IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日新電機株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-DC-DCコンバータ 図1
  • 特開-DC-DCコンバータ 図2
  • 特開-DC-DCコンバータ 図3
  • 特開-DC-DCコンバータ 図4
  • 特開-DC-DCコンバータ 図5
  • 特開-DC-DCコンバータ 図6
  • 特開-DC-DCコンバータ 図7
  • 特開-DC-DCコンバータ 図8
  • 特開-DC-DCコンバータ 図9
  • 特開-DC-DCコンバータ 図10
  • 特開-DC-DCコンバータ 図11
  • 特開-DC-DCコンバータ 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024164589
(43)【公開日】2024-11-27
(54)【発明の名称】DC-DCコンバータ
(51)【国際特許分類】
   H02M 3/28 20060101AFI20241120BHJP
【FI】
H02M3/28 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080186
(22)【出願日】2023-05-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003942
【氏名又は名称】日新電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】清水 健介
【テーマコード(参考)】
5H730
【Fターム(参考)】
5H730AA14
5H730BB27
5H730DD03
5H730EE04
5H730EE07
5H730EE57
5H730EE59
5H730FD01
5H730FD11
5H730FD31
(57)【要約】
【課題】低損失で様々な状況での送電を可能にすることを目的とする。
【解決手段】第1端子対(13)に接続されたブリッジ回路(10)と、第2端子対(23)に接続されたブリッジ回路(20)と、の間にトランス(Tr)を備えたDC-DCコンバータ(1)は、トランスについての換算電圧として表した第1端子対および第2端子対における端子間電圧のより大きくない方を第1電圧と称し、より小さくない方を第2電圧と称し、送電する電流、第1電圧および第2電圧に基づき、ブリッジ間位相差、第1レグ間位相差、および第2レグ間位相差を決定し、各スイッチング素子を制御する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のスイッチング素子を含み、第1端子対の間に2つのレグを有したブリッジ回路と、
複数のスイッチング素子を含み、第2端子対の間に2つのレグを有したブリッジ回路と、
トランスを有し、前記2つのブリッジ回路の間に接続される変換部と、
前記2つのブリッジ回路の各スイッチング素子のスイッチングを制御する制御部と、を備えたDC-DCコンバータであって、
前記制御部は、
前記トランスについての換算電圧として表した、前記第1端子対および前記第2端子対における端子間電圧のうち、より大きくない方の端子間電圧を第1電圧Vsmallと称し、より小さくない方の端子間電圧を第2電圧Vlargeと称したとき、
前記第1端子対側から前記第2端子対側へと送電する電力または電流に応じて、前記第1電圧側の前記ブリッジ回路における前記レグ間の位相差である第1レグ間位相差φL_largeを決定し、
前記第1レグ間位相差に、前記第1電圧の前記第2電圧に対する電圧比を乗じた値を、前記第2電圧側の前記ブリッジ回路におけるレグ間の位相差である第2レグ間位相差φL_smallとして決定し、
前記第1端子対の前記端子間電圧Vaと、前記第2端子対の前記端子間電圧Vbと、に基づいて、前記2つのブリッジ回路の間のブリッジ間位相差を決定し、
前記各スイッチング素子におけるデューティを一定として、決定した前記ブリッジ間位相差と前記第1レグ間位相差と前記第2レグ間位相差とに従って、前記各スイッチング素子のスイッチングを制御する、DC-DCコンバータ。
【請求項2】
前記制御部は、
前記ブリッジ間位相差は、前記第1端子対側の前記ブリッジ回路が前記第2端子対側の前記ブリッジ回路よりも進み位相の場合を正として、前記電圧比が大きくなるほど減少するように決定する、請求項1に記載のDC-DCコンバータ。
【請求項3】
前記制御部は、
前記第1電圧Vsmallと前記第2電圧Vlargeの差異と、予め定められた設定電圧と、の差の前記設定電圧に対する比率を算出し、
前記第1端子対の前記端子間電圧Vaを用いた所定の関数によって算出された値と、前記比率との積から、前記2つのブリッジ回路の間のブリッジ間位相差を算出し、
更に、前記第1端子対の前記端子間電圧Vaが前記第2端子対の前記端子間電圧Vbよりも大きい場合には、当該ブリッジ間位相差に対して、前記第1レグ間位相差φL_largeと前記第2レグ間位相差φL_smallとの差を減算することによって、前記ブリッジ間位相差を決定する、請求項1に記載のDC-DCコンバータ。
【請求項4】
前記設定電圧と、前記所定の関数とは、前記DC-DCコンバータを動作させたときの各スイッチング素子における損失と、前記トランスにおける損失の合計が最小になるように定められている、請求項3に記載のDC-DCコンバータ。
【請求項5】
前記所定の関数は、数式(1)である、請求項3に記載のDC-DCコンバータ。
【数1】
【請求項6】
前記制御部は、前記レグ間位相差を、前記第1端子対側から前記第2端子対側へと送電する電力または電流を参照したフィードバック制御により決定する、請求項1に記載のDC-DCコンバータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はDC-DCコンバータに関する。
【背景技術】
【0002】
直流電力の送電に、デュアルアクティブブリッジ方式(以下、DABと省略する)のDC-DCコンバータが広く用いられている。特許文献1には、ブリッジ回路を構成する各スイッチング素子にコンデンサを並列に接続することで、該コンデンサに循環電流を流すことによってZVS(Zero Volt Switching)する手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-005332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のような従来技術はコンデンサを必要とするために、装置の大型化につながる。また、大容量のコンバータになった場合に、大電流を吸収できるコンデンサが現実的に存在しない。
【0005】
さらに、循環電流を流してソフトスイッチングしているために、スイッチング損失を低減していても、導通損失が大きくなる。
【0006】
本発明の一態様は、低損失で様々な状況での送電を可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るDC-DCコンバータは、複数のスイッチング素子を含み、第1端子対の間に2つのレグを有したブリッジ回路と、複数のスイッチング素子を含み、第2端子対の間に2つのレグを有したブリッジ回路と、トランスを有し、前記2つのブリッジ回路の間に接続される変換部と、前記2つのブリッジ回路の各スイッチング素子のスイッチングを制御する制御部と、を備えたDC-DCコンバータであって、前記制御部は、前記トランスについての換算電圧として表した、前記第1端子対および前記第2端子対における端子間電圧のうち、より大きくない方の端子間電圧を第1電圧Vsmallと称し、より小さくない方の端子間電圧を第2電圧Vlargeと称したとき、前記第1端子対側から前記第2端子対側へと送電する電力または電流に応じて、前記第1電圧側の前記ブリッジ回路における前記レグ間の位相差である第1レグ間位相差φL_largeを決定し、前記第1レグ間位相差に、前記第1電圧の前記第2電圧に対する電圧比を乗じた値を、前記第2電圧側の前記ブリッジ回路におけるレグ間の位相差である第2レグ間位相差φL_smallとして決定し、前記第1端子対の前記端子間電圧Vaと、前記第2端子対の前記端子間電圧Vbと、に基づいて、前記2つのブリッジ回路の間のブリッジ間位相差を決定し、前記各スイッチング素子におけるデューティを一定として、決定した前記ブリッジ間位相差と前記第1レグ間位相差と前記第2レグ間位相差とに従って、前記各スイッチング素子のスイッチングを制御する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、低損失で様々な状況での送電を可能にできる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態に係るDC-DCコンバータの回路図である。
図2】制御部の動作を示すブロック図である。
図3】定格電圧動作における力行時のグラフである。
図4】定格電圧動作における回生時のグラフである。
図5】割合Vdiff_rateが0の場合の、昇圧動作における力行時のグラフである。
図6】割合Vdiff_rateが0の場合の、昇圧動作における回生時のグラフである。
図7】割合Vdiff_rateが0.5の場合の、昇圧動作における力行時のグラフである。
図8】割合Vdiff_rateが0.5の場合の、昇圧動作における回生時のグラフである。
図9】割合Vdiff_rateが0の場合の、降圧動作における力行時のグラフである。
図10】割合Vdiff_rateが0の場合の、降圧動作における回生時のグラフである。
図11】割合Vdiff_rateが0.5の場合の、降圧動作における力行時のグラフである。
図12】割合Vdiff_rateが0.5の場合の、降圧動作における回生時のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔実施形態〕
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。図1は、本実施形態に係るDC-DCコンバータ1の回路図である。DC-DCコンバータ1は、1次側ブリッジ回路10と、2次側ブリッジ回路20と、変換部30と、制御部40と、を備える。
【0011】
(DC-DCコンバータ1の構成)
1次側ブリッジ回路10は、第1端子対13に接続されている。第1端子対13の電圧、すなわち、端子13aから端子13bに向けた電圧は電圧V1である。なお、第1端子対13には、電源または負荷が接続されていてもよい。また、端子13bに流れ込む電流は電流I1である。
【0012】
2次側ブリッジ回路20は、第2端子対23に接続されている。第2端子対23の電圧、すなわち、端子23aから端子23bに向けた電圧は電圧V2である。なお、第2端子対23には、電源または負荷が接続されていてもよい。また、端子23bに流れ込む電流は電流I2である。
【0013】
なお、電圧V1、電圧V2、電流I1、および電流I2は、制御部40が取得する時間平均値であり、後述する制御に用いる。
【0014】
ここで、本明細書では、1次側ブリッジ回路10から2次側ブリッジ回路20へと電力が伝送されることを「力行」という表現を用い、2次側ブリッジ回路20から1次側ブリッジ回路10へと電力が伝送されることを「回生」という表現を用いる。また、1次側ブリッジ回路10側を「1次側」、2次側ブリッジ回路20側を「2次側」とも称する。「力行」は、出力電力Pout>0となる。「回生」は、出力電力Pout<0となる。
【0015】
1次側ブリッジ回路10は、4つのスイッチング素子S1~S4が設けられたフルブリッジ回路に、コンデンサ素子C1が並列に接続されている回路である。1次側ブリッジ回路10は、第1レグ11と、第2レグ12と、コンデンサ素子C1とにより構成されている。第1レグ11は、スイッチング素子S1とスイッチング素子S2とが直列に接続されて構成される。第2レグ12は、スイッチング素子S3とスイッチング素子S4とが直列に接続されて構成される。
【0016】
2次側ブリッジ回路20は、4つのスイッチング素子S5~S8が設けられたフルブリッジ回路に、コンデンサ素子C2が並列に接続されている回路である。2次側ブリッジ回路20は、第3レグ21と、第4レグ22と、コンデンサ素子C2とにより構成されている。第3レグ21は、スイッチング素子S5とスイッチング素子S6とが直列に接続されて構成される。第4レグ22は、スイッチング素子S7とスイッチング素子S8とが直列に接続されて構成される。
【0017】
スイッチング素子S1~S8はそれぞれMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)またはその他のFET(Field Effect Transistor)で構成できる。あるいは、スイッチング素子S1~S8は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、その他のトランジスタで構成されてもよい。
【0018】
変換部30は、巻線比nのトランスTrと、リアクトルLとを備え、1次側ブリッジ回路10と2次側ブリッジ回路20との間に接続される。図1の回路図においては、変換部30のインダクタンス成分が、1次側に設けられたリアクトルLとして等価的に表されている。
【0019】
ここで、リアクトルLは、スイッチング素子S1とスイッチング素子S2との接続点と、トランスTrの1次側の巻線の一端に接続されているようにあらわされている。また、トランスTrの1次側の巻線の他端は、スイッチング素子S3とスイッチング素子S4との接続点に接続されているようにあらわされている。
【0020】
ここでは、リアクトルLをトランスTrの1次側の巻線に接続するように記載したが、これに限定されない。また、リアクトルLはトランスTrに含まれないインダクタンスを含めて表すために記載してあり、つまり、現実のリアクトル素子は回路上に存在しなくても構わない。変換部30に現実の素子としてのリアクトル素子が設けられる場合には、リアクトル素子は、トランスTrの1次側に配置されても、2次側に配置されても、あるいは両方に配置されてもよい。
【0021】
リアクトルLは、トランスTrの漏れインダクタンスを含んでもよい。図1の回路図においては、トランスTrの2次側の巻線は、スイッチング素子S5とスイッチング素子S6との接続点およびスイッチング素子S7とスイッチング素子S8との接続点に接続されているように表されている。
【0022】
変換部30の1次側の電圧、すなわち、スイッチング素子S3とスイッチング素子S4との接続点から、スイッチング素子S1とスイッチング素子S2との接続点までの電圧を、1次側交流電圧Vac1とする。また、変換部30の1次側の電流、すなわち、変換部30と1次側ブリッジ回路10との間に流れる電流を、1次側交流電流Iac1とする。
【0023】
変換部30の2次側の電圧、すなわち、スイッチング素子S7とスイッチング素子S8との接続点から、スイッチング素子S5とスイッチング素子S6との接続点までの電圧を、2次側交流電圧Vac2とする。また、変換部30の2次側の電流、すなわち、変換部30と2次側ブリッジ回路20との間に流れる電流を、2次側交流電流Iac2とする。
【0024】
(ブロック図)
図2は、制御部40の動作を示すブロック図である。制御部40は、ブロック図に従って各スイッチング素子S1~S8を制御する。ブロック図では、各スイッチング素子同士の位相差を決定している。
【0025】
(第1レグ間位相差φL_large)
符号41において、目標電流Irefと、現在の出力電流Ioutとを比較する。なお、目標電流Irefおよび出力電流Ioutは、2次側ブリッジ回路20の電流I2の目標値と現在値であり、1次側から2次側への送電を正とする。つまり、符号41では出力電流Ioutの目標電流Irefに対する偏差を求めている。
【0026】
符号42において、該偏差に対してPI制御を行う。符号43において、PI制御を行った結果に対し、リミッタ回路を通し、PI制御の出力を所定の範囲に収めるようにしている。リミッタ回路を通した結果は、第1レグ間位相差φL_largeとなる。ここで、第1レグ間位相差φL_largeは第1電圧Vsmall側のブリッジ回路における2つのレグ間の位相差である。
【0027】
仮に、第1電圧Vsmallが1次側のブリッジ回路の場合、第1レグ間位相差φL_largeは、第1レグ11に対して第2レグ12が進んでいる場合が正である。仮に、第1電圧Vsmallが2次側のブリッジ回路の場合、第1レグ間位相差φL_largeは、第3レグ21に対して第4レグ22が進んでいる場合が正である。また、第1レグ間位相差φL_largeは、-π~πの範囲の値となる。
【0028】
(巻線比n、第1電圧Vsmallおよび第2電圧Vlarge)
トランスTrの巻線比nは、1次巻線の巻き数n1と2次巻線の巻き数n2とでもって、次のように表せる。
【0029】
【数1】
そのため、トランスTrについての1次側の換算電圧として表した、第1端子対13の電圧はV1であり、第2端子対23の電圧はnV2である(符号44)。符号45において、数2に示すように、これらの電圧の大小を比較して、電圧がより大きくない方をVsmallとし、電圧がより小さくない方をVlargeと呼称する。
【0030】
【数2】
(第2レグ間位相差φL_small)
符号46において、第1レグ間位相差φL_largeに、第1電圧Vsmallの第2電圧Vlargeに対する電圧比(Vsmall/Vlarge)を乗算することで、第2レグ間位相差φL_smallを求める。
【0031】
第2レグ間位相差φL_smallは、第2電圧Vlarge側のブリッジ回路における2つのレグ間の位相差である。仮に、第2電圧Vlargeが1次側のブリッジ回路の場合、第2レグ間位相差φL_smallは、第1レグ11に対して第2レグ12が進んでいる場合が正である。仮に、第2電圧Vlargeが2次側のブリッジ回路の場合、第2レグ間位相差φL_smallは、第3レグ21に対して第4レグ22が進んでいる場合が正である。また、第2レグ間位相差φL_smallは、-π~πの範囲の値となる。
【0032】
第1レグ間位相差φL_largeは、第1電圧Vsmall側のブリッジ回路の制御に用いられ、第2レグ間位相差φL_smallは、第2電圧Vlarge側のブリッジ回路の制御に用いられる。このため、第2レグ間位相差φL_smallは、φL_largeに基づき定まることになり、第1電圧Vsmall側のブリッジ回路と第2電圧Vlarge側のブリッジ回路との両側のブリッジ回路での1周期における出力電圧の時間積が等しくなるように制御される。これにより、両側の直流電圧が変動し、トランスTrの巻線比から逸脱した場合であっても、回路を還流する電流をゼロにして損失を低減することができる。
【0033】
(ブリッジ間位相差φB)
符号47において、第2電圧Vlargeと第1電圧Vsmallとの電圧差を求める。符号48において、予め定められた設定電圧Vdiffと、該電圧差との偏差を求める。符号49において、設定電圧に対する該偏差の割合を求める。つまり、符号47~49では、第1電圧Vsmallと第2電圧Vlargeとの電圧差が、設定電圧Vdiffに対してどの程度外れているかの割合(比)を求めている。この割合が0~1の範囲に収まるように、符号50のリミッタ回路にて、値を制限して割合Vdiff_rate(0≦Vdiff_rate≦1)を求める。
【0034】
符号51において、第1端子対13の電圧V1を用いて次式を計算する。なお、ここでは端子間電圧を1次側の換算電圧として表しているので、第1端子対13の電圧V1については換算電圧と実際の電圧とが一致する。
【数3】
また、符号52において、この値と、割合Vdiff_rateと、を乗算することによって、ブリッジ間位相差φBを算出する。ここで、ブリッジ間位相差φBは、1次側ブリッジ回路10と2次側ブリッジ回路20との位相差である。
【0035】
ブリッジ間位相差φBは、1次側交流電圧Vac1および2次側交流電圧Vac2に着目して、1次側交流電圧Vac1が、2次側交流電圧Vac2に対して進み位相の場合が正である。なお、ブリッジ間位相差φBは負の値をとることもあり、正の値の場合は力行となり、負の値の場合は回生となる。また、ブリッジ間位相差φBは、-π/2~π/2の範囲の値となる。
【0036】
なお、ブリッジ間位相差φBは、第1電圧Vsmallと第2電圧Vlargeの電圧比と巻線比とが平衡している場合に、最大値となる。電圧比が大きくなるほど、ブリッジ間位相差φBは減少し、電圧比が所定値以上であればブリッジ間位相差φBはゼロとなる。ブリッジ間位相差φBがゼロになる電圧比の所定値は、半導体損失および変圧器損失を考慮して、これらが最小になるように設計することが好ましい。
【0037】
また、ブリッジ間位相差φBの決定の仕方は上述した方法に制限されず、第1端子対13間の換算電圧V1と、第2端子対23間の換算電圧nV2と、に基づいて2つのブリッジ回路の間のブリッジ間位相差φBを決定すればよい。
【0038】
(降圧位相差φΔ)
次に、符号52において、第1レグ間位相差φL_largeから第2レグ間位相差φL_smallを引いた値を降圧位相差φΔとする。降圧位相差φΔは、第1端子対13の電圧V1が、第2端子対23の電圧nV2よりも大きい場合において、ブリッジ間位相差φBの絶対値を補正する値である。この場合におけるブリッジ間の位相差であるブリッジ間位相差φB’は、次式を用いる。
【数4】
【0039】
(出力電力Poutおよび交流電流ピーク値Iac_peak)
リアクトルLのインダクタンスをL、スイッチング周波数をfとした時、出力電力Poutと、交流電流ピーク値Iac_peakはそれぞれ次式で表せる。
【数5】
【0040】
【数6】
変圧器の損失を下げたい場合は、ブリッジ間位相差が大きくなるように、数3を調整し、レグ間位相差を小さくするなど調整することができる。この調整に関しては、鉄心材料および半導体特性に依存し変化する。
【0041】
(動作パターン)
以降は、図2に示すブロック図に基づき、制御をおこなったときの動作を詳細に説明する。動作としては、電力の送電方向と、1次側と2次側との電圧差と、の二種類の観点で区分することができる。
【0042】
電力の送電方向では、上述したように、1次側から2次側へと送電する場合を「力行」と称し、2次側から1次側へと送電する場合を「回生」と称する。また、1次側と2次側との電圧差では、大きく分けて3パターンあり、定格電圧動作、昇圧動作、および降圧動作がある。定格電圧動作は、1次側と2次側との換算電圧がほぼ釣り合っている状態である。昇圧動作は、1次側よりも2次側の電圧が大きい状態である。降圧動作は、1次側よりも2次側の電圧が小さい状態である。
【0043】
上述したブロック図では、電力の送電方向と、1次側と2次側との電圧差と、を合わせた合計6種類の動作パターンがあり、全て実行可能である。
【0044】
(定格電圧動作)
図3は、定格電圧動作における力行時のグラフである。図4は、定格電圧動作における回生時のグラフである。図3および図4では、スイッチング素子S1、S3、S5、およびS7のグラフに関して記載しているが、スイッチング素子S2、S4、S6、およびS8のグラフでは、それぞれスイッチング素子S1、S3、S5、およびS7に対して半周期遅れた波形となっている。また、各スイッチング素子S1~S8のグラフは、それぞれの素子に印加される電圧と、流れる電流とを記載している。
【0045】
図3に示す定格電圧動作における力行時では、スイッチング素子S3、S4、S5、S6がZCS(Zero Current Switching)可能であり、低損失である。図4に示す定格電圧動作における回生時では、スイッチング素子S3、S4、S5、S6がZCS可能であり、低損失である。
【0046】
(昇圧動作)
図5は、割合Vdiff_rateが0の場合の、昇圧動作における力行時のグラフである。図6は、割合Vdiff_rateが0の場合の、昇圧動作における回生時のグラフである。図7は、割合Vdiff_rateが0.5の場合の、昇圧動作における力行時のグラフである。図8は、割合Vdiff_rateが0.5の場合の、昇圧動作における回生時のグラフである。図5図8では、スイッチング素子S1、S3、S5、およびS7のグラフに関して記載しているが、スイッチング素子S2、S4、S6、およびS8のグラフでは、それぞれスイッチング素子S1、S3、S5、およびS7に対して半周期遅れた波形となっている。また、各スイッチング素子S1~S8のグラフは、それぞれの素子に印加される電圧と、流れる電流とを記載している。
【0047】
図5に示す、割合Vdiff_rateが0の場合の、昇圧動作における力行時では、スイッチング素子S1、S2、S3、S4、S5、S6がZCS可能であり、低損失である。図6に示す、割合Vdiff_rateが0の場合の、昇圧動作における回生時では、スイッチング素子S3、S4、S5、S6、S7、S8がZCS可能であり、低損失である。なお、図5および図6では、φBは0である。
【0048】
図7に示す、割合Vdiff_rateが0.5の場合の、昇圧動作における力行時では、スイッチング素子S3、S4、S5、S6がZCS可能であり、低損失である。図6に示す、割合Vdiff_rateが0.5の場合の、昇圧動作における回生時では、スイッチング素子S3、S4、S5、S6がZCS可能であり、低損失である。
【0049】
つまり、割合Vdiff_rateの値に応じて、ZCSできるスイッチング素子の数が変化する。設定電圧Vdiffに応じて、DC-DCコンバータ1の特性は大きく変わる。
【0050】
(降圧動作)
図9は、割合Vdiff_rateが0の場合の、降圧動作における力行時のグラフである。図10は、割合Vdiff_rateが0の場合の、降圧動作における回生時のグラフである。図11は、割合Vdiff_rateが0.5の場合の、降圧動作における力行時のグラフである。図12は、割合Vdiff_rateが0.5の場合の、降圧動作における回生時のグラフである。図9図12では、スイッチング素子S1、S3、S5、およびS7のグラフに関して記載しているが、スイッチング素子S2、S4、S6、およびS8のグラフでは、それぞれスイッチング素子S1、S3、S5、およびS7に対して半周期遅れた波形となっている。また、各スイッチング素子S1~S8のグラフは、それぞれの素子に印加される電圧と、流れる電流とを記載している。
【0051】
図9に示す、割合Vdiff_rateが0の場合の、降圧動作における力行時では、スイッチング素子S3、S4、S5、S6、S7、S8がZCS可能であり、低損失である。図10に示す、割合Vdiff_rateが0の場合の、降圧動作における回生時では、スイッチング素子S1、S2、S3、S4、S5、S6がZCS可能であり、低損失である。なお、図9および図10では、φBは0である。
【0052】
図11に示す、割合Vdiff_rateが0.5の場合の、降圧動作における力行時では、スイッチング素子S3、S4、S5、S6がZCS可能であり、低損失である。図12に示す、割合Vdiff_rateが0.5の場合の、降圧動作における回生時では、スイッチング素子S3、S4、S5、S6がZCS可能であり、低損失である。
【0053】
つまり、割合Vdiff_rateの値に応じて、ZCSできるスイッチング素子の数が変化する。設定電圧Vdiffに応じて、DC-DCコンバータ1の特性は大きく変わる。
【0054】
〔変形例〕
(仮想レグ)
上述したように、電力の送電方向と、1次側と2次側との電圧差と、に応じて動作パターンが決まり、それに応じてZCSできるスイッチング素子が決定する。すなわち、動作パターンに応じて決まったレグにおいて損失が発生することになる。
【0055】
損失は主に熱として発生するために、特定のレグでのみ損失が発生することは、特定のレグのみが大きく発熱することになり、熱設計の観点において好ましくない。そこで、熱損失を分散するために、仮想レグという概念を用いる。
【0056】
実施形態では、第1レグ間位相差φL_largeおよび第2レグ間位相差φL_smallは、直接的に各レグを制御したが、この変形例では間接的に各レグを制御する。第1レグ間位相差φL_largeおよび第2レグ間位相差φL_smallは、仮想レグを制御する。仮想レグは、各レグにそれぞれ対応して制御するが、所定の制御周期毎に制御するレグを変更する。
【0057】
ここで、第1レグ間位相差φL_largeが第1仮想レグと第2仮想レグとの位相差であり、第2レグ間位相差φL_smallが第3仮想レグと第4仮想レグとの位相差である事例を説明する。最初の制御周期では、第1仮想レグは第1レグ11を制御し、第2仮想レグは第2レグ12を制御し、第3仮想レグは第3レグ21を制御し、第4仮想レグは第4レグ22を制御する。次の制御周期では、第1仮想レグは第2レグ12を制御し、第2仮想レグは第1レグ11を制御し、第3仮想レグは第4レグ22を制御し、第4仮想レグは第3レグ21を制御する。
【0058】
このように、仮想レグが制御するレグを変化させることによって、各レグ11、12、21、および22で発生する損失は均質化することができる。そのため、熱損失も均質化されることになり、DC-DCコンバータ1全体で熱が均等に発生することになる。そのため、熱設計が容易になる。なお、上述した例では、隔周期ごとに仮想レグが制御するレグを入れ替えたが、これに限定されず、任意周期毎に仮想レグが制御するレグを入れ替えればよい。
【0059】
(蓄電池)
実施形態では、第1端子対13および第2端子対23には、電源または負荷が接続されているものとしたが、これに限定されない。例えば、蓄電池が接続されていてもよい。すなわち、直流の電気部品が接続されていればよい。
【0060】
(電力制御)
実施形態では、出力電流Ioutを目標電流Irefとなるようにフィードバック制御することによって、第1レグ間位相差φL_largeを決定したが、これに限定されない。例えば、出力電力を目標電力となるようにフィードバック制御することによって、第1レグ間位相差φL_largeを決定してもよい。
【0061】
〔まとめ〕
上記の課題を解決するために、本発明の態様1に係るDC-DCコンバータは、複数のスイッチング素子を含み、第1端子対の間に2つのレグを有したブリッジ回路と、複数のスイッチング素子を含み、第2端子対の間に2つのレグを有したブリッジ回路と、トランスを有し、前記2つのブリッジ回路の間に接続される変換部と、前記2つのブリッジ回路の各スイッチング素子のスイッチングを制御する制御部と、を備えたDC-DCコンバータであって、前記制御部は、前記トランスについての換算電圧として表した、前記第1端子対および前記第2端子対における端子間電圧のうち、より大きくない方の端子間電圧を第1電圧Vsmallと称し、より小さくない方の端子間電圧を第2電圧Vlargeと称したとき、前記第1端子対側から前記第2端子対側へと送電する電力または電流に応じて、前記第1電圧側の前記ブリッジ回路における前記レグ間の位相差である第1レグ間位相差φL_largeを決定し、前記第1レグ間位相差に、前記第1電圧の前記第2電圧に対する電圧比を乗じた値を、前記第2電圧側の前記ブリッジ回路におけるレグ間の位相差である第2レグ間位相差φL_smallとして決定し、前記第1端子対の前記端子間電圧Vaと、前記第2端子対の前記端子間電圧Vbと、に基づいて、前記2つのブリッジ回路の間のブリッジ間位相差を決定し、前記各スイッチング素子におけるデューティを一定として、決定した前記ブリッジ間位相差と前記第1レグ間位相差と前記第2レグ間位相差とに従って、前記各スイッチング素子のスイッチングを制御する。
【0062】
上記の構成によれば、力行・回生および定格電圧動作・昇圧動作・降圧動作の、どの動作パターンにおいても、少なくとも4個のスイッチング素子においてZCSが可能となりスイッチング損失を低減することができる。
【0063】
本発明の態様2に係るDC-DCコンバータは、前記態様1において、前記制御部は、前記ブリッジ間位相差は、前記第1端子対側の前記ブリッジ回路が前記第2端子対側の前記ブリッジ回路よりも進み位相の場合を正として、前記電圧比が大きくなるほど減少するように決定することができる。
【0064】
本発明の態様3に係るDC-DCコンバータは、前記態様1または2において、前記制御部は、前記第1電圧Vsmallと前記第2電圧Vlargeの差異と、予め定められた設定電圧と、の差の前記設定電圧に対する比率を算出し、前記第1端子対の前記端子間電圧Vaを用いた所定の関数によって算出された値と、前記比率との積から、前記2つのブリッジ回路の間のブリッジ間位相差を算出し、更に、前記第1端子対の前記端子間電圧Vaが前記第2端子対の前記端子間電圧Vbよりも大きい場合には、当該ブリッジ間位相差に対して、前記第1レグ間位相差φL_largeと前記第2レグ間位相差φL_smallとの差を減算することによって、前記ブリッジ間位相差を決定してもよい。
【0065】
本発明の態様4に係るDC-DCコンバータは、前記態様1から3のいずれかにおいて、前記設定電圧と、前記所定の関数とは、前記DC-DCコンバータを動作させたときの各スイッチング素子における損失と、前記トランスにおける損失の合計が最小になるように定められてもよい。
【0066】
本発明の態様5に係るDC-DCコンバータは、前記態様1から4のいずれかにおいて、前記所定の関数は、数式(3)であってもよい。ただし、V1=Vaとする。
【0067】
上記の構成によれば、変圧器の損失を下げられるように、ブリッジ間位相差を調整することができる。
【0068】
本発明の態様6に係るDC-DCコンバータは、前記態様1から5のいずれかにおいて、前記制御部は、前記レグ間位相差を、前記第1端子対側から前記第2端子対側へと送電する電力または電流を参照したフィードバック制御により決定してもよい。
【0069】
上記の構成によれば、電力または電流を適切に制御して、第1端子対側から第2端子対側へと送電することができる。なお、ここでは形式的に第1端子対側から第2端子対側へと送電と記載しているが、これは力行動作の場合であり、回生動作も可能である。
【0070】
〔付記事項〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0071】
1 DC-DCコンバータ
10 1次側ブリッジ回路
11 第1レグ
12 第2レグ
13 第1端子対
20 2次側ブリッジ回路
21 第3レグ
22 第4レグ
23 第2端子対
30 変換部
40 制御部
Tr トランス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12