(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024164792
(43)【公開日】2024-11-27
(54)【発明の名称】αゲル含有組成物及びその利用
(51)【国際特許分類】
A61K 8/99 20170101AFI20241120BHJP
A61K 8/02 20060101ALI20241120BHJP
A61K 8/34 20060101ALI20241120BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20241120BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20241120BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20241120BHJP
A61K 47/44 20170101ALI20241120BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20241120BHJP
【FI】
A61K8/99
A61K8/02
A61K8/34
A61K8/73
A61K9/06
A61K47/26
A61K47/44
A61K47/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023223509
(22)【出願日】2023-12-28
(31)【優先権主張番号】P 2023080193
(32)【優先日】2023-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】高瀬 浩行
【テーマコード(参考)】
4C076
4C083
【Fターム(参考)】
4C076AA09
4C076BB31
4C076DD37
4C076DD67
4C076EE56
4C076FF36
4C083AA031
4C083AA032
4C083AB032
4C083AC012
4C083AC022
4C083AC071
4C083AC072
4C083AC111
4C083AC112
4C083AC122
4C083AC172
4C083AC302
4C083AC342
4C083AC352
4C083AC422
4C083AC442
4C083AC642
4C083AC662
4C083AD092
4C083AD152
4C083AD211
4C083AD222
4C083AD332
4C083AD352
4C083AD432
4C083AD572
4C083BB11
4C083CC02
4C083DD41
4C083EE01
4C083EE05
4C083FF05
(57)【要約】
【課題】安定性に優れ、且つ、化粧品又は医薬(部外)品に使用する場合の使用感に優れるαゲル含有組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】バイオサーファクタントと、高級アルコールと、を含む、αゲル含有組成物により、課題を解決する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオサーファクタントと、高級アルコールと、を含む、αゲル含有組成物。
【請求項2】
前記バイオサーファクタントは、アニオン性バイオサーファクタントを含む、請求項1に記載のαゲル含有組成物。
【請求項3】
前記バイオサーファクタントは、糖脂質構造を有するバイオサーファクタントを含む、請求項1に記載のαゲル含有組成物。
【請求項4】
前記糖脂質構造を有するバイオサーファクタントは、サクシノイルトレハロース脂質である、請求項3に記載のαゲル含有組成物。
【請求項5】
前記バイオサーファクタントを、αゲル含有組成物の全質量に対して0.001質量%以上含む、請求項1に記載のαゲル含有組成物。
【請求項6】
前記高級アルコールは、炭素数16の高級アルコール及び炭素数18の高級アルコールの少なくとも何れかを含む、請求項1に記載のαゲル含有組成物。
【請求項7】
前記高級アルコールの含有量に対する、前記バイオサーファクタントの含有量の比が、質量比で、0を超えて0.500以下である、請求項1に記載のαゲル含有組成物。
【請求項8】
pHが5.0以上である、請求項1に記載のαゲル含有組成物。
【請求項9】
さらに、油剤、多価アルコール、及び増粘剤からなる群より選択される、少なくともいずれかを含む、請求項1に記載のαゲル含有組成物。
【請求項10】
油剤を含み、前記高級アルコールの含有量に対する、前記油剤の含有量の比が、質量比で、0を超えて35.0以下である、請求項9に記載のαゲル含有組成物。
【請求項11】
請求項1~10の何れか1項に記載のαゲル含有組成物を含む化粧料又は医薬(部外)品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はαゲル含有組成物及びその利用に関し、特にバイオサーファクタントを含有するαゲル含有組成物及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物が作り出す機能性物質であるバイオサーファクタントは、疎水性部分と親水性部分とを有する両親媒性物質である。バイオサーファクタントは、優れた生分解性を示す天然の界面活性剤として注目されており、また高い保湿効果及び乳化作用を示すため、化粧品、医薬品、食品等の添加剤として使用することが検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、バイオサーファクタントを含有する水性ゲル状組成物を提供することを目的として、糖脂質型のバイオサーファクタントであるサクシノイルトレハロース脂質の塩と、水性成分とを混合することによって、水性ゲル状組成物を調製したことが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、バイオサーファクタント含有する油性ゲル状組成物を提供することを目的として、糖脂質構造を有するバイオサーファクタントを含有し、水及び多価アルコールの一方、並びに油性成分を含む油性ゲル状組成物を調製したことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-67686号公報
【特許文献2】特開2009-79030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のような従来のゲル状組成物が存在する一方、近年水も油も内包することができるαゲルという形態が注目されている。
【0007】
αゲルとは、α型水和結晶とも呼ばれ、一般に、ラメラゲル形成性組成物として、界面活性剤のような親水基及び親油基を有する化合物を用いた場合に形成されるものであり、六方晶形のα型構造(ヘキサゴナル)の層間に水を多量に保持した状態のゲルであり、高い増粘効果、保水効果、バリア効果が期待されている。
【0008】
本発明の一態様は、バイオサーファクタントを含むαゲル含有組成物であって、安定性に優れ、且つ、化粧品又は医薬(部外)品に使用する場合の使用感に優れるαゲル含有組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の一実施形態は、以下の構成を含むものである。
[1]バイオサーファクタントと、高級アルコールと、を含む、αゲル含有組成物。
[2]前記バイオサーファクタントは、アニオン性バイオサーファクタントを含む、[1]に記載のαゲル含有組成物。
[3]前記バイオサーファクタントは、糖脂質構造を有するバイオサーファクタントを含む、[1]又は[2]に記載のαゲル含有組成物。
[4]前記糖脂質構造を有するバイオサーファクタントは、サクシノイルトレハロース脂質である、[1]~[3]のいずれかに記載のαゲル含有組成物。
[5]前記バイオサーファクタントを、αゲル含有組成物の全質量に対して0.001質量%以上含む、[1]~[4]のいずれかに記載のαゲル含有組成物。
[6]前記高級アルコールは、炭素数16の高級アルコール及び炭素数18の高級アルコールの少なくとも何れかを含む、[1]~[5]のいずれかに記載のαゲル含有組成物。
[7]前記高級アルコールの含有量に対する、前記バイオサーファクタントの含有量の比が、質量比で、0を超えて0.500以下である、[1]~[6]のいずれかに記載のαゲル含有組成物。
[8]pHが5.0以上である、[1]~[7]のいずれかに記載のαゲル含有組成物。
[9]さらに、油剤、多価アルコール、及び増粘剤からなる群より選択される、少なくともいずれか一種を含む、[1]~[8]のいずれかに記載のαゲル含有組成物。
[10]油剤を含み、前記高級アルコールの含有量に対する、前記油剤の含有量の比が、質量比で、0を超えて35.0以下である、[9]に記載のαゲル含有組成物。
[11][1]~[10]の何れかに記載のαゲル含有組成物を含む化粧料又は医薬(部外)品。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、安定性に優れ、且つ、化粧品又は医薬(部外)品に使用する場合の使用感に優れるαゲル含有組成物を提供することができるとの効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態に関して以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態に関しても本発明の技術的範囲に含まれる。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。
【0012】
[1.αゲル含有組成物]
本発明の一実施形態に係るαゲル含有組成物は、バイオサーファクタントと、高級アルコールと、を含む。
【0013】
本明細書において、「バイオサーファクタント」とは、生物(例えば、微生物)によって生産(生合成)される界面活性能力および/または乳化能力を有する物質の総称である。
【0014】
本発明の一実施形態に係るαゲル含有組成物は、生物(例えば、微生物)が生産するバイオサーファクタントを、界面活性能力および/または乳化能力を有する物質として含むことにより、安定性に優れ、且つ、化粧品又は医薬(部外)品に使用する場合の使用感に優れるとの効果を奏する。
【0015】
αゲルとは、界面活性剤のような親水基及び親油基を有する両親媒性物質が、ラメラ状に積層した2分子膜の会合体を形成し、親水基間に水を保持した、α型水和結晶を含むゲルをいう。αゲルには、2分子膜の親水基間に水を保持するとともに、前記会合体の親水部に多量の水を保持した状態のゲルも含まれる。前記両親媒性物質は、2分子膜中で、六方晶(ヘキサゴナル)状に配列している。
【0016】
αゲルが形成されている場合、X線回析にて、小角X散乱領域に、2分子膜の層状構造を示す繰り返しピーク、及び、広角X散乱領域に、六方晶充填を示す一つのシャープなピークが観察される。組成物中で、αゲルが形成されていることは、X線回析パターンにより確認することができ、具体的には、後述する実施例に示すように、広角領域の21°~22°の間にシャープなピークが存在する場合は、αゲル含有組成物であると判断できる。本開示のαゲル含有組成物は、X線回析(広角)により回析角(2θ)の20°から24°付近に少なくとも一つのピークを有することが好ましく、21°から22°付近に一つのピークを有することがより好ましい。
【0017】
(バイオサーファクタント)
本発明の一実施形態において、前記バイオサーファクタントは、生物(例えば、微生物)によって生産(生合成)される界面活性能力および/または乳化能力を有する物質であれば、特に限定されるものではなく、アニオン性のバイオサーファクタント、カチオン性のバイオサーファクタント、両性のバイオサーファクタント、及びノニオン性のバイオサーファクタントから選択される少なくともいずれかを含んでいればよい。
【0018】
中でも、前記バイオサーファクタントは、アニオン性バイオサーファクタントを含むことが好ましい。本明細書において、アニオン性バイオサーファクタントとは、アニオン性のバイオサーファクタントを意図する。本明細書において、「アニオン性」とは、水中で親水基が電離して負電荷を帯びる性質を有することを意図する。化合物がアニオン性を持つためには、カルボキシル基、スルホン酸基、硫酸エステル基などの酸性官能基を有する必要がある。したがって、前記アニオン性バイオサーファクタントは、酸性官能基を有するバイオサーファクタントであると言える。
【0019】
前記アニオン性バイオサーファクタントとしては、アニオン性であり、生物によって生産される界面活性能力および/または乳化能力を有する物質であれば特に限定されないが、例えば、糖脂質構造を有するバイオサーファクタント、アミノ酸構造を有するバイオサーファクタント、有機酸構造を有するバイオサーファクタント、高分子構造を有するバイオサーファクタントが挙げられる。前記アニオン性バイオサーファクタントは、前記の各種のアニオン性バイオサーファクタントのうち1種類のみを含んでいてもよく、2種類以上を含んでいてもよい。
【0020】
本発明の一実施形態において、前記アニオン性バイオサーファクタントが含み得る糖脂質構造を有するバイオサーファクタントとしては、サクシノイルトレハロース脂質(以下STLと記載することもある)、ソホロ脂質などが挙げられる。
【0021】
本発明の一実施形態において、前記アニオン性バイオサーファクタントが含み得るサクシノイルトレハロース脂質としては、ロドコッカス エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)SD-74株を、脂肪酸または植物油脂等の炭素源を含む培地中で好気的に培養することによって、あるいは、ロドコッカス エスピー(Rhodococcus sp.)TB-42株を、不飽和炭化水素、ハロゲン炭化水素等の炭素源を含む培地中で好気的に培養することによって、得ることができる。なお、ロドコッカス・エリスロポリス SD-74株は「受託番号:NITE P-03788(受託日:2022年12月1日)」として、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託されている。
【0022】
炭素源を含む培地中で微生物を培養して得られるサクシノイルトレハロース脂質は、糖部分がトレハロースであり、トレハロース1モル当りコハク酸および脂肪酸がそれぞれ1~2モルエステル結合した糖脂質である。この糖脂質の脂肪酸部分は、培養基質である炭素源に由来しており、炭素源の組成を変えることによって、それぞれ異なった脂肪酸を結合させることができる。中でも、弱酸性領域での乳化能の観点から、前記脂肪酸は、それぞれ独立して、好ましくは5~30、より好ましくは8~25、さらに好ましくは10~22、特に好ましくは12~20の脂肪族炭化水素基を含む。前記肪族炭化水素基は、アルキル基であってよい。
【0023】
本発明の一実施形態において、前記アニオン性バイオサーファクタントが含み得るサクシノイルトレハロース脂質としては、例えば、以下の一般式1の構造を有する化合物であっても良い。
【0024】
【0025】
前記一般式1中、置換基R1およびR2は脂肪族炭化水素基である。
【0026】
本発明の一実施形態において、一般式1における、置換基R1およびR2である脂肪族炭化水素基は、それぞれ独立して直鎖状又は分岐状であってよく、原料炭素源の資化性の観点から、直鎖状であることが好ましい。
【0027】
本発明の一実施形態おいて、一般式1における置換基R1およびR2である脂肪族炭化水素基は、それぞれ独立して炭素数5以上30以下のアルキル基であってよい。前記アルキル基としては、炭素数8以上が好ましく、炭素数10以上がより好ましく、炭素数12以上がさらに好ましい。また、炭素数25以下が好ましく、炭素数22以下がより好ましく、炭素数20以下がさらに好ましい。
【0028】
一般式1の構造を有するサクシノイルトレハロース脂質は、例えば、ロドコッカス エリスロポリスSD-74株を、脂肪酸または植物油脂等の炭素源を含む培地中で好気的に培養することによって、あるいは、ロドコッカス エスピーTB-42株を、不飽和炭化水素、ハロゲン炭化水素等の炭素源を含む培地中で好気的に培養することによって、得ることができる。
【0029】
アルキレンオキサイドを含む炭素源を含む培地中で微生物を培養してサクシノイルトレハロース脂質を製造する場合、得られるサクシノイルトレハロース脂質が、置換基R1および/またはR2中にアルキレンオキサイド付加物に由来する構造単位を含む場合がある。本発明の一実施形態において、サクシノイルトレハロース脂質としては、分子構造全体の親水-疎水バランスを保つ観点から、アルキレンオキサイド付加物に由来する構造単位の含有量が少ない構造であることが好ましく、具体的には前記一般式1における置換基R1およびR2中におけるアルキレンオキサイド付加物に由来する構造単位の含有量としては、20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましく、0質量部であっても良い。
【0030】
本発明の一実施形態において、前記バイオサーファクタントの臨界ミセル濃度(CMC)としては、乳化能に優れるとの観点から1000×10-6M以下であることが好ましく、500×10-6M以下であることがより好ましく、200×10-6M以下であることがさらに好ましい。なお、前記バイオサーファクタントの臨界ミセル濃度は、高機能表面張力計(例えば、D Y―500(協和界面科学株式会社製)を用いて白金板吊板式法による表面張力測定を実施し、得られた測定値から常法に従って算出することができる。
【0031】
また、本発明の一実施形態において、前記バイオサーファクタントは、50%細胞増殖抑制濃度(IC50)が、100ppm以上であることが好ましく、300ppm以上であることがより好ましい。バイオサーファクタントのIC50が高いほど、当該バイオサーファクタントは、細胞毒性が低いことを意味する。なお、バイオサーファクタントのIC50は、L. Vian, J. Vinvent, J. Maurin, I. Fabre, J. Giroux, J. P. Cano, Toxicol in
vitro, 9(2), p185-190,1995記載の方法に従って決定することができる。具体的には、実施例に記載の方法によって決定することができる。
【0032】
本発明の一実施形態に係るαゲル含有組成物は、前記バイオサーファクタントを、αゲル含有組成物の全質量に対して0.001質量%以上含むことが好ましい。これにより、安定性に優れ、且つ、化粧品又は医薬(部外)品に使用する場合の使用感に優れるαゲル含有組成物を得ることができる。前記バイオサーファクタントのαゲル含有組成物の全質量に対する含有量は、より好ましくは0.005質量%以上であり、さらに好ましくは0.010質量%以上であり、よりさらに好ましくは0.020質量%以上であり、特に好ましくは0.050質量%以上である。また、前記バイオサーファクタントのαゲル含有組成物の全質量に対する含有量の上限は特に限定されるものではないが、好ましくは10.000質量%以下であり、より好ましくは5.000質量%以下であり、さらに好ましくは3.000質量%以下である。
【0033】
また、本発明の一実施形態に係るαゲル含有組成物において、前記高級アルコールの含有量に対する、前記バイオサーファクタントの含有量の比は、質量比で、0を超えて0.500以下であることが好ましく、0を超えて0.400以下であることがより好ましく、0.001を超えて0.300以下であることがさらに好ましく、0.002~0.200であることが特に好ましい。前記高級アルコールの含有量に対する、前記バイオサーファクタントの含有量の比が前記範囲内であれば、安定性に優れ、且つ、化粧品又は医薬(部外)品に使用する場合の使用感に優れるαゲル含有組成物を得ることができる。
【0034】
(バイオサーファクタントの製造方法)
前記バイオサーファクタントの製造方法としては、例えば、炭素源を含む培地中で微生物を培養する培養工程と、上記培養工程によって得られた生成物を析出させる析出工程と、上記析出工程によって得られた析出物からバイオサーファクタントを含む抽出物を抽出する抽出工程と、上記抽出工程によって得られた抽出物から脂溶性物質を取り除く脂溶性物質除去工程とを包含する方法が挙げられる。
【0035】
前記培養工程において、炭素源を含む培地中で微生物を培養する工程は慣用的な方法に従って行われる。炭素源を添加した培地に、必要に応じて窒素源、無機塩等の栄養分を添加してもよい。
【0036】
前記培養工程における「微生物」としては、バイオサーファクタントを生成できる限り特に限定されないが、ロドコッカス属に属する微生物であることが好ましく、サクシノイルトレハロース脂質を生産できることから、ロドコッカス・エリスロポリス SD-74株、ロドコッカス・エスピー TB-42株、またはロドコッカス・バイコヌレンシス NBRC 100611株であることがより好ましい。
【0037】
前記培養工程における「炭素源」としては、上記微生物が培養中に資化する炭素化合物であること、特に天然油脂、炭化水素、脂肪酸、脂肪酸エステル、または高級アルコールであることが好ましい。ここで、炭素化合物は、炭素と、水素および窒素等との化合物が意図される。培養工程において用いられる炭素源は、例えば、天然油脂であり得、動物油脂であっても植物油脂であってもよいが、入手がより容易であるため、植物油脂であることが好ましい。培養工程において用いられる植物油脂は、例えばパーム油、ヤシ油、大豆油、オリーブ油、サフラワー油、菜種油、トウモロコシ油、綿実油、トール油等であることが好ましいが、これに限定されない。
【0038】
また、前記培養工程において炭化水素を炭素源として用いることもできる。炭素源として用いる炭化水素としては、n-デカン、n-ウンデカン、n-トリデカン、n-テトラデカン、n-ペンタデカン、n-ヘキサデカン、n-ヘプタデカン、n-オクタデカン、n-ノナデカン等のノルマルアルカン;1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、1-トリデセン、1-テトラデセン、1-ペンタデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン等のノルマルアルケン;等を好適に使用することが可能である。
【0039】
前記培養工程において脂肪酸を炭素源として用いることもできる。炭素源として用いる脂肪酸としては、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸(ラウリン酸)、トリデカン酸、テトラデカン酸(ミリスチン酸)、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸(パルミチン酸)、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸(ステアリン酸)、オレイン酸等を好適に使用することが可能である。また、脂肪酸エステル、ウンデシルアルコール、ドデシルアルコール(ラウリルアルコール)等の高級アルコールを炭素源として用いてもよい。
【0040】
培地中に添加される炭素源としては、上述した各炭素源が好適に用いられる。培地中の炭素源の添加濃度は、5~20質量%であることが好ましく、10質量%であることがより好ましい。また、前記培養工程において使用する培地には、上記炭素源に加え、窒素源を添加することが好ましい。培地中に添加される窒素源としては、微生物の培養に際して通常使用される窒素含有の有機物または無機物が用いられ、例えば硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、リン酸水素カリウム、リン酸二水素カリウム等を使用可能である。上述した他に、微生物の生育に必要であれば、酵母エキス、ペプトン等の栄養素を培地に添加してもよい。
【0041】
前記培養工程における微生物の培養は、振とう攪拌による好気的条件下で行われることが好ましい。培養温度は、20℃~35℃であることが好ましく、30℃であることがより好ましい。培養pHは、5.5~9.5であることが好ましい。また、培養期間は、15g/l~150g/lの濃度のバイオサーファクタント(例えば、サクシノイルトレハロース脂質)を含む混合物が生成されるまで培養することが好ましい。
【0042】
前記培養工程においては、前記微生物を本培養する前にシード培養してもよい。微生物をシード培養することによって、最適な条件に微生物を調整することが可能であり、その結果効率良くバイオサーファクタントを製造することができる。
【0043】
前記析出工程は、前記培養工程によって微生物によって産生されたバイオサーファクタントを含む生成物(例えば、STLを含む生成物)を析出させる工程である。つまり、微生物が培地中に生成するバイオサーファクタントを含む培地あるいは培養液に対して析出を行う。このとき、析出の対象となる当該培地あるいは当該培養液は、微生物を培養した培養液を遠心分離し、培養液中から菌体および残存基質を取り除いたものであってもよい。ここで、「析出させる」とは、培地中に溶解した物質を、固体として取り出すことが意図される。すなわち、前記析出工程においては、前記培養工程において微生物が培地中に生成したバイオサーファクタントを、培地中から固形物として取り出すことができる。
【0044】
前記析出工程において、バイオサーファクタントを含む生成物を析出させる方法は、培養液中からバイオサーファクタントを含む生成物を固形物として分離することができる方法であれば特に限定されず、慣用的な方法が用いられ得る。例えば、アニオン性バイオサーファクタントを含む生成物を析出させる場合、前記培養工程において微生物を培養した培地を酸性にし、培地中の酸性物質を析出させることによって酸性のアニオン性バイオサーファクタントを含む生成物を析出させることができる(酸析)。具体的には、培養液中(対象物)のpHを低下させることにより、アニオン性バイオサーファクタントを含む生成物を析出させることができる。培養液のpHを低下させるためには、酸性物質、たとえば、HClを添加すればよい。その後、たとえば、遠心処理を行うことで、析出した生成物を取り出すことができる。以下、析出工程を経て得られた生成物を、「析出生成物」と称する。
【0045】
前記抽出工程は、析出生成物からバイオサーファクタントを抽出する工程である。例えば、糖脂質構造を有するアニオン性バイオサーファクタントを抽出する抽出工程では、析出生成物に、水と相溶せず、かつアニオン性バイオサーファクタント、特に、糖脂質が可溶である溶媒を添加することによって、析出生成物中に含まれるアニオン性バイオサーファクタントを溶媒層に溶解させる。ついで、アニオン性バイオサーファクタントが溶解した溶媒層を分離することによって、水溶性物質を除去したアニオン性バイオサーファクタント組成物を得ることができる。なお、「水溶性物質」は、水に対して可溶な物質であり、培地中から析出させた固形物状の析出物が水と共に包含している塩等の水溶性の不純物であるといえる。ここで、「塩」とは酸の水素原子を金属または他の金属性基で置き換えた化合物である。
【0046】
微生物を培養した培地から析出させた上述の析出生成物は、含水しており水溶性の不純物を多く含んでいる。このような析出生成物は、さらに脂溶性の不純物を含んでおり、また、固形物状であるため、これを水で洗浄しても析出物内部に含まれる水溶性物質を十分に取り除くことは困難であった。しかしながら、水と相溶せず、かつアニオン性バイオサーファクタントが可溶である溶媒を用いた抽出工程を実施することにより、水溶性物質を十分に除去したアニオン性バイオサーファクタント組成物を得ることができる。
【0047】
前記抽出工程においては、溶媒を添加して抽出する対象物である析出生成物から完全に水溶性物質を取り除く必要はなく、抽出処理の前後において、析出生成物中の水溶性物質の量が減少していればよい。これにより、不純物の含有量が低下したアニオン性バイオサーファクタント組成物を得ることが可能である。
【0048】
前記抽出工程において、析出生成物に添加する溶媒としては、水溶性物質を溶解し得る他の溶媒(たとえば水)と相溶せず、かつアニオン性バイオサーファクタントが可溶である溶媒を用いることができる。そのような溶媒としては、エステル系溶媒、アルコール系溶媒、または炭化水素系溶媒が挙げられ、具体的には、酢酸エチル、1-ブタノール、キシレン等が挙げられる。析出生成物に添加する溶媒の量は、析出生成物量に対して0.1~10倍質量であることが好ましく、析出生成物量と同等であることがより好ましい。
【0049】
前記抽出工程について、溶媒として酢酸エチルを用いた場合を例にして説明する。まず、培養液から培養生成物を析出させ、析出した析出生成物に溶媒である酢酸エチルを添加し、十分に攪拌することで、析出生成物を含む溶液を酢酸エチル層および水層の2層に分離させる。ついで、上層に形成された酢酸エチル層を分液漏斗等によって分離する。酢酸エチル層には水溶性物質は溶解せず、アニオン性バイオサーファクタントが溶解しているため、酢酸エチル層を分離することによって析出生成物から水溶性物質を除去することが可能である。ついで、例えばエヴァポレーター等を用いて、酢酸エチル層から酢酸エチルを除去することによって、水溶性物質が除去された固体状のアニオン性バイオサーファクタント組成物を得ることができる。
【0050】
なお、前述の説明では、析出工程と抽出工程とを順次行う場合について説明したが、必ずしもこれに限られない。例えば、培養生成物を培地または培養液中から析出させずに、生成物が溶解した培地または培養液に溶媒を添加し溶媒層を分離することによって、水溶性物質を取り除いたバイオサーファクタント組成物を得ることも可能である。このとき、微生物を培養した培養液から、遠心分離等によって、菌体および残存基質を取り除いたものを、溶媒を用いて水溶性物質を除去する対象としてもよい。すなわち、抽出工程において、溶媒を用いて水溶性物質を除去する対象となる物質は、培養中の微生物が培地中に生成するバイオサーファクタントを含む培地あるいは培養液、または、反応系から分離された固体状のバイオサーファクタントを含む混合物であってもよい。
【0051】
この抽出工程までを経て得られたアニオン性バイオサーファクタントを含む生成物を「抽出生成物」と称する。
【0052】
前記脂溶性物質除去工程は、上記抽出生成物から、脂溶性物質を取り除く工程である。ここで「脂溶性物質」とは、油脂に対して可溶な物質であることが意図される。
【0053】
水溶性物質が取り除かれた固形物状の抽出生成物から脂溶性物質を取り除く方法は、バイオサーファクタントと脂溶性物質とを分離させることが可能な方法であれば特に限定されず、慣用的な方法を用いることができる。例えば、まず、抽出生成物から溶媒を留去し、ついで、溶媒を留去して得られた固形物にバイオサーファクタントと脂溶性物質とを分離させることが可能な溶媒を添加し、当該溶媒層を除去することによって、脂溶性物質が除去されたバイオサーファクタントを得ることができる。これにより、抽出生成物から効率よく脂溶性の不純物を取り除くことができる。
【0054】
前記脂溶性物質除去工程において、バイオサーファクタントと脂溶性物質とを分離させることが可能な溶媒とは、バイオサーファクタントが難溶または不溶であり、脂溶性物質が可溶な溶媒である。このような溶媒として、例えばヘキサンを用いた場合、培養液から析出した析出生成物から、溶媒を用いて水溶性物質を除去した後、この溶媒を留去して得られる固形物(抽出生成物)をヘキサンに懸濁し、ろ過または遠心分離してヘキサンを除去する。これにより、バイオサーファクタントを含む抽出生成物から効率よく脂溶性の不純物を取り除くことができる。
【0055】
(高級アルコール)
本発明の一実施形態に係るαゲル含有組成物は、バイオサーファクタントと、高級アルコールとを含む。本明細書において、高級アルコールとは、炭素数6以上の1価鎖式飽和アルコールを意図する。前記高級アルコールは、直鎖状の1価鎖式飽和アルコールであっても、分岐状の1価鎖式飽和アルコールであってもよい。また、前記高級アルコールは、1級アルコールであっても、2級アルコールであっても、3級アルコールであってもよい。前記高級アルコールとしては、例えば、n-ヘキシルアルコール、n-ヘプチルアルコール、n-オクチルアルコール、n-ノニルアルコール、n-デシルアルコール、n-ウンデシルアルコール、n-ヘプチルアルコール、ラウリルアルコール、n-トリデシルアルコール、ミリスチルアルコール、n-ペンタデシルアルコール、セチルアルコール(セタノール)、マーガリルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、n-ノナデシルアルコール、アラキジルアルコール、セリルアルコール、メリシルアルコール、パルミトレイルアルコール、オレイルアルコール、エイコセニルアルコール、2-メチルペンチルアルコール、2-エチルブチルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、メチルアミルアルコール、カプリルアルコール、ジイソブチルカルビノール、イソステアリルアルコール、オクチルドデカノール、及びこれらの2種以上の混合物を挙げることができる。
【0056】
中でも、前記高級アルコールは、αゲル形成の観点から、炭素数が、より好ましくは10以上であり、さらに好ましくは12以上であり、特に好ましくは14以上であり、最も好ましくは16以上である。炭素数の上限は特に限定されるものではないが、例えば24以下であり、より好ましくは22以下であり、さらに好ましくは20以下である。また、前記高級アルコールは、αゲル形成の観点から、直鎖状の1価鎖式飽和アルコールであることがより好ましく、αゲル形成の観点から、1級アルコールであることがより好ましい。
【0057】
本発明の一実施形態において、前記高級アルコールのより好ましい一例としては、ミリスチルアルコール、セタノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、及びこれらの2種以上の混合物を挙げることができる。これらは、αゲル形成の観点からより好ましい。
【0058】
また、本発明の一実施形態において、前記高級アルコールは、炭素数16の高級アルコール及び炭素数18の高級アルコールの少なくとも何れかを含むことが特に好ましい。これにより、化粧品又は医薬(部外)品に使用する場合の使用感により優れるため好ましい。かかる、高級アルコールとしては、例えば、セタノール又はセタノールと他の高級アルコールとの混合物、ステアリルアルコール又はステアリルアルコールと他の高級アルコールとの混合物、セタノールとステアリルアルコールとの混合物、又は当該混合物と他の高級アルコールとの混合物等を挙げることができる。前記高級アルコールが、炭素数16の高級アルコールと、炭素数18の高級アルコールとを含む場合、炭素数16の高級アルコールと、炭素数18の高級アルコールとの使用割合は、好ましくは90:10~10:90、より好ましくは80:20~20:80、さらに好ましくは70:30~20:80、さらにより好ましくは、60:40~20:80、特に好ましくは55:45~20:80である。かかる高級アルコールのより具体的な例としては、セタノールとステアリルアルコールとの前記割合での併用、又は、セタノールとステアリルアルコールとの混合物であるセテアリルアルコール等を挙げることができる。
【0059】
(油剤)
本発明の一実施形態に係るαゲル含有組成物は、バイオサーファクタントと、高級アルコールと、に加えてさらに油剤を含んでいてもよい。本発明の一実施形態に係るαゲル含有組成物は、油剤を含むことにより、α型水和結晶と水相とが構成するゲル中に油剤を乳化し、α型水和結晶と水相と油相との3相からなる均一なゲルとすることができる。また、α型水和結晶と水相と油相との3相からなる均一なゲルとすることにより、組成物の安定性をより向上させることができるため、好ましい。
【0060】
前記油剤としては、1気圧25℃において液状またはペースト状の油剤が好ましく、特に液状の油剤が好ましい。
【0061】
前記液状の油剤としては、例えば、ロウ類、炭化水素類、高級アルコールエステル類、高級脂肪酸エステル類、トリグリセリド類、シリコーン油類、高級脂肪酸類、動植物油類、コレステロール脂肪酸エステル類、ステロール類、ステロールエステル類、ポリフェノール類等が挙げられる。より好ましい具体例としては、例えば、カウナウバロウ、キャンデリラロウ、ホホバ油、ミツロウ、ラノリン等のロウ類;ミネラルオイル、イソドデカン、スクワラン、ワセリン、セレシン、マイクロクリスタリンワックス等の炭化水素類;パルミチン酸イソプロピル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸イソオクチル、ミリスチン酸イソトリデシル、ミリスチン酸オクタデシル、ミリスチン酸オクチルドデシル、イソステアリン酸コレステリル、トリエチルヘキサノイン、エチルヘキサン酸セチル、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル等のエステル類;オクタメチルトリシロキサン、ジメチコン等のジメチルシリコーン油;シクロテトラシロキサン、シクロペンタシロキサン、シクロヘキサシロキサン、シクロメチコン、メチルポリシクロシロキサン等の環状シリコーン油;ポリエーテル変性シリコーン油、メチルフェニルポリシロキサン等のメチルフェニルシリコーン油;ミネラル油;ヒマワリ油、オリーブ油、ホホバ油、ツバキ油、グレープシード油、アボカド油、マカダミアナッツ油、アーモンド油、米胚芽油、丁字油、オレンジ油、トウヒ油等の植物油;トリグリセライド類;等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0062】
本発明の一実施形態に係る、バイオサーファクタントと、高級アルコールと、に加えてさらに油剤を含むαゲル含有組成物において、前記高級アルコールの含有量に対する、前記油脂の含有量の比は、質量比で、0を超えて800以下であることが好ましく、0を超えて150以下であることがより好ましく、0を超えて100以下であることがさらに好ましく、0.05~80.0であることが特に好ましく、0.1~80.0であってよく、0.5~80.0であってもよい。前記高級アルコールの含有量に対する、前記油脂の含有量の比が前記範囲内であれば、αゲル含有組成物の安定性をより向上させることができるため、好ましい。
【0063】
本発明の一実施形態に係るαゲル含有組成物は、化粧品又は医薬(部外)品に使用する場合の使用感により優れるとの観点から、バイオサーファクタントと、高級アルコールと、油剤とに加えて、さらに後述する、多価アルコール及び/又は増粘剤を含むことがより好ましい。
【0064】
(多価アルコール)
本発明の一実施形態に係るαゲル含有組成物は、バイオサーファクタントと、高級アルコールと、に加えてさらに多価アルコールを含んでいてもよい。多価アルコールを含んでいることにより、本発明の一実施形態に係るαゲル含有組成物は、化粧品又は医薬(部外)品に使用する場合の使用感にさらに優れるため好ましい。また、多価アルコールを含んでいることにより、αゲル含有組成物の粒子径が微細化する傾向にあることが見出された。このαゲル含有組成物の粒子径の微細化により、さらに、乳化粒子が安定化するとの利点、及び肌なじみが向上するとの利点がある。
【0065】
前記多価アルコールとしては、特に限定されるものではないが、例えば、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ペンチレングリコール、グリセリン、ポリプロピレングリコール、ジグリセリン、ポリグリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、ソルビトール等を挙げることができる。これらは、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0066】
本発明の一実施形態に係る、バイオサーファクタントと、高級アルコールと、に加えてさらに多価アルコールを含むαゲル含有組成物において、前記高級アルコールの含有量に対する、前記多価アルコールの含有量の比は、質量比で、0.1以上であることが好ましく、1.0以上であることがより好ましく、3.0以上であることがさらに好ましく、5.0以上であることが特に好ましい。前記質量比の上限は、特に限定されるものではないが、例えば100.0である。前記高級アルコールの含有量に対する、前記多価アルコールの含有量の比が前記範囲内であれば、αゲル含有組成物の安定性をより向上させることができるため、好ましい。
【0067】
本発明の一実施形態に係るαゲル含有組成物は、化粧品又は医薬(部外)品に使用する場合の使用感により優れるとの観点から、バイオサーファクタントと、高級アルコールと、多価アルコールとに加えて、さらに、前記油剤及び/又は後述する増粘剤を含むことがより好ましい。
【0068】
(増粘剤)
本発明の一実施形態に係るαゲル含有組成物は、バイオサーファクタントと、高級アルコールと、に加えてさらに増粘剤を含んでいてもよい。増粘剤を含んでいることにより、本発明の一実施形態に係るαゲル含有組成物は、水相の分離がさらに抑制されて、安定性が向上するため、好ましい。
【0069】
前記増粘剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、キサンタンガム、カルボマー、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、アラビアガム、ジェランガム、スクレロチウムガム等を挙げることができる。これらは、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0070】
本発明の一実施形態に係る、バイオサーファクタントと、高級アルコールと、に加えてさらに増粘剤を含むαゲル含有組成物において、前記高級アルコールの含有量に対する、前記増粘剤の含有量の比は、質量比で、0.01以上であることが好ましく、0.03以上であることがより好ましく、0.05以上であることがさらに好ましく、0.10以上であることが特に好ましい。前記質量比の上限は、特に限定されるものではないが、例えば10.00である。前記高級アルコールの含有量に対する、前記増粘剤の含有量の比が前記範囲内であれば、αゲル含有組成物の安定性をより向上させることができるため、好ましい。
【0071】
本発明の一実施形態に係るαゲル含有組成物は、化粧品又は医薬(部外)品に使用する場合の使用感により優れるとの観点から、バイオサーファクタントと、高級アルコールと、増粘剤とに加えて、さらに、前記油剤及び/又は前記多価アルコール含むことがより好ましい。
【0072】
(その他の成分)
本発明の一実施形態に係るαゲル含有組成物は、バイオサーファクタントと、高級アルコールと、必要に応じて、油剤、多価アルコール、及び増粘剤からなる群より選択される、少なくともいずれか一種と、に加えて、本発明の効果に好ましくない影響を与えない範囲で、その他の成分を含んでもよい。前記その他の成分としては、これに限定されるものではないが、紫外線吸収剤、酸化防止剤、エモリエント剤、乳化剤、可溶化剤、抗炎症剤、保湿剤、防腐剤、pH調整剤、色素、香料、粉体類等を挙げることができる。前記乳化剤としては、前記バイオサーファクタント以外の乳化剤を意図し、例えば、各種アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、及びノニオン性界面活性剤を使用することができる。
【0073】
前記その他の成分の含有量は、本発明の効果に好ましくない影響を与えない限りにおいて特に限定されないが、例えば、αゲル含有組成物の全質量に対して0~99質量%である。
【0074】
(水)
本発明の一実施形態に係るαゲル含有組成物は、バイオサーファクタントと、高級アルコールと、必要に応じて、油剤、多価アルコール、及び増粘剤からなる群より選択される少なくともいずれか一種と、必要に応じて、前記その他の成分とを含み、残部は水である。
【0075】
本発明の一実施形態において、αゲル含有組成物に含まれる水の量は特に限定されないが、αゲル含有組成物の全質量に対して、好ましくは1質量%~99質量%であり、より好ましくは5質量%~95質量%であり、さらに好ましくは10質量%~90質量%である。
【0076】
αゲル含有組成物の全質量に対する水の含有量が、1質量%以上であればαゲル形成の観点で好ましい。また、99質量%以下であればαゲル形成の観点で好ましい。
【0077】
本発明の一実施形態において、使用する水としては、蒸留水、イオン交換水、常水等を好適に用いることができる。
【0078】
(αゲル含有組成物のpH)
本発明の一実施形態に係るαゲル含有組成物は、pHが5.0以上であることが好ましい。pHが5以上であれば、αゲル含有組成物の安定性に優れるため、好ましい。αゲル含有組成物は、pHが6.0以上であることがより好ましい。また、αゲル含有組成物のpHは、12.0以下であることが好ましく、11.5以下であることがより好ましく、11.0以下であることがさらに好ましい。
【0079】
本発明の一実施形態に係るαゲル含有組成物のpHは、αゲル含有組成物の調製時に、pH調製剤を添加することにより、調整することができる。αゲル含有組成物をアルカリ側に調整するpH調製剤としては、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、トリエタノールアミン、アルギニン、クエン酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、コハク酸二ナトリウム等を挙げることができる。また、αゲル含有組成物を酸側に調整するpH調製剤としては、クエン酸、乳酸、リンゴ酸等又はこれらの塩を挙げることができる。
【0080】
(αゲル含有組成物の平均粒子径)
本発明の一実施形態に係るαゲル含有組成物の平均粒子径は、好ましくは200.0μm以下であり、より好ましくは100.0μm以下であり、さらに好ましくは50.0μm以下である。
【0081】
なお、ここで、αゲル含有組成物の平均粒子径とは、ラメラ状の多層膜の会合体で包まれた油の粒子の平均粒子径を意図し、多層膜も含んだ寸法である。
【0082】
αゲル含有組成物の平均粒子径が、200.0μm以下であれば、乳化安定性の観点で好ましい。
【0083】
ここで、αゲル含有組成物の平均粒子径とは、メジアン径(体積基準)を意味し、後述する実施例に記載の方法により測定した値である。
【0084】
[2.αゲル含有組成物の製造方法]
本発明の一実施形態に係るαゲル含有組成物の製造方法は、目的とするαゲル含有組成物を得ることができる方法であれば、特に限定されることはなく、様々な方法を採用することができる。
【0085】
以下に、バイオサーファクタントと、高級アルコールと、油剤とを含むαゲル含有組成物を例に挙げて、本発明の一実施形態に係るαゲル含有組成物の製造方法について説明する。かかるαゲル含有組成物の製造方法は、バイオサーファクタントと、高級アルコールと、油剤とを含む油相を調製する油相調製工程、別途水を含む水相を調製する水相調製工程、及び、前記水相と前記油相とを混合して乳化する乳化工程を包含し得る。
【0086】
前記油相調製工程において、前記バイオサーファクタントと、前記高級アルコールと、前記油剤とを含む油相を調製する方法は、これらの成分を混合できる方法であれば特に限定されるものではない。例えば、前記バイオサーファクタントと、前記高級アルコールとを混合して相互に溶解させた後、この混合物に前記油剤を添加する方法を好適に採用することができる。しかし、各成分を混合する順序はこれに限定されるものではなく、どのような順であってもよい。また、油相調製工程において、各成分を混合する温度も特に限定されるものではなく、各成分が相互に溶解する温度であればよい。
【0087】
前記水相調製工程は、水と、必要に応じて、多価アルコール、pH調製剤等の水溶性成分とを混合できる方法であれば特に限定されるものではない。各成分を混合する順序は特に限定されるものではなく、どのような順であってもよい。また、水相調製工程において、各成分を混合する温度も特に限定されるものではなく、各成分が相互に溶解する温度であればよい。水相調製工程で得られる水相のpHは、好ましくは5.0以上であり、より好ましくは6.0以上である。
【0088】
前記乳化工程は、前記水相調製工程で得られた水相と、前記油相調製工程で得られた油相とを乳化させることができる工程であれば、その方法は特に限定されるものではない。好ましくは、前記水相と油相とを、混合して、40℃~90℃、より好ましくは60℃~90℃で撹拌する方法を挙げることができる。前記水相と油相とを、混合する方法は特に限定されず、前記水相に前記油相を添加してもよいし、前記油相に前記水相を添加してもよい。添加方法も特に限定されず、徐々に添加してもよいし、一気に添加してもよい。前記水相と前記油相とは、混合時に、40℃~90℃、より好ましくは60℃~90℃に加熱されていることがより好ましい。前記水相と油相とを混合して撹拌する方法は特に限定されず、ホモミキサー、ホモディスパー、スリーワンモーター等を用いて撹拌すればよい。中でもホモミキサーがより好ましく用いられる。前記水相と油相とを混合して撹拌する撹拌スピードも、特に限定されるものではないが、例えば1000rpm以上であり、より好ましくは2000rpm以上である。また、攪拌時間も特に限定されるものではないが、例えば10秒以上であり、より好ましくは1分以上である。
【0089】
前記乳化工程で前記水相と前記油相とを乳化した後、得られたαゲル含有組成物を攪拌しながら、放冷または冷却装置により冷却することが好ましい。
【0090】
[3.αゲル含有組成物の利用]
本発明の一実施形態に係るαゲル含有組成物は、安定性に優れ、且つ、化粧品又は医薬(部外)品に使用する場合の使用感に優れることから、化粧料または医薬(部外)品に好適に用いることができる。すなわち、本発明の一態様には、本発明の一実施形態に係るαゲル含有組成物を含む化粧料または医薬(部外)品も含まれる。
【0091】
本発明の一実施形態に係る化粧料または医薬(部外)品としては、スキン化粧料(化粧水、美容液、乳液、クリーム等)、口紅、日焼け止め化粧料、メークアップ化粧料などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。本発明の一実施形態に係るαゲル含有組成物は、化粧水、美容液、乳液、クリームパック・マスク、パック、洗髪用化粧品、フレグランス化粧品、液体ボディ洗浄料、UVケア化粧品、防臭化粧品、オーラルケア化粧品等(化粧品の場合)などの水性化粧料に使用することが好ましい。
【0092】
本発明の一実施形態に係る化粧料または医薬(部外)品は、本発明の一実施形態に係るαゲル含有組成物以外に水等の溶媒および/またはその他添加剤を含んでいても良い。
【0093】
本発明の一実施形態に係る化粧料または医薬部外品が含み得るその他添加剤としては、例えば、油脂類、ロウ類、鉱物油、脂肪酸類、アルコール類、エステル類、金属セッケン、ガム質および水溶性高分子化合物、ビタミン類、アミノ酸、美白剤、保湿剤、育毛剤、α-ヒドロキシ酸、無機顔料、紫外線吸収剤、収斂剤、抗酸化剤、抗炎症剤、殺菌・消毒薬、香料、色素・着色剤、ホルモン類、金属イオン封鎖剤、pH調整剤、キレート剤、防腐・防バイ剤、清涼剤、安定化剤、動・植物性蛋白質およびその分解物、動・植物性多糖類およびその分解物、動・植物性糖蛋白質およびその分解物、血流促進剤、消炎剤・抗アレルギー剤、細胞賦活剤、角質溶解剤、創傷治療剤、増泡剤、増粘剤、口腔用剤、消臭・脱臭剤などが挙げられる。
【実施例0094】
以下、実施例及び比較例によって本発明の一実施形態をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0095】
[使用材料]
(界面活性剤)
・バイオサーファクタント:STL C14
・ステアリン酸グリセリル(日光ケミカルズ株式会社製、NIKKOL MGS-BV2)
(高級アルコール)
・セテアリルアルコール(花王株式会社製、カルコール6850)
・セタノール(花王株式会社製、カルコール6098)
・ステアリルアルコール(花王株式会社製、カルコール8098)
・ベヘニルアルコール(花王株式会社製、カルコール220-80)
(油剤)
・マイクロクリスタリンワックス(日興リカ株式会社製、精製マイクロクリスタリンワックス)
・ジメチコン(信越化学工業株式会社製、KF-96A-6CS)
・スクワラン(高級アルコール工業株式会社製、オリーブスクワラン)
・2-エチルヘキサン酸セチル(高級アルコール工業株式会社製、CEH)
(多価アルコール)
・1,3-ブチレングリコール(株式会社ダイセル社製、1,3BG)
・グリセリン(阪本薬品工業株式会社製、化粧品用濃グリセリン)
・ペンチレングリコール(高級アルコール工業株式会社製、ジオールPD)
(増粘剤)
・キサンタンガム(三晶株式会社製、KELTROL CG-BT)
・カルボマー(ルーブリゾール社製、Carbopol 980)
[STL C14の取得]
Y.Uchidaら、Agric.Biol.Chem.,53(3):765-769(1989)に記載の方法に従って、ロドコッカス・エリスロポリス SD-74株を以下の条件でシード培養した。本実施例において用いたロドコッカス・エリスロポリス SD-74株は、植物油脂資化性菌として分離され、独立行政法人製品評価技術基盤機構
特許微生物寄託センターに、「受託番号:NITE P-03788」として寄託されている。
【0096】
500ml容坂口フラスコ中のFPY培地100ml(フルクトース(富士フイルム和光純薬社)2%、ポリペプトン(富士フイルム和光純薬社)0.5%、イーストエキス末(Oxoid社)0.5%、NaNO3(富士フイルム和光純薬社)0.1%、KH2PO4(富士フイルム和光純薬社)0.1%、MgSO4-7H2O(富士フイルム和光純薬社)0.1%)に、ロドコッカス・エリスロポリス SD-74株を植菌し、30℃で72時間振とう培養を行い、シード培養液を得た。
【0097】
改変MedD培地(1L当たり、KH2PO4(富士フイルム和光純薬社)5.44g、K2HPO4(富士フイルム和光純薬社)10.45g、KNO3(富士フイルム和光純薬社)3g、MgSO4-7H2O(富士フイルム和光純薬社)0.1g、イーストエキス末(Oxoid社)3gを純水で900mlにメスアップ)6300mlを高温高圧滅菌し、別途高温高圧滅菌したテトラデカン(東京化成工業社)700mlを加え、前記シード培養液140mlを接種し、以下の条件で本培養を開始した。10Lジャー培養槽(エーブル社)を用いて、培養温度30℃で、300rpmで攪拌させながら培養した。なお培養中は50% KOH(富士フイルム和光純薬社)を添加することによって培地のpHを7.0に維持した。
【0098】
培養360時間後の培養液3700mlを、6500rpmで60分間遠心分離し、液中の菌体および残存基質を除去した後、6N HCl(富士フイルム和光純薬社)を150ml添加し、溶液のpHを2.98にしたところ、溶液中に白色のゲル状析出物が析出した。この溶液を6500rpmで30分間遠心分離することによって、液層を除去した結果、湿重量760gの析出物が得られた。
【0099】
得られた析出物に760gの酢酸エチル(富士フイルム和光純薬社)を添加し、十分に攪拌した。水層と酢酸エチル層とに分離した溶液を、分液漏斗を用いて分離し上層の酢酸エチル層を回収した。回収した酢酸エチル溶液から、エヴァポレーターを用いて酢酸エチルを除去した。酢酸エチルを除去して得られた固形物を等量のヘキサン(富士フイルム和光純薬社)で懸濁した後、懸濁液を遠心分離してヘキサンを除去する工程を3回繰り返した。ヘキサンを除去して得られた液体をエヴァポレーターで乾固し、白色固形物(STL C14)100gを得た。
【0100】
得られたSTL C14は、テトラデカンを炭素源として生成されたカルボキシル基を有するサクシノイルトレハロース脂質である。
【0101】
[STL C14の物性]
(STL C14の臨界ミセル濃度(CMC)の測定)
高機能表面張力計(D Y―500(協和界面科学株式会社製)を用いて白金板吊板式法による表面張力測定を実施し、常法に従ってSTL C14、STL C16、STL
C18、ラウリル硫酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、カプリル酸ナトリウムの臨界ミセル濃度(CMC)を算出した。
【0102】
得られたSTL C14のCMCは2.2×10-5Mであった。
【0103】
(STL C14の細胞毒性試験)
L. Vian, J. Vinvent, J. Maurin, I. Fabre, J. Giroux, J. P. Cano, Toxicol in vitro, 9(2), p185-190,1995記載の方法に従って細胞毒性試験を実施した。STL C14を用いて、STLの終濃度が1質量ppm、5質量ppm、10質量ppm、25質量ppm、50質量ppm、100質量ppm、250質量ppm、500質量ppmまたは1000質量ppmとなるようにSTLサンプル添加培地を調製した。非働化処理済み牛胎児血清(終濃度10%)を含むDMEM培地(富士フィルム和光純薬社)を用いて、L929マウス線維芽細胞(ケー・エー・シー社)が2.0×105cells/mLとなるように細胞懸濁液を調製し、96well マルチウェルプレート (サーモフィッシャ社)に150μL/wellでL929マウス線維芽細胞を播種した。なお細胞培養実験におけるテクニカルレプリケートは3で実験を行った。37℃、5%CO2雰囲気下で24時間培養後、STLサンプル添加培地を150μL/wellで添加した。
【0104】
37℃、5%CO2雰囲気下で24時間培養後、培地を廃棄し、Neutral Red(富士フィルム和光純薬社)を終濃度50μg/mLとなるように加えたDMEM培地を150μL/wellで添加した。37℃、5%CO2雰囲気下で3時間培養後、培地を廃棄し、D-PBS(-)液(富士フィルム和光純薬社)で細胞を洗浄した。エタノール(富士フィルム和光純薬社)を用いて50%エタノール水溶液を調製し、氷酢酸(富士フィルム和光純薬社)を終濃度1%となるように50%エタノール水溶液に加えた。この1%氷酢酸エタノール水溶液を100μL/wellで添加し、細胞を固定した。5分後にコロナマルチグレーティングマイクロプレートリーダ SH-9000Lab(日立ハイテクサイエンス社)を用いて546nmの吸光度を測定し、Neutral Redを取り込んだ生細胞を数値化した。細胞毒性の評価スコアとして50%細胞増殖抑制濃度(IC50)を計算した。
【0105】
得られたSTL C14のIC50は344であった。
【0106】
[実施例1]
0.100質量部のバイオサーファクタントと、高級アルコールとして、3.000質量部のセテアリルアルコールとを80℃~85℃で混合して、バイオサーファクタントを高級アルコールに溶解した溶液を得た。得られた溶液に、油剤として、50.000質量部のスクワランを添加し、80℃~85℃に加熱したものを油相とした。
【0107】
別途、精製水46.590質量部を、0.013質量部の水酸化ナトリウムと混合して80℃~85℃に加熱したものを水相とした。
【0108】
ホモミキサーを用いて3000rpmで撹拌しながら、前記水相に、前記油相を徐々に添加し、全量添加後、5000rpmで5分間撹拌した。混合物が乳化した直後に、増粘剤として、キサンタンガムを2%水溶液として10.000質量部(キサンタンガムとして0.200質量部)添加した。その後、増粘剤を添加した混合物を、1000rpmで撹拌しながら、放冷により35℃まで冷却し、ゲル状組成物を得た。X線回析パターンを確認した結果、得られたゲル状組成物はαゲル含有組成物であった。
【0109】
[実施例2]
高級アルコールとして、3.000質量部のセテアリルアルコールの代わりに、2.000質量部のセテアリルアルコールと1.000質量部のベヘニルアルコールとを使用した以外は、実施例1と同じ操作を行ってゲル状組成物を得た。
【0110】
[実施例3]
高級アルコールとして、3.000質量部のセテアリルアルコールの代わりに、2.100質量部のセタノールと0.900質量部のステアリルアルコールとを使用した以外は、実施例1と同じ操作を行ってゲル状組成物を得た。X線回析パターンを確認した結果、得られたゲル状組成物はαゲル含有組成物であった。
【0111】
[実施例4]
油剤として、50.000質量部のスクワランの代わりに、50.000質量部の2-エチルヘキサン酸セチルを使用した以外は、実施例1と同じ操作を行ってゲル状組成物を得た。
【0112】
[実施例5]
油剤として、50.000質量部のスクワランの代わりに、50.000質量部のジメチコンを使用した以外は、実施例1と同じ操作を行ってゲル状組成物を得た。X線回析パターンを確認した結果、得られたゲル状組成物はαゲル含有組成物であった。
【0113】
[実施例6]
油剤として、50.000質量部のスクワランに加えて、0.500質量部のマイクロクリスタリンワックスを使用し、これに伴い精製水の配合量を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同じ操作を行ってゲル状組成物を得た。
【0114】
[実施例7]
油剤として、スクワラン使用量を、50.000質量部から30.000質量部に変更し、これに伴い精製水の配合量を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同じ操作を行ってゲル状組成物を得た。X線回析パターンを確認した結果、得られたゲル状組成物はαゲル含有組成物であった。
【0115】
[実施例8]
水相の調製において、10.000質量部の1,3-ブチレングリコール(多価アルコール)を添加し、これに伴い精製水の配合量を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同じ操作を行ってゲル状組成物を得た。
【0116】
具体的には、精製水36.590質量部を、0.013質量部の水酸化ナトリウム及び10.000質量部の1,3-ブチレングリコール(多価アルコール)と混合して80℃~85℃に加熱したものを水相とした。
【0117】
X線回析パターンを確認した結果、得られたゲル状組成物はαゲル含有組成物であった。
【0118】
[実施例9]
10.000質量部の1,3-ブチレングリコール(多価アルコール)を、10.000質量部のグリセリン(多価アルコール)に変更した以外は、実施例8と同じ操作を行ってゲル状組成物を得た。
【0119】
[実施例10]
10.000質量部の1,3-ブチレングリコール(多価アルコール)を、10.000質量部のペンチレングリコール(多価アルコール)に変更した以外は、実施例8と同じ操作を行ってゲル状組成物を得た。
【0120】
[実施例11]
水相の調製において、10.000質量部の1,3-ブチレングリコール(多価アルコール)を添加し、これに伴い精製水の配合量を表1に示すように変更した以外は、実施例5と同じ操作を行ってゲル状組成物を得た。
【0121】
具体的には、精製水36.590質量部を、0.013質量部の水酸化ナトリウム及び10.000質量部の1,3-ブチレングリコール(多価アルコール)と混合して80℃~85℃に加熱したものを水相とした。
【0122】
X線回析パターンを確認した結果、得られたゲル状組成物はαゲル含有組成物であった。
【0123】
[実施例12]
界面活性剤として、0.100質量部のバイオサーファクタントに加えて、0.100質量部のステアリン酸グリセリル(ノニオン性界面活性剤)を使用し、これに伴い精製水の配合量を表2に示すように変更した以外は、実施例1と同じ操作を行ってゲル状組成物を得た。
【0124】
具体的には、油相の調製において、0.100質量部のバイオサーファクタントと、0.100質量部のステアリン酸グリセリルと、3.000質量部のセテアリルアルコールとを混合して、界面活性剤を高級アルコールに溶解した溶液を得、得られた溶液に、油剤として、50.000質量部のスクワランを添加し、80℃~85℃に加熱した。
【0125】
[実施例13]
バイオサーファクタントの配合量を、0.100質量部から0.300質量部に変更し、これに伴い精製水及び水酸化ナトリウムの配合量を表2に示すように変更した以外は、実施例1と同じ操作を行ってゲル状組成物を得た。X線回析パターンを確認した結果、得られたゲル状組成物はαゲル含有組成物であった。
【0126】
[実施例14]
バイオサーファクタントの配合量を、0.100質量部から0.030質量部に変更し、これに伴い精製水及び水酸化ナトリウムの配合量を表2に示すように変更した以外は、実施例1と同じ操作を行ってゲル状組成物を得た。X線回析パターンを確認した結果、得られたゲル状組成物はαゲル含有組成物であった。
【0127】
[実施例15]
バイオサーファクタント及び高級アルコールの配合量を1.5倍に変更し、これに伴い精製水及び水酸化ナトリウムの配合量を表2に示すように変更した以外は、実施例1と同じ操作を行ってゲル状組成物を得た。
【0128】
具体的には、バイオサーファクタントの配合量を0.100質量部から0.150質量部に変更し、セテアリルアルコールの配合量を3.000質量部から4.500質量部に変更した。また、これに伴い、精製水の配合量を46.590質量部から45.030質量部に、水酸化ナトリウムの配合量を0.013質量部から0.020質量部に変更した。
【0129】
[実施例16]
増粘剤(キサンタンガム0.200質量部)を使用せず、これに伴い精製水の配合量を表2に示すように変更した以外は、実施例1と同じ操作を行ってゲル状組成物を得た。
【0130】
[実施例17]
増粘剤として、キサンタンガム0.200質量部の代わりに、水酸化ナトリウムで中和したカルボマー(カルボマーの2%水溶液10.000質量部(カルボマーとして0.200質量部)に水酸化ナトリウム0.100質量部を添加して調製したもの)を添加した以外は、実施例1と同じ操作を行ってゲル状組成物を得た。これに伴う水酸化ナトリウムの全体としての配合量は表2に示すとおりである。
【0131】
[実施例18]
水相の調製において、さらに0.029質量部のクエン酸を添加し、これに伴い精製水の配合量を表2に示すように変更した以外は、実施例1と同じ操作を行ってゲル状組成物を得た。
【0132】
具体的には、精製水46.560質量部を、0.013質量部の水酸化ナトリウム及び0.029質量部のクエン酸と混合して80℃~85℃に加熱したものを水相とした。
【0133】
[実施例19]
クエン酸の配合量を0.029質量部から0.016質量部に変更した以外は、実施例18と同じ操作を行ってゲル状組成物を得た。
【0134】
[実施例20]
クエン酸の配合量を0.029質量部から0.009質量部に変更した以外は、実施例18と同じ操作を行ってゲル状組成物を得た。
【0135】
[比較例1]
0.100質量部のバイオサーファクタントを添加せず、これに伴い精製水の配合量を表2に示すように変更した以外は、実施例1と同じ操作を行ってゲル状組成物を得た。X線回析パターンを確認した結果、得られたゲル状組成物はαゲルを含有していなかった。
【0136】
[比較例2]
0.100質量部のバイオサーファクタントを、0.100質量部のステアリン酸グリセリル(ノニオン性界面活性剤)に変更した以外は、実施例1と同じ操作を行ってゲル状組成物を得た。
【0137】
[ゲル状組成物の評価]
実施例及び比較例にて得られたゲル状組成物がαゲル含有組成物であるか否かの評価、平均粒子径の測定、安定性及び使用感の評価を、以下に示す方法により行った。
【0138】
(αゲル含有組成物であるか否かの評価)
以下の条件でXRD測定を行い、広角領域の21°~22°の間のシャープなピークの有無からαゲル形成を判断した。具体的には、広角領域の21°~22°の間にシャープなピークが存在する場合は、αゲル含有組成物であると判断した。
<XRD測定>
装置:Smart Lab(株式会社リガク製)
X線源:Cu K-α (1.5405Å)
管電圧:45kV
管電流:200mA
(平均粒子径)
HORIBA社製粒子径測定装置LA‐950V2にてメジアン径(体積基準)として平均粒子径を測定した。測定は室温にて行った。
【0139】
(安定性評価(1))
実施例及び比較例にて得られたゲル状組成物を、蓋付のガラス容器に入れて密封し、25℃で、1時間静置した後、ゲル状組成物の状態を観察し、以下の基準により評価した。なお、艶があるとは、ゲル状組成物に艶がある状態をいう。
A:上部表面での油相分離無し、艶有り
B:上部表面での油相分離無し、艶無し
C:わずかに上部表面での油相分離有り
D:上部表面で油相が分離している
(安定性評価(2))
実施例及び比較例にて得られたゲル状組成物を、蓋付のガラス容器に入れて密封し、50℃で、1週間静置した後、ゲル状組成物の状態を観察し、以下の基準により評価した。A:下相分離(下部で起こる水相の分離)なし
D:下相分離(下部で起こる水相の分離)あり
(使用感)
専門パネラー5名で使用感を評価した。具体的には、実施例及び比較例にて得られたゲル状組成物を、前腕内側部の皮膚に塗布したときの使用感を評価した。
【0140】
評価は以下の基準により行った。コク感があるとは、塗布時に厚みと抵抗感を感じる状態を示す。5名のパネラーの評価結果を平均して四捨五入した値を「使用感」とした。
5:非常にコク感がある
4:コク感がある
3:ややコク感がある
2:ほとんどコク感がない
1:コク感がない
(評価結果)
評価結果を以下の表1及び表2に、各成分の配合量と共に示す。表中、配合量の単位は質量部である。また、表1において、メジアン径の記載がない部分はメジアン径を測定していない。また、比較例1では、ゲル状組成物が分離したため、使用感の評価を行わなかった。
【0141】
【0142】
【0143】
[まとめ]
実施例より、バイオサーファクタントと高級アルコールとを含むゲル状組成物が、αゲルを形成することが確認された。また、得られたαゲル含有組成物は、同様の条件で、バイオサーファクタントの代わりに、ステアリン酸グリセリル(ノニオン性界面活性剤)を使用して得られたゲル状組成物と比較して、安定性及び使用感が優れていた。
【0144】
さらに、バイオサーファクタントと高級アルコールに加えて、多価アルコールを使用した、実施例8~11にて得られたαゲル含有組成物は、使用感が非常に優れていた。また、バイオサーファクタントと高級アルコールに加えて、多価アルコールを使用した、実施例8~11にて得られたαゲル含有組成物は、平均粒子径が小さく、αゲル含有組成物の粒子径が微細化されていることが分かる。また、実施例16と実施例17の比較より、増粘剤を含んでいるαゲル含有組成物は、水相の分離がさらに抑制されて、安定性が向上することが示された。
【0145】
[処方例]
得られたバイオサーファクタントSTL C14を用いて、下記表3に記載の処方例1~4の乳化組成物を調製した。
【0146】
(調整方法)
予め80℃~85℃で混合溶解した油相1、及び油相2を準備し、2つを混合したものを油相とした。別途、80℃~85℃で加熱混合した水相を準備した。水酸化ナトリウムは水相のpHが8になるように添加した。
【0147】
ホモミキサーを用いて3000rpmで撹拌しながら、前記水相に、前記油相を徐々に添加し、全量添加後、5000rpmで5分間撹拌した。その後、1000rpmで撹拌しながら、放冷により55℃まで冷却した時点で添加剤1、及び添加剤2を添加し35℃まで冷却し、乳化組成物を得た。この乳化組成物は塗布時にコク感を感じ、使用感に優れるものであった。
【0148】
本発明の一実施形態に係るバイオサーファクタントと高級アルコールとを含むαゲル含有組成物は、安定性に優れ、且つ、化粧品又は医薬(部外)品に使用する場合の使用感に優れる。したがって、本発明の一実施形態に係るαゲル含有組成物は、化粧料、医薬(部外)品等に広く利用可能である。