(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024164686
(43)【公開日】2024-11-27
(54)【発明の名称】電極材料の回収方法および再生蓄電デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/54 20060101AFI20241120BHJP
【FI】
H01M10/54
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080351
(22)【出願日】2023-05-15
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 浩治
(74)【代理人】
【識別番号】100218084
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊光
(72)【発明者】
【氏名】内田 陽三
【テーマコード(参考)】
5H031
【Fターム(参考)】
5H031RR02
(57)【要約】
【課題】電極材料の回収率向上
【解決手段】
集電体と、集電体に形成され電極活物質を含んだ電極活物質層とを含む電極体20または電極シート21,22を用意する用意工程と、電極体20または電極シート21を、集電体を溶解させるエッチング液に浸す溶解工程と、集電体が溶解したエッチング液から電極活物質を含んだ沈殿物を分離する分離工程とを含んでいる。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体と、前記集電体に形成され電極活物質を含んだ電極活物質層とを含む電極体または電極シートを用意する用意工程と、
前記電極体または前記電極シートを、前記集電体を溶解させるエッチング液に浸す溶解工程と、
前記集電体が溶解した前記エッチング液から前記電極活物質を含んだ沈殿物を分離する分離工程と
を含む、電極材料の回収方法。
【請求項2】
前記用意工程では、電極シートが用意され、
前記電極シートは、正極集電体と、前記正極集電体に形成され正極活物質を含んだ正極活物質層とを有する正極シートであり、
前記溶解工程では、前記正極集電体を溶解させるエッチング液が用いられ、
前記分離工程では、前記正極集電体が溶解した前記エッチング液から前記正極活物質を含んだ沈殿物が分離される、
請求項1に記載された電極材料の回収方法。
【請求項3】
前記正極集電体はアルミニウムまたはアルミニウム合金である、請求項2に記載された電極材料の回収方法。
【請求項4】
前記用意工程では、電極シートが用意され、
前記電極シートは、負極集電体と、前記負極集電体に形成され負極活物質を含んだ負極活物質層とを有する負極シートであり、
前記溶解工程では、前記負極集電体を溶解させるエッチング液が用いられ、
前記分離工程では、前記負極集電体が溶解した前記エッチング液から前記負極活物質を含んだ沈殿物が分離される、
請求項1に記載された電極材料の回収方法。
【請求項5】
前記負極集電体は銅または銅合金である、請求項4に記載された電極材料の回収方法。
【請求項6】
前記用意工程では、電極体が用意され、
前記電極体は、
正極集電体と、
前記正極集電体に形成され正極活物質を含んだ正極活物質層と、
負極集電体と、
前記負極集電体に形成され負極活物質を含んだ負極活物質層と
を有しており、
前記溶解工程では、前記電極体を前記正極集電体および前記負極集電体を溶解させるエッチング液が用いられ、
前記分離工程では、前記正極集電体および前記負極集電体が溶解した前記エッチング液から前記正極活物質および前記負極活物質を含んだ沈殿物が分離される、
請求項1に記載された電極材料の回収方法。
【請求項7】
前記正極集電体はアルミニウムまたはアルミニウム合金であり、前記負極集電体は銅または銅合金である、請求項6に記載された電極材料の回収方法。
【請求項8】
前記エッチング液は、水酸化リチウムと、水酸化ナトリウム水溶液とのうち少なくとも一方の液である、請求項1に記載された電極材料の回収方法。
【請求項9】
前記エッチング液は、塩化鉄水溶液である、請求項1に記載された電極材料の回収方法。
【請求項10】
前記用意工程は、前記電極体を収容する電池ケースを有する蓄電デバイスから前記電極体を取出すことを含む、請求項6に記載された電極材料の回収方法。
【請求項11】
前記用意工程は、
前記電極体を収容する電池ケースを有する蓄電デバイスから前記電極体を取出し、
さらに前記電極体から前記正極シートを分離することを含む、
請求項2に記載された電極材料の回収方法。
【請求項12】
前記用意工程は、
前記電極体を収容する電池ケースを有する蓄電デバイスから前記電極体を取出し、
さらに前記電極体から前記負極シートを分離することを含む、
請求項4に記載された電極材料の回収方法。
【請求項13】
前記電池ケースは、開口を有し、かつ、
前記開口を塞ぎ、前記電池ケース内において一部が前記電極体と接続された電極端子が取り付けられた蓋と、
前記蓋と対向する底板と
を備え、
前記用意工程は、
前記蓋と前記底板を前記電池ケースから切り離すことによって一対の開口部を形成させることと、
前記一対の開口部の一方から他方に向かって前記電極体を押し出し、前記電極体を前記電池ケースから取り出すことと
を含む、請求項10から12までの何れか一項に記載された電極材料の回収方法。
【請求項14】
前記用意工程では、ウォータージェットによって前記蓋と前記底板を前記電池ケースから切り離す、請求項13に記載された電極材料の回収方法。
【請求項15】
前記用意工程の後、前記溶解工程の前に、前記電極体または前記電極シートを破砕する破砕工程をさらに含む、請求項1に記載された電極材料の回収方法。
【請求項16】
集電体と、前記集電体に形成され電極活物質を含んだ電極活物質層とを含む電極体または電極シートを用意する用意工程と、
前記電極体または前記電極シートを、前記集電体を溶解させるエッチング液に浸す溶解工程と、
前記集電体が溶解した前記エッチング液から前記電極活物質を含んだ沈殿物を分離する分離工程と、
前記沈殿物から前記正極活物質および前記負極活物質のうち少なくともいずれか一方を含んだ電極材料を回収する回収工程と、
前記電極材料を用いて蓄電デバイスを構築する構築工程と
を含む、再生蓄電デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極材料の回収方法および再生蓄電デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許第6334450号公報には、リチウムイオン電池リサイクル原料からの金属の回収方法が開示されている。同公報には、所要に応じて焙焼、破砕および篩別等の各工程を経て得られた粉状ないし粒状のリチウムイオン電池スクラップを、過酸化水素水を用いて酸浸出し、そこに含まれ得るリチウム、ニッケル、コバルト、マンガン、鉄、銅、アルミニウム等を溶液中に溶解させて浸出後液を得ること、次いで、その浸出後液に対して溶媒抽出法を実施して、各金属元素を順次に分離させること、が開示されている。同公報では、まず鉄およびアルミニウムを回収し、続いてマンガンおよび銅、そしてコバルト、その後にニッケルを回収して、最後に水相にリチウムを残すことで、各有価金属を回収するできる、とされている。
【0003】
また、同公報では、酸浸出されて浸出後液に含まれるマンガンについて、リチウムイオン電池リサイクル原料を、酸性溶液で酸浸出させる際に、まず、リチウムイオン電池リサイクル原料に含まれるマンガンが浸出し、それによって酸性溶液に存在することになるマンガンイオンが、リチウムイオン電池リサイクル原料に含まれる対象金属の浸出を促進させ、その後、対象金属の浸出に伴い、酸性溶液中に一旦溶解したマンガンが析出して残渣に取り込まれる。このことを利用して、浸出工程でマンガンを沈殿させ、これを分離させることにより、後の回収工程でのマンガンの回収を簡略化ないし省略することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、リチウムイオン二次電池のような蓄電デバイスでは、稀少金属が、電極体中の電極材料に多く含まれる。上述した公報のプロセスのように、電極体から電極材料を分離回収するプロセスは、煩雑であり、電極体から電極材料を効率よく取り出す技術は確立されているとは言えない。今後、循環型社会を実現するためには、蓄電デバイスに用いられる電極材料の効率的なリサイクル技術の確立が必要となる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ここで開示される電極材料の回収方法は、集電体と、集電体に形成され電極活物質を含んだ電極活物質層とを含む電極体または電極シートを用意する用意工程と、電極体または電極シートを、集電体を溶解させるエッチング液に浸す溶解工程と、集電体が溶解したエッチング液から電極活物質を含んだ沈殿物を分離する分離工程とを含んでいる。
【0007】
かかる電極材料の回収方法によれば、電池全体をスクラップして、エッチング液に浸す場合に比べて、電極材料の回収率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、リチウムイオン二次電池10の斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1のII-II線に沿う模式的な縦断面図である。
【
図4】
図4は、電極材料の回収方法のフロー図である。
【
図5】
図5は、リチウムイオン二次電池10から電極体20が取り出される工程を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、ここでの開示を説明する。特に限定されない限りにおいて、ここでの開示は、本願の特許請求の範囲に記載された発明を限定することを意図したものではない。各図面は模式的に描かれており、必ずしも実物を反映していない。また、同一の作用を奏する部材・部位には、適宜に同一の符号を付し、重複する説明を省略する。本明細書において数値範囲を示す「X~Y」などの表記は、特に言及されない限りにおいて「X以上Y以下」を意味する。
【0010】
ここでの開示は、電極体から電極材料を回収する方法に関する。ここで開示される電極材料の回収方法では、例えば、使用済みのリチウムイオン二次電池から取り出される電極体から電極材料が回収される。かかる電極体は、例えば、正極集電体がアルミニウムまたはアルミニウム合金であり、負極集電体が銅または銅合金であるとよい。
【0011】
なお、電極材料の回収方法が適用される電極体は、使用済みのリチウムイオン二次電池から取り出されるものに限定されない。例えば、リチウムイオン二次電池等の蓄電池や、リチウムイオンキャパシタや電気二重層キャパシタ等のキャパシタなどの蓄電デバイスから得られる電極体でもよい。また、電極体は、使用済み蓄電デバイスから取り出されるものに限定されず、蓄電デバイスの生産時に不良品として廃棄される電極体でもよい。ここでは、使用済みのリチウムイオン二次電池から取り出された電極体を例に、電極体から電極材料を回収する方法を説明する。
【0012】
〈リチウムイオン二次電池10〉
図1は、リチウムイオン二次電池10の斜視図である。
図2は、
図1のII-II線に沿う模式的な縦断面図である。
図3は、電極体20の模式図である。
図2では、略直方体の電池ケース41の片側の幅広面に沿って、リチウムイオン二次電池10の内部を露出させた状態が描かれている。
図2では、さらに電極体20が部分的に破断された部分断面図で図示されている。
図2に示されたリチウムイオン二次電池10は、電極体20が収容された電池ケース41が密閉された、いわゆる密閉型電池である。この実施形態では、電池ケース41は、略直方体の角形の金属製のケースで構成されている。図面中の符号Xは、電池ケース41の長辺方向を示している。符号Yは、長辺方向と直交する短辺方向を示している。符号Zは、短辺方向および長辺方向と直交する高さ方向を示している。電池ケース41の構造は、かかる形態に限定されない。例えば、電池ケース41は、円筒型のケースでもよいし、電極体20を覆う、いわゆる袋状のラミネートケースでもよい。
【0013】
リチウムイオン二次電池10は、
図1に示されているように、電極体20と、電池ケース41とを備えている。電池ケース41は、開口41a1を有するケース本体41aと、ケース本体41aの開口41a1を塞ぐ封口板41bとを有している。ケース本体41aには、電極体20が収容されている。封口板41bには、ガスケット70およびインシュレータ80を介して内部端子55,65と外部端子51,61とが取り付けられている。この実施形態では、内部端子55は、電極体20の正極集電箔21aに接続されている。外部端子51は内部端子55に接続されており、電池ケース41の外部において正極端子50を構成している。また、内部端子65は、電極体20の負極集電箔22aに接続されている。外部端子61は内部端子65に接続されており、電池ケース41の外部において負極端子60を構成している。
【0014】
〈電極体20〉
電極体20では、正極要素21と、負極要素22とが、セパレータを介して対向している。正極要素21は、正極集電体21aと、正極集電体21aに形成され正極活物質を含んだ正極活物質層21bとを備えている。負極要素22は、負極集電体22aと、負極集電体22aに形成され負極活物質を含んだ負極活物質層22bとを備えている。正極要素と負極要素とは、それぞれシート状であってもよい。この場合、正極要素は、例えば、予め定められた幅および厚さの金属箔で構成された正極集電体21aの両面に正極活物質層21bが形成されたシート状の部材でもよい。負極要素は、予め定められた幅および厚さの金属箔で構成された負極集電体22aの両面に負極活物質層22bが形成されたシート状の部材でもよい。シート状の正極要素21は、正極シートと称される。シート状の負極シートは、負極シートと称される。
【0015】
例えば、電極体20は、いわゆる捲回電極体でありうる。電極体20は、正極要素としての正極シート21と、負極要素としての負極シート22と、セパレータとしてのセパレータシート31,32とで構成されている。正極シート21と、第1のセパレータシート31と、負極シート22と、第2のセパレータシート32とは、それぞれ長尺の帯状の部材であり、長さ方向および幅方向を揃えて重ねられつつ捲回されている。電極体20は、絶縁フィルム(図示は省略)などで覆われた状態で、電池ケース41に収容されている。
【0016】
〈正極シート21〉
正極シート21は、予め定められた幅および厚さの正極集電箔21aに、幅方向の片側の端部に一定の幅で設定された未形成部21a1を除いて、正極活物質を含む正極活物質層21bが両面に形成されている。未形成部21a1には、複数の正極タブ21tが正極シート21の長手方向に沿って予め定められた位置に間欠的に設けられている。複数の正極タブ21tは、それぞれ正極シート21の幅方向に向かって突出している。この実施形態では、捲回された状態で、複数の正極タブ21tの位置が揃うように、複数の正極タブ21tが設けられる位置が定められている。
【0017】
正極集電体21aには、正極での作動電位が考慮され、所要の耐電解液性、耐酸化性などの耐性を有する材料が用いられる。例えば、リチウムイオン二次電池では、正極集電体21aには、例えば、アルミニウムまたはアルミニウムを主たる材料とするアルミニウム合金が一般的に用いられる。シート状の正極要素21では、正極集電体21aに、アルミニウムまたはアルミニウムを主たる材料とするアルミニウム箔が用いられうる。正極活物質層21bに含まれる正極活物質には、充電時に電荷担体を放出し、放電時に電荷担体を吸収しうる材料が用いられる。
【0018】
例えば、リチウムイオン二次電池では、充電時にリチウムイオンを放出し、放電時にリチウムイオンを吸収しうる材料である。正極活物質は、例えば、リチウム遷移金属複合材料が挙げられる。正極活物質には、リチウム遷移金属複合材料以外にも種々提案されており、特に言及されない限りにおいて、リチウム遷移金属複合材料に限定されない。正極活物質層21bは、例えば、かかる正極活物質と、導電材と、バインダなどが溶媒に混ぜられた合材の状態で塗布され、乾燥したものでありうる。また、この実施形態では、正極活物質層21bの縁には、正極集電箔21a(未形成部21a1)の上に正極保護層21pが設けられている。正極保護層21pは、未形成部21a1を保護する層であり、無機フィラー(例えば、アルミナ)を含んだ層でありうる。
【0019】
〈負極シート22〉
負極シート22は、予め定められた幅および厚さの負極集電箔22aに、幅方向の片側の縁に一定の幅で設定された未形成部22a1を除いて、負極活物質を含む負極活物質層22bが両面に形成されている。この実施形態では、未形成部22a1には、複数の負極タブ22tが負極シート22の長手方向に沿って予め定められた位置に間欠的に設けられている。複数の負極タブ22tは、それぞれ負極シート22の幅方向に向かって突出している。この実施形態では、捲回された状態で、複数の負極タブ22tの位置が揃うように、複数の負極タブ22tが設けられる位置が定められている。
【0020】
負極集電体22aには、負極での作動電位が考慮され、所要の耐電解液性、耐酸化性などの耐性を有する材料が用いられる。例えば、リチウムイオン二次電池では、負極集電体22aには、銅または銅を主たる材料とする銅合金が一般的に用いられる。シート状の負極要素22では、負極集電体22aに、銅または銅を主たる材料とする銅箔が用いられうる。負極活物質層22bに含まれる負極活物質には、充電時に電荷担体を吸蔵し、放電時に電荷担体を放出しうる材料が用いられる。例えば、リチウムイオン二次電池では、天然黒鉛のように、充電時にリチウムイオンを吸蔵し、充電時に吸蔵したリチウムイオンを放電時に放出しうる材料である。負極活物質は、一般的に天然黒鉛以外にも種々提案されており、特に限定されない。負極活物質層22bは、例えば、かかる負極活物質と、導電材と、バインダなどとが溶媒に混ぜられた合材の状態で塗布され、乾燥したものでありうる。
【0021】
セパレータシート31,32には、例えば、所要の耐熱性を有する電解質が通過しうる多孔質の樹脂シートが用いられる。セパレータシート31,32についても種々提案されており、特に限定されない。セパレータ31,32は、樹脂製の多孔性シートからなる基材の表面に、接着層や耐熱層(Heat Resistance Layer:HRL)等の機能層を有していてもよい。耐熱層は、例えば、アルミナ、シリカ、ベーマイト、マグネシア、チタニア等の無機フィラーと、PVdF等のバインダと、を含む層である。耐熱層は、接着層を兼ねていてもよい。
【0022】
ここで、
図2に示されているように、負極活物質層22bの幅Lnは、例えば、正極活物質層21bの幅Lpよりも広く形成されている。セパレータシート31,32の幅Lsは、負極活物質層22bよりも広い。つまり、
図2に示されているように、Lp<Ln<Lsとなっている。正極シート21と、第1のセパレータシート31と、負極シート22と、第2のセパレータシート32とは、それぞれ長さ方向に向きを揃えられ、順に重ねられて捲回されている。ここで、負極活物質層22bは、セパレータシート31,32を介在させた状態で正極活物質層21bを覆っている。負極活物質層22bは、セパレータシート31,32に覆われている。正極集電箔21aの正極タブ21tと、負極集電箔22aの負極タブ22tとは、幅方向において互いに反対側に向けて、セパレータシート31,32からはみ出るように設けられている。正極保護層21pは、負極シート22のうち、負極タブ22tが設けられた側とは反対側の縁にセパレータシート31,32を介して対向している。
【0023】
電極体20は、
図2に示されているように、電池ケース41のケース本体41aに収容されうるように、捲回軸WLを含む一平面に沿った扁平な状態とされる。そして、電極体20の捲回軸WLに沿って、片側に正極タブ21tが配置され、反対側に負極タブ22tが配置されている。なお、ここでは、電極体20として、正極シート21と、第1のセパレータシート31と、負極シート22と、第2のセパレータシート32とが重ねられて捲回された捲回電極体が例示されている。電極体20の構成としては、かかる捲回電極体に限定されない。電極体20は、図示は省略するが、例えば、予め定められた形状の正極シートと、負極シートとを、セパレータシートとを挟んだ状態で重ねたいわゆる積層型の電極体でもよい。
【0024】
〈電池ケース41〉
電池ケース41は、電極体20を収容している。この実施形態では、電池ケース41は、ケース本体41aと、封口板41bとを有している。ケース本体41aは、底面に対向する一側面に開口41a1を有する有底の部材であり、この実施形態では、一側面が開口した略直方体の角形形状を有している。封口板41bは、ケース本体41aの開口41a1に装着される板材である。この実施形態では、ケース本体41aと封口板41bは、軽量化と所要の剛性を確保する観点で、それぞれアルミニウムまたはアルミニウムを主とするアルミニウム合金で形成されている。なお、
図1に示されている実施形態では、捲回型の電極体20が例示されているが、電極体20の構造はかかる形態に限定されない。電極体20の構造は、例えば、正極シートと負極シートとが、セパレータシートとを介在させて交互に積層された積層構造でもよい。また、電池ケース41内には、複数の電極体20が収容されていてもよい。
【0025】
電池ケース41には、図示しない電解液が収容されうる。電解液としては、非水系溶媒に支持塩を溶解させた非水電解液を使用できる。非水系溶媒の一例として、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等のカーボネート系溶媒が挙げられる。支持塩の一例として、LiPF6等のフッ素含有リチウム塩が挙げられる。
【0026】
〈ケース本体41a〉
ケース本体41aは、一側面が開口した略直方体の角形形状を有している。ケース本体41aは、略矩形の底面を構成する底面部42と、一対の幅広面部43,44(
図2参照)と、一対の幅狭面部45,46とを有している。一対の幅広面部43,44は、それぞれ底面部42のうち長辺から立ち上がっている。一対の幅狭面部45,46は、それぞれ底面部42のうち短辺から立ち上がっている。ケース本体41aの一側面には、一対の幅広面部43,44と一対の幅狭面部45,46で囲まれた開口41a1が形成されている。
【0027】
〈封口板41b〉
封口板41bは、ケース本体41aの開口41a1を封口する。この実施形態では、
図2に示されているように、封口板41bは、平面視において矩形状である。この実施形態では、封口板41bに注液孔41b1と安全弁41b3が設けられている。注液孔41b1は、封口板41bがケース本体41aの開口41a1に取り付けられ、ケース本体41a内に電解液が注入された後で封止部材41b2が取り付けられて閉じられる。なお、
図2には、封口板41bがケース本体41aの開口41a1に組付けられ、溶接された状態が示されている。
図2では、封口板41bに封止部材は取り付けられていない。安全弁41b3は、薄肉になっており、電池ケース41内が予め定められた圧力よりも大きくなったときに破断する部位である。
【0028】
封口板41bには、正極端子50と、負極端子60とが取り付けられている。正極端子50は、外部端子51と、内部端子55とを備えている。負極端子60は、外部端子61と、内部端子65とを備えている。内部端子55,65は、それぞれインシュレータ80を介して封口板41bの内側に取り付けられている。外部端子51,61は、それぞれガスケット70を介して封口板41bの外側に取り付けられている。内部端子55,65は、それぞれケース本体41aの内部に延びている。電極体20の正極集電箔21aの未形成部21a1と、負極集電箔22aの未形成部22a1とは、封口板41bの長辺方向の両側部にそれぞれ取り付けられた内部端子55,65に取り付けられている。
【0029】
内部端子55,65は、金属製である。正極の内部端子55としては、正極タブ21tとの接合強度を向上させる観点から、例えば、アルミニウムやアルミニウム合金等が用いられうる。負極の内部端子65としては、負極タブ22tとの接合強度を向上させる観点から、また、所要の耐電解液性、耐酸化性などの耐性を備えている点から、例えば、銅や銅合金等が用いられうる。
【0030】
外部端子51,61は、金属製である。外部端子51,61として用いられる金属は、バスバ等の外部の接続部品の種類等に応じて適宜選択される。外部端子51,61としては、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金等が用いられうる。外部端子51,61は、例えば、複数の金属が異種金属接合によって接合されて構成されていてもよい。図示は省略するが、封口板41bには取付孔が形成されている。取付孔には、封口板41bの内側にインシュレータ80が取り付けられ、封口板41bの外側にガスケット70が取り付けられている。内部端子55,65と外部端子51,61とのうち一方に軸部が設けられており、ガスケット70とインシュレータ80を介在させて、取付孔に挿通されている。内部端子55,65と外部端子51,61とは、取付孔に挿通された軸部によって接合されている。
【0031】
ガスケット70やインシュレータ80には、耐薬品性や耐候性に優れた材料が用いられるとよい。この実施形態では、ガスケット70には、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)が用いられている。なお、ガスケット70に用いられる材料は、PFAに限定されない。ガスケット70には、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)等が用いられてもよい。インシュレータ80には、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)が用いられている。なお、インシュレータ80に用いられる材料は、PPSに限定されない。
【0032】
リチウムイオン二次電池10は、製造時に、封口板41bにガスケット70とインシュレータ80とが取り付けられた状態で、正極端子50および負極端子60が取り付けられる。次いで、正極端子50の内部端子55に正極タブ21tが接合され、負極端子60の内部端子65に負極タブ22tが接合されることによって、封口板41bに電極体20が取付けられる。次いで、電極体20を開口41a1からケース本体41aに挿入しつつ、封口板41bを、ケース本体41aの開口41a1(
図1参照)に装着する。この際、電極体20の捲回軸WL(
図3参照)がケース本体41aの長辺方向Xに沿って配置されている。電極体20の正極タブ21tは、幅狭面部45に向けられている。負極タブ22tは、幅狭面部46に向けられている。そして、
図2に示されているように、封口板41bの周縁部が、ケース本体41aの開口41a1の縁に接合される。かかる接合は、例えば、隙間がない連続した溶接によるとよい。かかる溶接は、例えば、レーザ溶接によって実現されうる。
【0033】
電極体20は、このような捲回電極体に限定されない。電極体20は、上述のように、いわゆる積層型の電極体でもよい。また、電池ケース41には、複数の電極体20が収容されていてもよい。内部端子55,65や、外部端子51,61や、ガスケット70や、インシュレータ80は、種々の構造が採用されうる。例えば、内部端子55,65や、外部端子51,61や、ガスケット70や、インシュレータ80は、収容される電極体20の構造に応じて適当な構造が作用されるとよい。また、正極端子50と負極端子60との一方には、過充電時に内部でガスを発生させることで内部圧力が上昇することにともなって電流を遮断させる機構(CID(Current Interrupt Device))が設けられていてもよい。
【0034】
ところで、かかるリチウムイオン二次電池10は、電池ケース、端子、電極体、電解液を含んでいる。かかるリチウムイオン二次電池10には、リチウム、コバルト、マンガン、ニッケル、銅、アルミなど、色々の金属が含まれている。車両の電動化の進展に伴い、リチウムイオン二次電池10のような蓄電デバイスが、大量に廃棄されることが予想されている。上述のような金属は、リチウムイオン二次電池10中の電極体に多く含まれている。特に、電極体に含まれる電極材料に、リチウム、コバルトなどの稀少金属が含まれている。電極材料は、上述のように導電材やバインダなどと混ざった合材の状態でバインダによって集電体(金属箔)に支持(接着)されている。
【0035】
図4は、電極材料の回収方法のフロー図である。ここで開示される電極材料の回収方法は、用意工程S1と、溶解工程S2と、分離工程S3とを有している。再生蓄電デバイスの製造方法として、回収工程S4と、構築工程S5をさらに有している。
【0036】
〈用意工程S1〉
用意工程S1では、例えば、電極体20が用意される。用意工程S1で用意される電極体20は、正極集電体21aと、正極集電体21aに形成された正極活物質層21bと、負極集電体22aと、負極集電体22aに形成された負極活物質層22bとを有している。ここで、正極集電体21aはアルミニウムまたはアルミニウム合金であり、負極集電体22aは銅または銅合金であるとよい。用意工程S1では、電極シートが用意されてもよい。電極シートは、正極集電体21aと、正極集電体21aに形成された正極活物質層21bとを有する正極シート21であり得る。電極シートは、負極集電体22aと、負極集電体22aに形成された負極活物質層22bとを有する正極シート21であり得る。ここで、正極活物質層21bは、正極活物質粒子を含んでいる。負極活物質層22bは、負極活物質粒子を含んでいる。
【0037】
用意工程S1は、電極体20を収容する電池ケース41を有する蓄電デバイス10から電極体20を取出すことが含まれているとよい。
図5は、リチウムイオン二次電池10から電極体20が取り出される工程を示すフロー図である。
図5中の(A)では、蓄電デバイスとしてのリチウムイオン二次電池10が示されている。リチウムイオン二次電池10は、例えば、使用済みのリチウムイオン二次電池10であり、電動車から回収されたものでありうる。
図5中の(B),(C)では、リチウムイオン二次電池10から電極体20を取り出す工程が示されている。電極体20は、
図5に示されているように、例えば、電池ケース41を切断し、封口板41bから切り離されるとよい。リチウムイオン二次電池10から電極体20を取り出す工程では、電池ケース41を切断し、電極体20が取り出されるとよい。電池ケース41の切断は、例えば、ウォータージェットによる切断加工によって実現されうる。ウォータージェットによれば、薄肉のアルミニウムや銅からなる、電池ケース41や端子部品をスムーズに切断することができる。また、切削屑も生じにくく、切削屑が生じても水と一緒に回収できる。ウォータージェットによれば、万一発火した場合でも、電池ケース41を水槽に浸漬することによって、素早く鎮火させることができ、電池ケース41を安全に切断することができる。
【0038】
図5中の(B)では、リチウムイオン二次電池10の電池ケース41のうち、封口板41bが接合された上面部と底面部42とが切り離されるとよい。この際、封口板41bと、電極体20とを繋ぐ、端子部品(
図2に示された形態では、内部端子55,65)を切断し、電極体20が、電池ケース41から切り離されるとよい。例えば、上面部と底面部42は、上述のとおりウォータージェットによる切断加工によって実現されうる。電池ケース41から上面部と底面部42とが切断されると、(B)に示されているように、一対の幅広面部43,44と一対の幅狭面部45,46とで構成された、電池ケース41の筒状の側周面に、電極体20が収まった状態で得られる。その後、(C)に示されているように、電池ケース41の筒状の側周面から電極体20を押し出されるとよい。この方法によれば、電極体20がバラバラにならず、正極シート21と、第1のセパレータシート31と、負極シート22と、第2のセパレータシート32とが一体として纏まった状態で取り出される。このように電極体20は、正極シート21と、第1のセパレータシート31と、負極シート22と、第2のセパレータシート32とが一体として纏まった状態で用意されるとよい。
【0039】
このように、電池ケース41の上面部と底面部、および、電極体20と電池ケース41とを接続している端子を切断し、筒状の側周面から電極体20を押し出すことで、電極体20をスムーズに取り出すことができる。
図5に示された形態では、電池ケース41は、角形のケースであるが、円筒型のケースが用いられている場合も同様に、ケースおよび端子が切断されることによって、電極体20を取り出すことができる。また、電池ケース41として、袋状のラミネートフィルムが用いられている場合も同様であり、ラミネートフィルムおよび端子を切断することで、電極体20を取り出すことができる。この実施形態では、電極体20は、捲回電極体であり、帯状の電極シートがセパレータとともに巻かれた状態で得られる。
【0040】
図5中の(D)では、電極体20から電極シート21,22が分離される工程が示されている。用意工程S1では、必要に応じて電極シートが用意されるとよい。用意工程S1で電極シートが用意される場合には、
図5(D)に示されているように、電極体20が、正極シート21と、負極シート22と、セパレータ31,32とに分けられることによって、正極シート21と、負極シート22とが用意されるとよい。電極体20が、捲回電極体である場合は、捲回が解かれることによって、正極シート21と、負極シート22とが分離されるとよい。正極シート21と、負極シート22とに分離される場合も、回収したい電極材料は、電極活物質層に含まれており、集電体に纏まった状態で扱える。このため作業性がよい。また、セパレータ31,32が分離されているので、溶解工程後の処理も簡単になる。
【0041】
電極体20は、積層型の電極体であってもよい。電極体20が積層型の電極体である場合は、複数枚の正極シート21の正極集電体21aが、纏められて正極端子50に接合されている。また、複数枚の負極シート22の負極集電体22aが、纏められて負極端子60に接合されている。このため、積層型の電極体では、正極端子50に接合された正極シート21のシート群と、負極端子60に接合された負極シート22のシート群とを、纏めた状態で分離することができる。
【0042】
このように、用意工程S1では、集電体に形成された電極活物質層を含む電極体または電極シートが用意されるとよい。
【0043】
〈破砕工程S1a〉
用意工程S1の後、溶解工程S2の前に、電極体20または電極シート21,22を破砕する破砕工程が含まれていてもよい。この場合、電極体20または電極シート21,22をウォータージェットによって、所要の大きさに切断するとよい。電極体20または電極シート21,22が破砕されていることで、エッチング液が行き渡りやすくなり、溶解工程での処理が早くなることが期待できる。
【0044】
〈溶解工程S2〉
溶解工程S2は、用意工程S1で用意された電極体20または電極シート21,22を、集電体を溶解させるエッチング液に浸す工程である。ここで、エッチング液としては、電極体または電極シートの集電体を溶解させることができる液体が用いられるとよい。本発明者の知見としては、例えば、正極集電体がアルミニウムまたはアルミニウム合金で形成されており、負極集電体が銅または銅合金で形成されている場合、かかるエッチング液としては、水酸化リチウム(LiOH),水酸化ナトリウム(NaOH)、塩化第二鉄液(FeCL3)、リン酸、塩酸、臭化水素酸、フッ酸、硝酸、ヨウ化水素酸、アンモニア水などが用いられうる。上記の反応促進として、酸同士を混合したり、アルカリ同士を混合したり、過酸化水素水を酸化加速剤として追加してもよい。本発明者の知見では、機能性、入手のしやすさ、比較的安全に扱えるとの観点で、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、塩化第二鉄液が好ましい。このうち水酸化ナトリウムは、正極活物質粒子の一部の金属を溶かしにくく、回収される正極活物質粒子の品質を高く保つことができる。本発明者の知見では、水酸化リチウムまたは水酸化ナトリウムが用いられると、正極活物質粒子を95%程度回収することができる。エッチング液には、このように、水酸化リチウム(LiOH),水酸化ナトリウム(NaOH)、塩化第二鉄液(FeCL3)、リン酸、塩酸、臭化水素酸、フッ酸、硝酸、ヨウ化水素酸およびアンモニア水のうち何れか一種の液、または、これらの混合液が用いられうる。また、エッチング液には、所要の添加剤が含まれていてもよい。
【0045】
水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、塩化第二鉄液は、アルミニウムや銅をよく溶かす。このため、アルミニウムやアルミニウム合金で構成された正極集電体21aや、銅や銅合金で構成された負極集電体22aを溶かすことができる。正極集電体21aや負極集電体22aが溶けると、正極活物質層21bや負極活物質層22bは、形態を維持できない。正極活物質粒子や、負極活物質粒子が残る。溶解工程S2では、電極体20をエッチング液に浸す場合には、正極活物質粒子と、負極活物質粒子と、電極体20中に含まれるセパレータ31,32とが、エッチング液に溶けずに残る。溶解工程では、エッチング液の反応を促進させるため適当な温度に調整されるとよい。例えば、エッチング液にNaOHが用いられる場合には、90℃程度の温度に調整されるとよい。また、溶解工程では、適宜にエッチング液が攪拌されることによって反応速度が向上する。溶解工程は、所要の性能を発揮するように、エッチング液は適切な濃度で使用されるとよい。エッチング液の温度や濃度などは、予め試験を行うなどして適切な温度や濃度が設定されるとよい。
【0046】
ここで、本発明者の知見では、溶解工程では、正極シート21と、負極シート22とが予め分けられた状態で、それぞれエッチング液に浸されるとよい。この場合、正極シート21を浸したエッチング液からは、当該正極シート21に含まれる正極活物質粒子がエッチング液に残る。また、負極シート22を浸したエッチング液からは、負極活物質粒子がエッチング液に残る。この場合、用意工程において、正極シート21と、負極シート22とが、それぞれ分けられた状態で用意されるとよい。溶解工程S2では、正極シート21の正極集電体21aや正極活物質粒子に合わせて、正極集電体21aを溶かすことができるが、正極活物質粒子が溶けにくいエッチング液が選定されるとよい。また、負極シート22の負極集電体22aや負極活物質粒子に合わせて、負極集電体22aを溶かすことができるが、負極活物質粒子が溶けにくいエッチング液が選定されるとよい。このように、正極シート21と、負極シート22とが、それぞれ分けられた状態でエッチング液に浸されることによって、それぞれ適当なエッチング液を選定できる。また、正極活物質粒子と、負極活物質粒子がそれぞれ分けられているので、後工程での活物質粒子の回収率が向上する。例えば、予め正極シート21と負極シート22に分けられている場合、正極シート21の正極集電体21aをエッチングするためのエッチング液には、水酸化リチウムまたは水酸化ナトリウムが用いられるとよい。
【0047】
〈分離工程S3〉
分離工程S3は、集電体が溶解したエッチング液から活物質層を構成する材料を含んだ沈殿物を分離する工程である。例えば、溶解工程S2で、電極体20をエッチング液に溶解させると、正極活物質粒子と、負極活物質粒子と、電極体20中に含まれるセパレータ31,32とが、エッチング液に溶けずに残る。分離工程S3では、例えば、溶解工程S2で回収されたエッチング液から、正極活物質粒子と負極活物質粒子とを含む沈殿物を分離するとよい。
【0048】
沈殿物は、例えば、濾過によって分離されるとよい。正極シート21と、負極シート22とが、それぞれ分けられた状態でエッチング液に浸された場合には、正極活物質粒子が溶け残ったエッチング液と、負極活物質粒子が溶け残ったエッチング液が得られる。この場合、分離工程では、正極活物質粒子が溶け残ったエッチング液から、正極活物質粒子を含む沈殿物が分離されるとよい。また、負極活物質粒子が溶け残ったエッチング液から、負極活物質粒子を含む沈殿物が分離されるとよい。
【0049】
〈回収工程S4〉
沈殿物から正極活物質および負極活物質のうち少なくともいずれか一方を含んだ電極材料を回収する工程である。例えば、分離された沈殿物を、さらに乾燥し、さらにバインダを焼き飛ばすなどすることによって、正極活物質粒子と負極活物質粒子が得られる。正極活物質粒子と負極活物質粒子は、さらに粒子の塊となっている場合があり、これを粉砕し、大きさや比重などで分けることによって、正極活物質粒子と負極活物質粒子に分けられる。なお、多段階に分級するほど、回収率が向上しうる。沈殿物の乾燥は、例えば、真空乾燥機が用いられるとよい。乾燥条件として、バインダに用いられる樹脂材料が溶融し、消失する条件に設定されるとよく、例えば、真空引きしつつ、180℃、120分程度の条件で乾燥させるとよい。本発明者の知見によれば、かかる処理によって、平均粒径2.0mm程度の乾燥粉末が得られうる。これをさらに粉砕することによって、15μm以下の粒子の粉末を得るとよい。
【0050】
正極シート21と負極シート22を含む電極体20を纏めて溶解させた場合には、乾燥後の粉末に正極活物質粒子(リチウム遷移金属複合材料)と、負極活物質粒子(黒鉛)とが含まれる。このうち、正極活物質粒子(リチウム遷移金属複合材料)は、負極活物質粒子(黒鉛)よりも高比重であるため、分級機によって、比重の違いを基に分離できる。
【0051】
また、予め正極シート21と、負極シート22に分けて、エッチング液に溶解されていると、正極活物質粒子と負極活物質粒子に分ける処理が不要または簡単になり、正極活物質粒子と負極活物質粒子の回収率が向上する。また、エッチング液に溶解したアルミニウムは、例えば、水酸化アルミニウムやとして析出させ、再生成し、電極端子部品などに再利用することができる。アルミニウムの析出にはアルミナ製造法として高い信頼性と経済性を兼ね揃えたバイヤー法が用いられうる。エッチング液に溶解した銅は、電解によって再生され、電極端子部品などに再利用することができる。
【0052】
回収された正極活物質粒子は、エッチング液に溶解させた際にLiが溶け出している場合がある。このため、LiCO3などを所定量混ぜて攪拌し、焼成するとよい。焼成条件は、例えば、850℃、40分程度とするとよい。これにより、回収された正極活物質粒子が、正極活物質として再生されうる。
【0053】
〈構築工程S5〉
分離工程で回収された正極活物質粒子と負極活物質粒子などの電極材料は、再資源化が可能であり、蓄電デバイスルを構築する材料となりうる。ここで開示される再生蓄電デバイスの製造方法は、電極材料を用いて蓄電デバイスを構築する構築工程を含んでいるとよい。このように電極材料の再資源化により、蓄電デバイスの資源の有効活用や材料コストを低下させることが見込まれる。
【0054】
このように、ここで開示される電極材料の回収方法には、用意工程S1と、溶解工程S2と、分離工程S3とが含まれている。用意工程S1は、集電体21a,22aと、集電体21a,22aに形成された電極活物質層21b,22bとを含む電極体20または電極シート21,22が用意される。溶解工程S2は、電極体20または電極シート21,22を、エッチング液に浸す。エッチング液は、集電体21a,22aを溶解させる液体であるとよい。なお、エッチング液は、電極体20または電極シート21,22のうち、集電体21a,22aを溶解させるが、電極活物質層21b,22bに含まれる電極活物質は溶解させない液体であるとよい。この場合、溶解工程S2では、電極体20または電極シート21,22がエッチング液に浸され、集電体21a,22aを溶解することで、エッチング液に電極材料が残る。この場合、電池全体をスクラップして、エッチング液に浸す場合に比べて、エッチング液は、集電体21a,22aを溶解することでよく、エッチング処理が速やかに進み、電極材料の回収率が向上する。
【0055】
より好適には、電極体20を正極シート21と負極シート22に分解し、正極シート21と負極シート22とに分ける。次に、正極シート21と負極シート22とをそれぞれ破砕する。ここで、細かく破砕すればするほど、溶解工程S2の処理時間が短くなる。次に破砕された、電極シートをエッチング液に浸し、集電体を溶解させる。そして、沈殿物を回収(濾過)し、乾燥させ、粉砕し、分級する。このように正極シート21と、負極シート22を分けて、処理することによって、正極活物質粒子と、負極活物質粒子の回収率を向上させることができる。本発明者の知見によれば、電極材料の回収率を、例えば、95%以上とすることを実現しうる。
【0056】
以上、ここで開示される発明について、種々説明した。特に言及されない限りにおいて、ここで挙げられた実施形態などは本発明を限定しない。また、ここで開示される発明の実施形態は、種々変更でき、特段の問題が生じない限りにおいて、各構成要素やここで言及された各処理は適宜に省略され、または、適宜に組み合わされうる。
【0057】
以上の通り、本明細書には、以下の各項に記載の開示が含まれている。
【0058】
項1:
集電体と、前記集電体に形成され電極活物質を含んだ電極活物質層とを含む電極体または電極シートを用意する用意工程と、
前記電極体または前記電極シートを、前記集電体を溶解させるエッチング液に浸す溶解工程と、
前記集電体が溶解した前記エッチング液から前記電極活物質を含んだ沈殿物を分離する分離工程と
を含む、電極材料の回収方法。
【0059】
項2:
前記用意工程では、電極シートが用意され、
前記電極シートは、正極集電体と、前記正極集電体に形成され正極活物質を含んだ正極活物質層とを有する正極シートであり、
前記溶解工程では、前記正極集電体を溶解させるエッチング液が用いられ、
前記分離工程では、前記正極集電体が溶解した前記エッチング液から前記正極活物質を含んだ沈殿物が分離される、
項1に記載された電極材料の回収方法。
【0060】
項3:
前記正極集電体はアルミニウムまたはアルミニウム合金である、項2に記載された電極材料の回収方法。
【0061】
項4:
前記用意工程では、電極シートが用意され、
前記電極シートは、負極集電体と、前記負極集電体に形成され負極活物質を含んだ負極活物質層とを有する負極シートであり、
前記溶解工程では、前記負極集電体を溶解させるエッチング液が用いられ、
前記分離工程では、前記負極集電体が溶解した前記エッチング液から前記負極活物質を含んだ沈殿物が分離される、
項1に記載された電極材料の回収方法。
【0062】
項5:
前記負極集電体は銅または銅合金である、項4に記載された電極材料の回収方法。
【0063】
項6:
前記用意工程では、電極体が用意され、
前記電極体は、
正極集電体と、
前記正極集電体に形成され正極活物質を含んだ正極活物質層と、
負極集電体と、
前記負極集電体に形成され負極活物質を含んだ負極活物質層と
を有しており、
前記溶解工程では、前記電極体を前記正極集電体および前記負極集電体を溶解させるエッチング液が用いられ、
前記分離工程では、前記正極集電体および前記負極集電体が溶解した前記エッチング液から前記正極活物質および前記負極活物質を含んだ沈殿物が分離される、
項1に記載された電極材料の回収方法。
【0064】
項7:
前記正極集電体はアルミニウムまたはアルミニウム合金であり、前記負極集電体は銅または銅合金である、項6に記載された電極材料の回収方法。
【0065】
項8:
前記エッチング液は、水酸化リチウムと水酸化ナトリウム水溶液とのうち少なくとも一方の液である、項1から7までの何れか一項に記載された電極材料の回収方法。
【0066】
項9:
前記エッチング液は、塩化鉄水溶液である、項1から7までの何れか一項に記載された電極材料の回収方法。
【0067】
項10:
前記用意工程は、前記電極体を収容するケースを有する蓄電デバイスから前記電極体を取出すことを含む、項6に記載された電極材料の回収方法。
【0068】
項11:
前記用意工程は、
前記電極体を収容するケースを有する蓄電デバイスから前記電極体を取出し、
さらに前記電極体から前記正極シートを分離することを含む、
項2に記載された電極材料の回収方法。
【0069】
項12:
前記用意工程は、
前記電極体を収容する電池ケースを有する蓄電デバイスから前記電極体を取出し、
さらに前記電極体から前記負極シートを分離することを含む、
項4に記載された電極材料の回収方法。
【0070】
項13:
前記電池ケースは、開口を有し、かつ、
前記開口を塞ぎ、前記電池ケース内において一部が前記電極体と接続された電極端子が取り付けられた蓋と、
前記蓋と対向する底板と
を備え、
前記用意工程は、
前記蓋と前記底板を前記電池ケースから切り離すことによって一対の開口部を形成させることと、
前記一対の開口部の一方から他方に向かって前記電極体を押し出し、前記電極体を前記電池ケースから取り出すことと
を含む、項10から12までの何れか一項に記載された電極材料の回収方法。
【0071】
項14:
前記用意工程では、ウォータージェットによって前記蓋と前記底板を前記電池ケースから切り離す、項13に記載された電極材料の回収方法。
【0072】
項15:
前記用意工程の後、前記溶解工程の前に、前記電極体または前記電極シートを破砕する破砕工程をさらに含む、項1から14までのいずれか一項に記載された電極材料の回収方法。
【0073】
項16:
集電体と、前記集電体に形成され電極活物質を含んだ電極活物質層とを含む電極体または電極シートを用意する用意工程と、
前記電極体または前記電極シートを、前記集電体を溶解させるエッチング液に浸す溶解工程と、
前記集電体が溶解した前記エッチング液から前記電極活物質を含んだ沈殿物を分離する分離工程と、
前記沈殿物から前記正極活物質および前記負極活物質のうち少なくともいずれか一方を含んだ電極材料を回収する回収工程と、
前記電極材料を用いて蓄電デバイスを構築する構築工程と
を含む、再生蓄電デバイスの製造方法。
【符号の説明】
【0074】
10 リチウムイオン二次電池(蓄電デバイス)
20 電極体
21 正極シート(正極要素,電極シート)
21a 正極集電箔(正極集電体,集電体)
21a1 未形成部
21a1) 未形成部
21b 正極活物質層(電極活物質層)
21p 正極保護層
21t 正極タブ
22 負極要素
22 負極シート(負極要素,電極シート)
22a 負極集電箔(負極集電体,集電体)
22a1 未形成部
22b 負極活物質層(電極活物質層)
22t 負極タブ
31,32 セパレータシート(セパレータ)
41 電池ケース
41a ケース本体
41a1 開口
41b 封口板
41b1 注液孔
41b2 封止部材
41b3 安全弁
42 底面部
43,44 幅広面部
45,46 幅狭面部
50 正極端子
51 外部端子
55 内部端子
60 負極端子
61 外部端子
65 内部端子
70 ガスケット
80 インシュレータ
S1 用意工程
S2 溶解工程
S21a 破砕工程
S3 分離工程
S4 回収工程
S5 構築工程
WL 捲回軸