(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024164710
(43)【公開日】2024-11-27
(54)【発明の名称】非水電解液二次電池用の電極体の製造方法、非水電解液二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0587 20100101AFI20241120BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20241120BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20241120BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20241120BHJP
H01M 50/414 20210101ALI20241120BHJP
【FI】
H01M10/0587
H01M4/139
H01M10/0566
H01M4/62 Z
H01M50/414
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080386
(22)【出願日】2023-05-15
(71)【出願人】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】トヨタバッテリー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】泉本 貴昭
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健太郎
【テーマコード(参考)】
5H021
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H021CC02
5H021EE03
5H021EE04
5H029AJ14
5H029AK03
5H029AL07
5H029AM02
5H029BJ02
5H029BJ14
5H029CJ03
5H029CJ08
5H029CJ22
5H029CJ28
5H029DJ08
5H029EJ04
5H029HJ01
5H029HJ04
5H029HJ08
5H029HJ15
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB08
5H050DA10
5H050EA08
5H050FA05
5H050GA03
5H050GA10
5H050GA22
5H050GA27
5H050HA01
5H050HA04
5H050HA08
5H050HA15
(57)【要約】
【課題】簡易な工程で電極体のプレス時のセパレータの過度な塑性変形を抑制する。
【解決手段】リチウムイオン二次電池の製造で捲回された電極体10が扁平に整形される捲回体プレス工程において、捲回体プレス工程後において電極体を1.2[MPa]と0.03[MPa]で加圧し、電極体10の厚み[mm]をそれぞれ測定した際の電極体10の厚みT
1、T
2[mm]の差ΔTが0.4[mm]以下となる前記捲回体プレス工程の荷重を捲回体整形荷重PL[MPa]が、11[MPa]以下となるように、正極塗工工程後の厚みA[μm]、正極目付重量B[mg/cm
2]、正極プレス工程後厚みC[μm]を調整する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極体、非水電解液、及びこれらを収容する直方体状の電池ケースを備えた非水電解液二次電池用の電極体の製造方法であって、
前記電極体の正極集電箔に正極合材層を塗工する正極塗工工程と、
前記正極合材層が塗工された正極板をプレスする正極プレス工程と、
プレスされた前記正極板と、負極集電箔と負極合材層を含む負極板とが、多孔性樹脂からなるセパレータを介して積層される積層工程と、積層された前記電極体が捲回される捲回工程と、
捲回された前記電極体が扁平に整形される捲回体プレス工程とを含み、
前記捲回体プレス工程後において前記電極体を1.2[MPa]と0.03[MPa]で加圧し、前記電極体の厚み[mm]をそれぞれ測定した際の前記電極体の厚みT1、T2[mm]の差ΔTが0.4[mm]以下となる前記捲回体プレス工程の荷重を捲回体整形荷重PL[MPa]としたとき、
前記捲回体整形荷重PL[MPa]が、11[MPa]以下となるように、前記正極塗工工程後の厚みA[μm]、正極目付重量B[mg/cm2]、正極プレス工程後厚みC[μm]を調整することを特徴とする非水電解液二次電池用の電極体の製造方法。
【請求項2】
電極体、非水電解液、及びこれらを収容する直方体状の電池ケースを備えた非水電解液二次電池用の電極体の製造方法であって、
前記電極体の正極集電箔に正極合材層を塗工する正極塗工工程と、
前記正極合材層が塗工された正極板をプレスする正極プレス工程と、
プレスされた前記正極板と、負極集電箔と負極合材層を含む負極板とが、多孔性樹脂からなるセパレータを介して積層される積層工程と、積層された前記電極体が捲回される捲回工程と、
捲回された前記電極体が扁平に整形される捲回体プレス工程とを含み、
前記正極塗工工程後の厚みをA[μm]、正極目付重量をB[mg/cm
2]、前記正極プレス工程後の厚みをC[μm]、前記正極集電箔の厚みをD[μm]としたときの正極密度変化量ΔPD[g/cm
3]を
【数1】
で求めたときに、
前記正極密度変化量ΔPDが1.0[g/cm
3]以下となるように調整することを特徴とする非水電解液二次電池用の電極体の製造方法。
【請求項3】
前記正極密度変化量ΔPDが0.63[g/cm3]以上となるように調整することを特徴とする請求項2に記載の非水電解液二次電池用の電極体の製造方法。
【請求項4】
前記捲回体プレス工程は、前記電極体を加熱しない常温でプレスをすることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の非水電解液二次電池用の電極体の製造方法。
【請求項5】
前記正極合材層は導電体を含み、当該導電体がカーボンナノチューブであることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の非水電解液二次電池用の電極体の製造方法。
【請求項6】
前記非水電解液二次電池がリチウムイオン二次電池であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の非水電解液二次電池用の電極体の製造方法。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか一項に記載の非水電解液二次電池用の電極体の製造方法を含む非水電解液二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液二次電池用の電極体の製造方法、非水電解液二次電池の製造方法に係り、詳しくは、簡易な工程で電極体のプレス時にセパレータの過度な塑性変形を抑制する非水電解液二次電池用の電極体の製造方法、非水電解液二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池などの非水電解液二次電池は、エネルギー密度が高く、高電圧、高出力であるため、電気自動車やハイブリッド自動車などの駆動用の電源として車両に搭載されている。車載用の非水電解液二次電池は、電極体、非水電解液、及びこれらを収容する直方体状の電池ケースを備える。コンパクト化のため電極体は、正極板と負極板とがセパレータを介して積層され捲回される。そして、捲回された電極体がプレス工程により電池ケースの内寸に合わせて扁平に整形されている。このように製造されたセル電池がスタックされて組電池として使用されている。このとき、電池ケースに収容された電極体は組電池としての安定性や耐圧性を高めるため、電極体が一定の圧力以上でプレスされている。
【0003】
従来の方法では電極体の捲回体を扁平にプレスする際、単純に電極体を圧縮するプレス荷重を上げるだけではセパレータの細孔が潰れてしまい、抵抗増加を引き起こしてしまう。このような課題に対して、特許文献1に記載された発明では、電極体プレス時の成形性を改善する為に正極板・負極板に熱処理を施すことで電極を軟化させる。このような工程で成形性を向上させている。
【0004】
また、特許文献2に記載された発明では、電極体形状を安定化させるため、電極体を加熱する。そして加熱された電極体をプレスしている。
このような発明によれば、加熱により正極板などを軟化させるため、小さな荷重で電極体を扁平にプレスすることができ、セパレータの細孔を潰すようなこともなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-059491号公報
【特許文献2】特開2013-206587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、電極体を加熱するためには加熱設備が必要となるため、設備コストが生じるという問題があった。また、電極体の加熱や冷却により生産タクトが悪化して、生産効率が低下するという問題もあった。
【0007】
本発明の非水電解液二次電池用の電極体の製造方法、非水電解液二次電池の製造方法が解決しようとする課題は、簡易な工程で電極体のプレス時にセパレータの過度な塑性変形を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の非水電解液二次電池用の電極体の製造方法では、電極体、非水電解液、及びこれらを収容する直方体状の電池ケースを備えた非水電解液二次電池用の電極体の製造方法であって、前記電極体は、正極集電箔に正極合材層を塗工する正極塗工工程と、前記正極合材層が塗工された前記正極板をプレスする正極プレス工程と、プレスされた前記正極板と、負極集電箔と負極合材層を含む負極板とが、多孔性樹脂からなるセパレータを介して積層される積層工程と、積層された前記電極体が捲回される捲回工程と、捲回された前記電極体が扁平に整形される捲回体プレス工程とを含み、前記捲回体プレス工程後において前記電極体を1.2[MPa]と0.03[MPa]で加圧し、前記電極体の厚み[mm]をそれぞれ測定した際の前記電極体の厚みT1、T2[mm]の差ΔTが0.4[mm]以下となる前記捲回体プレス工程の荷重を捲回体整形荷重PL[MPa]としたとき、前記捲回体整形荷重PL[MPa]が、11[MPa]以下となるように、前記正極塗工工程後の厚みA[μm]、正極目付重量B[mg/cm2]、正極プレス工程後厚みC[μm]を調整することを特徴とする。
【0009】
また、上記課題を解決するため、本発明の非水電解液二次電池用の電極体の製造方法は、電極体、非水電解液、及びこれらを収容する直方体状の電池ケースを備えた非水電解液二次電池用の電極体の製造方法であって、前記電極体は、正極集電箔に正極合材層を塗工する正極塗工工程と、前記正極合材層が塗工された前記正極板をプレスする正極プレス工程と、プレスされた前記正極板と、負極集電箔と負極合材層を含む負極板とが、多孔性樹脂からなるセパレータを介して積層される積層工程と、積層された前記電極体が捲回される捲回工程と、捲回された前記電極体が扁平に整形される捲回体プレス工程とを含み、前記正極塗工工程後の厚みをA[μm]、正極目付重量をB[mg/cm
2]、前記正極プレス工程後の厚みをC[μm]、前記正極集電箔の厚みをD[μm]としたときの正極密度変化量ΔPD[g/cm
3]を、
図8に示す(式1)で求めたときに、前記正極密度変化量ΔPDが1.0[g/cm
3]以下となるように調整することを特徴とすることもできる。この場合、前記正極密度変化量ΔPDが0.63[g/cm
3]以上となるように調整することが望ましい。
【0010】
前記捲回体プレス工程は、前記電極体を加熱しない常温でプレスをすることができる。
前記正極合材層は導電体を含み、当該導電体がカーボンナノチューブであることが望ましい。
【0011】
本発明は非水電解液二次電池の製造方法の一部として上記非水電解液二次電池用の電極体の製造方法を含むことができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の非水電解液二次電池用の電極体の製造方法、非水電解液二次電池の製造方法によれば、簡易な工程で電極体のプレス時にセパレータの過度な塑性変形を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施形態のリチウムイオン二次電池の斜視図である。
【
図2】リチウムイオン二次電池の電極体の積層体の構成を示す模式図である。
【
図3】リチウムイオン二次電池の電極体の積層体の構成を示す模式図である。
【
図4】幅方向Wから見た電極体の端部の構成を示す模式図である。
【
図5】本実施形態の実施例と比較例の試験の結果を示す表である。
【
図6】本実施形態のリチウムイオン二次電池1の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【
図7】本実施形態のリチウムイオン二次電池1の源泉工程を示すフローチャートである。
【
図8】正極密度変化量ΔPD[g/cm
3]を導く(式1)である。
【
図9】本実施形態の正極密度変化量ΔPD[g/cm
3]と捲回体整形荷重PL[MPa]との関係を示す表である。
【
図10】本実施形態の捲回体整形荷重PL[MPa]と抵抗増加率[%]の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の非水電解液二次電池用の電極体の製造方法、非水電解液二次電池の製造方法を、リチウムイオン二次電池1の製造方法の実施形態により、
図1~10を参照して説明する。
【0015】
<本実施形態の概略>
図1は、本実施形態のリチウムイオン二次電池1の斜視図である。
図2は、本実施形態のリチウムイオン二次電池1の電極体10の積層体の構成を示す模式図である。
図3は、リチウムイオン二次電池1の電極体10の積層体の構成を示す模式図である。
図4は、電極体10の捲回体プレス工程を示す模式図である。
【0016】
背景技術で述べたように従来は、捲回体プレス工程において電極体10の捲回体を扁平にプレスする際、単純に電極体を圧縮するプレス荷重を上げるだけではセパレータ120の細孔が潰れてしまい、抵抗増加を引き起こしてしまうことがあった。このような課題に対して、従来技術の特許文献1や特許文献2に記載された発明では、熱処理を施し、電極を軟化させる事で成形性を向上させている。
【0017】
しかしながら、電極体10を加熱するためには加熱設備が必要となるため、設備コストが生じるという問題があった。また、電極体の加熱や冷却により生産タクトが悪化して、生産効率が低下するという問題もあった。
【0018】
本実施形態では、このような熱処理なしで、正極塗工工程後の厚みA[μm]、正極目付重量B[mg/cm
2]、正極プレス工程後厚みC[μm]を調整することで、セパレータ120の細孔を破壊しないように捲回体プレス工程(
図6:S4)を行う。
【0019】
このような正極塗工工程(S4)後の厚みA[μm]、正極目付重量B[mg/cm
2]、正極プレス工程後厚みC[μm]を調整するために、「捲回体整形荷重PL[MPa]」を求める。「捲回体整形荷重PL[MPa]」は、捲回体プレス工程(S4)後において電極体10を1.2[MPa]と0.03[MPa]で加圧する。そして電極体10の厚み[mm]をそれぞれ測定した際の電極体10の厚みT
1、T
2[mm]の差ΔTが0.4[mm]以下となる捲回体プレス工程(
図6:S4)の荷重を捲回体整形荷重PL[MPa]とする。
【0020】
図5は、本実施形態の捲回体整形荷重PL[MPa]と抵抗増加率[%]の関係を示すグラフである。横軸に捲回体整形荷重PL[MPa]を採り、縦軸に抵抗増加率[%]を採ったグラフである。ここで「抵抗増加率[%]」とは、リチウムイオン二次電池1の内部抵抗である。セパレータ120の細孔が潰れると、セパレータ120にリチウムイオンLi
+が通過しにくくなるため内部抵抗となる。したがって、内部抵抗が大きくなると捲回体プレス工程(
図6:S4)において細孔が潰されたことが推定できる。
【0021】
このグラフから捲回体整形荷重PLが11.0[MPa]を超えると、捲回体プレス工程(
図6:S4)において細孔が潰されたことが推定できる。本発明者らは、このとき、捲回体整形荷重PL[MPa]が、11[MPa]以下となるようにすることで、常温でもセパレータ120の細孔を破壊しないように捲回体プレス工程(S4)を行うことができることを実験を通じて見出した。
【0022】
具体的には、正極塗工工程後の厚みをA[μm]、正極目付重量をB[mg/cm
2]、正極プレス工程後の厚みをC[μm]、正極集電箔の厚みをD[μm]としたときの正極密度変化量ΔPD[g/cm
3]を
図8に示す(式1)で求める。このとき、正極密度変化量ΔPDが1.0[g/cm
3]以下となるように調整する。また、正極密度変化量ΔPDが0.6[g/cm
3]以上となるように調整する。このように調整することで、捲回体整形荷重PL[MPa]が、11[MPa]以下になるように容易に調整することができる。
【0023】
<本実施形態のリチウムイオン二次電池1>
まず、本実施形態の前提となるリチウムイオン二次電池1の構成を簡単に説明する。
図1は、リチウムイオン二次電池1の斜視図である。
図1に示すようにリチウムイオン二次電池1は、セル電池として構成される。上側に開口部を有する直方体状の電池ケース11を備える。電池ケース11は、電池ケース11の開口部を封止する蓋体12を備える。電池ケース11の内部には電極体10が収容される。電池ケース11内は非水電解液17が充填されている。電池ケース11及び蓋体12はアルミニウム合金等の金属で構成されている。リチウムイオン二次電池1は、電池ケース11に蓋体12を取り付けることで密閉された電槽が構成される。またリチウムイオン二次電池1は、蓋体12に、電力の充放電に用いられる負極外部端子14、正極外部端子16を備えている。負極外部端子14と電極体10の負極接続部103(
図2参照)は蓋体12を介して負極集電体13により接続されている。正極外部端子16と電極体10の正極接続部113(
図2参照)は蓋体12を介して正極集電体15により接続されている。
【0024】
<電極体10>
図2は、リチウムイオン二次電池1の電極体10の積層体の構成を示す模式図である。
図2に示すように、リチウムイオン二次電池1の電極体10は、負極板100と正極板110とセパレータ120を備える。負極板100は、負極集電箔101の両面に負極合材層102を備える。正極板110は、正極集電箔111の両面に正極合材層112を備える。負極板100と正極板110をセパレータ120を介して重ねて、積層された電極体10を構成する。この積層体が捲回軸を中心に長さ方向Zに捲回され、扁平に整形されてなる電極体10を構成する。
【0025】
負極接続部103は、負極板100の負極合材層102から電気を取り出す集電部として機能する。正極接続部113は、正極板110の正極合材層112から電気を取り出す集電部として機能する。
【0026】
<電極体10の端部構成>
図3は、捲回された電極体10の幅方向の負極側の端部を示す斜視図である。積層工程(
図6:S2)で積層された電極体10は、捲回工程(
図6:S3)で捲回軸を中心に中心Ctの部分が支えられて捲回される。次に、幅方向Wと直交する厚み方向Tから一対の対向するプレス機2(
図4参照)により捲回体プレス工程(
図6:S4)で、幅方向Wから見た端部が競走用トラック状の扁平な形状に整形される。そして、扁平な電極体10は、
図1に示すように電池ケース11に収容され、負極接続部103には、負極集電体13が溶接される。正極接続部113には正極集電体15が溶接される。接続部と集電体との溶接方法としては、例えば超音波溶接や抵抗溶接、電気溶接がある。そして、蓋体12を貫通して負極集電体13には負極外部端子14が接続され、正極集電体15には正極外部端子16が接続される。
【0027】
ここで、電極体10の捲回軸と平行な方向を「幅方向W」とする。また、電極体10の捲回軸と直交しかつ平坦部Fの面と直交する方向を「厚み方向T」という。また、幅方向W及び厚み方向Tと直交する方向を「長さ方向Z」という。
【0028】
<平坦部Fと湾曲部R>
図4は、幅方向Wから見た電極体10の端部の構成を示す模式図である。電極体10の捲回体は、負極板100と正極板110とがセパレータ120を介して繰り返し積層されている。扁平にプレスされた電極体10の中央部は直線状で、負極板100、正極板110及びセパレータ120により平面状の「平坦部F」(
図3参照)が形成されている。
【0029】
また、平坦部Fの上端及び下端は、積層された負極板100、正極板110、セパレータ120からなる電極体10が半円柱状に湾曲されて、湾曲部R(
図3参照)が形成される。この湾曲部Rは、幅方向Wから見てほぼ同心円の半円状となっており、これらの半円の中心になっている位置を「中心Ct」とする。この中心Ctは、幅方向Wに続く直線として観念できる。
【0030】
<負極板100>
負極板100は、負極集電箔101の両面に負極合材層102が形成されている。負極集電箔101は、実施形態ではCu箔から構成されている。負極集電箔101は、負極合材層102の骨材としてのベースとなるとともに、負極合材層102から電気を集電する集電部材の機能を有している。負極板100は、金属製の負極集電箔101上に負極合材層102が形成される。第1の実施形態では負極活物質は、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な材料であり、黒鉛(グラファイト)等からなる粉末状の炭素材料を用いる。
【0031】
負極板100は、例えば、負極活物質と、溶媒と、結着剤(バインダー)とを混練して負極合材ペーストを作成する(
図7:S21)。作成した負極合材ペーストを負極集電箔101に塗布して(
図7:S22)、乾燥工程で乾燥する(
図7:S23)。そして、負極プレス工程(
図7:S24)で所定の厚さ、密度とされる。
【0032】
<正極板110>
正極集電箔111の両面に正極合材層112が形成されて正極板110が構成されている。正極集電箔111は、実施形態ではAl箔やAl合金箔から構成されている。正極集電箔111は、正極合材層112の骨材としてのベースとなるとともに、正極合材層112から電気を集電する集電部材の機能を有している。
【0033】
正極板110は、正極集電箔111の表面に正極合材層112が形成されている。正極合材層112は正極活物質を有する。正極活物質は、リチウムを吸蔵・放出可能な材料であり、例えばコバルト酸リチウム(LiCoO2)、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)等を用いることができる。また、LiCoO2、LiMn2O4、LiNiO2を任意の割合で混合した材料を用いてもよい。
【0034】
また、正極合材層112は、導電材を含む。導電材としては、例えばアセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、黒鉛(グラファイト)を用いることができる。本実施形態では、正極目付重量B[mg/cm2]を低下させるため、導電性が高いカーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーなどを用いている。同程度の導電性を得るための添加量が少なく、正極合材ペーストの固形分率を低下させることができる。
【0035】
正極板110は、例えば、正極活物質と、導電材と、溶媒と、結着剤(バインダー)とを混練し、正極合材ペーストを作成する(
図7:S11)。混練後の正極合材ペーストを正極集電箔111に塗工する(
図7:S12)。その後乾燥する(
図7:S13)。最後に正極プレス工程(
図7:S14)することで所定の厚さ、密度にする。
【0036】
<セパレータ120>
セパレータ120は、負極板100及び正極板110の間に非水電解液17を保持するための多孔性樹脂であるポリプロピレン製等の絶縁性の高い不織布である。また、セパレータ120としては、多孔性ポリエチレン膜、多孔性ポリオレフィン膜、および多孔性ポリ塩化ビニル膜等の多孔性ポリマー膜、又は、リチウムイオンもしくはイオン導電性ポリマー電解質膜を、単独、又は組み合わせて使用することもできる。非水電解液17に電極体10に浸漬させるとセパレータ120の端部から中央部に向けて非水電解液17が浸透する。
【0037】
樹脂製のセパレータ120は一定の弾性を有し、捲回体プレス工程(
図6:S4)のような一時的に押圧力を受けても、押圧力がなくなれば元の厚さに復元する。ただし、一定の押圧力(本実施形態では11[MPa])を超えると、材料が塑性変形して潰れた細孔はもとの大きさに戻ることが無く、空孔率[%]が低下し、リチウムイオンLi
+の移動が抑制される。このため、不可逆的に内部抵抗が大きくなる。
【0038】
セパレータ120の製造方法では、多孔性のシートを長さ方向、幅方向に延伸して細孔の大きさを調節することで空孔率を目的の大きさとする。
セパレータ120は、単層でもよいが、複数の層から構成してもよい。本実施形態では、コアのシートをポリエチレンの多孔性のシートから作成し、高熱になった場合に溶解して細孔を閉じることでリチウムイオンLi+の移動を阻止して回路をシャットダウンする。また、コアのシートの両面を機械的な強度が高く、耐熱性、耐食性の高いポリプロピレンの多孔質のシートで構成することで、微小短絡を抑制する。
【0039】
<リチウムイオン二次電池1の製造方法>
図6は、本実施形態のリチウムイオン二次電池1の製造方法の一例を示すフローチャートである。セル電池であるリチウムイオン二次電池1は、まず、源泉工程(S1)で、発電要素である負極板100、正極板110、セパレータ120をそれぞれ作成する。源泉工程(S1)については、後に
図7に基づいて詳述する。源泉工程(S1)で負極板100、正極板110、セパレータ120をそれぞれ作成したら、次に積層工程(S2)でセパレータ120を介して負極板100、正極板110を重ね合わせて一体化する。このように作成した積層体は、捲回工程(S3)において、
図2に示すように長さ方向Zに捲回する。捲回すると、積層体は、
図3に示すような幅方向Wから見て、概ね陸上競技用のトラックのような形状となる。捲回工程(S3)で、捲回された積層体は、概ね板状となっている。このような捲回体は、捲回体プレス工程(S4)において、
図4に示すように一対の対向するプレス機2のプレス面2aにより、矢印で示す厚み方向Tからプレスされる。捲回体プレス工程(S4)では、
図1に示す電池ケース11に電極体10を隙間なく収容するため、規定の厚さ[mm]になるまでプレスされる。このとき正極合材ペースト作成工程(
図7:S11)における配合や、正極塗工工程(S12)における正極目付重量B[mg/cm
2]、正極塗工工程(S12)後の厚みA[μm]、正極プレス工程(S14)後の厚みC[μm]などにより、捲回体整形荷重PL[kN]が変化する。
【0040】
捲回体プレス工程(S4)において、電極体10の厚みが整えられたら、組立工程(S5)を行う。組立工程(S5)では、
図1に示すように電極体10に負極集電体13、正極集電体15が装着され、さらに蓋体12を介して、負極外部端子14、正極外部端子16が装着される。そして、電極体10は電池ケース11に収容される。そして、蓋体12が電池ケース11に溶接されることで開口部を封止する。この段階では、蓋体12の注液口18は開放しているのでセル乾燥工程(S6)でセルを加熱してセル内を乾燥する。セル乾燥工程(S6)でセル内が乾燥したら、注液・封止工程(S7)で、非水電解液17を注液して、注液口18を封止して密閉する。以上でリチウムイオン二次電池1の組立が完了する。
【0041】
その後、活性化工程(S8)における初充電でSEI被膜を形成する。また、エージング工程において高温で長時間保存して微小短絡を解消する。
このような活性化工程(S8)が完了したら、検査工程(S9)で、電池容量、内部抵抗、自己放電、OCVなどを検査して、合格したものが製品として出荷される。
【0042】
<源泉工程(S1)>
図7は、本実施形態のリチウムイオン二次電池1の源泉工程(S1)を示すフローチャートである。
【0043】
源泉工程(S1)は、発電要素である負極板100、正極板110、セパレータ120をそれぞれ作成する工程である。
正極合材ペースト作成工程(S11)では、正極活物質と、導電材と、溶媒と、結着剤(バインダー)とを混練し、正極合材ペースト作成を作成する。
【0044】
本実施形態では、正極合材ペースト作成工程(S11)における配合で、正極塗工工程(S12)後の厚みA[μm]、正極目付重量B[mg/cm2]、正極プレス後の厚みC[μm]などを調製することにより、捲回体整形荷重PL[kN]が変化する。
【0045】
正極塗工工程(S12)後の厚みA[μm]の調整は、例えば、溶媒の配合量を増加させることで、厚みA[μm]を増加することができる。また、正極目付重量B[mg/cm2]は、正極活物質については、正極の電池容量との関係から一定の量が必要となる。そこで、導電材を例えばカーボンナノチューブとすると、その形状や伝導率から粒子状のカーボンよりも質量が少なくてよい。そのため、正極合材ペーストの固形分率を小さくすることができ、正極合材ペーストの正極目付重量B[mg/cm2]を小さくすることができる。
【0046】
正極塗工工程(S12)では、このように正極合材ペーストの配合を調製することで、正極塗工工程(S12)後の厚みA[μm]を調製する。
正極塗工工程(S12)後は、乾燥工程(S13)で乾燥させて、正極合材層112の溶媒等の揮発成分を揮発させて、正極合材層112を固める。乾燥工程(S13)で乾燥した正極板110は、正極プレス工程(S14)において、所定の厚さとなるように整形プレスが行われる。
【0047】
源泉工程(S1)では、正極板110の製造と並行して、負極板100を製造する。ここでは詳しく説明しないが、負極合材ペースト作成工程(S21)、負極塗工工程(S22)、乾燥工程(S23)、負極プレス工程(S24)により負極板100を製造する。
【0048】
また、詳細な説明は省略するが、正極板110の製造と並行してセパレータ作成工程(S31)によりセパレータ120も製造する。
以上の源泉工程(
図6:S1)において、リチウムイオン二次電池1の発電要素となる負極板100、正極板110、セパレータ120をそれぞれ製造する。
【0049】
<積層工程(S2)>
上述のように源泉工程(S1)で製造された負極板100、正極板110、セパレータ120は、
図2、
図4に示すように、負極板100-セパレータ120-正極板110-セパレータ120の順に積層される。
【0050】
<捲回工程(S3)>
積層工程(S2)で積層された負極板100、正極板110、セパレータ120は、
図2、
図3に示すように捲回される。
【0051】
<捲回体プレス工程(S4)>
捲回体プレス工程(S4)では、
図4に示すように電極体10の捲回体を厚み方向Tにおいてプレス機2のプレス面2aでプレスする。
【0052】
ここでは、捲回体プレス工程(S4)後において電極体10を1.2[MPa]と0.03[MPa]で加圧し、電極体10の厚み[mm]をそれぞれ測定する。測定した電極体10の厚みT1、T2[mm]の差ΔTが0.4[mm]以下となる捲回体プレス工程(S4)の荷重を捲回体整形荷重PL[MPa]とする。
【0053】
この捲回体整形荷重PL[MPa]が、11[MPa]以下となるように、正極塗工工程後の厚みA[μm]、正極目付重量B[mg/cm2]、正極プレス工程後厚みC[μm]を調整する。
【0054】
ここで、本実施形態では、正極塗工工程(S12)後の厚みをA[μm]、正極目付重量をB[mg/cm
2]、正極プレス工程後の厚みをC[μm]、前記正極集電箔の厚みをD[μm]とする。このときの正極密度変化量ΔPD[g/cm
3]を
図8に示す(式1)で求めたときに、正極密度変化量ΔPDが1.0[g/cm
3]以下となるように調整する。このように調整することで、捲回体プレス工程(S4)において、捲回体整形荷重PL[MPa]を11[MPa]以下することができる。
【0055】
なお、正極密度変化量ΔPDは、0.63[g/cm3]以上となるように調整する。このように調整することで、正極活物質の粒子と導電材が密着し、これらの間の接触抵抗を低減することができるからである。
【0056】
(本実施形態の作用)
図4に示すように捲回体プレス工程(
図6:S4)において電極体10の捲回体をプレス機2の一対のプレス面2a、2aでプレスするとき、成形性には正極板110の反力特性が支配的に影響する。セパレータ120は、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)などの多孔質のポリオレフィンからなり、一定の弾性を有する。しかしながら、一定の圧力超えた大きな圧力を受けると不可逆的に塑性変形してしまう。一旦塑性変形してしまうと、細孔が潰れてしまい、透水性などが悪化して、リチウムイオンLi
+の流通が悪化する。このため、電池性能に悪影響を与えてしまう。
【0057】
そこで本発明者らは、捲回体整形荷重PL[MPa]が、11[MPa]以下となるようにすることで、常温でもセパレータ120の細孔を破壊しないように捲回体プレス工程を行うことができることを、実験を通じて見出した。
【0058】
また、本発明者らはこのように、捲回体整形荷重PL[MPa]を11[MPa]以下とするためには、正極密度変化量ΔPD[g/cm3]を1.0[g/cm3]以下とすることで達成することができることを見出した。
【0059】
そこで、正極密度変化量ΔPD[g/cm3]を1.0[g/cm3]以下とするような条件を証明する必要がある。このため、正極塗工後の厚みA[μm]、正極目付重量B[mg/cm2]、正極プレス工程後厚みC[μm]、正極集電箔厚みD[μm]と、正極密度変化量ΔPD[g/cm3]との関係について、以下の実験を行った。
【0060】
<実験例>
ここで、本実施形態の実験例を示す。
図9は、本実施形態の実施例と比較例の試験の結果を示す表である。実験は、「比較例」と「実施例1~4」について、以下の項目を測定した。
【0061】
まず予め正極集電箔111の厚みD[μm]を測定しておく。なお、正極集電箔111は、共通のものを使用し、その厚みDは12.00[μm]であった。
次に、正極合材ペースト作成工程(S11)で所定の配合の正極合材ペーストを調製する。次いで正極塗工工程(S12)で正極集電箔111に、正極合材ペーストを所定の正極目付重量B[mg/cm2]で塗工する。ここで、正極塗工後の厚みA[μm]を測定する。その後正極合材層112を乾燥させて正極プレス工程(S14)を行う。そして正極プレス後の厚みC[μm]を測定する。
【0062】
ここで、正極塗工工程後(S12)の厚みをA[μm]とする。正極目付重量をB[mg/cm
2]とする。正極プレス工程(S14)後の厚みをC[μm]とする。正極集電箔111の厚みをD[μm]とする。このときの正極密度変化量ΔPD[g/cm
3]を
図8に示す(式1)で求める。ここで、右辺の分子に10を乗じているのは、単位を揃えるためである。
【0063】
そして、「比較例」と「実施例1~5」について、比較した。
<実験の条件>
・比較例:
正極塗工後の厚みAは、86.1[μm]、正極目付重量Bは、11.33[mg/cm2]、正極プレス工程後厚みCは、53.5[μm]であり、正極集電箔厚みDは、12.00[μm]である。上記(式1)により正極密度変化量ΔPDを求めると1.20[g/cm3]となった。また、このときの捲回体整形荷重PLは、13.0[MPa]となった。
【0064】
・実施例1:
正極塗工後の厚みAは、79.1[μm]、正極目付重量Bは、11.15[mg/cm2]、正極プレス工程後厚みCは、55.5[μm]であり、正極集電箔厚みDは、12.00[μm]である。上記(式1)により正極密度変化量ΔPDを求めると0.90[g/cm3]となった。また、このときの捲回体整形荷重PLは、9.7[MPa]となった。
【0065】
・実施例2:
正極塗工後の厚みAは、75.5[μm]、正極目付重量Bは、11.11[mg/cm2]、正極プレス工程後厚みCは、58.0[μm]であり、正極集電箔厚みDは、12.00[μm]である。上記(式1)により正極密度変化量ΔPDを求めると0.67[g/cm3]となった。また、このときの捲回体整形荷重PLは、7.7[MPa]となった。
【0066】
・実施例3:
正極塗工後の厚みAは、82.6[μm]、正極目付重量Bは、11.10[mg/cm2]、正極プレス工程後厚みCは、55.4[μm]であり、正極集電箔厚みDは、12.00[μm]である。上記(式1)により正極密度変化量ΔPDを求めると1.00[g/cm3]となった。また、このときの捲回体整形荷重PLは、11.0[MPa]となった。
【0067】
・実施例4:
正極塗工後の厚みAは74.4[μm]、正極目付重量Bは、11.03[mg/cm2]、正極プレス工程後厚みCは、58.0[μm]であり、正極集電箔厚みDは、12.00[μm]である。上記(式1)により正極密度変化量ΔPDを求めると0.63[g/cm3]となった。また、このときの捲回体整形荷重PLは、6.9[MPa]となった。
【0068】
<実験のまとめ>
図4に示すように捲回体プレス工程(
図6:S4)において電極体10の捲回体をプレス機2の一対のプレス面2a、2aでプレスするとき、成形性には正極板110の反力特性が支配的に影響する。セパレータ120は、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)などの多孔質のポリオレフィンからなり、一定の弾性を有する。しかしながら、一定の圧力を受けると塑性変形してしまう。一旦塑性変形してしまうと、細孔が潰れてしまい、透水性などが悪化して、リチウムイオンLi
+の流通が悪化する。このため、電池性能に悪影響を与えてしまう。本発明者らは、捲回体整形荷重PL[MPa]を11[MPa]以下であれば、セパレータ120の塑性変形は回避でき細孔が潰れないで、円滑にリチウムイオンLi
+の交換が円滑に行われることを実験を通じて確認した。
【0069】
そこで本発明者らは、捲回体整形荷重PL[MPa]を11[MPa]を基準の閾値PLthとして、閾値PLth[MPa]の11[MPa]以下となるようにする。このことで、常温でもセパレータ120の細孔を破壊しないように捲回体プレス工程(
図6:S4)を行うことができる条件を解析した。
【0070】
<実験の結果>
実験の結果、「比較例」は捲回体整形荷重PLが13.0[MPa]となり、閾値PLth[MPa]を超えるため、セパレータ120の塑性変形が回避できないことが分かった。一方、「実施例1」~「実施例4」は、捲回体整形荷重PLが6.9~11.0[MPa]となり、閾値PLth[MPa]を超えないで、セパレータ120の塑性変形が回避できることが分かった。
【0071】
その条件として、「比較例」の正極密度変化量ΔPDは、1.20であり、「実施例1」~「実施例4」は0.63~1.00[g/cm3]であった。
この結果から、正極密度変化量ΔPDを1.00[g/cm3]以下とすることで、捲回体整形荷重PL[MPa]を基準閾値PLthである11[MPa]以下とすることができることが判明した。
【0072】
すなわち、正極密度変化量ΔPDを1.00[g/cm3]以下とするように、(式1)において正極塗工後の厚みA[μm]、正極目付重量B[mg/cm2]、正極プレス工程後厚みC[μm]の値を定める。このことで、容易に捲回体整形荷重PL[MPa]を閾値PLth[MPa]の11[MPa]以下とすることができる。
【0073】
また、具体的な正極塗工後の厚みA[μm]、正極目付重量B[mg/cm2]、正極プレス工程後厚みC[μm]の値は、以下のとおりである。
正極塗工後の厚みAは74.4~82.6[μm]とすることで、捲回体整形荷重PL[MPa]を基準閾値PLthである11[MPa]以下となることが判明した。
【0074】
また、正極目付重量Bは、11.03~11.05[mg/cm2]とすることで、捲回体整形荷重PL[MPa]を基準閾値PLthである11[MPa]以下となることが判明した。
【0075】
また、正極プレス工程後厚みCは、55.4~58.0[μm]とすることで、捲回体整形荷重PL[MPa]を基準閾値PLthである11[MPa]以下となることが判明した。
【0076】
<本実施形態の作用>
図10は、本実施形態の正極密度変化量ΔPD[g/cm
3]と捲回体整形荷重PL[MPa]との関係を示すグラフである。横軸に正極密度変化量ΔPD[g/cm
3]を採り、縦軸に捲回体整形荷重PL[MPa]を採って、実験結果をグラフにプロットしてその関係を示した。このグラフから正極密度変化量ΔPD[g/cm
3]と捲回体整形荷重PL[MPa]との関係は、強い正の相関関係があることが分かる。したがって、セパレータ120の捲回体整形荷重PL[MPa]と塑性変形荷重である11[MPa]以下とするには、正極密度変化量ΔPDを1.0[g/cm
3]以下にすればいいことが確認できる。
【0077】
(本実施形態の効果)
(1)本実施形態のリチウムイオン二次電池1の製造方法によれば、簡易な工程で電極体10のプレス時にセパレータ120の過度な塑性変形を抑制することができるという効果がある。
【0078】
(2)捲回体プレス工程(S4)後において、捲回体整形荷重PL[MPa]が、11[MPa]以下となるように、正極塗工工程後の厚みA[μm]、正極目付重量B[mg/cm2]、正極プレス工程後厚みC[μm]を調整した。このため、捲回体プレス工程において、セパレータ120の塑性変形によるリチウムイオンLi+の移動抵抗を有効に抑制することができるという効果がある。
【0079】
(3)正極塗工工程(S12)後の厚みをA[μm]、正極目付重量をB[mg/cm
2]、正極プレス工程(S14)後の厚みをC[μm]、正極集電箔111の厚みをD[μm]とする。このときの正極密度変化量ΔPD[g/cm
3]を
図8に示す(式1)で求めた。この場合、正極密度変化量ΔPDが1.0[g/cm
3]以下となるように調整する。これにより、容易に捲回体整形荷重PL[MPa]が、11[MPa]以下となるように調整することができるという効果がある。
【0080】
(4)また、正極密度変化量ΔPDが0.63[g/cm3]以上となるように調整する。このように調整することで、正極活物質の粒子と導電材が密着し、これらの間の接触抵抗を低減することができるという効果がある。
【0081】
(5)本実施形態では、加熱することなく常温で捲回体整形荷重PL[MPa]を11[MPa]以下とすることができる。このため、簡易な設備で実施することができるという効果がある。
【0082】
(6)さらに、加熱に要する時間も必要ないので、生産のタクトタイムを早くして生産効率を上げることができるという効果がある。
(7)本実施形態の正極合材層112は導電体を含み、当該導電体がカーボンナノチューブである。カーボンナノチューブは、導電性が高く、形状が繊維状であるため、導電ネットワークを形成する導電材としての添加量が少なくてすみ、正極合材層112の密度を小さくすることができる。このため、正極合材ペーストの配合が容易になるという効果がある。
【0083】
(8)本実施形態の生産方法は、リチウムイオン二次電池1において好適に実施することができるという効果がある。
(変形例)
上記実施形態は、本発明の実施の一例であり、以下のように変形して実施することができる。
【0084】
○本実施形態では、非水電解液二次電池の例として、車載用の板状のセル電池であるリチウムイオン二次電池1を例示したが、これに限定されず定置用など他の用途でも実施できる。
【0085】
○図面は、本実施形態の説明に用いるためのものであり、見やすくするために、数を省略したり、寸法バランスなどを誇張したりしている場合があるため、これらに限定されるものではない。
【0086】
○
図6、
図7に示すフローチャートは本発明の一例であり、その工程を付加し、削除し、順序を変更し、又は入れ替えて実施することができる。
○各種の数値、範囲は一例であり、当業者により最適化されて実施することができる。
【0087】
○正極合材ペーストの組成や、材料の特性などは、本発明の一例であり、当業者により最適化されて実施することができる。
○本実施形態は本発明の一実施形態であり、特許請求の範囲を逸脱しない限り、実施形態に限定されず当業者によりその構成を付加し、削除し、若しくは変更して実施できることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0088】
A[μm]…正極塗工工程後の厚み
B[mg/cm2]…正極目付重量
C[μm]…正極プレス工程後の厚み
D[μm]…正極集電箔の厚み
ΔPD[g/cm3]…正極密度変化量
PL[MPa]…捲回体整形荷重
PLth…捲回体整形荷重基準閾値
F…平坦部
R…(平坦部の両端に形成される一対の半円柱状の)湾曲部
Ct…湾曲部Rの中心(半円柱状に形成された湾曲部Rの中心軸に位置する点)
W…(電極体を捲回する軸と平行な方向を)幅方向
D…(電極体を捲回する軸と直交しかつ平坦部の面と直交する方向を)厚み方向
Z…(幅方向及び厚み方向と直交する方向を)長さ方向
1…リチウムイオン二次電池
2…プレス機
2a…プレス面
10…電極体
11…電池ケース
12…蓋体
13…負極集電体
14…負極外部端子
15…正極集電体
16…正極外部端子
17…非水電解液
18…注液口
100…負極板
101…負極集電箔
102…負極合材層
103…負極接続部
110…正極板
111…正極集電箔
112…正極合材層
113…正極接続部
120…セパレータ