(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024164605
(43)【公開日】2024-11-27
(54)【発明の名称】車両用ベントダクト
(51)【国際特許分類】
B60H 1/26 20060101AFI20241120BHJP
【FI】
B60H1/26 611A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080212
(22)【出願日】2023-05-15
(71)【出願人】
【識別番号】000119232
【氏名又は名称】株式会社イノアックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100158067
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 基
(74)【代理人】
【識別番号】100147854
【弁理士】
【氏名又は名称】多賀 久直
(72)【発明者】
【氏名】杉江 信二
【テーマコード(参考)】
3L211
【Fターム(参考)】
3L211BA12
3L211BA13
3L211BA14
3L211DA17
(57)【要約】
【課題】開閉弁の開閉に伴う騒音の発生を抑える。
【解決手段】車両用ベントダクト10は、通気路14を有するダクト本体12と、通気路14を開閉する開閉弁16とを備えている。車両用ベントダクト10において、ダクト本体12は、開閉弁16を閉じ姿勢で支持する支持部を有している。そして、開閉弁16は、支持部に当接する部位に切れ目36を備えている。切れ目36は、開閉弁16において上下方向に延在しているとよい。また、切れ目36は、開閉弁16の外縁に達しないように設けるとよい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
通気路を有するダクト本体と、前記通気路を開閉する開閉弁とを備える車両用ベントダクトであって、
前記ダクト本体は、前記開閉弁を閉じ姿勢で支持する支持部を有し、
前記開閉弁は、前記支持部に当接する部位に切れ目を備える
ことを特徴とする車両用ベントダクト。
【請求項2】
前記切れ目は、前記開閉弁において上下方向に延在している請求項1に記載の車両用ベントダクト。
【請求項3】
前記切れ目は、前記開閉弁の外縁に達していない請求項1に記載の車両用ベントダクト。
【請求項4】
前記切れ目は、前記開閉弁における上下方向中央よりも下側領域に配置される請求項1に記載の車両用ベントダクト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両用ベントダクトに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両には、車室内の空気を換気するための排気口として、クォーターベントダクトと呼ばれるダクトが設けられている(例えば特許文献1参照)。クォーターベントダクトは、通気路を有する筒状のダクト本体と、ゴムなどの可撓性を有する材料で形成されて、通気路を開閉可能な開閉弁とを備えている。クォーターベントダクトは、ダクト本体を車体に形成された孔に嵌め合わせて、ダクト本体のフランジ部に設けられたシール部を車体に押し当てることで、シール部によって車体との間を封止するようになっている。開閉弁は、ダクト本体において通気路の上側を画成する上壁部に接合されて通気路に垂れ下がっており、車両内外の気圧差により、通気路を塞ぐ閉じ姿勢から車両外向きへのみ開くようになっている。そして、クォーターベントダクトは、開閉弁が車両外向きへ開放することで車室内からの空気の排出を許容する一方で、自重で閉じ姿勢となる開閉弁により車両外側から埃や水などが車室側へ入り込むのを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述したベントダクトは、開閉弁が開いてから閉じ姿勢に戻るとき、開閉弁がダクト本体に衝突して衝突音が発生することがある。
【0005】
本発明は、従来の技術に係る前記課題に鑑み、これらを好適に解決するべく提案されたものであって、騒音の発生を防止できる車両用ベントダクトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る車両用ベントダクトの第1態様は、
通気路を有するダクト本体と、前記通気路を開閉する開閉弁とを備える車両用ベントダクトであって、
前記ダクト本体は、前記開閉弁を閉じ姿勢で支持する支持部を有し、
前記開閉弁は、前記支持部に当接する部位に切れ目を備えることを要旨とする。
【0007】
本発明に係る車両用ベントダクトの第2態様は、前記第1態様において、
前記切れ目は、前記開閉弁において上下方向に延在していてもよい。
【0008】
本発明に係る車両用ベントダクトの第3態様は、前記第1態様又は前記第2態様において、
前記切れ目は、前記開閉弁の外縁に達していないようにしてもよい。
【0009】
本発明に係る車両用ベントダクトの第4態様は、前記第1態様、前記第2態様及び前記第3態様の何れか1つにおいて、
前記切れ目は、前記開閉弁における上下方向中央よりも下側領域に配置されていてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る車両用ベントダクトによれば、騒音の発生を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施例に係る車両用ベントダクトを示す斜視図である。
【
図2】実施例の車両用ベントダクトを示す正面図である。
【
図3】切れ目と支持部との関係を示す説明図であり、支持部を二点鎖線で示している。
【
図4】実施例の車両用ベントダクトを示す背面図である。
【
図5】実施例の車両用ベントダクトを示す縦断面図である。
【
図7】(a)は試験例1の開閉弁の一部を示す説明図であり、(b)は試験例2の開閉弁の一部を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明に係る車両用ベントダクトにつき、好適な実施例を挙げて、添付図面を参照して以下に説明する。なお、以下に説明する実施の形態及び図面は、本発明の実施形態の一部を例示するものであり、これらの構成に限定する目的に使用されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更することができる。
【実施例0013】
図1~
図4に示すように、実施例に係る車両用ベントダクト10は、通気路14を有するダクト本体12と、通気路14を開閉する開閉弁16とを備えている。
図5に示すように、車両用ベントダクト10は、車体50に形成された取付口50aに嵌め合わせて取り付けられる。車両用ベントダクト10は、リアバンパーなどの車両外装部材(図示せず)によって外側が覆われて、車両外側から隠されている。車両用ベントダクト10は、通気路14の上流側が車体50の内側に設けられた車室側空間に繋がり、通気路14の下流側が車両外側に通じており、車室の空気を、通気路14を通じて車両外側に排出可能である。
【0014】
なお、以下の説明では、通気路14において車両外側に通じる側を通気外側といい、通気路14において車室側に通じる側を通気内側という。また、車両上下方向と交差する水平方向が、車両用ベントダクト10の横方向になる。また、通気路14は、車室側を上流といい、車両外側を下流という場合がある。
【0015】
図1に示すように、実施例のダクト本体12は、上下左右の壁部18,20,22,22によって横長略矩形の開口形状の通気路14を形成する筒形である。また、ダクト本体12は、上壁部18と下壁部20との間に延在する板状の支持部26を複数有している(
図3及び
図4参照)。複数の支持部26は、横方向に離して配置されて、通気路14を横方向に区切っている。ダクト本体12は、横壁部22,22、下壁部20および支持部26の通気外側に臨む面によって形成された受け面12aを有している。この受け面12aは、下方に向かうにつれて通気外側へ傾斜して閉じ姿勢の開閉弁16を受け止める(
図5参照)。なお、ダクト本体12は、特に限定するものではないが、例えばポリプロピレン(PP)やポリエチレン(PE)等のオレフィン系樹脂などの熱可塑性樹脂で構成された硬質の樹脂成形品を用いることができる。
【0016】
図1に示すように、ダクト本体12は、各壁部18,20,22,22の通気外側の縁から延出する板状のフランジ部28を有している。フランジ部28は、ダクト本体12の外周全周に亘って形成されている。
図4及び
図5に示すように、ダクト本体12は、車体50に当接してフランジ部28との間をシールするシール部30を備えている。シール部30は、例えば、ポリウレタンフォームなどの発泡体や、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)などのエラストマーや、エチレン-プロピレン-ジエンゴム等のゴムなどの弾力性や柔軟性を有するものを用いるとよい。シール部30は、断面矩形状などの形状であってもよいが、実施例のシール部30は、フランジ部28側の根元から先端に向かうにつれて薄くなる板形状である。
【0017】
図4及び
図5に示すように、ダクト本体12は、フランジ部28よりも通気内側に配置された車体係止部32を有している。実施例の車体係止部32は、上壁部18及び下壁部20に設けられ、ダクト本体12の外面から突出した後に通気外側に向けて屈曲する鉤形状に形成されている。車体係止部32は、ダクト本体12を取付口50aに嵌めた際に、車体50に引っ掛かる。
図4及び
図5に示すように、ダクト本体12は、ダクト本体12の外面から突出する板状の車体当接部34を備えている。実施例の車体当接部34は、上壁部18及び下壁部20に設けられている。ダクト本体12を取付口50aに挿入した際に、車体当接部34が取付口50aに嵌まる。
【0018】
開閉弁16は、薄い板状体であって、オレフィン系エラストマー(TPO)やスチレン系エラストマー等のエラストマー、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)等のゴム系材料など、可撓性を有する材料で構成されている。また、開閉弁16は、曲げた状態から戻ろうとする弾性を有している。
図5に示すように、開閉弁16の上端部は、ダクト本体12における上壁部18の端部から下方へ張り出した弁取付部18aに固定されている。開閉弁16は、上端部がダクト本体12に固定されているだけで、弁取付部18aから通気路14に吊り下がる本体部分に、閉じ姿勢に向けて自重が作用するようになっている。
【0019】
開閉弁16は、通気路14に吊り下がり、自重による開閉弁16の通気内側への変位がダクト本体12の前述した支持部26を含む受け面12aで規制されて、通気路14を塞ぐ閉じ姿勢になる(
図5実線参照)。車両用ベントダクト10は、自重で閉じ姿勢となった開閉弁16によって、通気路14を塞いで通気外側からの埃や水などの異物の侵入を防止する。また、車両用ベントダクト10は、ドアを閉じたときなどの車室内外の気圧差により開閉弁16が通気外側へ変位することで通気路14を開放し、車室側から外へ向けた空気の流通を許容する(
図5二点鎖線参照)。
【0020】
図3及び
図5に示すように、開閉弁16は、支持部26に当接する部位に切れ目36を備えている。切れ目36は、開閉弁16を厚み方向に貫通している(
図5参照)。また、切れ目36は、切れ目36における横方向の開口縁の間に若干の隙間があるスリット形状であってもよいが、切れ目36における横方向の開口縁同士が当接する閉じた形状である方が、開閉弁16を円滑に開閉できることから好ましい。車両用ベントダクト10は、開閉弁16における支持部26に当接する部位に切れ目36を有しているので、開いた状態から閉じる開閉弁16が支持部26に衝突するとき、切れ目36によって衝突振動を緩和したり、衝突振動をずらしたりすることができる。これにより、開閉弁16と支持部26との衝突に起因する衝突音を抑えることができる。また、開閉弁16が切れ目36を有していることで、衝突音が甲高い音から鈍い音になり、衝突音の質を耳障りよくできる。従って、車両用ベントダクト10によれば、開閉弁16の開閉に伴う騒音の発生を防止できる。
【0021】
図1~
図3に示すように、実施例の車両用ベントダクト10は、切れ目36が開閉弁16において上下方向に延在している。開閉弁16には、上下方向へ伸ばすように空気圧が加わることから、切れ目36が上下方向に延在していることで、空気圧が加わった場合も切れ目36が開き難い。すなわち、切れ目36が上下方向に延在していることで、空気圧によって開閉弁16を開き易くできると共に、切れ目36を起点とする開閉弁16の破損を防止できる。なお、切れ目36は、左右方向(横方向)に延在する形態でもよい。特にダクト本体12が左右方向(横方向)に延びる横支持部を有する場合、開閉弁16における横支持部に当接する部位に左右方向(横方向)に延在する切れ目36を設けてもよい。左右方向(横方向)に延在する切れ目36は、上下方向(縦方向)に延在する切れ目36より開閉弁16の自重や空気圧によって切れ目36が開き易いため、上下方向(縦方向)に延在する切れ目36のみ設ける方が開閉弁16を円滑に開閉できる点で好ましい。
【0022】
図1~
図3に示すように、切れ目36は、開閉弁16の外縁に達していない。開閉弁16は、開閉弁16の外縁と切れ目36との間に、切れ目36の未加工部分を有しており、切れ目36が開閉弁16の外縁から離して配置される。開閉弁16の外縁と切れ目36との離間寸法S(
図6参照)は、特に限定するものではないが、1mm以上に設定することが好ましい。このように、切れ目36が開閉弁16の外縁に達していないことで、切れ目36を起点とする開閉弁16の破損を防止できる。
【0023】
図3に示すように、実施例の開閉弁16において、複数の切れ目36が、1つの支持部26に沿って、ミシン目状に一列に配置されている。ここで、1つの切れ目列を構成する上下に隣り合う切れ目36の間隔が、各切れ目36の上下長さよりも小さいと、開いた状態から閉じる開閉弁16と支持部26との衝突による衝突音の発生を効果的に抑えることができる。開閉弁16には、横方向に間隔をあけて配置された複数の支持部26に対応して、支持部26が延びる上下方向に沿って直線状に並ぶ複数の切れ目36からなる切れ目列が複数設けられている(
図3参照)。切れ目36は、全ての支持部26に対応して設けてもよいが、実施例の開閉弁16は、通気路14の横方向に配置された複数の支持部26のうち、通気路14の左右方向中央部に位置する支持部26に対応して切れ目36を設ける一方で、通気路14の横方向にて最も外側に位置する支持部26に対応する部位に切れ目36を形成していない。実施例の開閉弁16のように、左右方向外側の領域に切れ目36を形成しないことで、開閉弁16における左右方向外側の縁が捲れるなどの変形を防止できる。
【0024】
図1~
図3に示すように、切れ目36は、開閉弁16における上下方向中央よりも下側領域に配置されている。開閉弁16の下側領域の方が上側領域よりも、支持部26との衝突力が大きいことから、切れ目36の形成による強度低下の影響を抑えつつ、開いた状態から閉じる開閉弁16と支持部26との衝突による衝突音の発生をより効果的に抑えることができる。また、切れ目36又は切れ目列の加工寸法W(
図6参照)は、特に限定するものではないが、開閉弁16の上下寸法Hの1/3~1/2の範囲に設定することが好ましい。このようにすることで、開いた状態から閉じる開閉弁16と支持部26との衝突による衝突音の発生をより効果的に抑えることができる。
【0025】
シートから開閉弁16をトムソン型等で打ち抜き加工する時に併せて、シートに切れ込みを入れることで、切れ目36を簡単に形成することができる。このように、開閉弁16に切れ目36を形成することに伴う製造の手間やコストの上昇を抑えて、車両用ベントダクト10の騒音対策を簡単に実行できる。また、複数枚のシートを重ね合わせて開閉弁16を打ち抜き加工した場合、切れ目36の形成によりシートの間に入った空気によって、重なったシートがずらし易くなり、開閉弁16の生産性を向上できる。
【0026】
(試験例)
切れ目の有無による衝突音の低減効果を確認した。試験例1~3の開閉弁は、0.5mm厚のEPDM製シートである。試験例1~3の開閉弁は、外形(左右寸法:200mm、上下寸法:58mm)が同じであり、同じ構成のダクト本体に上部を取り付けている。試験例1の開閉弁には、ダクト本体の支持部に当接する部位に、上下長2mmの切れ目が1mm間隔をあけて、上下方向に10個並べて形成されている(
図7(a)参照)。試験例1の開閉弁には、側縁から25mmの位置に切れ目の列が形成されて、隣り合う切れ目の列のピッチが、30mmに設定されている。また、試験例1は、複数の切れ目が開閉弁の下側領域に配置されている。試験例2の開閉弁には、左右長2mmの切れ目が2mm間隔をあけて、上下方向に14個並べて形成されている(
図7(b)参照)。試験例2の開閉弁には、側縁から25mmの位置に切れ目の列が形成されて、隣り合う切れ目の列のピッチが、30mmに設定されている。また、試験例2は、複数の切れ目が開閉弁の下側領域に配置されている。なお、この試験例1及び試験例2の切れ目は、閉じた形態である。試験例3の開閉弁には、切れ目が形成されていない。
【0027】
試験例1~3のそれぞれについて、開閉弁が開き姿勢から自重で閉じ姿勢に戻ったときの衝突音を騒音計で5回ずつ測定し、平均値を求めた。測定は、騒音計(リオン株式会社製;型式NL-26)を使用し、閉じ姿勢の開閉弁の下端から100mm離れた位置の騒音を計った(
図8参照)。その結果、試験例1は平均66dBであり、試験例2は平均68dBであり、試験例3は69dBであった。このように、切れ目を設けた試験例1及び試験例2は、切れ目がない試験例3よりも衝突音が小さくなることが判った。また、切れ目を設けた試験例1及び試験例2は、切れ目がない試験例3よりも鈍い音に変化している。特に、試験例1のように切れ目を上下方向に設けることで、切れ目を横方向に設ける試験例2よりも騒音低減効果が高いことが判る。