(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024164815
(43)【公開日】2024-11-27
(54)【発明の名称】離型フィルム
(51)【国際特許分類】
B32B 27/00 20060101AFI20241120BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20241120BHJP
【FI】
B32B27/00 L
B32B27/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024074331
(22)【出願日】2024-05-01
(31)【優先権主張番号】P 2023080047
(32)【優先日】2023-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】吉田 妃那
(72)【発明者】
【氏名】前川 博亮
(72)【発明者】
【氏名】森下原 卓
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AK01A
4F100AK01B
4F100AK03A
4F100AK04A
4F100AK07A
4F100AK42A
4F100AK42B
4F100AK70A
4F100AL01A
4F100BA03
4F100BA10B
4F100BA10C
4F100EH20
4F100EJ17
4F100EJ42
4F100EJ50
4F100GB41
4F100JA06A
4F100JA06B
4F100JK03
4F100JK11A
4F100JL01
4F100JL14
4F100JL14B
4F100JL14C
4F100YY00
4F100YY00A
4F100YY00B
(57)【要約】
【課題】段差を有するプレス対象物に重ねてプレスしても、破れを生じにくい離型フィルムを提供することを目的とする。
【解決手段】少なくとも2つの樹脂層が積層された多層構造の離型フィルムであって、長尺方向に直交する幅方向に沿って測定した厚みの標準偏差(σ)が10μm以下である、離型フィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つの樹脂層が積層された多層構造の離型フィルムであって、
長尺方向に直交する幅方向に沿って測定した厚みの標準偏差(σ)が10μm以下である、離型フィルム。
【請求項2】
厚みが250μm未満である、請求項1記載の離型フィルム。
【請求項3】
250℃、100Hzにおける樹脂層のせん断粘度の差が、いずれの隣り合う2層においても150Pa・s以下である、請求項1又は2記載の離型フィルム。
【請求項4】
250℃、500Hzにおける樹脂層のせん断粘度の差が、いずれの隣り合う2層においても200Pa・s以下である、請求項1又は2記載の離型フィルム。
【請求項5】
長尺方向に直交する幅方向に沿って測定した厚みの標準偏差(σ)が7μm以下である、請求項1又は2記載の離型フィルム。
【請求項6】
前記樹脂層の少なくとも一つが、芳香族ポリエステル樹脂を含有する、請求項1又は2記載の離型フィルム。
【請求項7】
前記芳香族ポリエステル樹脂が、ポリブチレンテレフタレートである、請求項6記載の離型フィルム。
【請求項8】
前記少なくとも2つの樹脂層は、クッション層と、前記クッション層の両面に積層された2つの離型層を含む、請求項1又は2記載の離型フィルム。
【請求項9】
前記クッション層が、ポリオレフィン樹脂を含む、請求項8記載の離型フィルム。
【請求項10】
総厚みに対する前記離型層の厚みの合計の割合が15%以上である、請求項8記載の離型フィルム。
【請求項11】
前記クッション層の厚みが60μm以上である、請求項8記載の離型フィルム。
【請求項12】
プリント基板の製造における熱プレス工程で使用される、請求項1又は2記載の離型フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、離型フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
フレキシブルプリント基板(FPC)生産の熱プレス工程において、カバーレイフィルムと熱プレス板とが接着するのを防止し、プレス対象物を保護するために離型フィルムが使用されている。離型フィルムは、カバーレイフィルムと熱プレス板との間に配置され、熱プレス成形時に基板表面の凹凸に対して追従し、カバーレイフィルムの接着剤層が流れ出すことを抑制する(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年は、FPCの用途拡大に伴い、FPCの特徴と要求性能も変化している。FPCに要求される電流量の増大に伴い、FPCに設けられる銅配線の厚みが大きくなり、基板表面の段差が大きくなることがある。また、FPCの大面積化や安全性要求の高まりに伴い、FPCを補強するために貼り付ける部品(補強板)が厚くなることがある。これらの傾向から、離型フィルムに対する埋込性(凹凸への追従性)の要求水準が高まっている。しかしながら、従来の離型フィルムは、熱プレス成形時に、基板表面の大きな段差に追従しきれずに破れが発生してしまい、FPC生産の歩留まり悪化の原因となることがあった。
【0005】
本発明は、段差を有するプレス対象物に重ねてプレスしても、破れを生じにくい離型フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示1は、少なくとも2つの樹脂層が積層された多層構造の離型フィルムであって、長尺方向に直交する幅方向に沿って測定した厚みの標準偏差(σ)が10μm以下である、離型フィルムである。
本開示2は、厚みが250μm未満である、本開示1の離型フィルムである。
本開示3は、250℃、100Hzにおける樹脂層のせん断粘度の差が、いずれの隣り合う2層においても150Pa・s以下である、本開示1又は2の離型フィルムである。
本開示4は、250℃、500Hzにおける樹脂層のせん断粘度の差が、いずれの隣り合う2層においても200Pa・s以下である、本開示1、2又は3の離型フィルムである。
本開示5は、長尺方向に直交する幅方向に沿って測定した厚みの標準偏差(σ)が7μm以下である、本開示1、2、3又は4の離型フィルムである。
本開示6は、前記樹脂層の少なくとも一つが、芳香族ポリエステル樹脂を含有する、本開示1、2、3、4又は5の離型フィルムである。
本開示7は、前記芳香族ポリエステル樹脂が、ポリブチレンテレフタレートである、本開示6の離型フィルムである。
本開示8は、前記少なくとも2つの樹脂層は、クッション層と、前記クッション層の両面に積層された2つの離型層を含む、本開示1、2、3、4、5、6又は7の離型フィルムである。
本開示9は、前記クッション層が、ポリオレフィン樹脂を含む、本開示8の離型フィルムである。
本開示10は、総厚みに対する前記離型層の厚みの合計の割合が15%以上である、本開示8又は9の離型フィルムである。
本開示11は、前記クッション層の厚みが60μm以上である、本開示8、9又は10の離型フィルムである。
本開示12は、プリント基板の製造における熱プレス工程で使用される、本開示1、2、3、4、5、6、7、8、9、10又は11の離型フィルムである。
以下に本発明を詳述する。
【0007】
本発明者らは、段差を有するプレス対象物に重ねてプレスした際の破れの原因について鋭意検討したところ、離型フィルムにおいて僅かな厚みのばらつきが存在するためであることを見出した。更に検討したところ、2以上の樹脂層が積層された多層構造の離型フィルムの場合には、単層構造の離型フィルムと比べて厚みのばらつきが生じやすいことが分かった。そこで、多層構造の離型フィルムについて、長尺方向に直交する幅方向に沿って測定した厚みの標準偏差(σ)を10μm以下に制御することで段差を有するプレス対象物に重ねてプレスした際の破れを効果的に抑制できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
本発明の離型フィルムは、少なくとも2つの樹脂層が積層された多層構造を有する。上記樹脂層としては、例えば、離型層、クッション層が挙げられる。上記離型層は、離型フィルムの最表面に配置され、離型性を向上するために剛直な樹脂が用いられるのに対して、上記クッション層は、埋込性を向上するために柔軟な樹脂が用いられる。
上記多層構造は、クッション層の一方の面に離型層を有する2層構造であってもよく、クッション層の両面に離型層を有する3層構造であってもよい。本発明の離型フィルムとしては、上記少なくとも2つの樹脂層が、クッション層と、クッション層の両面に積層された2つの離型層を含むものが好適に用いられる。
【0009】
本発明の離型フィルムは、長尺方向に直交する幅方向に沿って測定した厚みの標準偏差(σ)が10μm以下である。上記厚みの標準偏差が10μm以下であることにより、本発明の離型フィルムは、大きな段差を有するプレス対象物に重ねてプレスした際に応力が集中し、薄い部分で破れが生じることを防止できる。また、上記厚みの標準偏差(σ)が10μm以下であると、離型フィルムを巻き取ってロールとする際に、離型フィルムの厚みムラによるロールの巻き外観の悪化(波打ち・蛇行による巻ズレ等)を防止できる。更に、プレス時のしわの発生や、プレス時の密着ムラ(薄い部分での埋込性の悪化)を防止することができる。
【0010】
上記厚みの標準偏差とは、離型フィルムの長尺方向に直交する幅方向に沿って25mmピッチで厚みを測定したときに得られるデータの標準偏差を意味する。すなわち、上記厚みの標準偏差は、離型フィルムのマクロな領域での厚みの分布を表す点で、離型フィルムのミクロな領域での厚みの分布を表す表面粗さとは異なっている。上記長尺方向は、樹脂の流れ方向(MD方向)であることが好ましい。離型フィルムの長尺方向が不明である場合は、直交する任意の二方向において同様の測定を行い、二方向のうち標準偏差の大きい方を長尺方向とする。
上記厚みの標準偏差は、7μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましい。上記厚みの標準偏差は小さい方が好ましく、その下限は特に限定されず、上記厚みの標準偏差は、0μm以上であることが好ましい。
【0011】
上記厚みの標準偏差は、上記多層構造を構成する各樹脂層の材料である樹脂(材料樹脂)の混錬性、成形性、各樹脂層の材料物性、フィルム製造装置の厚さ制御機能等によって制御することができる。
【0012】
(材料樹脂の混錬性)
各樹脂層に使用される複数の樹脂同士の混ざりが不充分であると、押出時の挙動が不安定となる。また、複数の樹脂同士の相溶性が低いと、成形後の膜表面が荒れ、平坦性が低くなる。したがって、上記厚みの標準偏差を小さくするためには、各樹脂層に使用される複数の樹脂について、相溶性が高い材料を選択し、充分に混ぜ合わせて樹脂層を成形することが好ましい。相溶性が高い材料を選択する方法としては、各樹脂層に同じ樹脂を含有させる方法が挙げられる。
【0013】
(各樹脂層の流動物性)
溶融押出成形による多層フィルムの製造においては、隣接する樹脂層の流動特性(せん断粘度差)に起因して界面の法線応力差が生じ、フローマークが発生することから、隣接する樹脂層の溶融時のせん断粘度差を小さくすることが好ましい。
【0014】
(フィルム製造装置の厚さ制御機能)
厚さ計を用いて離型フィルムの幅方向のプロファイル測定を行い、測定結果をフィルム製造装置にフィードバックし、該装置の厚さ制御機能を利用して機械的に制御してもよい。例えば、一定間隔で並んだボルト(約20~30mm間隔で全幅に並ぶ)の締め付け具合によりTダイの隙間を調整して離型フィルムの厚さを調整する装置において、ボルトがヒートボルトであり、温度制御にて各ボルトの締め付け具合を調節することにより、フィルム厚みのばらつきを低減し、厚みの標準偏差を小さくすることができる。
【0015】
上記した厚みの標準偏差の制御方法のなかでも、隣接する樹脂層の溶融時のせん断粘度の差を一定範囲内に調整する方法が効果的であり、いずれの隣り合う2層においても一定範囲内に調整する方法が特に効果的である。いずれの隣り合う2層においても一定範囲内に調整する方法では、例えば、離型フィルムがA層/B層/C層/D層の積層順の4層構造を有する場合、A層とB層のせん断粘度の差、B層とC層のせん断粘度の差、C層とD層のせん断粘度の差がいずれも一定範囲内に調整される。
【0016】
上記せん断粘度は、JIS K 7244-10に基づき、レオメーター(回転式粘度計)で測定することができる。具体的には、試料中に円筒形の回転子を入れ、一定の速度で回転させた時の円筒面に作用するトルク(ずり応力)を測定することで、下記式(1)によりせん断粘度を求めることができる。
せん断粘度=せん断応力/せん断速度 (1)
上記せん断粘度は、樹脂層を構成する材料の種類(化合物種類)、分子量、分子構造等により調整することができる。各樹脂層のせん断粘度は、本発明の離型フィルムを製造する際に制御されるが、本発明の離型フィルムの製造後においても、樹脂層ごとに分解してから溶融させることにより測定可能である。
【0017】
本発明の離型フィルムは、250℃、100Hzにおける樹脂層のせん断粘度の差が、いずれの隣り合う2層においても150Pa・s以下であることが好ましい。ここで、せん断粘度の測定温度である250℃は、離型フィルムを成型する際の金型温度を想定したものであり、せん断粘度の測定周波数である100Hzは、一般的な押出し成形条件での材料樹脂の合流点付近(例えば、押出し機のフィードブロック)における材料樹脂の状態を想定したものである。すなわち、250℃、100Hzにおける樹脂層のせん断粘度の差が150Pa・s以下であることにより、材料樹脂が合流した際に材料樹脂の流れが乱れて厚みにムラが生じることを抑制でき、離型フィルムの厚み精度を向上することができる。250℃、100Hzにおける樹脂層のせん断粘度の差は、100Pa・s以下であることがより好ましい。また、250℃、100Hzにおける樹脂層のせん断粘度の差は小さい方が好ましく、その下限は特に限定されず、0Pa・s以上であることが好ましい。
【0018】
本発明の離型フィルムは、250℃、500Hzにおける樹脂層のせん断粘度の差が、いずれの隣り合う2層においても200Pa・s以下であることが好ましい。ここで、せん断粘度の測定周波数である500Hzは、一般的な押出し機の金型出口付近における材料樹脂の状態を想定したものである。すなわち、250℃、500Hzにおける樹脂層のせん断粘度の差が200Pa・s以下であることにより、材料樹脂の流路が狭くなって流れが速くなる際に材料樹脂の流れが乱れることを抑制でき、離型フィルムの厚み精度を向上することができる。250℃、500Hzにおける樹脂層のせん断粘度の差は、100Pa・s以下であることがより好ましい。また、250℃、500Hzにおける樹脂層のせん断粘度の差は小さい方が好ましく、その下限は特に限定されず、0Pa・s以上であることが好ましい。
【0019】
本発明の離型フィルムの厚みは特に限定されない。離型フィルム全体の厚みが薄いほど、クッション層からの樹脂の染み出しを抑制するのに有利である。離型フィルム全体の厚みが厚いほど、熱プレス成形時に基板表面の大きな段差に追従するのに有利である。本発明の離型フィルムの厚みは、70μm以上であることが好ましく、90μm以上であることがより好ましい。また、本発明の離型フィルムの厚みは、250μm未満であることが好ましく、210μm未満であることがより好ましい。
【0020】
本発明の離型フィルムの大きさは特に限定されないが、プレス対象物に重ねてプレスした際に破れが生じることを防止するために、プレス対象物よりも大きいことが好ましく、上記幅方向の長さが75mm以上であることが好ましく、100mm以上であることがより好ましく、製膜性の観点からは3000mm以下であることが好ましい。また、上記長尺方向の長さが75mm以上であることが好ましく、運搬上の観点からは2000m以下であることが好ましい。
【0021】
上記樹脂層は、少なくとも1つの離型層を含むことが好ましい。
【0022】
上記離型層を構成する樹脂は特に限定されないが、離型フィルムの離型性が向上することから、ポリエステル、ポリオレフィン又はポリスチレンが好ましい。
上記ポリエステルは、芳香族ポリエステル樹脂を含有することが好ましい。上記ポリオレフィンは、ポリ(4-メチル-1-ペンテン)又は脂環式オレフィン系樹脂を含有することが好ましい。上記ポリスチレンは、シンジオタクチック構造を有するポリスチレン系樹脂を含有することが好ましい。なかでも、埋込性に優れ、カバーレイフィルムに形成された接着剤の染み出し防止性に優れることから、上記離型層は、芳香族ポリエステル樹脂を含有することがより好ましい。すなわち、上記樹脂層の少なくとも一つが、芳香族ポリエステル樹脂を含有することが好ましい。
【0023】
上記芳香族ポリエステル樹脂は特に限定されないが、結晶性芳香族ポリエステル樹脂が好ましい。具体的には例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリヘキサメチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリブチレンナフタレート樹脂、テレフタル酸ブタンジオールポリテトラメチレングリコール共重合体等が挙げられる。これらの芳香族ポリエステル樹脂は単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。なかでも、耐熱性、離型性、埋込性等のバランスの観点から、ポリブチレンテレフタレート樹脂が好ましい。
また、ポリブチレンテレフタレート樹脂と、ポリブチレンテレフタレートと脂肪族ポリエーテルとのブロック共重合体との混合樹脂も好ましい。上記脂肪族ポリエーテルは特に限定されず、例えば、ポリエチレングリコール、ポリジエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等が挙げられる。
【0024】
上記離型層を構成する樹脂に占める上記ポリブチレンテレフタレート樹脂の割合は特に限定されないが、70重量%以上であることが好ましい。上記ポリブチレンテレフタレート樹脂の割合が70重量%以上であれば、離型フィルムの離型性が向上する。上記離型層を構成する樹脂に占める上記ポリブチレンテレフタレート樹脂の割合のより好ましい下限は75重量%である。
【0025】
上記芳香族ポリエステル樹脂のうち、市販されているものとして、例えば、「ペルプレン(登録商標)」(東洋紡社製)、「ハイトレル(登録商標)」(東レ・デュポン社製)、「ジュラネックス(登録商標)」(ポリプラスチックス社製)、「ノバデュラン(登録商標)」(三菱エンジニアリングプラスチックス社製)等が挙げられる。
【0026】
上記ポリ(4-メチル-1-ペンテン)を含有するポリオレフィンには、ポリ(4-メチル-1-ペンテン)樹脂が90重量%以上含有されていることが好ましい。
上記ポリ(4-メチル-1-ペンテン)樹脂は、例えば、三井化学社製の商品名TPX(登録商標)等の市販品を用いることができる。
【0027】
上記脂環式オレフィン系樹脂とは、主鎖又は側鎖に環状脂肪族炭化水素を有するオレフィン系樹脂であり、耐熱性、強度等の点から、熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂が好ましい。
上記熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂として、例えば、ノルボルネン系モノマーの開環重合体又は開環共重合体を、(必要に応じてマレイン酸付加やシクロペンタジエン付加のような変性を行った後に)水素添加した樹脂が挙げられる。また、ノルボルネン系モノマーを付加重合させた樹脂、ノルボルネン系モノマーとエチレン又はα-オレフィン等のオレフィン系モノマーとを付加重合させた樹脂、ノルボルネン系モノマーとシクロペンテン、シクロオクテン、5,6-ジヒドロジシクロペンタジエン等の環状オレフィン系モノマーとを付加重合させた樹脂が挙げられる。更に、これらの樹脂の変性物等も挙げられる。
【0028】
上記シンジオタクチック構造を有するポリスチレン系樹脂を含有するポリスチレンには、シンジオタクチック構造を有するポリスチレン系樹脂が70重量%以上、90重量%以下含有されていることが好ましい。
なお、シンジオタクチック構造を有するポリスチレン系樹脂とは、シンジオタクチック構造、即ち、炭素-炭素シグマ結合から形成される主鎖に対して側鎖であるフェニル基や置換フェニル基が交互に反対方向に位置する立体規則構造を有する樹脂である。
【0029】
上記シンジオタクチック構造を有するポリスチレン系樹脂は、特に限定されない。例えば、ラセミダイアッドで75%以上、又は、ラセミペンタッドで30%以上のシンジオタクティシティーを有するポリスチレン、ポリ(アルキルスチレン)、ポリ(アリールスチレン)、ポリ(ハロゲン化スチレン)、ポリ(ハロゲン化アルキルスチレン)、ポリ(アルコキシスチレン)、ポリ(ビニル安息香酸エステル)等が挙げられる。また、これらの水素化重合体及びこれらの混合物、これらを主成分とする共重合体等が挙げられる。上記シンジオタクチック構造を有するポリスチレン系樹脂は、例えば、出光興産社製の商品名ザレック(登録商標)(XAREC(登録商標))等の市販を用いることができる。
【0030】
上記離型層は、ゴム成分を含有してもよい。上記離型層がゴム成分を含有することにより、離型フィルムの埋込性が向上する。
上記ゴム成分は特に限定されず、例えば、天然ゴム、スチレン-ブタジエン共重合体、ポリブタジエン、ポリイソプレン、アクリルニトリル-ブタジエン共重合体、エチレン-プロピレン共重合体(EPM、EPDM)、ポリクロロプレン、ブチルゴム、アクリルゴム、シリコンゴム、ウレタンゴム等が挙げられる。また、上記ゴム成分として、例えば、オレフィン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、塩ビ系熱可塑性エラストマー、エステル系熱可塑性エラストマー、アミド系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
【0031】
上記離型層は、安定剤を含有してもよい。
上記安定剤は特に限定されず、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、熱安定剤等が挙げられる。
上記ヒンダードフェノール系酸化防止剤は特に限定されず、例えば、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、3,9-ビス{2-〔3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)-プロピオニロキシ〕-1,1-ジメチルエチル}-2,4,8,10-テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカン等が挙げられる。上記熱安定剤は特に限定されず、例えば、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、トリラウリルホスファイト、2-t-ブチル-α-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-p-クメニルビス(p-ノニルフェニル)ホスファイト、ジミリスチル3,3’-チオジプロピオネート、ジステアリル3,3’-チオジプロピオネート、ペンタエリスチリルテトラキス(3-ラウリルチオプロピオネート)、ジトリデシル3,3’-チオジプロピオネート等が挙げられる。
【0032】
上記離型層は、更に、繊維、無機充填剤、難燃剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、無機物、高級脂肪酸塩等の従来公知の添加剤を含有してもよい。
【0033】
上記離型層の厚みは特に限定されない。上記離型層の厚みが薄いほど、離型フィルムの埋込性が確保されやすい点で有利である。上記離型層の厚みが厚いほど、プレス時に破れにくい点で有利であり、離型フィルムの離型性を確保したり、熱収縮を少なくして熱プレス工程前後の寸法安定性を向上したりする点においても有利である。上記離型層の厚みは、5μm以上であることが好ましく、7μm以上であることがより好ましい。また、上記離型層の厚みは、100μm未満であることが好ましく、50μm未満であることがより好ましい。離型層の厚みが50μm未満であると、埋込性向上の効果が充分に得られる。
【0034】
また、本発明の離型フィルムは、総厚みに対する上記離型層の厚みの合計の割合が15%以上であることが好ましい。剛直な離型層の割合を確保することで、引張強度が相対的に上がり、プレス時により破れにくくなる。
【0035】
上記樹脂層は、クッション層を含むことが好ましい。クッション層が設けられることにより、離型フィルムの埋込性を向上させることができる。フレキシブルプリント基板等の製造工程において、カバーレイフィルムと熱プレス板との間に離型フィルムを配置した状態で熱プレスを行う場合、カバーレイフィルム及び熱プレス板と直に接する離型層には優れた離型性が求められるため、埋込性の向上に一定の制約がある。上記クッション層として柔軟な層が設けられることにより離型フィルムの埋込性を向上させることができ、離型性と埋込性の両方に優れた離型フィルムとすることが容易になる。
【0036】
上記クッション層を構成する樹脂としては、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスルフォン、ポリエステル等が挙げられ、なかでも、ポリオレフィンが好適に用いられる。すなわち、上記クッション層は、ポリオレフィン樹脂を含むことが好ましい。
【0037】
上記ポリオレフィン樹脂は特に限定されず、例えば、ポリエチレン樹脂(例えば、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン)、ポリプロピレン樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。また、エチレン-メチルメタクリレート共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体等のエチレン-アクリル系モノマー共重合体等も挙げられる。これらのポリオレフィン樹脂は単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。なかでも、埋込性と耐熱性を両立させやすいことから、ポリプロピレン樹脂が好ましい。
【0038】
上記クッション層における上記ポリオレフィン樹脂の含有量は特に限定されないが、好ましい下限が50重量%、好ましい上限が90重量%である。上記ポリオレフィン樹脂の含有量が50重量%以上であれば、上記クッション層の柔軟性が充分となり、離型フィルムの埋込性が向上する。上記ポリオレフィン樹脂の含有量が90重量%以下であれば、上記離型層と上記クッション層との密着性が向上する。上記ポリオレフィン樹脂の含有量のより好ましい下限は60重量%、更に好ましい下限は65重量%である。上記ポリオレフィン樹脂の含有量のより好ましい上限は80重量%、更に好ましい上限は75重量%である。
【0039】
上記クッション層は、上記離型層を構成する樹脂を含有することが好ましい。
上記クッション層が上記離型層を構成する樹脂を含有することにより、上記離型層と上記クッション層との密着性が向上する。上記クッション層は、上記離型層の主成分樹脂を含有することがより好ましく、上記離型層の主成分樹脂及びポリオレフィン樹脂を含有することが更に好ましい。ここで、上記離型層の主成分樹脂とは、上記離型層に含まれる樹脂の中で含有量が最も多い樹脂のことを意味する。
【0040】
上記クッション層における上記離型層を構成する樹脂の含有量は特に限定されないが、好ましい下限が10重量%、好ましい上限が50重量%である。上記離型層を構成する樹脂の含有量が10重量%以上であれば、上記離型層と上記クッション層との密着性が向上する。上記離型層を構成する樹脂の含有量が50重量%以下であれば、上記クッション層の柔軟性が充分となり、離型フィルムの埋込性が向上する。上記離型層を構成する樹脂の含有量のより好ましい下限は20重量%、更に好ましい下限は25重量%である。上記離型層を構成する樹脂の含有量のより好ましい上限は40重量%、更に好ましい上限は35重量%である。
【0041】
上記クッション層は、更に、繊維、無機充填剤、難燃剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、無機物、高級脂肪酸塩等の添加剤を含有してもよい。
【0042】
上記クッション層は、単独の層からなる単層構造であってもよいし、複数の層の積層体からなる多層構造であってもよい。クッション層が多層構造である場合は、複数の層が接着層を介して積層一体化していてもよい。
【0043】
上記クッション層の厚みは特に限定されないが、好ましい下限は15μm、好ましい上限は200μmである。上記クッション層の厚みが15μm以上であれば、離型フィルムの埋込性がより向上する。上記クッション層の厚みが200μm以下であれば、熱プレス工程におけるフィルム端部で生じる上記クッション層からの樹脂の染み出しを抑制できる。上記クッション層の厚みのより好ましい下限は30μm、更に好ましい下限は60μmである。すなわち、本発明の離型フィルムは、上記クッション層の厚みが60μm以上であることが好ましい。上記クッション層の厚みのより好ましい上限は170μmである。
【0044】
本発明の離型フィルムを製造する方法は特に限定されず、まず、例えば、共押出Tダイ法で製膜する方法、水冷式又は空冷式共押出インフレーション法、溶剤キャスティング法、熱プレス成形法等によりフィルムを調製する方法が挙げられる。なかでも、各層の厚み制御に優れる点から、共押出Tダイ法で製膜する方法が好適である。
【0045】
本発明の離型フィルムは、大きな段差を有するプレス対象物に重ねてプレスしても、破れを生じにくいものであることから、熱プレス工程で使用されることが好ましく、中でも、プリント基板の製造における熱プレス工程で使用されることが特に好ましい。本発明の離型フィルムが使用される熱プレス工程の条件としては、例えば、温度が100~220℃であり、圧力が0.5~100MPaである。
【0046】
本発明の離型フィルムの用途は特に限定されないが、フレキシブルプリント基板(FPC)、プリント配線基板、多層プリント配線板等のプリント基板の製造工程において好適に用いられ、車載用途のプリント基板の製造工程において特に好適に用いることができる。
具体的には例えば、FPCの製造工程において、銅回路を形成したフレキシブル回路基板本体に、熱硬化型接着剤又は熱硬化型接着シートを介してカバーレイフィルムを熱プレス接着する際に本発明の離型フィルムを用いることができる。
本発明の離型フィルムは、高い離型性が求められるRtoR方式によるFPCの製造にも好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0047】
本発明によれば、段差を有するプレス対象物に重ねてプレスしても、破れを生じにくい離型フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0049】
(実施例1)
離型層用樹脂組成物として、ポリブチレンテレフタレート(PBT)を用いた。クッション層用樹脂組成物として、ポリブチレンテレフタレート(PBT)20重量部、ポリエチレン(PE)40重量部及びエチレン-メチルメタクリレート共重合体(EMMA、住友化学社製「アクリフトWD106」)40重量部の混合物を用いた。
【0050】
上記離型層用樹脂組成物、及び、上記クッション層用樹脂組成物を押出機(ジーエムエンジニアリング社製、GM30-28(スクリュー径30mm、L/D28))を用いて、成形温度250℃、Tダイ幅400mmにて三層共押出し、押出された溶融樹脂を冷却ロール(温度90℃、表面の算術平均粗さRa0.1μm)により冷却した。これにより、クッション層の両側にそれぞれ離型層を有する3層構造(第1層:離型層、第2層:クッション層、第3層:離型層)を有し、幅1700mmの離型フィルムを得た。離型層の厚みはそれぞれ17μmとし、クッション層の厚みは86μmとし、フィルム全体の厚みは120μmとした。
【0051】
上記押出機は、約20~30mm間隔でフィルム幅方向の全幅に並ぶヒートボルト及び厚さ計を備える。厚さ計の測定結果は上記押出機にフィードバックされ、温度制御にてヒートボルトの締め付け具合が調節されることにより、Tダイの隙間を調整し、離型フィルムの厚さが調整された。また、冷却時には、溶融樹脂と冷却ロールとの接触時間を1.0秒、冷却ロールによって溶融樹脂を冷却する際の伸長応力を450kPaとした。
【0052】
(実施例2)
離型層及びクッション層の厚みを下記表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、3層構造の多層離型フィルムを得た。
【0053】
(実施例3)
クッション層用樹脂組成物として、ポリブチレンテレフタレート(PBT)30重量部、ポリエチレン(PE)30重量部及びエチレン-メチルメタクリレート共重合体(EMMA、住友化学社製「アクリフトWD106」)40重量部の混合物を用いた以外は、実施例1と同様にして、3層構造の多層離型フィルムを得た。
【0054】
(実施例4)
離型層及びクッション層の厚みを下記表1に示すように変更したこと以外は、実施例3と同様にして、3層構造の多層離型フィルムを得た。
【0055】
(実施例5)
クッション層用樹脂組成物として、ポリブチレンテレフタレート(PBT)30重量部、ポリプロピレン(PP)30重量部及びエチレン-メチルメタクリレート共重合体(EMMA、住友化学社製「アクリフトWD106」)40重量部の混合物を用いた以外は、実施例1と同様にして、3層構造の多層離型フィルムを得た。
【0056】
(実施例6)
離型層及びクッション層の厚みを下記表1に示すように変更したこと以外は、実施例5と同様にして、3層構造の多層離型フィルムを得た。
【0057】
(比較例1)
クッション層用樹脂組成物として、ポリプロピレン(PP)を用いた以外は、実施例1と同様にして、3層構造の多層離型フィルムを得た。
【0058】
(比較例2)
クッション層用樹脂組成物として、ポリカーボネート(PC)を用いた以外は、実施例1と同様にして、3層構造の多層離型フィルムを得た。
【0059】
(比較例3)
クッション層用樹脂組成物として、ポリエチレン(PE)を用いた以外は、実施例1と同様にして、3層構造の多層離型フィルムを得た。
【0060】
実施例及び比較例で得た離型フィルムについて、以下の方法により測定を行った。
【0061】
<厚みの標準偏差>
幅1700mmの離型フィルムについて、厚み計(デジマチックインジケータ)(Mitsutoyo社製、(型番)ID-C112CX)を用いて、長尺方向に直交する幅方向に沿って25mmピッチで、長さ1700mmにわたって厚みを測定した。得られた67個の厚みデータの標準偏差を計算し、得られた値を下記表1に示した。
【0062】
<せん断粘度>
第1層及び第3層を構成する離型層用樹脂組成物について、250℃、100Hzにおけるせん断粘度、及び、250℃、500Hzにおけるせん断粘度を回転式粘度計(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、(型番)HAAKE MARS)によって測定し、測定結果を下記表1に示した。
第2層を構成するクッション層用樹脂組成物について、250℃、100Hzにおけるせん断粘度、及び、250℃、500Hzにおけるせん断粘度を測定し、測定結果を下記表1に示した。
上記測定結果から、第1層と第2層のせん断粘度の差、及び、第2層と第3層のせん断粘度の差を計算し、得られた値を下記表1に示した。
【0063】
実施例及び比較例で得た離型フィルムについて、以下の方法により評価を行った。
結果を表1に示した。
【0064】
<熱プレス評価>
銅張積層板(CCL)(10cm×10cm、ポリイミド厚み25μm、銅箔厚み35μm)の銅箔面に、カバーレイフィルム(10cm×10cm、ポリイミド厚み25μm、エポキシ接着剤層厚み35μm)をエポキシ接着剤層が接するようにして積層させた。更に、カバーレイフィルムの銅箔面の中心に、縦15mm×横25mmのガラスエポキシ樹脂製のプレートであるFR-4(Flame Retardant Type 4)を積層させた。更に離型フィルム(15cm×15cm)を、離型層がFR-4に接するようにしてFR-4と離型フィルムの中心を合わせて積層した。この積層体を、175℃、20kgf/cm2の条件で50秒間熱プレスした。その後、離型フィルムを剥離し、離型フィルムの破れの有無を目視で確認した。
厚さ2mmのFR-4を使用した評価(評価1)と、厚さ4mmのFR-4を使用した評価(評価2)とをそれぞれ行った。
【0065】
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明によれば、段差を有するプレス対象物に重ねてプレスしても、破れを生じにくい離型フィルムを提供することができる。