(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024164651
(43)【公開日】2024-11-27
(54)【発明の名称】射出成形機および射出成形機の制御方法
(51)【国際特許分類】
B29C 45/76 20060101AFI20241120BHJP
B29C 45/17 20060101ALI20241120BHJP
F25B 1/00 20060101ALI20241120BHJP
【FI】
B29C45/76
B29C45/17
F25B1/00 399Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080292
(22)【出願日】2023-05-15
(71)【出願人】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石黒 亮
(72)【発明者】
【氏名】菅原 貴弘
【テーマコード(参考)】
4F206
【Fターム(参考)】
4F206AJ08
4F206AK13
4F206AR06
4F206JA07
4F206JD01
4F206JL02
4F206JN43
4F206JQ11
4F206JQ41
4F206JQ81
4F206JQ90
4F206JT02
4F206JT32
(57)【要約】
【課題】エネルギーの利用効率を高めて射出成形機の省エネルギー化を図る。
【解決手段】射出成形機はヒートポンプ6を有する。ヒートポンプ6は、膨張弁77で膨張された作動媒体Wと蓄電池4を冷却する冷却機構5から熱を吸収した熱媒体H1との熱交換を行う熱交換器71と、熱交換器71で熱交換された作動媒体Wを圧縮する圧縮機75と、圧縮機75によって圧縮された作動媒体Wとシリンダ10に熱を放出した熱媒体H2との熱交換を行う熱交換器72と、熱交換器72で熱交換された作動媒体Wを膨張させる膨張弁78と、膨張弁78で膨張された作動媒体Wと空気から熱を吸収した熱媒体H3との熱交換を行う熱交換器73と、熱交換器73で熱交換された作動媒体Wを圧縮する圧縮機76と、圧縮機76によって圧縮された作動媒体Wと金型20に熱を放出した熱媒体H4との熱交換を行う熱交換器74と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形材料を加熱して溶融させるシリンダと、前記シリンダの内部で回転し、前記成形材料を混練するスクリュとを備える射出装置と、
前記シリンダから押し出された前記成形材料が注入される金型が取り付けられる型締装置と、
充放電可能な蓄電池と、
前記蓄電池を冷却する冷却機構と、
作動媒体を循環させ、前記作動媒体と複数の熱媒体との間で熱を移動させるヒートポンプと、を有し、
前記ヒートポンプは、
前記作動媒体を膨張させる第1膨張弁と、
前記第1膨張弁で膨張された前記作動媒体と、前記冷却機構から熱を吸収した前記熱媒体の一つとの熱交換を行う第1熱交換器と、
前記第1熱交換器で熱交換された前記作動媒体を圧縮する第1圧縮機と、
前記第1圧縮機によって圧縮された前記作動媒体と、前記シリンダに熱を放出した前記熱媒体の他の一つとの熱交換を行う第2熱交換器と、
前記第2熱交換器で熱交換された前記作動媒体を膨張させる第2膨張弁と、
前記第2膨張弁で膨張された前記作動媒体と、空気から熱を吸収した前記熱媒体のさらに他の一つとの熱交換を行う第3熱交換器と、
前記第3熱交換器で熱交換された前記作動媒体を圧縮する第2圧縮機と、
前記第2圧縮機によって圧縮された前記作動媒体と、前記型締装置に取り付けられた前記金型に熱を放出した前記熱媒体のさらに他の一つとの熱交換を行う第4熱交換器と、を備える、射出成形機。
【請求項2】
請求項1に記載の射出成形機において、
前記シリンダの長手方向一方側に、ホッパと連通する供給口が設けられ、
前記第2熱交換器で熱交換される前記熱媒体は、前記供給口が設けられている前記シリンダの長手方向一方側と前記第2熱交換器との間を往復する、射出成形機。
【請求項3】
請求項2に記載に射出成形機において、
前記蓄電池の温度は、第1温度に維持され、
前記金型の温度は、前記第1温度よりも高い第2温度に維持され、
前記シリンダの長手方向一方側の温度は、前記第1温度よりも高く、前記第2温度よりも低い第3温度に維持される、射出成形機。
【請求項4】
請求項1に記載の射出成形機において、
前記蓄電池は、前記スクリュを駆動する電動機に電力を供給する、射出成形機。
【請求項5】
シリンダおよびスクリュを備える射出装置と、金型が取り付けられた型締装置と、冷却機構によって冷却される充放電可能な蓄電池と、ヒートポンプと、を有する射出成形機の制御方法であって、
前記ヒートポンプを制御して、前記蓄電池の温度,前記金型の温度および前記シリンダの長手方向一方側の温度の少なくとも一つを調整する温調制御を行う、射出成形機の制御方法。
【請求項6】
請求項5に記載の射出成形機の制御方法において、
前記温調制御では、前記蓄電池の温度を第1温度に維持し、前記金型の温度を前記第1温度よりも高い第2温度に維持し、前記シリンダの長手方向一方側の温度を前記第1温度よりも高く、前記第2温度よりも低い第3温度に維持する、射出成形機の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形機および射出成形機の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
所望形状の樹脂部品や金属部品(以下“成形品”と総称する場合がある。)を形成する射出成形機が知られている。従来の射出成形機の一つは、各部に必要な電力を供給する電源として、蓄電池を備えている。
【0003】
特開2020-069756号公報(特許文献1)には、蓄電池から供給される直流電圧で作動可能な電動射出成形機が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
エネルギーの利用効率を高めて射出成形機の省エネルギー化を図ることが望まれる。
【0006】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一実施の形態によれば、射出成形機は、作動媒体を循環させ、作動媒体と複数の熱媒体との間で熱を移動させるヒートポンプを有する。ヒートポンプは、作動媒体を膨張させる第1膨張弁と、第1膨張弁で膨張された作動媒体と蓄電池を冷却する冷却機構から熱を吸収した熱媒体の一つとの熱交換を行う第1熱交換器と、第1熱交換器で熱交換された作動媒体を圧縮する第1圧縮機と、第1圧縮機によって圧縮された作動媒体とシリンダに熱を放出した熱媒体の他の一つとの熱交換を行う第2熱交換器と、第2熱交換器で熱交換された作動媒体を膨張させる第2膨張弁と、第2膨張弁で膨張された作動媒体と空気から熱を吸収した熱媒体のさらに他の一つと熱交換を行う第3熱交換器と、第3熱交換器で熱交換された作動媒体を圧縮する第2圧縮機と、第2圧縮機によって圧縮された作動媒体と、型締装置に取り付けられた金型に熱を放出した熱媒体のさらに他の一つとの熱交換を行う第4熱交換器と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
一実施の形態によれば、射出成形機の省エネルギー化が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】一実施の形態の射出成形機の構成を示す模式図である。
【
図2】一実施の形態のヒートポンプの構成を示す模式図である。
【
図3】温調制御の手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、一実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するために参照する全ての図面において、同一または実質的に同一の機能を有する部材や機器などには同一の符号を付す。また、一度説明した部材や機器などについては、原則として繰り返しの説明は行わない。
【0011】
<射出成形機の構成>
図1は、本実施の形態の射出成形機1の構成を示す模式図である。射出成形機1は、射出装置2,型締装置3,蓄電池4,冷却機構5及びヒートポンプ6を有している。
【0012】
射出装置2は、シリンダ10と、シリンダ10の上方に配置されたホッパ11と、シリンダ10の内部に配置されたスクリュ12と、シリンダ10の周囲に配置されたヒータとを備えている。より特定的には、シリンダ10の長手方向一方側には供給口10aが設けられている。ホッパ11は、供給口10aの上方に配置され、供給口10aを介してシリンダ10の内部と連通している。
【0013】
以下の説明では、供給口10aが設けられているシリンダ10の長手方向一方側の端部を“基端部10b”と呼んで、シリンダ10のその他の部分と区別する場合がある。つまり、ホッパ11は、シリンダ10の基端部10bの上方に配置されている。別の見方をすると、ホッパ11の下方に位置しているシリンダ10の基端側(後端側)の一部が基端部10bである。
【0014】
ホッパ11には成形材料が投入される。例えば、ビーズ状やペレット状に加工された樹脂材料がホッパ11に投入される。ホッパ11に投入された成形材料は、供給口10aを通過してシリンダ10内に落下する。
【0015】
シリンダ10の後方には電動モータ13,14が設けられている。電動モータ13は、スクリュ12を回転させる電動機である。スクリュ12は、電動モータ13から出力され、減速機などを介して入力される駆動力により回転する。電動モータ14は、スクリュ12を前後進させる電動機である。スクリュ12は、電動モータ14から出力され、減速機などを介して入力される駆動力により前後進する。
【0016】
型締装置3には金型20が取り付けられている。金型20は、型締装置3の固定盤に取り付けられている固定金型21と、型締装置3の可動盤に取り付けられている可動金型22と、から構成される。型締装置3の可動盤が固定盤に対して移動することにより、可動金型22が固定金型21に対して移動する。つまり、金型20が開閉する。
【0017】
蓄電池4は、リチウムイオン電池であって、射出成形機1の各部に必要な電力を供給する電源として利用される。本実施の形態では、蓄電池4は、少なくとも電動モータ13に電力を供給する。なお、蓄電池4はリチウムイオン電池に限定されない。蓄電池4は、充放電機能を有し、繰り返し利用できる他の電池に置換することができる。蓄電池4は、例えば、鉛蓄電池,ナトリウム硫黄電池,ナトリウムイオン電池,ニッケル水素電池またはレドックスフロー電池に置換することができる。また、複数の種類の電池を組み合わせて使用してもよい。
【0018】
蓄電池4は、充放電可能であり、充放電に伴って発熱する。蓄電池4が高温になると、蓄電池4の性能が低下する。より特定的には、蓄電池4を構成している電解液,電極,セパレータ等が高温になると、蓄電池4を構成する電池部材の劣化により、出力特性や電池容量が低下する。そこで、本実施の形態では、蓄電池4を冷却する冷却機構5が設けられている。冷却機構5は、冷却水を貯める冷却槽を備えており、蓄電池4は冷却槽に貯められている冷却水の中に沈められる。
【0019】
なお、蓄電池4は、スクリュ12を前後進させるための電動モータ15,型締装置3の可動盤を移動させるための電動モータ,油圧シリンダに作動油を供給するための電動ポンプ,シリンダ10の加熱用ヒータ、ヒートポンプ6等の各所にも電力を供給し得る。
【0020】
ヒートポンプ6は、作動媒体を循環させ、作動媒体と複数の熱媒体との間で熱を移動させる。ヒートポンプ6は、シリンダ10,金型20,冷却機構5及び空調機7のそれぞれと流路を介して繋がっている。より特定的には、ヒートポンプ6と冷却機構5とは、熱媒体の流路である流路61を介して繋がっている。同様に、ヒートポンプ6とシリンダ10とは、他の一つの熱媒体の流路である流路62を介して繋がっている。また、ヒートポンプ6と空調機7とは、さらに他の一つの熱媒体の流路である流路63を介して繋がっている。ヒートポンプ6と金型20とは、さらに他の一つの熱媒体の流路である流路64を介して繋がっている。ヒートポンプ6については、後に改めて説明する。
【0021】
<射出成形機の動作>
ホッパ11は、投入された成形材料(樹脂材料)をシリンダ10に供給する。樹脂材料は、シリンダ10内で加熱され、溶融する。スクリュ12は、溶融した樹脂材料(溶融樹脂)を混練しながらシリンダ10の先端側に送り、スクリュ12と射出ノズル16との間に充填する。
【0022】
なお、樹脂材料は、シリンダ10の周囲に設けられているバンドヒータ等の熱源から発せられる熱や、せん断発熱によって加熱され、溶融する。
【0023】
スクリュ12と射出ノズル16との間に充填された溶融樹脂は、金型20のキャビティ内に注入(射出)される。より特定的には、スクリュ12と射出ノズル16との間に必要な量の溶融樹脂が充填されると、スクリュ12がシリンダ10内で前方に移動する。この結果、射出ノズル16の先端から溶融樹脂が押し出され、金型20のキャビティ内に射出される。
【0024】
キャビティ内に射出された溶融樹脂は、キャビティ内で冷却され凝固する。溶融樹脂が凝固した後、金型20が開かれ、成形品が取り出される。
【0025】
射出成形機1は、上記のようなプロセスを繰り返し、同一形状の成形品を連続的に製造する。つまり、同一形状の成形品を量産する。
【0026】
<ヒートポンプの構成>
図2は、ヒートポンプ6の構成を示す模式図である。ヒートポンプ6は、作動媒体Wが循環する環状流路60を有している。作動媒体Wには、環境負荷が少ない自然冷媒(二酸化炭素)が用いられている。もっとも、作動媒体Wは特定の流体に限定されない。例えば、空気,水,アンモニア,炭化水素なども作動媒体Wとして用いることができる。
【0027】
環状流路60上には、熱交換器71,72,73,74と、圧縮機75,76と、膨張弁77,78と、が設けられている。ヒートポンプ6は、少なくとも圧縮機75,76及び膨張弁77,78を制御する制御部79をさらに有している。
【0028】
熱交換器71は、熱媒体H1の流路61を介して冷却機構5と繋がっている。熱交換器72は、熱媒体H2の流路62を介してシリンダ10と繋がっている。より特定的には、熱交換器72は、流路62を介してシリンダ10の基端部10bと繋がっている。
【0029】
熱交換器73は、熱媒体H3の流路63を介して空調機7と繋がっている。熱交換器74は、熱媒体H4の流路64を介して金型20と繋がっている。
【0030】
熱媒体H1,H2,H3,H4には水が用いられている。もっとも、熱媒体H1,H2,H3,H4は特定の流体に限定されない。例えば、油やエチレングリコール等も熱媒体H1,H2,H3,H4として用いることができる。
【0031】
なお、環状流路60や流路61,62,63,64は、パイプやホース等の管部材によって形成されている。また、環状流路60や流路61,62,63,64には、バッファ部や蛇行部などが必要に応じて設けられる。
【0032】
<ヒートポンプの動作>
環状流路60を流れる作動媒体Wは、熱交換器71,圧縮機75,熱交換器72,膨張弁78,熱交換器73,圧縮機76,熱交換器74,膨張弁77を循環する。
【0033】
流路61を流れる熱媒体H1は、熱交換器71と冷却機構5との間を往復し、冷却槽に貯められている冷却水から熱を吸収する。例えば、熱媒体H1は、流路61を通って熱交換器71から冷却機構5に移動する。冷却機構5に移動した熱媒体H1は、冷却槽の内部や周囲に設けられている冷却管を通過する間に、冷却槽内の冷却水の熱を吸収する。この結果、冷却水が冷却され、冷却水中の蓄電池4も冷却される。冷却管を通過した熱媒体H1は、流路61を通って熱交換器71に移動する(戻る)。
【0034】
流路62を流れる熱媒体H2は、熱交換器72とシリンダ10の基端部10bとの間を往復し、基端部10bに熱を放出する。例えば、熱媒体H2は、流路62を通って熱交換器72からシリンダ10に移動する。シリンダ10に移動した熱媒体H2は、シリンダ10の基端部10bの周囲に設けられている加熱管を通過する間に周囲に熱を放出する。この結果、シリンダ10の基端部10bが加熱される。加熱管を通過した熱媒体H2は、流路62を通って熱交換器72に移動する(戻る)。
【0035】
流路63を流れる熱媒体H3は、熱交換器73と空調機7との間を往復し、空気から熱吸収する。例えば、熱媒体H3は、流路63を通って熱交換器73から空調機7に移動する。空調機7に移動した熱媒体H3は、空調機7の内部に設けられている冷却管を通過する間に周囲の空気から熱を吸収する。熱を奪われた冷却管の周囲の空気は、空調機7が備えるファン7aにより、冷風として外部に送出される。冷却管を通過した熱媒体H3は、流路63を通って熱交換器73に移動する(戻る)。なお、空調機7は、例えば、射出成形機1のオペレータ用のスポットクーラである。
【0036】
流路64を流れる熱媒体H4は、熱交換器74と金型20との間を往復し、金型20に熱を放出する。例えば、熱媒体H4は、流路64を通って熱交換器74から金型20に移動する。金型20に移動した熱媒体H4は、金型20の内部や周囲に設けられている加熱管を通過する間に周囲に熱を放出する。この結果、金型20が加熱される。加熱管を通過した熱媒体H4は、流路64を通って熱交換器74に移動する(戻る)。
【0037】
熱交換器71は、作動媒体Wと熱媒体H1との熱交換を行う。別の見方をすると、熱媒体H1が冷却機構5を介して蓄電池4から吸収した熱が熱交換器71内で作動媒体Wへ移動する。すると、熱媒体H1の温度は低下し、作動媒体Wの温度および圧力は上昇する。
【0038】
言い換えれば、熱媒体H1は熱交換器71内で放熱し、作動媒体Wは熱交換器71内で吸熱する。この結果、作動媒体Wの少なくとも一部は気化(蒸発)する。つまり、熱交換器71は、熱媒体H1との熱交換によって作動媒体Wの少なくとも一部を気化させる蒸発器である。
【0039】
放熱によって温度が低下した熱媒体H1は、冷却機構5に移動して再び熱を吸収する。一方、吸熱によって温度および圧力が上昇した作動媒体Wは、圧縮機75に流入する。
【0040】
圧縮機75は、流入した作動媒体Wを圧縮する。圧縮機75から流出した高温高圧の作動媒体Wは、熱交換器72に流入する。
【0041】
熱交換器72は、作動媒体Wと熱媒体H2との熱交換を行う。別の見方をすると、圧縮機75によって圧縮された作動媒体Wの熱が熱交換器72内で熱媒体H2へ移動する。すると、作動媒体Wの温度および圧力は低下し、熱媒体H2の温度は上昇する。
【0042】
言い換えれば、作動媒体Wは熱交換器72内で放熱し、熱媒体H2は熱交換器72内で吸熱する。この結果、作動媒体Wの少なくとも一部は液化(凝縮)する。つまり、熱交換器72は、熱媒体H2との熱交換によって作動媒体Wの少なくとも一部を液化させる凝縮器である。
【0043】
吸熱によって温度が上昇した熱媒体H2は、シリンダ10の基端部10bに移動して再び熱を放出する。一方、放熱によって温度および圧力が低下した作動媒体Wは、膨張弁78に流入する。
【0044】
膨張弁78は、流入した作動媒体Wを膨張させ、温度および圧力をさらに低下させる。膨張弁78から流出した低温低圧の作動媒体Wは、熱交換器73に流入する。
【0045】
熱交換器73は、作動媒体Wと熱媒体H3との熱交換を行う。別の見方をすると、熱媒体H3が空調機7を介して周囲の空気から吸収した熱が熱交換器73内で作動媒体Wへ移動する。すると、熱媒体H3の温度は低下し、作動媒体Wの温度および圧力は上昇する。
【0046】
言い換えれば、熱媒体H3は熱交換器73内で放熱し、作動媒体Wは熱交換器73内で吸熱する。この結果、作動媒体Wの少なくとも一部は気化(蒸発)する。つまり、熱交換器73は、熱媒体H3との熱交換によって作動媒体Wの少なくとも一部を気化させる蒸発器である。
【0047】
放熱によって温度が低下した熱媒体H3は、空調機7に移動して再び熱を吸収する。一方、吸熱によって温度および圧力が上昇した作動媒体Wは、圧縮機76に流入する。
【0048】
圧縮機76は、流入した作動媒体Wを圧縮する。圧縮機76から流出した高温高圧の作動媒体Wは、熱交換器74に流入する。
【0049】
熱交換器74は、作動媒体Wと熱媒体H4との熱交換を行う。別の見方をすると、圧縮機76によって圧縮された作動媒体Wの熱が熱交換器74内で熱媒体H4へ移動する。すると、作動媒体Wの温度および圧力は低下し、熱媒体H4の温度は上昇する。
【0050】
言い換えれば、作動媒体Wは熱交換器74内で放熱し、熱媒体H4は熱交換器74内で吸熱する。この結果、作動媒体Wの少なくとも一部は液化(凝縮)する。つまり、熱交換器74は、熱媒体H4との熱交換によって作動媒体Wの少なくとも一部を液化させる凝縮器である。
【0051】
吸熱によって温度が上昇した熱媒体H4は、金型20に移動して再び熱を放出する。一方、放熱によって温度および圧力が低下した作動媒体Wは、膨張弁77に流入する。
【0052】
膨張弁77は、流入した作動媒体Wを膨張させ、温度および圧力をさらに低下させる。膨張弁77から流出した低温低圧の作動媒体Wは、熱交換器71に流入し、熱媒体H1から再び熱を吸収する。
【0053】
ヒートポンプ6では、上記のような熱交換サイクルが繰り返され、作動媒体Wと熱媒体H1,H2、H3,H4との間で熱が移動する。この結果、熱媒体H1によって冷却水が冷却され、冷却水中の蓄電池4の温度が設定温度に維持される。本実施の形態では、蓄電池4の温度が20℃~30℃に維持される。
【0054】
また、熱媒体H2によってシリンダ10の基端部10bが加熱され、基端部10bの温度が設定温度に維持される。本実施の形態では、シリンダ10の基端部10bの温度が50℃~100℃に維持される。
【0055】
また、空調機7から設定温度に調整された空気(冷風)が送出される。本実施の形態では、20℃~30℃の冷風が空調機7から送出される。
【0056】
さらに、熱媒体H4によって金型20が加熱され、金型20の温度が設定温度に維持される。本実施の形態では、金型20の温度が70℃~100℃に維持される。
【0057】
<射出成形機の制御方法(温調制御)>
射出成形機1では、シリンダ10の基端部10b,金型20及び蓄電池4の温度を設定温度や設定温度範囲内に調整する温調制御を含む制御方法が実施される。温調制御が行われると、ヒートポンプ6の冷却能力や加熱能力が調節され、シリンダ10の基端部10b,金型20及び蓄電池4の温度が設定温度や設定温度範囲内に維持される。
【0058】
例えば、温調制御が行われると、蓄電池4の温度は30℃に維持される。また、金型20の温度は、蓄電池4の温度よりも高い90℃に維持される。さらに、シリンダ10の基端部10bの温度は、蓄電池4の温度よりも高く、かつ、金型20の温度よりも低い50℃~80℃に維持される。
【0059】
図3は、温調制御の手順の一例を示すフローチャートである。温調制御が開始されると、ステップS10~S15を含む蓄電池温調制御と、ステップS20~S25を含むシリンダ温調制御と、ステップS30~S35を含む金型温調制御と、の少なくとも一つが実行される。
【0060】
なお、シリンダ10の基端部10bの温度と金型20の温度との関係は、ホッパ11から投入される原料の種類によって異なる。よって、上記温度の関係(高低)は、一例に過ぎない。
【0061】
<蓄電池温調制御>
ステップS10が実行されると、蓄電池4の温度監視が開始される。温度監視は、蓄電池4や冷却機構5の内部や周囲に設けられている温度センサの検出結果に基づいて行われる。
【0062】
ステップS10に続くステップS11では、蓄電池4の温度が設定温度を下回っているか否かが判定される。例えば、蓄電池4の温度が30℃以下であるか否かが判定される。ステップS11で蓄電池4の温度が設定温度を下回っていると判定されると、ステップS10に戻って温度監視が継続される。
【0063】
一方、ステップS11で蓄電池4の温度が設定温度を上回っていると判定されると、ステップS12が実行され、ヒートポンプ6の運転が開始される。より特定的には、ヒートポンプ6の制御部79は、圧縮機75,76や膨張弁77,78の全部または一部を制御して蓄電池4を冷却する。
【0064】
ステップS12に続くステップS13では、蓄電池4の温度が設定温度を下回っているか否かが再び判定される。ステップS13で蓄電池4の温度が設定温度を下回っていると判定されると、ステップS10に戻って温度監視が継続される。
【0065】
一方、ステップS13で蓄電池4の温度が設定温度を上回っていると判定されると、ステップS14が実行され、ヒートポンプ6の冷却能力が増強される。より特定的には、制御部79は、蓄電池4に対するヒートポンプ6の冷却能力が増強されるように、圧縮機75,76や膨張弁77,78の全部または一部を制御する。
【0066】
ステップS14に続くステップS15では、蓄電池4の温度が設定温度を下回っているか否かが再び判定される。ステップS15で蓄電池4の温度が設定温度を下回っていると判定されると、ステップS10に戻って温度監視が継続される。
【0067】
一方、ステップS15で蓄電池4の温度が設定温度を上回っていると判定されると、ステップS14に戻り、蓄電池4に対するヒートポンプ6の冷却能力がさらに増強される。
【0068】
なお、ステップS13又はステップS15からステップS10に戻る前に、ヒートポンプ6の運転を停止させたり、ヒートポンプ6の冷却能力を低下させたりしてもよい。
【0069】
<シリンダ温調制御>
ステップS20が実行されると、シリンダ10の基端部10bの温度監視が開始される。温度監視は、シリンダ10の内部や周囲に設けられている温度センサの検出結果に基づいて行われる。
【0070】
ステップS20に続くステップS21では、シリンダ10の基端部10bの温度が設定温度範囲内であるか否かが判定される。例えば、基端部10bの温度が50℃~80℃であるか否かが判定される。ステップS21で基端部10bの温度が設定温度範囲内であると判定されると、ステップS20に戻って温度監視が継続される。
【0071】
一方、ステップS21で基端部10bの温度が設定温度範囲の下限値を下回っていると判定されると、ステップS22が実行され、ヒートポンプ6の運転が開始される。より特定的には、ヒートポンプ6の制御部79は、圧縮機75,76や膨張弁77,78の全部または一部を制御してシリンダ10の基端部10bを加熱する。
【0072】
ステップS22に続くステップS23では、基端部10bの温度が設定温度範囲内であるか否かが再び判定される。ステップS23で基端部10bの温度が設定温度範囲内であると判定されると、ステップS20に戻って温度監視が継続される。
【0073】
一方、ステップS23で基端部10bの温度が設定温度範囲の下限値を下回っていると判定されると、ステップS24が実行され、ヒートポンプ6の加熱能力が増強される。より特定的には、制御部79は、シリンダ10の基端部10bに対するヒートポンプ6の加熱能力が増強されるように、圧縮機75,76や膨張弁77,78の全部または一部を制御する。
【0074】
ステップS24に続くステップS25では、基端部10bの温度が設定温度範囲内であるか否かが再び判定される。ステップS25で基端部10bの温度が設定温度範囲内であると判定されると、ステップS20に戻って温度監視が継続される。
【0075】
一方、ステップS25で基端部10bの温度が設定温度範囲の下限値を下回っていると判定されると、ステップS24に戻り、シリンダ10の基端部10bに対するヒートポンプ6の加熱能力がさらに増強される。
【0076】
なお、ステップS23又はステップS25からステップS20に戻る前に、ヒートポンプ6の運転を停止させたり、ヒートポンプ6の加熱能力を低下させたりしてもよい。
【0077】
<金型温調制御>
ステップS30が実行されると、金型20の温度監視が開始される。温度監視は、金型20の内部や周囲に設けられている温度センサの検出結果に基づいて行われる。
【0078】
ステップS30に続くステップS31では、金型20の温度が設定温度を上回っているか否かが判定される。例えば、金型20の温度が90℃以上であるか否かが判定される。ステップS31で金型20の温度が設定温度を上回っていると判定されると、ステップS30に戻って温度監視が継続される。
【0079】
一方、ステップS31で金型20の温度が設定温度を下回っていると判定されると、ステップS32が実行され、ヒートポンプ6の運転が開始される。より特定的には、ヒートポンプ6の制御部79は、圧縮機75,76や膨張弁77,78の全部または一部を制御して金型20を加熱する。
【0080】
ステップS32に続くステップS33では、金型20の温度が設定温度を下回っているか否かが再び判定される。ステップS33で金型20の温度が設定温度を上回っていると判定されると、ステップS30に戻って温度監視が継続される。
【0081】
一方、ステップS33で金型20の温度が設定温度を下回っていると判定されると、ステップS34が実行され、ヒートポンプ6の加熱能力が増強される。より特定的には、制御部79は、金型20に対するヒートポンプ6の加熱能力が増強されるように、圧縮機75,76や膨張弁77,78の全部または一部を制御する。
【0082】
ステップS34に続くステップS35では、金型20の温度が設定温度を上回っているか否かが再び判定される。ステップS35で金型20の温度が設定温度を上回っていると判定されると、ステップS30に戻って温度監視が継続される。
【0083】
一方、ステップS35で金型20の温度が設定温度を下回っていると判定されると、ステップS34に戻り、金型20に対するヒートポンプ6の加熱能力がさらに増強される。
【0084】
なお、ステップS33又はステップS35からステップS30に戻る前に、ヒートポンプ6の運転を停止させたり、ヒートポンプ6の加熱能力を低下させたりしてもよい。
【0085】
なお、ホッパ11の下方に位置しているシリンダ10の基端部10bの温度を調整する目的の一つは、シリンダ10に供給された成形樹脂が溶融を開始するタイミングを管理するためである。また、金型20の温度を調整する目的の一つは、成形品の品質を向上させるためである。
【0086】
上記のように、本実施の形態の射出成形機1では、シリンダ10や金型20の加熱と蓄電池4の冷却や空調とがヒートポンプ6による熱交換を利用して行われている。つまり、射出成形機1では、熱エネルギーが効率良く利用されており、省エネルギー化が実現されている。
【0087】
別の見方をすると、射出成形機1は、電動ファンが生み出す冷却風や、電動ポンプによって循環される冷却水によって蓄電池が冷却される他の射出成形機に比べて、エネルギーの利用効率が高い。言い換えれば、射出成形機1では、蓄電池4がより少ないエネルギーで効率良く冷却されている。
【0088】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づいて具体的に説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。例えば、シリンダ10,金型20,蓄電池4に関する設定温度や設定温度範囲は、適宜変更することができる。
【0089】
作動媒体Wと熱媒体H1,H2,H3,H4とは、同一の流体であってもよく、異なる流体であってもよい。また、一つの熱媒体と他の一つの熱媒体とが異なっていてもよい。
【0090】
シリンダ10や金型20に関する設定温度が射出成形の各工程で異なる場合がある。例えば、溶融樹脂が注入されるときの金型20の設定温度と、溶融樹脂が注入された後の金型20の設定温度とが異なる場合がある。
【0091】
そこで、他の一実施の形態では、ヒートポンプ6の制御部79は、スクリュ12や金型20の作動状況に応じて圧縮機75,76や膨張弁77,78を制御する。例えば、制御部79は、スクリュ12や金型20の作動状況に応じて圧縮機76を制御して、金型20の温度を異なる2以上の設定温度に調整(変更)する。このような場合、ヒートポンプ6の制御部79は、スクリュ12や金型20の作動を制御する他の制御部と相互に通信可能に接続される。
【0092】
また、他の一実施の形態では、流路61,62,63,64の少なくとも一つに、熱媒体の流量を制御可能なバルブが設けられる。流路61,62,63,64に設けられたバルブは、温度センサによって検出される加熱対象や冷却対象の温度に応じて開閉されたり、開度が変更されたりする。例えば、一実施の形態では、蓄電池4の温度が閾値を上回ると、流路61に設けられたバルブが開かれ、閾値を下回るとバルブが閉じられる。
【0093】
また、流路61,62,63,64に設けられたバルブは、ヒートポンプ6の冷却能力や加熱能力の調節のためにも利用され得る。例えば、一実施の形態では、
図3に示されているステップS14で、流路61に設けられているバルブの開度が変更される。
【0094】
上記のようなバルブの制御は、ヒートポンプ6の制御部79によって行われてもよく、制御部79とは別の他の制御部によって行われてもよい。
【0095】
冷却機構5は、上述の『水槽方式』に限定されない。冷却機構5は、例えば、蓄電池4の周囲に設けられた配管に冷却水を流して蓄電池4を冷却する『冷却水配管方式』や、冷却水により冷却された空気(冷却風)によって蓄電池4を冷却する『冷却ファン方式』であってもよい。冷却水配管方式や冷却ファン方式で用いられる冷却水も、熱媒体H1との熱交換によって冷却される。
【0096】
空調機7は、ヒートポンプ6の制御部79,射出装置2の制御部,型締装置3の制御部,その他の制御部を冷却する冷却装置に置換することができる。
【0097】
シリンダ10に供給される成形材料は、樹脂材料に限られない。例えば、他の一実施の形態では、バインダを含む金属材料(金属粉末)がシリンダ10に供給される。
【0098】
蓄電池4は、射出成形機1の主電源として利用されてもよく、補助電源やバックアップ電源として利用されてもよい。
【符号の説明】
【0099】
1…射出成形機、2…射出装置、3…型締装置、4…蓄電池、5…冷却機構、6…ヒートポンプ、7…空調機、7a…ファン、10…シリンダ、10a…供給口、10b…基端部、11…ホッパ、12…スクリュ、13,14…電動モータ、16…射出ノズル、20…金型、21…固定金型、22…可動金型、60…環状流路、61,62,63,64…流路、71,72,73,74…熱交換器、75,76…圧縮機、77,78…膨張弁、79…制御部、H1,H2,H3,H4…熱媒体、W…作動媒体