IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本メナード化粧品株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024164662
(43)【公開日】2024-11-27
(54)【発明の名称】骨格筋幹細胞の分化促進剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/758 20060101AFI20241120BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20241120BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241120BHJP
   A61K 8/9789 20170101ALI20241120BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20241120BHJP
   A61Q 17/04 20060101ALI20241120BHJP
   A61Q 1/12 20060101ALI20241120BHJP
   C12N 5/0775 20100101ALI20241120BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20241120BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20241120BHJP
【FI】
A61K36/758
A61P21/00
A61P43/00 107
A61K8/9789
A61Q19/00
A61Q17/04
A61Q1/12
C12N5/0775 ZNA
A23L33/105
C12N15/09 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080307
(22)【出願日】2023-05-15
(71)【出願人】
【識別番号】592262543
【氏名又は名称】日本メナード化粧品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮地 克真
(72)【発明者】
【氏名】眞田 歩美
(72)【発明者】
【氏名】山田 貴亮
(72)【発明者】
【氏名】坂井田 勉
【テーマコード(参考)】
4B018
4B065
4C083
4C088
【Fターム(参考)】
4B018MD61
4B018ME14
4B018MF01
4B065AA93X
4B065AC20
4B065BB26
4B065BC05
4B065BD16
4B065CA41
4B065CA44
4C083AA111
4C083AA112
4C083CC04
4C083CC05
4C083CC07
4C083CC12
4C083CC19
4C083CC23
4C083CC24
4C083CC25
4C083DD31
4C083DD41
4C083EE11
4C083EE17
4C083FF01
4C088AB62
4C088AC04
4C088CA05
4C088CA06
4C088CA08
4C088NA14
4C088ZA94
4C088ZB22
(57)【要約】
【課題】骨格筋幹細胞に作用してその分化を促進し、骨格筋を簡便かつ効率的に再生することができる、安全性が高い天然物由来の素材を見出し、骨格筋幹細胞の分化促進剤及び骨格筋再生促進剤として提供すること。
【解決手段】サンショウの抽出物を有効成分として含有する骨格筋幹細胞の分化促進剤又は骨格筋再生促進剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンショウの抽出物を有効成分として含有する、骨格筋幹細胞の分化促進剤。
【請求項2】
サンショウの抽出物を有効成分として含有する、骨格筋再生促進剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の剤を含む、骨格筋再生用組成物。
【請求項4】
前記組成物が、化粧品、医薬部外品、医薬品、又は飲食品である、請求項3に記載の骨格筋再生用組成物。
【請求項5】
骨格筋幹細胞を、サンショウの抽出物を含有する培地で培養する工程を含む、骨格筋幹細胞の分化促進方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨格筋幹細胞の分化促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
生体の骨格筋は加齢とともに委縮が生じ、サルコペニアを含むロコモティブ症候群を発症する可能性がある。近年の研究では、骨格筋の老化が心不全の危険因子であることや、様々な疾患の治療及び予防において、健常な骨格筋の維持が重要であることがわかってきた。この骨格筋の加齢変化には個人差はあるものの、様々な要因が関与していると考えられており、例えば、慢性炎症や酸化ストレス、幹細胞、各種ホルモン、アポトーシス、インスリン抵抗性などが挙げられるが、特に重要なのは、骨格筋組織に存在する骨格筋幹細胞であると考えられている。骨格筋幹細胞は筋衛星細胞とも呼ばれ、必要に応じて、増殖と分化が促されることで筋組織が再生され、恒常性が維持されている。具体的には、骨格筋幹細胞は筋線維の周囲に静止状態を保ちながら点在しているが、筋損傷のシグナルを受け取ると増殖が促され、続いて筋芽細胞へと分化し、最終的には筋線維の一部となって生着する。筋再生が終わると一部の幹細胞は筋線維の周囲で再び静止状態を保ち、次の筋損傷に備えるようになっている(非特許文献1)。近年では、加齢によって、筋組織中の筋衛星細胞の数が減少し、また、個々の筋衛星細胞の再生能力も低下することもわかってきた(非特許文献2)。
【0003】
また、顔の頬や目、鼻、口などを動かす表情筋も加齢によって劣化する。例えば、眼輪筋は目の周りにある表情筋の一つで、目の閉じ開きを行っているが、加齢に伴い、筋肉が薄くなり、脂肪組織が押し出されることで目元のタルミの原因となることがわかっている。よって、骨格筋幹細胞の分化を制御し、骨格筋再生を促す機能性物質を探索及び同定することは、加齢性の筋委縮に対する医療上の有用性のみならず、美容上においても重要なアプローチであると考えられる。これまで筋再生を促進するいくつかの手段が検討されており、例えば、ヒスタミンH受容体アゴニスト活性を有する化合物を有効成分とする筋産生促進剤(特許文献1)、コンドロイチン硫酸分解酵素を有効成分とする骨格筋再生促進剤(特許文献2)等が報告されているが、骨格筋幹細胞(筋衛星細胞)に作用するものではなく、天然物由来ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-184002号公報
【特許文献2】国際公開WO2013/039244
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Stem Cell Reports. 2020 Oct 13;15(4):926-940. Damaged Myofiber-Derived Metabolic Enzymes Act as Activators of Muscle Satellite Cells
【非特許文献2】Development. 2021 Jan 20;148(2):dev194480. Satellite cell expansion is mediated by P-eIF2α-dependent Tacc3 translation
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上述した実情に鑑み、骨格筋幹細胞に作用してその分化を促進し、骨格筋を簡便かつ効率的に再生することができる、安全性が高い天然物由来の素材を見出し、骨格筋幹細胞の分化促進剤及び骨格筋再生促進剤として提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、サンショウの抽出物が、骨格筋幹細胞に対する優れた分化促進効果を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下を包含する。
(1)サンショウの抽出物を有効成分として含有する、骨格筋幹細胞の分化促進剤。
(2)サンショウの抽出物を有効成分として含有する、骨格筋再生促進剤。
(3)(1)又は(2)に記載の剤を含む、骨格筋再生用組成物。
(4)前記組成物が、化粧品、医薬部外品、医薬品、又は飲食品である、(3)に記載の骨格筋再生用組成物。
(5)骨格筋幹細胞を、サンショウの抽出物を含有する培地で培養する工程を含む、骨格筋幹細胞の分化促進方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、骨格筋幹細胞の分化を促進し、骨格筋を簡便かつ効率的に再生することができる、骨格筋幹細胞の分化促進剤及び骨格筋再生促進剤が提供される。従って、本発明の骨格筋幹細胞の分化促進剤及び骨格筋再生促進剤は、加齢に伴う身体や顔の骨格筋の衰えが原因となるサルコペニア、筋力低下、シワ、タルミ等の改善及び予防に有効であり、抗加齢医療、美容医療の分野において大きく貢献できるものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係る骨格筋幹細胞の分化促進剤、骨格筋の再生促進剤(以下、「本発明の剤」ともいう)は、サンショウの抽出物を有効成分として含有する。
【0011】
本発明において、「骨格筋幹細胞」とは、筋線維の細胞膜と基底膜の間に存在し、筋衛星細胞(サテライト細胞)と呼ばれる単核の幹細胞をいう。筋線維が損傷するなどの刺激を受けると、骨格筋幹細胞は活性化されて筋芽細胞になり、筋芽細胞は数回の細胞分裂によって増殖した後、筋細胞へと分化し、複数の筋細胞が互いに融合して、多核の筋管が形成される。よって、骨格筋幹細胞の増殖と分化の促進により、骨格筋再生が促進される。本発明において、骨格筋幹細胞の由来は、限定されず、ヒト、サル、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ等の哺乳動物の骨格筋幹細胞に対して効果を発揮することができる。
【0012】
「骨格筋」とは、主に骨格の可動部分に付着し、姿勢の保持や運動に働く筋肉をいう。骨格筋の組織は、筋線維という多核の巨大細胞から構成され、骨格筋幹細胞である筋衛星細胞が筋線維1本あたり数個~数十個が接着し、この筋衛星細胞の働きによって再生する。骨格筋の細胞は、MYOG(Myogenin)、DES(Desmin)、CKM(Creatine Kinase Muscle)、MHC3(Myosin heavy chain 3)、MLC1(Myosin light chain 1)、骨格筋トロポニンI(Skeletal Muscle Troponin-I)、Mb(Myoglobin)、FABP(Fatty acid-binding protein)などの骨格筋特異的マーカーの遺伝子発現やタンパク質発現、多核、筋繊維の形成などの形態、収縮能などの機能等によって特徴づけられる。
【0013】
本発明に用いるサンショウ(山椒、学名:Zanthoxylum piperitum)は、ミカン科サンショウ属の落葉低木で、日本にも多く自生している。また、生薬の「サンショウ」(和名:山椒)の基原植物でもある。本発明において用いることのできるサンショウとしては、ミカン科サンショウ属のブドウザンショウ(学名:Zanthoxylum piperitum(L.)DC. f. inerme Makino)、アサクラザンショウ(Zanthoxylum piperitum (L.)DC forma inerme (Makino) Makino)、イヌザンショウ(Zanthoxylum schinifolium)、ヤマアサクラザンショウ(Zanthoxylum piperitum (L.)DC forma brevispinosum Makino)などが挙げられ、なかでもブドウザンショウが好ましい。
【0014】
本発明においてサンショウの抽出物とは、サンショウの花、果実、果皮、茎、葉、枝、根、種子等の植物体の一部又は植物体全体、あるいはそれらの混合物の抽出物をいうが、本発明において抽出原料として使用する部位は、果皮、果実、種子が好ましい。果皮(粉山椒)は、薬味として市販されているものを用いることができる。
【0015】
サンショウから抽出物を得るための抽出方法は特に限定されず、例えば、加熱抽出方法であっても良いし、常温や冷温抽出方法であっても良い。抽出溶媒は、水もしくは熱水、又は水と有機溶媒の混合溶媒を用いることができる。有機溶媒としては、低級アルコール類(メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール等)、液状多価アルコール類(1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン等)、アセトニトリル、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル等)、炭化水素類(ヘキサン、ヘプタン、流動パラフィン等)、エーテル類(エチルエーテル、テトラヒドロフラン、プロピルエーテル等)などを用いることができるが、エタノール、メタノール、アセトン、n-プロパノール、t-ブタノール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール等の水溶性有機溶媒が好ましく、これらの一種又は二種以上を混合して用いてもよい。なかでも、水-エタノール系の混合極性溶媒(30~70v/v%のエタノール水溶液)、水がより好ましく、50v/v%のエタノール水溶液がさらに好ましい。また、上記抽出溶媒に酸やアルカリを添加して、pH調整した溶媒を使用することもできる。
【0016】
溶媒の使用量については、特に限定はなく、例えば抽出原料(乾燥重量)に対し、10倍以上、好ましくは20倍以上であればよいが、抽出後に濃縮を行なったり、単離したりする場合の操作の便宜上100倍以下であることが好ましい。また、抽出温度や時間は、用いる溶媒の種類によるが、例えば、10~100℃、好ましくは30~90℃で、30分~24時間、好ましくは1~10時間を例示することができる。より具体的には、例えば、サンショウの果皮に水を加え、95~100℃における熱水抽出を行うことで、サンショウの抽出物を得ることができる。あるいは、サンショウの果皮に低級アルコール(例えば、エタノール等)を添加し、常温(例えば5~35℃)で抽出を行うことで、サンショウの抽出物を得ることができる。
【0017】
抽出物は、抽出した溶液のまま用いてもよいが、必要に応じて、その効果に影響のない範囲で、濃縮(有機溶媒、減圧濃縮、膜濃縮などによる濃縮)、希釈、濾過、活性炭等による脱色、脱臭、エタノール沈殿等の処理を行ってから用いてもよい。さらには、抽出した溶液を濃縮乾固、噴霧乾燥、凍結乾燥等の処理を行い、乾燥物として用いてもよい。
【0018】
このようにして得られたサンショウの抽出物は、生体レベル(生体内)で又は培養レベル(生体外)でも骨格筋幹細胞から骨格筋への分化を促進する作用を有するので、骨格筋幹細胞の分化促進剤、骨格筋の再生促進剤の有効成分として用いることができる。
【0019】
本発明の剤におけるサンショウの抽出物の含有量は、特に限定されないが、例えば、当該薬剤全量に対し、乾燥物に換算して0.00001~10重量%であることが好ましく、0.0001~1重量%とすることがより好ましい。
【0020】
本発明の剤は、生体外では、骨格筋幹細胞から骨格筋への分化を促進するための細胞培養用培地添加剤、研究用試薬、医療用試薬として使用することができる。
【0021】
また、本発明の剤を生体内に使用する場合は、そのまま使用することも可能であるが、本発明の効果を損なわない範囲で適当な添加物とともに、化粧品、医薬品、医薬部外品、飲食品等の各種組成物に配合し、骨格筋再生促進用組成物として提供することができる。なお、本発明の医薬品には、動物に用いる薬剤、即ち獣医薬も包含されるものとする。
【0022】
本発明の剤を、例えば、表情筋(口輪筋、大・小頬骨筋、眼輪筋、オトガイ筋等)の衰えによるシワ、たるみ、くぼみなどの改善を目的として使用する場合は、化粧品や医薬部外品の形態や、美容ドリンクなどの飲食品の形態とすることが好ましい。また、本発明の剤を、例えば、骨格筋の損傷や機能低下に起因する疾患(例えばサルコペニア等)の治療及び/又は予防を目的として使用する場合は、医薬品やサプリメントの形態で使用することが好ましい。
【0023】
本発明の剤を化粧品や医薬部外品に配合する場合は、皮膚外用組成物が好ましく、水溶液系、可溶化系、乳化系、粉末系、粉末分散系、油液系、ゲル系、軟膏系、エアゾール系、水-油二層系、又は水-油-粉末三層系等のいずれの剤形でもよい。また、当該化粧品や医薬部外品は、上記サンショウの抽出物とともに、皮膚外用組成物において通常使用されている各種成分、添加剤、基剤等をその種類に応じて選択し、適宜配合し、当分野で公知の手法に従って製造することができる。その形態は、液状、乳液状、クリーム状、ゲル状、ペースト状、スプレー状等のいずれであってもよい。皮膚外用組成物の配合成分としては、例えば、油脂類(オリーブ油、ヤシ油、月見草油、ホホバ油、ヒマシ油、硬化ヒマシ油等)、ロウ類(ラノリン、ミツロウ、カルナウバロウ等)、炭化水素類(流動パラフィン、スクワレン、スクワラン、ワセリン等)、脂肪酸類(ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸等)、高級アルコール類(ミリスチルアルコール、セタノール、セトステアリルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール等)、エステル類(ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、オクタン酸セチル、トリオクタン酸グリセリン、ミリスチン酸オクチルドデシル、ステアリン酸オクチル、ステアリン酸ステアリル等)、有機酸類(クエン酸、乳酸、α-ヒドロキシ酢酸、ピロリドンカルボン酸等)、糖類(マルチトール、ソルビトール、キシロビオース、N-アセチル-D-グルコサミン等)、蛋白質及び蛋白質の加水分解物、アミノ酸類及びその塩、ビタミン類(β-カロテン(ビタミンA)、ビタミンC、ビタミンE等)、植物・動物抽出成分、種々の界面活性剤、保湿剤、紫外線吸収剤、pH調整剤、安定化剤、防腐剤、殺菌剤、香料等が挙げられる。
【0024】
化粧品や医薬部外品の種類としては、例えば、化粧水、乳液、ジェル、美容液、一般クリーム、日焼け止めクリーム、パック、マスク、洗顔料、化粧石鹸、ファンデーション、おしろい、浴用剤、ボディローション、ボディシャンプー等が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0025】
本発明の剤を医薬品に配合する場合は、薬理学的及び製剤学的に許容しうる添加物と混合し、患部に適用するのに適した製剤形態の各種製剤に製剤化することができる。薬理学的及び製剤学的に許容しうる添加物としては、その剤形、用途に応じて、適宜選択した製剤用基材や担体、賦形剤、希釈剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、崩壊剤又は崩壊補助剤、安定化剤、保存剤、防腐剤、増量剤、分散剤、湿潤化剤、緩衝剤、溶解剤又は溶解補助剤、等張化剤、pH調整剤、噴射剤、着色剤、甘味剤、矯味剤、香料等を適宜添加し、公知の種々の方法にて経口又は非経口的に全身又は局所投与することができる各種製剤形態に調製すればよい。本発明の医薬品を上記の各形態で提供する場合、通常当業者に用いられる製法、たとえば日本薬局方の製剤総則[2]製剤各条に示された製法等により製造することができる。
【0026】
経口投与用製剤には、例えば、デンプン、ブドウ糖、ショ糖、果糖、乳糖、ソルビトール、マンニトール、結晶セルロース、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、リン酸カルシウム、又はデキストリン等の賦形剤;カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、デンプン、又はヒドロキシプロピルセルロース等の崩壊剤又は崩壊補助剤;ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、アラビアゴム、又はゼラチン等の結合剤;ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、又はタルク等の滑沢剤;ヒドロキシプロピルメチルセルロース、白糖、ポリエチレングリコール、又は酸化チタン等のコーティング剤;ワセリン、流動パラフィン、ポリエチレングリコール、ゼラチン、カオリン、グリセリン、精製水、又はハードファット等の基剤などを用いることができるが、これらに限定はされない。
【0027】
非経口投与用製剤には、蒸留水、生理食塩水、エタノール、グリセリン、プロピレングリコール、マクロゴール、ミョウバン水、植物油等の溶剤;ブドウ糖、塩化ナトリウム、D-マンニトール等の等張化剤;無機酸、有機酸、無機塩基又は有機塩基等のpH調整剤などを用いることができるが、これらに限定はされない。
【0028】
本発明の医薬品の形態としては、特に制限されるものではないが、例えば錠剤、糖衣錠剤、カプセル剤、トローチ剤、顆粒剤、散剤、液剤、丸剤、乳剤、シロップ剤、懸濁剤、エリキシル剤などの経口剤、注射剤(例えば、皮下注射剤、静脈内注射剤、筋肉内注射剤、腹腔内注射剤)、点滴剤、座剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤、貼付剤などの非経口剤などが挙げられる。また、使用する際に再溶解させる乾燥生成物にしてもよく、注射用製剤の場合は単位投与量アンプル又は多投与量容器の状態で提供される。
【0029】
本発明の医薬品の有効成分は、天然物由来であるため、安全性が高く副作用がないため、骨格筋の損傷や機能低下に起因する疾患の予防及び/又は治療用医薬として用いる場合、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ等の哺乳動物に対して広い範囲の投与量で経口的に又は非経口的に投与することができる。
【0030】
本発明の骨格筋再生促進用組成物は、それに配合するサンショウの抽出物が、骨格筋幹細胞から骨格筋への分化を促進させる作用を有することから、筋分化促進、筋量の増加、筋肥大などの効果が期待され、骨格筋の損傷や機能低下に起因する病態又は疾患を治療、改善、及び予防するのに有効である。骨格筋の損傷や機能低下に起因する病態又は疾患としては、顔の骨格筋の場合は、加齢に伴う表情筋(口輪筋、大・小頬骨筋、眼輪筋、オトガイ筋等)の衰えによる頬、額、目じりのシワやタルミ、ほうれい線、マリオネットライン、瞼のくぼみ、目の下(涙袋や目袋)のタルミ、ハリや弾力の低下等が挙げられる。また、身体の骨格筋の場合は、サルコペニア、ロコモティブシンドローム、身体的フレイル、酸化ストレス・外傷・筋疾患(筋ジスロフィー、筋委縮性側索硬化症(ALS)、脊髄性進行性筋委縮症(SPMA)など)による筋委縮や筋損傷が挙げられる。筋委縮には、筋肉そのものに原因がある筋原性委縮、運動ニューロンに原因のある神経原性筋委縮、長期に筋肉を使用しなかったことによる廃用性筋委縮が含まれる。また上記酸化ストレスは、紫外線、大気汚染、喫煙、薬剤、過度な運動、心身のストレスによるものなど原因は問わない。
【0031】
本発明の化粧品、医薬部外品、医薬品の使用量又は投与量は、その種類や形態、使用又は投与対象の年齢、性別、体重、症状の程度などに応じて適宜決定することができる。例えば、成人に経口投与する場合には、サンショウの抽出物として0.1~1000mg/日、好ましくは1~500mg/日、より好ましくは5~300mg/日の範囲で、それぞれ1日1回から数回行う。上記投与範囲より少ない量で十分な場合もあるし、また、範囲を超えて投与する必要がある場合もある。
【0032】
前記サンショウの抽出物を化粧品、医薬部外品、医薬品に配合する場合、その含有量は特に限定されないが、製剤(組成物)全重量に対して、サンショウの抽出物の乾燥固形分に換算して、0.001~30重量%(w/w)が好ましく、0.01~10重量%(w/w)がより好ましい。0.001重量%(w/w)未満では効果が低く、また30重量%(w/w)を超えても効果に大きな増強はみられにくい。又、製剤化における有効成分の添加法については、予め加えておいても、製造途中で添加してもよく、作業性を考えて適宜選択すればよい。
【0033】
また、本発明の剤は、飲食品にも配合できる。飲食品の形態で提供することによって、本発明の有効成分を日常的に摂取したり、継続的に摂取したりすることが容易となる。本発明において、飲食品とは、一般的な飲食品のほか、医薬品以外で健康の維持や増進を目的として摂取できる食品、例えば、健康食品、機能性食品、保健機能食品、又は特別用途食品を含む意味で用いられる。健康食品には、栄養補助食品、健康補助食品、サプリメント等の名称で提供される食品を含む。保健機能食品は食品衛生法又は食品増進法により定義され、特定の保健の効果や栄養成分の機能、疾病リスクの低減などを表示できる、特定保健用食品及び栄養機能食品が含まれる。飲食品の形態は、食用に適した形態、例えば、固形状、液状、顆粒状、粒状、粉末状、カプセル状、クリーム状、ペースト状のいずれであってもよい。
【0034】
飲食品の種類としては、パン類、麺類、菓子類、乳製品、水産・畜産加工食品、油脂及び油脂加工食品、調味料、各種飲料(清涼飲料、炭酸飲料、美容ドリンク、栄養飲料、果実飲料、乳飲料など)及び該飲料の濃縮原液及び調整用粉末等が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0035】
本発明の飲食品は、その種類に応じて通常使用される添加物を適宜配合してもよい。添加物としては、食品衛生上許容されうる添加物であればいずれも使用できるが、例えば、ブドウ糖、ショ糖、果糖、異性化液糖、アスパルテーム、ステビア等の甘味料;クエン酸、リンゴ酸、酒石酸等の酸味料;デキストリン、澱粉等の賦形剤;結合剤、希釈剤、香料、着色料、緩衝剤、増粘剤、ゲル化剤、安定剤、保存剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、防腐剤などが挙げられる。
【0036】
本発明の飲食品における上記サンショウの抽出物の配合量は、骨格筋再生促進作用を発揮できる量であればよいが、対象飲食品の一般的な摂取量、飲食品の形態、効能・効果、呈味性、嗜好性及びコストなどを考慮して適宜設定すればよい。
【0037】
本発明はまた、骨格筋幹細胞を、サンショウの抽出物を含有する培地で培養する工程を含む、骨格筋幹細胞の骨格筋への分化促進方法に関する。
【0038】
本発明に係る方法において用いる培地は、間葉系幹細胞の増殖、分化、成熟のために一般的に使用されている培地を用いればよい。また、培養方法の条件及び操作は、当該技術分野で常套的な条件及び操作に従って行うことができる。例えば、細胞の生存及び増殖に必要な成分(無機塩、炭水化物、ホルモン、必須アミノ酸、非必須アミノ酸、ビタミン、脂肪酸)を含む基本培地、具体的には、Dulbecco’s Modified Eagle Medium(D-MEM)、Minimum Essential Medium(MEM)、RPMI 1640、Basal Medium Eagle(BME)、Dulbecco’s Modified Eagle Medium:Nutrient Mixture F-12(D-MEM/F-12)、Glasgow Minimum Essential Medium(Glasgow MEM)、ハンクス液(Hank’s balanced salt solution)等が挙げられる。分化誘導の際には、インスリン様成長因子1(IGF-1)、筋細胞分化誘導因子として、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、血小板由来成長因子(PDGF)の1種以上を添加する。また、必要に応じて、培地には、上皮細胞増殖因子(EGF)、腫瘍壊死因子(TNF)、ビタミン類、インターロイキン類、インスリン、ビオチン、トランスフェリン、ヘパリン、ヘパラン硫酸、コラーゲン、フィブロネクチン、プロゲステロン、セレナイト、B27-サプリメント、N2-サプリメント、ITS-サプリメント等を添加してもよく、また、抗生物質(ペニシリン、ストレプトマイシン、デキサメサゾン、アンフォテリシンB等)等を添加してもよい。培地の各成分は、各々適する方法で滅菌して使用する。上記各成分を基本培地に適宜添加した市販品の培地を使用することもできる。
【0039】
また、上記以外には、1~20%の含有率で血清が培地に含まれることが好ましい。しかしながら、血清はロットの違いにより成分が異なり、その効果にバラツキがあるため、ロットチェックを行った後に使用することが好ましい。
【0040】
市販品の骨格筋幹細胞の専用維持培地としては、クラボウ社製のStemLife Sk Comp kit、専用分化培地としてはクラボウ社製のMyoLife Complete Myogenesis Dif. Med等を用いることができる。
【0041】
細胞の培養に用いる培養器は、例えば、フラスコ、シャーレ、ディッシュ、プレート、チャンバースライド、チューブ、トレイ、培養バッグ、ローラーボトルなどが挙げられる。
【0042】
培養器は、細胞非接着性であっても接着性であってもよく、目的に応じて適宜選択される。細胞接着性の培養器は、細胞との接着性を向上させる目的で、細胞外マトリックス等による細胞支持用基質などで処理したものを用いてもよい。細胞外基質としては、例えば、コラーゲン、ゼラチン、ポリ-L-リジン、ポリ-D-リジン、ラミニン、フィブロネクチンなどが挙げられる。
【0043】
細胞培養に使用される培地に対するサンショウの抽出物の添加濃度は、例えば0.1~1000μg/mL、好ましくは1~100μg/mLの濃度が挙げられる。また、細胞の培養期間中、サンショウの抽出物を、定期的に培地に添加してもよい。
【0044】
細胞の培養条件は、通常の条件に従えばよく、特別な制御は必要ではない。例えば、培養温度は、特に限定されるものではないが約30~40℃、好ましくは36~37℃である。COガス濃度は、例えば約1~10%、好ましくは約2~5%である。なお、培地の交換は2~3日に1回行うことが好ましく、毎日行うことがより好ましい。前記培養条件は、細胞が生存及び増殖可能な範囲で適宜変動させて設定することもできる。
【0045】
骨格筋幹細胞の骨格筋への分化は、例えば、サンショウの抽出物の非存在下で培養した細胞と比較して、サンショウの抽出物存在下で培養した細胞において、骨格筋のマーカーであるMYOG(Myogenin)やDES(Desmin)の発現レベルがmRNAレベル又はタンパク質レベルで培養開始時の発現レベルに比べて有意に増加しているか否かを決定することで確認することができる。mRNAレベルでは、例えばMYOG遺伝子又はDES遺伝子に特異的なプライマーやプローブを用いたRT-PCR、定量PCRやノーザンブロッティングによって確認する方法が挙げられる。また、タンパク質レベルでは、例えばMYOG遺伝子又はDES遺伝子によりコードされるタンパク質に特異的な抗体を用いたELISA、フローサイトメトリー、ウエスタンブロッティング等の免疫学的方法が挙げられる。
【実施例0046】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0047】
[実施例1] サンショウの抽出物の製造例
サンショウの抽出物を以下のとおり製造した。
(製造例1)ブドウザンショウの種子の熱水抽出物の製造
ブドウザンショウ種子の乾燥物10gに200mLの水を加え、95~100℃で2時間抽出した。得られた抽出液を濾過し、そのろ液を濃縮し、凍結乾燥してブドウザンショウ種子の熱水抽出物を1.3g得た。
【0048】
(製造例2)ブドウザンショウの種子の50%エタノール抽出物の製造
ブドウザンショウ種子の乾燥物10gを200mLの50%(v/v)エタノール水溶液に室温で4日間浸漬した。得られた抽出液を濾過した後エバポレーターで濃縮乾固してブドウザンショウ種子の50%エタノール抽出物を1.0g得た。
【0049】
(製造例3)ブドウザンショウの種子のエタノール抽出物の製造
ブドウザンショウ種子の乾燥物10gを200mLのエタノール水溶液に室温で4日間浸漬した。得られた抽出液を濾過した後エバポレーターで濃縮乾固してブドウザンショウ種子のエタノール抽出物を0.6g得た。
【0050】
(製造例4)ブドウザンショウの果皮の熱水抽出物の製造
ブドウザンショウ果皮の乾燥物10gに200mLの水を加え、95~100℃で2時間抽出した。得られた抽出液を濾過し、そのろ液を濃縮し、凍結乾燥してブドウザンショウ果皮の熱水抽出物を2.3g得た。
【0051】
(製造例5)ブドウザンショウの果皮の50%エタノール抽出物の製造
ブドウザンショウ果皮の乾燥物10gを200mLの50%(v/v)エタノール水溶液に室温で4日間浸漬した。得られた抽出液を濾過した後エバポレーターで濃縮乾固してブドウザンショウ果皮の50%エタノール抽出物を1.0g得た。
【0052】
(製造例6)ブドウザンショウの果皮のエタノール抽出物の製造
ブドウザンショウ果皮の乾燥物10gを200mLのエタノール水溶液に室温で4日間浸漬した。得られた抽出液を濾過した後エバポレーターで濃縮乾固してブドウザンショウ果皮のエタノール抽出物を0.5g得た。
【0053】
(製造例7)ブドウザンショウの果実の熱水抽出物の製造
ブドウザンショウ果実(果皮と種子を含む)の乾燥物10gに200mLの水を加え、95~100℃で2時間抽出した。得られた抽出液を濾過し、そのろ液を濃縮し、凍結乾燥してブドウザンショウ果実の熱水抽出物を1.5g得た。
【0054】
(製造例8)ブドウザンショウの果実の50%エタノール抽出物の製造
ブドウザンショウ果実(果皮と種子を含む)の乾燥物10gを200mLの50%(v/v)エタノール水溶液に室温で4日間浸漬した。得られた抽出液を濾過した後エバポレーターで濃縮乾固してブドウザンショウ果実の50%エタノール抽出物を1.0g得た。
【0055】
(製造例9)ブドウザンショウの果実のエタノール抽出物の製造
ブドウザンショウ果実(果皮と種子を含む)の乾燥物10gを200mLのエタノール水溶液に室温で4日間浸漬した。得られた抽出液を濾過した後エバポレーターで濃縮乾固してブドウザンショウ果実のエタノール抽出物を0.5g得た。
【0056】
[実施例2]サンショウの抽出物の骨格筋幹細胞に対する分化促進効果の評価
市販のヒト正常骨格筋幹細胞(別名:正常ヒト骨格筋サテライト細胞)(KURABO社製)にサンショウの抽出物を作用させ、サンショウの抽出物が骨格筋幹細胞の分化促進にどのように関わっているかを評価した。専用の維持培地StemLife Sk Comp kit(KURABO社製)にて培養した骨格筋幹細胞を24ウェルの培養プレートに1×10個ずつ播種してコンフルエントになるまで2日間培養を行った。細胞がコンフルエントになったら、培地を専用の分化培地MyoLife Complete Myogenesis Dif. Med(KURABO社製)に置き換えると同時に、被験物質(製造例1~9のサンショウの抽出物)を最終濃度が10μg/mlとなるように添加して培養した。サンショウ抽出物の添加2日後の細胞を回収し、骨格筋の分化マーカーであるMYOG(Myogenin)とDES(Desmin)の遺伝子発現量を解析した。
【0057】
MYOG及びDESの遺伝子発現解析は次の通り行った。サンショウの抽出物添加後の細胞をPBS(-)にて2回洗浄した後、Trizol Reagent(Invitrogen社製)によって該細胞からRNAを抽出した。コントロールとして分化誘導前の細胞も回収し、同様に遺伝子発現解析を行った。2-STEPリアルタイムPCRキット(Applied Biosystems社製)を用いて、抽出したRNAをcDNAに逆転写した後、ABI7300(Applied Biosystems社製)により、下記のプライマーセットを用いてリアルタイムPCR(95℃:15秒間、60℃:30秒間、40cycles)を実施し、MYOG及びDESの遺伝子発現量を測定した。その他の操作は定められた方法に従って実施した。
【0058】
MYOG(骨格筋分化マーカー)用プライマーセット:
5'-CAGTGAATATTGGGAACCTTCCAG-3'(配列番号1)
5'-ATGGCAGCTTTACAAACAACAC-3'(配列番号2)
DES(骨格筋分化マーカー)用プライマーセット:
5'-CAGCCAACAAGAACAACGAC-3'(配列番号3)
5'-GGAATCGTTAGTGCCCTTCAG-3'(配列番号4)
18srRNA(内部標準)用プライマーセット:
5'-CCGAGCCGCCTGGATAC-3'(配列番号5)
5'-CAGTTCCGAAAACCAACAAAATAGA-3'(配列番号6)
【0059】
骨格筋幹細胞の分化促進効果は、分化誘導開始前の骨格筋幹細胞における分化マーカーであるMYOG及びDESのmRNAの発現量を内部標準である18s ribosomal RNA(18srRNA)の発現量に対する割合として算出した遺伝子相対発現量(分化マーカー遺伝子発現量/18srRNA遺伝子発現量)の値を1とし、これに対し、培養2日後の細胞におけるMYOG及びDESの遺伝子相対発現量の値を算出し、評価した。これらの試験結果を以下の表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
表1に示されるように、サンショウの抽出物が骨格筋幹細胞の分化を誘導・促進することが示された。抽出部位として果皮、抽出溶媒として50%エタノールを使用した場合により有効性が高かった。
【0062】
[実施例3]過酸化水素による骨格筋幹細胞の分化障害時におけるサンショウの抽出物の有効性
骨格筋組織は激しい運動などによって損傷が生じると組織に活性酸素が蓄積することが分かっている。活性酸素が骨格筋幹細胞の分化誘導に及ぼす影響を解析するとともにサンショウの抽出物を作用させた場合の有効性を評価した。専用の維持培地StemLife Sk Comp kit(KURABO社製)にて培養した骨格筋幹細胞を24ウェルの培養プレートに1×10個ずつ播種してコンフルエントになるまで培養を行った。細胞がコンフルエントになったら、培地を専用の分化培地MyoLife Complete Myogenesis Dif. Med(KURABO社製)に置き換えると同時に、活性酸素Hを最終濃度が100μMとなるように添加した。また、被験物質(製造例1~9のサンショウの抽出物)を最終濃度が10μg/mlとなるように同時に添加して培養し、3日後の細胞を回収し、骨格筋の分化マーカーであるMYOG(Myogenin)とDES(Desmin)の遺伝子発現量を指標に解析した。
【0063】
MYOG及びDESの遺伝子発現解析は次の通り行った。サンショウの抽出物添加後の細胞をPBS(-)にて2回洗浄した後、Trizol Reagent(Invitrogen社製)によって該細胞からRNAを抽出した。コントロールとして分化誘導前の細胞も回収し、同様に遺伝子発現解析を行った。2-STEPリアルタイムPCRキット(Applied Biosystems社製)を用いて、抽出したRNAをcDNAに逆転写した後、ABI7300(Applied Biosystems社製)により、実施例2に記載のプライマーセットを用いてリアルタイムPCR(95℃:15秒間、60℃:30秒間、40cycles)を実施し、MYOG及びDESの遺伝子発現量を測定した。その他の操作は定められた方法に従って実施した。
【0064】
骨格筋幹細胞の分化促進効果は、分化誘導開始前の骨格筋幹細胞における分化マーカーであるMYOG及びDESのmRNAの発現量を内部標準である18s ribosomal RNA(18srRNA)の発現量に対する割合として算出した遺伝子相対発現量(分化マーカー遺伝子発現量/18srRNA遺伝子発現量)の値を1とし、これに対し、培養3日後の細胞におけるMYOG及びDESの遺伝子相対発現量の値を算出し、評価した。これらの試験結果を以下の表2に示す。
【0065】
【表2】
【0066】
表2に示す通り、過酸化水素が骨格筋幹細胞の分化を抑制することが示された。サンショウ抽出物を同時に添加した場合、活性酸素による骨格筋幹細胞の分化抑制を改善することが示された。抽出部位として果皮、抽出溶媒として50%エタノールを使用した場合により有効性が高かった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の骨格筋幹細胞の分化促進剤は、生体内で又は生体外で、骨格筋幹細胞の分化を促進し、骨格筋を再生することができる。よって、本発明は、抗加齢用の化粧品や医薬品の製造分野において利用できる。
【配列表】
2024164662000001.xml