(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024016479
(43)【公開日】2024-02-07
(54)【発明の名称】トンネル施工用吹付コンクリート捕捉部材
(51)【国際特許分類】
E21D 11/10 20060101AFI20240131BHJP
【FI】
E21D11/10 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022118634
(22)【出願日】2022-07-26
(71)【出願人】
【識別番号】303056368
【氏名又は名称】東急建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】591029921
【氏名又は名称】フジモリ産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003340
【氏名又は名称】弁理士法人湧泉特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】早川 健司
(72)【発明者】
【氏名】藤井 顕吾
(72)【発明者】
【氏名】吉川 和夫
(72)【発明者】
【氏名】長井 健作
(72)【発明者】
【氏名】千葉 洋平
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 賢吾
(72)【発明者】
【氏名】細田 優介
(72)【発明者】
【氏名】扇畑 邦史
【テーマコード(参考)】
2D155
【Fターム(参考)】
2D155BA06
2D155BB02
2D155DB09
(57)【要約】
【課題】トンネル構築の際に地山掘削面とアーチ支保工とを早期に一体化させる。
【解決手段】トンネル1の地山掘削面2aとアーチ支保工3の外周面3aとの間の空隙5に吹付コンクリート捕捉部材10を設ける。吹付コンクリート捕捉部材10の捕捉体11は、アーチ支保工3の外周面3aに沿う周方向及び外周面3aと直交する径方向に分布する線状材11aからなり、吹付中のコンクリート2Aの通り抜けを妨げる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネルの地山掘削面と前記地山掘削面の周方向に沿うアーチ支保工の外周面との間の空隙に設けられる吹付コンクリート捕捉部材であって、
前記アーチ支保工の外周面に沿う周方向及び前記外周面と直交する径方向に分布する線状材からなり、吹付中のコンクリートの通り抜けを妨げる捕捉体を備えたことを特徴とするトンネル施工用吹付コンクリート捕捉部材。
【請求項2】
前記捕捉体が、ラス網によって構成されていることを特徴とする請求項1に記載の吹付コンクリート捕捉部材。
【請求項3】
前記捕捉体が、前記周方向に変形可能であることを特徴とする請求項1に記載の吹付コンクリート捕捉部材。
【請求項4】
前記捕捉体が、前記径方向に変形可能であることを特徴とする請求項1に記載の吹付コンクリート捕捉部材。
【請求項5】
前記捕捉体が、前記アーチ支保工の曲率に合わせて変形可能であることを特徴とする請求項1に記載の吹付コンクリート捕捉部材。
【請求項6】
前記捕捉体が、前記周方向に沿って螺旋状に延びるコイル状であることを特徴とする請求項1に記載の吹付コンクリート捕捉部材。
【請求項7】
前記捕捉体が、三角波形状の線状材を含むトラス状であることを特徴とする請求項1に記載の吹付コンクリート捕捉部材。
【請求項8】
前記捕捉体の少なくとも一箇所が、前記アーチ支保工に対して拘束されていることを特徴とする請求項1~7の何れか1項に記載の吹付コンクリート捕捉部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NATM工法によるトンネル構築に用いられる吹付コンクリート捕捉部材に関し、特に、地山掘削面とアーチ支保工との間に設けられる吹付コンクリート捕捉部材に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のトンネル構築においては、地山を所定スパン掘進するたびにアーチ支保工を建て込むとともに、地山掘削面に吹付コンクリートを吹き付け、更にその内周側に防水シートを介して二次覆工を構築している(特許文献1等参照)。
【0003】
例えば特許文献1には、この種トンネル構築の詳細工法として、地山掘削面とアーチ支保工との間に間詰め材を設ける所謂プレロードシェル工法が開示されている。該工法においては、袋体をアーチ支保工の外周面にセットし、該袋体にモルタルや発泡樹脂等の充填材を充填して膨張させ、間詰め材としている。間詰め材を介してアーチ支保工と地山を一体化させ、地山の沈下を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
通常、地山は、アーチ支保工の建て込み易さ等を考慮して、アーチ支保工より少し大径に掘削される。このため、地山掘削面とアーチ支保工との間に余掘り分の空間(以下「空隙」という。)が出来る。すると、その後の吹付工程で、アーチ支保工の坑口側から斜めに吹き付けたコンクリートが、前記空隙を通り抜けてアーチ支保工よりも切羽側へ流出しやすく、前記空隙を吹付コンクリートで充填するのに時間がかかる。仮に充填が不十分で空洞が残ると、地山の沈下を十分に防ぐことができない。
前掲特許文献1のようなプレロードシェル工法を採用すれば、地山掘削面とアーチ支保工との間の空隙を間詰め材で埋めることで空洞が形成されるのを防止できる。しかし、プレロードシェル工法では、アーチ支保工の建て込み後に充填材の充填工程を要し、工数が増えて工期が長くなるだけでなく、アーチ支保工の建て込み後、充填材の充填までの間に地山の沈下が起きることもある。
本発明は、かかる事情に鑑み、トンネル構築の際に地山掘削面とアーチ支保工とを早期に一体化させ、工期の長期化を回避することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明は、トンネルの地山掘削面と前記地山掘削面の周方向に沿うアーチ支保工の外周面との間の空隙に設けられる吹付コンクリート捕捉部材であって、
前記アーチ支保工の外周面に沿う周方向及び前記外周面と直交する径方向に分布する線状材からなり、吹付中のコンクリートの通り抜けを妨げる捕捉体を備えたことを特徴とする。
当該吹付コンクリート捕捉部材を地山掘削面とアーチ支保工との間に設置しておくことによって、吹付工程においてアーチ支保工の坑口側から斜めに吹き付けたコンクリートが、吹付コンクリート捕捉部材に捕捉され、地山掘削面とアーチ支保工との間の空隙に充填される。これによって、アーチ支保工と地山を早期に一体化させることができる。かつ、プレロードシェル工法における充填材の充填工程のような工期長期化を招く付加工程を要しない。
【0007】
前記捕捉体が、ラス網によって構成されていることが好ましい。これによって、吹付中のコンクリートを確実に捕捉できる。したがって、地山掘削面とアーチ支保工との間の空隙に吹付コンクリートを短時間で充填でき、アーチ支保工と地山を早期に一体化させることができる。また、捕捉体の設置施工を容易化できる。施工コストを低減できる。
【0008】
前記捕捉体が、前記周方向に変形可能であってもよい。
前記捕捉体が、前記径方向に変形可能であってもよい。
これによって、地山掘削面とアーチ支保工との間の空隙の大きさに合わせて、捕捉体を変形できる。
前記捕捉体が、前記アーチ支保工の曲率に合わせて変形可能であってもよい。
これによって、捕捉体を種々の曲率のアーチ支保工に適用できる。
【0009】
前記捕捉体が、前記周方向に沿って螺旋状に延びるコイル状であってもよい。
これによって、捕捉体が、アーチ支保工の周方向に変形可能、かつアーチ支保工の径方向に変形可能、かつアーチ支保工の曲率に合わせて変形可能となる。コイル状の捕捉体における、アーチ支保工の周方向に沿うコイル軸方向と直交する断面形状は、円形でもよく、三角形、四角形その他の多角形状でもよい。
【0010】
前記捕捉体が、三角波形状の線状材を含むトラス状であってもよい。これによって、捕捉体が多少の強度を担うことができる。
【0011】
前記捕捉体の少なくとも一箇所が、前記アーチ支保工に対して拘束されていることが好ましい。これによって、アーチ支保工を建て込むのと一緒に、捕捉体を地山掘削面とアーチ支保工との間の空隙に設置することができる。
前記捕捉体の大部分(半分以上)は、地山掘削面とアーチ支保工の外周面との間の空隙に設けられ、空隙から張り出していないことが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、吹付コンクリートが、吹付コンクリート捕捉部材に捕捉されることによって地山掘削面とアーチ支保工との間の空隙に早期に充填される。したがって、アーチ支保工と地山を早期に一体化させることができる。別途、充填材の充填工程等が付加されることがなく、工期の長期化を回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の第1実施形態に係る吹付コンクリート捕捉部材を、地山掘削面とアーチ支保工との間の空隙に設置した状態で示す、構築中のトンネルの正面断面図である。
【
図3】
図3は、前記吹付コンクリート捕捉部材におけるラス網からなる捕捉体の一部分の正面図である。
【
図4】
図4は、前記第1実施形態における、吹付コンクリートの吹付工程を示すトンネルの側面断面図である。
【
図5】
図5は、本発明の第2実施形態に係る吹付コンクリート捕捉部材を、地山掘削面とアーチ支保工との間の空隙に設置した状態で示す、構築中のトンネルの正面断面図である。
【
図7】
図7は、前記第2実施形態における、設置状態の吹付コンクリート捕捉部材の一部を拡大して示す正面図である。
【
図8】
図8は、前記第2実施形態における、前記空隙が狭い場合の吹付コンクリート捕捉部材の設置状態を例示した正面図である。
【
図9】
図9は、前記第2実施形態における、地山掘削面の凸凹が激しい場合の吹付コンクリート捕捉部材の設置状態を例示した正面図である。
【
図10】
図10は、前記第2実施形態における、吹付コンクリートの吹付工程を示すトンネルの側面断面図である。
【
図11】
図11は、本発明の第3実施形態に係る吹付コンクリート捕捉部材を、地山掘削面とアーチ支保工との間の空隙に設置した状態で示す、構築中のトンネルの側面断面図である。
【
図12】
図12は、本発明の第4実施形態に係る吹付コンクリート捕捉部材を、地山掘削面とアーチ支保工との間の空隙に設置した状態で示す、構築中のトンネルの側面断面図である。
【
図13】
図13は、本発明の第5実施形態に係る吹付コンクリート捕捉部材を、地山掘削面とアーチ支保工との間の空隙に設置した状態で示す、構築中のトンネルの正面断面図である。
【
図14】
図14は、前記第5実施形態に係る吹付コンクリート捕捉部材の斜視図である。
【
図15】
図15は、前記第5実施形態における吹付コンクリートの吹付工程を示すトンネルの側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面にしたがって説明する。
<第1実施形態(
図1~
図4)>
図1及び
図2は、NATM工法によって施工中のトンネル1を示したものである。地山2が掘削されてトンネル1が構築されている。トンネル軸方向(
図2において左右方向)の一定スパン(例えば1m)置きにアーチ支保工3が設けられている。アーチ支保工3は、H型断面の鋼材からなり、トンネル1の上半部の地山掘削面2aの周方向に沿うアーチ状に形成されている。
地山掘削面2aには、吹付コンクリート4が吹付けられている。図示は省略するが、アーチ支保工3及び吹付コンクリート4の内周側には、二次覆工が構築される。
【0015】
地山2は、アーチ支保工3の建て込み易さ等を考慮して、アーチ支保工3より少し大径に掘削される。このため、地山掘削面2aとアーチ支保工3との間に余掘り分の空隙5が形成されている。空隙5には、吹付コンクリート捕捉部材10が設けられている。
なお、図において、空隙5及び吹付コンクリート捕捉部材10の大きさは、アーチ支保工3に対して誇張されている。
【0016】
吹付コンクリート捕捉部材10は、捕捉体11と、ベース部15(取付部)とを備えている。捕捉体11は、アーチ支保工3の外周面3aに沿う周方向及び外周面3aと直交する径方向に分布された線状材によって構成されている。ベース部15を介して、捕捉体11がアーチ支保工3に取り付けられている。
【0017】
具体的には、
図1~
図3に示すように、吹付コンクリート捕捉部材10は、ラス網30によって構成されている。ラス網30は、鋼材等の金属製の線状材31が菱形格子状になるよう組まれた金網である。線状材31の格子によって網目32(開口部)が形成されている。
図1に示すように、ラス網30からなる吹付コンクリート捕捉部材10が、アーチ支保工3の周方向に沿うように曲げられて、地山掘削面2aとアーチ支保工3との間の空隙5に設置されている。
【0018】
図2に示すように、ラス網30が側面視で「く」字状の断面になるよう屈曲されることによって、捕捉体11と、ベース部15が形成されている。ベース部15は、アーチ支保工3の外周面3aに沿わされ、溶接、クランプ、ボルト等の固定手段(図示せず)によってアーチ支保工3に固定されている。ベース部15における切羽2e側の端部15eは、アーチ支保工3の外周面3aの切羽2e側の端部3eに位置合わせされている。ベース部15の切羽側端部15eから捕捉体11が立ち上げられている。
図1に示すように、捕捉体11は、アーチ支保工3ひいては空隙5の周方向及び径方向に分布されることによって、空隙5のほぼ全域に張り渡されている。
【0019】
図2に示すように、ベース部15と捕捉体11とのなす角度θ
30は、好ましくはθ
30=45°~135°である。より好ましくは、ベース部15に対して捕捉体11を起こしたり倒したりでき、角度θ
30を調節可能である。
図2においては、捕捉体11は、外周側(
図2において上)へ向かって切羽2e側(
図2において右側)へ少し傾けられている。捕捉体11の外周端部11eは、地山掘削面2aから少し離れており、地山掘削面2aには達していない。アーチ支保工3の外周面3aから捕捉体11の外周端部11eまでの捕捉体11の高さH
11は、好ましくはH11=50mm~100mmである。
【0020】
図3に示すように、ラス網30の線状材31の幅W
31(
図3)は、好ましくはW
31=0.8mm~5mmである。ラス網30の長手方向(アーチ支保工3の周方向、
図3において左右方向)に沿う、菱形状の網目32の対角線長さL
32は、好ましくはL
32=15mm~65mm程度である。
【0021】
トンネル1は次のように施工される。
トンネル構築においては、地山2を所定距離(例えば1メートル)だけ掘進するたびに、切羽2eの近くにアーチ支保工3を建て込む。
予め、アーチ支保工3には、吹付コンクリート捕捉部材10のベース部15を溶接等することで、吹付コンクリート捕捉部材10をアーチ支保工3に拘束させておく。
したがって、アーチ支保工3を建て込むと、それと一緒に、吹付コンクリート捕捉部材10が、地山掘削面2aとアーチ支保工3との間の空隙5に設置される。
吹付コンクリート捕捉部材10は、軽量であり、持ち運び、取り付けが容易である。特に、捕捉体11としてラス網39を用いることによって設置施工を容易化できる。また、施工コストを低減できる。
【0022】
続いて、
図4に示すように、前回建て込み済のアーチ支保工3Bよりも切羽2e側に露出した地山掘削面2aに吹付コンクリート4を吹き付ける。
新規に建て込んだアーチ支保工3の外周側(
図4において上側)の地山掘削面2aには、アーチ支保工3よりも坑口側(
図4において左側)から斜めに吹き付けを行う。
吹付ノズル6から斜めに吹き出されたコンクリート4Aの大部分は、吹付コンクリート捕捉部材10の捕捉体11に捕捉される。言い換えると、捕捉体11によって、吹付中のコンクリート4Aの通り抜けが妨げられる。これによって、吹付中コンクリート4Aのうち、網目32を通って、アーチ支保工3よりも切羽2e側へ抜けるコンクリート4eの割合を小さくできる。
【0023】
捕捉された吹付コンクリート4fは、線状材31に付着されて網目32を塞ぐ。これによって、捕捉体11の坑口側(
図4において左側)に吹付コンクリートの壁4wができる。その壁に後から吹き付けられたコンクリート4Aが付着されることで、壁4wの厚みが増す。これによって、アーチ支保工3と地山掘削面2aとの間の空隙5に吹付コンクリート4が充填される。特に、捕捉体11としてラス網30を用いることによって、吹付中のコンクリート4Aを確実に捕捉でき、空隙5に吹付コンクリート4を短時間で充填できる。この結果、アーチ支保工3と地山2を早期に一体化させることができる。
プレロードシェル工法における充填材の充填工程のような、工期長期化を招く付加工程を要さず、工期の長期化を回避できる。
その後、アーチ支保工3及び吹付コンクリート4の内周側に防水シートを介して二次覆工(図示省略)を構築する。
【0024】
次に、本発明の他の実施形態を説明する。以下の実施形態において既述の形態と重複する構成に関しては、図面に同一符号を付して説明を省略する。
<第2実施形態(
図5~
図10)>
図5に示すように、本発明の第2実施形態における吹付コンクリート捕捉部材20は、捕捉体21と、取付部材25を備えている。捕捉体21は、コイル状の線状材21aによって構成されている。線状材21aは、アーチ支保工3の外周面3aに沿う周方向及び外周面3aと直交する径方向に分布されている。該捕捉体21が、取付部材25を介してアーチ支保工3に取り付けられている。
【0025】
詳しくは、
図5に示すように、線状材21aひいては捕捉体21は、アーチ支保工3の周方向に沿って螺旋状に延びるコイル状に形成されている。コイル状をなすことで、アーチ支保工3の周方向及び径方向に分布されている。線状材21aの材質は、ばね鋼でもよく、普通鋼でもよく、ステンレス鋼でもよい。
【0026】
図6に示すように、アーチ支保工3の周方向と直交する捕捉体21の断面形状は、円形になっている。コイル状の捕捉体21の内部空間は、コンクリート充填空間22を構成している。
図7に示すように、コイル状の捕捉体21の隣接するひとまわり部分24の坑口側の半周部分24a及び切羽側の半周部分24bのうち、特に坑口側の半周部分24aどうし間の隙間が、コンクリート受け入れ部23を構成している。コンクリート受け入れ部23は、コンクリート充填空間22に連なっている。坑口の半周部分24a及び切羽側の半周部分24bは、それぞれコンクリートが付着して捕捉される捕捉部分を構成している。
【0027】
図7~
図9に示すように、コイル状の捕捉体21は、コイル軸方向に引っ張り力や圧縮力を加えることで、アーチ支保工3の周方向に沿って伸び縮みするように変形可能である。かつ、コイル状の捕捉体21は、伸び縮みに伴って縮径、拡径されたり、各ひとまわり部分24を傾斜させたり撓ませたり捩じったりすることで、アーチ支保工3の径方向に変形可能である。さらに、コイル状の捕捉体21は、コイル軸の曲率を自在に変形させることができ、ひいては種々の仕様のアーチ支保工の曲率に合わせて変形可能である。
【0028】
図5に示すように、アーチ支保工3の周方向に沿う、捕捉体21のコイル軸方向の一箇所(例えばアーチ周方向の中央部)に、取付部材25(拘束手段)が設けられている。取付部材25は、捕捉体21をアーチ支保工3に固定するクランプ、ボルト及びナット、番線等によって構成されている。取付部材25によって、捕捉体21の少なくとも一箇所が、アーチ支保工3に対して拘束されている。拘束手段は、溶接であってもよい。捕捉体21は、地山掘削面2aとアーチ支保工3の外周面3aとの間の空隙5に収められている。
【0029】
図6に示すように、吹付コンクリート捕捉部材20は、アーチ支保工3の幅方向(トンネル軸方向)の中央部より切羽側(
図6において右側)に偏って配置されている。捕捉体21の約半分が、アーチ支保工3の端部3eから切羽2e側へ張り出している。
【0030】
図5に示すように、第2実施形態においては、アーチ支保工3の建て込みに際して、予め取付部材25によって捕捉体21の少なくとも一箇所をアーチ支保工3に拘束させることによって、吹付コンクリート捕捉部材20をアーチ支保工3に取り付けておく。
したがって、アーチ支保工3を建て込むと、それと一緒に、吹付コンクリート捕捉部材20が、地山掘削面2aとアーチ支保工3との間の空隙5に設置される。
【0031】
吹付コンクリート捕捉部材20においては、前記設置の際、空隙5の大きさや地山掘削面2aの凸凹に合わせて、コイル状の捕捉体21を変形させることができる。
例えば、
図7に示すように、空隙5の大きさがほぼ設計通り又は設計より広いときは、捕捉体21をあまり変形させずに空隙5内に収容する。空隙5が設計より広いときは、捕捉体21の軸長を縮めたり、ひとまわり部分24が拡径される方向へ捩じったりすることで、捕捉体21を拡径させてもよい。
【0032】
図8に示すように、空隙5が設計より狭いときは、捕捉体21を伸ばすことで縮径させる。あるいは、ひとまわり部分24を倒したり、押し潰すように撓ませたり、ひとまわり部分24が縮径される方向へ捩じったりすることで、アーチ支保工3の径方向に沿う捕捉体21の寸法を縮ませてもよい。
【0033】
図9に示すように、地山掘削面2aが凸凹で、空隙5が所々広くなったり狭くなったりしているときは、地山掘削面2aが凸で空隙5が狭い場所では、捕捉体21をアーチ支保工3の径方向に縮ませる。地山掘削面2aが凹で空隙5が広い場所では、捕捉体21を元の形状に戻したり、ひとまわり部分24を捩じって拡径させたりする。
【0034】
続いて、
図10に示すように、前回建て込み済のアーチ支保工3Bよりも切羽2e側に露出した地山掘削面2aに吹付コンクリート4を吹き付ける。
吹付中コンクリート4Aの一部4aは、捕捉体21の坑口側の各半周部分24aに当たって、該半周部分24aに付着(捕捉)される。
吹付中コンクリート4Aの一部4bは、坑口側の隣接する半周部分24aどうし間のコンクリート受け入れ部23をくぐり抜けて、捕捉体21内のコンクリート充填空間22に入る。その一部4cは、減勢し落下して、アーチ支保工の外周面3a上ないしはコンクリート充填空間22内に堆積される。
さらに、吹付中コンクリート4bの一部4dは、コンクリート充填空間22を通り抜けようとしたところで、捕捉体21の切羽側の各半周部分24bに当たって、該半周部分24bに付着(捕捉)される。
これによって、吹付コンクリート4Aの大部分を捕捉体21によって捕捉でき、アーチ支保工3と地山掘削面2aとの間の空隙5に吹付コンクリート4を短時間で確実に充填できる。この結果、アーチ支保工3と地山2を早期に一体化させることができる。
【0035】
コイル状の捕捉体における、コイル軸方向(アーチ支保工3の周方向)と直交する断面形状は、円形に限らない。
<第3実施形態(
図11)>
図11に示すように、第3実施形態においては、捕捉体21Bが三角形状の断面のコイル状に形成されている。
【0036】
<第4実施形態(
図12)>
図12に示すように、第4実施形態においては、捕捉体21Cが四角形状の断面のコイル状に形成されている。
【0037】
<第5実施形態(
図13~
図15)>
図13に示すように、第5実施形態の吹付コンクリート捕捉部材40は、トラス状の捕捉体41と、取付部材47を備えている。
図14に示すように、捕捉体41は、外周筋42と、一対の内周筋43,44と、一対のトラス筋45,46を含む。これら捕捉体41の構成筋42~46は、鉄筋その他の鋼材からなる線状材である。
【0038】
外周筋42は、円弧状に湾曲されている。
図13及び
図15に示すように、一対の内周筋43,44は、それぞれ円弧状に湾曲されるとともに、互いに坑口側(
図13において紙面手前)と切羽側(
図13において紙面奥)に離れて並行に配置されている。
【0039】
図13及び
図14に示すように、外周筋42と坑口側内周筋43との間に、坑口側トラス筋45が設けられている。坑口側トラス筋45は、互いに角度をなす斜線材45a,45bが屈曲部45c,45dを介して連ねられた三角波形に形成されている。斜線材45a,45bが、外周筋42と内周筋43との間に斜めに架け渡されている。外周側の屈曲部45cが外周筋42と固定され、内周側の屈曲部45dが内周筋43と固定されている。固定手段は、好ましくは溶接であるが、ボルト締め、番線結束等であってもよい。
【0040】
図14に示すように、外周筋42と切羽側内周筋44との間には、切羽側トラス筋46が設けられている。切羽側トラス筋46は、斜線材46a,46bと屈曲部46c,46dを有し、坑口側トラス筋45と同一形状の三角波形に形成されている。斜線材46a,46bが、外周筋42と内周筋44との間に斜めに架け渡されている。外周側の屈曲部46cが外周筋42と固定され、内周側の屈曲部46dが内周筋44と固定されている。固定手段は、好ましくは溶接であるが、ボルト締め、番線結束等であってもよい。
【0041】
図13に示すように、トラス状の捕捉体41ひいては吹付コンクリート捕捉部材40が、アーチ支保工3の外周の周方向に沿うように設置されている。内周筋43,44がアーチ支保工3の外周面3aに添わされている。
図15に示すように、吹付コンクリート捕捉部材40は、アーチ支保工3の幅方向(トンネル軸方向)における、好ましくは切羽側部分に偏って配置されている。吹付コンクリート捕捉部材40は、軽量であり、持ち運び、取り付けが容易である。
【0042】
捕捉体41の延び方向の少なくとも一箇所、好ましくは複数箇所が、取付部材47によってアーチ支保工3に拘束されている。取付部材47は、C字状(コ字状)のフレーム47aと、締め付けボルト47bとを含むC字クランプによって構成されている。フレーム47aが、アーチ支保工3の上フランジ3f及び内周筋44を跨ぐようにセットされ、締め付けボルト47bが締め付けられて上フランジ3fに押し当てられている。なお、取付部材としては、C字クランプに限らず、溶接、番線等を用いてもよい。
【0043】
図15に示すように、アーチ支保工3を地山掘削面2aに沿って建て込むことによって、吹付コンクリート捕捉部材40が、地山掘削面2aとアーチ支保工3との間のアーチ状の空隙5の周方向及び径方向に分布するように設置される。外周筋42が地山掘削面2aに添わされる。坑口側のトラス筋45と切羽側のトラス筋46とによって画成された吹付コンクリート捕捉部材40の内部空間が、コンクリート充填空間41aを構成している。坑口側及び切羽側のトラス筋45,46のうち、特に坑口側のトラス筋45における互いに角度をなして隣接する斜線材45a,45bによって画成された三角形の空間が、コンクリート受け入れ部41bを構成している。コンクリート受け入れ部41bが、コンクリート充填空間41aに連なっている。
【0044】
図15に示すように、吹付ノズル6から吹き出された吹付中コンクリート4Aの一部4aは、坑口側トラス筋45の斜線材45a,45bに当たって、該斜線材45a,45b(捕捉部分)に付着(捕捉)される。
吹付中コンクリート4Aの一部4bは、坑口側トラス筋45のコンクリート受け入れ部41bをくぐり抜けて、捕捉体41内のコンクリート充填空間41aに入る。その一部4cは、減勢し落下して、アーチ支保工の外周面3a上ないしはコンクリート充填空間41a内に堆積される。
さらに、吹付中コンクリート4bの一部4dは、コンクリート充填空間41aを通り抜けようとしたところで、切羽側トラス筋46の斜線材46a,46bに当たって、該斜線材46a,46b(捕捉部分)に付着(捕捉)される。
これによって、第1実施形態と同様に、吹付中コンクリート4Aの大部分が空隙5を通り抜けるのが妨げられて、空隙5に充填される。この結果、アーチ支保工3と地山2を早期に一体化させることができる。
また、トラス状の吹付コンクリート捕捉部材40は、副次的効果として、多少の強度を担うことができる。
【0045】
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の改変をなすことができる。
例えば、捕捉体は、コイル状やトラス状に限らず、ランダムに折り曲げられた線状でもよく、線状材を網状に組んだものでもよく、板状材に多数の穴を開けて網状にしたものでもよい。
吹付コンクリート捕捉部材が、アーチ支保工3の幅方向(トンネル軸方向)の中央部に配置されていてもよく、アーチ支保工3の幅方向の坑口側に偏って配置されていてもよい。
捕捉体の外周側端部が、地山掘削面2aに達していてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、山岳トンネルの構築に適用できる。
【符号の説明】
【0047】
1 トンネル
2 地山
2a 地山掘削面
2e 切羽
3 アーチ支保工
3a 外周面
3B 前回建て込み済のアーチ支保工
4 吹付コンクリート
4A 吹付中コンクリート
4a~4f 吹付中コンクリートの一部
5 空隙
6 吹付ノズル
10 吹付コンクリート捕捉部材
11 捕捉体
15 ベース部(取付部)
30 ラス網
31 線状材
32 網目
20 吹付コンクリート捕捉部材
21 捕捉体
21a 線状材
21B,21C 捕捉体
22 コンクリート充填空間
23 コンクリート受け入れ部
24 ひとまわり部分
24a 坑口側の半周部分
24b 切羽側の半周部分
25 取付部材
40 吹付コンクリート捕捉部材
41 捕捉体
41a コンクリート充填空間
41b コンクリート受け入れ部
42 外周筋(線状材)
43,44 内周筋(線状材)
45,46 トラス筋(線状材)
47 取付部材