(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024164987
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】低分子イヌリン水溶液の製造方法、低分子イヌリンペーストの製造方法および低分子イヌリンペースト並びに低分子イヌリンを含む食品
(51)【国際特許分類】
C08B 37/18 20060101AFI20241121BHJP
A23L 33/21 20160101ALI20241121BHJP
A23L 29/00 20160101ALI20241121BHJP
A23C 9/13 20060101ALI20241121BHJP
A23C 19/08 20060101ALI20241121BHJP
A21D 2/18 20060101ALI20241121BHJP
A23C 9/152 20060101ALI20241121BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20241121BHJP
A23L 7/135 20160101ALI20241121BHJP
A23L 7/126 20160101ALI20241121BHJP
A23L 7/109 20160101ALI20241121BHJP
A23L 13/00 20160101ALI20241121BHJP
A23G 3/42 20060101ALI20241121BHJP
A23G 1/40 20060101ALI20241121BHJP
A23L 23/00 20160101ALI20241121BHJP
A23L 27/60 20160101ALI20241121BHJP
A23L 25/00 20160101ALI20241121BHJP
A23G 9/34 20060101ALI20241121BHJP
A23L 9/00 20160101ALI20241121BHJP
A23L 9/20 20160101ALI20241121BHJP
A23L 13/40 20230101ALI20241121BHJP
【FI】
C08B37/18
A23L33/21
A23L29/00
A23C9/13
A23C19/08
A21D2/18
A23C9/152
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A23L2/52
A23L2/52 101
A23L7/135
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A23L7/109 A
A23L7/109 E
A23L13/00 A
A23G3/42
A23G1/40
A23L23/00
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A23L27/60 B
A23L25/00
A23G9/34
A23L9/00
A23L9/20
A23L13/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080767
(22)【出願日】2023-05-16
(71)【出願人】
【識別番号】303036670
【氏名又は名称】合同酒精株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 早織
(72)【発明者】
【氏名】篠田 美咲
(72)【発明者】
【氏名】柚賀 正樹
(72)【発明者】
【氏名】守谷 崇
【テーマコード(参考)】
4B001
4B014
4B018
4B025
4B032
4B035
4B036
4B042
4B046
4B047
4B117
4C090
【Fターム(参考)】
4B001AC03
4B014GB01
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4C090BB52
4C090BD37
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4C090DA27
(57)【要約】
【課題】 本発明は、簡便な方法でイヌリンの分子量を調製する方法を提供することを目的とする。また本発明は、簡便な方法で得られたイヌリンを使用することで、新たな用途を提供することを目的とする。
【解決手段】 水にイヌリンを終濃度で10質量%~90質量%になるよう溶解または分散させたイヌリン水溶液を得る第1工程と、上記水または上記イヌリン水溶液の少なくとも一方にイヌリナーゼを添加する第2工程と、上記イヌリン水溶液中のイヌリンを上記イヌリナーゼによって反応させ、低分子イヌリン水溶液を得る第3工程と、を有する低分子イヌリン水溶液の製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水にイヌリンを終濃度で10質量%~90質量%になるよう溶解または分散させたイヌリン水溶液を得る第1工程と、
上記水または上記イヌリン水溶液の少なくとも一方にイヌリナーゼを添加する第2工程と、
上記イヌリン水溶液中のイヌリンを上記イヌリナーゼによって反応させ、低分子イヌリン水溶液を得る第3工程と、
を有する低分子イヌリン水溶液の製造方法。
【請求項2】
前記第2工程における前記イヌリナーゼの添加量が、前記水または前記イヌリン水溶液に対して、0.001~50unit/gの範囲内にある請求項1記載の低分子イヌリン水溶液の製造方法。
【請求項3】
前記第3工程における前記イヌリン水溶液中のイヌリンと前記イヌリナーゼの反応を静置条件または緩やかな攪拌条件下で行う請求項1記載の低分子イヌリン水溶液の製造方法。
【請求項4】
前記第3工程における前記イヌリン水溶液中のイヌリンと前記イヌリナーゼの反応温度が1℃~90℃の範囲内にある請求項1記載の低分子イヌリン水溶液の製造方法。
【請求項5】
前記第3工程における前記イヌリン水溶液中のイヌリンと前記イヌリナーゼの反応時間が1分間~72時間の範囲内にある請求項1記載の低分子イヌリン水溶液の製造方法。
【請求項6】
請求項1~5いずれかに記載の製造方法によって得られた低分子イヌリン水溶液を、更に冷却する第4工程を行う、低分子イヌリンペーストの製造方法。
【請求項7】
イヌリナーゼと、10質量%~90質量%の低分子イヌリンと、水と、を含み、
硬さが20~50Nの範囲内にある低分子イヌリンペースト。
【請求項8】
請求項1~5いずれかに記載の製造方法によって得られた低分子イヌリン水溶液もしくは請求項6に記載の製造方法によって得られた低分子イヌリンペーストまたは請求項7に記載の低分子イヌリンペーストの少なくとも一つを含む食品。
【請求項9】
乳製品、ヨーグルト、アイスクリーム、乳製品ベーススムージー、乳製品トッピング、プディング、ミルクセーキ、カスタード、チーズ、栄養バー、エネルギーバー、朝食バー、糖菓、ベーカリー、クラッカー、クッキー、ビスケット、穀物チップ、トレイルミックス、アイスティーミックス、果物ジューススムージー、体重管理ドリンク、レディートゥードリンク飲料、スポーツドリンク、持久ドリンク、補助食品粉末ドリンクミックス、幼児および乳児粉ミルク、カルシウム強化オレンジジュース、パン、クロワッサン、シリアル、パスタ、パン用スプレッド、無糖のキャンディーおよびチョコレート、カルシウムキャンディチューズ、肉製品、代替肉、大豆ミート、マヨネーズ、サラダ用ドレッシング、木の実で作ったバター、冷凍アントレ、ソース、スープ、ならびに調理済み食品から選択される、請求項8記載の食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低分子イヌリン水溶液の製造方法、低分子イヌリンペーストの製造方法および低分子イヌリンペースト並びに低分子イヌリンを含む食品に関する。
【背景技術】
【0002】
イヌリンは、フルクタングループに属する多糖である。イヌリンの分子構造は、スクロースのフルクトース残基にフルクトース分子がβ(2,1)結合で直鎖上に結合したものである。イヌリンは様々な植物によって作られる。例えば、チコリ根、ダリア塊茎、菊芋、アーティチョーク等である。
【0003】
植物から抽出したイヌリンは、様々な鎖長を含む。高分子側のイヌリンを選択的に濃縮することにより、長鎖イヌリンを得る発明が開示されている(例えば、特許文献1)。
この長鎖イヌリンの特性として、通常のイヌリンに比べ、加熱処理または酸処理に対して高い安定性を示すクリームに加工することができること、高いゲル強度を有すること等が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の長鎖イヌリンを得る方法は、多段階の工程を経る(植物からのイヌリン抽出、遠心分離、ろ過、脱色、エタノール沈殿、凍結乾燥等)。こうした処理は手間であり、実施できる者が実質的にイヌリン製造メーカーに限定されるため、新たな用途開発につながりにくいことが課題であった。
本発明は、簡便な方法でイヌリンの分子量を調製する方法を提供することを目的とする。
また本発明は、簡便な方法で得られたイヌリンを使用することで、新たな用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の技術的構成を有することにより、本発明の課題を解決したものである。
【0007】
(1)水にイヌリンを終濃度で10質量%~90質量%になるよう溶解または分散させたイヌリン水溶液を得る第1工程と、上記水または上記イヌリン水溶液の少なくとも一方にイヌリナーゼを添加する第2工程と、上記イヌリン水溶液中のイヌリンを上記イヌリナーゼによって反応させ、低分子イヌリン水溶液を得る第3工程と、を有する低分子イヌリン水溶液の製造方法。
(2)前記第2工程における前記イヌリナーゼの添加量が、前記水または前記イヌリン水溶液に対して、0.001~50unit/mLgの範囲内にある前記(1)記載の低分子イヌリン水溶液の製造方法。
(3)前記第3工程における前記イヌリン水溶液中のイヌリンと前記イヌリナーゼの反応を静置条件または緩やかな攪拌条件下で行う前記(1)記載の低分子イヌリン水溶液の製造方法。
(4)前記第3工程における前記イヌリン水溶液中のイヌリンと前記イヌリナーゼの反応温度が1℃~90℃の範囲内にある前記(1)記載の低分子イヌリン水溶液の製造方法。
(5)前記第3工程における前記イヌリン水溶液中のイヌリンと前記イヌリナーゼの反応時間が1分間~72時間の範囲内にある前記(1)記載の低分子イヌリン水溶液の製造方法。
(6)前記(1)~(5)いずれかに記載の製造方法によって得られた低分子イヌリン水溶液を、更に冷却する第4工程を行う、低分子イヌリンペーストの製造方法。
(7)イヌリナーゼと、10質量%~90質量%の低分子イヌリンと、水と、を含み、硬さが20~50Nの範囲内にある低分子イヌリンペースト。
(8)前記(1)~(5)いずれかに記載の製造方法によって得られた低分子イヌリン水溶液もしくは前記(6)に記載の製造方法によって得られた低分子イヌリンペーストまたは前記(7)に記載の低分子イヌリンペーストの少なくとも一つを含む食品。
(9)乳製品、ヨーグルト、アイスクリーム、乳製品ベーススムージー、乳製品トッピング、プディング、ミルクセーキ、カスタード、チーズ、栄養バー、エネルギーバー、朝食バー、糖菓、ベーカリー、クラッカー、クッキー、ビスケット、穀物チップ、トレイルミックス、アイスティーミックス、果物ジューススムージー、体重管理ドリンク、レディートゥードリンク飲料、スポーツドリンク、持久ドリンク、補助食品粉末ドリンクミックス、幼児および乳児粉ミルク、カルシウム強化オレンジジュース、パン、クロワッサン、シリアル、パスタ、パン用スプレッド、無糖のキャンディーおよびチョコレート、カルシウムキャンディチューズ、肉製品、代替肉、大豆ミート、マヨネーズ、サラダ用ドレッシング、木の実で作ったバター、冷凍アントレ、ソース、スープ、ならびに調理済み食品から選択される、前記(8)記載の食品。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、簡便な方法でイヌリンの分子量を調製する方法を提供することができる。イヌリンを使用する者が実施することができる発明であるため、イヌリンの使用用途を増やすことにつながる。
本発明によれば、得られた低分子イヌリン水溶液または低分子イヌリンペーストを大豆ミート等の代替肉に使用することにより、大豆ミート等の代替肉の硬さ、凝集性及びそしゃく性が増大させることができる。従来の大豆ミート等の代替肉における課題であった柔らかくて歯応えがない課題を解決することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】低分子イヌリンペーストに関するテクスチャー解析結果である。
【
図2】低分子イヌリンペーストの硬さを示した図である。
【
図3】低分子イヌリンペーストの付着性を示した図である。
【
図4】低分子イヌリンペーストの凝集性を示した図である。
【
図5】低分子イヌリンペーストの弾力性を示した図である。
【
図6】低分子イヌリンペーストのそしゃく性を示した図である。
【
図7】大豆ミートに関するテクスチャー解析結果である。
【
図10】大豆ミートのそしゃく性を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<実施形態1:低分子イヌリン水溶液の製造方法>
本発明の低分子イヌリン水溶液の製造方法は、水にイヌリンを終濃度で10質量%~90質量%になるよう溶解または分散させたイヌリン水溶液を得る第1工程と、上記水または上記イヌリン水溶液の少なくとも一方にイヌリナーゼを添加する第2工程と、上記イヌリン水溶液中のイヌリンを上記イヌリナーゼによって反応させ低分子イヌリン水溶液を得る第3工程と、を有する。
本発明の低分子イヌリン水溶液の製造方法は、イヌリン水溶液中のイヌリンをイヌリナーゼによって低分子化することを一特徴とする。
【0011】
(第1工程)
第1工程は、水にイヌリンを終濃度で10質量%~90質量%になるよう溶解または分散させたイヌリン水溶液を得る工程である。
イヌリンは水に分散していればよく、完全に溶解している必要はない。イヌリンは水に略均一に分散していることが好ましい。すなわち、イヌリン水溶液中のイヌリンはコロイドとして分散してもよい。イヌリン水溶液中に存在するイヌリンの一部が、イヌリン水溶液中に完全に溶解せず分散して存在することによって、後述する低分子イヌリンペーストを得やすくなるため好ましい。
【0012】
水を加温しておくことで、イヌリンを水に溶解または分散させやすくなり好ましい。水の加温温度は30℃~100℃の範囲内であってよく、40℃~90℃の範囲内であってよく、50℃~80℃の範囲内であってもよい。20℃~25℃程度の常温でイヌリンを水に溶解または分散させる場合、イヌリンを水に添加した段階で硬いダマを生じることがある。このダマは撹拌で崩すことが難しいため、上記の温度に加温してイヌリンを添加することが好ましい。
イヌリンを水に溶解または分散させたイヌリン水溶液は、そのままの温度を保ってもよいし、温度を変化させてもよい。加温状態にあるイヌリン水溶液を冷却することで、該イヌリン水溶液に含まれるイヌリンの溶解度が下がる傾向にあり、該イヌリン水溶液は白濁しやすくなる。
【0013】
イヌリン水溶液中のイヌリンは、10質量%~90質量%の範囲内にあることが必要であり、30質量%~90質量%の範囲内にあることが好ましく、35質量%~80質量%の範囲内にあることがより好ましく、40質量%~70質量%の範囲内にあることがさらに好ましい。
イヌリン水溶液中のイヌリンが10質量%未満であると、後述するイヌリンペーストを得にくくなり好ましくない。
イヌリン水溶液中のイヌリンが90質量%超であると、水にイヌリンを溶解又は分散させにくくなり好ましくない。
【0014】
イヌリン水溶液のpHは2.0~10.0の範囲内にあることが好ましく、3.0~8.0の範囲内にあることがより好ましく、4.0~7.0の範囲内にあることがさらに好ましい。
イヌリン水溶液のpHが2.0未満であると、後述するイヌリナーゼを添加することなくイヌリンが分解しやすくなり、本発明を使用する必要性が低い。
【0015】
(第2工程)
第2工程は、第1工程で使用する水または第1工程で得られたイヌリン水溶液の少なくとも一方に対して、イヌリナーゼを添加する工程である。
イヌリナーゼはイヌリンを分解し低分子化する作用を有するものであればよい。イヌリナーゼはエキソ型またはエンド型のいずれかであっても良いし、エキソ型およびエンド型の性質を有するものであってもよい。エキソ型およびエンド型の性質を有するよう、複数のイヌリナーゼを混合して使用しても良い。
本発明においては、エンド型のイヌリナーゼを使用することが好ましい。イヌリン分子の内側から分解することで、適度な大きさの低分子イヌリンを得やすくなる。
イヌリンまたは低分子イヌリンをより低分子にするには、イヌリン分子の末端を分解するエキソ型のイヌリナーゼ(インベルターゼ)を使用してもよい。インベルターゼによって、イヌリンの末端に存在する単糖が上記イヌリンから切断される。
【0016】
特許文献1のように、長鎖のみで構成されるイヌリンを用いると、イヌリン分子がほとんど水に溶けず、イヌリンペースト中において結晶化し硬くなる。
これに対して、分子量分布の広い一般的なイヌリン(チコリ等の植物由来)を用いると、一部のイヌリンは水に溶解するが、溶けきらなかったイヌリン同士は絡み合い、その構造の内部にイヌリン水和物(溶解したイヌリン)を含む形でクリーム様のゲルとなる。得られるイヌリンペーストは柔らかくなる。
本発明のように、イヌリン水溶液に含まれるイヌリンに対してイヌリナーゼを作用させ、水に溶けない範囲でイヌリン鎖長が短くなると、イヌリナーゼを作用させなかったものと比べイヌリン構造がより密に絡むようになる。また、水に溶ける鎖長のイヌリンが増えると、構造内部のイヌリン水和物の濃度が高まり、イヌリン構造自体が強固になると考えられる。すなわち、本発明によって得られる低分子イヌリンペーストは、特許文献1のイヌリンペーストよりも柔らかく、植物由来のイヌリン(イヌリナーゼを作用させないもの)から調製したイヌリンペーストもよりも硬くなる傾向を示す。
【0017】
イヌリナーゼの添加量は、エンド型のイヌリナーゼ活性とエキソ型のイヌリナーゼ活性の合計値として、添加対象物である水または前記イヌリン水溶液に対して、~0.0001~100unit/g(終濃度)の範囲内にすることが好ましい。イヌリナーゼの添加量は、0.001~50unit/gの範囲内にあることがより好ましく、0.01~10unit/gの範囲内にあることがさらに好ましく、0.02~2.5unit/gの範囲内にあることが特に好ましい。0.05~1.0unit/gの範囲内としてもよい。
同様に、エンド型のイヌリナーゼの添加量は0.001~50unit/gの範囲内にあることがより好ましく、0.01~10unit/gの範囲内にあることがさらに好ましく、0.02~2.5unit/g(終濃度)の範囲内であることが特に好ましい。0.05~1.0unit/gの範囲内としてもよい。
エキソ型のイヌリナーゼの添加量は1unit/g(終濃度)以下であることが好ましく、0.1unit/g以下であることがより好ましく、0.01unit/g以下であることがさらに好ましく、0.001unit/g以下であることが特に好ましい。0.0005unit/g以下であってもよい。下限値は特に限定されないが、例えば、0.00001unit/g以上である。
イヌリナーゼの添加量が下限値未満であると、イヌリンの低分子化が進みにくくなり好ましくない。
イヌリナーゼの添加量が上限値超であると、イヌリンの酵素反応速度にあまり変化が無いため、経済的ではない。
ここで、イヌリナーゼの酵素単位(unit)は、以下の方法により定義される。1/10M酢酸緩衝液(pH5.0)で希釈した酵素液0.2mLを50℃で5分間加温した後、50℃で加温した2.0%イヌリン溶液(エンド型のイヌリナーゼ活性)または1.5%スクロース溶液(エキソ型のイヌリナーゼ活性)0.2mLを加える。50℃で30分間静置後、生成した還元糖を3,5-ジニトロサリチル酸法により550nmの吸光度で比色定量した。酵素単位は50℃において酵素液1gあたり1分間に1μモルの還元糖を生成する酵素量を1unitとした。
【0018】
イヌリナーゼを添加する水(第1工程)またはイヌリン水溶液(第2工程)の温度は、イヌリナーゼが完全に失活する温度でなければよい。例えば、1℃~90℃の範囲内であることが好ましく、30℃~80℃の範囲内であることがより好ましく、40℃~70℃の範囲内であることがさらに好ましい。
水またはイヌリン水溶液の温度が低すぎると、酵素反応に要する時間が長くなり好ましくない。
水またはイヌリン水溶液の温度が高すぎると、イヌリナーゼが失活しやすくなり好ましくない。
【0019】
(第3工程)
第3工程は、イヌリン水溶液中のイヌリンをイヌリナーゼによって反応させ低分子イヌリン水溶液を得る工程である。
本明細書においては便宜上、第2工程と第3工程を分けて記載しているが、第2工程においてイヌリンとイヌリナーゼが接触したときに第3工程となっており、第2工程と第3工程は密接に関連する。
【0020】
第3工程は、撹拌して行っても良いし、静置して行っても良い。第3工程を静置または緩やかな撹拌条件下で行うことが好ましい。静置または緩やかな撹拌条件下を選択すると、後述する低分子イヌリンペーストの硬度が増大する傾向となる。
第3工程を静置または緩やかな撹拌条件下で行うことで、イヌリン水溶液中におけるイヌリン構造が剪断されにくくなり、強固な構造が保たれると考えられる。
【0021】
第3工程の反応温度は1℃~90℃の範囲内であることが好ましく、30℃~80℃の範囲内であることがより好ましく、40℃~70℃の範囲内であることがさらに好ましい。
第3工程の反応温度が低すぎると、酵素反応に要する時間が長くなり好ましくない。
水またはイヌリン水溶液の温度が高すぎると、イヌリナーゼが失活しやすくなり好ましくない。
【0022】
第3工程の反応時間は1分間~72時間の範囲内にあることが好ましく、10分間~24時間の範囲内にあることがより好ましく、30分間~6時間の範囲内にあることがさらに好ましい。
第3工程の反応温度が40~70℃の範囲内であれば、30分間~6時間の反応時間にすることで、好ましい低分子イヌリン水溶液を得ることができる。
【0023】
<実施形態2:低分子イヌリンペーストの製造方法>
実施形態1で得られた低分子イヌリン水溶液を更に冷却する第4工程を行うことによって、なめらかな低分子イヌリンペーストを得ることができる。
低分子イヌリンペーストは低分子イヌリン水溶液に比べると、粘度が高まった状態(クリーム状)である。
低分子イヌリン水溶液中の低分子イヌリンをペースト化するには、(1)ペースト化する温度において、該イヌリン水溶液中に溶解度以上の該イヌリンが存在すること、(2)該低分イヌリン水溶液を常温以下の温度で冷却し低分子イヌリンペーストとすること、が必要である。加温した水において、溶解度以上の該イヌリンが存在していてもよい。
ある温度の低分子イヌリン水溶液において、溶解度以上の低分子イヌリンが存在しているか否かは、該イヌリン水溶液が白濁していれば溶解度以上のイヌリンが存在していると判断することができ、該イヌリン水溶液が透明か半透明であれば溶解度以上のイヌリンが存在していないと判断することができる。イヌリン水溶液中のイヌリンがイヌリナーゼ未反応であっても同様である。
実施形態2の低分子イヌリンペーストは、イヌリナーゼと、10質量%~90質量%の低分子イヌリンと、水と、を含む。後述するように、該イヌリンペーストは硬さが20~50Nの範囲内にある。なめらかな低分子イヌリンペーストとするには、(1)水に溶ける短鎖長のイヌリンと、水に溶けにくい長鎖長のイヌリンが混在すること、(2)該低分子イヌリンを水に分散させる際、水を十分に加熱する、撹拌しながら添加する、少量ずつ添加する等の処理により、ダマの発生を防ぐことが必要である。
実施形態1で示す内容は、そのまま実施形態2で使用することができる。
【0024】
低分子イヌリン水溶液の冷却温度は、該水溶液が凍らない温度であって、室温よりも低い温度であれば制限されない。例えば、0℃~15℃の範囲内であることが好ましく、1℃~10℃の範囲内であることがより好ましい。
低分子イヌリンペーストを0℃~15℃の範囲内で保存すれば、該ペーストの状態で維持することができる。
【0025】
低分子イヌリン水溶液の冷却時間は、該水溶液の冷却温度や該水溶液の量にもよるが、1時間~72時間の範囲内であることが好ましく、6時間~60時間の範囲内であることがより好ましく、12時間~48時間の範囲内であることがさらに好ましい。
【0026】
本実施形態における低分子イヌリンペーストの硬さは、低分子イヌリン水溶液を調製するときに使用したイヌリナーゼの添加量に依存して増大する。本実施形態における低分子イヌリンペーストの硬さは、20~50Nの範囲内であることが好ましく、20~30Nの範囲内であることがさらに好ましい。
本実施形態における低分子イヌリンペーストの硬さは、低分子イヌリン水溶液を調製するときに使用したイヌリンの添加量に依存して増大する。
【0027】
本実施形態における低分子イヌリンペーストの凝集性、弾力性、そしゃく性及び付着性は、低分子イヌリン水溶液を調製するときに使用したイヌリナーゼの添加量によって異なる傾向を示す。該イヌリナーゼの添加量は0.0001~100unit/g(終濃度)の範囲内にすることが好ましい。イヌリナーゼの添加量は、0.001~50unit/gの範囲内にあることがより好ましく、0.01~10unit/gの範囲内にあることがさらに好ましく、0.02~2.5unit/gの範囲内にすることが特に好ましい。0.05~1.0unit/gの範囲内としてもよい。
低分子イヌリンペーストの凝集性を高める観点からは、上記イヌリナーゼの添加量を0.005~0.05unit/gの範囲内にすることが好ましい。
低分子イヌリンペーストの弾力性を高める観点からは、上記イヌリナーゼの添加量を0.05~0.5unit/gの範囲内にすることが好ましい。
低分子イヌリンペーストのそしゃく性を高める観点からは、上記イヌリナーゼの添加量を0.05~0.5unit/gの範囲内にすることが好ましい。
低分子イヌリンペーストの付着性を高める観点からは、上記イヌリナーゼの添加量を0.02~2.5unit/gの範囲内にすることが好ましい。
イヌリンが過度に分解され、1バイト目で低分子イヌリン同士の結着が低下することを防ぐために上記の濃度設定としているが、実施形態3のように低分子イヌリンペーストを食品に添加する際には、低分子イヌリンが食品中の他の成分(たんぱく質等)と結着しやすくなるため、上記の限りでない。
【0028】
<実施形態3:低分子イヌリン水溶液または低分子イヌリンペーストを含む食品>
実施形態1によって得られた低分子イヌリン水溶液または実施形態2によって得られた低分子イヌリンペーストを食品に使用することで、該食品の物性を改変することができる。
食品中の低分子イヌリン水溶液または低分子イヌリンペーストの含有量は1%~50%の範囲内であることが好ましく、3%~30%の範囲内であることがより好ましく、5%~20%の範囲内であることがさらに好ましい。
【0029】
実施形態3における食品用途としては、例えば、乳製品、ヨーグルト、アイスクリーム、乳製品ベーススムージー、乳製品トッピング、プディング、ミルクセーキ、カスタード、チーズ、栄養バー、エネルギーバー、朝食バー、糖菓、ベーカリー、クラッカー、クッキー、ビスケット、穀物チップ、トレイルミックス、アイスティーミックス、果物ジューススムージー、体重管理ドリンク、レディートゥードリンク飲料、スポーツドリンク、持久ドリンク、補助食品粉末ドリンクミックス、幼児および乳児粉ミルク、カルシウム強化オレンジジュース、パン、クロワッサン、シリアル、パスタ、パン用スプレッド、無糖のキャンディーおよびチョコレート、カルシウムキャンディチューズ、肉製品、代替肉、大豆ミート、マヨネーズ、サラダ用ドレッシング、木の実で作ったバター、冷凍アントレ、ソース、スープ、ならびに調理済み食品がある。
【0030】
低分子イヌリン水溶液は液状の用途に使用することが好ましく、低分子イヌリンペーストは固体状および半固体状の食品用途に使用することが好ましい。
低分子イヌリンペーストはタンパク質を含む固体状および半固体状の食品用途に使用することがより好ましい。低分子イヌリンが該食品に含まれるタンパク質間のつなぎとなり、硬さ、凝集性、そしゃく性が増大する傾向にある。低分子イヌリンペーストの食品用途として、栄養バー、エネルギーバー、朝食バー、糖菓、ベーカリー、クラッカー、クッキー、ビスケット、穀物チップ、パン、クロワッサン、シリアル、パスタ、パン用スプレッド、無糖のキャンディーおよびチョコレート、カルシウムキャンディチューズ、肉製品、代替肉、大豆ミートに好ましく使用することができる。これらの中でも代替肉、大豆ミートが好ましく、大豆ミートがさらに好ましい。
【0031】
<実施形態4:低分子イヌリン水溶液または低分子イヌリンペーストを含む代替肉の製造方法>
代替肉とは、植物タンパク質を含有する原料を加工して調製される加工食品を意味する。植物タンパク質としては、豆類のタンパク質、穀類のタンパク質、種子のタンパク質、キノコ類のタンパク質、芋類のタンパク質が挙げられる。豆類としては、大豆、エンドウ豆、ソラ豆、緑豆、ヒヨコ豆、ルピン豆、落花生が挙げられる。穀類としては、小麦、大麦、ライ麦、そば、米、トウモロコシが挙げられる。種子としては、ひまわりの種、かぼちゃの種、菜種、胡麻、キヌア、チアシード、麻の実、アーモンドが挙げられる。代替肉は、「疑似肉」または「ベジミート」、「植物肉」ともいう。代替肉としては、特に、大豆タンパク質を含有する原料を加工して調製されたもの(「大豆ミート」ともいう)が挙げられる。代替肉に含有されるタンパク質は、全部が植物タンパク質であってもよく、一部のみが植物タンパク質であってもよい。すなわち、代替肉は、例えば、食肉を含有していてもよく、いなくてもよい。
【0032】
本発明においては、代替肉として市販されているものを使用することができる。代替肉をみずから製造してもよい。代替肉の形状は特に限定されない。粉状のものであっても、粒状のものであっても、組織化されているものであってもよい。市販されている代替肉は、大豆ミートが主であり、粉状の大豆ミート、粒状の大豆ミート、組織化されている大豆ミートを購入することができる。
【0033】
市販の代替肉にまたはみずから代替肉を製造する工程において、上記各実施形態で得られた低分子イヌリン水溶液または低分子イヌリンペーストを添加後、混錬し、必要に応じて成形・加熱等の加工を経ることによって、本実施形態の代替肉を得ることができる。
代替肉中の低分子イヌリン水溶液または低分子イヌリンペーストの含有量は1%~50%の範囲内であることが好ましく、3%~30%の範囲内であることがより好ましく、5%~20%の範囲内であることがさらに好ましい。
低分子イヌリン水溶液を使用する場合、代替肉にそのまま添加することが好ましい。
低分子イヌリンペーストを使用する場合、代替肉に対して、まず100~1000%(w/w)の水を添加して代替肉を膨潤させた後、低分子イヌリンペーストを添加してもよい。
上記代替肉として、大豆ミートを使用することが好ましい。上記における「代替肉」を「大豆ミート」に読み替えたものも本発明の範囲に含まれる。
【0034】
<原材料>
以下、本発明および各実施形態において好ましく使用することができる原材料を説明する。
【0035】
(イヌリン)
本発明に使用するイヌリンは特に制限されない。植物から抽出・精製した市販のものを用いても良いし、合成したものを用いてもよい。イヌリンを含有する書屈物としては、例えば、チコリ根、ダリア塊茎、菊芋、アーティチョーク等が挙げられる。植物の種類によって、イヌリンの鎖長が異なる傾向にあるが、基本分子構造は同じであるため、酵素反応時間、酵素濃度等を調整すればよい。
【0036】
(イヌリナーゼ)
イヌリナーゼはイヌリンを分解する作用を有するものであれば、特に制限されない。添加するイヌリナーゼの起源は特に限定されないが、植物由来または微生物由来の酵素を使用することができる。微生物由来のイヌリナーゼは、安定的に製造することができることから好ましい。イヌリナーゼを産生する微生物としては、例えば、タラロマイセス属、ペニシリウム属、アスペルギルス属、クリベロマイセス属、バチルス属、ストレプトマイセス属、アルスロバクター属等が挙げられる。
これらのなかでもタラロマイセス属、ペニシリウム属、アスペルギルス属、クリベロマイセス属、バチルス属が好ましい。より詳細にはタラロマイセス・アメストルキア、ペニシリウム・パープロゲナム、アスペルギルス・ニガー、クリベロマイセス・マーキシアヌス、バチルス・サーキュランスに由来するイヌリナーゼを使用することが好ましい。 イヌリナーゼは単独で使用してもよいし、複数を混合して使用してもよい。
【実施例0037】
次に実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明は何らこれに限定されるものではない。
【0038】
(実施例1)低分子イヌリン水溶液及び低分子イヌリンペーストの製造方法
蒸留水30gを60℃で30分間予備加温した後、撹拌しながらイヌリン(GronG, 株式会社Ultimate Life販売製 商品名:水溶性食物繊維) 20gとイヌリナーゼ(合同酒精株式会社製 商品名:GODO-INUL)を添加(終濃度で0.02、0.2、2unit/g)し、60℃で30分間静置で溶解、反応させ、低分子イヌリン水溶液を得た。
この低分子イヌリン水溶液を氷水で1時間冷やした後、10℃の冷蔵庫内で2時間冷却し、低分子イヌリンペーストを得た。
【0039】
(実施例2)低分子イヌリンペースト入り大豆ミートの製造方法
市販の粒状の大豆ミート(ニチエー株式会社 商品名:粒状大豆たんぱく)に6倍量の水を加え、10℃で1時間浸漬させた。水を切り、実施例1で調製したイヌリンペーストを10質量%となるように添加してブレンダー(デロンギ・ジャパン株式会社 商品名:ブラウン マルチクイック7ハンドブレンダー)で30秒間、最大回転速度で破砕し、大豆ミートを調製した。得られた大豆ミートを10gとり、2cm四方の立方体に成形したものを電子レンジで600W、80秒間加熱した。10分間放置して常温まで冷まし、テクスチャー解析を行った。
【0040】
(テクスチャー解析)
実施例1の低分子イヌリンペースト及び実施例2の大豆ミートについて、クリープメータを用いて、テクスチャープロファイルから得られるデータ(2-バイト法)に基づき、硬さ、付着性、凝集性、弾力性およびそしゃく性を評価した。
硬さ(H):負荷を与えた際の最大荷重。半固形食品では治具断面積で割った応力になる。
付着性(A3):粘着性を持っている場合に引き離されにくいかどうかの量。食品表面とそれに接している他の物を引き放すのに必要な力。
凝集性(A2/A1):1ストローク目と2ストローク目の圧縮エネルギーの比、変形量。食品を形づくっている内部結合力。
弾力性(T2/T1):最大ピークに至る変化量の1ストローク目と2ストローク目の比。外力によって変形したものが、力を取り去ったとき元に回復する程度。
そしゃく性(硬さ×凝集性×弾力性):値が高いほどそしゃくにエネルギーを要するといえる。固形食品を飲み込める状態にまでそしゃくするのに要するエネルギー。
【0041】
分析装置には、クリープメータ RE2-33005C(山電)を用いた。非破断条件におけるテクスチャー解析は、No.3(イヌリンペースト測定時)またはNo.1(イヌリンペースト含有大豆ミート測定時)を用いて、アンプ倍率1倍、格納ピッチ0.02sec、測定歪率66.67%、測定速度5mm/sec、戻り距離10mm、サンプル厚さ自動測定の条件で測定した。
【0042】
(結果)実施例1の低分子イヌリンペーストでは、
図1に示されるように、イヌリナーゼを添加することで硬さと付着性が増大していることがわかる。これらの結果は
図2および3からも読み取れる。また、
図4~6に示されるように、凝集性、弾力性、そしゃく性はイヌリナーゼを0.01%添加した場合に増大していることがわかる。イヌリンが低分子化することで、イヌリン構造が強固となり、ペースト全体の結着性が増したと推察された。しかしイヌリンを過度に分解すると、1度目のプランジャー挿入でイヌリン分子同士の結着が低下し、2度目のプランジャー挿入の際には荷重が小さくなると考えられる。そのためにイヌリナーゼ 0.1%以上添加では凝集性、弾力性、そしゃく性が低下すると推察された。
実施例2の大豆ミートでは、
図7に示されるように、イヌリナーゼを作用させた低分子イヌリンペーストを添加することで、硬さが増していることが分かる。この結果は
図8からも読み取れる。また、
図9~10に示されるように、凝集性とそしゃく性も増大した。実施例1と異なり、弾力性とそしゃく性がイヌリナーゼ1.0%添加で最も大きくなった。前述の通り、ペースト単体では1回目のプランジャー挿入で結着性が低下する低分子イヌリンが、大豆ミート内部に存在することで、周りの大豆タンパク質と結着するため、分解度が高いほど凝集性やそしゃく性も増したと考えられる。