(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024164611
(43)【公開日】2024-11-27
(54)【発明の名称】変性エチレン共重合体、改質剤、相溶化剤、改質方法及び相溶化方法
(51)【国際特許分類】
C08F 8/46 20060101AFI20241120BHJP
【FI】
C08F8/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080221
(22)【出願日】2023-05-15
(71)【出願人】
【識別番号】515107720
【氏名又は名称】MCPPイノベーション合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼嶋 優
【テーマコード(参考)】
4J100
【Fターム(参考)】
4J100AA02P
4J100CA31
4J100DA42
4J100HA57
4J100HC30
(57)【要約】
【課題】相溶化剤として極性重合体と非極性重合体との相溶化効果に優れると共に、改質剤として極性重合体に対する改質効果に優れ、外観および機械物性に優れた成形品を得ることができる変性エチレン共重合体を提供する。
【解決手段】バイオマスエチレン共重合体を含むエチレン共重合体を不飽和カルボン酸およびその誘導体からなる群から選択される少なくとも1種で変性した変性エチレン共重合体。この変性エチレン共重合体を含む改質剤。この変性エチレン共重合体を含む相溶化剤。この変性エチレン共重合体の存在下で、極性の重合体を改質する改質方法。この変性エチレン共重合体の存在下で、極性の重合体と非極性の重合体とを相溶化する相溶化方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオマスエチレン共重合体を含むエチレン共重合体を不飽和カルボン酸およびその誘導体からなる群から選択される少なくとも1種で変性した変性エチレン共重合体。
【請求項2】
変性率が0.01質量%以上2.50質量%以下である、請求項1に記載の変性エチレン共重合体。
【請求項3】
190℃、荷重2.16kgのメルトフローレートが0.1g/10分以上20g/10分以下である、請求項1に記載の変性エチレン共重合体。
【請求項4】
前記エチレン共重合体がHDPEとLLDPEからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の変性エチレン共重合体。
【請求項5】
バイオマス度が20~100%である、請求項1に記載の変性エチレン共重合体。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の変性エチレン共重合体を含む改質剤。
【請求項7】
請求項1~5のいずれかに記載の変性エチレン共重合体を含む相溶化剤。
【請求項8】
請求項1~5のいずれかに記載の変性エチレン共重合体の存在下で、極性の重合体を改質する改質方法。
【請求項9】
請求項1~5のいずれかに記載の変性エチレン共重合体の存在下で、極性の重合体と非極性の重合体とを相溶化する相溶化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマスエチレン共重合体を用いた変性エチレン共重合体であって、改質剤及び相溶化剤として用いることができる変性エチレン共重合体と、この変性エチレン共重合体を含む改質剤及び相溶化剤に関する。本発明はまた、この変性エチレン共重合体を用いた改質方法と相溶化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィンに、有機、無機、又はバイオマスフィラーや、極性重合体を分散させる場合、或いは極性重合体の特性を改良するために、相溶化剤や改質剤が使用されている。相溶化剤や改質剤としては通常、極性基を有するポリオレフィンが使用される。
【0003】
極性基を有するポリオレフィンを相溶化剤として使用する場合、極性基を有するポリオレフィンは、そのポリオレフィン部はポリオレフィン等の非極性重合体と相溶し、極性基部分はフィラーや極性重合体と相互作用(化学的結合、物理的結合)することによって、ポリオレフィン等の非極性重合体とフィラーや極性重合体とを相溶化させる。
【0004】
極性基を有するポリオレフィンを改質剤として使用する場合、極性基部分は、極性重合体と相互作用(化学的結合、物理的結合)し、一方で、ポリオレフィン部は極性重合体に対して非相溶性であるため、極性重合体と極性基を有するポリオレフィンとが海島構造を形成する。このように、極性重合体に、極性基を有するポリオレフィンを混ぜることで、モルフォロジーの変化が起こり、極性重合体に、柔軟性や耐衝撃性といった機能を付与することができる。すなわち、極性重合体を改質することができる。
【0005】
このような技術を応用した例として、ポリアミド樹脂と特定の酸変性ポリオレフィンを含むポリアミド樹脂組成物が知られている(例えば、特許文献1)。ここで、酸変性ポリオレフィンの変性に供されるポリオレフィンとしては、石油(化石燃料)由来のポリオレフィンが用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ポリオレフィン等の非極性重合体や極性重合体に求められる要求の高まりにより、従来の相溶化剤や改質剤では、市場の求める外観改良や機械物性向上の両立の観点で改良の余地があった。
【0008】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、相溶化剤として極性重合体と非極性重合体との相溶化効果に優れると共に、改質剤として極性重合体に対する改質効果に優れ、外観および機械物性に優れた成形品を得ることができる変性エチレン共重合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、従来、改質剤や相溶化剤としては石油由来のエチレン共重合体の酸変性体が利用されてきたが、これをバイオマス由来のエチレン共重合体の酸変性体にすることで、良外観を維持した上で耐衝撃性等の機械物性を向上させることができることを見出し、本発明に至った。
即ち、本発明は以下の特徴を有する。
【0010】
[1] バイオマスエチレン共重合体を含むエチレン共重合体を不飽和カルボン酸およびその誘導体からなる群から選択される少なくとも1種で変性した変性エチレン共重合体。
【0011】
[2] 変性率が0.01質量%以上2.50質量%以下である、[1]に記載の変性エチレン共重合体。
【0012】
[3] 190℃、荷重2.16kgのメルトフローレートが0.1g/10分以上20g/10分以下である、[1]又は[2]に記載の変性エチレン共重合体。
【0013】
[4] 前記エチレン共重合体がHDPEとLLDPEからなる群から選択される少なくとも1種である、[1]~[3]のいずれかに記載の変性エチレン共重合体。
【0014】
[5] バイオマス度が20~100%である、[1]~[4]のいずれかに記載の変性エチレン共重合体。
【0015】
[6] [1]~[5]のいずれかに記載の変性エチレン共重合体を含む改質剤。
【0016】
[7] [1]~[5]のいずれかに記載の変性エチレン共重合体を含む相溶化剤。
【0017】
[8] [1]~[5]のいずれかに記載の変性エチレン共重合体の存在下で、極性の重合体を改質する改質方法。
【0018】
[9] [1]~[5]のいずれかに記載の変性エチレン共重合体の存在下で、極性の重合体と非極性の重合体とを相溶化する相溶化方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、改質剤又は相溶化剤として極性重合体ないしは極性重合体と非極性重合体に混合した際に、外観や機械物性に優れた成形品を得ることができる変性エチレン共重合体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。尚、本明細書において、「~」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることする。
【0021】
以下において、共重合体に含まれる単量体単位を単に「単位」と称す場合がある。例えば、エチレンに基づく単量体単位、α-オレフィンに基づく単量体単位をそれぞれ「エチレン単位」、「α-オレフィン単位」と称す場合がある。
【0022】
本発明において、エチレン共重合体又は変性エチレン共重合体のメルトフローレート(MFR)、密度、変性エチレン共重合体の変性率及びバイオマス度は、以下のようにして測定された値である。
【0023】
<MFR>
MFRは、JIS K7210に従い、190℃、荷重2.16kgの条件で測定される。
【0024】
<密度>
密度は、JIS K7112に従い、水中置換法で測定される。
【0025】
<変性率>
変性エチレン共重合体の変性率(グラフト率、変性量、グラフト量とも称される。以下、「グラフト率」と称す。)は、赤外分光測定装置で測定した際の、後述の原料エチレン共重合体にグラフトした不飽和カルボン酸及び/又はその無水物(以下、「不飽和カルボン酸成分」と称す場合がある。)の含有率を意味する。
不飽和カルボン酸成分の含有率は、例えば、変性重合体を厚さ100μm程度のシート状にプレス成形したサンプル中の不飽和カルボン酸成分特有の吸収、具体的には1,900~1,600cm-1(C=O伸縮振動帯)のカルボニル特性吸収を測定することにより求めることができる。
グラフト率は、上記の方法で、予め作成した検量線から求めることもできる。
【0026】
<バイオマス度>
変性エチレン共重合体のバイオマス度は、14C含有量をもとにASTM D 6866により算出される。
具体的には、タンデム加速器をベースとしたC-AMS専用装置(NEC社製)を使用し、14C濃度の測定を行った後、ASTM D6866-22に従いバイオマス度を算出することができる。
また、バイオマス度は、変性エチレン共重合体の製造に用いたバイオマスエチレン共重合体の変性エチレン共重合体中の含有割合として計算により求めることもできる。
【0027】
[変性エチレン共重合体]
本発明の変性エチレン共重合体は、バイオマスエチレン共重合体を含むエチレン共重合体を、不飽和カルボン酸成分、即ち、不飽和カルボン酸およびその誘導体からなる群から選択される少なくとも1種で変性した変性エチレン共重合体である。
【0028】
<メカニズム>
本発明の変性エチレン共重合体を、改質剤や相溶化剤として用いた場合に、外観や機械物性を改良することができるメカニズムの詳細については明らかではないが、本発明の変性エチレン共重合体において、変性に供するエチレン共重合体に含まれるバイオマスエチレン共重合体は、低分子量成分の含有量が少ないことによると考えられる。
一方で、外観については、変性エチレン共重合体として石油由来のエチレン共重合体を用いた場合と同等の効果を得ることができる。
【0029】
<原料エチレン共重合体>
不飽和カルボン酸成分による変性に供するバイオマスエチレン共重合体を含むエチレン共重合体(以下、「原料エチレン共重合体」と称す場合がある。)を構成するエチレン以外の単量体としては、炭素数3~8のα-オレフィン単量体、例えば、プロピレン、1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテンの1種又は2種以上が挙げられる。
【0030】
更に、原料エチレン共重合体には、エチレン単量体及び上記のα-オレフィン単量体以外の他の単量体単位が含まれていてもよい。
【0031】
原料エチレン共重合体としては、機械特性の観点から、HDPE(高密度ポリエチレン)、LLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン)が好ましい。
HDPEの密度は0.942~0.970g/cm3であることが好ましく、0.948~0.960g/cm3であることがより好ましい。
上記密度範囲のHDPEであれば、良好な機械特性を維持できる。
また、LLDPEの密度は0.910~0.928g/cm3であることが好ましく、0.915~0.925g/cm3であることがより好ましい。
上記密度範囲のLLDPEであれば、良好な機械特性を維持できる。
【0032】
また、原料エチレン共重合体のMFR(190℃、荷重2.16kg)は特に限定されないが、0.2~40g/10分であることが好ましく、0.5~30g/10分であることがより好ましい。原料エチレン共重合体のMFRを上記範囲内とすることで、変性によるMFRの変化を考慮しても、後述の好適なMFRを有する変性エチレン共重合体が得やすくなる傾向にある。
【0033】
本発明において、原料エチレン共重合体は1種のみを用いてもよく、物性や組成等の異なるものの2種以上を併用してもよい。また、本発明の変性エチレン共重合体において、変性に供される原料エチレン共重合体は、後述の本発明の変性エチレン共重合体の好適なバイオマス度を満たす範囲において、バイオマスエチレン共重合体と共に石油由来のエチレン共重合体を含む混合物であってもよい。
後述の本発明の変性エチレン共重合体の好適なバイオマス度を満たす観点から、原料エチレン共重合体中のバイオマスエチレン共重合体の割合は、25質量%以上であることが好ましく、30~100質量%であることがより好ましく、40~100質量%であることが更に好ましく、100質量%であることが最も好ましい。
【0034】
本発明で用いるバイオマスエチレン共重合体は、通常、バイオマスを原料とするエタノールを脱水して得られたバイオエチレンを原料とする重合又は共重合により製造することができるが、公知の市販品を用いることもできる。
本発明によれば、原料エチレン共重合体としてバイオマスエチレン共重合体を用いることで、前述の通り、外観および機械物性の改善を図ると共に、バイオマスの活用で温室効果ガス排出量の削減を可能とする効果も得ることができる。
【0035】
<グラフト変性>
原料エチレン共重合体をグラフト変性する不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、テトラヒドロフマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸といったα,β-エチレン性不飽和カルボン酸が挙げられる。不飽和カルボン酸の無水物としては、コハク酸2-オクテン-1-イル無水物、コハク酸2-ドデセン-1-イル無水物、コハク酸2-オクタデセン-1-イル無水物、マレイン酸無水物、2,3-ジメチルマレイン酸無水物、ブロモマレイン酸無水物、ジクロロマレイン酸無水物、シトラコン酸無水物、イタコン酸無水物、1-ブテン-3,4-ジカルボン酸無水物、1-シクロペンテン-1,2-ジカルボン酸無水物、1,2,3,6-テトラヒドロフタル酸無水物、3,4,5,6-テトラヒドロフタル酸無水物、exo-3,6-エポキシ-1,2,3,6-テトラヒドロフタル酸無水物、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物、メチル-5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物、endo-ビシクロ[2.2.2]オクト-5-エン-2,3-ジカルボン酸無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸無水物等の不飽和カルボン酸無水物が挙げられる。
【0036】
これらの不飽和カルボン酸成分は、変性すべき原料エチレン共重合体や変性条件に応じて適宜選択することができ、1種を単独で用いる場合に限らず、2種以上を併用しても良い。これらの不飽和カルボン酸成分は、有機溶剤などに溶解して使用することもできる。
【0037】
原料エチレン共重合体のグラフト変性は、不飽和カルボン酸成分を添加して、好ましくはラジカル発生剤の存在下に不飽和カルボン酸成分を原料エチレン共重合体にグラフト重合させることで行うことができる。
【0038】
ここで使用されるラジカル発生剤としては、例えば、t-ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジハイドロパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルオキシ)ヘキサン、3,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンゾエート、ベンゾイルパーオキサイド、m-トルオイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、1,3-ビス(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、ジブチルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、過酸化カリウム、過酸化水素等の有機及び無機の過酸化物;2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(イソブチルアミド)ジハライド、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、アゾジ-t-ブタン等のアゾ化合物;ジクミル等の炭素ラジカル発生剤が挙げられる。
【0039】
上記のラジカル発生剤は、変性反応に供する原料エチレン共重合体の種類、変性剤としての不飽和カルボン酸成分の種類及び変性条件に応じて適宜選択することができ、1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
ラジカル発生剤は有機溶剤などに溶解して使用することもできる。
【0040】
本発明の変性エチレン共重合体を得る際に行う変性反応としては、溶融混練反応法、溶液反応法、懸濁分散反応法など公知の種々の反応方法を使用することができるが、通常は溶融混練反応法が好ましい。
【0041】
溶融混練反応法よる場合は、前記の各成分を所定の配合比にて均一に混合した後に溶融混練すれば良い。混合には、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、V型ブレンダー等が使用され、溶融混練には、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール、一軸又は二軸などの多軸混練押出機などが使用される。
【0042】
溶融混練は、エチレン共重合体が熱劣化しないように、通常100℃以上、好ましくは120℃以上、より好ましくは150℃以上で、通常300℃以下、好ましくは280℃以下、より好ましくは260℃以下の範囲で行う。
【0043】
変性剤としての不飽和カルボン酸成分の配合量は、原料エチレン共重合体100質量部に対し、通常0.01質量部以上、好ましくは0.05質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上で、通常10質量部以下、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下である。不飽和カルボン酸成分の配合量を上記範囲とすることで、経済的であり、十分な変性を行うことができる。
【0044】
また、ラジカル発生剤の配合量は、原料エチレン共重合体100質量部に対し、通常0.001質量部以上、好ましくは0.005質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上で、通常1質量部以下、好ましくは0.5質量部以下、より好ましくは0.1質量部以下である。ラジカル発生剤の配合量を上記下限以上とすることで、十分な変性を行うことができる。また、ラジカル発生剤の配合量を上記上限以下とすることで、原料エチレン共重合体の変性時の高分子量化(粘度上昇)を所望の範囲に抑えることができ、目的の変性エチレン共重合体を得やすい傾向にある。
【0045】
変性反応においては、原料エチレン共重合体に不飽和カルボン酸成分が付加するグラフト重合反応が主として起こるが、架橋反応も起こり、この架橋により、得られる変性物は分子量が増大して溶融粘度が高くなる傾向にあるため、ラジカル発生剤の使用量が多過ぎると、グラフト重合反応も起こり易いが、同時にこのような溶融粘度の増大につながる架橋反応も起こり易くなるため、好ましくない。
【0046】
<グラフト率>
本発明の変性エチレン共重合体のグラフト率は0.01~2.50質量%であることが好ましく、0.1~2.0質量%であることがより好ましく、0.3~1.5質量%であることが更に好ましい。グラフト率が上記下限以上であると、良好な改質効果、相溶化効果を得ることができる。ただし、グラフト率が高過ぎると焼け等が多くなり、その結果、変性エチレン共重合体を含む組成物及び得られる成形品について外観等に悪影響を及ぼすため、変性エチレン共重合体のグラフト率は上記上限以下であることが好ましい。
【0047】
<MFR>
本発明の変性エチレン共重合体のメルトフローレート(MFR:190℃、2.16kg)は、好ましくは0.1~20g/10分であり、より好ましくは0.3~15g/10分である。変性エチレン共重合体のMFRが上記範囲であることにより、この変性エチレン共重合体を改質剤や相溶化剤として極性重合体に添加混合した際、変性エチレン共重合体と極性重合体とが良好に混合・改質され、成形品としたときの外観や耐衝撃性等の機械物性が向上する。
【0048】
<バイオマス度>
本発明の変性エチレン共重合体のバイオマス度は、20~100%であることが好ましく、25~100%であることがより好ましく、40~100%であることが更に好ましい。変性エチレン共重合体のバイオマス度が20%以上であれば、原料エチレン共重合体としてバイオマスエチレン共重合体を用いることによる外観や機械物性の向上効果、特に機械物性の向上効果を有効に得ることができる。
【0049】
<変性エチレン共重合体組成物>
本発明の変性エチレン共重合体を改質剤や相溶化剤として用いる場合、本発明の効果を著しく損なわない範囲で各種目的に応じ他の任意の添加剤や重合体等(以下、これらを「その他の成分」と称す。)を配合した変性エチレン共重合体組成物として用いることもできる。その他の成分は、1種類のみを用いても、2種類以上を任意の組合せと比率で併用してもよい。
【0050】
例えば、添加剤としては熱安定剤及び酸化防止剤が挙げられ、ヒンダードフェノール類、リン化合物、ヒンダードアミン、イオウ化合物、銅化合物、アルカリ金属のハロゲン化物を用いることができる。
【0051】
本発明の変性エチレン共重合体と必要に応じて添加されるその他の成分を用いて、変性エチレン共重合体組成物を製造するための混合方法は、実用的には溶融混練法が好ましい。この場合、その他の成分は、変性前の原料エチレン共重合体に添加して、その他の成分の混合と共に、前述のグラフト変性を行ってもよく、グラフト変性後の変性エチレン共重合体にその他の成分を混合してもよい。
【0052】
溶融混練のための具体的な方法としては、本発明の変性エチレン共重合体又は原料エチレン共重合体、並びに必要に応じて添加されるその他の成分を、所定の配合割合にて、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、V型ブレンダー等を用いて均一に混合した後、多軸混練押出機、例えば日本製鋼所の2軸混練押出機であるTEX25を用いて混練する方法が例示できる。
【0053】
各成分の溶融混練の温度は、前述のグラフト変性時の温度と同様、通常100~300℃、好ましくは120~280℃、より好ましくは150~260℃である。更に、各成分の混練順序及び方法は、特に限定されるものではなく、本発明の変性エチレン共重合体又は原料エチレン共重合体と必要に応じて用いられるその他の成分とを一括して混練する方法、又は本発明の変性エチレン共重合体又は原料エチレン共重合体と必要に応じて用いられるその他の成分の一部を予め混練しておき、その後残りの成分を混練する方法でもよい。
【0054】
[改質剤]
本発明の改質剤は、本発明の変性エチレン共重合体を含むものである。
【0055】
改質剤とは、極性重合体に混合することで、モルフォロジーを変化させて、極性重合体に柔軟性や耐衝撃性といった機能を付与することができる添加剤である。
本発明では、バイオマスエチレン共重合体を含むエチレン共重合体を不飽和カルボン酸成分により変性した変性エチレン共重合体を用いることで、ポリアミド共重合体等の極性重合体の反応可能な官能基と変性エチレン共重合体とが反応し、その結果、ポリアミド共重合体等の極性重合体の物性を改質することができる。
【0056】
本発明の改質剤中の本発明の変性エチレン共重合体の含有率は、本発明の変性エチレン共重合体による改質効果を有効に得る観点から、5~100質量%が好適である。本発明の改質剤中の本発明の変性エチレン共重合体中の含有率は、10質量%以上がより好適であり、20質量%以上が更に好適であり、50質量%以上が特に好適である。
【0057】
[改質方法]
本発明の改質方法は、本発明の変性エチレン共重合体の存在下で、極性重合体を改質する方法であり、具体的には、本発明の変性エチレン共重合体を極性重合体に添加して加熱混練する方法である。
【0058】
極性重合体としては、以下に示すポリアミド系共重合体や後述のエチレン・ビニルアルコール共重合体が挙げられる。
【0059】
改質する極性重合体と変性エチレン共重合体の量比については特に制限はなく、極性重合体100質量部に対して変性エチレン共重合体0.1~50質量部の幅広い範囲の添加量で極性重合体を改質することができる。
【0060】
極性重合体の改質には、本発明の変性エチレン共重合体の1種のみを用いてもよく、変性前の原料エチレン共重合体の種類や物性等の異なるものを2種以上混合して用いてもよい。
また、本発明の変性エチレン共重合体は、前述の変性エチレン共重合体組成物として用いてもよい。
【0061】
<ポリアミド系重合体>
本発明の変性エチレン共重合体による改質に供するポリアミド系重合体としては、公知のものを用いることができる。
具体的には、例えば、ポリカプラミド(ナイロン6)、ポリ-ω-アミノヘプタン酸(ナイロン7)、ポリ-ω-アミノノナン酸(ナイロン9)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリラウリルラクタム(ナイロン12)等のホモポリマーが挙げられる。
また、ポリアミド系共重合体としては、ポリエチレンジアミンアジパミド(ナイロン26)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリオクタメチレンアジパミド(ナイロン86)、ポリデカメチレンアジパミド(ナイロン108)、カプロラクタム/ラウリルラクタム共重合体(ナイロン6/12)、カプロラクタム/ω-アミノノナン酸共重合体(ナイロン6/9)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン6/66)、ラウリルラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン12/66)、エチレンジアミンアジパミド/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン26/66)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムセバケート共重合体(ナイロン66/610)、エチレンアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムセバケート共重合体(ナイロン6/66/610)等の脂肪族ポリアミドや、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド、ポリメタキシリレンアジパミド、ヘキサメチレンイソフタルアミド/テレフタルアミド共重合体、ポリ-p-フェニレンテレフタルアミドや、ポリ-p-フェニレン-3,4’-ジフェニルエーテルテレフタルアミド等の芳香族ポリアミド、非晶性ポリアミド、これらのポリアミド系重合体をメチレンベンジルアミン、メタキシレンジアミン等の芳香族アミンで変性したものやメタキシリレンジアンモニウムアジペート、あるいはこれらの末端変性ポリアミド系重合体等が挙げられる。なかでも、好ましくは末端変性ポリアミド系重合体である。
【0062】
ポリアミド系重合体のメルトフローレート(MFR:230℃、2.16kg)は0.1~30g/10分であることが好ましい。ポリアミド系重合体のMFRが上記範囲であることにより、改質剤としての本発明の変性エチレン共重合体と最適に反応し、ポリアミド系重合体の流動性等の特性を損なうことなく改質することができる。
【0063】
ポリアミド系重合体は1種のみを用いてもよく、共重合組成や物性等の異なるものを2種以上混合して用いてもよい。
【0064】
<その他の成分>
本発明の改質方法において、本発明の効果を著しく損なわない範囲で各種目的に応じて、極性重合体と本発明の変性エチレン共重合体と共に、極性重合体及び本発明の変性エチレン共重合体以外の重合体や任意の添加剤等(以下、これらを「その他の成分」と称す。)を混合して重合体組成物としてもよい。その他の成分は、1種類のみを用いても、2種類以上を任意の組合せと比率で併用してもよい。
【0065】
添加剤の例としては、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、充填剤、帯電防止剤を挙げることができる。本発明の改質方法におけるこれらの添加剤の添加量は、得られる重合体組成物中の含有量として、合計で通常50質量%以下であり、20質量%以下が好適であり、10質量%以下がより好適である。
【0066】
[相溶化剤]
本発明の相溶化剤は、本発明の変性エチレン共重合体を含むものである。
【0067】
相溶化剤とは、非極性材料と極性材料とを相溶化させ、材料分散粒子径を小さくする効果を奏するものである。
【0068】
本発明では、不飽和カルボン酸成分により変性されたバイオマスエチレン共重合体を含むエチレン共重合体を用いることで、ポリアミド共重合体等の極性重合体をポリオレフィン等の非極性重合体中に微細に分散させ、その結果、ポリアミド共重合体等の極性重合体が分散した重合体組成物やリサイクル組成物において、機械強度や透明性を向上させることができる。
【0069】
相溶化させる対象がリサイクルに係る場合、本発明の相溶化剤は、リサイクル助剤と称される。
例えば、ポリオレフィンのような非極性の重合体とエチレン・ビニルアルコール共重合体のようなバリア性の極性の重合体とを用いた多層包材を製造する際の工程中に発生する端材を回収し、粉砕等により微細化したものを、本発明の相溶化剤をリサイクル助剤として用いて、溶融混練することで、ポリオレフィンのような非極性の重合体とエチレン・ビニルアルコール共重合体のようなバリア性の極性の重合体とを相溶化させ、造粒/成形により、透明性の低下、異物発生を抑制して多層包材のリグラインド層として再生利用することができる。
【0070】
このように、本発明の変性エチレン共重合体を含有する相溶化剤又はリサイクル助剤を用いることで、ポリオレフィンのような非極性の重合体中に存在するエチレン・ビニルアルコール共重合体のようなバリア性の極性の重合体の分散粒子径を小さくすることが可能となり、透明性や機械強度を向上させる効果が得られる。また、押出機内で生成する低分子成分の有する極性基に対しても、その相溶化効果を発現するため、低分子量成分をリグラインド組成物に混ぜ込むことができる。そして、その結果として、めやにとして付着する低分子量成分を減らすことができ、押出出口付近に付着する異物量を低減することが可能となる。
【0071】
非極性の重合体としては、ポリプロピレン系重合体、ポリエチレン系重合体等のポリオレフィンが挙げられる。本発明の相溶化剤は、特にポリエチレン系重合体と極性の重合体とを相溶化させる場合に用いることが好ましい。
【0072】
本発明の相溶化剤中の本発明の変性エチレン共重合体の含有率は、本発明の変性エチレン共重合体による相溶化効果を有効に得る観点から、5~100質量%が好適であり、本発明の相溶化剤中の本発明の変性エチレン共重合体の含有率は、10質量%以上がより好適であり、20質量%以上が更に好適であり、50質量%が特に好適である。
【0073】
[相溶化方法]
本発明の相溶化方法は、本発明の変性エチレン共重合体の存在下で、極性重合体と非極性重合体とを相溶化する方法である。
【0074】
非極性の重合体としては、ポリプロピレン系重合体、ポリエチレン系重合体等の後述のポリオレフィン系重合体(a)が挙げられる。本発明の変性エチレン共重合体による効果は、特にポリエチレン系重合体と極性の重合体とを相溶化させる場合に、有効に発揮される。
極性の重合体としては、後述の極性重合体(b)、好ましくはエチレン・ビニルアルコール共重合体のようなバリア性の重合体が挙げられる。
【0075】
相溶化させる極性の重合体と非極性の重合体の量比については特に制限はない。実施形態の一例として、非極性の重合体100質量部に対して極性の重合体1~50質量部の幅広い範囲でこれらを相溶化することができる。
【0076】
本発明の相溶化方法において、本発明の変性エチレン共重合体の使用量には特に制限はない。実施形態の一例として、非極性の重合体100質量部に対して0.1~25質量部、特に0.5~15質量部、とりわけ1~10質量部であることが好ましい。変性エチレン共重合体の使用量が上記下限以上であれば、変性エチレン共重合体による相溶化効果を十分に得ることができる。変性エチレン共重合体の使用量が上記上限以下であれば極性の重合体と変性エチレン共重合体による過反応を抑制し易い傾向にある。
【0077】
変性エチレン共重合体は、1種のみを用いてもよく、変性前の原料エチレン共重合体の種類や物性等の異なるものを2種以上混合して用いてもよい。また、前述の変性エチレン共重合体組成物として用いてもよい。
本発明の相溶化方法において、相溶化系内には、本発明の変性エチレン共重合体、極性の重合体及び非極性の重合体以外の他の成分が存在していてもよい。
【0078】
[重合体組成物]
本発明の相溶化方法では、極性重合体、非極性重合体及び本発明の変性エチレン共重合体を含む重合体組成物(以下、「本発明の重合体組成物」と称す場合がある。)を得ることができる。
本発明の重合体組成物は、ポリオレフィン系重合体(a)100質量部に対し、エチレン・ビニルアルコール系共重合体(b1)(以下、「EVOH(b1)」と称す場合がある。)、ポリアミド系重合体(b2)等の極性重合体(b)を0.1~20質量部、本発明の変性エチレン共重合体を0.1~25質量部含有する重合体組成物であることが好ましい。
【0079】
<ポリオレフィン系重合体(a)>
ポリオレフィン系重合体(a)としては、ポリプロピレン;プロピレンと、エチレン、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテンなどのα-オレフィンとを共重合したプロピレン系共重合体;低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレンなどのポリエチレン;エチレンと、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテンなどのα-オレフィンとを共重合したエチレン系共重合体;ポリ(1-ブテン)、ポリ(4-メチル-1-ペンテン)などが挙げられる。
【0080】
ポリオレフィン系重合体(a)は、1種類を単独で用いてもよく、共重合成分組成や物性等の異なるものの2種類以上を混合して用いてもよい。
【0081】
中でも、ポリオレフィン系重合体(a)として、ポリプロピレン、プロピレン系共重合体などのプロピレン系重合体、及びポリエチレン、エチレン系共重合体などのエチレン系重合体が好ましい。
耐熱性に優れた成形品が得られる観点からは、ポリオレフィン系重合体(a)として、プロピレン系重合体が好ましく、ポリプロピレンがより好ましい。
透明性に優れた成形品が得られる観点からは、ポリオレフィン系重合体(a)として、エチレン系重合体が好ましく、ポリエチレンがより好ましく、高密度ポリエチレンが更に好ましい。
【0082】
ポリオレフィン系重合体(a)のメルトフローレート(MFR:190℃又は210℃、2.16kg)は0.01~10g/10分であることが好ましい。ポリオレフィン系重合体(a)のMFRが0.01g/10分以上であれば、極性重合体(b)とポリオレフィン系重合体(a)の溶融粘度の差が大きくなり過ぎず、重合体組成物中の極性重合体(b)の分散性が良好となり、得られる成形品の耐衝撃性に優れる。ポリオレフィン系重合体(a)のMFRが10g/10分以下であれば、得られる成形品の耐衝撃性が良好となる。ポリオレフィン系重合体(a)のMFRは、5g/10分以下がより好ましく、3g/10分以下が更に好ましく、2g/10分以下が特に好ましい。
ポリオレフィン系重合体(a)が複数種類の重合体の混合物である場合、それぞれの重合体のMFRを混合質量比で加重平均した値をポリオレフィン系重合体(a)のMFRとする。
【0083】
<極性重合体(b)>
極性重合体(b)としては、EVOH(b1)、ポリアミド系重合体(b2)といったバリア性極性重合体が挙げられる。ポリアミド系重合体(b2)としては、前述の本発明の改質方法で例示したポリアミド系重合体が挙げられる。
極性重合体(b)は、EVOH(b1)の1種又は2種以上とポリアミド系重合体(b2)の1種又は2種以上を混合して用いてもよい。EVOH(b1)とポリアミド系重合体(b2)を混合して用いる場合、その混合割合には特に制限はない。
【0084】
(EVOH(b1))
EVOH(b1)は、エチレン・ビニルエステル共重合体をけん化することにより得ることができる。ビニルエステルとしては酢酸ビニルが代表的なものとして挙げられるが、その他の脂肪酸ビニルエステル(プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニルなど)も使用できる。エチレン・ビニルエステル共重合体は、公知の任意の重合法、例えば、溶液重合、懸濁重合、エマルジョン重合等により製造される。エチレン・ビニルエステル共重合体のケン化も、公知の方法で行い得る。
【0085】
EVOH(b1)のエチレン単位含有率は、ISO14663に基づいて測定される値で、20~60モル%が好ましい。エチレン単位含有率が20モル%以上であれば、重合体組成物中のEVOH(b1)の高湿時のガスバリア性、溶融成形性が良好となる。EVOH(b1)のエチレン単位含有率は23モル%以上がより好ましい。エチレン単位含有率が60モル%以下であればバリア性に優れる。EVOH(b1)のエチレン単位含有率は55モル%以下がより好ましく、50モル%以下が更に好ましく、50モル%未満が特に好ましい。
【0086】
EVOH(b1)のビニルエステル単位のけん化度は、JIS K6726(ただし、EVOHは水/メタノール溶媒に均一に溶解した溶液にて)に基づいて測定される値で、バリア性、熱安定性、耐湿性の観点から、80モル%以上が好ましく、98モル%以上がより好ましく、99モル%以上が更に好ましい。
【0087】
EVOH(b1)のメルトフローレート(MFR:210℃、2.16kg)は0.1~100g/10分であることが好ましい。EVOH(b1)のMFRが100g/10分以下であれば、EVOH(b1)と酸変性ポリオレフィン(c)の溶融粘度の差が大きくなり過ぎず、重合体組成物中のEVOH(b1)の分散性が良好となり、熱安定性に優れる。EVOH(b1)のMFRは50g/10分以下がより好ましく、30g/10分以下が更に好ましい。EVOH(b1)のMFRが0.1g/10分以上であれば、本発明の変性エチレン共重合体との粘度差が大きくなりすぎず、重合体組成物中のEVOH(b1)の分散性が良好となり、耐衝撃性が良好となる。EVOH(b1)のMFRは0.5g/10分以上がより好ましい。
【0088】
EVOH(b1)は、本発明の効果を阻害しない範囲、一般的には5モル%以下の範囲で、エチレン及びビニルエステル以外の重合性単量体が共重合されていてもよい。このような重合性単量体としては、例えばプロピレン、イソブテン、α-オクテン、α-ドデセン、α-オクタデセン等のα-オレフィン;3-ブテン-1-オール、4-ペンテン-1-オール、3-ブテン-1,2-ジオール等のヒドロキシ基含有α-オレフィン類やそのエステル化物、アシル化物等のヒドロキシ基含有α-オレフィン誘導体;1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパン、1,3-ジプロピオニルオキシ-2-メチレンプロパン、1,3-ジブチロニルオキシ-2-メチレンプロパン等のヒドロキシメチルビニリデンジアセテート類;不飽和カルボン酸またはその塩、部分アルキルエステル、完全アルキルエステル、ニトリル、アミド若しくは無水物;不飽和スルホン酸またはその塩;ビニルシラン化合物;塩化ビニル;スチレン等が挙げられる。
【0089】
EVOH(b1)としては、ウレタン化、アセタール化、シアノエチル化、オキシアルキレン化等の「後変性」されたEVOHを用いることもできる。
【0090】
EVOH(b1)は1種のみを用いてもよく、ビニルエステルの種類、エチレン単位含有率や物性等の異なるものを2種以上混合して用いてもよい。
【0091】
<配合割合>
本発明の重合体組成物は、ポリオレフィン系重合体(a)100質量部に対して極性重合体(b)を0.1~20質量部、本発明の変性エチレン共重合体を0.1~25質量部含有することが好ましい。
【0092】
極性重合体(b)が0.1質量部未満では極性重合体(b)を含有することによるバリア性を十分に得ることができない。極性重合体(b)が20質量部を超えると得られる成形品の耐衝撃性が低下する傾向がある。極性重合体(b)はポリオレフィン系重合体(a)100質量部に対して1~15質量部含有されることがより好ましく、5~10質量部含有されることが更に好ましい。
【0093】
本発明の変性エチレン共重合体が0.1質量部未満では、重合体組成物中の極性重合体(b)の微分散の効果を十分に得ることができず、特に、リサイクル組成物において、透明性の低下や押出工程における異物発生を十分に防止することができない。本発明の変性エチレン共重合体が25質量部を超えると押出工程における異物発生を十分に防止することができない。変性エチレン共重合体はポリオレフィン系重合体(a)100質量部に対して0.5~15質量部含有されることがより好ましく、1~10質量部含有されることが更に好ましい。
【0094】
<その他の成分>
本発明の重合体組成物には、本発明の効果を著しく損なわない範囲で各種目的に応じて、ポリオレフィン系重合体(a)、極性重合体(b)、本発明の変性エチレン共重合体以外の重合体や任意の添加剤等(以下、これらを「その他の成分」と称す。)を配合することができる。その他の成分は、1種類のみを用いても、2種類以上を任意の組合せと比率で併用してもよい。
【0095】
添加剤の例としては、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、充填剤、帯電防止剤を挙げることができる。本発明の重合体組成物中におけるこれらの添加剤の含有量は、その合計で通常50質量%以下であり、20質量%以下が好適であり、10質量%以下がより好適である。
【0096】
<重合体組成物の製造方法>
本発明の重合体組成物を得るための各成分の混合方法について特に制限はなく、以下の方法などが挙げられる。
ポリオレフィン系重合体(a)、極性重合体(b)、本発明の変性エチレン共重合体、及び必要に応じて用いられるその他の成分を一度にドライブレンドして溶融混練する方法;
ポリオレフィン系重合体(a)、極性重合体(b)、本発明の変性エチレン共重合体、及び必要に応じて用いられるその他の成分の一部を予め溶融混練してから、他の成分を配合して溶融混練する方法;
ポリオレフィン系重合体(a)、極性重合体(b)、本発明の変性エチレン共重合体、及び必要に応じて用いられるその他の成分の一部又は全部を含有する多層構造体と、他の成分を配合して溶融混練する方法:
【0097】
本発明の変性エチレン共重合体をリサイクル剤として用いる場合、例えば、本発明の重合体組成物の製造方法として、ポリオレフィン系重合体(a)層及び極性重合体(b)層を含む多層包材の回収物と、本発明の変性エチレン共重合体を含有する相溶化剤とを溶融混練する方法が好適である。ここで、多層包材の回収物とは、当該多層包材からなる成形品を製造する際に発生するバリ等のスクラップや成形時の不合格品等の回収物である。
【0098】
溶融混練のための具体的な方法としては、各成分を、所定の配合割合にて、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、V型ブレンダー等を用いて均一に混合した後、多軸混練押出機、例えば日本製鋼所の2軸混練押出機であるTEX25を用いて混練する方法が例示できる。
【0099】
各成分の溶融混練の温度は、本発明の変性エチレン共重合体のグラフト変性時の温度と同様、通常100~300℃、好ましくは120~280℃、より好ましくは150~260℃である。
【0100】
[成形品]
本発明の改質剤又は相溶化剤を含む重合体組成物を成形することで成形品(以下、「本発明の成形品」と称す場合がある。)とすることができる。
【0101】
本発明の成形品の形状としては、例えば、フィルム、シート、テープ、カップ、トレイ、チューブ、ボトル、パイプ、フィラメント、異型断面押出物、各種不定形成形物等が例示される。
【0102】
重合体組成物の成形方法には特に制限はなく、一般的な重合体組成物に適用可能な成形方法であればいずれも適用することができる。
例えば、押出成形、ブロー成形、射出成形、熱成形等を挙げることができる。
【0103】
成形時においては、成形品の物性を改善したり、目的とする任意の容器形状に成形したりするために、加熱延伸処理が施されることも多い。ここで加熱延伸処理とは、熱的に均一に加熱されたフィルム、シート、パリソン状の成形物を、チャック、プラグ、真空力、圧空力、ブロー等により、カップ、トレイ、チューブ、ボトル、フィルム状に均一に成形する操作を意味する。延伸方法としては、ロール延伸法、テンター延伸法、チューブラー延伸法、延伸ブロー法、真空成形、圧空成形、真空圧空成形等が挙げられる。延伸は、一軸延伸、二軸延伸のいずれであってもよい。二軸延伸の場合は同時二軸延伸方式、逐次二軸延伸方式のいずれの方式も採用できる。延伸温度は通常60~170℃であり、さらには80~160℃が好ましい。
【実施例0104】
以下、実施例を用いて本発明の具体的態様を更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。尚、以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限又は下限の好ましい値としての意味を持つものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0105】
以下の実施例及び比較例において、変性エチレン共重合体及び重合体組成物の製造に用いた原材料は次の通りである。
【0106】
[原料エチレン共重合体]
<成分(A):HDPE>
(バイオマスエチレン共重合体)
・A-1:Braskem社製 SGE7252(MFR(190℃、荷重2.16kg):2g/10分、密度:0.952g/cm3)
・A-2:Braskem社製 SHA7260(MFR(190℃、荷重2.16kg):20g/10分、密度:0.955g/cm3)
(石油由来エチレン共重合体)
・A-3:JPE社製 HY350(MFR(190℃、荷重2.16kg):2g/10分、密度:0.953g/cm3)
<成分(B):LLDPE>
(バイオマスエチレン共重合体)
・B-1:Braskem社製 SLL118(MFR(190℃、荷重2.16kg):1g/10分、密度:0.916g/cm3)
・B-2:Braskem社製 SLL218(MFR(190℃、荷重2.16kg):2.3g/10分、密度:0.918g/cm3)
(石油由来エチレン共重合体)
・B-3:SABIC社製 M200024(MFR(190℃、荷重2.16kg):20g/10分、密度:0.924g/cm3)
【0107】
<成分(C):ラジカル発生剤>
・有機過酸化物 日本油脂(株)製 パーヘキサ25B
【0108】
<成分(D):不飽和カルボン酸成分>
・無水マレイン酸 市販品
【0109】
[ポリアミド系重合体組成物材料]
・ポリアミド系重合体:DSM社製 Novamid 2430J(MFR(230℃、荷重2.16kg):2.3g/10分、密度:1.14g/cm3)
・変性エチレン共重合体:下記に記載の(A’-1)~(A’-3),(B’-1)~(B’-3)
【0110】
[変性エチレン共重合体の製造]
<合成例1>
成分(A-1):100質量部、成分(C):0.07質量部、及び成分(D):1.5質量部をドライブレンドして混合し、2軸押出機(日本製鋼所社製、TEX25αIII、D=25mmφ、L/D=52.5)を用い、設定温度260℃、スクリュー回転数400rpm、押出量20kg/hで溶融混練し、ストランドカットによりペレット状の無水マレイン酸により変性された変性エチレン共重合体(A’-1)を得た。得られた変性エチレン共重合体(A’-1)について、前述の方法でMFR(190℃、2.16kg)、グラフト率を測定した。グラフト率については、溶融混練後の変性エチレン共重合体のアセトン抽出前と、アセトン抽出後について、それぞれ測定した。アセトン抽出前はグラフトされた無水マレイン酸とフリーの無水マレイン酸を含む値であり、アセトン抽出後はグラフトされた無水マレイン酸の値である。
測定結果を表-1に示す。
なお、この変性エチレン共重合体(A’-1)は、バイオマスエチレン共重合体のみを変性に供したものであり、そのバイオマス度は約96%である。
【0111】
<合成例2~6>
配合組成を表-1に示したように変更した以外は合成例1と同様にして、それぞれ変性エチレン共重合体(A’-2)、(A’-3)、(B’-1)、(B’-2)、(B’-3)を得た。得られた変性エチレン共重合体を用いて、合成例1と同様に、MFR(190℃、2.16kg)、グラフト率を測定した。測定結果を表-1に示す。
なお、変性エチレン共重合体(A’-2)、(B’-1)、(B’-2)はバイオマスエチレン共重合体のみを変性に供したものであり、そのバイオマス度はいずれも約85%以上であるが、変性エチレン共重合体(A’-3)及び(B’-3)は、石油由来のエチレン共重合体のみを用いており、バイオマス度は0%である。
【0112】
【0113】
[ポリアミド系重合体組成物の製造と評価]
<実施例1>
DSM社製 Novamid 2430J:80質量部に対し、合成例1の変性エチレン共重合体(A’-1):20質量部を改質剤としてドライブレンドして混合し、2軸押出機(日本製鋼所社製、TEX25αIII、D=25mmφ、L/D=52.5)を用い、設定温度260℃、スクリュー回転数400rpm、押出量20kg/hで溶融混練し、ストランドカットによりペレット状サンプルを得た。得られたペレット状サンプルについて下記(1)および(2)の評価を行った。評価結果を表-2に示す。
【0114】
<実施例2および3、比較例1~3>
配合組成を表-2に示したように変更した以外は実施例1と同様にして、ペレット状サンプルを得た。得られたペレット状サンプルについて、下記(1)および(2)の評価を行った。評価結果を表-2に示す。
【0115】
[評価方法]
(1)外観
東芝機械社製の射出成形機「IS130GN-5A」を用い、成形温度260℃、スクリュー回転30%の条件で厚み2mmの射出成形シートを作製した。得られたシートを目視により比較し、表面が平滑の場合は〇、表面荒れなどにより平滑でない場合は×とした。
【0116】
(2)衝撃強度
上記にて作製した厚み2mmの射出成形シートを用い、JIS K7110(1984)を参考にIZOD衝撃強度を測定した。
【0117】
【0118】
[考察]
表-2に示すように、本発明の変性エチレン共重合体を用いた実施例1~4は、外観および耐衝撃性に優れる結果となった。一方、比較例1および2では外観は良好なものの耐衝撃性に劣る結果となった。
本発明の変性エチレン共重合体を用いた場合に耐衝撃性が良好であった理由として、本発明の変性エチレン共重合体はその原料であるバイオマスエチレン共重合体に由来して、低分子量成分が比較例で使用した石油由来の変性エチレン共重合体より少なかったためと推察される。即ち、一般的に低分子量成分は凝集力が低いため耐衝撃性等の機械物性の低下要因となるが、バイオマスエチレン共重合体を用いた本発明の変性エチレン共重合体は、低分子量成分が少ないため、耐衝撃性等の機械物性に優れたものとなる。