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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024164880
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】高炉の操業方法
(51)【国際特許分類】
   C21B 5/00 20060101AFI20241121BHJP
【FI】
C21B5/00 323
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080566
(22)【出願日】2023-05-16
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】竹田 昂平
(72)【発明者】
【氏名】佐々野 裕介
(72)【発明者】
【氏名】右門 繁利
(72)【発明者】
【氏名】若山 陽之介
(72)【発明者】
【氏名】中山 祥太朗
(57)【要約】
【課題】高炉の出銑量を長期にわたって高位安定化させることが可能な、新規かつ改良された高炉の操業方法を提供する。
【解決手段】 本発明の要旨は以下である。
(1)
炉熱操作と、
荷下がり速度操作と、の双方の操作を行う高炉の操業方法であって、
前記炉熱操作の変更時刻と、前記荷下がり速度操作の変更時刻との時間差がX分である同時操作を実施し、一の同時操作の終了時刻と、一の同時操作の次の同時操作の終了時刻との時間差がY分以内である頻繁操作を実施する操業を20時間/日以上継続して行い、前記X及びYは、0≦X≦24、X×Y≦600、Y≦60、X≦Yを満たし、更に任意の20時間の間における主還元材比(kg/t-pig)の実績値の最大値と最小値の差が50(kg/t-pig)以下であることを特徴とする高炉の操業方法。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
補助還元材比、送風湿分、及び送風温度からなる群から選択される少なくとも1種の設定値を、変更時刻までの設定値の0.1%以上の変更量で変更する炉熱操作と、
送風流量、及び酸素富化量から選択される少なくとも1種の設定値を、変更時刻までの設定値の0.1%以上の変更量で変更する荷下がり速度操作と、の双方の操作を行う高炉の操業方法であって、
前記炉熱操作の変更時刻と、前記荷下がり速度操作の変更時刻との時間差がX分である同時操作を実施し、一の同時操作の終了時刻と、一の同時操作の次の同時操作の終了時刻との時間差がY分以内である頻繁操作を実施する操業を20時間/日以上継続して行い、前記X及びYは、0≦X≦24、X×Y≦600、Y≦60、X≦Yを満たし、更に任意の20時間の間における主還元材比(kg/t-pig)の実績値の最大値と最小値の差が50(kg/t-pig)以下であることを特徴とする高炉の操業方法。
【請求項2】
前記炉熱操作として前記補助還元材比を変更する場合、前記変更量を前記炉熱操作1回当たり3~45Mcal/t-pigとし、
前記炉熱操作として前記送風湿分を変更する場合、前記変更量を前記炉熱操作1回当たり1~12g/Nmとし、
前記炉熱操作として前記送風温度を変更する場合、前記変更量を前記炉熱操作1回当たり5~60℃とし、
前記荷下がり速度操作として前記送風流量を変更する場合、前記変更量を前記荷下がり速度操作1回当たり5~100Nm/minとし、
前記荷下がり速度操作として前記酸素富化量を変更する場合、前記変更量を前記荷下がり速度操作1回当たり60~1300Nm/Hrとすることを特徴とする、請求項1記載の高炉の操業方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉の操業方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼業においては、高炉法が銑鉄製造工程の主流を担っている。高炉法においては、高炉の炉頂から高炉用鉄系原料(酸化鉄を含む原料。主として、焼結鉱、塊鉱石、及びペレット。以下、単に「鉄系原料」とも称する)及び主還元材(塊コークス)を高炉内に交互かつ層状に装入する一方で、高炉下部の羽口から熱風を高炉内に吹き込む。熱風は、熱風とともに吹き込まれる補助還元材(微粉炭が典型例であるが、LNG、COG等の可燃性ガス、廃プラスチック等のリサイクル物等も補助還元材とされる場合がある)、及び、高炉内の主還元材と反応することで、高温の還元ガス(ここでは主としてCOガス)を発生させる。すなわち、熱風は、主還元材及び補助還元材をガス化させる。還元ガスは、高炉内を上昇し、鉄系原料を加熱しながら還元する。鉄系原料は、高炉内を降下する一方で、還元ガスにより加熱及び還元される。その後、鉄系原料は融着帯で軟化、溶融し、コークスによってさらに還元されながら高炉内を滴下する。鉄系原料は、最終的には炭素を5質量%弱含む溶銑(銑鉄)として炉底部に溜められる。炉底部の溶銑は、出銑口から取り出され、次の製鋼プロセスに供される。上記のような鉄系原料の還元反応を安定化させることで、高炉は長期にわたって高位安定した(バラつきの少ない)出銑量を保つことができる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000-129319号公報
【特許文献2】特開昭62-010203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、高炉の出銑量を長期にわたって安定化させることは高炉操業における重要な課題の1つである。従来は、鉄系原料の還元反応を安定化させるために、高炉炉内の炉熱や、高炉の炉頂から供給される鉄系原料及び主還元材の供給量を制御することが行われている。
【0005】
例えば、特許文献1、2には、高炉の出銑量を長期に安定化させることを目的とした技術が開示されている。具体的には、特許文献1には、還元反応に関連する高炉炉内の炉熱を制御する技術が開示されている。特許文献1に開示された技術では、炉熱レベルの指標として溶銑温度、または溶銑中のSi濃度等を用い、炉熱を目標値に制御するために送風温度を変更する。特許文献2には、還元反応に関連する炉頂からの鉄系原料及び主還元材の供給量(荷下がり速度)を制御する技術が開示されている。特許文献2に開示された技術では、還元反応の結果であるCO発生量を用いて、供給量を目標値に制御するために送風条件を変更する。
【0006】
特許文献1、2に開示された技術によれば、相応の効果が見込まれるものの、高炉の出銑量の長期安定化には改善の余地があった。
【0007】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、高炉の出銑量を長期にわたって高位安定化させることが可能な、新規かつ改良された高炉の操業方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の要旨は以下である。
(1)
補助還元材比、送風湿分、及び送風温度からなる群から選択される少なくとも1種の設定値を、変更時刻までの設定値の0.1%以上の変更量で変更する炉熱操作と、
送風流量、及び酸素富化量から選択される少なくとも1種の設定値を、変更時刻までの設定値の0.1%以上の変更量で変更する荷下がり速度操作と、の双方の操作を行う高炉の操業方法であって、
前記炉熱操作の変更時刻と、前記荷下がり速度操作の変更時刻との時間差がX分である同時操作を実施し、一の同時操作の終了時刻と、一の同時操作の次の同時操作の終了時刻との時間差がY分以内である頻繁操作を実施する操業を20時間/日以上継続して行い、前記X及びYは、0≦X≦24、X×Y≦600、Y≦60、X≦Yを満たし、更に任意の20時間の間における主還元材比(kg/t-pig)の実績値の最大値と最小値の差が50(kg/t-pig)以下であることを特徴とする高炉の操業方法。
(2)
前記炉熱操作として前記補助還元材比を変更する場合、前記変更量を前記炉熱操作1回当たり3~45Mcal/t-pigとし、
前記炉熱操作として前記送風湿分を変更する場合、前記変更量を前記炉熱操作1回当たり1~12g/Nmとし、
前記炉熱操作として前記送風温度を変更する場合、前記変更量を前記炉熱操作1回当たり5~60℃とし、
前記荷下がり速度操作として前記送風流量を変更する場合、前記変更量を前記荷下がり速度操作1回当たり5~100Nm/minとし、
前記荷下がり速度操作として前記酸素富化量を変更する場合、前記変更量を前記荷下がり速度操作1回当たり60~1300Nm/Hrとすることを特徴とする、(1)記載の高炉の操業方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の上記観点によれば、高炉の出銑量を長期にわたって高位安定化させることが可能となる。例えば、後述する実施例に示される通り、顕著な出銑量の低下(1日当たりの出銑量が平均値の3%以上少ない)を1カ月で1度も発生させず、出銑量を安定化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】融着帯高さの変動による通気ルートの変動の様子を模式的に示す説明図である。
図2】融着帯高さの変動の様子及び変動の抑制を模式的に示す説明図である。
図3】融着帯高さの変動抑制操作による通気状況の変化を模式的に示す説明図である。
図4】炉熱操作と荷下がり速度操作とを同時に行った場合の通気状況の変化を模式的に示す説明図である。
図5】主還元材比の実績値の最大値と最小値の差を50kg/t-pigを超えて変動させた場合の通気状況の変化を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本実施形態において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。また、本実施形態における各用語の定義は以下の通りである。
【0012】
送風流量は、羽口から高炉内に吹き込む送風空気の単位時間あたりの流量(単位:Nm/min)をいう。酸素富化量は、羽口から高炉内に吹き込む送風酸素(空気中の酸素を除く)の単位時間あたりの流量(単位:Nm/hr)をいう。補助還元材は、微粉炭、粉コークス、廃プラスチック、高炉ガス、コークス炉ガス、天然ガス、水素ガス、あるいはこれらを改質処理した物質等を単独あるいは混合して、羽口から高炉内に吹き込むものを指し、補助還元材比は、溶銑1t製造あたりに吹き込む補助還元材の発熱量(単位:Mcal/t-pig)をいう。還元材比は、主還元材比に補助還元材比を加算したもの(単位:Mcal/t-pig)をいう。主還元材は、塊コークス、小塊コークスを主として、高炉の炉頂から装入されるものを指し、主還元材比は、溶銑1t製造あたりに装入する主還元材の量(単位:kg/t-pig)、または、溶銑1t製造あたりに装入する主還元材の発熱量(単位:Mcal/t-pig)をいう。送風湿分は、羽口から高炉内に吹き込む熱風(送風空気と送風酸素との混合気体)1Nmあたりに含まれる蒸気量(単位:g/Nm)をいう。送風温度は、上記熱風の温度(単位:℃)をいう。
【0013】
<1.本発明者による知見>
(1-1-1.高炉操業の形態)
まず、本実施形態の基礎となる本発明者による知見について説明する。高炉法においては、高炉の炉頂から高炉用鉄系原料(酸化鉄を含む原料。主として、焼結鉱、塊鉱石、及びペレット。以下、単に「鉄系原料」とも称する)及び主還元材(主として、塊コークス。以下単に「コークス」とも称する)を高炉内に交互かつ層状に装入する一方で、高炉下部の羽口から熱風を高炉内に吹き込む。
【0014】
高炉炉内に装入されたコークスと鉄系原料(以下、これらをまとめて「高炉装入物」とも称する)の温度は、高炉装入物の最上層で最も低く、高炉下部に向かって上昇し、高さが最も低い炉底でもっとも高くなる。炉底での高炉装入物の温度は概ね1550℃程度となる。なお、熱風を高炉炉内に供給する羽口の近傍では、高炉装入物の温度が炉底での温度よりも若干高くなる。
【0015】
ここで、高炉下部の銑鉄生成にともなって高炉装入物が消費されるため、炉頂から装入された高炉装入物は高炉装入物の消費に伴って高炉下部へ下降する(このような高炉装入物の下降を「荷下がり」とも称する)。高炉装入物の下降に伴って高炉装入物の温度が上昇する。
【0016】
鉄系原料は、高炉内の所定高さにおいて軟化を開始し、溶融を完了する。このときの高炉装入物の温度域は例えば1100~1400℃となっており、このような温度域の部分は一般に融着帯と称されている。融着帯よりも上方では、溶融していないコークス粒子と溶融していない鉄系原料粒子とが交互に積層されている。一方、融着帯よりも下方では、溶融していないコークス粒子と溶融した鉄系原料が存在し、コークス粒子の充填層(すなわちコークス層)内の空隙を通じて溶融した鉄系原料が還元されながら高炉下部に向かって滴下すると考えられている。
【0017】
図1は、融着帯高さの変動による通気ルートの変動の様子を模式的に示す説明図である。図1(a)は後述する炉熱操作及び荷下がり速度操作のいずれも行っていない場合の通気ルート及び融着帯の分布を示し、図1(b)は融着帯を上昇させる荷下がり速度操作を行った場合の通気ルート及び融着帯の分布を示す。
【0018】
図1では、融着帯を構成する高炉装入物のうち、軟化開始~溶融完了した状態の鉄系原料部分を黒色で示す(黒色部分は融着層とも称される)。コークス層は着色されていない。融着帯は高炉の高さ方向に平行な断面において逆V字型の形状をなしている。また、図1(a)、(b)によれば、荷下がり速度操作によって融着帯の分布が変動し、通気ルートが変動することがわかる。
【0019】
融着帯よりも下方にある羽口から熱風が高炉内に吹き込まれる。融着帯よりも下方の領域ではコークス層内の隙間(コークス粒子の間隙)を熱風が流れる。融着帯では鉄系原料が融着層を形成しているため、熱風の大部分は融着層間のコークス層のみを流れる。融着帯よりも上方の領域では、コークス粒子および鉄鉱石粒子の間隙を熱風が流れる。
【0020】
熱風が流れる場所(通気ルート)が高炉内で偏ることなく安定すると、鉄鉱石の還元反応が安定して継続的に行われ、出銑量(銑鉄生産)が長期にわたって高位安定化する(高い値で安定する)と考えられる。
【0021】
しかし、通気ルートが高炉炉内の一部に偏る等、不安定になると、高炉炉内のいずれかの部位に着目した場合に、当該部位における鉄系原料の還元反応が断続的に進行するようになる。例えば、あるタイミングでは当該部位に熱風が流れるために還元反応が進行するが、他のタイミングでは当該部位に熱風が流れないために還元反応が進行しないといったことが起こりうる。さらに、還元反応が起こる場所も偏る。このため、出銑量が急激に減少する不具合を招く場合があるものと考えられる。
【0022】
ここで、鉄系原料が軟化開始~溶融完了する領域である融着帯には、常に融着帯の上方より鉄系原料粒子及びコークス粒子が供給され、融着帯の下方ではコークス粒子と溶融した鉄系原料が排出される。このため、例えば融着帯よりも下方の領域における熱量の大小等の都合により、融着帯が高炉高さ方向に上昇したり下降したりする。すなわち、融着帯は常に上昇または下降しようとする傾向がある。
【0023】
このような融着帯は鉄系原料の還元反応サイトの主要部分の一つであることが知られている。したがって、融着帯での鉄系原料と熱風との安定した還元反応を継続することが、出銑量の長期にわたる高位安定化にとって重要である。
【0024】
しかし上述した通り、例えば融着帯はその下方の領域における熱量の大小等の都合により上下に移動しようとする傾向がある。このような動きがあるために、融着帯では、融着帯のコークス層部分に集中する通気ルートが偏る等の不安定が発生しやすい。したがって、このような融着帯の上下の移動を抑制できなければ出銑量が急激に減少しうる。
【0025】
(1-1-2.融着帯の高さ位置について)
融着帯の形状(高炉の高さ方向に平行な断面における形状)については、逆V字形状、W字形状、等々、種々の従来技術が提唱されている。融着帯がどのような形状をとるにしても、融着帯の高さ位置の変動状況次第では(逆V字形状、W字形の形状特徴は変わらないものと考えられるが)通気ルートの大きな変動を招き、還元反応の不調につながる場合がある。
【0026】
融着帯の高さ位置は、融着帯の下方から融着帯への熱供給、例えば炉熱と、融着帯から高炉上方への抜熱、例えば融着帯への抜熱物(すなわち高炉装入物)の供給指標となる荷下がり速度とのバランスで決定されるため、炉熱の制御または荷下がり速度の制御によって、融着帯の高さ位置を制御できる。上述した特許文献1では炉熱の制御を行い、特許文献2では荷下がり速度の制御を行う。
【0027】
ここで、炉熱の制御、すなわち炉熱操作と、荷下がり速度の制御、すなわち荷下がり速度操作とのいずれを行っても、融着帯を上昇または下降させることができる。例えば、炉熱操作として補助還元材比を増加させる操作を行った場合、融着帯は上昇する。また、荷下がり速度操作として送風流量を増加させた場合、融着帯は下降する。そこで、以下の説明では、炉熱操作及び荷下がり速度操作のうち、融着帯を上昇させる操作を融着帯上昇操作とも称し、融着帯を下降させる操作を融着帯下降操作とも称する。また、炉熱操作及び荷下がり速度操作をまとめて融着帯移動操作とも称する。
【0028】
上述したように、融着帯の高さ位置は、常に上昇または下降しようとする。このため、定常的な融着帯移動操作の実行によって図2のように融着帯を元の位置に戻す(元の位置に移動させる)ことで、融着帯の高さ位置の変動が抑制できて還元反応が安定して行われるようになる。この結果、長期にわたる出銑量の高位安定化が可能になる。
【0029】
ここで、図2は、融着帯高さの変動の様子及び変動の抑制を模式的に示す説明図である。図2(a)に示す融着帯の高さ位置がN時間後(例えば1時間後)に図2(b)に示す高さ位置に下降したとする。この場合、通気が可能な融着帯のコークス層部分は6段から5段に減少する。この減少に伴い、融着帯中のコークス層部分を通過する熱風量が変動する。この時点で融着帯上昇操作を行うと、(b)の融着帯高さ位置は(a)の位置に戻る。(b)の時点で融着帯上昇操作を行わずにさらにN時間が経過した場合、融着帯の高さ位置は例えば(c)の位置までさらに下降する。この場合、通気が可能な融着帯のコークス層部分が2段となっている。
【0030】
上記のように、融着帯における通気の状態(通気が可能なコークス層の段数)は融着帯の高さ位置の変動によって変動することが判る。なお、図2(b)の高さ位置から図2(a)の高さ位置に戻したい場合、融着帯上昇操作を1段分行えばよいが、図2(c)の高さ位置から図2(a)の高さ位置に戻したい場合、融着帯上昇操作を4段分行う必要がある。詳細は後述するが、図2(b)の段階で融着帯上昇操作(融着帯の高さ位置の変動を抑制する操作)を行った方が、短時間で融着帯の高さ位置を戻すことができ、かつ通気ルートが安定する。この結果、長期にわたる出銑量の高位安定化が可能になる。
【0031】
なお、融着帯の高さ位置の推定方法は例えば、特公昭63-61367号公報、田島ら:鉄と鋼、68(1982)、p.2287に記載されている。
【0032】
(1-2.従来技術の課題と本発明の概要について)
(1-2-1.従来技術について)
特許文献1、2に開示された技術は、安定な還元反応の実現に必要な炉熱または原料供給量を制御する技術であり、融着帯の高さ位置の変動抑制、ひいては融着帯における通気ルートの変動の抑制による出銑量の急激な低下防止に相応の効果があると考えられる。しかしながら、出銑量を長期にわたって高位安定化することはできない。その理由について検討する前に、特許文献1、2に開示された技術の概要を説明する。
【0033】
特許文献1に開示された技術では、炉熱(溶銑温度)を目標値に設定するために、熱風の送風温度を変更する。送風温度を高温側へ変更する場合、融着帯は、供給される送風温度の増加とともに、変更前に融着帯だった位置よりも更に上部方向へ移動することとなる。
【0034】
特許文献2に開示された技術では、荷下がり速度を目標値に設定するために、熱風の送風条件である熱風の送風流量を変更する。送風流量を減少させる場合、融着帯下方での主還元材の消費速度が低下し、荷下がり速度が低下(すなわち融着帯から上方への抜熱量が低下)する。このため、送風流量の減少とともに、融着帯は、変更前に融着帯だった位置よりも更に上部方向へ移動することとなる。
【0035】
以上の通り、特許文献1、2に開示された技術のように、炉熱及び荷下がり速度の一方のみを変更することで、融着帯の高さ位置を修正することができる。そして、融着帯の高さ位置を修正することで、融着帯の高さ位置の変動を抑制し、ひいては融着帯の高さ位置変動による通気ルートの変動を抑制することができる。なお、ここでいう炉熱操作には補助還元材比、送風温度、送風湿分等の変更が含まれ、荷下がり速度操作には送風流量、酸素富化量等の変更が含まれる。
【0036】
しかしながら、特許文献1、2に開示された技術のように、炉熱及び荷下がり速度の一方のみを変更するだけでは、低い頻度ながら一定の確率で還元反応の不調をきたし、長期にわたる出銑量の高位安定化を図ることは出来なかった。
【0037】
詳細は後述するが、特許文献1、2に開示された技術のように、炉熱及び荷下がり速度の一方のみを変更する場合、炉熱操作及び荷下がり速度操作の操作量が過大となる。一方で、融着帯の高さ位置の変動を抑制するための炉熱操作(送風温度変更等)及び荷下がり速度操作(送風流量変更等)自体が通気ルートの変動を招く要因でもある。このため、本発明者は、特許文献1、2に開示された技術では、炉熱操作及び荷下がり速度操作の操作量が過大となるために、これらの操作によって通気ルートの変動が招かれていると推定した。そして、本発明者は、このような通気ルートの変動により、長期にわたる出銑量の高位安定化を図ることができなかったと考えた。
【0038】
(1-2-2.従来技術の課題)
上述したように、炉熱及び荷下がり速度の一方のみを変更することによって融着帯の高さ位置の変動を抑制し、融着帯における通気ルートの変動を抑制しようとしても、長期にわたる出銑量の高位安定化を図ることができなかった。
【0039】
ここで、融着帯の高さ位置の変動を抑制する操作とは、高さ位置が変動した融着帯を元の位置に再度変動させる操作(制御)を意味する。しかし、特許文献1、2に開示された技術では、融着帯を元の位置に変動させる際に、コークス層内の通気ルートに顕著な変動が生じていると考えられる。
【0040】
送風温度を上昇させることで炉熱を制御する場合や、送風流量を減少させることで荷下がり速度を制御する場合、融着帯が上方へ移動することとなる。この際、送風温度を上昇させた場合はコークス粒子の粒子径が減少し、送風流量を減少させた場合はコークス粒子のかさ密度が増加する。
【0041】
図3は、融着帯高さの変動抑制操作による通気状況の変化を模式的に示す説明図である。コークス粒子の粒子径またはかさ密度が大きく変化すると、コークス層を流れるガスの通気ルートが変化する(例えば図3の(1)から(2)への変化、(1)から(3)への変化)。このため、融着帯の鉄系原料層とコークス層との境界を流れる熱風量が変動し、還元反応が不安定化する。
【0042】
特許文献1、2に開示されている通り、炉熱及び荷下がり速度の一方のみを変更することで融着帯の高さ位置の変動を抑制しようとする場合、炉熱操作及び荷下がり速度操作の操作量が大きくなり、その結果コークス粒子の粒子径またはかさ密度が大きく変化し、通気ルートの変動が生じていると本発明者は考えた。
【0043】
特許文献1、2に開示された技術において、炉熱操作及び荷下がり速度操作が大きくなりやすい理由は以下の通りである。高炉炉内で炉熱または荷下がり速度が変動すると、還元反応状態が変動し、更なる荷下がり速度または炉熱の変動を誘発する。
【0044】
具体的には、炉熱が低下した場合は、直接還元の割合(鉄系原料の還元反応に占める直接還元の割合)が増加したと考えられる。直接還元反応は吸熱反応だからである。直接還元反応では、以下の化学式で示される通り、還元材の単位mol当たりの銑鉄生産量が多い。
FeO+C→Fe+CO -37880kcal/mol
したがって、直接還元の割合の増加の影響により、その後に荷下がり速度の上昇を招く。そして、荷下がり速度が上昇した場合は、鉄系原料が十分に還元されずに炉下部に荷下がりするので、直接還元の増加を招く。このため、その後に炉熱の低下を招きやすい。一方で、炉熱が上昇した場合は、間接還元の割合が増加したと考えられる。間接還元反応は発熱反応だからである。間接還元反応では、以下の化学式で示される通り、直接還元反応に比べて、還元材の単位mol当たりの銑鉄生産量が低い。
FeO+4CO→Fe+3CO+CO +3340kcal/mol
したがって、間接還元の割合の増加の影響により、荷下がり速度の低下を招く。そして、荷下がり速度が低下した場合は、鉄系原料が間接還元により十分に還元された後に炉下部に荷下がりする。すなわち、間接還元の割合が増え、直接還元の割合が減る。このため、その後に炉熱の上昇を招きやすい。
【0045】
その結果、炉熱が低下した場合はその後の荷下がり速度の上昇の影響を受けて更なる炉熱低下を招き、荷下がり速度が上昇した場合はその後の炉熱の低下の影響を受けて更なる荷下がり速度の上昇を招きやすくなる。同様に、炉熱が上昇した場合はその後の荷下がり速度の低下の影響を受けて更なる炉熱上昇を招き、荷下がり速度が低下した場合はその後の炉熱の上昇の影響を受けて更なる荷下がり速度の低下を招きやすくなる(これらをまとめて、副次的影響と呼ぶ)。また、この副次的影響は連鎖的な反応であるため、副次的影響による融着帯の変動代、例えば低下代は、時間の経過とともに大きくなる場合がある。
【0046】
このため、例えば特許文献1のように炉熱が低下した場合に炉熱操作(例えば送風温度増加)のみを実施、あるいは特許文献2のように荷下がり速度が上昇した場合に荷下がり速度操作(例えば送風流量減少)のみを実施して融着帯の高さ位置の変動を抑制する場合、前者ではその後の炉熱低下分を含めた大きな炉熱操作量が必要となり、後者ではその後の荷下がり速度上昇分を含めた大きな荷下がり速度操作量が必要となる。
【0047】
そして、このような大きな操作量によりコークス粒子の粒子径またはかさ密度が大きく変化し、通気ルートの変動が生じうる。このような通気ルートの変動により、融着帯の鉄系原料層とコークス層との境界を流れる熱風量が変動し、還元反応が不安定化する。この結果、特許文献1、2に開示された技術では、長期にわたる出銑量の高位安定化を図ることができないと考えられる。
【0048】
そこで、本発明者は、上述の副次的影響を低減し通気ルートの変動を抑制できる操作、すなわちコークスの粒子径とかさ密度の双方の変化を最小限に留める融着帯移動操作を行えば、従来技術の課題を解決できるのではないかと考えた。そして、本発明者は、このような知見の下、本発明に想到した。
【0049】
<2.本発明の構成>
本発明に係る高炉の操業方法は以下の通りである。すなわち、本発明に係る高炉の操業方法は、補助還元材比、送風湿分、及び送風温度からなる群から選択される少なくとも1種の設定値を、変更時刻までの設定値の0.1%以上の変更量で変更する炉熱操作と、送風流量、及び酸素富化量から選択される少なくとも1種の設定値を、変更時刻までの設定値の0.1%以上の変更量で変更する荷下がり速度操作と、の双方の操作を行う高炉の操業方法である。本発明に係る高炉の操業方法は、さらに、炉熱操作の変更時刻と、荷下がり速度操作の変更時刻との時間差がX分である同時操作を実施し、一の同時操作の終了時刻と、一の同時操作の次の同時操作の終了時刻との時間差がY分以内である頻繁操作を実施する操業を20時間/日以上継続して行う。X及びYは、0≦X≦24、X×Y≦600、Y≦60、X≦Yを満たし、更に任意の20時間の間における主還元材比(kg/t-pig)の実績値の最大値と最小値の差が50(kg/t-pig)以下である。これにより、本発明は、長期にわたる出銑量の高位安定化を図ることができる。以下、本発明がこのような構成を採用している理由を説明する。
【0050】
荷下がり速度操作として、送風流量または酸素富化量を減少させる操作を行った場合、高炉装入物の消費が抑制されるため融着帯への高炉装入物(抜熱物)の供給が減少し、融着帯が上昇する。さらに、コークス粒子間を通過する熱風量が減少することになるため、高炉炉内に積層しているコークス粒子のかさ密度(粒子の積層状態)が増加する。
【0051】
荷下がり速度操作として、送風流量または酸素富化量を増加させる操作を行った場合、高炉装入物の消費が促進されるため融着帯への高炉装入物(抜熱物)の供給が増加し、融着帯が下降する。さらに、コークス粒子間を通過する熱風量が増加することになるため、高炉炉内に積層しているコークス粒子のかさ密度(粒子の積層状態)が減少する。
【0052】
一方、炉熱操作を行った場合、コークス粒子の粒子径が変動する。具体的には、補助還元材比を増加させた場合、融着帯は上昇しコークス粒子径は増加する。送風温度を増加させた場合、融着帯は上昇しコークス粒子径は減少する。送風湿分を増加させた場合、融着帯は下降しコークス粒子径は増加(減少速度が低下)する。補助還元材比、送風温度、または送風湿分を減少させた場合、上記と逆の現象が生じる。
【0053】
本発明では、炉熱操作と荷下がり速度操作との双方を同時に行う(以降、「双方操作」と称する)。例えば、炉熱が低下した場合(融着帯は下降)に、炉熱を上昇させる炉熱操作(例えば補助還元材比増加)に加えて荷下がり速度を減少させる操作(例えば送風流量減少)を実行する。なお、これらの操作はいずれも融着帯上昇操作となる。これにより、上述した副次的影響(炉熱低下後の荷下がり速度上昇による更なる炉熱低下)を荷下がり速度操作(すなわち、荷下がり速度を減少させる操作)により抑制しつつ、融着帯を上昇させることができる。すなわち、融着帯の高さ位置の変動を抑制することができる。なお、炉熱の変動は例えば高炉から出銑された溶銑滓(溶銑及び溶融スラグ)の温度および/または成分により検出することができる。
【0054】
同様に、荷下がり速度が上昇した場合(融着帯は下降)に、荷下がり速度を減少させる荷下がり速度操作(例えば送風流量減少)に加えて炉熱を上昇させる炉熱操作(例えば補助還元材比増加)を実行する。なお、これらの操作はいずれも融着帯上昇操作となる。これにより、上述した副次的影響(荷下がり速度上昇後の炉熱低下による更なる荷下がり速度上昇)を炉熱操作(すなわち、炉熱を上昇させる操作)により抑制しつつ、融着帯を上昇させることができる。すなわち、融着帯の高さ位置の変動を抑制することができる。なお、荷下がり速度の変動は例えば高炉上部における高炉装入物の堆積表面の高さの時間変化により検出することができる。
【0055】
図4は、炉熱操作と荷下がり速度操作とを同時に行った場合の通気状況の変化を模式的に示す説明図である。なお、図4には、対比のために炉熱操作及び荷下がり速度操作のいずれか一方のみを実施した場合の通気状況の変化(図3と同様の図)も併せて示す。
【0056】
本発明では、図4中の(1)から(4)への変化のように、融着帯の高さ位置の変動抑制にあたり、炉熱操作と荷下がり速度操作を同時に行う。これにより、特許文献1、2に開示された技術のように炉熱操作及び荷下がり速度操作のいずれか一方のみを行う場合に比べて、上述の副次的影響を低減することができる。例えば、荷下がり速度が上昇した場合、副次的影響として、荷下がり速度上昇後の炉熱低下による更なる荷下がり速度上昇が想定される。しかし、本発明では、荷下がり速度を減少させる荷下がり速度操作に加えて、炉熱を上昇させる炉熱操作を行う。これにより、荷下がり速度上昇後の炉熱低下を抑制することができるので、荷下がり速度上昇後の炉熱低下による更なる荷下がり速度上昇を抑制することができる。このため、それぞれの操作量を小さくすることができ、ひいては、コークス粒子径及びかさ密度の大きな変化を防止することができる。この結果、融着帯の高さ位置変動抑制操作(融着帯移動操作)による通気ルートの顕著な変動を抑制し、ひいては還元反応を安定化させることができる。すなわち、長期にわたる出銑量の高位安定化を図ることができる。なお、本実施形態において、「同時操作」とは、炉熱操作の変更時刻と荷下がり速度操作の変更時刻との時間差Xが短いことを差し、その短さの程度であるXは、0分から24分程度である。また、炉熱操作と荷下がり速度操作とを「同時」に行う限り、操作の順番は特に制限されない。本願発明者らの知見では、炉熱操作の変更時刻と荷下がり速度操作の変更時刻との時間差Xが10分以下であれば、副次的影響は無視できるほど微量であり、それより大きい場合は、Xの値が大きくなるほど、副次的影響も大きくなる。後述するように、Xが10分より長い場合、頻繁操作の時間差Yを短くすることによって、副次的影響を低減するようにしている。
【0057】
上述したように、融着帯の高さ位置は、常に上昇または下降しようとする。したがって、融着帯移動操作を長期間行わない場合は、融着帯の移動量が大きくなり、たとえ炉熱操作及び荷下がり速度操作を同時に行い副次的影響を低減したとしても、各々の操作量が大きくなる可能性がある。各々の操作量が大きくなると、コークス層内のコークス粒子径及びかさ密度が大きく変動する。すなわち、通気ルートが大きく変動する。この結果、長期にわたる出銑量の高位安定化が図れない可能性がある。そこで、本発明では、融着帯移動操作(同時操作の融着帯移動操作)の操作頻度を多くして、1回当たりの融着帯移動操作の操作量を小さくする。すなわち、本発明では、一の同時操作の終了時刻と、一の同時操作の次の同時操作の終了時刻との時間差Yが60分以内となるように「頻繁操作」を実施する。これにより、通気ルートの顕著な変動を抑制でき、ひいては長期にわたる出銑量の高位安定化を図ることができる。
【0058】
上述したように、融着帯高さ位置を一定に維持するための融着帯高さ位置の移動量は、副次的影響が大きくなるほど、または、一の融着帯移動操作が終了してからの時間が経過するほど大きくなるため、融着帯移動操作を頻繁に行えば(すなわち、一の同時操作の終了時刻と、一の同時操作の次の同時操作の終了時刻との時間差Yを小さくすれば)、融着帯高さ位置の変動量と副次的影響を小さくすることができる。本願発明者らの知見では、炉熱操作の変更時刻と、荷下がり速度操作の変更時刻との時間差Xが10分より長くなってしまった場合でも(すなわち一の融着帯移動操作が終了してからの時間が10分より長くなってしまった場合でも)、X×Y≦600の関係を保ち、一の同時操作の終了時刻と、一の同時操作の次の同時操作の終了時刻との時間差Yを小さくすることができれば、副次的影響が多少大きくなることを加味しても融着帯高さ位置の時間経過による変動量と副次的影響が小さくなり、結果として、融着帯の高さを一定にするための操作量を小さくできる。
【0059】
なお、上記から明らかなように、定義上、炉熱操作の変更時刻と荷下がり速度操作の変更時刻との時間差Xは、一の同時操作の終了時刻と、一の同時操作の次の同時操作の終了時刻との時間差Y以下となる(すなわち、X≦Yである)。
したがって、Xは、X≦Y及びX×Y≦600を満たす必要があるので、Xの上限値はX=YとX×Y=600の交点座標から求まる24分となる。
ここで、一の同時操作における炉熱操作の変更時刻と荷下がり操作の変更時刻との時間差Xを一定とし、当該一の同時操作の終了時刻と次の同時操作の終了時刻の時間差Yを上記したX×Y≦600の範囲で短くした場合、X=Yとなるまで本発明の効果は継続する。ただし、X>Yとなると、同時操作の作用はY、頻繁操作の作用はXの影響を受けるという入れ替えの状況になるため、X、Y、を入れ替える定義変更が必要となる。そこで、本発明では当該状況に基づき、X≦Yとした。
【0060】
さらに、本発明では、上記の操業(すなわち0≦X≦24、Y≦60、X×Y≦600となる操業)を、炉芯を含む高炉炉内の原料が大幅に入れ替わる時間以上に継続して行う。これにより、融着帯の高さ位置の変動を抑制し、長期にわたる出銑量の高位安定化を図ることが可能となる。継続時間は、24時間/日継続が好ましいが、少なくとも20時間/日以上であれば、長期にわたる出銑量の高位安定化を図ることができる。以降、20時間/日以上、上記の「双方操作」、「同時操作」、「頻繁操作」、X×Y≦600の関係を保った操業を継続することを、「連続操作」と称する。
【0061】
なお、上記では、融着帯上昇操作となる炉熱操作及び荷下がり速度操作の組合せの同時操作について説明したが、融着帯下降操作となる炉熱操作と荷下がり操作の組合せの同時操作を行った場合にも通気ルートの顕著な変動を抑制できるのは言うまでもない。
【0062】
また、以上説明した、通気ルートの顕著な変動を伴わずに融着帯の高さ位置の変動を抑制する制御は、少なくとも一の炉熱操作と、少なくとも一の荷下がり速度操作の組合せで実現できる。したがって、例えば炉熱を低下させる炉熱操作(融着帯下降操作)と荷下がり速度を低減する荷下がり速度操作(融着帯上昇操作)の組合せ、つまり融着帯の移動方向が互いに逆方向となる融着帯移動操作を同時に行っても、長期にわたる出銑量の高位安定化を図ることができる。ただし、このような組み合わせの同時操作を行う頻度は少ないことが好ましい。
【0063】
このような組合せの同時操作を行っても、融着帯の高さ位置の修正量は少ないが、コークスの粒子径及びかさ密度(粒子の積層状態)を継続的に変動させることができる。したがって、上述の副次的影響が小さい場合、すなわち炉熱や荷下がり速度の変化が軽微な場合に限っては、当該同時操作は、以後の融着帯の高さを修正する際に、通気ルートの顕著な変動の抑制に寄与すると考えられる。
【0064】
上述の通り、連続操作の継続実施によって、通気ルートの顕著な変動が抑制できるが、任意の20時間の間における主還元材比(コークス比)の実績値の最大値と最小値の差が50kg/t-pigより大きい場合は、その限りではない。主還元材比(コークス比)は、上述のコークス層の厚みを決定する指標であり、その変化幅が大きい場合、例えば50kg/t-pigを超えて増加する場合、融着帯において、大半の還元ガスの通り道であるコークス層の厚みが顕著に増加するため
コークス層の圧力損失が顕著に低下し、通気ルートの変化が必ず起こってしまう。よって、通気ルートの顕著な変動を招き、長期にわたる出銑量の高位安定化効果が得られない(図5参照)。よって、上述した安定操業の効果は、任意の20時間の間における主還元材比(コークス比)の実績値の最大値と最小値の差が50kg/t-pig以下した場合のみ安定して享受できる。任意の20時間の間における主還元材比(コークス比)の実績値の最大値と最小値の差の下限値は特に制限されないが、2kg/t-pigであってもよい。
【0065】
ここで、上述した炉熱操作及び荷下がり速度操作が「実績値」ではなく「設定値」を変更する操作である理由について説明する。なお、本発明における「設定値」は「目標値」と同義である。すなわち、高炉操業の各パラメータが「設定値」に一致するように高炉操業が行われる。
【0066】
一般的に送風流量及び酸素富化量等の実績値は設定値に対して一定の誤差を含むのが通例であり、各時刻の瞬間の実績値は設定値付近で変動する。ただし、実績値の一定期間の平均値は設定値と実質的にほぼ一致する(例えば送風流量及び酸素富化量の実績値と設定値の偏差は、1分瞬時値では0.0~1.0%程度であるが、10分平均値では例えば0.1%未満となり、実績値と設定値は実質的に一致する)。
【0067】
一方、高炉は時定数の長いプロセスであり、短時間(例えば1分)の実績値の変動では融着帯の高さは修正されず、一定期間以上の送風流量及び補助還元材比等の実績平均値(本願発明者らの知見では10分程度かそれ以上の期間の平均値)の変化によって初めて融着帯の高さが修正される。そのため、融着帯の高さを修正するために設定値を変更する必要がある。設定値を変更することで、一定期間以上の送風流量及び補助還元材比等の実績平均値が変動し、ひいては、融着帯の高さ位置が修正される。
【0068】
さらに、上述した炉熱操作及び荷下がり速度操作では、変更時刻までの設定値の0.1%以上の変更量で設定値を変更する必要がある。本発明者の知見によれば、0.1%未満の変更量で送風流量及び還元材比(主還元材比に補助還元材比を加算したもの)等を変更しても、融着帯の高さの修正は不可能であった。したがって、上述した炉熱操作及び荷下がり速度操作では、変更時刻までの設定値の0.1%以上の変更量で設定値を変更する必要がある。
【0069】
さらに、上述した炉熱操作及び荷下がり速度操作では、変更時刻までの10分間の設定値の平均値に対して、変更時刻以降の10分間の設定値の平均値を0.1%以上の変更量で変更することが好ましい。上述したように、高炉は時定数の長いプロセスであるため、ある程度の時間(ここでは10分間)における設定値の平均値に着目することで、設定値をより有意に変更することができる。
【0070】
<3.各パラメータの具体的な範囲の例>
上述したように、融着帯の高さ位置を修正するためには、設定値の変更量を変更前の設定値の0.1%以上とする必要がある。融着帯の高さの修正を目的とした還元材比の変更操作は、一般的に補助還元材比で行われる。コークスは装入してから羽口先に到達するまで8時間程度の時間を要するためである。すなわち、補助還元材比の設定値は、補助還元材比そのものではなく、主還元材比を含めた還元材比で表されることがある。還元材比は、コークスに関する諸条件等によって高炉毎に異なるが、概ね3000~4000Mcal/t-pigとなる。したがって、補助還元材比の変更量は炉熱操作1回当たり3Mcal/t-pig(3000Mcal/t-pigの0.1%)以上とすることが好ましい。この補助還元材比の1回当たりの操作量3Mcal/t-pigを熱量等価で換算すると、送風湿分では1g/Nm、送風温度では5℃になる。
【0071】
一方、補助還元材比等の変更は、積層を形成するコークスの粒子径に影響を与える。したがって、1回の変更量が過大になった場合、コークスの粒子径が急速に大きく変化することによって通気ルートの変動を招き、出銑量の高位安定化効果は不十分となる可能性がある。本発明者の知見によると、補助還元材比の1回当たりの操作量が45Mcal/t-pig以内であれば、コークス粒子の積層状態の変化が小さく通気ルートの変動の抑制が可能であった。この補助還元材比の1回当たりの操作量45Mcal/t-pigを熱量等価で換算すると、送風湿分では12g/Nm、送風温度では60℃になる。
【0072】
したがって、炉熱操作として補助還元材比を変更する場合、補助還元材比の変更量を炉熱操作1回当たり3~45Mcal/t-pigとすることが好ましい。炉熱操作として送風湿分を変更する場合、送風湿分の変更量を炉熱操作1回当たり1~12g/Nmとすることが好ましい。炉熱操作として送風温度を変更する場合、送風温度の変更量を炉熱操作1回当たり5~60℃とすることが好ましい。
【0073】
荷下がり速度操作の変更量についても同様に考えることができる。送風流量は、炉容積、生産レベルによって高炉毎で異なるが概ね2000~8000Nm/minである。したがって、送風流量の変更量は炉熱操作1回当たり5Nm/min(5000Nm/minの0.1%)以上とすることが好ましい。この送風流量の1回当たりの操作量5Nm/minを酸素富化量にO量等価で換算すると60Nm/hrとなる。
【0074】
一方、送風流量および酸素富化量の変更は高炉炉内に積層しているコークス粒子の積層状態に影響を与える。したがって、1回の変更量が過大となった場合、コークスの積層状態が急速に大きく変化することによって通気ルートの変動を招き、出銑量の高位安定化効果が不十分となる可能性がある。本発明者の知見によると、送風流量の1回当たりの操作量が100Nm/min以内であれば、コークス粒子の積層状態の変化が小さく通気ルートの変動の抑制が可能であった。この送風流量の1回当たりの操作量100Nm/minを酸素富化量にO量等価で換算すると1300Nm/hrになる。
【0075】
したがって、荷下がり速度操作として送風流量を変更する場合、送風流量の変更量を荷下がり速度操作1回当たり5~100Nm/minとすることが好ましい。荷下がり速度操作として酸素富化量を変更する場合、酸素富化量の変更量を荷下がり速度操作1回当たり60~1300Nm/Hrとすることが好ましい。
【0076】
以降、1回当たりの補助還元材比の設定値変更量を3~45Mcal/t-pig、1回当たりの送風流量の設定値変更量を5~100Nm/minとすることを小幅操作と称する。
【0077】
なお、操業の中途で各パラメータを上述した範囲の下限値未満の値としてもよいが、そのような値とされる期間は20時間/日以上の継続期間から除外する必要がある。つまり、上述した下限値未満の値とされる期間は、合計で4時間/日以内であることが必要である。
操業の中途で各パラメータを上述した範囲上限値超の値としてもよいが、そのような値とされる期間は20時間/日以上の継続期間に含めても良いが、除外することがより好ましい。つまり、上述した範囲上限値超の値とされる期間は、合計で4時間/日以内であることがより好ましい。
【実施例0078】
つぎに、本発明の効果について検証するために実施した検証試験について説明する。本検証試験では、高炉の炉容積が4250m、目標出銑量が10000t/日、目標溶銑温度が1530℃、平均の送風流量が5000Nm/min、平均の還元材比(主還元材比+補助還元材比)が3000Mcal/t-pig、主還元材比は200~450kg/t-pigを前提とするが、平均の主還元材比が約340kg/t-pigの操業条件下で、高炉操業を行った。そして、以下の発明例1~6、比較例1~6に示す設定値変更を行い、その結果を検証した。その検証結果を表1及び表2に示す。
【0079】
ここで、実施例の説明のために、これまでの説明で登場した操作に関して整理する。「双方操作」は、炉熱操作と荷下がり速度操作との両方を行う操作を指す。「同時操作」は、炉熱操作の変更時刻と荷下がり速度操作の変更時刻との時間差X分が0分以上24分以下である操作を指す。「頻繁操作」は、一の同時操作の終了時刻と、一の同時操作の次の同時操作の終了時刻との差Y分がX分以上60分以下である操作を指す。「連続操作」は、前記「双方操作」、「同時操作」、「頻繁操作」、X×Y≦600の関係を保った操業を継続することの全てを20時間/日以上継続する操作を指す。「小幅操作」は、1回当たりの補助還元材比の設定値変更量を3~45Mcal/t-pig、1回当たりの送風流量の設定値変更量を5~100Nm/minとする操作を指す。
【0080】
発明例1:炉熱操作として補助還元材比の設定値変更操作を行い、荷下がり速度操作として送風流量の設定値変更操作を行った。同時操作をXが0~10分の範囲で行い、頻繁操作を行い、任意の20時間の間における主還元材比の実績値の最大値と最小値の差が2(kg/t-pig)以上50(kg/t-pig)以下である操業を24時間/日継続して行った(前記同時操作と頻繁操作の条件より、X×Y≦600の関係を保った操業を行っていることは自明)。また、炉熱操作と荷下がり速度操作においては、小幅操作を実施した。以上の高炉操業を1か月実施した。結果を表1に示す。
【0081】
発明例2:炉熱操作として補助還元材比の設定値変更操作を行い、荷下がり速度操作として送風流量の設定値変更操作を行った。同時操作をXが0~10分の範囲で行い、頻繁操作を行い、任意の20時間の間における主還元材比の実績値の最大値と最小値の差が2(kg/t-pig)以上50(kg/t-pig)以下である操業を20時間/日継続して行った(前記同時操作と頻繁操作の条件より、X×Y≦600の関係を保った操業を行っていることは自明)。また、炉熱操作と荷下がり速度操作においては、小幅操作を実施した。以上の高炉操業を1か月実施した。結果を表1に示す。
【0082】
発明例3:炉熱操作として補助還元材比の設定値変更操作を行い、荷下がり速度操作として送風流量の設定値変更操作を行った。同時操作をXが11~24分の範囲で行い、頻繁操作を行い、X×Y≦600の関係を保った操業を行い、任意の20時間の間における主還元材比の実績値の最大値と最小値の差が2(kg/t-pig)以上50(kg/t-pig)以下である操業を20時間/日継続して行った。また、炉熱操作と荷下がり速度操作においては、小幅操作を実施した。以上の高炉操業を1か月実施する試験を2回実施した。結果を表1に示す。
【0083】
発明例4:炉熱操作として補助還元材比の設定値変更操作を行い、荷下がり速度操作として送風流量の設定値変更操作を行った。同時操作をXが11~24分の範囲で行い、頻繁操作を行い、X×Y≦600の関係を保った操業を行い、任意の20時間の間における主還元材比の実績値の最大値と最小値の差が2(kg/t-pig)以上50(kg/t-pig)以下である操業を20時間/日継続して行った。炉熱操作においては、小幅操作を実施せず、1回当たりの補助還元材比の変更量を50~70Mcal/t-pigとし、荷下がり速度操作においては、小幅操作を実施した。以上の高炉操業を1か月実施した。結果を表1に示す。
【0084】
発明例5:炉熱操作として補助還元材比の設定値変更操作を行い、荷下がり速度操作として送風流量の設定値変更操作を行った。同時操作をXが11~24分の範囲で行い、頻繁操作を行い、X×Y≦600の関係を保った操業を行い、任意の20時間の間における主還元材比の実績値の最大値と最小値の差が2(kg/t-pig)以上50(kg/t-pig)以下である操業を20時間/日継続して行った。炉熱操作においては、小幅操作を実施し、荷下がり速度操作においては、小幅操作を実施せず、1回当たりの送風流量の変更量を120~160Nm/minとした。以上の高炉操業を1か月実施した。結果を表1に示す。
【0085】
発明例6:炉熱操作として補助還元材比の設定値変更操作を行い、荷下がり速度操作として送風流量の設定値変更操作を行った。同時操作をXが11~24分の範囲で行い、頻繁操作を行い、X×Y≦600の関係を保った操業を行い、任意の20時間の間における主還元材比の実績値の最大値と最小値の差が2(kg/t-pig)以上50(kg/t-pig)以下である操業を20時間/日継続して行った。また、炉熱操作と荷下がり速度操作においては、小幅操作を実施しなかった。以上の高炉操業を1か月実施した。結果を表1に示す。
【0086】
比較例1:炉熱操作は行わず、荷下がり速度操作として送風流量の設定値変更操作を行った。荷下がり速度操作を60分以下の時間間隔で1回ずつ行い、任意の20時間の間における主還元材比の実績値の最大値と最小値の差が2(kg/t-pig)以上50(kg/t-pig)以下である操業を20時間/日継続して行った。荷下がり速度操作においては、小幅操作を実施した。以上の高炉操業を1か月実施した。結果を表2に示す。
【0087】
比較例2:炉熱操作として補助還元材比の設定値変更操作を行い、荷下がり速度操作は行わなかった。炉熱操作を60分以下の時間間隔で1回ずつ行い、任意の20時間の間における主還元材比の実績値の最大値と最小値の差が2(kg/t-pig)以上50(kg/t-pig)以下である操業を20時間/日継続して行った。炉熱操作においては、小幅操作を実施した。以上の高炉操業を1か月実施した。結果を表2に示す。
【0088】
比較例3:炉熱操作として補助還元材比の設定値変更操作を行い、荷下がり速度操作として送風流量の設定値変更操作を行った。双方操作の変更時刻の時間差Xは8~30分(同時操作に該当しない場合有)であり、一の双方操作の終了時刻と、その次の双方操作の終了時刻との差Yは、24~80分(頻繁操作に該当しない場合有)であり、X≦Yであり、X×Y>600であり、任意の20時間の間における主還元材比の実績値の最大値と最小値の差が2(kg/t-pig)以上50(kg/t-pig)以下である操業を20時間/日継続して行った。また、炉熱操作と荷下がり速度操作においては、小幅操作を実施した。以上の高炉操業を1か月実施した。結果を表2に示す。
【0089】
比較例4:炉熱操作として補助還元材比の設定値変更操作を行い、荷下がり速度操作として送風流量の設定値変更操作を行った。同時操作をXが0~10分の範囲で行い、一の同時操作の終了時刻と、一の同時操作の次の同時操作の終了時刻との差Yは、60<Y≦80分(頻繁操作に該当しない)であり、X×Y≦600の関係を保った操業を行い、任意の20時間の間における主還元材比の実績値の最大値と最小値の差が2(kg/t-pig)以上50(kg/t-pig)以下である操業を20時間/日継続して行った。また、炉熱操作と荷下がり速度操作においては、小幅操作を実施した。以上の高炉操業を1か月実施した。結果を表2に示す。
【0090】
比較例5:炉熱操作として補助還元材比の設定値変更操作を行い、荷下がり速度操作として送風流量の設定値変更操作を行った。同時操作をXが0~10分の範囲で行い、頻繁操作を行い、主還元材比の実績値の最大値と最小値の差が2(kg/t-pig)以上50(kg/t-pig)以下である操業を12時間/日継続して行った(前記同時操作と頻繁操作の条件より、X×Y≦600の関係を保った操業を行っていることは自明)。また、炉熱操作と荷下がり速度操作においては、小幅操作を実施した。以上の高炉操業を1か月実施した。結果を表2に示す。
【0091】
比較例6:炉熱操作として補助還元材比の設定値変更操作を行い、荷下がり速度操作として送風流量の設定値変更操作を行った。同時操作をXが0~10分の範囲で行い、頻繁操作を行い、任意の20時間の間における主還元材比の実績値の最大値と最小値の差が50(kg/t-pig)より大きい60~70(kg/t-pig)の操業を20時間/日継続して行った(前記同時操作と頻繁操作の条件より、X×Y≦600の関係を保った操業を行っていることは自明)。また、炉熱操作と荷下がり速度操作においては、小幅操作を実施した。以上の高炉操業を1か月実施した。結果を表2に示す。
【0092】
試験結果は1か月あたりの顕著な出銑量及び軽度な出銑量の低下頻度で評価した。具体的には、1日当たりの出銑量が平均値(1カ月の平均値)よりも3%以上少ない場合を顕著な出銑量の低下、1日当たりの出銑量が平均値より1.5%以上3%未満少ない場合を軽度な出銑量の低下と定義し、1か月間でのそれらの頻度(回数)を比較した。1か月間で顕著な出銑量の低下が、4回以上であった場合を×(不良)、1~3回であった場合を△(不十分)、顕著な出銑量の低下が0回かつ軽度な出銑量の低下が2回以上であった場合を〇(良)、顕著な出銑量の低下が0回かつ軽度な出銑量の低下が1回であった場合を◎(優)、顕著な出銑量の低下と軽度な出銑量の低下の両方が0回であった場合を◎+(秀)とした。ここでいう×と△は顕著な出銑量の低下が一定頻度以上発生する為、実用に適さない。
【0093】
【表1】
【0094】
【表2】
【0095】
表1及び表2より、以下のことが分かる。双方操作・同時操作・頻繁操作・X×Y≦600の関係を保った操業・連続操作の何れか一つを実施せず、他操作を実施した比較例1~5では顕著な出銑量の低下が1か月間で少なくとも1回以上発生し、長期にわたる出銑量の高位安定化を図ることができなかった。また、双方操作・同時操作・頻繁操作・X×Y≦600の関係を保った操業・連続操作を実施したが、任意の20時間の間における主還元材比の実績値の最大値と最小値の差が50(kg/t-pig)より大きい操業を実施した比較例6では、顕著な出銑量の低下が1ケ月間で少なくとも1回以上発生し、長期にわたる出銑量の高位安定化を図ることができなかった。一方で、任意の20時間の間における主還元材比の実績値の最大値と最小値の差が50(kg/t-pig)以下であり、双方操作・同時操作・頻繁操作・X×Y≦600の関係を保った操業・連続操作・小幅操作を実施した発明例1~3、小幅操作以外の双方操作・同時操作・頻繁操作・X×Y≦600の関係を保った操業・連続操作を全て実施した発明例4~5において、顕著な出銑量の低下は1か月間で1度も発生せず、長期にわたる出銑量の高位安定化を図ることができた。
【0096】
また、発明例3のように任意の20時間の間における主還元材比の実績値の最大値と最小値の差が50(kg/t-pig)以下であり、双方操作・同時操作・頻繁操作・X×Y≦600の関係を保った操業・連続操作を実施しつつも、同時操作をXが11~24分の範囲で行った場合は、2度の試験において、顕著な出銑量の低下が0回かつ軽度な出銑量の低下が1または2回あった。発明例4~5のように、任意の20時間の間における主還元材比の実績値の最大値と最小値の差が50(kg/t-pig)以下であり、双方操作・同時操作・頻繁操作・X×Y≦600の関係を保った操業・連続操作を実施し、炉熱操作または荷下がり速度操作のうち、どちらかの操作の小幅操作を実施しなかった場合は、顕著な出銑量の低下は発生しなかったものの軽度な出銑量の低下が1か月間で2回以上発生し、発明例1~2(軽度な出銑量の低下が1か月で1回以下)に比べて出銑量の安定化効果は小さかった。発明例6のように、任意の20時間の間における主還元材比の実績値の最大値と最小値の差が50(kg/t-pig)以下であり、双方操作・同時操作・頻繁操作・X×Y≦600の関係を保った操業・連続操作を実施し、炉熱操作および荷下がり速度操作の双方の操作の小幅操作を実施しなかった場合は、顕著な出銑量の低下は発生しなかったものの軽度な出銑量の低下が1か月間で2回を大幅に超える回数発生し、発明例4、5に比べて出銑量の安定化効果は小さかった。
【0097】
更に、連続操作の時間がそれぞれ24時間/日と20時間/日であり、それ以外の条件が同等である発明例1と発明例2を比較すると、より連続操作の継続時間が長い発明例1では軽度な出銑量の低下が1か月間で1回も発生せず、それに比べて連続操作の継続時間が短い発明例2では軽度な出銑量の低下が1か月間で1回発生した。すなわち、連続操作の継続時間は長いほど出銑量の安定化効果は大きかった。
【0098】
以上の事から、長期にわたる出銑量の高位安定化(顕著な出銑量が1か月間で1回も発生しない)には双方操作・同時操作・頻繁操作・X×Y≦600の関係を保った操業・連続操作・任意の20時間の間における主還元材比の実績値の最大値と最小値の差が50(kg/t-pig)以下がいずれも必須であり、更に出銑量の安定化効果を高めるためにはこれらに加えて、同時操作をXが0~10分の範囲で行うことと、小幅操作を実施することが有効である。また連続操作の継続時間は、20時間/日以上であれば一定の効果が得られるものの、より長いほど出銑量の安定化効果が高まる。なお、今回は1か月間の実施例を記載したが、当然、3日継続すれば3日、1年継続すれば1年の出銑量の安定化が達成出来る。また、発明例2において、補助還元材比は一定のまま、送風湿分を1~12g/Nmあるいは送風温度を5~60℃の幅で調整した場合であっても同様の出銑量安定化効果が得られた。同様に、発明例2において、送風流量は一定のまま、酸素富化量を60~1300Nm/hrの幅で調整した場合であっても同様の出銑量安定化効果が得られた。
【0099】
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
図1
図2
図3
図4
図5