(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024164734
(43)【公開日】2024-11-27
(54)【発明の名称】車両用駆動システム
(51)【国際特許分類】
H02P 25/02 20160101AFI20241120BHJP
B60L 15/20 20060101ALI20241120BHJP
H02K 21/46 20060101ALI20241120BHJP
【FI】
H02P25/02
B60L15/20 J
H02K21/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080425
(22)【出願日】2023-05-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100170896
【弁理士】
【氏名又は名称】寺薗 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100227695
【弁理士】
【氏名又は名称】有川 智章
(72)【発明者】
【氏名】米盛 敬
【テーマコード(参考)】
5H125
5H505
5H621
【Fターム(参考)】
5H125AA01
5H125AB01
5H125AC12
5H125BA00
5H125CA01
5H125EE42
5H125EE61
5H125FF01
5H505AA16
5H505CC04
5H505DD05
5H505DD08
5H505DD20
5H505EE07
5H505HB01
5H505JJ03
5H505JJ17
5H505LL22
5H505LL24
5H505LL38
5H505LL41
5H505LL45
5H621AA01
5H621HH01
5H621HH10
(57)【要約】
【課題】モータを走行駆動源とする車両において、運転者がモータの振動から運転状態を認識することが可能な車両用駆動システムを提供する。
【解決手段】ステータとロータとを有し、車両の駆動輪を駆動するモータを備える車両用駆動システムである。ステータは周方向に並ぶ複数の一次導体を有している。ロータは、径方向外側の部位で周方向に並ぶ複数の二次導体と、径方向内側の部位で周方向に並ぶ複数の永久磁石と、を有している。一次導体への電力供給を通じてステータに回転磁界を発生させ、モータの駆動態様を、二次導体に発生する誘導電流を用いてロータを回転させる非同期運転モードとするECU等をさらに備えている。ECU等は、非同期運転モードでは(S8)、ステータの極数を永久磁石の極数と異ならせる(S10)ことで、モータに脈動を発生させるように構成されている。
【選択図】
図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状のステータと、当該ステータ内に当該ステータの中心軸と同軸で回転可能に設けられた円筒状のロータと、を有し、当該ロータの回転により車両の駆動輪を駆動するモータを備える車両用駆動システムであって、
上記ステータは、軸方向に延び且つ周方向に並ぶ複数の一次導体を有し、
上記ロータは、径方向外側の部位で軸方向に延び且つ周方向に並ぶ複数の二次導体と、これら複数の二次導体よりも径方向内側の部位で軸方向に延び且つ周方向に並ぶ複数の永久磁石と、を有し、
上記一次導体への電力供給を通じて上記ステータに回転磁界を発生させるとともに、上記モータの駆動態様を、上記二次導体に発生する誘導電流を用いて上記ロータを回転させる非同期運転モードとすることが可能な制御部をさらに備え、
上記制御部は、上記非同期運転モードでは、上記ステータの極数を上記永久磁石の極数と異ならせることで、上記モータに脈動を発生させるように構成されていることを特徴とする車両用駆動システム。
【請求項2】
上記請求項1に記載の車両用駆動システムにおいて、
上記制御部は、運転者による運転操作に応じて、上記モータの脈動が変化するように、当該運転操作に基づいて、上記複数の一次導体を流れる電流の向きをそれぞれ変更して、電流が同じ向きに流れ且つ周方向に連続して並ぶ一次導体群の数を増減することで、上記ステータの極数を変更するように構成されていることを特徴とする車両用駆動システム。
【請求項3】
上記請求項1に記載の車両用駆動システムにおいて、
上記制御部は、自車両の周辺走行環境に応じて、上記モータの脈動が変化するように、当該周辺走行環境に基づいて、上記複数の一次導体を流れる電流の向きをそれぞれ変更して、電流が同じ向きに流れ且つ周方向に連続して並ぶ一次導体群の数を増減することで、上記ステータの極数を変更するように構成されていることを特徴とする車両用駆動システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用駆動システムに関し、特に、モータを駆動源として走行する車両に適用される車両用駆動システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、内燃機関(エンジン)を搭載せず、エンジンよりも低振動の電動機(モータ)を駆動源として走行する電気自動車が知られている。
【0003】
かかるモータとしては、ステータと、かご型ロータとを備えるIMモータ(非同期モータ)や、ステータと、永久磁石が埋め込まれたロータとを備えるPMモータ(同期モータ)が一般的であるが、例えば特許文献1には、ステータと、かご型ロータとを備え、かご型ロータの内部に永久磁石が埋め込まれたモータが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、エンジンを搭載した車両では、燃焼等により発生するエンジンの振動が車室にも伝達されることが知られている。このようなエンジンの振動は、例えば、アイドル運転時やアクセルペダルの踏込み時などといったエンジンの運転状態の違いに応じて変化することから、かかる車室に伝達される振動からエンジンの運転状態を認識しているユーザ(運転者)も多い。
【0006】
これに対し、モータを駆動源とする電気自動車では、例えば、停車時にはモータは回転(振動)しておらず、また、走行時におけるモータの振動もエンジンに比べて小さいので、モータの振動が運転者に認知され難い。このため、エンジンを搭載した車両の運転に慣れた運転者が電気自動車の運転をすると、車室に伝達される振動から運転状態を認識することができないことに対して違和感を覚えるおそれがある。この点、上記特許文献1のものには、モータの振動については何ら記載されていない。
【0007】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、モータを走行駆動源とする車両において、運転者がモータの振動から運転状態を認識することが可能な車両用駆動システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、本発明に係る車両用駆動システムでは、モータを回転駆動させる際に、脈動が発生し易い状態を作出するようにしている。
【0009】
具体的には、本発明は、円筒状のステータと、当該ステータ内に当該ステータの中心軸と同軸で回転可能に設けられた円筒状のロータと、を有し、当該ロータの回転により車両の駆動輪を駆動するモータを備える車両用駆動システムを対象としている。
【0010】
そして、この車両用駆動システムは、上記ステータは、軸方向に延び且つ周方向に並ぶ複数の一次導体を有し、上記ロータは、径方向外側の部位で軸方向に延び且つ周方向に並ぶ複数の二次導体と、これら複数の二次導体よりも径方向内側の部位で軸方向に延び且つ周方向に並ぶ複数の永久磁石と、を有し、上記一次導体への電力供給を通じて上記ステータに回転磁界を発生させるとともに、上記モータの駆動態様を、上記二次導体に発生する誘導電流を用いて上記ロータを回転させる非同期運転モードとすることが可能な制御部をさらに備え、上記制御部は、上記非同期運転モードでは、上記ステータの極数を上記永久磁石の極数と異ならせることで、上記モータに脈動を発生させるように構成されていることを特徴とするものである。
【0011】
この構成によれば、制御部は、非同期運転モードでは、ステータの極数を永久磁石の極数と異ならせることによって、脈動を発生させることから、車室に伝達されるモータの振動から運転者が運転状態を認識することが可能となる。
【0012】
また、上記車両用駆動システムでは、上記制御部は、運転者による運転操作に応じて、上記モータの脈動が変化するように、当該運転操作に基づいて、上記複数の一次導体を流れる電流の向きをそれぞれ変更して、電流が同じ向きに流れ且つ周方向に連続して並ぶ一次導体群の数を増減することで、上記ステータの極数を変更するように構成されていてもよい。
【0013】
この構成によれば、例えばアクセル操作等といった運転者による運転操作に基づいて、ステータ(モータ)の極数を変更することから、かかる運転操作の前後で、モータの脈動が変化するので、例えば自身が望む加速が行われていることを、車室に伝達されるモータの振動によって運転者に認識させることができる。
【0014】
さらに、上記車両用駆動システムでは、上記制御部は、自車両の周辺走行環境に応じて、上記モータの脈動が変化するように、当該周辺走行環境に基づいて、上記複数の一次導体を流れる電流の向きをそれぞれ変更して、電流が同じ向きに流れ且つ周方向に連続して並ぶ一次導体群の数を増減することで、上記ステータの極数を変更するように構成されていてもよい。
【0015】
この構成によれば、例えば、登坂時、旋回時、ワインディングロード走行時等といった自車両の周辺走行環境に基づいて、ステータ(モータ)の極数を変更することから、周辺走行環境の変化の前後で、モータの脈動が変化するので、例えば登坂のためにモータトルクが大きくなったこと等を、車室に伝達されるモータの振動によって運転者に認識させることができる。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明に係る車両用駆動システムによれば、モータを走行駆動源とする車両において、運転者がモータの振動から運転状態を認識することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態に係る車両用駆動システムが搭載された車両を模式的に示す平面図である。
【
図2】車両用駆動システムを模式的に示すブロック図である。
【
図6】一次導体およびインバータを模式的に示す斜視図である。
【
図8】6極のステータを模式的に説明する概念図である。
【
図9】8極のステータを模式的に説明する概念図である。
【
図10】非同期運転モードにおける、モータの回転原理を模式的に説明する図であり、同図(a)は低速域における8極のモータを示し、同図(b)は高速域における4極のモータを示している。
【
図11】非同期運転モードにおいて、ステータの極数と永久磁石の極数とを異ならせた場合における、モータの出力トルクを模式的に示す図である。
【
図12】制御部が実行する制御の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
(電気自動車の全体構成)
図1は、本実施形態に係る車両用駆動システム10が搭載された車両1を模式的に示す平面図である。なお、
図1の、符号Fwは車両前後方向前側を、また、符号Rrは車両前後方向後側を、また、符号Rhは車幅方向右側を、また、符号Lfは車幅方向左側をそれぞれ示している。車両1は、
図1に示すように、バッテリ20と、インバータ30と、モータ40と、これらを制御する各種ECU11,13,15と、を備えている。これらバッテリ20、インバータ30、モータ40および各種ECU11,13,15は、車両用駆動システム10の要部を構成している。
【0020】
この車両1では、バッテリ20から供給された直流電流が、インバータ30で交流電流に変換されてモータ40に供給されることで、モータ40が回転駆動する。このように回転駆動したモータ40で発生したトルクが、減速機5で減速されてドライブシャフト6に出力され、左右一対の駆動輪(前輪7)が回転駆動するとともに従動輪(後輪8)が連れ回されることで、車両1が走行するようになっている。つまり、車両1は、モータ40を駆動源として走行する電気自動車として構成されている。それ故、以下では、車両1を「電気自動車1」とも称する。
【0021】
また、電気自動車1は、
図1に示すように、シフター2と、ステアリングホイール3に設けられたパドルスイッチ73と、を備えている。これらシフター2およびパドルスイッチ73の操作に対応する信号は、ECU11に入力されるようになっている。この電気自動車1には、エンジン車両に通常搭載されている変速機が搭載されていないが、これらシフター2およびパドルスイッチ73を運転者が操作することによって、モータ40の特性が変化し、これにより、運転者の趣向を反映した「走り」を実現することが可能になっている。
【0022】
(車両用駆動システム)
図2は、車両用駆動システム10を模式的に示す図である。この車両用駆動システム10は、
図2に示すように、ECU11と、モータECU13と、バッテリECU15と、バッテリ20と、インバータ30と、モータ40と、例えばアクセル踏込み量やブレーキ踏込み量や電気自動車1の車速V等を検出する各種センサ(スイッチを含む)70,71,72,73,74と、GPS受信機75と、を備えている。
【0023】
-ECU-
ECU(Electronic Control Unit)11は、例えばCPU(Central Processing Unit)や、CPUが実行するプログラムおよびマップ等を予め記憶したROM(Read Only Memory)や、CPUが必要に応じてデータを一時的に格納するRAM(Random Access Memory)や、電源が遮断されている間もデータを保持するバックアップRAMや、入力出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されている。CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ、予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより各種制御を実行する。
【0024】
また、ECU11は、モータECU13およびバッテリECU15とCAN(Controller Area Network)通信線(図示せず)を介して接続されており、
図2の破線矢印で示すように、相互に情報の交換を行うことが可能となっていて、モータECU13およびバッテリECU15を統合する役割を担っている。
【0025】
さらに、ECU11は、
図2に示すように、アクセルペダルセンサ70、ブレーキペダルセンサ71、シフトポジションセンサ72、パドルスイッチ73、車速センサ74およびGPS受信機75と、電気的に接続されていて、これらの検出結果や各種情報がECU11に入力・送信されるようになっている。
【0026】
アクセルペダルセンサ70は、アクセルペダル(図示せず)に取り付けられていて、アクセル踏込み量を検出し、検出したアクセル踏込み量を表す信号をECU11に出力するようになっている。なお、アクセルペダルセンサ70は、アクセル踏込み変化量(単位時間当たりの変化量)を検出するように構成されていてもよい。
【0027】
ブレーキペダルセンサ71は、ブレーキペダル(図示せず)に取り付けられていて、ブレーキ踏込み量を検出し、検出したブレーキ踏込み量を表す信号をECU11に出力するようになっている。なお、ブレーキペダルセンサ71は、ブレーキ踏込み変化量(単位時間当たりの変化量)を検出するように構成されていてもよい。
【0028】
シフトポジションセンサ72は、シフター2における各シフトポジションに設けられていて、シフトレバー2aが、メインゲート2bに配置されたP(パーキング)レンジ、R(後進)レンジおよびD(ドライブ)レンジ、並びに、サブゲート2cに配置されたM(マニュアル)レンジのどこに位置しているかを検出して、ECU11に出力するようになっている。さらに、サブゲート2cはMレンジを基準位置とする復帰式のゲートとなっている。シフトポジションセンサ72は、運転者が行う、シフトレバー2aを車両前後方向前側に動かす操作(プラス操作)、または、後側に動かす操作(マイナス操作)の回数に対応して、D--、D-、D、D+およびD++の5段階の信号をECU11に出力するように構成されている。
【0029】
パドルスイッチ73は、ステアリングホイール3の裏側(車両前後方向前側)に左右一対で設けられていて、それぞれ運転者が手前(車両前後方向後側)に引く操作を繰り返し行うことが可能な復帰式のスイッチとなっている。左右一対のパドルスイッチ73は、運転者が行う、車幅方向右側のパドルスイッチ73を手前に引く操作(プラス操作)、または、左側のパドルスイッチ73を手前に引く操作(マイナス操作)の回数に対応して、D--、D-、D、D+およびD++の5段階の信号をECU11に出力するように構成されている。
【0030】
ECU11のROMには、D--、D-、D、D+、D++の順に大きくなるように設定されたモータ40への要求トルクが記憶されていて、シフトレバー2aまたはパドルスイッチ73の操作で表される運転者の意思を反映したモータ40の制御が、ECU11によって行われるようになっている。
【0031】
車速センサ74は、駆動輪(前輪7)の車輪速などに基づいて、電気自動車1の車速Vを検出し、検出した車速Vを表す信号をECU11に出力するように構成されている。ECU11は、車速センサ74によって検出された車速V等に基づいて、モータ40の制御を行うように構成されている。
【0032】
GPS受信機75は、複数のGPS(Global Positioning System)衛星からの電波を受信することにより、電気自動車1の位置(例えば、電気自動車1の緯度および経度)を測定し、その位置情報をECU11に送信する。ECU11は、GPS受信機75から受け取った位置情報と、例えばROMに記憶された地図データベース等と、に基づき、電気自動車1の周辺走行環境を取得(認識)するように構成されている。具体的には、ECU11は、電気自動車1が現在、平坦路を走行中か、登坂路を走行中か、降坂路を走行中か、旋回中か、ワインディングロードを走行中か、市街地を走行中か、といった情報を取得する。なお、電気自動車1が現在、登坂路を走行中か、降坂路を走行中か、といった情報を取得する場合には、これに限らず、路面勾配を検出する勾配センサ(図示せず)を用いてもよい。
【0033】
-バッテリ-
バッテリ20は、電気的に接続された複数の電池モジュール21(
図3参照)が積層されて、電池ケース(図示せず)に収容された電池パックとして構成されている。各電池モジュール21は、各々リチウムイオン二次電池やニッケル水素二次電池等から成る複数の電池セル(図示せず)を主要部として構成されている。より詳しくは、各電池モジュール21は、絶縁体(図示せず)を間に挟むように、絶縁体と交互に積層された複数の電池セルを、電気的に接続してモジュール化したものとなっている。
【0034】
バッテリ20には、
図2に示すように、バッテリ20の温度を検出するバッテリ温度センサ25や、バッテリ20の電圧を検出する電圧センサ27や、バッテリ20の充電状態(SOC:State Of Charge)を検出するSOCセンサ29等が取り付けられている。これらバッテリ温度センサ25、電圧センサ27およびSOCセンサ29は、バッテリECU15と電気的に接続されていて、検出温度を表す信号、検出電圧を表す信号、充電状態を表す信号をそれぞれバッテリECU15に出力するように構成されている。
【0035】
-バッテリECU-
バッテリECU15は、ECU11と同様に、例えばCPUや、ROMや、RAMや、バックアップRAMや、入力出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されている。CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより各種制御を実行する。
【0036】
バッテリECU15は、上述の如く、CAN通信線を介してECU11と接続されており、バッテリ温度センサ25から入力されたバッテリ20の温度や、電圧センサ27から入力されたバッテリ20の電圧や、SOCセンサ29から入力されたバッテリ20の充電状態に関する信号をECU11に出力するように構成されている。また、バッテリ20の温度が低過ぎると、回生充電能力が低下する一方、バッテリ20の温度が高過ぎると、故障のおそれが生じることから、バッテリECU15は、バッテリ20の温度に基づいて、バッテリ冷却水の流量等を調整するように構成されている。
【0037】
図3は、バッテリ20の構成を模式的に示す図である。なお、
図3では、図を見易くするために、電池モジュール21や切替えスイッチ23をデフォルメして描いている。複数の電池モジュール21は、
図3に示すように、切替えスイッチ23を介して互いに電気的に接続される電池モジュール対22を複数対([電池モジュール21の数-1]対)含むようにして構成されている。切替えスイッチ23は、バッテリECU15の指令に基づいて、ON/OFFが切り替えられるように構成されている。
【0038】
かかる構成により、バッテリECU15の指令によって、
図3(a)に示すように切替えスイッチ23が切り替えられれば、複数の電池モジュール21(電池モジュール対22)全てが並列接続されたバッテリ20を実現することができる。このように、複数の電池モジュール21全てが並列接続されたバッテリ20とすれば、供給電圧は相対的に低くなるものの、供給電流を相対的に高くすることが可能となる。
【0039】
一方、バッテリECU15の指令によって、
図3(b)に示すように切替えスイッチ23が切り替えられれば、複数の電池モジュール21(電池モジュール対22)全てが直列接続されたバッテリ20を実現することができる。このように、複数の電池モジュール21全てが直列接続されたバッテリ20とすれば、供給電流は相対的に低くなるものの、供給電圧を相対的に高くすることが可能となる。
【0040】
また、図示省略するが、バッテリECU15の指令によって切替えスイッチ23が切り替えられることで、電池モジュール対22の一部の接続形態を直列とするとともに、電池モジュール対22の残部の接続形態を並列とすることも可能となっている。
【0041】
なお、バッテリECU15およびバッテリ20は、電気自動車1の停車中や駐車中のみならず、電気自動車1の走行中でも、電池モジュール対22の接続形態を直列と並列との間で変更可能に構成されている。
【0042】
-モータおよびインバータ-
〈全体構成〉
図4は、モータ40を模式的に示す断面図である。なお、
図4では、図を見易くするために、二次導体65および樹脂66のハッチングを省略している。また、
図4では、図を見易くするために、エアギャップGの大きさを誇張して示している。モータ40は、
図4に示すように、回転軸41と、ロータ60と、ステータ50と、を備えている。モータ40は、回転軸41が略水平になるように電気自動車1に搭載されている。
【0043】
回転軸41は、モータ40のケーシング(図示せず)に対して、軸受(図示せず)により回転可能に支持されている。回転軸41は、円筒状に形成されていて、その内部空間は、モータ40の各部を冷却するための冷媒が流れる流路42を構成している。流路42の一端には、ポンプ(図示せず)が接続されていて、このポンプから冷媒が供給されるようになっている。
【0044】
ロータ60は、その内径が回転軸41の外径よりも僅かに大きい円筒状に形成されている。ロータ60は、回転軸41の径方向外側に配置されていて、回転軸41に対して一体回転可能に取付けられている。一方、ステータ50は、円筒状に形成されていて、その中心軸が回転軸41の中心軸と一致するように、ロータ60の径方向外側に配置されている。換言すると、ロータ60は、ステータ50内にステータ50の中心軸と同軸で回転可能に配置されている。ステータ50の内径とロータ60の外径とは、ステータ50内にロータ60が配置されると、ステータ50の内周面51aとロータ60の外周面61aとが、エアギャップGを挟んで対向するような寸法に設定されている。
【0045】
また、モータ40には、
図2に示すように、モータ40の温度を検出するモータ温度センサ43や、モータトルクを検出するトルクセンサ45や、ロータ60の回転角を検出する回転角センサ47等が取り付けられている。これらモータ温度センサ43、トルクセンサ45および回転角センサ47は、モータECU13と電気的に接続されていて、検出温度を表す信号、モータトルクの大きさを表す信号、ロータ60の回転角を表す信号をそれぞれモータECU13に出力するようになっている。
【0046】
以上のように構成されたモータ40では、モータECU13の指令に基づき、バッテリ20からインバータ30を介して、ステータ50へ駆動電流が供給されることで、ステータ50に回転磁界を発生し、これに伴ってロータ60が回転駆動されて、電気自動車1の前輪7が駆動されるようになっている。以下、ロータ60、ステータ50およびインバータ30について詳細に説明する。
【0047】
〈ロータ〉
ロータ60は、
図4に示すように、ロータコア61と、ロータコア61に埋め込まれた複数の二次導体65と、同じくロータコア61に埋め込まれた複数(8つ)の永久磁石80と、を有している。
【0048】
ロータコア61は、例えば鉄等の磁性材からなり、内側筒状部61bと、外側筒状部61cと、を有している。内側筒状部61bは、軸方向に見て、外形が八角形で且つ内形が円形の筒状に形成されている。
【0049】
外側筒状部61cは、8つのブロック69を有している。各ブロック69は、軸方向に見て、等脚台形の下底69bを円弧状にしたような断面形状に形成されている。また、各ブロック69の円弧状の下底69bには、上底69aに向かって延びる8つの溝条部63が形成されている。外側筒状部61cは、各ブロック69の上底69aが径方向内側に向き、且つ、脚69c同士が周方向に対向するように、8つのブロック69を組み合わせることで、軸方向に見て、外形が円形で且つ内形が八角形の筒状を構成するようになっている。また、8つのブロック69を組み合わせた際、周方向に対向する脚69c同士の間の空間も、溝条部63を形成することになる。これにより、ロータコア61の外周部には、ロータコア61の軸方向の全長に亘って延び且つロータコア61の外周面61aから径方向内側に窪む、断面矩形状の溝条部63が、周方向に等間隔で72条(8ブロック×8条+8条)形成されることになる。換言すると、ロータコア61の外周部には、径方向に延びる72条の溝条部63が、軸方向に見て、放射状に形成されている。なお、図示省略するが、8つのブロック69を組み合わせたロータコア61の外周面には、ロータ飛散防止カバーが取り付けられている。
【0050】
永久磁石80は、ロータ60の軸方向に延びる、矩形断面を有する板状に形成されている。永久磁石80は、外形が八角形の内側筒状部61bの外周面と、8つのブロック69の上底69aと、の間に挟まれるようにして、ロータコア61に8つ埋め込まれている。これら8つの永久磁石80は、
図4に示すように、黒塗りで示すN極が径方向外側を向く一方、白抜きで示すS極が径方向内側を向くものと、S極が径方向外側を向く一方、N極が径方向内側を向くものと、が周方向に交互に並ぶように配置されていて、8つの極を形成している。また、これら8つの永久磁石80は、周方向に対向する脚69c同士で形成される溝条部63を通って充填される樹脂66によって、ロータコア61との一体化が図られている。
【0051】
各永久磁石80は、フェライト磁石により構成されている。永久磁石にネオジウムなどの希土類磁石を用いたモータでは、永久磁石が高温(220°)になることで反磁界によって永久減磁してしまい、磁石としての機能を喪失することで、モータとして機能しなくなる懸念があるが、本実施形態では、永久磁石80にフェライト磁石を用いることで、高回転高負荷状態で永久磁石80が減磁することに起因して、モータ出力が低下するのを抑えることができる。
【0052】
図5は、二次導体65を模式的に示す斜視図である。なお、
図5では、図を見易くするために、72本の二次導体65のうち4本のみを示している。また、
図5の符号RAは、モータ40の回転軸を示している。各二次導体65は、銅等の磁性材から成っていて、
図4および
図5に示すように、ロータ60の軸方向の全長に亘って延びる、矩形板状に形成されている。72本の二次導体65は、各二次導体65がロータコア61の外周部に形成された各溝条部63に挿入されることで、軸方向に見て、放射状をなすように周方向に並んでいる。溝条部63と、溝条部63に挿入された二次導体65と、の間の隙間は、射出成型によって充填された樹脂66で埋められており、これにより、ロータコア61と二次導体65との一体化が図られている。なお、
図4では、72条の溝条部63および72本の二次導体65が描かれているが、これらは飽くまでも例示であり、溝条部63および二次導体65の数はこれに限定されない。
【0053】
図5に示すように、72本の二次導体65は、(回転軸RAの)軸方向一方側(
図5の左側)の端部が銅製の第1エンドリング67(短絡環)に溶接等で連結され、且つ、軸方向他方側(
図5の右側)の端部が銅製の第2エンドリング68(短絡環)に溶接等で連結されることで、かご状をなしている。このように、72本の二次導体65は、第1および第2エンドリング67,68を介して互いに電気的に接続されることで、閉回路を形成している。各二次導体65が磁場を横切ると、電磁誘導により各二次導体65に誘導起電力が生じるところ、このように72本の二次導体65が閉回路を成すことにより、各二次導体65に誘導電流が流れるようになっている。なお、周方向で相隣り合う二次導体65に、反対方向の誘導電流が流れる場合における漏電を可及的に抑えるべく、各二次導体65は外周面が絶縁被覆されている。
【0054】
〈ステータ〉
ステータ50は、
図4に示すように、円筒状のステータコア51と、ステータ50を軸方向に貫くように、ステータコア51内に設けられた複数の一次導体55と、を有している。
【0055】
ステータコア51は、例えば、各々所定の形状に打ち抜かれた複数の電磁鋼板を積層し、一体に連結することにより形成されていてもよいし、また例えば、磁性粉末を成形型で圧縮成形した圧粉磁性体によって形成されてもよい。ステータコア51は、スロット53と呼ばれる溝を複数有している。各スロット53は、ステータコア51の内周面51aから径方向外側へ延びていて、隣り合うスロット53同士は、ステータコア51の周方向に互いに離間している。
【0056】
図6は、一次導体55およびインバータ30を模式的に示す斜視図である。なお、
図6では、図を見易くするために、36本の一次導体55のうち3本のみを示している。各一次導体55は、銅等の磁性材から成っていて、
図4および
図6に示すように、ロータ60の軸方向の全長に亘って延びる、丸棒状に形成されている。36本の一次導体55は、各一次導体55が各スロット53に挿入されることで、軸方向に見て、円を描くように間欠的に周方向に並んでいる。なお、
図4では、36個のスロット53および36本の一次導体55が描かれているが、これらは飽くまでも例示であり、スロット53および一次導体55の数はこれに限定されない。
【0057】
スロット53に挿入された36本の一次導体55は、
図6に示すように、(回転軸RAの)軸方向他方側(
図6の右側)の端部が銅製のバスリング57に溶接等でそれぞれ接続され、各接続部57aが、電位が0(V)となる中性点を構成するようになっている。これに対し、各一次導体55の軸方向一方側(
図6の左側)の端部は、インバータ30における円環状のボード31に形成された、円を描くように間欠的に周方向に並ぶ孔31aを貫通して、ボード31よりも軸方向一方側に突出している。
【0058】
〈インバータ〉
図7は、インバータ30を模式的に示す正面図である。インバータ30は、
図7に示すように、ボード31の他、外側リング部32と、内側リング部33と、(+)端子34と、(-)端子35と、外側アーム素子36と、内側アーム素子37と、信号線端子38と、を備えていて、
図6に示すように、モータ40と一体となっている。
【0059】
外側リング部32は、銅製の円環状の部材であり、円環状のボード31の軸方向一方側の面における径方向外側の部位に、ボード31と同心に取り付けられている。この外側リング部32には、下方に延びる(+)端子34が一体に形成されていて、この(+)端子34が、バッテリ20のプラス端子と接続されることで、外側リング部32に直流電流が供給されるようになっている。この外側リング部32は、径方向内側に延びる銅製の外側アーム32aを介して、ボード31よりも軸方向一方側に突出している36本の一次導体55の端部とそれぞれ電気的に接続されている。
【0060】
内側リング部33は、外側リング部32よりも小径に形成された、銅製の円環状の部材であり、円環状のボード31の軸方向一方側の面における径方向内側の部位に、ボード31と同心に取り付けられている。この内側リング部33には、ボード31の軸方向一方側の面で内側リング部33と繋がるとともに、ボード31を裏側に貫通して、軸方向他方側の面にて下方に延びる(-)端子35が一体に形成されていて、この(-)端子35が、バッテリ20のマイナス端子と接続されている。また、内側リング部33は、径方向外側に延びる銅製の内側アーム33aを介して、36本の一次導体55の端部とそれぞれ電気的に接続されている。
【0061】
図7に示すように、外側アーム32aの中間位置には外側アーム素子36が、また、内側アーム33aの中間位置には内側アーム素子37がそれぞれ設けられている。外側アーム素子36および内側アーム素子37は、例えば、Si-MOSFET(metal-oxide-semiconductor field-effect transistor)で構成されていて、高速スイッチングが可能となっている。36個の外側アーム素子36および内側アーム素子37は、
図7の破線で示すように、信号線端子38とそれぞれ電気的に接続されていて、これら外側アーム素子36および内側アーム素子37のスイッチON/OFFが、信号線端子38によって個別に制御されるようになっている。なお、信号線端子38によるスイッチON/OFF制御は、モータECU13からの指令に基づいて行われる。
【0062】
外側アーム素子36がスイッチONの場合には、外側リング部32から一次導体55へ電流が流れる一方、外側アーム素子36がスイッチOFFの場合には、外側リング部32と一次導体55との間が絶縁されて、外側リング部32から一次導体55へ電流が流れないようになっている。同様に、内側アーム素子37がスイッチONの場合には、一次導体55から内側リング部33へ電流が流れる一方、内側アーム素子37がスイッチOFFの場合には、一次導体55と内側リング部33との間が絶縁されて、一次導体55から内側リング部33へ電流が流れないようになっている。
【0063】
図8は、6極のステータ50を模式的に説明する概念図であり、
図9は、8極のステータ50を模式的に説明する概念図である。なお、
図8および
図9では、図を見易くするために、円環状の外側リング部32、内側リング部33およびバスリング57を直線状にデフォルメして描いている。また、
図8および
図9では、外側アーム素子36および内側アーム素子37を、白抜きで示している場合は、スイッチONの状態を表し、黒塗りで示している場合は、スイッチOFFの状態を表している。
【0064】
図8に示す例では、電流が
図8の右向きに(実際にはボード31側からバスリング57側へ向かって)流れ、且つ、連続して並ぶ(実際には周方向に並ぶ)6本の一次導体55が、1つの一次導体群55Aを構成するように、モータECU13によって、これら6本の一次導体55と接続される、外側アーム素子36がそれぞれスイッチON状態とされるとともに、内側アーム素子37がそれぞれスイッチOFF状態とされる。また、電流が
図8の左向きに(実際にはバスリング57側からボード31側へ向かって)流れ、且つ、連続して並ぶ(実際には周方向に並ぶ)6本の一次導体55が、1つの一次導体群55Bを構成するように、モータECU13によって、これら6本の一次導体55と接続される、外側アーム素子36がそれぞれスイッチOFF状態とされるとともに、内側アーム素子37がそれぞれスイッチON状態とされる。これにより、
図8に示すように6つの極Pが形成されることになる。
【0065】
これに対し、
図9に示す例では、電流が
図9の右向きに(実際にはボード31側からバスリング57側へ向かって)流れ、且つ、連続して並ぶ(実際には周方向に並ぶ)4本の一次導体55が、1つの一次導体群55Aを構成するように、モータECU13によって、これら4本の一次導体55と接続される、外側アーム素子36がそれぞれスイッチON状態とされるとともに、内側アーム素子37がそれぞれスイッチOFF状態とされる。また、電流が
図9の左向きに(実際にはバスリング57側からボード31側へ向かって)流れ、且つ、連続して並ぶ(実際には周方向に並ぶ)4本の一次導体55が、1つの一次導体群55Bを構成するように、モータECU13によって、これら4本の一次導体55と接続される、外側アーム素子36がそれぞれスイッチOFF状態とされるとともに、内側アーム素子37がそれぞれスイッチON状態とされる。さらに、一次導体群55Aと一次導体群55Bとの間に、電流が流れない一次導体55’が、8つおきに生じるように、モータECU13によって、かかる一次導体55’と接続される外側アーム素子36および内側アーム素子37がそれぞれスイッチOFF状態とされる。これにより、
図9に示すように8つの極Pが形成されることになる。
【0066】
このように、本実施形態のモータ40は、モータECU13によって、信号線端子38を介して、36本の一次導体55を流れる電流の向きがそれぞれ変更されて、電流が同じ向きに流れ且つ周方向に連続して並ぶ一次導体群55A,55Bの数が増減されることで、ステータ50の極数が変更されるように構成されている。以下、これを「極数変更制御」とも称する。
【0067】
なお、6極や8極は飽くまでも例示であり、同じインバータ30およびステータ50を用いて、例えば9本の一次導体55が1つの一次導体群55A,55Bを構成するようにして4極にすることや、例えば2本の一次導体55が1つの一次導体群55A,55Bを構成するとともに、電流が流れない一次導体55’が8つおきに生じるようにして16極にすることや、例えば、三相(U相、V相、W相)の4極や6極にすることも可能である。また、ステータ50の極数変更が可能であることを除けば、本実施形態のインバータ30は通常のインバータと同様の機能を有するので、当然に、モータ40が発生させる回生電力を直流電流に変換してバッテリ20に供給することにより、バッテリ20を充電することが可能となっている。
【0068】
-モータECU-
モータECU13は、ECU11やバッテリECU15と同様に、例えばCPUや、ROMや、RAMや、バックアップRAMや、入力出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されている。CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより各種制御を実行する。
【0069】
モータECU13は、上述の如く、CAN通信線を介してECU11と接続されており、モータ温度センサ43から入力されたモータ40の温度や、トルクセンサ45から入力されたモータトルクや、回転角センサ47から入力されたロータ60の回転角に関する信号をECU11に出力するように構成されている。そうして、モータECU13は、ECU11からの指令に基づいて、モータ40を制御するように構成されている。
【0070】
図10は、非同期運転モードにおける、モータ40の回転原理を模式的に説明する図であり、同図(a)は低速域における8極のモータ40を示し、同図(b)は高速域における4極のモータ40を示している。なお、
図10では、丸内に×を描いた矢尻のマークは紙面奥側へ(例えばボード31側からバスリング57側へ向かって)電流が流れることを表す一方、丸内に黒点を描いた矢頭のマークは紙面手前側へ(例えばバスリング57側からボード31側へ向かって)電流が流れることを表している。また、以下では、永久磁石80の影響を無視して、モータ40の回転原理を説明している。
【0071】
モータ40におけるモータ回転速度は、ステータ50の極数に反比例することから、低速域では、モータECU13は、
図10(a)に示すように、例えば極数を8極に設定(相対的に多く)する。そうして、モータECU13は、信号線端子38を介して、ステータ50(一次導体55)へ電流を供給しつつ、外側アーム素子36および内側アーム素子37の高速スイッチングを行わせることで、
図10(a)の黒塗り矢印で示すような時計回りの回転磁界を発生させる。すると、二次導体65が、回転磁界に対し相対移動することから、フレミングの右手の法則により、二次導体65に誘導電流が流れる。このように、回転磁界内にある二次導体65に電流が流れることで、フレミングの左手の法則により、二次導体65に電磁力が発生し、これにより、二次導体65が埋め込まれたロータ60が、
図10(a)の白抜き矢印で示すように、回転磁界に対し遅れながら時計回りに低速で回転する非同期運転が行われることになる。
【0072】
一方、高速域では、モータECU13は、
図10(b)に示すように、例えば極数を4極に設定(相対的に少なく)する。そうして、モータECU13が、
図10(b)の黒塗り矢印で示すような時計回りの回転磁界を発生させると、二次導体65に電磁力が発生し、これにより、二次導体65が埋め込まれたロータ60が、
図10(b)の白抜き矢印で示すように、回転磁界に対し遅れながら時計回りに高速で回転する非同期運転が行われることになる。
【0073】
これらにより、請求項との関係では、本実施形態のECU11、モータECU13およびインバータ30が、本発明で言うところの「一次導体への電力供給を通じてステータに回転磁界を発生させるとともに、モータの駆動態様を、二次導体に発生する誘導電流を用いてロータを回転させる非同期運転モードとすることが可能な制御部」に相当する。なお、以下では、ECU11、モータECU13およびインバータ30を「ECU11等」とも称する。
【0074】
(モード切替え制御)
本実施形態に係る車両用駆動システム10では、上述の如く、ロータ60が永久磁石80のみならず二次導体65をも有していることから、永久磁石80の磁力を用いてロータ60を回転させる同期運転モードと、二次導体65に発生する誘導電流を用いてロータ60を回転させる非同期運転モードという、異なる2つのモードでモータ40を回転駆動させることが可能となっている。
【0075】
具体的には、ECU11等は、回転角センサ47が検出したロータ60の回転角等に基づいて、所定の相、所定の進角、所定の大きさの入力電流を一次導体55に流すことで、回転磁界を制御し、それを通じて、同期運転モードと非同期運転モードとを切り替えるモード切替え制御を実行するように構成されている。以下、ECU11等が実行する、同期運転モードと非同期運転モードについて説明する。
【0076】
-同期運転モード-
同期運転モードでは、ECU11等による回転磁界の制御により、回転磁界の角速度と、ロータ60の機械的回転速度とを同期(一致)させる。また、同期運転モードでは、ロータ60の回転中は、バッテリ20から供給される直流電力を交流化する一方、ロータ60の静止中は直流化する。同期運転モードでは、回転磁界と永久磁石80とにより定常トルクが生じる。また、誘導電流は、上述の如く、二次導体65が回転磁界に対し相対移動する(磁界を横切る)ことによって生じるところ、回転磁界の角速度とロータ60の機械的回転速度とが一致する同期運転モードでは、誘導電流が二次導体65に流れることはない。つまり、同期運転モードでは、二次導体65がモータ40の出力トルクに影響を及ぼさないようになっている。
【0077】
-非同期運転モード-
非同期運転モードでは、ECU11等による回転磁界の制御により、回転磁界の角速度と、ロータ60の機械的回転速度とに速度差を持たせて、両者を一致させない(すべらせる)。また、非同期運転モードでは、ロータ60の回転中も静止中も、バッテリ20から供給される直流電力を交流化する。非同期運転モードでは、回転磁界と二次導体65に発生する誘導電流とにより定常トルクが生じる。もっとも、非同期運転モードでは、ステータ50の極数と永久磁石80の極数とが一致している場合でも、ロータ60の機械的回転速度に対して、回転磁界の角速度が常に過大または過小になることから、永久磁石80が正負のトルク変動を生じさせることになり、この影響により、回転磁界と二次導体65とにより生じる定常トルクが変動することになる。つまり、非同期運転モードでは、永久磁石80がモータ40の出力トルクに影響を及ぼすようになっている。
【0078】
-両モードの使い分け-
永久磁石80を利用する同期運転モードは、低回転領域においても瞬時に最大トルクで作動可能であるという点でメリットがあるものの、高回転領域においては、永久磁石80の影響により逆起電力が大きくなり、その結果、出力が低下してしまうというデメリットがある。そのため、本実施形態に係る車両用駆動システム10では、低回転領域においては同期運転モードを積極的に用いる一方、特に高回転領域を含むそれ以外の領域では、非同期運転モードを用いるように、ECU11等を構成している。
【0079】
このように、モータ40の駆動態様を、同期運転モードと、非同期運転モードと、に切り替えることによってモータ40の特性を変更することができ、これにより、運転者の趣向に応じた広い要求出力に対応することが可能となる。
【0080】
(脈動発生制御)
ところで、エンジン車両では、車室に伝達されるエンジンの振動が、エンジンの運転状態の違いに応じて変化することから、かかる車室に伝達される振動からエンジンの運転状態を認識している運転者も多い。これに対し、電気自動車1では、モータ40の振動が運転者に認知され難いため、エンジン車両の運転に慣れた運転者が電気自動車1の運転をすると、車室に伝達される振動から運転状態を認識することができないことに対して違和感を覚えるケースが想定される。
【0081】
ここで、例えば、モータ40の運転状態の変化に伴って、疑似的な振動を発生する機構を別途設けることも考えられるが、このような車両の走行に何ら資されない機構を設けると、車両構造の複雑化や車体重量の増加や製造コストの増大等を招くことになる。
【0082】
そこで、本実施形態では、モータ40を回転駆動させる際に、脈動が発生し易い状態を作出するようにしている。具体的には、本実施形態に係る車両用駆動システム10では、非同期運転モードにおいて、ステータ50の極数を永久磁石80の極数と異ならせることで、モータ40に脈動を発生させる脈動発生制御を行うように、ECU11等を構成している。
【0083】
図11は、非同期運転モードにおいて、ステータ50の極数と永久磁石80の極数とを異ならせた場合における、モータ40の出力トルクを模式的に示す図である。非同期運転モードにおいて、上記極数変更制御を行うことで、ステータ50の極数を、永久磁石80の極数(8極)とは異なる16極とした場合でも、永久磁石80の影響を無視すれば、
図11に示すように、回転磁界と二次導体65に発生する誘導電流とにより定常トルクSTが生じる。
【0084】
もっとも、16極のIMモータ(非同期モータ)としての磁界の周期と、8極の永久磁石80を用いたPMモータ(同期モータ)としての磁界の周期とは異なるため、換言すると、両者には周期差が存在するため、
図11の点線(IM)と細実線(PM)とを見比べれば分かるように、両者には位相差が生じることになる。このため、両者を合成した磁界(
図11の破線参照)によって生じる出力トルクは定常トルクとはならず、
図11の太実線で示すように変動する(脈動を生じる)ことになる。
【0085】
つまり、非同期運転モードでは、上述の如く、ステータ50の極数と永久磁石80の極数とが一致している場合でも、永久磁石80が正負のトルク変動を生じることにより、脈動が発生するところ、このように脈動発生制御を行うことで、永久磁石80によるトルク変動と、ステータ50の極数と永久磁石80の極数との不一致による位相差の発生と、が相俟って、より大きな脈動をモータ40に確実に発生させることが可能となる。
【0086】
そうして、本実施形態に係る車両用駆動システム10では、非同期運転モードでは、ステータ50の極数を永久磁石80の極数と敢えて異ならせることによって、脈動を発生させることから、車室に伝達されるモータ40の振動から、運転者がモータ40の運転状態を認識することが可能となる。これにより、疑似的な振動を発生する機構を別途設けることなく、運転者が違和感を覚えるのを抑えることができる。
【0087】
ところで、エンジン車両では、急加速時や急減速時や登坂発進時等にエンジンの運転状態が顕著に変わることから、運転者が違和感を覚えるのを抑えるという点では、電気自動車1においても、そのようなシチュエーションにおいて脈動を発生させるのが効果的といえる。
【0088】
そこで、本実施形態に係る車両用駆動システム10では、運転者による運転操作および自車両の周辺走行環境の少なくとも一方に応じて、モータ40の脈動が変化するように、これら運転操作および周辺走行環境の少なくとも一方に基づいて、ステータ50の極数を変更するように、ECU11等を構成している。
【0089】
ここで、「運転者による運転操作」には、アクセル操作およびブレーキ操作が含まれている。そうして、ECU11は、予めROMに記憶された、アクセル踏込み量(およびブレーキ踏込み量)と車速Vとで規定されるモータ40への要求トルクをマップ化した制御マップ(第1制御マップ)を用いて、モータ40への要求トルクが大きくなるようなシチュエーションの発生を認識するように構成されている。
【0090】
具体的には、ECU11は、第1制御マップを用いて、車速センサ74によって検出された車速Vと、アクセルペダルセンサ70によって検出されたアクセル踏込み量(アクセル操作)と、に基づいて推定される要求駆動力(要求トルク)が大きい場合には、ステータ50の極数を永久磁石80の極数と異ならせるように構成されている。例えば、走行中にアクセルペダルが大きく踏み込まれた場合には、ECU11等がステータ50の極数を永久磁石80の極数と異ならせることから、かかるアクセル操作の前後で、モータ40の脈動が変化するので、例えば自身が望む加速が行われていることを、車室に伝達されるモータ40の振動によって運転者に認識させることができる。
【0091】
一方、ECU11は、車速Vと、ブレーキペダルセンサ71によって検出されたブレーキ踏込み量(ブレーキ操作)と、に基づいて推定される要求制動力が大きい場合にも、ステータ50の極数を永久磁石80の極数と異ならせるように構成されている。例えば、高速走行中にブレーキペダルが踏み込まれた場合には、ECU11等がステータ50の極数を永久磁石80の極数と異ならせることから、かかるブレーキ操作の前後で、モータ40の脈動が変化するので、例えば自身が望む減速が行われていることを、車室に伝達されるモータ40の振動によって運転者に認識させることができる。
【0092】
また、ECU11は、上述の如く、GPS受信機75から受け取った位置情報と、ROMに記憶された地図データベースと、に基づき、電気自動車1の周辺走行環境(平坦路、登坂路、降坂路、旋回中、ワインディングロード、市街地)を取得する。そうして、ECU11は、予めROMに記憶された、車速Vと周辺走行環境とで規定されるモータ40への要求トルクをマップ化した制御マップ(第2制御マップ)を用いて、モータ40への要求トルクが大きくなるようなシチュエーションの発生を認識するように構成されている。
【0093】
具体的には、ECU11は、電気自動車1が登坂路を走行している場合には、ステータ50の極数を永久磁石80の極数と異ならせることから、周辺走行環境の変化の前後で、モータ40の脈動が変化するので、登坂のためにモータトルクが大きくなったこと等を、車室に伝達されるモータ40の振動によって運転者に認識させることができる。
【0094】
なお、モータトルクは、ステータ50の極数に比例して大きくなることから、モータ40への要求トルクが大きくなるようなシチュエーションにおいては、ステータ50の極数を永久磁石80の極数と異ならせるのみならず、可能な範囲でステータ50の極数を多くするように、ECU11等を構成してもよい。
【0095】
また、本実施形態では、上述の如く、電流が流れない一次導体55’を意図的に作出することで、磁界のギャップが生じるとともに、極Pのピッチが不均等になることから、脈動を生じさせることが可能となる。したがって、一次導体55’を意図的に作出する場合には、一次導体55’による脈動と脈動発生制御による脈動とが相俟って、車室に伝達されるモータ40の振動から、モータ40の運転状態をより一層確実に運転者に認識させることができる。
【0096】
(制御フロー)
次に、ECU11等が実行するモード切替え制御および脈動発生制御の一例を、
図12に示すフローチャートを参照しながら説明する。なお、このフローチャートでは、ステータ50の極数と永久磁石80の極数とが、STARTの際、共に8極で一致しているものとする。
【0097】
先ず、ステップS1では、ECU11が、ROMに記憶されたモータ40の許容トルクを読み込んだ後、ステップS2へ進む。次のステップS2では、ECU11が、ROMに記憶された永久磁石80の許容温度を読み込んだ後、ステップS3へ進む。
【0098】
次のステップS3では、ECU11等が、トルクセンサ45が検出したモータトルク(モータ40の実動作トルク)を取得した後、ステップS4へ進む。次のステップS4では、ECU11等が、モータ温度センサ43が検出した永久磁石80の温度(実動作温度)を取得した後、ステップS5へ進む。
【0099】
次のステップS5では、ECU11が、ステップS3で取得したモータ40の実動作トルクが、ステップS1で読み込んだ許容トルク未満か否かを判定する。このステップS5での判定がNOの場合はステップS8に進む一方、このステップS5での判定がYESの場合にはステップS6に進む。次のステップS6では、ECU11が、ステップS4で取得した永久磁石80の実動作温度が、ステップS2で読み込んだ永久磁石80の許容温度未満か否かを判定する。このステップS6での判定がNOの場合はステップS8に進む一方、このステップS6での判定がYESの場合にはステップS7に進む。つまり、実動作トルクが許容トルク未満で且つ実動作温度が許容温度未満の場合には、ステップS7へ進む一方、それ以外の場合にはステップS8に進む。
【0100】
ステップS7では、ECU11等が、モータ40の運転モードを同期運転モードに設定した後、RETURNする。これに対し、ステップS8では、ECU11等が、モータ40の運転モードを非同期運転モードに設定した後、ステップS9へ進む。
【0101】
一方、ステップS9では、ECU11が、運転者によるアクセル操作若しくはブレーキ操作、または、電気自動車1の周辺走行環境に基づいて、要求トルクが大きくなる状況(シチュエーション)が発生しているか否かを判定する。このステップS9での判定がNOの場合には、そのままRETURNする。一方、このステップS9での判定がYESの場合には、ステップS10に進み、ECU11等が、ステータ50の極数と永久磁石80の極数とを異ならせた後、RETURNする。
【0102】
(その他の実施形態)
本発明は、実施形態に限定されず、その精神又は主要な特徴から逸脱することなく他の色々な形で実施することができる。
【0103】
上記実施形態では、ECU11等がステータ50の極数を変更可能としたが、これに限らず、例えば、ステータ50の極Pを、永久磁石80の極数と異なる数の極数で固定するようにしてもよい。
【0104】
また、上記実施形態では、8つの永久磁石80をロータコア61に埋め込むようにしたが、これに限らず、6つ以下または10以上の永久磁石80をロータコア61に埋め込むようにしてもよい。
【0105】
さらに、上記実施形態では、モータ40を電気自動車1の車両前後方向前側に配置し、前輪7を駆動輪としたが、これに限らず、例えばモータ40を電気自動車1の車両前後方向後側に配置し、後輪8を駆動輪としてもよい。
【0106】
このように、上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明によると、簡単な構成で、運転者がモータの振動から運転状態を認識することができるので、走行駆動源としてモータを備える車両用駆動システムに適用して極めて有益である。
【符号の説明】
【0108】
1 車両
7 前輪(駆動輪)
10 車両用駆動システム
11 ECU(制御部)
13 モータECU(制御部)
30 インバータ(制御部)
40 モータ
50 ステータ
55 一次導体
55A 一次導体群
55B 一次導体群
60 ロータ
61c 外側筒状部(径方向外側の部位)
65 二次導体
80 永久磁石
P 極