(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024164853
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】同期モータ用ロータ、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 21/14 20060101AFI20241121BHJP
H02K 11/215 20160101ALI20241121BHJP
【FI】
H02K21/14 M
H02K11/215
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080504
(22)【出願日】2023-05-16
(71)【出願人】
【識別番号】000002059
【氏名又は名称】シンフォニアテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130498
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 禎哉
(72)【発明者】
【氏名】吉田 加津也
【テーマコード(参考)】
5H611
5H621
【Fターム(参考)】
5H611AA01
5H611BB01
5H611PP07
5H611QQ03
5H611RR02
5H611UA01
5H621HH02
(57)【要約】
【課題】センサ用マグネットをロータに取り付ける際の位相合わせ・位置決めを容易に行うことが可能なセ同期モータ用ロータを提供する。
【解決手段】センサ用マグネット4に他の部分よりもシャフト2の軸方向2Dに突出した凸部41を設け、シャフト2に凸部41が嵌まる凹部21を設け、センサ用マグネット4に設けた凸部41を基準として予め着磁したセンサ用マグネット4を、凸部41及び凹部21を相互に嵌め合わせた状態でシャフト2に固定した構成を有し、さらに、シャフト2に取り付けた状態でシャフト2の凹部21を基準として後着磁処理S3が施されたロータマグネット3を備える構成にした。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータの磁極位置を検出するためのセンサ用マグネットをシャフトの一端部に設けた同期モータ用のロータであり、
前記センサ用マグネットまたは前記シャフトの一方に、他の部分よりも前記シャフトの軸方向に突出した凸部を設け、他方に前記凸部が嵌まる凹部を設け、
前記凸部または前記凹部を基準として着磁した前記センサ用マグネットを、前記凸部及び前記凹部を相互に嵌め合わせた状態で前記シャフトに固定した構成であり、
前記シャフトに取り付けた状態で当該シャフトの前記凸部または前記凹部を基準として着磁したロータマグネットを備えていることを特徴とする同期モータ用ロータ。
【請求項2】
前記凸部は、前記シャフトの軸方向に沿って漸次傾斜するテーパ面を有するものであり、
前記凹部を前記テーパ面が嵌合可能な形状に設定している請求項1に記載の同期モータ用ロータ。
【請求項3】
ロータの磁極位置を検出するためのセンサ用マグネットをシャフトの一端部に設けた同期モータ用のロータの製造方法であり、
予め前記センサ用マグネットまたは前記シャフトの一方に、他の部分よりも前記シャフトの軸方向に突出した凸部を設け、他方に前記凸部が嵌まる凹部を設けておき、
前記シャフトに磁気を帯びていない着磁対象部材を取り付ける着磁対象部材固定処理と、
前記着磁対象部材固定処理後に前記シャフトのバランスを調整するバランシング処理と、
前記バランシング処理後に前記シャフトの前記凹部または前記凸部を基準として前記着磁対象部材を着磁することで当該着磁対象部材をロータマグネットとする後着磁処理と、
前記後着磁処理後に前記凸部を前記凹部に嵌め合わてセンサ用マグネットを前記シャフトに固定するセンサ用マグネット固定処理とを経ることを特徴とする同期モータ用ロータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同期モータに適用されるロータ、及び同期モータ用ロータを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、磁気センサによりロータの磁極位置を検出し、検出される位置信号に基づいてモータを駆動する同期モータ及びその制御装置が知られている。このような同期モータに適用されるロータのシャフトの周囲には磁気センサが配置され、シャフトに、センサ用マグネットが取り付けられて接着剤等で固定されている。
【0003】
これら磁気センサ及びセンサ用マグネットは、ロータのシャフトの径方向におけるサイズの大型化を回避するために、近時では、シャフトの一端部に平らな円板状のセンサ用マグネットを固定し、センサ用マグネットに対向する位置(シャフトの一端部から軸方向に離間した位置)に磁気センサを配置する構成が多く採用されている。また、マグネットをロータ表面に組み込む表面磁石形(SPM:Surface Permanent Magnet)、またはマグネットをシャフトの鉄心内部に組み込む埋込磁石形(IPM: Interior permanent Magnet)の何れのタイプであっても、モータの駆動時には、ロータの磁極位置(モータのマグネット位置)に準じた電流位相で駆動する必要がある。
【0004】
このような同期モータにおいて、下記特許文献1には、固定部材及び固定ピン、さらに接着剤によってシャフトの一端部にセンサ用マグネットを固定する態様が開示されている。具体的には、シャフトの一端部に樹脂製(非磁性材料)の固定部材を配置し、その固定部材にセンサ用マグネットを一体にモールドし、固定ピンや接着剤によって固定部材をシャフトに対して固定する態様が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、磁気センサの出力信号にロータの磁極位置に対して位相誤差が生じると、同期モータのモータ効率が低下したり、回転ムラが発生する場合がある。磁気センサの出力信号に位相誤差が生じる要因として、予め着磁されているセンサ用マグネットをロータの正規の取付位置からずれた位置に固定した場合に、ロータ上におけるセンサ用マグネットの磁極位置が正規の磁極位置からずれて、センサ用マグネットの磁極位置とロータの磁極位置の位相にずれが生じていることが挙げられる。
【0007】
そもそも、予め着磁されているセンサ用マグネットの磁極位置を目視で確認することは不可能であるため、シャフトに固定する前の時点で専用の測定機器によってセンサ用マグネットの磁極位置を測定し、マーキングする必要がある。しかしながら、測定処理を経て付されたマーキング通りにロータの正規の位置に合わせてセンサ用マグネットをシャフトに固定することは、手作業であっても、上述の専用の固定部材を用いた場合であっても至難なことである。
【0008】
このように、従来の態様では、専用の測定機器を用いたセンサ用マグネットの磁極測定処理が必須であることに加えて、シャフトに対するセンサ用マグネットの位置合わせを正確に行うことは困難である。さらに、センサ用マグネットはシャフトに接着固定されており、接着後にセンサ用マグネットの位置調整を行うことは不可能であり、接着時の取付位置の誤差もモータ特性を低下させる要因となる。
【0009】
本発明は、このような課題に着目してなされたものであって、主たる目的は、シャフトの一端部にセンサ用マグネットを取り付けるロータにおいて、シャフトに対するセンサ用マグネットの取付時の位相合わせ及び位置決めを容易に且つ正確に行うことが可能なロータ、及びロータの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明は、ロータの磁極位置を検出するためのセンサ用マグネットをシャフトの一端部に設けた同期モータ用ロータに関するものであり、センサ用マグネットまたはシャフトの一方に、他の部分よりもシャフトの軸方向に突出した凸部を設け、他方に凸部が嵌まる凹部を設け、センサ用マグネットに設けた凸部または凹部を基準として着磁したセンサ用マグネットを、凸部及び凹部を相互に嵌め合わせた状態でシャフトに固定した構成を有し、さらに、シャフトに取り付けた状態でシャフトの凸部または凹部を基準として着磁した(後着磁処理が施された)ロータマグネットを備えていることを特徴としている。
【0011】
ここで、本発明に係るロータは、同期モータに適用可能なものであり、SPMタイプまたはIPMタイプの何れのタイプの同期モータにも適用可能なものである。また、本発明における凸部及び凹部はそれぞれ少なくとも1以上(凹凸のペアが1組以上)設けられていればよく、複数設けられた構成も本発明に含まれる。
【0012】
このような本発明に係る同期モータ用ロータであれば、センサ用マグネットに設けた凸部または凹部を基準として予め着磁したセンサ用マグネットを用いるため、センサ用マグネットの磁極位置を凸部または凹部を基準にして目視で特定することができ、例えば専用の測定機器によってセンサ用マグネットの磁極位置を予め測定しておく処理が不要である。そして、本発明に係る同期モータ用ロータであれば、凸部及び凹部を基準にしてこれら凸部及び凹部を互いに嵌め合わせた状態でセンサ用マグネットをシャフトに固定することができ、固定した状態においてもセンサ用マグネットの磁極を凸部または凹部を目印にして正確に把握することができる。さらに、本発明に係る同期モータ用ロータでは、シャフトに取り付けたロータマグネットが、予め着磁されたものではなく、シャフトに取り付けた状態でそのシャフトの凹部または凸部を基準にして後着磁処理が施されたものであるため、ロータマグネットの磁極位置とセンサ用マグネットの磁極位置を合わせることができ、位相合わせも容易且つ適切に行うことができる。
【0013】
特に、本発明における凸部が、シャフトの軸方向に沿って漸次傾斜するテーパ面を有するものであり、凹部として、テーパ面が嵌合可能な形状(テーパ面を有する形状)のものを適用すれば、シャフトに対するセンサ用マグネットの位置合わせ精度が向上する。
【0014】
また、本発明は、ロータの磁極位置を検出するためのセンサ用マグネットをシャフトの一端部に設けた同期モータ用ロータの製造方法に関するものであり、予めセンサ用マグネットまたはシャフトの一方に、他の部分よりもシャフトの軸方向に突出した凸部を設け、他方に凸部が嵌まる凹部を設けておき、シャフトに磁気を帯びていない着磁対象部材を取り付ける着磁対象部材固定処理と、着磁対象部材固定処理後にシャフトのバランスを調整するバランシング処理と、バランシング処理後にシャフトの凹部または凸部を基準として着磁対象部材を着磁することで当該着磁対象部材をロータマグネットとする後着磁処理と、後着磁処理後に凸部を凹部に嵌め合わてセンサ用マグネットをシャフトに固定するセンサ用マグネット固定処理とを経ることを特徴としている。
【0015】
このような同期モータ用ロータの製造方法であれば、上述の同期モータ用ロータに関して言及した作用効果と同様の作用効果を奏し、センサ用マグネット及びシャフトを相互に組み付けて固定する処理を凸部及び凹部を基準にして容易に行うことができ、シャフトに磁気を帯びていない着磁対象部材(非着磁部材)を取り付けた状態でシャフトのバランスを調整するバランシング処理を行うことで、バランシング処理時に発生する切屑等の磁気を帯びるゴミ屑が着磁対象部材に磁力で付着しないため、作業性が向上する。すなわち、シャフトに磁気を帯びた部材(ロータマグネット)を取り付けた状態でシャフトのバランスを調整するバランシング処理を行った場合には、バランシング処理時に発生する切屑等の磁気を帯びた屑がロータマグネットに磁力で付着する事態が生じ、ロータマグネットから屑を除去する作業が必要になり、作業工数が増えることになるが、本発明によればそのような事態の発生を回避することができる。
【0016】
さらに、本発明によれば、バランシング処理後に、シャフトに設けた凹部または凸部を基準として着磁対象部材を着磁することで当該着磁対象部材をロータマグネットとする後着磁処理を行うため、シャフトに設けた凹部または凸部を基準にロータマグネットの磁極位置を正確に設定することができ、後着磁処理後に凸部を凹部に嵌め合わてセンサ用マグネットをシャフトに固定するセンサ用マグネット固定処理を終えた時点で、ロータマグネットの磁極位置によって決まるロータの磁極位置と、センサ用マグネットの磁極位置を相互に正規の位置通りに合わせることができる。したがって、ロータの磁極位置とセンサ用マグネットの磁極位置を相互に合わせる調整処理が不要であり、ロータの組立作業(製造作業)の効率化を図ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、センサ用マグネットまたはシャフトの一方に設けた凸部を、他方に設けた凹部に嵌め合わせて固定するという技術的思想に基づき、シャフトに対するセンサ用マグネットの取付時の位相決め及び位置決めを容易且つ正確に行うことができ、しかも、シャフトに取り付けるロータマグネットに関しては、着磁前の状態でシャフトに取り付け、シャフトに設けた凹部または凸部を基準にして後着磁処理を施すように構成したことで、ロータマグネットの磁極位置とセンサ用マグネットの磁極位置を相互に合わせる調整作業を別途要することなく、相互の磁極位置(ロータマグネットとセンサ用マグネットの磁極位置)を簡単に合わせることが可能な同期モータ用ロータ、及び同期モータ用ロータの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態に係る同期モータ用ロータの全体図。
【
図3】同実施形態におけるセンサ用マグネットをシャフトから離間させた状態を
図2に対応して示す図。
【
図4】同実施形態におけるセンサ用マグネット単体及びロータマグネット単体の磁極を示す断面模式図。
【
図5】同実施形態に係る同期モータ用ロータの処理手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0020】
本実施形態に係る同期モータ用ロータ1(以下、ロータ1と称す)は、例えばステータ(図示省略)の内周側に配置されるインナーロータ型の同期モータに適用可能なものである。本実施形態に係るロータ1は、
図1に示すように、シャフト2と、シャフト2の軸方向2Dにおける所定位置に固定したロータマグネット3とを備えている。
【0021】
シャフト2の一端部には、ロータ1の磁極位置を検出するためにセンサ用マグネット4を固定している。センサ用マグネット4は、シャフト2の軸方向2Dにおいてセンサ用マグネット4から所定距離離間した位置に配置された磁気センサ5(磁極センサ、ホールセンナ等)により、ロータ1の磁極位置を検出するように構成されたものである。センサ用マグネット4は、
図2乃至
図4に示すように、円板状をなし、シャフト2の一端部に接触する面であるシャフト接触面4Aに、他の部分よりもシャフト2の軸方向2Dに突出した凸部41を設けている。なお、
図2は
図1の要部拡大図であり、
図3は
図2のシャフト2及びセンサ用マグネット4を軸方向2Dに相互に離間させた状態(センサ用マグネット4をシャフト2に固定する前の状態)を示す図である。また、
図4(a)は
図1のa-a線断面におけるセンサ用マグネット4単体の磁極を示す図であり、
図4(b)は
図1のb-b線断面におけるロータマグネット3単体の磁極を示す図である。
【0022】
本実施形態では、
図2乃至
図4(a)に示すように、センサ用マグネット4のシャフト接触面4Aのうち外縁における1箇所にシャフト2に近寄る方向41Dへ突出する凸部41を設けている。本実施形態の凸部41は、シャフト接触面4Aを基端とし、突出端に向かって漸次幅狭となる形状(基端を下辺、突出端を上辺とする略台形状)をなし、テーパ面41tを有するものである。センサ用マグネット4は、例えば射出成型によって得られる磁石であり、凸部41を一体に有するものである。なお、
図4(a)では、
図1のa-a線断面に現れない凸部41の位置を実線で模式的に示している。
【0023】
そして、本実施形態のセンサ用マグネット4は、凸部41を基準にして着磁処理を施したものである。具体的には、
図4(a)に示すように、センサ用マグネット4を2等分した領域の一方をN極に着磁し、他方をS極に着磁する処理時に、凸部41を基準(より正確には凸部41の突出方向41Dに延伸する中心線41Cを境界)にしてN極とS極に着磁している。したがって、センサ用マグネット4を単体で扱う場合においても、凸部41を基準にしてセンサ用マグネット4の磁極位置(磁性変化位置)を目視で特定することができる。
【0024】
シャフト2の一端部には、
図2及び
図3に示すように、凸部41が嵌合する凹部21を設けている。凹部21の数は凸部41と同数であり、凹部21の形状は凸部41が略隙間無く嵌合可能な形状である。本実施形態では、
図2及び
図3に示すように、凸部のテーパ面41tが略隙間無く接触するテーパ面21tを有する凹部21を適用している。凹部21は、例えばフライス加工によって容易に形成することができる。
【0025】
ロータマグネット3は、
図1及び
図4(b)に示すように、シャフト2の外周面に嵌合可能な内径を有するリング状の部材である。本実施形態では、シャフト2のうちセンサ用マグネット4を固定する一端部から他端部側に向かってシャフトの軸方向2Dに所定距離離間した位置にロータマグネット3を固定している。なお、本実施形態では、シャフト2自体をロータコアとして機能させるものであるが、シャフト2とは別体にロータコアをシャフト2の外周に一体回転可能に配置し、そのロータコアの外周面にロータマグネット3を一体回転可能に固定する態様を採用してもよい。
【0026】
次に、このようなロータ1を組み立てる処理手順(製造方法)について
図5を参照しながら説明する。
【0027】
先ず、ロータマグネット3をロータ1に固定するが、本実施形態では、着磁処理が施されていない状態(磁気を帯びていない状態)のリング状部材(本発明の着磁対象部材)を用意する。このリング状部材は、着磁されることでロータマグネット3として機能するものである。このようなリング状部材をシャフト2に挿通して固定するリング状部材固定処理S1(本発明の「着磁対象部材固定処理」に相当)を実施する。リング状部材固定処理S1では、接着剤等を用いてリング状部材をシャフト2に一体回転可能に固定する。
【0028】
次に、シャフト2全体のバランスを調整するバランシング処理S2を行う。この処理は、リング状部材を一体回転可能に固定したシャフト2全体の重心がシャフト2の回転軸2C上にないアンバランス状態を最小限に抑えるための処理であり、例えば、治具等を用いてシャフト2の適切な位置を少し削ることで重心を回転軸2C上に合わせていく処理である。
【0029】
バランシング処理S2に続いて、シャフト2の一端部に設けた凹部21を基準にしてリング状部材を着磁する後着磁処理S3を行う。本実施形態では、
図4(b)に示すように、リング状部材を周方向に4等分にした領域をそれぞれN極,S極,N極,S極の順に並ぶように着磁する。その際、凹部21の凹み方向21Dに延伸する中心線21CがN極とS極の境界(磁性変化位置)となるように着磁する。すなわち、凹部21を基準にして(より正確には凹部21の中心線21Cが通る点を基点にして)リング状部材を周方向に4等分した領域をN極、S極に交互に着磁する。このような後着磁処理S3を実施することで、リング状部材がロータマグネット3として機能する状態になる。また、バランシング処理S2前に、リング状部材をシャフト2に固定して着磁した場合、削り屑や切り屑等が飛散して着磁したリング状部材に付着するため、これらの屑等を除去する必要があるが、本実施形態では、シャフト2に固定したリング状部材に屑等が磁力で付着することはない。
【0030】
後着磁処理S3に続いて、センサ用マグネット4の凸部41をシャフト2の凹部21に嵌め合わてセンサ用マグネット4をシャフト2に固定するセンサ用マグネット固定処理S4を行う。センサ用マグネット固定処理S4では、凸部41と凹部21を相互に嵌合させるとともに、接着剤等を用いてセンサ用マグネット4をシャフト2に一体回転可能に固定する。
【0031】
以上の処理を経て組み立てた(製造した)ロータ1は、図示しないモータのハウジング内に略全体が収容され、軸受によって回転可能に支持される。そして、ロータ1の磁極位置の検出は、磁気センサ5によって行われる。この磁気センサ5によって検出される検出値(ロータ1の磁極位置)に基づいて取得した情報(ロータ1の位置(ロータ角))をモータの制御システムにおいて利用することができる。
【0032】
このように、本実施形態に係る同期モータ用ロータ1によれば、センサ用マグネット4に設けた凸部41を基準として予め着磁したセンサ用マグネット4を用いるため、センサ用マグネット4の磁極位置を凸部41を基準にして特定することができ、例えば専用の測定機器によってセンサ用マグネット4の磁極位置を予め測定してマーキングする処理が不要である。そして、本実施形態に係る同期モータ用ロータ1によれば、シャフト2の一端部に設けた凹部21に凸部41を相互に嵌め合わせることでシャフト2に対するセンサ用マグネット4の取付位置を正確に位置決めすることができ、その位置決めした状態でセンサ用マグネット4をシャフト2に固定しているため、凸部41を基準にしてセンサ用マグネット4の磁極位置を目視で正確に特定することができる。
【0033】
さらに、本実施形態に係る同期モータ用ロータ1によれば、シャフト2に取り付けたロータマグネット3が、予め着磁されたものではなく、シャフト2に取り付けた状態でシャフト2に設けた凹部21を基準にして後着磁処理S3が施されたものであるため、凹部21に嵌合する凸部41を基準に磁極位置を設定しているセンサ用マグネット4の磁極位置と、ロータマグネット3の磁極位置とを容易且つ正確に合わせることができる。
【0034】
特に、本実施形態では、凸部41として、シャフト2の軸方向2Dに沿って漸次傾斜するテーパ面41tを有するものを適用し、凹部21として、凸部41のテーパ面41tが略隙間無く嵌合可能なテーパ面21tを有するものを適用しているため、シャフト2に対するセンサ用マグネット4の高精度な位置合わせ処理を簡単且つスムーズに行うことができる。
【0035】
また、本実施形態に係る同期モータ用ロータ1の製造方法によれば、シャフト2に磁気を帯びていない着磁対象部材を取り付ける着磁対象部材固定処理(シャフト2に磁気を帯びていないリング状部材を挿通し、固定するリング状部材固定処理S1)と、着磁対象部材固定処理(リング状部材固定処理S1)後にシャフト2のバランスを調整するバランシング処理S2と、バランシング処理S2後にシャフト2の凹部21を基準として着磁対象部材(リング状部材)を着磁することで着磁対象部材(リング状部材)をロータマグネット3として機能させる状態にする後着磁処理S3を経るため、バランシング処理S2時に発生する切屑等の粉塵が未着磁状態の着磁対象部材(リング状部材)に磁力で吸着・付着しないため、作業性が向上する。すなわち、シャフト2に磁気を帯びた部材(ロータマグネット3)を取り付けた状態でシャフト2のバランシング処理S2を行った場合には、バランシング処理S2時に発生する切屑等がロータマグネット3に磁力で付着する事態が生じ、ロータマグネット3から切屑等を除去する作業が必要になり、作業工数が増えることになるが、本実施形態によればそのような事態は発生せず、切屑等の除去作業を回避することができる。さらに、バランシング処理S2後に後着磁処理S3を行うことで、シャフト2に設けた凹部21を基準にロータマグネット3の磁極位置を設定することができる。
【0036】
加えて、本実施形態によれば、バランシング処理S2の後に後着磁処理S3を行うため、シャフト2に設けた凹部21または凸部41を基準にロータマグネット3の磁極位置を正確に設定することができ、後着磁処理S3の後にセンサ用マグネット4の凸部41を凹部21に嵌め合わてセンサ用マグネット4をシャフト2に固定するセンサ用マグネット固定処理S4を終えた時点で、ロータマグネット3の磁極位置によって決まるロータ1の磁極位置と、センサ用マグネット4の磁極位置を相互に合わせることができる。しかも、後着磁処理S3の後に行うセンサ用マグネット固定処理S4は、凸部41を凹部21に嵌め合わてセンサ用マグネット4及びシャフト2を相互に組み付けて固定する処理であるため、凸部41及び凹部21を基準にして容易に行うことができる。
【0037】
このように、本実施形態によれば、センサ用マグネット固定処理S4の完了時点以降に、ロータ1の磁極位置とセンサ用マグネット4の磁極位置を相互に合わせる調整処理(位相調整処理)が不要であり、ロータ1の組立作業(製造作業)の効率化を図ることができる。
【0038】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。例えば、上述の実施形態では、凸部として、テーパ面を有する台形状の凸部を示したが、周囲の部分よりもシャフトの軸方向に突出した形状であればよく、特に限定されない。したがって、凸部の形状として、半円状や半楕円状、三角形状等の適宜の形状を採用することもできる。また、テーパ面4を有する凸部を採用する場合には、対をなすテーパ面(
図3における上下のテーパ面41t)を有するものではなく、1つのテーパ面(例えば
図3における上下のテーパ面41tのうち一方のテーパ面)のみを有するものであってもよい。凹部の形状も凸部の形状に対応させて適宜変更・選択することができる。
【0039】
また、上述の実施形態では、シャフトの一端部に凹部を設け、センサ用マグネットに凸部を設けた態様を例示したが、シャフトの一端部に凸部を設け、センサ用マグネットに凹部を設けた構成であってもよい。さらに、凸部の数は1以上であればよく、複数の凸部を設ける構成を採用することもでき、その場合は、凹部の数も凸部と同数を対応する位置に設定すればよい。
【0040】
凸部や凹部を設ける位置は、好ましくは、上述の実施形態で説明したように磁極の境界位置(磁性変化位置)であるが、磁極位置を確認する際の目印として機能する位置であれば特に限定されることなく、適宜変更・選択することができる。
【0041】
センサ用マグネットやセンサ用マグネットの磁極数や磁極領域は、モータの用途等に応じて適宜設定・変更することができる。
【0042】
また、上述の実施形態では、SPMモータ用ロータを前提に説明したが、IPMモータ用ロータも本発明に含まれる。IPMモータ用のロータは、シャフトに一体回転可能に固定されるロータコアの内部に複数の永久磁石(ロータマグネット)を周方向に沿って配置した構成(ロータコアに永久磁石が埋設される構成)を有する。この場合、ロータコアの内部に、着磁処理が施されていない状態(磁気を帯びていない状態)の複数の部材(本発明の着磁対象部材に相当)をシャフト(ロータ)に埋設する。すなわち、磁気を帯びていない部材をシャフト(ロータコア)に埋設する処理が、本発明の「着磁対象部材固定処理」に相当する。また、IPMモータ用のロータの製造工程におけるバランシング処理後に行う「後着磁処理」は、シャフトの凹部または凸部を基準として着磁対象部材を着磁する処理を意味し、後着磁処理によってロータマグネットをシャフト(ロータコア)に埋設した構成となる。
【0043】
その他、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0044】
1…ロータ
2…シャフト
21…凹部
3…ロータマグネット
4…センサ用マグネット
41…凸部
S1…着磁対象部材固定処理(リング状部材固定処理)
S2…バランシング処理
S3…後着磁処理
S4…センサ用マグネット固定処理