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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024164897
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】緑化基盤材
(51)【国際特許分類】
   A01G 24/10 20180101AFI20241121BHJP
   C09K 17/18 20060101ALI20241121BHJP
   C09K 17/42 20060101ALI20241121BHJP
   C09K 17/06 20060101ALI20241121BHJP
   E02D 17/20 20060101ALI20241121BHJP
   A01G 24/30 20180101ALI20241121BHJP
   C09K 17/02 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
A01G24/10
C09K17/18 P
C09K17/42 P
C09K17/06 P
E02D17/20 102F
A01G24/30
C09K17/02 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080612
(22)【出願日】2023-05-16
(71)【出願人】
【識別番号】000195971
【氏名又は名称】西松建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】509298012
【氏名又は名称】公立大学法人宮城大学
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】大嶋 泰平
(72)【発明者】
【氏名】福本 正
(72)【発明者】
【氏名】北辻 政文
【テーマコード(参考)】
2B022
2D044
4H026
【Fターム(参考)】
2B022BA01
2B022BB01
2D044DA33
2D044DA39
4H026CA01
4H026CA04
4H026CB01
4H026CB08
4H026CC01
4H026CC02
4H026CC05
(57)【要約】
【課題】廃棄物を有効活用でき、環境汚染性が低く、かつ、法面の緑化に適している緑化基盤材を提供することである。
【解決手段】本発明の緑化基盤材は、母材と、接合材と、を含有する緑化基盤材であって、前記接合材として、少なくとも、ペーパースラッジ灰を含有し、前記ペーパースラッジ灰が、フッ素溶出量が0.8mg/L以下であり、六価クロム溶出量が0.05mg/L以下であるものであることを特徴とする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材と、接合材と、を含有する緑化基盤材であって、
前記接合材として、少なくとも、ペーパースラッジ灰を含有し、
前記ペーパースラッジ灰が、フッ素溶出量が0.8mg/L以下であり、六価クロム溶出量が0.05mg/L以下であるものである
ことを特徴とする緑化基盤材。
【請求項2】
前記接合材として、石膏を更に含有する
ことを特徴とする請求項1に記載の緑化基盤材。
【請求項3】
前記接合材として、合成樹脂を更に含有する
ことを特徴とする請求項2に記載の緑化基盤材。
【請求項4】
前記ペーパースラッジ灰の含有量が、母材1000Lに対し、15~30kgの範囲内である
ことを特徴とする請求項1に記載の緑化基盤材。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緑化基盤材に関する。
【背景技術】
【0002】
緑化基盤材は、植物の育成基盤となることで、法面の保持力を確保する。一般的な緑化基盤材は、主に母材(バーク堆肥、ピートモス等)及び接合材(セメント、合成樹脂等)で構成され、更に植物種子、化成肥料、吸水性材料等を含有し得る。
【0003】
特許文献1で開示されている緑化基盤材は、ペーパースラッジ(PS:paper sludge)を焼却して得られるペーパースラッジ灰(以下、「PS灰」ともいう。)を、吸水性材料として含有し得る。PSは、製紙工程で生じる廃棄物である。そのため、PSから得られるPS灰の使用は、廃棄物の有効活用となる。
【0004】
しかしながら、通常のPS灰は、PSと共に焼却される石炭、RPF(refuse derived paper and plastics densified fuel)、木屑等に起因する有害成分を多く含む。そのため、通常のPS灰を含有する緑化基盤材は、環境汚染性が高いという問題を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11-280075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、廃棄物を有効活用でき、環境汚染性が低く、かつ、法面の緑化に適している緑化基盤材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、母材と、接合材と、を含有する緑化基盤材であって、
前記接合材として、少なくとも、ペーパースラッジ灰を含有し、
前記ペーパースラッジ灰が、フッ素溶出量が0.8mg/L以下であり、六価クロム溶出量が0.05mg/L以下であるものであることを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の緑化基盤材であって、
前記接合材として、石膏を更に含有することを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の緑化基盤材であって、
前記接合材として、合成樹脂を更に含有することを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の緑化基盤材であって、
前記ペーパースラッジ灰の含有量が、母材1000Lに対し、15~30kgの範囲内であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、廃棄物を有効活用でき、環境汚染性が低く、かつ、法面の緑化に適している緑化基盤材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】ペーパースラッジ灰の写真
図2】緑化基盤材の吹き付け作業の写真
図3】室内試験における土壌硬度の測定結果を示すグラフ
図4】室内試験における土壌pHの測定結果を示すグラフ
図5】室内試験における発芽率の測定結果を示すグラフ
図6】室内試験における草丈の測定結果を示すグラフ
図7】フィールド試験における施工後の法面の写真
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明を実施するための形態について説明する。ただし、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、発明の範囲を以下の実施形態に限定するものではない。
【0014】
本発明の緑化基盤材は、母材と、接合材と、を含有する緑化基盤材であって、前記接合材として、少なくとも、ペーパースラッジ灰を含有し、前記ペーパースラッジ灰が、フッ素溶出量が0.8mg/L以下であり、六価クロム溶出量が0.05mg/L以下であるものであることを特徴とする。
【0015】
<母材>
母材としては、緑化基盤材の母材として一般的に用いられるものを制限なく使用できる。母材の例としては、バーク堆肥、ピートモス等が挙げられる。母材は、二種以上を混合して用いることもできる。例えば、母材として、バーク堆肥及びピートモスを混合して用いることもできる。
【0016】
<接合材;PS灰>
本発明の緑化基盤材は、接合材として、少なくとも、ペーパースラッジ灰(PS灰)を含有することを特徴とする。また、本発明に係るPS灰は、フッ素溶出量が0.8mg/L以下であり、六価クロム溶出量が0.05mg/L以下であることを特徴とする。
【0017】
PS灰とは、ペーパースラッジ(PS)を焼却して得られる灰のことをいう。PS灰の主成分は、生石灰(酸化カルシウム:CaO)である。図1は、PS灰の写真である。
【0018】
PS灰は、その主成分である生石灰が含水することで強度を生じ、緑化基盤材の降雨等による流出を防ぐ。
【0019】
フッ素溶出量及び六価クロム溶出量は、それぞれ、環境省告示第46号に準拠して測定される値である。具体的には、PS灰を試料とし、環境省告示第46号に準拠して試料液の調製、溶出、検液の作成、及び、対象成分の検出を行うことによって、各溶出量は測定される。
【0020】
フッ素溶出量及び六価クロム溶出量が上記条件を満たすPS灰は、例えばPSを他の廃棄物(石炭、RPF、木屑等)と一緒に焼却せずに、PS単体で焼却することで得られる。
【0021】
フッ素溶出量及び六価クロム溶出量が上記条件を満たすPS灰は、例えば上山製紙社から入手できる。上山製紙社から入手したPS灰のサンプル1~6におけるフッ素溶出量及び六価クロム溶出量を下記表Iに示す。
【0022】
【表1】
【0023】
緑化基盤材におけるPS灰の含有量は、特に限定されないが、母材1000Lに対し、15~30kgの範囲内であることが好ましい。PS灰の含有量がこの範囲内であることによって、植物の発芽率が良好となる。
【0024】
<接合材;PS灰以外>
本発明の緑化基盤材は、PS灰以外の接合材を更に含有し得る。PS灰以外の接合材の例としては、合成樹脂、石膏、セメント等が挙げられる。
【0025】
本発明の緑化基盤材は、植物の発芽率の観点からは、接合材として、石膏を更に含有することが好ましい。また、本発明の緑化基盤材は、植物の発芽率及び生育性の観点からは、接合材として、石膏及び合成樹脂を更に含有することが好ましい。
【0026】
本発明の緑化基盤材に好適に用いられる合成樹脂の例としては、エチレン・酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。
【0027】
緑化基盤材におけるPS灰以外の接合材の含有量は、特に限定されない。石膏の含有量は、母材1000Lに対し、例えば1.5~3kgの範囲内とし得る。合成樹脂の含有量は、母材1000Lに対し、例えば0.4~1.5kgの範囲内とし得る。セメントの含有量は、母材1000Lに対し、例えば7.5~15kgの範囲内とし得る。
【0028】
<植物種子>
本発明の緑化基盤材は、植物種子を更に含有し得る。植物種子は、法面の緑化に通常用いられるものを制限なく使用できる。植物種子の具体例としては、トールフェスク、ケンタッキーブルーグラス等の種子が挙げられる。
【0029】
なお、植物種子は、緑化基盤材に含有させず、緑化基盤材を吹き付けた後に別途散布してもよい。また、植物種子は、風や鳥に運ばれて来ることもあるため、必ずしも、緑化基盤材に含有させたり、別途散布したりしなくてもよい。
【0030】
緑化基盤材に植物種子を含有させる場合、植物種子の含有量は、母材1000Lに対し、例えば0.01~10kgの範囲内とし得る。
【0031】
<その他の成分>
緑化基盤材は、上記の成分の他、天然肥料、化成肥料、吸水性材料等の成分を、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜含有し得る。
【0032】
<緑化基盤材の用途>
本発明の緑化基盤材は、法面の緑化工法に好適に使用できる。法面の緑化工法は、例えば法面に緑化基盤材を吹き付け、当該緑化基盤材を基盤として植物を発芽及び生育させることで実施できる。図2は、緑化基盤材の吹き付け作業の写真の写真である。緑化基盤材の吹き付けにおいては、一例として、緑化基盤材をホースで空気により圧送し、ノズルガンから法面に吹き付ける。
【0033】
本発明の緑化基盤材は、製紙工場からの廃棄物であるPS灰を含有する。そのため、本発明の緑化基盤材を緑化工法に用いることによって、廃棄物を有効活用できる。廃棄物を有効活用できることによって、本発明の緑化基盤材は、低コストで製造できる。また、廃棄物を有効活用できることによって、本発明の緑化基盤材は、資源循環や二酸化炭素排出量低減に寄与する。
【0034】
本発明の緑化基盤材は、含有するPS灰が、フッ素溶出量が0.8mg/L以下であり、六価クロム溶出量が0.05mg/L以下であるものである。含有するPS灰におけるフッ素及び六価クロムの溶出量が低いことによって、本発明の緑化基盤材は、通常のPS灰を含有する緑化基盤材と比べて、緑化工法に用いた際、環境汚染性が低く、また、植物の発芽及び生育を阻害しにくい。
【0035】
PS灰は、施工後の緑化基盤材に10~25mmの土壌硬度を付与する。土壌硬度が10mm以上である緑化基盤材は、勾配が急な法面に適用した場合でも流れにくく、保持されやすい。土壌硬度が25mm以上である緑化基盤材は、植物の根の伸びを阻害しにくく、ひいては植物の発芽及び生育を阻害しにくい。施工後の緑化基盤材の土壌硬度は、11~20mmの範囲内であることが特に好ましい。
【0036】
施工後の緑化基盤材の土壌硬度は、山中式土壌硬度計で測定できる。具体的には、まず、土壌断面に対し垂直に土壌硬度計の円錐部を土壌断面につばが密着するまで確実に押しつける。次いで、遊動指標が移動しないように静かに円錐部を引き抜き、硬度目盛(mm又はkg/cm)の値を読む。測定は、同一層位に対し3回反復する。3回の平均値を土壌硬度として採用する。
【実施例0037】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0038】
<材料>
実施例で用いた材料の詳細は以下のとおりである。
・PS灰
上山製紙社から入手、環境省告示第46号に準拠して測定したフッ素溶出量:0.66mg/L、環境省告示第46号に準拠して測定した六価クロム溶出量:検出限界(0.005mg/L)以下、蛍光X線試験で測定した酸化カルシウム含有量:59.9%
・バーク堆肥
アグリテック社製、グリーンテック1号
・合成樹脂
ジャパンコーティングレジン社製、ルナゾールS、エチレン・酢酸ビニル共重合体
・石膏
関東化学社製、焼き石膏
・セメント
ポルトランドセメント
・化成肥料1
福栄肥料社製、高度化成555
・化成肥料2
ジェイカムアグリ社製、バーディグリーン
【0039】
<室内試験>
2021年10月から、下記の手順で、室内試験を行った。
【0040】
下記表II~IVに示す組成となるように材料を混合し、各緑化基盤材(比較例1~4、実施例1~10)をそれぞれ製造した。表II~IVに示す組成の値のうち、括弧書きの値は、母材1000Lに対する量として換算した値である。
【0041】
265mm×183mmの面積の容器に、それぞれ、緑化基盤材を敷き詰めた。各容器の緑化基盤材の上に、植物種子を、15個ずつ播いた。植物種子には、トールフェスクの種子及びケンタッキーブルーグラスの種子を用いた。各比較例及び実施例において、トールフェスクの種子を播いたサンプルと、ケンタッキーブルーグラスの種子を播いたサンプルと、をそれぞれ準備した。
【0042】
屋外の簡易温室で、適宜灌水しながら、栽培した。栽培しながら週2回の経過観察を行い、発芽率を測定した。発芽率は、播いた種の数(15個)のうち、発芽した種の比率である。各緑化基盤材における各植物の発芽率は、表II~IVに示すとおりであった。
【0043】
栽培を続け、播種から2月後に、各緑化基盤材における土壌硬度、土壌pH、及び各植物の草丈を測定した。土壌硬度は、山中式土壌硬度計を用いる上述の方法で測定した。土壌pHは、土壌pHメーター(FUSO社製、PH-212)を用いて、センサーを土壌に直接刺して測定した。草丈は、測定時における生育した植物の各緑化基盤材における平均高さである。各緑化基盤材における土壌硬度、土壌pH、及び各植物の草丈は、表II~IVに示すとおりであった。
【0044】
【表2】
【0045】
【表3】
【0046】
【表4】
【0047】
図3~6は、室内試験における各評価結果のグラフである。室内試験の結果から、実施例の中でも、特に、PS灰の含有量が母材1000Lに対して15~30kgの範囲内であるである場合や、PS灰に加えて石膏を更に含有する場合に、発芽率がより良好になることが確認できた。また、実施例の中でも、特に、PS灰に加えて石膏及び合成樹脂を更に含有する場合に、発芽率及び生育性がより良好になることが確認できた。
【0048】
<フィールド試験>
2022年7月から、下記の手順で、フィールド試験を行った。
【0049】
下記表Vに示す組成となるように材料を混合し、各緑化基盤材(比較例5、実施例11、12)をそれぞれ製造した。表Vに示す組成の値うち、括弧書きの値は、母材1000Lに対する量として換算した値である。
【0050】
フィールド試験は、勾配が八分(約50°)であり、複数の法枠が形成された法面で行った。1つの法枠のサイズは、1.7m×1.7mであった。
【0051】
製造した緑化基盤材を、1サンプル当たり8つの法枠に、厚さが7cmとなるように吹き付けた。図7に、当該法面の施工後の写真を示す。施工した6列のうち、左側2列が比較例5の緑化基盤材を、中央2列が実施例11の緑化基盤材を、右側2列が実施例12の緑化基盤材を施工した法枠である。
【0052】
材料コストは、比較例5を基準として、実施例11では2.5%減であり、実施例12では0.7%増であった。
【0053】
施工性は、実施例11及び実施例12のいずれも、基準である比較例5と同等であった。
【0054】
施工後、2月に1回程度の頻度で、植物の生育の様子を確認した。生育性は、実施例11は基準である比較例5と同等であり、実施例12は基準である比較例5にやや劣っていた。
【0055】
施行から2月後に、各緑化基盤材における土壌硬度を、山中式土壌硬度計を用いる上述の方法で測定した。各緑化基盤材における土壌硬度は、表Vに示すとおりであった。
【0056】
【表5】
【0057】
フィールド試験の結果、本発明の緑化基盤材はフィールドにおいても問題なく使用できることが確認できた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7