導体装置の製造方法。
(8)
前記窒化物結晶層において前記Mgが導入される領域にNをイオン注入する工程をさらに備え、
前記p型領域を形成する工程では、
前記Nがイオン注入された前記窒化物結晶層に前記熱処理を施す、前記(7)に記載の窒化物半導体装置の製造方法。
(9)
前記Mgが導入され、前記Nがイオン注入された前記窒化物結晶層上に保護膜を形成する工程をさらに備え、
前記p型領域を形成する工程では、
前記保護膜が形成された前記窒化物結晶層に前記熱処理を施す、前記(8)に記載の窒化物半導体装置の製造方法。
(10)
前記Mgを前記窒化物結晶層に導入する工程は、
前記Mgを前記窒化物結晶層にイオン注入することで行う、前記(7)から(9)のいずれか1項に記載の窒化物半導体装置の製造方法。
(11)
前記Mgを前記窒化物結晶層に導入する工程は、
前記Mgを含む第1膜を前記窒化物結晶層上に形成し、
前記第1膜が形成された前記窒化物結晶層に第1熱処理を施して、前記第1膜から前記窒化物結晶層に前記Mgを熱拡散させることで行う、前記(7)から(9)のいずれか1項に記載の窒化物半導体装置の製造方法。
(12)
前記13族元素及び前記アクセプタ元素の少なくとも一方を前記窒化物結晶層に導入する工程は、
前記13族元素及び前記アクセプタ元素の少なくとも一方を前記窒化物結晶層にイオン注入することで行う、前記(7)から(11)のいずれか1項に記載の窒化物半導体装置の製造方法。
(13)
前記13族元素及び前記アクセプタ元素の少なくとも一方を導入する工程は、
前記13族元素及び前記アクセプタ元素の少なくとも一方を含む第2膜を前記窒化物結晶層上に形成し、
前記第2膜が形成された前記窒化物結晶層に第2熱処理を施して、前記第2膜から前記窒化物結晶層に前記13族元素及び前記アクセプタ元素の少なくとも一方を熱拡散させることで行う、前記(7)から(11)のいずれか1項に記載の窒化物半導体装置の製造方法。
【符号の説明】
【0101】
1、1A、1B、1C、1D、1E 縦型MOSFET
2 pnダイオード
10 GaN基板
10a 表面
10b 裏面
11 GaN単結晶基板
12 GaN層
13 ウェル領域
13´ ウェル形成領域
14 保護膜
15 コンタクト領域
15´ コンタクト形成領域
17 p+型埋込層
18 p+型層
21 ゲート絶縁膜
22 ゲート電極
23 ソース領域
23´ ソース形成領域
25 ソース電極
26 ドレイン電極
31 Alドープ層
33 MgAl混合物
35 Mg膜
100 GaN半導体装置
125 アノード電極
126 カソード電極
d1、d2 中心間距離
H トレンチ
HC 角部
【手続補正書】
【提出日】2024-03-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0006
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0006】
本開示の一態様に係る窒化物半導体装置の製造方法は、窒化物結晶層に3×1018cm-3以上1×1021cm-3以下の濃度でMgを導入する工程と、前記窒化物結晶層において前記Mgが導入される領域に、3×1017cm-3以上5×1021cm-3以下の濃度で13族元素及びアクセプタ元素の少なくとも一方を導入する工程と、前記Mgが導入され、かつ前記13族元素及び前記アクセプタ元素の少なくとも一方が導入された前記窒化物結晶層に熱処理を施して、前記Mgを活性化することによって、前記窒化物結晶層にp型領域を形成する工程と、を備える。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0046
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0046】
また、
図7のステップST1から
図8のステップST4では、各種のイオン注入を、Mg(p-)イオン注入、Si(n+)イオン注入、Alイオン注入、Mg(p+)イオン注入、Nイオン注入の順で行うことを説明した。しかしながら、本開示の実施形態
1において、イオン注入を行う順番はこれに限定されない。Mg(p-)イオン注入、Si(n+)イオン注入、Alイオン注入、Mg(p+)イオン注入及びNイオン注入は、任意の順番で行ってよい。任意の順番で行った場合でも、
図1から
図3に示したGaN半導体装置100を製造することができる。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0066
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0066】
(4)製造方法例4
本開示の実施形態1では、製造方法例2と製造方法例3とを組み合わせてもよい。例えば、GaN層12へのAl導入は、Alドープ層31をエピタキシャル成長させることで行ってもよい。GaN層12へのMg導入は、Alドープ層31上にMgの供給源となる膜(例えば、Mg膜)を形成し、この膜からAlドープ層31にMgを熱拡散させることで行ってもよい。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0081
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0081】
<実施形態2>
上記の実施形態1では、縦型MOSFET1、1Aが、プレーナ構造を有する合を示した。しかしながら、本開示の「p型領域」を有する縦型MOSFETは、プレーナ構造ではなく、トレンチゲート構造を有しもよい。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0082
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0082】
(構成例)
図16は、本開示の実施形態2に係る縦型MOSFET1Bの構成例を示す断面図である。
図16に示すように、実施形態2に係る縦型MOSFET1Bは、トレンチゲート構造を有する。具体的には、縦型MOSFET1
Bは、GaN基板10に設けられたトレンチHを有する。トレンチHは、GaN基板10の表面10a側に開口している。トレンチHはp-型のウェル領域13よりも深く形成されており、トレンチHの底部はn-型のGaN層12まで達している。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0086
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0086】
(実施形態2の変形例)
(1)変形例1
図17は、本開示の実施形態2の変形例1に係る縦型MOSFET1Cの構成を示す断面図である。
図17に示すように、実施形態2の変形例1に係る縦型MOSFET1Cは、実施形態1の変形
例に係る縦型MOSFET1A(
図15参照)と同様に、p-型のウェル領域13とn-型のGaN層12(ドリフト領域)との間に配置されたp+型埋込層17を有する。この変形例1では、p+型のコンタクト領域15とp+型埋込層17の各々が本開示の「p型領域」の一例となる。
【手続補正7】
【補正対象書類名】図面
【補正方法】変更
【補正の内容】
【手続補正8】
【補正対象書類名】図面
【補正方法】変更
【補正の内容】