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特開2024-164867機械式継手、機械式継手の接合方法、鋼管、構造体、構造体の施工方法、機械式継手の設計方法、機械式継手の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024164867
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】機械式継手、機械式継手の接合方法、鋼管、構造体、構造体の施工方法、機械式継手の設計方法、機械式継手の製造方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 5/24 20060101AFI20241121BHJP
   E02D 5/28 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
E02D5/24 103
E02D5/28
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080533
(22)【出願日】2023-05-16
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】市川 和臣
(72)【発明者】
【氏名】田近 久和
【テーマコード(参考)】
2D041
【Fターム(参考)】
2D041AA02
2D041BA02
2D041BA19
2D041CB06
2D041DB02
2D041DB13
(57)【要約】
【課題】接合に回転や大きな荷重をかける必要がなく、また別途過大なコストを掛けることなくねじり荷重が伝達でき、継手が外れたり、耐力低下したりすることのない機械式継手を提供する。また、前記機械式継手の接合方法、前記機械式継手を取り付けた鋼管、該鋼管を構成要素とする構造体、該構造体の施工方法、機械式継手の設計方法、機械式継手の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る機械式継手1は、雄継手3の外周面と雌継手5の内周面のそれぞれに挿入完了状態で対向するように形成された一段以上の環状溝15と、環状溝15内で雄継手3側と雌継手5側に跨るように配置可能なC型リング部材17と、雄継手3及び雌継手5に設けられた回転防止ピン挿入孔13M、13Fと、雌継手5の回転防止ピン挿入孔13M、13F及びC字の切欠き部19を貫通して雄継手3の回転防止ピン挿入孔13M、13Fに至る回転防止ピン11と、を備えたものである。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状の雄継手と該雄継手が挿入嵌合する雌継手とを備え、鋼管端部に取り付けられて鋼管同士を接合する機械式継手であって、
前記雄継手の基端側には段差部が形成され、該雄継手を前記雌継手に挿入した状態で該雌継手の先端部が前記段差部に当接して挿入完了状態となるように構成され、前記雄継手の外周面と前記雌継手の内周面のそれぞれに前記挿入完了状態で対向するように形成された一段以上の環状溝と、前記雄継手の前記環状溝に前記雄継手の前記雌継手への挿入を妨げないように格納可能、かつ前記挿入完了状態において前記環状溝内で前記雄継手側と前記雌継手側に跨るように配置可能なC型リング部材と、該C型リング部材におけるC字の切欠き部と一致する位置において前記雄継手及び前記雌継手に設けられた回転防止ピン挿入孔と、前記挿入完了状態において前記雌継手の前記回転防止ピン挿入孔及び前記C字の切欠き部を貫通して前記雄継手の回転防止ピン挿入孔に至る回転防止ピンと、を備えた機械式継手。
【請求項2】
請求項1に記載の機械式継手の接合方法であって、
前記C字の切欠き部と前記雄継手の回転防止ピン挿入孔の位置を合わせた状態で前記C型リングを縮径させて前記雄継手の前記環状溝内に収容する工程と、
前記雄継手と前記雌継手の回転防止ピン挿入孔の位置が合っている状態で前記雄継手と前記雌継手を挿入完了状態とする工程と、
前記C型リングの縮径状態を開放する工程と、
前記回転防止ピンを、前記回転防止ピン挿入孔及び前記C字の切欠き部を貫通して前記雄継手の回転防止ピン挿入孔に至る状態で配設する工程と、を備えた機械式継手の接合方法。
【請求項3】
請求項1に記載の雄継手と雌継手を、一端と他端に取り付けてなる鋼管。
【請求項4】
請求項1に記載の機械式継手によって連結された複数の鋼管を備えた構造体。
【請求項5】
請求項4に記載の構造体の施工方法であって、連結対象となる継手付き鋼管の一方の鋼管軸方向の位置を拘束した状態で、他方の継手付き鋼管を前記一方の継手付き鋼管に位置合わせして差込嵌合する構造体の施工方法。
【請求項6】
管状の雄継手と該雄継手が挿入嵌合する雌継手とを備え、鋼管端部に取り付けられて鋼管同士を接合する機械式継手の設計方法であって、
前記雄継手の基端側に段差部を設定し、
該雄継手を前記雌継手に挿入完了した挿入完了状態で、該雌継手の先端部が前記段差部に当接するように設定し、
一段以上の環状溝を、前記雄継手の外周面と前記雌継手の内周面のそれぞれに前記挿入完了状態で対向するように配置し、
前記雄継手の環状溝に前記雄継手の前記雌継手への挿入を妨げないように格納可能、かつ前記挿入完了状態において前記環状溝内で前記雄継手側と前記雌継手側に跨るように配置可能となるようにC型リング部材を設定し、
該C型リング部材におけるC字の切欠き部と一致する位置において前記雄継手及び前記雌継手に設けられた回転防止ピン挿入孔を設定し、
前記挿入完了状態において前記雌継手の前記回転防止ピン挿入孔及び前記C字の切欠き部を貫通して前記雄継手の回転防止ピン挿入孔に至る回転防止ピンを設定する機械式継手の設計方法。
【請求項7】
管状の雄継手と該雄継手が挿入嵌合する雌継手とを備え、鋼管端部に取り付けられて鋼管同士を接合する機械式継手の製造方法であって、
前記雄継手の基端側に段差部を形成し、
該雄継手を前記雌継手に挿入完了した挿入完了状態で、該雌継手の先端部が前記段差部に当接するように形成し、
一段以上の環状溝を、前記雄継手の外周面と前記雌継手の内周面のそれぞれに前記挿入完了状態で対向するように形成し、
前記雄継手の環状溝に前記雄継手の前記雌継手への挿入を妨げないように格納可能、かつ前記挿入完了状態において前記環状溝内で前記雄継手側と前記雌継手側に跨るように配置可能となるようにC型リング部材を形成し、
該C型リング部材におけるC字の切欠き部と一致する位置において前記雄継手及び前記雌継手に設けられた回転防止ピン挿入孔を形成し、
前記挿入完了状態において前記雌継手の前記回転防止ピン挿入孔及び前記C字の切欠き部を貫通して前記雄継手の回転防止ピン挿入孔に至る回転防止ピンを形成する機械式継手の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管杭や鋼管矢板に適用する機械式継手、該機械式継手の接合方法、該機械式継手を取り付けた鋼管、該鋼管を構成要素とする構造体、該構造体の施工方法、機械式継手の設計方法、機械式継手の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼管杭・鋼管矢板の接合については、従来から現場溶接主体で行われてきたが、近年は技能者減少、工期短縮、品質管理などから機械式継手による接合が増加してきている。
鋼管杭・鋼管矢板では、管状の継手部材を鋼管とは別に製造し、接合する鋼管の端部にそれぞれ継手部材を溶接にて取り付け、継手部材同士を接合する方式が一般的である。
【0003】
継手は杭の施工時および供用時に作用する圧縮・引張・せん断・ねじりといった荷重を伝達できる構造が必要である。この点、圧縮に対しては継手部材の端面同士を面接触させること、せん断に対しては雄形状の管を雌形状の管に挿入し、二重管状態にすることにより容易に伝達できる。しかし、引張およびねじり荷重は単なる挿入・面接触では伝達することができず、構造に工夫が必要である。
【0004】
従来から様々な方式が考案され、実用化されてきており、例えば特許文献1(特開平10-311028号公報)には継手部材を多条のねじ形状にして、回転接合により雄継手と雌継手のねじ山同士が噛み合い引張荷重を伝達できる構造が開示されている。なお、正転方向のねじり荷重はねじを締めきれば伝達できるが、逆転方向のねじり荷重は伝達できないため、外周面に雄継手と雌継手に跨るようなボルトを配置することにより、ボルトのせん断で逆転方向のねじり荷重を伝達できるようにしている。
【0005】
また、特許文献2(特開2004-36329号公報)には、雄継手か雌継手のどちらか一方に管軸方向のスリットが周方向に複数本設けられて、スリットにより分割された継手部材が半径方向に弾性変形できるよう加工されるとともに、分割された継手部材には凸部が設けられ、他方の部材には嵌合完了した時点で凸部に噛み合う凹部が設けられた継手構造が開示されている。そして、継手を挿入する際に自重等で圧縮荷重を与えると分割された継手部材が径方向に撓み、挿入完了時に元に戻った際に凸部と凹部が噛み合うことにより、引張荷重が伝達できる構造が開示されている。
また、本構造においても特許文献1と同様に外周面にボルトが配置されており、ねじり荷重を伝達することが可能である。
【0006】
その他の方式として、特許文献3(特開平11-36285号公報)には、雄継手、雌継手のそれぞれに嵌合完了時に軸方向の位置が一致するような溝が設けられると共に雄継手、雌継手のどちらか一方に溝に嵌るような径変化可能なリング状部材が格納されており、嵌合完了時にリング状部材を半径方向に動かして、雄継手と雌継手に跨るようにリング状部材を配置することにより、引張荷重を伝達できる構造が開示されている。
本構造においてもねじり荷重は伝達できないため、特許文献1、2のようにボルトを配置するか、特許文献4(特開2000-319874号公報)のように別途回り止め機構を配置することが必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10-311028号公報
【特許文献2】特開2004-36329号公報
【特許文献3】特開平11-36285号公報
【特許文献4】特開2000-319874号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1のようなねじ継手では、多条化したとしても接合時に鋼管を回転させることは避けられないため、非常に大径の場合や回転作業スペースが十分確保できない時には、接合に苦労する場合がある。
【0009】
また、特許文献2のように弾性変形させる継手では、継手が厚い場合に弾性変形させるための荷重が増大し、自重だけでは嵌合できない場合が生じる。スリットの数を増やしたり、長くしたりすれば荷重を低減させることは可能だが、加工コストが増大するとともに、せん断荷重伝達能力が低下する。
【0010】
他方、特許文献3に開示の継手は、特許文献1、特許文献2とは異なり、継手を構成するためにリング状部材が必要となるものの、接合時に回転が不要でかつ弾性変形させるための荷重も不要である。
【0011】
しかし、上述したように、リング状部材を用いた特許文献3のものはねじり荷重を伝達できないため、特許文献1、2のようにボルトを配置するか、特許文献4のように別途回り止め機構を配置することが必要である。
しかし、特許文献3のものにおいて、特許文献1、2のようなボルトを配置したり、特許文献4のように別途回り止め機構を設けたとしても、リング状部材自体は回転および変形可能な状態であるため、施工時や供用時においてリング状部材が想定外の挙動をして、継手が外れたり、耐力が低下したりすることが懸念される。
【0012】
本発明は、かかる課題を解決するためになされたものであり、接合に回転や大きな荷重をかける必要がなく、また別途過大なコストを掛けることなくねじり荷重が伝達でき、継手が外れたり、耐力低下したりすることのない機械式継手を提供することを目的としている。
また、前記機械式継手の接合方法、前記機械式継手を取り付けた鋼管、該鋼管を構成要素とする構造体、該構造体の施工方法、機械式継手の設計方法、機械式継手の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(1)本発明に係る機械式継手は、管状の雄継手と該雄継手が挿入嵌合する雌継手とを備え、鋼管端部に取り付けられて前記鋼管同士を接合するものであって、
前記雄継手の基端側には段差部が形成され、該雄継手を前記雌継手に挿入した状態で該雌継手の先端部が前記段差部に当接して挿入完了状態となるように構成され、前記雄継手の外周面と前記雌継手の内周面のそれぞれに前記挿入完了状態で対向するように形成された一段以上の環状溝と、前記雄継手の前記環状溝に前記雄継手の前記雌継手への挿入を妨げないように格納可能、かつ前記挿入完了状態において前記環状溝内で前記雄継手側と前記雌継手側に跨るように配置可能なC型リング部材と、該C型リング部材におけるC字の切欠き部と一致する位置において前記雄継手及び前記雌継手に設けられた回転防止ピン挿入孔と、前記挿入完了状態において前記雌継手の前記回転防止ピン挿入孔及び前記C字の切欠き部を貫通して前記雄継手の回転防止ピン挿入孔に至る回転防止ピンと、を備えたものである。
【0014】
(2)また、本発明に係る機械式継手の接合方法は、上記(1)に記載の機械式継手の接合方法であって、
前記C字の切欠き部と前記雄継手の回転防止ピン挿入孔の位置を合わせた状態で前記C型リングを縮径させて前記雄継手の前記環状溝内に収容する工程と、
前記雄継手と前記雌継手の回転防止ピン挿入孔の位置が合っている状態で前記雄継手と前記雌継手を挿入完了状態とする工程と、
前記C型リングの縮径状態を開放する工程と、
前記回転防止ピンを、前記回転防止ピン挿入孔及び前記C字の切欠き部を貫通して前記雄継手の回転防止ピン挿入孔に至る状態で配設する工程と、を備えたものである。
【0015】
(3)また、本発明に係る鋼管は、上記(1)に記載の雄継手と雌継手を、一端と他端に取り付けてなるものである。
【0016】
(4)また、本発明に係る構造体は、上記(1)に記載の機械式継手によって連結された複数の鋼管を備えたものである。
【0017】
(5)また、本発明に係る構造体の施工方法は、上記(4)に記載の構造体の施工方法であって、連結対象となる継手付き鋼管の一方の鋼管軸方向の位置を拘束した状態で、他方の継手付き鋼管を前記一方の継手付き鋼管に位置合わせして差込嵌合するものである。
【0018】
(6)また、本発明に係る機械式継手の設計方法は、管状の雄継手と該雄継手が挿入嵌合する雌継手とを備え、鋼管端部に取り付けられて前記鋼管同士を接合する機械式継手の設計方法であって、
前記雄継手の基端側に段差部を設定し、
該雄継手を前記雌継手に挿入完了した挿入完了状態で、該雌継手の先端部が前記段差部に当接するように設定し、
一段以上の環状溝を、前記雄継手の外周面と前記雌継手の内周面のそれぞれに前記挿入完了状態で対向するように配置し、
前記雄継手の環状溝に前記雄継手の前記雌継手への挿入を妨げないように格納可能、かつ前記挿入完了状態において前記環状溝内で前記雄継手側と前記雌継手側に跨るように配置可能となるようにC型リング部材を設定し、
該C型リング部材におけるC字の切欠き部と一致する位置において前記雄継手及び前記雌継手に設けられた回転防止ピン挿入孔を設定し、
前記挿入完了状態において前記雌継手の前記回転防止ピン挿入孔及び前記C字の切欠き部を貫通して前記雄継手の回転防止ピン挿入孔に至る回転防止ピンを設定するものである。
【0019】
(7)また、本発明に係る機械式継手の製造方法は、管状の雄継手と該雄継手が挿入嵌合する雌継手とを備え、鋼管端部に取り付けられて前記鋼管同士を接合する機械式継手の製造方法であって、
前記雄継手の基端側に段差部を形成し、
該雄継手を前記雌継手に挿入完了した挿入完了状態で、該雌継手の先端部が前記段差部に当接するように形成し、
一段以上の環状溝を、前記雄継手の外周面と前記雌継手の内周面のそれぞれに前記挿入完了状態で対向するように形成し、
前記雄継手の環状溝に前記雄継手の前記雌継手への挿入を妨げないように格納可能、かつ前記挿入完了状態において前記環状溝内で前記雄継手側と前記雌継手側に跨るように配置可能となるようにC型リング部材を形成し、
該C型リング部材におけるC字の切欠き部と一致する位置において前記雄継手及び前記雌継手に設けられた回転防止ピン挿入孔を形成し、
前記挿入完了状態において前記雌継手の前記回転防止ピン挿入孔及び前記C字の切欠き部を貫通して前記雄継手の回転防止ピン挿入孔に至る回転防止ピンを形成するものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明においては、雄継手と雌継手に環状溝を設け、雄継手を雌継手に挿入完了した状態で、C型リング部材が雄継手と雌継手の両方の環状溝に跨るように配置し、挿入完了状態において前記雌継手の前記回転防止ピン挿入孔及びC字の切欠き部を貫通して前記雄継手の回転防止ピン挿入孔に至る回転防止ピンを設けたことにより、接合に回転や大きな荷重をかける必要がなく、また別途過大なコストを掛けることなくねじり荷重が伝達できる。
また、C字の切欠き部が閉じることがないので、継手が外れたり、耐力低下したりすることもない。
さらに、回転防止ピンが雄継手と雌継手の回転防止とC型リング部材の縮径防止と移動防止を共用しているので、簡単な構造により確実な荷重伝達が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施の形態1に係る機械式継手の説明図であり、図1(a)は垂直断面図(図中上側の図(以下同じ))と垂直断面図における矢視A-A断面図(図中下側の図(以下同じ))、図1(b)は垂直断面図と垂直断面図における矢視B-B断面図(但し、切断工具22は省略)、図1(c)は垂直断面図と垂直断面図における矢視C-C断面図(但し、回転防止ピン11は省略)、図1(d)は垂直断面図と垂直断面図における矢視D-D断面図(但し、回転防止ピン11は省略)である。
図2】実施の形態1におけるC型リング部材の縮径方法の他の態様の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本実施の形態に係る機械式継手について、図1に基づいて説明する。なお、図1(a)は継手挿入前の状態、図1(b)は継手挿入完了でC型リング部材縮径開放前の状態、図1(c)はC型リング部材の縮径開放後で回転防止ピン挿入前の状態、図1(d)は回転防止ピン11を挿入後の状態をそれぞれ示している。
【0023】
本実施の形態に係る機械式継手1は、図1(a)に示すように、管状の雄継手3と雄継手3が挿入嵌合する雌継手5からなり、鋼管7の端部に取り付けられて鋼管7同士を接合するものである。そして、雄継手3の基端側には段差部9が形成され、図1(b)に示すように、雄継手3を雌継手5に挿入した状態で雌継手5の先端部10が段差部9に当接して挿入完了状態となるように構成されている。
【0024】
また、雄継手3及び雌継手5には、回転防止ピン11を挿入するための回転防止ピン挿入孔13M、13Fが設けられている。
回転防止ピン挿入孔13M、13Fは、雄継手3及び雌継手5共にタップ加工がされた孔であってもよいし、雄継手3又は雌継手5のいずれか一方のみがねじ孔でもよい。もっとも、いずれか一方をねじ孔とする場合には、雌継手5側をねじ孔とする方が回転防止ピン11を設置するのが容易になるので好ましい。
【0025】
また、雄継手3の外周面と雌継手5の内周面のそれぞれに挿入完了状態で対向するように環状溝15が形成されている。
雄継手3と雌継手5のそれぞれに形成された環状溝15M、15Fは、継手を挿入完了状態にしたときに、円環状の閉空間からなる環状溝15を形成する。
さらに、雄継手3の環状溝15Mに雄継手3の雌継手5への挿入を妨げないように縮径状態で格納され、かつ縮径状態を開放した状態において環状溝15内で雄継手3の環状溝15Mと雌継手5の環状溝15Fとに跨るように配置可能なC型リング部材17を有している。
【0026】
C型リング部材17は、図1に示すように、周方向の1カ所に切欠き部19を有し、径方向に拡縮するバネ構造となっている。C型リング部材17は、拘束されないフリーな状態では環状溝15Mの外径よりも大きな径を有している。そのため、環状溝15Mに完全に嵌るようにするために、C型リング部材17を縮径した状態に保持する縮径保持手段が必要である。縮径保持手段の一例として、C型リング部材17を縮径した状態で切欠き部19に跨るように貼り付ける固定テープ21が挙げられる。固定テープ21を貼り付けて縮径状態を保持することで、C型リング部材17は雄継手3の環状溝15Mの外周面に沿った状態で環状溝15M内に配設される。
なお、回転防止ピン挿入孔13Mの径は、環状溝15Mの幅より大きくするのが好ましい。その理由は以下の通りである。
回転防止ピン挿入孔13Mの径が環状溝15Mの幅より大きいと、C型リング部材17を縮径して環状溝15Mに格納した状態で、回転防止ピン挿入孔13Mが完全に覆われることなく、C型リング部材17の上下に回転防止ピン挿入孔13Mの一部が見える状態になる。この状態であれば、固定テープ21をC型リング部材17の表面だけでなく、側面から裏面まで到達させることできるため、固定テープ21をC型リング部材17の切欠き部19近傍の全周に巻き付けて、しっかりと止めることができる。
【0027】
固定テープ21は、例えば粘着テープ等により構成され、薄く、手指で容易に固縛でき、水や油に強い素材であることが望ましい。
また、固定テープ21は、後に切断あるいは除去することによってC型リング部材17の縮径状態を解除するので、樹脂製等の切断可能なものか、切断できなくても除去可能なものである必要がある。
【0028】
C型リング部材17に張り付けた固定テープ21は、雄継手3を雌継手5に挿入完了した状態で、回転防止ピン挿入孔13Fから工具を挿入して切断する必要がある。このため、C型リング部材17は切欠き部19が回転防止ピン挿入孔13Mの位置になるように雄継手3の環状溝15M内に配設される。
【0029】
上記のように構成された機械式継手1の嵌合動作について説明する。
雄継手3を雌継手5に挿入する前の状態では、図1(a)に示すように、C型リング部材17を縮径した状態で雄継手3の環状溝15Mに格納し、固定テープ21によってC型リング部材17の拡径を防止する。そして、雄継手3と雌継手5の方向を合わせ、雄継手3を雌継手5に差し込む。
なお、雄継手3と雌継手5の方向を合わせるとは、雄継手3と雌継手5の回転防止ピン挿入孔13M、13Fの位置が一致していることを言う。
【0030】
図1(b)に示すように、雄継手3の段差部9と雌継手5の先端が接触した状態で雄継手3の雌継手5への挿入が完了する。この状態で、雄継手3と雌継手5のそれぞれに形成された環状溝15が楕円状の閉空間からなる環状溝15を形成し、雄継手3の環状溝15Mに格納されたC型リング部材17が雌継手5の環状溝15Fに対向配置される。
【0031】
次に、雌継手5の回転防止ピン挿入孔13Fからカッター等の切断工具22を挿入して固定テープ21を切断する(図1(b))。これにより、図1(c)に示すように、C型リング部材17が自身のバネ力により拡径され、C型リング部材17は環状溝15Mと環状溝15Fの両方に跨るように配置される。
【0032】
次に、回転防止ピン11を、雌継手5の回転防止ピン挿入孔13F及び切欠き部19を貫通して雄継手3の回転防止ピン挿入孔13Mに至る状態で配設する(図1(d))。
これによって、雌継手5と雄継手3は回転防止ピン11により連結され、またC型リング部材17は回転防止ピン11により環状溝15内での移動と拡縮が防止される。
【0033】
この状態において、圧縮力は主に雄継手3の段差部9と雌継手5の先端部10の接触圧により伝達し、また引張力は主にC型リング部材17の支圧により伝達し、さらにねじり力は回転防止ピン11により伝達し、またせん断力は主に雄継手3と雌継手5による二重管部分によって伝達する。
【0034】
以上のように、本実施の形態においては、雄継手3と雌継手5に環状溝15M、15Fを設け、雄継手3を雌継手5に挿入完了した状態で、雄継手3と雌継手5の両方の環状溝15にC型リング部材17が跨るように配置され、さらに回転防止ピン11を設けたことで、接合に回転や大きな荷重をかける必要がなく、また、別途過大なコストを掛けることなく引張荷重、ねじり荷重、及びせん断荷重の伝達できる。
また、前述したように、C型リング部材17は回転防止ピン11により移動と拡縮が防止されているので、C型リング部材17が想定外の動きをすることがなく、継手が外れたり、耐力が低下したりすることがない。
さらに、回転防止ピン11が雄継手3と雌継手5の回転防止とC型リング部材17の移動防止を共用しているので、簡単な構造により確実な荷重伝達が可能である。
【0035】
なお、上記の実施の形態では、C型リング部材17が水平に配置、すなわち雄継手3及び雌継手5の軸線に対して直交方向に配置される態様であったが、本発明はこれに限定されるものではなく、C型リング部材17を傾斜して配置するものであってもよい。この場合には、雄継手3及び雌継手5に設ける環状溝15M、15Fを傾斜させるようにすればよい。
環状溝15を傾斜させた場合、C型リング部材17を傾斜した環状溝15に格納されるように、形状や大きさを設定すればよい。
なお、C型リング部材17は水平に配置することが好ましい。水平配置であれば、C型リング部材17や環状溝15の加工が容易であり、また雄継手3と雌継手5の長さを短くできるので、製造コストを抑えることができる。
【0036】
上記の実施の形態では、C型リング部材17を縮径した状態に保持する縮径保持手段として固定テープ21を例示したが、これに代えて例えばポリプロピレン製の固定バンド23(PPバンド)等であってもよい。
図2は、傾斜させた環状溝15に固定バンド23によってC型リング部材17を縮径させて格納させた状態を示している。
なお、固定バンド23は、薄く、手指で容易に固縛でき、水や油に強い素材であることが望ましい。固定バンド23は、C型リング部材17の全周を固定(固縛)することにより、C型リング部材17の拡径を抑制する。
【0037】
固定バンド23によってC型リング部材17を縮径状態で雄継手3の環状溝15Mに格納する方法は以下の通りである。
C型リング部材17を環状溝15Mに格納し、格納されたC型リング部材17の全周を固定バンド23で覆い、固定バンド23を締め上げることで、C型リング部材17を縮径させ、その状態で固定バンド23を固定する。
なお、固定バンド23は、固定テープ21と同様に、雄継手3の挿入完了後に切断又は除去する。
【0038】
また、上記の実施の形態では、環状溝15を一段形成する例であったが、本発明はこれに限られるものではなく、環状溝15の段数は継手の中心軸方向に複数段であってもよい。
複数段にすることで、より大きな荷重伝達が可能となる。
【0039】
また、上記の実施の形態は、鋼管7の端部に溶接等によって固定される機械式継手1についてであったが、このような機械式継手1を、鋼管7の一端と他端に取り付けることで、簡易に接合可能な鋼管7を構成することができる。
また、機械式継手1が取り付けられた鋼管7を接続することで、機械式継手1で接合された構造体を構成することができる。
さらに、このような構造体を施工するには、連結対象となる継手付き鋼管7の一方の鋼管軸方向の位置を拘束した状態で、他方の継手付き鋼管7を一方の継手付き鋼管7に位置合わせして差込嵌合するようにすればよい。
【0040】
また、上記の実施の形態は物の発明としての機械式継手1に関するものであったが、これを設計方法の発明、製造方法の発明に再構成することもでき、その場合は以下のようになる。
【0041】
<設計方法の発明>
管状の雄継手と該雄継手が挿入嵌合する雌継手とを備え、鋼管端部に取り付けられて前記鋼管同士を接合する機械式継手の設計方法であって、
前記雄継手の基端側に段差部を設定し、
該雄継手を前記雌継手に挿入完了した挿入完了状態で、該雌継手の先端部が前記段差部に当接するように設定し、
一段以上の環状溝を、前記雄継手の外周面と前記雌継手の内周面のそれぞれに前記挿入完了状態で対向するように配置し、
前記雄継手の環状溝に前記雄継手の前記雌継手への挿入を妨げないように格納可能、かつ前記挿入完了状態において前記環状溝内で前記雄継手側と前記雌継手側に跨るように配置可能となるようにC型リング部材を設定し、
該C型リング部材におけるC字の切欠き部と一致する位置において前記雄継手及び前記雌継手に設けられた回転防止ピン挿入孔を設定し、
前記挿入完了状態において前記雌継手の前記回転防止ピン挿入孔及び前記C字の切欠き部を貫通して前記雄継手の回転防止ピン挿入孔に至る回転防止ピンを設定する機械式継手の設計方法。
【0042】
<製造方法の発明>
管状の雄継手と該雄継手が挿入嵌合する雌継手とを備え、鋼管端部に取り付けられて前記鋼管同士を接合する機械式継手の製造方法であって、
前記雄継手の基端側に段差部を形成し、
該雄継手を前記雌継手に挿入完了した挿入完了状態で、該雌継手の先端部が前記段差部に当接するように形成し、
一段以上の環状溝を、前記雄継手の外周面と前記雌継手の内周面のそれぞれに前記挿入完了状態で対向するように形成し、
前記雄継手の環状溝に前記雄継手の前記雌継手への挿入を妨げないように格納可能、かつ前記挿入完了状態において前記環状溝内で前記雄継手側と前記雌継手側に跨るように配置可能となるようにC型リング部材を形成し、
該C型リング部材におけるC字の切欠き部と一致する位置において前記雄継手及び前記雌継手に設けられた回転防止ピン挿入孔を形成し、
前記挿入完了状態において前記雌継手の前記回転防止ピン挿入孔及び前記C字の切欠き部を貫通して前記雄継手の回転防止ピン挿入孔に至る回転防止ピンを形成する機械式継手の製造方法。
【符号の説明】
【0043】
1 機械式継手
3 雄継手
5 雌継手
7 鋼管
9 段差部
10 先端部
11 回転防止ピン
13M 回転防止ピン挿入孔(雄継手)
13F 回転防止ピン挿入孔(雌継手)
15 環状溝
15M 環状溝(雄継手)
15F 環状溝(雌継手)
17 C型リング部材
19 切欠き部
21 固定テープ
22 切断工具
23 固定バンド
図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2024-11-18
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状の雄継手と該雄継手が挿入嵌合する雌継手とを備え、鋼管端部に取り付けられて鋼管同士を接合する機械式継手であって、
前記雄継手の基端側には段差部が形成され、該雄継手を前記雌継手に挿入した状態で該雌継手の先端部が前記段差部に当接して挿入完了状態となるように構成され、前記雄継手の外周面と前記雌継手の内周面のそれぞれに前記挿入完了状態で対向するように形成された一段以上の環状溝と、前記雄継手の前記環状溝に前記雄継手の前記雌継手への挿入を妨げないように格納可能、かつ前記挿入完了状態において前記環状溝内で前記雄継手側と前記雌継手側に跨るように配置可能なC型リング部材と、該C型リング部材におけるC字の切欠き部と一致する位置において前記雄継手及び前記雌継手に設けられた回転防止ピン挿入孔と、前記挿入完了状態において前記雌継手の前記回転防止ピン挿入孔及び前記C字の切欠き部を貫通して前記雄継手の回転防止ピン挿入孔に至る回転防止ピンと、を備えた機械式継手。
【請求項2】
請求項1に記載の機械式継手の接合方法であって、
前記C字の切欠き部と前記雄継手の回転防止ピン挿入孔の位置を合わせた状態で前記C型リング部材を縮径させて前記雄継手の前記環状溝内に収容する工程と、
前記雄継手と前記雌継手の回転防止ピン挿入孔の位置が合っている状態で前記雄継手と前記雌継手を挿入完了状態とする工程と、
前記C型リング部材の縮径状態を開放する工程と、
前記回転防止ピンを、前記回転防止ピン挿入孔及び前記C字の切欠き部を貫通して前記雄継手の回転防止ピン挿入孔に至る状態で配設する工程と、を備えた機械式継手の接合方法。
【請求項3】
請求項1に記載の雄継手と雌継手を、一端と他端に取り付けてなる鋼管。
【請求項4】
請求項1に記載の機械式継手によって連結された複数の鋼管を備えた構造体。
【請求項5】
請求項4に記載の構造体の施工方法であって、連結対象となる継手付き鋼管の一方の鋼管軸方向の位置を拘束した状態で、他方の継手付き鋼管を前記一方の継手付き鋼管に位置合わせして差込嵌合する構造体の施工方法。
【請求項6】
管状の雄継手と該雄継手が挿入嵌合する雌継手とを備え、鋼管端部に取り付けられて鋼管同士を接合する機械式継手の設計方法であって、
前記雄継手の基端側に段差部を設定し、
該雄継手を前記雌継手に挿入完了した挿入完了状態で、該雌継手の先端部が前記段差部に当接するように設定し、
一段以上の環状溝を、前記雄継手の外周面と前記雌継手の内周面のそれぞれに前記挿入完了状態で対向するように配置し、
前記雄継手の環状溝に前記雄継手の前記雌継手への挿入を妨げないように格納可能、かつ前記挿入完了状態において前記環状溝内で前記雄継手側と前記雌継手側に跨るように配置可能となるようにC型リング部材を設定し、
該C型リング部材におけるC字の切欠き部と一致する位置において前記雄継手及び前記雌継手に設けられた回転防止ピン挿入孔を設定し、
前記挿入完了状態において前記雌継手の前記回転防止ピン挿入孔及び前記C字の切欠き部を貫通して前記雄継手の回転防止ピン挿入孔に至る回転防止ピンを設定する機械式継手の設計方法。
【請求項7】
管状の雄継手と該雄継手が挿入嵌合する雌継手とを備え、鋼管端部に取り付けられて鋼管同士を接合する機械式継手の製造方法であって、
前記雄継手の基端側に段差部を形成し、
該雄継手を前記雌継手に挿入完了した挿入完了状態で、該雌継手の先端部が前記段差部に当接するように形成し、
一段以上の環状溝を、前記雄継手の外周面と前記雌継手の内周面のそれぞれに前記挿入完了状態で対向するように形成し、
前記雄継手の環状溝に前記雄継手の前記雌継手への挿入を妨げないように格納可能、かつ前記挿入完了状態において前記環状溝内で前記雄継手側と前記雌継手側に跨るように配置可能となるようにC型リング部材を形成し、
該C型リング部材におけるC字の切欠き部と一致する位置において前記雄継手及び前記雌継手に設けられた回転防止ピン挿入孔を形成し、
前記挿入完了状態において前記雌継手の前記回転防止ピン挿入孔及び前記C字の切欠き部を貫通して前記雄継手の回転防止ピン挿入孔に至る回転防止ピンを形成する機械式継手の製造方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0014
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0014】
(2)また、本発明に係る機械式継手の接合方法は、上記(1)に記載の機械式継手の接合方法であって、
前記C字の切欠き部と前記雄継手の回転防止ピン挿入孔の位置を合わせた状態で前記C型リング部材を縮径させて前記雄継手の前記環状溝内に収容する工程と、
前記雄継手と前記雌継手の回転防止ピン挿入孔の位置が合っている状態で前記雄継手と前記雌継手を挿入完了状態とする工程と、
前記C型リング部材の縮径状態を開放する工程と、
前記回転防止ピンを、前記回転防止ピン挿入孔及び前記C字の切欠き部を貫通して前記雄継手の回転防止ピン挿入孔に至る状態で配設する工程と、を備えたものである。