(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024164949
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】エンジンシステム
(51)【国際特許分類】
F02D 19/02 20060101AFI20241121BHJP
F02M 21/02 20060101ALI20241121BHJP
F02M 27/02 20060101ALI20241121BHJP
F02D 19/08 20060101ALI20241121BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
F02D19/02 C
F02M21/02 K
F02M27/02 Z
F02D19/08 B
F02D45/00 360Z
F02D45/00 360A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080698
(22)【出願日】2023-05-16
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(74)【代理人】
【識別番号】100148013
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 浩光
(72)【発明者】
【氏名】松本 祥平
(72)【発明者】
【氏名】田中 悠翔
【テーマコード(参考)】
3G092
3G384
【Fターム(参考)】
3G092AA01
3G092AB19
3G092BA02
3G092BB06
3G092DE17
3G092DF03
3G092FA20
3G092HE08
3G384AA01
3G384AA13
3G384BA18
3G384FA16
3G384FA28
(57)【要約】
【課題】改質器の触媒の劣化を抑制することができるエンジンシステムを提供する。
【解決手段】エンジンシステム1は、アンモニアガスを改質して改質ガスを生成する改質器25と、改質器25に供給される空気が流れる上流側改質流路26と、空気の流量を制御する改質スロットルバルブ27と、改質器25に向けてアンモニアガスを間欠的に噴射する改質インジェクタ30と、改質ガスがアンモニアエンジン2のシリンダ10内に向けて流れる下流側改質流路33と、改質スロットルバルブ27及び改質インジェクタ30を制御するコントローラ42とを備え、コントローラ42は、シリンダ10内に空気が吸入される行程が開始されてから次のシリンダ10内に空気が吸入される行程が開始されるまでの吸気期間Tにおいて、アンモニアガスが改質器25に異なるタイミングで複数回供給されるように改質インジェクタ30を制御する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダと前記シリンダ内に配置されたピストンとを複数ずつ有し、燃料が水素と共に燃焼するエンジンと、
前記シリンダ内に供給される空気が流れる吸気流路と、
前記吸気流路に配設され、前記シリンダ内に供給される空気の流量を制御する第1流量制御弁と、
前記シリンダ内に向けて燃料を間欠的に噴射する第1燃料噴射弁と、
前記燃料を前記水素に分解する触媒を有し、前記燃料を改質して前記水素を含有した改質ガスを生成する改質器と、
前記改質器に供給される空気が流れる上流側改質流路と、
前記改質器により生成された改質ガスが前記シリンダ内に向けて流れる下流側改質流路と、
前記上流側改質流路または前記下流側改質流路に配設され、前記改質器に供給される空気の流量を制御する第2流量制御弁と、
前記改質器に向けて燃料を間欠的に噴射する第2燃料噴射弁と、
前記第1流量制御弁、前記第1燃料噴射弁、前記第2流量制御弁及び前記第2燃料噴射弁を制御する制御部とを備え、
前記エンジンは、前記複数のシリンダ毎に、前記シリンダ内に空気が吸入される行程を含む複数の行程を順番に実施し、
前記制御部は、前記シリンダ内に空気が吸入される行程が開始されてから次の前記シリンダ内に空気が吸入される行程が開始されるまでの吸気期間において、前記燃料が前記改質器に異なるタイミングで複数回供給される吸気期間を有するように前記第2燃料噴射弁を制御するエンジンシステム。
【請求項2】
前記制御部は、前記吸気期間において、前記第2燃料噴射弁から燃料が異なるタイミングで複数回噴射されるように前記第2燃料噴射弁を制御することで、前記燃料が前記改質器に異なるタイミングで複数回供給される吸気期間を有するように前記第2燃料噴射弁を制御する請求項1記載のエンジンシステム。
【請求項3】
前記制御部は、前記吸気期間において、前記第2燃料噴射弁から燃料が異なるタイミングで複数回噴射される際に、前記空気が吸入される行程に起因して発生する吸気脈動により前記改質器に供給される空気の流量が多くなるタイミングに近いほど前記燃料の噴射時間が長くなるように前記第2燃料噴射弁を制御する請求項2記載のエンジンシステム。
【請求項4】
前記第2燃料噴射弁の数は複数であり、
前記制御部は、前記吸気期間において、前記複数の第2燃料噴射弁から燃料が異なるタイミングで噴射されるように前記複数の第2燃料噴射弁を制御することで、前記燃料が前記改質器に異なるタイミングで複数回供給される吸気期間を有するように前記複数の第2燃料噴射弁を制御する請求項1記載のエンジンシステム。
【請求項5】
前記制御部は、前記吸気期間において、前記複数の第2燃料噴射弁から燃料が異なるタイミングで噴射される際に、前記空気が吸入される行程に起因して発生する吸気脈動により前記改質器に供給される空気の流量が多くなるタイミングに近いほど前記燃料の噴射時間が長くなるように前記複数の第2燃料噴射弁を制御する請求項4記載のエンジンシステム。
【請求項6】
前記第2燃料噴射弁の数は複数であり、
前記複数の第2燃料噴射弁は、前記燃料を間欠的に噴射すると共に、前記上流側改質流路における前記改質器までの距離がそれぞれ異なって配置することで前記燃料が前記改質器に異なるタイミングで複数回供給される吸気期間を有する請求項1記載のエンジンシステム。
【請求項7】
液体の燃料を気化させる気化器と、
前記気化器により気化された燃料が前記第1燃料噴射弁及び前記第2燃料噴射弁に向けて流れる燃料流路と、
前記燃料流路内の圧力を前記第2燃料噴射弁の上流圧として検出する第1圧力検出部と、
前記上流側改質流路内の圧力を前記第2燃料噴射弁の下流圧として検出する第2圧力検出部とを更に備え、
前記制御部は、前記第2燃料噴射弁の上流圧と前記第2燃料噴射弁の下流圧との圧力差が所定値以上であるときは、前記第2燃料噴射弁の上流圧と前記第2燃料噴射弁の下流圧との圧力差が前記所定値よりも低いときに比べて、前記第2燃料噴射弁からの燃料の噴射時間が短くなるように前記第2燃料噴射弁を制御する請求項1記載のエンジンシステム。
【請求項8】
液体の燃料を気化させる気化器と、
前記気化器により気化された燃料が前記第1燃料噴射弁及び前記第2燃料噴射弁に向けて流れる燃料流路と、
環境温度または前記エンジンを冷却する冷却水の温度を検出する温度検出部とを更に備え、
前記制御部は、前記環境温度または前記冷却水の温度が所定値以上であるときは、前記環境温度または前記冷却水の温度が前記所定値よりも低いときに比べて、前記第2燃料噴射弁からの燃料の噴射時間が短くなるように前記第2燃料噴射弁を制御する請求項1記載のエンジンシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のエンジンシステムとしては、例えば特許文献1に記載されているように、改質器により燃料ガスを改質して水素を主成分とする改質ガスを生成し、その改質ガスをエンジンで燃焼させる技術が知られている。特許文献1に記載のエンジンシステムは、改質器と、この改質器の上流側に配置され、主流路及び副流路を有するエゼクタと、エンジンの吸気通路とエゼクタの副流路とを接続する空気導入路と、この空気導入路の途中に設けられ、改質用空気の流量を制御する改質用空気制御弁と、エゼクタの主流路に臨んで配置され、エゼクタ内に改質用燃料ガスを噴射するインジェクタとを備えている。エンジンの吸気圧変化に対して、エゼクタから改質器に供給される改質用空気と改質用燃料ガスとの混合比率の変動を抑制するように、改質用空気制御弁の開度が制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記従来技術のような改質器を備えたエンジンシステムでは、エンジン内のピストンの上下運動により、改質器を含む改質流路に吸気脈動が発生するため、改質器に供給される空気の流量が変動する。また、インジェクタは、エンジンの回転数に応じて間欠的に燃料を噴射している。これらにより、改質器に供給される燃料及び空気は時間的に一様な状態ではないため、改質器における空燃比(A/F)が時間的に一様でない状態(ムラがある状態)となる。このような空燃比のムラによって改質器の触媒反応も時間的に一様ではなく、空燃比が必要以上に高い状態では、改質器の一時的な過昇温が生じることで、改質器の触媒が劣化することがある。
【0005】
本発明の目的は、改質器の触媒の劣化を抑制することができるエンジンシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明の一態様に係るエンジンシステムは、シリンダとシリンダ内に配置されたピストンとを複数ずつ有し、燃料が水素と共に燃焼するエンジンと、シリンダ内に供給される空気が流れる吸気流路と、吸気流路に配設され、シリンダ内に供給される空気の流量を制御する第1流量制御弁と、シリンダ内に向けて燃料を間欠的に噴射する第1燃料噴射弁と、燃料を水素に分解する触媒を有し、燃料を改質して水素を含有した改質ガスを生成する改質器と、改質器に供給される空気が流れる上流側改質流路と、改質器により生成された改質ガスがシリンダ内に向けて流れる下流側改質流路と、上流側改質流路または下流側改質流路に配設され、改質器に供給される空気の流量を制御する第2流量制御弁と、改質器に向けて燃料を間欠的に噴射する第2燃料噴射弁と、第1流量制御弁、第1燃料噴射弁、第2流量制御弁及び第2燃料噴射弁を制御する制御部とを備え、エンジンは、複数のシリンダ毎に、シリンダ内に空気が吸入される行程を含む複数の行程を順番に実施し、制御部は、シリンダ内に空気が吸入される行程が開始されてから次のシリンダ内に空気が吸入される行程が開始されるまでの吸気期間において、燃料が改質器に異なるタイミングで複数回供給される吸気期間を有するように第2燃料噴射弁を制御する。
【0007】
このようなエンジンシステムにおいては、改質器に燃料及び空気が供給されることで、改質器において水素を含む改質ガスが生成され、改質ガスがエンジンのシリンダ内に供給される。また、エンジンのシリンダ内に燃料及び空気が供給されることで、シリンダ内において燃料が水素と混合して燃焼する。エンジンでは、複数のシリンダ毎に、シリンダ内に空気が吸入される行程を含む複数の行程が順番に実施される。このとき、シリンダ内に空気が吸入される行程が開始されてから次のシリンダ内に空気が吸入される行程が開始されるまでの吸気期間において、燃料が改質器に異なるタイミングで複数回供給される吸気期間を有するように第2燃料噴射弁が制御される。このため、シリンダ内に配置されたピストンの上下運動により、改質器に吸気脈動が発生することで、改質器に供給される空気の流量が変動しても、改質器における時間的な空燃比のムラが低減される。これにより、改質器の過昇温が抑えられるため、改質器の触媒の劣化が抑制される。
【0008】
(2)上記の(1)において、制御部は、吸気期間において、第2燃料噴射弁から燃料が異なるタイミングで複数回噴射されるように第2燃料噴射弁を制御することで、燃料が改質器に異なるタイミングで複数回供給される吸気期間を有するように第2燃料噴射弁を制御してもよい。
【0009】
このような構成では、使用する第2燃料噴射弁の数が1つだけでも、シリンダ内に空気が吸入される行程が開始されてから次のシリンダ内に空気が吸入される行程が開始されるまでの吸気期間において、燃料が改質器に異なるタイミングで複数回供給される。従って、コスト面で有利である。
【0010】
(3)上記の(2)において、制御部は、吸気期間において、第2燃料噴射弁から燃料が異なるタイミングで複数回噴射される際に、空気が吸入される行程に起因して発生する吸気脈動により改質器に供給される空気の流量が多くなるタイミングに近いほど燃料の噴射時間が長くなるように第2燃料噴射弁を制御してもよい。
【0011】
このような構成では、空気が吸入される行程に起因して発生する吸気脈動により改質器に供給される空気の流量が多くなるタイミングに近いほど、第2燃料噴射弁からの燃料の噴射量が多くなる。このため、改質器における時間的な空燃比のムラが更に低減される。従って、改質器の過昇温が更に抑えられるため、改質器の触媒の劣化が一層抑制される。
【0012】
(4)上記の(1)において、第2燃料噴射弁の数は複数であり、制御部は、吸気期間において、複数の第2燃料噴射弁から燃料が異なるタイミングで噴射されるように複数の第2燃料噴射弁を制御することで、燃料が改質器に異なるタイミングで複数回供給される吸気期間を有するように複数の第2燃料噴射弁を制御してもよい。
【0013】
このような構成では、複数の第2燃料噴射弁から異なるタイミングで燃料が噴射されるため、例えばエンジンの高回転時等のように第2燃料噴射弁の制御が追い付かない状況でも、シリンダ内に空気が吸入される行程が開始されてから次のシリンダ内に空気が吸入される行程が開始されるまでの吸気期間に、燃料が改質器に異なるタイミングで複数回供給される。また、複数の第2燃料噴射弁を同じ箇所に近づけて配置した場合でも、吸気期間に、燃料が改質器に異なるタイミングで複数回供給される。
【0014】
(5)上記の(4)において、制御部は、吸気期間において、複数の第2燃料噴射弁から燃料が異なるタイミングで噴射される際に、空気が吸入される行程に起因して発生する吸気脈動により改質器に供給される空気の流量が多くなるタイミングに近いほど燃料の噴射時間が長くなるように複数の第2燃料噴射弁を制御してもよい。
【0015】
このような構成では、空気が吸入される行程に起因して発生する吸気脈動により改質器に供給される空気の流量が多くなるタイミングに近いほど、第2燃料噴射弁からの燃料の噴射量が多くなる。このため、改質器における時間的な空燃比のムラが更に低減される。従って、改質器の過昇温が更に抑えられるため、改質器の触媒の劣化が一層抑制される。
【0016】
(6)上記の(1)~(5)において、第2燃料噴射弁の数は複数であり、複数の第2燃料噴射弁は、燃料を間欠的に噴射すると共に、上流側改質流路における改質器までの距離がそれぞれ異なって配置することで燃料が改質器に異なるタイミングで複数回供給される吸気期間を有してもよい。
【0017】
このような構成では、各第2燃料噴射弁間の距離を長くすることで、各第2燃料噴射弁からの噴射タイミングが同じでも、シリンダ内に空気が吸入される行程が開始されてから次のシリンダ内に空気が吸入される行程が開始されるまでの吸気期間に、燃料が改質器に異なるタイミングで複数回供給される。
【0018】
(7)上記の(1)~(6)において、エンジンシステムは、液体の燃料を気化させる気化器と、気化器により気化された燃料が第1燃料噴射弁及び第2燃料噴射弁に向けて流れる燃料流路と、燃料流路内の圧力を第2燃料噴射弁の上流圧として検出する第1圧力検出部と、上流側改質流路内の圧力を第2燃料噴射弁の下流圧として検出する第2圧力検出部とを更に備え、制御部は、第2燃料噴射弁の上流圧と第2燃料噴射弁の下流圧との圧力差が所定値以上であるときは、第2燃料噴射弁の上流圧と第2燃料噴射弁の下流圧との圧力差が所定値よりも低いときに比べて、第2燃料噴射弁からの燃料の噴射時間が短くなるように第2燃料噴射弁を制御してもよい。
【0019】
このような構成では、第2燃料噴射弁からの燃料の噴射量は、第2燃料噴射弁の上流圧及び下流圧によって変化する。第2燃料噴射弁の上流圧と第2燃料噴射弁の下流圧との圧力差が大きいほど、第2燃料噴射弁からの燃料の噴射量が多くなる。そこで、第2燃料噴射弁の上流圧と第2燃料噴射弁の下流圧との圧力差が所定値以上であるときは、第2燃料噴射弁の上流圧と第2燃料噴射弁の下流圧との圧力差が所定値よりも低いときに比べて、第2燃料噴射弁からの燃料の噴射時間を短くすることにより、第2燃料噴射弁の上流圧及び下流圧に関わらず、第2燃料噴射弁からの燃料の噴射量が一定に近づくようになる。従って、エンジンの始動直後等のようなエンジンの状態に応じて、第2燃料噴射弁から燃料が適切に噴射される。
【0020】
(8)上記の(1)~(6)において、エンジンシステムは、液体の燃料を気化させる気化器と、気化器により気化された燃料が第1燃料噴射弁及び第2燃料噴射弁に向けて流れる燃料流路と、環境温度またはエンジンを冷却する冷却水の温度を検出する温度検出部とを更に備え、制御部は、環境温度または冷却水の温度が所定値以上であるときは、環境温度または冷却水の温度が所定値よりも低いときに比べて、第2燃料噴射弁からの燃料の噴射時間が短くなるように第2燃料噴射弁を制御してもよい。
【0021】
このような構成では、第2燃料噴射弁からの燃料の噴射量は、燃料流路内の圧力によって変化する。燃料流路内の圧力が高くなるほど、第2燃料噴射弁からの燃料の噴射量が多くなる。燃料流路内の圧力は、気化器の気化能力によって変化する。気化器の気化能力は、環境温度によって変化する。また、気化器がエンジンを冷却する冷却水を利用して液体の燃料を気化させる場合には、冷却水の温度によっても気化器の気化能力が変化する。環境温度または冷却水の温度が高くなるほど、気化器の気化能力が高くなるため、燃料流路内の圧力が高くなる。そこで、環境温度または冷却水の温度が所定値以上であるときは、環境温度または冷却水の温度が所定値よりも低いときに比べて、第2燃料噴射弁からの燃料の噴射時間を短くすることにより、環境温度または冷却水の温度に関わらず、第2燃料噴射弁からの燃料の噴射量が一定に近づくようになる。従って、エンジンの始動直後や高温環境下または低温環境下等のようなエンジンの状態に応じて、第2燃料噴射弁から燃料が適切に噴射される。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、改質器の触媒の劣化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るエンジンシステムを示す概略構成図である。
【
図3】アンモニアエンジンの1サイクルの行程を示す概念図である。
【
図4】
図1に示された噴射周期決定部により実行される噴射周期決定処理の手順を示すフローチャートである。
【
図5】
図1に示されたアンモニアエンジンの動作を示すタイミング図である。
【
図6】比較例におけるアンモニアエンジンの動作を示すタイミング図である。
【
図7】本発明の第1実施形態に係るエンジンシステムの変形例の動作を示すタイミング図である。
【
図8】本発明の第2実施形態に係るエンジンシステムを示す概略構成図である。
【
図9】
図8に示されたアンモニアエンジンの動作を示すタイミング図である。
【
図10】本発明の第2実施形態に係るエンジンシステムの変形例の動作を示すタイミング図である。
【
図11】本発明の第3実施形態に係るエンジンシステムを示す概略構成図である。
【
図12】
図11に示された噴射時間決定部により実行される噴射時間決定処理の手順を示すフローチャートである。
【
図13】本発明の第4実施形態に係るエンジンシステムを示す概略構成図である。
【
図14】
図13に示された噴射時間決定部により実行される噴射時間決定処理の手順を示すフローチャートである。
【
図15】本発明の第4実施形態に係るエンジンシステムの変形例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、図面において、同一または同等の要素には同じ符号を付し、重複する説明を省略する。
【0025】
図1は、本発明の第1実施形態に係るエンジンシステムを示す概略構成図である。
図1において、本実施形態のエンジンシステム1は、車両(図示せず)に搭載されている。エンジンシステム1は、アンモニアエンジン2と、吸気流路3と、排気流路4と、メインスロットルバルブ5と、メインインジェクタ6とを備えている。
【0026】
アンモニアエンジン2は、アンモニアガス(NH3ガス)を燃料として使用するエンジンである。アンモニアエンジン2では、難燃性のアンモニアガスを燃焼しやすくするため、助燃材としての水素(H2)がアンモニアガスに混合される。アンモニアエンジン2は、例えば4ストローク式の4気筒エンジンである。
【0027】
アンモニアエンジン2は、
図2及び
図3に示されるように、4つのシリンダ10(シリンダ10A~10Dとする)と、各シリンダ10内に往復移動可能に配置された4つのピストン11と、各ピストン11とクランクシャフト12とをそれぞれ連結する4つのコンロッド13とを有している。
【0028】
各シリンダ10は、シリンダブロック14に設けられている。シリンダブロック14の上部には、シリンダヘッド15が取り付けられている。シリンダ10、シリンダヘッド15及びピストン11により画成される空間は、アンモニアガスが水素と共に燃焼して排気ガスが発生する燃焼室16となっている。つまり、アンモニアエンジン2は、4つの燃焼室16を有している。
【0029】
シリンダヘッド15には、各燃焼室16とそれぞれ連通する吸気ポート17及び排気ポート18が4つずつ設けられている。吸気ポート17は、吸気弁19により開閉される。排気ポート18は、排気弁20により開閉される。また、シリンダヘッド15には、点火プラグ21が取り付けられている。点火プラグ21は、アンモニアガスと空気との混合気に点火して、アンモニアガスを着火させる。
【0030】
シリンダ10A~10Dは、一方向に並んで配置されている。シリンダ10Aは、1番気筒である。シリンダ10Bは、2番気筒である。シリンダ10Cは、3番気筒である。シリンダ10Dは、4番気筒である。
【0031】
吸気流路3は、アンモニアエンジン2の各燃焼室16(各シリンダ10内)と接続されている。吸気流路3は、各燃焼室16に供給される空気が流れる流路である。吸気流路3には、空気中に含まれる塵や埃等の異物を除去するエアクリーナ7が配設されている。
【0032】
排気流路4は、アンモニアエンジン2の各燃焼室16と接続されている。排気流路4は、各燃焼室16で発生した排気ガスが流れる流路である。排気流路4には、特に図示はしないが、排気ガス中に含まれるCO、HC及びNOxを浄化する三元触媒と、排気ガス中に含まれるNOxを除去するSCR触媒とが配設されている。
【0033】
メインスロットルバルブ5は、吸気流路3に配設されている。メインスロットルバルブ5は、アンモニアエンジン2の各燃焼室16に供給される空気の流量を制御する電磁式の第1流量制御弁である。
【0034】
メインインジェクタ6の数は、アンモニアエンジン2の気筒数と同じ4つである。これらのメインインジェクタ6は、アンモニアエンジン2の各燃焼室16に向けてアンモニアガスを間欠的に噴射する電磁式の第1燃料噴射弁である。各メインインジェクタ6は、アンモニアエンジン2の各吸気ポート17にそれぞれアンモニアガスを噴射してもよいし、吸気流路3におけるアンモニアエンジン2の近傍にアンモニアガスを噴射してもよい。メインインジェクタ6は、ニードルバルブを開く時間を変えることで、アンモニアガスの噴射量を調整することができる。
【0035】
また、エンジンシステム1は、エンジンECU8を備えている。エンジンECU8は、CPU、RAM、ROM及び入出力インターフェース等により構成されている。エンジンECU8は、アンモニアエンジン2を制御するECU(電子制御ユニット)である。
【0036】
具体的には、エンジンECU8は、特に図示はしないが、イグニッションスイッチがON操作されると、スタータを始動させるように制御する。また、エンジンECU8は、
図3に示されるように、スタータの始動後、吸気行程、圧縮行程、膨張行程(燃焼行程)及び排気行程という4つの行程を1サイクルとして実施するようにアンモニアエンジン2の吸気弁19、排気弁20及び点火プラグ21を制御する。
【0037】
吸気行程は、ピストン11が下がり、アンモニアガスと空気との混合気をシリンダ10内に吸い込む行程である。圧縮行程は、ピストン11が上死点まで上がり、混合気を圧縮する行程である。膨張行程は、点火された混合気が燃焼し、燃焼ガスが膨張してピストン11が下死点まで押し下げられる行程である。排気行程は、慣性によりピストン11が上がり、燃焼ガスをシリンダ10の外へ押し出す行程である。つまり、1サイクルでは、ピストン11がシリンダ10内を2往復して、クランクシャフト12が2回転する。
【0038】
エンジンECU8は、吸気行程において吸気弁19を開くように制御する。エンジンECU8は、膨張行程において点火プラグ21を点火させるように制御する。エンジンECU8は、排気行程において排気弁20を開くように制御する。
【0039】
このとき、エンジンECU8は、
図3に示されるように、シリンダ10A(1番気筒)、シリンダ10C(3番気筒)、シリンダ10D(4番気筒)及びシリンダ10B(2番気筒)の順番で4つの行程を実施するように吸気弁19、排気弁20及び点火プラグ21を制御する。つまり、4つの行程は、4つのシリンダ10毎に順番に実施される。従って、シリンダ10Aの吸気行程の終了後にシリンダ10Cの吸気行程が実施され、シリンダ10Cの吸気行程の終了後にシリンダ10Dの吸気行程が実施され、シリンダ10Dの吸気行程の終了後にシリンダ10Bの吸気行程が実施され、シリンダ10Bの吸気行程の終了後にシリンダ10Aの吸気行程が再度実施される(
図5(a)参照)。圧縮行程、膨張行程及び排気行程についても同様である。
【0040】
また、エンジンシステム1は、改質器25と、上流側改質流路26と、改質スロットルバルブ27と、アンモニアボンベ28と、気化器29と、改質インジェクタ30と、アンモニア流路31,32と、下流側改質流路33と、クーラ34とを備えている。
【0041】
改質器25は、アンモニアガスを燃焼させて発生した熱を利用してアンモニアガスを改質することにより、水素を含有した改質ガスを生成する。改質器25は、円筒状の筐体35と、この筐体35内に収容された改質触媒36及び電気ヒータ37とを有している。筐体35は、アンモニアガスに対して耐腐食性を有するステンレス鋼等で形成されている。
【0042】
改質触媒36は、例えばハニカム構造を有している。改質触媒36は、アンモニアガスを燃焼させると共にアンモニアガスを水素に分解する触媒である。改質触媒36は、例えばATR(Autothermal Reformer)式アンモニア改質触媒である。改質触媒36としては、例えばコバルト系触媒、ロジウム系触媒、ルテニウム系触媒またはパラジウム系触媒等が使用される。
【0043】
電気ヒータ37は、筐体35内における改質触媒36よりも上流側に配置されている。電気ヒータ37は、改質触媒36に供給されるアンモニアガス及び空気を加熱することにより、改質触媒36をアンモニアガス及び空気を通して加熱(暖気)する。
【0044】
上流側改質流路26は、吸気流路3と改質器25とを接続している。上流側改質流路26の一端は、吸気流路3におけるエアクリーナ7とメインスロットルバルブ5との間に接続されている。上流側改質流路26の他端は、改質器25の筐体35の入口部に接続されている。上流側改質流路26は、改質器25に供給される空気が流れる流路である。
【0045】
改質スロットルバルブ27は、上流側改質流路26に配設されている。改質スロットルバルブ27は、改質器25に供給される空気の流量を制御する電磁式の第2流量制御弁である。
【0046】
アンモニアボンベ28は、アンモニアを液体状態で貯蔵する容器である。つまり、アンモニアボンベ28は、液体アンモニアを貯蔵する。
【0047】
気化器29は、アンモニア流路38を介してアンモニアボンベ28と接続されている。アンモニア流路38は、アンモニアボンベ28に貯蔵された液体アンモニアが流れる流路である。気化器29は、液体アンモニアを気化させてアンモニアガスを生成する。
【0048】
改質インジェクタ30は、改質器25に向けてアンモニアガスを間欠的に噴射する電磁式の第2燃料噴射弁である。改質インジェクタ30は、上流側改質流路26にアンモニアガスを噴射する。具体的には、改質インジェクタ30は、上流側改質流路26における改質スロットルバルブ27と改質器25との間にアンモニアガスを噴射する。このため、上流側改質流路26には、アンモニアガスも改質器25に向けて流れる。改質インジェクタ30は、メインインジェクタ6と同様に、ニードルバルブを開く時間を変えることで、アンモニアガスの噴射量を調整することができる。
【0049】
アンモニア流路31は、気化器29と各メインインジェクタ6とを接続している。アンモニア流路31は、気化器29により生成されたアンモニアガスが各メインインジェクタ6に向けて流れる燃料流路である。
【0050】
アンモニア流路32は、気化器29と改質インジェクタ30とを接続している。アンモニア流路32の一端は、アンモニア流路31に分岐接続されている。アンモニア流路32は、気化器29により生成されたアンモニアガスが改質インジェクタ30に向けて流れる燃料流路である。
【0051】
下流側改質流路33は、改質器25と吸気流路3とを接続している。下流側改質流路33の一端は、改質器25の筐体35の出口部に接続されている。下流側改質流路33の他端は、吸気流路3におけるメインスロットルバルブ5とアンモニアエンジン2との間に接続されている。下流側改質流路33は、改質器25により生成された改質ガスがアンモニアエンジン2の各燃焼室16(各シリンダ10内)に向けて流れる流路である。
【0052】
クーラ34は、下流側改質流路33に配設されている。クーラ34は、下流側改質流路33を流れる改質ガスを冷却する。
【0053】
また、エンジンシステム1は、回転数センサ40と、マップメモリ41と、コントローラ42(制御部)とを備えている。
【0054】
回転数センサ40は、アンモニアエンジン2の回転数(エンジン回転数)を検出するセンサである。エンジン回転数は、1分間当たりのアンモニアエンジン2の回転数である。
【0055】
マップメモリ41は、エンジン回転数と改質インジェクタ30の噴射周期との関係を表した噴射周期マップデータを記憶する記憶部である。噴射周期マップデータは、実験またはシミュレーション等により予め取得されている。
【0056】
ここでは、噴射周期マップデータは、改質インジェクタ30の噴射周期がアンモニアエンジン2の吸気行程の実施周期の1/2となるように設定されている(
図5(a),(b)参照)。この場合には、アンモニアエンジン2の各シリンダ10の吸気行程の実施中に、改質インジェクタ30からアンモニアガスが2回噴射される。つまり、シリンダ10の吸気行程が開始されてから次のシリンダ10の吸気行程が開始されるまでの吸気期間Tにおいて、改質インジェクタ30からアンモニアガスが2回噴射される。
【0057】
コントローラ42は、CPU、RAM、ROM及び入出力インターフェース等により構成されている。コントローラ42は、噴射周期決定部43と、バルブ制御部44とを有している。コントローラ42は、イグニッションスイッチ(図示せず)がON操作されると実行される。コントローラ42には、エンジンECU8からアンモニアエンジン2に出力される制御信号が入力される。
【0058】
噴射周期決定部43は、回転数センサ40により検出されたエンジン回転数に基づいて、改質インジェクタ30からのアンモニアガスの噴射周期を決定する。
【0059】
図4は、噴射周期決定部43により実行される噴射周期決定処理の手順を示すフローチャートである。
【0060】
図4において、噴射周期決定部43は、まず回転数センサ40の検出値を取得する(手順S101)。そして、噴射周期決定部43は、マップメモリ41に記憶された噴射周期マップデータを読み込む(手順S102)。続いて、噴射周期決定部43は、噴射周期マップデータから、エンジン回転数に応じた噴射周期を決定する(手順S103)。
【0061】
バルブ制御部44は、アンモニアエンジン2の各燃焼室16に所望流量のアンモニアガス及び空気が供給されるようにメインインジェクタ6及びメインスロットルバルブ5を制御すると共に、改質器25に所望流量のアンモニアガス及び空気が供給されるように改質インジェクタ30及び改質スロットルバルブ27を制御する。
【0062】
このとき、バルブ制御部44は、噴射周期決定部43により決定された噴射周期で、改質インジェクタ30からアンモニアガスを同じ時間だけ噴射するように改質インジェクタ30を制御する。
【0063】
つまり、バルブ制御部44は、シリンダ10の吸気行程が開始されてから次のシリンダ10の吸気行程が開始されるまでの吸気期間Tにおいて、改質インジェクタ30からアンモニアガスが異なるタイミングで2回噴射されるように改質インジェクタ30を制御する。従って、バルブ制御部44は、シリンダ10内に空気が吸入される行程が開始されてから次のシリンダ10内に空気が吸入される行程が開始されるまでの吸気期間Tにおいて、アンモニアガスが改質器25に異なるタイミングで2回供給されるように改質インジェクタ30を制御することとなる。このとき、バルブ制御部44は、アンモニアエンジン2の運転中における全ての吸気期間Tにおいて、改質インジェクタ30からアンモニアガスが異なるタイミングで2回噴射されるように改質インジェクタ30を制御する。
【0064】
また、バルブ制御部44は、エンジンECU8からアンモニアエンジン2の吸気弁19に出力される開弁制御信号に基づいて、シリンダ10の吸気行程が開始されてから次のシリンダ10の吸気行程が開始されるまでの吸気期間Tにおいて、最初(1回目)のアンモニアガスが噴射されるように改質インジェクタ30を制御する。開弁制御信号は、吸気弁19を開くための制御信号である。
【0065】
具体的には、バルブ制御部44は、開弁制御信号が入力されたときに、シリンダ10の吸気行程に起因して発生する吸気脈動(後述)により改質器25に供給される空気の流量が最大量となるタイミングであると判定し、最初のアンモニアガスが噴射されるように改質インジェクタ30を制御する。
【0066】
以上のようなエンジンシステム1において、車両のイグニッションスイッチ(図示せず)がON操作されると、スタータ(図示せず)がОNすることで、アンモニアエンジン2がクランキングされる。そして、改質インジェクタ30、改質スロットルバルブ27、メインインジェクタ6及びメインスロットルバルブ5が開弁する。すると、改質器25及びアンモニアエンジン2にアンモニアガス及び空気が供給される。
【0067】
改質器25にアンモニアガス及び空気が供給されると、電気ヒータ37によりアンモニアガス及び空気が加熱される。従って、アンモニアガス及び空気の熱により改質触媒36が加熱されるため、改質触媒36の温度が上昇する。そして、改質触媒36の温度が活性化温度(燃焼可能温度)に達すると、改質触媒36によりアンモニアガスが燃焼する。具体的には、下記式のように、アンモニアと空気中の酸素とが化学反応する(発熱反応)。
NH3+3/4O2→1/2N2+3/2H2O+Q1(発熱) …(A)
【0068】
すると、アンモニアガスの燃焼熱(改質触媒36の自己熱)によって改質触媒36の温度が更に上昇する。そして、改質触媒36の温度が反応温度(改質可能温度)に達すると、改質触媒36によりアンモニアガスが改質される。具体的には、下記式のように、アンモニアの分解反応が起こり(吸熱反応)、水素を含む改質ガスが生成される。
NH3→3/2H2+1/2N2-Q2(吸熱) …(B)
【0069】
改質ガスは、下流側改質流路33及び吸気流路3を流れてアンモニアエンジン2に供給される。そして、アンモニアエンジン2において、アンモニアガスが改質ガス中の水素と共に燃焼する定常状態に移行する。
【0070】
ここで、アンモニアエンジン2の吸気行程では、
図5(a)に示されるように、アンモニアエンジン2内のピストン11の上下運動により、改質器25内のガス圧及びガス流量が変動する吸気脈動が発生する。具体的には、ピストン11が下降することで、アンモニアエンジン2の燃焼室16に負圧が発生し、燃焼室16に空気が吸入される。このとき、燃焼室16の負圧は、吸気流路3及び上流側改質流路26を通って改質器25に伝播する。このため、吸気行程の開始直後には、改質器25に供給される空気の流量が増加する。
【0071】
このような吸気脈動に対し、
図5(b)に示されるように、改質インジェクタ30の噴射周期は、アンモニアエンジン2の吸気行程の実施周期の1/2となっている。つまり、シリンダ10の吸気行程が開始されてから次のシリンダ10の吸気行程が開始されるまでの吸気期間Tにおいて、改質インジェクタ30からアンモニアガスが異なるタイミングで2回噴射される。なお、コントローラ42は、吸気弁19の動作により吸気期間Tの開始を把握することができ、エンジン回転数に対応して(すなわち噴射周期マップデータによって)吸気期間Tの長さを把握することができる。
【0072】
図6は、比較例におけるアンモニアエンジン2の動作の一例を示すタイミング図である。本比較例では、
図6(a),(b)に示されるように、改質インジェクタ30の噴射周期がアンモニアエンジン2の吸気行程の実施周期と等しい。このため、シリンダ10の吸気行程が開始されてから次のシリンダ10の吸気行程が開始されるまでの吸気期間Tにおいて、改質インジェクタ30からアンモニアガスが1回のみ噴射される。
【0073】
この場合、改質器25に供給される空気の流量が少ないタイミングで、改質インジェクタ30からアンモニアガスが噴射されると、
図6(c)に示されるように、改質器25における空燃比(A/F)が時間的に一様ではなく、空燃比のムラDが発生した状態となる。空燃比は、アンモニアガスと空気との流量比である。このような空燃比のムラDによって、改質器25の改質触媒36の反応も時間的に一様ではなくなる。吸気行程の開始直後に、アンモニアガスの流量に対して空気の流量が必要以上に多くなると、改質器25の一時的な過昇温が生じることで、改質器25の改質触媒36が劣化してしまう。
【0074】
一方、本実施形態では、
図5(a),(b)に示されるように、シリンダ10の吸気行程が開始されてから次のシリンダ10の吸気行程が開始されるまでの吸気期間Tにおいて、改質インジェクタ30からアンモニアガスが異なるタイミングで2回噴射される。この場合には、アンモニアガスが2回噴射される分だけ、1回分の噴射量が少なくなるため、噴射時間τが短くなる。このようにアンモニアガスを2回噴射することで、
図5(c)に示されるように、比較例に比べて改質器25における空燃比の時間的なムラDが小さくなる。
【0075】
以上のように本実施形態によれば、改質器25にアンモニアガス及び空気が供給されることで、改質器25において水素を含む改質ガスが生成され、改質ガスがアンモニアエンジン2のシリンダ10内に供給される。また、アンモニアエンジン2のシリンダ10内にアンモニアガス及び空気が供給されることで、シリンダ10内においてアンモニアガスが水素と混合して燃焼する。アンモニアエンジン2では、複数のシリンダ10毎に、シリンダ10内に空気が吸入される行程を含む複数の行程が順番に実施される。このとき、シリンダ10内に空気が吸入される行程が開始されてから次のシリンダ10内に空気が吸入される行程が開始されるまでの吸気期間Tにおいて、アンモニアガスが改質器25に異なるタイミングで2回供給されるように改質インジェクタ30が制御される。このため、シリンダ10内に配置されたピストン11の上下運動により、改質器25に吸気脈動が発生することで、改質器25に供給される空気の流量が変動しても、改質器25における時間的な空燃比のムラが低減される。これにより、改質器25の過昇温が抑えられるため、改質器25の改質触媒36の劣化が抑制される。その結果、改質触媒36の耐久性が向上する。
【0076】
また、本実施形態では、シリンダ10内に空気が吸入される行程が開始されてから次のシリンダ10内に空気が吸入される行程が開始されるまでの吸気期間Tにおいて、改質インジェクタ30からアンモニアガスが異なるタイミングで2回噴射されるように改質インジェクタ30が制御される。このため、使用する改質インジェクタ30の数が1つだけでも、シリンダ10内に空気が吸入される行程が開始されてから次のシリンダ10内に空気が吸入される行程が開始されるまでの吸気期間Tにおいて、アンモニアガスが改質器25に異なるタイミングで2回供給される。従って、コスト面で有利である。
【0077】
図7は、本発明の第1実施形態に係るエンジンシステムの変形例の動作を示すタイミング図であり、
図5に対応している。
【0078】
本変形例のエンジンシステム1では、コントローラ42のバルブ制御部44は、上記の第1実施形態と同様に、シリンダ10の吸気行程が開始されてから次のシリンダ10の吸気行程が開始されるまでの吸気期間Tにおいて、改質インジェクタ30からアンモニアガスが異なるタイミングで2回噴射されるように改質インジェクタ30を制御する。
【0079】
このとき、バルブ制御部44は、
図7(a),(b)に示されるように、シリンダ10の吸気行程が開始されてから次のシリンダ10の吸気行程が開始されるまでの吸気期間Tにおいて、1回目のアンモニアガスの噴射時間τが2回目のアンモニアガスの噴射時間τよりも長くなるように改質インジェクタ30を制御する。
【0080】
つまり、バルブ制御部44は、改質インジェクタ30からアンモニアガスが異なるタイミングで2回噴射される際に、空気が吸入される行程に起因して発生する吸気脈動により改質器25に供給される空気の流量が多くなるタイミングに近いほどアンモニアガスの噴射時間τが長くなるように改質インジェクタ30を制御する。なお、空気の流量が多くなるタイミングとは、例えば空気流量が最大になるタイミングである。
【0081】
従って、吸気脈動により改質器25に供給される空気の流量が多くなるタイミングでは、改質インジェクタ30からのアンモニアガスの噴射量が多くなり、吸気脈動により改質器25に供給される空気の流量が少なくなるタイミングでは、改質インジェクタ30からのアンモニアガスの噴射量が少なくなる。これにより、
図7(c)に示されるように、比較例に比べて改質器25における空燃比の時間的なムラDが更に小さくなる。
【0082】
このような本変形例では、空気が吸入される行程に起因して発生する吸気脈動により改質器25に供給される空気の流量が多くなるタイミングに近いほど、改質インジェクタ30からのアンモニアガスの噴射量が多くなる。このため、改質器25における時間的な空燃比のムラが更に低減される。従って、改質器25の過昇温が更に抑えられるため、改質器25の改質触媒36の劣化が一層抑制される。
【0083】
なお、上記の第1実施形態及び変形例では、シリンダ10内に空気が吸入される行程が開始されてから次のシリンダ10内に空気が吸入される行程が開始されるまでの吸気期間Tにおいて、改質インジェクタ30からアンモニアガスが異なるタイミングで2回噴射されるように改質インジェクタ30が制御されているが、特にそのような形態には限られない。シリンダ10内に空気が吸入される行程が開始されてから次のシリンダ10内に空気が吸入される行程が開始されるまでの吸気期間Tにおいて、改質インジェクタ30からアンモニアガスが異なるタイミングで複数回噴射されるように改質インジェクタ30を制御すればよい。例えば、改質インジェクタ30の噴射周期をアンモニアエンジン2の吸気行程の実施周期の1/3とすることにより、シリンダ10内に空気が吸入される行程が開始されてから次のシリンダ10内に空気が吸入される行程が開始されるまでの吸気期間Tにおいて、改質インジェクタ30からアンモニアガスを異なるタイミングで3回噴射させてもよい。
【0084】
図8は、本発明の第2実施形態に係るエンジンシステムを示す概略構成図である。
図8において、本実施形態のエンジンシステム1Aは、上記の第1実施形態と異なり、2つの改質インジェクタ30(改質インジェクタ30A,30Bとする)を備えている。
【0085】
改質インジェクタ30A,30Bは、上流側改質流路26に沿って離れた位置に配置されている。改質インジェクタ30A,30Bは、改質器25までの距離が互いに異なっている。改質インジェクタ30Bから改質器25までの距離は、改質インジェクタ30Aから改質器25までの距離よりも短い。
【0086】
また、エンジンシステム1Aは、上記の第1実施形態におけるコントローラ42に代えて、コントローラ42Aを備えている。コントローラ42Aは、噴射周期決定部43Aと、バルブ制御部44Aとを有している。
【0087】
噴射周期決定部43Aは、回転数センサ40により検出されたエンジン回転数に基づいて、改質インジェクタ30A,30Bの噴射周期を決定する。噴射周期決定部43Aにより実行される噴射周期決定処理の手順は、上記の噴射周期決定部43と同様である。
【0088】
ここで、改質インジェクタ30A,30Bの噴射周期は、
図9(a)~
図9(c)に示されるように、アンモニアエンジン2の吸気行程の実施周期と等しい。この場合には、アンモニアエンジン2の各シリンダ10の吸気行程の実施中に、改質インジェクタ30A,30Bからアンモニアガスが1回ずつ噴射される。つまり、シリンダ10の吸気行程が開始されてから次のシリンダ10の吸気行程が開始されるまでの吸気期間Tにおいて、改質インジェクタ30A,30Bからアンモニアガスが1回ずつ噴射される。なお、
図9(b)は、改質インジェクタ30Aからのアンモニアガスの噴射タイミングを示し、
図9(c)は、改質インジェクタ30Bからのアンモニアガスの噴射タイミングを示している。
【0089】
バルブ制御部44Aは、噴射周期決定部43Aにより決定された噴射周期で、改質インジェクタ30A,30Bからアンモニアガスを同じ時間だけ噴射するように改質インジェクタ30A,30Bを制御する。
【0090】
バルブ制御部44Aは、シリンダ10の吸気行程が開始されてから次のシリンダ10の吸気行程が開始されるまでの吸気期間Tにおいて、改質インジェクタ30A,30Bからアンモニアガスが異なるタイミングで1回ずつ噴射されるように改質インジェクタ30A,30Bを制御する。従って、バルブ制御部44Aは、シリンダ10内に空気が吸入される行程が開始されてから次のシリンダ10内に空気が吸入される行程が開始されるまでの吸気期間Tにおいて、アンモニアガスが改質器25に異なるタイミングで2回供給されるように改質インジェクタ30A,30Bを制御することとなる。このとき、バルブ制御部44Aは、アンモニアエンジン2の運転中における全ての吸気期間Tにおいて、改質インジェクタ30A,30Bからアンモニアガスが異なるタイミングで1回ずつ噴射されるように改質インジェクタ30A,30Bを制御する。
【0091】
また、バルブ制御部44Aは、エンジンECU8からアンモニアエンジン2の吸気弁19に出力される開弁制御信号に基づいて、シリンダ10の吸気行程に起因して発生する吸気脈動により改質器25に供給される空気の流量が最大量となるタイミングで、改質インジェクタ30Aからアンモニアガスが噴射されるように改質インジェクタ30Aを制御する。
【0092】
バルブ制御部44Aは、改質インジェクタ30Aからアンモニアガスが噴射される時期と次に改質インジェクタ30Aからアンモニアガスが噴射される時期との間に改質インジェクタ30Bからアンモニアガスが噴射されるように改質インジェクタ30Bを制御する。このとき、改質インジェクタ30Aから改質器25にアンモニアガスが供給される時期と改質インジェクタ30Bから改質器25にアンモニアガスが供給される時期との間隔が等しくなるように、改質インジェクタ30A,30Bの位置ずれによりアンモニアガスが供給される時間が遅れる分を考慮して、改質インジェクタ30Bからの噴射タイミングが設定される。
【0093】
バルブ制御部44Aは、改質インジェクタ30A,30Bの噴射時間τが等しくなるように改質インジェクタ30A,30Bを制御する。これにより、改質インジェクタ30A,30Bからのアンモニアガスの噴射量が等しくなる。
【0094】
以上のような本実施形態においては、
図9(a)~
図9(c)に示されるように、シリンダ10の吸気行程が開始されてから次のシリンダ10の吸気行程が開始されるまでの吸気期間Tにおいて、改質インジェクタ30A,30Bからアンモニアガスが異なるタイミングで噴射される。このため、
図9(d)に示されるように、比較例(
図6参照)に比べて改質器25における空燃比の時間的なムラDが小さくなる。これにより、改質器25の過昇温が抑えられるため、改質器25の改質触媒36の劣化が抑制される。
【0095】
このように本実施形態では、改質インジェクタ30A,30Bから異なるタイミングでアンモニアガスが噴射されるため、例えばアンモニアエンジン2の高回転時等のように改質インジェクタ30A,30Bの制御が追い付かない状況でも、シリンダ10内に空気が吸入される行程が開始されてから次のシリンダ10内に空気が吸入される行程が開始されるまでの吸気期間Tに、アンモニアガスが改質器25に異なるタイミングで2回供給される。
【0096】
図10は、本発明の第2実施形態に係るエンジンシステムの変形例の動作を示すタイミング図であり、
図9に対応している。
【0097】
本変形例のエンジンシステム1Aでは、コントローラ42Aのバルブ制御部44Aは、上記の第2実施形態と同様に、シリンダ10の吸気行程が開始されてから次のシリンダ10の吸気行程が開始されるまでの吸気期間Tにおいて、改質インジェクタ30A,30Bからアンモニアガスが異なるタイミングで噴射されるように改質インジェクタ30A,30Bを制御する。
【0098】
このとき、バルブ制御部44Aは、
図10(a)~10(c)に示されるように、シリンダ10の吸気行程が開始されてから次のシリンダ10の吸気行程が開始されるまでの吸気期間Tにおいて、改質インジェクタ30Aからのアンモニアガスの噴射時間τが改質インジェクタ30Bからのアンモニアガスの噴射時間τよりも長くなるように改質インジェクタ30A,30Bを制御する。
【0099】
つまり、バルブ制御部44Aは、改質インジェクタ30A,30Bからアンモニアガスが異なるタイミングで噴射される際に、空気が吸入される行程に起因して発生する吸気脈動により改質器25に供給される空気の流量が多くなるタイミングに近いほどアンモニアガスの噴射時間τが長くなるように改質インジェクタ30A,30Bを制御する。
【0100】
従って、吸気脈動により改質器25に供給される空気の流量が多くなるタイミングでは、改質インジェクタ30Aからのアンモニアガスの噴射量が多くなり、吸気脈動により改質器25に供給される空気の流量が少なくなるタイミングでは、改質インジェクタ30Bからのアンモニアガスの噴射量が少なくなる。これにより、
図10(d)に示されるように、比較例(
図6参照)に比べて改質器25における空燃比の時間的なムラDが更に小さくなる。
【0101】
このように本変形例では、空気が吸入される行程に起因して発生する吸気脈動により改質器25に供給される空気の流量が多くなるタイミングに近いほど、改質インジェクタ30からのアンモニアガスの噴射量が多くなる。このため、改質器25における時間的な空燃比のムラが更に低減される。従って、改質器25の過昇温が更に抑えられるため、改質器25の改質触媒36の劣化が一層抑制される。
【0102】
なお、上記の第2実施形態及び変形例では、改質インジェクタ30A,30Bが上流側改質流路26に沿って離れて配置されているが、特にその形態には限られず、改質インジェクタ30A,30Bを同じ箇所に近づけて配置してもよい。この場合でも、改質インジェクタ30A,30Bから異なるタイミングでアンモニアガスが噴射されるため、シリンダ10内に空気が吸入される行程が開始されてから次のシリンダ10内に空気が吸入される行程が開始されるまでの吸気期間Tに、アンモニアガスが改質器25に異なるタイミングで2回供給される。
【0103】
また、上記の第2実施形態及び変形例では、改質インジェクタ30A,30Bから異なるタイミングでアンモニアガスが噴射されているが、特にそのような形態には限られない。上流側改質流路26に沿って離れて配置された改質インジェクタ30A,30B間の距離が長い場合には、改質インジェクタ30A,30Bからアンモニアガスを同じタイミングで噴射してもよい。この場合には、改質器25から遠い改質インジェクタ30Aから噴射されたアンモニアガスは、改質器25に近い改質インジェクタ30Bから噴射されたアンモニアガスよりも遅れて改質器25に供給される。
【0104】
このように改質インジェクタ30A,30B間の距離を長くすることで、改質インジェクタ30A,30Bからの噴射タイミングが同じであっても、シリンダ10内に空気が吸入される行程が開始されてから次のシリンダ10内に空気が吸入される行程が開始されるまでの吸気期間Tに、アンモニアガスが改質器25に異なるタイミングで2回供給される。従って、改質器25における時間的な空燃比のムラが低減される。
【0105】
また、上記の第2実施形態及び変形例では、シリンダ10内に空気が吸入される行程が開始されてから次のシリンダ10内に空気が吸入される行程が開始されるまでの吸気期間Tにおいて、2つの改質インジェクタ30からアンモニアガスが噴射されているが、特にそのような形態には限られない。シリンダ10内に空気が吸入される行程が開始されてから次のシリンダ10内に空気が吸入される行程が開始されるまでの吸気期間Tにおいて、複数の改質インジェクタ30からアンモニアガスを噴射すればよい。例えば、3つの改質インジェクタ30からアンモニアガスが噴射される場合には、3つの改質インジェクタ30の噴射タイミングをずらしてもよいし、3つの改質インジェクタ30をずらして配置してもよい。
【0106】
図11は、本発明の第3実施形態に係るエンジンシステムを示す概略構成図である。
図11において、本実施形態のエンジンシステム1Bは、上記の第1実施形態の構成に加え、上流側圧力センサ51と、下流側圧力センサ52とを備えている。
【0107】
上流側圧力センサ51は、アンモニア流路32内の圧力を改質インジェクタ30の上流圧として検出する第1圧力検出部である。下流側圧力センサ52は、上流側改質流路26内の圧力を改質インジェクタ30の下流圧として検出する第2圧力検出部である。下流側圧力センサ52は、上流側改質流路26内における改質インジェクタ30と改質器25との間の圧力を検出する。
【0108】
また、エンジンシステム1Bは、上記の第1実施形態におけるコントローラ42に代えて、コントローラ42Bを備えている。コントローラ42Bは、上記の噴射周期決定部43と、噴射時間決定部45と、バルブ制御部44Bとを有している。
【0109】
噴射時間決定部45は、上流側圧力センサ51により検出された改質インジェクタ30の上流圧と下流側圧力センサ52により検出された改質インジェクタ30の下流圧とに基づいて、改質インジェクタ30からのアンモニアガスの噴射時間τを決定する。
【0110】
図12は、噴射時間決定部45により実行される噴射時間決定処理の手順を示すフローチャートである。
図12において、噴射時間決定部45は、まず上流側圧力センサ51及び下流側圧力センサ52の検出値を取得する(手順S111)。
【0111】
続いて、噴射時間決定部45は、改質インジェクタ30の上流圧と改質インジェクタ30の下流圧との圧力差を算出する(手順S112)。そして、噴射時間決定部45は、改質インジェクタ30の上流圧と改質インジェクタ30の下流圧との圧力差が圧力閾値以上であるかどうかを判断する(手順S113)。圧力閾値は、予め定められた所定値である。
【0112】
噴射時間決定部45は、改質インジェクタ30の上流圧と改質インジェクタ30の下流圧との圧力差が圧力閾値以上であると判断したときは、噴射時間τとして短噴射時間を選択する(手順S114)。短噴射時間は、予め定められた時間である。
【0113】
噴射時間決定部45は、改質インジェクタ30の上流圧と改質インジェクタ30の下流圧との圧力差が圧力閾値以上でないと判断したときは、噴射時間τとして長噴射時間を選択する(手順S115)。長噴射時間は、予め定められた時間であり、短噴射時間よりも長い。
【0114】
図11に戻り、バルブ制御部44Bは、上記の第1実施形態と同様に、シリンダ10の吸気行程が開始されてから次のシリンダ10の吸気行程が開始されるまでの吸気期間Tにおいて、改質インジェクタ30からアンモニアガスが異なるタイミングで2回噴射されるように改質インジェクタ30を制御する。
【0115】
このとき、バルブ制御部44Bは、噴射周期決定部43により決定された噴射周期で、噴射時間決定部45により決定された噴射時間τだけ改質インジェクタ30からアンモニアガスが噴射されるように改質インジェクタ30を制御する。つまり、バルブ制御部44Bは、改質インジェクタ30の上流圧と改質インジェクタ30の下流圧との圧力差が圧力閾値以上であるときは、改質インジェクタ30の上流圧と改質インジェクタ30の下流圧との圧力差が圧力閾値よりも低いときに比べて、アンモニアガスの噴射時間τが短くなるように改質インジェクタ30を制御する。
【0116】
噴射時間τが一定の場合、改質インジェクタ30からのアンモニアガスの噴射量は、改質インジェクタ30の上流圧及び下流圧によって変化する。具体的には、改質インジェクタ30の上流圧と改質インジェクタ30の下流圧との圧力差が大きいほど、改質インジェクタ30からのアンモニアガスの噴射量が多くなる。
【0117】
それに対し本実施形態では、改質インジェクタ30の上流圧と改質インジェクタ30の下流圧との圧力差が圧力閾値以上であるときは、改質インジェクタ30の上流圧と改質インジェクタ30の下流圧との圧力差が圧力閾値よりも低いときに比べて、改質インジェクタ30からのアンモニアガスの噴射時間を短くすることにより、改質インジェクタ30の上流圧及び下流圧に関わらず、改質インジェクタ30からのアンモニアガスの噴射量が一定に近づくようになる。従って、アンモニアエンジン2の始動直後等のようなアンモニアエンジン2の状態に応じて、改質インジェクタ30からアンモニアガスが適切に噴射される。
【0118】
なお、上記の第3実施形態では、改質インジェクタ30からのアンモニアガスの噴射時間τとして、長噴射時間及び短噴射時間の何れかが選択されているが、特にそのような形態には限られない。例えば、改質インジェクタ30の上流圧と改質インジェクタ30の下流圧との圧力差が大きくなるにつれて、アンモニアガスの噴射時間τを段階的または連続的に短くしてもよい。この場合にも、改質インジェクタ30の上流圧と改質インジェクタ30の下流圧との圧力差が所定値以上であるときは、改質インジェクタ30の上流圧と改質インジェクタ30の下流圧との圧力差が所定値よりも低いときに比べて、アンモニアガスの噴射時間τが短くなるといえる。
【0119】
図13は、本発明の第4実施形態に係るエンジンシステムを示す概略構成図である。
図13において、本実施形態のエンジンシステム1Cは、上記の第1実施形態の構成に加え、温度センサ55を備えている。温度センサ55は、環境温度を検出する温度検出部である。環境温度は、外気温に相当する。
【0120】
また、エンジンシステム1Cは、上記の第1実施形態におけるコントローラ42に代えて、コントローラ42Cを備えている。コントローラ42Cは、上記の噴射周期決定部43と、噴射時間決定部46と、バルブ制御部44Cとを有している。
【0121】
噴射時間決定部46は、温度センサ55により検出された環境温度に基づいて、改質インジェクタ30からのアンモニアガスの噴射時間τを決定する。
【0122】
図14は、噴射時間決定部46により実行される噴射時間決定処理の手順を示すフローチャートである。
図14において、噴射時間決定部46は、まず温度センサ55の検出値を取得する(手順S121)。続いて、噴射時間決定部46は、環境温度が温度閾値以上であるかどうかを判断する(手順S122)。温度閾値は、予め定められた所定値である。
【0123】
噴射時間決定部46は、環境温度が温度閾値以上であると判断したときは、噴射時間τとして短噴射時間を選択する(手順S123)。短噴射時間は、予め定められた時間である。
【0124】
噴射時間決定部46は、環境温度が温度閾値以上でないと判断したときは、噴射時間τとして長噴射時間を選択する(手順S124)。長噴射時間は、予め定められた時間であり、短噴射時間よりも長い。
【0125】
図13に戻り、バルブ制御部44Cは、上記の第1実施形態と同様に、シリンダ10の吸気行程が開始されてから次のシリンダ10の吸気行程が開始されるまでの吸気期間Tにおいて、改質インジェクタ30からアンモニアガスが異なるタイミングで2回噴射されるように改質インジェクタ30を制御する。
【0126】
このとき、バルブ制御部44Cは、噴射周期決定部43により決定された噴射周期で、噴射時間決定部46により決定された噴射時間τだけ改質インジェクタ30からアンモニアガスが噴射されるように改質インジェクタ30を制御する。つまり、バルブ制御部44Cは、環境温度が温度閾値以上であるときは、環境温度が温度閾値よりも低いときに比べて、アンモニアガスの噴射時間τが短くなるように改質インジェクタ30を制御する。
【0127】
噴射時間τが一定の場合、改質インジェクタ30からのアンモニアガスの噴射量は、アンモニア流路32内の圧力によって変化する。アンモニア流路32内の圧力が高くなるほど、改質インジェクタ30からのアンモニアガスの噴射量が多くなる。アンモニア流路32内の圧力は、気化器29の気化能力によって変化する。具体的には、気化器29の気化能力は、環境温度によって変化する。環境温度が高くなるほど、気化器29の気化能力が高くなるため、アンモニア流路32内の圧力が高くなる。
【0128】
それに対し本実施形態では、環境温度が温度閾値以上であるときは、環境温度が温度閾値よりも低いときに比べて、改質インジェクタ30からのアンモニアガスの噴射時間を短くすることにより、環境温度に関わらず、改質インジェクタ30からのアンモニアガスの噴射量が一定に近づくようになる。従って、アンモニアエンジン2の始動直後や高温環境下または低温環境下等のようなアンモニアエンジン2の状態に応じて、改質インジェクタ30からアンモニアガスが適切に噴射される。
【0129】
図15は、本発明の第4実施形態に係るエンジンシステムの変形例を示す概略構成図である。
図15において、本実施形態のエンジンシステム1Cは、上記の第4実施形態における温度センサ55に代えて、温度センサ56を備えている。温度センサ56は、アンモニアエンジン2を冷却するための冷却水の温度を検出する温度検出部である。
【0130】
アンモニアエンジン2及び気化器29には、冷却水が流れる循環流路57が接続されている。循環流路57は、クーラ24にも接続されていてもよい。循環流路57には、ポンプ58が配設されている。ポンプ58は、循環流路57において冷却水を一方向に循環させる。気化器29は、アンモニアエンジン2により暖められた冷却水を利用して熱交換を行うことにより、液体のアンモニアを気化させる。
【0131】
このような気化器29の気化能力は、冷却水の温度によっても変化する。具体的には、アンモニアエンジン2の始動直後は、冷却水の温度が低いため、気化器29の気化能力が低い。従って、アンモニア流路32内の圧力(改質インジェクタ30の上流圧)が低い。その後、冷却水の温度が高くなると、気化器29の気化能力が高くなるため、アンモニア流路32内の圧力が高くなる。
【0132】
そこで、本変形例では、アンモニアエンジン2を冷却するための冷却水の温度が温度閾値以上であるときは、冷却水の温度が温度閾値よりも低いときに比べて、改質インジェクタ30からのアンモニアガスの噴射時間を短くすることにより、冷却水の温度に関わらず、改質インジェクタ30からのアンモニアガスの噴射量が一定に近づくようになる。
【0133】
なお、上記の第4実施形態及び変形例でも、改質インジェクタ30からのアンモニアガスの噴射時間τとして、長噴射時間及び短噴射時間の何れかが選択されているが、特にそのような形態には限られない。例えば、環境温度または冷却水の温度が高くなるにつれて、アンモニアガスの噴射時間τを段階的または連続的に短くしてもよい。この場合にも、環境温度または冷却水の温度が所定値以上であるときは、環境温度または冷却水の温度が所定値よりも低いときに比べて、アンモニアガスの噴射時間τが短くなるといえる。
【0134】
以上、本発明の実施形態について幾つか説明してきたが、本発明は上記実施形態には限定されない。例えば上記実施形態では、アンモニアエンジン2の運転中、シリンダ10内に空気が吸入される行程が開始されてから次のシリンダ10内に空気が吸入される行程が開始されるまでの全ての吸気期間Tにおいて、アンモニアガスが改質器25に異なるタイミングで複数回供給されるように改質インジェクタ30が制御されているが、特にそのような形態には限られない。シリンダ10内に空気が吸入される行程が開始されてから次のシリンダ10内に空気が吸入される行程が開始されるまでの全ての吸気期間Tのうち一部の吸気期間Tにおいて、アンモニアガスが改質器25に異なるタイミングで複数回供給されるように改質インジェクタ30を制御してもよい。つまり、アンモニアエンジン2の運転中における全ての吸気期間Tのうち、アンモニアガスが改質器25に1回のみ供給されるような吸気期間Tがあってもよい。要は、シリンダ10内に空気が吸入される行程が開始されてから次のシリンダ10内に空気が吸入される行程が開始されるまでの吸気期間Tにおいて、アンモニアガスが改質器25に異なるタイミングで複数回供給される吸気期間Tを有するように改質インジェクタ30を制御すればよい。
【0135】
具体的には、上記の第1実施形態及び変形例では、改質インジェクタ30の噴射周期がアンモニアエンジン2の吸気行程の実施周期よりも短ければよい。例えば、改質インジェクタ30の噴射周期は、アンモニアエンジン2の吸気行程の実施周期の2/3でもよい。この場合には、シリンダ10内に空気が吸入される行程が開始されてから次のシリンダ10内に空気が吸入される行程が開始されるまでの全ての吸気期間Tのうち、一部の吸気期間Tでは、アンモニアガスが異なるタイミングで複数回噴射され、残りの吸気期間Tでは、アンモニアガスが1回のみ噴射されることとなり、全体としては吸気期間Tあたり1.5回噴射されることとなる。
【0136】
また、改質インジェクタ30からのアンモニアガスの噴射タイミングが周期的ではなくランダムであってもよい。この場合にも、シリンダ10内に空気が吸入される行程が開始されてから次のシリンダ10内に空気が吸入される行程が開始されるまでの全ての吸気期間Tのうちの一部の吸気期間Tでは、アンモニアガスが異なるタイミングで複数回噴射されずに、アンモニアガスが1回のみ噴射されることがあり得る。
【0137】
また、上記の第2実施形態及び変形例では、複数の改質インジェクタ30の何れか1つの噴射周期がアンモニアエンジン2の吸気行程の実施周期よりも長くてもよいし、或いは改質インジェクタ30からのアンモニアガスの噴射タイミングが周期的ではなくランダムであってもよい。この場合には、シリンダ10内に空気が吸入される行程が開始されてから次のシリンダ10内に空気が吸入される行程が開始されるまでの全ての吸気期間Tのうちの一部の吸気期間Tにおいて、複数の改質インジェクタ30からアンモニアガスが噴射されずに、何れか1つの改質インジェクタ30のみからアンモニアガスが噴射されることがあり得る。
【0138】
また、上記実施形態において、アクセル開度を考慮して、改質インジェクタ30からのアンモニアガスの噴射時間τを決定してもよい。つまり、アンモニアエンジン2から発生するエンジントルクに応じて、改質インジェクタ30からのアンモニアガスの噴射時間τを決定してもよい。
【0139】
また、上記実施形態では、エンジンECU8からアンモニアエンジン2の吸気弁19に出力される開弁制御信号に基づいて、アンモニアエンジン2の吸気行程に起因して発生する吸気脈動により改質器25に供給される空気の流量が多くなるタイミングであるかどうかが判定されているが、特にそのような形態には限られない。例えば、吸気流路3におけるエアクリーナ7の下流側に、吸気流路3を流れる空気の流量を検出するエアフローメータを配設し、エアフローメータの検出値に基づいて、アンモニアエンジン2の吸気行程に起因して発生する吸気脈動により改質器25に供給される空気の流量が多くなるタイミングであるかどうかを判定してもよい。
【0140】
また、エンジンECU8からの開弁制御信号及びエアフローメータの検出値等を用いずに、例えば吸気流路3のアンモニアエンジン2側端にアンモニアエンジン2のシリンダ10内への吸気圧を検出する吸気圧センサを配置し、吸気圧センサの検出値に基づいて、アンモニアエンジン2の吸気行程に起因して発生する吸気脈動により改質器25に供給される空気の流量が多くなるタイミングになるかどうかを判定してもよい。
【0141】
また、上記実施形態では、改質器25は、アンモニアガスを燃焼させる機能とアンモニアガスを水素に分解する機能とを併せ持った改質触媒36を有しているが、特にそのような形態には限られない。改質器25は、アンモニアガスを燃焼させる燃焼触媒と、アンモニアガスを水素に分解する改質触媒とを別々に有していてもよい。
【0142】
また、上記実施形態では、改質器25には、エアクリーナ7が配設された吸気流路3と上流側改質流路26とを通じて空気が供給されているが、特にそのような形態には限られない。改質器25には、エアクリーナ7とは異なるエアクリーナを介して、周囲の空気が直接供給されてもよい。
【0143】
また、上記実施形態では、アンモニアエンジン2は4気筒エンジンであるが、アンモニアエンジン2としては、特にそれには限られず、複数組のシリンダ10及びピストン11を有する多気筒エンジンであればよい。
【0144】
また、上記実施形態では、アンモニアエンジン2は、4ストローク式のエンジンであるが、アンモニアエンジン2としては、特にそれには限られず、2ストローク式のエンジン等であってもよい。2ストローク式のアンモニアエンジン2では、吸気・圧縮行程及び燃焼・排気行程という2つの行程で1サイクルとされる。この場合、シリンダ10内への空気の吸入は、吸気・圧縮行程で実施される。
【0145】
また、上記実施形態では、改質スロットルバルブ27は上流側改質流路26に配置されているが、特にそれには限られず、改質スロットルバルブ27を下流側改質流路33に配置してもよい。
【0146】
また、上記実施形態では、燃料としてアンモニアガスが使用されているが、本発明は、燃料として炭化水素等を使用するエンジンシステムにも適用可能である。
【符号の説明】
【0147】
1,1A,1B,1C…エンジンシステム、2…アンモニアエンジン(エンジン)、3…吸気流路、5…メインスロットルバルブ(第1流量制御弁)、6…メインインジェクタ(第1燃料噴射弁)、10…シリンダ、10A,10B,10C,10D…シリンダ、11…ピストン、25…改質器、26…上流側改質流路、27…改質スロットルバルブ(第2流量制御弁)、29…気化器、30…改質インジェクタ(第2燃料噴射弁)、30A,30B…改質インジェクタ(第2燃料噴射弁)、31,32…アンモニア流路(燃料流路)、33…下流側改質流路、36…改質触媒(触媒)、42,42A,42B,42C…コントローラ(制御部)、51…上流側圧力センサ(第1圧力検出部)、52…下流側圧力センサ(第2圧力検出部)、55…温度センサ(温度検出部)、56…温度センサ(温度検出部)、T…吸気期間、τ…噴射時間。