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特開2024-164881災害時及び緊急時用使い捨て酸素マスク
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024164881
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】災害時及び緊急時用使い捨て酸素マスク
(51)【国際特許分類】
   A62B 18/08 20060101AFI20241121BHJP
   A41D 13/11 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
A62B18/08 D
A41D13/11 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080569
(22)【出願日】2023-05-16
(71)【出願人】
【識別番号】513189959
【氏名又は名称】竹原 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100115200
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 修之
(72)【発明者】
【氏名】竹原 隆
【テーマコード(参考)】
2E185
3B211
【Fターム(参考)】
2E185AA07
2E185BA02
2E185BA17
2E185CA02
2E185CB20
2E185CC19
2E185CC32
3B211CC01
3B211CC03
3B211CC04
3B211CC06
(57)【要約】
【課題】本発明は、災害時及び緊急時用使い捨てマスクを提供する。
【解決手段】本災害時及び緊急時用使い捨てマスクは、空気を透過させる生地で形成されたシート状のマスク生地と、マスク生地の内側の鼻口を想定する位置に装着された酸素発生器とを備え、酸素発生器は、二酸化カリウムの微粒子を付着させた繊維素材又は不織布素材で形成された酸素発生シートと、酸素発生シートを内部に装着するケーシングと、該ケーシングの前記マスク生地の内側の表面に貼り付けられた蓋部とを有し、ケーシングは、マスク生地の内側に開放された開口により内部の酸素発生シートが外部と連通し、蓋部は、非使用時には前記開口を閉鎖しており、使用時には剥がされて前記開口を開放している。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気を透過させる生地で形成されたシート状のマスク生地と、
該マスク生地の内側の鼻口を想定する位置に装着された酸素発生器とを備え、
前記酸素発生器は、二酸化カリウムの微粒子を付着させた繊維素材又は不織布素材で形成された酸素発生シートと、該酸素発生シートを内部に装着するケーシングと、該ケーシングの前記マスク生地の内側の表面に貼り付けられた蓋部とを有し、
前記ケーシングは、前記マスク生地の内側に開放された開口により内部の前記酸素発生シートが外部と連通し、
前記蓋部は、非使用時には前記開口を閉鎖しており、使用時には剥がされて前記開口を開放する、
ことを特徴とする災害時及び緊急時用使い捨てマスク。
【請求項2】
前記マスク生地は、外側から内側に
再生繊維で形成される再生繊維生地と、活性炭を付着させて油分吸着性を有する活性炭合油生地と、メルトブローン不織布と、前記活性炭合油生地と、前記再生繊維生地と、を重ねた層構造のシート素材で形成されている、ことを特徴とする請求項2に記載の災害時及び緊急時用使い捨てマスク。
【請求項3】
前記マスク生地は、
非使用時には前記酸素発生器を略中央に配設した状態で横方向両側を内側に折り畳んで該酸素発生器を被覆して収容し、使用時には折り畳んでいる横方向両側を開放して前記酸素発生器の開口側を内側に露出させ、
外側表面に両端を上縁部及び下縁部に固着して上縁部から下縁部に亘って斜めに延びる帯状部を有する、ことを特徴とする請求項2に記載の災害時及び緊急時用使い捨てマスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外気が汚染されてそのまま呼吸困難な災害時等に、ユーザが外気の呼吸を遮断しつつ内部の呼気中の二酸化炭素濃度と水分を酸素に変換して生命活動に必要な時間中の酸素濃度の維持と二酸化炭素濃度増加の抑制とを可能とする災害時及び緊急時用の使い捨て酸素マスクに関する。
【背景技術】
【0002】
防災時や病気時、過度な運動時等では一時的に血中酸素濃度が急低下し、人体に悪影響を与えることがある。このような場合には、緊急的に外気(環境雰囲気)又はそれよりも呼気の酸素濃度を上昇させる必要がある。このような緊急的な呼気中の酸素濃度上昇を促すものとして、(i)外気の酸素濃度の低下により血中酸素濃度が低下する場合、(ii)必要酸素が増加したことにより血中酸素濃度が低下する場合、がある。
【0003】
(i)外気の酸素濃度の低下により血中酸素濃度が低下する場合は、代表的に火災時や、スモッグ発生等の防災時であり、呼気の酸素濃度を上昇させるだけでなく、呼気に含まれると人体に影響を与えるような有毒ガスや粉じん等の侵入を防止する必要もある。例えば、火災時には、火災による酸素濃度の低下に加えて、建物の内部装飾に合成高分子が使用されている場合、ユーザが避難出口に到達するまでの数分内に有毒ガスに起因して窒息死する事故が散見される。この数分内の急激な呼気内の酸素濃度の低下や有毒ガスや粉じん等の吸引を緊急的に防止することが重要な危機管理対応となる。
【0004】
従来は、呼気中の酸素濃度を上昇させ、有毒ガスや粉じん等の吸引を緊急的に防止するものとして、酸素ボンベと連結する自給用呼吸器が存在する。しかしながら、これらは火災等を発生したことを知って現場に事後的に急行する消防士や救護士等の専門者が着用するものであり、火災等発生前から滞在している一般ユーザが常備できるものではない。また特許文献1のような簡易に小型の酸素ボンベを装備する非常用呼吸装置も存在するが、ユーザが日常的に携帯することを推奨できるものではなく、仮に建物内の近くに常備されていても短時間の発見・着用が難しく、大量に常備できるものでもない。
【0005】
また、火災の発生時、初期に数秒乃至数分間酸素を供給されて呼吸しつつ、避難できるようにした緊急避難用酸素マスクも存在するが、圧縮酸素や酸素発生構造を準備する必要があり、常備携帯することは難しい(特許文献2 参照)。また、特許文献3のような緊急避難用酸素マスクの場合、装着に時間がかかり着用者の頭部にしっかり装着する必要があるため着用者が頭を保護するためのヘルメットを着用した場合、一旦、ヘルメットを脱いで、緊急避難用酸素マスクを着用しなければならないという不便さを有しており、また、ヘルメットの再着用が容易ではないなどの問題点があった。
【0006】
一方、簡易かつ常備できるものとして、布製ハンカチや不織布マスク等も存在するが粉じん等を防止することはできても、呼気内の酸素濃度濃度を上昇させることはできず、また水に濡らして有毒ガスの侵入を防止する方法も近くに吸水可能な施設がない場合に対応できるものではなく、十分な危機管理対応ができない。
【0007】
また、(ii)必要酸素が増加したことにより血中酸素濃度が低下する場合、例えば、スポーツ時や、肺機能の低下、睡眠時無呼吸症候群、軽度のぜんそく発症時、深夜就業時のような血中酸素が低下している場合、に酸素吸引を行う際に酸素ボンベを用いることもあるが、酸素ボンベを準備し装着する必要があり、不便である。一方、また、簡易に装着して酸素吸引することを所望するユーザの潜在的なニーズは大きいと考えられる。とりわけ新型コロナウィルス蔓延を契機として、公衆衛生意識も高まり、日常的に衛生マスクを着用することが多くなり、衛生マスク着用時の血中酸素濃度の低下の問題も指摘されており、外出先で簡易かつ一時的に酸素吸引することも要望されると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003-190306号公報
【特許文献2】登録実用新案第3213851号公報
【特許文献3】特開2007-98004号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような事情に鑑みて本発明は創作されたものであり、火災時等の劣悪な環境外気中のユーザであっても、鼻口周辺の酸素濃度を十分に確保しつつ二酸化炭素濃度の増加も抑制でき、ユーザが日常携帯することができる災害時及び緊急時用使い捨てマスクを提供すること目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決すべく本発明では、
空気を透過させる生地で形成されたシート状のマスク生地と、
該マスク生地の内側の鼻口を想定する位置に装着された酸素発生器とを備え、
前記酸素発生器は、二酸化カリウムの微粒子を付着させた繊維素材又は不織布素材で形成された酸素発生シートと、該酸素発生シートを内部に装着するケーシングと、該ケーシングの前記マスク生地の内側の表面に貼り付けられた蓋部とを有し。
前記ケーシングは、前記マスク生地の内側に開放された開口により内部の前記酸素発生シートが外部と連通し、
前記蓋部は、非使用時には前記開口を閉鎖しており、使用時には剥がされて前記開口を開放する、
ことを特徴とする災害時及び緊急時用使い捨てマスクを提供する。
【0011】
本発明は、マスク生地の内側に呼気中の二酸化炭素と水分と反応して二酸化炭素を低減し、酸素を発生させる酸素発生器を備えた災害時及び緊急時用使い捨てマスクを提供している。この酸素発生器(例えば実施形態の酸素発生器14参照)は、使用時に酸素発生器の内側表面に装着された蓋部(例えば実施形態の蓋部21参照)を剥がして、開口(例えば実施形態の開口14b参照)から呼気が内部に流入し、酸素発生シート13に付着した二酸化カリウム(KO2)と呼気中の二酸化炭素(CO2)と水分(H2O)とが反応し、酸素(O2)が発生する(詳細には後述)。このとき二酸化炭素や水分との反応面積を確保し、凝集を防ぐために二酸化カリウムは微粒子として繊維素材又は不織布素材で形成された酸素発生シートに付着させている。
【0012】
上記構成により本災害時及び緊急時用使い捨てマスクを使用すれば、ユーザが一酸化炭素等が充満し、生命維持が困難な環境外気中にいる場合であっても、呼気中の二酸化炭素と水分から酸素を発生させ、マスク生地の内側の酸素濃度を十分に確保しつつ二酸化炭素濃度の増加も抑制できる。また、折り畳んでコンパクトに収容できる使い捨て型であるためユーザが日常携帯することができる。したがって、いつ災害時及び緊急時に遭遇しても、ユーザが安全な場所に到達するまでの時間を確保できる。
【0013】
また、前記マスク生地は、外側から内側に
再生繊維で形成される再生繊維生地(例えば本実施形態におけるレーヨン生地1,5)と、活性炭を付着させて油分吸着性を有する活性炭合油生地(例えば本実施形態における活性炭合油生地2)と、メルトブローン不織布(例えば本実施形態における、KF94MBマスク用フィルタ生地3)と、前記活性炭合油生地と、前記再生繊維生地と、を重ねた層構造のシート素材で形成されている、ことが好ましい。
【0014】
上記構成の本災害時及び緊急時用使い捨てマスクでは、全体として異なる素材の繊維素材や不織布の層構造になっており、メルトブローン不織布を再生繊維生地と活性炭合油生地とで形成された生地で内側両側から挟み込んでいる。このため段階的に環境外気内の粉塵等の不純物を繰り返し除去してマスク生地内側の呼吸領域まで到達させることができる。まず、マスク生地の内外表面側を天然繊維を一旦溶解して、再紡糸した再生繊維生地を使用する。再生繊維は、レーヨン生地や、キュプラ生地、ポリノジック生地、リヨセルであり、代表的にレーヨン生地が好適である。再生繊維は、吸湿性、 静電気耐性が高く、最外側で粉塵を大きく除去しながら最内側では呼気中の酸素発生器による酸素発生反応に必要な水分を確保することができる。再生繊維生地の内側には活性炭合油生地を使用する。
【0015】
活性炭合油生地は、いわゆる活性炭フィルタであり、微粒子の活性炭活性炭を付着させてその表面に無数に空いた穴や凹凸に油の不純物を吸着させてろ過する。再生繊維生地を透過してきた環境外気は、この活性炭合油生地により環境外気内の油分を除去することができ火災時の煙内の油分が体内に侵入することを防止することができる。さらに、メルトブローン不織布は、メルトブローン法により乾式法や湿式法では作れない細い繊維だけで構成される衛生マスクで汎用される不織布であり、耐火性が低いが前述の他の層の生地に挟み込まれて露出していないため短時間使用であれば問題なく、細菌やウィルスのレベルの超微小物質まで確実に除去できる点で有利である。
【0016】
さらに、前記マスク生地は、
非使用時には前記酸素発生器を略中央に配設した状態で横方向両側を内側に折り畳んで該酸素発生器を被覆して収容し、使用時には折り畳んでいる横方向両側を開放して前記酸素発生器の開口側を内側に露出させ、
外側表面に両端を上縁部及び下縁部に固着して上縁部から下縁部に亘って斜めに延びる帯状部を有する、ことが好ましい。
【0017】
本災害時及び緊急時用使い捨てマスクによれば、酸素発生器が内側略中央に位置してマスク生地を両側から折り畳んでコンパクトに収容しており、使用時には折り畳まれたマスク生地を所謂観音開きのように開けて鼻口周辺の前で塞いでやるだけで酸素発生器が反応可能な状態で鼻口近傍で露出させることができ、さらにマスク生地を開いたときにマスク生地外側表面に所謂たすき掛け状に帯状部を設けているためマスク生地で鼻口を覆う手指を差し込むことで鼻口をハンカチやタオル等で覆う動作と同動作でしっかりと本マスクを機能させながら避難行動を実行させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本災害時及び緊急時用使い捨てマスクを使用すれば、ユーザが一酸化炭素等が充満し、生命維持が困難な環境外気中にいる場合であっても、呼気中の二酸化炭素と水分から酸素を発生させ、マスク生地の内側の酸素濃度を十分に確保しつつ二酸化炭素濃度の増加も抑制できる。また、折り畳んでコンパクトに収容できる使い捨て型であるためユーザが日常携帯することができる。したがって、いつ災害時及び緊急時に遭遇しても、ユーザが安全な場所に到達するまでの時間を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本災害時及び緊急時用使い捨てマスクのマスク生地の構成を示す分解図である。
図2】本災害時及び緊急時用使い捨てマスクのマスク生地の各層の生地で不純物が除去される様子を示す分解写真図である。
図3】(a)は本災害時及び緊急時用使い捨てマスクの略構造、(b)は本災害時及び緊急時用使い捨てマスクで呼気中の二酸化炭素を吸収し、酸素を発生させる様子を示す概略図である。
図4】本災害時及び緊急時用使い捨てマスクを使用した際の呼気中の二酸化炭素濃度及び酸素濃度を示すグラフ図である。
図5】本災害時及び緊急時用使い捨てマスクを使用した際の生命維持可能な安全時間と本災害時及び緊急時用使い捨てマスクを使用しない場合における各種時間を比較したグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の災害時及び緊急時用使い捨てマスク(以下、「本使い捨てマスク」とも称する。)についてその構成を図1図3を参照しつつ例示説明する。本使い捨てマスクでは図1図3に示すものに限られず、種々の改変したものが含まれる。
【0021】
本使い捨てマスク10は、図1に示すような5種の通気性材質を重ね合わせて有毒ガスや粉じん等を遮断(フィルタリング)する複合生地により酸素供給と除湿の働きをするマスク生地12を形成している。具体的には、外側から内側(顔側)に順に、レーヨン生地1、活性炭合油生地2、KF94MBマスク用フィルタ生地3、活性炭合油生地4、レーヨン生地5で形成されている。レーヨン生地1、5は、植物体中に含まれる繊維素を取り出して、化学薬品で一度溶解した後に繊維状に再生した化学繊維であり、粉じんやオイルミスト、PM2.5等をフィルタリングする機能を有し、吸湿性も高い。活性炭合油生地2、4は、いわゆる活性炭フィルタであり、微粒子の活性炭活性炭を付着させてその表面に無数に空いた穴や凹凸に油の不純物を吸着させてろ過する機能を有する。KF94MBマスク用フィルタ生地3は、メルトブローン不織布の一種であり、メルトブローン法により乾式法や湿式法では作れない細い繊維だけで構成される衛生マスクで汎用される不織布である。耐火性が低いが細菌やウィルスのレベルの超微小物質まで除去できる機能を有している。
【0022】
次に図1に示すマスク生地12を用いて、疑似的な火災現場におけるフィルタリング性能を実証する安全性実験(実証実験1)を行った。具体的な(i)実験条件、(ii)実験方法は、以下の通りである。
【0023】
(i)実証実験1の実験条件
透明チャンバー(800mm×650mm)を密閉空間として、その密閉空間内で着火炭を載置発泡スチロール、ビニール等を燃焼させて内部の一酸化炭素量1,000ppm以上を維持した状態で吸引して本マスク生地12に煙(内部空気)を通過させた。
【0024】
(ii)実証実験1の実験方法
上記(i)の密閉空間内で真空掃除器の吸引部にマスク生地12を取り付けて密閉空間内の煙を5分間吸引し、吸引後に本マスク生地12のそれぞれの生地1~5に付着した粉じん等の付着物を目視で確認する。
【0025】
(iii)実証実験1の実験結果
本マスク生地12の最外側のレーヨン生地1で多量検出された粉じん等付着物が、活性炭合油生地2、KF94MBマスク用フィルタ生地3、活性炭合油生地4と内側生地に進むにつれて徐々に減少していき、最内側のレーヨン生地5では検出されなかった。このことから、火災現場等の汚染区域においてマスク生地12を鼻口に当てて呼吸しても粉じん等の吸引を回避することができることがわかった。
なお、図2では、上記安全性実験後のマスク生地12におけるそれぞれの生地1~5の様子を示す写真図が示されている。
【0026】
次に、本使い捨てマスクマスク10のマスク生地12に装着する酸素発生器14及びその他の構成部品と、使い捨てマスク10の使用方法及び実際に使用した実証実験について説明する。
【0027】
使い捨てマスク10は、後述するように通常は折り畳んで収容しており、緊急時にマスク生地12及び酸素発生器14を開いて使用する。図3(a)には、使い捨てマスク10を使用時に開いた状態を示しており、(i)は本使い捨てマスク10を外側から見た略図、(ii)は(i)の図から帯状部16を取り外した様子の略図、(iii)は本使い捨てマスク10を内側から見た略図、(iv)は(ii)(iii)に示す酸素発生器14をケーシング14aの外側面から見た略図、を示している。また、図3(b)は、(i)に図3(a)(i)の帯状部16周辺を拡大した写真図、(ii)に本使い捨てマスク10を収容状態から使用時に開放する様子を示す写真図、(iii)に使用時に酸素発生器14による吸引時の気体の吸収発生を示す模式図、を示している。さらに、図4は、火災等緊急現場での生存可能時間と本使い捨てマスク10での呼吸可能時間とを比較したグラフ図を示している。
【0028】
使用時の本使い捨てマスク10は、図3(a)(i)(ii)に示すように本使い捨てマスク10は、前述のマスク生地12の第1層目であるレーヨン生地1を外面とし、その表面(紙面側表面)の上下斜め方向に延びて上縁と下縁に接着された帯状部16(図3(b)(i)も参照)が設けられ、帯丈夫16とレーヨン生地1の間の隙間に手指を入れてマスク生地12で鼻口を覆うことを可能としている。また、マスク生地12は、その中央部に貫通孔(図示せず)が設けられており、その貫通孔に隙間なく酸素発生器14が装着されている。酸素発生器14は矩形の厚板状で内部に空間を有するケーシング14aで覆われており、ケーシング14aは図3(a)(iv)に示すように外面側(図3(a)(i)(ii)(iv)紙面側)が封鎖され、外気が侵入できないようになっている。
【0029】
また、図3(a)(iii)に示すように本使い捨てマスク10は、マスク生地12の第5層目であるレーヨン生地5を内面(紙面側表面)とし、前述のマスク生地12の貫通孔に装着された酸素発生器14の内面側(図3(a)(iii)紙面側)が露出している。酸素発生器14の内面側は、そのケーシング14aに内部と連通する開口14bが設けられ、ケーシング14aの内部には酸素発生シート(酸素発生部)13が装着されている(図3(b)(ii)も参照)。酸素発生シート13は、呼気を通過させ、水分を定着可能な不織布等の繊維素材で形成されている。
【0030】
この酸素発生シート13には、その繊維に超酸化カリウム粒子が修飾されている。超酸化カリウムは、カリウムの超酸化物であり、溶融したカリウムを純粋な酸素中で燃焼させて得られる。この二酸化カリウム(KO2)により、酸素発生シート13は、呼気中の水分を吸収し、水分と呼気中の二酸化炭素と反応して以下の化学式のように最終的に酸素を発生させる。
4KO2 +4CO2 +2H2O → 4KHCO3 +3O2
(KO2 + CO2 + 1/2H2O → KHCO3 + 3/4O2 + 141.846kJ )
理想的には、二酸化カリウム1kgあたり0.309 kgの二酸化炭素を吸収し、0.38 kgの酸素を放出(KO2 1molあたり1/2molのCO2,3/4molのO2をそれぞれ吸収、放出)することとなる。
【0031】
但し、最終生成物である炭酸水素カリウム(KHCO3)は、呼気中の水分を取り込んで潮解し易い性質を有しているため、呼気中の二酸化炭素との反応面積が小さくなり、上記理想の酸素量発生を確保することが難しくなるため、本考案では繊維素材に二酸化カリウム粒子を水平及び厚み方向に吸着させた酸素発生シート13とし、繊維素材により二酸化カリウム粒子を離間させながら反応に必要な量を確保することで炭酸水素カリウムの潮解による呼気中の二酸化炭素の反応面積の低下を防止しつつ、ケーシング14aの開口14bのみから呼気が侵入させることで呼気の流量を調整し、繊維素材で侵入してきた呼気を通過・滞留させて反応時間及び反応流量を調整している。
【0032】
実際に酸素発生器14を装着した本使い捨てマスク10で以下の実証実験2を行った。
【0033】
(i)実証実験2の実験条件及び実験方法
透明チャンバー20(800mm×650mm)を密閉空間として、その密閉空間内で着火炭を載置発泡スチロール、ビニール等を燃焼させて内部の一酸化炭素量1,000ppm以上の有毒大気を維持した状態で、実験者が透明チャンバー内に頭と手を入れ、本使い捨てマスク10のマスク生地12の内側で鼻口を塞いでマスク生地12内側の気体のガス濃度を計測しながら15分間深呼吸を実施した。
【0034】
(ii)実証実験2の実験結果
図4は、15分間の実験中(3回実験(No.1~N0.3))における本使い捨てマスク10のマスク生地12の内側の二酸化炭素濃度(Carbon dioxide)と酸素濃度(Oxygen)との測定結果を示すグラフ図である。
【0035】
図4からわかるように、マスク生地12内の酸素濃度は、初期時間では変動があるが21vol%を下回ることがなく、概ね時間経過に伴って緩やかに23vol%付近まで濃度が増加しており、少なくとも実験中の15分間平均して通常空気内の酸素濃度に近い21vol%濃度が確保されている。
【0036】
また、二酸化炭素においては最初の1~2分間(60~120sec)は大きく濃度が上昇し、マスク生地12内の二酸化炭素濃度が、4,000ppmを超え、その後大きく濃度低下し、4実験中に4,000ppm以上の二酸化炭素が除去されている。また、実施権者は一酸化炭素量1,000ppm以上の有毒大気を維持したチャンバー内であっても特に体調異変は見られなかった(この点は後述)。
【0037】
したがって、本使い捨てマスク10を深呼吸状態で使用すると、呼気に含まれた二酸化炭素と湿気とが反応し、過酷な煙の状況でも最低15分間は通常の外気同様の酸素濃度を吸引でき、特に体調異変も見られず、通常の活動を行うことができることがわかった。
【0038】
なお、一酸化炭素量1,000ppm以上の有毒大気を維持したチャンバー内の環境の検証として、チャンバー内にマウスを在中させた実証を行ったところ平均13分52秒でマウスが動かなくなり、少なくとも本使い捨てマスク10を使用しない場合、15分の実験中に正常な活動ができなくなる程度の過酷な環境であることも実証された。加えて、実証実験1の通り、マスク生地12により粉じんや有毒ガス等も除去されることも実証実験1の通りである。
【0039】
図5のグラフ図は、(a)に火災現場における危急状況の時間、(b)にゴールデンタイム(煙からの脱出時間(消防車の到達目標時間))、(c)に本使い捨てマスク10を使用した場合の呼吸可能時間、が示されている。一般に危急状況の時間は2分間、ゴールデンタイムは5分間と言われている。上記実証実験2及び実証実験1の結果から、本使い捨てマスク10は危急状況中に十分使用できるだけでなく、ゴールデンタイム中にも通常の呼吸を維持できることがわかる。また、実証実験2で少なくとも15分間は通常外気と同様の呼吸をすることが可能なことがわかったため、ゴールデンタイムの5分間と合わせると実質的に少なくとも20分間は生命維持に十分な呼吸を行えることがわかる。
【0040】
以上、本使い捨てマスク10の実施例について説明をしたが、本考案は上記実施例に限定されるものではなく、当業者は本考案の思想や教示の範囲内で種々の改良例や変形例を容易に見出すことができることを理解するであろう。
【符号の説明】
【0041】
1 レーヨン生地
2 活性炭合油生地
3 KF94MBマスク用フィルタ生地
4 活性炭合油生地
5 レーヨン生地
10 使い捨てマスク
12 マスク生地
13 酸素発生シート
14 酸素発生器
14a ケーシング
14b 開口
16 帯状部
17 二酸化炭素除去
18 酸素放出
図1
図2
図3
図4
図5