(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024016486
(43)【公開日】2024-02-07
(54)【発明の名称】フィラメント及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 64/118 20170101AFI20240131BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20240131BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20240131BHJP
B29C 64/314 20170101ALI20240131BHJP
B33Y 40/00 20200101ALI20240131BHJP
B29C 48/05 20190101ALI20240131BHJP
B29C 48/30 20190101ALI20240131BHJP
B29C 48/92 20190101ALI20240131BHJP
【FI】
B29C64/118
B33Y70/00
B33Y10/00
B29C64/314
B33Y40/00
B29C48/05
B29C48/30
B29C48/92
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022118643
(22)【出願日】2022-07-26
(71)【出願人】
【識別番号】000120010
【氏名又は名称】宇部エクシモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003753
【氏名又は名称】弁理士法人シエル国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100173646
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 桂子
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 憲治
(72)【発明者】
【氏名】八塚 優
【テーマコード(参考)】
4F207
4F213
【Fターム(参考)】
4F207AA03
4F207AB11
4F207AB16
4F207AG14
4F207AH81
4F207AR12
4F207AR13
4F207KA01
4F207KA17
4F207KL63
4F207KM15
4F207KM16
4F213AA04
4F213AA11
4F213AB16
4F213AB25
4F213AC02
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL02
4F213WL23
4F213WL25
(57)【要約】
【課題】熱溶解積層法による三次元造形において、生産効率に優れ、かつ、精度良く立体造形物を作製することができるフィラメント及びその製造方法を提供する。
【解決手段】無機フィラーを0.5~70質量%含有するオレフィン系樹脂を、フィラメント21の直径とダイス2の口金の直径の比(フィラメント直径/ダイス口金の直径)を1.0以下にして溶融紡糸して、無機フィラーを0.5~70質量%含有するオレフィン系樹脂からなり、長手方向に測定した表面の算術平均粗さRaが1.0μm以下であり、熱溶解積層法による三次元造形に用いられるフィラメントを製造する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱溶解積層法による三次元造形に用いられるフィラメントであって、
無機フィラーを0.5~70質量%含有するオレフィン系樹脂からなり、
長手方向に測定した表面の算術平均粗さRaが1.0μm以下である
フィラメント。
【請求項2】
前記オレフィン系樹脂は、ポリエチレン及び/又はポリプロピレンである請求項1に記載のフィラメント。
【請求項3】
前記オレフィン系樹脂は、230℃、21.18N荷重におけるメルトフローレートが0.3~7.0g/10分である請求項2に記載のフィラメント。
【請求項4】
前記無機フィラーが、タルク、炭酸カルシウム及びクレーからなる群から選択される少なくとも1種である請求項1又は2に記載のフィラメント。
【請求項5】
熱溶解積層法による三次元造形に用いられるフィラメントを製造する方法であって、
無機フィラーを0.5~70質量%含有するオレフィン系樹脂を、前記フィラメントの直径とダイス口金の直径の比(フィラメント直径/ダイス口金の直径)を1.0以下にして溶融紡糸する工程を有し、
長手方向に測定した表面の算術平均粗さRaが1.0μm以下であるフィラメントを得るフィラメントの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元造形に用いられるフィラメント及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱溶解積層法(Fused Deposition Modeling:FDM)は、熱可塑性樹脂からなるフィラメントを高温で溶解し、積層することにより立体造形物を作製する三次元造形方法である。この方法で用いられるフィラメントには、一般に、造形物の成形性や反り低減の観点から、体積収縮率が低いポリ乳酸(polylactic acid:PLA)樹脂やABS(acrylonitrile butadiene styrene copolymer)樹脂が使用されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
また、PLA樹脂に、PLA以外のポリエステル、脂肪族系可塑剤及びタルクを配合することで造形精度の向上を図ったフィラメント(特許文献2参照)や、柔軟性を有する立体造形物を形成するため、PLA樹脂にオレフィン系樹脂などの熱可塑性エラストマーを配合したフィラメント(特許文献3参照)も提案されている。
【0004】
更に、従来、ポリオレフィンを主成分とした三次元造形用フィラメントも提案されている(特許文献4参照)。例えば、特許文献4には、海部をポリオレフィンで形成すると共に、島部を分子内にイミド結合及びアミド結合の少なくとも一方を含む樹脂で形成した海島構造のフィラメントが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-136739号公報
【特許文献2】特開2021-80369号公報
【特許文献3】特開2018-035461号公報
【特許文献4】特開2021-126772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、PLA樹脂やABS樹脂は剛性が高いため、これらの樹脂で形成された従来のフィラメントは巻癖がつきやすく、ボビンから巻き出す際に折損しやすいという課題がある。一方、特許文献2,3に記載のフィラメントのように、PLA樹脂に他の樹脂を混合すれば、剛性を低下させることができるが、その場合、製造コストが増加する上に、用途に制約も生じる。また、特許文献4に記載のフィラメントのように、主成分をオレフィン系樹脂にすることでも剛性を低下させることができるが、オレフィン系樹脂製のフィラメントには、3Dプリンターで造形中に繰り出し速度が変動し、生産効率や造形精度が低下しやすいという課題がある。
【0007】
そこで、本発明は、熱溶解積層法による三次元造形において、生産効率に優れ、かつ、精度良く立体造形物を作製することができるフィラメント及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前述した課題を解決するために鋭意実験検討を行った結果、フィラメントの繰り出し性にはフィラメントの表面状態が影響し、特に、フィラメントの表面が荒れていると、3Dプリンターにおいて繰り出し速度の変動が発生しやすくなることを見出し、本発明に至った。
即ち、本発明に係るフィラメントは、熱溶解積層法による三次元造形に用いられるフィラメントであって、無機フィラーを0.5~70質量%含有するオレフィン系樹脂からなり、長手方向に測定した表面の算術平均粗さRaが1.0μm以下である。
前記オレフィン系樹脂としては、ポリエチレン及び/又はポリプロピレンを用いることができる。
また、前記オレフィン系樹脂の230℃、21.18N荷重におけるメルトフローレートは、例えば0.3~7.0g/10分である。
更に、前記無機フィラーは、例えばタルク、炭酸カルシウム及びクレーからなる群から選択される少なくとも1種とすることができる。
【0009】
本発明に係るフィラメントの製造方法は、熱溶解積層法による三次元造形に用いられるフィラメントを製造する方法であって、無機フィラーを0.5~70質量%含有するオレフィン系樹脂を、前記フィラメントの直径とダイス口金の直径の比(フィラメント直径/ダイス口金の直径)を1.0以下にして溶融紡糸する工程を行い、長手方向に測定した表面の算術平均粗さRaが1.0μm以下であるフィラメントを得る。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、熱溶解積層法による三次元造形において生産効率及び造形精度に優れたフィラメントが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態のフィラメントの製造に用いられる装置の構成を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について、添付の図面を参照して、詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0013】
本実施形態のフィラメントは、熱溶解積層法による三次元造形に用いられるフィラメントであって、無機フィラーを0.5~70質量%含有するオレフィン系樹脂からなり、長手方向に測定した表面の算術平均粗さRaが1.0μm以下である。
【0014】
[オレフィン系樹脂]
本実施形態のフィラメントは、オレフィン系樹脂を主成分としている。オレフィン系樹脂の種類は特に限定されるものではないが、例えばポリプロピレン、ポリエチレン又はその両方を用いることができる。
【0015】
本実施形態のフィラメントには、各種オレフィン系樹脂の中でも、特に、230℃、21.18N荷重におけるメルトフローレート(MFR)が0.3~7.0g/10分のオレフィン系樹脂を用いることが好ましい。主成分となる樹脂のMFRが高すぎると溶融樹脂の自立性が低くなって寸法精度が低下し、MFRの低すぎるとメルトフラクチャーによりフィラメント表面が荒れるが、MFRが前述した範囲にあるオレフィン系樹脂を用いることにより、寸法精度が良好で、表面が平滑なフィラメントが得られる。
【0016】
[無機フィラー]
無機フィラーは、フィラメントの製造過程においては、ダイスと溶融樹脂の離型性を向上させ、製造されるフィラメントの表面性を改善する効果があり、また、熱溶解積層法による三次元造形においては、収縮量を低減し、造形物のボイド発生を抑制する効果がある。
【0017】
ただし、無機フィラーの含有量がフィラメント全質量あたり0.5質量%未満の場合、前述した効果が十分に得られず、また、無機フィラーの含有量がフィラメント全質量あたり70質量%を超えると、樹脂と無機フィラーとのなじみ性や樹脂への無機フィラーの分散性が低下して、造形物に成形不良や物性低下が発生する虞がある。このため、本実施形態のフィラメントでは、無機フィラー含有量を0.5~70質量%としており、造形物の成形性及び物性向上の観点から、無機フィラー含有量は20~60質量%とすることが好ましい。
【0018】
本実施形態のフィラメントに配合される無機フィラーの種類は特に限定されるものではないが、タルク、炭酸カルシウム及びクレーなどが挙げられ、これらは1種類のみ配合しても、2種以上組み合わせて配合してもよい。各種無機フィラーの中でも、粒径が比較的小さく、樹脂への分散性が良好で、取り扱い性に優れ、安価で供給量も安定していることから、タルク、炭酸カルシウム又はその両方を配合することが好ましい。なお、2種以上の無機フィラーを配合する場合は、合計量が前述した範囲になるようにする。
【0019】
無機フィラーの大きさ(粒径)は、特に限定されるものではないが、樹脂とのなじみや分散性の観点から、1.0~30μmであることが好ましい。また、無機フィラーの断面形状も、特に限定されるものではないが、成形性や3Dプリンターとの整合性から、円形状であることが好ましい。
【0020】
[算術平均粗さRa]
本実施形態のフィラメントは、長手方向に測定した表面の算術平均粗さRaが1.0μm以下であり、これにより、3Dプリンターでの繰り出し速度を一定に保持することが可能となる。一方、表面の算術平均粗さRaが1.0μmを超えると、繰り出し速度が変動し、生産効率や造形精度が低下しやすくなる。ここでいうフィラメント表面の算術平均粗さRaは、フィラメント表面を長手方向(長さ方向)に4mm測定した値である。
【0021】
[製造方法]
次に、前述したフィラメントの製造方法について説明する。本実施形態のフィラメントの製造方法では、無機フィラーを0.5~70質量%含有するオレフィン系樹脂を、フィラメントの直径とダイス口金の直径の比であるドラフト比(フィラメント直径/ダイス口金の直径)を1.0以下にして溶融紡糸する。これにより、長手方向に測定した表面の算術平均粗さRaが1.0μm以下のフィラメントが得られる。なお、溶融紡糸する際の樹脂原料には、無機フィラーマスターバッチとオレフィン樹脂ペレットをドライブレンドして使用してもよい。
【0022】
図1は本実施形態のフィラメントの製造に用いられる装置の構成を模式的に示す図である。本実施形態のフィラメントは、例えば
図1に示すように、押出機1と、ダイス2と、冷却槽3と、引き取りローラー4と、巻き取り機5を備えるフィラメント製造装置10により製造することができる。
【0023】
このフィラメント製造装置10では、ダイス2の下方に冷却槽3が配置されており溶融樹脂20が下方向に押し出されるようになっている。このような縦引きの装置を用いることにより、ダイス2の出口以降において溶融樹脂20の垂れによるフィラメント断面の変形を抑制できると共に、水冷などの方法でフィラメントを冷却する際に、円周が均等に冷媒に接することなり、フィラメント21の寸法精度が向上する。
【0024】
ここで、フィラメント21の直径と、ダイス2の口金の直径との比であるドラフト比(フィラメント直径/ダイス口金直径)は1.0以下にする。ドラフト比が1.0を超えると、樹脂の溶融張力が低下して造形物の寸法精度が低下するからである。
【0025】
以上詳述したように、本実施形態のフィラメントは、表面が平滑で、かつ、径にばらつきがなく寸法精度が高い。このため、本実施形態のフィラメントを熱溶解積層法による三次元造形に用いると、造形物の生産性が向上すると共に、造形物に凹凸、うねり及びボイドなどが発生しにくくなるため、造形精度も向上させることができる。
【実施例0026】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明の効果について具体的に説明する。本実施例においては、以下に示す方法で実施例1,2及び比較例1のフィラメントを作製し、その造形物の生産性及び精度について評価した。また、参考例として、ポリプロピレンを用いた市販のフィラメントについても、同様に評価した。
【0027】
<実施例1>
230℃、21.18N荷重におけるメルトフローレート(MFR)が1.0g/10分であるポリプロピレン(PP)樹脂に、平均粒子径が6μmのタルク粒子を20質量%配合したペレットを、スクリュー径が20mmの単軸押出機に投入して溶融混錬した後、孔径(直径)が3.5mmのダイスから下方向に押し出した。そして、ダイスから押し出された溶融樹脂を、冷却槽で冷却した後ローラーで引き取り、外径が1.75mmのフィラメントを作製した。
【0028】
<実施例2>
無機フィラーを平均粒子径が6μmの炭酸カルシウムに変更した以外は、前述した実施例1と同様の方法及び条件で、実施例2のフィラメントを作製した。
【0029】
<比較例1>
無機フィラーを配合せず、230℃、21.18N荷重におけるメルトフローレート(MFR)が1.7g/10分であるポリプロピレン(PP)樹脂のみからなるペレットを用いて、前述した実施例1と同様の方法及び条件で、比較例1のフィラメントを作製した。
【0030】
〔算術平均粗さRa〕
各フィラメントの算術平均粗さRaは、株式会社ミツトヨ製 表面粗さ測定機 サーフテスト SJ-201Pにより、フィラメント表面を長手方向(長さ方向)に測定し、算出した。その際、評価長さは4mm、カットオフは0.8mmとした。
【0031】
〔造形物の評価〕
実施例1,2、比較例1及び参考例のフィラメントを用いて、3Dプリンターにより評価用試料として円筒形状の成形体を作製した。その際の成形条件は、プリント速度を60mm/秒、基盤温度を45℃、吐出温度を260℃とした。この方法及び条件で造形した各評価用試料(造形物)について、目視により外観観察を行った。
【0032】
評価は、凹凸、うねり又はボイドのうち1つでも発生が確認されたものは×(不良)とし、凹凸、うねり及びボイドのいずれも発生していなかったもののみ○(良)とした。以上の結果を下記表1に示す。
【0033】
【0034】
上記表1に示すように、無機フィラーを添加していない比較例1のフィラメントは、算術平均粗さRaが1.0μmを超えており、作製した造形物に凹凸やうねり、ボイドが発生した。同様に、参考例のフィラメントも算術平均粗さRaが1.0μmを超えていたため、作製した造形物に凹凸やうねり、ボイドが発生した。これに対して、無機フィラーを0.5質量%以上含有し、算術平均粗さRaが1.0μm以下である実施例1,2のフィラメントは、作製した造形物に凹凸、うねり及びボイドのいずれも発生していなかった。
【0035】
以上の結果から、本発明によれば、熱溶解積層法による三次元造形において生産効率及び造形精度に優れたフィラメントを実現できることが確認された。
【0036】
なお、本発明は、以下の形態をとることもできる。
(1)
熱溶解積層法による三次元造形に用いられるフィラメントであって、
無機フィラーを0.5~70質量%含有するオレフィン系樹脂からなり、
長手方向に測定した表面の算術平均粗さRaが1.0μm以下である
フィラメント。
(2)
前記オレフィン系樹脂は、ポリエチレン及び/又はポリプロピレンである(1)に記載のフィラメント。
(3)
前記オレフィン系樹脂は、230℃、21.18N荷重におけるメルトフローレートが0.3~7.0g/10分である(1)又は(2)に記載のフィラメント。
(4)
前記無機フィラーが、タルク、炭酸カルシウム及びクレーからなる群から選択される少なくとも1種である(1)~(3)のいずれかに記載のフィラメント。
(5)
熱溶解積層法による三次元造形に用いられるフィラメントを製造する方法であって、
無機フィラーを0.5~70質量%含有するオレフィン系樹脂を、前記フィラメントの直径とダイス口金の直径の比(フィラメント直径/ダイス口金の直径)を1.0以下にして溶融紡糸する工程を有し、
長手方向に測定した表面の算術平均粗さRaが1.0μm以下であるフィラメントを得る
フィラメントの製造方法。
(6)
前記オレフィン系樹脂として、ポリエチレン及び/又はポリプロピレンを用いる(5)に記載のフィラメントの製造方法。
(7)
前記オレフィン系樹脂は、230℃、21.18N荷重におけるメルトフローレートが0.3~7.0g/10分である(5)又は(6)に記載のフィラメントの製造方法。
(8)
前記無機フィラーとして、タルク、炭酸カルシウム及びクレーからなる群から選択される少なくとも1種を用いる(5)~(7)のいずれかに記載のフィラメントの製造方法。