(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024164966
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】太陽電池及びそれに用いる光学素子を備えるバリア構造体
(51)【国際特許分類】
H10K 30/50 20230101AFI20241121BHJP
H10K 30/40 20230101ALI20241121BHJP
H10K 30/88 20230101ALI20241121BHJP
H10K 30/87 20230101ALI20241121BHJP
【FI】
H10K30/50
H10K30/40
H10K30/88
H10K30/87
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080720
(22)【出願日】2023-05-16
(71)【出願人】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】平田 浩二
(72)【発明者】
【氏名】宮田 照久
(72)【発明者】
【氏名】酒井 貴広
【テーマコード(参考)】
5F251
【Fターム(参考)】
5F251AA11
5F251BA15
5F251CB13
5F251CB15
5F251CB24
5F251EA17
5F251EA18
5F251FA02
5F251FA03
5F251FA04
5F251FA06
5F251GA02
5F251GA03
5F251GA05
5F251HA07
5F251HA20
5F251JA22
5F251XA01
5F251XA32
5F251XA51
(57)【要約】
【課題】光電変換効率が高く設置性が良く信頼性の高い太陽電池を製造すること。また太陽電池を構成するバリア部材に、水分や空気の侵入を遮断した信頼性の高い太陽電池を提供することにある。
【解決手段】本発明の太陽電池は高効率で、印刷工程で安価な太陽電池が実現できる有機無機ペロブスカイト型太陽電池の課題である水分・空気のバリア性が高いガラス同等のバリア層を有しその表面に超微細または微細光学素子を設け反射防止と集光作用を備え光電変換層(光吸収層)平面内に光の疎密を作ることで一層の高効率化を実現する。
【選択図】
図21
【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽光を受けて起電する太陽電池で基材上に、少なくとも光電変換層(光吸収層)と透明電極とを有する太陽電池であって、
前記光電変換層は、有機無機ペロブスカイト化合物を含み、
更に、前記透明電極全体を覆って封止する無機バリア層と、前記透明電極上の前記バリア層の少なくとも太陽光入射面に正の屈折力を有する微細光学素子を備えることを特徴とする太陽電池。
【請求項2】
前記微細光学素子の正の屈折力により集光された太陽光束の焦点が、前記光電変換層内としたことを特徴とする請求項1記載の太陽電池。
【請求項3】
前記微細光学素子の正の屈折力により集光された太陽光束の焦点が、前記光電変換層内となるように微細光学素子の太陽光入射面形状を設計したことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の太陽電池。
【請求項4】
太陽光を受けて起電する太陽電池で基材上に、少なくとも光電変換層(光吸収層)と透明電極とを有する太陽電池であって、
前記光電変換層は、有機無機ペロブスカイト化合物を含み、
更に、前記透明電極全体を覆って封止するバリア層を有し、太陽光が前記光電変換層に入射する際に前記光電変換層の平面内において疎密な光エネルギー分布を有することを特徴とする太陽電池。
【請求項5】
太陽光を受けて起電する太陽電池で基材上に、少なくとも光電変換層(光吸収層)と透明電極とを有する太陽電池であって、
前記光電変換層は、有機無機ペロブスカイト化合物を含み、
更に、前記透明電極全体を覆って封止するバリア層を有し、前記透明電極上のバリア層の少なくとも太陽光入射面に正の屈折力を有する微細光学素子を備え、太陽光が前記光電変換層に入射する際に前記光電変換層の平面内において、疎密な光エネルギー分布を有することを特徴とする請求項4に記載の太陽電池。
【請求項6】
太陽光を受けて起電する太陽電池で基材上に、少なくとも2層以上の光電変換層(光吸収層)と透明電極とを有する太陽電池であって、
前記光電変換層は、有機無機ペロブスカイト化合物を含み、
太陽光の波長に応じて可視光領域の光に対して光電変換効率が高い第一の光電変換層と、近赤外光より波長が長い太陽光に対して光電変換効率が高い第二の光電変換層を備え、
前記透明電極全体を覆って封止するバリア層を有し、
前記バリア層の少なくとも太陽光入射面に正の屈折力を有する微細光学素子を備え、
前記第一の光電変換層は、太陽光の可視光領域の光に対する焦点P1が内在し、
前記第二の光電変換層は近赤外光より波長が長い波長の太陽光に対する焦点P3が内在することを特徴とする太陽電池。
【請求項7】
前記バリア層の少なくとも太陽光入射面に正の屈折力を有する微細光学素子を備え、
太陽光の波長に応じて可視光領域の光に対して光電変換効率が高い第一の光電変換層と、近赤外光より波長が長い太陽光に対して光電変換効率が高い第二の光電変換層を備え、
前記透明電極全体を覆って封止するバリア層を有し、
前記バリア層の少なくとも太陽光入射面に正の屈折力を有する微細光学素子を備え、
前記第一の光電変換層は太陽光の可視光領域の光に対する焦点P1が内在し、
前記第二の光電変換層は近赤外光より波長が長い波長の太陽光に対する焦点P3が内在し、
前記それぞれの光電変換層において入射する太陽光が前記光電変換層に入射する際に疎密な光エネルギー分布を有することを特徴とする請求項6に記載の太陽電池。
【請求項8】
太陽光を受けて起電する太陽電池で基材上に、少なくとも前記光電変換層(光吸収層)と前記透明電極とを有する太陽電池であって、
前記光電変換層は、有機無機ペロブスカイト化合物を含み、
更に、前記透明電極全体を覆って封止する前記バリア層として無機バリア層を備え、前記透明電極上の前記バリア層の少なくとも太陽光入射面にモスアイ構造を有する微細光学素子を備えることを特徴とする請求項6に記載の太陽電池。
【請求項9】
前記透明電極上には引出し配線を備え、前記引出し配線の全体を覆って封止する前記無機バリア層と、
前記透明電極上の前記無機バリア層の外側に配置された取出し電極とを有することを特徴とする請求項8に記載の太陽電池。
【請求項10】
前記透明電極の上部に前記光電変換層の側面を取り囲むようにして前記透明電極の下に配置された、絶縁層からなる外枠を有することを特徴とする請求項8記載の太陽電池。
【請求項11】
前記透明電極と前記バリア層との間に配置された平坦化層を有することを特徴とする請求項6乃至請求項10のいずれか一項に記載の太陽電池。
【請求項12】
前記有機無機ペロブスカイト化合物は、一般式R-M-X3(但し、Rは有機分子、Mは金属原子、Xはハロゲン原子又はカルコゲン原子である。)で表されることを特徴とする請求項6乃至10のいずれか一項に記載の太陽電池。
【請求項13】
太陽光を受けて起電する太陽電池の構成部材を保護する前記バリア層に用いる無機バリア層又は無機バリア膜で基材上に、少なくとも前記光電変換層(光吸収層)と前記透明電極とを有し、
前記光電変換層が有機無機ペロブスカイト化合物を含む太陽電池に用いる無機バリア層又は無機バリア膜であって、
前記バリア層の少なくとも太陽光入射面にモスアイ構造を有する微細光学素子を備えることを特徴とする請求項6乃至請求項10のいずれか一項に記載のバリア層に用いる無機バリア層又は無機バリア膜。
【請求項14】
前記バリア層に用いる前記無機バリア層又は無機バリア膜は、窒化珪素を含むことを特徴とする請求項13に記載のバリア層に用いる無機バリア層又は無機バリア膜。
【請求項15】
前記無機バリア層又は無機バリア膜はプレカーサーとしてポリシラザンを基材上に塗布し、真空紫外線を照射することで硬化させる工程により形成されることを特徴とする請求項13又は14に記載の無機バリア層又は無機バリア膜の形成方法。
【請求項16】
太陽光を受けて起電する太陽電池の構成部材を保護するバリア層又は無機バリア膜で、前記バリア層又はバリア膜はプレカーサーをRoll to Rollで基板上に印刷する工程において、
Roll表面に設けた微細光学素子形状を前記ポリシラザン表面に賦形し、波長200nm以下の真空紫外線を照射することで硬化させる工程により形成されることを特徴とする請求項13又は請求項14に記載の無機バリア層又は無機バリア膜の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池特にペロブスカイト太陽電池を構成する部材に対して水分や気体に対するバリア性能が高く表面形状を賦形することで光学的な作用を有し光電変換効率が高い及び太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、太陽電池として、対向する電極間にN型半導体層とP型半導体層とを配置した積層体が盛んに開発されており、上記N型、P型半導体として主にシリコン等の無機半導体が用いられている。しかしながら、このような無機太陽電池は、真空プロセスが必要で大型化が困難であるばかりか大規模な設備が必要で材料コストがかかるため、利用範囲が限られてしまうという問題があった。そこで、近年、中心金属に鉛、スズ等を用いたペロブスカイト構造を有する有機無機ペロブスカイト化合物を光電変換層に用いた、ペロブスカイト太陽電池が注目されている。ペロブスカイト太陽電池は高い光電変換効率が期待できるうえに、印刷法によって製造できることから製造コストを大幅に削減することができる。一方、耐水性に課題があり対応技術手段の開発が急がれていた(例えば、特許文献1)。
【0003】
このペロブスカイト型結晶構造は
図1に示すように体心に金属原子M、各頂点に有機分子R、面心にハロゲン原子又はカルコゲン原子Xが配置された立方晶系構造の模式図である。
【0004】
上述したように、ペロブスカイト型化合物を用いた太陽電池(以下、「ペロブスカイト太陽電池」と呼ぶ)は、低コストかつ高効率な次世代太陽電池の候補の1つであり、その研究・開発が世界中で進められている。
【0005】
上記した太陽電池の光電変換層には、
図1で示した一般式R-M-X
3(但し、Rは有機分子、Mは金属原子、Xはハロゲン原子又はカルコゲン原子である。)で表される有機無機ペロブスカイト化合物を含むことが好ましい。上記光電変換層に上記有機無機ペロブスカイト化合物を用いることにより、フレキシブル太陽電池の光電変換効率を向上させることができる。
【0006】
こうした中、光電変換効率を更に高めるためにタンデム型太陽電池が開発された。タンデム型(多接合)太陽電池は、異なる吸収波長の太陽電池を積層させることであり、光の 波長を効率的に活用することが可能となるため、光電変換効率を更に上げることができる。
【0007】
例えば、太陽光が入射する第一層にペロブスカイト太陽電池を設け、基板側の第二層にシリコン系太陽電池を用いたタンデムの場合は、ペロブスカイト太陽電池においてはバンドギャップの最適化、VOC(開放電圧)ロスを低減できるセルの高効率化、高信頼性化(シリコン系太陽電池と同等程度)が重要であり、他方シリコン系太陽電池では、ペロブスカイト材料を均質に成膜するための表面形状の制御、界面制御技術が重要でこれらについては多くの研究が重ねられてきた(例えば特許文献2)。
【0008】
一方、近年、ポリイミド、ポリエステル系の耐熱高分子材料や金属箔を基材とするフレキシブルな太陽電池が注目されるようになってきている。フレキシブル太陽電池は、薄型化や軽量化による運搬、施工の容易さや、衝撃に強い等の利点があり、例えば、フレキシブル基材上に、光が照射されると電流を生じる機能を有する光電変換層等の複数の層を薄膜状に積層することにより製造される。更に、必要に応じてフレキシブル太陽電池の上下面を、太陽電池封止シートを積層して封止する。例えば、特許文献3には、シート状のアルミニウム基材を含む半導体装置用基板、及び、この半導体装置用基板を含む有機薄膜太陽電池が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2018-163938号公報
【特許文献2】特開2022-183700号公報
【特許文献3】特開2013-253317号公報
【非特許文献1】「JST研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)(2)~機能材料~新技術説明会」2022年11月18日開催にて発表された資料)「印刷で作成できるガラス並みのウルトラ・ハイバリア」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ペロブスカイト太陽電池は近年構成物、素子構造の進化によって大幅な特性改善が実現され、初期の光電変換効率が20%を超え単結晶シリコンの太陽電池に迫りつつある。
またバリアシートの採用などで水分や空気を充分に遮蔽して信頼性を高める開発もなされている。しかしながら、光電変換効率を向上するために光学的な知見を基に太陽光束を光吸収層に伝搬させる具体的な素子構成や配置に関しての検討はなされていなかった。
【0011】
本発明の目的は、太陽電池を構成するバリア部材に極微細な光学素子を設けることで光吸収層での光電変換効率が高く水分や空気の侵入を遮断した信頼性の高い太陽電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、例えば特許請求の範囲に記載の構成を採用する。本願は上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例としての太陽電池(セル)の基本構成は
図3に示すように太陽光を吸収し起電する光吸収層102の両側に透明電極を設けた構成とし、光電変換層(光吸収層)102と、透明電極のうちの陽極となる側との間に、正孔(ホール)輸送層106を有する。光電変換層(光吸収層)102の他方の側には電子輸送層105を設けることで正孔と電子の電極への伝搬をより効率よく行うことができる。
【0013】
以上述べた基本構成の太陽電池(セル)の外表部には空気や水分が光吸収層に侵入しないように、例えば、
図4に示したようにバリア層110を設ける。上述した正孔輸送層と電子輸送層を設けない構成の太陽電池(セル)においてもバリア層110を設けることで同様の効果が得られることは言うまでもない。
【発明の効果】
【0014】
本発明で開示された太陽電池(セル)によれば、基本構成の外表部を覆うバリア層により空気や水分を遮蔽し、バリア層の表面に設けた極微細形状の光学素子の作用によって光電変換効率を大幅に向上できる。
上記以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
なお、以下に説明する太陽電池を構成する素材や素材が成す特定の機能を有する複数の層の厚さや製造法について本願と直接関連しない部分についての記載内容は、本願執筆時に公知となった先行出願された特許から抜粋し本願発明がより明確になるように工夫して記載した。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】有機無機ペロブスカイト化合物の結晶構造の一例を示す模式図である。
【
図2】ペロブスカイト型太陽電池の基本構造を模式的に示す断面図である。
【
図3】透明電極上に引出し配線が設けられたペロブスカイト型太陽電池の基本構造を示す断面図である。
【
図4】本発明の一実施例に係る引出し配線の端部(取出し部)がバリア層に覆われた太陽電池を模式的に示す断面図である。
【
図5】本発明の一実施例に係る太陽電池のユニットの引出し配線の端部(取出し部)がバリア層に覆われた太陽電池構造を模式的に示す上面図と断面図である。
【
図6】本発明の別の一実施例に係る太陽電池のユニットの引出し配線の端部(取出し部)がバリア層に覆われた太陽電池構造を模式的に示す上面図と断面図である。
【
図7】本発明の太陽電池における、引出し配線の端部(「端部接続型」)の一例を模式 的に示す上面図である。
【
図8】本発明の太陽電池における、引出し配線の端部(「T字型」)の一例を模式的に 示す上面図である。
【
図9】本発明の太陽電池における、引出し配線の端部の一例を模式的に示す上面図である。
【
図10】本発明の一実施例に係るバリアシート又はバリア層表面に設けたナノ光学素子の形状と素子の高さ方向の屈折率分布を模式的に示した断面図と特性図である。
【
図11】本発明の一実施例に係るバリア層表面に設けたナノ光学素子の撥水性を示す断面図である。
【
図12】本発明のバリア層を形成するために照射するVUV光の照射エネルギー量とバリア層屈折率の厚さ方向の分布を示す特性図である。
【
図13】本発明のバリア層を形成するために照射するVUV光の照射時間とバリア層の平均屈折率と厚さの変化を示す特性図である
【
図14】太陽光の分光エネルギー分布を示す特性図である。
【
図15】太陽光に対する光吸収層の感度特性を模式的に示す特性図である。
【
図16】本発明の一実施例に係るバリアシート又はバリア層表面に設けた第一の実施例である微細光学素子の形状と作用を示す模式図である。
【
図17】本発明の一実施例に係るバリアシート又はバリア層表面に設けた第二の実施例である微細光学素子の形状と作用を示す模式図である。
【
図18】本発明の一実施例に係るバリアシート又はバリア層表面に設けた第一の実施例であるミクロ光学素子(モスアイ)のにより得られる入射光の分光反射率を示す特性図である。
【
図19】本発明の一実施例に係るバリアシート又はバリア層表面に設けた第一の実施例であるミクロ光学素子(モスアイ)のにより得られる光線入射角に対する反射率を示す特性図である。
【
図20】本発明の一実施例に係るバリアシート又はバリア層表面に設けた第三の実施例である微細光学素子の外観形状を示す模式図である。
【
図21】本発明の一実施例に係るバリアシート又はバリア層表面に設けた第三の実施例である微細光学素子の形状と作用を説明する模式図である。
【
図22】本発明の一実施例に係るバリアシート又はバリア層表面に設けた第三の実施例である微細光学素子の構成と作用を示す模式図である。
【
図23】本発明の一実施例に係るバリアシート又はバリア層表面に設けた第三の実施例である微細光学素子の集光作用を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態(以下、「本開示」ともいう)の内容に限定されるものではない。本発明は、発明の精神ないし特許請求の範囲に記載された技術的思想の範囲またはその均等範囲物にも及ぶ。また、以下に説明する実施形態(実施例)の構成は、あくまで例示に過ぎないのであって、本明細書に開示される技術的思想の範囲において、当業者による様々な変更および修正が可能である。
【0017】
また、本発明を説明するための図面において、同一または類似の機能を有するものには、同一の符号を付与し、適宜、異なる名称を使用する一方で、機能等の繰り返しの説明を省略する場合がある。なお、以下の実施形態の説明において、太陽光により光電変換する素子を「太陽電池」という用語で表現している。この用語の代わりに、「ペロブスカイト太陽電池」、「色素増感型太陽電池」、「半導体太陽電池」などと表現してもかまわない。実施形態の説明で主として用いる「太陽電池」の用語は、これらの用語の代表例として用いている。以下本願発明の太陽電池について説明するにあたって、前段では、現在広く研究開発されている一般的な構造について説明し、後段では本願発明の太陽電池を構成するバリア部材に極微細な光学素子を設けることで光吸収層での光電変換効率を高め水分や空気の侵入を遮断した信頼性の高い太陽電池について説明する。
【0018】
<ペロブスカイト型太陽電池の基本構成>
ペロブスカイト型太陽電池の基本構造は、
図2に示すように基材101上に少なくとも光電変換層(光吸収層とも表記する)102とその両側に電極104、103を備えている。太陽光が入射する側に設けた電極は透明度が高い部材を使用することで高い光電変換効率を得る。光電変換層(光吸収層)102が有機無機ペロブスカイト化合物を含む太陽電池の光電変換効率を向上させる技術手段について、材料や層間の伝導度や密着性を高める材料の検討は先行メーカで鋭意進められてきたが、生産性を向上のために太陽電池の大型化や大面積化の検討を進めている。しかしながら、太陽電池の大面積化に伴ない空気や水分のバリア性の確保及び抵抗(電気抵抗)の高い透明電極の面積も大きくなり、充分な光電変換効率が得られないという新たな問題が浮上した。
【0019】
上述した電気抵抗を低減するために
図3に示す太陽電池100では透明電極104上に、例えば銀ペースト等を用いて形成される線状(複数本の線状)、格子状、網目状等の引出し配線107を設けている。この結果、透明電極104が大面積化しても抵抗値が小さいため素子内部損失が低減され結果として高い光電変換効率が得られる。一方、有機無機ペロブスカイト化合物は水分に非常に弱いため、光電変換層(光吸収層)102が有機無機ペロブスカイト化合物を含む太陽電池では、他の太陽電池(例えば、多結晶シリコン太陽電池であるCIGS太陽電池等)と比べて大気中の水分の浸入による光電変換層(光吸収層)102の劣化が問題となるためこの対策技術として
図4に示した後述する本願発明が生まれた。
【0020】
〈バリア構造〉
上述したように引出し配線部分も水分が透過しやすいことから、大気中の水分の浸入を抑制するためには、例えば、
図4に示すように、太陽電池200において、引出し配線107を遮蔽材で覆って封止するバリア層110を設ける。
【0021】
さらに太陽電池のセル(ユニット)として引出し配線は、電流の取出しのためにその端部(取出し部)のみはバリア層に覆われず露出している必要がある。そのため、例えば、
図5に示すように、引出し配線5の端部(取出し部)5´のみはバリア層に覆われず露出される。本願発明の太陽電池の一例について、模式的にその上面図(
図5(A))及び断面図(
図5(B))を示す。
図5に示した太陽電池セル(ユニット)20においては、基材1上に、光電変換層(光吸収層)3と透明電極4とが設けられており、透明電極4上に引出し配線5を設け、引出し配線5を覆って封止する第一バリア層7を設ける。ただし、引出し配線5の端部(取出し部)5´は、第一バリア層7に覆われず露出している。このため太陽電池セル20全体を第二バリア層10で覆って空気や水分の遮断性能を向上させることが好ましい。なお、上記引出し配線5の端部とは、上記引出し配線の電流の取り出しのための取出し電極に近い側の端部を意味する。
図5では、上記引出し配線5の端部5´が上記取出し電極としての機能を兼ねている。
【0022】
さらに引出し配線と電流の取出し部(取出し電極)とを分離した構造とし、引出し配線の全体を覆って封止する第二バリア層を設けることで端子部分と太陽電池セル(ユニット)20を分離して遮断性能をさらに向上させた。即ち、例えば、
図6(
図6(A):上面図、
図6(B):断面図)に示すように、引出し配線5の全体を覆って封止する第二バリア層10を設けるとともに、バリア層の外側に別途取出し電極8を設けることにより、引出し配線からの大気中の空気や水分の浸入を抑制する構成を見出し、本願発明の第一の課題を解決した。
図6では、上記引出し配線5と上記取出し電極8とは直接には繋がっていない。
【0023】
本発明の太陽電池は、基材上に、少なくとも光電変換層(光吸収層)と透明電極とを有する。なお、本明細書中、「層」とは、明確な境界を有する層だけではなく、含有元素が徐々に変化する濃度勾配のある層をも意味する。なお、層の元素分析は、例えば、太陽電池断面のFE-TEM/EDS線分析測定を行い、特定元素の元素分布を確認する等によって行うことができる。また、本明細書中に記載した「層」とは、平坦な薄膜状の層だけではなく、他の層と一緒になって複雑に入り組んだ構造を形成しうる層をも意味する。
【0024】
〈基材〉
上記基材は特に限定されないが、フレキシブル基材が好ましく、例えば、ポリイミド、ポリエステル系の耐熱性高分子や金属箔を有する基材が挙げられる。なかでも、ポリエチレンナフタレートフィルムや金属箔を有する基材が好ましい。特に上記金属箔を用いることにより、耐熱性高分子を用いる場合と比べてコストを抑えられるとともに、高温処理を行うことができる。即ち、有機無機ペロブスカイト化合物を含む光電変換層形成時において耐光性(光劣化に対する耐性)を付与する目的で80(℃)以上の温度で熱アニール(加熱処理)を行っても、歪みの発生を最小限に抑えて、高い光電変換効率を得ることができる。
【0025】
上述した金属箔は特に限定されず、例えば、アルミニウム、チタン、銅、金等の金属や、ステンレス鋼(SUS)等の合金からなる金属箔が挙げられる。これらは単独で用いられても良く、2種以上を併用してもよい。上述した基板の候補としてはアルミニウム箔が好ましい。上記アルミニウム箔を用いることにより、他の金属箔を用いる場合と比べてもコストを抑えるとともに、柔軟性があることから作業性を向上できる。
【0026】
上記基材は、上記金属箔のみからなるものであってもよい。この場合、上記金属箔は、電極としての役割も果たしてもよい。また、上記基材は、更に、上記金属箔上に形成された絶縁層を有していてもよい。この場合、本発明の太陽電池は、更に、上記絶縁層上に形成された電極を有することが好ましい 。
【0027】
上記絶縁層は特に限定されず、例えば、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化亜鉛等からなる無機絶縁層、エポキシ樹脂、ポリイミド等からなる有機絶縁層が挙げられる。なかでも、上記金属箔がアルミニウム箔である場合には、上記絶縁層が酸化アルミニウム被膜であることが好ましい。上記絶縁層として上記酸化アルミニウム被膜を用いることにより、有機絶縁層の場合と比べて、大気中の水分が絶縁層を透過して有機無機ペロブスカイト化合物を含む光電変換層を劣化させることを抑制することができる。
【0028】
また、上記絶縁層として上記酸化アルミニウム被膜を用いることにより、上記アルミニウム箔と接することで時間の経過とともに有機無機ペロブスカイト化合物を含む光電変換層(光吸収層)に変色が生じ、腐食が起きるという現象を抑制することができることはすでに公知である。なお、一般的な他の太陽電池では光電変換層がアルミニウムと反応して変色が生じること等は報告されておらず、上記のような腐食が起きるという現象は、光電変換層が有機無機ペロブスカイト化合物を含むペロブスカイト太陽電池に特有の問題として先出願された公報に記載されている。
【0029】
上述した公報によれば酸化アルミニウム被膜の厚みは特に限定されないが、好ましい下限が0.1(μm)、好ましい上限が20(μm)であり、より好ましい下限が0.5(μm)、より好ましい上限が10(μm)である。上記酸化アルミニウム被膜の厚みが0.1(μm)以上であれば、上記酸化アルミニウム被膜が上記アルミニウム箔の表面を充分に覆うことができ、上記アルミニウム箔と電極との間の絶縁性が安定する。さらに、酸化アルミニウム被膜の厚みが20(μm)以下であれば、上記基材を湾曲させても上記酸化アルミニウム被膜にクラックが生じにくい。上記酸化アルミニウム被膜の厚みは、例えば、上記基材の断面を電子顕微鏡(例えば、S-4800、HITACHI社製等)で観察し、得られた写真のコントラストを解析することにより測定することができる。
【0030】
上記酸化アルミニウム被膜と上記基材の厚みの比率は特に限定されないが、上記基材の厚み100(%)に対する上記酸化アルミニウム被膜の厚みの比率の好ましい下限が0.1(%)、好ましい上限が15(%)である。上記比率が0.1(%)以上であれば、上記酸化アルミニウム被膜の硬度が上がり、上記電極をパターニングする際に上記酸化アルミニウム被膜の剥離を抑制しつつパターニングを良好に行うことができ、絶縁不良及び導通不良の発生を抑制することができる。上記比率が15%以下であれば、有機無機ペロブスカイト化合物を含む光電変換層形成時に加熱処理を行う際に、上記アルミニウム箔との熱膨張係数の差によって上記酸化アルミニウム被膜及び/又はその上に形成された上記電極にクラックが生じることを抑制することができる。これにより、太陽電池の抵抗値が上昇してしまったり、上記アルミニウム箔が露出して有機無機ペロブスカイト化合物を含む光電変換層に腐食が起きたりすることを抑制することができる。
【0031】
上記酸化アルミニウム被膜を製膜する方法は特に限定されず、例えば、上記アルミニウム箔に陽極酸化を施す方法、上記アルミニウム箔の表面にアルミニウムのアルコキシド等を塗布する方法、上記アルミニウム箔の表面に熱処理による自然酸化被膜を形成する方法等が挙げられる。なかでも、上記アルミニウム箔の表面全体を均一に酸化させることができることから、上記アルミニウム箔に陽極酸化を施す方法が好ましい。即ち、上記酸化アルミニウム被膜は、陽極酸化被膜であることが好ましい。上記アルミニウム箔に陽極酸化を施す場合には、陽極酸化における処理濃度、処理温度、電流密度、処理時間等を変更することにより、上記酸化アルミニウム被膜の厚みを調整することができる。
【0032】
上記基材の厚みは特に限定されないが、好ましい下限が5(μm)、好ましい上限が500(μm)である。上記基材の厚みが5(μm)以上であれば、充分な機械的強度を持つことができ、取扱い性に優れた太陽電池とすることができる。さらに、上記基材の厚みを500(μm)以下とすることで、フレキシブル性に優れた太陽電池が実現できる。上記基材の厚みとして、より好ましい下限は10(μm)、より好ましい上限は100(μm)である。上記基材の厚みとは、上記基材が上記金属箔と上記金属箔上に形成された絶縁層とを有する場合、上記金属箔と上記絶縁層とを含む上記基材全体の厚みを意味する。
【0033】
上述したように基材が金属箔と金属箔上に形成された絶縁層とを有する場合、上記絶縁層上に形成された電極を有することが好ましい。
【0034】
〈電極及び透明電極材料〉
上記電極及び上記透明電極は、どちらが陰極になってもよく、陽極になってもよい。上記電極及び上記透明電極の材料として、例えば、FTO(フッ素ドープ酸化スズ)、ナトリウム、ナトリウム-カリウム合金、リチウム、マグネシウム、アルミニウム、マグネシウム-銀混合物、マグネシウム-インジウム混合物、アルミニウム-リチウム合金、Al/Al2O3混合物、Al/LiF混合物、金等の金属、CuI、ITO(インジウムスズ酸化物)、SnO2、AZO(アルミニウム亜鉛酸化物)、IZO(インジウム亜鉛酸化 物)、GZO(ガリウム亜鉛酸化物)等の導電性透明材料、導電性透明ポリマー等が挙げられる。これらの材料は単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0035】
〈光電変換層:有機無機ペロブスカイト化合物〉
上記光電変換層(光吸収層)102は、有機無機ペロブスカイト化合物を含む。光電変換層に有機無機ペロブスカイト化合物を用いることにより、太陽電池の光電変換効率を向上させることができる。有機無機ペロブスカイト化合物は、一般式R-M-X3(但し、Rは有機分子、Mは金属原子、Xはハロゲン原子又はカルコゲン原子である。)で表されることが好ましい。
【0036】
上記Rは有機分子であり、ClNmHn(l、m、nはいずれも正の整数)で示されることが好ましい。上記Rは、具体的には例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、トリヘキシルアミン、エチルメチルアミン、メチルプロピルアミン、ブチルメチルアミン、メチルペンチルアミン、ヘキシルメチルアミン、エチルプロピルアミン、エチルブチルアミン、イミダゾール、アゾール、ピロール、アジリジン、アジリン、アゼチジン、アゼト、イミダゾリン、カルバゾール、メチルカルボキシアミン、エチルカルボキシアミン、プロピルカルボキシアミン、ブチルカルボキシアミン、ペンチルカルボキシアミン、ヘキシルカルボキシアミン、ホルムアミジニウム、グアニジン、アニリン、ピリジン及びこれらのイオン(例えば、メチルアンモニウム(CH3NH3)等)やフェネチルアンモニウム等が挙げられる。なかでも、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、プロピルカルボキシアミン、ブチルカルボキシアミン、ペンチルカルボキシアミン、ホルムアミジニウム、グアニジン及びこれらのイオンが好ましく、メチルアミン、エチルアミン、ペンチルカルボキシアミン、ホルムアミジニウム、グアニジン及びこれらのイオンがより好ましい。なかでも、高い光電変換効率が得られることから、メチルアミン、ホルムアミジニウム及びこれらのイオンが更に好ましい。
【0037】
上記Mは金属原子であり、例えば、鉛、スズ、亜鉛、チタン、アンチモン、ビスマス、ニッケル、鉄、コバルト、銀、銅、ガリウム、ゲルマニウム、マグネシウム、カルシウム、インジウム、アルミニウム、マンガン、クロム、モリブデン、ユーロピウム等が挙げられる。なかでも、電子軌道の重なりの観点から、鉛又はスズが好ましい。これらの金属原子は単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0038】
上記Xはハロゲン原子又はカルコゲン原子であり、例えば、塩素、臭素、ヨウ素、硫黄、セレン等が挙げられる。これらのハロゲン原子又はカルコゲン原子は単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。なかでも、構造中にハロゲンを含有することで、上記有機無機ペロブスカイト化合物が有機溶媒に可溶になり、安価な印刷法等への適用が可能になることから、ハロゲン原子が好ましい。更に、上記有機無機ペロブスカイト化合のエネルギーバンドギャップが狭くなることから、ヨウ素がより好ましい。
【0039】
有機無機ペロブスカイト化合物は、体心に金属原子M、各頂点に有機分子R、面心に ハロゲン原子又はカルコゲン原子Xが配置された立方晶系の構造を有することが好ましい。
図1は、体心に金属原子M、各頂点に有機分子R、面心にハロゲン原子又はカルコゲン原子Xが配置された立方晶系の構造の一般的な有機無機ペロブスカイト化合物の結晶構造の一例を示す模式図である。詳細は明らかではないが、上記構造を有することにより、結晶格子内の八面体の向きが容易に変わることができるため、上記有機無機ペロブスカイト化合物中の電子の移動度が高くなり、太陽電池の光電変換効率が向上すると推定されている。
【0040】
有機無機ペロブスカイト化合物は、結晶性半導体であることが好ましい。結晶性半導体とは、X線散乱強度分布を測定し、散乱ピークが検出できる半導体を意味している。上記有機無機ペロブスカイト化合物が結晶性半導体であれば、有機無機ペロブスカイト化合物中の電子の移動度が高くなり、太陽電池の光電変換効率が向上する。また、有機無機ペロブスカイト化合物が結晶性半導体であれば、太陽電池に光を照射し続けることによる光電変換効率の低下(光劣化)、特に短絡電流の低下に起因する光劣化が抑制されやすくなる。
【0041】
〈結晶化の指標〉
一般的に、結晶化の指標として結晶化度を評価する。結晶化度は、X線散乱強度分布測定により検出された結晶質由来の散乱ピークと非晶質部由来のハローとをフィッティングにより分離し、それぞれの強度積分を求めて、全体のうちの結晶部分の比を算出することにより求めることができる。有機無機ペロブスカイト化合物の結晶化度の好ましい下限は30(%)であり結晶化度が30(%)以上であれば、有機無機ペロブスカイト化合物中の電子の移動度が向上し、太陽電池の光電変換効率が高くなる。また、上述した結晶化度が30(%)以上であれば、太陽電池に光を照射し続けることによる光電変換効率の低下(光劣化)、特に短絡電流の低下に起因する光劣化が抑制されやすくなる。上記結晶化度のより好ましい下限は50(%)、更に好ましい下限は70(%)である。また、上記有機無機ペロブスカイト化合物の結晶化度を上げる方法として、例えば、熱アニール(加熱処理)、レーザ等の強度の強い光の照射、プラズマ照射等が挙げられる。
【0042】
また、他の結晶化の指標として結晶子径を評価することもできる。結晶子径は、X線散乱強度分布測定により検出された結晶質由来の散乱ピークの半値幅からhalder-wagner法で算出することができる。上記有機無機ペロブスカイト化合物の結晶子径が5(nm)以上であれば、太陽電池に光を照射し続けることによる光電変換効率の低下(光劣化)、特に短絡電流の低下に起因する光劣化が抑制される。また、上記有機無機ペロブスカイト化合物中の電子の移動度が高くなり、太陽電池の光電変換効率が向上する。上記結晶子径のより好ましい下限は10(nm)、更に好ましい下限は20(nm)である。
【0043】
〈光電変換層(光吸収層)〉
光電変換層(光吸収層)は、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、上記有機無機ペロブスカイト化合物に加えて、更に、有機半導体又は無機半導体を含んでいてもよい。有機半導体として、例えば、ポリチオフェン(3-アルキルチオフェン)等のチオフェン骨格を有する化合物等が挙げられる。また、例えば、ポリパラフェニレンビニレン骨格、ポリビニルカルバゾール骨格、ポリアニリン骨格、ポリアセチレン骨格等を有する導電性高分子等も挙げられる。更に、例えば、フタロシアニン骨格、ナフタロシアニン骨格、ペンタセン骨格、ベンゾポルフィリン骨格等のポルフィリン骨格、スピロビフルオレン骨格等を有する化合物や、表面修飾されていてもよいカーボンナノチューブ、グラフェン、フラーレン等のカーボン含有材料も挙げられる。
【0044】
無機半導体として、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化スズ、酸 化ガリウム、硫化スズ、硫化インジウム、硫化亜鉛、CuSCN、Cu2O、CuI、M oO3、V2O5、WO3、MoS2、MoSe2、Cu2S等が挙げられる。
【0045】
光電変換層(光吸収層)は、有機無機ペロブスカイト化合物と有機半導体又は無機半導体とを含む場合、薄膜状の有機半導体又は無機半導体部位と薄膜状の有機無機ペロブスカイト化合物部位とを積層した積層体であってもよいし、有機半導体又は無機半導体部位と有機無機ペロブスカイト化合物部位とを複合化した複合膜であってもよい。量産時において製法が容易な積層体が好ましく、他方有機半導体又は無機半導体中の電荷分離効率を向上させることができる点では複合膜が好ましい。
【0046】
有機無機ペロブスカイト化合物で形成された部位の厚みは、好ましい下限が5(nm)、好ましい上限が1000(nm)である。上記厚みが5(nm)以上であれば、充分に光を吸収することができるようになり、光電変換効率は高くなる。しかしながら、厚みが厚くなれば抵抗値も大きくなるため電子や正孔の取り出し時の損失も大きくなるため効率低下が生じる。
【0047】
そこで本願発明では後段で詳細に説明するがバリア層表面に賦形した光学素子のレンズ作用で太陽光を集光させる。この結果、光電変換層を太陽光が斜めに通過することで厚い光電変換層と同等の光電変換効率が得られ、高い光電変換効率と低損失を同時に両立できるという本願発明特有の第一効果を得ることができる。
【0048】
図4、
図16および
図17に示すように光電変換層が、有機無機ペロブスカイト化合物部位を複数層設けて複合化した複合膜である場合、上記複合膜の厚みの好ましい下限は30nm、好ましい上限は2000(nm)である。さらに厚みが30(nm)以上であれば、充分に光を吸収することができるようになり、光電変換効率が高くなる。
【0049】
この時、上述したバリア層表面に賦形した光学素子を設けることで、この光学素子のレンズ作用で太陽光を集光させる。この結果として、光電変換層を太陽光が斜めに通過することで厚い光電変換層と同等の光電変換効率が得られ、高い光電変換効率と低損失を同時に両立できるという本願発明特有の第一の効果を得ることができる。この構成によれば、厚みが1500(nm)以下であっても、太陽光が斜めに光電変換部を通過するため電荷が電極に到達しやすくなり、光電変換効率が高くなる。
【0050】
光電変換層は、光電変換層形成後に熱アニール(加熱処理)が施されていることが好 ましい。熱アニール(加熱処理)を施すことにより、光電変換層中の有機無機ペロブスカ イト化合物の結晶化度を上げることができ、光を照射し続けることによる光電変換効率の低下(光劣化)をより抑制することができる。従来の耐熱性高分子からなる基材を用いた太陽電池にこのような熱アニール(加熱処理)を行うと、基材と光電変換層等との熱膨張係数の差により、アニール時に歪みが生じ、その結果、高い光電変換効率を達成することが難しくなる。上記金属箔を用いた場合には、熱アニール(加熱処理)を行っても、歪みの発生を最小限に抑えて、高い光電変換効率を得ることができるので好ましい。
【0051】
上記熱アニール(加熱処理)を行う場合、上記光電変換層を加熱する温度は特に限定されないが、100(℃)以上、250(℃)未満であることが好ましい。上記加熱温度が100℃以上であれば、上記有機無機ペロブスカイト化合物の結晶化度を充分に上げることができる。上記加熱温度が250(℃)未満であれば、上記有機無機ペロブスカイト化合物を熱劣化させることなく加熱処理を行うことができる。より好ましい加熱温度は、120(℃)以上、200(℃)以下である。また、加熱時間も特に限定されないが、3分以上、2時間以内であることが好ましい。加熱時間が3分以上であれば、上記有機無機ペロブスカイト化合物の結晶化度を充分に上げることができる。上記加熱時間が2時間以内であれば、上記有機無機ペロブスカイト化合物を熱劣化させることなく加熱処理を行うことができる。これらの加熱操作は真空又は不活性ガス下で行われることが好ましく、露点温度は10(℃)以下が好ましく、7.5(℃)以下がより好ましく、5(℃)以下が更に好ましい。
【0052】
本発明の太陽電池は、上記基材及び上記透明電極のうちの陰極となる側と、上記光電変換層との間に、電子輸送層を有してもよい。上記電子輸送層の材料は特に限定されず、例えば、N型導電性高分子、N型低分子有機半導体、N型金属酸化物、N型金属硫化物、ハロゲン化アルカリ金属、アルカリ金属、界面活性剤等が挙げられ、具体的には例えば、シアノ基含有ポリフェニレンビニレン、ホウ素含有ポリマー、バソキュプロイン、バソフェナントレン、ヒドロキシキノリナトアルミニウム、オキサジアゾール化合物、ベンゾイミダゾール化合物、ナフタレンテトラカルボン酸化合物、ペリレン誘導体、ホスフィンオキサイド化合物、ホスフィンスルフィド化合物、フルオロ基含有フタロシアニン、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化スズ、酸化ガリウム、硫化スズ、硫化インジウム、硫化亜鉛等が挙げられる。
【0053】
上記電子輸送層は、薄膜状の電子輸送層(バッファ層)のみからなっていてもよいが、多孔質状の電子輸送層を含むことが好ましい。特に、上記光電変換層が、有機半導体又は無機半導体部位と有機無機ペロブスカイト化合物を複合化した複合膜である場合、より複雑な複合膜(より複雑に入り組んだ構造)が得られ、光電変換効率が高くなることから、多孔質状の電子輸送層上に複合膜が製膜されていることが好ましい。
【0054】
上記電子輸送層の厚みは、好ましい下限が1(nm)、好ましい上限が2000(nm)である。上記厚みが1(nm)以上であれば、充分にホールをブロックできるようになる。上記厚みが2000(nm)以下であれば、電子輸送の際の抵抗になり難く、光電変換効率が高くなる。上記電子輸送層の厚みのより好ましい下限は3(nm)、より好ましい上限は1000(nm)であり、更に好ましい下限は5(nm)、更に好ましい上限は500(nm)である。
【0055】
本発明の太陽電池は、上記光電変換層と、上記基材及び上記透明電極のうちの陽極となる側との間に、ホール(正孔)輸送層を有してもよい。上記ホール輸送層の材料は特に限定されず、例えば、P型導電性高分子、P型低分子有機半導体、P型金属酸化物、P型金属硫化物、界面活性剤等が挙げられ、具体的には例えば、ポリ(3-アルキルチオフェン)等のチオフェン骨格を有する化合物等が挙げられる。また、例えば、トリフェニルアミン骨格、ポリパラフェニレンビニレン骨格、ポリビニル カルバゾール骨格、ポリアニリン骨格、ポリアセチレン骨格等を有する導電性高分子等も挙げられる。更に、例えば、フタロシアニン骨格、ナフタロシアニン骨格、ペンタセン骨格、ベンゾポルフィリン骨格等のポルフィリン骨格、スピロビフルオレン骨格等を有する化合物、酸化モリブデン、酸化バナジウム、酸化タングステン、酸化ニッケル、酸化銅、酸化スズ、硫化モリブデン、硫化タングステン、硫化銅、硫化スズ等、フルオロ基含有ホスホン酸、カルボニル基含有ホスホン酸、CuSCN、CuI等の銅化合物、カーボンナノチューブ、グラフェン等のカーボン含有材料等が挙げられる。
【0056】
上記ホール輸送層は、その一部が上記光電変換層に浸漬していてもよいし、上記光電変換層上に薄膜状に配置されてもよい。上記ホール輸送層が薄膜状に存在する時の厚みは、好ましい下限は1(nm)、好ましい上限は2000(nm)である。上記厚みが1(nm)以上であれば、充分に電子をブロックできるようになる。上記厚みが2000(nm)以下であれば、ホール輸送の際の抵抗になり難く、光電変換効率が高くなる。上記厚みのより好ましい下限は3(nm)、より好ましい上限は1000(nm)であり、更に好ましい下限は5(nm)、更に好ましい上限は500(nm)である。
【0057】
本発明の太陽電池は、更に、上記透明電極上に配置された引出し配線を有する。上記引出し配線を設けることにより、上記透明電極の面積が大きくなったとしても高い光電変換効率を得ることができる。
【0058】
上記引出し配線は、導電性材料からなる配線であれば特に限定されず、例えば、銅、アルミニウム、銀、金、白金等の金属又はこれらの合金等からなる配線、炭素からなる配線等が挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。銀からなる配線である場合、上記引出し配線は、上記透明電極上に例えば銀ペースト等を用いて形成される。
【0059】
上記引出し配線の形状は特に限定されず、例えば、線状(複数本の線状)、格子状、網目状等が挙げられる。これらの形状は単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0060】
上記引出し配線の幅は特に限定されないが、好ましい下限は5(μm)、好ましい上限は500(μm)である。上記引出し配線の幅が5(μm)以上であれば、上記引出し配線の抵抗を低くすることができる。上記引出し配線の幅が500(μm)を超えると、入射光が遮られる面積が大きくなるため、太陽電池の光電変換効率が低くなることがある。上記引出し配線の幅のより好ましい下限は10(μm)、より好ましい上限は200(μm)である。上記引出し配線の幅は、例えば、測長機能付き光学顕微鏡、線幅測定装置等により測定することができる。
【0061】
〈バリア層〉
本発明の太陽電池20は、更に、上記引出し配線5の全体を覆って封止する第二バリア層10と、上記透明電極4上の上記バリア層10の外側に配置された取出し電極8とを有する(
図6参照)。上記引出し配線5の全体を覆って封止する第二バリア層10を設けるとともに、上記第二バリア層10の外側に別途上記取出し電極8を設けることにより、上記引出し配線5からの大気中の水分の浸入を抑制することができる。これにより、大気中の水分の浸入による上記光電変換層の劣化を抑制することができる。一方、上記引出し配線5と上記取出し電極8とは繋がっておらず、分離しているが、電流は、上記引出し配線5の端部から一旦上記透明電極4を通り、次いで上記取出し電極8へと流れるため、電流の取出しは問題なく行うことができる。
【0062】
図5および
図6に示す第一バリア層7および第二バリア層10の材料について以下説明する。上記第一バリア層7の材料としては水蒸気バリア性を有していれば特に限定されないが、無機材料が好ましい。上記無機材料としては、Si、Al、Zn、Sn、In、Ti、Mg、Zr、Ni、Ta、W、Cu若しくはこれらを2種以上含む合金の酸化物、窒化物又は酸窒化物が挙げられる。なかでも、上記バリア層に水蒸気バリア性及び柔軟性を付与するために、Zn、Snの両金属元素を含む金属元素の酸化物、窒化物又は酸窒化物が好ましい。
【0063】
上記第一バリア層7の材料が無機材料である場合、第一バリア層7(無機層)の厚みは、好ましい下限が30nm、好ましい上限が2500(nm)である。上記厚みが30(nm)以上であれば、上記無機層が十分な水蒸気バリア性を有することができ、太陽電池の耐久性が向上する。上記厚みが2500(nm)以下であれば、上記無機層の厚みが増した場合であっても、発生する応力が小さいため、上記無機層と他の層との剥離を抑制することができる。上記厚みのより好ましい下限は50(nm)、より好ましい上限は1500(nm)であり、更に好ましい下限は100(nm)、更に好ましい上限は1200(nm)である。上記無機層の厚みは、光学干渉式膜厚測定装置(例えば、大塚電子社製のFE-3000等)を用いて測定することができる。
【0064】
上記第一バリア層7の材料のうち、上記無機材料で上記引出し配線5の全体を覆って封止する方法として、特に限定されないが、真空蒸着法、スパッタリング法、気相反応法(CVD)、イオンプレーティング法が好ましい。なかでも、緻密な層を形成するためにはスパッタリング法が好ましく、スパッタリング法のなかでもDCマグネトロンスパッタリング法がより好ましい。上記スパッタリング法においては、金属ターゲット、及び、酸素ガス又は窒素ガスを原料とし、上記引出し配線上に原料を堆積して製膜することにより、無機材料からなる無機層を形成することができる。
【0065】
なお、上記第一バリア層7は、必ずしも形成する必要はないが、水蒸気バリア性をより向上させる観点からは、上記第一バリア層7を形成することが好ましい。
【0066】
続いて、第二バリア層10の材料について説明する。上述した太陽電池の外周部に形成する第二バリア層10として非特許文献1に示す「印刷で作成できるガラス並みのウルトラ・ハイバリア」に示された手法によりプレカーサーであるPHPS(Perhydro-polysilazane:パーヒドロポリシラザン)を塗布してVUV(Vacuum Ultra Violet)光を窒素等の不活性ガス雰囲気中で特定時間照射することで紫外線と近赤外光線に対して透明度の高いガラス並みの遮断性を有した窒化珪素を含む薄膜を形成する。この第二バリア層10はスピンコーターやロール・ロールでプレカーサーの膜厚を均一化することでウエットプロセスでの成膜可能であり、ドライ成膜の工程に比べて投資を抑えた製造工程が実現できるという大きなメリットがある。
【0067】
上記第二バリア層10の形成に用いるプレカーサーの材料としてPHPS(パーヒドロポリシラザン)を例示したが、上記プレカーサーとしてはシラザン骨格を有する化合物、すなわちポリシラザン化合物であれば特に限定されずに用いることができる。ポリシラザンとは、珪素-窒素結合を有するポリマーであり、セラミック前駆体無機ポリマーである。ポリシラザン化合物としてはパーヒドロポリシラザンやSiと結合する水素原子部分の一部がアルキル基等で置換されたオルガノポリシラザン等が挙げられる。上記アルキル基としては、炭素原子数1~8の直鎖、分岐鎖または環状のアルキル基が挙げられる。これらの中でも、得られる水蒸気バリア層としての緻密性の観点から、パーヒドロポリシラザンが特に好ましい。
【0068】
上記ポリシラザン化合物を含有する塗布液を調製するための溶剤としては、ポリシラザンを溶解できるものであれば特に限定されないが、例えば、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、キシレン、ソルベッソ、ターベン、塩化メチレン、トリクロロエタン、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセトン、メチルエチルケトン、ジブチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロフラン、ジブチルエーテル、モノ-およびポリアルキレングリコールジアルキルエーテル(ジグライム類)等を挙げることができる。
【0069】
上記ポリシラザン化合物を含有する塗布液は塗布・乾燥された後、窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気中や真空雰囲気中で真空紫外光(VUV)が照射されることにより改質され、窒化珪素を含む緻密なバリア層(第二バリア層10)となる。なお、上記第二バリア層10は、水蒸気バリア層としての性能を妨げない範囲において、酸化窒化珪素を含んでいても良い。
【0070】
上記第二バリア層10の厚みは、好ましい下限が100(nm)、好ましい上限が500(nm)である。上記厚みが100(nm)以上であれば、上記バリア層が十分な水蒸気バリア性を有することができ、太陽電池の耐久性が向上する。上記厚みが500(nm)以下であれば、上記バリア層の厚みが増した場合であっても、発生する応力が小さいため、上記バリア層と他の層との剥離を抑制することや、バリア層のクラックの発生を抑制することができる。上記厚みのより好ましい下限は150(nm)、より好ましい上限は350(nm)である。
【0071】
更に本願発明では上述したように塗布によるウエットプロセスでの成膜により得られる第二バリア層10では、上記プレカーサーの表面に、特有の光学性能を付加した極微細なモスアイ形状やレンチキュラーレンズ形状等のマスター形状をその表面に形成したロールまたはスタンパーを用いて微細なモスアイ形状やレンチキュラーレンズ形状を転写、賦形した後にVUV光を照射して第二バリア層10表面に新たに光学性能を付加させることで水分や空気の遮断効果に加えて詳細は後述するが、太陽光の反射損失の低減という新たな価値を付加した。
【0072】
〈取り出し電極〉
上記取出し電極は、導電性材料からなる電極であれば特に限定されず、例えば、上記引出し配線と同様の材料からなる電極が挙げられる。上記取出し電極は、上記透明電極上の上記バリア層の外側に配置されていればよいが、太陽電池の4つの辺のうちの少なくとも1つの辺に沿って、線状に配置されていることが好ましい。更に、線状(複数本の線状)に設けられた上記引出し配線に対して垂直となるように、線状に配置されていることがより好ましい。これにより、電流の取出しをより良好に行うことができる。
【0073】
図5は、本発明の太陽電池の一例を模式的に示す上面図(
図5(A))及び断面図(
図5(B))である。
図5においては、基材1上に、光電変換層(光吸収層)3と透明電極4とが設けられており、透明電極4上に引出し配線5が線状(複数本の線状)に設けられており、引出し配線5を覆って封止する第一バリア層7が設けられている。ここで、引出し配線5は、第一バリア層7によりその全体が覆われて封止されており、第一バリア層7に覆われず露出している部分はない。更に太陽電池ユニット20の外側外延部には全面を覆う第二バリア層10を設けることでバリア性をより高めることができる。
【0074】
図6(
図6(A):上面図、
図6(B):断面図)に示す本願発明の別の実施例においては、透明電極4上の第一バリア層7の外側に取出し電極8が線状に設けられている。この開口部において引出し配線5と取出し電極8とは直接繋がっておらず分離しているが、電流は、引出し配線5の端部から一旦透明電極4を通り、次いで取出し電極8へと流れる。このため、電流の取出しは問題なく行うことができる。なお、
図4においては、後述するような絶縁層からなる外枠2及び平坦化層6も設けられているが、本発明の太陽電池は、必ずしもこれらを有していなくてもよい。
【0075】
上述したように、本発明の太陽電池の一実施例においては、引出し配線5と取出し電極8とは繋がっておらず、分離しているが、電流は、上記引出し配線5の端部から一旦上記透明電極4を通り、次いで上記取出し電極8へと流れるため、電流の取出しは問題なく行うことができる。抵抗を低減する観点からは、引出し配線5の端部の幅が、引出し配線5の他の部分の幅以上であることが好ましく、他の部分の幅の2倍以上であることがより好ましい。なお、引出し配線の端部とは、引出し配線の取出し電極に近い側の端部を意味し、上記引出し配線の他の部分とは、引出し配線の端部以外の部分を意味する。
【0076】
図7および
図8は、本発明の太陽電池における引出し配線の端部の一例を模式的に示す上面図である。
図7および
図8において、引出し配線5は、線状(複数本の線状)に設けられており、引出し配線5の端部の形状は、それぞれ「端部接続型」及び「T字型」であるということができる。
図7の「端部接続型」に示すように、引出し配線5は、複数の引出し配線5同士が端部において接続されるように該複数の引出し配線5に直行するような又はそれに準じるような配線を有していてもよい。
図7および8において、引出し配線5の端部の幅は、他の部分の幅より大きくしている。この結果、抵抗を低減し、より高い光電変換効率を得ることができる。
【0077】
また、上記引出し配線の端部から上記バリア層の端部までの距離(沿面距離)は、水蒸気バリア性の観点から長い方が好ましく、抵抗を低減する観点からは短い方が好ましい。上記引出し配線の端部から上記バリア層の端部までの距離が短いほど、上記引出し配線の端部から上記取出し電極までの距離も短くなるため、電流が上記透明電極を通る距離が短くなり、この結果、抵抗を低減することができる。水蒸気バリア性と抵抗の低減とを両立する方法として、例えば、引出し配線の端部からバリア層の端部までの間に、複数の区画に分離する更なる配線を設ける方法が挙げられる。これにより、実質的な沿面距離が延びるため水蒸気バリア性が高まる。他方、電流が透明電極を通る距離が短くなるため抵抗を低減することができる。上述した配線を複数設けて更なる低抵抗化を実現してもよい。
【0078】
図9は、本発明の太陽電池における、引出し配線5の端部の一例を模式的に示す上面図(
図9(A)および
図9(B))である。
図9(B)に示すように、本発明の太陽電池は、引出し配線5の端部から第一バリア層7の端部までの間に、複数の区画に分離する更なる配線9を有していてもよい。この時、太陽電池セル20の最外周部には第二のバリア層10を設けることは言うまでもない。
【0079】
本発明の太陽電池は、必要に応じて、更に、光電変換層(光吸収層)3の側面を取り囲むようにして上記透明電極4の下に配置された、絶縁層からなる外枠2を有していてもよい。上記光電変換層の周囲に上記絶縁層からなる外枠を配置することにより、上記光電変換層端部からの水分の浸入を抑制することができるため、太陽電池の信頼性が向上する。
【0080】
〈絶縁層〉
上記絶縁層からなる外枠2の材料は、水蒸気バリア性を有していれば特に限定されず、無機絶縁性材料であってもよいし、有機絶縁性材料であってもよい。無機絶縁性材料として、例えば、SiO2、Al2O3、ZrO等の無機酸化物、ガラス、グレースト等が挙げられる。有機絶縁性材料は、耐熱性が充分良好であるものが好ましく、このような有機絶縁性材料として、例えば、熱硬化性ポリイミド等が挙げられる。
【0081】
〈平坦化膜〉
本発明の太陽電池は、必要に応じて、更に、透明電極4とバリア層7との間に配置された平坦化層6を有していてもよい。上記平坦化層6の材料としては、水蒸気バリア性を有していれば特に限定されないが、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂が挙げられる。この熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂としては、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、ブチルゴム、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ABS樹脂、ポリブタジエン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリイソブチレン等が挙げられる。
【0082】
上述した平坦化層6は、PHPS(Perhydro-polysilazane:パーヒドロポリシラザン)をプレカーサーとして両層の間に塗布してVUV(Vacuum Ultra Violet)光を窒素等の不活性ガス雰囲気中で特定時間照射することで得られるバリア層を接着層(平坦化層)として用いても良い。この時得られる平坦化層膜は透明度も高く、無機物(SiNX)であるため熱や紫外線に対する耐性が高い平坦化層膜が実現できる。また、太陽電池の外周部に形成するバリア層として、上述したPHPSをプレカーサーとして用いた窒化珪素を含むバリア層を適用する場合、平坦化層6として、シリコーン樹脂(ポリジメチルシロキサン)を衝撃緩和層の機能も兼ねて用いることが好ましい。
【0083】
平坦化層6を形成する材料が、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂の場合引出し配線の全体を覆って封止する方法は特に限定されず、例えば、シート状の平坦化層の材料を用いて上 記引出し配線の全体をシールする方法、平坦化層の材料を有機溶媒に溶解させた溶液を引出し配線の全体に塗布する方法、平坦化層となる液状モノマーを上記引出し配線の全 体に塗布した後、熱又はUV等で液状モノマーを架橋又は重合させる方法、平坦化層の材 料に熱をかけて融解させた後に冷却させる方法等が挙げられる。
【0084】
本発明の太陽電池においては、更に、例えば樹脂フィルム、上述した単体又は複数のバリア層で被覆した樹脂フィルム等又はその他の材料が覆っていてもよい。これにより、仮に上記バリア層にピンホールがあった場合にも、充分に水蒸気をブロックすることができ、太陽電池の耐久性をより向上させることができる。
【0085】
〈バリア層に設けた超微細光学素子〉
図4に示す太陽電池素子のバリア層110及び
図5および
図6に示す太陽電池セルの第二バリア層10の少なくとも太陽光入射側の表面に設ける超微細光学素子について、以下詳細に説明する。上述した有機・無機ペロブスカイト型太陽電池は材料を所望の厚さに複数層に分けて塗布工程で製膜できるため、材料コストが低減できるだけでなく、Roll to Rollで安価に製造できる。一方、この太陽電池の課題であった水分の遮蔽を実現する具体的な技術は、非特許文献1で公開された「印刷で作成できるガラス並みのウルトラ・ハイバリア」に公開された手法によってプレカーサーであるPHPSを塗布してVUV(Vacuum Ultra Violet)光を窒素等の不活性ガス雰囲気中で特定時間照射することで、可視光と近赤外光線に対しも透明度が高くガラス並みの遮断性と硬度を有した薄膜を形成する。
【0086】
このバリア膜は上述したようにロール・ロールでプレカーサーの膜厚を均一化することでウエットプロセスでの成膜が可能であり、このロール表面に超微細構造の第一光学素子及び微細形状の第二光学素子のマスター形状を設けて、プレカーサー表面にロール表面の形状を転写しVUV光を照射することで所望の形状を、バリア層110や第二バリア層10表面に賦形する。
【0087】
超微細形状としてはモスアイ形状を、バリア層の少なくとも太陽光入射面に付与することで
図4~6に示す本発明の太陽電池素子200及び太陽電池セル20への太陽光の反射損失を大幅に軽減できる。このモスアイ形状による反射損失低減効果は広く知られているように、太陽光の入射角度依存性が小さく波長依存性も同様である。
【0088】
太陽の位置の変化により太陽電池への光線入射角度と放射光線の波長成分の変化により、太陽電池素子または太陽電池セルの表面に一般的な反射防止膜を成膜しても反射率の角度依存性と波長依存性を無くすことはできない。そこでバリア層の表面に賦形する100~200nmピッチP
0のモスアイ形状の超微細光学素子を設けることで、
図18および
図19に破線で示した一般的な反射防止膜とは異なり、実線で示すような入射角度、波長依存性がほとんど無い反射防止効果を有する太陽電池素子及び太陽電池セルが実現でき、反射損失を低減することでシステム全体の光電変換効率を高めることができる。この反射率の波長特性は
図18に示すように光電変換に必要な太陽光の波長範囲においてはほぼゼロであり良好な特性を得ることができる。
【0089】
図4に示した太陽電池素子200のバリア層110及び
図5、6に示した太陽電池セル20の最外周部に設けた第二バリア層10の太陽光入射側面に、
図10および
図11(バリア層の断面模式図)に示すモスアイ形状の超微細光学素子110Aを設ける。なお、便宜上、
図11に示す超微細光学素子110A部分のモスアイ形状は省略している。この断面形状は
図10に示したように、基材の屈折率nと空気の屈折率(1.0)の平均値がモスアイ構造の高さhに対して直線(一次関数)的に変化することで反射損失を極限まで抑えることができる。本発明のモスアイ構造では
図10に示したように突起部の先端部分T
0の形状を楕円形状とする。この形状としては突起部のピッチP
0の1/5から1/10の幅を短軸長とした楕円形状とすると良い。以上述べたように突起部の先端形状を楕円形状とすることで金型からの離型性が確保できる。また突起部と突起部の繋ぎ部分も平坦とする外に太陽光入射側に凹面を成す形状とすることで、金型の加工精度と成形品の金型からの離型性の両面を同時に向上することができる。この結果、バリア層110や第二バリア層10の表面に設けた超微細光学素子110Aは良好な形状精度を得ることができる。
【0090】
非特許文献1で公開された「印刷で作成できるガラス並みのウルトラ・ハイバリア」に公開された手法によって基材にプレカーサーであるPHPSを塗布して窒素等の不活性ガス雰囲気中において、照射強度20(mW/cm
2)で波長172(nm)のVUV光を照射した。
図12は、この時照射時間をパラメータとした場合に成膜されたバリア膜の屈折率分布を厚さ方向で計測した結果を示した特性図である。最も左に示した棒グラフはバリア層のプレカーサーであるPHPSの850(nm)の光に対する屈折率を測定した結果(n=1.54)と、塗布厚さ357(nm)で照射時間0(分)の状態を表している。他方右端はVUV光の照射時間60(分)で形成されたバリア膜の膜厚さが281(nm)屈折率は1.76の部分が68(nm)、屈折率が1.65の部分が92(nm)、屈折率が1.56の部分が117(nm)と照射光源に近い部分の屈折率が高く、遠い部分はプレカーサーの屈折率に近づくことが分かる。更に最表面層には膜厚3~4(nm)のSiO
2の膜が形成されておりこの膜厚はVUV光の照射時間により変化しない。
【0091】
図12は、上述したようにVUV光の照射強度を20(mW/cm
2)一定として照射時間を5(分)、10(分)、20(分)、60(分)と変化させた場合の成膜されたバリア膜の屈折率分布を、厚さ方向で計測した結果を示した特性図である。照射時間に無関係に表面層にSiO
2の薄膜が形成されることから雰囲気中の残存成分が表面層に形成された可能性があるがこの結果、可視光領域から近赤外光領域まで高い透過率が実現できた。
【0092】
上述した手法で形成したバリア層(膜)の表面に、超微細光学形状であるモスアイ形状の突起形状の最適化では、上述した屈折率変化を考慮して最適設計する必要がある。モスアイ形状には
図11に示すように表面の撥水性を高める効果が生じ水の接触角が20度を超えるバリア層が実現できるため汚れ防止の効果もある。またTiO
2をバリア層に含有させることで光触媒効果により防染効果を得ても良い。
【0093】
図13は、上述したVUV光の照射時間をパラメータとして成膜したバリア膜(層)の、平均屈折率とバリア膜(層)の厚さの関係を纏めた特性図である。VUV光の照射時間に反比例して厚さが減少し、屈折率は反して増加する。この傾向は1分以内と1~5分、5~10分、10分以上で傾きが異なり最初の1分間の変化が大きい。この結果から大きな密度変化が最初の1分間で発生していると推定した。
【0094】
発電のためのエネルギー源である太陽光の分光エネルギー分布を
図14に示す。地球の大気圏に含まれる成分の吸収により特定波長に吸収特性があるがエネルギーのピークは、450(nm)から700(nm)の可視光領域であり、紫外線領域を含む可視光領域(A)の他に近赤外領域(B)、遠赤外領域(C)にも強いエネルギーが存在することが分かっている。そこで本発明の太陽電池素子、太陽電池セルでは、太陽光の分光エネルギー分布を考慮して、例えば
図4および
図16に示したように、複数層の光吸収層(
図4では第一の光吸収層102A、第二の光吸収層102Bおよび第三の光吸収層102C、
図16では第一の光吸収層202、第二の光吸収層203および第三の光吸収層204)を設け、
図15に示した太陽光の分光エネルギー特性に対する光吸収層の感度特性を模式的に表した特性図に示したそれぞれの波長に対して、光電変換効率が最も高い光吸収部材をそれぞれの層(最上位層、中間層および最下層)に含有させる。この結果、複数層に分割して備えた光吸収層(光変換層)により高効率で光電変換を行うことができる。
【0095】
〈バリア層に設けた微細光学素子の第一および第二の実施例〉
第一の実施形態である
図16は本発明のバリア層の表面に設けた集光作用を持つ微細光学素子200(
図16中では太陽光入射方向に凸面(正の屈折力))とその作用を説明するための模式図である。この凸面のピッチは10~300(μm)程度とすると良いが、この後詳細に説明するレンズ作用により得られる焦点位置と光変換層(光吸収層)の位置関係を最適設計する必要があるため、最大では1500(μm)程度になる場合もある。この微細光学素子200の表面にピッチが100~200(nm)の超微細光学素子であるモスアイ形状を設け、この効果で入射面での太陽光の反射を低減すれば更に良い。
【0096】
集光作用を持つ微細光学素子の作用で入射した太陽光は平行光束から光の波長に応じて異なる焦点に集光する。一般的な正の屈折力を持つ光学素子は光線の波長が短いほど焦点距離が短く例えば
図14の(A)領域に示された可視光領域の光束の焦点は最も短く
図16中の第一の光吸収層202内の焦点P1に集光する。同様に
図14の(B)領域に示す近赤外線領域の光束の焦点は次いで短く
図16中の第二の光吸収層203内の焦点P2に集光する。更に
図14の(C)領域に示す遠赤外線領域の光線の焦点は
図16中の最も遠方の第三の光吸収層204内の焦点P3となり平行光で入射した光束が、(1)波長に応じで入射面からの距離が異なる複数の焦点に向け集光する、(2)太陽光束を光学素子の作用により斜め光束に変換する。
【0097】
このためそれぞれの焦点位置に波長に応じで光電変換効率が最も優れた成分を含む光電変換層(光吸収層)202、203、204を配置し、システム全体として最も高い光電変換効率を実現する。更にそれぞれの光電変換層(光吸収層)を太陽光が斜めに横切るため、実効的な光路長が延び光電変換量が増加する。他方同じ光電変換量とするためには層厚を薄くできるため電気抵抗が小さくなり、太陽電池から取り出せる電力が大きくなる。更に太陽光線が集光することで大きな光エネルギーが絞られた状態で光電変換層(光吸収層)に入射するため、通常の太陽光束(平行光束)が入射する場合の数倍から数十倍の光電変換効率が実現できることが判明した。
【0098】
更に光電変換層(光吸収層)の同一平面内で光密度が「密な部分」と「疎な部分」とが発生するため、変換効率と温度の勾配が同一平面上で生じる。このため、熱伝導にも時間的なずれが生じ光の伝搬との差が部分的に発生するため、光電変換効率そのものが大幅に向上することが判明した。
【0099】
第二の実施形態である
図17に示すように、上述した微細形状の光学素子200から入射し光吸収層(光電変換層)202、203、204や電子輸送層105(図示せず)、正孔輸送層106(図示せず)及び2つの電極103、104(図示せず)を透過して基板101の表面に備えた反射面205(
図4では反射面205は図示せず)で反射した太陽光(破線で図示)は、微細形状の光学素子の入射面内部で全反射を繰り返し再び光電変換層(光吸収層)に向かい太陽電池素子から飛び出せない構造とすることができ、光電変換効率を更に高めることができる。微細光学素子の形状は、日中における太陽の移動により太陽電池に入射する光線(光束)が微斜め方向から入射しても収差の影響がなく焦点に集光するために、入射面形状を楕円形状とし、加えて光軸から離れた部分の曲率半径を相対的に大きくすることで非点収差を低減するとさらによい。
【0100】
〈バリア層に設けた微細光学素子の第三の実施例〉
図20は本発明のバリア層の表面に微細な集光作用を持つ微細光学素子210(
図16同様に太陽光入射方向に凸面(正の屈折力))を有するレンチキュラーレンズ形状である。
図21はその作用を説明するための模式図である。この凸面のピッチは
図16に示した第一の実施例と同様に10~300(μm)程度とすると良い。しかしながら第一の実施例との違いは、XY平面においてはレンズ作用を持たないレンチキュラーレンズ形状を成している。このため
図21に示すようにXZ平面のレンズ作用により集光が行われXY平面内においては集光作用を持たない。この後、詳細に説明するこのXZ平面のレンズ作用により得られる焦点と光電変換層(光吸収層)の配置は最適化する必要があるが、この微細光学素子を最外縁部に設けたバリアシート表面に設ける太陽電池においては、この焦点位置が最大では3000(μm)程度になる場合もある。この微細光学素子の第二の実施例においても第一の実施例と同様に、表面にさらにピッチ100~200(nm)の超微細光学素子であるモスアイ形状を設け、この効果で入射面での太陽光の反射を低減すれば更に良い。
【0101】
図21に示すようにXZ平面の微細な光学素子の作用で入射した太陽光は平行光束から光の波長に応じて異なる焦点に集光する。一般的な正屈折率を持つ光学素子は光線の波長が短いほど焦点距離が短く、例えば
図14の(A)領域に示された可視光領域の光束の焦点は最も短く
図21中の第一の光吸収層102A内の焦点P1(焦点距離l1)に集光する。同様に
図14の(C)領域に示す遠赤外線領域の光線の焦点は最も遠方の第三の光吸収層102C内の焦点P3(焦点距離l3)に焦点を結ぶ。このため、平行光で入射した光束が、(1)波長に応じで入射面からの距離が異なる複数の焦点に向け集光する。(2)太陽光束を光学素子の作用により斜め光束に変換する。この微細光学素子の光軸近傍を透過して屈折する光束φ1は収差が発生しないが周辺部分を通過する光束φ3は収差が発生するため、微細光学素子は光軸近傍に対して周辺部分においてはレンズ作用が弱くなるような非球面形状とすると良い。
【0102】
一方、XY平面ではレンズ作用(集光作用)を持たないため、
図14の(A)、(B)および(C)の波長領域の光に対しては
図22に示すように、それぞれのレンチキュラーレンズに対応した焦点が線状に発生し波長領域ごとに複数の焦点(線)L102A、L102B、L102Cがそれぞれの光電変換層(光吸収層)102A、102B、102C上に形成される。このためそれぞれの光電変換層(光吸収層)の面内において受光する光強度に疎密な分布が生じる。この結果、光電変換により発生する電流も面内で不均一となる。
【0103】
このほか光電変換層(光吸収層)で集光した太陽光により発生する熱も電流と同様に面内で不均一になる。このため電流の疎密と温度の疎密が光電変換層の面内において発生しかつ、
図21に示したように複数の光電変換層(光吸収層)102A、102Bおよび102Cにおいても同様の疎密が発生するため、より高い光電変換効率を得ることができることが判った。
【0104】
この第三の実施例においては、第一の実施例と同様に
図21に示すように、それぞれの焦点位置に波長に応じで光電変換効率が最も優れた成分を含む光電変換層(光吸収層)102A(第一の光吸収層)、102B(第二の光吸収層)および102C(第三の光吸収層)を配置しシステム全体として最も高い光電変換効率を実現する。更にそれぞれの光電変換層(光吸収層)を太陽光が斜めに横切るため実効的な光路長が延び光電変換量が増加する。他方同じ光電変換量とするためには層厚を薄くできるため、電気抵抗が小さくなり太陽電池から取り出せる電力が大きくなる。
【0105】
更に太陽光線が集光することで、大きな光エネルギーが絞られた状態で光電変換層(光吸収層)に入射するため、通常の太陽光束(平行光束)が入射する場合の数倍から数十倍の光電変換効率が実現できる。この効果を
図23に模式的に示す。
図23は縦軸が相対エネルギー強度を、横軸焦点での光束(スポット)幅を微細光学素子のピッチに対する相対値で示す。集光力が強い微細光学素子によるスポット径は小さくなるため単位面積当たりの絶対エネルギーは非常に大きくなる。この結果、上述したようにそれぞれの光電変換層(光吸収層)において発生する電流と温度の疎密が大きなる。
【0106】
以上述べた本発明の太陽電池素子及び太陽電子セルに主眼を置いて説明したが、太陽電池セルを複数並列に配置して全体をフレキシブルなシートに貼合して太陽電池ユニットとすることは言うまでもない。この表面に上述したバリア性をもつバリア層を設けることで、ガラス並みの表面硬度を得ることができるため設置に際して特別な配慮が不要で、バリア層の厚さが薄いため曲面や折り曲げた状態でも設置可能で、従来のガラス基板上に配置したシリコン型太陽電池に比べ取り付けの自由度が大幅に向上する。
【0107】
本発明の太陽電池は成膜(層)工程を印刷工程(Roll to Roll)で製造する方法は採用可能である。またその構成と製造工程は、特に限定されず、例えば、基材上に電子輸送層を配置する工程と、電子輸送層上に光電変換層(光吸収層)を配置する工程と、光電変換層(光吸収層)上にホール輸送層を配置する工程と、ホール輸送層上に透明電極を配置する工程と、上記透明電極上に引出し配線を設ける工程と、この引出し配線の全体を覆って封止するバリア層を設ける工程と、透明電極上の上記バリア層の外側に上記取出し電極を設ける工程とを有する製造方法からなる。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明によれば、透明電極上に引出し配線を有しつつ、その外延部をガラス同等の透過率と硬度を有するバリア層を設ける。さらにこの引出し配線からの大気中の水分の浸入を抑制すること信頼性が高くこのバリア層の表面に超微細光学素子及び微細光学素子を設けることで高い光電変換効率を有する太陽電池を提供することができる。
【符号の説明】
【0109】
M…金属原子
R…有機分子
X…ハロゲン原子又はカルコゲン原子
1…基材
2…絶縁層からなる外枠
3…光電変換層
4…透明電極
5…引出し配線
5´…端部(取出し部)
6…平坦化層
7…(第一)バリア層(膜)
8…取出し電極
9…更なる配線
10…(第二)バリア層(膜)
L…引出し配線の端部からバリア層の端部までの距離
20…太陽電池セル(ユニット)
100…太陽電池素子
200…太陽電池素子
101…基材
102、102A、102B、102C…光電変換層(光吸収層)
L102A、L102B、L102C…光電変換層(光吸収層)の焦点(線)
103…第一電極
104…第二電極
105…電子輸送層
106…正孔輸送層
107…引出し配線
110A…超微細光学素子
110…バリア層(膜)
200…微細光学素子
201…(第二)バリア層(膜)
202…第一の光吸収層(光電変換層)
203…第二の光吸収層(光電変換層)
204…第三の光吸収層(光電変換層)
210…微細光学素子