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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024164922
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】磁性ビーズおよび磁性ビーズ試薬
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/00 20060101AFI20241121BHJP
   H01F 1/20 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
H01F1/00 154
H01F1/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080649
(22)【出願日】2023-05-16
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】中森 理夫
【テーマコード(参考)】
5E040
5E041
【Fターム(参考)】
5E040AA11
5E040BC01
5E040CA20
5E040NN06
5E041AA05
5E041AA06
5E041AA07
5E041AA11
5E041BC01
5E041BD12
5E041CA10
5E041NN06
(57)【要約】
【課題】高純度の生体物質を効率よく抽出可能な磁性ビーズおよび磁性ビーズ試薬を提供すること。
【解決手段】磁性金属粒子と、前記磁性金属粒子の表面を被覆し、無機酸化物を含む被覆膜と、を有し、ガス吸着法により測定された比表面積Aが、0.3m/g以上10.0m/g以下であり、体積基準の粒度分布から算出された比表面積B1に対する前記比表面積Aの比A/B1が、1.00以上9.00以下であることを特徴とする磁性ビーズ。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性金属粒子と、
前記磁性金属粒子の表面を被覆し、無機酸化物を含む被覆膜と、
を有し、
ガス吸着法により測定された比表面積Aが、0.3m/g以上10.0m/g以下であり、
体積基準の粒度分布から算出された比表面積B1に対する前記比表面積Aの比A/B1が、1.00以上9.00以下であることを特徴とする磁性ビーズ。
【請求項2】
前記無機酸化物は、酸化ケイ素である請求項1に記載の磁性ビーズ。
【請求項3】
個数基準の粒度分布から算出された比表面積B2に対する前記比表面積Aの比A/B2が、1.00以上6.00以下である請求項1または2に記載の磁性ビーズ。
【請求項4】
前記磁性金属粒子は、Fe系合金で構成されている請求項1または2に記載の磁性ビーズ。
【請求項5】
前記Fe系合金は、アモルファス組織を含む請求項4に記載の磁性ビーズ。
【請求項6】
体積基準の粒度分布から得られた積算分布曲線において、小径側からの累積値が50%である粒径D50は、0.5μm以上15μm以下である請求項1または2に記載の磁性ビーズ。
【請求項7】
前記粒径D50に対する前記被覆膜の平均厚さtの比t/D50は、0.0005以上0.2以下である請求項6に記載の磁性ビーズ。
【請求項8】
請求項1または2に記載の磁性ビーズと、
前記磁性ビーズを分散させる分散媒と、
を含有することを特徴とする磁性ビーズ試薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性ビーズおよび磁性ビーズ試薬に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、医療分野における診断や生命科学の分野において、生体物質の検査需要が高まっている。生体物質検査手法のうち、PCR(Polymerase chain reaction)法は、DNA(デオキシリボ核酸)やRNA(リボ核酸)等の核酸を抽出し、その核酸を特異的に増幅して検出する方法である。こうした生体物質を検査する過程では、まず、検体から検査対象の物質を抽出することが必要である。この生体物質の抽出には、磁性ビーズを用いた磁気分離法が広く利用されている。磁気分離法では、抽出対象である生体物質を担持できる機能を有した磁性ビーズを利用し、磁界をかけることで生体物質を抽出する。具体的には、検査対象物質の担持能を表面に有する磁性ビーズを分散媒中に分散させた後、得られた分散液を磁気スタンド等の磁場発生装置に装着し、磁場印加のON/OFFを複数回繰り返す。これにより、検査対象物質を抽出する。こうした磁気分離法は、磁力によって磁性ビーズを分離し、回収する方法であるため、迅速な分離操作が可能である。
【0003】
また、PCR法における抽出に限らず、タンパク質の精製、エクソソーム、細胞の分離、抽出等の分野でも、同様の磁気分離法が利用されている。
【0004】
特許文献1には、超常磁性金属酸化物を含む磁性シリカ粒子で構成され、比表面積が100~800m/gである核酸結合用磁性担体が開示されている。このような核酸結合用磁性担体は、比表面積が大きいため、多量の核酸を非特異的に吸着させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9-19292号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の核酸結合用磁性担体は、比表面積が非常に大きいため、核酸を強く吸着する。このため、吸着した核酸の溶出に時間を要することが懸念される。
【0007】
また、核酸結合用磁性担体の比表面積が大きい場合、吸着前の核酸に対して使用した薬剤や夾雑物を多く取り込んでしまう。そうすると、核酸を溶出させるとき、これらの不純物が溶出物に持ち込まれやすくなり、抽出した核酸の純度の低下が懸念される。
【0008】
そこで、高純度の生体物質を効率よく抽出可能な磁性ビーズの実現が課題となっている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の適用例に係る磁性ビーズは、
磁性金属粒子と、
前記磁性金属粒子の表面を被覆し、無機酸化物を含む被覆膜と、
を有し、
ガス吸着法により測定された比表面積Aが、0.3m/g以上10.0m/g以下であり、
体積基準の粒度分布から算出された比表面積B1に対する前記比表面積Aの比A/B1が、1.00以上9.00以下である。
【0010】
本発明の適用例に係る磁性ビーズ試薬は、
本発明の適用例に係る磁性ビーズと、
前記磁性ビーズを分散させる分散媒と、
を含有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】生体物質抽出方法の一例を説明するための工程図である。
図2図1に示す生体物質抽出方法を説明するための模式図である。
図3図1に示す生体物質抽出方法を説明するための模式図である。
図4図1に示す生体物質抽出方法を説明するための模式図である。
図5図1に示す生体物質抽出方法を説明するための模式図である。
図6図1に示す生体物質抽出方法を説明するための模式図である。
図7】実施形態に係る磁性ビーズを示す断面図である。
図8図7の磁性ビーズの変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の磁性ビーズおよび磁性ビーズ試薬の好適な実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。
【0013】
実施形態に係る磁性ビーズは、生体物質を吸着するとともに、磁気分離に用いられる粒子群である。磁気分離とは、磁性ビーズを含む固相と分散媒を含む液相とが入った容器に外部磁場を印加し、固相を磁気吸引することにより、固相と液相とを分離する技術である。
【0014】
生体物質とは、例えば、DNAやRNAのような核酸、タンパク質、糖類、がん細胞のような各種細胞、ペプチド、細菌、ウイルス等の物質を指す。なお、核酸は、例えば、細胞や生体組織等の生体試料、ウイルス、細菌等に含まれた状態で存在していてもよい。このような生体物質は、例えば溶解・吸着、洗浄、溶出の各工程を経て抽出され、検査等に供される。生体物質が吸着された磁性ビーズを磁気分離することにより、生体物質の精製、抽出を容易に行うことができる。
【0015】
1.生体物質抽出方法
以下、磁気分離を利用した生体物質抽出方法の一例について説明する。なお、以下の説明では、生体物質が核酸である場合を例に説明する。
【0016】
図1は、生体物質抽出方法の一例を説明するための工程図である。図2ないし図6は、図1に示す生体物質抽出方法を説明するための模式図である。
【0017】
図1に示す生体物質抽出方法は、溶解・吸着工程S102と、洗浄工程S108と、溶出工程S110と、を有する。以下、各工程について順次説明する。
【0018】
1.1.溶解・吸着工程
溶解・吸着工程S102では、まず、図2に示すように、磁性ビーズ2と分散媒40とを含む磁性ビーズ分散液4(磁性ビーズ試薬)を容器42に調製しておく。
【0019】
容器42では、磁性ビーズ分散液4を十分に撹拌しておく。これにより、磁性ビーズ分散液4では、磁性ビーズ2が均一に分散した状態となる。その後、ピペット44等により、容器42から所定量の磁性ビーズ分散液4を採取し、図3に示す容器1に分注する。磁性ビーズ分散液4の濃度分布が均一であれば、この分注操作により、目的とする量の磁性ビーズ2が容器1に添加される。
【0020】
次に、核酸を含む検体試料および溶解吸着液を、それぞれ図3に示す容器1に入れる。そして、容器1の収容物を混合する。これにより、磁性ビーズ2は、図4に示すように、容器1内の液体3中で分散する。核酸は、通常、細胞膜や核に内包されているため、溶解吸着液の溶解作用により、細胞膜や核のいわゆる外殻が溶解除去され、核酸が取り出される。その後、溶解吸着液の吸着作用により、磁性ビーズ2に核酸が吸着される。
【0021】
溶解吸着液としては、例えば、カオトロピック物質を含む液体が用いられる。カオトロピック物質は、水溶液中でカオトロピックイオンを生じ、水分子の相互作用を減少させ、それにより構造を不安定化させる作用を有し、核酸の磁性ビーズ2への吸着に寄与する。
【0022】
なお、核酸のうち、特にRNAを抽出する場合には、酸を加える等して、容器1内の液体3を酸性にすることが好ましい。RNAモノマーは、リボースを含むため、DNAに比べて極性溶媒に溶けやすい。この差を利用し、RNAとDNAとを分離する場合には、外殻を溶解除去した後、例えば、酸を加えて液体3を酸性にしてもよい。その後、液体3にフェノールやクロロホルム等の無極性溶媒を加える。これにより、DNAは無極性溶媒に移行する一方、RNAは極性溶媒に留まる。その結果、RNAとDNAとを分離し、RNAを抽出することができる。
【0023】
RNAを抽出する場合、容器1内の液体3のpHは、5.0以下であることが好ましく、2.0以上4.0以下であることがより好ましい。これにより、RNAが含むリン酸基の電離平衡が水酸基に偏るため、RNAが極性溶媒に特に溶けやすくなる。したがって、RNAの抽出効率をより高めることができる。
【0024】
1.1.1.磁気分離操作
溶解・吸着工程S102では、核酸が吸着された磁性ビーズ2に外部磁場を作用させ、磁気吸引する。これにより、磁性ビーズ2を容器1の内壁に移動させ、固定する。その結果、図5に示すように、固相である磁性ビーズ2と、液相である液体3と、を分離することができる。本明細書では、このような外部磁場を印加して磁性ビーズ2を固定する操作を「磁気分離操作」という。
【0025】
磁気分離操作を行う前、必要に応じて、容器1の収容物を撹拌する。これにより、磁性ビーズ2に核酸が吸着される確率が高くなる。撹拌には、例えば、ボルテックスミキサー、手振り振とう、ピペッティング等が用いられる。
【0026】
外部磁場の印加には、例えば、容器の側方に配置された磁石5が用いられる。磁石5は、電磁石であってもよいし、永久磁石であってもよい。磁性ビーズ2に外部磁場が作用すると、磁性ビーズ2は磁石5に向かって移動する。
【0027】
1.1.2.液体排出操作
溶解・吸着工程S102では、磁性ビーズ2を容器1の内壁に固定した状態で、図6に示すように、容器1の底に溜まった液体3を、例えばピペット6等で吸引して排出する。本明細書では、このような液体3を排出する操作を「液体排出操作」という。液体排出操作により、容器1内には、核酸が吸着された磁性ビーズ2が残る。
【0028】
なお、液体排出操作を行った後、必要に応じて、容器1に加速度を与えるようにしてもよい。これにより、磁性ビーズ2に付着していた液体3を振り落とすことができるので、分離できていなかった液体3を減らすことができる。加速度は、遠心加速度であってもよい。遠心加速度の付与には、遠心分離機を用いればよい。
【0029】
1.2.洗浄工程
洗浄工程S108では、核酸が吸着された磁性ビーズ2を洗浄する。洗浄とは、磁性ビーズ2に吸着した夾雑物を除去するため、核酸が吸着されている磁性ビーズ2を洗浄液と接触させた後、再び洗浄液と分離することによって、夾雑物を除去する操作のことをいう。
【0030】
具体的には、核酸が吸着された磁性ビーズ2が入った容器1に洗浄液を入れた後、再び、前述した磁気分離操作および液体排出操作を行う。
【0031】
このうち、磁気分離操作では、まず、ピペット等により、容器1内に洗浄液を供給する。そして、磁性ビーズ2および洗浄液を撹拌する。これにより、洗浄液が磁性ビーズ2と接触し、核酸が吸着されている磁性ビーズ2が洗浄される。撹拌には、例えば、ボルテックスミキサー、手振り振とう、ピペッティング等が用いられる。また、このとき、一時的に外部磁場の印加をオフにしてもよい。これにより、磁性ビーズ2が洗浄液に再分散するため、洗浄効率をより高めることができる。
【0032】
次に、液体排出操作として、磁性ビーズ2を容器1の内壁に固定した状態で、容器1の底に溜まった洗浄液を排出する。以上のような洗浄液の供給および排出を少なくとも1回行うことにより、磁性ビーズ2を洗浄する。これにより、夾雑物を精度よく除去することができる。
【0033】
洗浄液は、核酸の溶出を促進せず、かつ、夾雑物の磁性ビーズ2に対する結合を促進しない液体であれば、特に限定されないが、例えば、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトン等の有機溶媒またはその水溶液、低塩濃度水溶液等が挙げられる。
【0034】
洗浄液は、Triton(登録商標)、Tween(登録商標)、SDS等の界面活性剤を含有していてもよい。また、洗浄液は、グアニジン塩酸塩等のカオトロピック物質を含有していてもよい。
【0035】
また、洗浄工程S108は、必要に応じて行えばよく、洗浄の必要がない場合には、省略されてもよい。
【0036】
1.3.溶出工程
溶出工程S110では、磁性ビーズ2に吸着している核酸を溶出液に溶出させる。溶出とは、核酸が吸着されている磁性ビーズ2を溶出液と接触させた後、再び溶出液と分離することによって、核酸を溶出液に移行させる操作である。
【0037】
具体的には、核酸が吸着された磁性ビーズ2が入った容器1に溶出液を入れた後、再び、前述した磁気分離操作および液体排出操作を行う。
【0038】
このうち、磁気分離操作では、まず、ピペット等により、容器1内に溶出液を供給する。そして、磁性ビーズ2および溶出液を撹拌する。これにより、溶出液が磁性ビーズ2と接触し、核酸が溶出液に溶出する。撹拌には、例えば、ボルテックスミキサー、手振り振とう、ピペッティング等が用いられる。また、このとき、一時的に外部磁場の印加をオフにしてもよい。これにより、磁性ビーズ2が溶出液に分散するため、溶出効率をより高めることができる。
【0039】
次に、液体排出操作として、磁性ビーズ2を容器1の内壁に固定した状態で、容器1の底に溜まった溶出液を排出する。これにより、核酸を含む溶出液を回収することができる。
【0040】
溶出液は、核酸が吸着されている磁性ビーズ2から核酸の溶出を促進する液体であれば、特に限定されないが、例えば、滅菌水や純水のような水の他、TE緩衝液、すなわち、10mMトリス塩酸緩衝液および1mMのエチレンジアミン4酢酸(EDTA)を含み、pHが8程度の水溶液が好ましく用いられる。
【0041】
溶出液は、Triton(登録商標)、Tween(登録商標)、SDS等の界面活性剤を含有していてもよい。また、防腐剤としてアジ化ナトリウムを含有していてもよい。
【0042】
また、溶出工程S110では、溶出液を加熱するようにしてもよい。これにより、核酸の溶出を促進することができる。溶出液の加熱温度は、特に限定されないが、70℃以上200℃以下であるのが好ましく、80℃以上150℃以下であるのがより好ましく、95℃以上125℃以下であるのがさらに好ましい。
【0043】
2.磁性ビーズ
次に、磁性ビーズ2について説明する。磁性ビーズ2は、磁性を有するとともに、表面に生体物質との結合性を有する粒子である。
【0044】
図7は、実施形態に係る磁性ビーズ2を示す断面図である。図7に示す磁性ビーズ2は、磁性金属粒子22と、被覆膜24と、を有する。磁性金属粒子22には、磁性を有する金属粉末が用いられる。このため、磁性金属粒子22は、磁場中における磁化が高く、磁性ビーズ2の移動速度の向上に寄与する。これにより、磁気分離に要する時間の短縮を図ることができる。
【0045】
また、被覆膜24は、無機酸化物を含んでいるため、生体物質との結合性を有する。また、被覆膜24は、無機酸化物を含んでいるため、磁性金属粒子22を酸化や腐食等から保護する機能が高い。このため、磁性ビーズ2において金属イオンの溶出を抑制することができる。
【0046】
前述した磁気分離操作には、このような磁性ビーズ2の集合体である粒子群が用いられる。なお、本明細書において磁性ビーズ2とは、粒子群またはそれを構成する1つの粒子を指す。
【0047】
2.1.磁性ビーズの特性
2.1.1.比表面積
磁性ビーズ2は、ガス吸着法により測定される比表面積をAとし、体積基準の粒度分布から算出される比表面積をB1とするとき、比表面積A、および、比表面積の比A/B1が、それぞれ後述する所定の範囲を満たしている。
【0048】
このような磁性ビーズ2は、単位量当たりの生体物質の吸着量を十分に確保できる。これにより、生体物質を効率よく抽出できる。また、吸着した生体物質が溶出しにくくなることを抑制できる。さらに、上記の各工程で使用する薬剤や夾雑物の持ち込みが抑制され、抽出する生体物質の純度の低下を抑制できる。したがって、このような磁性ビーズ2によれば、高純度の生体物質を効率よく抽出できる。
【0049】
2.1.1.1.ガス吸着法により測定される比表面積A
磁性ビーズ2の比表面積Aは、例えば、JIS Z 8830:2013に規定されているガス吸着による粉体(固体)の比表面積測定方法に準じて測定される。比表面積の測定に用いられる装置としては、例えば、マイクロトラック・ベル社製の比表面積・細孔径分布測定装置、BELSORP-max-N-VP-CMが挙げられる。また、測定に用いるガス種として、窒素またはクリプトンが挙げられる。
【0050】
磁性ビーズ2について測定される比表面積Aは、0.3m/g以上10.0m/g以下である。また、比表面積Aは、好ましくは0.35m/g以上4.0m/g以下であり、より好ましくは2.0m/g以下である。比表面積Aが前記範囲内であれば、単位量の磁性ビーズ2における生体物質の吸着量を十分に確保できる。
【0051】
なお、比表面積Aが前記下限値を下回ると、比表面積Aが不足するため、生体物質の吸着量を十分に確保できない。また、磁性ビーズ2が沈降しやすくなり、生体物質の吸着効率が低下する。一方、比表面積Aが前記上限値を上回ると、生体物質以外の薬剤や夾雑物も多く吸着させてしまい、最終的に抽出する生体物質の純度の低下を招く。
【0052】
2.1.1.2.体積基準の粒度分布から計算される比表面積の比A/B1
磁性ビーズ2の比表面積B1は、前述したように、磁性ビーズ2の体積基準の粒度分布から求めた計算値である。この計算値は、次のようにして求められる。
【0053】
まず、磁性ビーズ2について、体積基準での粒度分布を取得し、この粒度分布から積算分布曲線を求める。得られた積算分布曲線において、小径側からの累積値が10%である粒子径を、磁性ビーズ2の代表粒径D10とする。これと同様にして、小径側からの累積値が20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%および90%である粒子径を、磁性ビーズ2の代表粒径D20、D30、D40、D50、D60、D70、D80およびD90とする。なお、体積基準の粒度分布は、レーザー回折・分散法により求められる。レーザー回折・分散法による粒度分布を求める装置としては、例えば、マイクロトラック・ベル社製の粒度分布測定装置MT3300シリーズ等が挙げられる。
【0054】
次に、代表粒径D10~D90の各粒子1個について、それぞれ体積vおよび表面積sを計算する。このとき、各粒子が球であるものとみなして計算する。
【0055】
続いて、磁性ビーズ2の密度(真比重)に基づいて、1gの磁性ビーズ2を構成する代表粒径D10~D90の各粒子からなる9種類の各粒子群が占める体積Vを計算する。ここでは、代表粒径D10~D90の9種類の各粒子群を互いに等しい体積で配合することによって磁性ビーズ2が成り立っているとみなす。そうすると、9種類の各粒子群は、互いに同じ体積比率で含まれることになる。そこで、1gの磁性ビーズ2による占有体積を、9種類の各粒子群で等分する。例えば、磁性ビーズ2の密度が7[g/cm]である場合、1gの磁性ビーズ2を構成する9種類の各粒子群による占有体積は、1/7[cm/g]となる。そうすると、1gの磁性ビーズ2中で、9種類の各粒子群が占める体積Vは、いずれも(1/7)/9[cm/g]となる。
【0056】
次に、1gの磁性ビーズ2を構成する9種類の各粒子群が占める上記体積Vを、あらかじめ算出しておいた9種類の各粒子1個の体積vで除する。これにより、1gの磁性ビーズ2を構成する9種類の各粒子群の粒子個数nが求められる。
【0057】
次に、あらかじめ算出しておいた9種類の各粒子1個の表面積sに、1gの磁性ビーズ2を構成する9種類の各粒子群の粒子個数nを乗する。これにより、1gの磁性ビーズ2を構成する各粒子群の表面積Sが求められる。
【0058】
次に、9種類の各粒子群で上記表面積Sの平均値を算出した後、得られた平均値を9倍する。この計算結果を比表面積B1とする。以上のようにして、磁性ビーズ2の比表面積B1を算出することができる。
【0059】
本実施形態に係る磁性ビーズ2において、上記のようにして算出した比表面積B1に対する比表面積Aの比A/B1は、1.00以上9.00以下である。また、比A/B1は、好ましくは1.20以上5.00以下であり、より好ましくは1.50以上3.00以下である。比表面積の比A/B1が前記範囲内であれば、磁性ビーズ2の粒径から計算される比表面積B1に対して、測定値である比表面積Aを最適化できる。これにより、例えば、被覆膜24が有する細孔の深さや細さといった形状等を最適化できる。細孔の形状は、吸着された生体物質の溶出しやすさや、生体物質以外の薬剤や夾雑物の吸着しやすさを左右する。したがって、比表面積の比A/B1が前記範囲内であれば、磁性ビーズ2に対する生体物質の吸着量を十分に確保しつつ、溶出液に対する溶出しやすさも同時に確保できる。その結果、溶出時間が比較的短時間であっても、十分な量の生体物質を抽出することができる磁性ビーズ2が得られる。また、生体物質以外の薬剤や夾雑物の吸着を抑制し、抽出する生体物質の純度の低下を抑制することができる。
【0060】
なお、比表面積の比A/B1が前記下限値を下回ると、磁性ビーズ2の製造難易度が高くなる。一方、比表面積の比A/B1が前記上限値を上回ると、溶出に長時間を要するか、または、溶出時間が短い場合には、十分な量の生体物質を溶出させることができない。また、生体物質以外の薬剤や夾雑物も抽出させてしまい、抽出する生体物質の純度が低下する。
【0061】
比表面積Aは、磁性金属粒子22の表面状態、被覆膜24の製造条件等に応じて調整可能である。例えば、磁性金属粒子22の製造方法としてアトマイズ法のような溶融プロセスを採用することで、表面の平滑性を高め、比表面積B1をほとんど変化させることなく、比表面積Aを小さくすることが可能である。この場合、比A/B1を小さくすることができる。一方、被覆膜24の膜密度を高めることにより、比表面積B1をほとんど変化させることなく、比表面積Aを小さくすることが可能である。この場合も、比A/B1を小さくすることができる。
【0062】
また、製造された金属粉末を分級することにより、粒度分布を調整することができる。これにより、比表面積A、B1の双方を調整することができる。
【0063】
2.1.1.3.個数基準の粒度分布から計算される比表面積の比A/B2
磁性ビーズ2は、個数基準の粒度分布から算出される比表面積をB2とするとき、比表面積の比A/B2が、後述する所定の範囲を満たしていることが好ましい。
【0064】
このような磁性ビーズ2では、高純度の生体物質を効率よく抽出できるという効果がより顕著になる。個数基準の粒度分布から算出される比表面積B2は、前述した比表面積B1に比べて微細粒子の影響をより大きく受ける。このため、微細粒子の割合が比較的大きい粒度分布の場合であっても、比表面積の比A/B2を用いて磁性ビーズ2を評価することにより、生体物質の抽出特性をより最適化できる。
【0065】
磁性ビーズ2の比表面積B2は、磁性ビーズ2の個数基準の粒度分布から求めた計算値である。この計算値は、次のようにして求められる。
【0066】
まず、磁性ビーズ2について、個数基準での粒度分布を取得し、この粒度分布から積算分布曲線を求める。得られた積算分布曲線において、磁性ビーズ2の代表粒径D10、D20、D30、D40、D50、D60、D70、D80およびD90を求める。なお、個数基準の粒度分布は、レーザー回折・分散法により求められる。
【0067】
次に、比表面積の比A/B1の算出方法と同様にして、代表粒径D10~D90の各粒子1個について、それぞれ体積vおよび表面積sを計算する。このとき、各粒子が球であるものとみなして計算する。
【0068】
次に、各粒子1個の体積vを代表粒径D10~D90で合計し、合計体積を求める。そして、各粒子1個の体積vについて、それぞれ合計体積に対する割合rを算出する。
【0069】
続いて、磁性ビーズ2の密度(真比重)に基づいて、1gの磁性ビーズ2を構成する代表粒径D10~D90の各粒子からなる9種類の各粒子群が占める体積Vを計算する。ここでは、代表粒径D10~D90の9種類の各粒子群を前述した割合rで配合することにより磁性ビーズ2が成り立っているとみなす。そこで、1gの磁性ビーズ2による占有体積に、前述した割合rを乗する。例えば、磁性ビーズ2の密度が7[g/cm]である場合、1gの磁性ビーズ2を構成する9種類の各粒子群による占有体積は、1/7[cm/g]となる。そうすると、1gの磁性ビーズ2中で、9種類の各粒子群が占める体積Vは、いずれも(1/7)×r[cm/g]となる。
【0070】
次に、1gの磁性ビーズ2を構成する9種類の各粒子群が占める上記体積Vを、あらかじめ算出しておいた9種類の各粒子1個の体積vで除する。これにより、1gの磁性ビーズ2を構成する9種類の各粒子群の粒子個数nが求められる。
【0071】
次に、あらかじめ算出しておいた9種類の各粒子1個の表面積sに、1gの磁性ビーズ2を構成する9種類の各粒子群の粒子個数nを乗する。これにより、1gの磁性ビーズ2を構成する各粒子群の表面積Sが求められる。
【0072】
次に、9種類の各粒子群で上記表面積Sの平均値を算出した後、得られた平均値を10倍する。この計算結果を比表面積B2とする。以上のようにして、磁性ビーズ2の比表面積B2を算出することができる。
【0073】
本実施形態に係る磁性ビーズ2において、上記のようにして算出した比表面積B2に対する比表面積Aの比A/B2は、1.00以上6.00以下である。また、比A/B2は、好ましくは1.10以上3.00以下であり、より好ましくは1.20以上2.00以下である。比表面積の比A/B2が前記範囲内であれば、磁性ビーズ2の粒径から計算される比表面積B2に対して、測定値である比表面積Aを最適化できる。これにより、例えば、被覆膜24が有する細孔の深さや細さといった形状等を、微細粒子の存在も考慮しながら、より最適化できる。したがって、比表面積の比A/B2が前記範囲内であれば、より高純度の生体物質を、より効率よく抽出可能な磁性ビーズ2を実現することができる。
【0074】
なお、比表面積の比A/B2が前記下限値を下回ると、磁性ビーズ2の製造難易度が高くなるおそれがある。一方、比表面積の比A/B2が前記上限値を上回ると、溶出に長時間を要するか、または、溶出時間が短い場合には、十分な量の生体物質を溶出させることができないおそれがある。また、生体物質以外の薬剤や夾雑物も抽出させてしまい、抽出する生体物質の純度が低下するおそれがある。
【0075】
2.1.2.磁気特性
磁性ビーズ2の飽和磁化は、50emu/g以上であることが好ましく、80emu/g以上であることがより好ましく、100emu/g以上であることがさらに好ましい。飽和磁化とは、外部から十分大きな磁場を印加した時に磁性材料が示す磁化が磁場に関係なく一定となる場合の磁化の値である。飽和磁化が前記範囲内であれば、磁性材料としての機能を十分に発揮させることができる。具体的には、磁場中における磁性ビーズ2の移動速度を向上させることができるため、磁気分離に要する時間の短縮を図ることができる。また、磁性ビーズ2の飽和磁化は、外部磁場によって固定されたときの吸着力を左右する。飽和磁化が前記範囲内であれば、十分に高い吸着力が得られるため、磁性ビーズ2を固定した状態で液体3を排出するとき、磁性ビーズ2が液体3と一緒に排出されるのを抑制することできる。これにより、磁性ビーズ2の減少に伴う生体物質の収率の低下を抑制することができる。
【0076】
なお、磁性ビーズ2の飽和磁化の上限値は、特に限定されないが、性能とコストのバランスに適する材料選択の容易性の観点から、220emu/g以下とするのが好ましい。
【0077】
磁性ビーズ2の飽和磁化は、振動試料型磁力計(VSM:Vibrating Sample Magnetometer)等により測定することができる。振動試料型磁力計としては、例えば、株式会社玉川製作所製のTM-VSM1230-MHHL等が挙げられる。飽和磁化を測定する際の最大印加磁場は、例えば0.5T以上とされる。
【0078】
また、磁性ビーズ2の保磁力Hcは、1500A/m以下であることが好ましく、800A/m以下であることがより好ましく、400A/m以下であることがさらに好ましく、100A/m以下であることが特に好ましい。保磁力Hcとは、磁化された磁性体を、磁化されていない状態に戻すために必要な反対向きの外部磁場の値をいう。つまり、保磁力Hcは、外部磁場に対する抵抗力を意味する。磁性ビーズ2の保磁力Hcが小さいほど、磁場が印加された状態から、印加されていない状態に切り替えても、磁性ビーズ2同士が凝集しにくく、分散液中において磁性ビーズ2を均一に分散させることができる。さらに、磁場印加の切り替えを繰り返す場合でも、保磁力Hcが小さいほど磁性ビーズ2の再分散性は優れるため、磁性ビーズ2同士の凝集をより抑制することができる。なお、磁性ビーズ2の保磁力Hcの下限値は、特に限定されないが、性能とコストのバランスに適する材料選択の容易性の観点から、5A/m以上であることが好ましい。
【0079】
磁性ビーズ2の保磁力Hcは、前述した飽和磁化と同様、振動試料型磁力計等により測定することができる。保磁力Hcを測定する際の最大印加磁場は、例えば15kOeとされる。
【0080】
また、磁性ビーズ2の比透磁率は、5以上であることが好ましい。磁性ビーズ2の比透磁率が前記下限値を下回ると、磁性ビーズ2の応答性が低下し、磁気分離に要する時間が長くなるおそれがある。なお、磁性ビーズ2の比透磁率の上限値は、特に限定されないが、磁性ビーズ2は粉末形態であることから、反磁界の影響により比透磁率は実質的には100以下の値をとることが多い。
【0081】
2.1.3.粉末特性
磁性ビーズ2の平均粒径D50は、好ましくは0.5μm以上15μm以下とされ、より好ましくは1.0μm以上10μm以下とされ、さらに好ましくは1.5μm以上8μm以下とされ、特に好ましくは2μm以上6μm以下とされる。磁性ビーズ2の平均粒径D50が前記範囲内であれば、磁性ビーズ2の比表面積を十分に大きくすることができ、かつ、磁気分離に適した吸引力および吸着力を磁性ビーズ2に発生させることができる。また、磁性ビーズ2の凝集を抑え、分散性を高めることができる。なお、磁性ビーズ2の平均粒径D50が前記下限値を下回ると、磁性ビーズ2の磁化の値が小さくなるとともに、凝集しやすくなり、結果として生体物質の抽出効率が低下するおそれがある。また、磁性ビーズ2の移動速度が低下し、磁気分離に要する時間が長くなるおそれがある。一方、磁性ビーズ2の平均粒径D50が前記上限値を上回ると、磁性ビーズ2の比表面積が小さくなるため、十分な量の生体物質を吸着することができず、生体物質の抽出量が減少するおそれがある。また、磁性ビーズ2が沈降しやすくなり、生体物質の抽出に寄与できる磁性ビーズ2が減少して、生体物質の抽出効率が低下するおそれがある。
【0082】
なお、磁性ビーズ2の平均粒径D50は、前述した体積基準の粒度分布から得られた積算分布曲線において、小径側からの累積値が50%である粒子径(メディアン径)が、磁性ビーズ2の平均粒径D50である。
【0083】
また、体積基準の粒度分布から得られた積算分布曲線において、小径側からの累積値が90%である粒子径を90%粒径D90とするとき、磁性ビーズ2において平均粒径D50に対する90%粒径D90の比D90/D50は、3.00以下であるのが好ましく、2.00以下であるのがより好ましく、1.75以下であるのがさらに好ましい。これにより、粗大な粒子の含有率が低くなるため、粗大な粒子が周囲の比較的小さな粒子を引き寄せて凝集し、凝集体が生じるのを抑制することができる。凝集体が生じると、自重によって沈降し、抽出効率の低下やそれに伴う生体物質の検査時間の長時間化が生じるおそれがある。したがって、比D90/D50が前記範囲内であれば、これらの問題が発生するのを抑制することができる。なお、比D90/D50が前記上限値を上回ると、粗大な粒子の含有率が高くなるため、外部磁場の印加をオフにしても、磁性ビーズ2の分散性が低下し、凝集が発生しやすくなるおそれがある。
【0084】
2.2.磁性ビーズの構成
図7に示す磁性ビーズ2は、前述したように、磁性金属粒子22と、被覆膜24と、を有する。以下、各部について説明する。
【0085】
2.2.1.磁性金属粒子
磁性金属粒子22は、磁性を有する金属粒子であり、構成元素としてFe、CoおよびNiのうち少なくとも1種を含むことが好ましい。これにより、磁性金属に由来する高い磁化を持つ磁性ビーズ2が得られる。
【0086】
特に、高い飽和磁化を得る観点から、磁性金属粒子22の組成は、Feを主成分とする合金(Fe系合金)であるのが好ましい。具体的には、Feを原子数比で50%以上とすることがより好ましく、70%以上とすることがさらに好ましい。Fe系合金としては、Fe-Co系合金、Fe-Ni系合金、Fe-Co-Ni系合金、または、Fe、Co、Niを含む化合物等が例示できる。また、高磁化を得る観点から、磁性金属粒子22としては、実質100質量%のFeからなるカルボニル鉄粉が用いられてもよい。このようなFe系合金によれば、粒径が小さくても、飽和磁化が高く、かつ高透磁率を示す磁性金属粒子22を実現することができる。これにより、外部磁場の作用による移動速度が高く、外部磁場に捕捉されたときの吸引力が大きい磁性ビーズ2を実現することができる。その結果、磁気分離に要する時間を短縮することができ、かつ、磁性ビーズ2自体が溶出液に混入して夾雑物になることを抑制することができる。
【0087】
Fe系合金は、前述のような、Feという単独で強磁性を示す元素の他に、目標とする特性に応じて、Cr、Nb、Cu、Al、Mn、Mo、Si、Sn、B、C、P、TiおよびZrからなる群から選ばれる1種または2種以上を含むことができる。Siは、合金粉では主要な構成元素であるが、アモルファス化を促進させる元素でもある。
【0088】
なお、Fe系合金中には、磁性金属粒子22の効果を損なわない範囲で、不純物が含まれていてもよい。本実施形態における不純物とは、磁性金属粒子22の原料や磁性ビーズ2の製造時に意図せずに混入する元素である。不純物としては、特に限定されないが、例えば、О、N、S、Na、Mg、K等が挙げられる。
【0089】
Fe系合金の一例として、Siの含有率が好ましくは1.0原子%以上30.0原子%以下、より好ましくは1.5原子%以上14.0原子%以下、さらに好ましくは2.0原子%以上7.0原子%以下である合金が挙げられる。このような合金は、透磁率が高いため、飽和磁化が高くなる傾向がある。
【0090】
また、Fe系合金は、含有率が好ましくは5.0原子%以上16.0原子%以下、より好ましくは8.0原子%以上13.0原子%以下のB(ホウ素)、および、含有率が好ましくは0.5原子%以上5.0原子%以下、より好ましくは1.5原子%以上4.0原子%以下のC(炭素)のうちの少なくとも1種を含有していてもよい。これらは、アモルファス化を促進させる元素であり、磁性金属粒子22に安定したアモルファス組織またはナノ結晶組織を形成することに寄与する。これにより、保磁力が低い磁性金属粒子22が得られる。
【0091】
さらに、Fe系合金は、含有率が1.0原子%以上8.0原子%以下のCr(クロム)を含有することが好ましく、1.5原子%以上5.0原子%以下のCrを含有することがより好ましい。これにより、磁性金属粒子22の耐食性を高めることができる。その結果、金属イオンの溶出が抑制された磁性金属粒子22が得られる。
【0092】
なお、不純物の含有率は、合計で1.0原子%以下であることが好ましい。この程度であれば、不純物が含有していても、磁性金属粒子22の効果が損なわれない。
【0093】
磁性金属粒子22の構成元素および組成は、JIS G 1258:2014に規定されたICP発光分析法、JIS G 1253:2002に規定されたスパーク発光分析法などにより特定することができる。また、磁性金属粒子22が被覆膜24で被覆されている場合には、化学的または物理的手法で被覆膜24を除去した後、上記手法により測定することができる。また、被覆膜24を除去するのが難しい場合は、例えば磁性ビーズ2を切断した上で、コアである磁性金属粒子22の部分をEPMA(Electron Probe Micro Analyzer)、EDX(Energy Dispersive X-ray spectroscopy)等の分析装置にて分析することが可能である。
【0094】
磁性金属粒子22のビッカース硬度は、100以上であることが好ましく、300以上であることがより好ましく、800以上であることがさらに好ましい。磁性金属粒子22の硬さの測定方法は、例えば以下の通りである。磁性金属粒子22の粒子を複数個取り出して、これを樹脂に包埋して樹脂埋めサンプルを作製した後、研削および研磨によって磁性金属粒子22の断面を樹脂埋めサンプル表面に出現させる。これをマイクロビッカース試験機、または、ナノインデンター等によって圧痕を付け、そのサイズから硬さを測定する。
【0095】
なお、磁性金属粒子22のビッカース硬度が前記下限値未満である場合、磁性ビーズ2が衝突した場合の衝撃により、磁性金属粒子22が塑性変形してしまうおそれがある。塑性変形が生じた場合、被覆膜24の剥離や脱落が生じるおそれがある。なお、ビッカース硬度の上限は、特に限定されないが、性能やコストのバランスに適する材料選択の容易性の観点から3000以下であることが好ましい。
【0096】
磁性金属粒子22を構成する主要な金属組織は、結晶組織、アモルファス組織、ナノ結晶組織等の種々の形態をとることができる。アモルファス組織とは、結晶が存在しない非晶質組織であり、ナノ結晶とは、結晶粒径が100nm以下である微細結晶を主とする組織を指す。アモルファス組織およびナノ結晶組織は、磁性金属粒子22に高い硬さを与える。また、アモルファス組織またはナノ結晶組織とすることで、磁性ビーズ2の保磁力Hcが特に低い値となり、磁性ビーズ2の再分散性の向上に寄与する。なお、アモルファス組織またはナノ結晶組織の磁性金属粒子22における体積分率は、40%以上であるのが好ましく、60%以上であるのがより好ましい。この体積分率は、X線回折による結晶構造解析の結果から求められる。また、結晶組織、アモルファス組織およびナノ結晶組織は、それぞれが単独で存在していてもよいし、これらのうちの2つ以上が混在していてもよい。
【0097】
磁性金属粒子22の金属組織は、磁性金属粒子22に対してX線回折法による結晶構造解析を行うことで同定することができる。さらには、切り出したサンプルを透過電子顕微鏡(TEM)により組織観察像または回折パターンを解析することにより特定できる。例えば、アモルファス組織の場合、X線回折法におけるピーク解析において、α-Fe相等の金属結晶に由来する回折ピークは見られない。また、アモルファス組織の場合、TEMでの電子線回折パターンにおいていわゆるハローパターンを形成し、結晶によるスポットの形成は見られない。ナノ結晶組織は、粒径が例えば100nm以下の結晶組織からなり、TEM観察像から確認可能である。より正確には、複数の結晶が存在する複数のTEM組織観察画像から画像処理等により平均粒径を算出することができる。また、X線回折法による対象となる結晶相の回折ピークからScherrer法により結晶粒径を推測することができる。さらに、粒径の大きな結晶組織については、光学顕微鏡や走査電子顕微鏡(SEM)により断面を観察する等の手法により、結晶粒径を測定することができる。
【0098】
アモルファス組織およびナノ結晶組織を得るには、磁性金属粒子22を製造するとき、溶融した原料を微粉化した後、冷却するときの冷却速度を高くすることが有効である。また、アモルファス組織およびナノ結晶組織の形成のしやすさは、合金組成にも依存する。アモルファス組織およびナノ結晶組織を形成するために適した具体的な合金系としては、Feに、Cr、Si、B、C、P、NbおよびCuからなる群から選ばれる1種または2種以上を添加した組成が好ましい。
【0099】
磁性金属粒子22は、一般的な金属粉末の製造方法に準ずる方法で製造される。製造方法としては、例えば、金属を溶解・凝固して粉末化する溶解プロセス、還元法やカルボニル法等により粉末を製造する化学プロセス、インゴット等のより大きな形状のものを機械的に粉砕して粉末を得る機械プロセスが挙げられる。このうち、磁性金属粒子22の製造に適しているのは溶解プロセスによるものである。
【0100】
溶解プロセスによる製造方法のうち、代表的な製法としてアトマイズ法が挙げられる。アトマイズ法は、金属溶湯を高速で噴射された流体(液体または気体)に衝突させることによって急冷凝固させて粉末化するものであり、冷却媒の種類や装置構成の違いによって、水アトマイズ法、高圧水アトマイズ法、回転水流アトマイズ法、ガスアトマイズ法等に分けられる。アトマイズ法によれば、磁性金属粒子22を効率よく製造することができる。さらに、高圧水アトマイズ法や回転水流水アトマイズ法、ガスアトマイズ法では、金属粉末の粒子形状が表面張力の作用により球形状に近くなる。
【0101】
特に、金属溶湯の加熱温度を、原材料の融点より好ましくは100℃以上、より好ましくは150℃以上、高くすることにより、急冷凝固時の球形化を促進できる。球形化により、磁性金属粒子22の比表面積を小さくすることができる。その結果、磁性ビーズ2の比表面積Aを小さくすることができる。
【0102】
2.2.2.被覆膜
被覆膜24は、図7に示すように磁性金属粒子22の粒子表面を被覆している。被覆膜24は、磁性金属粒子22の粒子表面の少なくとも一部に形成されていればよいが、粒子表面の全体を被覆していることが好ましい。
【0103】
被覆膜24は、磁性金属粒子22の粒子表面を被覆し、無機酸化物を含む。無機酸化物としては、例えば、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ホウ素、酸化イットリウム等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上の混合物が用いられる。このような無機酸化物を含む被覆膜24は、多孔質状になるため、比表面積が大きくなる。これにより、被覆膜24に対する生体物質の吸着量をより多くすることができる。
【0104】
また、無機酸化物は、特に酸化ケイ素であるのが好ましい。酸化ケイ素は、溶解吸着液中において核酸等の生体物質を特異的に吸着することで、生体物質の効率的な抽出および回収を可能にする。さらに、酸化ケイ素は、化学的に安定であるため、磁性金属粒子22の酸化や腐食を特に抑制することができ、磁性ビーズ2の耐食性を特に高めることができる。
【0105】
酸化ケイ素は、組成式でSiOx(0<x≦2)と表されるが、好ましくはSiOである。また、酸化ケイ素は、Al、Ti、V、Nb、Cr、Mn、SnおよびZrからなる群から選ばれる1種または2種以上と複合酸化物または複合物を形成していてもよい。
【0106】
無機酸化物は、上記の効果を損なわない範囲内、例えば、前述した無機酸化物の好ましくは50質量%以下となる割合、より好ましくは10質量%以下となる割合で、無機酸化物以外の物質(不純物)を含んでもよい。例えば、無機酸化物として酸化ケイ素が用いられる場合、不純物としては、C、N、P等が挙げられる。
無機酸化物の組成は、例えば、EDX分析、オージェ電子分光測定等にて確認できる。
【0107】
被覆膜24の平均厚さは、好ましくは10nm以上とされ、より好ましくは20nm以上、さらに好ましくは30nm以上とされる。これにより、磁性ビーズ2同士の衝突または容器の内壁等との衝突が生じたとしても、被覆膜24が破壊または剥離してしまうのを抑制することができる。その結果、磁性金属粒子22が露出することに伴う金属イオン等の溶出を抑制することができる。一方、被覆膜24の平均厚さは、好ましくは500nm以下とされ、より好ましくは200nm以下とされ、さらに好ましくは150nm以下とされる。これにより、磁性ビーズ2が有する体積当たりの磁化が低下するのを抑制し、磁性ビーズ2の移動速度が低下するのを抑制することができる。
【0108】
また、被覆膜24の平均厚さをtとし、磁性ビーズ2の平均粒径をD50とするとき、D50に対するtの比t/D50は、0.0005以上0.2以下であることが好ましく、0.001以上0.05以下であることがより好ましく、0.005以上0.03以下であることがさらに好ましい。t/D50が前記下限値を下回ると、磁性金属粒子22の大きさに対して被覆膜24の厚さの比率が小さくなりすぎるため、磁性ビーズ2同士の衝突または磁性ビーズ2と容器1の内壁等との衝突が生じた際に、被覆膜24が破壊または剥離してしまうおそれがある。このため、被覆膜24の表面に吸着して抽出される生体物質の量が減少し、抽出効率が低下するおそれがある。また、剥離した被覆膜24や磁性金属粒子22の破片が抽出液中に存在すると、生体物質を取り出す際に夾雑物(コンタミネーション)として同時に混入してしまうおそれがある。さらに、被覆膜24が破壊、剥離することで磁性金属粒子22が露出し、酸性溶液と接触した場合等では金属イオン等の溶出が起きて、結果として生体物質の抽出効率の低下を招くおそれがある。一方、t/D50が前記上限値を上回ると、磁性ビーズ2の体積全体に占める被覆膜24の体積比率が大きくなってしまい、磁性ビーズ2が有する体積当たりの磁化が低下するおそれがある。これにより、磁性ビーズ2に外部磁場が作用したときの移動速度が低下し、磁気分離に要する時間が長くなるおそれがある。
【0109】
被覆膜24の厚さは、例えば、透過電子顕微鏡または走査電子顕微鏡等による磁性ビーズ2の断面観察像から測定することができる。また、被覆膜24の平均厚さtは、観察像を複数取得し、画像処理等からの計測値を平均することで算出することができる。例えば、平均厚さtは、1つの磁性ビーズ2について5箇所以上で被覆膜24の厚さを計測し、その平均値を求めた後、10個以上の磁性ビーズ2でその平均値を平均した値である。また、EDX(Energy Dispersive X-ray spectroscopy)等の分析装置により、例えばSi-K特性X線やFe-L特性X線の強度を比較し、その比較結果から被覆膜24の厚さを算出するようにしてもよい。つまり、後述するように、被覆膜24がケイ素を含み、磁性金属粒子22がFe基合金で構成される場合、被覆膜24由来のSi-K特性X線の、磁性金属粒子22由来のFe-L特性X線と被覆膜24由来のSi-K特性X線との和に対する強度比を、被覆膜24の厚さに換算することができる。
【0110】
被覆膜24の形成方法としては、例えば、ゾルゲル法のような湿式での形成方法、気相成膜法のような乾式での形成方法が挙げられる。このうち、ゾルゲル法の一種であるストーバー法や、ALD(Atomic Layer Deposition)法を、好ましく用いることができる。ストーバー法は、金属アルコキシドの加水分解により、単分散粒子を形成する手法である。例えば、被覆膜24を酸化ケイ素で形成する場合は、シリコンアルコキシドの加水分解反応により、酸化ケイ素を生成することができる。なお、被覆膜24の形成前には、その下地、例えば磁性金属粒子22の粒子の表面に対し、水や有機溶剤を用いた洗浄処理を施すようにしてもよい。
【0111】
以下、シリコンアルコキシドを用いたストーバー法による被覆膜24の成膜条件の一例を挙げる。
【0112】
シリコンアルコキシドの添加速度としては、例えば、磁性金属粒子22の表面積1m当たりに換算して、好ましくは0.00010mol/h以上0.00100mol/h以下の速度が挙げられ、より好ましくは0.00016mol/h以上0.00064mol/h以下の速度が挙げられる。このような添加速度であれば、より高密度で比表面積Aの小さい酸化ケイ素被膜を形成することができる。
【0113】
また、酸化ケイ素被膜の成膜速度は、好ましくは1nm/h以上50nm/h以下とされ、より好ましくは5nm/h以上20nm/h以下とされる。このような成膜速度であれば、より高密度で比表面積Aの小さい酸化ケイ素被膜を、効率よく形成することができる。
【0114】
なお、酸化ケイ素被膜の密度は、特に限定されないが、1.7g/cm以上2.2g/cm以下であるのが好ましく、1.8g/cm以上2.1g/cm以下であるのがより好ましい。酸化ケイ素被膜の密度を前記範囲内とすることで、比表面積の比A/B1および比A/B2を、前記範囲内に収めやすくなる。つまり、細孔の形状や密度が最適化された被覆膜24の形成が可能になる。
【0115】
なお、被覆膜24は、1つの磁性金属粒子22の表面を被覆していてもよいが、複数の磁性金属粒子22をまとめて被覆していてもよい。
【0116】
図8は、図7の磁性ビーズ2の変形例を示す断面図である。
図8に示す磁性ビーズ2Aは、複数の磁性金属粒子22を包含している。そして、複数の磁性金属粒子22にまたがって被覆するように被覆膜24が設けられている。このような磁性ビーズ2Aでも、図7に示す磁性ビーズ2と同様の効果が得られる。
【0117】
磁性ビーズ2Aが有する磁性金属粒子22の数は、特に限定されないが、2個以上100個以下とされる。
【0118】
3.磁性ビーズ分散液
次に、実施形態に係る磁性ビーズ分散液4について説明する。図2に示す磁性ビーズ分散液4は、前述したように、磁性ビーズ2と分散媒40とを含有する。
【0119】
分散媒40としては、例えば、水、食塩水、アルコール類のような極性有機溶媒またはその水溶液等が挙げられる。水としては、例えば、滅菌水、純水等が挙げられる。アルコール類としては、例えば、エタノール、イソプロピルアルコール等が挙げられる。
【0120】
磁性ビーズ分散液4における磁性ビーズ2の濃度は、磁性ビーズ分散液4の撹拌によって十分な均一性を確保できる濃度であれば、特に限定されない。
【0121】
磁性ビーズ分散液4中での磁性ビーズ2の分散性を向上させる目的で界面活性剤を加えてもよい。界面活性剤としては、例えば、非イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤等が挙げられる。
【0122】
非イオン性界面活性剤としては、例えば、Triton(登録商標)-Xのようなトリトン系界面活性剤、Tween(登録商標)20のようなツイーン系界面活性剤、アシルソルビタン等が挙げられる。陽イオン性界面活性剤としては、例えば、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド、セチルトリメチルアンモニウムブロミド等が挙げられる。陰イオン性界面活性剤としては、例えば、ドデシル硫酸ナトリウム、N-ラウロイルサルコシンナトリウム(SDS)、コール酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、サルコシン等が挙げられる。両イオン性界面活性剤としては、例えば、ホスファチジルエタノールアミン等が挙げられる。これらの界面活性剤は、単独で、または2種以上組み合わせて用いられる。
【0123】
磁性ビーズ分散液4における界面活性剤の含有量は、界面活性剤の臨界ミセル濃度以上であるのが好ましい。臨界ミセル濃度とは、cmc(critical micelle concentration)とも呼ばれ、液中に分散している界面活性剤の分子が集合してミセルを形成するときの濃度のことをいう。界面活性剤の含有量が臨界ミセル濃度以上であることにより、界面活性剤が磁性ビーズ2の周囲に層を形成しやすくなる。これにより、磁性ビーズ2の凝集を抑制するという効果をさらに高めることができる。
【0124】
なお、界面活性剤の含有量は、臨界ミセル濃度以上に限定されるものではなく、臨界ミセル濃度未満であってもよい。例えば、磁性ビーズ分散液4における界面活性剤の含有量は、臨界ミセル濃度を問わず、0.05質量%以上3.0質量%以下であるのが好ましい。
【0125】
さらに、磁性ビーズ分散液4の長期保存性、防腐効果を持たせるために、防腐剤を添加することが好ましい。防腐剤としては、アジ化ナトリウム等が挙げられる。防腐剤の添加濃度は磁性ビーズ分散液4の0.02質量%以上0.1質量%未満が好ましい。0.02質量%未満では長期保存性および防腐に十分な効果が得られないおそれがあり、0.1質量%以上では生体物質の抽出効率を低下させる等の課題が生じるおそれがある。
【0126】
また、pH調整を目的とした緩衝液を加えてもよい。緩衝液としてはトリスバッファー等が挙げられる。
【0127】
4.前記実施形態が奏する効果
以上のように、前記実施形態に係る磁性ビーズ2は、磁性金属粒子22と、被覆膜24と、を有する。被覆膜24は、磁性金属粒子22の表面を被覆し、無機酸化物を含む。そして、磁性ビーズ2は、ガス吸着法により測定された比表面積をAとし、体積基準の粒度分布から算出された比表面積をB1とするとき、比表面積Aが、0.3m/g以上10.0m/g以下であり、比表面積B1に対する前記比表面積Aの比A/B1が、1.00以上9.00以下である。
【0128】
このような構成によれば、比表面積Aが最適化されているため、単位量の磁性ビーズ2における生体物質の吸着量を十分に確保できる。また、比A/B1も最適化されているため、磁性ビーズ2に対する生体物質の吸着量を十分に確保しつつ、溶出液に対する溶出しやすさも同時に確保できる。その結果、溶出時間が比較的短時間であっても、十分な量の生体物質を抽出することができる磁性ビーズ2が得られる。また、生体物質以外の薬剤や夾雑物の吸着を抑制し、抽出する生体物質の純度の低下を抑制することができる。したがって、上記のような構成によれば、高純度の生体物質を効率よく抽出可能な磁性ビーズ2が得られる。
【0129】
また、無機酸化物は、酸化ケイ素であることが好ましい。
酸化ケイ素は、化学的に安定であるため、磁性金属粒子22の酸化や腐食を特に抑制することができ、磁性ビーズ2の耐食性を特に高めることができる。また、酸化ケイ素は、溶解吸着液中において核酸等の生体物質を特異的に吸着することで、生体物質の効率的な抽出および回収を可能にする。
【0130】
また、個数基準の粒度分布から算出された比表面積B2に対する比表面積Aの比A/B2は、1.00以上6.00以下であることが好ましい。
【0131】
このような構成によれば、より高純度の生体物質をより効率よく抽出可能な磁性ビーズ2が得られる。
【0132】
また、磁性金属粒子22は、Fe系合金で構成されていることが好ましい。
このような構成によれば、粒径が小さくても、飽和磁化が高く、かつ高透磁率を示す磁性金属粒子22を実現することができる。これにより、外部磁場の作用による移動速度が高く、外部磁場に捕捉されたときの吸引力が大きい磁性ビーズ2を実現することができる。その結果、磁気分離に要する時間を短縮することができ、かつ、磁性ビーズ2自体が溶出液に混入して夾雑物になることを抑制することができる。
【0133】
また、Fe系合金は、アモルファス組織を含むことが好ましい。
このような構成によれば、保磁力が低く、再分散性に優れる磁性ビーズ2が得られる。
【0134】
また、体積基準の粒度分布から得られた積算分布曲線において、小径側からの累積値が50%である粒径D50は、0.5μm以上15μm以下であることが好ましい。
【0135】
このような構成によれば、磁性ビーズ2の比表面積を十分に大きくすることができ、かつ、磁気分離に適した吸引力および吸着力を磁性ビーズ2に発生させることができる。また、磁性ビーズ2の凝集を抑え、分散性を高めることができる。
【0136】
また、粒径D50に対する被覆膜24の平均厚さtの比t/D50は、0.0005以上0.2以下であることが好ましい。
【0137】
このような構成によれば、磁性ビーズ2の衝突に伴う被覆膜24の剥離等を抑制できる。また、金属イオン等の溶出を抑制できる。さらに、磁性ビーズ2の体積当たりの磁化が低下するのを抑制できる。その結果、磁気分離をより迅速に行うことができ、かつ、生体物質の抽出効率がより高い磁性ビーズ2が得られる。
【0138】
また、前記実施形態に係る磁性ビーズ試薬としての磁性ビーズ分散液4は、磁性ビーズ2と、磁性ビーズ2を分散させる分散媒40と、を含有する。
【0139】
このような構成によれば、磁性金属粒子22が磁性金属に由来する高い磁化を持つため、外部磁場の作用による移動速度が高く、磁気分離を迅速に行うことができる磁性ビーズ分散液4が得られる。また、上記の操作に供されることで得られる上清の金属イオン濃度が最適化されているため、生体物質の抽出効率が高い磁性ビーズ分散液4が得られる。
【0140】
以上、本発明の磁性ビーズおよび磁性ビーズ試薬を図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、本発明の磁性ビーズおよび磁性ビーズ試薬は、前記実施形態に任意の成分が付加されたものであってもよい。
【実施例0141】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
5.磁性ビーズの作製
まず、表1に示す組成を有する軟磁性材料A~Dで構成された磁性金属粒子を、高圧水アトマイズ法により作製した。そして、得られた磁性金属粒子の金属組織をX線回折法により解析した。解析によって特定された金属組織を表1に示す。なお、軟磁性材料E、Fは、フェライト(非金属軟磁性材料)とした。
【0142】
【表1】
【0143】
次に、ストーバー法により、磁性金属粒子の表面に酸化ケイ素(SiO)を成膜し、被覆膜を得た。ストーバー法では、まず、磁性金属粉末100gをエタノール950mLに分散させて混合し、この混合液を超音波印加装置によって20分間撹拌した。撹拌後、純水30mLとアンモニア水180mLの混合溶液を加えて、さらに10分間撹拌した。その後、テトラエトキシシラン(TEOS)とエタノール100mLの混合液をさらに加えて撹拌し、磁性金属粒子の表面に被覆膜を形成した。なお、この場合の形成時間は30分間であるが、形成すべき厚さに応じて形成時間を変更した。また、その場合のTEOSの添加速度は、0.00016mol/h以上0.00064mol/h以下の範囲内で適宜調整した。さらに、被覆膜の成膜速度は、5nm/h以上20nm/h以下の範囲内で適宜調整した。その後、得られた被覆膜を、エタノールおよびアセトンでそれぞれ洗浄した。洗浄後、65℃で30分間乾燥させ、さらに200℃で90分間加熱した。これにより、表2および表3に示すサンプルNo.1~18の磁性ビーズを得た。
また、磁性ビーズの飽和磁化および保磁力は、表2および表3に示すとおりである。
【0144】
6.比表面積Aの測定
サンプルNo.1~18の磁性ビーズについて、前述した方法により比表面積Aを測定した。測定結果を表2および表3に示す。
【0145】
なお、表2および表3では、本発明に相当する磁性ビーズを「実施例」、本発明に相当しない磁性ビーズを「比較例」としている。
【0146】
7.比表面積B1、B2の算出
サンプルNo.1~18の磁性ビーズについて、体積基準の粒度分布および個数基準の粒度分布を測定した。測定には、マイクロトラック・ベル社製の粒度分布測定装置MT3300シリーズを用いた。続いて、得られた粒度分布および表1に示す密度に基づいて、前述した計算方法により、比表面積B1、B2をそれぞれ算出した。また、比表面積B1に対する比表面積Aの比A/B1、および、比表面積B2に対する比表面積Aの比A/B2をそれぞれ算出した。算出結果を表2および表3に示す。
【0147】
【表2】
【0148】
【表3】
【0149】
8.磁性ビーズを用いた核酸の抽出
表4に示す実施例1~12では、サンプルNo.1~4の磁性ビーズを用いて核酸の抽出を行った。また、表4に示す比較例1~12では、サンプルNo.5~8の磁性ビーズを用いて核酸の抽出を行った。さらに、表5に示す実施例13~18では、サンプルNo.9~14の磁性ビーズを用いて核酸の抽出を行った。また、表5に示す比較例13~16では、サンプルNo.15~18の磁性ビーズを用いて核酸の抽出を行った。
【0150】
核酸の抽出方法は、以下の通りである。
まず、核酸のモデルとしてHuman genomic DNAを、夾雑物のモデルとしてリゾチームを、それぞれ用意した。
【0151】
次に、各実施例および各比較例の磁性ビーズをそれぞれ純水に分散させ、撹拌して磁性ビーズ懸濁液を調製した。なお、磁性ビーズ懸濁液における磁性ビーズの含有率は53.17質量%とした。
【0152】
次に、核酸以外の試薬を室温になるまで放置した後、チューブに、以下の順序で試薬を入れた。
【0153】
・純水65μL
・濃度0.1μg/μLの核酸分散液20μL
・溶解吸着液750μL
・濃度10μg/μLのリゾチーム水溶液15μL
・磁性ビーズ懸濁液40μL
【0154】
次に、チューブの内容物をボルテックスミキサーで10分間撹拌した後、チューブを磁気スタンドにセットして30秒間放置した。そして、磁性ビーズが磁気捕集されたら、上清を除去した。
【0155】
次に、900μLの洗浄液をチューブに加え、ボルテックスミキサーで5秒間撹拌した後、遠心分離にかけた。その後、チューブを磁気スタンドにセットして30秒間放置した。そして、磁性ビーズが磁気捕集されたら、上清を除去した。その後、洗浄液の追加、磁気捕集および上清の除去をもう一度行った。
【0156】
次に、900μLの70%エタノール水溶液をチューブに加え、ボルテックスミキサーで5秒間撹拌した後、遠心分離にかけた。その後、チューブの内容物をピペットで吸って戻す操作を1回行った。その後、チューブを磁気スタンドにセットして30秒間放置した。そして、磁性ビーズが磁気捕集されたら、上清を除去した。その後、エタノール水溶液の追加、磁気捕集および上清の除去をもう一度行った。次に、チューブを遠心分離にかけた後、残りの上清を除去した。
【0157】
次に、チューブに100μLの純水を加えた後、ボルテックスミキサーで撹拌し、核酸を溶出させた。このとき、ボルテックスミキサーによる撹拌時間を、表4および表5に示す溶出時間に設定した。その後、チューブを磁気スタンドにセットして30秒間放置した。そして、磁性ビーズが磁気捕集されたら、核酸が含まれる溶出液を、別のチューブに回収した。
【0158】
9.抽出した核酸の評価
各実施例および各比較例で抽出した核酸について、以下の方法で評価した。
【0159】
9.1.核酸の収率
抽出された核酸を含む溶出液について、以下の方法で核酸の収率を算出した。
【0160】
まず、回収した溶出液が入ったチューブを吸光光度計にセットし、波長260nmにおける吸光度から溶出液中の核酸の濃度を定量した。なお、核酸塩基が260nm付近に吸収極大を持っているため、波長260nmにおける吸光度を核酸の濃度の定量に用いた。そして、求めた濃度から核酸の回収量を算出するとともに、核酸の投入量に対する回収量の割合を収率として算出した。算出結果を表4および表5に示す。
【0161】
また、算出した核酸の収率を以下の評価基準に照らして評価した。評価結果を、収率の相対評価として表4および表5に示す。
【0162】
A:核酸の収率が80%以上である
B:核酸の収率が65%以上80%未満である
C:核酸の収率が50%以上65%未満である
D:核酸の収率が50%未満である
【0163】
9.2.核酸の純度
抽出された核酸を含む溶出液について、9.1.で示した方法により、波長260nmにおける吸光度A260を測定した。また、波長280nmにおける吸光度A280も測定した。
【0164】
次に、吸光度A280に対する吸光度A260の比A260/A280を算出した。算出結果を、核酸の純度として表4および表5に示す。
【0165】
また、算出結果を以下の評価基準に照らして評価した。評価結果を、純度の相対評価として表4および表5に示す。
【0166】
A:比A260/A280が1.7以上1.9以下である
B:比A260/A280が1.7未満または1.9超である
【0167】
【表4】
【0168】
【表5】
【0169】
表4および表5に示すように、各実施例の磁性ビーズを用いることで、抽出時間が短くても、高い収率で核酸を抽出可能であることが認められた。また、各実施例の磁性ビーズを用いることで、高純度の核酸を抽出可能であることも認められた。以上の結果から、本発明に係る磁性ビーズおよび磁性ビーズ試薬によれば、高純度の生体物質を効率よく抽出可能であることが認められた。
【符号の説明】
【0170】
1…容器、2…磁性ビーズ、2A…磁性ビーズ、3…液体、4…磁性ビーズ分散液、5…磁石、6…ピペット、22…磁性金属粒子、24…被覆膜、40…分散媒、42…容器、44…ピペット、S102…溶解・吸着工程、S108…洗浄工程、S110…溶出工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8