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特開2024-164750エレクトレットを備えるデバイスの特性調整方法、デバイスの製造方法、及び、エレクトレット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024164750
(43)【公開日】2024-11-27
(54)【発明の名称】エレクトレットを備えるデバイスの特性調整方法、デバイスの製造方法、及び、エレクトレット
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/336 20060101AFI20241120BHJP
   B81B 3/00 20060101ALI20241120BHJP
   H01L 29/786 20060101ALI20241120BHJP
【FI】
H01L29/78 301G
B81B3/00
H01L29/78 613Z
H01L29/78 617T
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080453
(22)【出願日】2023-05-15
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業「自己バイアス式集積化SAE-MEMSセンサの開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】593006630
【氏名又は名称】学校法人立命館
(71)【出願人】
【識別番号】504145364
【氏名又は名称】国立大学法人群馬大学
(74)【代理人】
【識別番号】100111567
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 寛
(72)【発明者】
【氏名】山根 大輔
(72)【発明者】
【氏名】田中 有弥
【テーマコード(参考)】
3C081
5F110
5F140
【Fターム(参考)】
3C081AA13
3C081BA22
3C081BA44
3C081BA48
3C081CA40
3C081DA31
3C081EA21
5F110AA08
5F110CC02
5F110DD01
5F110DD12
5F110EE01
5F110EE30
5F110FF01
5F110GG02
5F110GG12
5F110HJ01
5F110HK01
5F140BA01
5F140BD01
5F140BD04
5F140BE09
5F140BE13
5F140BF41
(57)【要約】
【課題】エレクトレットの表面電位に影響を受けるデバイスの特性を調整する。
【解決手段】開示の方法は、エレクトレットを備えるデバイスの特性を調整する方法であって、前記エレクトレットは、光の照射によって表面電位が変化する材料によって構成され、前記方法は、前記エレクトレットの前記表面電位を変化させる光を前記エレクトレットに対して照射することで、前記表面電位を変化させて、前記表面電位に依存するデバイス特性を調整することを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレクトレットを備えるデバイスの特性を調整する方法であって、
前記エレクトレットは、光の照射によって表面電位が変化する材料によって構成され、
前記方法は、前記エレクトレットの前記表面電位を変化させる光を前記エレクトレットに対して照射することで、前記表面電位を変化させて、前記表面電位に依存するデバイス特性を調整することを含む
デバイスの特性調整方法。
【請求項2】
前記光を照射することは、
前記エレクトレットが形成されている領域全体よりも狭い領域に対して前記光を照射すること、又は、
前記エレクトレットが形成されている領域内における位置に応じて光の強度及び照射時間の少なくともいずれか一方が異なるように光を照射することである
請求項1に記載のデバイスの特性調整方法。
【請求項3】
前記光を照射することは、マスクレス露光機によって行われる
請求項1に記載のデバイスの特性調整方法。
【請求項4】
前記エレクトレットは、自己組織化エレクトレットである
請求項1に記載のデバイスの特性調整方法。
【請求項5】
前記デバイスは、前記エレクトレットを備えるMEMS素子を備え、
前記デバイス特性は、前記MEMS素子の特性を含む
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のデバイスの特性調整方法。
【請求項6】
前記デバイスは、前記エレクトレットを備える電子回路を備え、
前記デバイス特性は、前記電子回路の回路特性を含む
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のデバイスの特性調整方法。
【請求項7】
エレクトレットを備えるデバイスの製造方法であって、
光の照射によって表面電位が変化し得るエレクトレットを、デバイスに設け、
前記エレクトレットを前記デバイスに設けた後に、前記エレクトレットに対して、前記光を照射することで、前記表面電位を変化させて、前記表面電位に依存するデバイス特性を調整する
ことを含む、デバイスの製造方法。
【請求項8】
エレクトレット表面の面内位置に応じて表面電位が異なるように制御された表面電位分布を有する、エレクトレット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エレクトレットを備えるデバイスの特性調整方法、デバイスの製造方法、及び、エレクトレットに関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトレットは、強い誘電性をもった絶縁体に電場を加えて電気分極を起こさせ、その電場を去っても帯電が保たれている物質である。エレクトレットと電子回路又はMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)とを組み合わせることで、小型のマイクロフォンや振動発電素子などを構成することができる。
【0003】
特許文献1-3は、エレクトレットを備えるデバイスを開示している。特許文献1はエレクトレットを備える振動発電器を開示し、特許文献2はエレクトレットを備える振動発電素子を開示し、特許文献3はエレクトレットを形成したMEMS素子を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-036423号公報
【特許文献2】特開2021-040389号公報
【特許文献3】特開2022-29596号公報
【発明の概要】
【0005】
エレクトレットは帯電しているため表面電位を持つ。エレクトレットの表面電位は、エレクトレット材料・寸法・荷電処理などで決まる。このため、エレクトレットを製造した時点でその表面電位は決まってしまう。その結果、エレクトレットの製造後には、再荷電処理以外の方法では、表面電位を調整することはできなかった。なお、エレクトレットの再荷電処理は、減衰した表面電位を基に戻す作業であり、表面電位の制御には適用できない。
【0006】
エレクトレットの表面電位は、エレクトレットを備えたデバイスの特性・性能を左右することがある。したがって、エレクトレットによって、その表面電位に影響を受けるデバイスの特性を調整することが考えられる。しかし、エレクトレット製造後に表面電位を調整することができなければ、デバイスの特性の調整は困難である。
【0007】
したがって、かかる問題を解決するための技術の提供又はそれに関連した技術の提供が望まれる。
【0008】
本開示のある側面は、デバイス調整方法である。開示の方法は、エレクトレットを備えるデバイスの特性を調整する方法であって、前記エレクトレットは、光の照射によって表面電位が変化する材料によって構成され、前記方法は、前記エレクトレットの前記表面電位を変化させる光を前記エレクトレットに対して照射することで、前記表面電位を変化させて、前記表面電位に依存するデバイス特性を調整することを含む。
【0009】
本開示の他の側面は、デバイスの製造方法である。開示の方法は、エレクトレットを備えるデバイスの製造方法であって、光の照射によって表面電位が変化し得るエレクトレットを、デバイスに設け、前記エレクトレットを前記デバイスに設けた後に、前記エレクトレットに対して、前記光を照射することで、前記表面電子を変化させて、前記表面電位に依存するデバイス特性を調整することを含む。
【0010】
本開示の他の側面は、エレクトレットである。開示のエレクトレットは、エレクトレット表面の面内位置に応じて表面電位が異なるように制御された表面電位分布を有する。
【0011】
更なる詳細は、後述の実施形態として説明される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、実施形態に係るデバイス製造方法の手順を示すフローチャートである。
図2図2は、エレクトレットを備えるMEMS素子とMEMS素子への真空蒸着とを示す説明図である。
図3図3は、エレクトレットを備える電界効果トランジスタとその閾値電圧の特性とを示す説明図である。
図4図4は、エレクトレットを備える電界効果トランジスタの他の例を示す図である。
図5図5は、エレクトレットへの光照射実験を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<1.エレクトレットを備えるデバイスの特性調整方法、デバイスの製造方法、及びエレクトレットの概要>
【0014】
(1)実施形態に係る方法は、エレクトレットを備えるデバイスの特性を調整する方法であり得る。前記方法において、前記エレクトレットは、光の照射によって表面電位が変化する材料によって構成され得る。前記方法は、前記エレクトレットの前記表面電位を変化させる光を前記エレクトレットに対して照射することで、前記表面電位を変化させて、前記表面電位に依存するデバイス特性を調整することを含み得る。この場合、光照射によって、エレクトレット表面電位を変化させることで、デバイス特性を調整することができる。
【0015】
なお、エレクトレットは、デバイスの動作・機能に不可欠な構成要素としてデバイスに備えられていてもよいし、デバイスの動作・機能に不可欠な構成要素ではなく、専ら、デバイス特性の調整のために、デバイスに備えられていてもよい。また、デバイス特性の調整は、エレクトレットが設けられた後に行われればよく、デバイスの製造途中(デバイス完成前)に行われてもよいし、デバイスの製造後(デバイス完成後)に行われてもよい。
【0016】
(2)前記光を照射することは、前記エレクトレットが形成されている領域全体よりも狭い領域に対して前記光を照射することであり得る。また、前記光を照射することは、前記エレクトレットが形成されている領域内における位置に応じて光の強度及び照射時間の少なくともいずれか一方が異なるように光を照射することであり得る。
【0017】
(3)前記光を照射することは、マスクレス露光機によって行われるのが好ましい。
【0018】
(4)前記エレクトレットは、自己組織化エレクトレットであるのが好ましい。
【0019】
(5)前記デバイスは、前記エレクトレットを備えるMEMS素子を備え得る。前記デバイス特性は、前記MEMS素子の特性を含み得る。
【0020】
(6)前記デバイスは、前記エレクトレットを備える電子回路を備え得る。電子回路は、集積回路であるのが好ましい。前記デバイス特性は、前記電子回路の回路特性を含み得る。
【0021】
(7)実施形態に係る方法は、エレクトレットを備えるデバイスの製造方法であり得る。前記方法は、光の照射によって表面電位が変化し得るエレクトレットを、デバイスに設け、前記エレクトレットを前記デバイスに設けた後に、前記エレクトレットに対して、前記光を照射することで、前記表面電子を変化させて、前記表面電位に依存するデバイス特性を調整することを含み得る。
【0022】
なお、エレクトレットは、デバイスの動作・機能に不可欠な構成要素としてデバイスに備えられていてもよいし、デバイスの動作・機能に不可欠な構成要素ではなく、専ら、デバイス特性の調整のために、デバイスに備えられていてもよい。また、デバイス特性の調整は、エレクトレットが設けられた後に行われればよく、デバイスの製造途中(デバイス完成前)に行われてもよいし、デバイスの製造後(デバイス完成後)に行われてもよい。
【0023】
(8)実施形態に係るエレクトレットは、エレクトレット表面の面内位置に応じて表面電位が異なるように制御された表面電位分布を有し得る。
【0024】
<2.エレクトレットを備えるデバイスの特性調整方法、デバイスの製造方法、及びエレクトレットの例>
【0025】
図1は、実施形態に係るデバイス製造方法を示している。この製造方法は、例えば、デバイス作製の工程(ステップS1)と、デバイス特性調整の工程(ステップS2)と、を含む。
【0026】
ステップS1において作製されるデバイスは、エレクトレットを備える。ステップS1において作製されるデバイスは、例えば、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)素子である。MEMS素子は、例えば、エナジーハーベスタ(発電素子)、圧力センサ、加速度センサ、ジャイロスコープ、光スキャナ、デジタルミラーデバイス、アクチュエータ、発電素子、又は光変調器等の機械的要素を構成する。発電素子は、例えば、振動発電素子である。MEMS素子は、例えば、集積化MEMS素子である。集積化MEMS素子は、半導体集積回路(LSI)とMEMS構造体が一つのチップ上に形成されたものである。
【0027】
MEMS素子が、半永久的に電荷を保持する誘電体であるエレクトレットを備えることで、センサ感度向上や低消費電力化、発電機能付与など、MEMS素子の特性・性能の向上又は特性の調整が可能である。エレクトレットを備えることによって向上する又は制御されるMEMS素子の特性は、例えば、MEMS素子の機械的特性である。機械的特性は、例えば、振動するMEMS素子の共振周波数、電極間距離、電極の傾き具合などである。MEMS素子の特性は、これらに限られず、エレクトレットの表面電位に依存して変化し得るその他の特性であってもよい。
【0028】
MEMS素子は、例えば、半導体集積回路上において、半導体製造技術による微細加工を施すことにより形成される。
【0029】
ステップS1において作製されるデバイスは、集積回路などの電子回路であってもよい。電子回路は、例えば、電界効果トランジスタ(FET)である。電子回路が半導体集積回路である場合、電子回路は半導体製造技術によって形成される。
【0030】
電子回路がエレクトレットを備えることで、電子回路の回路特性の向上又は回路特性の調整を図ることができる。エレクトレットを備えることによって向上又は調整される電子回路の特性は、例えば、電子回路がFETであれば、FETの閾値電圧である。電子回路の特性は、FETの閾値電圧に限られず、エレクトレットの表面電位に依存して変化し得るその他の回路特性であってもよい。
【0031】
ステップS1のデバイス作製工程は、エレクトレット形成工程(ステップS11)を含む。ステップS11のエレクトレット形成工程は、デバイスにエレクトレットを備えさせる工程である。なお、ステップS1は、ステップS11のエレクトレット形成工程のほか、デバイスにおけるエレクトレット以外の構成要素の形成工程を含む。
【0032】
実施形態において、ステップS11においてデバイスに設けられるエレクトレットは、光の照射によって表面電位が変化する材料によって構成され得る。エレクトレットが、光の照射によって表面で変化するものであることで、デバイス製造後の光照射によって、エレクトレットの表面電位の調整又は制御が可能になる。
【0033】
ステップS11においてデバイスに設けられるエレクトレットは、例えば、自己組織化エレクトレット(Self-assembled electret(SAE))である。自己組織化エレクトレットは、特許文献1-3に記載されている。本開示は、特許文献1-3のすべての記載内容を援用する。自己組織化エレクトレットは、自発的に配向する極性有機分子が、荷電処理が不要であるエレクトレットとして機能することを利用したものである。自己組織化エレクトレットは、その表面電位が膜厚に比例して増加し、100nmで数ボルトにも達する。この巨大な電位は「巨大表面電位」(Giant surface potential:GSP)と呼ばれる。すなわち、自己組織化エレクトレットは、GSPを示す材料によって構成されたエレクトレットともいえる。自己組織化エレクトレットとして利用可能な材料は、多数存在するが、一例として列挙すると、2CzPN、4CzIPN、Alq3、TPBi、OXD-7、又はBCPなどがある。
【0034】
自己組織化エレクトレットは、前述のように、エレクトレットの荷電処理(帯電処理)が不要なものである。したがって、自己組織化エレクトレットをデバイスに設ける場合、荷電処理によるデバイスへの悪影響を回避できる。すなわち、荷電処理は、高温・高電圧印加等が必要とされるが、荷電処理を必要としない自己組織化エレクトレットを利用すると、荷電処理のための高温・高電圧印加等が不要となる。例えば、MEMS素子又は電子回路などのデバイスにエレクトレットを形成するために、荷電処理をすると、デバイスが破壊されるなどの悪影響が生じるおそれがある。しかし、自己組織化エレクトレットをデバイスに形成すれば、荷電処理が不要であるため、デバイスへの悪影響を抑えることができる。また、自己組織化エレクトレットを利用すると、荷電処理が不要であるため、デバイスの生産性も向上する。
【0035】
自己組織化エレクトレットは、例えば、真空蒸着によって形成される。真空蒸着は、例えば、常温で行うことができる。したがって、エレクトレットの形成のため、エレクトレットが形成されるデバイスを、真空蒸着装置内に配置しても、デバイスへの影響は少ない。
【0036】
自己組織化エレクトレットを構成する材料は、光の照射によって表面電位が変化する。例えば、前述のAlq3は、光の照射によって、表面電位が低下又は消失する(光の照射による表面電位の低下の原理については、特許文献2参照)。
【0037】
実施形態のデバイスの作製には、Alq3など、光を照射によって表面電位が変化し得るエレクトレットが用いられる。かかるエレクトレットは、例えば、前述の2CzPN、4CzIPN、Alq3、TPBi、OXD-7、又はBCPなどである。一般に、自己組織化エレクトレットは、光照射によって表面電位が変化する。
【0038】
ここで、光は、1nmから1mmの波長をもつ電磁波をいい、可視光に限られず、紫外放射(紫外線)も含む。表面電位を変化させるための光の波長は、短い方が好ましく、例えば、450nm以下、400nm以下、350nm以下、又は、300nm以下である。表面電位を変化させるための光は、例えば、紫外放射である。
【0039】
エレクトレットに照射される光は、照射されるエレクトレットを構成する材料の吸収スペクトルにおける吸収ピークに相当する波長(及びそれ以下の波長)の光を含むのが好ましい。エレクトレットの材料の吸収ピークの波長を含む波長の光は、エレクトレットに吸収されて、表面電位を低下させる。例えば、Alq3は、吸収ピークが400nm程度であるため、400nm程度以下の波長の光(青色の光)の照射によって、電位を低下させ得る。2CzPNは、吸収ピークが380nm程度であるため、380nm程度以下の波長の光(青色の光)の照射によって、電位を低下させ得る。4CzIPNは、吸収ピークが390nm程度であるため、390nm程度以下の波長の光(青色の光)の照射によって、電位を低下させ得る。
【0040】
また、TPBiは、吸収ピークが310nm程度であるため、310nm程度以下の波長の光(紫外線)の照射によって、電位を低下させ得る。OXD-7は、吸収ピークが290nm程度であるため、290nm程度以下の波長の光(紫外線)の照射によって、電位を低下させ得る。BCPは、吸収ピークが260nm程度であるため、260nm程度以下の波長の光(紫外線)の照射によって、電位を低下させ得る。
【0041】
なお、エレクトレットは、光の照射によって表面電位が変化し得るものであれば、自己組織化エレクトレットである必要はなく、荷電処理によって得られるエレクトレットであってもよい。また、エレクトレットは、光の照射によって、表面電位が減少するものに限られず、表面電位が増加するものであってもよい。光の照射で表面電位が増加するエレクトレットは、例えば、絶縁体上に成膜されたTPBiである。このTPBiは、SAEである。このTPBiに光を照射すると表面電位が増加する。絶縁体は、導電体基板上に形成される。絶縁体は、例えば、SiO2である。導電体基板は、例えば、ITOである。
【0042】
ステップS1におけるデバイス作製後、ステップS2のデバイス特性調整が行われる。ステップS2において調整されるデバイス特性は、例えば、MEMS素子の機械的特性、又は電子回路の回路特性である。ステップS2では、デバイス特性のうち、デバイスが備えるエレクトレットの表面電位に依存するデバイス特性が調整され得る。
【0043】
ステップS2の調整工程は、エレクトレットに光を照射する工程(ステップS21)を含む。エレクトレットに光を照射することで、エレクトレットの表面電位を調整できる。表面電位が調整される結果、表面電位に依存するデバイス特性が調整され得る。
【0044】
自己組織化エレクトレットは、通常、膜厚によって表面電位が決定される。したがって、自己組織化エレクトレットを成膜した時点で、表面電位が決まっている。しかし、光照射された自己組織化エレクトレットは、膜厚によって決まる表面電位とは異なる表面電位を持つ。したがって、膜厚の製造誤差などに起因して表面電位が所望の値からずれている場合であっても、エレクトレット形成後の光照射によって、表面電位を所望の値に調整することができる。
【0045】
このように、作製後のエレクトレットに対して光照射することで、エレクトレットの表面電位を所望の値にすることができる。また、従来のエレクトレットでは、エレクトレットを作製する段階でエレクトレットの表面電位が決まってしまうが、本実施形態によれば、エレクトレットの作製工程と、エレクトレットの最終的な表面電位又は表面電位分布を決定する工程と、を分離することができる。
【0046】
例えば、自己組織化エレクトレットは、膜厚分布によって膜面内の表面電位分布が決定される。しかし、光照射された自己組織化エレクトレットは、膜厚分布によって決まる表面電位分布とは異なる、制御された表面電位分布を持つ。ここでは、エレクトレット作製後にエレクトレット表面電位分布を制御することを、面内電位制御という。面内電位制御によって制御された表面電位分布が得られる。例えば、ほぼ均一な膜厚を有するエレクトレットは、通常、ほぼ均一な表面電位の分布を有するが、ほぼ均一な膜厚を有するエレクトレットに対して、面内電位制御を施すことで、面内の位置によって表面電位が異なる表面電位分布が得られる。
【0047】
エレクトレット表面の面内での電位分布は、エレクトレット表面の面内に照射される光の強度及び時間の少なくともいずれか一方を、その面内において変化させることによって、制御され得る。なお、光の強度は、光の照度と表現してもよい。エレクトレット表面の面内での電位分布は、エレクトレット表面の面内において局所的に光を照射することによって、制御され得る。
【0048】
このように、作製後のエレクトレットに対する面内電位制御によって、エレクトレットの表面電位を局所的に低下させたり、局所的に消失させたりすることができる。したがって、面内電位制御によって、エレクトレットの作製後に、所望の表面電位分布を得ることができる。
【0049】
エレクトレットにおいて局所的に電位を消失させると、エレクトレット材料が存在するものの、エレクトレットとしては機能しない部分を生じさせることができる。ここでは、面内電位制御によって、局所的に、電位を消失させること又はエレクトレットとして実質的に機能しない程度に電位を低下させることを、トリミングという。トリミングによって、エレクトレットとして機能する領域を、エレクトレット材料が存在する領域よりも狭くできる。
【0050】
例えば、エレクトレット作製時の誤差によって、エレクトレットが形成された領域が所望の領域よりも大きい場合、不要な領域を光照射によってトリミングすることができる。また、エレクトレット作製後のトリミングによって、エレクトレットとして機能する領域を、エレクトレット形成工程で得られたエレクトレット領域の形状とは異なるもの(例えば、所定のパターン形状)にすることができる。
【0051】
また、エレクトレット作製時においては、エレクトレットとして機能させる領域を特に考慮せずにエレクトレットを形成しておき、エレクトレット作製後において、エレクトレットとして機能させたい領域を決定し、エレクトレットとして機能させたい領域以外の領域をトリミングすることができる。
【0052】
このように、面内電位制御によって、エレクトレット作製時の誤差を補償したり、エレクトレット作製後にエレクトレットとして機能する領域を所望の範囲にしたりすることができる。
【0053】
また、面内電位制御を精密に行うことで、表面電位分布を精密に制御できる。精密な面内電位制御は、例えば、精密な露光パターンを生成する露光機によって行える。露光機を用いることで、エレクトレットに対して局所的な光照射が可能である。露光機は、例えば、半導体回路の製造用の半導体露光機である。露光機は、露光パターンの形成にフォトマスクが不要であるマスクレス露光機であるのが好ましい。
【0054】
露光機は、一例として、露光線幅が100μm以下の光を照射可能なもの、露光線幅が50μm以下の光を照射可能なもの、露光線幅が20μm以下の光を照射可能なもの、又は、露光線幅が10μm以下の光を照射可能なものであるのが好ましい。また、露光機は、最小露光線幅が10μm以上のもの、露光機は、最小露光線幅が1μm以上のもの、露光機は、一例として、最小露光線幅が0.1μm以上のもの、又は、最小露光線幅が0.01μm以上のものであるのが好ましい。
【0055】
以上のように、デバイスが備えるエレクトレットの表面電位が調整されると、そのエレクトレットの表面電位に依存するデバイス特性が調整される。したがって、エレクトレットの表面電位調整を通じて、デバイス特性を所望の値に調整できる。例えば、デバイス特性(例えば、デバイスの機械的特性又は回路特性)の製造誤差を、エレクトレットの表面電位調整によって、デバイス作製後に補償することができる。
【0056】
特に、精密な露光パターンを生成する露光機を用いると、MEMS素子又は集積回路などの微小なデバイスにおけるエレクトレットの面内電位制御が可能となる。また、精密なトリミングも可能である。精密な面内電位制御又は精密なトリミングによって、デバイス特性の精密制御も可能になる。また、精密な露光パターンを生成する露光機を用いると、精密な面内電位制御を行って、所望の2次元電位分布を得ることもできる。
【0057】
実施形態の方法で得られる電位分布としては、例えば、2次元的に滑らかに変化する電位分布、局所的に異なる電位を持つ電位分布、又は一部の電位が消失した電位分布などがある。このような電位分布を有するエレクトレットを利用することで、新しいMEMSデバイス又は電子デバイスなどの創製につながることが期待される。
【0058】
なお、光の照射は、表面電位を低下又は消失させるためのものである必要はなく、光照射によって表面電位が上昇するエレクトレットに関しては、光の照射は、表面電位を増加させるために用いられ得る。また、図1では、デバイスの作製後に、ステップS21の光照射を行ったが、ステップS21の光照射は、デバイスの作製途中に行われてもよい。すなわち、エレクトレットを備えるデバイスは、完成品である必要はなく、作製途中のものであってもよい。したがって、ステップS2又はステップS21の後に、デバイスを構成する他の要素の組み立て・形成などが行われてもよい。
【0059】
図2は、デバイスの一例としてのMEMS素子に、自己組織化エレクトレットを形成する工程の例を示している。図2では、自己組織化エレクトレットの形成に真空蒸着装置100が用いられる。真空蒸着装置100は、真空にした容器100Aの中で成膜材料101を蒸発させて、デバイスなどのワークの表面に膜を形成するよう構成されている。図2に示す真空蒸着装置100は、ワークを容器100Aにおいて保持するホルダ103と、シャドウマスク105と、を備える。シャドウマスク105は、成膜範囲を制限するものである。
【0060】
図2の真空蒸着装置100は、成膜材料として、自己組織化エレクトレット材料が用いられる。用いられる自己組織化エレクトレット材料は、例えば、Alq3である。
【0061】
図2では、ワークとして、MEMS素子54を備えるデバイス50が配置される。デバイス50は、一例として、集積化MEMSデバイスである。集積化MEMSデバイスは、半導体集積回路とMEMS素子とが一つのチップ上に形成されたものである。
【0062】
デバイス50は、基板51を備える。基板51は、例えば、シリコン基板などの半導体基板によって構成され、LSIなどの半導体集積回路52を備える。半導体集積回路52には、MEMS素子54以外の半導体センサ53も設けられている。MEMS素子54は、半導体集積回路52上に設けられている。半導体集積回路52は、例えば、FET、抵抗素子、容量素子などの様々な半導体素子を備え得る。なお、FETは、演算回路、メモリ回路、又は増幅回路などを構成し得る。
【0063】
図2に示すMEMS素子54は、一例として、振動発電素子である。振動発電素子54は、可動電極61と固定電極62と、を備える。固定電極62は、例えば、半導体集積回路52に上に固定されている。可動電極61は、固定電極62と間隔を隔てて設けられている。可動電極61は、例えば、半導体集積回路52上に設けられた支持部63を介して、積回路上で振動可能に支持されている。支持部63は、ばねを備え、ばねによって可動電極61は振動可能になる。すなわち、可動電極61は、固定電極62に対して相対位置が可変に設けられている。
【0064】
MEMS素子54には、真空蒸着装置100を用いた真空蒸着によって、自己組織化エレクトレット71が形成される。図2では、一例として、自己組織化エレクトレット71は、固定電極62上に配置される。エレクトレット71を備える電極62は、帯電している。エレクトレット71を備える電極62が、別の電極61と対向していると、静電誘導により電極61に誘導電荷が生じる。電極61と電極62とが相対的に変位すると、その変位に応じて誘導電荷が変化し、それを電気信号として外部に取り出すことができる。
【0065】
図2の可動電極61は、複数のスルーホール61aを備える。このスルーホール61aは、真空蒸着装置100内で蒸発した成膜材料を、通過させて、固定電極62に到達させるためのものである。固定電極62には、スルーホール61aの形成パターン(例えば、図2の格子状パターン)に応じたパターンのエレクトレット71が形成される。
【0066】
図2に示すように、MEMS素子54に自己組織化エレクトレット71を配置する場合、半導体集積回路52又はMEMS素子54に悪影響を与えるおそれがある荷電処理が不要である。真空蒸着による低温プロセス(室温程度)も、半導体集積回路52又はMEMS素子54に悪影響を与えるおそれは少ない。なお、このようなMEMS素子54及びその製法の詳細は、特許文献3に記載されている。本開示は、特許文献3のすべての記載内容を援用する。
【0067】
エレクトレット71が形成されると、MEMS素子54の特性の調整のため、エレクトレットに光が照射される。前述のスルーホール61aは、電極61の上方から照射された光を、通過させて、電極62に到達させるためにも用いられる。
【0068】
エレクトレット71に光を照射することで、エレクトレット71の表面電位を制御し、表面電位から生じる静電引力の強度を制御できる。ここで、静電引力は、空気ギャップを介した構造の間に電位差がある場合、それらの構造が互いに引き合う向きに働く力である。ここでは、電極61,62間に働く力である。静電引力は、MEMS素子54の特性の一つである。
【0069】
エレクトレット71の表面電位を制御することで、表面電位から生じる静電引力を変化させることができるため、振動発電素子であるMEMS素子54の共振周波数又は電極61,62間距離を変化させることができる。共振周波数及び電極間距離は、MEMS素子54の機械的特性である。光照射によって、共振周波数又は電極間距離を、MEMS素子54の作製後に、調整することが可能である。
【0070】
エレクトレット71全体の領域内において、局所的に光を照射することで、エレクトレット71の表面電位の分布を制御することができる。つまり、位置に応じて表面電位を異ならせることができる。表面電位の分布を制御することで、静電引力も位置に応じて異ならせることができるため、電極61の傾き具合などを調整することもできる。電極61の傾きは、MEMS素子54の機械的特性である。
【0071】
可動電極61は、それを保持するばねの寸法ばらつき又は素子の影響等で、基板51に対して並行でない場合があり得る。この場合、可動電極61の下方のエレクトレット71の表面電位の分布を制御し、静電引力の強さを、位置に応じて異ならせることで、電極61の傾きを調整することができる。したがって、可動電極61の作製後に、可動電極61の傾きを調整して、並行にすることができる。
【0072】
また、可動電極61の側面、及び/又は、可動電極61の側方に配置された固定電極に、エレクトレットを形成しておき、そのエレクトレットに光を照射してもよい。この場合、静電引力は、可動電極61の面に平行な方向(横方向)にも働く。したがって、エレクトレットへの光照射によって、横方向の静電引力を制御すると、可動電極61の横方向の位置調整も可能になる。可動電極61の横方向位置もMEMS素子54の機械的特性の一つである。なお、可動電極61の側面、及び/又は、可動電極61の側方に配置された固定電極に、エレクトレットを形成するには、図2におけるMEMS素子54を傾けて、真空蒸着装置100内に配置すればよい。
【0073】
図3(A)は、デバイスの他の例として、FETを備える電子回路(半導体集積回路)を示している。図3は、一例として、NチャネルMOSFET80を示している。図3に示すFET80は、p型半導体(p-Si)81と、n型半導体(N+-Si)82,83と、酸化膜からなる誘電体(絶縁膜)84と、を備える。FET80は、誘電体84上に設けられたゲート電極85、n型半導体82上に設けられたソース電極86、及びn型半導体83上に設けられたドレイン電極87、及び、バックゲート電極89を備える。
【0074】
FET80は、一例として、誘電体84とゲート電極85との間に配置されたエレクトレット88を備える。ここでのエレクトレットは、自己組織化エレクトレット(SAE)である。
【0075】
FET80がエレクトレット88を備えることで、図3(B)に示すように、FET80の閾値電圧Vgsが変化する。ここで、閾値電圧Vgsとは、ソース-ドレイン間の伝導パスを形成するために印加されるゲート-ソース間にかかる電圧である。閾値電圧Vgsは、FET80の回路特性の一つである。
【0076】
図3(B)に示すように、表面電位が負のエレクトレット88が設けられている場合、エレクトレット88の自己バイアスによって、エレクトレットなしに比べてVgsが小さくなる。また、表面電位が正のエレクトレットが設けられている場合、エレクトレット88の自己バイアスによって、エレクトレットなしに比べてVgsが大きくなる。
【0077】
このエレクトレット88に対して、光を照射させて、表面電位を変化させると、エレクトレット88による、自己バイアスが変化するため、閾値電圧Vgsが変化する。したがって、光照射によって、FET80の閾値電圧Vgsを調整することができる。
【0078】
半導体集積回路は、一般に、多数のFETを備える。これらのFETの閾値電圧Vgsは、製造誤差によって、ばらつくことがある。半導体集積回路に含まれる複数のFETの中に、閾値電圧Vgsを調整したいFETがある場合、そのFETのエレクトレット88に対してだけ局所的に光を照射することで、他のFETの閾値電圧を変化させることなく、そのFETの閾値電圧Vgsだけを調整することができる。なお、電極85は、光を透過可能なものであるのが好ましい。
【0079】
なお、図3と同様にエレクトレットを備えるp型MOSFETについても、同様の方法で、閾値電圧Vgsを調整することができる。
【0080】
図4は、エレクトレットを備えるFETの他の例を示している。図4に示すFET80は、図3のFET80とは異なり、エレクトレット88が、p型半導体81とバックゲート電極89との間に設けられている。図4のFET80に関し、その他の点については、図3のFET80と同様である。
【0081】
図4のFET80においても、エレクトレット88によって、閾値電圧Vgsが変化する。すなわち、表面電位が負のエレクトレット88が設けられている場合、エレクトレット88の自己バイアスによって、エレクトレットなしに比べてVgsが小さくなる。また、表面電位が正のエレクトレットが設けられている場合、エレクトレット88の自己バイアスによって、エレクトレットなしに比べてVgsが大きくなる。
【0082】
複数のFETを備える半導体集積回路の場合、図4のp型半導体には、他のFETのための構造も形成される。すなわち、図4の半導体81(半導体基板81)上には、複数のFET80が設けられる。エレクトレット88は、例えば半導体81の全面に形成されることで、複数のFET80に亘って形成される。したがって、図4のエレクトレット88は、複数のFET80それぞれの閾値電圧Vgsに影響を与える。
【0083】
複数のFET80それぞれの閾値電圧Vgsに影響を与えるエレクトレット88に対して、局所的に光を照射することで、特定のFETの閾値電圧Vgsを調整することができる。例えば、複数のFTEの中に、閾値電圧Vgsを調整したい特定のFETがある場合、エレクトレット88に対する光照射は、そのFETに対応した位置にだけ局所的に行うことで、他のFETの閾値電圧を変化させることなく、そのFETの閾値電圧Vgsだけを調整することができる。
【0084】
なお、電極89が光を透過可能であれば、電極89の形成後に閾値電圧を調整できる。また、以下のようにして、電極89の形成前に閾値電圧を調整すれば、電極89は光透過可能でなくてもよい。
【0085】
まず、図4に示すFETの構造を持つ半導体集積回路において、エレクトレット88及びバックゲート電極89の形成前に、トップゲート電極85等を利用して、FET80を動作させ、FETの閾値電圧を確認する。これにより、複数のFETの中で、閾値電圧が他のFETの閾値電圧からずれているFETがあれば、そのFETを、対象FETとして特定する。そして、図4に示すエレクトレット88を形成する。そして、エレクトレット88への光照射は、複数のFETのうち、対象FETに対応した位置にだけ、局所的に行う。これにより、対象FETの閾値電圧のずれを補償する。その後、バックゲート電極89を形成すればよい。
【0086】
また、必要に応じて、対象FET以外のFETに対応した位置にあるエレクトレット88の表面電位は、光照射によって消失させてもよい。例えば、エレクトレット88全体の領域のうち、対象FET以外のFETに対応した位置に対しては、エレクトレット88の電位が消失するような光の強さ又は時間で行う。これにより、対象FET以外のFETの閾値電圧がエレクトレット88によって変動するのを防止できる。
【0087】
また、次のようにしてもよい。半導体集積回路において、バックゲート電極89の形成前に、図4に示すFET80の半導体基板81に対して、複数のFETに亘るエレクトレット88を形成しておく。エレクトレット88は、例えば、基板81の一面において、全面に形成される。例えば、エレクトレット88は、集積回路が備える全FETの閾値電圧を下げるように形成される。これにより、半導体集積回路の消費電力を低下させることができる。また、エレクトレット88の形成前、又は形成後において、FETを動作させて、閾値電圧の補償が必要な対象FETを特定しておく。そして、エレクトレット88への光照射は、複数のFETのうち、対象FETに対応した位置にだけ、局所的に行う。これにより、対象FETの閾値電圧のずれを補償する。その後、バックゲート電極89を形成すればよい。この場合、対象FET以外のFETに対応した位置のエレクトレット88の表面電位を消失させる必要はない。
【0088】
図5は、エレクトレットの面内電位制御の実験を示している。図5(A)は、実験方法を示す。実験では、ガラス上に形成されたITO膜上に、自己組織化エレクトレット(SAE)であるAlq3を成膜した。ITO膜は、1辺が30mmの正方形とし、Alq3膜は、1辺が20mmの正方形とした。このAlq3膜に対して、マスクレス露光機によって図5に示す露光パターン10で紫外線(照射波長:365nm)を照射した。マスクレス露光機として、ネオアーク株式会社製のマスクレス露光装置「PALET」を使用した。露光線幅は、15μmとした。
【0089】
図5(A)に示す露光パターン10は、Alq3膜の面内範囲に、12箇所の露光エリアを有する。露光エリアは、光が照射されるエリアである。図5において、白色のエリアA11,A12,A13,A21,A22,A23,A31,A32,A33,A41,A42,A43が露光エリアである。各露光エリアは、縦辺である短辺の長さが3mm、横辺である長辺の長さが5mmである矩形形状とした。各露光エリア間には、横方向及び縦方向それぞれに間隔が確保されている。なお、図5に示す露光パターン10において、グレーの非露光エリアは、光が照射されない領域である。このように、実験では、エレクトレットの面内において局所的に光が照射される。
【0090】
実験では、各露光エリアの露光条件(光照射条件)を異ならせた。すなわち、12箇所の露光エリアについて、照度(光強度)を3段階、露光時間(照射時間)を4段階に変化させて、紫外線を照射した。図5に示すように、露光エリアA11,A12,A13については露光時間を0.1[sec]とし、露光エリアA21,A22,A23については露光時間を1.0[sec]とし、露光エリアA31,A32,A33については露光時間を10[sec]とし、露光エリアA41,A42,A43については露光時間を100[sec]とした。また、露光エリアA13,A23,A33,A43の照度(光強度)を100%として、露光エリアA11,A21,A31,A41の照度(光強度)をその10%とし、露光エリアA12,A22,A32,A42の照度(光強度)をその50%とした。
【0091】
露光前後において、Alq3膜上の表面電位を計測し、露光後における各露光エリアの電位を評価した。表面電位の計測には、走査型のケルビンプローブを用いた。露光前において、Alq3膜の表面電位は、その面内においてほぼ均一な分布であり、約1800mVであった。
【0092】
露光後においては、複数の露光エリアには、電位が低下又は消失した露光エリアがあった。図5(B)の各露光エリア内の数字[%]は、各露光エリアの電位保持率を示している。電位保持率は、露光前の電位(約1800mV)に対する、露光後の電位の比率を示している。
【0093】
図5(B)に示すように、露光エリアA11の電位保持率は約100%である。露光エリアA12の電位保持率は約90%である。露光エリアA13の電位保持率は約80%である。露光エリアA21の電位保持率は約85%である。露光エリアA22の電位保持率は約70%である。露光エリアA23の電位保持率は約55%である。露光エリアA31の電位保持率は約75%である。露光エリアA32の電位保持率は約55%である。露光エリアA33の電位保持率は約40%である。露光エリアA41,A42,A43の電位保持率は約0%である。
【0094】
図5(B)に示すように、照度(光強度)及び/又は露光時間の増大に比例して、露光エリアの表面電位が減少していることがわかる。この実験により、エレクトレットの面内電位制御が可能であることが実証された。また、エレクトレット面内において、局所的に光の強さ(照度)又は照射時間(露光時間)を変えることで、局所的に電位を変えることができることがわかる。このように、エレクトレットへの照射パターンを制御することで、エレクトレット面内の電位分布を所望の分布に制御することができる。実験で得られたエレクトレットは、図4(B)に示すように、エレクトレット表面の面内位置に応じて表面電位が異なるように制御された表面電位分布を有する。
【0095】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
【符号の説明】
【0096】
10 :露光パターン
50 :デバイス
51 :基板
52 :半導体集積回路
53 :半導体センサ
54 :MEMS素子
61 :可動電極
61a :スルーホール
62 :固定電極
63 :支持部
71 :エレクトレット
80 :FET
81 :p型半導体
82 :n型半導体
83 :n型半導体
84 :誘電体
85 :ゲート電極
86 :ソース電極
87 :ドレイン電極
88 :エレクトレット
89 :バックゲート電極
100 :真空蒸着装置
100A :容器
101 :成膜材料
103 :ホルダ
105 :シャドウマスク
A11 :露光エリア
A12 :露光エリア
A13 :露光エリア
A21 :露光エリア
A22 :露光エリア
A23 :露光エリア
A31 :露光エリア
A32 :露光エリア
A33 :露光エリア
A41 :露光エリア
A42 :露光エリア
A43 :露光エリア
AA23 :露光エリア
図1
図2
図3
図4
図5