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特開2024-164954リチウムイオン二次電池及びリチウムイオン二次電池の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024164954
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池及びリチウムイオン二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20241121BHJP
   H01M 10/0587 20100101ALI20241121BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M10/0587
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080704
(22)【出願日】2023-05-16
(71)【出願人】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】トヨタバッテリー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】出口 祥太郎
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健太郎
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ14
5H029AK03
5H029AL06
5H029BJ14
5H029CJ21
5H029CJ22
5H029CJ25
5H029HJ04
5H029HJ06
5H029HJ12
5H050AA02
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA07
5H050CB07
5H050FA15
5H050GA21
5H050GA22
5H050GA25
5H050HA04
5H050HA06
(57)【要約】
【課題】高い電池性能を確保しつつセパレータの位置ズレを抑制する。
【解決手段】リチウムイオン二次電池としての二次電池1は、セパレータを挟んで正負の電極シート35が積層された電極体を備える。各電極シート35は、集電体31となる基材36に電極合材層32を積層することにより形成される。また、二次電池1は、正極3側の電極シート35Pを構成する正極合材層32Pの表面50に設けられた凹部51と、この凹部51の周縁部51eにおいて、その正極合材層32Pの表面50に突出する隆起部52と、を備える。そして、この二次電池1においては、その凹部51の径R1よりも、この凹部51の径方向における隆起部52の断面幅Wの方が小さくなっている。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セパレータを挟んで正負の電極シートが積層された電極体を備えるとともに、前記各電極シートは、集電体となる基材に電極合材層を積層してなるリチウムイオン二次電池であって、
正極側の前記電極シートを構成する正極合材層の表面に設けられた凹部と、
前記凹部の周縁部において前記正極合材層の表面に突出する隆起部と、
を備えるとともに、
前記凹部の径よりも該凹部の径方向における前記隆起部の断面幅の方が小さい
リチウムイオン二次電池。
【請求項2】
前記隆起部を有した前記周縁部の径を前記凹部の径で除した値が、
2.0以下である請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
前記凹部の深さを前記隆起部の高さで除した値が、
5以上、17以下である請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
前記隆起部の高さが0.5μm以上、5μm以下である
請求項1~請求項3の何れか一項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
前記隆起部が前記凹部の全周に亘って延在する
請求項1~請求項3の何れか一項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項6】
前記電極体が捲回体としての構成を有する
請求項1~請求項3の何れか一項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項7】
セパレータを挟んで正負の電極シートが積層された電極体を備えるとともに、前記各電極シートは、集電体となる基材に電極合材層を積層してなるリチウムイオン二次電池の製造方法であって、
前記基材に対して正極合材を塗工することにより前記基材に積層された正極合材層を形成する工程を備えるとともに、
前記塗工前の前記正極合材に気泡を含ませる工程と、
前記塗工後の前記正極合材に含まれた前記気泡の破裂により、前記正極合材層の表面に凹部を形成するとともに、前記凹部の周縁部において前記正極合材層の表面に突出する隆起部を形成する工程と、を備えるリチウムイオン二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池及びリチウムイオン二次電池の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウムイオン二次電池には、集電体となる基材に電極合材層を積層してなる電極シートを用いることにより、その正負の電極を形成するものがある。即ち、このようなリチウムイオン二次電池においては、その正極合材層と負極合材層との間にセパレータが介在される。そして、多くの場合、これらの各電極シート及びセパレータが捲回された状態で、その電極体を形成する構成になっている。
【0003】
また、上記構成においては、その正負の電極シートに挟み込まれたセパレータの位置ズレによって、例えば、電極間の短絡等、問題が生ずる可能性がある。尚、このようなセパレータの位置ズレが発生する要因としては、例えば、各電極シート及びセパレータを捲回する際の所謂巻きズレ等が挙げられる。そこで、例えば、その電極シートを構成する電極合材層の表面に凹凸を設けることにより、その摩擦係数を高くすることが考えられる。そして、これにより、例えば、短絡等、そのセパレータの位置ズレを要因とした不良の発生を抑制することができる。
【0004】
尚、例えば、特許文献1には、基材表面に凹凸を設けることにより電極合材層の密着性を高める構成が開示されている。そして、特許文献2や特許文献3等には、例えば、塗工のプレス工程等、圧延ローラを用いることにより、その電極合材層の表面に凹凸を形成する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-54871号公報
【特許文献2】特開2013-187468号公報
【特許文献3】特開平11-176421号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、リチウムイオン二次電池においては、正極合材層の表面に突出部が存在することで、そのセパレータを挟んで対向する負極合材層の表面に金属リチウムが析出しやすくなる。そして、これにより、電池性能が低下するという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するリチウムイオン二次電池及びリチウムイオン二次電池の製造方法についての各態様を記載する。
態様1は、セパレータを挟んで正負の電極シートが積層された電極体を備えるとともに、前記各電極シートは、集電体となる基材に電極合材層を積層してなるリチウムイオン二次電池であって、正極側の前記電極シートを構成する正極合材層の表面に設けられた凹部と、前記凹部の周縁部において前記正極合材層の表面に突出する隆起部と、を備えるとともに、前記凹部の径よりも該凹部の径方向における前記隆起部の断面幅の方が小さいリチウムイオン二次電池である。
【0008】
即ち、正極合材層の表面に隆起部を形成することにより、その摩擦係数を増加させることができる。更に、上記構成によれば、充電時、正極から負極に移動するリチウムイオンを、そのリチウムイオンの移動量が多い隆起部から、この隆起部に隣接するリチウムイオンの移動量が少ない凹部側に拡散させることができる。そして、これにより、その負極合材層の表面における局所的なリチウムの析出を抑制することができる。その結果、高い電池性能を確保しつつ、セパレータの位置ズレを抑制することができる。
【0009】
態様2は、前記隆起部を有した前記周縁部の径を前記凹部の径で除した値が、2.0以下である態様1に記載のリチウムイオン二次電池である。
即ち、隆起部を有した周縁部の径に対して凹部の径が十分な大きさを有していない場合には、その正極活物質が多く存在する隆起部の形成位置から負極側に移動するリチウムイオンを有効に拡散させることができない可能性がある。この点、上記構成によれば、その隆起部に隣接する凹部に対して十分に大きな径を確保することができる。そして、これにより、効果的に、その負極合材層の表面における局所的なリチウムの析出を抑制することができる。
【0010】
態様3は、前記凹部の深さを前記隆起部の高さで除した値が、5以上、17以下である態様1又は態様2に記載のリチウムイオン二次電池である。
即ち、充電時、正極から負極に移動するリチウムイオンについて、その隆起部の形成位置から隣接する凹部側に拡散することのできる容量は、この凹部の深さに依存する。このため、隆起部の高さに対して凹部の深さが十分な大きさを有していない場合には、その隆起部の形成位置から負極側に移動するリチウムイオンを、有効に拡散させることができない可能性がある。一方、凹部の深さが深くなることで、その正極合材層に含まれる正極活物質の量が減少する。つまりは、これにより電池性能が低下するおそれがある。この点、上記構成によれば、正極活物質量の減少による性能低下を抑えつつ、その隆起部に隣接する凹部について、十分な拡散容量を確保することができる。そして、これにより、効果的に、その負極合材層の表面における局所的なリチウムの析出を抑制することができる。
【0011】
態様4は、前記隆起部の高さが0.5μm以上、5μm以下である態様1~態様3の何れか一つに記載のリチウムイオン二次電池である。
即ち、隆起部の高さが低い場合には、十分な摩擦係数の増加が得られない可能性がある。一方、隆起部の高さが高い場合には、その正極合材層の厚みが増大することで、局所的なリチウムの析出が発生しやすくなる。この点、上記構成によれば、負極合材層の表面における局所的なリチウムの析出を抑制しつつ、正極合材層の表面について、効果的に、その摩擦係数を増加させることができる。そして、これにより、高い電池性能を確保しつつ、効果的に、セパレータの位置ズレを抑制することができる。
【0012】
態様5は、前記隆起部が前記凹部の全周に亘って延在する態様1~態様4の何れか一項に記載のリチウムイオン二次電池である。
上記構成によれば、これらの凹部及び隆起部が設けられた正極合材層の表面について、効果的に、その摩擦係数を増加させることができる。
【0013】
態様6は、前記電極体が捲回体としての構成を有する態様1~態様5の何れか一つに記載のリチウムイオン二次電池である。
即ち、セパレータを挟んで積層された正負の電極シートを捲回する際には、所謂巻きズレと呼ばれるセパレータの位置ズレが生じやすい。従って、このような構成に態様1~態様5の構成を適用することで、より顕著な効果を得ることができる。
【0014】
態様7は、セパレータを挟んで正負の電極シートが積層された電極体を備えるとともに、前記各電極シートは、集電体となる基材に電極合材層を積層してなるリチウムイオン二次電池の製造方法であって、前記基材に対して正極合材を塗工することにより前記基材に積層された正極合材層を形成する工程を備えるとともに、前記塗工前の前記正極合材に気泡を含ませる工程と、前記塗工後の前記正極合材に含まれた前記気泡の破裂により、前記正極合材層の表面に凹部を形成するとともに、前記凹部の周縁部において前記正極合材層の表面に突出する隆起部を形成する工程と、を備えるリチウムイオン二次電池の製造方法である。
【0015】
上記構成によれば、構成簡素且つ容易に、正極合材層の表面に対して、その周縁部に隆起部を有したクレータ状の凹部を形成することができる。更に、正極合材に含まれる気泡の数及び粒径は、その塗工前の正極合材に気泡を含ませる工程における各種の調整パラメータを最適化することにより制御することができる。そして、これにより、容易に、その気泡の破裂により正極合材層の表面に形成される凹部及び隆起部の形状を制御することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高い電池性能を確保しつつセパレータの位置ズレを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、二次電池の斜視図である。
図2図2は、電極体の分解図である。
図3図3は、二次電池の側面図である。
図4図4は、正極合材層の表面に設けられた周縁部に隆起部を有する凹部の断面図である。
図5図5は、正極合材層の表面に設けられた周縁部に隆起部を有する凹部の平面図である。
図6図6は、電極シートの製造工程及び正極合材層の表面に凹部及び隆起部を形成する方法のフローチャートである。
図7図7は、参考例の二次電池におけるリチウムイオンの移動を模式的に示す説明図である。
図8図8は、実施形態の二次電池におけるリチウムイオンの移動を模式的に示す説明図である。
図9図9は、正極合材層の表面に凹部及び隆起部を有した二次電池の試験結果を一覧に示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、二次電池に関する一実施形態を図面に従って説明する。
(リチウムイオン二次電池)
図1に示すように、二次電池1は、正極3、負極4、及びセパレータ5を一体化した電極体10と、この電極体10を収容するケース20と、を備えている。そして、本実施形態の二次電池1は、そのケース20内の電極体10に、図示しない非水性の電解液を含浸させたリチウムイオン二次電池としての構成を有している。
【0019】
詳述すると、本実施形態の二次電池1において、正極3、負極4、及びセパレータ5は、シート状の外形を有して積層される。そして、これら正極3、負極4、及びセパレータ5の積層体を捲回することにより、正極3と負極4との間にセパレータ5を挟み込む状態で、その径方向に正負の電極とセパレータ5とが交互に並ぶ電極体10が形成されている。
【0020】
また、本実施形態のケース20は、扁平略四角箱状のケース本体21と、このケース本体21の開口端21xを閉塞する蓋部材22と、を備えている。そして、本実施形態の電極体10は、このケース20の箱形状に対応する扁平した外形を有するものとなっている。
【0021】
(電極シート及び電極体)
さらに詳述すると、図2に示すように、本実施形態の二次電池1において、正極3及び負極4は、それぞれ、シート状の外形を有した集電体31と、この集電体31上に積層された電極合材層32と、を備えた電極シート35としての構成を有する。
【0022】
具体的には、正極3用の電極シート35Pについては、その正極集電体31Pを構成するアルミニウム等を素材とした基材36P上に、正極活物質となるリチウム遷移金属酸化物を含んだ合材ペースト37Pが塗工される。また、負極4用の電極シート35Nについては、その負極集電体31Nを構成する銅等を素材とした基材36N上に、負極活物質となる炭素系材料を含んだスラリー状の合材ペースト37Nが塗工される。更に、これらの合材ペースト37P,37Nには、それぞれ、結着材が含まれている。そして、本実施形態の二次電池1においては、これらの合材ペースト37P,37Nが乾燥することで、その正負の電極シート35P,35Nに対して、それぞれ、その対応する正極合材層32P及び負極合材層32Nが形成される構成となっている。
【0023】
更に、本実施形態の二次電池1において、これら正負の電極シート35P,35Nは、それぞれ、帯状に整形される。そして、本実施形態の電極体10は、セパレータ5を挟んで積層された正負の電極シート35P,35Nが、その帯形状の幅方向(図2中、左右方向)に延びる捲回軸10x周りに捲回された捲回体10Xとしての構成を有するものとなっている。
【0024】
尚、図2中においては、その正極3を構成する電極シート35Pを内側に捲き込むかたちで、セパレータ5及び各電極シート35が捲回されている。但し、この図は、電極体10の構造を示す一例であり、その負極4を構成する電極シート35Nを内側に捲き込むかたちで、これらのセパレータ5及び各電極シート35が捲回される場合もある。そして、これにより、その電極体10の最外殻に配置される電極シート35が、正極3を構成する電極シート35Pであるか、又は負極4を構成する電極シート35Nであるかが決定される。
【0025】
また、図1図3に示すように、ケース20の蓋部材22には、ケース20の外側に突出する正極端子38P及び負極端子38Nが設けられている。更に、各電極シート35には、それぞれ、その集電体31上に電極合材層32が形成されていない未塗工部39が形成されている。そして、本実施形態の二次電池1は、これらの未塗工部39を利用して、その正極3を構成する電極シート35Pと正極端子38Pとが電気的に接続されるとともに、負極4を構成する電極シート35Nと負極端子38Nとが電気的に接続される構成となっている。
【0026】
具体的には、本実施形態の電極体10は、その捲回軸10xが長尺略矩形板状をなす蓋部材22の長手方向(図1中、左右方向)に沿う状態で、ケース20内に収容される。更に、この状態で、その正極3を構成する電極シート35Pの未塗工部39Pと正極端子38Pとが接続部材40Pを介して接続される。そして、同じく、その負極4を構成する電極シート35Nの未塗工部39Nと負極端子38Nとが接続部材40Nを介して接続される構成となっている。
【0027】
更に、このケース20内には、電解液45が注入される。即ち、リチウムイオン二次電池としての構成を有する二次電池1の電解液45には、有機溶媒中に支持塩となるリチウム塩を溶解させたものが用いられる。そして、本実施形態の二次電池1は、これにより、そのケース20内に封缶された電極体10に対して電解液45が含浸される構成になっている。
【0028】
(正極合材層表面の凹凸構造)
図4及び図5に示すように、本実施形態の二次電池1において、正極3側の電極シート35Pを構成する正極合材層32Pの表面50には、所謂クレータ状に陥没した複数の凹部51が形成されている。具体的には、これらの各凹部51は、略円形の平面形状を有している。また、これらの各凹部51は、断面略半円をなす所謂すり鉢状の穴形状を有している。そして、本実施形態の二次電池1においては、例えば、1セルあたり5個以上の凹部51が、その正極合材層32Pの表面50に設けられている。
【0029】
更に、これら各凹部51の周縁部51eには、その正極合材層32Pの表面50に突出する隆起部52が形成されている。具体的には、これらの隆起部52は、各凹部51の全周に亘って延在する。そして、本実施形態の二次電池1は、これにより、正極合材層32Pの表面50の摩擦係数を高くすることで、その正負の電極シート35P,35Nの間に挟み込まれたセパレータ5の位置ズレを抑制する。詳しくは、これらのセパレータ5及び各電極シート35P,35Nを電極体10として捲回する際(図2参照)に生ずる所謂巻きズレを効果的に抑制することのできる構成になっている。
【0030】
詳述すると、凹部51の径R1は、例えば、15.0μm以下に設定することが好ましい。尚、この場合における「凹部51の径R1」は、略円形をなす平面形状の最大径、つまりは、その値が最大となる位置の直径である。また、この径R1を含む凹部51及び隆起部52の寸法は、例えば、電子顕微鏡等を用いて正極合材層32Pの断面を観察することにより測定することができる(以下、同様)。そして、本実施形態の二次電池1においては、例えば、2.0μm以上、12.0μm以下程度に、その凹部51の径R1が設定されている。
【0031】
また、本実施形態の二次電池1において、凹部51の径方向における隆起部52の断面幅Wは、その凹部51の径R1よりも小さな値を有している(R1>W)。更に、本実施形態の二次電池1においては、その隆起部52を有した周縁部51eの径R2が、例えば、3.0μm以上、13.0μm以下程度に設定されている。そして、本実施形態の二次電池1は、これにより、その隆起部52を有した周縁部51eの径R2を凹部51の径R1で除した値が、2.0以下となるように構成されている(R2/R1≦2.0)。
【0032】
即ち、凹部51の周縁部51eに隆起部52が存在することで、その隆起部52を有した周縁部51eの径R2を凹部51の径R1で除した値は、1.0より大きな値となる(1.0<R2/R1)。そして、これを考慮した場合、この「R2/R1」の値については、例えば、1.1以上とするとよい。
【0033】
更に、本実施形態の二次電池1において、凹部51の深さDは、隆起部52の高さHよりも大きな値を有している(D>H)。具体的には、本実施形態の二次電池1において、凹部51の深さDは、例えば、2.5μm以上、25μm以下程度に設定されている。また、その隆起部52の高さHは、0.5μm以上、5μm以下に設定されている。尚、この場合における「高さH」は、正極合材層32Pの表面50における平坦部分を基準とした隆起部52の「突出高さ」である。そして、本実施形態の二次電池1は、その凹部51の深さDを隆起部52の高さHで除した値が、5以上、17以下となるように構成されている(5≦(D/H)≦17)。
【0034】
(正極合材層表面の凹凸形成方法)
図6に示すように、本実施形態の二次電池1を構成する電極シート35の製造過程においては、先ず、その基材36上に塗工する電極合材としての合材ペースト37の混練が行われる(ステップ101)。本実施形態において、この混練工程は、合材ペースト37の原材料となる電極活物質、結着材、及び増粘材等を混練機の機内に投入することにより、その調合及び混練が行われる。また、この混練工程に続いて、その混練により合材ペースト37中に混入した気泡を除去するための脱泡工程が実行される(ステップ102)。更に、これにより脱泡された後の合材ペースト37が、その基材36上に塗工される(ステップ103)。そして、その後、この基材36上に塗工された合材ペースト37の乾燥工程が実行される(ステップ104)。
【0035】
本実施形態の二次電池1においては、この乾燥工程において、その正極3用の電極シート35Pを構成する正極合材層32Pの表面50上に、上記のような凹凸、つまりは、その周縁部51eに隆起部52を有したクレータ状の凹部51が形成される。
【0036】
詳述すると、本実施形態の二次電池1においては、正極3用の電極シート35Pを製造する際、上記ステップ102の脱泡工程において、その正極合材としての合材ペースト37Pに含まれた気泡を完全には除去しない。更に、これにより、この合材ペースト37Pに含まれた気泡が、上記ステップ104の乾燥工程で破裂する。そして、本実施形態の二次電池1は、これにより、正極合材層32Pの表面50に、その周縁部51eに隆起部52を有したクレータ状の凹部51が形成される構成となっている。
【0037】
さらに詳述すると、本実施形態の二次電池1においては、混練工程において、その正極合材としての合材ペースト37Pを撹拌することにより、この合材ペースト37P中に気泡が混入する。つまりは、この混練工程が、その塗工前の正極合材に気泡を含ませる工程となっている。そして、このとき、混練機内の真空度、及び合材ペースト37Pの粘度等を調整することで、その混練された合材ペースト37Pに含まれる気泡の数及び粒径が制御される。
【0038】
具体的には、例えば、混練機内の真空度が低い、つまりは大気中の環境に近いほど、より大きくの気泡が合材ペースト37P中に混入する。そして、合材ペースト37Pの粘度が高い、つまりは、その流動性が低いほど、より粒径の大きな気泡が合材ペースト37P中に含まれた状態となる。
【0039】
また、本実施形態の二次電池1においては、続く脱泡工程においても、その合材ペースト37P中に含まれる気泡の粒径制御が行われる。具体的には、このとき、その真空度が高いほど、粒径の大きな気泡が合材ペースト37P中に存在し難くなる。そして、本実施形態の二次電池1においては、その他、例えば、温度条件等、これら混練工程及び脱泡工程における各種の調整パラメータを最適化することで、その正極3用の合材ペースト37P中に含まれる気泡の数及び粒径が制御されている。
【0040】
即ち、正極合材層32Pの表面50に形成される凹部51及び隆起部52の数は、その基材36P上に塗工された合材ペースト37P中に含まれる気泡の数に応じた値となる。更に、これら凹部51及び隆起部52の形状、つまり凹部51の径R1及び深さD、隆起部52の断面幅W及び高さH、並びに、この隆起部52を有した周縁部51eの径R2は、その合材ペースト37P中に含まれる気泡の粒径に応じた値となる。そして、本実施形態の二次電池1は、これにより、その正極合材層32Pの表面50に形成される凹部51及び隆起部52の数、並びに形状が制御される構成となっている。
【0041】
(作用)
図7に示す参考例の二次電池1Bのように、正極合材層32Pの表面50に突出部55を設けるだけでも、その摩擦係数を増加させることができる。尚、説明の便宜上、正負の電極シート35P,35Nの間に挟み込まれたセパレータ5の図示は省略する。そして、これにより、そのセパレータ5の位置ズレを抑制することができる。
【0042】
しかしながら、このような突出部55を設けることで、平坦部分における正極合材層32Pの厚みdと比較した場合、この突出部55が存在する部分の厚みd´の方が厚くなる(d<d´)。つまりは、この部分に、より多くの正極活物質が存在することで、充電時、この突出部55の形成位置においては、より多くのリチウムイオンが正極3側から負極4側に移動することになる。そして、これにより、その図示しないセパレータ5を挟んで突出部55に対向する負極合材層32Nの表面60、詳しくは、その正極合材層32Pの表面50に設けられた突出部55に正対する位置に、局所的なリチウムの析出が生じやすくなる。
【0043】
この点、図8に示すように、本実施形態の二次電池1の場合、正極合材層32Pの表面50に設けられた凹部51の周縁部51eに隆起部52が存在する。つまりは、正極合材層32Pの厚みdが厚い隆起部52に隣接して、その厚みdが薄い凹部51が存在する(d1<d<d2)。更に、凹部51の径方向における隆起部52の断面幅Wは、その凹部51の径R1よりも小さい。このため、充電時、正極3から負極4に移動するリチウムイオンが、その正極活物質が多く存在する隆起部52に正対する位置から、隣接する凹部51側に拡散しやすい。そして、本実施形態の二次電池1においては、これにより、その負極合材層32Nの表面60における局所的なリチウムの析出が生じ難くなっている。
【0044】
次に、本実施形態の効果について説明する。
(1)リチウムイオン二次電池としての二次電池1は、セパレータ5を挟んで正負の電極シート35が積層された電極体10を備える。各電極シート35は、集電体31となる基材36に電極合材層32を積層することにより形成される。また、二次電池1は、正極3側の電極シート35Pを構成する正極合材層32Pの表面50に設けられた凹部51と、この凹部51の周縁部51eにおいて、その正極合材層32Pの表面50に突出する隆起部52と、を備える。そして、この二次電池1においては、その凹部51の径R1よりも、この凹部51の径方向における隆起部52の断面幅Wの方が小さくなっている。
【0045】
即ち、正極合材層32Pの表面50に隆起部52を形成することにより、その摩擦係数を増加させることができる。更に、上記構成によれば、充電時、正極3から負極4に移動するリチウムイオンを、そのリチウムイオンの移動量が多い隆起部52から、この隆起部52に隣接するリチウムイオンの移動量が少ない凹部51側に拡散させることができる。そして、これにより、その負極合材層32Nの表面60における局所的なリチウムの析出を抑制することができる。その結果、高い電池性能を確保しつつ、セパレータ5の位置ズレを抑制することができる。
【0046】
(2)二次電池1においては、その隆起部52を有した周縁部51eの径R2を凹部51の径R1で除した値(R2/R1)が2.0以下となっている。
即ち、隆起部52を有した周縁部51eの径R2に対して凹部51の径R1が十分な大きさを有しない場合には、その正極活物質が多く存在する隆起部52の形成位置から負極4側に移動するリチウムイオンを有効に拡散させることができない可能性がある。この点、上記構成によれば、その隆起部52に隣接する凹部51について、十分に大きな径R1を確保することができる。そして、これにより、効果的に、負極合材層32Nの表面60における局所的なリチウムの析出を抑制することができる。
【0047】
(3)二次電池1においては、その凹部51の深さDを隆起部52の高さHで除した値(D/H)が、5以上、17以下となっている。
即ち、充電時、正極3から負極4に移動するリチウムイオンについて、その隆起部52の形成位置から隣接する凹部51側に拡散することのできる容量は、この凹部51の深さDに依存する。このため、隆起部52の高さHに対して凹部51の深さDが十分な大きさを有していない場合には、その正極活物質が多く存在する隆起部52の形成位置から負極4側に移動するリチウムイオンを有効に拡散させることができない可能性がある。一方、凹部51の深さDが深くなることで、その正極合材層32Pに含まれる正極活物質の量が減少する。つまりは、これにより電池性能が低下するおそれがある。この点、上記構成によれば、正極活物質量の減少による性能低下を抑えつつ、その隆起部52に隣接する凹部51について、十分な拡散容量を確保することができる。そして、これにより、効果的に、その負極合材層32Nの表面60における局所的なリチウムの析出を抑制することができる。
【0048】
(4)二次電池1においては、その隆起部52の高さHが0.5μm以上、5μm以下となっている。
即ち、隆起部52の高さHが低い場合には、十分な摩擦係数の増加が得られない可能性がある。一方、隆起部52の高さHが高い場合には、その正極合材層32Pの厚みdが増大することで、局所的なリチウムの析出が発生しやすくなる。この点、上記構成によれば、負極合材層32Nの表面60における局所的なリチウムの析出を抑制しつつ、正極合材層32Pの表面50について、効果的に、その摩擦係数を増加させることができる。そして、これにより、高い電池性能を確保しつつ、効果的に、セパレータ5の位置ズレを抑制することができる。
【0049】
(5)二次電池1においては、その隆起部52が凹部51の全周に亘って延在する。
上記構成によれば、これらの凹部51及び隆起部52が設けられた正極合材層32Pの表面50について、効果的に、その摩擦係数を増加させることができる。
【0050】
(6)二次電池1は、その電極体10が捲回体10Xとしての構成を有する。
即ち、セパレータ5を挟んで積層された正負の電極シート35P,35Nを捲回する際には、所謂巻きズレと呼ばれるセパレータ5の位置ズレが生じやすい。従って、このような構成に上記(1)~(5)の構成を適用することで、より顕著な効果を得ることができる。
【0051】
(7)二次電池1の製造工程には、基材36Pに対して正極合材としての合材ペースト37Pを塗工することにより、その基材36Pに積層された正極合材層32Pを形成する工程が含まれる。また、二次電池1の製造工程には、その基材36Pに対する塗工前の合材ペースト37Pに気泡を含ませる工程が含まれる。更に、この合材ペースト37Pに含まれた気泡は、基材36Pに対する塗工後、その合材ペースト37Pの乾燥により破裂する。そして、二次電池1の製造工程には、この気泡の破裂により、その正極合材層32Pの表面50に凹部51を形成するとともに、この凹部51の周縁部51eにおいて正極合材層32Pの表面50に突出する隆起部52を形成する工程が含まれる。
【0052】
上記構成によれば、構成簡素且つ容易に、正極合材層32Pの表面50に対して、その周縁部51eに隆起部52を有したクレータ状の凹部51を形成することができる。更に、合材ペースト37Pに含まれる気泡の数及び粒径は、その塗工前の合材ペースト37Pに気泡を含ませる工程における各種の調整パラメータを最適化することにより制御することができる。そして、これにより、容易に、その気泡の破裂により正極合材層32Pの表面50に形成される凹部51及び隆起部52の形状を制御することができる。
【0053】
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0054】
・凹部51の径R1及び凹部51の径方向における隆起部52の断面幅Wは任意である。また、隆起部52を有した周縁部51eの径R2も任意である。但し、隆起部52の断面幅Wよりも凹部51の径R1が十分に大きいことが望ましい。そして、上記のように、隆起部52を有した周縁部51eの径R2を凹部51の径R1で除した値(R2/R1)が2.0以下であることが望ましい。
【0055】
・また、凹部51の深さD及び隆起部52の高さHもまた任意である。但し、その隆起部52の高さHが0.5μm以上、5μm以下であることが好ましい。更に、上記のように、その凹部51の深さDを隆起部52の高さHで除した値(D/H)が、5以上、17以下であることが望ましい。そして、その正極合材層32Pの表面50に形成される凹部51及び隆起部52の数についてもまた、任意に変更してもよい。
【0056】
・上記実施形態では、基材36Pに対して正極合材としての合材ペースト37Pを塗工した後、この合材ペースト37Pに含まれる気泡の破裂によって、その表面50に、周縁部51eに隆起部52を有したクレータ状の凹部51を形成することとした。しかし、これに限らず、その他の方法によって、このような周縁部51eに隆起部52を有した凹部51を形成する構成であってもよい。更に、その正極合材に気泡を含ませる工程、及び、この気泡を破裂させることにより凹部51及び隆起部52を形成する工程の態様についてもまた、任意に変更してもよい。そして、負極合材層32Nの表面60に凹凸を形成する場合について、上記実施形態の形成方法を用いてもよい。
【0057】
・上記実施形態では、隆起部52は、凹部51の全周に亘って延在することとしたが、周方向の一部が欠けていてもよい。
・上記実施形態では、電極体10は、捲回体10Xとしての構成を有することとしたが、必ずしも、そのセパレータ5を挟んで積層された正負の電極シート35P,35Nが捲回されていなくともよい。
【0058】
・正極端子38P及び負極端子38Nの端子形状については、図1中に示す形状に限らず任意に変更してもよい。そして、二次電池1の外形となるケース20の形状についてもまた、必ずしも扁平四角箱状に限らず、例えば円筒形状等、任意に変更してもよい。
【0059】
次に、上記実施形態及び変更例から把握できる技術的思想について記載する。
(イ)セパレータを挟んで積層された正負の電極シートを備えるとともに、前記各電極シートは、集電体となる基材に電極合材層を積層してなる電極体の製造方法であって、前記基材に対して電極合材を塗工することにより前記基材に積層された前記電極合材層を形成する工程を備えるとともに、前記塗工前の前記電極合材に気泡を含ませる工程と、前記塗工後の前記電極合材に含まれた前記気泡の破裂により、前記電極合材層の表面に凹部を形成するとともに、前記凹部の周縁部において前記電極合材層の表面に突出する隆起部を形成する工程と、を備える電極体の製造方法。
【実施例0060】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするための実施例等を記載する。但し、本発明がこれらの実施例に限定されるものではない。
図9は、正極合材層32Pの表面50に形成される凹部51及び隆起部52について、その凹部51の径R1及び隆起部52を有した周縁部51eの径R2、並びに凹部51の深さD及び隆起部52の高さHを変化させた場合の試験結果を一覧に示す表である。また、この評価試験においては、正極合材層32P上に積層配置されたセパレータ5の「位置ズレし難さ」を表す指標として、正極合材層32Pの表面50における「摩擦係数」を測定した。更に、この評価試験においては、二次電池1の充電時、負極合材層32Nの表面60における局所的な「リチウムの析出し難さ」を表す指標として、その表面60にリチウムが析出しない最大電流量(mA)を測定した。尚、リチウムの析出については、例えば、ESR(電子スピン共鳴装置)を用いて確認することができる。そして、これらの二つの指標の組み合わせによって、その「位置ズレし難さ」及び「リチウムの析出し難さ」を総合的に評価した。
【0061】
詳述すると、図9の表中、「比較例1」は、正極合材層32Pの表面50が凹凸を有しない平坦な場合であり、「比較例2」は、凹部51のみを有する場合である。また、「実施例1」~「実施例5」及び「比較例3」~「比較例5」は、何れも、正極合材層32Pの表面50に、その周縁部51eに隆起部52を有したクレータ状の凹部51を有している。そして、「実施例1」~「実施例5」は、何れも、上記実施形態に記載した「3つの好適範囲」を満たすものとなっている。
【0062】
即ち、「実施例1」~「実施例5」は、何れも、その隆起部52の高さHが、0.5μm以上、5μm以下の範囲内にある。具体的には、これらの「実施例1」~「実施例5」においては、「実施例4」の「0.5μm」が最小値であり、「実施例3」の「5.0μm」が最大値である。また、これらの「実施例1」~「実施例5」は、何れも、その凹部51の深さDを隆起部52の高さHで除した値(D/H)が、5以上、17以下の範囲内にある。具体的には、これらの「実施例1」~「実施例5」においては、「実施例3」の「5.0」が最小値であり、「実施例3」の「16.7」が最大値である。そして、これらの「実施例1」~「実施例5」は、何れも、その隆起部52を有した周縁部51eの径R2を凹部51の径R1で除した値(R2/R1)が、「実施例1」の「2.0」を最大値として、2.0以下の範囲内となっている。尚、「R2/R1」の最小値は、「実施例4」の「1.1」である。
【0063】
また、これらの「実施例1」~「実施例5」を「比較例1」及び「比較例2」と比較した場合、「実施例1」~「実施例5」は、何れも、その「摩擦係数」が「比較例1」及び「比較例2」よりも大きな値となっている。更に、これらの「実施例1」~「実施例5」は、何れも、その「リチウムが析出しない最大電流量」が「比較例1」及び「比較例2」と同等以上となっている。そして、これにより、その正極合材層32Pの表面50に形成される凹部51及び隆起部52に関する上記「3つの好適範囲」を満たすことで、高い電池性能を確保しつつセパレータ5の位置ズレを抑制可能であることを確認することができる。
【0064】
これに対し、「比較例3」は、その凹部51の深さDを隆起部52の高さHで除した値(D/H)が、その好適範囲よりも低い「1.9」、つまりは凹部51の深さDが浅い構成となっている。その結果、「リチウムが析出しない最大電流量」が「比較例1」及び「比較例2」よりも低い、つまりは、負極合材層32Nの表面60にリチウムが析出しやすい結果となっている。
【0065】
また、「比較例4」は、隆起部52を有した周縁部51eの径R2を凹部51の径R1で除した値(R2/R1)が、その好適範囲よりも大きな「3.6」、つまりは凹部51の径R1が小さい構成となっている。その結果、この場合もまた、「リチウムが析出しない最大電流量」が「比較例1」及び「比較例2」よりも低い、つまりは、負極合材層32Nの表面60にリチウムが析出しやすい結果となっている。
【0066】
更に、「比較例5」は、その凹部51及び隆起部52に関する上記「3つの好適範囲」から全てが逸脱した構成となっている。その結果、この「比較例5」は、その「摩擦係数」及び「リチウムが析出しない最大電流量」が、何れも「比較例1」及び「比較例2」よりも低い結果となっている。
【0067】
但し、「比較例4」は、隆起部52を有した周縁部51eの径R2を凹部51の径R1で除した値(R2/R1)が、その好適範囲から大きく逸脱した値となっている。また、「比較例3」及び「比較例5」は、それぞれ、凹部51の深さDを隆起部52の高さHで除した値(D/H)が、その好適範囲から大きく逸脱した値となっている。そして、「比較例5」は、隆起部52の高さHが、その好適範囲から大きく逸脱した値となっている。
【0068】
つまり、図8に示したリチウム析出の抑制モデルに従えば、上記「3つの好適範囲」からの逸脱程度が小さい場合、その隆起部52の断面幅Wよりも凹部51の径R1が大きいことで(R1>W)、一定程度、リチウム析出の抑制効果は得られるものと推察される。そして、「位置ズレし難さ」の評価指標である「摩擦係数」についてもまた、その隆起部52の高さHが僅かに好適範囲よりも僅かに小さい程度であれば、一定程度、その位置ズレを抑制することのできる値が得られるものと推察される。
【符号の説明】
【0069】
1…二次電池(リチウムイオン二次電池)
3…正極
4…負極
5…セパレータ
10…電極体
31…集電体
32…電極合材層
32P…正極合材層
35,35P,35N…電極シート
36…基材
50…表面
51…凹部
51e…周縁部
52…隆起部
R1…径
W…断面幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9