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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024164940
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】リコイル装置および履帯式車両
(51)【国際特許分類】
   F16F 9/08 20060101AFI20241121BHJP
   F16F 9/32 20060101ALI20241121BHJP
   F16F 9/56 20060101ALI20241121BHJP
   E02F 9/02 20060101ALI20241121BHJP
   B62D 55/30 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
F16F9/08
F16F9/32 Z
F16F9/56 Z
E02F9/02 A
B62D55/30 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080685
(22)【出願日】2023-05-16
(71)【出願人】
【識別番号】505236469
【氏名又は名称】キャタピラー エス エー アール エル
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】飯嶋 誠治
(72)【発明者】
【氏名】山下 康夫
(72)【発明者】
【氏名】松本 悠
【テーマコード(参考)】
3J069
【Fターム(参考)】
3J069AA50
3J069AA60
3J069CC15
3J069CC28
3J069EE35
(57)【要約】
【課題】アキュムレータの損傷を防止することができるリコイル装置を提供する。
【解決手段】履帯が受けた衝撃を緩衝するリコイル装置12は、液体を貯留するシリンダチューブ28と、シリンダチューブ28の一端側に摺動自在に装着されたピストンロッド30と、シリンダチューブ28の他端側に連結されたアキュムレータ32と、アキュムレータ32を保護するカバー部材34とを備える。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
履帯が受けた衝撃を緩衝するリコイル装置であって、
液体を貯留するシリンダチューブと、
前記シリンダチューブの一端側に摺動自在に装着されたピストンロッドと、
前記シリンダチューブの他端側に連結されたアキュムレータと、
前記アキュムレータを保護するカバー部材とを備えるリコイル装置。
【請求項2】
前記カバー部材は、前記シリンダチューブおよび前記ピストンロッドを移動させることにより、前記履帯の張力を調整可能である、請求項1に記載のリコイル装置。
【請求項3】
前記カバー部材は、筒状の固定カバーと、前記固定カバーに摺動自在に嵌め合わされるとともに前記シリンダチューブに連結された筒状の可動カバーと、を含み、
前記固定カバーと前記可動カバーとの間には、グリースを貯留するグリース室が形成されており、
前記グリース室内のグリース量の増減によって、前記固定カバーに対して前記可動カバーが移動するとともに、前記シリンダチューブおよび前記ピストンロッドが移動することによって、前記履帯の張力が調整される、請求項1に記載のリコイル装置。
【請求項4】
さらに、前記ピストンロッドの可動距離を調整するストローク調整手段を備える、請求項1に記載のリコイル装置。
【請求項5】
前記ストローク調整手段は、前記ピストンロッドまたは前記シリンダチューブに移動自在にネジ結合され、前記ストローク調整手段の位置が変更されることによって、前記ピストンロッドの可動距離が変更される、請求項4に記載のリコイル装置。
【請求項6】
前記ストローク調整手段には雄ネジが形成され、前記ピストンロッドには雌ネジが形成されており、
前記雄ネジと前記雌ネジが嵌まり合うことによって、前記ストローク調整手段が前記ピストンロッドに移動自在にネジ結合されている、請求項5に記載のリコイル装置。
【請求項7】
前記シリンダチューブには雄ネジが形成され、前記ストローク調整手段には雌ネジが形成されており、
前記雄ネジと前記雌ネジが嵌まり合うことによって、前記ストローク調整手段が前記シリンダチューブに移動自在にネジ結合されている、請求項5に記載のリコイル装置。
【請求項8】
前記ストローク調整手段は、前記ピストンロッドまたは前記シリンダチューブに固定されるスペーサである、請求項4に記載のリコイル装置。
【請求項9】
請求項1に記載のリコイル装置を備える履帯式車両であって、
トラックフレームと、前記トラックフレームの一端側に配置されたスプロケットと、前記トラックフレームの他端側に配置されたアイドラと、前記アイドラを回転自在に支持するアイドラヨークとを含み、
前記アイドラヨークと前記ピストンロッドとのいずれか一方には、凹状の曲面が形成され、
前記アイドラヨークと前記ピストンロッドとのいずれか他方には、前記凹状の曲面に対応する凸状の曲面が形成され、
前記ピストンロッドに対する前記アイドラヨークの位置が変更自在に、前記凹状の曲面と前記凸状の曲面とが接している、履帯式車両。
【請求項10】
前記凹状の曲面および前記凸状の曲面は、いずれも球面状である、請求項9に記載の履帯式車両。
【請求項11】
前記凹状の曲面の周囲には環状の突起が設けられている、請求項9に記載の履帯式車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、履帯が受けた衝撃を緩衝するリコイル装置、および、リコイル装置を備える履帯式車両に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベルやブルドーザーなどの履帯式車両は、トラックフレームと、トラックフレームの一端側に配置されたスプロケットと、トラックフレームの他端側に配置されたアイドラと、スプロケットおよびアイドラに巻き掛けられた履帯と、履帯が受けた衝撃を緩衝するリコイル装置とを含む。
【0003】
履帯式車両に装着されるリコイル装置には様々な形態がある。たとえば、リコイル装置には、液体を貯留するシリンダチューブと、シリンダチューブの一端側に摺動自在に装着されたピストンロッドと、シリンダチューブの他端側に連結されたアキュムレータとを備える形態のものがある(たとえば、特許文献1参照)。
【0004】
上記リコイル装置のシリンダチューブは、トラックフレームに固定されている。ピストンロッドは、アイドラを回転自在に支持するアイドラヨークを介して、アイドラに連結されている。また、アキュムレータの内部には、窒素ガスなどの気体が封入されたプラダが設けられている。
【0005】
上記リコイル装置においては、履帯が衝撃を受けると、アイドラとともにアイドラヨークがスプロケット側に向かって移動する。これによって、アイドラに連結されているピストンロッドがシリンダチューブ内に押し込まれる。そうすると、シリンダチューブからアキュムレータに液体が流れる。この結果、プラダ内の気体が圧縮することにより、衝撃が緩衝される。
【0006】
衝撃が緩衝された後、圧縮された気体の圧力によってプラダが復元することで、アキュムレータからシリンダチューブに液体が流れる。これによって、ピストンロッドが元の位置に戻るとともに、アイドラも元の位置に戻るため、履帯に所定の張力が付与される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003-343516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に開示されているリコイル装置においては、アキュムレータが露出しているため、土砂によってアキュムレータが損傷するおそれがある。
【0009】
アキュムレータの上方は、トラックフレームによって部分的に覆われているが、トラックフレームの上面に土砂が堆積するのを防止するため、トラックフレームの上面には、土砂を落下させる穴が形成されている。したがって、穴から落ちてきた土砂がアキュムレータにかかってしまうことがある。
【0010】
また、アキュムレータの下方は露出していることから、履帯式車両の走行中に、アキュムレータに向かって土砂が飛んでくることもある。
【0011】
このようなことから、上述のリコイル装置においては、土砂によってアキュムレータが損傷するおそれが高い。
【0012】
本発明の課題は、アキュムレータの損傷を防止することができるリコイル装置および履帯機式車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、上記課題を解決する以下のリコイル装置が提供される。すなわち、
「履帯が受けた衝撃を緩衝するリコイル装置であって、
液体を貯留するシリンダチューブと、
前記シリンダチューブの一端側に摺動自在に装着されたピストンロッドと、
前記シリンダチューブの他端側に連結されたアキュムレータと、
前記アキュムレータを保護するカバー部材とを備えるリコイル装置」が提供される。
【0014】
前記カバー部材は、前記シリンダチューブおよび前記ピストンロッドを移動させることにより、前記履帯の張力を調整可能であるのが好ましい。
【0015】
前記カバー部材は、筒状の固定カバーと、前記固定カバーに摺動自在に嵌め合わされるとともに前記シリンダチューブに連結された筒状の可動カバーと、を含み、前記固定カバーと前記可動カバーとの間には、グリースを貯留するグリース室が形成されており、前記グリース室内のグリース量の増減によって、前記固定カバーに対して前記可動カバーが移動するとともに、前記シリンダチューブおよび前記ピストンロッドが移動することによって、前記履帯の張力が調整され得る。
【0016】
本発明のリコイル装置は、さらに、前記ピストンロッドの可動距離を調整するストローク調整手段を備えるのが望ましい。
【0017】
前記ストローク調整手段は、前記ピストンロッドまたは前記シリンダチューブに移動自在にネジ結合され、前記ストローク調整手段の位置が変更されることによって、前記ピストンロッドの可動距離が変更されるのが好適である。
【0018】
前記ストローク調整手段には雄ネジが形成され、前記ピストンロッドには雌ネジが形成されており、前記雄ネジと前記雌ネジが嵌まり合うことによって、前記ストローク調整手段が前記ピストンロッドに移動自在にネジ結合され得る。
【0019】
前記シリンダチューブには雄ネジが形成され、前記ストローク調整手段には雌ネジが形成されており、前記雄ネジと前記雌ネジが嵌まり合うことによって、前記ストローク調整手段が前記シリンダチューブに移動自在にネジ結合されているのが好都合である。
【0020】
前記ストローク調整手段は、前記ピストンロッドまたは前記シリンダチューブに固定されるスペーサであってもよい。
【0021】
また、本発明によれば、上記課題を解決する以下の履帯式車両が提供される。すなわち、「上記リコイル装置を備える履帯式車両であって、
トラックフレームと、前記トラックフレームの一端側に配置されたスプロケットと、前記トラックフレームの他端側に配置されたアイドラと、前記アイドラを回転自在に支持するアイドラヨークとを含み、
前記アイドラヨークと前記ピストンロッドとのいずれか一方には、凹状の曲面が形成され、
前記アイドラヨークと前記ピストンロッドとのいずれか他方には、前記凹状の曲面に対応する凸状の曲面が形成され、
前記ピストンロッドに対する前記アイドラヨークの位置が変更自在に、前記凹状の曲面と前記凸状の曲面とが接している、履帯式車両」が提供される。
【0022】
前記凹状の曲面および前記凸状の曲面は、いずれも球面状であるのが望ましい。前記凹状の曲面の周囲には環状の突起が設けられていてもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明においては、カバー部材によってアキュムレータを保護するので、アキュムレータの損傷を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明に係る履帯式車両の走行体の側面図。
図2図1に示す走行体の一部分解斜視図。
図3図1に示すリコイル装置、アイドラおよびアイドラヨークの斜視図。
図4図1に示すリコイル装置の断面図。
図5図4の拡大図(ピストンロッド側)。
図6図4の拡大図(アキュムレータ側)。
図7図1に示すリコイル装置において、ピストンロッドの可動距離が短縮された状態の断面図。
図8図1に示すピストンロッドに対してアイドラヨークの位置がずれている状態を示す平面図(ただし、アイドラヨークは断面で示されている)。
図9】ストローク調整手段の第一の変形例を有するリコイル装置の断面図。
図10】ストローク調整手段の第二の変形例を有するリコイル装置の断面図。
図11】ストローク調整手段の第三の変形例を有するリコイル装置の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係るリコイル装置の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0026】
(走行体2)
図1には、履帯式車両の走行体の一例として、油圧ショベルの走行体2が記載されている。走行体2は、トラックフレーム4と、トラックフレーム4の一端側(図1における左側)に配置されたスプロケット6と、トラックフレーム4の他端側(図1における右側)に配置されたアイドラ8と、スプロケット6およびアイドラ8に巻き掛けられた履帯10と、履帯10が受けた衝撃を緩衝するリコイル装置12とを含む。
【0027】
スプロケット6、アイドラ8、履帯10およびリコイル装置12は、紙面に対して垂直な方向に間隔をおいて一対ずつ設けられているが、図1には、それぞれ片方のみが記載されている。また、図1においては、便宜上、リコイル装置12が見えるように、トラックフレーム4を部分的に切り欠いている。
【0028】
図1に示すように、スプロケット6には、油圧モータ14が装着されている。この油圧モータ14によってスプロケット6が回転するのに伴い、履帯10が回転する。これによって、走行体2を備える履帯式車両が走行するようになっている。また、履帯10が回転する際には、アイドラ8に加えて、キャリアローラ16およびトラックローラ18によって履帯10がガイドされる。
【0029】
(アイドラヨーク20)
図2および図3を参照して説明すると、アイドラ8は、アイドラヨーク20を介してトラックフレーム4に装着されている。アイドラヨーク20は、アイドラ8を回転自在に支持する一対の支持棒22と、一対の支持棒22の端部同士を連結する連結片24とを有する。
【0030】
アイドラヨーク20の一対の支持棒22は、走行体2の走行方向(矢印Xで示す方向)において移動自在に、トラックフレーム4に支持されている。一対の支持棒22は、複数個のボルト26によって連結片24の片面24a側に締結されている。
【0031】
図4に示すように、図示の連結片24の他面24bには、凹状の曲面24cが形成されている。凹状の曲面24cは、球面状であるのが好適である。また、凹状の曲面24cの周囲には、環状の突起24dが設けられていてもよい。
【0032】
(リコイル装置12)
リコイル装置12は、連結片24の他面24b側に配置されている。リコイル装置12は、油などの液体を貯留するシリンダチューブ28と、シリンダチューブ28の一端側に摺動自在に装着されたピストンロッド30と、シリンダチューブ28の他端側に連結されたアキュムレータ32と、アキュムレータ32を保護するカバー部材34とを備える。
【0033】
(シリンダチューブ28)
図5を参照して説明すると、シリンダチューブ28は、X軸方向に延びる円筒状の側壁36と、側壁36のX軸方向片側端部(図5の左側端部)に設けられた円形の端面壁38とを有する。図示の端面壁38の直径は、側壁36の直径(外径)よりも大きく、端面壁38の周縁部が側壁36の外周面から突出している。シリンダチューブ28においては、側壁36および端面壁38によって、液体を貯留するための液室40が規定されている。
【0034】
シリンダチューブ28の側壁36には、液室40へ液体を供給し、かつ、液室40から液体を排出するための一対の開口36aが形成されている。リコイル装置12の組み立ての際には、開口36aから液室40に所定量の液体が供給されることにより、ピストンロッド30が初期位置(図5に示す位置)に位置づけられる。ピストンロッド30が初期位置に位置づけられた後、一対の開口36aのそれぞれは、プラグ42によって塞がれる。
【0035】
図5に示すとおり、シリンダチューブ28の端面壁38には、シリンダチューブ28とアキュムレータ32とを連結するためのコネクタ44が装着されている。このコネクタ44により、シリンダチューブ28の液室40と、アキュムレータ32の液室(図示していない。)とが連通している。
【0036】
(ピストンロッド30)
ピストンロッド30は、シリンダチューブ28のX軸方向一端側に配置されている。ピストンロッド30は、シリンダチューブ28の内部においてX軸方向に摺動する円筒状のピストン46と、ピストン46の端面からX軸方向に延びる円筒状のロッド48と、を含む。
【0037】
(ピストン46)
ピストン46の直径(外径)は、ロッド48の直径(外径)よりも大きい。また、ピストン46の直径(外径)は、シリンダチューブ28の側壁36の内径とほぼ同一である。ピストン46の外周面には、環状のピストンパッキン50が装着されている。ピストンパッキン50によって、ピストン46の外周面と側壁36の内周面との間(摺動部)からの液体の漏れが防止されている。なお、ピストンパッキン50は、X軸方向に間隔をおいて複数個(たとえば2個)設けられていてもよい。
【0038】
(ロッド48)
図示のロッド48の先端には、上記凹状の曲面24cに対応する凸状の曲面48aが形成されている。凸状の曲面48aは、球面状であるのが好ましい。図4に示すとおり、ロッド48の先端の凸状の曲面48aは、ピストンロッド30に対するアイドラヨーク20の位置が変更自在に、連結片24の凹状の曲面24cに接している。
【0039】
(貫通穴52)
図5に示すように、本実施形態のピストンロッド30には、X軸方向に延びる段付きの貫通穴52が形成されている。貫通穴52は、大径部52aと、大径部52aの直径よりも直径が小さい小径部52bとを有する。図5において、大径部52aは左側(ピストン46側)に位置し、小径部52bは右側(ロッド48側)に位置する。
【0040】
貫通穴52の大径部52aには、環状パッキン54が設置されている。環状パッキン54は、X軸方向に間隔をおいて複数個(たとえば2個)設けられ得る。貫通穴52の小径部52bには、X軸方向に沿って延びる雌ネジが形成されている。なお、大径部52aには、雌ネジは形成されていない。
【0041】
(ロッドカバー58)
本実施形態においては、リコイル装置12が組み立てられる際に、ピストンロッド30がシリンダチューブ28に挿入される。その後、シリンダチューブ28の側壁36の端部(端面壁38とは反対側の端部)には、複数個のボルト56によって環状のロッドカバー58が締結される(図5参照)。
【0042】
このロッドカバー58がシリンダチューブ28に装着されていることにより、シリンダチューブ28からピストンロッド30が抜けてしまうのが防止される。また、図5に示すとおり、ロッドカバー58には、シリンダチューブ28の内部に異物が侵入するのを抑制する環状のロッドパッキン60が装着されている。
【0043】
(ストローク調整手段62)
図4および図5に示すように、円筒状のピストンロッド30には、ピストンロッド30の可動距離Dを調整するストローク調整手段62が装着され得る。ストローク調整手段62は、円形状のプレート部64と、プレート部64の片面からX軸方向に延びる円柱状の胴部66と、胴部66の先端から更にX軸方向に延びる円柱状のネジ部68とを有する。
【0044】
(プレート部64)
図示の実施形態においては、ストローク調整手段62のプレート部64の直径は、ピストン46の直径(外径)に対応している。ただし、プレート部64の直径は、ピストン46の直径に対応していなくてもよい。また、プレート部64の形状は、円形状ではなく他の形状(たとえば、矩形状)であってもよい。
【0045】
(胴部66)
ストローク調整手段62の胴部66の直径は、貫通穴52の大径部52aの直径に対応しており、胴部66は、大径部52aに位置づけられている。胴部66の外周面とピストン46の内周面との隙間は、環状パッキン54によって塞がれている。これにより、上記隙間から液体が漏れないようになっている。
【0046】
(ネジ部68)
ストローク調整手段62のネジ部68の外周面には、貫通穴52の小径部52bの雌ネジに嵌まり合う雄ネジが形成されている。ネジ部68の雄ネジが小径部52bの雌ネジに嵌まり合うことによって、ストローク調整手段62がピストンロッド30にX軸方向に移動自在にネジ結合されている。また、ネジ部68の先端には、工具用の凹所68a(たとえば、六角穴、十字穴、すりわり等)が形成されている。
【0047】
(アキュムレータ32)
図4に示すとおり、アキュムレータ32は、シリンダチューブ28のX軸方向他端側(ピストンロッド30の反対側)に配置されている。アキュムレータ32は、コネクタ44を介してシリンダチューブ28の端面壁38に連結されたハウジング32aと、ハウジング32aの内部に収容されたプラダ(図示していない。)とを有する。プラダの内部には、窒素ガスなどの気体が封入されている。
【0048】
(カバー部材34)
図6を参照して、カバー部材34について説明する。カバー部材34は、筒状の固定カバー70と、固定カバー70に摺動自在に嵌め合わされた筒状の可動カバー72と、を含む。
【0049】
(固定カバー70)
図示していないが、固定カバー70は、トラックフレーム4に固定されている。すなわち、トラックフレーム4に対する固定カバー70の位置は変わらないようになっている。
【0050】
固定カバー70は、X軸方向に延びる円筒状であり、固定カバー70のX軸方向片側端部(図6における右側端部:アイドラ8側の端部)は開放されている。一方、固定カバー70のX軸方向他側端部(図6における左側端部:スプロケット6側の端部)は閉塞されている。
【0051】
固定カバー70の内周面には、段差が設けられている。具体的には、固定カバー70は、大径部70aと、大径部70aの内径よりも内径が小さい小径部70bとを有する。図6において、大径部70aは右側(アイドラ8側)に位置し、小径部70bは左側(スプロケット6側)に位置する。
【0052】
固定カバー70の小径部70bには、グリースバルブ74が装着されている。また、小径部70bには、グリースバルブ74から大径部70aに至るグリース通路76が形成されている。
【0053】
(可動カバー72)
可動カバー72は、X軸方向に延びる円筒状である。可動カバー72のX軸方向片側端部(図6における右側端部:アイドラ8側の端部)は、シリンダチューブ28の端面壁38に複数個のボルト78によって締結されている。
【0054】
可動カバー72の外周面には、段差が設けられている。具体的には、可動カバー72は、大径部72aと、大径部72aの外径よりも外径が小さい小径部72bとを有する。図6において、大径部72aは右側に位置し、小径部72bは左側に位置する。
【0055】
可動カバー72の大径部72aの外径は、固定カバー70の大径部70aの内径とほぼ同一である。また、可動カバー72の小径部72bの外径は、固定カバー70の小径部70bの内径とほぼ同一である。可動カバー72の大径部72aの外周面には、環状パッキン80aが装着され、可動カバー72の小径部72bの外周面にも、環状パッキン80bが装着されている。
【0056】
(グリース室82)
固定カバー70の大径部70aの内周面と、可動カバー72の小径部72bの外周面との間には、グリースを貯留する環状のグリース室82が形成されている。グリース室82はグリース通路76に連通している。
【0057】
リコイル装置12が走行体2に組み付けられる際には、グリースバルブ74からグリース通路76を介してグリース室82に所定量のグリースが供給される。これによって、可動カバー72が初期位置に位置づけられる。なお、グリース室82からのグリースの漏れは、環状パッキン80a、80bによって防止される。
【0058】
上記のとおり、可動カバー72はシリンダチューブ28に締結されているので、可動カバー72が初期位置に位置づけられると、シリンダチューブ28およびピストンロッド30も初期位置に位置するとともに、アイドラヨーク20およびアイドラ8も初期位置に位置することになる。これによって、履帯10には、所定張力が作用する。
【0059】
なお、図示の実施形態では、固定カバー70の内側に可動カバー72が嵌め合わされているが、これとは反対に、固定カバーの外側に可動カバーが嵌め合わされていてもよい。この場合には、固定カバーの外周面と可動カバーの内周面との間にグリース室が形成される。
【0060】
次に、上述したリコイル装置12の機能について説明する。
【0061】
(履帯10の衝撃を緩衝)
走行体2が不整地などを走行している際、履帯10が衝撃を受けると、アイドラ8とともにアイドラヨーク20がスプロケット6側に向かって移動する。そうすると、アイドラヨーク20の連結片24によって、ピストンロッド30がシリンダチューブ28内に押し込まれる。これによって、シリンダチューブ28の液室40からアキュムレータ32の液室に液体が流れる。この結果、アキュムレータ32のプラダ内の気体が圧縮することによって、衝撃が緩衝される。
【0062】
衝撃が緩衝された後、圧縮された気体の圧力によってプラダが復元することで、アキュムレータ32の液室から、シリンダチューブ28の液室40に液体が流れる。これによって、ピストンロッド30が初期位置に戻るため、ピストンロッド30がアイドラヨーク20の連結片24を押しつけて、アイドラ8を初期位置に移動させる。したがって、履帯10に上記所定張力が付与される。
【0063】
(アキュムレータ32の保護)
図示の実施形態のリコイル装置12においては、カバー部材34によってアキュムレータ32が覆われており、アキュムレータ32が露出していない。このため、アキュムレータ32に土砂がかかることがないので、アキュムレータ32の損傷が防止される。
【0064】
(履帯10の張力の調整)
上記のとおり、カバー部材34の固定カバー70は、トラックフレーム4に固定されている。また、可動カバー72は、シリンダチューブ28に連結されている。このため、グリース室82内のグリース量が増えると、固定カバー70に対して可動カバー72がX1方向(図4参照)に移動する。これに伴って、シリンダチューブ28およびピストンロッド30もX1方向に移動するとともに、アイドラヨーク20およびアイドラ8もX1方向に移動する。この結果、履帯10の張力が大きくなる。
【0065】
反対に、グリース室82内のグリース量が減ると、固定カバー70に対して可動カバー72がX2方向に移動するため、シリンダチューブ28およびピストンロッド30がX2方向に移動する。そうすると、履帯10からアイドラ8に加わる荷重によって、アイドラ8およびアイドラヨーク20がX2方向に移動するため、履帯10の張力が小さくなる。
【0066】
このように、リコイル装置12においては、グリース室82内のグリース量の増減によって、固定カバー70に対して可動カバー72が移動するとともに、シリンダチューブ28およびピストンロッド30が移動することによって、履帯10の張力が調整され得る。要するに、本実施形態のカバー部材34は、シリンダチューブ28およびピストンロッド30を移動させることにより、履帯10の張力を調整可能である。
【0067】
(ピストンロッド30の可動距離Dの調整)
リコイル装置12を走行体2に組み付ける前に、ピストンロッド30の貫通穴52から凹所68a(図5参照)に嵌まる適宜の工具を貫通穴52に差し込み、この工具でストローク調整手段62を回転させることにより、ピストンロッド30に対してストローク調整手段62をX軸方向(ピストンロッド30の摺動方向)に移動させることができる。
【0068】
図4には、ストローク調整手段62のプレート部64がピストン46に接しており、ピストンロッド30の可動距離Dが最大値に調整された場合が示されている。他方、図7には、図4に示す場合よりもストローク調整手段62が左側(アキュムレータ32側)に移動され、ピストンロッド30の可動距離Dが最大値よりも小さい値に調整された場合が示されている。
【0069】
このように、ストローク調整手段62のX軸方向位置を変更することにより、シリンダチューブ28内におけるピストンロッド30の可動距離Dを変更可能である。
【0070】
したがって、ピストンロッド30の可動距離Dとともに、アキュムレータ32内の気体の充填圧力を適宜調整することにより、履帯10が衝撃を受けた際の反発力を変更することができる。このため、リコイル装置12は、大きさや重量の異なる複数の履帯式車両に搭載され得る。なお、履帯10が衝撃を受けた際に必要な反発力は、履帯式車両の大きさや重量によって異なる値に設定される。
【0071】
(アイドラ8のズレを吸収)
図8を参照して説明すると、図示の実施形態においては、上記のとおり、アイドラヨーク20の連結片24には、凹状の曲面24cが形成されている。また、ピストンロッド30のロッド48の先端には、凹状の曲面24cに対応する凸状の曲面48aが形成されている。そして、ピストンロッド30に対するアイドラヨーク20の位置が変更自在に、凹状の曲面24cと凸状の曲面48aとが接している。
【0072】
このため、履帯10が衝撃を受けた際に、アイドラ8およびアイドラヨーク20がリコイル装置12に対して傾いてしまっても、リコイル装置12に対するアイドラヨーク20のズレが吸収される。
【0073】
図8中の符号L1は、リコイル装置12の中心線を示し、符号L2は、アイドラヨーク20およびアイドラ8の中心線を示している。また図8では、便宜上、アイドラヨーク20については断面を記載している。
【0074】
また、本実施形態では、凹状の曲面24cおよび凸状の曲面48aが球面状であることから、リコイル装置12に対するアイドラヨーク20の3次元的なズレが吸収される。さらに、環状の突起24dによって、凹状の曲面24cから凸状の曲面48aが外れてしまうことが抑制されている。
【0075】
なお、上述した形態とは反対に、ロッド48の先端に凹状の曲面が形成され、この凹状の曲面に対応する凸状の曲面が、アイドラヨーク20の連結片24に形成されていてもよい。
【0076】
以上のとおりであり、リコイル装置12においては、流体の作用によって履帯10の衝撃を緩衝可能であるとともに、カバー部材34によってアキュムレータ32を保護するのでアキュムレータ32の損傷を防止することができる。
【0077】
また、本実施形態のリコイル装置12においては、グリース室82内のグリース量の増減によって、履帯10の張力を調整可能である。
【0078】
本実施形態のリコイル装置12のように、ピストンロッド30の可動距離Dを変更可能であり、履帯10が衝撃を受けた際の反発力を調整できる場合には、大きさや重量の異なる複数の履帯式車両に搭載され得る。
【0079】
さらに、走行体2を備える履帯式車両においては、リコイル装置12に対するアイドラヨーク20のズレを吸収することができる。
【0080】
(ストローク調整手段の第1の変形例)
ピストンロッド30の可動距離Dを調整するストローク調整手段については、上述した形態に限定されず、様々な形態が採用され得る。たとえば図9に示す第1の変形例のストローク調整手段84は、シリンダチューブ28に移動自在にネジ結合されており、シリンダチューブ28に対するストローク調整手段84の位置が変更されることによって、ピストンロッド30の可動距離Dが変更されるようになっている。
【0081】
図9に示す第1の変形例について詳述する。シリンダチューブ28の側壁36の外周面には、X軸方向に沿って延びる雄ネジが形成されている。なお、第1の変形例のように、シリンダチューブ28は、カバー部材34の可動カバー72と一体的に形成されていてもよい。
【0082】
ストローク調整手段84は、円筒状の側壁86と、側壁86の端部に設けられた環状壁88とを有する。側壁86の内周面には、雌ネジが形成されている。環状壁88の内径は、ロッド48の直径とほぼ同一であるとともに、ピストン46の直径よりも小さい。なお、ピストンロッド30は円柱状であり、貫通穴は形成されていない。
【0083】
第1の変形例においては、上述の形態とは異なりロッドカバー58が設けられていない。だが、ストローク調整手段84の環状壁88によって、シリンダチューブ28からピストンロッド30が抜けてしまうのが防止されている。なお、図示していないが、環状壁88には、適宜のロッドパッキンが装着される。
【0084】
そして、シリンダチューブ28の側壁36の雄ネジと、ストローク調整手段84の側壁86の雌ネジが嵌まり合うことによって、ストローク調整手段84がシリンダチューブ28にX軸方向に移動自在にネジ結合されている。
【0085】
第1の変形例においては、リコイル装置12を走行体2に組み付ける前に、ストローク調整手段84をシリンダチューブ28に対して回転させることにより、ピストンロッド30に対してストローク調整手段84をX軸方向に移動させることができる。
【0086】
このようにして、ストローク調整手段84のX軸方向位置を変更することにより、シリンダチューブ28からのピストンロッド30の突出量を変更可能であるので、シリンダチューブ28内におけるピストンロッド30の可動距離Dを調整できる。
【0087】
(ストローク調整手段の第2の変形例)
図10に示すように、ストローク調整手段は、シリンダチューブ28に固定されるスペーサ90であってもよい。具体的には、シリンダチューブ28の側壁36の端部(ロッドカバー58側の端部)に、スペーサ90が固定される。なお、スペーサ90は、ロッドカバー58とともにボルト56によって側壁36に締結される。
【0088】
図10に示すスペーサ90は環状であり、スペーサ90の内径は、シリンダチューブ28の側壁36の内径とほぼ同じである。このため、シリンダチューブ28とロッドカバー58との間にスペーサ90が設けられると、スペーサ90がない場合と比較して、シリンダチューブ28のX軸方向距離が長くなるため、ピストンロッド30の可動距離Dが長くなる。
【0089】
図10には、2枚の同じ厚さのスペーサ90が設けられる例が示されているが、スペーサ90の数量および厚さは任意である。スペーサ90の数量および厚さを適宜調整することによって、可動距離Dの増加量を調整可能である。
【0090】
なお、図10に示す第2の変形例においても、図9に示す第1の変形例と同様に、ピストンロッド30は円柱状であり、貫通穴は形成されていない。
【0091】
(ストローク調整手段の第3の変形例)
ストローク調整手段は、図11に示すように、ピストンロッド30に固定されるスペーサ92であってもよい。具体的には、ピストンロッド30のピストン46の端面に、ボルト94によってスペーサ92が締結される。
【0092】
図11に示すスペーサ92は円板状であり、スペーサ92の直径は、ピストン46の直径に対応している。ただし、スペーサ92の直径は、ピストン46の直径に対応していなくてもよい。また、スペーサ92の形状は、円形状ではなく他の形状(たとえば、矩形状)であってもよい。
【0093】
そして、図11に示すとおり、スペーサ92がピストン46の端面に固定されていることにより、スペーサ92がない場合と比較して、ピストンロッド30の可動距離Dが短くなる。
【0094】
第3の変形例においても、第2の変形例と同様に、スペーサ92の数量および厚さは任意であり、スペーサ92の数量および厚さを適宜調整することによって、可動距離Dの減少量を調整可能である。また、第3の変形例においても、ピストンロッド30は円柱状であり、貫通穴は形成されていない。
【符号の説明】
【0095】
4:トラックフレーム
6:スプロケット
8:アイドラ
10:履帯
12:リコイル装置
20:アイドラヨーク
22:支持棒
24:連結片
28:シリンダチューブ
30:ピストンロッド
32:アキュムレータ
34:カバー部材
62:ストローク調整手段
70:固定カバー
70a:固定カバーの大径部
70b:固定カバーの小径部
72:可動カバー
72a:可動カバーの大径部
72b:可動カバーの小径部
82:グリース室
D:可動距離
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11