(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024164963
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】建設機械用旋回ブレーキ装置
(51)【国際特許分類】
E02F 9/12 20060101AFI20241121BHJP
【FI】
E02F9/12 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080716
(22)【出願日】2023-05-16
(71)【出願人】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【弁理士】
【氏名又は名称】飛田 高介
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 大介
(72)【発明者】
【氏名】野田 悠介
(72)【発明者】
【氏名】横田 貴也
(72)【発明者】
【氏名】林 新悟
(57)【要約】
【課題】簡略な構成でブレーキの遅延速度を精密に制御することができ、ブレーキの損傷を好適に防止することが可能な建設機械用旋回ブレーキ装置を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明にかかる建設機械用旋回ブレーキ装置(ブレーキ装置100)の構成は、建設機械の上部旋回体を旋回させる旋回モータ110と、旋回モータ110の回転を制止するブレーキ120と、ブレーキ120を動作させるブレーキ弁200と、ブレーキ弁200のスプリング室242のドレン回路180に配置された遅延回路170と、を備え、遅延回路170は、ブレーキ120を解除する方向の作動油の流れを許容するチェック弁172と、チェック弁172と並列に配置されブレーキ120を作動させる際に作動油が通過する絞り174と、を有することを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建設機械の上部旋回体を旋回させる旋回モータと、
前記旋回モータの回転を制止するブレーキと、
前記ブレーキを動作させるブレーキ弁と、
前記ブレーキ弁のスプリング室のドレン回路に配置された遅延回路と、
を備え、
前記遅延回路は、
前記ブレーキを解除する方向の作動油の流れを許容するチェック弁と、
前記チェック弁と並列に配置され前記ブレーキを作動させる際に作動油が通過する絞りと、
を有することを特徴とする建設機械用旋回ブレーキ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設機械の上部旋回体を旋回させる旋回モータと、旋回モータを制止するブレーキを含む建設機械用旋回ブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
土木や建設の作業現場において用いられる建設機械は、作業員が搭乗するキャビン等の上部旋回体を旋回させて作業を行う。上部旋回体は、旋回時には旋回モータによって駆動し、非旋回時にはブレーキによって旋回モータが制止される。例えば特許文献1には、旋回掘削機の旋回制御回路が開示されている。
【0003】
特許文献1の旋回制御回路は、「旋回操作弁より旋回制御弁へ供給されるパイロット圧を取出してブレーキ弁を切換えることにより、旋回モータに設けられた軸ブレーキをオンオフ制御するものにおいて、ブレーキ弁に、軸ブレーキの開放時「ブレーキシリンダ内の油を」徐々にドレンする遅延手段を設けてなる」ことを特徴としている。特許文献1によれば、慣性旋回すべく旋回操作弁を中立へ操作しても軸ブレーキが急激に作用しないようにできるため、軸ブレーキの焼き付きや早期の摩耗が改善されるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の旋回制御回路では、ブレーキ弁に自己保持回路が設けられている。そしてブレーキ弁の連通ポジションとドレンポジションとを切り替える(油路を切り替える)ことにより、軸ブレーキのブレーキシリンダの油が、ブレーキ弁の自己保持回路を経由してスローリターンバルブ(遅延手段)の絞りを経てドレンされる。しかしブレーキピストンのブレーキシリンダに供給される圧油は旋回駆動圧力と同一の高圧であり、且つ負荷により圧力が変動するため、特許文献1の構成であるとブレーキの遅延速度を精密に制御することが難しい。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑み、簡略な構成でブレーキの遅延速度を精密に制御することができ、ブレーキの損傷を好適に防止することが可能な建設機械用旋回ブレーキ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明にかかる建設機械用旋回ブレーキ装置の代表的な構成は、建設機械の上部旋回体を旋回させる旋回モータと、旋回モータの回転を制止するブレーキと、ブレーキを動作させるブレーキ弁と、ブレーキ弁のスプリング室のドレン回路に配置された遅延回路と、を備え、遅延回路は、ブレーキを解除する方向の作動油の流れを許容するチェック弁と、チェック弁と並列に配置されブレーキを作動させる際に作動油が通過する絞りと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、簡略な構成でブレーキの遅延速度を精密に制御することができ、ブレーキの損傷を好適に防止することが可能な建設機械用旋回ブレーキ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態にかかる建設機械用旋回ブレーキ装置を説明する図である。
【
図2】ブレーキ弁および遅延回路を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0011】
図1は、本実施形態にかかる建設機械用旋回ブレーキ装置(以下、ブレーキ装置100と称する)を説明する図である。
図1に示すように本実施形態のブレーキ装置100は、建設機械の上部旋回体(不図示)を旋回させる旋回モータ110と、旋回モータ110の回転を制止するブレーキ120とを備える。
【0012】
上部旋回体の旋回方向(左旋回または右旋回)は、操作レバー102を介して入力される。旋回方向が入力されると、その旋回方向に応じて双方向コントロールバルブ130内の出力ポート(油路)が切り替えられる。そして油圧タンク142の作動油が油圧ポンプ140によって旋回モータ110に送り出され、旋回モータ110によって上部旋回体が入力された旋回方向に旋回する。
【0013】
油圧ポンプ140と双方向コントロールバルブ130との間には、安全装置としてのリリーフバルブ144が設けられている。また双方向コントロールバルブ130と旋回モータ110との間にも、タンクからの作動油を吸入可能とするチェック弁112a、112bおよびリリーフバルブ114a、114bが設けられている。
【0014】
上述した旋回モータ110にはその回転を制止するブレーキ120が接続されていて、ブレーキ120はパイロットポンプ160の圧油をブレーキ弁200によって開閉することによって動作させられる。
【0015】
図2はブレーキ弁200および遅延回路170を説明する図であって、
図2(a)はON状態(励磁状態:開状態)、
図2(b)はOFF状態(非励磁状態:閉状態)を示している。
図2に示すブレーキ弁200は弁の開度に応じて油の流量を調整できる電磁比例弁であって、通常時には弁が閉じていて駆動時に開くノーマルクローズ型である。
【0016】
ブレーキ弁200は、ほぼ筒状のスリーブ210と、スリーブ210の内側に摺動可能に支持されたスプール220と、スプール220を駆動する電磁部230とを備える。電磁部230はスリーブ210の一端に取り付けられていて、コイル232と、プランジャ234と、プッシャ236とを有する。
【0017】
電磁部230は、コイル232が励磁されることで生じる吸引力によってプランジャ234を移動させ、プッシャ236を介しスプール220をスリーブ210の他端(図中右側)に向かって移動させる。
【0018】
スリーブ210は、作動油が供給される入力ポート212と、ブレーキ弁200が開の時に作動油を出力する出力ポート214と、フィードバックポート216と、ドレンポート218とを有する。フィードバックポート216は、図示のように出力ポート214から分岐して作動油の一部が戻される。
【0019】
スプール220の、電磁部230の反対側(図示右側)には、スプール220を電磁部230に向かって付勢するリターンスプリング240が備えられている。リターンスプリング240はアジャスタ250の内壁に当接した状態で、アジャスタ250内に収容されている。アジャスタ250はスリーブ210の端部と螺合していて、回転させることでリターンスプリング240の荷重(セット荷重)を調整することができる。
【0020】
ここで、リターンスプリング240が収容されている空間をスプリング室242と称する。スプリング室242は、詳細には、アジャスタ250の内面と、スプール220の端部(電磁部230の反対側)と、スリーブ210の端部によって囲まれた空間である。そしてスリーブ210には、スプリング室242と外部とを連通する排出ポート219が設けられている。
【0021】
本実施形態のブレーキ装置100の特徴として、ブレーキ弁200のスプリング室242とドレン182との間のドレン回路180に、遅延回路170が設けられている。遅延回路170は、ブレーキ120を解除する方向の作動油の流れを許容するチェック弁172と、チェック弁172と並列に配置されブレーキ120を作動させる際に作動油の流れを制限する絞り174とを含んで構成される。
【0022】
図2(a)に示すように、本実施形態のブレーキ装置100において、ブレーキ120の解除時(左右旋回時)は、操作レバー102からの電気信号がONとなる。これにより、ブレーキ弁200の電磁部230のコイル232が励磁されて、スプール220が弁を開く方向(図示右方向)へ移動する。
【0023】
このとき、ブレーキ弁200のスプリング室242の容積が減少するため、スプリング室242内の作動油は排出ポート219からドレン回路180に導かれ、遅延回路170のチェック弁172を通じて速やかにドレン182に排出される。
【0024】
図2(b)に示すように、ブレーキ120の作動時は、操作レバー102が中立位置となり、操作レバー102からの電気信号がOFFとなる。これにより、ブレーキ弁200の電磁部230のコイル232が非励磁となり、スプール220がリターンスプリング240に押されて弁を閉じる方向(図示左方向)に戻ろうとする。
【0025】
するとブレーキ弁200のスプリング室242の容積が増大するため、ドレン182の作動油を吸い込もうとする。このとき作動油は遅延回路170において、チェック弁172を通過できないため、それと並列に配置された絞り174を通過してスプリング室242に徐々に流入する。したがってスプール220は急峻に戻ることができず緩やかに移動する。ブレーキ120のシリンダー内の作動油は出力ポート214からドレンポート218へと流れるが、スプール220の動きが緩慢であるために、ブレーキ120も遅れて作動する。結果的に、操作レバー102の操作に対して遅延してブレーキ120が作動する。
【0026】
上記説明したように本実施形態のブレーキ装置100では、ブレーキ弁200のスプリング室242に流入する作動油の経路に絞り174を配置している。上述した特許文献1の構成では、ブレーキピストンのブレーキシリンダの作動油を排出する経路に絞りを配置していた。
【0027】
ブレーキ弁200のスプリング室242に流入する作動油は、ドレン182に連通しているため、特許文献1に記載の構成のようにブレーキシリンダから排出される作動油よりも格段に低圧かつ圧力が変動しないため、流量の制御が安定する。したがって本実施形態のブレーキ装置100によれば、チェック弁172および絞り174からなる簡略な構成の遅延回路170によってブレーキ120の遅延速度を精密に制御することができ、ブレーキ120の摩耗や損傷を好適に防止することが可能となる。
【0028】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は斯かる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、建設機械の上部旋回体を旋回させる旋回モータと、旋回モータを制止するブレーキを含む建設機械用旋回ブレーキ装置として利用することができる。
【符号の説明】
【0030】
100…ブレーキ装置、102…操作レバー、110…旋回モータ、112a…チェック弁、112b…チェック弁、114a…リリーフバルブ、114b…リリーフバルブ、120…ブレーキ、130…双方向コントロールバルブ、140…油圧ポンプ、142…油圧タンク、160…パイロットポンプ、170…遅延回路、172…チェック弁、174…絞り、180…ドレン回路、182…ドレン、200…ブレーキ弁、210…スリーブ、212…入力ポート、214…出力ポート、216…フィードバックポート、218…ドレンポート、219…排出ポート、220…スプール、230…電磁部、232…コイル、234…プランジャ、236…プッシャ、240…リターンスプリング、242…スプリング室、250…アジャスタ