(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024164606
(43)【公開日】2024-11-27
(54)【発明の名称】信号検証方法、受信機、コンピュータプログラム、及び位置指紋の生成方法
(51)【国際特許分類】
G01S 19/21 20100101AFI20241120BHJP
【FI】
G01S19/21
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080213
(22)【出願日】2023-05-15
(71)【出願人】
【識別番号】593006630
【氏名又は名称】学校法人立命館
(74)【代理人】
【識別番号】100111567
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 寛
(72)【発明者】
【氏名】熊木 武志
(72)【発明者】
【氏名】小林 正明
(72)【発明者】
【氏名】神谷 英寿
【テーマコード(参考)】
5J062
【Fターム(参考)】
5J062AA11
(57)【要約】
【課題】新規な位置指紋及びそれを使用した信号検証に関する技術を提供する。
【解決手段】開示の方法は、測位のための信号を送信する複数の送信機から送信された複数の到来信号を受信し、前記複数の到来信号間に生じたドップラー周波数差を求め、前記ドップラー周波数差に基づいて、前記複数の到来信号を検証する、ことを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測位のための信号を送信する複数の送信機から送信された複数の到来信号を受信し、
前記複数の到来信号間に生じたドップラー周波数差を求め、
前記ドップラー周波数差に基づいて、前記複数の到来信号を検証する、
ことを含む、信号検証方法。
【請求項2】
前記複数の送信機は、複数の測位衛星である
請求項1に記載の信号検証方法。
【請求項3】
前記複数の到来信号を検証することは、前記ドップラー周波数差と、前記ドップラー周波数差と比較される比較値と、を比較することで、前記複数の到来信号の真偽を判定することを含む
請求項1又は請求項2に記載の信号検証方法。
【請求項4】
前記複数の到来信号を検証することは、前記ドップラー周波数差と、推定ドップラー周波数差と、に基づいて、前記複数の到来信号を検証することを含み、
前記推定ドップラー周波数差は、前記到来信号を受信した受信機の位置、前記複数の送信機の位置、及び、前記複数の送信機それぞれと前記受信機との相対運動ベクトルに基づいて、演算される
請求項1又は請求項2に記載の信号検証方法。
【請求項5】
前記受信機の位置は、前記到来信号に含まれる送信時刻データに基づいて求められる
請求項4に記載の信号検証方法。
【請求項6】
前記複数の送信機の位置は、前記複数の到来信号それぞれに含まれる送信機位置データに基づいて求められる
請求項4に記載の信号検証方法。
【請求項7】
前記相対運動ベクトルは、前記送信機の軌道データに基づいて求められる
請求項4に記載の信号検証方法。
【請求項8】
測位のための信号を送信する複数の送信機から送信された複数の到来信号間に生じたドップラー周波数差を求め、
前記ドップラー周波数差に基づいて、前記複数の到来信号を検証する、
ことを含む処理を実行するプロセッサを備える、
受信機。
【請求項9】
測位のための信号を送信する複数の送信機から送信された複数の到来信号間に生じたドップラー周波数差を求め、
前記ドップラー周波数差に基づいて、前記複数の到来信号を検証する、
ことを含む処理をプロセッサに実行させるコンピュータプログラム。
【請求項10】
測位のための信号を送信する複数の送信機それぞれから送信された複数の到来信号を受信し、前記複数の到来信号間のドップラー周波数差を、前記複数の到来信号の特徴量である位置指紋として求める、
ことを含む、位置指紋の生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、信号検証方法、受信機、コンピュータプログラム、及び位置指紋の生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、ジャミングおよび妨害からグローバル位置決定システム(GPS)受信機を保護するシステムを開示している。特許文献1のシステムは、アレイアンテナによって、ジャミング信号到来方向のアンテナ利得を低下させる。
【0003】
特許文献2は、妨害波発生装置から放射される妨害波の影響を受けないようにするGPS妨害波抑制装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2005-527789号公報
【特許文献2】特開2007-232688号公報
【発明の概要】
【0005】
特許文献1のように、ジャミング信号到来方向のアンテナ利得を低下させるには、アレイアンテナが必要である。しかし、アレイアンテナを備えていない受信機は、アレイアンテナを必要とする技術を利用することができない。
【0006】
さて、受信した信号の検証のため、位置指紋を利用することが考えられる。位置指紋は、例えば、マルチパス伝搬に起因する信号波形の歪である。マルチパス伝搬に起因する信号波形の歪は、送信位置に固有のものである。
【0007】
位置指紋は、送信位置に固有であるため、送信位置の検証などの信号検証などに利用することができる。送信位置の検証は、例えば、信号が、正規の位置に設置された真の送信機からではなく、偽の装置(妨害装置)から送信されたことを識別するために行われ得る。
【0008】
本発明者らは、マルチパス伝搬に起因する信号波形の歪とは異なる、新規な位置指紋の方式を見出した。本開示は、新規な位置指紋及びそれを使用した信号検証に関する技術を提供する。
【0009】
本開示のある側面は、信号検証方法である。開示の方法は、測位のための信号を送信する複数の送信機から送信された複数の到来信号を受信し、前記複数の到来信号間に生じたドップラー周波数差を求め、前記ドップラー周波数差に基づいて、前記複数の到来信号を検証する、ことを含む。
【0010】
本開示の他の側面は、受信機である。開示の受信機は、測位のための信号を送信する複数の送信機から送信された複数の到来信号間に生じたドップラー周波数差を求め、前記ドップラー周波数差に基づいて、前記複数の到来信号を検証する、ことを含む処理を実行するプロセッサを備える。
【0011】
本開示の他の側面は、コンピュータプログラムである。開示のコンピュータプログラムは、測位のための信号を送信する複数の送信機から送信された複数の到来信号間に生じたドップラー周波数差を求め、前記ドップラー周波数差に基づいて、前記複数の到来信号を検証する、ことを含む処理をプロセッサに実行させる。
【0012】
本開示の他の側面は、新規な位置指紋の生成方法である。開示の方法は、測位のための信号を送信する複数の送信機それぞれから送信された複数の到来信号を受信し、前記複数の到来信号間のドップラー周波数差を、前記複数の到来信号の特徴量である位置指紋として求める、ことを含む。
【0013】
更なる詳細は、後述の実施形態として説明される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図4】
図4は、受信機の処理の手順を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、信号検証処理の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<1.信号検証方法、受信機、コンピュータプログラム及び位置指紋の生成方法の概要>
【0016】
(1)実施形態に係る方法は、測位のための信号を送信する複数の送信機から送信された複数の到来信号を受信し、前記複数の到来信号間に生じたドップラー周波数差を求め、前記ドップラー周波数差に基づいて、前記複数の到来信号を検証する、ことを含む。複数の到来信号間に生じたドップラー周波数差は、到来信号の受信位置との関係において、複数の到来信号の組に特有のものである。したがって、複数の到来信号間に生じたドップラー周波数差は、到来信号の受信位置との関係において、複数の到来信号の組の特徴量である。当該ドップラー周波数差は、新規な位置指紋である。以下では、位置指紋としてのドップラー周波数差を「拡張位置指紋」ということがある。
【0017】
(2)前記複数の送信機は、複数の測位衛星であり得る。この場合、測位衛星からの信号を検証することができる。
【0018】
(3)前記複数の到来信号を検証することは、前記ドップラー周波数差と、前記ドップラー周波数差と比較される比較値と、を比較することで、前記複数の到来信号の真偽を判定することを含み得る。この場合、到来信号の真偽を容易に判定できる。
【0019】
(4)前記複数の到来信号を検証することは、前記ドップラー周波数差と、推定ドップラー周波数差と、に基づいて、前記複数の到来信号を検証することを含み得る。前記推定ドップラー周波数差は、前記到来信号を受信した受信機の位置、前記複数の送信機の位置、及び、前記複数の送信機それぞれと前記受信機との相対運動ベクトルに基づいて、演算され得る。この場合、推定ドップラー周波数差を用いて、ドップラー周波数差に基づく信号検証を実施できる。
【0020】
(5)前記受信機の位置は、前記到来信号に含まれる送信時刻データに基づいて求められる得る。
【0021】
(6)前記複数の送信機の位置は、前記複数の到来信号それぞれに含まれる送信機位置データに基づいて求められ得る。
【0022】
(7)前記相対運動ベクトルは、前記送信機の軌道データに基づいて求められ得る。
【0023】
(8)実施形態に係る受信機は、測位のための信号を送信する複数の送信機から送信された複数の到来信号間に生じたドップラー周波数差を求め、前記ドップラー周波数差に基づいて、前記複数の到来信号を検証する、ことを含む処理を実行するプロセッサを備え得る。
【0024】
(9)実施形態に係るコンピュータプログラムは、測位のための信号を送信する複数の送信機から送信された複数の到来信号間に生じたドップラー周波数差を求め、前記ドップラー周波数差に基づいて、前記複数の到来信号を検証する、ことを含む処理をプロセッサに実行させ得る。実施形態に係るコンピュータプログラムは、コンピュータ読取り可能である非一時的な記録媒体に記録され得る。
【0025】
(10)実施形態に係る方法は、測位のための信号を送信する複数の送信機それぞれから送信された複数の到来信号を受信し、前記複数の到来信号間のドップラー周波数差を、前記複数の到来信号の特徴量である位置指紋として求める、ことを含む、位置指紋の生成方法であり得る。
【0026】
<2.信号検証方法、受信機、コンピュータプログラム及び位置指紋の生成方法の例>
【0027】
図1は、実施形態に係る受信機10を含む測位システムの例を示している。受信機10は、測位のための信号T1,T2,T3を受信し、受信機10の位置を求める装置である。受信機は、一例として、衛星測位システムの受信機であり得る。衛星測位システムは、例えば、Global Navigation Satellite System(GNSS)又はRegional Navigation Satellite System(RNSS)である。GNSSは、一例として、グローバル・ポジショニング・システム(GPS)であり得る。
【0028】
衛星測位システムは、測位衛星である複数の衛星G1,G2,G2を備える。なお、
図1においては、衛星G1,G2,G3は3つしか示されていないが、衛星測位システムにおいては、より多くの衛星が利用され得る。
【0029】
衛星G1,G2,G3は、測位のための信号を送信する送信機の一例である。衛星G1,G2,G3は、測位のための信号T1,T2,T3(以下、「測位信号」ということがある)を送信する。測位信号T1,T2,T3は、信号T1,T2,T3を送信した衛星G1,G2,G3(送信機)の位置LG1,LG2,LG3(送信位置)及び信号送信時刻などのデータ(送信データ)を含む。なお、複数の測位信号は同一周波数の信号でよい。
【0030】
送信機が衛星G1,G2,G3の場合、送信機の位置及び信号送信時刻などを含むデータは、航法メッセージと呼ばれる。航法メッセージは、衛星の軌道情報を含み得る。軌道情報は、信号を送信した衛星の軌道情報及び信号を送信した衛星以外の衛星の軌道情報のいずれか一方又は両方であり得る。なお、受信機10は、G1,G2,G3の軌道情報又は運動ベクトルV1,V2,V3を、インターネットなどの通信ネットワーク経由で取得してもよい。
【0031】
受信機10は、取得した軌道情報に基づいて、衛星G1,G2,G3それぞれの運動ベクトルV1,V2,V3を把握することができる。運動ベクトルV1,V2,V3は、信号T1,T2,T3を送信した衛星G1,G2,G3の移動方向及び速度を示し得る。また、受信機10は、運動ベクトルV1,V2,V3(送受信機間の相対運動ベクトル)を、受信した測位信号T1,T2,T3に基づいて求めてもよい。受信機10が、衛星G1,G2,G3の運動ベクトルV1,V2,V3を求める方法としては、その他の様々な公知手法を採用し得る。
【0032】
受信機10が静止している場合、衛星G1,G2,G3の運動ベクトルV1,V2,V3は、送信機である衛星G1,G2,G3と受信機10との相対運動ベクトルを示す。
【0033】
受信機10は、受信した信号T1,T2,T3から得られる航法メッセージ(送信データ)に基づいて、受信機10の位置(受信位置)を求める測位処理を行うことができる。
【0034】
測位信号T1,T2,T3は、衛星ごとに異なる拡散コードによるスペクトル拡散によって多重化(符号分割多重化)され得る。スペクトル拡散は、例えば、航法メッセージを1次変調した信号に対して、拡散コードを用いてスペクトル拡散変調(2次変調)する直接拡散方式(DSSS)であり得る。
【0035】
このように、測位信号T1,T2,T3は、スペクトル拡散などの多重化方式によって多重化され得る。したがって、受信機10は、複数の衛星G1,G2,G3からの複数の信号T1,T2,T3を、同時に受信することができる。
【0036】
受信機10は、多重化方式に基づく復調(スペクトル拡散方式に基づく復調)によって、同時に受信した複数の信号T1,T2,T3から、それぞれの信号T1,T2,T3を独立して取り出すことができる。したがって、受信機10は、複数の信号T1,T2,T3それぞれを、他の信号T1,T2,T3から分離した形で取得することができる。したがって、受信機10は、後述のように、複数の信号T1,T2,T3間の周波数差ΔDを求めることができる。複数の信号T1,T2,T3間の周波数差ΔDは、「拡張位置指紋」として利用され得る。
【0037】
なお、
図1では、信号T1と信号T2との周波数差(ドップラー周波数差)が「ΔD
1-2」として示され、信号T2と信号T3との周波数差(ドップラー周波数差)が「ΔD
2-3」として示され、信号T3と信号T1との周波数差(ドップラー周波数差)が「ΔD
3-1」として示されている。
【0038】
また、受信機10は、複数の信号T1,T2,T3それぞれから復調された航法メッセージ(送信データ)を取得することもできる。
【0039】
図1には、妨害装置20も示されている。妨害装置20は、受信機10による位置認識を妨害する。妨害装置20は、例えば、偽の測位信号F1,F2,F3を送信する偽の送信機である。偽の測位信号F1,F2,F3は、衛星G1,G2,G3から送信される真の測位信号T1,T2,T3の偽信号である。妨害装置20は、例えば、位置欺瞞(スプーフィング)を実行する。位置欺瞞は、例えば、偽の測位信号F1,F2,F3の航法メッセージに含まれる送信位置を、真の信号T1,T2,T3の航法メッセージに含まれる送信位置とは異なる欺瞞位置とすることなどによって行われる。
【0040】
偽の測位信号F1,F2,F3を受信した受信機10は、受信機10の位置を誤って求めてしまう。したがって、妨害装置20への対処が必要となる。
【0041】
図2は、妨害への対処の一例を示す。
図2では、衛星G1の運動に固有の特徴量を利用して、妨害に対処する。ここでは、衛星G1のように移動する送信機の運動に固有の特徴量を「運動指紋」という。
【0042】
静止した受信機10で受信した測位信号T1の周波数は、その測位信号T1を送信した衛星G1の運動ベクトルV1に対応したドップラー偏移を持っている。ここで、ドップラー偏移とは、ドップラー効果による周波数の偏移をいう。ドップラー効果による周波数の偏移量は、ドップラー周波数と呼ばれる。ドップラー周波数はΔFで表される。
【0043】
衛星測位システムにおける各衛星の運動はすべて異なっており、かつ、ドップラー周波数はその運動に固有のものである。このことを利用して、ここでは、ドップラー周波数ΔFを「運動指紋」と呼ぶ。受信機10に到来した測位信号T1(到来信号T1)のドップラー周波数ΔFは、その到来信号T1の運動指紋を表す。
【0044】
到来信号T1のドップラー周波数ΔFは、従来から、ドップラー効果を利用した受信機10の運動速度の計算において用いられている。したがって、ドップラー周波数ΔFの求め方は公知の方法を利用できる。ただし、
図2の例では、受信機10は、ドップラー周波数ΔFを、運動指紋として、受信した到来信号T1の検証のために用いる。
【0045】
妨害装置20は静止又は衛星G1とは異なる運動をしているため、妨害装置20が、衛星G1から送信される信号T1を欺瞞した偽信号F1を生成しても、その偽信号F1に生じるドップラー周波数ΔFは、真の信号T1のドップラー周波数とは異なるものとなる。すなわち、偽信号F1の運動指紋は、真の信号T1の運動指紋とは異なる。
【0046】
例えば、妨害装置20及び受信機10が静止している場合、衛星G1からの信号T1を模擬した偽信号F1にはドップラー偏移(運動指紋)は生じないが、真の信号T1には、衛星G1の運動に応じたドップラー偏移(運動指紋)が生じる。したがって、受信機10は、例えば、衛星G1の運動に応じたドップラー周波数が生じているか否かによって、受信した信号が、真の信号であるかどうかを検証し得る。
【0047】
しかし、妨害装置20が、衛星G1の運動に応じた偽ドップラー偏移(偽の運動指紋)を、欺瞞位置に整合する形で印加した偽信号F1を送信すると、その偽信号F1も、真の信号T1と同様の運動指紋を持つ。この結果、受信機10は、偽信号F1を、真の信号T1であると誤認識するおそれがある。
【0048】
これに対して、
図1のように、複数の信号T1,T2,T3間の周波数差ΔD(拡張位置指紋)を利用すると、妨害装置20が偽信号F1に偽ドップラー偏移を印加していても、偽信号F1を識別することができる。
【0049】
複数の信号T1,T2,T3間のドップラー周波数差ΔD(拡張位置指紋)は、複数の衛星G1,G2,G3(送信機)の位置、運動、及び受信機10の位置に応じて決まる。すなわち、拡張位置指紋は、送受信機間の相対位置及び相対運動に応じて決まる。拡張位置指紋ΔDは、衛星の位置及び運動だけに応じて決まる運動指紋に比べると、受信機10の位置に応じて、その値が変化する、という特徴を持つ。このように、拡張位置指紋ΔDは、送信機の位置等のほか、受信機10の位置に応じて値が決まる特徴量である。妨害装置20は、被妨害装置である受信機10の正確な位置を知らないため、正確な拡張位置指紋ΔDを偽信号F1に印加することができない。換言すると、妨害装置20は、送受信機間の相対位置関係を知らないため、正確な拡張位置指紋ΔDを偽信号F1に印加することができない。
【0050】
図1に示す妨害装置20は、既知である衛星G1,G2,G3の位置及び運動に基づいて、衛星G1,G2,G3の位置及び運動に応じた偽ドップラー偏移(運動指紋)を、偽信号F1,F2,F3に印加することは可能ではある。しかし、妨害装置20は、受信機10の位置を知らないため、複数の偽信号F1,F2,F3間に、受信機10の位置に応じた周波数差ΔD
1-2,ΔD
2-3,ΔD
3-1が正確に生じる偽ドップラー偏移を印加することは困難である。
【0051】
このように、受信機10の位置に応じた周波数差ΔD1-2,ΔD2-3,ΔD3-1は、偽信号F1,F2,F3が持ち得ない特徴量(拡張位置指紋)である。拡張位置指紋は、受信機10が受信した信号の信頼性を示す特徴量であるため、受信した信号の検証に用いられ得る。例えば、受信機10は、拡張位置指紋に基づいて、受信した信号が偽信号であることを識別することができる。
【0052】
図3は、ドップラー周波数差ΔD
1-2,ΔD
2-3,ΔD
3-1に基づいて、受信信号の検証を実行する受信機10の構成を示している。受信機10は、例えば、前述のようにGNSS受信機であり、測位信号であるGNSS信号を受信するアンテナ11と、RF受信回路12と、ベースバンド回路13と、を備える。
【0053】
アンテナ11は、測位信号であるGNSS信号を受信する。なお、実施形態に係る受信機10のアンテナ11は、特許文献1のようなアレイアンテナである必要はないため、安価に構成することができる。ただし、アンテナ11は、アレイアンテナであってもよい。
【0054】
RF受信回路12は、アンテナ11によって受信した無線周波数信号(RF信号)である測位信号を、ベースバンド信号に変換して、ベースバンド回路13に出力する。
【0055】
ベースバンド回路13は、ベースバンドの測位信号に対する信号処理を実行する。ベースバンド回路13は、信号処理を実行するプロセッサ110を備え得る。プロセッサ110は、例えば、CPU又はその他のハードウェアである。ベースバンド回路13は、プロセッサ110に接続されたメモリ120を備え得る。メモリ120は、例えば、一次記憶装置及び二次記憶装置を備える。一次記憶装置は、例えば、RAMである。二次記憶装置は、例えば、ハードディスクドライブ(HDD)又はソリッドステートドライブ(SSD)である。メモリ120は、プロセッサ110によって実行されるコンピュータプログラム121を備え得る。
【0056】
プロセッサ110は、メモリ120に格納されたコンピュータプログラム121を読み出して実行する。メモリ120のコンピュータプログラム121は、プロセッサ110に、測位処理111,信号検証処理112を実行させるための命令を示すプログラムコードを有する。プロセッサが実行する測位処理111,信号検証処理112は、例えば、測位処理111及び信号検証処理112を含み得る。プロセッサ110は、信号検証処理112を実行する信号検証装置として動作する。
【0057】
メモリ120は、様々なデータを備え得る。メモリ120に格納されたデータは、例えば、受信した信号の検証のために用いられるデータ(検証用データ)を含み得る。検証用データは、例えば、ドップラー周波数差ΔD1-2,ΔD2-3,ΔD3-1(拡張位置指紋)と比較される比較値を含み得る。
【0058】
なお、プロセッサ110及びメモリ120は、ベースバンド回路13外に設けられていてもよい。プロセッサ110及びメモリ120は、受信機10外に設けられていてもよい。すなわち、実施形態に係る信号処理は、受信機10内で実行されてもよいし、受信機10外の装置によって実行されてもよい。
【0059】
また、信号検証処理112を実行するプロセッサ110が、ベースバンド回路13に設けられている場合、受信した信号T1,F2,F3のドップラー周波数差ΔD1-2,ΔD2-3,ΔD3-1は、ベースバンドの信号T1,T2,T3に基づいて求められるが、無線周波数(RF)の信号T1,T2,T3に基づいて求められてもよい。
【0060】
図4は、受信機10によって実行される信号処理の手順の一例を示している。受信機10は、衛星G1,G2,G3から送信された信号T1,T2,T3の到来信号を受信する(ステップS41)。各到来信号は、衛星G1,G2,G3の運動等に応じたドップラー偏移を有する。
【0061】
受信機10のプロセッサ110は、受信した複数の到来信号T1,T2,T3間のドップラー周波数差ΔD1-2,ΔD2-3,ΔD3-1を求める(ステップS42)。これらのドップラー周波数差は、FDA(Frequency Difference of Arrival)とも呼ばれる。ここでは、3つの到来信号T1,T2,T3から、3つのドップラー周波数差ΔD1-2,ΔD2-3,ΔD3-1を求める。求めたドップラー周波数差は、到来信号の特徴量である拡張位置指紋として用いられ、例えば、後述の信号の検証に利用される。なお、2つの到来信号から、1つのドップラー周波数差を求めてもよいし。4つ又はそれ以上の到来信号からドップラー周波数差を求めてもよい。また、拡張位置指紋の用途は、信号の検証に限られるものではなく、受信した信号の特徴量が必要とされる他の処理に用いられてもよい。他の処理は、例えば、受信した信号の特徴を事後的に確認・分析するために、拡張位置指紋をメモリに保存することであり得る。
【0062】
ドップラー周波数差は、ΔD1-2,ΔD2-3,ΔD3-1は、各信号T1,T2,T3間の周波数差を計算することで求められ得る。例えば、ドップラー周波数差ΔD1-2は、受信した信号T1の周波数と受信した信号T2の周波数との差分を計算することで求められ。ドップラー周波数差ΔD2-3は、受信した信号T2の周波数と受信した信号T3の周波数との差分を計算することで求められる。ドップラー周波数差ΔD3-1は、受信した信号T3の周波数と受信した信号T1の周波数との差分を計算することで求められる。差分をとることで、受信機雑音などの各種の誤差のうち、各信号で共通するものは相殺されるため、誤差の影響が緩和される。
【0063】
続くステップS43において、プロセッサ110は、ドップラー周波数差ΔD1-2,ΔD2-3,ΔD3-1を用いて、受信した信号T1,T2,T3を検証する。
【0064】
信号の検証は、例えば、
図5に示す手順に従って行われる。ただし、
図5に示す手順は、一例であり、それに限定されるものではない。例えば、
図5に示す検証手順では、比較値との比較が行われるが、比較値との比較が行われなくてもよい。例えば、受信機10が求めた拡張位置指紋の経時的変化を分析することで、信号を検証してもよい。
【0065】
また、拡張位置指紋を含むデータを機械学習モデルに入力することで、信号を検証してもよい。この場合、機械学習モデルは、拡張位置指紋が入力されると、信号の検証結果(例えば、真の信号であるか偽の信号であるかの識別結果、又は、信号の信頼度)を出力するよう構成され得る。機械学習モデルは、学習データを用いた機械学習によって構成され得る。学習データは、例えば、真の信号から得られた拡張位置指紋及び偽の信号から得られた拡張位置指紋を含む拡張位置指紋データと、それらの拡張位置指紋に対応する信号が真であるか偽であるかを示すデータと、の組であり得る。
【0066】
プロセッサ110は、ステップS43の検証の結果に応じた処理を実行する(ステップS44)。例えば、プロセッサ110は、測位信号の検証の結果、受信した測位信号が偽の信号(妨害信号)であると判定した場合、受信した測位信号を用いた測位結果の出力を中断し得る。プロセッサ110は、中断中においても、信号の受信及び検証を行い、受信した測位信号が真の信号であると判定した場合、受信した測位信号を用いた測位結果の出力を再開し得る。なお、プロセッサ110は、中断中は、他の測位手段による測位結果を出力したり、過去の測位結果に基づく推定測位結果を出力したりすることができる。
【0067】
図5は、受信した測位信号の検証の手順の一例を示している。プロセッサ110は、ステップS51において、推定ドップラー周波数差(拡張位置指紋の推定値)を演算する。プロセッサ110は、
図4のステップS42で求めたドップラー周波数差(拡張位置指紋の実測値)と、ステップS51で求めた推定ドップラー周波数差(拡張位置指紋の推定値)と、を比較する(ステップS52)。
【0068】
プロセッサ110は、ステップS52の比較の結果に基づいて、信号を検証する(ステップS53)。例えば、プロセッサ110は、拡張位置指紋の実測値であるドップラー周波数差が、拡張位置指紋の推定値である推定ドップラー周波数差と一致、又は、実測値と推定値との差が所定の閾値未満である場合、受信した測位信号は真の信号であると判定し、その判定結果を検証結果として出力する。また、実測値と推定値とが不一致、又は、実測値と推定値との差が所定の閾値よりも大きい場合、受信した測位信号は偽の信号であると判定し、その判定結果を検証結果として出力する。
【0069】
図5では、実測値であるドップラー周波数差と比較される比較値は、測位信号の受信後に演算して求めた推定ドップラー周波数差である。ただし、比較値は、これに限られない。実測値であるドップラー周波数差と比較される比較値は、予めメモリに保存されたデータ122であってもよい。例えば、妨害装置20からの信号のドップラー周波数差(偽の拡張位置指紋)が既知である場合、比較値は、1又は複数の偽の拡張位置指紋を示すネガティブリスト(ブラックリスト)における前記偽の拡張位置指紋であってもよい。すなわち、データ122は、前記ネガティブリストを含み得る。
【0070】
また、真の送信機G1,G2,G3からの信号のドップラー周波数差(真の拡張位置指紋)が既知である場合、比較値は、1又は複数の真の拡張位置指紋を示すポジティブリスト(ホワイトリスト)における前記真の拡張位置指紋であってもよい。すなわち、データ122は、前記ポジティブリストを含み得る。データ122は、ネガティブリスト及びポジティブリストの両方を含み得る。
【0071】
図5のステップS51等で演算される推定ドップラー周波数差(拡張位置指紋の推定値)は、例えば、受信機10の位置、送信機である衛星G1,G2,G3の位置L
G1,L
G2,L
G3、及び、衛星G1,G2,G3それぞれと受信機10との相対運動ベクトルV1,V2,V3に基づいて、演算される。受信機10が静止している場合、相対運動ベクトルV1,V2,V3は、衛星G1,G2,G3の移動方向及び速度(衛星の運動ベクトル)でよい。
【0072】
プロセッサ110は、例えば、受信した複数の測位信号の航法メッセージに含まれる送信時刻データ等に基づいて、測位処理111によって、受信機10の位置を求める。測位信号に基づいて受信機10の位置を求める測位処理111は、様々な公知手法を採用し得る。
【0073】
プロセッサ110は、例えば、受信した複数の測位信号の航法メッセージに含まれる送信位置データ等に基づいて、複数の送信機(衛星G1,G2,G3)の位置を求める。測位信号に基づいて送信機の位置を求める処理は、様々な公知手法を採用し得る。
【0074】
プロセッサ110は、例えば、受信した複数の測位信号の航法メッセージに含まれる軌道データ等に基づいて、相対運動ベクトルV1,V2,V3(衛星G1,G2,G3の運動ベクトルV1,V2,V3)を求める。相対運動ベクトルV1,V2,V3(衛星G1,G2,G3の運動ベクトルV1,V2,V3)を求める処理は、様々な公知手法を採用し得る。なお、相対運動ベクトルV1,V2,V3(衛星G1,G2,G3の運動ベクトルV1,V2,V3)は、航法メッセージから取得される必要はなく、インターネットなどの通信ネットワーク経由で、相対運動ベクトルV1,V2,V3(衛星G1,G2,G3の運動ベクトルV1,V2,V3)を提供するサーバから取得してもよい。
【0075】
プロセッサ110は、拡張位置指紋及び運動指紋の両方を用いて、信号の検証をおこなってもよい。
【0076】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
【符号の説明】
【0077】
10 :受信機
11 :アンテナ
12 :RF受信回路
13 :ベースバンド回路
20 :妨害装置
110 :プロセッサ
111 :測位処理
112 :信号検証処理
120 :メモリ
121 :コンピュータプログラム
122 :検証用データ
F1 :偽信号
F2 :偽信号
F3 :偽信号
G1 :送信機(衛星)
G2 :送信機(衛星)
G3 :送信機(衛星)
T1 :到来信号
T2 :到来信号
T3 :到来信号
V1 :運動ベクトル
V2 :運動ベクトル
V3 :運動ベクトル
ΔD1-2 :ドップラー周波数差
ΔD2-3 :ドップラー周波数差
ΔD3-1 :ドップラー周波数差
ΔF :ドップラー周波数