(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024164813
(43)【公開日】2024-11-27
(54)【発明の名称】試験装置
(51)【国際特許分類】
G01N 17/00 20060101AFI20241120BHJP
【FI】
G01N17/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024071940
(22)【出願日】2024-04-25
(31)【優先権主張番号】P 2023080418
(32)【優先日】2023-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】安田 恭野
(72)【発明者】
【氏名】三浦 進一
(72)【発明者】
【氏名】塩谷 和彦
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 周作
【テーマコード(参考)】
2G050
【Fターム(参考)】
2G050AA01
2G050DA01
2G050EA01
2G050EA05
2G050EB03
2G050EC03
2G050EC05
(57)【要約】
【課題】収容容器内の流体状の内容物が、当該収容容器を温調するために循環する熱媒へ混入することが防止された試験装置を提供する。
【解決手段】試験装置100は、評価用流体を収容する収容容器1と、収容容器1と熱媒とを収容する熱媒槽2と、を備え、熱媒槽2は、収容容器1と熱媒とを収容する第一槽21と、第一槽21と熱媒とを収容する第二槽22と、を有し、第一槽21は、熱媒を循環させずに槽内に滞留させており、槽内部が熱媒槽2の外部に開放されており、第二槽22は、熱媒を循環されており、第一槽21を介して収容容器1内の評価用流体の温度制御をする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
評価用流体を収容する収容容器と、
前記収容容器と熱媒とを収容する熱媒槽と、を備え、
前記熱媒槽は、
前記収容容器と熱媒とを収容する第一槽と、
前記第一槽と熱媒とを収容する第二槽と、を有し、
前記第一槽は、
熱媒を循環させずに槽内に滞留させており、
槽内部が前記熱媒槽の外部に開放されており、
前記第二槽は、
熱媒を循環されており、
前記第一槽を介して前記収容容器内の前記評価用流体の温度制御をする試験装置。
【請求項2】
試験片を保持するための、前記収容容器内に固定された保持具を更に備え、
前記収容容器と前記保持具とは、絶縁されている請求項1に記載の試験装置。
【請求項3】
前記試験片と前記保持具における前記試験片の保持部とは絶縁されている請求項2に記載の試験装置。
【請求項4】
前記収容容器内に配置された一対の電極と、
前記一対の電極と電気的に接続された電気化学測定装置と、を更に備えた請求項1に記載の試験装置。
【請求項5】
前記収容容器内に配置された一対の電極と、
前記一対の電極と電気的に接続された電気化学測定装置と、を更に備えた請求項2に記載の試験装置。
【請求項6】
前記収容容器内に配置された一対の電極と、
前記一対の電極と電気的に接続された電気化学測定装置と、を更に備えた請求項3に記載の試験装置。
【請求項7】
前記第一槽は、
評価用流体を処理し、該評価用流体の系外への放出を防止する処理装置を更に備えている請求項1から6の何れか1項に記載の試験装置。
【請求項8】
前記収容容器内で試験片に応力を付与する応力付与装置を更に備えた請求項1から6の何れか1項に記載の試験装置。
【請求項9】
前記収容容器内で試験片に応力を付与する応力付与装置を更に備えた請求項7に記載の試験装置。
【請求項10】
前記収容容器内を撹拌する撹拌装置を更に備えた請求項1から6の何れか1項に記載の試験装置。
【請求項11】
前記収容容器内を撹拌する撹拌装置を更に備えた請求項7に記載の試験装置。
【請求項12】
前記収容容器内を撹拌する撹拌装置を更に備えた請求項8に記載の試験装置。
【請求項13】
前記収容容器内を撹拌する撹拌装置を更に備えた請求項9に記載の試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体アンモニア環境下において、鋼材、特に炭素鋼には、液体アンモニアによる応力腐食割れ(以下、アンモニアSCC(Stress Corrosion Cracking)と称する)が生じることがある。そのため、液体アンモニアに接する配管、貯槽、タンク車、ラインパイプなどの、炭素鋼製の構造物には、炭素鋼のうちでもアンモニアSCC感受性の低い鋼材を選択して用いたり、アンモニアSCCを抑制する操業上の措置を講じたりしていた。
【0003】
特許文献1には、鋼材における液体アンモニア割れの促進試験方法が開示されている。この試験方法は、液体アンモニアの貯蔵又は運搬に供するために使用するタンク等に用いられる鋼板などの鋼材に関し、液体アンモニアによる割れの感受性を正しく評価する促進試験方法に関する。この試験方法では、液体アンモニアに飽和濃度又はこれに近い濃度の二酸化炭素ならびに気相分圧で0.3~2.0気圧の酸素を加えた試験液中において、外部応力を付加し、または残留応力もしくは残留歪をもった鋼材試験片を、アノード分極させている。
【0004】
非特許文献1には、液体アンモニア中における応力腐食割れ促進試験法が開示されている。この試験法では、液体アンモニアと試験片とを収容する試験槽の外部に円筒型容器を取り付けて、円筒型容器内に恒温水を循環させて試験槽を一定温度に保持している。非特許文献1では、試験槽の胴部分を円筒型容器の筒内に収容した状態が図示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】液体アンモニア中における応力腐食割れ促進試験法の開発、鉄と鋼、1981年 67巻 14号、p.2226-2233、中井揚一ら、[令和5年3月3日検索]、インターネット<https://www.jstage.jst.go.jp/article/tetsutohagane1955/67/14/67_14_2226/_pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
アンモニアSCCは、アンモニアによる鋼材の腐食反応と、鋼材に付与された応力とが重畳して鋼材が破壊に至る現象である。アンモニアSCCの発生は、鋼材そのものに起因する材料因子に加えて、上記特許文献1及び非特許文献1に例示されるように、温度やアンモニアの濃度のような鋼材が使用される環境に起因する環境因子及び鋼材や環境に起因する応力因子に関連する。そのため、アンモニアSCCを抑制するためには、これらの因子がアンモニアSCCの発生に及ぼす影響を把握することが有益である。そこで、上記特許文献1及び非特許文献1に例示されるように、これらの因子が及ぼす影響を実験室的手法により把握することが重要となる。
【0008】
さて、アンモニアは、生物への毒性があり、また、可燃性を有する。そのため、鋼材のような試験片について、アンモニアによる腐食性やアンモニアSCCを実験室的手法によ
り評価するためには、アンモニアの安全な取り扱いが重要となる。例えば非特許文献1に記載された試験装置では、液体アンモニアと試験片とを収容する収容容器である試験槽が破損し、特に、かかる試験槽の内圧が外圧より高い場合、液体アンモニアが流出して恒温水のような熱媒に混入するおそれがあるという問題があった。液体アンモニアが熱媒に混入すると、例えば熱媒が循環する温度制御装置を通して系外にアンモニアが漏洩するおそれも生じる。そのため、液体アンモニアのような流体状の内容物が、収容容器から流出しても、収容容器内を温調するために循環する熱媒へ混入することが防止された試験装置の提供が望まれる。
【0009】
本発明は、かかる実状に鑑みて為されたものであって、その目的は、収容容器内の流体状の内容物が、当該収容容器を温調するために循環する熱媒へ混入し、系外に漏洩することが防止された試験装置を提供することにある。
【0010】
上記目的を達成するための、本開示に係る試験装置は以下のとおりである。
【0011】
[1] 評価用流体を収容する収容容器と、
前記収容容器と熱媒とを収容する熱媒槽と、を備え、
前記熱媒槽は、
前記収容容器と熱媒とを収容する第一槽と、
前記第一槽と熱媒とを収容する第二槽と、を有し、
前記第一槽は、
熱媒を循環させずに槽内に滞留させており、
槽内部が前記熱媒槽の外部に開放されており、
前記第二槽は、
熱媒を循環されており、
前記第一槽を介して前記収容容器内の前記評価用流体の温度制御をする試験装置。
【0012】
[2] 試験片を保持するための、前記収容容器内に固定された保持具を更に備え、
前記収容容器と前記保持具とは、絶縁されている上記[1]に記載の試験装置。
【0013】
[3] 前記試験片と前記保持具における前記試験片の保持部とは絶縁されている上記[2]に記載の試験装置。
【0014】
[4] 前記収容容器内に配置された一対の電極と、
前記一対の電極と電気的に接続された電気化学測定装置と、を更に備えた上記[1]から[3]の何れか一つに記載の試験装置。
【0015】
[5] 前記第一槽は、
評価用流体を処理し、該評価用流体の系外への放出を防止する処理装置を更に備えている上記[1]から[4]の何れか一つに記載の試験装置。
【0016】
[6] 前記収容容器内で試験片に応力を付与する応力付与装置を更に備えた上記[1]から[5]の何れか一つに記載の試験装置。
【0017】
[7] 前記収容容器内を撹拌する撹拌装置を更に備えた上記[1]から[6]の何れか一つに記載の試験装置。
【発明の効果】
【0018】
本開示によれば、収容容器内の流体状の内容物が、当該収容容器を温調するために循環する熱媒へ混入し、系外に漏洩することが防止された試験装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本実施形態に係る試験装置の構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図面に基づいて、本発明の実施形態に係る試験装置について説明する。
【0021】
図1には、本実施形態に係る試験装置100を示している。まず、試験装置100の概要を説明する。
【0022】
試験装置100は、評価用流体を収容する収容容器1と、収容容器1と熱媒とを収容する熱媒槽2と、を備えている。熱媒槽2は、収容容器1と熱媒とを収容する第一槽21と、第一槽21と熱媒とを収容する第二槽22と、を有する。第一槽21は、熱媒を循環させずに槽内に滞留させており、槽内部が熱媒槽2の外部に開放され、外部に評価用流体の処理装置5を備えている。第二槽22は、熱媒を循環されており、第一槽21を介して収容容器1内の評価用流体の温度制御をする。なお、本発明において、外部とは、収容容器1と熱媒槽2の外であって、試験装置100の内であることを意味する。
【0023】
試験装置100は、収容容器1内に、鋼材のような試験片(不図示)とその試験片に腐食などの劣化を生じさせる流体、すなわち、評価用流体(不図示)とを収容することができ、これにより、試験片の腐食性のような特性の評価(以下、単に試験等と称する)を行える。
【0024】
試験装置100では、収容容器1内の流体状の内容物が、収容容器1を温調するために循環する熱媒へ混入し、系外に漏洩することが防止されている。なお、本発明において、系外とは、試験装置100の外であって、一般の(人が出入りすることのできる)環境下であることを意味する。
【0025】
以下、試験装置100について詳述する。
試験装置100は、
図1に示すように、収容容器1と、第一槽21と第二槽22とを有する熱媒槽2と、第二槽22に熱媒を循環させる循環器3とを備えてよい。
さらに、第一槽21は、外部に評価用流体の処理装置5を備えてよい。
【0026】
収容容器1は、試験片と、その試験片に腐食などの劣化を生じさせる流体である評価用流体とを収容する容器である。収容容器1は、密閉可能な容器であってよい。また、収容容器1は、容器内空間の圧力を、容器外よりも高い圧力に保つことができる圧力容器であってよい。収容容器1は、例えば、底蓋部と上蓋部とを有し、内部空間を密封可能な筒状の容器であってよい。収容容器1は、一例として円筒状の容器であってよい。
【0027】
収容容器1には、容器内に評価用流体などの流体を供給又は排出する流体配管41が配設されてよい。また、収容容器1には、容器内の温度を計測する温度センサのような温度検知部42が設置されてもよい。また、収容容器1には、容器内の圧力を計測する圧力センサや、圧力センサに圧力を伝達する圧力検知用配管などの、圧力検知部43が設置されてもよい。
【0028】
収容容器1は、ステンレスや鋼、ガラスなどで形成されてよい。
【0029】
本実施形態における試験片の一例は、鋼材、特に炭素鋼などの金属材料である。
【0030】
本実施形態における熱媒の一例は水である。熱媒は、熱媒が調整される温度に応じて公知のものを選択してよい。
【0031】
本実施形態における評価用流体は、気体、液体及び気体と液体との両方であってよい。評価用流体の一例は、液体状のアンモニアである。液体状のアンモニアには、液化アンモニアや、アンモニアの水溶液、アンモニウム塩の水溶液などの、アンモニア含有流体が含まれる。評価用流体の他の例は、アンモニアの気体である。評価用流体は、その他の酸性やアルカリ性の液体や腐食性の気体であってもよい。以下では、主として、評価用流体が液体状のアンモニア及び気体アンモニアである場合を例示して説明する。
【0032】
熱媒槽2は、収容容器1と収容容器1を温度調整するための熱媒とを収容する槽である。熱媒槽2は、上述のごとく第一槽21と第二槽22とを有する。
【0033】
第一槽21は、収容容器1と収容容器1を温度調整するための熱媒とを収容する槽である。熱媒は、第一槽21の槽内に貯留されており、槽内に滞留している。すなわち、第一槽21に貯留された熱媒は、第一槽21の槽内と系外との間で循環しない。収容容器1は、第一槽21に貯留された熱媒に、少なくとも一部を浸漬された状態で、第一槽21内に収容される。
さらに、第一槽21は、外部に評価用流体の処理装置5を備えてよい。
また、第一槽21の圧力は、収容容器1の圧力よりも低い。すなわち、かかる容器(収容容器1)内部の圧力が前記第一槽21内の圧力よりも高く、保持されている。
以上の構成によって、収容容器1から流出した評価流体は、収容容器1の外や第一槽21内に流出するものの、第一槽21等から系外へは放出されることなく、処理装置5によって適切に処理される。
なお、本発明における処理装置5は、アンモニア等の評価流体の毒性を系外へ放出することなく無害化することができる装置であれば、特段の制限はない。例えば、スクラバーや散水設備などを、収容容器1と熱媒槽2の外であって、試験装置100の内に設置すれば良い。
すなわち、具体的には、評価流体を検出する検出装置と、検出した際に除害剤を散布する散布装置からなる装置、あるいは評価流体を吸引する排風装置、吸引した評価用流体を収容する容器と、前記容器内で除害剤を散布する散布装置からなる装置である。
【0034】
第一槽21は、一例として、筒内に熱媒を貯留可能な有底筒状の槽であってよい。第一槽21の槽内(筒内部)は外部に開放されている。
図1では、第一槽21の上部が外部空間に開放されている場合を例示している。なお、本発明における開放とは、上述したように、熱媒を貯留可能とし、かつ評価用流体が、第一槽21内に流出した場合であっても、第一槽21内の圧力が上昇しない程度に、開口部を有していることを意味する。
【0035】
第一槽21は、ステンレスや鋼、ガラスなどで形成されてよい。
【0036】
第一槽21には、槽内の圧力を計測する圧力センサや、圧力センサに圧力を伝達する圧力検知用配管などの、圧力検知部44が設置されてもよい。
【0037】
第二槽22は、第一槽21と第一槽21を温度調整するための熱媒とを収容する槽である。第二槽22では、貯留された熱媒は、第二槽22の槽内と循環器3との間で循環している。第二槽22と循環器3とは、熱媒を循環させる配管32、33で接続されてよい。
第一槽21は、第二槽22に貯留された熱媒に、少なくとも一部(少なくとも、第一槽21を介して、第二槽22によって収容容器1の温度を調整するのに十分な面積を有する)を浸漬された状態で、第二槽22内に収容される。
【0038】
第二槽22は、一例として、筒内に熱媒を貯留可能な有底筒状の槽であってよい。第二槽22の槽内は、循環器3以外の外部に開放されていてもよいし、開放されていなくてもよい。
【0039】
第二槽22と第一槽21とは、底板を共有してもよい。
図1では、熱媒槽2が有底筒状に形成されており、底板部20と、底板部20の外周部から上方に延出して第二槽22を形成する外側筒部22aと、外側筒部22aの筒内に配置されており、底板部20の上面から上方に延出して第一槽21を形成する内側筒部21aとを有する場合を例示している。底板部20は、第一槽21の底板と第二槽22の底板とを兼ねている。また、
図1では、外側筒部22aの筒の内側、且つ、内側筒部21aの外側の空間である第二槽22の槽内空間を封じる上蓋部22bを有する場合を例示している。
【0040】
図1に示す例では、内側筒部21aは、第一槽21の槽内と、第二槽22の槽内とを隔離する隔壁である。第二槽22は、溶媒を、外側筒部22aと内側筒部21aとの間に貯留する。第一槽21は、溶媒を、内側筒部21aと収容容器1の側壁との間に貯留する。
【0041】
第二槽22は、ステンレスや鋼、ガラス、樹脂などで形成されてよい。
【0042】
循環器3は、第二槽22に貯留された熱媒を、第二槽22の槽内と温度調整槽31等との間で循環させる循環装置である。
【0043】
循環器3は、第二槽22に貯留された熱媒を、第二槽22の槽内と循環器3との間で循環させるポンプ(不図示)と、第二槽22に循環させる熱媒を貯留し、また、その熱媒の温度調整をする温度調整槽31と、加熱器や冷却器などの、熱媒の温度を目標値に調整又は制御する、温度調整装置(不図示)とを備えた、熱媒の温度調整機能を有する循環装置であってよい。温度調整槽31には、槽内の熱媒の水位を計測するレベルセンサなどの、水位検知部45が設置されてもよい。
【0044】
循環器3は、第二槽22と、熱媒を循環させる配管32、33を介して連通接続されてよい。循環器3が温度調整槽31を有する場合は、温度調整槽31が配管32、33を介して第二槽22と連通接続されてよい。
なお、循環器3は、収容容器1および熱媒槽2のそれぞれの設置位置とは隔壁で区画された場所(系外)に設置してよい。
【0045】
試験装置100では、第二槽22を、循環器3で温度調整された熱媒が循環することで、第二槽22で第一槽21の熱媒の温度を目標値に制御してよい。そして、第一槽21で収容容器1の評価用流体の温度を目標値に制御してよい。これにより、試験装置100では、評価用流体を所定の試験温度に制御した状態で、当該評価用流体に晒された状態における、試験片の特性、例えば腐食性の評価を行える。
【0046】
試験装置100では、評価用流体を液体アンモニアのようなアンモニア含有流体とすることで、アンモニアによる腐食割れ試験(アンモニアSCC性の評価)を行える。
【0047】
試験装置100では、例えば、収容容器1の壁部が貫通して評価用流体が収容容器1の外部に流出した場合、収容容器1は、試験装置100内かつ第一槽21に収容されているため、評価用流体は、試験装置100内および第一槽21内に保持される。
ここで、第一槽21の熱媒は、循環しておらず、第一槽21の槽内に滞留し、かつ、第一槽21は、外部に開放されているので、評価用流体が漏れてもその内圧は上がりづらくなっていて、第一槽21の第二槽22との接触面にさらなる孔食が生じることを防いでいる。また、必要に応じて、第一槽21に漏れ出た評価用流体は処理装置により適切に処理される。以上により、本発明において、収容容器1内の評価用流体は、収容容器1を温調するために循環する第二槽22の熱媒へ混入することが防止される。すなわち、収容容器1から第一槽21に流出した評価用流体が循環器3などの、熱媒槽2の外(系外)に流出することが防止される。
【0048】
試験装置100は、収容容器1に収容した試験片を保持する保持部を有する保持具(不図示)を更に有してもよい。保持具は、収容容器1内に収容されてよい。保持具は、収容容器1内に載置又は固定されてよい。保持具は、収容容器1の外部に固定又は支持され、保持部が収容容器1内に配置されてもよい。
【0049】
保持具は、試験等の目的に応じて収容容器1中における試験片の位置や姿勢を固定できるものであれば、その保持部の種類を問わない。保持具によって収容容器1中における試験片の位置や姿勢を固定することで、試験片の位置や姿勢が試験等の結果に影響することを防止することができる。
【0050】
この保持具は、収容容器1に収容した試験片が、収容容器1の内壁と接触しない状態で保持できるものであってよい。収容容器1の内壁が導電性を有する材料で形成されている場合、これにより、試験片と収容容器1との接触による導通を回避し、試験片が評価用流体中で電気的な腐食を生じる場合に、収容容器1との導通による影響を排除して試験等を行える。
【0051】
保持具と収容容器1とは絶縁されていることが好ましい。これにより、試験片と収容容器とが保持具を介して導通することを回避し、試験片が評価用流体中で電気的な腐食を生じる場合に、収容容器1との導通による影響を排除して試験等を行える。
【0052】
試験片と保持具とは絶縁されていることが好ましい。この場合、試験片と保持具における試験片の保持部とが絶縁されていればよい。これにより、試験片と保持具とが導通することを回避し、試験片が評価用流体中で電気的な腐食を生じる場合に、保持具との導通による影響を排除して試験等を行える。
【0053】
例えば、保持具の保持部を絶縁性の材料で形成してよい。これにより、試験片と保持具とを絶縁することができる。また、試験片と収容容器1とを絶縁することができる。
【0054】
試験装置100は、電気化学測定装置(不図示)と、電気化学測定装置に電気的に接続された一対の電極(不図示)とを更に備えてよい。この場合、一対の電極は、収容容器1内に配置する。そして、一対の電極の内、一方を試験片に導通させ、他方を、評価用流体に浸した対極と導通させる。これにより、電気化学測定装置により、試験片の電気的な腐食を、一対の電極間に生じた電流や電位差に基づいて評価することができる。
【0055】
電気化学測定装置は、例えば、ポテンショスタットやガルバノスタットであってよい。
【0056】
電気化学測定装置で試験片の電気的な腐食を電流や電位差に基づいて評価(以下、電気化学試験と称する場合がある)する場合、上述のごとく、試験片と保持具、試験片と収容容器1とは絶縁しておくとよい。試験片と収容容器1や保持具とが絶縁されていない場合、試験片と収容容器1や保持具との間でガルバニック電流が生じ、これにより試験片にガルバニック腐食が生じる場合がある。この場合、電気化学試験で正しく評価できない場合
がある。
【0057】
さて、試験装置100では、残留応力又は残留歪をもった試験片を収容容器1に収容して試験等を行ってよい。また、試験片を収容容器1に収容した状態で、試験片に応力を付与しながら試験等を行ってもよい。
【0058】
例えばアンモニアSCCは、鋼材などの金属材料において、アンモニアによって金属材料に生じる腐食反応に、金属材料に付与されている応力が重畳することにより生じる現象である。そのため、鋼材などの金属製の試験片のアンモニアSCCを評価する場合、評価用流体としての液体アンモニア中の金属製の試験片に応力を付与してこれを評価することが好ましい。
【0059】
試験片に応力を付与しながら試験等を行う場合、試験装置100は、収容容器1内で試験片に応力を付与する応力付与装置(不図示)を更に備えてよい。この場合、上述した保持具が応力付与装置を兼ねてもよいし、保持具が応力付与装置に接続されて、応力付与装置から保持具に伝達された力を保持具が試験片に加えるようにしてもよい。保持具は、二つ以上の保持部を有し、一方の保持部で試験片を固定保持しながら、他方の保持部で試験片に応力を付与してよい。また、試験装置100が、二つ以上の保持具を備えてもよい。例えば、静的に試験片を保持する保持具と、応力付与装置に接続された保持具とを備えてもよい。
【0060】
試験片に応力を付与しながら試験等を行う場合、4点曲げ、U曲げなどにより、試験片に応力を付与することができる。応力の付与は、静的に行ってもよいし、動的におこなってもよい。
【0061】
応力付与装置の一例は、定荷重試験装置や低歪速度引張試験(SSRT)装置である。
【0062】
試験装置100では、試験片に応力を付与しながら電気化学試験を行ってもよい。
【0063】
試験装置100は、収容容器1内の評価用流体を撹拌する撹拌装置(不図示)を更に備えてもよい。評価用流体を撹拌することで、収容容器1内の評価用流体の温度ムラを減少させたり、試験片と評価用流体とが化学的又は電気化学的な反応を生じる場合に、試験片近傍における評価用流体の状態(例えば、濃度や成分、液体や気体の状態)のムラを減少させたりすることができる。これにより、試験等の精度が向上する場合がある。
【0064】
撹拌装置は、例えば、プロペラ撹拌機やマグネチックスターラであってよい。
【0065】
具体例を用いて説明すると以下のようである。試験片が鋼材のような金属製である場合であって、評価用流体に対して腐食性を示す場合、この腐食反応は金属製の試験片の表面近傍における溶液組成やガス組成の影響を受ける。具体的には、例えば、評価用流体が液体アンモニア及び気体アンモニアを含む場合、収容容器1内部の評価用流体(液体アンモニア及び気体アンモニア)を撹拌することで、金属製の試験片の表面近傍における液組成の均一性が向上し、腐食性やアンモニアSCC性をより高精度に評価(測定)することができる。
【0066】
なお、アンモニア中での金属製の試験片の腐食挙動は、窒素、二酸化炭素、酸素などに影響されて著しく変化する。そのため、ガスバブリングによる撹拌は避けるとよい。
【0067】
以上のようにして、本実施形態に係る試験装置では、収容容器内の評価用流体が、当該収容容器を温調するために循環する熱媒へ混入することを防止することができる。これに
より、本実施形態に係る試験装置では、評価用流体が、熱媒と熱媒の循環器や熱媒の温度制御装置とを介して試験装置100の系外へ漏洩することを防止することができる。
【実施例0068】
以下では、実施例及び比較例に基づいて、本実施形態に係る試験装置について更に説明する。
【0069】
(漏洩確認試験)
以下のようにして、実施例に係る試験装置と比較例に係る試験装置とを準備して、試験装置における、評価用流体の漏洩確認試験を行い、これら結果を比較した。
【0070】
漏洩確認試験に供した、実施例に係る試験装置について説明する。
図2に示す装置aは本実施形態に従う試験装置である。装置aは、以下に説明するように、上述の試験装置100に従う構造を備えている。
【0071】
装置aは、評価用流体を収容するSUS316L製の収容容器1と、収容容器1と熱媒とを収容する熱媒槽2と、を備えている。収容容器1には、容器内に評価用流体などの流体を供給又は排出する流体配管41が配設されている。また、収容容器1には、容器内の温度を計測する温度検知部42が設置されている。また、収容容器1には、容器内の圧力を計測する圧力検知部43が設置されている。
【0072】
熱媒槽2は、収容容器1と熱媒としての水とを収容する第一槽21と、第一槽21と熱媒としての水とを収容する第二槽22と、を有する。第一槽21は、熱媒を循環させずに槽内に滞留させており、槽内部が熱媒槽の外部に開放されている。第一槽21には、槽内の圧力を計測する圧力検知部44が設置されている。第二槽22は、温調機能を有する循環器3との間で熱媒を循環されており、第一槽21を介して収容容器1の温度制御をする。第二槽22は、槽内部が循環器3と熱媒配管で連通接続されている点を除き、上蓋部22bで封じられて、槽内部が熱媒槽2の外部と隔離されている。
【0073】
循環器3は、第二槽22に循環させる熱媒としての水を貯留し、また、その熱媒の温度調整をする温度調整装置を備えた温度調整槽31を有する。温度調整槽31には、槽内の熱媒の水位を計測する水位検知部45が設置されている。温度調整槽31は、配管32、33を介して第二槽22と連通接続されている。
【0074】
なお、装置aには、漏洩確認試験を行うことを目的として、収容容器1の側壁に貫通孔51(人口貫通欠陥)を形成し、収容容器内からの試験用流体の流出が生じる状態とした。
【0075】
漏洩確認試験に供した、比較例に係る試験装置について説明する。
図3から
図6には、比較例に係る試験装置としての、装置bから装置eをこの順に示している。
【0076】
図3に示す装置bは、装置a(
図2参照)の第一槽21が、外部に開放されておらず、第一槽21の槽内が蓋部21bで封じられている点で装置aと異なり、その他は装置aと同じ構成である。
【0077】
図4に示す装置cは、装置b(
図3参照)において、更に、漏洩確認試験を行うことを目的として、第一槽21の槽内と第二槽22の槽内とを隔離する隔壁である内側筒部21aに貫通孔52(人口貫通欠陥)を形成した点で装置bと異なり、その他は装置bと同じ構成とした。
【0078】
図5に示す装置dは、装置aから第一槽21を取り除き(以上、
図2参照)、収容容器1が第二槽22に収容されている点で装置aと異なり、その他は装置aと同じ構成とした。
【0079】
図6に示す装置eは、装置aから熱媒槽2と循環器3とを取り除き(以上、
図2参照)、収容容器1が温度制御されない点で装置aと異なり、その他は装置aと同じ構成とした。
【0080】
漏洩確認試験は、上記の装置aから装置eについて、それぞれ、流体配管41から収容容器1内に、評価用流体の代わりに水を導入し、収容容器1内および接続された循環器3の温度調整槽31に貯留された熱媒の水位を測定することにより行った。この漏洩確認試験の結果を表1に示す。
【0081】
【0082】
漏洩確認試験では、収容容器1に水を導入した後に温度調整槽31の水位(表1に示す循環器水位)が変化(上昇)した場合、評価用流体が循環器3を通して試験装置の系外へ漏洩するおそれがある(表1中における「不良」)と判定した。
【0083】
また、漏洩確認試験では、第一槽21の圧力(表1に示す第一槽圧力)が変化(上昇)した場合、評価用流体が循環器3を通して試験装置の系外へ漏洩するおそれがある「不良」と判定した。なお、装置eは、明らかに評価用流体が試験装置の系外へ漏洩する状態であるため、特段の評価を行わず、「不良」と判定している。
【0084】
そして、この漏洩確認試験では、不良でない場合を「良」と判定した。すなわち、この漏洩確認試験において「良」と判定される場合とは、収容容器1に水を導入した後に温度調整槽31の水位(表1に示す循環器水位)が変化なしであった場合、かつ、第一槽21の圧力(表1に示す第一槽圧力)が変化なしであった場合である。
【0085】
表1に示すように、装置aのみが「良」と判定され、それ以外は「不良」であった。この評価結果より、本実施形態に従う試験装置では、収容容器内の流体状の内容物である評価用流体が、当該収容容器を温調するために循環する熱媒へ混入することが防止できることがわかった。
【0086】
したがって、本実施形態に従う試験装置では、例えば毒性や可燃性があるアンモニアのような流体を評価用流体として用いた場合にも、安全に評価用流体の温度を制御しつつ、試験等を行えるのである。
【0087】
(温度制御性の評価)
上述の装置aから装置eについて、収容容器1内の評価用流体の温度制御性を評価した。なお、この評価では、装置aから装置eに、貫通孔51や貫通孔52を形成していない。温度制御性の評価では、評価用流体として、液体アンモニアを用いた。
【0088】
装置aから装置eのうち、評価用流体が循環器3を通して試験装置の系外へ漏洩するおそれが無いと判定された装置aについては、循環器3を接続した状態で温度制御性の評価を行った。装置aでは、評価用流体の温度制御の目標温度は25℃とした。
【0089】
装置aから装置eのうち、評価用流体が循環器3を通して試験装置の系外へ漏洩するおそれがあると判定された装置bから装置dについては、配管32、33を遮断し、循環器3の温度調整槽31が第二槽22と連通接続されていない状態で温度制御性の評価を行った。すなわち、装置bから装置dは、循環器3との接続を遮断されて、熱媒の循環も、熱媒による収容容器1の温度調整も行われない状態である。なお、装置eは循環器3を備えていないため、装置bから装置dと同様に収容容器1の温度調整は行われない。
【0090】
温度制御性の評価では、装置aから装置eの収容容器1に貯留された評価用流体の温度を、30日間(720時間)連続的に測定し、温度制御性の評価を行った。この温度制御性の評価の結果を表2に示す。
【0091】
【0092】
温度制御性の評価では、30日間における、評価用流体の最低温度と、最高温度と、これら最低温度又は最高温度と装置aにおける目標温度との差分の最大値(表2中に示す差分)とを求めた。なお、温度制御性の評価は、30日間の試験を合計7回行い、上記の最低温度と最高温度とは、これら7回の試験の測定値における平均値を採用した。差分の最大値は、これら平均値に基づいて求めた。また、装置aから装置eが設置されていた雰囲気の最低温度は0.5℃で、最高温度は29.7℃であった。
【0093】
温度制御性の評価では、差分の最大値が目標温度±2.0℃以内の場合を温度制御に優れている「良」と判定し、そうでない場合を「不良」と判定した。その結果、装置aのみ「良」と判定された。
【0094】
表2に示すように、装置aのみが「良」と判定され、それ以外は「不良」であった。この評価結果より、本実施形態に従う評価装置では、評価用流体として毒性や可燃性がある液体アンモニアを実際に用いた場合でも、安全にその温度を制御しつつ、試験等を行えることが実証された。
【0095】
〔別実施形態〕
(1)上記実施形態では、熱媒槽2が有底筒状に形成されており、また、第二槽22と第一槽21とが底板を共有しており、熱媒槽2が、底板部20と、底板部20の外周部から上方に延出して第二槽22を形成する外側筒部22aと、外側筒部22aの筒内に配置されており、底板部20の上面から上方に延出して第一槽21を形成する内側筒部21aとを有する場合を例示した。しかし、熱媒槽2は、上記構成に限定されるものではない。例えば、第二槽22と第一槽21とが別個の有底筒状の槽であって、第二槽22の筒内に第一槽21が収容され、第二槽22の底板上に第一槽21が載置された状態で、熱媒槽2が構成されてもよい。
【0096】
(2)上記実施形態では、第一槽21において、熱媒は、第一槽21の槽内に貯留されており、槽内に滞留している場合を説明した。また、第二槽22では、貯留された熱媒は、第二槽22の槽内と循環器3との間で循環している場合を説明した。そして、本実施形態における熱媒の一例が水であることを説明した。しかし、第一槽21に貯留された熱媒と、第二槽22貯留された熱媒とは、同じ熱媒(上記実施形態では水)である必要はない。例えば、一方の熱媒が水で、他方の熱媒が水とエチレングリコールの混合液であってもよい。
【0097】
(3)上記実施形態では、底板部20が、第一槽21の底板と第二槽22の底板とを兼ねている場合を説明した。しかし、底板部20は、更に、収容容器1の底板を兼ねてもよい。
【0098】
なお、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。