IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社やまびこの特許一覧

<>
  • 特開-手持ち動力作業機 図1
  • 特開-手持ち動力作業機 図2
  • 特開-手持ち動力作業機 図3
  • 特開-手持ち動力作業機 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024164591
(43)【公開日】2024-11-27
(54)【発明の名称】手持ち動力作業機
(51)【国際特許分類】
   G01F 23/72 20060101AFI20241120BHJP
【FI】
G01F23/72
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080188
(22)【出願日】2023-05-15
(71)【出願人】
【識別番号】509264132
【氏名又は名称】株式会社やまびこ
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】弁理士法人エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梅谷 和弘
【テーマコード(参考)】
2F013
【Fターム(参考)】
2F013AA06
2F013AB01
2F013AB03
2F013BC01
2F013BC06
2F013CA30
2F013CB02
(57)【要約】
【課題】タンク内の油面を検出してエンジンの作動を抑制するに際して、手持ち動力作業機の作業時の傾斜姿勢を考慮して、正常な作業が可能であるにも拘わらずエンジンが停止してしまう状況を無くす。
【解決手段】手持ち動力作業機は、エンジンが搭載された本体とエンジンによって駆動される作業部とを備え、本体が、手持ち式のハンドル部を備える手持ち動力作業機であって、本体は、エンジンに給油を行うタンクを備え、タンク内部には、油面の高さに応じて上下動するフロートと、フロートの上下動を許容するガイド部材とが設けられ、タンク外部には、フロートの近接を検知してエンジンの作動を抑制するセンサ部が設けられ、ガイド部材は、フロートの降下時に、フロートがセンサ部に近づかないように、フロートの上下動をガイドし、手持ち動力作業機の姿勢が正立状態で且つ、フロートの位置が設定位置より降下した場合に、フロートをセンサ部に近づける。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンが搭載された本体と前記エンジンによって駆動される作業部とを備え、前記本体が、手持ち式のハンドル部を備える手持ち動力作業機であって、
前記本体は、前記エンジンに給油を行うタンクを備え、
前記タンク内部には、油面の高さに応じて上下動するフロートと、前記フロートの上下動を許容するガイド部材とが設けられ、
前記タンク外部には、前記フロートの近接を検知して前記エンジンの作動を抑制するセンサ部が設けられ、
前記ガイド部材は、前記フロートの降下時に、前記フロートが前記センサ部に近づかないように、前記フロートの上下動をガイドし、前記手持ち動力作業機の姿勢が正立状態で且つ、前記フロートの位置が設定位置より降下した場合に、前記フロートを前記センサ部に近づけることを特徴とする手持ち動力作業機。
【請求項2】
前記ガイド部材が、前記タンク内に設けられたガイドスロープであって、前記ガイドスロープの少なくとも一部が鉛直方向に対して傾斜又は湾曲している、請求項1記載の手持ち動力作業機。
【請求項3】
前記ガイド部材が、前記タンクの内壁から前記ガイドスロープ側に突出するガイド壁を有することを特徴とする請求項2記載の手持ち動力作業機。
【請求項4】
前記エンジンは、分離潤滑式エンジンであり、
前記本体には、前記タンクとしての潤滑油用タンクが燃料用タンクとは別に設けられていることを特徴とする請求項1記載の手持ち動力作業機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手持ち動力作業機に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンカッターなどの手持ち式の動力作業機は、エンジンが搭載されている本体に、手持ち作業用のハンドル部が設けられている。また、本体には、燃料や潤滑油を貯留するタンクが設けられている。特に、本体に搭載されるエンジンが分離潤滑式エンジンの場合、本体には、燃料用タンクと潤滑油用タンクがそれぞれ別に設けられている(下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-177867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
分離潤滑式エンジンが搭載された手持ち動力作業機は、燃料用タンクに燃料が溜まっていても潤滑油用タンク内の潤滑油が枯渇状態であると、潤滑不良の状態でエンジンが作動して、焼き付き等のエンジン不具合が生じる懸念がある。これを回避するには、潤滑油用タンクの油面を検知して油面が設定高さ以下になるとエンジンの作動を抑制するシステムの適用が考えられる。しかしながら、手持ち動力作業機は、作業状態では、潤滑油用タンクが正立状態に対して傾いた状態になるので、油面の検出位置が正立状態より高くなってしまい、潤滑油残量が相当量残っていて、正常な作業が可能であるにも拘わらず、エンジンが停止してしまう状況が生じる。
【0005】
このような問題は、混合油式エンジンの場合も同様に生じる。例えば、混合油が貯留されたタンクに、油面が設定高さ以下になるとエンジンの作動が抑制させるシステムを設ける。正立状態では、設定した混合油残量に相当する油面高さで正しくシステムが作動するが、手持ち動力作業機を傾けた状態で使用した場合には、混合油残量が相当量残っているにも拘わらず、システムが誤って作動し、エンジンが停止してしまう状況が生じる。
【0006】
本発明は、このような事情に対処するために提案されたものである。すなわち、分離潤滑式エンジンが搭載された手持ち動力作業機において、潤滑油用タンク内の潤滑油が枯渇した状態でエンジンが作動することによる不具合を解消すること、タンク内の油面を検出してエンジンの作動を抑制するに際して、手持ち動力作業機の作業時の傾斜姿勢を考慮して、正常な作業が可能であるにも拘わらずエンジンが停止してしまう状況を無くすこと、などが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような課題を解決するために、本発明は、以下の構成を具備するものである。
エンジンが搭載された本体と前記エンジンによって駆動される作業部とを備え、前記本体が、手持ち式のハンドル部を備える手持ち動力作業機であって、前記本体は、前記エンジンに給油を行うタンクを備え、前記タンク内部には、油面の高さに応じて上下動するフロートと、前記フロートの上下動を許容するガイド部材とが設けられ、前記タンク外部には、前記フロートの近接を検知して前記エンジンの作動を抑制するセンサ部が設けられ、前記ガイド部材は、前記フロートの降下時に、前記フロートが前記センサ部に近づかないように、前記フロートの上下動をガイドし、前記手持ち動力作業機の姿勢が正立状態で且つ、前記フロートの位置が設定位置より降下した場合に、前記フロートを前記センサ部に近づけることを特徴とする手持ち動力作業機。
【発明の効果】
【0008】
このような特徴によると、分離潤滑式エンジンが搭載された手持ち動力作業機において、潤滑油用タンク内の潤滑油が枯渇した状態でエンジンが作動することによる不具合を解消することができる。また、タンク内の油面を検出してエンジンの作動を抑制するに際して、手持ち動力作業機の作業時の傾斜姿勢を考慮して、正常な作業が可能であるにも拘わらずエンジンが停止してしまう状況を無くすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係る手持ち動力作業機の全体構成を示す説明図。
図2】手持ち動力作業機のタンクの内部を示す説明図(正立状態)。
図3】手持ち動力作業機のタンクの内部を示す説明図(作業状態)。
図4】手持ち動力作業機のタンクの内部を示す説明図(正立状態)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の説明で、異なる図における同一符号は同一機能の部位を示しており、各図における重複説明は適宜省略する。なお、図示矢印の「上」「下」「前」「後」は、「上」が鉛直方向上側、「下」が鉛直方向下側、「前」が作業機の前側、「後」が作業機の後ろ側を示している。
【0011】
ここでは、手持ち動力作業機1として、エンジンカッターを例に説明するが、本発明の実施形態に係る手持ち動力作業機1は、本体2がハンドル部を備えると共にエンジンへの給油用のタンクを備える各種作業機を対象とする。
【0012】
手持ち動力作業機1は、本体2と作業部4を備える。本体2は、エンジン10を備えている。エンジン10の駆動力は、本体2と作業部4の間に設けられるアーム3内のベルト伝動機構20を介して作業部4に伝達される。作業部4は、アーム3の先端側に接続され、ベルト伝動機構20を介して伝達された動力で回転駆動される切断刃5を備えている。
【0013】
本体2に装備されたエンジン10の出力軸は、周知のクラッチ機構を介して、ベルト伝動機構20における駆動プーリー21に接続されている。ベルト伝動機構20は、前述した駆動プーリー21と、アーム3の先端側に設けられる従動プーリー22と、これらに掛けまわされる無端ベルト23によって構成されている。従動プーリー22には、切断刃5の被駆動軸5Aが接続されており、エンジン10の動力が、ベルト伝動機構20を介して切断刃5に伝達される。
【0014】
本体2は、ハンドル部として、リアハンドル11とフロントハンドル12を備える。リアハンドル11は、本体2の手元側に設けられ、その内側にエンジン10の作動レバー13が装備されている。作動レバー13の一つは、スロットルレバーである。フロントハンドル12は、本体の先端側に設けられ、アーム3の長手方向に交差する方向に沿って架け渡されている。作業部4は、保護枠14を備えている。保護枠14は、切断刃5の略半周部分を覆いながら、アーム3の先端側に固定されている。アーム3には、駆動プーリー21に対して制動力を加えるブレーキ機構30が設けられている。
【0015】
そして、本体2には、エンジン10に給油を行うタンク40が設けられている。図示の例は、分離潤滑式エンジンを採用しており、図示のタンク40が潤滑油用タンクである。燃料用タンクは、本体2における紙面逆側に設けられている。タンク40には、キャップ41が設けられ、キャップ41を開けて、タンク40内に潤滑油を注入する。
【0016】
図2図4は、タンク40の構造を示している。タンク40内には、油面の高さに応じて上下動するフロート42が設けられている。フロート42は、タンク40内に貯留された潤滑油より低い比重を有しており、潤滑油の油面Tの位置に対応しながら移動し、タンク40内の潤滑油の量が徐々に少なくなると、タンク40内のフロート42の位置は徐々に降下する。
【0017】
フロート42は、側面下部にマグネット43を備えている。このマグネット43がフロート42の側面下部に一体的に取り付けられていることで、フロート42は、マグネット43の重量によって常にマグネット43が取り付けられた側を下向きにした姿勢で、タンク40内で油面の位置に応じて移動する。このため、タンク40が傾斜した場合にも、フロート42の向きが回転してしまうことはない。
【0018】
タンク40の外壁に接する部位には、フロート42に取り付けられたマグネット43が近接した場合にエンジン10の作動を抑制するセンサ部44が設けられている。センサ部44は、具体的にはマグネットスイッチであって、マグネット43が近接するとマグネット43の磁力によって接点が閉じるスイッチである。このセンサ部44は、エンジン10の点火装置をON/OFF切替するストップスイッチと並列に配置されており、マグネットスイッチの接点が閉じると、ストップスイッチの接点が開いてエンジン10の点火装置をOFFにする。
【0019】
図2は、手持ち動力作業機1の正立状態を示している。水平面に沿った油面Tが図示のようにタンク40内で高い位置に有ると、フロート42の下部に設置されたマグネット43は、タンク40の底部付近に設置されたセンサ部44から上下に離れた位置に有るため、センサ部44の接点はONのまま切り替わらない。よって、図2に示した状態では、エンジン10は作動できる状態にあり、エンジン10を作動させると、タンク40内に貯留された十分な量の潤滑油の供給を受けて、エンジン10は正常に作動する。
【0020】
手持ち動力作業機1の作業状態では、図3に示すように、本体2に設置されたタンク40は正立状態に対して傾斜した状態になる。そして、タンク40内の潤滑油が少なくなると、タンク40内での油面Tの位置は低い位置に下がり、フロート42の位置もそれに応じて降下する。この際、タンク40内のフロート42の動きは、ガイド部材50によって制限される。
【0021】
ガイド部材50は、内部にフロート42が収容されたガイドスロープ52を有している。ガイドスロープ52は、降下してきたフロート42をスロープに沿わせることで、フロート42とセンサ部44とが所定距離以上近接しないように誘導する傾斜面を備えている。
【0022】
ガイド部材50は、ガイドスロープ52単体で機能するが、図示の例では、より適正にエンジン10の作動を抑制するために、ガイド壁51を設けている。ガイド壁51は、センサ部44が取り付けられている位置よりやや上側からフロート42をセンサ部44から離す斜面を有する。ガイド壁51を設けると、ガイドスロープ52は、ガイド壁51と協働して、降下してきたフロート42を、一旦センサ部44に近づかないように誘導する。エンジン10が正常に作動できるにも拘わらず、センサ部44がエンジン10の作動を抑制してしまうことをより確実に防ぐためには、前述したガイドスロープ52とガイド壁51の両方を設けることが好ましい。
【0023】
図3に示すように、本体2に設置されたタンク40が傾斜している作業状態では、油面Tの位置は、未だ正常なエンジン10の作動が可能な潤滑油の残留状況であるにも拘らず、センサ部44よりも低い位置に下がってしまう。このような状態で、フロート42に設置されたマグネット43がセンサ部44に近接すると、エンジン10の作動が抑制されてしまうことになり、正常な作業の妨げになる。
【0024】
タンク40内にガイド部材50を設けると、降下してきたフロート42は、ガイドスロープ52に沿って一旦センサ部44から離れる方向に誘導されるので、図3に示すように、作業中にタンク40内の油面Tがセンサ部44より低い位置になったとしても、直ちにセンサ部44はマグネットスイッチが閉じたON状態にはならない。よって、センサ部44を有する油面Tの検出システムが、正常な作業の妨げになることはない。
【0025】
そして、ガイド部材50は、図4に示すように、手持ち動力作業機1の姿勢が正立状態で且つ、フロート42の位置が設定位置より降下した場合に、フロート42に設置されたマグネット43をセンサ部44に近づけるように誘導する。すなわち、ガイドスロープ52の設定位置より下側には、フロート42をセンサ部44に近接させることができる斜面が形成されており、フロート42がそこまで降下すると、フロート42はセンサ部44に近接することができる。
【0026】
図示例では、フロート42がガイド壁51の傾斜の頂部を超えた位置までに降下すると、図3に示すように、ガイドスロープ52の段部52Aに到達して受留め状態になる。その状態で手持ち動力作業機1の姿勢が正立状態になると、図4に示すように、フロート42は、ガイドスロープ52の傾斜面52Bに沿って移動し、センサ部44に近接する位置まで誘導される。これによって、センサ部44は、マグネットスイッチが閉じてON状態になり、並列して設けられた点火回路が開いてOFF状態になって、エンジン10の作動を抑制する。
【0027】
このような手持ち動力作業機1では、作業中は、センサ部44のマグネットスイッチがむやみに切り替わることが無いので、正常な作業を円滑に継続することができる。作業者は、作動音などでエンジン10の異常を感じた場合に、手持ち動力作業機1の姿勢を正立状態にすると、フロート42の位置が設定位置より降下していて潤滑油が枯渇状態になっていれば、センサ部44に、フロート42に設置されたマグネット43が近接して、マグネットスイッチが切り替わることになり、並列した点火スイッチがOFF状態になることでエンジン10の作動は抑制される。そして、この状態で再びエンジン10を作動させようとしても、エンジン10は作動できない状態になっている。タンク40に対して潤滑油が充填されて、フロート42の位置が上昇して、マグネット43がセンサ部44から離れると、エンジン10の作動が可能になる。
【0028】
本発明の実施形態によると、分離潤滑式のエンジン10が搭載された手持ち動力作業機1において、潤滑油用タンク(タンク40)内の潤滑油が枯渇した状態では、センサ部44によってエンジン10の作動を抑制することができるので、潤滑油が枯渇した状態でエンジン10が継続して作動することによる不具合を解消することができる。
【0029】
また、前述したタンク40の内部構造は、タンク40内の潤滑油が正常な作動が可能な状況で、センサ部44によって、エンジン10の作動が抑制される不具合を無くすることができる。よって、手持ち動力作業機1の作業時の傾斜姿勢を考慮して、正常な作業が可能であるにも拘わらずエンジン10が停止してしまう状況を無くすことができる。なお、上記の説明では、エンジン10が分離潤滑式である例を説明したが、前述したタンク40の内部構造は、混合油式エンジンの燃料タンクに採用することもできる。
【0030】
以上、本発明の実施の形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。また、上述の各実施の形態は、その目的及び構成等に特に矛盾や問題がない限り、互いの技術を流用して組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0031】
1:手持ち動力作業機,2:本体,3:アーム,4:作業部,
5:切断刃,5A:被駆動軸,
10:エンジン,11:リアハンドル,12:フロントハンドル,
13:作動レバー,14:保護枠,20:ベルト伝動機構,
21:駆動プーリー,22:従動プーリー,23:無端ベルト,
30:ブレーキ機構,
40:タンク,41:キャップ,42:フロート,
43:マグネット,44:センサ部,
50:ガイド部材,51:ガイド壁,
52:ガイドスロープ,52A:段部,52B:傾斜面,
T:油面
図1
図2
図3
図4