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特開2024-164805液晶配向剤、液晶配向膜及び液晶素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024164805
(43)【公開日】2024-11-27
(54)【発明の名称】液晶配向剤、液晶配向膜及び液晶素子
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/1337 20060101AFI20241120BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20241120BHJP
   C08F 20/10 20060101ALI20241120BHJP
【FI】
G02F1/1337 520
C08G73/10
C08F20/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024039415
(22)【出願日】2024-03-13
(31)【優先権主張番号】P 2023080091
(32)【優先日】2023-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100122390
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 美穂
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(72)【発明者】
【氏名】島田 直昭
(72)【発明者】
【氏名】村上 嘉崇
【テーマコード(参考)】
2H290
4J043
4J100
【Fターム(参考)】
2H290AA15
2H290AA18
2H290AA33
2H290AA53
2H290AA73
2H290BD01
2H290BF13
2H290BF24
2H290BF25
2H290BF54
2H290DA01
2H290DA03
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4J043PA06
4J043QB26
4J043RA05
4J043RA06
4J043SA05
4J043SA06
4J043SA66
4J043SA71
4J043SB04
4J043SB05
4J043TA22
4J043TB03
4J043TB04
4J043UA041
4J043UA121
4J043UA122
4J043UA131
4J043UA141
4J043UA151
4J043UA211
4J043UA222
4J043UA331
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4J043VA051
4J043XA16
4J043YA02
4J043YA22
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4J043ZA09
4J043ZA12
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4J043ZB23
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4J100BA12R
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4J100BC04S
4J100BC43Q
4J100BC43R
4J100BC43S
4J100BC43T
4J100BC79T
4J100JA32
(57)【要約】
【課題】良好なプレチルト角特性及び電圧保持特性を示しながら、高温高湿耐性に優れ、かつ基板に対する密着性に優れた液晶配向膜を形成できる液晶配向剤を提供すること。
【解決手段】光配向性構造を含む側鎖と、光開始剤構造を含む側鎖とを有するか、又は光配向性構造と光開始剤構造とを含む側鎖を有する重合体(P)と、重合体(P)とは異なる重合体(Q)と、を含有する液晶配向剤とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光配向性構造を含む側鎖と、光開始剤構造を含む側鎖とを有するか、又は光配向性構造と光開始剤構造とを含む側鎖を有する重合体(P)と、
前記重合体(P)とは異なる重合体(Q)と、
を含有する、液晶配向剤。
【請求項2】
前記重合体(P)は、光配向性構造を含む側鎖を有する構造単位と、光開始剤構造を含む側鎖を有する構造単位とを含む、請求項1に記載の液晶配向剤。
【請求項3】
前記重合体(Q)は、光開始剤構造を有しない重合体である、請求項1に記載の液晶配向剤。
【請求項4】
前記重合体(P)は、付加重合体、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド及びポリオルガノシロキサンよりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の液晶配向剤。
【請求項5】
前記重合体(Q)は、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド、ポリアミド、付加重合体及びポリオルガノシロキサンよりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の液晶配向剤。
【請求項6】
前記重合体(P)は、付加重合体であり、
前記重合体(Q)は、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド、ポリアミド、付加重合体及びポリオルガノシロキサンよりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の液晶配向剤。
【請求項7】
前記重合体(P)及び前記重合体(Q)の主鎖が異なる、請求項1に記載の液晶配向剤。
【請求項8】
架橋剤を更に含有する、請求項1に記載の液晶配向剤。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜。
【請求項10】
請求項9に記載の液晶配向膜を備える液晶素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶配向剤、液晶配向膜及び液晶素子に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶配向剤によって形成された高分子膜に液晶配向能を付与する方法としては、ラビング法や光配向法が知られている。光配向法は、基板上に形成した感放射線性の有機薄膜に対し、偏光又は非偏光の放射線を照射することによって膜に異方性を与え、これにより液晶の配向を制御する方法である。この方法によれば、従来のラビング法に比べて、工程内での埃や静電気の発生を抑制することができ、表示不良の発生や歩留まりの低下を抑制することが可能である。また、基板上に形成された有機薄膜に対して、液晶配向能を均一に付与できるといったメリットもある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
スマートフォンやタブレットPC等に代表されるモバイル用途の表示装置では、タッチパネルの稼働面積をより広く、かつ表示装置の小型化を両立させるために狭額縁化を図ることが行われている。狭額縁化を図る方法の1つとしては、基板面全体に液晶配向膜を形成した後、シール材形成用材料を液晶配向膜上に塗布して基板同士を貼り合わせる方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2018/074546号
【特許文献2】特開2013-109154号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
液晶素子は、多用途化に伴い従来よりも過酷な環境下で使用されることが想定される。そこで液晶配向膜としては、過酷な条件で使用される場合にも性能を高度に維持できることが求められる。具体的には、放射線照射によって所望のプレチルト角を付与可能であり(すなわち、プレチルト角特性が良好であり)、かつ液晶素子の電圧保持率を高く維持することが可能でありながら、高温高湿環境下での使用にも耐え得る信頼性を備えていることが求められる。
【0006】
液晶素子の狭額縁化を図ること等を目的として液晶配向膜上にシール材形成用材料を配置した場合、シール材部分において液晶配向膜の基板からの剥がれが生じやすい傾向がある。特に近年では、更なる狭額縁化を図るべくシール材の幅(以下、「シール幅」ともいう)を狭くすることが検討されている。幅狭のシール材を液晶配向膜上に配置して基板同士を貼り合わせた場合にも、液晶配向膜の基板からの剥がれが生じにくいことが求められる。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、良好なプレチルト角特性及び電圧保持特性を示しながら、高温高湿耐性に優れ、かつ基板に対する密着性に優れた液晶配向膜を形成できる液晶配向剤を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、以下の液晶配向剤、液晶配向膜及び液晶素子が提供される。
[1] 光配向性構造を含む側鎖と、光開始剤構造を含む側鎖とを有するか、又は光配向性構造と光開始剤構造とを含む側鎖を有する重合体(P)と、前記重合体(P)とは異なる重合体(Q)と、を含有する、液晶配向剤。
[2] 上記[1]の液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜。
[3] 上記[2]の液晶配向膜を備える液晶素子。
【発明の効果】
【0009】
本発明の液晶配向剤によれば、上記の重合体(P)及び重合体(Q)を含有することにより、良好なプレチルト角特性及び電圧保持特性を示しながら、高温高湿耐性に優れ、かつ基板に対する密着性に優れた液晶配向膜を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
≪液晶配向剤≫
本開示の液晶配向剤は、光配向性構造を含む側鎖と、光開始剤構造を含む側鎖とを有するか、又は光配向性構造と光開始剤構造とを含む側鎖を有する重合体(P)と、重合体(P)とは異なる重合体(Q)と、を含有する。以下に、液晶配向剤に含まれる各成分、及び必要に応じて任意に配合される成分(以下、「その他の成分」ともいう)について説明する。なお、各成分については特に言及しない限り、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0011】
ここで、本明細書において、「炭化水素基」とは、鎖状炭化水素基、脂環式炭化水素基及び芳香族炭化水素基を含む意味である。「鎖状炭化水素基」とは、主鎖に環状構造を含まず、鎖状構造のみで構成された直鎖状炭化水素基及び分岐状炭化水素基を意味する。ただし、鎖状炭化水素基は飽和でも不飽和でもよい。「脂環式炭化水素基」とは、環構造としては脂環式炭化水素の構造のみを含み、芳香環構造を含まない炭化水素基を意味する。ただし、脂環式炭化水素基は脂環式炭化水素の構造のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状構造を有するものも含む。「芳香族炭化水素基」とは、環構造として芳香環構造を含む炭化水素基を意味する。ただし、芳香族炭化水素基は芳香環構造のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状構造や脂環式炭化水素の構造を含んでいてもよい。「芳香環」は、芳香族炭化水素環及び芳香族複素環を含む意味である。「有機基」とは、炭素を含む化合物(すなわち有機化合物)から任意の水素原子を取り除いてなる原子団をいう。
【0012】
重合体の「主鎖」とは、重合体のうち最も長い原子の連鎖からなる「幹」の部分をいう。この「幹」の部分が環構造を含むことは許容される。例えば、重合体が「特定構造を主鎖に有する」とは、その特定構造が重合体の主鎖の一部分を構成することをいう。「側鎖」とは、重合体の「幹」から分岐した部分をいう。例えば、重合体が「特定構造を側鎖に有する」とは、重合体が有する側鎖の少なくとも一部にその特定構造を含むことをいう。「構造単位」とは、重合体の主鎖構造を主として構成する単位であって、少なくとも主鎖構造中に2個以上含まれる単位をいう。構造単位は、典型的には、1つの単量体を基に構成される繰り返し単位であるが、反応性基を有する繰り返し単位に対し、当該反応性基と反応し得る官能基を有する化合物を反応させることによって得られるものであってもよい。
【0013】
<重合体(P)>
(光配向性構造)
重合体(P)が側鎖に有する光配向性構造は、光照射に伴い光異性化反応、光二量化反応、光分解反応、光フリース転位反応等が引き起こされることによって膜に異方性を付与する官能基である。光配向性構造の具体例としては、例えばアゾベンゼン又はその誘導体を基本骨格として含むアゾベンゼン含有構造、桂皮酸又はその誘導体を基本骨格として含む桂皮酸含有構造、カルコン又はその誘導体を基本骨格として含むカルコン含有構造、クマリン又はその誘導体を基本骨格として含むクマリン含有構造等が挙げられる。重合体(P)が有する光配向性構造は、光照射により膜に異方性を付与しやすい点や、液晶配向能に優れている点、重合体への導入が容易である点で、これらのうち、桂皮酸含有構造であることが好ましい。具体的には、重合体(P)は、下記式(1)で表される部分構造を側鎖に有することが好ましい。
【化1】
(式(1)中、R及びRは、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、水酸基、カルボキシ基、アミノ基、-SiH、リン酸基、炭素数1~10の1価の炭化水素基、又は炭素数1~10の1価の有機基である。Rは、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、水酸基、カルボキシ基、アミノ基、炭素数1~10の1価の炭化水素基、又は炭素数1~10の1価の有機基である。aは0~(5-b)の整数である。bは0又は1である。aが2以上の場合、複数のRは同一又は異なる。Xは、酸素原子、硫黄原子又は-NR-である。Rは、水素原子又は1価の有機基である。「*」は結合手を表す。)
【0014】
上記式(1)において、R、R又はRで表される炭素数1~10の1価の炭化水素基としては、飽和又は不飽和の鎖状炭化水素基、飽和又は不飽和の脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基が挙げられる。R、R又はRで表される炭素数1~10の1価の炭化水素基は、これらのうち、飽和又は不飽和の鎖状炭化水素基が好ましく、炭素数1~3のアルキル基がより好ましい。
【0015】
、R又はRで表される炭素数1~10の1価の有機基としては、炭素数2以上の1価の炭化水素基における任意のメチレン基が-O-、-S-又は-NR-(ただし、Rは水素原子又は炭素数1~10の1価の炭化水素基)で置き換えられてなる1価の基;-SiR;-NR(ただし、Rは炭素数1~10の1価の炭化水素基、R及びRは互いに独立して水素原子又は炭素数1~10の1価の炭化水素基)等が挙げられる。
【0016】
及びRは、互いに独立して、水素原子、炭素数1~3のアルキル基、炭素数1~3のアルコキシ基又はシアノ基であることが好ましい。Rは、ハロゲン原子、炭素数1~3のアルキル基、炭素数1~3のアルコキシ基又はシアノ基であることが好ましい。
【0017】
が-NR-である場合、Rは、水素原子、炭素数1~6の1価の炭化水素基又はt-ブトキシカルボニル基が好ましい。aは0又は1が好ましい。
【0018】
重合体側鎖に含まれる上記式(1)で表される部分構造としては、上記式(1)中の「-CR=CR-CO-X-」が結合するベンゼン環に対し、「-CR=CR-CO-X-」が重合体の主鎖側に配置された部分構造(以下、これを「順シンナメート構造」ともいう。);上記式(1)中の「-CR=CR-CO-X-」が結合するベンゼン環に対し、「-CR=CR-CO-X-」が側鎖の末端側に配置された部分構造(以下、これを「逆シンナメート構造」ともいう。)等が挙げられる。
【0019】
順シンナメート構造としては、例えば下記式(cn-1)で表される構造が挙げられる。逆シンナメート構造としては、例えば下記式(cn-2)で表される構造が挙げられる。
【化2】
(式(cn-1)中、Rは、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のフルオロアルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基、炭素数1~10のフルオロアルコキシ基又はシアノ基である。R10は、フェニレン基、ビフェニレン基、ターフェニレン基、シクロへキシレン基、ビシクロへキシレン基若しくはターシクロヘキシレン基、又はこれらの基が有する水素原子の少なくとも一部が、ハロゲン原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基、当該アルコキシ基の水素原子の少なくとも一部がハロゲン原子で置換された1価の基によって置換された基、又はシアノ基である。Aは、単結合、酸素原子、硫黄原子、炭素数1~3のアルカンジイル基、-CH=CH-、-NH-、*-COO-、*-OCO-、*-NH-CO-、*-CO-NH-、*-CH-O-又は*-O-CH-(「*」はR10との結合手を表す。)である。cは0又は1である。
式(cn-2)中、R11は、炭素数1~10のアルキル基又は炭素数1~10のフルオロアルキル基である。Aは、酸素原子、*-COO-、*-OCO-、*-NH-CO-又は*-CO-NH-(「*」はR12との結合手を表す。)である。R12は、炭素数1~6のアルカンジイル基である。dは0又は1である。
式(cn-1)及び式(cn-2)中のR、R、R、X及びaは、上記式(1)と同義である。「*」は結合手を表す。)
【0020】
重合体(P)が側鎖に有する光配向性構造の具体例としては、例えば、下記式(1-1)~式(1-9)のそれぞれで表される部分構造等が挙げられる。
【化3】
(式(1-1)~式(1-9)中、R50は、炭素数1~10のアルキル基、フルオロアルキル基、アルコキシ基又はフルオロアルコキシ基である。R51は、炭素数1~10のアルキル基又はフルオロアルキル基である。)
【0021】
(光開始剤構造)
重合体(P)が側鎖に有する光開始剤構造は、光により重合開始能を生じる部位又は光増感作用を持つ部位を含む。この光開始剤構造は、可視光線、紫外線、遠紫外線、電子線、X線等の放射線の照射によってラジカルを発生可能な光ラジカル重合開始剤に由来する構造であることが好ましい。
【0022】
光開始剤構造の具体例としては、下記式(2-1)~式(2-13)のそれぞれで表される部分構造等が挙げられる。
【化4】
(式(2-1)~式(2-13)中、R60及びR61は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1~30の置換若しくは無置換の1価の炭化水素基、炭素数1~30の置換若しくは無置換の1価のオキシ炭化水素基であるか、又はR60及びR61が互いに合わせられて、R60及びR61が結合する炭素原子と共に構成される脂環構造若しくは複素環構造を表す。R62は、水酸基、置換若しくは無置換の炭素数1~20のアルコキシ基、又は下記式(r6-1)、式(r6-2)若しくは式(r6-3);
【化5】
(式(r6-1)~式(r6-3)中、R68及びR69は、互いに独立して、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基である。Bは、メチレン基、酸素原子、硫黄原子又は-NR70-である。R70は、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基である。Yは、ハロゲン原子、水酸基、シアノ基、ニトロ基、炭素数1~6のアルキル基、又は炭素数1~6のアルコキシ基である。n7は0~5の整数である。式中にYが複数存在する場合、複数のYは同一又は異なる。「*」は結合手を表す。)
で表される基である。R63及びR64は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1~30の置換若しくは無置換の1価の炭化水素基、又は炭素数1~30の置換若しくは無置換の1価のオキシ炭化水素基である。R65は、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基である。R66及びR67は、互いに独立して、水素原子若しくは炭素数1~4のアルキル基であるか、又は、R66及びR67が互いに結合して、R66及びR67が結合する窒素原子と共に構成される脂環構造を表す。Y及びYは、互いに独立して、ハロゲン原子、水酸基、シアノ基、ニトロ基、炭素数1~6のアルキル基、又は炭素数1~6のアルコキシ基である。Bは、メチレン基、酸素原子、硫黄原子又は-NR71-である。R71は、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基である。n1は0~4の整数である。n2は0~3の整数である。n3は0~4の整数である。n4は0~3の整数である。n5及びn6は、互いに独立して0~5の整数である。式中にYが複数存在する場合、複数のYは同一又は異なる。式中にYが複数存在する場合、複数のYは同一又は異なる。「*」は結合手を表す。)
【0023】
重合体(P)が有する光開始剤構造は、光反応性が高い点で、中でも、上記式(2-1)、式(2-2)及び式(2-9)~式(2-12)のいずれかにより表される構造が好ましく、上記式(2-1)又は式(2-2)により表される構造がより好ましい。また、光反応性及び電圧保持率の観点から、上記式(2-1)で表される構造が更に好ましい。
【0024】
重合体(P)は、光配向性構造と光開始剤構造とを同一の側鎖中に含んでいてもよいし、光配向性構造を含む側鎖と、光開始剤構造を含む側鎖とを有していてもよい。重合体(P)が光配向性構造と光開始剤構造とを同一の側鎖中に含む場合、その側鎖としては、光開始剤構造を側鎖末端部分に有し、主鎖部分と側鎖末端部分との間に光配向性構造を含む側鎖が挙げられる。重合体(P)が光配向性構造を含む側鎖と光開始剤構造を含む側鎖とを有する場合、重合体(P)は、光配向性構造と光開始剤構造とを含む側鎖を更に有していてもよい。
【0025】
プレチルト角特性、高温高湿耐性及び密着性により優れた液晶配向膜を得る観点から、重合体(P)は、光配向性構造を含む側鎖と、光開始剤構造を含む側鎖とを有することが好ましく、光配向性構造を含む側鎖を有する構造単位(以下、「構造単位(UA)」ともいう)と、光開始剤構造を含む側鎖を有する構造単位(以下、「構造単位(UB)」ともいう)とを含むことがより好ましい。なお、構造単位(UA)と構造単位(UB)とは異なる構造単位である。
【0026】
重合体(P)が構造単位(UA)を有する場合、重合体(P)における構造単位(UA)の含有割合は、重合体(P)が有する全構造単位に対して、1モル%以上が好ましく、2モル%以上がより好ましい。また、重合体(P)における構造単位(UA)の含有割合は、重合体(P)が有する全構造単位に対して、90モル%以下が好ましく、80モル%以下がより好ましい。
【0027】
重合体(P)が構造単位(UB)を有する場合、重合体(P)における構造単位(UB)の含有割合は、重合体(P)が有する全構造単位に対して、1モル%以上が好ましく、2モル%以上がより好ましい。また、重合体(P)における構造単位(UB)の含有割合は、重合体(P)が有する全構造単位に対して、50モル%以下が好ましく、40モル%以下がより好ましく、30モル%以下が更に好ましい。
【0028】
重合体(P)の主鎖は特に限定されない。重合体(P)としては、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド、ポリオルガノシロキサン、ポリエステル、ポリエナミン、ポリウレア、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリベンゾオキサゾール前駆体、ポリベンゾオキサゾール、セルロース誘導体、ポリアセタール又は付加重合体を主骨格とする重合体等が挙げられる。ここで、付加重合体は、重合性不飽和結合を有する単量体(以下、「不飽和単量体」ともいう)に由来する構造単位を含む重合体であり、例えば、(メタ)アクリル系重合体、スチレン系重合体、マレイミド系重合体、スチレン-マレイミド系共重合体、(メタ)アクリル-スチレン系共重合体、(メタ)アクリル-マレイミド系共重合体、及び(メタ)アクリル-スチレン-マレイミド系共重合体等が挙げられる。(メタ)アクリレートは、アクリレート及びメタクリレートを包含する意味である。ポリエナミンとは、ポリアミンのアミノ基の隣接位に炭素-炭素二重結合を有する重合体であり、例えば、ポリエナミノケトン、ポリエナミノエステル、ポリエナミノニトリル、ポリエナミノスルホニル等が挙げられる。
【0029】
良好な液晶配向性を示すとともに電圧保持率の高い液晶素子を得る観点から、重合体(P)は、上記の中でも、付加重合体、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド及びポリオルガノシロキサンよりなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、付加重合体、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
【0030】
(付加重合体)
重合体(P)が付加重合体である場合、当該付加重合体(以下、「付加重合体(P)」ともいう)は、構造単位(UA)として下記式(3-1)で表される構造単位、下記式(3-2)で表される構造単位及び下記式(3-3)で表される構造単位よりなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。また、付加重合体(P)は、構造単位(UB)として下記式(4-1)で表される構造単位、下記式(4-2)で表される構造単位及び下記式(4-3)で表される構造単位よりなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0031】
【化6】
(式(3-1)中、R21及びR22は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~10の1価の炭化水素基、若しくは炭化水素基の任意の水素原子がハロゲン原子に置き換えられてなる炭素数1~10の1価の基であるか、又は、R21及びR22が互いに合わせられてR21及びR22が結合する炭素原子と共に構成される環構造を表す。Xは、光配向性構造を有する1価の基である。「*」は結合手を表す。
式(3-2)中、R23は、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~10の1価の炭化水素基、若しくは炭化水素基の任意の水素原子がハロゲン原子に置き換えられてなる炭素数1~10の1価の基である。Xは、光配向性構造を有する1価の基である。R24は1価の置換基である。m1は0~4の整数である。m1が2以上の場合、複数のR24は同一又は異なる。「*」は結合手を表す。
式(3-3)中、R25は、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~10の1価の炭化水素基、若しくは炭化水素基の任意の水素原子がハロゲン原子に置き換えられてなる炭素数1~10の1価の基である。Zは、酸素原子又は-NH-である。Xは、光配向性構造を有する1価の基である。「*」は結合手を表す。)
【0032】
【化7】
(式(4-1)中、R31及びR32は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~10の1価の炭化水素基、若しくは炭化水素基の任意の水素原子がハロゲン原子に置き換えられてなる炭素数1~10の1価の基であるか、又は、R31及びR32が互いに合わせられてR31及びR32が結合する炭素原子と共に構成される環構造を表す。Xは、光開始剤構造を有する1価の基である。「*」は結合手を表す。
式(4-2)中、R33は、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~10の1価の炭化水素基、若しくは炭化水素基の任意の水素原子がハロゲン原子に置き換えられてなる炭素数1~10の1価の基である。Xは、光開始剤構造を有する1価の基である。R34は1価の置換基である。m2は0~4の整数である。m2が2以上の場合、複数のR34は同一又は異なる。「*」は結合手を表す。
式(4-3)中、R35は、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~10の1価の炭化水素基、若しくは炭化水素基の任意の水素原子がハロゲン原子に置き換えられてなる炭素数1~10の1価の基である。Zは、酸素原子又は-NH-である。Xは、光開始剤構造を有する1価の基である。「*」は結合手を表す。)
【0033】
上記式(3-1)~式(3-3)において、X、X又はXで表される1価の基としては、重合体(P)が有する光配向性構造の説明において例示した部分構造を有する基が挙げられる。X、X又はXで表される1価の基の更なる具体例としては、上記式(cn-1)で表される基が単結合又は2価の連結基を介して、上記式(3-1)中の窒素原子、上記式(3-2)中のベンゼン環又は上記式(3-3)中のZに結合した基;上記式(cn-2)で表される基が単結合又は2価の連結基を介して、上記式(3-1)中の窒素原子、上記式(3-2)中のベンゼン環又は上記式(3-3)中のZに結合した基が挙げられる。2価の連結基としては、炭素数1~10の2価の鎖状炭化水素基、炭素数3~12の2価の脂環式炭化水素基、炭素数6~12の2価の芳香族炭化水素基、炭化水素基における任意のメチレン基が-O-、-CO-、-NH-、-COO-等で置き換えられた炭素数1~12の2価の基、又はこれらの炭化水素基が有する任意の水素原子が置換基(ハロゲン原子、水素原子、アルコキシ基等)で置き換えられた基等が挙げられる。
【0034】
上記式(4-1)~式(4-3)において、X、X又はXで表される1価の基としては、重合体(P)が有する光開始剤構造の説明において例示した部分構造を有する基が挙げられる。X、X又はXで表される1価の基の更なる具体例としては、上記式(2-1)~式(2-13)のいずれかで表される基が単結合又は2価の連結基を介して、上記式(4-1)中の窒素原子、上記式(4-2)中のベンゼン環又は上記式(4-3)中のZに結合した基が挙げられる。2価の連結基としては、炭素数1~10の2価の鎖状炭化水素基、炭素数3~12の2価の脂環式炭化水素基、炭素数6~12の2価の芳香族炭化水素基、炭化水素基における任意のメチレン基が-O-、-CO-、-NH-、-COO-等で置き換えられた炭素数1~12の2価の基、又はこれらの基が有する任意の水素原子が置換基(ハロゲン原子、水素原子、アルコキシ基等)で置き換えられた基等が挙げられる。
【0035】
付加重合体(P)は、例えば、光配向性構造を有する不飽和単量体(以下、「不飽和単量体(MA)」ともいう)と、光開始剤構造を有する不飽和単量体(以下、「不飽和単量体(MB)」ともいう)とを含む単量体を重合することにより得ることができる。
【0036】
不飽和単量体(MA)の具体例としては、例えば、下記式(ma-1)~式(ma-9)のそれぞれで表される化合物が挙げられる。
【化8】
(式(ma-1)~式(ma-9)中、Mは、下記式(m1-1)、式(m1-2)又は式(m1-3)で表される基である。Wは、単結合又は2価の連結基である。R50及びR51は、上記式(1-1)~式(1-9)と同義である。)
【化9】
(式(m1-1)~式(m1-3)中、R21、R22、R23、R24、R25、Z及びm1は上記式(3-1)~式(3-3)と同義である。「*」は結合手を表す。)
【0037】
不飽和単量体(MB)の具体例としては、例えば、下記式(mb-1)~式(mb-18)のそれぞれで表される化合物が挙げられる。
【化10】
【化11】
(式(mb-1)~式(mb-18)中、Mは、下記式(m2-1)、式(m2-2)又は式(m2-3)で表される基である。Wは、単結合又は2価の連結基である。)
【化12】
(式(m2-1)~式(m2-3)中、R31、R32、R33、R34、R35、Z及びm2は上記式(4-1)~式(4-3)と同義である。「*」は結合手を表す。)
【0038】
付加重合体(P)の合成に際しては、不飽和単量体(MA)及び不飽和単量体(MB)とは異なる単量体(以下、「その他の不飽和単量体」ともいう)を併用してもよい。その他の不飽和単量体としては、(メタ)アクリル化合物、芳香族ビニル化合物、共役ジエン化合物、マレイミド化合物等が挙げられる。
【0039】
その他の不飽和単量体の具体例としては、(メタ)アクリル化合物として、(メタ)アクリル酸等の不飽和カルボン酸;(メタ)アクリル酸アルキル(例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシル等)、(メタ)アクリル酸シクロアルキル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸トリメトキシシリルプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸3,4-エポキシシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸3,4-エポキシブチル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチルグリシジルエーテル、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、及び3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン等の不飽和カルボン酸エステルが挙げられる。
【0040】
芳香族ビニル化合物としては、スチレン、メチルスチレン、ジビニルベンゼン、4-ヒドロキシメチルスチレン、p-スチリルトリメトキシシラン、4-(グリシジルオキシメチル)スチレン及びビニル安息香酸等が挙げられる。共役ジエン化合物としては、1,3-ブタジエン及び2-メチル-1,3-ブタジエン等が挙げられる。マレイミド化合物としては、N-メチルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-フェニルマレイミド、N-(4-グリシジルオキシフェニル)マレイミド、N-グリシジルマレイミド、N-(4-カルボキシフェニル)マレイミド等が挙げられる。
【0041】
付加重合体(P)は、例えば、重合開始剤の存在下で不飽和単量体を重合することにより得ることができる。使用する重合開始剤としては、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物が好ましい。重合開始剤の使用割合は、反応に使用する全単量体100質量部に対して、0.01~30質量部とすることが好ましい。
【0042】
重合反応は、好ましくは有機溶媒中で行われる。反応に使用する有機溶媒としては、単量体を溶解可能であってかつ重合反応に関与しない有機溶媒が好ましい。具体的には、例えば、アルコール、エーテル、ケトン、鎖状アミド、環状アミド、鎖状エステル、環状エステル、炭化水素化合物、環状ラクタム等が挙げられる。反応温度は30℃~120℃とすることが好ましく、反応時間は、1~36時間とすることが好ましい。有機溶媒の使用量は、反応に使用する単量体の合計量が、反応溶液の全体量に対して0.1~60質量%になる量とすることが好ましい。なお、付加重合体(P)は、エポキシ基を側鎖に有する付加重合体を合成し、次いで、その得られた付加重合体(エポキシ基含有付加重合体)と、光配向性構造を有するカルボン酸及び光開始剤構造を有するカルボン酸を含むカルボン酸とを反応させる方法により得ることもできる。
【0043】
(ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド)
重合体(P)がポリアミック酸、ポリアミック酸エステル又はポリイミドである場合、重合体(P)は、単量体の選択肢が多い点や、重合体の合成しやすさの点で、構造単位(UA)として、光配向性構造を有するジアミン(以下、「特定ジアミン(D1)」ともいう)に由来する構造単位を含み、構造単位(UB)として、光開始剤構造を有するジアミン(以下、「特定ジアミン(D2)」ともいう)に由来する構造単位を含むことが好ましい。
【0044】
(ポリアミック酸)
重合体(P)がポリアミック酸である場合、当該ポリアミック酸(以下、「ポリアミック酸(P)」ともいう)は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応(縮重合反応)させることにより得ることができる。
【0045】
・テトラカルボン酸二無水物
ポリアミック酸(P)の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物としては、例えば、脂肪族テトラカルボン酸二無水物、芳香族テトラカルボン酸二無水物等を挙げることができる。脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、鎖状テトラカルボン酸二無水物及び脂環式テトラカルボン酸二無水物を含む。
【0046】
これらの具体例としては、鎖状テトラカルボン酸二無水物として、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸二無水物等を;
脂環式テトラカルボン酸二無水物として、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3-ジメチル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-3a,4,5,9b-テトラヒドロナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-8-メチル-3a,4,5,9b-テトラヒドロナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、2,4,6,8-テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン-2:4,6:8-二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物等を;
芳香族テトラカルボン酸二無水物として、ピロメリット酸二無水物、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、エチレングリコールビスアンヒドロトリメート、4,4’-カルボニルジフタル酸無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物等を;それぞれ挙げることができる。また、テトラカルボン酸二無水物としては、特開2010-97188号公報に記載のテトラカルボン酸二無水物を用いることができる。
【0047】
ポリアミック酸(P)の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物は、重合体の溶解性を高くできる点、及び良好な電気特性を示す液晶配向膜を得ることができる点で、脂肪族テトラカルボン酸二無水物を含むことが好ましく、脂環式テトラカルボン酸二無水物を含むことがより好ましい。脂肪族テトラカルボン酸二無水物の使用量は、ポリアミック酸(P)の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物の全量に対して、20モル%以上が好ましく、40モル%以上がより好ましく、50モル%以上が更に好ましい。
【0048】
・ジアミン
ポリアミック酸(P)の合成に際し使用するジアミンは、特定ジアミン(D1)と特定ジアミン(D2)とを含むことが好ましい。
【0049】
特定ジアミン(D1)は、光配向性構造を重合体の側鎖に導入可能な構造を有していればよく、特に限定されない。特定ジアミン(D1)の具体例としては、上記式(cn-1)で表される基が単結合又は2価の連結基を介してジアミノフェニル基に結合した化合物が挙げられる。2価の連結基としては、炭素数1~10の2価の鎖状炭化水素基、鎖状炭化水素基における任意のメチレン基が-O-、-CO-、-NH-、-COO-等で置き換えられた炭素数1~12の2価の基、又はこれらの基が有する任意の水素原子が置換基(ハロゲン原子、水素原子、アルコキシ基等)で置き換えられた基等が挙げられる。
【0050】
特定ジアミン(D1)の更なる具体例としては、例えば、下記式(d1-1)~式(d1-6)のそれぞれで表される化合物が挙げられる。
【化13】
(式(d1-1)~式(d1-6)中、Wは、単結合又は2価の連結基である。R50及びR51は、上記式(1-1)~式(1-9)と同義である。)
【0051】
特定ジアミン(D2)もまた、光開始剤構造を重合体の側鎖に導入可能な構造を有していればよく、特に限定されない。特定ジアミン(D2)の具体例としては、上記式(2-1)~式(2-13)のいずれかで表される基が単結合又は2価の連結基を介してジアミノフェニル基に結合した化合物が挙げられる。2価の連結基としては、炭素数1~10の2価の鎖状炭化水素基、鎖状炭化水素基における任意のメチレン基が-O-、-CO-、-NH-、-COO-等で置き換えられた炭素数1~12の2価の基、又はこれらの基が有する任意の水素原子が置換基(ハロゲン原子、水素原子、アルコキシ基等)で置き換えられた基等が挙げられる。
【0052】
特定ジアミン(D2)の更なる具体例としては、例えば、下記式(d2-1)~式(d2-6)のそれぞれで表される化合物が挙げられる。
【化14】
(式(d2-1)~式(d2-6)中、Wは、単結合又は2価の連結基である。)
【0053】
ポリアミック酸(P)の合成に際しては、ジアミンとして特定ジアミン(D1)及び特定ジアミン(D2)のみを用いてもよい。また、特定ジアミン(D1)及び特定ジアミン(D2)と共に、特定ジアミン(D1)及び特定ジアミン(D2)とは異なるジアミン(以下、「その他のジアミン」ともいう)を用いてもよい。その他のジアミンとしては公知の化合物を用いることができる。その他のジアミンとしては、例えば、脂肪族ジアミン、芳香族ジアミン、ジアミノオルガノシロキサンが挙げられる。脂肪族ジアミンは、鎖状ジアミン及び脂環式ジアミンを含む。
【0054】
その他のジアミンの具体例としては、鎖状ジアミンとして、メタキシリレンジアミン、1,3-プロパンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等を;脂環式ジアミンとして、1,4-ジアミノシクロヘキサン、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)等を;
芳香族ジアミンとして、p-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルエタン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4-アミノフェニル-4-アミノベンゾエート、4,4’-ジアミノアゾベンゼン、3,5-ジアミノ安息香酸、1,5-ビス(4-アミノフェノキシ)ペンタン、1,2-ビス(4-アミノフェノキシ)エタン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)プロパン、1,6-ビス(4-アミノフェノキシ)ヘキサン、ビス[2-(4-アミノフェニル)エチル]ヘキサン二酸、1,4-ビス-(4-アミノフェニル)-ピペラジン、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’-(フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-[4,4’-プロパン-1,3-ジイルビス(ピペリジン-1,4-ジイル)]ジアニリン、4,4’-ジアミノベンズアニリド、4,4’-ジアミノスチルベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェニル)-ピペラジン、ビス[2-(4-アミノフェニル)エチル]ヘキサン二酸、4,4’-ジアミノジフェネチルウレア、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル等の主鎖型ジアミン;
ドデカノキシ-2,4-ジアミノベンゼン、ペンタデカノキシ-2,4-ジアミノベンゼン、ヘキサデカノキシ-2,4-ジアミノベンゼン、オクタデカノキシ-2,4-ジアミノベンゼン、ペンタデカノキシ-2,5-ジアミノベンゼン、オクタデカノキシ-2,5-ジアミノベンゼン、3,5-ジアミノ-N,N-ビス(ピリジン-3-イルメチル)ベンズアミド、3,5-ジアミノ-N-(ピリジン-3-イルメチル)ベンズアミド、2-(2,4-ジアミノフェニル)-N-(ピリジン-3-イルメチル)アセトアミド、5-アミノ-1,3,3-トリメチル-1-(4-アミノフェニル)インダン、6-アミノ-1,3,3-トリメチル-1-(4-アミノフェニル)インダン、コレスタニルオキシ-3,5-ジアミノベンゼン、コレステニルオキシ-3,5-ジアミノベンゼン、コレスタニルオキシ-2,4-ジアミノベンゼン、コレステニルオキシ-2,4-ジアミノベンゼン、3,5-ジアミノ安息香酸コレスタニル、3,5-ジアミノ安息香酸コレステニル、3,5-ジアミノ安息香酸ラノスタニル、3,6-ビス(4-アミノベンゾイルオキシ)コレスタン、3,6-ビス(4-アミノフェノキシ)コレスタン、4-(4’-トリフルオロメトキシベンゾイロキシ)シクロヘキシル-3,5-ジアミノベンゾエート、1,1-ビス(4-((アミノフェニル)メチル)フェニル)-4-ブチルシクロヘキサン、3,5-ジアミノ安息香酸=5ξ-コレスタン-3-イル、下記式(E-1)
【化15】
(式(E-1)中、XI及びXIIは、それぞれ独立して、単結合、-O-、*-COO-又は*-OCO-(ただし、「*」はジアミノフェニル基側との結合手を示す。)である。Rは、炭素数1~3のアルカンジイル基である。RIIは、単結合又は炭素数1~3のアルカンジイル基である。RIIIは、炭素数1~20のアルキル基、アルコキシ基、フルオロアルキル基、又はフルオロアルコキシ基である。aは0又は1である。bは0~3の整数である。cは0~2の整数である。dは0又は1である。ただし、1≦a+b+c≦3である。)
で表される化合物等の側鎖型ジアミン等を;
ジアミノオルガノシロキサンとして、例えば、1,3-ビス(3-アミノプロピル)-テ
トラメチルジシロキサン等を;それぞれ挙げることができるほか、特開2010-97188号公報に記載のジアミンを用いることができる。
【0055】
式(E-1)で表される化合物としては、例えば下記式(E-1-1)~式(E-1-4)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。
【化16】
【0056】
液晶配向性が良好であって、電圧保持率が高い液晶素子を得る観点から、ポリアミック酸(P)は、特定ジアミン(D1)に由来する構造単位を、ポリアミック酸(P)が有するジアミンに由来する構造単位の全量に対して1モル%以上含むことが好ましく、2モル%以上含むことがより好ましい。また、ポリアミック酸(P)における特定ジアミン(D1)に由来する構造単位の含有割合は、ポリアミック酸(P)が有するジアミンに由来する構造単位の全量に対して、90モル%以下が好ましく、80モル%以下がより好ましい。
【0057】
また、ポリアミック酸(P)における特定ジアミン(D2)に由来する構造単位の含有割合は、ポリアミック酸(P)が有するジアミンに由来する構造単位の全量に対して、1モル%以上が好ましく、2モル%以上がより好ましい。また、ポリアミック酸(P)における特定ジアミン(D2)に由来する構造単位の含有割合は、ポリアミック酸(P)が有するジアミンに由来する構造単位の全量に対して、50モル%以下が好ましく、40モル%以下がより好ましい。特定ジアミン(D2)に由来する構造単位の含有割合を上記範囲内とすることにより、高温高湿耐性により優れた液晶配向膜を形成することができる。
【0058】
・ポリアミック酸の合成
ポリアミック酸(P)は、上記のようなテトラカルボン酸二無水物とジアミンとを、必要に応じて分子量調整剤とともに反応させることにより得ることができる。ポリアミック酸(P)の合成反応に供されるテトラカルボン酸二無水物とジアミンとの使用割合は、ジアミンのアミノ基1当量に対して、テトラカルボン酸二無水物の酸無水物基が0.2~2当量となる割合が好ましい。分子量調整剤としては、例えば、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水イタコン酸等の酸一無水物;アニリン、シクロヘキシルアミン、n-ブチルアミン等のモノアミン化合物;フェニルイソシアネート、ナフチルイソシアネート等のモノイソシアネート化合物;等を挙げることができる。分子量調整剤の使用割合は、使用するテトラカルボン酸二無水物及びジアミンの合計100質量部に対して、20質量部以下とすることが好ましい。
【0059】
ポリアミック酸(P)の合成反応は、好ましくは有機溶媒中において行われる。このときの反応温度は-20℃~150℃が好ましく、反応時間は0.1~24時間が好ましい。反応に使用する有機溶媒としては、例えば非プロトン性極性溶媒、フェノール系溶媒、アルコール、ケトン、エステル、エーテル、ハロゲン化炭化水素、炭化水素等を挙げることができる。特に好ましい有機溶媒は、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトン、テトラメチル尿素、ヘキサメチルホスホルトリアミド、m-クレゾール、キシレノール及びハロゲン化フェノールよりなる群から選択される1種以上を溶媒として使用するか、あるいはこれらの1種以上と、他の有機溶媒(例えば、ブチルセロソルブ、ジエチレングリコールジエチルエーテル等)との混合物を使用することが好ましい。有機溶媒の使用量(a)は、テトラカルボン酸二無水物及びジアミンの合計量(b)が、反応溶液の全量(a+b)に対して、0.1~50質量%になる量とすることが好ましい。
【0060】
以上のようにして、ポリアミック酸(P)を溶解してなる反応溶液が得られる。この反応溶液はそのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、反応溶液中に含まれるポリアミック酸(P)を単離したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。
【0061】
(ポリアミック酸エステル)
重合体(P)がポリアミック酸エステルである場合、当該ポリアミック酸エステル(以下、「ポリアミック酸エステル(P)」ともいう)は、例えば、[I]ポリアミック酸(P)とエステル化剤とを反応させる方法;[II]テトラカルボン酸ジエステルと、特定ジアミン(D1)及び特定ジアミン(D2)を含むジアミンとを反応させる方法;[III]テトラカルボン酸ジエステルジハロゲン化物と、特定ジアミン(D1)及び特定ジアミン(D2)を含むジアミンとを反応させる方法;等によって得ることができる。ポリアミック酸エステル(P)は、アミック酸エステル構造のみを有していてもよく、アミック酸構造とアミック酸エステル構造とが併存する部分エステル化物であってもよい。ポリアミック酸エステル(P)を溶解してなる反応溶液は、そのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、反応溶液中に含まれるポリアミック酸エステル(P)を単離したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。
【0062】
(ポリイミド)
重合体(P)がポリイミドである場合、当該ポリイミド(以下、「ポリイミド(P)」ともいう)は、例えば、ポリアミック酸(P)を脱水閉環してイミド化することにより得ることができる。ポリイミド(P)は、イミド化率が20~90%であることが好ましく、30~85%であることがより好ましい。なお、イミド化率は、ポリイミドのアミック酸構造の数とイミド環構造の数との合計に対するイミド環構造の数の占める割合を百分率で表したものである。
【0063】
ポリアミック酸(P)の脱水閉環は、好ましくはポリアミック酸(P)を有機溶媒に溶解し、この溶液中に脱水剤及び脱水閉環触媒を添加し、必要に応じて加熱する方法により行われる。この方法において、脱水剤としては、例えば無水酢酸、無水プロピオン酸、無水トリフルオロ酢酸等の酸無水物を用いることができる。脱水剤の使用量は、ポリアミック酸(P)のアミック酸構造の1モルに対して0.01~20モルとすることが好ましい。脱水閉環触媒としては、例えばピリジン、コリジン、ルチジン、トリエチルアミン等の3級アミンを用いることができる。脱水閉環触媒の使用量は、使用する脱水剤1モルに対して0.01~10モルとすることが好ましい。
【0064】
脱水閉環反応に用いられる有機溶媒としては、ポリアミック酸(P)の合成に用いられるものとして例示した有機溶媒を挙げることができる。脱水閉環反応の反応温度は、好ましくは0~180℃である。反応時間は、好ましくは1.0~120時間である。なお、ポリイミド(P)を含有する反応溶液は、そのまま液晶配向剤の調製に用いられてもよい。また、反応溶液中からポリイミド(P)を単離し、単離したポリイミド(P)を液晶配向剤の調製に用いてもよい。ポリイミド(P)は、ポリアミック酸エステルの脱水閉環により得ることもできる。
【0065】
重合体(P)の溶液粘度は、濃度10質量%の溶液としたときに10~800mPa・sの溶液粘度を持つものであることが好ましく、15~500mPa・sの溶液粘度を持つものであることがより好ましい。なお、溶液粘度(mPa・s)は、重合体(P)の良溶媒(例えばN-メチル-2-ピロリドン等)を用いて調製した濃度10質量%の重合体溶液につき、E型回転粘度計を用いて25℃において測定した値である。
【0066】
重合体(P)のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは1,000~500,000であり、より好ましくは2,000~300,000である。GPCにより測定したポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比で表される分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは7以下であり、より好ましくは5以下である。
【0067】
液晶配向剤における重合体(P)の含有量は、液晶配向剤に含まれる固形分の全量(すなわち、液晶配向剤の溶媒以外の成分の合計質量)100質量部に対して、1質量部以上が好ましく、2質量部以上がより好ましい。また、重合体(P)の含有量は、液晶配向剤に含まれる固形分の全量100質量部に対して、50質量部以下が好ましく、45質量部以下がより好ましく、40質量部以下が更に好ましい。重合体(P)の含有量を上記範囲内にすることにより、液晶素子の高温高湿耐性の改善効果を十分に得ることができる。
【0068】
<重合体(Q)>
重合体(Q)は、重合体(P)とは異なる重合体である。重合体(Q)は、光配向性構造及び光開始剤構造のうちいずれかを有していてもよく、あるいは光配向性構造及び光開始剤構造のいずれも有しない重合体であってもよい。高温高湿耐性及び密着性に優れた液晶配向膜を得る観点から、重合体(Q)は、光開始剤構造を有しないことが好ましく、光配向性構造及び光開始剤構造を側鎖に有しないことがより好ましい。
【0069】
重合体(Q)の主鎖についても特に限定されない。重合体(Q)としては、例えば、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド、ポリオルガノシロキサン、ポリエステル、ポリエナミン、ポリウレア、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリベンゾオキサゾール前駆体、ポリベンゾオキサゾール、セルロース誘導体、ポリアセタール又は付加重合体を主骨格とする重合体等が挙げられる。良好な液晶配向性を示すとともに電圧保持率の高い液晶素子を得る観点から、重合体(Q)は、上記の中でも、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド、ポリアミド、付加重合体及びポリオルガノシロキサンよりなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド及び付加重合体よりなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
【0070】
例えば、重合体(Q)がポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種である場合、重合体(Q)は、テトラカルボン酸二無水物とその他のジアミンとを縮重合させることにより得ることができる。この場合、重合体(Q)の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物及びその他のジアミンは特に限定されず、例えば、重合体(P)の合成に使用することができるテトラカルボン酸二無水物及びその他のジアミンとして例示した化合物等が挙げられる。ポリアミドは、ジカルボン酸誘導体とその他のジアミンとを反応させる方法等によって得ることができる。
【0071】
また、重合体(Q)が付加重合体である場合、重合体(Q)は、不飽和単量体の1種又は2種以上を重合することにより得ることができる。この場合、重合体(Q)の合成に使用する不飽和単量体は特に限定されず、例えば、重合体(P)の合成に使用することができるその他の不飽和単量体として例示した化合物等が挙げられる。
【0072】
重合体(Q)がポリオルガノシロキサンである場合、重合体(Q)としてのポリオルガノシロキサンは、例えば、加水分解性のシラン化合物を加水分解縮合することにより得ることができる。加水分解性のシラン化合物としては特に限定されず、例えば、ジアルキルジアルコキシシラン、モノアルキルトリアルコキシシラン、テトラアルコキシシラン、モノアリールトリアルコキシシラン、エポキシ基含有のアルコキシシラン、窒素・硫黄原子含有のアルコキシシラン、不飽和炭化水素含有のアルコキシシラン、トリメトキシシリルプロピルコハク酸無水物等の公知の化合物が挙げられる。
【0073】
重合体(Q)は、液晶配向膜の密着性をより優れたものとすることができる点で、-CO-NR-(Rは水素原子又は熱脱離性基である。)を有する単量体に由来する構造単位を含むことが好ましい。Rで表される熱脱離性基は、熱により脱離して水素原子に置き換わる基であり、好ましくはtert-ブトキシカルボニル基(Boc基)である。-CO-NR-を有する単量体に由来する構造単位を重合体(Q)に導入することによる膜密着性の改善効果を十分に得ることができる点で、-CO-NR-を有する単量体はジアミンが好ましい。
【0074】
重合体(Q)が-CO-NR-を有する単量体に由来する構造単位を含む場合、当該構造単位の含有割合は、重合体(Q)が有する全構造単位に対して、1モル%以上が好ましく、2モル%以上がより好ましく、5モル%以上が更に好ましい。また、-CO-NR-を有する単量体に由来する構造単位の含有割合は、重合体(Q)が有する全構造単位に対して、30モル%以下が好ましく、20モル%以下がより好ましい。
【0075】
本開示の液晶配向剤に含まれる重合体(P)及び重合体(Q)の組み合わせは特に限定されない。高温高湿耐性、液晶配向性及び電圧保持特性により優れた液晶素子を得ることができる点や、光開始剤構造の導入が比較的容易な点で、本開示の液晶配向剤に含まれる重合体(P)及び重合体(Q)は中でも、下記の〔態様1〕又は〔態様2〕が好ましい。
〔態様1〕 重合体(P)が付加重合体であり、重合体(Q)がポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド、ポリアミド、付加重合体及びポリオルガノシロキサンよりなる群から選択される少なくとも1種である態様。
〔態様2〕 重合体(P)がポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種であり、重合体(Q)がポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド、ポリアミド、付加重合体及びポリオルガノシロキサンよりなる群から選択される少なくとも1種である態様。
【0076】
これらの中でも、〔態様1〕が好ましく、〔態様1〕において重合体(Q)がポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド及び付加重合体よりなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
【0077】
高温高湿耐性により優れた液晶配向膜を得る観点から、本開示の液晶配向剤に含まれる重合体(P)及び重合体(Q)は主鎖が異なることが好ましい。中でも、重合体(P)が付加重合体であって、重合体(Q)がポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種であることが、高温高湿耐性に優れた液晶配向膜を得ることができる点で好適である。
【0078】
液晶配向剤における重合体(Q)の含有量は、液晶配向剤に含まれる固形分の全量100質量部に対して、50質量部以上が好ましく、55質量部以上がより好ましく、60質量部以上が更に好ましい。また、重合体(Q)の含有量は、液晶配向剤に含まれる固形分の全量100質量部に対して、99質量部以下が好ましく、98質量部以下がより好ましい。重合体(Q)の含有量を上記範囲内にすることにより、液晶素子の高温高湿耐性を確保しながら、液晶配向膜の密着性の改善効果を十分に得ることができる。
【0079】
液晶配向剤における重合体(P)と重合体(Q)との含有量の比率(質量比)は、重合体(P):重合体(Q)=1:99~50:50であることが好ましく、2:98~45:55であることがより好ましく、2:98~40:60であることが更に好ましい。なお、重合体(P)と重合体(Q)とを含有する液晶配向剤によればプレチルト角特性及び電圧保持率を良好に維持しながら、高温高湿耐性に優れ、かつ基板に対する密着性に優れた液晶配向膜を形成できることができた理由は定かではないが、1つの理由として、液晶界面あるいはシール材界面付近において十分な機能性基濃度(すなわち、光配向性構造及び光開始剤構造の濃度)を確保できたことに因ることが考えられる。
【0080】
<その他の成分>
液晶配向剤は、重合体(P)及び重合体(Q)のほか、必要に応じて、重合体(P)及び重合体(Q)とは異なる成分(その他の成分)を更に含有していてもよい。
【0081】
・架橋剤
本開示の液晶配向剤は、架橋剤を更に含有していてもよい。架橋剤としては、重合性炭素-炭素結合を有する基、環状エーテル基、環状チオエーテル基、イソシアネート基、保護されたイソシアネート基、メチロール基、保護されたメチロール基、ヒドロキシアルキルアミド基、保護されたヒドロキシアルキルアミド基、環状カーボネート基、基「-CR90=CR91-R92-」(ただし、R90は、アミノ基との反応により脱離する1価の有機基である。R91は水素原子又はアルキル基、R92は電子求引性基である。)、シラノール基、アミノ基、保護されたアミノ基及びアルコキシシリル基よりなる群から選択される少なくとも1種の架橋性基を有する化合物が挙げられる。
【0082】
上記の架橋性基のうち、重合性炭素-炭素結合を有する基としては、(メタ)アクリロイル基、マレイミド基、アルケニル基、ビニルフェニル基、ビニルエーテル基、3-メチレンテトラヒドロフラン-2(3H)-オン-5-イル基等が挙げられる。架橋剤としては、上記のうち、アミノ基又はカルボキシ基と反応可能な官能基を有する化合物を好ましく使用することができ、中でも、環状エーテル基、ヒドロキシアルキルアミド基、保護されたヒドロキシアルキルアミド基、メチロール基、保護されたメチロール基、保護されたイソシアネート基、アミノ基及び保護されたアミノ基よりなる群から選択される少なくとも1種を1分子内に合計2個以上有する化合物を好ましく使用することができる。
【0083】
架橋剤が1分子内に有する架橋性基の数は、液晶素子の液晶配向性、電圧保持特性及び膜強度をバランス良く改善する観点から、2~12個が好ましく、2~10個がより好ましい。架橋剤の分子量は、良好な保存安定性を確保する観点から、好ましくは3,000以下、より好ましくは2,000以下、更に好ましくは1,000以下である。
【0084】
架橋剤の具体例としては、環状エーテル基を有する化合物として、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、N,N-ジグリシジル-アミノメチルシクロヘキサン、N,N-ジグリシジル-シクロヘキシルアミン、グリシジル基を2個以上有する環状シロキサン、ペンタエリスリトールテトラアリルエーテルの過酸化水素によるエポキシ化反応生成物等を;
ヒドロキシアルキルアミド基又は保護されたヒドロキシアルキルアミド基を有する化合物として、下記式(c-1)~式(c-3)で表される化合物等を;
メチロール基又は保護されたメチロール基を有する化合物として、下記式(c-4)~式(c-9)で表される化合物等を;
保護されたイソシアネート基を有する化合物として、下記式(c-10)~式(c-14)で表される化合物等を;
アミノ基又は保護されたアミノ基を有する化合物として、下記式(c-15)~式(c-18)のそれぞれで表される化合物等を、それぞれ挙げることができる。
【化17】
【化18】
(式(c-8)中、Acはアセチル基である。)
【化19】
(式(c-10)及び式(c-11)中、R34はtert-ブトキシ基である。)
【化20】
【0085】
本開示の液晶配向剤に架橋剤を配合する場合、液晶配向剤における架橋剤の含有割合は、液晶配向性及び電圧保持特性をより良好にする観点から、液晶配向剤に含まれる重合体成分の全量(すなわち、重合体(P)と重合体(Q)との合計量)100質量部に対して、0.5質量部以上が好ましい。架橋剤の含有割合は、重合体成分の全量100質量部に対して、1質量部以上がより好ましく、2質量部以上が更に好ましい。また、液晶素子の液晶配向性及び電圧保持特性、並びに液晶配向剤の保存安定性を確保する観点から、架橋剤の含有割合は、重合体成分の全量100質量部に対して、30質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましい。
【0086】
・溶剤
本開示の液晶配向剤は、重合体(P)、重合体(Q)及び必要に応じて使用されるその他の成分が、好ましくは適当な溶媒中に分散又は溶解してなる液状の組成物として調製される。
【0087】
溶剤としては有機溶媒が好ましく使用される。その具体例としては、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、1,2-ジメチル-2-イミダゾリジノン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、フェノール、γ-ブチロラクトン、γ-ブチロラクタム、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン、ジアセトンアルコール、1-ヘキサノール、2-ヘキサノール、プロパン-1,2-ジオール、3-メトキシ-1-ブタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、プロピオン酸エチル、メチルメトキシプロピオネ-ト、エチルエトキシプロピオネ-ト、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール-n-プロピルエーテル、エチレングリコール-i-プロピルエーテル、エチレングリコール-n-ブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジイソブチルケトン、イソアミルプロピオネート、イソアミルイソブチレート、ジイソペンチルエーテル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、ジエチレングリコールジエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールジアセテート、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等を挙げることができる。溶剤としては、1種を単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0088】
液晶配向剤に含有されるその他の成分としては、上記のほか、例えば、酸化防止剤、金属キレート化合物、硬化促進剤、界面活性剤、充填剤、分散剤、光増感剤等が挙げられる。その他の成分の配合割合は、本開示の効果を損なわない範囲で各化合物に応じて適宜選択することができる。
【0089】
液晶配向剤における固形分濃度(液晶配向剤の溶媒以外の成分の合計質量が液晶配向剤の全質量に占める割合)は、粘性、揮発性等を考慮して適宜に選択されるが、好ましくは1~10質量%の範囲である。固形分濃度が1質量%以上であると、塗膜の膜厚を十分に確保でき、より良好な液晶配向性を示す液晶配向膜を得ることができる点で好適である。一方、固形分濃度が10質量%以下であると、塗膜を適度な厚みとすることができ、良好な液晶配向性を示す液晶配向膜が得られやすい傾向がある。また、液晶配向剤の粘性が適度となり、塗布性を良好にできる傾向がある。
【0090】
≪液晶配向膜及び液晶素子≫
本開示の液晶配向膜は、上記のように調製された液晶配向剤により製造される。また、本開示の液晶素子は、上記で説明した液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜を備える。液晶素子における液晶の駆動方式は特に限定されず、例えばTN型、STN型、VA型(VA-MVA型、VA-PVA型等を含む。)、IPS型、FFS型、OCB(Optically Compensated Bend)型、PSA(Polymer Sustained Alignment)型等の種々のモードに適用することができる。液晶素子は、例えば以下の工程1~工程3を含む方法により製造することができる。工程1は、所望の動作モードによって使用基板が異なる。工程2及び工程3は各動作モード共通である。
【0091】
<工程1:塗膜の形成>
まず、基板上に液晶配向剤を塗布し、好ましくは塗布面を加熱することにより基板上に塗膜を形成する。基板としては、例えばフロートガラス、ソーダガラス等のガラス;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリ(脂環式オレフィン)等のプラスチックからなる透明基板を用いることができる。TN型、STN型又はVA型の液晶素子を製造する場合には、パターニングされた透明導電膜が設けられている基板2枚を用いる。一方、IPS型又はFFS型の液晶素子を製造する場合には、櫛歯型にパターニングされた電極が設けられている基板と、電極が設けられていない対向基板とを用いる。透明導電膜としては、酸化スズ(SnO)からなるNESA膜(米国PPG社登録商標)、酸化インジウム-酸化スズ(In-SnO)からなるITO膜等を用いることができる。
【0092】
基板への液晶配向剤の塗布方法は特に限定されない。基板への液晶配向剤の塗布は、例えば、スピンコート方式、印刷方式(例えば、オフセット印刷方式、フレキソ印刷方式等)、インクジェット方式、スリットコート方式、バーコーター方式、エクストリューションダイ方式、ダイレクトグラビアコーター方式、チャンバードクターコーター方式、オフセットグラビアコーター方式、含浸コーター方式、MBコーター方式等により行うことができる。
【0093】
液晶配向剤を塗布した後、塗布した液晶配向剤の液垂れ防止などの目的で、好ましくは予備加熱(プレベーク)が実施される。プレベーク温度は、好ましくは30~200℃であり、プレベーク時間は、好ましくは0.25~10分である。その後、溶剤を完全に除去し、必要に応じて、重合体に存在するアミック酸構造を熱イミド化すること等を目的として焼成(ポストベーク)工程が実施される。このときの焼成温度(ポストベーク温度)は、好ましくは80~280℃であり、より好ましくは80~250℃である。ポストベーク時間は、好ましくは5~200分である。形成される膜の膜厚は、好ましくは0.001~1μmである。
【0094】
<工程2:配向処理>
TN型、STN型、IPS型又はFFS型の液晶素子を製造する場合、上記工程1で形成した塗膜に対し、液晶配向能を付与する処理(配向処理)が施される。これにより、液晶分子の配向能が塗膜に付与されて液晶配向膜となる。配向処理としては、基板上に形成した塗膜の表面をコットンやナイロン等で擦るラビング処理、又は塗膜に光照射処理を施して液晶配向能を付与する光配向処理を用いることが好ましい。垂直配向型の液晶素子を製造する場合には、工程1で形成した塗膜をそのまま液晶配向膜として使用してもよく、液晶配向能を更に高めるために、工程1で形成した塗膜に対し配向処理を施してもよい。
【0095】
光配向のための光照射は、ポストベーク工程後の塗膜に対して照射する方法、プレベーク工程後であってポストベーク工程前の塗膜に対して照射する方法、プレベーク工程及びポストベーク工程の少なくともいずれかにおいて塗膜の加熱中に塗膜に対して照射する方法、等により行うことができる。塗膜に照射する放射線としては、例えば150~800nmの波長の光を含む紫外線及び可視光線を用いることができる。好ましくは、200~400nmの波長の光を含む紫外線である。放射線が偏光である場合、直線偏光であっても部分偏光であってもよい。用いる放射線が直線偏光又は部分偏光である場合には、照射は基板面に垂直の方向から行ってもよく、斜め方向から行ってもよく、又はこれらを組み合わせて行ってもよい。非偏光の放射線の場合の照射方向は斜め方向とする。
【0096】
使用する光源としては、例えば低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、重水素ランプ、メタルハライドランプ、アルゴン共鳴ランプ、キセノンランプ、エキシマーレーザー等が挙げられる。放射線の照射量は、好ましくは200~30,000J/mであり、より好ましくは500~10,000J/mである。配向能付与のための光照射後において、基板表面を、例えば水、有機溶媒(例えば、メタノール、イソプロピルアルコール、1-メトキシ-2-プロパノールアセテート、ブチルセロソルブ、乳酸エチル等)又はこれらの混合物を用いて洗浄する処理や、基板を加熱する処理を行ってもよい。
【0097】
<工程3:液晶セルの構築>
液晶配向膜が形成された一対の基板を対向配置し、対向配置した2枚の基板間に液晶を配置することにより液晶セルを製造する。液晶セルを製造するには、例えば、液晶配向膜が対向するように間隙を介して2枚の基板を対向配置し、2枚の基板の周辺部をシール材形成用材料により貼り合わせ、基板表面とシール材で囲まれたセルギャップ内に液晶を注入充填し注入孔を封止する方法、ODF方式による方法等が挙げられる。シール材形成用材料としては、例えば硬化剤及びスペーサーとしての酸化アルミニウム球を含有するエポキシ樹脂等を用いることができる。液晶としては、ネマチック液晶、スメクチック液晶を挙げることができ、中でもネマチック液晶が好ましい。
【0098】
液晶表示装置を製造する場合、続いて、液晶セルの外側表面に偏光板を貼り合わせる。偏光板としては、ポリビニルアルコールを延伸配向させながらヨウ素を吸収させた「H膜」と称される偏光フィルムを酢酸セルロース保護膜で挟んだ偏光板又はH膜そのものからなる偏光板が挙げられる。
【0099】
本開示の液晶素子は、種々の用途に有効に適用することができる。具体的には、例えば、時計、携帯型ゲーム機、ワープロ、ノート型パソコン、カーナビゲーションシステム、カムコーダー、PDA、デジタルカメラ、携帯電話機、スマートフォン、各種モニター、液晶テレビ、インフォメーションディスプレイ等の各種表示装置や、調光装置、位相差フィルム等として用いることができる。
【0100】
以上詳述した本開示によれば、以下に示す液晶配向剤、液晶配向膜及び液晶素子が提供される。
〔1〕 光配向性構造を含む側鎖と、光開始剤構造を含む側鎖とを有するか、又は光配向性構造と光開始剤構造とを含む側鎖を有する重合体(P)と、前記重合体(P)とは異なる重合体(Q)と、を含有する、液晶配向剤。
〔2〕 前記重合体(P)は、光配向性構造を含む側鎖を有する構造単位と、光開始剤構造を含む側鎖を有する構造単位とを含む、〔1〕に記載の液晶配向剤。
〔3〕 前記重合体(Q)は、光開始剤構造を有しない重合体である、〔1〕又は〔2〕に記載の液晶配向剤。
〔4〕 前記重合体(P)は、付加重合体、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド及びポリオルガノシロキサンよりなる群から選択される少なくとも1種である、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の液晶配向剤。
〔5〕 前記重合体(Q)は、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド、ポリアミド、付加重合体及びポリオルガノシロキサンよりなる群から選択される少なくとも1種である、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の液晶配向剤。
〔6〕 前記重合体(P)は、付加重合体であり、前記重合体(Q)は、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド、ポリアミド、付加重合体及びポリオルガノシロキサンよりなる群から選択される少なくとも1種である、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の液晶配向剤。
〔7〕前記重合体(P)及び前記重合体(Q)の主鎖が異なる、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の液晶配向剤。
〔8〕 架橋剤を更に含有する、〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の液晶配向剤。
〔9〕 〔1〕~〔8〕のいずれかに記載の液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜。
〔10〕 〔9〕に記載の液晶配向膜を備える液晶素子。
【実施例0101】
以下、実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0102】
以下の例において、重合体の分子量は以下の方法により測定した。
<重合体の分子量(Mw、Mn)>
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、下記条件で重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)を測定した。
装置:昭和電工(株)の「GPC-101」
GPCカラム:(株)島津ジーエルシー製の「GPC-KF-801」、「GPC-KF-802」、「GPC-KF-803」及び「GPC-KF-804」を結合
移動相:テトラヒドロフラン(THF)
カラム温度:40℃
流速:1.0mL/分
試料濃度:1.0質量%
試料注入量:100μL
検出器:示差屈折計
標準物質:単分散ポリスチレン
【0103】
下記の例で使用した化合物の略称を以下に示す。なお、以下では便宜上、「式(X)で表される化合物」を単に「化合物(X)」と示すことがある。
【0104】
(テトラカルボン酸二無水物)TA-1~TA-4
【化21】
【0105】
(ジアミン)DA-1~DA-20
【化22】
【化23】
【化24】
【0106】
(光配向性構造を有する不飽和単量体)PS-1~PS-7
【化25】
【化26】
【0107】
(光開始剤構造を有する不飽和単量体)PI-1~PI-13
【化27】
【化28】
【0108】
(その他の不飽和単量体)M-1~M-4
【化29】
【0109】
(添加剤)A-1~A-5
【化30】
【0110】
<重合体の合成>
・ポリアミック酸の合成
[合成例1-1]
テトラカルボン酸二無水物として化合物(TA-2)20.0mmol、化合物(TA-3)60.0mmol、化合物(TA-4)20.0mmol、ジアミンとして化合物(DA-1)30.0mmol、化合物(DA-10)40.0mmol、化合物(DA-14)30.0mmolをN-メチル-2-ピロリドン(NMP)256gに溶解し、40℃で3時間反応を行うことにより、ポリアミック酸を15質量%含有する溶液を得た。次いで、このポリアミック酸溶液を大過剰のメタノール中に注ぎ、反応生成物を沈殿させた。この沈殿物をメタノールで洗浄し、減圧下40℃で15時間乾燥させることにより、ポリアミック酸(これを「重合体(PAA-1)」とする)を得た。
【0111】
[合成例1-2~1-14]
使用するテトラカルボン酸二無水物及びジアミンの種類及び量を下記表1に記載のとおり変更した以外は、上記合成例1-1と同様の操作を行うことにより、重合体(PAA-2~PAA-14)をそれぞれ含有する溶液を得た。また、得られた各ポリアミック酸溶液を合成例1-1と同様に大過剰のメタノール中に注ぎ、重合体(PAA-2)~重合体(PAA-14)をそれぞれ回収した。なお、表1中、テトラカルボン酸二無水物の数値は、重合体の合成に使用したテトラカルボン酸二無水物の全量に対する各化合物の使用割合(モル%)を示す。ジアミンの数値は、重合体の合成に使用したジアミンの全量に対する各化合物の使用割合(モル%)を示す。
【0112】
【表1】
【0113】
・付加重合体の合成
[合成例2-1]
窒素下、100mL二口フラスコに、重合モノマーとして、化合物(M-1)40.0mmol、化合物(M-2)20.0mmol、化合物(PS-1)30.0mmol、及び化合物(PI-1)10.0mmol、ラジカル重合開始剤として2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)5.14mmol、並びに溶媒としてNMP102gを加え、70℃で6時間重合した。メタノールに再沈殿した後、沈殿物を濾過し、室温で8時間真空乾燥することで目的の重合体(P-1)を得た。GPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量(Mw)は42000、分子量分布(Mw/Mn)は2.2であった。
【0114】
[合成例2-2~2-16]
重合モノマーを下記表2に記載のとおり変更した点以外は合成例2-1と同様に重合を行い、重合体(P-1)と同等の重量平均分子量及び分子量分布を持つ重合体(P-2)~(P-16)の各重合体を得た。なお、重合モノマーの総モル数は合成例2-1と同様に100mmolとした。表2中の数値は、重合体の合成に使用した全モノマーに対する各モノマーの仕込み量[モル%]を表す。
【0115】
【表2】
【0116】
<液晶配向剤の調製及び評価>
1.液晶配向剤の調製
合成例2-1で得た重合体(P-1)30質量部、合成例1-1で得た重合体(PAA-1)70質量部、及び添加剤(A-1)10質量部が入った容器に、溶剤としてNMP及びブチルセロソルブ(BC)を加え、溶剤組成がNMP/BC=60/40(質量比)、固形分濃度が3.5質量%の溶液とした。この溶液を孔径0.2μmのフィルターで濾過することにより液晶配向剤(AL-1)を調製した。
【0117】
2.光垂直型液晶表示素子の製造
ITO膜からなる透明電極付きガラス基板の透明電極面上に液晶配向剤(AL-1)を、スピンナーを用いて塗布し、80℃のホットプレートで1分間プレベークを行った。その後、庫内を窒素置換したオーブン中、230℃で1時間加熱して膜厚0.1μmの塗膜を形成した。次いで、この塗膜表面に、Hg-Xeランプ及びグランテーラープリズムを用いて313nmの輝線を含む偏光紫外線1,000J/mを、基板法線から40°傾いた方向から照射して液晶配向能を付与した。同じ操作を繰り返して、液晶配向膜を有する基板を一対(2枚)作成した。
上記基板のうちの1枚の液晶配向膜を有する面の外周に、直径3.5μmの酸化アルミニウム球入りUV硬化型シール剤をスクリーン印刷により塗布した。その後、一対の基板の液晶配向膜面を対向させ、各基板の紫外線の光軸の基板面への投影方向が逆平行となるように圧着し、UV硬化型シール剤の塗布部分に紫外線を30,000J/m(365nm換算)照射し、シール剤をUV硬化させた。次いで、液晶注入口より基板間の間隙にネガ型液晶(メルク社製、MLC-6608)を充填した後、エポキシ系接着剤で液晶注入口を封止した。さらに、液晶注入時の流動配向を除くために、これを130℃で加熱してから室温まで徐冷した。次に、基板の外側両面に、偏光板を、その偏光方向が互いに直交し、かつ、液晶配向膜の紫外線の光軸の基板面への射影方向と45°の角度をなすように貼り合わせることにより液晶表示素子を製造した。
【0118】
3.プレチルト角特性の評価
上記2.で製造した液晶表示素子につき、非特許文献(T. J. Scheffer et. al. J. Appl. Phys. vo. 19. p2013(1980))に記載の方法に準拠して、He-Neレーザー光を用いる結晶回転法により測定した液晶分子の基板面からの傾き角の値をプレチルト角とした。このとき、プレチルト角が86.0°以上89.0°未満の場合に「良好(○)」、89.0°以上又は86.0°未満の場合に「不良(×)」とした。その結果、この実施例では、プレチルト角特性は「良好(○)」の評価であった。
【0119】
4.電圧保持率(VHR)の評価
上記2.で製造した液晶表示素子につき、5Vの電圧を60マイクロ秒の印加時間、167ミリ秒のスパンで印加した後、印加解除から167ミリ秒後の電圧保持率を測定した。測定装置は(株)東陽テクニカ製VHR-1を使用した。このとき、電圧保持率が90%以上の場合に「良好(○)」、70%以上90%未満の場合に「可(△)」、70%未満の場合に「不良(×)」とした。その結果、この実施例では電圧保持率は「良好(○)」の評価であった。
5.高温高湿耐性の評価
上記2.で製造した液晶表示素子を、60℃、湿度90%に設定されたオーブンで300時間保管した後、上記4.と同様にして電圧保持率を測定した。この値をVHR2とし、60℃、湿度90%の高温高湿条件下で保管する前に測定した電圧保持率をVHR1として、VHR1からVHR2を差し引くことにより電圧保持率の減少量ΔVHRを求め、ΔVHRにより高温高湿耐性を評価した。ΔVHRが5%未満であった場合を「特に良好(◎)」、5%以上10%未満であった場合を「良好(○)」、10%以上20%未満であった場合を「可(△)」、20%以上であった場合を「不良(×)」とした。その結果、この実施例では高温高湿耐性は「特に良好(◎)」の評価であった。
【0120】
6.密着性(狭線密着性)の評価
液晶配向剤(AL-1)をガラス基板上にスピンナーを用いて塗布し、80℃のホットプレートで2分間プレベークを行った後、庫内を窒素置換した230℃のオーブンで30分加熱(ポストベーク)することにより、平均膜厚0.10μmの塗膜を形成した。これと同様の操作を繰り返すことにより、塗膜が形成されたガラス基板を2枚作製した。塗膜を形成した1枚のガラス基板の塗膜上に、ODFシール剤(積水化学社製、S-WB42)を、最終的なシール材の幅が0.5mmになるように塗布し、もう一枚のガラス基板の塗膜とODFシール剤とが接触するように貼り合わせた。その後、メタルハライドランプを用いて30,000J/m(365nm換算)の光を照射した後、120℃のオーブンで1時間加熱した。その後、今田製作所の引張圧縮試験機(型番:SDWS-0201-100SL)を用いて密着力を測定することにより狭線密着性を評価した。評価は、密着力が175N/cm以上であった場合を「特に良好(◎)」、密着力が160N/cm以上175N/cm未満であった場合を「良好(○)」、150N/cm以上160N/cm未満であった場合を「可(△)」、150N/cm未満であった場合を「不良(×)」とした。その結果、この実施例では密着力170N/cmであり、狭線密着性は「良好(○)」の評価であった。
【0121】
[実施例2~19及び比較例1~4]
配合組成を下記表3に示すとおり変更した点以外は実施例1と同じ固形分濃度で液晶配向剤(AL-2)~(AL-19)、(AR-1)~(AR-4)をそれぞれ調製した。また、各液晶配向剤を用いて、実施例1と同様にして液晶表示素子を製造し、各種評価を行った。評価結果を表3に示す。なお、表3中、重合体及び添加剤の部数は質量部を表す。また、溶剤組成の括弧内の数値は各溶剤の質量比を表す。
【0122】
【表3】
【0123】
表3中、溶剤の略称は以下のとおりである。
NMP:N-メチル-2-ピロリドン
BC:ブチルセロソルブ
NEP:N-エチル-2-ピロリドン
DEDG:ジエチレングリコールジエチルエーテル
DIBK:ジイソブチルケトン
【0124】
表3に示すように、重合体(P)及び重合体(Q)を含有する実施例1~19の液晶配向剤を用いることにより、プレチルト角特性、高温高湿耐性及び密着性が良好な液晶配向膜を形成することができた。また、得られた液晶表示素子の電圧保持率も十分に高かった。これらのうち、重合体(Q)として、化合物(DA-6)、化合物(DA-8)及び化合物(DA-9)のうち少なくともいずれかに由来する構造単位を含む重合体を用いた実施例3,4,5~9,11、並びに、重合体(P)として化合物(DA-8)に由来する構造単位を含む重合体を用いた実施例19は、液晶配向膜の密着性が特に良好(◎)であり優れていた。また、高温高湿耐性について、実施例14~16では良好(○)であり、実施例17~19では可(△)の評価であった。これは、実施例14~16については、光開始剤構造を有する単量体に由来する分解物に起因するものと考えられる。また、実施例17~19については、重合体(P)と重合体(Q)の主鎖の種類が同一であることに起因するものと考えられる。
【0125】
これに対し、光配向性構造を有する重合体(P-16)及び光開始剤構造を有する重合体(PAA-12)を含有し、重合体(P)を含有しない比較例1の液晶配向剤を用いた場合には、高温高湿耐性は可(△)の評価であったものの、液晶配向膜の密着性が十分でなく、不良(×)の評価であった。また、光配向性構造を側鎖に有し光開始剤構造を有しない重合体(PAA-5)又は重合体(P-16)と、光配向性構造及び光開始剤構造を共に有しない重合体(PAA-10)とを含有する比較例3、4の液晶配向剤を用いた場合にも、液晶配向膜の密着性が十分でなかった。また、重合体(P)を含有するが重合体(Q)を含有しない比較例2の液晶配向剤を用いた場合には、液晶配向膜の密着性及び高温高湿耐性のいずれも実施例1~19より劣る結果であった。
【0126】
以上の結果から、光配向性構造及び光開始剤構造を側鎖に有する重合体(P)と、重合体(P)とは異なる重合体(Q)とを含有する液晶配向剤によれば、プレチルト角特性及び電圧保持率を良好に維持しながら、高温高湿耐性に優れ、かつ基板に対する密着性に優れた液晶配向膜を形成できることが明らかとなった。