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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024164871
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】ピアノ線の位置検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/00 20060101AFI20241121BHJP
   G01C 15/00 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
G01B11/00 C
G01C15/00 102A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080541
(22)【出願日】2023-05-16
(71)【出願人】
【識別番号】000232955
【氏名又は名称】株式会社日立ビルシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木下 康
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 雅人
(72)【発明者】
【氏名】春山 尚輝
【テーマコード(参考)】
2F065
【Fターム(参考)】
2F065AA02
2F065AA07
2F065BB12
2F065CC14
2F065DD03
2F065FF02
2F065FF04
2F065GG01
2F065HH03
2F065JJ01
2F065JJ05
2F065JJ15
2F065MM02
(57)【要約】
【課題】より広い範囲でピアノ線の位置を検出することができるとともに、光学センサの調整作業の負担を軽減することができるピアノ線の位置検出装置を提供する。
【解決手段】ピアノ線の位置検出装置は、ピアノ線を検出するための光束を形成する光学センサと、所定の条件のもとで得られる光学センサの出力値を基準値として格納する基準値格納部と、基準値格納部に格納された基準値と光学センサの出力値とに基づいて、基準値に対する出力値の相対値を演算する相対値演算部と、相対値演算部によって演算された相対値を閾値で2値化することにより、ピアノ線の有無を2値信号で出力する2値化処理部と、を備える。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピアノ線を検出するための光束を形成する光学センサと、
所定の条件のもとで得られる前記光学センサの出力値を基準値として格納する基準値格納部と、
前記基準値格納部に格納された前記基準値と前記光学センサの出力値とに基づいて、前記基準値に対する前記出力値の相対値を演算する相対値演算部と、
前記相対値演算部によって演算された前記相対値を閾値で2値化することにより、前記ピアノ線の有無を2値信号で出力する2値化処理部と、
を備えるピアノ線の位置検出装置。
【請求項2】
前記基準値格納部は、前記ピアノ線が前記光学センサの光束を遮っていないときの前記光学センサの出力値を前記基準値として格納する
請求項1に記載のピアノ線の位置検出装置。
【請求項3】
前記基準値格納は、装置電源が投入されたときの前記光学センサの出力値を前記基準値として格納する
請求項1に記載のピアノ線の位置検出装置。
【請求項4】
前記基準値格納部は、装置動作中における前記光学センサの最大の出力値を前記基準値として格納する
請求項1に記載のピアノ線の位置検出装置。
【請求項5】
前記光学センサと、前記基準値格納部と、前記相対値演算部と、前記2値化処理部をそれぞれ2つずつ備える
請求項1に記載のピアノ線の位置検出装置。
【請求項6】
前記2つの光学センサは、所定方向に所定量だけずれて配置され、
前記2つの2値化処理部がそれぞれ出力する2値信号に基づいて、前記ピアノ線の位置を5つのゾーンで判定するゾーン判定部をさらに備える
請求項5に記載のピアノ線の位置検出装置。
【請求項7】
前記ゾーン判定部の判定結果を表示する表示部をさらに備える
請求項6に記載のピアノ線の位置検出装置。
【請求項8】
前記ゾーン判定部の判定結果を外部に出力するインタフェースをさらに備える
請求項6に記載のピアノ線の位置検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピアノ線の位置検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
建物の昇降路にエレベーターを据え付ける作業のなかに、乗りかごや釣り合いおもりの昇降を案内するガイドレールを昇降路内に据え付ける作業がある。ガイドレールの据え付け作業では、ガイドレールを正確な位置に芯出しして固定することが求められる。このため、一般に、錘を取り付けたピアノ線を昇降路の最上部から最下部まで吊り下ろし、このピアノ線を基準にガイドレールの据え付け作業を実施している。具体的には、作業者は、ピアノ線とガイドレールとの距離をスケール等によって測定し、その測定結果を基にガイドレールの位置を調整した後、ガイドレールを固定する。このとき、スケールの目盛りとピアノ線とが重なるが、両者の重なり具合が見る角度で変わったり、スケールの当て方が悪かったりするなどの影響で、作業者による距離の読み値にばらつきが生じる。このため、ガイドレールの据え付け作業における芯出し精度が安定せず、精度不足による手直しが多く発生している。
【0003】
特許文献1には、ピアノ線の位置をセンサによって検出するエレベーターの据付用測定装置に関する技術が記載されている。具体的には、特許文献1には、「水平方向に配置されるゲージに沿って摺動して目盛の読取面を設けた摺動部と、ピアノ線に対向するセンサを取付けたセンサ部と、このセンサ部に取付けられたセンサの検出動作に基づいてピアノ線の検出状態を光や音で報知する検出器とを設けたスライドブロックを備えたエレベーターの据付用測定装置を構成した」と記載されている。また、特許文献1には、「2組のセンサをスライドブロックの摺動方向に沿って位置をずらして配置し、検出器によりスライドブロックの停止位置とこの停止位置に停止させるためのスライドブロックの摺動方向を報知器で報知する」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平7-89055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された技術には、次のような課題がある。
特許文献1には、発光部と受光部を備える透過型の光学センサを用いてピアノ線を検出する構成が開示されている。一般に、光学センサの光束幅(以下、「検出幅」ともいう。)はピアノ線の直径よりも広いため、ピアノ線が光学センサの光束内に存在しても、発光部が発する光はピアノ線の脇を通過して受光部まで届く。このため、光学センサの光束をピアノ線が遮っているときと遮っていないときで比較すると、受光部に届く光量の変化は僅かである。このような場合は、スリット孔を有するスリット板を光学センサに設けて光束幅を狭くし、ピアノ線が光束を遮ったときの光量変化がより顕著となるように構成する。また、僅かな光量の変化で光学センサの出力が変化するように、発光量及びセンサ感度を調整し、最適化を行なう。
【0006】
しかしながら、上記のように光学センサにスリット板を設けた場合は、ピアノ線の位置を検出できる範囲が狭くなってしまう。また、スリット板の取付位置のずれがピアノ線の位置検出範囲に影響を与えるため、スリット板を高精度に位置決めする必要がある。また、光学センサの光束は均一の光量分布ではないため、スリット板で切り取る範囲によって光量が変わってしまう。そのため、スリット板の取付位置を調整した場合は、光学センサの出力値が所定値になるように発光量を調節する必要がある。これらの調整作業は、スリット板の取付位置を調整するたびに何度も繰り返す必要があり、作業負担となっていた。
【0007】
本発明の目的は、より広い範囲でピアノ線の位置を検出することができるとともに、光学センサの調整作業の負担を軽減することができるピアノ線の位置検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、例えば、特許請求の範囲に記載された構成を採用する。
本願は、上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一つを挙げるならば、ピアノ線を検出するための光束を形成する光学センサと、所定の条件のもとで得られる光学センサの出力値を基準値として格納する基準値格納部と、基準値格納部に格納された基準値と光学センサの出力値とに基づいて、基準値に対する出力値の相対値を演算する相対値演算部と、相対値演算部によって演算された相対値を閾値で2値化することにより、ピアノ線の有無を2値信号で出力する2値化処理部と、を備えるピアノ線の位置検出装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ピアノ線の位置をより広い範囲で検出することができるとともに、光学センサの調整作業の負担を軽減することができる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明によって明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係るピアノ線の位置検出装置の構成を示す斜視図である。
図2】2つの光学センサの配置を示す斜視図である。
図3】実施形態にピアノ線の位置検出装置の斜視図である。
図4】光学センサとセンサ駆動部の回路図である。
図5】光学センサの出力特性を示す図である。
図6】光学センサの光束とピアノ線の位置関係を示す平面図である。
図7】ピアノ線の位置と光学センサの出力の関係を示す図である。
図8】出力特性が異なる光学センサの光束をピアノ線が横切ったときの出力波形の違いを説明する図である。
図9】実施形態に係るピアノ線の位置検出装置が備える信号処理部の構成を説明するためのブロック図である。
図10】光学センサの相対出力波形を示す図である。
図11】2つの光学センサの相対出力波形を重ねて示した図である。
図12】光学センサの2値信号の状態遷移を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。本明細書及び図面において、実質的に同一の機能又は構成を有する要素については、同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0012】
図1は、実施形態に係るピアノ線の位置検出装置の構成を示す斜視図である。図1においては、各部の位置関係を明確にするために、水平面内で直交する二方向をX方向及びY方向とし、これと直交する鉛直方向をZ方向としている。この点は、他の図でも同様である。
【0013】
図1に示すように、ピアノ線の位置検出装置10は、エレベーターの昇降路に垂下されるピアノ線12の位置を検出する装置である。ピアノ線12は、建屋の最上部である昇降路の頂部から錘を付けて吊り下げられ、錘の重さで垂直に張られている。ガイドレール14は、昇降路を昇降する乗りかごや釣り合いおもりの移動を案内する部材である。ガイドレール14は、鋼鉄製のレールであり、昇降路に面する建屋の壁(昇降路の壁面)に固定される。ガイドレール14にはX-Z基準面14aとY-Z基準面14bとが設けられ、ガイドレール14を据え付ける場合はこれらの基準面をピアノ線に対して正確に位置合わせする必要がある。
【0014】
ガイドレール14の位置は、ピアノ線12の位置を基準に調整される。具体的には、ピアノ線12を基準にガイドレール14の位置をX-Y平面内で調整し、調整後にガイドレール14を図示しないブラケットを用いて建屋の壁に固定する。ガイドレール14は、建屋の壁に対し鉛直方向に数箇所にわたって固定される。これにより、ガイドレール14は鉛直方向にまっすぐ据え付けられる。
【0015】
ピアノ線の位置検出装置10は、X方向位置検出部16と、Y方向位置検出部18と、回路基板20と、電源部22と、筐体24とを備えている。
【0016】
(X方向位置検出部16)
X方向位置検出部16は、X方向におけるピアノ線12の位置を検出する部分である。X方向位置検出部16は、図2に示すように、2つの光学センサ161,162を備えている。2つの光学センサ161,162は、それぞれ透過型の光学センサによって構成されている。また、2つの光学センサ161,162は、鉛直方向(上下方向)に重ねて配置されている。
【0017】
光学センサ161は、発光部161aと受光部161bとを有し、発光部161aと受光部161bとの間に光束を形成する透過型の光学センサである。光学センサ161の光束は、遮蔽物(ピアノ線12を含む)を検出するために形成される。光学センサ161は、発光部161aと受光部161bとがY方向で向かい合うように、コの字形に形成されている。これにより、光学センサ161は、発光部161aで発した光を受光部161bで受光する構成になっている。このため、発光部161aと受光部161bとの間に遮蔽物がない場合は受光部161bまで光が届くが、遮蔽物がある場合は受光部161bまで光が届かなくなる。したがって、受光部161bでの光量変化を検出することにより、遮蔽物の有無を判定することができる。
【0018】
同様に、光学センサ162は、発光部162aと受光部162bとを有し、発光部162aと受光部162bとの間に光束を形成する透過型の光学センサである。光学センサ162の光束は、遮蔽物(ピアノ線12を含む)を検出するために形成される。光学センサ162は、発光部162aと受光部162bとがY方向で向かい合うようにコの字形に形成されている。これにより、光学センサ162は、発光部162aで発した光を受光部162bで受光する構成になっている。このため、発光部162aと受光部162bとの間に遮蔽物がない場合は受光部162bまで光が届くが、遮蔽物がある場合は受光部162bまで光が届かなくなる。したがって、受光部162bでの光量変化を検出することにより、遮蔽物の有無を判定することができる。
【0019】
X方向位置検出部16は、発光部161aと受光部161bとの間の光束と、発光部162aと受光部162bとの間の光束が、それぞれY方向に向くように配置されるとともに、遮蔽物としてのピアノ線12が上記の光束を通過することで、受光部161b,161bでの受光量が変化するように構成されている。この構成により、2つの光学センサ161,162は、ピアノ線12が上記の光束を横切るようにX方向に移動したときに、それぞれの光束内のピアノ線12の有無を検出する。
【0020】
2つの光学センサ161,162は、X方向に所定量ΔXだけずらして配置している。このずれにより、2つの光学センサ161,162によるピアノ線12の検出位置がΔX分ずれて検出される。ずれ量ΔXは、2つの光学センサ161,162で同時にピアノ線を検出できる区間が存在するように設定されている。例えば、X方向における光学センサ161,162の検出幅Wが共に2mmである場合は、ずれ量ΔXを1mmに設定することにより、2つの光学センサ161,162で同時にピアノ線12を検出できる区間を1mm確保することができる。
【0021】
光学センサ161の検出幅Wは、遮蔽物の存在を検知するために発光部161aと受光部161bとの間に形成される光束の幅によって決まる。同様に、光学センサ162の検出幅Wは、遮蔽物の存在を検知するために発光部162aと受光部162bとの間に形成される光束の幅によって決まる。光学センサ161,162の検出幅Wは、ピアノ線12の直径よりも広く確保されている。例えば、ピアノ線12の直径が0.5mmである場合は、光学センサ161,162の検出幅Wが2mmに設定される。
【0022】
本実施形態においては、光学センサ161,162にスリット板が設けられていない。スリット板は、発光部161aから受光部161bに向けて発せられた光の一部を遮るスリット孔と、発光部162aから受光部162bに向けて発せられた光の一部を遮るスリット孔とを有する薄板である。このため、光学センサ161,162にスリット板を設けない場合は、光学センサ161,162にスリット板を設ける場合に比べて、ピアノ線12の位置をより広い範囲で検出することができる。また、光学センサ161,162にスリット板を設けない場合は、検出幅Wの広い光学センサを使用することで、ピアノ線12の位置をより広い範囲で検出することができる。また、光学センサ161,162にスリット板を設ける場合は、幅広のスリット孔を有する薄板を使用することで、ピアノ線12の位置をより広い範囲で検出することができる。
【0023】
上述のように2つの光学センサ161,162を所定量ΔXだけずらして配置することにより、ピアノ線12の位置を4つの区間に分けて検出することができる。具体的には、光学センサ161のみでピアノ線12を検出する区間と、2つの光学センサ161,162で同時にピアノ線12を検出する区間と、光学センサ162のみでピアノ線12を検出する区間と、いずれの光学センサ161,162でもピアノ線12を検出しない区間に分けて、ピアノ線12の位置を検出することができる。さらには、いずれの光学センサ161,162でもピアノ線12を検出しない区間について、後述する状態遷移により2つの区間に分けて判別することにより、ピアノ線12の位置を5つの区間(ゾーン)に分けて検出することができる。
【0024】
このような光学センサ161,162としては、例えば、フォトインタラプタを挙げることができる。フォトインタラプタは、小型軽量で消費電力が少ないという特徴を有する。この特徴により、ピアノ線12の位置検出のためのセンサ部をコンパクトに構成することができる。また、電源部22として電池を利用できるため、システム全体を小さな筐体24内に収容することが可能となる。
【0025】
(Y方向位置検出部18)
Y方向位置検出部18は、Y方向におけるピアノ線12の位置を検出する部分である。Y方向位置検出部18は、図1に示すように、X方向位置検出部16の下方に配置されている。X方向位置検出部16とY方向位置検出部18の上下方向の位置関係は逆でもよい。Y方向位置検出部18は、2つの光学センサ181,182を備えている。2つの光学センサ181,182は、それぞれ透過型の光学センサによって構成されている。また、2つの光学センサ181,182は、鉛直方向(上下方向)に重ねて配置されている。
【0026】
Y方向位置検出部18は、基本的にX方向位置検出部16と同様の構成を有する。ただし、Y方向位置検出部18とX方向位置検出部16は、水平面(X-Y平面)における向きが90°異なる。具体的には、光学センサ161,162は、発光部161a,162aとこれに対応する受光部161b,162bとがY方向で対向するように配置され、光学センサ181,182は、発光部181a,182aとこれに対応する受光部181b,182bとがX方向で対向するように配置されている。2つの光学センサ181,182は、図示はしないがY方向に所定量ΔYだけずらして配置している。Y方向位置検出部18の詳細については、上述したX方向位置検出部16の説明内容と重複するため、説明を省略する。
【0027】
(回路基板20)
回路基板20は、図1に示すように、センサ駆動部26と、信号処理部28とを備えている。センサ駆動部26は、X方向位置検出部16が備える光学センサ161,162と、Y方向位置検出部18が備える光学センサ181,182を駆動する。センサ駆動部26は、光学センサ161,162,181,182の発光部161a,162a,181a,182aの発光量や、光学センサ161,162,181,182の受光部161b,162b,181b,182bの感度を設定する回路を形成する。信号処理部28は、各々の光学センサ161,162,181,182から出力される信号を処理する。信号処理部28は、組込みマイコンとその周辺回路で構成することができる。回路基板20は、例えばプリント回路基板やフレキシブル回路基板に電気回路を形成し、その回路基板上に各種の電子部品を搭載することにより構成される。
【0028】
(電源部22)
電源部22は、X方向位置検出部16、Y方向位置検出部18及び回路基板20の駆動に必要な電力を供給する電源である。X方向位置検出部16が備える光学センサ161,162の消費電力や、Y方向位置検出部18が備える光学センサ181,182の消費電力、さらには回路基板20の消費電力は、いずれも少ない。このため、電源部22には、例えば乾電池や充電電池などを利用することができる。
【0029】
(筐体24)
筐体24は、X方向位置検出部16(光学センサ161,162)、Y方向位置検出部18(光学センサ181,182)、回路基板20、電源部22の各構成要素を内包するように搭載する躯体である。筐体24は、ピアノ線12の位置を基準にガイドレール14の位置を調整する場合にゲージの一部として機能することが求められる。このため、筐体24は、剛性の高い材料でかつ熱膨張係数の小さい材料、例えばステンレス鋼などの金属材料によって構成される。筐体24の先端部には、X方向位置検出部16及びY方向位置検出部18にピアノ線12を導入するための開口部30が設けられている。この開口部30を含めて、ピアノ線12と接触する可能性のある筐体24の外縁部は、ピアノ線12を傷つけないよう、例えばポリアセタールなどの潤滑性の高い樹脂で覆うことが望ましい。
【0030】
筐体24は、クリップ部32によってガイドレール14に着脱可能に取り付けられる。
【0031】
クリップ部32は、ガイドレール14に設けられた2つの基準面のうち、X-Z基準面14aに当接する第1の当接面32aと、Y-Z基準面14bに当接する第2の当接面32bとを有する。クリップ部32は、例えば図3に示すように、第1の当接面32aに第1のマグネット34aを設けると共に、第2の当接面32bに第2のマグネット34bを設けることにより、各々のマグネット34a,34bの磁気吸引力によってガイドレール14に固定される。
【0032】
このようにクリップ部32を磁気吸着力によってガイドレール14に固定することにより、X-Z基準面14aに対する第1の当接面32aの浮き、及び、Y-Z基準面14bに対する第2の当接面32bの浮きを抑えることができる。また、作業者が筐体24やクリップ部32から手を放しても、ピアノ線の位置検出装置10及びクリップ部32は固定状態で保持される。
【0033】
なお、磁気吸着力を利用しない固定手段としては、例えば、バイスによる固定構造を採用することもできる。具体的には、ガイドレール14のX-Z基準面14aと反対側の面にネジ等を突き当てて、ネジ等の締め付けにより、第1の当接面32aとネジ等の間にガイドレール14を挟み込む構造が考えられる。
【0034】
また、クリップ部32の第1の当接面32aには、第1のマグネット34aを覆うように保護フィルム36aが貼り付けられ、クリップ部32の第2の当接面32bには、第2のマグネット34bを覆うように保護フィルム36bが貼り付けられる。保護フィルム36a,36bは、例えば、片面を粘着面とする非磁性の樹脂フィルムによって構成される。このようにクリップ部32に保護フィルム36a,36bを貼り付けることにより、マグネット34a,34bに付着する砂鉄や当接面32a,23bに付着する汚れを容易に拭きとることができる。
【0035】
また、クリップ部32の第1の当接面32aに貼り付ける保護フィルム36aの重ね枚数を適宜変更することにより、ガイドレール14のX-Z基準面14aに対して筐体24の位置やX方向位置検出部16及びY方向位置検出部18の位置を、Y方向で微調整することができる。同様に、クリップ部32の第2の当接面32bに貼り付ける保護フィルム36bの重ね枚数を適宜変更することにより、ガイドレール14のY-Z基準面14bに対して筐体24の位置やX方向位置検出部16及びY方向位置検出部18の位置を、X方向で微調整することができる。
【0036】
図4は、光学センサとセンサ駆動部の回路図である。ここでは光学センサ161を例に挙げて説明する。
図4に示すように、光学センサ161は、発光部161aと受光部161bを有している。発光部161aには抵抗器38aが直列に接続され、受光部161bには、抵抗器38bが直列に接続されている。光学センサ161の出力は、出力端子40から取り出される。発光側の抵抗器38a及び受光側の抵抗器38bは、センサ駆動部26を構成する電子部品である。
【0037】
発光側の抵抗器38aは、発光部161aに供給する電流を調整する抵抗器であり、抵抗値が低いほど発光部161aに大きな電流を流す。光学センサ161の発光部161aは、発光部161aに流れる電流が大きいほど発光量が多くなる特性を有する。このため、抵抗器38aの抵抗値を調整することにより、発光部161aの発光量を変化させることができる。
【0038】
受光側の抵抗器38bは、受光部161bを流れる電流を電圧に変換する抵抗器であり、抵抗値が大きいほど僅かな電流を高い電圧で出力する。光学センサ161の受光部161bは、受光量が増えるほど電流を多く流す特性を有する。このため、抵抗器38bの抵抗値を調整することにより、受光部161bの感度を変化させることができる。
【0039】
光学センサ161の出力は、発光部161aの発光量と受光部161bの感度の掛け合わせで決定される。このため、所望する出力が得られるように、発光側の抵抗器38aの抵抗値と、受光側の抵抗器38bの抵抗値を適切な値に設定する。
【0040】
図5は、光学センサの出力特性を示す図である。
図5の横軸は、光学センサの発光部と受光部の間の光の透過率(%)である。この透過率は、発光部と受光部の間で光が遮蔽物によって完全に遮られた場合は0%となり、発光部と受光部の間に遮蔽物がない場合は100%となる。図5の縦軸は、光学センサの出力(%)である。光学センサの出力は、受光部に届く光量が多く受光部の感度が高いときに大きな値となる。
【0041】
ここで、光学センサの出力特性の代表例として、3つの異なる出力特性を示す。図中の実線は光学センサの出力特性Aの出力波形、点線は光学センサの出力特性Bの出力波形、破線は光学センサの出力特性Cの出力波形である。
【0042】
光学センサの出力特性Aは、発光部の発光量が多く感度が高い場合の出力特性である。この出力特性Aでは、透過率が100%に満たない時点で出力が飽和している。光学センサの出力特性Bは、透過率と出力が全域で比例関係となる出力特性である。この出力特性Bでは、透過率が100%のときに出力が100%となる。光学センサの出力特性Cは、出力特性Bと同様に透過率と出力が全域で比例関係となる出力特性である。ただし、この出力特性Cでは、出力特性Bに比べて出力波形の傾きが小さく、透過率が100%のときでも出力が100%には至らない。
【0043】
光学センサを用いたピアノ線12の検出では、ピアノ線12の直径が光学センサの光束幅よりも小さく、ピアノ線12が光学センサの光束内に入っても完全に遮光することができない。例えば、ピアノ線12の直径が0.5mm、光学センサの光束幅が2mmの場合は、光学センサの光束内でピアノ線12が遮光できる割合は25%である。このため、光学センサを用いてピアノ線12を検出する場合の透過率の変化は、75%から100%の範囲Sなる。
【0044】
出力特性Aを有する光学センサをピアノ線12の検出に用いた場合は、ピアノ線12が光学センサの光束を遮る位置に来ても出力に変化は現れず、出力は100%で飽和した状態を保つ。このため、出力特性Aを有する光学センサは、ピアノ線12の検出に適さないセンサであることがわかる。一方、出力特性B又は出力特性Cを有する光学センサは、ピアノ線12が光束を遮ることによって出力に変化が現れる。このため、出力特性Bを有する光学センサの場合は、出力の変化幅内に閾値bを設定することにより、ピアノ線12の有無を2値信号で判別することができる。また、出力特性Cを有する光学センサの場合は、出力の変化幅内に閾値cを設定することにより、ピアノ線12の有無を2値信号で判別することができる。これより、出力特性B又は出力特性Cを有する光学センサは、ピアノ線12の検出に適するセンサであることがわかる。
【0045】
図6は、光学センサの光束とピアノ線の位置の関係を示す平面図である。図中の符号A~Gは、それぞれピアノ線12の位置を示している。一方、図7は、ピアノ線の位置と光学センサの出力の関係を示す図である。図7において、横軸はピアノ線の位置、縦軸は光学センサの出力(%)を示し、実線は光学センサの出力特性を示す。ここでは、光学センサ161を例に挙げて説明するが、他の光学センサ162,181,182についても同様である。
【0046】
図6に示すように、光学センサ161は、発光部161aと受光部161bとの間に光束42を形成する。光束42は、ピアノ線12を検出するために所定の幅(以下、「光束幅」ともいう。)Wで形成される。光学センサ161の出力は、ピアノ線12が光束42から外れた位置にあるときと、ピアノ線12の一部が光束42内にあるときと、ピアノ線12の全部が光束42内にあるときで変わる。光束幅Wは、光学センサ161を用いてピアノ線12の位置を検出する際の検出幅W(図2)と実質的に同じである。
【0047】
ここで、発光部161aと受光部161bとの間の光の透過率が100%のときの光学センサ161の出力が100%であると仮定する。そうした場合、光束幅Wを有する光束42に対して、ピアノ線12が位置Aよりも図6の上方に存在するときは、光束42がピアノ線12によって遮られないため、光学センサ161の出力は100%となる。また、ピアノ線12が位置Aから位置Bを経て位置Cへと変位すると、光束42がピアノ線12によって徐々に遮られるため、光学センサ161の出力が徐々に低下していく。そして、ピアノ線12が位置Cに存在するときは、光束幅Wの1/4がピアノ線12によって遮られるため、光学センサ161の出力は75%まで低下する。
【0048】
一方、ピアノ線12が位置Cから位置Dを経て位置Eへと変位する間は、光束幅Wの1/4がピアノ線12によって遮られる状態が続くため、光学センサ161の出力は75%のまま変化しない。また、ピアノ線12が位置Eから位置Fを経て位置Gへと変位すると、ピアノ線12が徐々に光束42から外れ、これに伴って受光部161bの受光量が増えるため、光学センサ161の出力が上昇していく。そして、ピアノ線12が位置Gよりも図6の下方に存在する場合は、光束42がピアノ線12によって遮られなくなるため、光学センサ161の出力は100%となる。
【0049】
このように、光学センサ161の出力は、X方向におけるピアノ線12の位置の変化に応じて、75%から100%の範囲で変化する。この光学センサ161の出力特性において、例えば閾値を87.5%付近に設定すると、光学センサ161の出力を次に述べる2つの状態に分けることができる。一つは、光学センサ161の出力が閾値超となるHigh状態(以下、「H状態」ともいう。)であり、もう一つは、光学センサ161の出力が閾値以下となるLow状態(以下、「L状態」ともいう。)である。これにより、ピアノ線12が位置Bから位置Fまでの範囲に存在する場合は、光学センサ161の出力がL状態となり、それ以外の位置にピアノ線12が存在する場合は、光学センサ161の出力がH状態となる。このように、光学センサ161の出力に対し閾値を設けて2値化することにより、ピアノ線12の位置を検出することができる。
【0050】
図8は、出力特性が異なる光学センサの光束をピアノ線が横切ったときの出力波形の違いを説明する図である。
図8において、横軸はピアノ線の位置を示し、縦軸は光学センサの出力を示す。また、実線は、出力特性Aを有する光学センサの出力波形を示し、点線は、出力特性Bを有する光学センサの出力波形を示し、破線は、出力特性Cを有する光学センサの出力波形を示す。
【0051】
図8に示すように、出力特性Aを有する光学センサの出力波形は、出力が100%で飽和した状態である。このため、出力特性Aを有する光学センサでは、ピアノ線12を検出できないことがわかる。
【0052】
これに対して、出力特性Bを有する光学センサの出力波形は、光学センサの光束外にピアノ線12があるときは出力が100%であり、光束内にピアノ線12が入るにつれて出力が徐々に低下している。そして、ピアノ線12が完全に光束内に入ると、出力は底止まりする。この出力波形においては、出力100%と底止まりした出力値(底値)との間に閾値bを設け、この閾値bによって光学センサの出力を2値化することにより、光学センサの光束幅内におけるピアノ線12の有無を検出することができる。ここで、閾値bの設定は比較的容易である。例えば、ピアノ線12が完全に光束内に存在するときの光学センサの出力が75%と見込まれる場合は、閾値bを87.5%付近に固定して設定することができる。
【0053】
一方、出力特性Cを有する光学センサの出力波形は、出力特性Bを有する光学センサの出力波形と相似であるが、光学センサの光束外にピアノ線12があるときに出力が100%に至らない値となっている。また、ピアノ線12が完全に光束内に入って底止まりしたときの出力値も中間的な値となっている。このため、出力特性Cを有する光学センサの出力波形では、光学センサの光束外にピアノ線12があるときと光束内にピアノ線12があるときの出力の変化幅が小さくなっている。ここで、閾値cの設定は、光学センサの出力波形を見て行なうことになる。また、光学センサの出力特性にはバラツキがあるため、このバラツキに対応して個々に1つずつ閾値cの調整を行なうことになる。このため、閾値cの調整が非常に困難な作業となる。したがって、従来においては、例えば光学センサ161の発光側の抵抗器38aに可変抵抗器を使い、光学センサ161の出力特性が出力特性Bとなるように、抵抗器38aの抵抗値を調整する作業を行なっていた。しかし、このような調整作業を光学センサ161,162,181,182ごとに行なうとなると、作業負担が大きくなってしまう。
【0054】
そこで、本実施形態においては、光学センサの出力特性が出力特性Cであっても、後述する信号処理により、抵抗値の調整作業なしに光学センサを利用できるようにした。
【0055】
図9は、実施形態に係るピアノ線の位置検出装置が備える信号処理部の構成を説明するためのブロック図である。なお、ピアノ線の位置検出装置10は、X方向位置検出部16に対応する信号処理部と、Y方向位置検出部18に対応する信号処理部を備えているが、各々の信号処理部は基本的に同様の構成を有する。このため、ここではX方向位置検出部16に対応する信号処理部の構成を例に挙げて説明する。
【0056】
図9に示すように、信号処理部28は、2つの基準値格納部50a,50bと、2つの相対値演算部52a,52bと、2つの2値化処理部54a,54bと、ゾーン判定部56と、表示部58と、インタフェース60とを備えている。信号処理部28には、光学センサ161の出力信号と光学センサ162の出力信号が取り込まれる。
【0057】
(基準値格納部50a,50b)
基準値格納部50aは、所定の条件のもとで得られる光学センサ161の出力信号の特性値(以下、「出力値」という。)を基準値として格納する。基準値格納部50bは、所定の条件のもとで得られる光学センサ162の出力信号の特性値(以下、「出力値」という。)を基準値として格納する。基準値格納部50aに格納された基準値は相対値演算部52aによって読み出され、基準値格納部50bに格納された基準値は相対値演算部52bによって読み出される。ここで、所定の条件とは、光学センサにおける光の透過率が100%となる条件であり、より具体的には、ピアノ線12が光学センサ161の光束を遮っていないとき、換言すると、ピアノ線12が光学センサ161の光束外にあるときである。この定義は、基準値格納部50bに基準値を格納する場合も同様に適用される。
【0058】
基準値は、任意の固定値とする方法が考えられるが、望ましくは、ピアノ線の位置検出装置10を使用する直前、又は、ピアノ線の位置検出装置10の動作中に、光学センサ(161,162)の光束内にピアノ線12がないときの光学センサの出力値を基準値して格納するほうがよい。これにより、例えば、光学センサの発光部の経年劣化による発光量の低下や、光学センサの受光部にごみが付着することによる受光量の低下、あるいは外光や温度等の環境変化に対しても、適切な基準値を得ることができる。
【0059】
ピアノ線の位置検出装置10を使用する直前に基準値を得る方法としては、例えば、ピアノ線の位置検出装置10の電源が投入されたとき(好ましくは、電源投入直後)の光学センサ(161,162)の出力値を基準値とする方法が考えられる。その場合、作業者の操作手順として、電源投入後にピアノ線12を筐体24の開口部30(図1)に誘導するように操作手順を指定することにより、基準値を得るタイミングでは光学センサ(161,162)の光束内にピアノ線12がない状態を作ることができる。また、ピアノ線の位置検出装置10の動作中に基準値を得る方法としては、例えば、光学センサ(161,162)の最大の出力値を基準値とする方法が考えられる。
【0060】
(相対値演算部52a,52b)
相対値演算部52aは、基準値格納部50aに格納された基準値と光学センサ161の出力値とに基づいて、当該基準値に対する当該出力値の相対値を演算する。例えば、相対値演算部52aは、基準値格納部50aに格納された基準値が80%である場合に、光学センサ161の出力値が80%であれば相対値=100%と演算し、光学センサ161の出力値が75%であれば相対値=94%と演算する。相対値演算部52bは、基準値格納部50bに格納された基準値と光学センサ162の出力値とに基づいて、当該基準値に対する当該出力値の相対値を演算する。例えば、相対値演算部52bは、基準値格納部50bに格納された基準値が70%である場合に、光学センサ162の出力値が70%であれば相対値=100%と演算し、光学センサ162の出力値が60%であれば相対値=86%と演算する。
【0061】
これにより、光学センサ161,162のうち、例えば、一方の光学センサが図5に示す出力特性Bを有し、他方の光学センサが図5に示す出力特性Cを有する場合であっても、相対値演算部52a,52bで演算される相対値の最大値を100%に揃えることができる。つまり、光学センサの出力特性が出力特性Bや出力特性Cでばらついている場合でも、上述のように相対値を演算することにより、光学センサの相対出力の最大値を揃えることができる。具体的には、図10に示すように、縦軸に光学センサの相対出力(相対値の演算結果)、横軸にピアノ線の位置をとった場合に、出力特性Cを有する光学センサに対応する相対出力波形が、出力特性Bを有する光学センサに対応する相対出力波形とほぼ重なり、いずれの出力特性を有する光学センサでも同一の相対出力特性が得られるようになる。ただし、図5に示す出力特性Aを有する光学センサでは、ピアノ線12の有無にかかわらず相対値の演算結果が100%になってしまう。このため、本実施形態においては、光学センサ161の最大の出力値が100%未満になるように、センサ駆動部26の抵抗器38aの抵抗値を設計で決めている。この点は、光学センサ162についても同様である。
【0062】
(2値化処理部54a,54b)
2値化処理部54aは、相対値演算部52aによって演算された相対値を、予め設定された閾値で2値化することにより、ピアノ線12の有無を2値信号で出力する。具体的には、相対値と閾値との大小関係を判定し、相対値が閾値超であればHigh状態の信号を出力し、相対値が閾値以下であればLow状態の信号を出力する。同様に、2値化処理部54bは、相対値演算部52bによって演算された相対値を、予め設定された閾値で2値化することにより、ピアノ線12の有無を2値信号で出力する。2値化に適用する閾値は、図10に示す出力特性B,Cの変化幅Tの範囲内であれば、任意に設定可能である。また、2値化処理部54aと2値化処理部54bには、光学センサ161,162の出力特性が異なる場合でも、同じ閾値を設定可能である。その際、閾値は、相対出力の底値と100%の中間に設定することが好ましい。例えば、相対出力の底値が75%である場合は、閾値を87.5%に設定することが好ましい。
【0063】
(ゾーン判定部56)
ゾーン判定部56は、2つの2値化処理部54a,54bがそれぞれ出力する2値信号に基づいて、ピアノ線12の位置を5つのゾーンで判定する。具体的には、ゾーン判定部56は、後述する5つのゾーンのうち、いずれのゾーンにピアノ線12が位置しているかを判定する。以下、詳しく説明する。
【0064】
図11は、2つの光学センサの相対出力波形を重ねて示した図である。
図11において、縦軸は光学センサの相対出力(相対値の演算結果)を示し、横軸はピアノ線の位置を示す。また、図中の実線は、光学センサ161の相対出力波形を示し、破線は、光学センサ162の相対出力波形を示す。
【0065】
各々の光学センサ161,162の相対出力波形は、図10に示す出力特性Bや出力特性Cの波形と同一である。ただし、2つの光学センサ161,162は、図2に示すようにX方向に所定量ΔXだけずれて配置されているため、相対出力波形も横軸方向にΔXだけずれた位置に現れている。ここで、ピアノ線12の有無を判定するための閾値を、各々の光学センサ161,162の相対出力の底値と最大値100%の中間に設定して、各々の光学センサ161,162の相対出力を2値化する。そうすると、光学センサ161の2値信号(H/L)と光学センサ162の2値信号(H/L)の組み合わせとしては、HH、LH、LL、HLの4つの状態が現れる。光学センサ161の2値信号は、相対値演算部52aによって演算される光学センサ161の相対値(相対出力)を2値化処理部54aで2値化することによって得られる信号である。同様に、光学センサ162の2値信号は、相対値演算部52bによって演算される光学センサ162の相対値(相対出力)を2値化処理部54bで2値化することによって得られる信号である。
【0066】
HH状態は、2つの光学センサ161,162が共にピアノ線12を検出していない状態である。LH状態は、光学センサ161がピアノ線12を検出し、光学センサ162がピアノ線12を検出していない状態である。LL状態は、2つの光学センサ161,162が共にピアノ線12を検出している状態である。LH状態は、光学センサ161がピアノ線12を検出せず、光学センサ162がピアノ線12を検出している状態である。
【0067】
上述した4つの状態のうち、HH状態については、光学センサ161,162の光束に対して、ピアノ線12がX方向でマイナス側に外れているのかプラス側に外れているかを判別するために、図12に示す2値信号の状態遷移を用いる。以下、詳しく説明する。
【0068】
図12は、光学センサの2値信号の状態遷移を説明する模式図である。
図12に示すように、光学センサ161の2値信号(H/L)と光学センサ162の2値信号(H/L)の組み合わせの状態には、初期状態(Initial)とピアノ線12の位置を表す5つのゾーン(ゾーン0、ゾーン1、ゾーン2、ゾーン3及びゾーン4)の状態がある。図12における矢印は、光学センサ161,162の2値信号が、ある状態から他の状態へと遷移する方向を示している。また、矢印に付された添え字は、光学センサ161,162の2値信号の状態が遷移するきっかけを示している。ここでは、2つの光学センサ161,162の2値信号がきっかけとなることを示している。
【0069】
本実施形態においては、ピアノ線の位置検出装置10の電源を投入(Power on)した際に初期状態(Initial)を設けている。初期状態において、光学センサ161,162の2値信号の状態をHH状態、すなわちゾーン0及びゾーン4と同じHHの組み合わせに設定している。また、初期状態は、光学センサ161,162の2値信号がLH、LL及びHLに変化することによって次の状態に遷移する
【0070】
ゾーン0は、上述したように光学センサ161,162の2値信号がHH状態となるゾーンである。同様に、ゾーン1はLH状態、ゾーン2はLL状態、ゾーン3はHL状態、ゾーン4はHH状態となるゾーンである。ここで、光学センサ161,162の光束に対して、ピアノ線12をX方向のマイナス側からプラス側に横切るように動かすと、光学センサ161,162の2値信号は、HH状態→LH状態→LL状態→HL状態→HH状態の順に変化する。またこれと逆に、ピアノ線12をX方向のプラス側からマイナス側に横切るように動かすと、光学センサ161,162の2値信号は、HH状態→HL状態→LL状態→LH状態→HH状態の順に変化する。このような状態の変化において、LH状態となる区間と、LL状態となる区間と、HL状態となる区間は、それぞれ1区間のみである。このため、ゾーン判定部56は、光学センサ161,162の2値信号がLH状態のときはピアノ線12がゾーン1に存在し、LL状態のときはピアノ線12がゾーン2に存在し、HL状態のときはピアノ線12置がゾーン3に存在すると判定する。
【0071】
また、ゾーン0のHH状態は、必ずゾーン1のLH状態から遷移する状態であるのに対し、ゾーン4のHH状態は、必ずゾーン3のHL状態から遷移する状態である。つまり、ゾーン0とゾーン4は、光学センサ161,162の2値信号の状態遷移が起こる一つ前の状態が異なる。このため、ゾーン0とゾーン4については、光学センサ161,162の2値信号の状態がHH状態となる一つ前の状態が、LH状態であるかHL状態であるかによって判別することができる。具体的には、ゾーン判定部56は、光学センサ161,162の2値信号がLH状態からHH状態に変化した場合は、ピアノ線12がゾーン0に存在し、HL状態からHH状態に変化した場合は、ピアノ線12がゾーン4に存在すると判定する。このようなゾーン判定部56の判定結果は、表示部58及びインタフェース60に通知される。
【0072】
上述した5つのゾーンのうち、光学センサ161,162の2値信号の組み合わせがLH状態となるゾーン1とHL状態となるゾーン3の幅は、図11に示すように、2つの光学センサ161,162のずれ量ΔXと同じ寸法になり、LL状態となるゾーン2の幅は、光束幅Wからずれ量ΔXを引いた寸法になる。このため、ゾーン判定部56の判定結果から、ピアノ線12の位置を定量的に知ることができる。このように各ゾーンの幅を厳密に設定できるのは、上述した相対値の演算により、2つの光学センサ161,162の相対出力特性が揃うことによる効果である。
【0073】
(表示部58)
表示部58は、ゾーン判定部56の判定結果を表示する。表示部58の構成は、ピアノ線12が存在するとゾーン判定部56が判定したゾーンが、上述した5つのゾーンのうちいずれのゾーンであるかが作業者の目視で判別できる構成であればよい。例えば、上述した5つのゾーンに対応するように5つの発光ダイオードを並べて配置し、そのうち1つを点灯させることにより、ピアノ線12が存在するとゾーン判定部56が判定したゾーンを視覚的に示す方法がある。このような表示部58をX方向位置検出部16及びX方向位置検出部16の脇にそれぞれ配置することにより、作業者は、発光ダイオードの点灯位置を見て、ピアノ線12の位置を認識することができる。
【0074】
(インタフェース60)
インタフェース60は、ゾーン判定部56の判定結果を外部に出力する。例えば、インタフェース60は、ゾーン判定部56の判定結果を無線装置によって外部の端末装置に送る。端末装置は、例えば、ガイドレールの据付作業を行なう作業者が持つ端末装置である。これにより、作業者は、ピアノ線の位置検出装置10から離れた位置で作業する場合でも、端末装置の画面を見てピアノ線12の位置を確認することができる。また、インタフェース60は、ピアノ線の位置検出装置10を遠隔操作するための制御信号を外部の端末装置から受け取ることもできる。遠隔操作するための制御信号としては、例えば、ピアノ線の位置検出装置10の電源を切断する指令信号や、2値化処理部54a,54bでの2値化処理に適用する閾値の変更を指示する信号などが考えられる。
【0075】
続いて、本実施形態に係るピアノ線の位置検出装置を用いてガイドレールの芯出しを行なう方法について説明する。
【0076】
まず、作業者は、ピアノ線の位置検出装置10を図示しない組立治具を利用して高精度に組み立てる。その際、作業者は、ピアノ線の位置検出装置10の筐体24をゲージの一部として、クリップ部32からピアノ線12の検出位置までの距離を高精度に管理して組み立てる。また、作業者は、光学センサ161,162の2値信号を外部機器等に出力してモニタすることにより、ピアノ線12を合わせるべき位置がゾーン2(2値信号の組み合わせがLL状態の区間)となるように、クリップ部32からピアノ線12の検出位置までの距離を調整する。距離の調整は、保護フィルム36a,36b(図3)を重ね貼りすることにより実施可能である。
【0077】
次に、作業者は、上述した距離の調整を終えたピアノ線の位置検出装置10を、クリップ部32によってガイドレール14に固定する。その際、作業者は、クリップ部32の第1の当接面32aをガイドレール14のX-Z基準面14aに接触(密着)させるとともに、第2の当接面32bをY-Z基準面14bに接触(密着)させる。これにより、クリップ部32は、マグネット34a,34bの磁気吸着力によってガイドレール14に固定される。
【0078】
ここで、本実施形態においては、ピアノ線の位置検出装置10の電源スイッチとしてマイクロスイッチ(図示せず)を使用し、このマイクロスイッチをクリップ部32に取り付けている。そして、上述のようにクリップ部32をガイドレール14に装着したときに、マイクロスイッチがガイドレール14と近接又は接触することによってオンされ、これによってピアノ線の位置検出装置10の電源が自動で投入される構成を採用している。ピアノ線の位置検出装置10の電源が投入されると、電源部22から回路基板20、センサ駆動部26、信号処理部28、光学センサ161,162,181,182等に電源が供給される。
【0079】
その際、基準値格納部50aは、装置電源投入時の光学センサ161の出力値を基準値として格納し、基準値格納部50bは、装置電源投入時の光学センサ161の出力値を基準値として格納する。この時点では、ガイドレール14の芯出しが行なわれていないため、ピアノ線12は、光学センサ161,162の検出範囲(光束)、及び、光学センサ181,182の検出範囲(光束)から外れた位置に存在する。このため、装置電源が投入されたときの光学センサ161の出力値を基準値格納部50aに格納することにより、発光部161aと受光部161bの間にピアノ線12がないときの光学センサ161の出力値を基準値として格納することができる。この点は、光学センサ162と基準値格納部50bについても同様である。このような基準値の格納は、X方向位置検出部16に対応する基準値格納部50a,50bと、Y方向位置検出部18に対応する基準値格納部の両方で行われる。なお、ピアノ線の位置検出装置10の電源スイッチは、作業者によって押圧操作される位置に設けられていてもよい。
【0080】
次に、作業者は、ピアノ線12を手で摘まんで筐体24の開口部30からピアノ線12を導入するとともに、光学センサ161,162の検出範囲、及び、光学センサ181,182の検出範囲をピアノ線12が横切るように、当該検出範囲を一度くぐらせる。具体的には、作業者は、光学センサ161,162の光束をピアノ線12がX方向に横切るように、ピアノ線12を動かす。また、作業者は、光学センサ181,182の光束をピアノ線12がY方向に横切るように、ピアノ線12を動かす。このとき、基準値格納部50aは、ピアノ線12の移動による光学センサ161の出力変化を監視する。そして基準値格納部50aは、装置動作中に得られた光学センサ161の最大の出力値が、装置電源投入時を含めて、それ以前に格納された基準値よりも大きい場合は、基準値を更新すべく、当該最大の出力値を基準値として格納する。この点は、光学センサ162に対応する基準値格納部50bや、光学センサ181,182に対応する基準値格納部についても同様である。このように、装置動作中における光学センサの最大の出力値を基準値として格納することにより、何らかの理由で光学センサの出力特性が変化した場合でも、その時々の光学センサの出力特性を反映した基準値を格納することができる。なお、基準値の格納は、装置電源投入時のみ行なってもよいし、装置動作中のみ行なってもよい。
【0081】
一方で、ゾーン判定部56は、上述のように作業者がピアノ線12を動かすことにより、自身の初期状態を解除した後、ゾーン判定処理を開始する。ゾーン判定処理の内容については前述したとおりである。
【0082】
ゾーン判定部56の判定結果は、インタフェース60を介して外部に出力される。出力の方法は様々である。例えば、有線で外部の機器に伝送する方法や、無線装置を介して無線で外部に送信する方法を選択することができる。ゾーン判定部56の判定結果を、インタフェース60を介して外部に出力することにより、ピアノ線の位置検出装置10から離れた場所でもピアノ線12の位置を確認することができる。また、ゾーン判定部56の判定結果を表示部58に表示することにより、作業者は、表示部58における発光ダイオードの点灯位置を見てピアノ線12の位置を認識することができる。これにより、作業者は、表示部58における発光ダイオードの点灯位置が、X方向及びY方向の両方でゾーン2を示すようにガイドレール14の位置を調整する。これにより、ガイドレール14の芯出しが完了する。
【0083】
以上述べたように、本実施形態に係るピアノ線の位置検出装置10は、基準値格納部50aに格納される基準値と光学センサ161の出力値とに基づいて相対値を演算し、この相対値を閾値で2値化することにより、ピアノ線12の有無を2値信号で出力する構成を採用している。これにより、光学センサ161の出力特性が、例えば図5に示す出力特性Bから出力特性Cの範囲内でばらつく場合でも、光学センサ161の相対出力特性を図10のように揃えることができる。この点は、他の光学センサ162,181,182についても同様である。これにより、光学センサの出力特性のばらつきに応じて抵抗値を調整したり、光学センサの出力特性を見て閾値を設定したりする必要がなくなる。このため、光学センサの調整作業の負担を軽減することができる。また、光学センサにスリット板を設けなくても、光学センサの相対出力(図10)をピアノ線12の有無によって大きく変化させることができる。このため、光学センサの検出幅(光束幅)をスリット板によって狭めることなく、より広い範囲でピアノ線12の位置を検出することができる。
【0084】
また、本実施形態において、基準値格納部50aは、ピアノ線12が光学センサ161の光束を遮っていないときの光学センサ161の出力値を基準値として格納する。これにより、光学センサ161の出力特性に適した基準値を基準値格納部50aに格納することができる。また、基準値格納部50bは、ピアノ線12が光学センサ162の光束を遮っていないときの光学センサ162の出力値を基準値として格納する。これにより、光学センサ162の出力特性に適した基準値を基準値格納部50bに格納することができる。この効果は、X方向位置検出部16に対応する信号処理部28のほか、Y方向位置検出部18に対応する信号処理部でも得られる。
【0085】
また、本実施形態において、X方向位置検出部16は、2つの光学センサ161,162を有し、これに対応して信号処理部28は、2つの基準値格納部50a,50bと、2つの相対値演算部52a,52bと、2つの2値化処理部54a,54bと、を有する。これにより、2つの光学センサ161,162の出力特性が異なる場合でも、抵抗値の調整なしに、2つの光学センサ161,162の相対出力特性を揃えることができる。この点は、Y方向位置検出部18とこれに対応する信号処理部についても同様である。
【0086】
また、本実施形態において、2つの光学センサ161,162は、X方向に所定量ΔXだけずれて配置され、ゾーン判定部56は、2つの2値化処理部54a,54bがそれぞれ出力する2値信号に基づいて、ピアノ線12の位置を5つのゾーンで判定する。これにより、ピアノ線12の位置を広い検出範囲をもって検出することができる。この点は、Y方向位置検出部18とこれに対応する信号処理部についても同様である。
【0087】
<変形例等>
なお、本発明の技術的範囲は上述した実施形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。また、上述した実施形態では、本発明の内容を理解しやすいように詳細に説明しているが、本発明は、上述した実施形態で説明したすべての構成を必ずしも備えるものに限定されない。
【0088】
例えば、上記実施形態においては、クリップ部32の第1の当接面32aに保護フィルム36aを貼り付けるとともに、クリップ部32の第2の当接面32bに保護フィルム36bを貼り付けているが、保護フィルム36a,36bは必要に応じて貼り付けてもよい。
【0089】
また、上記実施形態においては、好ましい例として、光学センサの最大の出力値を基準値として格納しているが、本発明はこれに限らない。例えば、光学センサの光束をピアノ線が遮っていないときに光学センサの出力値を複数回にわたって取得し、この取得した光学センサの出力値を平均した値(光学センサの平均の出力値)を基準値として格納してもよい。
【0090】
また、ピアノ線の位置検出装置10は、ガイドレール14の芯出しに限らず、例えば、敷居などの他の据付部材の芯出しに使用することも可能である。
【符号の説明】
【0091】
10…ピアノ線の位置検出装置、12…ピアノ線、42…光束、50a,50b…基準値格納部、52a,52b…相対値演算部、54a,54b…2値化処理部、56…ゾーン判定部、58…表示部、60…インタフェース、161,162,181,182…光学センサ
図1
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