(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024164835
(43)【公開日】2024-11-27
(54)【発明の名称】親水性量子ドット、それを含む親水性溶剤型量子ドットインク組成物、並びにそれを含む発光素子及びディスプレイ
(51)【国際特許分類】
C09K 11/08 20060101AFI20241120BHJP
G02B 5/20 20060101ALI20241120BHJP
C09K 11/02 20060101ALI20241120BHJP
C09K 11/70 20060101ALI20241120BHJP
C09K 11/88 20060101ALI20241120BHJP
C09K 11/56 20060101ALI20241120BHJP
C09D 11/50 20140101ALI20241120BHJP
C09D 11/30 20140101ALI20241120BHJP
【FI】
C09K11/08 G
G02B5/20
C09K11/02 Z
C09K11/70
C09K11/88
C09K11/56
C09D11/50
C09D11/30
【審査請求】有
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024079418
(22)【出願日】2024-05-15
(31)【優先権主張番号】10-2023-0062699
(32)【優先日】2023-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】390019839
【氏名又は名称】三星電子株式会社
【氏名又は名称原語表記】Samsung Electronics Co.,Ltd.
【住所又は居所原語表記】129,Samsung-ro,Yeongtong-gu,Suwon-si,Gyeonggi-do,Republic of Korea
(71)【出願人】
【識別番号】524132656
【氏名又は名称】▲韓▼国▲韓▼松化学有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100154922
【弁理士】
【氏名又は名称】崔 允辰
(72)【発明者】
【氏名】朴 藝瑟
(72)【発明者】
【氏名】金 ▲ソ▼▲マン▼
(72)【発明者】
【氏名】金 度亨
(72)【発明者】
【氏名】盧 在洪
(72)【発明者】
【氏名】孫 ▲尚▼賢
(72)【発明者】
【氏名】李 大熙
(72)【発明者】
【氏名】金 京慧
(72)【発明者】
【氏名】朴 泰勳
(72)【発明者】
【氏名】李 秀眞
【テーマコード(参考)】
2H148
4H001
4J039
【Fターム(参考)】
2H148AA05
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4H001CA02
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4J039BA10
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4J039GA24
4J039GA34
(57)【要約】
【課題】親水性量子ドット、それを含む親水性溶剤型量子ドットインク組成物、並びにそれを含む発光素子及びディスプレイを提供する。
【解決手段】本発明は、親水性量子ドット、それを含む親水性溶剤型量子ドットインク組成物、並びにそれを含んで製造される発光素子及びディスプレイに係り、具体的には、粘度が高い極性溶媒に分散可能であり、粘度の調節が容易な親水性量子ドット、それを含む親水性溶剤型量子ドットインク組成物、並びにそれを含む発光素子及びディスプレイに関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面改質された量子ドットであって、
前記量子ドットの表面と結合可能な反応基と、親水性を有する有機基と、を含むリガンドによって表面改質される、親水性量子ドット。
【請求項2】
前記量子ドットは、インクジェットプリンティングに使用することができる、請求項1に記載の親水性量子ドット。
【請求項3】
前記反応基は、COOH、CN、NH2、NH、N、SH、PO、P、OH、COOR’、-C(=O)-、PO(OH)2、POOH及びこれらの組み合わせを含む群から選択される、請求項1に記載の親水性量子ドット。
【請求項4】
前記有機基は、炭素数3~10の有機基である、請求項1に記載の親水性量子ドット。
【請求項5】
前記有機基は、窒素(N)、酸素(O)及び硫黄(S)を含む群から選択された1種以上の元素を含む、請求項4に記載の親水性量子ドット。
【請求項6】
前記リガンドは、メルカプトコハク酸である、請求項1に記載の親水性量子ドット。
【請求項7】
前記量子ドットの表面は、Mg、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Cd、InまたはSnを含む、請求項1に記載の親水性量子ドット。
【請求項8】
リガンドによって表面改質された量子ドットと、
極性溶剤と、を含み、
前記極性溶剤は、2種以上含む、量子ドットインク組成物。
【請求項9】
前記極性溶剤は、プロピレングリコールを含む、請求項8に記載の量子ドットインク組成物。
【請求項10】
前記極性溶剤は、カルボキシ基、ヒドロキシ基、スルホ基、エステル基、及びケトン基を含む群から選択される1種以上の作用基をさらに含む、請求項9に記載の量子ドットインク組成物。
【請求項11】
前記極性溶剤において、プロピレングリコールとその他の溶剤との総和の体積比は1:0.5~1:5である、請求項9に記載の量子ドットインク組成物。
【請求項12】
前記インク組成物の粘度は、2~20cpsである、請求項8に記載の量子ドットインク組成物。
【請求項13】
前記インク組成物の粗度は、0.5~5nmである、請求項8に記載の量子ドットインク組成物。
【請求項14】
前記量子ドットは、前記極性溶剤に分散可能である、請求項8に記載の量子ドットインク組成物。
【請求項15】
前記インク組成物は、インクジェットプリンティング用である、請求項8に記載の量子ドットインク組成物。
【請求項16】
前記インク組成物の量子効率(QE)は、70%以上である、請求項8に記載の量子ドットインク組成物。
【請求項17】
請求項8ないし16のうちいずれか1項に記載の組成物によって製造された発光層を含む、発光素子。
【請求項18】
請求項17に記載の発光素子を含む、ディスプレイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水性量子ドット、それを含む親水性溶剤型量子ドットインク組成物、並びにそれを含んで製造される発光素子及びディスプレイに係り、具体的には、粘度が高い極性溶媒に分散可能であり、粘度の調節が容易な親水性量子ドット、それを含む親水性溶剤型量子ドットインク組成物、並びにそれを含む発光素子及びディスプレイに関する。
【背景技術】
【0002】
量子ドット(Quantum dot: QD)は、いわゆる半導体ナノ結晶(semiconductor nanocrystals)であり、物質種類の変化なしに粒子サイズ別に異なる波長の光が発生して多様な色を作り出すことができ、既存の発光体よりも色純度及び光安定性が高いという長所があるので、次世代発光素子として注目されている。
【0003】
特に、ディスプレイ分野において新たなトレンドとなった量子ドットは、高分子マトリックスに分散され、複合体の形態にTV、LED以外に多様なディスプレイ、電子素子などに適用可能である。一方、カラーフィルタ用素材は、高い感度、基板への付着力、耐化学性、耐熱性などが要求される。従来、ディスプレイに適用するカラーフィルタは、一般的に、感光性レジスト組成物を使用してフォトマスクを適用した露光工程を通じて所望のパターンを形成し、次いで、現像工程を通じて非露光部を溶解させて除去する、パターニング工程を通じて形成されたが、捨てられる素材によるコスト上昇問題をもたらした。
【0004】
最近、画素に使用される材料の高級化、及びこれによるコスト上昇の解消のために、既存のスピンコーティングやスリットコーティングを行ってパターニングするよりも、所望の部分にのみ材料を使用し、材料の使用を最大限抑制する方法が関心を集めている。最も代表的な方法は、インクジェット方式であり、大きくバブルジェット方式及びピエゾ方式が挙げられるが、インクジェット方式は、所望の画素にのみ材料を使用するため、不要な材料の無駄を防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述のインクジェット方式に使用される量子ドット組成物は、粘度が100cps以下、好ましくは、50cps以下であることが要求されるので、低粘度を実現することが必須的であり、自発光用ELQDインク素材の開発のためには、無溶剤型インクの使用が困難であるので、溶剤型インクの開発が進行中であるが、溶剤型インクに使用される非極性溶媒では粘度調節が困難であり、極性溶媒には分散性が低下するという技術的限界があり、関連した研究も不十分な状況である。
【0007】
これに関し、10cps以下の低粘度を実現することが可能であり、かつ樹脂及びバインダーなどに分散可能な電荷を帯びる量子ドットマイクロカプセルインクに係わる先行発明(韓国特許第10-2340892号、2021年12月17日公開)が公開されているが、量子ドットカプセルのシェル領域が正電荷または負電荷を帯びるようにするための摩擦帯電などの処理を行ったり、カプセル表面に電荷調節剤などをコーティングしたりするなど、さらに要求される工程が必要であった。
【0008】
また、インクジェットプリンティング用の自発光ディスプレイに使用される量子ドット発光層の場合、溶剤タイプが明らかではなく、多くの溶剤タイプが研究開発されているが、非極性溶剤型発光層が使用される場合、同じ性質である非極性溶剤型電子輸送層インク組成物を使用する場合、前記発光層がエッチングされる技術的問題点がある。したがって、極性溶剤に分散可能な親水性量子ドット及び親水性溶剤型量子ドットインク組成物が要求されているのが実情である。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、量子ドットの表面を改質して、粘度が高い極性溶媒に分散できるように誘導し、粘度の調節が容易であり、インクジェットプリンティングが可能な親水性量子ドット及び親水性溶剤型量子ドットインク組成物を提供することである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の実施形態によれば、量子ドットの表面改質を通じて極性溶剤に分散可能であり、インクジェットプリンティングに使用可能な特性(粘度など)を有することができる。
【0011】
溶剤型量子ドットインク組成物を、極性溶剤を利用して製造することができるので、粘度の調節が容易である。
【0012】
また、本発明による親水性溶剤型量子ドットインク組成物を利用して発光層を製造するとき、発光層の上端に非極性溶剤型電子輸送層を形成するとしても発光層のエッチング問題が発生しない。
【0013】
これにより、本発明の極性溶剤型インク組成物は、インクジェットプリンティング工程を通じて、発光素子、具体的には、自発光ディスプレイの作製に有用に適用されるだけでなく、簡単かつ安価なインクジェット工程の適用を通じて商用化及び大型化により有利な効果を発揮することができる。
【0014】
本発明による効果は、以上で例示された内容によって制限されず、より多様な効果が本明細書内に含まれている。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例4のインク組成物に対する実験例4の結果を示す図面である。
【
図2】実施例4-aのインク組成物に対する実験例4の結果を示す図面である。
【
図3】実施例4-bのインク組成物に対する実験例4の結果を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について説明する。
本明細書で使用される全ての用語(技術的及び科学的用語を含む)は、特に定義がない限り、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者にとって共通に理解される意味として使用できるであろう。また、通常使用される辞書に定義されている用語は、明白に特に定義されていない限り、理想的にあるいは過度に解釈されてはならない。
【0017】
また、本明細書の全体において、ある部分がある構成要素を「含む」とするとき、これは、特に反対になる記載がない限り、他の構成要素を除くものではなく、他の構成要素をさらに含んでもよいことを意味する。
【0018】
本明細書において、「有機基」は、C1-C10の直鎖または分枝鎖アルキル基、C2-C10の直鎖または分枝鎖アルケニル基、C2-C10の直鎖または分枝鎖アルキニル基を意味する。また、前記アルキル基、アルケニル基及びアルキニル基は、それぞれ置換もしくは非置換のものである。
【0019】
本明細書において、「アルキル」は、炭素数1~10の直鎖または分枝鎖の飽和炭化水素に由来の1価置換基を意味する。その例としては、メチル、エチル、プロピル、イソブチル、sec-ブチル、ペンチル、iso-アミル、またはヘキシルなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0020】
本明細書において、「アルケニル」は、炭素-炭素二重結合を1個以上有する炭素数2~10の直鎖または分枝鎖の不飽和炭化水素に由来の1価置換基を意味する。その例としては、ビニル、アリル、イソプロぺニル、または2-ブテニルなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0021】
本明細書において、「アルキニル」は、炭素-炭素三重結合を1個以上有する炭素数2~10の直鎖または分枝鎖の不飽和炭化水素に由来の1価置換基を意味する。その例としては、エチニル、n-プロピニル、n-ブタ-2-エニル、またはn-ヘキサ-3-エニルなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0022】
<親水性溶剤型量子ドットインク組成物>
本発明の一実施形態による量子ドットインク組成物は、インクジェットプリンティング、ロールツーロールコーティング、スクリーン印刷、スプレーコーティング、ディップコーティング、またはスピンコーティング方式による吐出が発光層を形成することができるインク組成物である。
【0023】
本発明の一実施形態による量子ドットインク組成物は、リガンドによって表面改質された親水性量子ドットと、極性溶剤とを含み、親水性量子ドットは、極性溶剤に分散されうる。
【0024】
以下、前記量子ドット組成物の組成を具体的に説明すれば下記の通りである。
【0025】
量子ドット
量子ドット(Quantum Dot: QD)は、ナノサイズの半導体物質であり、サイズ及び組成によって異なるエネルギーバンドギャップを有することができ、これにより、多様な発光波長の光を放出することができる。
【0026】
そのような量子ドットは、均質な(homogeneous)単一層構造;コア・シェル構造、グラディエント(gradient)構造などの多重層構造;あるいはこれらの混合構造でもある。コア・シェル構造において、シェルは複数層(例えば、コア/シェル/シェル)であり、この場合、各層は、互いに異なる成分、例えば、(半)金属酸化物を含んでもよい。
【0027】
量子ドットは、II-VI族化合物、III-V族化合物、IV-VI族化合物、IV族元素、IV族化合物及びこれらの組み合わせから自由に選択されうる。量子ドットがコア・シェル構造である場合、コアとシェルは、それぞれ下記の例示された成分から自由に構成されうる。
【0028】
一例として、II-VI族化合物は、CdO、CdS、CdSe、CdTe、ZnO、ZnS、ZnSe、ZnTe、HgS、HgSe、HgTe、MgSe、MgS及びこれらの混合物からなる群から選択される二元素化合物;CdSeS、CdSeTe、CdSTe、ZnSeS、ZnSeTe、ZnSTe、HgSeS、HgSeTe、HgSTe、CdZnS、CdZnSe、CdZnTe、CdHgS、CdHgSe、CdHgTe、HgZnS、HgZnSe、HgZnTe、MgZnSe、MgZnS及びこれらの混合物からなる群から選択される三元素化合物;並びにCdZnSeS、CdZnSeTe、CdZnSTe、CdHgSeS、CdHgSeTe、CdHgSTe、HgZnSeS、HgZnSeTe、HgZnSTe及びこれらの混合物からなる群から選択される四元素化合物からなる群から選択されうる。
他の一例として、III-V族化合物は、GaN、GaP、GaAs、GaSb、AlN、AlP、AlAs、AlSb、InN、InP、InAs、InSb及びこれらの混合物からなる群から選択される二元素化合物;GaNP、GaNAs、GaNSb、GaPAs、GaPSb、AlNP、AlNAs、AlNSb、AlPAs、AlPSb、InNP、InNAs、InNSb、InPAs、InPSb及びこれらの混合物からなる群から選択される三元素化合物;並びにGaAlNP、GaAlNAs、GaAlNSb、GaAlPAs、GaAlPSb、GaInNP、GaInNAs、GaInNSb、GaInPAs、GaInPSb、InAlNP、InAlNAs、InAlNSb、InAlPAs、InAlPSb及びこれらの混合物からなる群から選択される四元素化合物からなる群から選択されうる。
【0029】
他の一例として、IV-VI族化合物は、SnS、SnSe、SnTe、PbS、PbSe、PbTe及びこれらの混合物からなる群から選択される二元素化合物;SnSeS、SnSeTe、SnSTe、PbSeS、PbSeTe、PbSTe、SnPbS、SnPbSe、SnPbTe及びこれらの混合物からなる群から選択される三元素化合物;並びにSnPbSSe、SnPbSeTe、SnPbSTe及びこれらの混合物からなる群から選択される四元素化合物からなる群から選択されうる。
【0030】
他の一例として、IV族元素は、Si、Ge及びこれらの混合物からなる群から選択されうる。IV族化合物は、SiC、SiGe及びこれらの混合物からなる群から選択される二元素化合物でもある。
【0031】
他の一例として、合金(alloy)型化合物は、InZnPなどから選択される三元素化合物でもある。
【0032】
量子ドットの表面は、2~4価の金属を含み、例えば、2族~14族の金属として、Mg、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Cd、InまたはSnを含んでもよく、表面改質前に量子ドットの表面をなす金属をさらに追加して、リガンドが付着される部位を広げることができ、これにより、量子ドットの表面改質が有効に起こりうる。
【0033】
前述の二元素化合物、三元素化合物または四元素化合物は、均一な濃度で粒子内に存在してもよく、濃度分布が部分的に異なる状態に分けられて同一粒子内に存在してもよい。また、1つの量子ドットが他の量子ドットを取り囲むコア/シェル構造を有することもできる。コアとシェルとの界面は、シェルに存在する元素の濃度が中心へ行くほど低くなる濃度勾配(gradient)を有することができる。
【0034】
量子ドットの形態は、当該分野において通常使用される形態であれば、特に制限されない。一例として、球状、棒状、ピラミッド状、ディスク状、多重枝状(multi-arm)、または立方体(cubic)のナノ粒子、ナノチューブ、ナノワイヤ、ナノファイバ、ナノプレート粒子などの形態のものを使用することができる。
【0035】
また、量子ドットのサイズは、特に制限されず、当該分野に公知の通常の範囲内で適切に調節することができる。一例として、量子ドットの平均粒径(D50)は、約2~10nmでもある。このように、量子ドットの粒径が約2~10nmの範囲に制御される場合、所望の色相の光を放出することができる。例えば、InPを含有する量子ドットコア/シェルの粒径が約5~6nmである場合、約520~550nm波長の光を放出することができ、一方、InPを含有する量子ドットコア/シェルの粒径が約7~8nmである場合、約620~640nm波長の光を放出することができる。例えば、青色発光QDとしては、非カドミウム(Cd)系III-V族QD(例えば、InP、InGaP、InZnP、GaN、GaAs、GaP)を使用することができる。
【0036】
また、前記量子ドットは、約40nm以下の発光波長スペクトルの半値幅(full width of half maximum: FWHM)を有することができ、当該範囲で色純度や色再現性を向上させることができる。また、そのような量子ドットを通じて発光される光は、全方向に放出されるところ、広視野角が向上しうる。
【0037】
量子ドットの表面には、オレイン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイルアミン、n-オクチルアミン、ヘキサデシルアミン、ヘキシルホスホン酸、n-オクチルホスホン酸、テトラデシルホスホン酸、オクタデシルホスホン酸、またはこれらの組み合わせなどからなる有機リガンドが付着されうる。
【0038】
本発明の一実施形態によれば、前記量子ドットの含量は、量子ドットの特性によって、量子ドット組成物の総重量を基準として1~20重量%、好ましくは、1~10重量%、さらに好ましくは、1~5重量%である。
【0039】
量子ドット溶液には量子ドットの表面を構成する金属を追加することができるが、追加される金属の含量は、量子ドット組成物の総重量を基準として1~20重量%、好ましくは、1~10重量%、さらに好ましくは、1~5重量%である。例えば、量子ドットの表面にZn金属が含まれた場合、ZnCl2を添加することができる。
【0040】
また、量子ドットと、量子ドットの表面を構成し、量子ドットに追加される金属化合物との重量比は、3:1~1:3であり、好ましくは、2:1~1:2であり、さらに好ましくは、1:1である。
【0041】
リガンド
本発明による量子ドット組成物において、リガンドは、量子ドットの表面を改質させる役割を行う。量子ドットは、疎水性を有する表面特性により親水性溶媒ないし極性溶媒に対する分散に障壁が存在するが、適切なリガンドにより量子ドットの表面を改質させ、親水性溶媒に対する量子ドットの混和性を向上させることができ、粘度を調節することができ、インクジェットプリンティングに使用することができる。
【0042】
本発明の一実施形態によれば、前記リガンドは、前記量子ドットの表面と結合可能な反応基と、親水性を有する有機基とを含み、好ましくは、一側に量子ドットの表面と結合可能な反応基を含み、他側に親水性を有する有機基を含み、さらに好ましくは、一側に量子ドットの表面と結合可能な反応基を1個以上含み、末端部に親水性を有する有機基を1個以上含む。
【0043】
量子ドットの表面と結合可能な作用基(官能基)の非制限的な例は、-COOH、-CN、NH2、NH、N、SH、PO、P、OH、COOR’(R’はアルキル基である)、-C(=O)-、PO(OH)2、POOH、及びこれらの組み合わせを含む群から選択されるものを含んでもよい。
【0044】
リガンドに含まれる親水性を有する有機基は、炭素数3~10の有機基であり、好ましくは、窒素(N)、酸素(O)及び硫黄(S)を含む群から選択された1種以上の元素を含み、具体的には、カルボキシ基、ヒドロキシ基、スルホ基、スルホニル基、アンモニウム基、アミン基、エチレングリコール、ポリエチレングリコール(PEG)などが挙げられる。
【0045】
リガンドに含まれる親水性を有する有機基は、リガンドの一部として、独立して選択される1~20個のモイエティ(moiety)としてリガンドに含まれる。
【0046】
リガンドの一実施例として、カルボン酸を含む有機基と、チオール基とを含む二官能性分子があり、具体的には、3-メルカプトプロピオン酸、6-メルカプトヘキサン酸、7-メルカプトヘプタン酸、8-メルカプトオクタン酸、12-メルカプトドデカン酸、メルカプトコハク酸、またはジメルカプトコハク酸などがあり、これらに制限されない。
【0047】
本発明の一実施形態によれば、前記リガンドの含量は、量子ドットの特性によって、量子ドット組成物の総重量を基準として1~40重量%、好ましくは、1~20重量%、さらに好ましくは、1~10重量%である。
【0048】
また、量子ドットとリガンドとの重量比は、1:1~1:5であり、好ましくは、1:1~1:3であり、さらに好ましくは、1:1.5~1:2.5である。
【0049】
極性溶剤
粘度が高い極性溶剤は、インクジェットプリンティング方法における使用に適したインク組成物を製造するのに優れた性質を有しているが、量子ドットを均一に分散させるのに問題点があった。
【0050】
本発明の一実施形態によれば、極性溶剤は、2種以上含み、好ましくは、プロピレングリコールを必ず含み、さらに好ましくは、カルボキシ基、ヒドロキシ基、スルホ基、エステル基、及びケトン基を含む群から選択される1種以上の作用基(官能基)を含む溶剤を1種以上さらに含む。このとき、プロピレングリコールと残り極性溶剤との体積比は、1:0.5~1:5であり、好ましくは、1:1~1:3である。最適の体積比は、追加される残り極性溶剤の物性によって変わりうる。
【0051】
本発明による量子ドットインク組成物の粘度は、約2~20cpsであり、好ましくは、2~16cpsであり、さらに好ましくは、2.1~15cpsであり、当該範囲において量子ドットインク組成物をインクジェットプリンティング方式に使用する際に適している。
【0052】
また、本発明による量子ドットインク組成物の粗度は、0.5~5nmであり、好ましくは、1~3nmであり、さらに好ましくは、1~2nmである。薄膜化後、粗度が均一であるほど、発光素子及びディスプレイ装置に適用する際に均一な薄膜を具現することができるので、均一な色再現率を有することができ、素子駆動時に漏れ現象(Leakage)が生じず、素子の駆動特性が改善される効果を有することができる。
【0053】
<発光素子及びディスプレイ装置>
本発明の一実施形態による発光素子は、前述の量子ドットインク組成物から形成された発光層を具備するという点において、従来の発光素子と区別される。
【0054】
本発明の一実施形態による発光素子は、量子ドット発光素子(Quantum dot Light Emitting Device)、有機発光素子などがあり、これらに限らず、多様な種類の発光素子に適用可能である。
【0055】
一般的に、発光素子は、第1電極、前記第1電極と対向して配置される第2電極、前記第1電極と前記第2電極との間に配置され、前述の量子ドットインク組成物をインクジェットプリンティングして形成された発光層、前記第1電極と前記発光層との間に配置される正孔輸送層、及び前記発光層と前記第2電極との間に配置される電子輸送層を含む。必要に応じて、前記発光素子は、正孔注入層及び電子注入層のうち少なくとも1層をさらに含んでもよい。
【0056】
また、本発明は、前述の量子ドットインク組成物を含むディスプレイ装置を提供する。ここで、ディスプレイ装置は、液晶表示装置(LCD)、電界発光表示装置(EL)、プラズマ表示装置(PDP)、電界放出表示装置(FED)、有機発光素子(OLED)などがあるが、これらに限定されない。
【実施例0057】
以下、製造例及び実施例を通じて本発明をより詳細に説明する。しかし、以下の製造例及び実施例は、本発明を例示するためのものであり、本発明の範囲が製造例及び実施例に限定されるものではない。
【0058】
<製造例1.極性溶剤A>
プロピレングリコール(以下、PGという)、ブタノール及びプロピレングリコールモノメチルアセテート(以下、PGMEAという)を1:1:1の体積比で混合するが、総体積は2mlとし、極性溶剤Aを製造した。
【0059】
<製造例2.極性溶剤B>
PG及びブタノールを1:3の体積比で混合し、極性溶剤Bを製造した。
【0060】
<製造例3.極性溶剤C>
PG及びPGMEAを1:1の体積比で混合し、極性溶剤Cを製造した。
【0061】
<製造例4.極性溶剤D>
PG及びヘキサノールを1:1の体積比で混合し、極性溶剤Dを製造した。
【0062】
<製造例5.極性溶剤E>
PG及びエタノールを1:3の体積比で混合し、極性溶剤Eを製造した。
【0063】
<製造例6.極性溶剤F>
PG及びブチルアセテートを1:1の体積比で混合し、極性溶剤Fを製造した。
【0064】
<製造例7.極性溶剤G>
PG及びヘプタノールを1:1の体積比で混合し、極性溶剤Gを製造した。
【0065】
<製造例8.極性溶剤H>
PG及びアセトンを1:1の体積比で混合し、極性溶剤Hを製造した。
【0066】
<実施例1.親水性溶剤型量子ドットインク組成物>
量子ドットは、トルエンにコロイド形態に分散されている緑色量子ドット溶液を使用し、コアはリン化インジウム(InP)、シェルはセレン化亜鉛(ZnSe)及び硫化亜鉛(ZnS)、リガンドはオレイン酸で構成されたものを約0.025g使用した。
【0067】
トルエンに分散されている緑色量子ドット溶液にZnCl2(5wt% in エタノール)を約0.025g添加した後、約10分間撹拌した。撹拌後、エタノールを注入し、遠心分離を行った。
【0068】
遠心分離後、トルエンに再分散させ、表面改質リガンドとしてメルカプトコハク酸を約0.05g添加した後、10分間撹拌した。最後に、ヘキサンを注入した後、遠心分離し、表面改質した量子ドットのみを得て、前記極性溶剤Aに分散させた。
【0069】
<実施例2>
実施例1と同様に製造するが、表面改質した量子ドットを極性溶剤Bに分散させた。
【0070】
<実施例3>
実施例1と同様に製造するが、表面改質した量子ドットを極性溶剤Cに分散させた。
【0071】
<実施例4>
実施例1と同様に製造するが、表面改質した量子ドットを極性溶剤Dに分散させた。
【0072】
<実施例5>
実施例1と同様に製造するが、表面改質した量子ドットを極性溶剤Eに分散させた。
【0073】
<実施例6>
実施例1と同様に製造するが、表面改質した量子ドットを極性溶剤Fに分散させた。
【0074】
<実施例7>
実施例1と同様に製造するが、表面改質した量子ドットを極性溶剤Gに分散させた。
【0075】
<実施例8>
実施例1と同様に製造するが、表面改質した量子ドットを極性溶剤Hに分散させた。
【0076】
<比較例>
シクロヘキシルベンゼンにコロイド形態に分散されている緑色量子ドット溶液を表面改質なしに使用し、コアはリン化インジウム(InP)、シェルはセレン化亜鉛(ZnSe)及び硫化亜鉛(ZnS)、リガンドはオレイン酸で構成された。
【0077】
<実験例1.量子効率評価>
QE 2100装備を利用して、実施例1~8で製造したインク組成物の吸収条件を0.6~0.8にして量子効率(QE)を測定(励起波長450nm)した。その結果を下記表1に示している。
【0078】
【0079】
全ての実施例において、量子効率は70%以上であり、実施例3~8は、約98~100%と非常に優れた量子効率を表した。
【0080】
<実験例2.粘度評価>
レオメーター(MARS-40)装置を利用して、前記製造したインク組成物の粘度を測定した。このとき、CP(con&plate)測定方法を適用し、設定温度は25℃、せん断率はStart 10sec-1~End 20sec-1にした。
【0081】
実施例1~8以外に、各極性溶剤の混合比率を異ならせてさらに極性溶剤を製造し、それぞれの混合比率と粘度結果を下記表2に示している。
【0082】
【0083】
PG以外の残り溶剤は、PGより極性が小さいため、占める混合比の比重が大きくなるほど、粘度が低くなる傾向を見せた。表2に示された実施例の粘度は、いずれも2~16cpsの範囲に属し、インクジェットプリンティングにおける使用に適しているものと判断された。
【0084】
<実験例3.有機物含量評価/TGA分析>
TGA分析は、温度変化による試料の質量変化を測定する熱分析方法である。重量変化が急激に起こる温度を有機物の分解温度であると解釈することができ、総重量減少程度によって、有機物が占めていた重量%を数値的に確認することができる。
【0085】
前記実施例1(ZC-MSA GQD)及び比較例(Ref GQD)で製造したインク組成物を真空オーブンで1時間以上乾燥してパウダー化した後、TGA 550装備を利用して有機物含量評価を行った。その結果を下記表3及びグラフに示している。
測定条件:Mass Flow 240mL/min、equilibrate 40℃、ramp 10℃/min to 700℃/min
【0086】
【0087】
表3及び最初のグラフを参照すると、比較例で製造された量子ドットには、初期量子ドットに付着されていたオレイン酸(3rd peak)のみが観察され、約16%の有機物の重量減少があった。このことから、初期量子ドットには、オレイン酸が全体重量の約16.3%付着されていたものと判断することができる。
【0088】
実施例1の場合、約15%の有機物の重量減少があり、3つの部分においてピーク(1st~3rd peak)が表されているが、最初のピークは、量子ドットからリガンドと置換されて離れたオレイン酸に係わるものであり、二番目のピークは、量子ドットの表面に新たに付着されたリガンドに係わるものであり、三番目のピークは、まだ置換されないオレイン酸に係わるものである。
【0089】
実施例1及び比較例の総有機物の重量減少程度はほぼ類似している一方、3rd peakの値はそれぞれ2.767及び14.348と約5.2倍差があるので、実施例1において量子ドットの表面でのリガンド置換は非常によく行われることが分かる。
【0090】
また、二番目のグラフを参照すれば、実施例1において重量の急激な減少は、約180℃から起こる一方、比較例では、約400℃から重量の急激な減少が起こるので、主な有機物の燃焼点も互いに異なっているということを確認することができる。
【0091】
<実験例4.粗度評価>
ITOガラスを洗浄した後、製造したインク組成物を、スピンコーター(3500rpm/20s)を利用して薄膜化した。ホットプレートに70℃で約15分間乾燥し、Zygo NewView 9000装置を使用して薄膜の粗度値を測定した。
【0092】
粗度評価には、下記表4の極性溶剤を含むインク組成物を使用し、その結果を
図1~3に示している。
【0093】
【0094】
図1~3を参照すると、各薄膜の任意の断面に対して最も厚い部分の粗度値を測定して表示した。実施例4(
図1)の場合、最大粗度値は約2.73nmと測定され、実施例4-a(
図2)の場合に約2.02nmと測定され、実施例4-b(
図3)の場合に約1.73nmと測定された。
【0095】
これにより、極性溶剤の混合比によって、インク組成物の粗度値を均一に調節することができることを確認することができた。
【0096】
<実験例5.吐出性評価>
Fuji Film Dimatix 2.4pl(DMC-11610)ヘッドに装着した後、Omnijet 200装置を利用して吐出性評価を行った。実施例1のインク組成物を使用し、1ドロップ(1滴)の形態に吐出した。1ドロップのインクが吐出される時間によって時分割的に撮影し、その結果を
図4に示している。
【0097】
図4を参照すると、吐出初期には、インクにテール(tail)が形成される様子が示されているが、次第に均衡の取れた球状に吐出されることを確認することができ、その直径は約18.307μmであった。
【0098】
<実験例6.インクジェット形状(CRF)評価>
実験例5と同様に、Fuji Film Dimatix 2.4pl(DMC-11610)ヘッドに装着した後、Omnijet 200装置を使用して実施例1のインク組成物を吐出し、パターン評価を行った。
【0099】
パターン評価時、下部基板としてITOガラスを使用し、Zygo New View 9000装置を使用して基板上のパターンのサイズ及び高さを測定した。このとき、コーヒーリング効果(coffee-ring effect)の程度を定量化するために下記式1を導入し、その結果を
図5に示している。
[式1]CRF(Coffee Ring Factor)=Hmax/Hmin
前記式中、Hmaxはパターンの最も厚い厚さを示し、Hminはパターンの最も薄い厚さを示し、CRF値はコーヒーリング効果の程度を意味する。すなわち、CRF=1は、コーヒーリング効果が完壁に除去されていることを示す。
【0100】
図5を参照すると、実施例1のインクジェット形状のHmaxは約41.62nmであり、Hminは約39.78nmであった。したがって、CRFは約1.047と1に非常に近い値であり、コーヒーリング効果はほとんど影響がないものと判断され、立体形状を見ても一断面ではなく全体的に均一な形状を有していることを確認することができた。
【0101】
本発明は、前記実施形態に限定されず、本発明の技術的要旨を逸脱しない範囲内で多様に修正または変形されて実施可能なことは、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者にとって自明である。