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特開2024-164948制御回路、および、三相力率改善装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024164948
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】制御回路、および、三相力率改善装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/12 20060101AFI20241121BHJP
【FI】
H02M7/12 A
H02M7/12 M
H02M7/12 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080697
(22)【出願日】2023-05-16
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100135389
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100168044
【弁理士】
【氏名又は名称】小淵 景太
(72)【発明者】
【氏名】土井 敏光
【テーマコード(参考)】
5H006
【Fターム(参考)】
5H006AA02
5H006CA01
5H006CA07
5H006CA12
5H006CB01
5H006CB08
5H006DA04
5H006DB02
5H006DB07
5H006DC04
5H006DC05
(57)【要約】
【課題】三相交流電源の周波数が急速に変化した場合でも、制御対象機器の動作が不安定になることを抑制できる制御回路を提供する。
【解決手段】制御回路A1において、三相交流電源の三相の検出信号を回転座標軸上の二相信号に変換する二相変換部121と、三相交流電源の第2検出信号を入力され、第2検出信号から検出された第1周波数より低い第2周波数に基づく正弦波信号を生成して、二相変換部121に出力する位相検出部14と、を備えた。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
三相交流電源の三相の検出信号を回転座標軸上の二相信号に変換する二相変換部と、
前記三相交流電源の第2検出信号を入力され、前記第2検出信号から検出された第1周波数より低い第2周波数に基づく正弦波信号を生成して、前記二相変換部に出力する位相検出部と、
を備えている、
制御回路。
【請求項2】
前記位相検出部は、
前記第2検出信号が負の値から正の値に切り替わるゼロクロスタイミングを検出するゼロクロス検出部と、
所定のクロック信号を出力するクロック出力部と、
前記ゼロクロス検出部がゼロクロスタイミングを検出してから、次のゼロクロスタイミングを検出するまでの間、前記クロック信号をカウントするクロックカウント部と、
複数のカウント値にそれぞれ関連付けて正弦波データを記憶する波形テーブルと、
前記クロックカウント部がカウントしたカウント数に、1より大きい周波数調整係数を乗算した値に基づいて、前記波形テーブルの各カウント値を設定するカウント値設定部と、
前記ゼロクロス検出部がゼロクロスタイミングを検出したときから、前記クロック信号をカウントした数が前記波形テーブルに設定されたいずれかのカウント値になったときに、当該カウント値に関連付けられている正弦波データを読み出す読出部と、
を備えている、
請求項1に記載の制御回路。
【請求項3】
前記位相検出部は、前記第2検出信号が正の値から負の値に切り替わる逆ゼロクロスタイミングを検出する逆ゼロクロス検出部をさらに備え、
前記読出部は、前記ゼロクロス検出部がゼロクロスタイミングを検出したとき、および、前記逆ゼロクロス検出部が逆ゼロクロスタイミングを検出したときから、前記クロック信号のカウントを開始する、
請求項2に記載の制御回路。
【請求項4】
前記第2検出信号の周波数変化を検出する変化検出部をさらに備え、
前記位相検出部は、前記周波数変化が所定値より大きい場合、前記第1周波数より低い前記第2周波数に基づく正弦波信号を生成し、前記周波数変化が前記所定値以下の場合、前記第1周波数に基づく正弦波信号を生成する、
請求項1に記載の制御回路。
【請求項5】
前記二相変換部と同様の構成の第2の二相変換部および第3の二相変換部と、
前記位相検出部と同様の構成の第2の位相検出部および第3の位相検出部と、
をさらに備え、
前記三相はu相、v相、およびw相を含んでおり、
前記二相変換部は、u相、v相、w相の順で、前記三相の検出信号を入力され、
前記第2の二相変換部は、v相、w相、u相の順で、前記三相の検出信号を入力され、
前記第3の二相変換部は、w相、u相、v相の順で、前記三相の検出信号を入力され、
前記位相検出部に入力される前記第2検出信号は、u相に関する検出信号であり、
前記第2の位相検出部は、v相に関する第3検出信号を入力され、
前記第3の位相検出部は、w相に関する第4検出信号を入力される、
請求項1に記載の制御回路。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の制御回路と、
前記制御回路によって制御される力率改善回路と、
を備えている、
三相力率改善装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三相交流電源の三相の検出信号を回転座標軸上の二相の信号に変換して制御を行う制御回路、および、当該制御回路を備えている三相力率改善装置に関する。
【背景技術】
【0002】
各種電力変換装置などの制御において、三相交流電流を検出した三相の電流検出信号を回転座標軸上の二相の信号に変換してから制御を行う制御回路が知られている。例えば特許文献1には、このような制御を行うAC/DC双方向コンバータが開示されている。当該AC/DC双方向コンバータの制御回路は、電流検出器により検出された三相の電流フィードバック信号を、3相-2相電流フィードバック演算器によって、d軸電流フィードバック信号とq軸電流フィードバック信号に変換する。そして、当該制御回路は、d軸電流フィードバック信号に基づく制御により演算処理されたd軸電圧指令信号と、q軸電流フィードバック信号に基づく制御により演算処理されたq軸電圧指令信号とを、2相-3相電圧指令演算器によって、三相の電圧指令信号に変換する。3相-2相電流フィードバック演算器および2相-3相電圧指令演算器は、AC電源の電源電圧信号から演算された電気角θ2信号に基づいて、AC電源と同期した演算処理を行う。
【0003】
また、電気角θ2信号の代わりに、AC電源と同期した正弦波信号および余弦波信号を座標変換の各演算器に入力する方法がある。当該方法では、検出されたAC電源の電源電圧信号と位相および周波数を一致させた正弦波信号および余弦波信号を、例えばデジタルPLL(Phase-locked loop)回路を用いて生成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-187082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
AC電源が商用電源などの、機器の電源容量に対して十分余裕を持った電源の場合、電源の周波数が安定しているので、AC電源の電源電圧信号と、各演算器に入力される正弦波信号および余弦波信号(以下では、「座標変換用信号」とする)とで、周波数および位相のずれはほとんどない。しかし、AC電源がエンジン発電機などの電源容量に余裕のない電源の場合、機器の起動時や停止時において、周波数が急速に変化する場合がある。座標変換用信号を決めるには最短でも1周期前の電源の位相および周波数の情報が必要であり、演算の時間を考えると、数周期前の情報を用いて座標変換用信号を決定することになる。デジタルPLLでは、電源電圧信号が負の値から正の値に切り替わるゼロクロスと同期して座標変換用信号を生成するが、最低でも1周期前の周波数で制御を行うことになる。したがって、周波数が急速に変化した場合、電源電圧信号と座標変換用信号とで位相のずれが生じる。図6(a)に示すように、電源電圧信号(波形aとして破線で示している)の周波数が急速に減少した場合、座標変換用信号(波形bとして実線で示している)は、各矢印cで示すタイミングで同期されて、歪んだ波形になる。また、図6(b)に示すように、電源電圧信号(波形aとして破線で示している)の周波数が急速に増加した場合、座標変換用信号(波形bとして実線で示している)は、各矢印cで示すタイミングで同期されて、歪んだ波形になる。このように、座標変換用信号が歪んだ波形になると、各演算器での変換処理が精度よく行われなくなり、制御回路が制御する機器の動作が不安定になる。周波数の変化速度が大きい場合は、座標変換用信号の作成の演算遅れによって、座標変換用信号の情報が2周期、3周期前の電源電圧信号の情報になるので、さらに変換精度が悪くなる。
【0006】
本発明は上記した事情のもとで考え出されたものであって、三相交流電源の周波数が急速に変化した場合でも、制御対象機器の動作が不安定になることを抑制できる制御回路を提供することをその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を講じている。
【0008】
本発明の第1の側面によって提供される制御回路は、三相交流電源の三相の検出信号を回転座標軸上の二相信号に変換する二相変換部と、前記三相交流電源の第2検出信号を入力され、前記第2検出信号から検出された第1周波数より低い第2周波数に基づく正弦波信号を生成して、前記二相変換部に出力する位相検出部と、を備えている。
【0009】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記位相検出部は、前記第2検出信号が負の値から正の値に切り替わるゼロクロスタイミングを検出するゼロクロス検出部と、所定のクロック信号を出力するクロック出力部と、前記ゼロクロス検出部がゼロクロスタイミングを検出してから、次のゼロクロスタイミングを検出するまでの間、前記クロック信号をカウントするクロックカウント部と、複数のカウント値にそれぞれ関連付けて正弦波データを記憶する波形テーブルと、前記クロックカウント部がカウントしたカウント数に、1より大きい周波数調整係数を乗算した値に基づいて、前記波形テーブルの各カウント値を設定するカウント値設定部と、前記ゼロクロス検出部がゼロクロスタイミングを検出したときから、前記クロック信号をカウントした数が前記波形テーブルに設定されたいずれかのカウント値になったときに、当該カウント値に関連付けられている正弦波データを読み出す読出部と、を備えている。
【0010】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記位相検出部は、前記第2検出信号が正の値から負の値に切り替わる逆ゼロクロスタイミングを検出する逆ゼロクロス検出部をさらに備え、前記読出部は、前記ゼロクロス検出部がゼロクロスタイミングを検出したとき、および、前記逆ゼロクロス検出部が逆ゼロクロスタイミングを検出したときから、前記クロック信号のカウントを開始する。
【0011】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記第2検出信号の周波数変化を検出する変化検出部をさらに備え、前記位相検出部は、前記周波数変化が所定値より大きい場合、前記第1周波数より低い前記第2周波数に基づく正弦波信号を生成し、前記周波数変化が前記所定値以下の場合、前記第1周波数に基づく正弦波信号を生成する。
【0012】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記二相変換部と同様の構成の第2の二相変換部および第3の二相変換部と、前記位相検出部と同様の構成の第2の位相検出部および第3の位相検出部と、をさらに備え、前記三相はu相、v相、およびw相を含んでおり、前記二相変換部は、u相、v相、w相の順で、前記三相の検出信号を入力され、前記第2の二相変換部は、v相、w相、u相の順で、前記三相の検出信号を入力され、前記第3の二相変換部は、w相、u相、v相の順で、前記三相の検出信号を入力され、前記位相検出部に入力される前記第2検出信号は、u相に関する検出信号であり、前記第2の位相検出部は、v相に関する第3検出信号を入力され、前記第3の位相検出部は、w相に関する第4検出信号を入力される。
【0013】
本発明の第2の側面によって提供される三相力率改善装置は、本発明の第1の側面によって提供される制御回路と、前記制御回路によって制御される力率改善回路と、を備えている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、位相検出部は、第1周波数より低い第2周波数に基づく正弦波信号を生成する。したがって、三相交流電源の周波数が急速に減少して、第1周波数が減少する局面においても、前記正弦波信号を生成するときに利用する第2周波数が現在の第1周波数より高くなることを抑制できる。これにより、本発明に係る制御回路は、三相交流電源の周波数が急速に変化した場合でも、制御対象機器の動作が不安定になることを抑制できる。
【0015】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】(a)は第1実施形態に係る制御回路を備える三相力率改善装置の全体構成を示すブロック図であり、(b)は位相検出部の内部構成を示すブロック図である。
図2】シミュレーション結果を示す波形図である。
図3】波形テーブルの一例を示す図である。
図4】第2実施形態に係る制御回路の位相検出部の内部構成を示すブロック図である。
図5】第3実施形態に係る制御回路の位相検出部の内部構成を示すブロック図である。
図6】電源電圧信号の周波数が急速に変化したときの、電源電圧信号の波形および座標変換用信号の波形を示す波形図である。
図7】シミュレーション結果を示す波形図である。
図8図2および図7のシミュレーション結果の各波形の電流歪率をまとめた表である。
図9】第4実施形態に係る制御回路を備える三相力率改善装置の全体構成を示すブロック図である。
図10】シミュレーション結果を示す波形図である。
図11図2図7、および図10のシミュレーション結果の各波形の電流歪率をまとめた表である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して具体的に説明する。
【0018】
〔第1実施形態〕
図1は、第1実施形態に係る制御回路A1を説明するための図である。図1(a)は、制御回路A1を備える三相力率改善装置Cの全体構成を示すブロック図である。図1(b)は、位相検出部の内部構成を示すブロック図である。
【0019】
三相力率改善装置Cは、三相交流電源と負荷(たとえばインバータ装置など)との間に配置されて、三相交流電源から入力される三相交流電力の力率を「1」に近づけるように改善する装置である。三相力率改善装置Cは、力率改善回路Bおよび制御回路A1を備えている。力率改善回路Bは、制御回路A1から入力される駆動信号に応じて、後述する双方向スイッチをスイッチングすることで、力率の改善を行う。
【0020】
本実施形態では、力率改善回路Bは、いわゆるウィーン整流器である。力率改善回路Bは、三相交流電源の各相(u相、v相、w相)にそれぞれの一端が接続された3個のインダクタと、各インダクタの他端が接続され、入力される交流電圧を直流電圧に変換して負荷に出力する全波整流回路とを備えている。また、力率改善回路Bは、2個のキャパシタが直列接続された分圧回路が整流回路の直流側に並列接続されており、分圧回路の中間電位点と各相のインダクタの他端との間にそれぞれ双方向スイッチが配置されている。各双方向スイッチは、制御回路A1から入力される駆動信号がハイレベルのときにオンになって、対応するインダクタの他端と分圧回路の中間電位点とを導通させる。なお、力率改善回路Bの構成は、上記したものに限定されない。
【0021】
制御回路A1は、力率改善回路Bを制御する回路であり、例えばマイクロコンピュータなどによって実現されている。制御回路A1は、力率改善回路Bを制御するための駆動信号を生成して、力率改善回路Bに出力する。制御回路A1は、力率改善回路Bが負荷に供給する直流バス電圧、および、力率改善回路Bに入力される三相交流電流をフィードバック制御する。また、制御回路A1は、駆動信号により3個の双方向スイッチをスイッチングさせることで、PWM制御を行っている。制御回路A1は、機能構成として、電圧制御部11、電流制御部12、駆動信号生成部13、および位相検出部14を備えている。
【0022】
電圧制御部11は、直流バス電圧を目標値に制御するための直流電圧操作量を算出する。電圧制御部11は、全波整流回路の直流側の端子間に配置された電圧センサが検出した直流バス電圧信号Vbの目標値Vbからの偏差に対してPI制御を行うことで、直流電圧操作量信号を算出する。電圧制御部11は、算出した直流電圧操作量信号を電流制御部12に出力する。
【0023】
電流制御部12は、入力される三相交流電流を制御するための各相の電流操作量を算出する。電流制御部12は、三相交流電源と3個のインダクタとをそれぞれ接続する各電力線に配置された電流センサがそれぞれ検出した各相電流信号Iu,Iv,Iwを入力される。電流制御部12は、二相変換部121および三相変換部122を備えている。
【0024】
二相変換部121は、各相電流信号Iu,Iv,Iwを、回転座標軸上のd軸電流信号Idおよびq軸電流信号Iqに変換する。二相変換部121は、クラーク変換およびパーク変換を用いて、下記(1)式に示す演算を行う。二相変換部121は、位相検出部14から入力される後述する正弦波信号sinθ’および余弦波信号cosθ’を用いて演算を行う。
【数1】
【0025】
電流制御部12は、二相変換部121が算出したd軸電流信号Idにゲインを乗算した信号の目標値Idからの偏差に対してPI制御を行うことで、d軸電流操作量信号を算出する。目標値Idは、「0」が設定されている。また、電流制御部12は、二相変換部121が算出したq軸電流信号Iqにゲインを乗算した信号の、電圧制御部11から入力される直流電圧操作量信号からの偏差に対してPI制御を行うことで、q軸電流操作量信号を算出する。
【0026】
三相変換部122は、d軸電流操作量信号およびq軸電流操作量信号を、三相の電流操作量信号に変換する。三相変換部122は、クラーク変換およびパーク変換のそれぞれの逆変換を用いて演算を行う。三相変換部122は、位相検出部14から入力される後述する正弦波信号sinθ’および余弦波信号cosθ’を用いて演算を行う。三相変換部122は、算出した三相の電流操作量信号を駆動信号生成部13に出力する。
【0027】
駆動信号生成部13は、電流制御部12から入力される三相の電流操作量信号に基づいて、三相の駆動信号を生成する。駆動信号生成部13は、力率改善回路Bの分圧回路の正極側のキャパシタの端子間電圧信号と負極側のキャパシタの端子間電圧信号とを入力され、その差を増幅した電圧差信号を取得する。駆動信号生成部13は、各相の電流操作量信号にそれぞれ電圧差信号を加算して、絶対値変換部131で絶対値の信号に変換することで、各相の指令信号を算出する。そして、駆動信号生成部13は、各相の指令信号と、三角波生成部132が生成した三角波信号とをそれぞれ比較部133で比較することで、各相の駆動信号を生成する。駆動信号生成部13は、各相の駆動信号をそれぞれ対応する双方向スイッチに出力する。
【0028】
位相検出部14は、三相交流電源のu相とv相との線間電圧を検出した線間電圧信号Vuvを入力され、線間電圧信号Vuvの位相θおよび周波数fに基づいて、正弦波信号sinθ’および余弦波信号cosθ’を生成し、二相変換部121および三相変換部122に出力する。なお、位相検出部14は、他の線間電圧信号を入力されてもよいし、いずれかの相の相電圧信号を入力されてもよい。
【0029】
本実施形態では、位相検出部14は、位相θの正弦波信号sinθおよび余弦波信号cosθではなく、周波数fより低い周波数f’に応じて設定された正弦波信号sinθ’および余弦波信号cosθ’を出力する。発明者らは、後述するシミュレーションによって、座標変換用の周波数が電源周波数より低い場合の方が、高い場合より制御が安定するとの知見を得た。この知見に基づいて、位相検出部14は、周波数fより低い周波数f’を用いている。
【0030】
三相交流電源の各相電流信号Iu,Iv,Iwは、三相交流電源の電源周波数をf、初期位相をθ、各相電流信号のピーク値をIとすると、下記(2)式で表すことができる。
【数2】
【0031】
各相電流信号Iu,Iv,Iwを、クラーク変換およびパーク変換を用いて、d軸電流信号Idおよびq軸電流信号Iqに変換すると、下記(3)式のように算出される。このとき、パーク変換に用いられる周波数(以下では、「座標変換用周波数」とする)をfとしている。
【数3】
【0032】
ゼロクロスを基準にするので、初期位相θを「0」とすると、下記(4)が導出される。下記(4)に示すように、電源周波数fと座標変換用周波数fとに差がある場合、d軸電流信号Idおよびq軸電流信号Iqは、電源周波数fと座標変換用周波数fとの周波数差に応じて、時間とともに変化する。三相交流電源の電源周波数fが急速に変化した場合、電源周波数fと座標変換用周波数fとが一致しなくなり、d軸電流信号Idおよびq軸電流信号Iqが時間とともに変化するので、制御が精度よく行われなくなる。
【数4】
【0033】
電源周波数fと座標変換用周波数fとの差が、三相交流電流のフィードバック制御にどのように影響するかを検証するシミュレーションを行った。具体的には、図1に示す三相力率改善装置Cにおいて、座標変換用周波数fを50Hzに固定した正弦波信号および余弦波信号を二相変換部121および三相変換部122に入力し、電源周波数fを変更するシミュレーションを行った。図2は、シミュレーション結果を示す波形図である。図2(a)は電源周波数fを50Hzとした場合(f=f)のものである。図2(b)は電源周波数fを45Hzとした場合のものであり、図2(c)は電源周波数fを47.5Hzとした場合のものである。また、図2(d)は電源周波数fを55Hzとした場合のものであり、図2(e)は電源周波数fを60Hzとした場合のものである。各図において、各線間電圧信号Vuv,Vvw,Vwuおよび各相電流信号Iu,Iv,Iwの波形を示している。
【0034】
図2(a)に示すように、電源周波数fと座標変換用周波数fとが一致している場合、制御が安定しており、各相電流信号Iu,Iv,Iwの波形は正弦波に制御されている。一方、図2(b)に示すように、電源周波数fが座標変換用周波数fより低い45Hzの場合、各相電流信号Iu,Iv,Iwの波形は非常に不安定な波形になっている。図2(c)に示すように、電源周波数fが47.5Hzの場合、各相電流信号Iu,Iv,Iwの波形は、歪みが大きいが、安定した波形になっている。また、図2(d)に示すように、電源周波数fが座標変換用周波数fより高い55Hzの場合、各相電流信号Iu,Iv,Iwの波形は、ある程度の歪みがあるが、安定した正弦波に制御されている。図2(e)に示すように、電源周波数fがさらに高い60Hzの場合、各相電流信号Iu,Iv,Iwの波形は、歪みが大きくなっているが、正弦波に近い安定した波形に制御されている。
【0035】
シミュレーション結果から、電源周波数fと座標変換用周波数fとの差が大きいほど、各相電流信号Iu,Iv,Iwの波形が歪んで、三相力率改善装置Cの動作が不安定になることがわかる。また、座標変換用周波数fが電源周波数fより低い場合の方が、高い場合より、各相電流信号Iu,Iv,Iwの波形は安定している。
【0036】
また、上記(4)式から、d軸電流信号Idおよびq軸電流信号Iqが示すdq座標上のベクトルは、電源周波数fと座標変換用周波数fとの周波数差で回転する。当該ベクトルの大きさは下記(5)式で求められ、当該ベクトルの偏角は下記(6)式となる。下記(5)、(6)式から、当該ベクトルは、大きさが一定であり、偏角が周波数の差に応じて時間とともに進みまたは遅れになることがわかる。座標変換用周波数fが電源周波数fより低い場合(f<f)、当該ベクトルは、同期直後 (t=0)の偏角が-90°で時間経過とともに位相が進む。逆に、座標変換用周波数fが電源周波数fより高い場合(f>f)、当該ベクトルは、同期直後の偏角が-90°で時間経過とともに位相が遅れる。また、座標変換用周波数fが電源周波数fより高いほど、位相の遅れが大きくなる。このことから、二相変換部121での変換処理(dq変換処理)による位相遅れが大きくなって、制御系の位相余裕がなくなることで、制御が不安定になっていると考えられる。本実施形態では、位相検出部14は、二相変換部121での変換処理による位相遅れを抑制するために、線間電圧信号Vuvの周波数f(電源周波数fに相当)より低い周波数f’(座標変換用周波数fに相当)を用いるように構成されている。
【数5】
【0037】
位相検出部14は、図1(b)に示すように、ゼロクロス検出部141、クロック出力部142、クロックカウント部143、カウント値設定部144、波形テーブル145、および読出部146を備えている。
【0038】
ゼロクロス検出部141は、入力される線間電圧信号Vuvが負の値から正の値に切り替わるゼロクロスのタイミングを検出する。ゼロクロス検出部141は、例えば、線間電圧信号VuvをADコンバータでデジタル値に変換して、デジタル値が負の値から正の値になったことで、ゼロクロスのタイミングを検出する。なお、ゼロクロス検出部141によるゼロクロスのタイミングの検出方法は限定されない。ゼロクロス検出部141は、検出したゼロクロスのタイミングを知らせるゼロクロス信号を、クロックカウント部143および読出部146に出力する。
【0039】
クロック出力部142は、所定のクロック信号を生成して、クロックカウント部143および読出部146に出力する。クロック信号のクロック周波数は限定されない。
【0040】
クロックカウント部143は、ゼロクロス検出部141からゼロクロス信号が入力されてから、次のゼロクロス信号が入力されるまでの間、クロック出力部142から入力されるクロック信号をカウントする。つまり、クロックカウント部143は、線間電圧信号Vuvの1周期に相当するクロック信号の数をカウントする。クロックカウント部143は、カウントしたゼロクロス間カウント数Ncをカウント値設定部144に出力する。
【0041】
波形テーブル145は、クロック信号のカウント値に関連付けて正弦波データおよび余弦波データを記憶するテーブルである。波形テーブル145は、1周期分のデータ数Mに応じてあらかじめ算出された正弦波データおよび余弦波データが記憶されている。一方、正弦波データおよび余弦波データが関連付けられるカウント値は、カウント値設定部144によって、更新設定される。なお、波形テーブル145には、1周期より長い期間(例えば1.5周期)分のデータが記憶される。
【0042】
カウント値設定部144は、クロックカウント部143から入力されるゼロクロス間カウント数Ncと、1周期分のデータ数Mと、周波数調整係数αとに基づいて、波形テーブル145にカウント値を設定する。周波数調整係数αは、位相検出部14が出力する正弦波信号sinθ’および余弦波信号cosθ’の周波数f’(座標変換用周波数fに相当)が線間電圧信号Vuvの周波数f(電源周波数fに相当)より高くなることを抑制するために用いられる係数である。周波数調整係数αは、「1」より大きければ限定されないが、例えば、1.05以上1.1以下の値が適切である。カウント値設定部144は、k(=0~1.5M)番目のカウント値として、(Nc・α)・k/Mを算出して、波形テーブル145に設定する。カウント値設定部144は、ゼロクロス間カウント数Ncに周波数調整係数αを乗算して増加させることで、周波数fを周波数調整係数αで除算した周波数f’に変換している。なお、カウント値設定部144は、ゼロクロス間カウント数Ncに周波数調整係数αを乗算する代わりに、所定値βを加算することで増加させてもよい。カウント値設定部144は、ゼロクロス検出部141がゼロクロスを検出したときに、クロックカウント部143がカウントした、前の周期のゼロクロス間カウント数Ncに基づいてカウント値を設定する。
【0043】
図3は、波形テーブル145の一例を示す図である。波形テーブル145は、カウント値と、正弦波データおよび余弦波データとが関連付けて記憶されている。波形テーブル145の中央の欄に配置されている正弦波データ、および、右側の欄に配置されている余弦波データは、1周期分のデータ数Mによって決まるので、あらかじめ算出されて設定されている。一方、波形テーブル145の左側の欄に配置されているカウント値は、クロックカウント部143から出力されるゼロクロス間カウント数Ncに応じて決まり、1周期ごとに更新設定される。
【0044】
読出部146は、ゼロクロス検出部141からゼロクロス信号が入力されたときから、クロック出力部142から入力されるクロック信号をカウントし、カウント数が波形テーブル145に設定されたカウント値になったときに、波形テーブル145から、当該カウント値に関連付けられている正弦波データおよび余弦波データを読み出して、正弦波信号sinθ’および余弦波信号cosθ’として出力する。読出部146は、ゼロクロス信号が入力される度に、クロック信号のカウント数を「0」に初期化して、クロック信号のカウントを開始する。つまり、読出部146は、線間電圧信号Vuvの1周期ごとに、正弦波信号sinθ’および余弦波信号cosθ’を、線間電圧信号Vuvに同期させる。
【0045】
例えば、非常に負荷変動が大きなスタッド溶接電源をエンジン発電機で使用した場合には、エンジン発電機の周波数が0.5秒間で40%程度低下することがある。この場合でも1周期ごとの周波数変動は-2~3%程度である。したがって、周波数調整係数αを1.05以上1.1以下の値に設定しておけば、位相検出部14が出力する正弦波信号sinθ’および余弦波信号cosθ’の周波数f’が1周期後の線間電圧信号Vuvの周波数fより高くなることはない。また、周波数f’は、2周期後の周波数fより高くなることも抑制できる。したがって、制御回路A1は、2つ前の周期で作成したデータで制御を行っても、制御性が大きく損なわれることはない。
【0046】
なお、位相検出部14の構成は上記したものに限定されない。位相検出部14は、三相交流電源で検出された電圧信号または電流信号の位相θおよび周波数fに基づいて、周波数fより低い周波数f’に応じて設定された正弦波信号sinθ’および余弦波信号cosθ’を出力するする構成であればよい。
【0047】
次に、制御回路A1の作用効果について説明する。
【0048】
本実施形態によると、位相検出部14は、線間電圧信号Vuvを入力され、線間電圧信号Vuvの周波数fより低い周波数f’に応じて設定された正弦波信号sinθ’および余弦波信号cosθ’を出力する。したがって、三相交流電源の周波数が急速に減少して、線間電圧信号Vuvの周波数fが減少する局面においても、正弦波信号sinθ’および余弦波信号cosθ’を生成するときに利用する周波数f’が線間電圧信号Vuvの現在の周波数fより高くなることを抑制できる。これにより、制御回路A1は、三相交流電源の周波数が急速に変化した場合でも、三相力率改善装置Cの動作が不安定になることを抑制できる。
【0049】
また、本実施形態によると、位相検出部14のカウント値設定部144は、ゼロクロス間カウント数Ncに基づいて波形テーブル145にカウント値を設定する。そして、読出部146は、クロック信号のカウント数に応じて波形テーブル145から正弦波データおよび余弦波データを読み出す。これにより、位相検出部14は、二相変換部121および三相変換部122に、正弦波信号sinθ’および余弦波信号cosθ’を出力できる。
【0050】
また、本実施形態によると、位相検出部14のカウント値設定部144は、クロックカウント部143から入力されるゼロクロス間カウント数Ncに「1」より大きい周波数調整係数αを乗算した値を用いて、波形テーブル145にカウント値を設定する。これにより、位相検出部14は、線間電圧信号Vuvの周波数fより低い周波数f’に応じて設定された正弦波信号sinθ’および余弦波信号cosθ’を出力できる。
【0051】
なお、電源電圧を検出して処理することで電源の位相を求め、当該位相を座標変換に使用する場合、検出誤差、演算による時間遅れ、またはノイズ等で、座標変換に使用される位相と電源の位相とが一致しないことがある。したがって、制御回路A1は、エンジン発電機などの小型の電源を利用する場合だけでなく、商用電源を利用する場合にも有効である。
【0052】
また、本実施形態においては、制御回路A1が力率改善回路Bを制御する場合について説明したが、これに限られない。制御回路A1は、インバータ回路、コンバータ回路、または電源回路などの他の回路を制御するために用いられてもよい。
【0053】
図4図11は、本発明の他の実施形態を示している。なお、これらの図において、上記実施形態と同一または類似の要素には、上記実施形態と同一の符号を付して、重複する説明を省略する。
【0054】
〔第2実施形態〕
図4は、第2実施形態に係る制御回路A2の位相検出部の内部構成を示すブロック図であり、図1(b)に対応する図である。本実施形態に係る制御回路A2は、位相検出部の内部構成が、第1実施形態に係る制御回路A1と異なる。本実施形態の他の部分の構成および動作は、第1実施形態と同様である。
【0055】
本実施形態に係る制御回路A2は、位相検出部14が、三相交流電源の周波数が大きく変化する変化状態であるか、あまり変化しない定常状態であるかによって、生成する正弦波信号および余弦波信号を切り替える。本実施形態に係る位相検出部14は、変化検出部147、切替部148、および第2カウント値設定部149をさらに備えている。
【0056】
変化検出部147は、線間電圧信号Vuvを入力され、線間電圧信号Vuvの周波数fの変化量を検出する。変化検出部147は、線間電圧信号Vuvの周波数fを検出し、前回検出した周波数fと、今回検出した周波数fとの差の絶対値を算出して、周波数変化量として、切替部148に出力する。なお、変化検出部147は、位相検出部14に含まれていなくてもよく、位相検出部14の外部から位相検出部14に、周波数変化量を入力してもよい。また、位相検出部14は、周波数変化量以外の周波数の変化を判別できる値、例えば周波数変化率などを出力してもよい。また、位相検出部14は、線間電圧信号Vuv以外の線間電圧信号、または、いずれかの相の相電圧信号の周波数の変化を検出してもよい。
【0057】
本実施形態に係るクロックカウント部143は、ゼロクロス間カウント数Ncを切替部148に出力する。切替部148は、変化検出部147から入力される周波数変化量に基づいて、クロックカウント部143から入力されるゼロクロス間カウント数Ncの出力先を切り替える。切替部148は、周波数変化量が所定値より大きい場合、変化状態であるとして、ゼロクロス間カウント数Ncをカウント値設定部144に出力する。この場合、第1実施形態と同様に、カウント値設定部144が波形テーブル145にカウント値を設定する。つまり、波形テーブル145のカウント値は、周波数fより低い周波数f’に基づいて設定される。したがって、位相検出部14は、周波数f’に基づく正弦波信号sinθ’および余弦波信号cosθ’を生成する。
【0058】
一方、切替部148は、周波数変化量が所定値以下の場合、定常状態であるとして、ゼロクロス間カウント数Ncを第2カウント値設定部149に出力する。第2カウント値設定部149は、カウント値設定部144と異なり、周波数調整係数αを乗算せずに、ゼロクロス間カウント数Ncをそのまま用いて、波形テーブル145にカウント値を設定する。つまり、波形テーブル145のカウント値は、周波数fに基づいて設定される。したがって、位相検出部14は、周波数fに基づく正弦波信号sinθおよび余弦波信号cosθを生成する。
【0059】
本実施形態によると、切替部148は、変化検出部147から入力される周波数変化量が所定値より大きい場合、ゼロクロス間カウント数Ncをカウント値設定部144に出力する。この場合、位相検出部14は、周波数fより低い周波数f’に応じて設定された正弦波信号sinθ’および余弦波信号cosθ’を出力する。したがって、三相交流電源の周波数が急速に変化する変化状態においては、周波数f’が現在の周波数fより高くなることを抑制できる。これにより、制御回路A2は、三相交流電源の周波数が急速に変化した場合でも、三相力率改善装置Cの動作が不安定になることを抑制できる。また、切替部148は、変化検出部147から入力される周波数変化量が所定値以下の場合、ゼロクロス間カウント数Ncを第2カウント値設定部149に出力する。この場合、位相検出部14は、周波数fに応じて設定された正弦波信号sinθおよび余弦波信号cosθを出力する。これにより、三相交流電源の周波数があまり変化しない定常状態においては、検出された周波数fに応じて設定された正弦波信号sinθおよび余弦波信号cosθを用いるので、三相力率改善装置Cの動作はより安定する。また、制御回路A2は、制御回路A1と共通する構成をとることにより、制御回路A1と同等の効果を奏する。
【0060】
〔第3実施形態〕
図5図8は、第3実施形態に係る制御回路A3を説明するための図である。図5は、制御回路A3の位相検出部の内部構成を示すブロック図であり、図1(b)に対応する図である。図6は、電源電圧信号の周波数が急速に変化したときの、電源電圧信号の波形a(破線で示す)および座標変換用信号の波形b(実線で示す)を示す波形図である。図7は、シミュレーション結果を示す波形図であり、図2に対応する図である。図8は、図2および図7のシミュレーション結果の各波形の歪率をまとめた表である。本実施形態に係る制御回路A3は、位相検出部の内部構成が、第1実施形態に係る制御回路A1と異なる。本実施形態の他の部分の構成および動作は、第1実施形態と同様である。なお、上記の第1~2実施形態の各部が任意に組み合わせられてもよい。
【0061】
本実施形態に係る制御回路A3は、線間電圧信号Vuvの半周期ごとに、クロック信号のカウント数を「0」に初期化して、クロック信号のカウントを開始する。つまり、線間電圧信号Vuvの半周期ごとに、正弦波信号sinθ’および余弦波信号cosθ’を、線間電圧信号Vuvに同期させる。図6(a)、(c)は電源電圧信号の周波数が急速に減少したときの各波形a,bを示しており、図6(b)、(d)は電源電圧信号の周波数が急速に増加したときの各波形a,bを示している。また、図6(a)、(b)は電源電圧信号の1周期ごとに同期を行った場合、図6(c)、(d)は電源電圧信号の半周期ごとに同期を行った場合を示している。各図において、同期のタイミングを矢印cで示している。図6に示すように、電源電圧信号の周波数が急速に減少したときも増加したときも、半周期ごとに同期を行った場合の方が、1周期ごとに同期を行った場合より、座標変換用信号の波形bの歪みが抑制されている。
【0062】
図5に示すように、本実施形態に係る位相検出部14は、逆ゼロクロス検出部140をさらに備えている。逆ゼロクロス検出部140は、入力される線間電圧信号Vuvが正の値から負の値に切り替わる逆ゼロクロスのタイミングを検出する。逆ゼロクロス検出部140は、検出した逆ゼロクロスのタイミングを知らせる逆ゼロクロス信号を、読出部146に出力する。本実施形態に係る読出部146は、ゼロクロス検出部141からゼロクロス信号が入力されたときに加えて、逆ゼロクロス検出部140から逆ゼロクロス信号が入力されたときからも、クロック信号をカウントする。読出部146は、ゼロクロス信号の入力からクロック信号のカウントを開始したときは、第1実施形態と同様、波形テーブル145からカウント値に関連付けられている正弦波データおよび余弦波データを読み出して出力する。一方、読出部146は、逆ゼロクロス信号の入力からクロック信号のカウントを開始したときは、波形テーブル145からカウント値に関連付けられている正弦波データおよび余弦波データを読み出して、正負を逆にして出力する。
【0063】
図7は、図2と同様のシミュレーションを行ったシミュレーション結果であり、電源電圧信号の半周期ごとに同期を行った場合のものである。図7(a)は電源周波数fを45Hzとした場合のものであり、図2(b)に対応する。図7(b)は電源周波数fを47.5Hzとした場合のものであり、図2(c)に対応する。また、図7(c)は電源周波数fを55Hzとした場合のものであり、図2(d)に対応する。図7(d)は電源周波数fを60Hzとした場合のものであり、図2(e)に対応する。各図において、各線間電圧信号Vuv,Vvw,Vwuおよび各相電流信号Iu,Iv,Iwの波形を示している。
【0064】
図7(a)に示すように、電源周波数fが座標変換用周波数fより低い45Hzの場合、各相電流信号Iu,Iv,Iwの波形は、歪みが大きいが、安定した波形になっている。図7(b)に示すように、電源周波数fが47.5Hzの場合、各相電流信号Iu,Iv,Iwの波形は、ある程度の歪みがあるが、安定した正弦波に制御されている。また、図7(c)に示すように、電源周波数fが座標変換用周波数fより高い55Hzの場合、各相電流信号Iu,Iv,Iwの波形は、安定した正弦波に制御されている。図7(d)に示すように、電源周波数fがさらに高い60Hzの場合、各相電流信号Iu,Iv,Iwの波形は、若干の歪みがあるが、安定した正弦波に制御されている。電源周波数fが同じ周波数の場合、半周期ごとに同期を行った図7に示す波形の方が、1周期ごとに同期を行った図2に示す波形より、歪みが改善されていることがわかる。
【0065】
図8は、図2および図7でのシミュレーション結果の各相電流信号Iu,Iv,Iwの波形の歪率をまとめたものである。歪率は、各波形に含まれる全高調波成分の実効値の総和と基本波の実効値との比である。歪率が小さいほど波形の歪みが小さいと判断できる。なお、図8では、図2および図7で示していない周波数でのシミュレーション結果も含まれている。図8に示すように、各歪率からも、半周期ごとに同期を行った図7に示す波形の方が、1周期ごとに同期を行った図2に示す波形より、歪みが大きく改善されていることがわかる。また、半周期ごとに同期を行うことで、制御が安定する範囲も広くなることがわかる。
【0066】
本実施形態においても、位相検出部14は、線間電圧信号Vuvの周波数fより低い周波数f’に応じて設定された正弦波信号sinθ’および余弦波信号cosθ’を出力する。したがって、三相交流電源の周波数が急速に減少して、線間電圧信号Vuvの周波数fが減少する局面においても、正弦波信号sinθ’および余弦波信号cosθ’を生成するときに利用する周波数f’が線間電圧信号Vuvの現在の周波数fより高くなることを抑制できる。これにより、制御回路A3は、三相交流電源の周波数が急速に変化した場合でも、三相力率改善装置Cの動作が不安定になることを抑制できる。また、制御回路A3は、制御回路A1と共通する構成をとることにより、制御回路A1と同等の効果を奏する。さらに、本実施形態によると、読出部146は、逆ゼロクロス検出部140から逆ゼロクロス信号が入力されたときからもクロック信号をカウントすることで、半周期ごとの同期を行う。これにより、制御回路A3は、1周期ごとの同期を行う場合と比較して、正弦波信号sinθ’および余弦波信号cosθ’の波形の歪みを抑制して、各相電流信号Iu,Iv,Iwの波形の歪みをより抑制できる。
【0067】
なお、本実施形態では、カウント値設定部144が、ゼロクロス間カウント数Ncに周波数調整係数αを乗算して増加させることで、周波数fを周波数調整係数αで除算した周波数f’に変換し、波形テーブル145にカウント値を設定する場合について説明したが、これに限られない。カウント値設定部144は、第2実施形態の第2カウント値設定部149と同様に、周波数調整係数αを乗算せずに、ゼロクロス間カウント数Ncをそのまま用いて、波形テーブル145にカウント値を設定してもよい。つまり、制御回路A3は、周波数fより低い周波数f’を用いることなく、半周期ごとの同期を行ってもよい。
【0068】
〔第4実施形態〕
図9図11は、第4実施形態に係る制御回路A4を説明するための図である。図9は、制御回路A4を備える三相力率改善装置Cの全体構成を示すブロック図であり、図1(a)に対応する図である。図10は、シミュレーション結果を示す波形図である。図11は、図2図7、および図10でのシミュレーション結果の各波形の電流歪率をまとめた表である。本実施形態に係る制御回路A4は、相ごとに電流制御を行う点で、第1実施形態に係る制御回路A1と異なる。本実施形態の他の部分の構成および動作は、第1実施形態と同様である。なお、上記の第1~3実施形態の各部が任意に組み合わせられてもよい。
【0069】
図8の各波形の歪率をまとめた表に示すように、相電流信号Ivの波形の歪率は、相電流信号Iuの波形の歪率よりほぼ大きくなっている。また、相電流信号Iwの波形の歪率は、相電流信号Ivの波形の歪率よりほぼ大きくなっている。これは、位相検出部14に線間電圧信号Vuvを入力して、座標変換に用いる正弦波信号sinθ’および余弦波信号cosθ’を、線間電圧信号Vuvと同期させていること、および、座標変換の基準となる相をu相としていることが原因と考えられる。本実施形態に係る制御回路A4は、相ごとに電流制御を行い、基準となる検出信号として対応する相の検出信号を利用し、座標変換の基準を対応する相としている。
【0070】
図9に示すように、本実施形態に係る制御回路A4は、位相検出部14の代わりに位相検出部14u,14v,14wを備え、電流制御部12の代わりに電流制御部12u,12v,12wを備えている。
【0071】
位相検出部14u,14v,14wは、位相検出部14と同様の構成である。位相検出部14uは、位相検出部14と同様、線間電圧信号Vuvを入力され、線間電圧信号Vuvに基づいて生成した正弦波信号sinθ’および余弦波信号cosθ’を、電流制御部12uの二相変換部121および三相変換部122に出力する。位相検出部14vは、三相交流電源のv相とw相との線間電圧を検出した線間電圧信号Vvwを入力され、線間電圧信号Vvwに基づいて生成した正弦波信号sinθ’および余弦波信号cosθ’を、電流制御部12vの二相変換部121および三相変換部122に出力する。位相検出部14wは、三相交流電源のw相とu相との線間電圧を検出した線間電圧信号Vwuを入力され、線間電圧信号Vwuに基づいて生成した正弦波信号sinθ’および余弦波信号cosθ’を、電流制御部12wの二相変換部121および三相変換部122に出力する。
【0072】
電流制御部12u,12v,12wは、電流制御部12と同様の構成であり、図9においては、電流制御部12v,12wの内部の構成の記載を一部省略している。電流制御部12uは、位相検出部14uから入力される正弦波信号sinθ’および余弦波信号cosθ’に基づいて、二相変換部121および三相変換部122での変換処理を行う。二相変換部121に入力する相電流信号の順番はIu,Iv,Iwの順である。そして、電流制御部12uは、算出した三相の電流操作量信号のうちu相の電流操作量信号Xuを駆動信号生成部13に出力する。電流制御部12vは、位相検出部14vから入力される正弦波信号sinθ’および余弦波信号cosθ’に基づいて、二相変換部121および三相変換部122での変換処理を行う。二相変換部121に入力する相電流信号の順番はIv,Iw,Iuの順である。そして、電流制御部12vは、算出した三相の電流操作量信号のうちv相の電流操作量信号Xvを駆動信号生成部13に出力する。電流制御部12wは、位相検出部14wから入力される正弦波信号sinθ’および余弦波信号cosθ’に基づいて、二相変換部121および三相変換部122での変換処理を行う。二相変換部121に入力する相電流信号の順番はIw,Iu,Ivの順である。そして、電流制御部12wは、算出した三相の電流操作量信号のうちw相の電流操作量信号Xwを駆動信号生成部13に出力する。
【0073】
図10(a)は、図7と同様のシミュレーションを行ったシミュレーション結果であり、相ごとに電流制御を行った場合のものである。また、本シミュレーションは、図7の場合と同様、電源電圧信号の半周期ごとに同期を行った場合のものである。図10(a)は、電源周波数fを60Hzとした場合のものであり、図2(e)に対応する。図10(a)に示すように、各相電流信号Iu,Iv,Iwの波形はいずれも、安定した正弦波に制御されている。図10(b)は、比較のための図である。上段は、図7(d)の相電流信号Iwの波形を拡大した図であり、u相のみで電流制御を行ったものである。下段は、図10(a)の相電流信号Iwの波形を拡大した図であり、相ごとに電流制御を行ったものである。図10(b)に示すように、相ごとに電流制御を行った場合の方が、u相のみで電流制御を行った場合より、相電流信号Iwの波形の歪みが抑制されているのがわかる。
【0074】
図11は、図2図7および図10でのシミュレーション結果の各相電流信号Iu,Iv,Iwの波形の歪率をまとめたものである。なお、図11では、図2図7および図10で示していない周波数でのシミュレーション結果も含まれている。図11に示すように、電源周波数fが座標変換用周波数fより高い領域で、相ごとに電流制御を行った場合の方が、u相のみで電流制御を行った場合より、各相電流信号Iu,Iv,Iwのいずれの波形の歪率も改善されていることがわかる。また、相ごとのばらつきも改善されていることがわかる。
【0075】
本実施形態によると、各位相検出部14u,14v,14wは、それぞれ入力される検出信号の周波数fより低い周波数f’に応じて設定された正弦波信号sinθ’および余弦波信号cosθ’を出力する。したがって、三相交流電源の周波数が急速に減少して、各検出信号の周波数fが減少する局面においても、正弦波信号sinθ’および余弦波信号cosθ’を生成するときに利用する周波数f’が各検出信号の現在の周波数fより高くなることを抑制できる。これにより、制御回路A4は、三相交流電源の周波数が急速に変化した場合でも、三相力率改善装置Cの動作が不安定になることを抑制できる。また、制御回路A4は、制御回路A1と共通する構成をとることにより、制御回路A1と同等の効果を奏する。さらに、本実施形態によると、制御回路A4は、位相検出部14u,14v,14wおよび電流制御部12u,12v,12wによって、相ごとに電流制御を行う。これにより、制御回路A4は、u相のみで電流制御を行う場合と比較して、各相電流信号Iu,Iv,Iwの波形の歪みをより抑制できる。
【0076】
なお、本実施形態では、カウント値設定部144が、ゼロクロス間カウント数Ncに周波数調整係数αを乗算して増加させることで、周波数fを周波数調整係数αで除算した周波数f’に変換して、波形テーブル145にカウント値を設定する場合について説明したが、これに限られない。カウント値設定部144は、第2実施形態の第2カウント値設定部149と同様に、周波数調整係数αを乗算せずに、ゼロクロス間カウント数Ncをそのまま用いて、波形テーブル145にカウント値を設定してもよい。つまり、制御回路A4は、周波数fより低い周波数f’を用いることなく、相ごとに電流制御を行ってもよい。
【0077】
本発明に係る制御回路および三相力率改善装置は、上記した実施形態に限定されるものではない。本発明に係る制御回路および三相力率改善装置の各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。
【符号の説明】
【0078】
A1~A4:制御回路、121:二相変換部、14,14u,14v,14w:位相検出部、141:ゼロクロス検出部、142:クロック出力部、143:クロックカウント部、144:カウント値設定部、145:波形テーブル、146:読出部、147:変化検出部、140:逆ゼロクロス検出部、B:力率改善回路、C:三相力率改善装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11