IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ダイヘンの特許一覧

<>
  • 特開-2重シールドティグ溶接方法 図1
  • 特開-2重シールドティグ溶接方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024164846
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】2重シールドティグ溶接方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/29 20060101AFI20241121BHJP
   B23K 9/167 20060101ALI20241121BHJP
   B23K 9/16 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
B23K9/29 L
B23K9/167 A
B23K9/167 C
B23K9/16 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080492
(22)【出願日】2023-05-16
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(72)【発明者】
【氏名】今井 雄太
(72)【発明者】
【氏名】中俣 利昭
【テーマコード(参考)】
4E001
【Fターム(参考)】
4E001AA03
4E001BB07
4E001DD01
4E001LB02
4E001LB06
4E001LH04
4E001LH06
4E001NA01
(57)【要約】
【課題】2重シールドティグ溶接方法において、パルス波形の溶接電流を通電して溶接する場合に、パルス波形の周波数が高くなっても溶接状態を安定に維持すること。
【解決手段】インナーガス7を噴出させるインナーノズル4及びアウターガス9を噴出させるアウターノズル5を備えた溶接トーチWTを使用し、パルス波形の溶接電流Iwを通電して溶接する2重シールドティグ溶接方法において、溶接電流Iwの平均値Iarに応じてインナーガス7の流量Fi及びアウターガス9の流量Foを設定し、パルス波形の周波数Pfrに応じて設定されたインナーガス7の流量Fiを補正する。補正は、パルス波形の周波数Pfrが高くなるほどインナーガス7の流量Fiが小さくなるように変化させる。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インナーガスを噴出させるインナーノズル及びアウターガスを噴出させるアウターノズルを備えた溶接トーチを使用し、
パルス波形の溶接電流を通電して溶接する2重シールドティグ溶接方法において、
前記溶接電流の平均値に応じて前記インナーガス及び前記アウターガスの流量を設定し、
前記パルス波形の周波数に応じて前記設定された前記インナーガスの流量を補正する、
ことを特徴とする2重シールドティグ溶接方法。
【請求項2】
前記補正によって、前記パルス波形の前記周波数が高くなるほど前記インナーガスの流量が小さくなるように変化させる、
ことを特徴とする請求項1に記載の2重シールドティグ溶接方法。
【請求項3】
前記補正によって、前記パルス波形の振幅が50A以上であり、かつ、前記周波数が10~500Hzの範囲で高くなるほど前記インナーガスの流量が小さくなるように変化させる、
ことを特徴とする請求項1に記載の2重シールドティグ溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2重シールドティグ溶接方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インナーガスを噴出させるインナーノズル及びアウターガスを噴出させるアウターノズルを備えた溶接トーチを使用し、溶接電流を通電して溶接する2重シールドティグ溶接方法が慣用されている(例えば、特許文献1参照)。インナーガス及びアウターガスとしては、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスが使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-15048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
2重シールドティグ溶接方法において、パルス波形の溶接電流を通電して溶接を行う場合がある。パルス波形の周波数が高くなるほどアークの硬直性が強くなるので、ビード幅が狭くなり、深い溶け込みを得ることができる。しかし、2重シールドティグ溶接方法において、パルス波形の周波数を高くすると溶接状態が不安定になる場合が発生する。
【0005】
そこで、本発明では、パルス波形の溶接電流を通電して溶接する場合において、パルス波形の周波数が高くなっても溶接状態を安定に維持することができる2重シールドティグ溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、
インナーガスを噴出させるインナーノズル及びアウターガスを噴出させるアウターノズルを備えた溶接トーチを使用し、
パルス波形の溶接電流を通電して溶接する2重シールドティグ溶接方法において、
前記溶接電流の平均値に応じて前記インナーガス及び前記アウターガスの流量を設定し、
前記パルス波形の周波数に応じて前記設定された前記インナーガスの流量を補正する、
ことを特徴とする2重シールドティグ溶接方法である。
【0007】
請求項2の発明は、
前記補正によって、前記パルス波形の前記周波数が高くなるほど前記インナーガスの流量が小さくなるように変化させる、
ことを特徴とする請求項1に記載の2重シールドティグ溶接方法である。
【0008】
請求項3の発明は、
前記補正によって、前記パルス波形の振幅が50A以上であり、かつ、前記周波数が10~500Hzの範囲で高くなるほど前記インナーガスの流量が小さくなるように変化させる、
ことを特徴とする請求項1に記載の2重シールドティグ溶接方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る2重シールドティグ溶接方法によれば、パルス波形の溶接電流を通電して溶接する場合において、パルス波形の周波数が高くなっても溶接状態を安定に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施の形態に係る2重シールドティグ溶接方法を実施するための溶接装置のブロック図である。
図2】本発明の実施の形態に係る2重シールドティグ溶接方法を示す図1の溶接装置における各信号のタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0012】
図1は、本発明の実施の形態に係る2重シールドティグ溶接方法を実施するための溶接装置のブロック図である。以下、同図を参照して各ブロックについて説明する。
【0013】
溶接トーチWTは、主に電極1、それを取り囲むインナーノズル4及びそれを取り囲むアウターノズル5を備えている。電極1には、タングステン電極等が使用される。例えば、インナーノズル4の内径は5mm、であり、アウターノズル5の内径は13mmである。
【0014】
起動スイッチONは、オン状態になるとHighレベルとなり、オフ状態になるとLowレベルになる起動信号Onを出力する。この起動スイッチONは、溶接トーチWTに設けられたトーチスイッチである。また、ロボット制御装置から起動信号Onが出力される場合もある。
【0015】
溶接電流平均値設定回路IARは、予め定めた溶接電流平均値設定信号Iarを出力する。パルス周波数設定回路PFRは、予め定めたパルス周波数設定信号Pfrを出力する。パルス振幅設定回路PARは、予め定めたパルス振幅設定信号Parを出力する。
【0016】
電流設定回路IRは、上記の溶接電流平均値設定信号Iar、上記のパルス周波数設定信号Pfr及び上記のパルス振幅設定信号Parを入力として、溶接電流平均値設定信号Iarを中央値としてパルス周波数設定信号Pfrによって設定される周波数及びパルス振幅設定信号Parによって設定される振幅のパルス波形の電流設定信号Irを出力する。
【0017】
インナーガス流量設定回路FIRは、上記の溶接電流平均値設定信号Iar及び上記のパルス周波数設定信号Pfrを入力として、溶接電流平均値設定信号Iar[A]及びパルス周波数設定信号Pfr[Hz]を予め定めたインナーガス流量設定関数に入力して算出された値をインナーガス流量設定信号Fir[l/min]として出力する。インナーガス設定関数の例を以下に示す。
Fir=(Iar-75)/50+3.5-0.015×Pfr (1)式
但し、75≦Ir≦150の範囲であり、Ir<75の場合はIr=75と同一値であり、Ir>150の場合はIr=150と同一値である。また、10≦Pfr≦100の範囲であり、Pfr<10の場合はPfr=10と同一値であり、Pfr>100の場合はPfr=100と同一値である。
【0018】
インナーガス流量調整器CIは、慣用されているマスフローコントローラであり、上記の起動信号On及び上記のインナーガス流量設定信号Firを入力として、起動信号OnがHighレベルになると、インナーガスボンベ6からのインナーガス7の流量Fiをインナーガス流量設定信号Firによって定まる値に調整して噴出する。
【0019】
アウターガス流量設定回路FORは、上記の溶接電流平均値設定信号Iarを入力として、溶接電流平均値設定信号Iar[A]を予め定めたアウターガス流量設定関数に入力して算出された値をアウターガス流量設定信号For[l/min]として出力する。アウターガス設定関数の例を以下に示す。
For=(Ir-75)/50+5.5 (2)式
但し、75≦Ir≦150の範囲であり、Ir<75の場合はIr=75と同一値であり、Ir>150の場合はIr=150と同一値である。
【0020】
アウターガス流量調整器COは、慣用されているマスフローコントローラであり、上記の起動信号On及び上記のアウターガス流量設定信号Forを入力として、起動信号OnがHighレベルになると、アウターガスボンベ8からのアウターガス9の流量Foをアウターガス流量設定信号Forによって定まる値に調整して噴出する。
【0021】
インナーノズル4の内側の通路をインナーガス7が流れる。また、インナーノズル4の外側とアウターノズル5の内側の通路をアウターガス9が流れる。インナーガス7及びアウターガス9にはアルゴン、ヘリウム等の不活性ガスが使用される。アーク3は、電極1が負極となり、母材2が正極となって発生する。
【0022】
溶接電源PSは、上記の起動信号On及び上記の電流設定信号Irを入力として、 起動信号OnがHighレベルになると、電極1と母材2との間に高周波高電圧を印加し、アーク3が発生すると電流設定信号Irによって設定されたパルス波形の溶接電流Iwの出力を開始し、起動信号OnがLowレベルになると溶接電流Iwの出力を停止する。
【0023】
図2は、本発明の実施の形態に係る2重シールドティグ溶接方法を示す図1の溶接装置における各信号のタイミングチャートである。同図(A)はパルス周波数設定信号Pfr[Hz]の時間変化を示し、同図(B)は溶接電流Iw[A]の時間変化を示し、同図(C)はインナーガス流量Fi[l/min]の時間変化を示し、同図(D)はアウターガス流量Fo[l/min]の時間変化を示す。以下、同図を参照して溶接中の動作について説明する。
【0024】
同図(A)に示すように、パルス周波数信号Pfrは、時刻t1以前は第1周波数であり、時刻t1以後はそれよりも高い第2周波数に変化している。同図(B)に示すように、溶接電流Iwは、図1の電流設定信号Irによって設定され、図1の溶接電流平均値設定信号Iarを中央値として同図(A)に示すパルス周波数設定信号Pfrによって設定される周波数及び図1のパルス振幅設定信号Parによって設定される振幅のパルス波形となる。したがって、溶接電流Iwは時刻t1以後の第2周波数が時刻t1以前の第1周波数よりも高いパルス波形となっている。
【0025】
同図(C)に示すように、インナーガス流量Fiは、図1の溶接電流平均値設定信号Iar及び同図(A)に示すパルス周波数設定信号Pfrの値を上述した(1)式に代入して算出される。同図(D)に示すように、アウターガス流量Foは、図1の溶接電流平均値設定信号Iarの値を上述した(2)式に代入して算出される。例えば、溶接電流平均値設定信号Iar=150A、パルス周波数設定信号Pfrの第1周波数=10Hz及び第2周波数=100Hzである場合には、インナーガス流量Fi及びアウターガス流量Foは、以下のように算出される。
1)時刻t1以前
Fi=(150-75)/50+3.5-0.015×10=4.85
Fo=(150-75)/50+5.5=7
2)時刻t1以後
Fi=(150-75)/50+3.5-0.015×100=3.5
Foは時刻t1以前と同一値
この結果、同図(C)に示すように、インナーガス流量Fiは、時刻t1以前は4.85l/minとなり、時刻t1以後は3.5l/minへと小さくなる。また、同図(D)に示すように、アウターガス流量Foは、時刻t1以前及び以後ともに7l/minとなる。
【0026】
以下、本実施の形態の作用効果について説明する。
本実施の形態によれば、溶接電流の平均値に応じてインナーガス及びアウターガスの流量を設定し、溶接電流のパルス波形の周波数に応じて設定されたインナーガスの流量を補正する。補正は、パルス波形の周波数が高くなるほどインナーガスの流量が小さくなるように変化させる。溶接電流のパルス周波数が高くなるほどアークの硬直性は強くなる。また、インナーガスの流量が大きくなるほどアークの硬直性は強くなる。このために、パルス周波数を高くなるように変化させた場合において、インナーガスの流量を変化させずに同一値のままにすると、アークの形状が絞られすぎて溶接状態が不安定になる場合が発生する。これに対して、本実施の形態では、パルス周波数が高くなるほどインナーガスの流量が小さくなるので、アークの形状が絞られすぎることを抑制することができる。この結果、本実施の形態では、パルス波形の溶接電流を通電して溶接する場合において、パルス波形の周波数が高くなっても溶接状態を安定に維持することができる。
【0027】
さらに好ましくは、本実施の形態によれば、補正によって、溶接電流のパルス波形の振幅が50A以上であり、かつ、周波数が10~500Hzの範囲で高くなるほどインナーガスの流量が小さくなるように変化させる。アークの硬直性が変化するのは、溶接電流のパルス波形の振幅が50A以上であり、かつ、周波数が10~500Hzの範囲で変化する場合である。したがって、振幅が50A未満であり、周波数が10Hz未満の場合は、アークの硬直性はほとんど変化しないので、インナーガスの流量を連動させて変化させる必要がない。この結果、本実施の形態では、振幅が50A以上であり、かつ、周波数が10~500Hzの範囲で変化するときに、インナーガスの流量を連動させて変化させることによって、溶接状態を安定化させる作用効果が顕著となる。周波数を500Hzを超えて設定しても、通電路のインダクタンスの影響により波形がなまってしまうために、アークの硬直性がこれ以上に強くなることはない。
【符号の説明】
【0028】
1 電極
2 母材
3 アーク
4 インナーノズル
5 アウターノズル
6 インナーガスボンベ
7 インナーガス
8 アウターガスボンベ
9 アウターガス
CI インナーガス流量調整器
CO アウターガス流量調整器
Fi インナーガス流量
FIR インナーガス流量設定回路
Fir インナーガス流量設定信号
Fo アウターガス流量
FOR アウターガス流量設定回路
For アウターガス流量設定信号
IAR 溶接電流平均値設定回路
Iar 溶接電流平均値設定信号
IR 電流設定回路
Ir 電流設定信号
Iw 溶接電流
ON 起動スイッチ
On 起動信号
PAR パルス振幅設定回路
Par パルス振幅設定信号
PFR パルス周波数設定回路
Pfr パルス周波数設定信号
PS 溶接電源
WT 溶接トーチ
図1
図2