(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024164996
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】パスボックス
(51)【国際特許分類】
F24F 7/06 20060101AFI20241121BHJP
【FI】
F24F7/06 C
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080790
(22)【出願日】2023-05-16
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-10-15
(71)【出願人】
【識別番号】594187253
【氏名又は名称】岡谷精立工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079980
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 伸行
(74)【代理人】
【識別番号】100167139
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 和彦
(72)【発明者】
【氏名】川喜多 哲
(72)【発明者】
【氏名】堀江 信吾
【テーマコード(参考)】
3L058
【Fターム(参考)】
3L058BF09
3L058BG04
(57)【要約】
【課題】高清浄空間と低清浄空間との間で物品出し入れに供するパスボックスにおいて、搬入する物品サイズに応じて、低清浄空間側の扉であるシャッターが必要とする最小開口面積まで拡がるパスボックスを提供する。
【解決手段】低清浄空間側のシャッター(3)はこのパスボックス(1)から低清浄空間側に一定風量(22)の空気が流れ出ている初期開口を持ち、この一定風量の時のパスボックス内と低清浄空間との圧力差を所定圧力として、あるいは、この一定風量の時のパスボックス内に流れる風量を所定風量として特定し、受渡し物品7がこの初期開口に近づくと、パスボックス内の圧力上昇を検出し、あるいはパスボックス内に流れる風量減少を検出して、所定圧力あるいは所定風量を維持するようにシャッター(3)を開閉させて、シャッター(3)部分の最小開口面積で受渡し物品7の搬入を可能にする。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高清浄に管理された密閉空間と低清浄の開放空間との間を空間的に連通して物品の受渡しが可能なパスボックスがあり、このパスボックスから前記開放空間に向けて一定風量の空気が流れ出ている初期開口部を設けかつ前記開放空間側の開口面積を可変するシャッターを設けたパスボックスにおいて、
前記流れ出ている時の前記パスボックス内と前記開放空間との圧力差を所定圧力として、および/または、前記流れ出ている時のパスボックス内に流れる風量を所定風量として特定し、
前記物品が、前記開放空間から前記パスボックス内に搬入される時に、前記所定圧力および/または前記所定風量を維持するように制御しながら前記シャッターを移動し、
前記低清浄の開放空間側かつ前記シャッターに隣接する開口部は、前記シャッターの前記移動によって前記開口面積が前記初期開口部の隙間面積から変えられて、前記パスボックス内に前記物品の前記搬入を可能とすることを特徴とするパスボックス。
【請求項2】
高清浄に管理された密閉空間と低清浄の開放空間との間を空間的に連通して物品の受渡しが可能なパスボックスがあり、このパスボックスから前記開放空間に向けて一定風量の空気が流れ出ている初期開口部を設けかつ前記開放空間側の開口面積を可変するシャッターを設けたパスボックスの前記シャッターを動かす方法において、
前記流れ出ている時の前記パスボックス内と前記開放空間との圧力差を所定圧力として、および/または、前記流れ出ている時のパスボックス内に流れる風量を所定風量として特定するステップと、
前記物品が、前記開放空間から前記パスボックス内に搬入される時に、前記所定圧力および/または前記所定風量を維持するように制御しながら前記シャッターを移動するステップと、
を有し、
前記低清浄の開放空間側かつ前記シャッターに隣接する開口部は、前記シャッターの前記移動によって前記開口面積が前記初期開口部の隙間面積から変えられて、前記物品を前記パスボックス内に搬入可能とすることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリーンルームなどの高い清浄環境で使用する材料、培養細胞や培地あるいは薬の原薬とその製品などの物品を、清浄環境の状態で受け渡しを行うために用いるパスボックスに関する。
【背景技術】
【0002】
クリーンルーム、アイソレーターあるいはグローブボックス、クリーンベンチ、安全キャビネットと称される除染対象環境のように高清浄に管理された密閉空間と、それに隣接する清浄度管理の緩い低清浄の開放空間との間には、互いに隔離するための壁が設けられて通気連通しないように遮蔽されている。そこで、高清浄の密閉空間内で使用する材料や完成した製品等の物品は、密閉空間であるクリーンルームに隣接して設けてあるインターフェイスチャンバーあるいはパスボックスと称される筐体を経由して外部の低清浄の開放空間との間で受け渡しを行っている。
【0003】
このパスボックスの一般的な構造は、約500~600mmの開口面を持つ鋼板製直方筐体に二重の扉(高清浄管理される除染対象環境の空間側および低清浄管理になる汚染物質が比較的多い空間側のそれぞれに一つずつの扉)を設け、この扉を使用者が手前に回転させながら手元に引いて開けられるように、縦枠に蝶番やピボットヒンジを備え、90度以上の回転開き角になる横片開き扉を備えている装置が多い。そして、扉を閉じた後はパスボックス内部と低清浄管理の空間側との遮蔽を確実にするために、ラッチハンドルで隙間を与えないように密閉している。他の扉としては、横方向に水平移動させる簡易構造の横引き戸型扉も利用されているが、密閉性の維持が難しい観音開き型あるいは折れ戸型の扉は用いられていない。
【0004】
このパスボックスは、低清浄管理空間の塵埃や細菌が高清浄管理の空間に侵入しないように扉を閉じることで空気流を遮断するが、物品の搬入・搬出時は扉が全開になり、パスボックスの開口面積の全てが低清浄管理空間に接する。この扉を全開にする際には、塵埃の浸入が防げないので、扉を閉じた後にエアーシャワーにより塵埃を吹き飛ばし、殺菌灯を用いて細菌除去、過酸化水素ミストによる除染やフィルターで洗浄した空気の循環によりパスボックス内の清浄化を維持している。さらに、パスボックス内部に隔壁を設けて複数ゾーンの区分け構造にして、受渡し物品が順番にゾーンを移動する機能や、あるいは、パスボックスを常に陽圧にすることで低清浄空間の塵埃が入りにくい機能を与える装置もある。
【0005】
そのような清浄化機能を設けることでパスボックス内の汚染は防止されるので、使用者は横片開き扉を90度以上に全開させて、受渡し物品の搬入・搬出をする。この横片開き扉の開閉時は、扉周辺空気が誘引、圧縮を起こして乱流を起こすが、これによって低清浄空間の塵埃や細菌を多く侵入させたとしても、殺菌灯、過酸化水素ミスト、あるいは清浄循環空気でエアーシャワーを与える等の清浄化手段によって高清浄管理の空間の汚染物を低減している。
【0006】
しかしながら、上記のような扉全開による乱流発生と、それに伴う塵埃の侵入を少なくできれば、前述の清浄化手段を設けるとしてもその手段の負担は軽くなり、より製造容易なパスボックスを提供できる。そこで、特許文献1(特開平6-82069号公報)では上下に扉を分けておき、上下を同時に動作させるのではなく、片側を移動させることで乱流発生を軽減する手段が提案されている。この手段は、乱流発生を軽減できるが、受渡し物品のサイズにかかわらずパスボックスの扉は全開するので、大きな開口を開けて低清浄空間側と接することになる。
【0007】
特許文献1の例とは異なり、多く利用されている構造は前述した横片開き扉である。この扉は特許文献1と同様にパスボックスの大きさでその扉サイズが決まるので、大きく開口する扉になる。すなわち、受渡し物品のサイズが小さい場合であっても、その大きさに関係なく、横片開き扉は使用時に全開されている。したがって、パスボックスは低清浄空間に対して受渡し物品にとって必要以上の広い開口になる。しかしながら、不必要な空気の侵入を防ぐ観点からは、扉の開口部の大きさが受渡し物品の通過できる程度の最小面積であればよい。
【0008】
この観点から、特許文献2(国際公開2021/250806号公報)は、受渡し物品の2種類のサイズに対応するように、大きさの異なる2つのパスボックスを配置している。すなわち、サイズの小さなパスボックスは小物の受渡し物品用として、サイズの大きなパスボックスは大物の受渡し物品用として使う2段構造である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平6-82069号公報
【特許文献2】国際公開2021/250806号公報(特許7032567号)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献2の構造であれば、不必要に大きな開口のパスボックスにはならない。しかしながら、この構造では2種類のみのサイズの受渡し物品には不必要な開口にならないようにできるが、この2段構造のパスボックスは不確定に多くのサイズの受渡し物品に対応するものではない。より多くの異なるサイズの受渡し物品につき最小面積の開口部として対応できるパスボックスがあれば、使用者は受渡し物品のサイズを気にすることなく高清浄空間と低清浄空間との間の受け渡しができるので、極めて望ましいパスボックスとなる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の本発明の装置は「高清浄に管理された密閉空間と低清浄の開放空間との間を空間的に連通して物品の受渡しが可能なパスボックスがあり、このパスボックスから前記開放空間に向けて一定風量の空気が流れ出ている初期開口部を設けかつ前記開放空間側の開口面積を可変するシャッターを設けたパスボックスにおいて、
前記流れ出ている時の前記パスボックス内と前記開放空間との圧力差を所定圧力として、および/または、前記流れ出ている時のパスボックス内に流れる風量を所定風量として特定し、
前記物品が前記開放空間から前記パスボックス内に搬入される時に、前記所定圧力および/または前記所定風量を維持するように制御しながら前記シャッターを移動し、
前記低清浄の開放空間側かつ前記シャッターに隣接する開口部は、前記シャッターの前記移動によって前記開口面積が前記初期開口部の隙間面積から変えられて、前記パスボックス内に前記物品の前記搬入を可能とすることを特徴とするパスボックス。」である。
【0012】
第2の本発明の方法は「高清浄に管理された密閉空間と低清浄の開放空間との間を空間的に連通して物品の受渡しが可能なパスボックスがあり、このパスボックスから前記開放空間に向けて一定風量の空気が流れ出ている初期開口部を設けかつ前記開放空間側の開口面積を可変するシャッターを設けたパスボックスの前記シャッターを動かす方法において、
前記流れ出ている時の前記パスボックス内と前記開放空間との圧力差を所定圧力として、および/または、前記流れ出ている時のパスボックス内に流れる風量を所定風量として特定するステップと、
前記物品が前記開放空間から前記パスボックス内に搬入される時に、前記所定圧力および/または前記所定風量を維持するように制御しながら前記シャッターを移動するステップと、
を有し、
前記低清浄の開放空間側かつ前記シャッターに隣接する開口部は、前記シャッターの前記移動によって前記開口面積が前記初期開口部の隙間面積から変えられて、前記物品を前記パスボックス内に搬入可能とすることを特徴とする方法。」である。
【発明の効果】
【0013】
第1の本発明は、受渡し物品の大きさが異なっていても、そのサイズに応じて搬出・搬入口の大きさを変えることができる。そのため、受渡し物品搬出・搬入の際に不必要に大きな隙間を与えることがないので、清浄環境に存在する塵埃や細菌のパスボックス内への侵入を抑制する効果を持つ装置を提供することができる。本発明装置では常に清浄空気を排出しているので受け渡し物品に付着していた異物を除去するのみならず、パスボックス内で新たな付着も起こさない。さらに、本発明では必要最小限の開口面積しか外部に開かないので、パスボックス内の乱流を抑え、過剰な給気風量も抑えるので省エネルギー効果も提供できる。
【0014】
第2の本発明は、第1の本願発明で提供する装置の動作に従って、パスボックス内へ塵埃や細菌のパスボックス内への侵入を抑制する効果を与える方法であり、前記の装置における効果を提供する方法である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】本発明のパスボックスに付属させるシステム構成図である。
【
図3】第1実施例を説明するための、シャッターの開口面積とパスボックス内の陽圧との関係図である。
【
図4】本発明のパスボックスと受渡し物品との相対位置を示す図である。
【
図5】本発明のシャッターの初期開口を示す状態図である。
【
図6】本発明のパスボックスに受渡し物品が近づく状態を示す状態図である。
【
図7】本発明のシャッター動作の説明図であり受け渡し物品が搬入可能になった状態を示す図である。
【
図8】第1実施例を説明する動作フローチャートである。
【
図12】圧力対風量相関特性を利用した第5実施例の動作説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態に係るパスボックスについて図面を参照して説明する。実施の形態を説明するための各図において、同一の構成要素にはなるべく同一の名称を用いるが、名称が異なるとしてもその意味するとことが同じ要素の場合は同じ符号を付して、その繰り返しの説明を省略する。
【0017】
(パスボックスの配置)
図1は本発明のパスボックス1の配置および構成の概略を示す。パスボックス1は2つの扉すなわちシャッター2、3をそれぞれ高清浄管理の空間側4と低清浄管理の空間側5に開閉自在に設けている。ここで、高清浄管理の空間側4は、クリーンルーム、アイソレーターあるいはグローブボックス、クリーンベンチ、安全キャビネットと称される除染対象環境装置の高清浄に管理された密閉空間4であり、低清浄管理の空間側5はこの密閉空間に隣接する低清浄の開放空間5である。高清浄管理の空間側4のシャッター2は除染対象環境装置とパスボックス1との間で受渡し物品を搬入・搬出を開始する際に開き、終了すると閉じる。低清浄管理の空間側5のシャッター3は、除染対象環境装置に壁を介して隣接する開放空間5とパスボックス1との間で受渡し物品を搬入・搬出を開始する際に開き、終了すると閉じる。これらのシャッター2、3は同時に開かないようにインターロックされている。
【0018】
(パスボックスの構造)
さらに
図1のパスボックスの内部構造は、シャッター2、3の下端とほぼ同じ高さに設けた載荷台6に受渡し物品7を移送させるための空き空間8以外は空洞である。この空き空間8の上部に設けたフィルター9を介して送風路10を設けてある。そして、パスボックス1の内部を常に陽圧として保つために、この送風路10から陽圧用の空気をパスボックス1の空き空間8にクリーンエアー11にして送風している。さらに、パスボックス1の内圧は常に大気圧より大きくして且つ低清浄管理空間5より高い陽圧状態になるように、この陽圧状態を低清浄管理空間5との差圧として検出するために、圧力センサー12はシャッター2、3から離れた位置で室内の静圧を検出する。さらに送風量を検知するための風量センサー13を送風路10に設けてもよい。
【0019】
(発明システムを構成する機器)
図2は本発明のパスボックス1に付属させるシステム構成を低清浄管理の空間側5から見た図である。シャッター3は上下方向に移動可能であり、その開閉動作を行うためのコントロールモータ15およびその連結ロッド16がシャッター3に機械的に接続してある。そして、圧力センサー12で検出したパスボックス1の内圧は、低清浄管理空間5より高い陽圧である。この陽圧はコントロールモータ15を制御するためのコントローラ17によって信号ケーブル18を介してパスボックス内の静圧を低清浄管理空間5との差圧として検知している。さらに、このコントローラ17は、使用開始前に所定差圧や所定風量、あるいはいずれか一方の設定およびその表示をする操作パネル19を備えている。
【0020】
(本発明システムの定常状態と原理)
受渡し物品をパスボックスに近づける前に、操作パネル19でシャッター3を少し開けて隙間面積を設けておき、清浄空気の給気を指示する。送風路10から送風された空気は、HEPAフィルター(High Efficiency Particulate Air Filter)等の塵埃を分離するためのフィルター9で清浄化してパスボックス1の内部8に送られる。この時、シャッター3は隙間面積になる開口20にしているので、パスボックス1から
図2に示すように一定風量の排気22をしている。この際は高清浄管理の空間側4のシャッター2を閉鎖してあるので、送風路10を経由したクリーンエアー11は高清浄管理の空間側4に流れないで、全ての風量が初期の開口20、すなわち、隙間面積から低清浄管理の空間側5に排出されている。
【0021】
(陽圧変化とシャッター動作の関係)
図3は、圧力検知でシャッター動作を制御する第1実施例である。
図2に示す初期の開口20によって、パスボックス1の内部8の陽圧P、すなわち、低清浄管理空間の気圧(ほぼ大気圧に等しい)を基準にした差圧(所定圧力)は、静圧として
図3に示すP1の状態であるが、
図4に示すように受渡し物品7がこの初期の開口20に近づくと、初期の陽圧P1よりも上昇ΔPしたことを圧力センサー12が検出し、物品7の近接状態での圧力P2を検出する。そこで、コントローラ17はコントロールモータ15に対してシャッター3を開く、すなわちシャッター3の開口面積を広げる信号を送り、シャッター3が上昇24し、それに伴ってパスボックス1の内部8の陽圧PがP1に下がる。過渡応答でオーバーシュートする場合は再びシャッター3を移動させる。
【0022】
(シャッター動作)
この陽圧変化に伴うシャッター3の動作と開口面積との関係を
図5、
図6、
図7に示す。
図5は受渡し物品7がシャッター3に近づいていない状態を示している。この時の初期の開口20は縦・横がA×Bの開口面積(隙間面積)で、パスボックス1に送風されたエアーの一定風量で排気22を行っている。次に、受渡し物品7がシャッター3に近づくと、
図6に示すようにシャッター部分の開口面積26は縦・横がA×(B1+B2)に少なくされた有効面積に小さくなり、
図3に示す陽圧上昇ΔPになる。そして、コントローラ17がコントロールモータ15にシャッター3の上昇を指示する。さらに、シャッター3の上昇が続くと
図7に示すように、開口面積28が縦・横から(A1×B)―(A2×B3)=(A1―A2)×B3+A1×(B―B3)=A×Bになる。これは、当初の隙間面積20に等しい有効面積になるように、コントローラ17が陽圧上昇ΔP=0になるまでコントロールモータ15を駆動させていることによる。このシャッター動作によって受渡し物品7のサイズに応じた開口部は、最少開口面積28で受渡し物品7をパスボックス1の中に収容できる。さらに受渡し物品7がパスボックス1の中に完全に収容されると、開口部が必要以上に開いているので初期の陽圧よりも下がり、再び陽圧Pが初期の陽圧になるように、シャッター3を下降させる。
【0023】
(第1実施例の動作フローチャート)
図8は圧力検知を利用した第1実施例として、上記の説明をフローチャートにまとめたものである。
(S10)ステップ10は陽圧の所定差圧を所定圧力として設定かつシャッターを少し開けて隙間面積を作る。
(S11)ステップ11は受渡し物品7を近づける。
(S12)ステップ12は陽圧値を検知する。
(S13)ステップ13は所定陽圧値すなわち所定差圧値(所定圧力の値)と比較する。
(S14)ステップ14は検知の陽圧値が高い場合にシャッター3を上昇させて開口量を増やす。すなわち、開口面積を大きくする。
(S15)ステップ15は検知の陽圧値(差圧値)が低い場合にシャッター3を下降させて開口量を減らす。すなわち、開口面積を小さくする。
(S16)ステップ16は所定陽圧値(所定差圧値:所定圧力の値)と一致した場合にシャッターの動作を停止する。
(S17)ステップ17は開いた開口部から受渡し物品7をボックス内に入れる。
(S18)ステップ18は再び陽圧値を検知する。
(S19)ステップ19はステップ16に進み、ステップ20に進む。
(S20)ステップ20はシャッターの動作停止で終了する。
以上のステップの繰り返しで、シャッターの有効面積部分はパスボックス内部8の陽圧を維持した低清浄空間5の塵埃や細菌を浸入させない状態で、受渡し物品7の搬入時汚染を抑える状態にする。したがって、物品7をパスボックス1に搬入する際に必要最小限の開口面積になるのでパスボックス内部8の汚染を抑えることができる。また搬出時は、高清浄に管理された密閉空間4の高圧環境から十分量の排気がされているので、パスボックス内部8は汚染されない。
【0024】
(風量変化とシャッター動作の関係)
第2実施例は圧力センサーの代わりに風量センサーを送風路に設けた例である。
図2に示す初期の開口20(隙間面積)からパスボックス1の内部8に流す風量Q(所定風量)は
図9に示すQ1であるが、ここで
図4に戻って受渡し物品7の状態を見ると、
図4に示すように受渡し物品7がこの初期の開口20を閉塞させつつあるので、風量減少ΔQが風量センサー13で検出され、物品7の近接状態での風量Q2が検知される。そこで、風量と開口面積との関係データを用いてコントローラ17からコントロールモータ15に対してシャッター3の上昇信号を送るので、シャッター3は上昇し、それに伴ってパスボックス1の内部8に流れる風量QがQ1に上昇する。すなわち、第1実施例と同様な動作になる。
【0025】
(第2実施例の動作フローチャート)
図10は風量検知を利用した第2実施例として、上記の説明をフローチャートにまとめたものである。
(S30)ステップ30は所定風量を設定してシャッターを少し開け、隙間面積を作る。
(S31)ステップ31は受渡し物品7を近づける。
(S32)ステップ32は風量を検知する。
(S33)ステップ33は所定風量として設定した風量値と比較する。
(S34)ステップ34は風量が少ない場合にシャッター3を上昇させて開口量を増やす。すなわち、開口面積を大きくする。
(S35)ステップ35は風量が多い場合にシャッター3を下降させて開口量を減らす。すなわち、開口面積を小さくする。
(S36)ステップ36は所定風量の値と一致した場合にシャッター3の動作を停止する。
(S37)ステップ37は開いた開口部から受渡し物品7をボックス内に入れる。
(S38)ステップ38は再び風量値を検知する。
(S39)ステップ39はステップ36に進み、ステップ40に進む。
(S40)ステップ40はシャッターの動作停止で終了する。
以上のステップの繰り返しで、シャッター3の開口面積部分はパスボックス1から初期風量と同じ風量が流れ出る状態になり、パスボックス内部8を汚染することなく、受渡し物品7の搬入・搬出を実行できる状態になり、搬入後に元の開口20、すなわち、隙間面積に戻る工程を繰り返す。
【0026】
(第3実施例の動作フローチャート)
第1実施例および第2実施例は、圧力センサーあるいは風量センサーのどちらかを利用した実施例であるが、この両者を用いる第3実施例を適用してもよい。
図11は初めの調整を圧力検出で行い、風量検知後にシャッター動作を停止する一連の流れ図を示す。
(S50)ステップ50は低清浄空間5の気圧を計測する。
(S51)ステップ51は所定陽圧(所定圧力)とその際の所定風量を設定する。
(S52)ステップ52は受渡し物品7を近づける。
(S53)ステップ53は陽圧を検知する。
(S54)ステップ54は検出陽圧と設定した所定圧力との差圧を比較する。
(S55)ステップ55は差圧が高い場合にはシャッター3を上昇させて開口量を増やし、ステップ53に戻る。
(S56)ステップ56は差圧が低い場合にシャッター3を下降させて開口量を減らし、ステップ53に戻る。
(S60)ステップ60は設定差圧値(所定圧力)と一致した場合に風量を検知する。
(S62)ステップ62はステップ51で設定した所定風量を読み出す。
(S63)ステップ63は検知風量と所定風量を比較する。
(S64)ステップ64は風量が少ない場合にシャッター3を上昇させて開口量を増やす。
(S65)ステップ65は風量が多い場合にシャッター3を下降させて開口量を減らす。
(S66)ステップ66は所定風量値と一致した場合にシャッター3の動作を停止する。
(S67)ステップ67は開いた開口部から受渡し物品7をボックス内に入れる。
(S68)ステップ68は再び風量を検知するステップ60に戻る。
(S69)2度目のステップ63で設定した所定風量と一致した場合にはステップ69のシャッターの動作停止になり終了S70する。
【0027】
(第4実施例)
上記の第3実施例は圧力検知で粗調整してから風量検知で精密調整を行ったが、この逆でもよい。すなわち、第4実施例では初めに風量検知で粗調整してから圧力検知で精密調整をする方法になる。この第4実施例は
図11に示す第3実施例のフローチャートにおける各ステップに記載の圧力に関する項目を風量に置き換え、風量に関する項目を圧力に置き換えて構成する。第3実施例あるいは第4実施例の選択は圧力センサーおよび風量センサーの感度、応答速度、コスト等の条件から設計的に選択することで実施できる。
【0028】
(圧力対風量相関特性を利用した第5実施例)
第1実施例は圧力センサーを用いた圧力管理、第2実施例は風量センサーを用いた風量管理、第3実施例および第4実施例は共に圧力および風量管理でシャッター動作をコントロールしている。ところで、圧力と風量との間には相関関係が特定できる。第5実施例はこの相関関係を利用するものであり、ユーザーが操作パネル19で圧力設定をしても、風量で制御するあるいは風量設定をしても圧力で制御する手段である。
【0029】
(圧力対風量の相関を表す特性曲線)
上記の第3実施例に戻ってみると、両センサーをそれぞれ第1実施例および第2実施例で設置した箇所に設けた場合、パスボックス内部の圧力変化とパスボックス内部を通過して排出される風量との関係は
図12で示す圧力対風量特性を持つ。この
図12は、パスボックス外部の低清浄管理空間5の圧力(ほぼ大気圧)を基準にして、パスボックス内部の静圧との差圧を陽圧(空間5が大気圧とすれば、大気圧よりも高い分の差圧)として記号Pで表す縦軸として、ボックス内を通過して開口部20(26、28)から排出される空気量に相当する風量を横軸にして表す特性曲線である。
【0030】
(第5実施例の動作)
図12において、受渡し物品7が開口部から離れている場合の圧力および風量はA点(Pa、Qa)であるが、受渡し物品7が開口部に近づくにつれて矢印Fに従い、B点(Pb、Qb)に遷移する。ここで上記の第1実施例あるいは第2実施例で説明した動作のどちらかが作用してB点からA点に戻るようにシャッター3が動作する。パスボックス内の空間8の静圧Pとパスボックス内に流れる風量Qとの関係は
図12に示すように一対一の特性になる。なお、この
図12はC点(Pc、Qc)も示しているが、これはシャッター3の異常動作で開口部20が閉塞された場合であり。送風機の破損を防ぐために送風停止になる。この
図12は送風機の能力と送風路10の形状、フィルター9、パスボックス内の空間8の大きさ等で決まる特性であり、コントローラ17にメモリー蓄積されている。
【0031】
(第5実施例の使い勝手)
第5実施例では、ユーザーが操作パネル19で所定風量Qaを設定した場合、メモリー(図省略)から所定陽圧Paを読み出して、パスボックス1に備えた圧力センサー12が圧力Pbを検出してシャッター3を動作させて所定陽圧Paに戻すが、操作パネル19に風量としてQaを表示できる。逆に、ユーザーが所定陽圧Paを入力した場合、風量検知でシャッター3を動作させるが、操作パネル19の表示は陽圧で表示できる。これはユーザーの好みや物品仕様で圧力あるいは風量を選ぶことができる上に、要求される感度や応答性からセンサーを選ぶ設計自由度を与えることにもなる。
【0032】
(異形物品への利用および各種シャッターの適用)
上記実施例では受渡し物品7の立体形状に関して言及していないが、挿入方向に対して直交する断面が一定面積の矩形断面の物品、すなわち直方体の物品を利用することを前提にして
図4に示している。しかしながら、この発明は
図4に示す直方体物品7を対象にするのみならず、挿入方向に直交する断面が徐々にサイズを変える異形の物品にも有効である。例えば、
図13に示すような受渡物品30は先端部31の断面積が小さく、パスボックス内に挿入するに従い徐々に断面積が大きな最大部32になる、あるいは、
図13と異なり、逆に断面積が小さくなるような物品(図省略)では、パスボックスへの挿入の通過断面積に応じてシャッター3を開ければ良いので、パスボックスの開口を必要最小限にできる。そしてさらに、上記の説明では
図6の符号24で示すようにシャッター3が上昇する例で説明したが、この動きに限るものではなく、横引き戸型シャッターとの組み合わせも可能である。その場合はより圧力や風量の精密な制御が可能になり、より多くの各種形状物品に対しても適用可能になる。より詳細に述べると、異形の物品に本発明を適用する場合、(1)物品がシャッター部分を通過する際に、シャッターは物品のどの断面に対しても干渉しないこと、(2)このシャッターが開く方向は予め決めてある条件から、(3)一定風量の空気が流れ出ている初期開口部の一定風量は、シャッター部分を物品が通過中の物品位置によって変わるシャッター開口部と物品断面とにより決まる風量の最大値に合わせるように設定する。このようにすると、パスボックスの開口が必要最小限またはそれに近い状態でどのような形状の物体にも適用し得るものとなる。
【符号の説明】
【0033】
1・・・パスボックス、
2・・・高清浄空間側のシャッター、
3・・・低清浄空間側のシャッター、
4・・・高清浄管理の空間、密閉空間、
5・・・低清浄管理の空間、開放空間、
6・・・載荷台、
7・・・受渡し物品、
8・・・パスボックス内部の空き空間、
9・・・フィルター、
10・・・送風路、
11・・・エアー、
12・・・圧力センサー、
13・・・風量センサー、
15・・・コントロールモータ、
16・・・連結ロッド、
17・・・コントローラ、
18・・・信号ケーブル、
19・・・操作パネル、
20・・・隙間面積、初期開口部、
22・・・一定風量の排気
24・・・シャッターの上昇
26・・・シャッター部分の開口面積
28・・・シャッター部分の最少開口面積
30・・・異形の受渡し物品
31・・・異形物品の先端部
32・・・異形物品の最大部
【手続補正書】
【提出日】2024-07-02
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高清浄に管理された密閉空間と低清浄の開放空間との間を空間的に連通して物品の受渡しが可能なパスボックスがあり、フィルターを介してこのパスボックスに清浄空気を送り込み、このパスボックスから前記開放空間に向けて一定風量の空気が流れ出ている初期開口部を設けかつ前記開放空間側の開口面積を可変するシャッターを設けたパスボックスにおいて、
前記流れ出ている時の前記パスボックス内と前記開放空間との圧力差を所定圧力として、および/または、前記流れ出ている時のパスボックス内に流れる風量を所定風量として特定し、
前記物品が、前記開放空間から前記パスボックス内に搬入される時に、前記所定圧力および/または前記所定風量を維持するように制御しながら前記シャッターを移動し、
前記低清浄の開放空間側かつ前記シャッターに隣接する開口部は、前記シャッターの前記移動によって前記開口面積が前記初期開口部の隙間面積から変えられて、前記パスボックス内に前記物品の前記搬入を可能とする際に前記空気が前記低清浄の開放空間へ流れ出ることを特徴とするパスボックス。
【請求項2】
高清浄に管理された密閉空間と低清浄の開放空間との間を空間的に連通して物品の受渡しが可能なパスボックスがあり、フィルターを介してこのパスボックスに清浄空気を送り込み、このパスボックスから前記開放空間に向けて一定風量の空気が流れ出ている初期開口部を設けかつ前記開放空間側の開口面積を可変するシャッターを設けたパスボックスの前記シャッターを動かす方法において、
前記流れ出ている時の前記パスボックス内と前記開放空間との圧力差を所定圧力として、および/または、前記流れ出ている時のパスボックス内に流れる風量を所定風量として特定するステップと、
前記物品が、前記開放空間から前記パスボックス内に搬入される時に、前記所定圧力および/または前記所定風量を維持するように制御しながら前記シャッターを移動するステップと、
を有し、
前記低清浄の開放空間側かつ前記シャッターに隣接する開口部は、前記シャッターの前記移動によって前記開口面積が前記初期開口部の隙間面積から変えられて、前記物品を前記パスボックス内に搬入可能とする際に前記空気が前記低清浄の開放空間へ流れ出ることを特徴とする方法。