(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024164859
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】ヒスチジン亜鉛2水和物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 233/64 20060101AFI20241121BHJP
A61K 31/4172 20060101ALN20241121BHJP
A61P 3/00 20060101ALN20241121BHJP
A61P 7/00 20060101ALN20241121BHJP
A61P 43/00 20060101ALN20241121BHJP
【FI】
C07D233/64
A61K31/4172
A61P3/00
A61P7/00
A61P43/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080522
(22)【出願日】2023-05-16
(71)【出願人】
【識別番号】504237832
【氏名又は名称】ノーベルファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100175075
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 康子
(72)【発明者】
【氏名】日色 健
(72)【発明者】
【氏名】久保 翼
(72)【発明者】
【氏名】安澤 亨
(72)【発明者】
【氏名】岡峰 史明
(72)【発明者】
【氏名】鎌井 一気
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA04
4C086BC38
4C086GA13
4C086GA20
4C086HA03
4C086MA01
4C086MA04
4C086ZA51
4C086ZC21
4C086ZC80
(57)【要約】
【課題】 医薬として有用な高純度のヒスチジン亜鉛2水和物を提供する。
【解決手段】 以下の工程1~4を含む、ヒスチジン亜鉛2水和物の製造方法である。
工程1:水に、L-ヒスチジンを添加して溶解した後、酸化亜鉛を添加して、攪拌及び加熱しながら反応させる工程、
工程2:反応液を、フィルターで濾過し、未反応の酸化亜鉛及び異物を除去する工程、
工程3:得られた濾液を、温度4℃~30℃で結晶化し、得られた固形物を分離する工程、および
工程4:分離した固形物を、加温し、乾燥させる工程。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程1~4を含む、ヒスチジン亜鉛2水和物の製造方法。
工程1:水に、L-ヒスチジンを添加して溶解した後、酸化亜鉛を添加して、攪拌及び加熱しながら反応させる工程、
工程2:反応液を、フィルターで濾過し、未反応の酸化亜鉛及び異物を除去する工程、
工程3:得られた濾液を、温度4℃~30℃で結晶化し、得られた固形物を分離する工程、および
工程4:分離した固形物を、加温し、乾燥させる工程。
【請求項2】
工程1において、L-ヒスチジンが、酸化亜鉛に対して、モル比にして2倍以上である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
工程4において、加温温度が20℃~35℃、乾燥時間が4時間~120時間である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
工程1において、温度70℃~85℃で反応させる、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項5】
工程1において、30分~90分間反応させる、請求項4に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒスチジン亜鉛2水和物(JAN:ヒスチジン亜鉛水和物)の製造方法に関する。具体的には、医薬(例えば、ウィルソン病や低亜鉛血症等の治療用の医薬)として有用な高純度のヒスチジン亜鉛2水和物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒスチジン亜鉛の調製方法は公知であり、例えば、中国公開特許113185464号では、ヒスチジン亜鉛について以下の調製方法が記載されている。
【0003】
ここでは、L-ヒスチジンおよび亜鉛源(酸化亜鉛または水酸化亜鉛)を水と混合し、キレート反応を実施してキレート化生成物系を得て、キレート化生成物系を濃縮し、次いで冷却して結晶化してヒスチジン亜鉛を得ている。ここでは、酸化亜鉛または水酸化亜鉛が亜鉛源として使用され、反応系のpH値を調整するためにアルカリ試薬は必要なく、L-ヒスチジン、亜鉛源および水が直接混合され、ヒスチジン亜鉛はワンステップ方式で製造されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、ヒスチジン亜鉛2水和物の製造方法を検討するにあたって、特許文献1の内容を検討したところ、後述するように、特許文献1に記載の製造方法では高純度のヒスチジン亜鉛2水和物が得られないことを見出した。
【0006】
即ち、本発明は、高純度のヒスチジン亜鉛2水和物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明は、以下の[1]~[5]を提供する;
[1] 以下の工程1~4を含む、ヒスチジン亜鉛2水和物の製造方法。
工程1:水に、L-ヒスチジンを添加して溶解した後、酸化亜鉛を添加して、攪拌及び加熱しながら反応させる工程、
工程2:反応液を、フィルターで濾過し、未反応の酸化亜鉛及び異物を除去する工程、
工程3:得られた濾液を、温度4℃~30℃で結晶化し、得られた固形物を分離する工程、および
工程4:分離した固形物を、加温し、乾燥させる工程。
[2] 工程1において、L-ヒスチジンが、添加する酸化亜鉛に対して、モル比で2倍以上である、[1]に記載の製造方法。
[3] 工程4において、加温温度が20℃以上40℃未満、乾燥時間が4時間~120時間である、[1]または[2]に記載の製造方法。
[4] 工程1において、温度70℃~85℃で反応させる、[1]または[2]に記載の製造方法。
[5] 工程1において、30分~90分間反応させる、[4]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、高純度のヒスチジン亜鉛2水和物の製造方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の方法を具体的に説明する。
【0010】
本発明の方法は、ヒスチジン亜鉛2水和物の製造方法であり、以下の工程1~4を含む:
工程1:水に、L-ヒスチジンを添加して溶解した後、酸化亜鉛を添加して、攪拌及び加熱しながら反応させる工程、
工程2:反応液を、フィルターで濾過し、未反応の酸化亜鉛及び異物を除去する工程、
工程3:得られた濾液を、温度4℃~30℃で結晶化し、得られた固形物を分離する工程、および
工程4:分離した固形物を、加温し、乾燥させる工程。
【0011】
工程1
水にL-ヒスチジンを加えて溶解し、そこに、酸化亜鉛を加える。添加する酸化亜鉛の量は、L-ヒスチジンの量が、添加する酸化亜鉛に対して、モル比にして2倍以上となるようにする。工程1におけるL-ヒスチジンと酸化亜鉛の量比は、L-ヒスチジンが酸化亜鉛に対して、モル比にして2倍以上であれば特に限定する必要は無いが、L-ヒスチジン:酸化亜鉛のモル比が2.0~2.5:1とすることが好ましく、2.0~2.1:1、とすることがより好ましい。酸化亜鉛に対するL-ヒスチジンの量が少ないと、反応が十分に進まず、未反応の酸化亜鉛が残ってしまうため、好ましくない。工程1では、この反応液を、攪拌しながら加温し、十分に反応させる。
【0012】
加熱温度としては、60~85℃、好ましくは、70~85℃、より好ましくは70~78℃、さらに好ましくは74℃が挙げられる。60℃未満では反応速度の低下がみられ、85℃を超えるとその後の工程において着色のリスクが生じる。
【0013】
反応時間としては、10~120分、好ましくは30~90分、例えば60分が挙げられる。
【0014】
使用する水の量は、L-ヒスチジンが溶解するのに十分な量であれば限定されず、例えば、反応温度で生成したヒスチジン亜鉛が溶解する量であればよい。
【0015】
工程1においては、L-ヒスチジンに対する酸化亜鉛の使用モル比は、理論量に近いため、未反応酸化亜鉛はほとんど存在しないと考えられる。わずかに未反応の酸化亜鉛が残った場合であっても、工程2の濾過で除去される。
【0016】
工程2
工程1で得られた反応液を、フィルターで濾過し、未反応の酸化亜鉛及び異物を除去する。
【0017】
濾過に用いるフィルターの孔径は、0.1~3μmのものが用いられる。
【0018】
一態様として、濾過に用いるフィルターは、複数のフィルターを重ねて使用することができる。例えば、孔径1μmと0.2μmのフィルター、例えばカートリッジフィルターを重ねて用いることができる。
【0019】
工程3
工程2で得られた濾液を、反応液が凍結せず、目的物であるヒスチジン亜鉛が析出する温度で結晶化し、得られた固形物である結晶を分離する。
【0020】
結晶化温度は、ヒスチジン亜鉛が析出する温度であれば限定されるものではないが、例えば、4℃~30℃が挙げられる。
【0021】
一態様として、結晶化の温度として、35℃以下、好ましくは、4℃~20℃である。特に、温度4~7℃付近での結晶化では高い収率が得られる。また、30℃を超えると収率の低下がみられる。
【0022】
別の態様として、結晶化の温度は、1℃~20℃である。
【0023】
結晶化の時間としては、例えば1~48時間が挙げられ、好ましくは、12~24時間である。
【0024】
結晶の分離の方法としては、例えば、遠心分離を用いることができる。
【0025】
一態様として、工程3は、工程2で得られた濾液を、10℃以下に保持して12時間以上冷却下で晶析する。ここで、結晶が晶出した母液中のヒスチジン亜鉛2水和物換算の濃度が3%以下になれば、晶析を終了する。次いで、この液を遠心分離にかけ、結晶を分離する。
【0026】
工程4
工程3で分離した結晶を加温し、乾燥させる。乾燥時間としては4~120時間が例示され、好ましくは8~100時間、特に好ましくは10~24時間である。
【0027】
乾燥温度としては、例えば、20℃~40℃未満が例示され、好ましくは20℃~35℃、より好ましくは22℃~35℃、特に23℃~30℃である。
【0028】
乾燥は、減圧下で行ってもよい。減圧の条件としては、例えば、真空度を6~14hPaとすることができ、好ましくは10~14hPaである。
【0029】
一態様として、工程4は、真空度を10~14hPa、好ましくは12hPaとし、20~40℃未満の温度、例えば23℃で、10時間以上乾燥させる。
【0030】
かくして得られたヒスチジン亜鉛2水和物は、高純度であるため、医薬原料として利用可能である。
【実施例0031】
以下に具体的な実施形態を挙げて本発明を説明するが、本発明はその実施形態に限定されるものではなく、それらにおける様々な変更及び改変が当業者によって、添付の特許請求の範囲に規定される本発明の範囲または趣旨から逸脱することなく実行され得ることが理解される。
【0032】
実施例1 ヒスチジン亜鉛2水和物の製造
工程1:反応
反応缶に精製水906kgを投入して78℃に加温し、次いでL-ヒスチジン75.7kgを投入して78℃に保持しながら、酸化亜鉛19.9kgを加えて60分撹拌しながら反応させた。反応液は、初めは酸化亜鉛で懸濁状態であるが、反応が終了するとほぼ透明な液に変化した。
【0033】
工程2:濾過・晶析
工程1で得られた反応液を、孔径1μmと0.2μmの2つのカートリッジフィルターで濾過しながら晶析缶に移送した。つづいて晶析缶を冷却し、7℃に保持して12時間以上冷却晶析を行った。結晶が晶出した懸濁液をサンプリングし、上清液中のヒスチジン亜鉛2水和物換算の濃度が3%以下になったところで晶析を終了した。
【0034】
工程3:遠心濾過・乾燥
工程2で結晶が晶出した懸濁液を遠心濾過した後、得られた湿結晶の半量を2台の乾燥機に入れ、乾燥機を設置した室内を約22℃に保持しながら、10hPaで減圧乾燥を行った。結晶の温度が20℃以上に到達し、12時間以上経過した時点で乾燥を終了した。
湿結晶の残りの半量について同様の操作を繰り返した。乾燥品の水分を表1に示す。
【0035】
得られたヒスチジン亜鉛2水和物のTG-DTAを測定した。得られたチャートを
図1に示す。同様に、得られたヒスチジン亜鉛2水和物のDSCを測定した。得られたチャートを
図2に示す。
【0036】
更に、得られたヒスチジン亜鉛2水和物の赤外吸収スペクトルを
図3に、X線回折パターン(XRD)を
図4に、
1H-NMRスペクトルを
図5に、
13C-NMRスペクトルを
図6に、それぞれ示す。
【0037】
実施例2 乾燥工程における乾燥機の温度及び真空度の条件
温度の制御が可能な乾燥機を用い、温度を20℃、30℃、35℃及び40℃にした条件において、真空度を、6hPa、7hPa、10hPa、12hPa及び14hPaにした条件と部分的に組み合わせ、実施例1と同様の製造を行った。乾燥品の水分を表1に示す。
【0038】
【0039】
比較例1 特許文献1におけるヒスチジン亜鉛の製造(特許文献1の実施例1)
L-ヒスチジンと酸化亜鉛をモル比2.5:1で均一に混合した後水に溶解して撹拌し、300rpmの条件下、50℃の恒温水浴中で2時間反応させた。得られた生成物系を濾過し、濾液を、ロータリーエバポレーターを用いて濃縮した。得られた濃縮溶液を室温(25℃)に冷却した後、濃縮溶液を充填したビーカーの口をプラスチックラップで覆い、溶媒の揮発を促進するために該ラップに小さな穴を開けて-4℃で12時間凍結した。結晶が沈殿した後、得られた結晶を60℃の真空乾燥機で4時間乾燥させてヒスチジン亜鉛(窒素含有量:20.24%)を得た。
【0040】
特許文献1に記載のヒスチジン亜鉛と、本発明の方法で得られるヒスチジン亜鉛2水和物との物性を対比した(表2)。
【0041】
【0042】
特許文献1におけるヒスチジン亜鉛のTG-DTAのチャートを
図7に、赤外吸収スペクトルを
図8に、X線回折パターンを
図9に、それぞれ示す。
【0043】
上記データから、特許文献1の方法では十分な純度を有する2水和物は製造できておらず、結晶形(空間群)のデータが正方晶(P43212)と示されていることから主に4水和物が製造されているものと推測される。特許文献1の方法において60℃では無水化が起こるが、短時間であるため無水化せず、乾燥不充分の状態と考えられる。即ち、特許文献1の乾燥条件は短時間では乾燥不充分であり、長時間では無水化し、ヒスチジン亜鉛2水和物の安定した製造、あるいは医薬品レベルの品質のヒスチジン亜鉛2水和物の製造には適さないものと考えられる。