(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024164736
(43)【公開日】2024-11-27
(54)【発明の名称】モータ
(51)【国際特許分類】
H02K 17/16 20060101AFI20241120BHJP
H02K 21/14 20060101ALN20241120BHJP
【FI】
H02K17/16 Z
H02K21/14 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080427
(22)【出願日】2023-05-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100170896
【弁理士】
【氏名又は名称】寺薗 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100227695
【弁理士】
【氏名又は名称】有川 智章
(72)【発明者】
【氏名】米盛 敬
【テーマコード(参考)】
5H013
5H621
【Fターム(参考)】
5H013FF03
5H013MM06
5H621HH10
(57)【要約】
【課題】従来よりも極数を増やすことで漏れ電流による損失が増大するのを抑制可能なモータを提供する。
【解決手段】モータ2は、円筒状のステータ8と、ステータ8内にステータ8の中心軸と同軸で回転可能に設けられた円筒状のロータ9と、を有し、ロータ9の回転により車両1の前輪FWを駆動するのに用いられる。ロータ9は、円環状をなす単一の短絡環18と、複数の二次導体17と、を有するカゴ部13を備え、各二次導体17の一端部17a及び他端部17bは、単一の短絡環18における周方向で離隔した位置にそれぞれ連結されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状のステータと、当該ステータ内に当該ステータの中心軸と同軸で回転可能に設けられた円筒状のロータと、を有し、当該ロータの回転により車両の駆動輪を駆動するモータであって、
前記ロータは、円環状をなす単一の短絡環と、複数の二次導体と、を有するカゴ部を備え、
各二次導体の一端部及び他端部は、前記単一の短絡環における周方向で離隔した位置にそれぞれ連結されていることを特徴とするモータ。
【請求項2】
請求項1に記載のモータにおいて、
前記複数の二次導体は、第1の二次導体と第2の二次導体とを含み、
前記第1の二次導体における一端部と他端部との周方向間には、前記第2の二次導体の一端部が位置していることを特徴とするモータ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のモータにおいて、
前記複数の二次導体は、U字状をなしていることを特徴とするモータ。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のモータにおいて、
前記複数の二次導体の外面には、絶縁性の被膜を有する第1絶縁被膜部が備えられていることを特徴とするモータ。
【請求項5】
請求項4に記載のモータにおいて、
前記複数の二次導体における前記単一の短絡環との連結部分には、前記第1絶縁被膜部が備えられていないことを特徴とするモータ。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のモータにおいて、
前記単一の短絡環の外面には、絶縁性の被膜を有する第2絶縁被膜部が備えられていることを特徴とするモータ。
【請求項7】
請求項1又は2に記載のモータにおいて、
前記単一の短絡環には、周方向に沿って複数の挿入穴が設けられ、
前記各二次導体の一端部及び他端部は、前記複数の挿入穴に挿入された状態において前記単一の短絡環に接合されていることを特徴とするモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータに関し、特に、車両の駆動輪を駆動するのに用いられるモータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両駆動用モータとして、誘導モータを用いることが知られている。例えば、特許文献1では、ステータと、カゴ型ロータと、を備えた誘導モータが開示されている。
【0003】
誘導モータのカゴ型ロータには、複数の二次導体と、複数の二次導体の各端部にそれぞれ連結された一対の短絡環とが備えられ、各二次導体が周方向に略等間隔を空けて並設されている。そして、ステータにおいて形成される回転磁界が二次導体を横切ると、該二次導体に電磁誘導による二次電流が流れることで、磁界が形成される。誘導モータは、二次電流が形成する磁界と回転磁界とによって、ロータを回転させる力、つまり、モータトルクを生成するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、各二次導体を流れる二次電流の方向は、全て同じ方向ではなく、二次導体を横切る回転磁界の磁極によって異なる。したがって、周方向に隣り合う一方の二次導体を流れる二次電流と他方の二次導体を流れる二次電流とが逆方向に流れる箇所が存在する。該箇所の数は、ステータの極数に依存しており、例えば、特許文献1の誘導モータの場合、ステータの極数が4つであるため、上記箇所が4箇所となる。
【0006】
そして、周方向に隣り合う二次導体が近接して配置される場合、上述の二次電流が互いに逆方向に流れる箇所では、一方の二次導体を流れる二次電流が他方の二次導体に流れてしまう、漏れ電流と呼ばれる現象が発生する。該漏れ電流は、モータにとって損失となるため、モータトルクを低下させる要因となる。
【0007】
また、車両駆動用モータには、例えば、車両発進時等において車両駆動力が不足するのを確実に防止する観点からモータトルクを高めることが求められている。そこで、ステータの極数を従来よりも増やすことで、モータトルクを高めることが考えられる。しかし、ステータの極数を増やしてしまうと、上述の二次電流が互いに逆方向に流れる箇所も増えるので、漏れ電流による損失も増大してしまうおそれがある。
【0008】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、従来よりも極数を増やすことで漏れ電流による損失が増大するのを抑制可能なモータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明は、円筒状のステータと、当該ステータ内に当該ステータの中心軸と同軸で回転可能に設けられた円筒状のロータと、を有し、当該ロータの回転により車両の駆動輪を駆動するモータを対象とし、次のような解決手段を講じた。
【0010】
すなわち、第1の発明では、前記ロータは、円環状をなす単一の短絡環と、複数の二次導体と、を有するカゴ部を備え、各二次導体の一端部及び他端部は、前記単一の短絡環における周方向で離隔した位置にそれぞれ連結されていることを特徴とする。
【0011】
第2の発明では、第1の発明において、前記複数の二次導体は、第1の二次導体と第2の二次導体とを含み、前記第1の二次導体における一端部と他端部との周方向間には、前記第2の二次導体の一端部が位置していることを特徴とする。
【0012】
第3の発明では、第1又は第2の発明において、前記複数の二次導体は、U字状をなしていることを特徴とする。
【0013】
第4の発明では、第1又は第2の発明において、前記複数の二次導体の外面には、絶縁性の被膜を有する第1絶縁被膜部が備えられていることを特徴とする。
【0014】
第5の発明では、第4の発明において、前記複数の二次導体における前記単一の短絡環との連結部分には、前記第1絶縁被膜部が備えられていないことを特徴とする。
【0015】
第6の発明では、第1又は第2の発明において、前記単一の短絡環の外面には、絶縁性の被膜を有する第2絶縁被膜部が備えられていることを特徴とする。
【0016】
第7の発明では、第1又は第2の発明において、前記単一の短絡環には、周方向に沿って複数の挿入穴が設けられ、前記各二次導体の一端部及び他端部は、前記複数の挿入穴に挿入された状態において前記単一の短絡環に接合されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
第1の発明では、各二次導体の一端部及び他端部が単一の短絡環における周方向で互いに離隔した位置にそれぞれ連結されているので、各二次導体の一端部側の部位と他端部側の部位とが周方向に離隔するようになる。これにより、上記一端側の部位と上記他端側の部位との間で発生する漏れ電流を抑えることができる。したがって、ステータの極数を増やした場合であっても、漏れ電流による損失が増大するのを抑えることが可能となるので、車両発進時等において車両駆動力が不足するのを回避することが可能となる。
【0018】
第2の発明では、第2の二次導体の一端部の周方向の両側に第1の二次導体の一端部と他端部とがそれぞれ位置するようになる。つまり、第1の二次導体の一端部側の部位と他端部側の部位とが周方向に充分に離隔されるようになるので、双方の部位間で漏れ電流が発生するのを確実に抑えることができる。
【0019】
第3の発明では、例えば、カゴ部の製造時に、U字状をなす二次導体の両端を単一の短絡環に連結するだけでよくなるので、モータの製造コストを下げることが可能となる。
【0020】
第4の発明では、各二次導体の外面には第1絶縁被膜部が備えられているので、二次導体間、或いは、各二次導体における一端部側の部位と他端側の部位との間において漏れ電流が発生するのをより確実に抑えることができる。
【0021】
第5の発明では、各二次導体における単一の短絡環の連結部分には第1絶縁被膜部が備えられていないので、各二次導体と単一の短絡環とが導通可能となる。これにより、各二次導体と単一の短絡環とで二次電流を流すことが可能な閉回路を形成することができる。したがって、第1絶縁被膜部によって、各二次導体と単一の短絡環との間の二次電流の流れが阻害されるのを抑制することができる。
【0022】
第6の発明では、単一の短絡環の外面には第2絶縁被膜部が備えられているので、二次導体以外のロータ部品と単一の短絡環とが導通するのを抑制できる。これにより、二次導体を流れる二次電流が単一の短絡環を介して上記ロータ部品に漏れてしまうことで損失となるのを抑制することができる。
【0023】
第7の発明では、各二次導体の一端部及び他端部が単一の短絡環の挿入孔に挿入された状態において接合されているので、各二次導体と単一の短絡環とを強固に連結することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の実施形態に係るモータが搭載された車両の概略構成を示す平面図である。
【
図2】モータの径方向断面を示す概略断面図である。
【
図4】カゴ部における二次導体と短絡環との連結構造を示す概略断面図である。
【
図5】ステータ及びロータの磁極を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎない。
【0026】
図1は、本発明の実施形態に係るモータ2が搭載された車両1を示す。車両1は、駆動源としてのモータ2を搭載する前輪駆動式の電気自動車である。また、車両1は、減速機3、左右一対のドライブシャフト4、左右一対の前輪FW(駆動輪)及び左右一対の後輪RW(従動輪)を備えている。
【0027】
モータ2は、誘導モータであって、車両1の前部に設けられた図示しないモータルーム内に配設されている。また、モータ2は、減速機3と各ドライブシャフト4を介して各前輪FWと連結されている。これにより、モータ2において生成されたモータトルク(車両駆動力)は、減速機3と左右のドライブシャフト4とを介して左右の前輪FWにそれぞれ伝達されるようになっている。
【0028】
また、車両1には、バッテリ5、インバータ6及び制御装置7が備えられている。
【0029】
バッテリ5は、例えば、リチウムイオンバッテリであり、直流電流を充電及び放電をすることが可能となっている。また、バッテリ5は、インバータ6を介してモータ2と電気的に接続されている。
【0030】
インバータ6は、直流電流と交流電流(例えば、三相交流)とを変換可能となっている。また、インバータ6は、バッテリ5から放電され直流電流を交流電流に変換した後、モータ2に供給するモードと、モータ2から出力された交流電流(回生電流)を直流電流に変換した後、バッテリ5に充電するモードと、を実行可能となっている。
【0031】
制御装置7は、図示しないプロセッサ、メモリ等を備えており、モータ2、バッテリ5及びインバータ6を制御するように構成されている。なお、モータ2は、インバータ6を介して間接的に制御されるようになっている。
【0032】
次に、
図2を用いて、モータ2の詳細構造について説明する。
【0033】
モータ2は、略円筒状のステータ8と、ステータ8内にステータ8の中心軸と同軸で回転可能に設けられた略円筒状のロータ9とを備えている。
【0034】
ステータ8は、ステータコア10及び複数の一次導体(一次コイル)11を備えている。
【0035】
ステータコア10は、略円環状をなす複数の電磁鋼板が軸方向に積層されている。また、ステータコア10には、その内周面から径方向外側に向けて凹設された複数のスロット10aが備えられている。該複数のスロット10aは、互いに所定の間隔を空けつつ周方向に沿って並設されている。また、各スロット10aには、複数の一次導体11が収容されている。複数の一次導体11は、例えば、U相コイル、V相コイル及びW相コイルであり、各コイルが対応するスロット10aにそれぞれ収容されるようになっている。
【0036】
また、U相コイル、V相コイル及びW相コイルには、相毎に120°の位相がずれた交流電流がインバータ6から供給されるようになっている。インバータ6から一次導体11に交流電流が供給されると、該一次導体11において回転磁界が形成されるようになっている。
【0037】
ロータ9は、ロータコア12及びカゴ部13を備えている。
【0038】
ロータコア12は、円盤状をなす複数の電磁鋼板が軸方向に積層されている。また、ロータコア12には、その外周面から径方向内側に向けて凹設された複数の収容凹部12aが設けられており、該複数の収容凹部12aが互いに所定の間隔を空けつつ周方向に沿って並設されている。また、複数の収容凹部12aは、
図2に示すように、深度が大、中、小の3段階に設定されている。
【0039】
ロータコア12の中心部分には、軸方向に貫通する貫通孔12bが形成されている。該貫通孔12bには、略円筒形状をなす出力軸14が挿通されている。該出力軸14の内部には、冷却用媒体が供給される冷却通路部14aが設けられている。
【0040】
ロータコア12(ロータ9)と出力軸14とは、一体回転するように連結されている。本実施形態では、ロータコア12の内周面と出力軸14の外周面とにそれぞれ設けられたキー溝15にキー16が嵌め込まれていることで、ロータコア12(ロータ9)と出力軸14とが相対回転不能に連結されている。
【0041】
カゴ部13は、
図3に示すように、略U字状をなす複数の二次導体17と、円環状をなす単一の短絡環18とを備えている。各二次導体17は、ロータコア12の収容凹部12aに収容されている(
図2参照)。
【0042】
一般的なカゴ型導体の場合、略棒状をなす複数の二次導体の各軸方向端部がそれぞれ別の短絡環に連結されているが、本実施形態のカゴ型導体(カゴ部13)は、
図3に示すように、略U字状をなす複数の二次導体17の軸方向片側(軸方向一側)のみに単一の短絡環18が備えられており、各二次導体17の一端部17a及び他端部17b(
図4参照)が単一の短絡環18における周方向で離隔した位置にそれぞれ連結されるようになっている。なお、
図3では、説明の便宜上、ロータコア12を省略している。
【0043】
また、ロータコア12の外周には、ロータ飛散防止用の円筒状のカバー19が巻かれている(
図2参照)。これにより、ロータ9の高回転時に発生する遠心力により、各二次導体17が外周側に向けて変形するのを抑制することができる。なお、本実施形態では、各二次導体17が単一の短絡環18に対して軸方向一側から片持ち支持となっているため、上記遠心力によって各二次導体17における軸方向他側の部位が外周側に向かって変形し易くなっている。これに対して、カバー19が外周側から巻かれているので、上記軸方向他側の部位の変形を抑えることが可能となっている。
【0044】
本実施形態では、複数の二次導体17は、複数組の二次導体セット20を構成している。該各二次導体セット20は、互いに所定の間隔を空けつつ周方向に沿って並設されている。また、各二次導体セット20には、第1の二次導体21、第2の二次導体22及び第3の二次導体23が備えられている。
【0045】
第1の二次導体21は、略軸方向に延び、かつ、互いに周方向に間隔を空けて設けられた第1の一端側部21a及び第1の他端側部21bと、略周方向に延び、かつ、各端部が第1の一端側部21aの軸方向他側端部と第1の他端側部21bの軸方向端部とにそれぞれ連結された第1連結部21cとを備えている。
【0046】
第2の二次導体22は、略軸方向に延び、かつ、互いに周方向に間隔を空けて設けられた第2の一端側部22a及び第2の他端側部22bと、略周方向に延び、かつ、各端部が第2の一端側部22aの軸方向他側端部と第2の他端側部22bの軸方向他側端部とにそれぞれ連結された第2連結部22cとを備えている。
【0047】
第3の二次導体23は、略軸方向に延び、かつ、互いに周方向に間隔を空けて設けられた第3の一端側部23a及び第3の他端側部23bと、略周方向に延び、かつ、各端部が第3の一端側部23aの軸方向他側端部と第3の他端側部23bの軸方向他側端部とにそれぞれ連結された第3連結部23cとを備えている。
【0048】
第1の一端側部21aと第1の他端側部21bとの周方向間には、第2の一端側部22a及び第3の一端側部23aとが位置している。また、第1の他端側部21bと第3の他端側部23bとの周方向間には、第2の他端側部22bが位置している。つまり、第1の二次導体21、第2の二次導体22、及び、第3の二次導体23は、周方向に互いにオフセットして配置されている。
【0049】
第1の二次導体21、第2の二次導体22及び第3の二次導体23の周方向のピッチ(各一端側部21a~23aと各他端側部21b~23bとの周方向のピッチ)は、略同一に設定されている。上記ピッチは、各一端側部21a~23aと各他端側部21b~23bとの間(例えば、第1の一端側部21aと第1の他端側部21bとの間)で発生する漏れ電流を抑制可能な大きさに設定されている。なお、本実施形態では、上記ピッチは、ステータ8の一次導体11が形成する回転磁界の磁極のピッチと略同一に設定されている。
【0050】
次に、
図4を用いて、複数の二次導体17及び単一の短絡環18の連結構造について説明する。
図4では、複数の二次導体17について、説明の便宜上、第1の二次導体21のみを用いて説明するものとする。なお、第2の二次導体22及び第3の二次導体23は、第1の二次導体21と共通である。
【0051】
第1の二次導体21は、非磁性の導体(例えば、アルミニウム、銅)で構成されている。第1の一端側部21aにおける第1連結部21cとは軸方向反対側の部分、つまり、軸方向一側の部分が第1の二次導体21の一端部17aを構成している。また、第1の他端側部21bにおける第1連結部21cの軸方向反対側の部分、つまり、軸方向一側の部分が第1の二次導体21の他端部17bを構成している。
【0052】
第1の一端側部21aにおける一端部17aを除く部分と、第1の他端側部21bにおける他端部17bを除く部分と、第1連結部21cとの外面には、
図4に示すように、絶縁性の被膜が形成された第1絶縁被膜部17cが備えられている。一方、第1の二次導体21における一端部17a及び他端部17bには、絶縁性の被膜が備えられていない。
【0053】
単一の短絡環18は、
図3に示すように、略円環状をなしており、かつ、非磁性の導体(例えば、アルミニウム、銅)で構成されている。また、短絡環18の外周部分には、
図4に示すように、複数の挿入穴18aが設けられ、各挿入穴18aが互いに所定の間隔を空けつつ周方向に沿って設けられている。また、短絡環18の外面には、
図4に示すように、絶縁性の被膜が形成された第2絶縁被膜部18bが備えられている。
【0054】
本実施形態において、絶縁性の被膜は、例えば、絶縁性の樹脂(ポリイミド、ポリエステル、ポリウレタンなど)を第1の二次導体21(二次導体17)及び単一の短絡環18の外面に塗布した後、焼き付けることにより形成されている。
【0055】
また、複数の挿入穴18aには、第1の二次導体21の一端部17a及び他端部17bが挿入されており、該挿入された状態において第1の二次導体21と単一の短絡環18とが、例えば、溶接により接合(連結)されている。また、各挿入穴18aに第1の二次導体21の一端部17a及び他端部17bが挿入されることで、第1の二次導体21の一端部17aと他端部17bとが単一の短絡環18における周方向で離隔した位置にそれぞれ連結されるようになっている。これにより、第1の二次導体21において第1の一端側部21aと第1の他端側部21bとを周方向に離隔することが可能となるので、第1の一端側部21aと第1の他端側部21bとの間で発生する漏れ電流が抑制されるようになっている。
【0056】
第1の二次導体21と単一の短絡環18とが連結されている状態では、第1の二次導体21の一端部17a及び他端部17bが挿入穴18aに入り込んでいる。ここで、第1の二次導体21の一端部17a及び他端部17bには、絶縁性の被膜が形成されていないので、第1の二次導体21と単一の短絡環18とが導通可能となっている。これにより、第1の二次導体21と単一の短絡環18とにより、二次電流(誘導電流)を流すことが可能な閉回路が形成されている。
【0057】
また、単一の短絡環18の外面には、第2絶縁被膜部18bが設けられているので、第1の二次導体21を流れる二次電流が短絡環18を介してロータコア12等に漏れてしまうことで損失となるのが抑制されるようになっている。
【0058】
第1の二次導体21における一端部17a及び他端部17b以外の部分は、挿入穴18aの外部に位置している。換言すると、第1の二次導体21における第1絶縁被膜部17cが備えられた部分のみが外部に露出している。該第1絶縁被膜部17cにより、第1の二次導体21の第1の一端側部21aと第1の他端側部21bとの間、或いは、周方向に隣接する二次導体17間(例えば、第1の二次導体21と第2の二次導体22との間)における漏れ電流が抑制されるようになっている。
【0059】
次に、
図5を用いて、モータ2の動作について説明する。また、
図5では、ステータ8の極数が8極の例を示している。本実施形態において、二次導体17を流れる二次電流(誘導電流)は、ステータ8の回転磁界により電磁誘導されることにより生成されるため、ロータ9(カゴ部13)の極数と該ステータ8の極数、つまり、ステータ8の回転磁界の極数とが一致するようになる。
【0060】
図5において、外周側の円環は、一次導体11が周方向に沿って並設されたステータ8を示している。一次導体11は、電流の流れる向きに応じて11aと11bとに符号を変えて示している。一次導体11aは、紙面奥側から紙面手前側に向けて一次電流(インバータ6から供給される交流電流)が流れているのを示している。一方、一次導体11bは、紙面手前側から紙面奥側に向けて一次電流が流れているのを示している。
【0061】
図5において、内周側の円環は、ロータ9のカゴ部13を示している。カゴ部13には、複数の二次導体17が周方向に沿って並設されている。二次導体17は、電流の流れる向きに応じて17eと17fとに符号を変えて示している。二次導体17eは、紙面奥側から紙面手前側に向けて二次電流が流れているのを示している。一方、二次導体17fは、紙面手前側から紙面奥側に向けて二次電流が流れているのを示している。なお、
図5では、説明の便宜上、一次導体11及び二次導体17がそれぞれ16つ備えている例を示している。
【0062】
インバータ6からステータ8に対して、
図5における一次導体11a及び一次導体11bに示す方向に一次電流(交流電流)が供給されると、ステータ8において、回転磁界が形成される。該回転磁界は、
図5の例では、磁極(N極及びS極)が8つ(8極)形成されている。そして、回転磁界が
図5において時計回りに回転し、二次導体17を横切る、つまり、回転磁界と二次導体17との間に速度差(すべり)が生じると、フレミングの右手の法則により、
図5における二次導体17e及び二次導体17fに示す方向に二次電流(誘導電流)が流れる。これにより、カゴ部13(ロータ9)には、ステータ8の回転磁界と同数の8つの磁極(8極)が形成される。
【0063】
二次導体17に二次電流が流れると、フレミングの左手の法則により、二次導体17に電磁力が発生し、該二次導体17の電磁力とステータ8の回転磁界とによって、ロータ9が回転磁界に対して遅れながら時計回りに回転する。すると、ロータ9に連結された出力軸14も回転するようになるので、モータ2により生成されたモータトルクが減速機3及び左右のドライブシャフト4を介して左右の前輪FWに伝達される。これにより、左右の前輪FWがモータ2において生成されたモータトルクによって駆動されるようになる。
【0064】
カゴ部13には、
図5に示すように、周方向に隣り合う一方の二次導体17eを流れる二次電流と他方の二次導体17fを流れる二次電流とが逆方向に流れる箇所Pが8つ形成されるようになる。ここで、周方向に隣り合う二次導体17が近接して配置される場合、上記箇所Pでは漏れ電流が発生する懸念があるが、本実施形態では、第1の一端側部21a、第2の一端側部22a及び第3の一端側部23aと、第1の他端側部21b、第2の他端側部22b及び第3の他端側部23bとがそれぞれ周方向に離隔されており、かつ、第1絶縁被膜部17cが設けられているので、上記箇所Pにおける漏れ電流が抑えられるようになっている。
【0065】
以上より、本実施形態では、各二次導体17の一端部17a及び他端部17bが単一の短絡環18における周方向で互いに離隔した位置にそれぞれ連結されているので、各二次導体17の一端部側の部位(第1の一端側部21a、第2の一端側部22a及び第3の一端側部23a)と他端部側の部位(第1の他端側部21b、第2の他端側部22b及び第3の他端側部23b)とが周方向に離隔するようになる。これにより、上記一端側の部位と上記他端側の部位との間で発生する漏れ電流を抑えることができる。したがって、ステータ8の極数を増やした場合であっても、漏れ電流による損失が増大するのを抑えることが可能となるので、車両発進時等において車両駆動力が不足するのを回避することが可能となる。また、従来の誘導モータに比べて短絡環を1つ減らすことで、該短絡環を介してロータコア12等に二次電流が漏れる経路を1つ減らすことができる。これにより、上記短絡環を介して二次電流がロータコア12等に漏れることで損失となるのを抑制することができる。また、従来の誘導モータに比べて短絡環を1つ減らすことで、ロータ9(モータ2)の軽量化及び低コスト化を実現できる。
【0066】
また、第2の二次導体22の一端部17aの周方向の両側に第1の二次導体21の一端部17aと他端部17bとがそれぞれ位置するようになる。つまり、第1の二次導体21の第1の一端側部21aと第1の他端側部21bとが周方向に充分に離隔されるようになるので、双方の部位間で漏れ電流が発生するのを確実に抑えることができる。
【0067】
また、例えば、カゴ部13の製造時に、U字状をなす二次導体17の両端を単一の短絡環18に連結するだけでよくなるので、モータ2の製造コストを下げることが可能となる。
【0068】
また、各二次導体17の外面には第1絶縁被膜部17cが備えられているので、二次導体17間、或いは、各二次導体17における一端部側の部位(例えば、第1の一端側部21a)と他端側の部位(例えば、第1の他端側部21b)との間において漏れ電流が発生するのをより確実に抑えることができる。
【0069】
また、各二次導体17における単一の短絡環18の連結部分には第1絶縁被膜部17cが備えられていないので、各二次導体17と単一の短絡環18とが導通可能となる。これにより、各二次導体17と単一の短絡環18とで二次電流を流すことが可能な閉回路を形成することができる。したがって、第1絶縁被膜部17cによって、各二次導体17と単一の短絡環18との間の二次電流の流れが阻害されるのを抑制することができる。
【0070】
また、単一の短絡環18の外面には第2絶縁被膜部18bが備えられているので、二次導体17以外のロータ部品(例えば、ロータコア12)と単一の短絡環18とが導通するのを抑制できる。これにより、二次導体17を流れる二次電流が単一の短絡環18を介して上記ロータ部品に漏れてしまうことで損失となるのを抑制することができる。
【0071】
また、各二次導体17の一端部17a及び他端部17bが単一の短絡環18の挿入穴18aに挿入された状態において接合されているので、各二次導体17と単一の短絡環18とを強固に連結することができる。
【0072】
<変形例>
なお、本実施形態では、カゴ部31は、複数の二次導体17で構成された二次導体セット20を備えていたが、
図6に示すように、単一の二次導体17を周方向に並設する構成であってもよい。
【0073】
また、本実施形態では、二次導体17がU字状で構成されていたが、二次導体17の両端部分が単一の短絡環18に連結されるものであれば、U字状以外の形状(V字状や
図7で示す複数巻き形状)であってもよい。
【0074】
また、本実施形態では、二次導体17が軸方向に延びる例について説明したが、短絡環18から離間するほど、つまり、軸方向他側に行くほど、周方向一側、或いは、周方向他側の位置となるように傾斜している構成であってもよい。
【0075】
また、本実施形態では、第1の二次導体21、第2の二次導体22及び第3の二次導体23の周方向のピッチ(各一端側部21a~23aと各他端側部21b~23bとの間隔)が、ステータ8の一次導体11が形成する回転磁界の各磁極のピッチと略同一に設定されていたが、漏れ電流を抑制可能な範囲において各磁極のピッチよりも大きくしてもよく、或いは、小さくしてもよい。
【0076】
また、本実施形態では、第1絶縁被膜部17c及び第2絶縁被膜部18bが設けられていたが、いずれか一方を備えるようにしてもよく、或いは、両方備えないようにしてもよい。
【0077】
また、本実施形態では、各二次導体17の両端部分(一端部17a及び他端部17b)が単一の短絡環18と溶接により接合(連結)される例について説明したが、リベットやボルト等を用いた機械的接合、溶着する化学的接合、ろう接等の治金的接合であってもよい。また、二次導体17と短絡環18とを一体の鋳物として鋳造してもよく、予め成形した二次導体17を短絡環18鋳造用の型にセットした状態で該型に溶解金属を流し込むことで二次導体17と短絡環18とを連結させてもよく、或いは、予め成形した短絡環18を二次導体17鋳造用の型にセットした状態で該型に溶解金属を流し込むことで二次導体17と短絡環18とを連結させてもよい。
【0078】
また、本実施形態では、ステータ8の極数が8極である例について説明したが、従来の4極よりも多い極数であれば、6極、10極、12極、14極、16極、18極であってもよく、例えば、ステータ8の極数は、4極よりも多く、かつ、12極以下であるのが好ましい。
【0079】
また、本実施形態では、モータ2が誘導モータである例について説明したが、ロータ9におけるカゴ部13の内周側に永久磁石を備えてもよい。
【0080】
また、本実施形態では、モータ2が前輪FWのみを駆動する例について説明したが、前輪FW及び後輪RWを駆動するようにしてもよく、後輪RWのみを駆動するようにしてもよく、或いは、前輪FW及び後輪RW毎に駆動する複数のモータ2が備えられる構成であってもよい。
【0081】
また、本実施形態では、モータ2が前輪FWを駆動する例について説明したが、車両1の減速時に前輪FWの回転エネルギーを用いてモータ2で回生発電し、その回生電力をバッテリ5に充電するようにしてもよい。
【0082】
また、本実施形態では、車両1の一例として電動自動車の例を説明したが、電動車であればよく、例えば、モータ2と図示しないエンジンを備えたハイブリッド自動車であってもよい。
【0083】
また、本実施形態では、車両1の一例として四輪車の例を説明したが、陸上を走行可能なものであれば、三輪車や二輪車であってもよく、或いは、農業用車両(トラクタなど)であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明は、モータに適している。
【符号の説明】
【0085】
1 車両
2 モータ
8 ステータ
9 ロータ
13 カゴ部
17 二次導体
17a 一端部
17b 他端部
17c 第1絶縁被膜部
18 短絡環
18a 挿入穴
18b 第2絶縁被膜部
FW 前輪(駆動輪)