(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024164587
(43)【公開日】2024-11-27
(54)【発明の名称】アルカリ電池用セパレータ
(51)【国際特許分類】
H01M 50/489 20210101AFI20241120BHJP
H01M 50/417 20210101ALI20241120BHJP
H01M 50/44 20210101ALI20241120BHJP
【FI】
H01M50/489
H01M50/417
H01M50/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080183
(22)【出願日】2023-05-15
(71)【出願人】
【識別番号】000229542
【氏名又は名称】日本バイリーン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】川野 明彦
(72)【発明者】
【氏名】河原 萌恵
(72)【発明者】
【氏名】村田 修一
(72)【発明者】
【氏名】多羅尾 隆
(72)【発明者】
【氏名】田中 政尚
【テーマコード(参考)】
5H021
【Fターム(参考)】
5H021CC02
5H021CC04
5H021EE04
5H021HH00
(57)【要約】
【課題】機械的強度に優れており、そして、内部短絡が発生し難いアルカリ電池を提供可能な、アルカリ電池用セパレータを提供すること。
【解決手段】本発明のアルカリ電池用セパレータは、アルカリ電池セパレータに含まれる、スルホン酸基を有するポリオレフィン系樹脂で表面が被覆されている繊維の表面を、XPSを用いて測定し、得られたC1sスペクトルを波形分離して得られる各ピーク(C-C、CO、COO)のピーク面積の合計に占める、COOのピーク面積の百分率が2.0%未満と小さい。つまり、前記繊維の表面に有するカルボキシ基(-COOH)が少なく、前記繊維の表面に有するポリオレフィン系樹脂の酸化の程度が小さいことを示している。 そのため、前述の構成を有するアルカリ電池用セパレータは、機械的強度に優れており、内部短絡が発生し難いアルカリ電池を提供可能である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルホン酸基を有するポリオレフィン系樹脂で表面が被覆されている繊維を含有する不織布を含むアルカリ電池用セパレータであり、
前記繊維の表面を、XPS(X線光電子分光法)を用いて測定し、得られたC1sスペクトルを波形分離して得られる各ピーク(C-C、CO、COO)のピーク面積の合計に占める、COOのピーク面積の百分率が2.0%未満である、
アルカリ電池用セパレータ。
【請求項2】
前記繊維の表面を、XPS(X線光電子分光法)を用いて測定し、得られたS2p3/2スペクトルを波形分離して得られる各ピーク(-SO3、-SO4)のピーク面積の合計に占める、-SO3のピーク面積の百分率が50%以上である、
請求項1に記載のアルカリ電池用セパレータ。
【請求項3】
前記アルカリ電池用セパレータを、蛍光X線分析法を用いて測定し、得られた炭素原子数(C)に対する硫黄原子数(S)の比(S/C)が、1.5×10-3~3.5×10-3である、
請求項1に記載のアルカリ電池用セパレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアルカリ電池用セパレータに関する。より具体的には、アルカリマンガン電池、水銀電池、酸化銀電池、空気電池などのアルカリ一次電池や、ニッケル-カドミウム電池、銀-亜鉛電池、銀-カドミウム電池、ニッケル-亜鉛電池、ニッケル-水素電池、充電式アルカリマンガン電池などのアルカリ二次電池に使用できるセパレータに関するものである。特にニッケル-カドミウム電池やニッケル-水素電池などの過充電時に酸素を発生する電池に好適に使用できるセパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、アルカリ電池の正極と負極とを分離して短絡を防止すると共に、電解液を保持して起電反応を円滑に行うことができるように、正極と負極の間にセパレータが設けられ使用されている。このアルカリ電池用セパレータは水酸化カリウムなどからなる電解液を保持する必要があるため、耐アルカリ性に優れるポリオレフィン系樹脂を含む繊維を含む不織布が使用されてきた。しかしながら、当該繊維は電解液との親和性が低く、当該繊維を含むセパレータは電解液の保持性が悪く、イオン伝導性が低い問題を有していた。そのため、ポリオレフィン系樹脂を含む繊維を含む不織布を様々な方法で親水化処理して、電解液の保持能を向上することが行われている。
【0003】
例えば、本願出願人は、特許文献1(特開2017-107752号公報)に記載するように、ポリオレフィン系樹脂であるポリエチレンを鞘成分として含む、すなわちポリエチレンで繊維表面が被覆されている芯鞘型複合繊維からなる不織布形態のアルカリ電池用セパレータについて、スルホン化処理によって、当該ポリエチレン樹脂へスルホン酸基を導入することを提案した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような従来技術にかかるアルカリ電池用セパレータは、その構成繊維に含まれるポリオレフィン系樹脂がスルホン酸基を有することで、電解液保持性が向上しイオン伝導性が高く、アルカリ電池の起電反応が円滑に行える上、スルホン酸基が電解液に含まれるアンモニアを吸着することでアルカリ電池の自己放電を抑制できる効果を有するセパレータであった。
【0006】
しかし、スルホン酸基を導入するために行われるスルホン化処理によって、アルカリ電池用セパレータを構成する不織布の構成繊維が酸化され劣化することがあった。その結果、アルカリ電池用セパレータの機械的強度が低下して破れやすくなり、アルカリ電池の内部短絡を招き易くなることがあった。
【0007】
本発明はこのような状況下においてなされたもので、スルホン酸基を有するポリオレフィン系樹脂で表面が被覆されている繊維を含む不織布のアルカリ電池用セパレータであって、機械的強度に優れており、そして、内部短絡が発生し難いアルカリ電池を提供可能な、アルカリ電池用セパレータの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1にかかる発明は、「スルホン酸基を有するポリオレフィン系樹脂で表面が被覆されている繊維を含有する不織布を含むアルカリ電池用セパレータであり、前記繊維の表面を、XPS(X線光電子分光法)を用いて測定し、得られたC1sスペクトルを波形分離して得られる各ピーク(C-C、CO、COO)のピーク面積の合計に占める、COOのピーク面積の百分率が2.0%未満である、アルカリ電池用セパレータ。」である。
【0009】
本発明の請求項2にかかる発明は、「前記繊維の表面を、XPS(X線光電子分光法)を用いて測定し、得られたS2p3/2スペクトルを波形分離して得られる各ピーク(-SO3、-SO4)のピーク面積の合計に占める、-SO3のピーク面積の百分率が50%以上である、請求項1に記載のアルカリ電池用セパレータ。」である。
【0010】
本発明の請求項3にかかる発明は、「前記アルカリ電池用セパレータを、蛍光X線分析法を用いて測定し、得られた炭素原子数(C)に対する硫黄原子数(S)の比(S/C)が、1.5×10-3~3.5×10-3である、請求項1に記載のアルカリ電池用セパレータ。」である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の請求項1にかかるアルカリ電池用セパレータは、アルカリ電池セパレータに含まれる、スルホン酸基を有するポリオレフィン系樹脂で表面が被覆されている繊維の表面を、XPSを用いて測定し、得られたC1sスペクトルを波形分離して得られる各ピーク(C-C、CO、COO)のピーク面積の合計に占める、COOのピーク面積の百分率が2.0%未満と小さい。つまり、前記繊維の表面に有するカルボキシ基(-COOH)が少なく、前記繊維の表面に有するポリオレフィン系樹脂の酸化の程度が小さいことを示している。
【0012】
そのため、前述の構成を有するアルカリ電池用セパレータは、機械的強度に優れており、このことから、当該アルカリ電池用セパレータを用いることで内部短絡が発生し難いアルカリ電池を提供可能である。
【0013】
本発明の請求項2にかかるアルカリ電池用セパレータは、アルカリ電池セパレータに含まれる、スルホン酸基を有するポリオレフィン系樹脂で表面が被覆されている繊維の表面を、XPSを用いて測定し、得られたS2p3/2スペクトルを波形分離して得られた各ピーク(-SO3、-SO4)のピーク面積の合計に占める、-SO3のピーク面積の百分率が50%以上と大きい。つまり、前記繊維の表面に有する硫黄の多くがスルホン酸基(-SO3H)として存在しており、前記繊維の表面に有するポリオレフィン系樹脂に多くのスルホン酸基が含まれていることを示している。
【0014】
そのため、更に前述の構成を有するアルカリ電池用セパレータは、多くのスルホン酸基を含むことで親水性が高く、しかも自己放電抑制作用が優れており、このことから、当該アルカリ電池用セパレータを用いることで高性能なアルカリ電池を提供可能である。
【0015】
本発明の請求項3にかかるアルカリ電池用セパレータは、蛍光X線分析法を用いて測定し、得られた炭素原子数(C)に対する硫黄原子数(S)の比(S/C)が、1.5×10-3~3.5×10-3である。これは、アルカリ電池セパレータを構成する繊維の表面に、スルホン酸基(-SO3H)を適量含んでいることを示している。
【0016】
そのため、更に前述の構成を有するアルカリ電池用セパレータは、スルホン酸基を含むことにより親水性が高く、しかも自己放電抑制作用が優れており、さらに、アルカリ電池用セパレータに含まれるポリオレフィン樹脂の酸化による劣化が小さく、機械的強度に優れている。その結果、当該アルカリ電池用セパレータを用いることで、内部短絡が発生し難く高性能なアルカリ電池を提供可能である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のアルカリ電池用セパレータには、スルホン酸基を有するポリオレフィン系樹脂で表面が被覆されている繊維を含有する。なお、「表面が被覆されている繊維」における「表面」は、繊維の両端部を含まない。
【0018】
この繊維表面に存在するポリオレフィン系樹脂は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテンなど、公知のポリオレフィン系樹脂であることができる。この中でも、スルホン化処理でスルホン酸基が導入されやすい傾向があり、多くのスルホン酸基を導入することができる、ポリエチレンであるのが好ましい。ポリエチレンとしては特に限定するものではないが、例えば、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレンなどを挙げることができる。これらの中でも高密度ポリエチレンは比較的融点が高く、セパレータを高温下で使用しやすいばかりでなく、高密度ポリエチレンはある程度の硬さを有するため、張りや腰のあるセパレータとすることができ、取り扱い性に優れるため好適である。
【0019】
このスルホン酸基を有するポリオレフィン系樹脂で表面が被覆されている繊維は、スルホン酸基を有するポリオレフィン系樹脂のみで構成されている単繊維であってもよいし、繊維表面に有する鞘成分がスルホン酸基を有するポリオレフィン系樹脂で構成され、芯成分を他の有機樹脂で構成された芯鞘型複合繊維であってもよい。この中でも、アルカリ電池用セパレータの形状が芯成分により強固に保持でき、形状安定性に優れることから、スルホン酸基を有するポリオレフィン系樹脂で表面が被覆されている繊維として、芯成分を鞘成分に含まれるポリオレフィン系樹脂以外の有機樹脂で構成された芯鞘型複合繊維が含まれているのが好ましい。スルホン酸基を有するポリオレフィン系樹脂で表面が被覆されている繊維が芯鞘型複合繊維である場合、芯成分は公知の有機樹脂であればよいが、アルカリ電池用セパレータの形状が芯成分により強固に保持できるように、鞘成分のスルホン酸基を有するポリオレフィン系樹脂よりも高い融点の有機樹脂であるのが好ましい。また、スルホン酸基を有するポリオレフィン系樹脂で表面が被覆されている繊維が耐アルカリ性に優れるように、芯成分はポリオレフィン系樹脂が好ましく、ポリオレフィン系樹脂の中でも耐薬品性に優れ、汎用性が高いポリプロピレンがより好ましい。
【0020】
本発明のアルカリ電池用セパレータが含有するスルホン酸基を有するポリオレフィン系樹脂で表面が被覆されている繊維が芯鞘型複合繊維で、かつ、芯成分がポリプロピレンである場合、このポリプロピレンは、プロピレンの単独重合体であることができるし、プロピレンとα-オレフィン(例えば、エチレン、1-ブテンなど)との共重合体であることもできる。より具体的には、例えば、結晶性を有するアイソタクチックプロピレン単独重合体、エチレン単位の含有量の少ないエチレン-プロピレンランダム共重合体、プロピレン単独重合体からなるホモ部とエチレン単位の含有量の比較的多いエチレン-プロピレンランダム共重合体からなる共重合部とから構成されたプロピレンブロック共重合体、更に、前記プロピレンブロック共重合体における各ホモ部または共重合部が、更に1-ブテンなどのα-オレフィンを共重合したものからなる結晶性プロピレン-エチレン-α-オレフィン共重合体などを挙げることができる。これらの中でもアイソタクチックプロピレン単独重合体は結晶化度が高くなりやすいため、好適である。
【0021】
本発明のアルカリ電池用セパレータが含有するスルホン酸基を有するポリオレフィン系樹脂で表面が被覆されている繊維は、繊維の状態で、又は不織布状態で、常法によりスルホン化処理を実施することにより得ることができる。なお、スルホン酸基を有するポリオレフィン系樹脂はスルホン酸基以外の親水性基(例えば、カルボキシル基、カルボニル基など) も有していても良い。また、電解液の注液性に優れるように、スルホン酸基を含む親水性基以外に、界面活性剤を更に含んでいても良い。
【0022】
本発明のアルカリ電池用セパレータのスルホン酸基を有するポリオレフィン系樹脂で表面が被覆されている繊維が芯鞘型複合繊維である場合、芯成分が偏心した状態にあってもよいが、繊維横断面において、同心円状に芯成分が配置した状態にあると均等に芯鞘型複合繊維が融着できるため好適である。また、芯成分と鞘成分の体積比は特に限定するものではないが、繊維同士が強固に融着できるように、また、融着時に繊維形態を維持できるように、芯成分と鞘成分の体積比は8:2~2:8であるのが好ましく、3:7~7:3であるのがより好ましく、4:6~6:4であるのが更に好ましい。
【0023】
本発明のアルカリ電池用セパレータのスルホン酸基を有するポリオレフィン系樹脂で表面が被覆されている繊維が芯鞘型複合繊維である場合、前記芯鞘型複合繊維の繊度は、特に限定するものではないが、0.05~3.5dtexが好ましく、0.1~2.5dtexがより好ましく、0.3~2.0dtexが更に好ましい。前記芯鞘型複合繊維の繊度が0.05dtex未満であると、アルカリ電池用セパレータの強度が不十分である傾向があり、前記芯鞘型複合繊維の繊度が3.5dtexを超えると、アルカリ電池用セパレータの電解液保持性が不十分である傾向がある。
【0024】
また、前記芯鞘型複合繊維の繊維長も特に限定するものではないが、均一に繊維が分散し、アルカリ電池用セパレータが均一に電解液を保持できるように、1~160mmが好ましく、3~120mmがより好ましく、4~100mmが更に好ましい。
【0025】
本発明のアルカリ電池用セパレータに含まれる、スルホン酸基を有する芯鞘型複合繊維の質量の百分率は、アルカリ電池用セパレータの構成繊維間が強く接着され、アルカリ電池用セパレータの強度が優れるように、50mass%以上が好ましく、60mass%以上がより好ましく、65mass%以上が更に好ましい。
【0026】
本発明のアルカリ電池用セパレータの、スルホン酸基を有するポリオレフィン系樹脂で表面が被覆されている繊維は、芯鞘型複合繊維以外の繊維を含んでいてもよい。例えば、アルカリ電池用セパレータの電解液保持性向上を目的とした、繊維径が5μm以下の極細繊維や、アルカリ電池用セパレータの強度向上を目的とした、繊維径が5μmを超える単繊維などであることができる。スルホン酸基を有するポリオレフィン系樹脂で表面が被覆されている芯鞘型複合繊維以外の繊維の繊度については、特に限定されるものではない。スルホン酸基を有するポリオレフィン系樹脂で表面が被覆されている芯鞘型複合繊維以外の繊維の繊維長については、均一に繊維が分散し、アルカリ電池用セパレータが均一に電解液を保持できるように、芯鞘型複合繊維の繊維長と同程度の繊維長であるのが好ましい。
【0027】
本発明のアルカリ電池用セパレータに含まれる、スルホン酸基を有する芯鞘型複合繊維以外の繊維質量の百分率は、高すぎると芯鞘型複合繊維の含有量が少なく、アルカリ電池用セパレータの強度が劣るおそれがあることから、50mass%以下が好ましく、40mass%以下がより好ましく、35mass%以下が更に好ましい。
【0028】
本発明のアルカリ電池用セパレータには、スルホン酸基を有するポリオレフィン系樹脂で表面を被覆されている繊維以外の繊維を含んでいてもよい。例えば、ポリアミド系樹脂などの、ポリオレフィン系樹脂以外の樹脂で表面が被覆されている繊維であることができる。
【0029】
本発明のアルカリ電池用セパレータは、電解液保持性、電気絶縁性などの機能性付与のため、不織布以外に、アルミナ、シリカなどの無機粒子などを含んでいてもよい。
【0030】
本発明のアルカリ電池用セパレータは、アルカリ電池用セパレータが含有する、スルホン酸基を有するポリオレフィン系樹脂で表面が被覆されている繊維の表面を、XPS(X線光電子分光法)を用いて測定し、得られたC1sスペクトルを波形分離して得られる各ピーク(C-C、CO、COO)のピーク面積の合計に占める、COOのピーク面積の百分率が2.0%未満である。このXPSの測定結果は、アルカリ電池用セパレータに含まれるスルホン酸基を有するポリオレフィン系樹脂で表面が被覆されている繊維の表面に有するカルボキシ基が少ないことを示しており、すなわち、アルカリ電池用セパレータに含まれるスルホン酸基を有するポリオレフィン系樹脂で表面が被覆されている繊維に含まれるポリオレフィン系樹脂の酸化による劣化が小さく、アルカリ電池用セパレータの機械的強度が優れていることを示している。よりアルカリ電池用セパレータの構成繊維に含まれるポリオレフィン系樹脂の酸化による劣化が小さく、アルカリ電池用セパレータの機械的強度が優れるように、アルカリ電池用セパレータに含まれるスルホン酸基を有するポリオレフィン系樹脂で表面が被覆されている繊維の表面を、XPSを用いて測定し、得られたC1sスペクトルを波形分離して得られる各ピーク(C-C、CO、COO)のピーク面積の合計に占める、COOのピーク面積の百分率は、1.5%以下がより好ましく、1.0%以下が更に好ましい。各ピークのピーク面積の合計に占める、COOのピーク面積が小さすぎると、スルホン酸基を有するポリオレフィン系樹脂で表面が被覆されている繊維の親水性が低く、アルカリ電池用セパレータの電解液保持性が悪い傾向があることから、0.01%以上が現実的である。
【0031】
なお、XPS(X線光電子分光法)によるC1sスペクトルの測定は、アルカリ電池用セパレータを純水中で30分間以上洗浄し、24時間風乾した後に、次の条件で測定する。
(1)励起源:Mg-Kα
(2)印加電圧値:10KV
(3)ビーム電流値:10mA
(4)光電子の脱出角度:90°
得られたC1sスペクトルを波形分離して得られる各ピーク(C-C、CO、COO)のピーク面積の合計に占める、COOのピーク面積の百分率は、得られたC1sスペクトルをガウス-ローレンツ混合関数を用いた非線形最小二乗法による波形分離で、C-C由来のピーク、CO由来のピーク、COO由来のピークにそれぞれ波形分離し、各ピークの面積を得ることで、各ピークの面積及び各ピーク面積の合計を求めることができる。
【0032】
本発明のアルカリ電池用セパレータは、アルカリ電池用セパレータが含有する、スルホン酸基を有するポリオレフィン系樹脂で表面が被覆されている繊維の表面を、XPS(X線光電子分光法)を用いて測定し、得られたS2p3/2スペクトルを波形分離して得られる各ピーク(-SO3、-SO4)のピーク面積の合計に占める、-SO3のピーク面積の百分率は、50%以上であるのが好ましい。このXPSの測定結果は、アルカリ電池用セパレータを構成するスルホン酸基を有するポリオレフィン系樹脂で表面が被覆されている繊維の表面に有するポリオレフィン系樹脂に多くのスルホン酸基を含むことを示している。そのため、この構成を有するアルカリ電池用セパレータは、多くのスルホン酸基を含むことで親水性が高く、また自己放電抑制作用が優れており、このことから、当該アルカリ電池用セパレータを用いることで、より高性能なアルカリ電池を提供可能である。より親水性が高く、また、より自己放電抑制作用が優れるように、アルカリ電池用セパレータに含まれるスルホン酸基を有するポリオレフィン系樹脂で表面が被覆されている繊維の表面を、XPS(X線光電子分光法)を用いて測定し、得られたS2p3/2スペクトルを波形分離して得られる各ピーク(-SO3、-SO4)のピーク面積の合計に占める、-SO3のピーク面積の百分率は、53%以上がより好ましく、55%以上が更に好ましい。
【0033】
なお、XPS(X線光電子分光法)によるS2p3/2スペクトルの測定は、XPSによるC1sスペクトルの測定と同様の条件で測定する。
【0034】
得られたS2p3/2スペクトルを波形分離して得られる各ピーク(-SO3、-SO4)のピーク面積の合計に占める、-SO3のピーク面積の百分率は、得られたS2p3/2スペクトルをガウス-ローレンツ混合関数を用いた非線形最小二乗法による波形分離で、-SO3由来のピーク、-SO4由来のピークにそれぞれ波形分離し、各ピークの面積を得ることで、各ピークの面積及び各ピーク面積の合計を求めることができる。
【0035】
本発明のアルカリ用電池用セパレータは、蛍光X線分析法を用いて測定し、得られた炭素原子数(C)に対する硫黄原子数(S)の比(S/C)が、1.5×10-3~3.5×10-3であるのが好ましい。得られた炭素原子数(C)に対する硫黄原子数(S)の比(S/C)が1.5×10-3未満であると、アルカリ電池用セパレータと電解液との親和性が悪くなる傾向があり、得られた炭素原子数(C)に対する硫黄原子数(S)の比(S/C)が3.5×10-3を超えると、アルカリ電池用セパレータの機械的強度が低下する傾向があるためである。
【0036】
この比(S/C)は、上述の通り蛍光X線分析法により測定し、次の手順により得られる値をいう。
【0037】
まず、測定対象のアルカリ電池用セパレータを純水中で30分間以上洗浄した後、24時間風乾する。次いで、アルカリ電池用セパレータの目付A(g/m2)、直径44mmの試験片を採取した後、蛍光X線装置により試験片のX線強度を測定して、単位面積あたりの硫黄量mSを算出する。次いで、硫黄量mSを硫黄の原子量(32)で除して(mS/32)、硫黄のモル数(Sm)を算出する。他方、試験片はポリオレフィン系樹脂、つまり-(CH2)n-の構成単位からなるため、試験片の目付AをCH2の分子量(14)で除することによって(A/14)、炭素のモル数(Cm)を算出する。次いで、硫黄のモル数を炭素のモル数で除して(Sm/Cm)、炭素原子数(C)に対する硫黄原子数(S)の比(S/C)を算出する。
【0038】
本発明のアルカリ電池用セパレータは、不織布を含む。不織布の種類としては、例えば、カード法やエアレイ法などで製造する乾式不織布、抄紙することで製造する湿式不織布、あるいは直接紡糸した繊維を集積することで製造する直接紡糸不織布(メルトブロー、スパンボンド)が挙げられる。これらの中でも湿式不織布は、他の不織布に比べて薄手であり、電気抵抗の低いアルカリ電池が実現できることから、本発明のアルカリ電池用セパレータは湿式不織布であるのが好ましい。
【0039】
本発明のアルカリ電池用セパレータの目付は適宜調整するが、10~100g/m2であることができ、20~80g/m2であることができ、30~70g/m2であることができる。なお、本発明でいう「目付」は、最も広い面である主面1m2あたりの質量をいう。
【0040】
また、本発明のアルカリ電池用セパレータの厚さは、厚さが薄いセパレータは電池の内部抵抗が低減する傾向があるが、厚さが薄すぎると耐内部短絡性が劣る恐れがあることから、10~250μmであるのが好ましく、20~230μmであるのがより好ましく、30~200μmであるのがさらに好ましい。なお、本発明でいう「厚さ」は、JIS B 7502(2016)「マイクロメータ」の3.1に規定されている外側マイクロメータ(測定範囲:0~25mm)を用いて荷重147kPaで測定し、無作為に選んだ10点の測定値の平均値をいう。
【0041】
本発明のアルカリ電池用セパレータの、以下の(式)で算出した値を小数点第2位で四捨五入することで求められる、アルカリ電池用セパレータのクッション性の値は、高ければ高いほど、無荷重時の厚さに対して147kPa荷重時の厚さが薄い傾向があり、アルカリ電池用セパレータをアルカリ電池に組み込んだ際に、アルカリ電池用セパレータがアルカリ電池の電極の膨張収縮に追従し、電池のサイクル寿命が長い傾向があることから、好ましい。
(式)=(アルカリ電池用セパレータの無荷重時の厚さ(mm))/(アルカリ電池用セパレータの147kPa荷重時の厚さ(mm))
この値は、1.4以上が好ましく、1.5以上がより好ましく、1.6以上が更に好ましい。なお、アルカリ電池用セパレータの無荷重時の厚さ(mm)は、アルカリ電池用セパレータを凍結させてから切断し、このアルカリ電池用セパレータの断面を、SEM(走査電子顕微鏡)で断面を観察することでアルカリ電池用セパレータの主面間の長さを測定した値をいう。
【0042】
本発明のアルカリ電池用セパレータの引張り強度は、高ければ高いほど酸化劣化しておらず、セパレータの機械的強度が優れることから、220N/50mm以上が好ましく、225N/50mm以上がより好ましく、230N/50mm以上が更に好ましい。なお、本発明のアルカリ電池用セパレータの引張り強度は、以下の方法で求めることができる。
(1)アルカリ電池用セパレータの任意に選んだ3点から、縦方向(アルカリ電池用セパレータの長手方向)に200mm、横方向(縦方向に直交する方向)に50mmの長方形状に試料を3枚採取する。
(2)(1)で採取した試料を、定速伸長型引張試験機(オリエンテック社製、テンシロン、初期つかみ間隔:100mm、引張速度:300mm/分)へ供し、試料が破断するまで引張ったときの最大強度を測定する。前記測定を3枚の試料に関して行い、この3枚の試料の算術平均値をアルカリ電池セパレータの引張り強度(N/50mm)とする。
【0043】
本発明のアルカリ電池用セパレータの引張り伸度は、高ければ高いほど酸化劣化しておらず、セパレータが破断しにくく、機械的強度が優れることから、9%以上が好ましく、10%以上がより好ましく、11%以上がさらに好ましい。なお、本発明のアルカリ電池用セパレータの引張り伸度は、以下の方法で求めることができる。
(1)上述の(アルカリ電池用セパレータの引張り強度測定)と同様に、アルカリ電池用セパレータの任意に選んだ3点から、縦方向(アルカリ電池用セパレータの長手方向)に200mm、横方向(縦方向に直交する方向)に50mmの長方形状に試料を3枚採取する。
(2)(1)で採取した試料を、定速伸長型引張試験機(オリエンテック社製、テンシロン、初期つかみ間隔:100mm、引張速度:300mm/分)へ供し、試料が破断するまで引張ったときの試料のつかみ間隔(mm)を測定する。前記測定を3枚の試料に関して行い、この3枚の試料の算術平均値を試料のつかみ間隔の平均値L1とする。
(3)以下の式で、アルカリ電池用セパレータの引張り伸度(%)を算出する。
(式)={(L1-100)/100}×100
本発明のアルカリ電池用セパレータは、例えば次のようにして製造することができる。
【0044】
まず、ポリオレフィン系樹脂で表面が被覆されている繊維(芯鞘型複合繊維、繊維径が5μm以下の極細繊維など)を用意する。また、必要に応じてポリオレフィン系樹脂で表面が被覆されていない繊維を用意する。
【0045】
次いで、上記繊維を配合して繊維ウエブを形成する。この繊維ウエブの形成方法は、例えば、乾式法(例えば、カード法、エアレイ法など)や湿式法により形成することができる。これらの中でも繊維が均一に分散して電解液を均一に保持しやすい不織布(結果としてセパレータ)を製造しやすい湿式法により形成するのが好ましい。この湿式法としては、従来公知の方法、例えば、水平長網方式、傾斜ワイヤー型短網方式、円網方式、又は長網・円網コンビネーション方式により形成できる。なお、二層以上を抄き合わせる場合には、一層構造のセパレータを製造できるように、同一の繊維配合からなる繊維ウエブを抄き合わせるのが好ましい。
【0046】
次いで、この繊維ウエブを構成する繊維同士を結合して、不織布を得ることができる。好ましくは繊維ウエブを構成する繊維同士を融着のみによって結合する。このように融着のみによって結合すると、繊維ウエブの空隙が乱れないため、電解液が均一に分布し、内部抵抗の低いアルカリ電池を製造できるアルカリ電池用セパレータを製造しやすい。この繊維ウエブを構成する繊維同士の融着は、コンベア等の支持体の下方から吸引して繊維ウエブを支持体と密着させた状態で、繊維ウエブに対して熱風を吹きつけ、十分な量の熱風を通過させる無圧下での熱処理であると、アルカリ電池用セパレータの厚さが厚い傾向があり、アルカリ電池用セパレータの電解液保持性が高く好適である。
【0047】
次いで、この不織布に対してスルホン化処理を実施し、本発明のアルカリ電池用セパレータを得る。このスルホン化処理としては、例えば、発煙硫酸、硫酸、クロロ硫酸又は塩化スルフリルなどからなる溶液中に前述のような不織布を浸漬する方法、一酸化硫黄ガス及び/又は二酸化硫黄ガスの存在下に前述のような不織布を配置して放電を作用させる方法、三酸化硫黄ガスに前述のような不織布を曝す方法、などを挙げることができる。これらいずれの方法においても、スルホン酸基を導入することができる。これらの方法の中でも、スルホン化処理により起こる、不織布に含まれるポリオレフィン系樹脂の酸化が抑制でき、スルホン酸基の導入量に対してカルボキシ基の導入量が少なく、機械的強度に優れたアルカリ電池用セパレータが実現できることから、発煙硫酸溶液中に不織布を浸漬させてスルホン化処理を実施するのが好ましい。
【0048】
また、発煙硫酸溶液に界面活性剤を含んでいると、発煙硫酸中に不織布を浸漬させてスルホン化処理する際に発煙硫酸中の三酸化硫黄ガスが液中で不織布と反応しやすく、スルホン化処理の進行が早い。これにより、ポリオレフィン系樹脂の酸化をより抑制しながらスルホン化処理でき、機械的強度に優れたアルカリ電池用セパレータを実現できることから好ましい。また、発煙硫酸溶液に含まれる界面活性剤は、公知の界面活性剤を用いることができ、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤であることができる。発煙硫酸溶液中における、界面活性剤の含有質量の百分率は、大きければ大きいほど発煙硫酸中の三酸化硫黄ガスが液中で不織布と反応しやすくなる一方、発煙硫酸溶液中に含まれる界面活性剤の割合が大きすぎると、発煙硫酸溶液が界面活性剤により泡立ちやすい傾向があり、スルホン化処理の効率が悪化するおそれがあることから、1~10mass%が好ましく、2~7mass%がより好ましく、3~5mass%が更に好ましい。
【0049】
なお、このスルホン化処理の条件(例えば、温度、反応時間など)を制御することにより、アルカリ電池用セパレータの、XPSを用いて測定して得られるC1sスペクトルを波形分離して得られる各ピーク(C-C、CO、COO)のピーク面積の合計に占める、COOのピーク面積の百分率、アルカリ電池用セパレータの炭素原子数(C)に対する硫黄原子数(S)の比(S/C)を調整することができる。また、このようなスルホン化処理は繊維ウエブ形成後に実施する必要はなく、繊維ウエブを形成する前の繊維に対して実施した後、繊維ウエブを形成しても良い。具体的なスルホン化処理における温度は、40~80℃が好ましく、50~70℃がより好ましく、55~65℃が更に好ましい。また、スルホン化処理における反応時間は、20秒~4分が好ましく、30秒~3分がより好ましく、1分~2分が更に好ましい。
【0050】
このようにして不織布にスルホン酸基を導入することができるが、スルホン酸基を導入した際に副反応物も生成されるため、この副反応物を硫酸、水、或いは希アルカリ溶液で洗浄して除去する。なお、スルホン化した後の不織布をいきなり水で洗浄すると、発熱してシートを損傷する場合があるため、順番に濃度の低い硫酸により洗浄し、最後に水で洗浄するのが好ましい。
【0051】
そして、水分などの残留液体のみを乾燥除去して、本発明のアルカリ電池用セパレータを得ることができる。つまり、残留液体を除去した後にも熱が加わると、アンモニアを吸着するスルホン酸基(-SO3H)が熱により変性及び分解してスルホン酸基量が減少し、スルホン酸基の減少により自己放電抑制作用に優れるセパレータを得ることができない。この残留液体のみを乾燥除去する方法は残留液体の種類、残留液体量などによって変化するため一概に論ずることはできないが、例えば、風乾する方法、加熱するにしても短時間(好ましくは6分以下、より好ましくは4分以下)で乾燥する方法、加熱するにしても低温(好ましくは105℃以下、より好ましくは100℃以下)で乾燥する方法、などを挙げることができる。
【実施例0052】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0053】
(実施例1)
芯成分がポリプロピレン(融点:168℃)からなり、鞘成分(融着成分)が高密度ポリエチレン(融点:135℃)からなる、引張り強さ4.5cN/dtex、繊度0.8dtex、繊維長5mmの芯鞘型複合融着繊維100mass%を分散させたスラリーを、傾斜ワイヤー型短網方式により抄造して繊維ウエブを形成した。
次いで、この繊維ウエブを温度140℃に設定されたオーブンに供給することにより、芯鞘型複合繊維の鞘成分を融着させて不織布を製造した。
次いで、この不織布を、濃度15%、温度60℃の発煙硫酸に1分30秒間浸漬させ、その後、濃度75%の硫酸、濃度50%の硫酸、及び水によって、順に発煙硫酸に浸漬させた不織布を洗浄し、不織布の構成繊維の表面を被覆している、芯鞘型複合繊維由来の高密度ポリエチレンにスルホン酸基を導入するスルホン化処理を行った。
そして、このスルホン化処理を行った不織布を、温度96℃に設定された熱ロールと3分間接触させて乾燥した。次いで、加圧ロール(常温)により厚さ調整を行って、アルカリ電池用セパレータ(目付:64g/m2、厚さ(147kPa荷重時):0.17mm)を製造した。
【0054】
(実施例2)
不織布をスルホン化処理する際に、発煙硫酸に浸漬させる時間を1分30秒から30秒に変更したことを除いては、実施例1と同様の方法で、アルカリ電池用セパレータ(目付:64g/m2、厚さ(147kPa荷重時):0.17mm)を製造した。
【0055】
(実施例3)
不織布をスルホン化処理する際に、発煙硫酸にポリオキシエチレンアルキルエーテル(非イオン性界面活性剤)を5mass%含んでいることを除いては、実施例1と同様の方法で、アルカリ電池用セパレータ(目付:64g/m2、厚さ(147kPa荷重時):0.18mm)を製造した。
【0056】
(実施例4)
不織布をスルホン化処理した後、熱ロールで乾燥させる際に、熱ロールの温度を96℃から110℃に変更したことを除いては、実施例1と同様の方法で、アルカリ電池用セパレータ(目付:64g/m2、厚さ(147kPa荷重時):0.17mm)を製造した。
【0057】
(比較例1)
不織布をスルホン化処理する際に浸漬させる発煙硫酸の濃度を15%から8%に変更し、また、発煙硫酸に浸漬させる時間を1分30秒から5分に変更したことを除いては、実施例1と同様の方法で、アルカリ電池用セパレータ(目付:64g/m2、厚さ(147kPa荷重時):0.17mm)を製造した。
【0058】
(比較例2)
実施例1と同じ不織布を、SO3ガスを16体積%、N2ガス(露点-60℃)を84体積%含有し、内部温度75℃の反応槽中に30秒間入れ、取り出した不織布を2.5質量%の水酸化ナトリウム水溶液で洗浄して中和し、その後イオン交換水で十分洗浄したことを除いては、実施例1と同様の方法で、アルカリ電池用セパレータ(目付:64g/m2、厚さ(147kPa荷重時):0.17mm)を製造した。
【0059】
実施例及び比較例のアルカリ電池用セパレータの物性は、表1に示す通りであった。なお、各種物性の評価は、以下の通りに行った。
【0060】
(アルカリ電池用セパレータの無荷重時の厚さ測定)
前述の方法で、アルカリ電池用セパレータの無荷重時の厚さを測定した。
【0061】
(アルカリ電池用セパレータのクッション性測定)
前述の方法で、アルカリ電池用セパレータのクッション性の値を求めた。
【0062】
(アルカリ電池用セパレータのXPS(X線光電子分光法)測定)
前述の方法で、アルカリ電池用セパレータのXPS(X線光電子分光法)測定を行い、C1sスペクトル及びS2p3/2スペクトルを得た。
また、得られたC1sスペクトルを、前述の方法で、得られた各ピーク(C-C、CO、COO)のピーク面積の合計に占める、COOのピーク面積の百分率(COO割合)を求めた。
更に、得られたS2p3/2スペクトルを、前述の方法で、得られた各ピーク(-SO3、-SO4)のピーク面積の合計に占める、-SO3のピーク面積の百分率(SO3割合)を求めた。
【0063】
(アルカリ電池用セパレータの(S/C)の測定)
前述の方法で、アルカリ電池用セパレータの炭素原子数(C)に対する硫黄原子数(S)の比(S/C)を測定した。
【0064】
(アルカリ電池用セパレータの引張り強度測定)
前述の方法で、アルカリ電池用セパレータの引張り強度を測定した。
【0065】
(アルカリ電池用セパレータの引張り伸度測定)
前述の方法で、アルカリ電池用セパレータの引張り伸度を測定した。
【0066】
(アルカリ電池用セパレータを組み込んだニッケル水素電池の容量維持率の測定)
(1)電極の集電体として、発泡ニッケル基材を用いたペースト式ニッケル正極(33mm、182mm長)と、ペースト式水素吸蔵合金負極(メッシュメタル系合金、33mm、247mm長)とを準備した。
(2)次いで、35mm幅、410mm長に裁断した実施例及び比較例のアルカリ電池用セパレータを、それぞれ正極と負極との間に挟み込み、渦巻き状に巻回して、SC型対応の電極群を作成した。
(3)この電極群を外装缶に収納した後、電解液として5mol/L-水酸化カリウム及び1mol/L-水酸化リチウムを外装缶に注液し、封緘して円筒型ニッケル-水素電池を作製した。
(4)次いで、それぞれの円筒型ニッケル-水素電池を、0.1Cで容量に対して150%充電した後、0.1Cで放電し、終止電圧が1.0Vでの初期容量(A)を測定した。次いで、0.1Cで容量に対して150%充電した後、温度65℃の恒温室内に5日間放置した。その後、再度、0.1Cで放電し、終止電圧が1.0Vでの容量(B)を測定した。
(5)これらの結果から、以下の式で、容量維持率(%)を算出した。
(式)=(B/A)×100
【0067】
【0068】
実施例と比較例の比較から、スルホン酸基を有するポリオレフィン系樹脂で表面が被覆されている繊維の表面を、XPS(X線光電子分光法)を用いて測定し、得られたC1sスペクトルを波形分離して得られる各ピーク(C-C、CO、COO)のピーク面積の合計に占める、COOのピーク面積の百分率が2.0%未満である本発明のアルカリ電池用セパレータは、スルホン酸基を有するポリオレフィン系樹脂で表面が被覆されている繊維に含まれるポリオレフィン系樹脂の酸化劣化が小さく、引張り強度が優れ、機械的強度に優れている。このことから、本発明のアルカリ電池用セパレータは、アルカリ電池に用いた際に、内部短絡が発生し難いアルカリ電池を実現できることが分かった。その上、本発明のアルカリ電池用セパレータは、スルホン酸基を有するポリオレフィン系樹脂で表面が被覆されている繊維に含まれるポリオレフィン系樹脂の酸化劣化が小さいことから、スルホン酸基を有するポリオレフィン系樹脂で表面が被覆されている繊維の弾性が高くアルカリ用電池セパレータのクッション性が優れ、アルカリ電池用セパレータがアルカリ電池の電極の膨張収縮に追従し、サイクル寿命の長いアルカリ電池を実現できることがわかった。
【0069】
また、実施例1と、実施例3の比較から、界面活性剤を含む発煙硫酸に不織布を浸漬させスルホン化処理した、実施例3のアルカリ電池用セパレータは、実施例1のアルカリ電池用セパレータと比較して(S/C)の値が同等にもかかわらず得られたC1sスペクトルを波形分離して得られる各ピーク(C-C、CO、COO)のピーク面積の合計に占める、COOのピーク面積の百分率が小さく、発煙硫酸に界面活性剤を含むことにより、ポリオレフィン系樹脂の酸化をより抑制しながらスルホン化処理できることがわかった。
【0070】
更に、実施例1~3と、実施例4の比較から、スルホン酸基を有するポリオレフィン系樹脂で表面が被覆されている繊維の表面を、XPS(X線光電子分光法)を用いて測定し、得られたS2p3/2スペクトルを波形分離して得られる各ピーク(-SO3、-SO4)のピーク面積の合計に占める、-SO3のピーク面積の百分率が50%以上であるアルカリ電池用セパレータは、多くのスルホン酸基を含んでおり、前記アルカリ電池用セパレータを組み込んだアルカリ電池の容量維持率が高い。このことから、実施例1及び2のアルカリ電池用セパレータは、アルカリ電池の自己放電抑制作用に優れていることがわかった。この差が発生した要因は、アルカリ電池用セパレータの製造時に、スルホン化処理後の乾燥温度の違いにより、実施例1~3のアルカリ電池用セパレータの方が、乾燥温度が低い分アルカリ電池用セパレータに含まれるスルホン酸基の熱変化が起こりにくかったものと考えられる。
本発明のアルカリ電池用セパレータは、アルカリ電解液を用いる一次電池や、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池、ニッケル亜鉛電池などのアルカリ二次電池のセパレータに好適に使用することができる。