(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024164773
(43)【公開日】2024-11-27
(54)【発明の名称】シール部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 5/00 20060101AFI20241120BHJP
C08J 3/20 20060101ALI20241120BHJP
【FI】
C08J5/00
C08J3/20 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080478
(22)【出願日】2023-05-15
(71)【出願人】
【識別番号】594185581
【氏名又は名称】株式会社森清化工
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(74)【代理人】
【識別番号】100205383
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 諭史
(74)【代理人】
【識別番号】100224661
【弁理士】
【氏名又は名称】牧内 直征
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(72)【発明者】
【氏名】山田 徹
(72)【発明者】
【氏名】毛利 栄希
【テーマコード(参考)】
4F070
4F071
【Fターム(参考)】
4F070AA16
4F070AC04
4F070AC56
4F070AE01
4F070AE08
4F070FA03
4F070FB06
4F070FC09
4F071AA14
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4F071AE02
4F071AE17
4F071AF13Y
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4F071AH12
4F071AH19
4F071BA01
4F071BB03
4F071BC03
4F071BC12
(57)【要約】
【課題】低溶出性に優れた樹脂製のシール部材の製造方法を提供する。
【解決手段】シール部材の製造方法は、樹脂を充填材と混練して混練物を得る混練工程S1と、混練物から酸により溶出性成分を除去する酸洗浄工程S2と、溶出性成分が除去された混練物をシール部材へと成形する成形工程S4と、を有し、樹脂は、比重が1.0未満であり、充填材は、比重が1.0よりも大きく、酸洗浄工程が、混練物を酸に浸漬して洗浄する工程であり、酸洗浄工程S2と成形工程S4との間に、溶出性成分が除去された混練物に架橋剤を加えた後にさらに混練する架橋剤混練工程S3を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製のシール部材の製造方法であって、
樹脂を充填材と混練して混練物を得る混練工程と、
前記混練物から酸により溶出性成分を除去する酸洗浄工程と、
溶出性成分が除去された前記混練物を前記シール部材へと成形する成形工程と、
を有することを特徴とするシール部材の製造方法。
【請求項2】
前記樹脂は、比重が1.0未満であり、
前記充填材は、比重が1.0よりも大きく、
前記酸洗浄工程が、前記混練物を前記酸に浸漬して洗浄する工程であることを特徴とする請求項1記載のシール部材の製造方法。
【請求項3】
前記酸洗浄工程と前記成形工程との間に、溶出性成分が除去された前記混練物に架橋剤を加えて混練する架橋剤混練工程を有することを特徴とする請求項1または請求項2記載のシール部材の製造方法。
【請求項4】
前記酸洗浄工程において、前記混練物が塩酸によって洗浄されることを特徴とする請求項1または請求項2記載のシール部材の製造方法。
【請求項5】
前記樹脂が、炭化水素系エラストマーであることを特徴とする請求項1または請求項2記載のシール部材の製造方法。
【請求項6】
前記炭化水素系エラストマーが、EPDMであることを特徴とする請求項5記載のシール部材の製造方法。
【請求項7】
前記充填材が、カーボンブラックであることを特徴とする請求項1または請求項2記載のシール部材の製造方法。
【請求項8】
前記シール部材が半導体製造装置または半導体製造用薬液の容器に用いられるシール部材であることを特徴とする請求項1または請求項2記載のシール部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シール部材の製造方法に関し、特に、半導体製造装置または半導体製造用薬液の容器に用いられるシール部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造分野では、耐熱性、耐薬品性、非粘着性、低摩擦特性などに優れるゴム弾性体としてパーフルオロゴムのシール部材が広く使用されている。例えば、表面にポリイミド系重合体からなるスパッタ膜が被覆されたパーフルオロゴム成形体が知られている(特許文献1)。さらに、ポリイミド、ポリアミドイミドなどのイミド系フィラーが配合された架橋性パーフルオロゴム組成物が知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-254184号公報
【特許文献2】特許第5487584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
シール部材としては、パーフルオロゴムのシール部材以外にも、例えば、炭化水素系エラストマーなどの樹脂製のシール部材が知られている。ここで、半導体製造分野において、薬液が接触しうる部位に使用されるシール部材は、特に耐薬品性に優れることが求められる。
【0005】
炭化水素系エラストマーなどの樹脂製のシール部材は、産業用設備、薬液用容器、電子機器などに広く用いられているが、薬液と長時間接触した場合における成分の溶出しやすさ(溶出性)がパーフルオロゴム製のシール部材と比べて高い傾向がある。そのため、パーフルオロゴム以外の樹脂製のシール部材は、不純成分(特に、金属成分)の混入が製品の性能低下に繋がりうる半導体製造分野においては、薬液が接触しない部位への適用に限定されていた。
【0006】
本発明は、このような問題に対処するためになされたもので、低溶出性に優れた樹脂製のシール部材の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の製造方法は、樹脂製のシール部材の製造方法であって、樹脂を充填材と混練して混練物を得る混練工程と、上記混練物から酸により溶出性成分(樹脂中に含まれる溶出しやすい成分)を除去する酸洗浄工程と、溶出性成分が除去された上記混練物を上記シール部材へと成形する成形工程と、を有することを特徴とする。
【0008】
上記樹脂は、比重が1.0未満であり、上記充填材は、比重が1.0よりも大きく、上記酸洗浄工程が、上記混練物を上記酸に浸漬して洗浄する工程であることを特徴とする。
【0009】
上記酸洗浄工程と上記成形工程との間に、溶出性成分が除去された上記混練物に架橋剤を加えて混練する架橋剤混練工程を有することを特徴とする。
【0010】
上記酸洗浄工程において、上記混練物が塩酸によって洗浄されることを特徴とする。
【0011】
上記樹脂が、炭化水素系エラストマーであることを特徴とする。
【0012】
上記炭化水素系エラストマーが、EPM、EPDM、およびEBDMから選ばれるいずれかであることを特徴とする。
【0013】
上記充填材が、カーボンブラックであることを特徴とする。
【0014】
上記シール部材が半導体製造装置または半導体製造用薬液の容器に用いられるシール部材であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明のシール部材の製造方法は、樹脂を充填材と混練して混練物を得る混練工程と、混練物から酸により溶出性成分を除去する酸洗浄工程と、溶出性成分が除去された混練物をシール部材へと成形する成形工程と、を有するので、樹脂成形体中の溶出性成分の含有量を低減でき、低溶出性に優れたシール部材を製造できる。
【0016】
樹脂は、比重が1.0未満であり、充填材は、比重が1.0よりも大きく、酸洗浄工程が、混練物を酸に浸漬して洗浄する工程であるので、酸洗浄工程において混練物が酸の中に沈降しやすく(浮き上がりにくく)、溶出性成分が酸の中へより溶出しやすい。これにより、低溶出性により優れたシール部材を製造できる。
【0017】
酸洗浄工程と成形工程との間に、溶出性成分が除去された混練物に架橋剤を加えて混練する架橋剤混練工程を有するので、樹脂の架橋前に酸洗浄が行われることとなり、酸洗浄時に酸が混練物の内部に染み込みやすく溶出性成分を効果的に除去できる。
【0018】
酸洗浄工程において、混練物が塩酸によって洗浄されるので、洗浄効率に優れる。具体的には、塩酸は、比較的強い酸であり、酸化性を有しているため、溶出性成分の水溶性を向上させることができる。塩酸は、硝酸や有機酸に比べて安価なため、浸漬させて洗浄する場合などの比較的使用量が多くなりやすい洗浄方法の場合に好適である。また、樹脂が、炭化水素系エラストマーであるので、耐熱性や電気絶縁性に優れ、幅広い用途に適用できる。さらに、炭化水素系エラストマーが、EPDMであるので、耐薬品性に優れ、種々の薬液に接触する用途にも適用できる。また、充填材が、カーボンブラックであるので、酸洗浄工程において、それ自身が溶出したり、劣化したりしにくく、シール部材の強度や耐久性を向上できる。
【0019】
本発明の製造方法で製造されたシール部材は、高価なパーフルオロゴム製のシール部材に代替して、半導体製造装置または半導体製造用薬液の容器などに用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明のシール部材の製造工程の一例を示す工程図である。
【
図2】酸洗浄前後の試験片のEDXスペクトルである。
【
図3】酸洗浄前後の試験片のEDXスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のシール部材の製造方法について
図1を用いて説明する。
図1は、樹脂製のシール部材の製造工程の一例を示したものである。
図1に示すように、本発明のシール部材の製造方法は、樹脂を充填材と混練して混練物(以下、コンパウンドともいう)を得る混練工程S1と、混練物から酸により溶出性成分を除去(酸洗浄)する酸洗浄工程S2と、酸洗浄された混練物をシール部材へと成形する成形工程S4とを有する。ここで、本明細書において、酸とは、酸性の液体を意味する。酸性の液体としては、例えば、酸性の液状物質単体、酸性物質を液体に溶解させた酸性溶液、酸性物質を水に溶解させた酸性水溶液が挙げられる。以下に各工程について詳細に説明する。
【0022】
<混練工程>
混練工程S1では、まず、混練する材料(以下、混練材料ともいう)として、樹脂と、充填材と、必要に応じて添加剤とを準備する。樹脂の配合量は自由に設定でき、例えば、混練材料の総量に対して50~90質量%が好ましく、60~80質量%がより好ましい。樹脂の配合量が50質量%未満の場合、シール部材のゴム弾性が不足し(硬くなりすぎ)、シール性が低下しやすくなる。また、樹脂の配合量が90質量%を超える場合、シール部材の耐久性などが低下するおそれがある。
【0023】
ここで、樹脂メーカーでの樹脂の合成の際に金属触媒などの重合触媒が用いられる場合がある。この場合、樹脂メーカーは、コストなどの観点から、合成後の樹脂から触媒成分を除去せず、樹脂中に残存したまま製品として販売することがある。このような場合、樹脂製品の購入者が、購入後に触媒成分などの不純成分を除去することは容易ではない。そのため、樹脂購入者は、シール部材の成形に、溶出性成分の含有量が少なく低溶出性に優れるパーフルオロゴムを用いることが多い。パーフルオロゴムが低溶出性に優れるのは、販売価格の高い特殊樹脂であるので、重合してからの塩析後、乾燥前に洗浄工程を導入しやすく、溶出性成分の含有量が少ないためである。一方、一般的な樹脂では製品価格上昇につながる洗浄工程は省略されやすく、溶出性成分が樹脂中に残存したまま販売されやすい。
【0024】
樹脂製品の購入者が簡易に溶出性の不純成分を除去できる方法について研究を進めた結果、不純成分を比較的多く含む樹脂を混練材料に用いても、混練工程、酸洗浄工程、成形工程の順でシール部材を製造することで、低溶出性のシール部材が得られることを見出した。本発明はこのような知見に基づくものである。
【0025】
樹脂としては、例えば、オレフィン系、スチレン系などの炭化水素系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリ塩化ビニル系エラストマー、シリコーン系エラストマー、ニトリルゴム、アクリルゴムなどが挙げられる。
【0026】
半導体製造分野用のシール部材に用いられる樹脂としては、耐薬品性の観点から、炭化水素系エラストマーが好ましい。炭化水素系エラストマーとしては、エチレンプロピレンゴム(EPM)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、エチレンブテンジエンゴム(EBDM)などが挙げられる。EPMは、飽和ゴムであるため硫黄による架橋ができず、過酸化物架橋のみによって架橋されるため、用途が限定的となりやすい。一方、EPDMやEBDMは、不飽和ゴムであるため硫黄や過酸化物によって容易に架橋されやすく、種々の用途へ適用しやすい。シール部材が架橋樹脂である場合、薬液に接触しても樹脂が膨潤しにくいため、低溶出性に優れると考えられる。
【0027】
EPDMとしては特に限定されず、エチレンとプロピレンとジエン化合物との共重合体を用いることができる。EPDMに含まれるジエン化合物としては、エチリデンノルボルネン(ENB)、1,4-ヘキサジエン、ジシクロペンタジエンなどが挙げられる。本発明の効果を阻害しない範囲であれば、他の共重合可能な単量体由来の構成単位を含んでいてもよい。
【0028】
EPDMとしては、例えば、株式会社ENEOSマテリアル社製のEP103AF、EP123、また、三井化学株式会社製のEPT4021、EPT4070Hなどが挙げられる。EBDMとしては、例えば、三井化学株式会社製のK-9330、K-9720などが挙げられる。上述した樹脂は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0029】
充填材としては、カーボンブラック、酸化ケイ素、酸化チタン、アルミナなどの無機充填材、ポリテトラフルオロエチレン粉末などが挙げられる。充填材の配合量は、例えば、樹脂の総量を100質量部とした場合に、80質量部以下であり、1~60質量部が好ましく、10~60質量部がより好ましく、15~40質量部がさらに好ましい。充填材の配合量が80質量部をこえると樹脂への混練が困難になりやすい。充填材は、化学的安定性の観点から、カーボンブラックであることが好ましい
【0030】
カーボンブラックとしては、例えば、旭カーボン株式会社製の旭#15、旭#35、旭#50、東海カーボン株式会社製のシースト3、シーストSなどが挙げられる。上述した充填材は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0031】
樹脂は比重が1.0未満であり、充填材は比重が1.0よりも大きいことが好ましい。この場合、後述する酸洗浄工程において、混練物が酸(特に、酸性水溶液)に浸漬して洗浄される場合に、酸の中に沈降しやすく洗浄効果に優れる。特に、樹脂は比重が0.80~0.95であり、充填材は比重が1.5~4.0であることがより好ましく、樹脂は比重が0.80~0.90であり、充填材は比重が1.5~2.5であることがさらに好ましい。なお、混練材料としては、上述の樹脂や充填材以外に、可塑剤、補強剤、老化防止剤、着色剤、架橋剤などの添加材を用いることができる。なお、本明細書において、比重は、JIS K6268の方法により測定される密度を意味し、単位はg/cm3である。
【0032】
混練方法としては、たとえばロール練り、ニーダー練りなどが採用できる。上述した混練材料を混練機で均一になるまで混練して混練物を得ることが好ましい。
【0033】
<酸洗浄工程>
酸洗浄工程S2では、洗浄対象物である、混練工程で得られた混練物と、混練物から金属イオンなどの溶出性成分を除去するための酸とを準備する。混練物からの溶出性成分の除去は、酸での拭き取り(酸を染み込ませた布などでの拭き取り)、酸の噴霧、酸への浸漬などによって行うことができる。溶出性成分の除去は、工程が簡易であることから、酸の噴霧や酸への浸漬によって行われることが好ましい。この場合、混練物は、数mm程度の大きさに細分化された後に洗浄されることが好ましい。混練物は、溶出性成分の除去速度(洗浄効率)の観点から、酸との接触面積を大きくすることが好ましい。混練物の大きさは、例えば、1~8mm程度が好ましく、1~5mm程度がより好ましい。また、混練物の形状は、例えば、立方体状、直方体状、鱗片状、球状、楕円球状、略金平糖状などから自由に選択できる。
【0034】
混練物を酸への浸漬により洗浄する場合、酸の量は、例えば、混練物の総量に対して1~10倍とすることができる。混練物の洗浄は、酸の中に浸漬した状態で静置することによって行われてもよいし、所定の撹拌速度(例えば、100rpm)で撹拌しながら浸漬することによって行われてもよい。浸漬時に撹拌することは、溶出性成分が酸中に溶出しやすくなるため、洗浄効率の観点から好ましい。洗浄時の温度は、例えば、5~100℃であり、洗浄効率および作業時の安全性の観点からは、15~60℃であることが好ましい。
【0035】
混練物の酸への浸漬時間は、例えば、1時間~7日間の範囲で自由に設定でき、10時間~100時間が好ましく、20時間~60時間がより好ましい。浸漬時間が10時間以上の場合、溶出性成分を十分に除去できる。また、浸漬時間が100時間以下の場合、充填材への酸の成分の吸着を抑制できる。混練物の酸への浸漬は、1回のみでもよいし、複数回繰り返してもよい。混練物の浸漬を繰り返す場合、例えば、酸への所定時間の浸漬後に新たな酸へ入れ替えて、再度浸漬することを繰り返すことが好ましい。
【0036】
酸洗浄された混練物は、純水やイオン交換水などの水を用いて、拭き取り、噴霧、浸漬などによって水洗浄が行われることが好ましい。水洗浄された混練物は、室温環境下に静置して室温乾燥(風乾)してもよいし、加温条件下で加熱乾燥(例えば、熱風乾燥)してもよい。加熱乾燥する場合、例えば、50~200℃の温度範囲で、10分~3時間程度の時間をかけて乾燥させることができる。なお、水洗浄された混練物は、再度酸洗浄に供されてもよい。
【0037】
酸に用いる酸性物質としては、例えば、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸、炭酸、フッ化水素酸などの無機酸や、酢酸、シュウ酸、クエン酸、アスコルビン酸などの有機酸を挙げることができる。価格と酸性度の観点からは、塩酸や硝酸の水溶液を用いることが好ましい。
【0038】
洗浄に塩酸の水溶液を用いる場合、濃度は、例えば、5~40質量%とすることができる。濃度は、10~36質量%が好ましく、20~36質量%がより好ましく、30~35質量%がさらに好ましい。塩酸濃度が10質量%以上の場合、溶出性成分を比較的短時間で除去できる。また、塩酸濃度が36質量%以下の場合、樹脂に影響を与えることなく洗浄できる。
【0039】
洗浄に硝酸の水溶液を用いる場合、濃度は、例えば、5~70質量%とすることができる。濃度は、5~65質量%が好ましく、10~50質量%がより好ましく、10~40質量%がさらに好ましい。硝酸濃度が5質量%以上の場合、溶出性成分を比較的短時間で除去できる。また、硝酸濃度が65質量%以下の場合、樹脂に影響を与えることなく洗浄できる。
【0040】
<架橋剤混練工程>
図1に示す製造工程において、酸洗浄工程S2と成形工程S4の間に、酸洗浄された混練物に架橋剤を加えて混練する架橋剤混練工程S3を有している。架橋剤としては、例えば、熱や酸化還元系の存在で容易にパーオキシラジカルを生成する有機過酸化物や、硫黄、ジチオジモルフォリンなどの加硫剤、ヘキサメチレンジアミンカーバメート(HMDC)などが挙げられる。有機過酸化物としては、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジヒドロパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサンなどが挙げられ、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサンが好ましい。2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサンとしては、例えば、日油株式会社製のパーヘキサ25B、パーヘキサ25B-40などが挙げられる。
【0041】
架橋剤の配合量は、例えば、樹脂の総量を100質量部とした場合に、架橋剤が0.05~10質量部であり、1~5質量部が好ましく、2~4質量部がより好ましい。上述した架橋剤は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0042】
架橋剤混練工程での混練方法としては、たとえばロール練り、ニーダー練りなどが採用できる。なお、本発明のシール部材の製造方法は、架橋剤混練工程S3を有していなくてもよい。
【0043】
<成形工程>
成形工程S4では、酸洗浄により溶出性成分が低減された混練物をシール部材へと成形する。混練物は、例えば、圧縮成形法、射出成形法、押出成形法、トランスファー成形法などの成形法によりシール部材へ成形できる。架橋剤混練工程S3を経て成形工程S4が行われる場合、架橋剤を含む混練物の成形時に架橋される。成形時の架橋条件としては、一次架橋は架橋温度150~190℃、架橋時間5~30分、二次架橋は架橋温度130~190℃、架橋時間2~10時間が好適である。特に省エネルギーの観点では、架橋温度140~180℃、架橋時間2~5時間の範囲内であることが好ましい。
【0044】
成形されたシール部材の溶出性は、蛍光X線分析装置(EDX)による元素分析測定によって確認できる。上記工程により製造された本発明のシール部材は、酸洗浄を行わなかった場合に比べ、カルシウム、鉄、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、カリウム、硫黄、塩素などの元素を低減できる。
【0045】
本発明のシール部材は、溶出性成分が低減されているため、半導体製造装置における薬液が接触しうる部位や、レジスト材料、下層膜材料、現像液、エッチング液、洗浄液、CMPスラリーなどの半導体製造に用いられる高純度薬液用の容器に好適である。特に、従来では代替物が無かったパーフルオロゴム製のシール部材に代替可能であるため、装置や容器などの低コスト化に繋がる。
【実施例0046】
参考例
炭化水素系エラストマー5種(株式会社ENEOSマテリアル社製のEP103AF、EP123、三井化学株式会社製のEPT4021、EPT4070H、K-9330)それぞれの樹脂について酸洗浄を行った後、エネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDX-720、株式会社島津製作所製)を用いて、酸洗浄前後での含有元素測定を行った。酸洗浄は、以下の手順で行った。10gの樹脂をハサミを用いて約5mm角に裁断しガラス容器へ入れ、塩酸(10質量%)500mlを投入した。樹脂を塩酸中に浸漬した状態で2日間静置した。その後、試験片を取り出し、純水中に浸漬させて洗浄することを、純水を交換しながら3回繰り返した。風乾後の試験片をEDX測定に供した。
図2および
図3にEDXスペクトルを示し、表1に検出された各元素のNet強度(cps/μA)の値を示す。なお、表1において、N.D.は、検出限界値以下を意味する。
【0047】
【0048】
これらの結果より、樹脂単独で酸洗浄した場合、樹脂に含まれる金属成分を大幅に低減できることがわかった。特に、Ca(カルシウム)の変化量が大きいとともに、Mg(マグネシウム)、Al(アルミニウム)、Si(ケイ素)、S(硫黄)、K(カリウム)は洗浄後に検出限界値以下まで低減されることがわかった。また、今回分析したサンプル内での傾向として、株式会社ENEOSマテリアル社製のEPDMは、比較的金属元素の含有量が少なかった。
【0049】
実施例1、比較例1
以下に示す混練材料を用いて試験片となる樹脂成形体を作製し、含有元素、基本物性、熱老化試験(耐老化性)などの各種評価を行った。
(A)樹脂(EPDM)
(A-1)EP103AF(株式会社ENEOSマテリアル社製、ムーニー粘度ML1+4(125℃)87.0)
(A-2)EP123(株式会社ENEOSマテリアル社製、ムーニー粘度ML1+4(125℃)19.5)
(B)充填材(カーボンブラック)
(B-1)旭#35(旭カーボン株式会社製)
(C)架橋剤
(C-1)パーヘキサ25B(日油株式会社製)
【0050】
試験片の作製は以下の手順で行った。まず樹脂と充填材とを所定の比率で配合した後、ゴムロールミルを用いて混練してコンパウンドを得た。ハサミを用いて約5mm角に裁断したコンパウンド20gをガラス容器へ入れ、塩酸(35質量%)100mlを投入した。コンパウンドを塩酸中に浸漬した状態で1日静置した後、同濃度の新たな塩酸へと交換し、さらに1日浸漬状態で静置した。すなわち、コンパウンドに対して2回の酸洗浄を行った。その後、試験片を取り出し、純水中に浸漬させて洗浄することを、純水を交換しながら3回繰り返した。純水洗浄されたコンパウンドを150℃の槽内に1時間静置して完全に乾燥させ、架橋剤を追添して室温下で混練した後に、成形機を用いて加熱して架橋させながら樹脂成形体を得た。成形時の架橋は、一次架橋を170℃約15分、二次架橋を150℃約4時間の条件で行った。樹脂成形体として、厚さ2mmシート状サンプルと、圧縮永久歪測定用の大型試験片(JIS K6262)の2種を作製した。また、厚さ2mmのシート状サンプルからダンベル状3号形(JIS K6251)を型抜きにより準備した。
【0051】
なお、比較例1は、酸洗浄工程を行わない以外、実施例1と同様の方法で試験片を作製した。キュラストメーター(登録商標)での測定により、実施例1、比較例1のいずれのサンプルも架橋することが確認された。各サンプルの組成および評価結果を表1に示す。表1において各原料A~Cの数値は、樹脂の総量を100質量部とした場合の部数(質量部)を意味する。
【0052】
得られた試験片を用いて、含有元素、基本物性、耐老化性、比重を測定した。含有元素測定は、参考例と同様にエネルギー分散型蛍光X線分析装置により行った。基本物性(初期特性)および100℃の温度にて72時間熱劣化させた後の特性(耐老化性)は以下の方法で測定した。硬度はデュロメーターA(JIS K6253-3)にて25℃で測定した。引張強さ、伸び、伸び50%時の引張り応力(50%モジュラス)、伸び100%時の引張り応力(100%モジュラス)はJIS K6251の方法により測定した。熱劣化後のゴム硬度変化は(熱劣化後の値-初期値)であり、引張強さ変化率および伸び変化率は[((熱劣化後の値-初期値)/初期値)×100]である(JIS K6257)。比重はJIS K6268の方法により測定した。圧縮永久歪はJIS K6262の方法により、次式[((初期厚さ-試験後の厚さ)/(初期厚さ-スペーサー厚さ))×100]である。測定結果を表2に示す。
【0053】
【0054】
含有元素量に関して、酸洗浄された実施例1は、酸洗浄されていない比較例1に比べて、硫黄の含有率が約3割低く、カルシウムの含有率が約2割低く、鉄の含有率が約5割低いことがわかった。また、基本物性、耐老化性、比重、圧縮永久歪に関して、実施例1は比較例1と同等の結果を示した。上記結果より、混練材料をコンパウンド状態で酸洗浄した後に架橋、成形することにより、基本物性などの諸特性に影響を与えることなく、低溶出性のシール部材が得られることを確認した。
本発明のシール部材の製造方法によれば、低溶出性に優れた樹脂製のシール部材を製造できるので、該シール部材を半導体製造分野、特に半導体製造薬液に接触する部位の部材として広く用いることができる。