(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165004
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】検査カートリッジ
(51)【国際特許分類】
G01N 35/08 20060101AFI20241121BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
G01N35/08 A
G01N37/00 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080803
(22)【出願日】2023-05-16
(71)【出願人】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】山根 知
(72)【発明者】
【氏名】東野 一郎
【テーマコード(参考)】
2G058
【Fターム(参考)】
2G058DA07
2G058GA06
(57)【要約】
【課題】効率的かつ精度の高い検査を実施できることである。
【解決手段】本実施形態に係る検査カートリッジは、センサチップと、筐体とを含む。センサチップは、平面型であり、1以上の検出領域を含む検出面を有する。筐体は、外面から内面に向かって開口の大きさが狭くなる滴下孔を有し、前記内面と前記検出面とにより空間を形成するように前記センサチップと接続される。前記内面のうち前記検出面に対向する対向面側に形成される、前記滴下孔の開口の少なくとも一部分が、前記対向面と前記センサチップとの積層方向から見て、前記検出領域の端部に沿った形状でありかつ前記開口の前記少なくとも一部分と前記検出領域の端部とが重なるように形成される。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1以上の検出領域に含む検出面を有する平面型のセンサチップと、
外面から内面に向かって開口の大きさが狭くなる滴下孔を有し、前記内面と前記検出面とにより空間を形成するように前記センサチップと接続される筐体と、を具備し、
前記内面のうち前記検出面に対向する対向面側に形成される、前記滴下孔の開口の少なくとも一部分が、前記対向面と前記センサチップとの積層方向から見て、前記検出領域の端部に沿った形状でありかつ前記開口の前記少なくとも一部分と前記検出領域の端部とが重なるように形成される、
検査カートリッジ。
【請求項2】
前記対向面側に形成される前記滴下孔の前記開口は、前記検出領域の直上に位置しないように形成される、請求項1に記載の検査カートリッジ。
【請求項3】
前記検出領域は、親液性を有する、請求項1に記載の検査カートリッジ。
【請求項4】
前記開口の前記少なくとも一部分は、前記検出領域に向かってテーパーまたは曲率を有する形状である、請求項1に記載の検査カートリッジ。
【請求項5】
前記滴下孔の前記外面側の開口は、検査溶液を滴下する滴下デバイスの外周形状に沿った形状を有する、請求項1に記載の検査カートリッジ。
【請求項6】
前記検出領域は、複数形成され、
前記空間内で各検出領域の間に配置される隔離壁をさらに具備する、請求項1に記載の検査カートリッジ。
【請求項7】
前記対向面の少なくとも一部分に、検査溶液に含まれる検出対象物質と結合する物質を含む試薬が乾燥され固定される、請求項1に記載の検査カートリッジ。
【請求項8】
前記センサチップは、検査溶液に含まれる検出対象物質を光の減衰により検出する光学式センサチップである、請求項1に記載の検査カートリッジ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書及び図面に開示の実施形態は、検査カートリッジに関する。
【背景技術】
【0002】
感染症検査や血液検査などでは、粘膜上皮や血液などの検体採取が必要であり、侵襲的な医療行為のため必要最低限の実施が望まれる。また、例えば新生児が対象の検査では、微量の検体しか採取できないケースが多く、微量検体による検査が求められる。このように、侵襲的な検体採取が必要な検査項目や微量な検体しか得られない検査項目では、微量なサンプルで検査を実施する必要があるが、サンプルを検査カートリッジに注入する場合、液体の表面張力により微量サンプルを反応検出領域に送液しづらい。
そのため、反応検出領域の直上または近傍に大きな開口を設けることで微量なサンプルを表面張力の影響を受けることなく送液する解決策も考えられる。しかし、検体の検出方法として光学的な検出方法を用いる場合、開口から反応槽に入射する外光の影響を受けやすいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-133836号公報
【特許文献2】特許5424610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本明細書および図面に開示の実施形態が解決しようとする課題の一つは、効率的かつ精度の高い検査を実施できることである。ただし、本明細書及び図面に開示の実施形態により解決しようとする課題は上記課題に限られない。後述する実施形態に示す各構成による各効果に対応する課題を他の課題として位置づけることもできる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本実施形態に係る検査カートリッジは、センサチップと、筐体とを含む。センサチップは、平面型であり、1以上の検出領域を含む検出面を有する。筐体は、外面から内面に向かって開口の大きさが狭くなる滴下孔を有し、前記内面と前記検出面とにより空間を形成するように前記センサチップと接続される。前記内面のうち前記検出面に対向する対向面側に形成される、前記滴下孔の開口の少なくとも一部分が、前記対向面と前記センサチップとの積層方向から見て、前記検出領域の端部に沿った形状でありかつ前記開口の前記少なくとも一部分と前記検出領域の端部とが重なるように形成される。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る検査システムを示すブロック図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に係る検査システムによる検体検査の一例を示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、出射光の光強度の時系列変化の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、センサチップの構成例を示す図である。
【
図7】
図7は、センサチップに対する滴下孔と通気孔との位置関係を示す概念図である。
【
図8】
図8は、検査カートリッジを
図7のA-A’面で切断した場合の断面図である。
【
図9】
図9は、検査カートリッジを
図7のB-B’面で切断した場合の断面図である。
【
図10】
図10は、本実施形態に係る筐体下面の開口形状の第1例を示す図である。
【
図11】
図11は、本実施形態に係る筐体下面の開口形状の第2例を示す図である。
【
図12】
図12は、本実施形態に係る筐体下面の開口形状の第3例を示す図である。
【
図13】
図13は、検査カートリッジに検査溶液が滴下された場合の検査溶液の送液状態である。
【
図14】
図14は、検査カートリッジの第1変形例を示す図である。
【
図15】
図15は、検査カートリッジの第2変形例を示す図である。
【
図16】
図16は、検査カートリッジの第3変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図面を参照しながら本実施形態に係る検査カートリッジについて説明する。以下の実施形態では、同一の参照符号を付した部分は同様の動作を行なうものとして、重複する説明を適宜省略する。
【0008】
本実施形態に係る検査システムについて
図1のブロック図を参照して説明する。
検査システムは、検査カートリッジ1と分析装置3とを含む。分析装置3に対して着脱可能である。
【0009】
ここで、検査カートリッジ1の下部に位置する光導波路(図示せず)の上面には、複数の第1抗体が固定される。第1抗体は、検出対象物質に含まれる抗原と抗原抗体反応により特異的に反応する物質である。
【0010】
また、検査カートリッジ1に滴下される液体は、試料溶液と試薬との混合液(以下、検査溶液と呼ぶ)であることを想定する。試料溶液には、抗原を含む検出対象物質が含まれる。試薬には、試薬成分が含まれる。試薬成分には、例えば抗原と抗原抗体反応により特異的に反応する第2抗体と、第2抗体が固定化された磁性粒子とが含まれる。磁性粒子は、少なくとも一部がマグネタイトなどの磁性体材料で形成される。磁性粒子は、例えば、磁性体材料から形成された粒子の表面が高分子材料で被覆されている。なお、磁性粒子は、高分子材料で構成された粒子の表面を磁性体材料で被覆するように構成されてもよい。また、磁性粒子は、検査溶液において分散可能に構成されたものであればどのようなもので代替してもよい。
【0011】
試薬成分は、検査カートリッジ1の反応槽に満たされた検査溶液中を分散可能に移動する。そのため、磁性粒子は、磁性粒子に掛かる重力が、当該重力と逆向きに掛かる検査溶液中における浮力よりも大きくなるように選ばれる。第2抗体が固定化された磁性粒子は、第2抗体が、抗原を介して第1抗体と結合することで、光導波路の上面近傍に固定される。なお、第2抗体は、第1抗体と同じものであっても、異なるものであってもよい。
【0012】
分析装置3は、検知ユニット31と、磁場発生器32と、出力ユニット33と、入力インタフェース回路34と、記憶回路35と、システム制御回路36とを含む。
【0013】
検知ユニット31は、光源311および光検出器312を有する。
光源311は、LED(Light Emitting Diode)などのダイオードやキセノンランプなどのランプである。光源311は、検査カートリッジ1の入射側のグレーティング(図示せず)に向けて、光導波路内に光を入射可能な位置に配置される。光源311は、入射光L1を、検査カートリッジ1の透明基板を介して光導波路内に入射する。入射光L1は、光導波路内に進入し、入射側のグレーティングにより回折される。入射側のグレーティングにより回折された入射光L1は、光導波路内を全反射しながら伝播し、出射側のグレーティング(図示せず)に到達する。出射側のグレーティングに到達した光は、出射側のグレーティングにより回折され、光導波路から外部へ所定角度を有して出射光L2として出射される。なお、光源311の代わりに、光以外の電磁波などを発生するものを用いてもよい。
【0014】
光検出器312は、検査溶液が収容されている反応槽内の反応状態に基づいた電気信号を出力する。具体的には、光検出器312は、光導波路の外へ出射される出射光L2を検出し、検出された出射光L2の強度を示す電気信号、すなわち光検出強度に関するデジタルデータを生成する。光検出器312により生成された光検出強度に関するデジタルデータはシステム制御回路36に供給される。
【0015】
磁場発生器32は、システム制御回路36の制御に従い検査カートリッジ1の反応槽に対して磁場を印加することで、反応槽内の磁性粒子の沈降を速め、または磁性粒子を上方に引き上げる。磁場発生器32は、磁性粒子に固定された第2抗体と光導波路の上面に固定された第1抗体との抗原を介した結合を促進させるエネルギーを発生させる。具体的には、磁場発生器32は、上磁場発生器および下磁場発生器を有する。また、磁場発生器32は、図示しない駆動回路を有する。上磁場発生器および下磁場発生器はそれぞれ、例えば永久磁石および電磁石で構成される。
【0016】
出力ユニット33は、表示回路331と、報知器332と、プリンタ333とを含む。
表示回路331は、例えば液晶ディスプレイ又はOLED(Organic LED)ディスプレイといった一般的な外部の表示装置にデータを出力する。表示回路331は、システム制御回路36の制御に従い、各種操作画面、光検出器312から供給された出射光L2の光強度を示す情報、光強度を示す情報の時系列データ、及び検出対象物質の測定結果などを表示する。測定結果は、例えば抗原の濃度、重量または個数、すなわち、抗原の量に対応した数値となる。
【0017】
報知器332は、例えばスピーカーである。報知器332は、システム制御回路36の制御の下、操作のタイミングやアラームなどを操作者に報知する。
【0018】
プリンタ333は、システム制御回路36の制御の下、例えば表示回路331から出力される各種操作画面、光検出器312から供給された出射光L2の光強度を示す情報、光強度を示す情報のデータ、および検出対象物質の測定結果などを印刷する。
【0019】
入力インタフェース回路34は、例えばトラックボール、スイッチボタン、マウス、キーボード、操作面へ触れることで入力操作を行うタッチパッド、および表示画面とタッチパッドとが一体化されたタッチパネルディスプレイによって実現される。入力インタフェース回路34は、操作者の操作に対応した操作入力信号をシステム制御回路36に出力する。なお、本実施形態において入力インタフェース回路34は、マウス、キーボードなどの物理的な操作部品を備えるものだけに限られない。例えば、装置とは別体に設けられた外部の入力機器から入力操作に対応する電気信号を受け取り、この電気信号をシステム制御回路36へ出力する電気信号の処理回路も入力インタフェース回路の例に含まれる。
【0020】
記憶回路35は、磁気的若しくは光学的記録媒体又は半導体メモリなどの、プロセッサにより読み取り可能な記録媒体を有する。記憶回路35は、本実施形態に係る分析装置3の回路で実行されるプログラムを記憶する。なお、記憶回路35の記憶媒体内のプログラム及びデータの一部又は全部は電子ネットワークを介してダウンロードされるように構成してもよい。
【0021】
記憶回路35は、光検出器312から供給された出射光L2の光強度を示す情報、光強度を示す情報の時系列データ、および測定対象となる検出対象物質の測定結果などを記憶する。
【0022】
記憶回路35は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)といった記憶媒体であり、検出対象物質の測定を行うための設定情報を記憶する。設定情報は、例えば測定に必要な所定の処理を実行するタイミングを規定する情報を含む。測定に必要な所定の処理を実行するタイミングとは、例えば下磁場の印加が開始されるタイミング、下磁場の印加が停止されるタイミング、上磁場の印加が開始されるタイミングおよび判定が実施されるタイミングである。これらのタイミングを規定する情報には、所定の時刻からの相対的な経過時間または所定の処理を実行する絶対時刻が含まれる。なお、所定の時刻からの相対的な経過時間または所定の処理を実行する絶対時刻は、予め経験的、実験的に決められ設定されていればよい。
【0023】
記憶回路35は、予め設定された閾値TAを記憶する。閾値TAは、検出対象物質の濃度に対応する光強度についての閾値である。閾値TAは、検出対象物質の定性状態を判定するために用いられる。定性状態とは、例えば測定結果が示す陽性または陰性の度合いである。閾値TAは、検出対象物質の測定結果が陽性の可能性が高いかどうかの最終的な判定をするために用いられる。なお、閾値TAは、複数の段階的な閾値であってもよい。すなわち、デジタルデータに含まれる光強度と複数の段階的な閾値を比較することで、より詳細な測定結果を表す判定を行うことが可能となる。
【0024】
システム制御回路36は、例えば分析装置3の各構成回路を制御するプロセッサである。システム制御回路36は、分析装置3の中枢として機能する。システム制御回路36は、記憶回路35から各動作プログラムを呼び出し、呼び出したプログラムを実行することで光源制御機能361、磁場制御機能362、演算機能363、判定機能364および出力制御機能365を実現する。
【0025】
光源制御機能361は、光源311を制御し、所定の条件で光を発生させる。光源制御機能361では、システム制御回路36は、少なくとも測定開始から測定終了までの間、連続的または間欠的に光源311から入射光L1を発生させる。
【0026】
磁場制御機能362は、記憶回路35に予め記憶されているタイムスケジュールに従って磁場発生器32を制御し、反応槽内の反応を促進させるエネルギーの印加状態を切り替える。具体的には、磁場制御機能362では、システム制御回路36は、記憶回路35から設定情報を読み出し、読み出した設定情報に基づいて磁場発生器32を制御し、磁場発生器32に磁場を発生させる。
【0027】
演算機能363は、光検出器312から供給される時系列の光強度のデジタルデータに基づいて各種演算を行う。演算機能363では、システム制御回路36は、供給される時系列の光強度のデジタルデータを用いて、光強度の平均値、光強度の変動率、変動率の積算値などの光学的変化に関する演算を行う。
【0028】
判定機能364は、後述する上磁場の印加中に光検出器312から供給される光強度のデジタルデータに基づいて検出対象物質の量に関する測定結果を生成する。具体的には、判定機能364は、検出対象物質の量(物質量、濃度等)を光強度のデジタルデータに基づいて「陽性の可能性が高い」等の定性状態を判定する。判定機能364では、システム制御回路36は、記憶回路35から設定情報および閾値TAを読み出す。システム制御回路36は、読み出した設定情報に含まれる実行タイミングに合わせて、検出対象物質の定性状態を判定する。システム制御回路36は、供給された時系列の光強度のデジタルデータに含まれる光強度が閾値TA以下であった場合、例えば検出対象物質の測定結果を陽性の可能性が高いと判定する。システム制御回路36は、デジタルデータに含まれる光強度が閾値TAより大きい場合、例えば検出対象物質の測定結果は弱陽性または陰性の可能性が高いと判定する。
【0029】
出力制御機能365は、出力ユニット33を制御し、操作者に対して検出対象物質の定性状態などの判定結果を出力する。出力制御機能365では、システム制御回路36は、表示回路331またはプリンタ333を制御し、判定結果を操作者に提示する。提示は、ディスプレイを介した表示およびプリンタを用いて印刷する方法を含む。システム制御回路36は、報知器332を制御し、判定結果を操作者に報知する。報知は、音などで知らせる方法を含む。
【0030】
次に、本実施形態に係る検査システムによる検体検査の一例について
図2のフローチャートを参照して説明する。
【0031】
ステップS1では、検査カートリッジ1が、分析装置3にセットされ検査溶液が滴下される。これにより、検査カートリッジ1の反応槽が検査溶液で充填される。なお、検査溶液を検査カートリッジ1の滴下孔に滴下するタイミングで、磁場発生器32により、下磁場を印加してもよい。または、磁場発生器32により、上磁場および下磁場の印加を交互またはランダムに断続的に印加することで磁場を揺らしてもよい。このように磁場を印加することにより、反応槽への液滴の落下を促し、検査溶液の充填までの時間を早めることができる。
【0032】
ステップS2では、検知ユニット31の光源311から、検査カートリッジ1の光導波路に向けて一定強度の光を照射することで、光導波路内に一定強度の光が入射する。なお、光源311から、継続的に一定強度の光が入射される。
【0033】
磁場発生器32が、下磁場の印加を開始する。光導波路に入射された光は、光導波路内を全反射しながら伝播し、透明基板を介して光検出器312へ出射される。
【0034】
光が光導波路内を伝播する場合、光導波路の上面において近接場光(エバネッセント光)が発生する。反応槽内の近接場光が発生し得る、光導波路の表面近傍の領域をセンシング領域とも呼ぶ。反応槽において、光導波路の上面に固定された第1抗体は、試料溶液中の検出対象物質に含まれる抗原と反応する。第1抗体と抗原とが反応することにより、試薬成分に含まれる磁性粒子に固定化された第2抗体とも結合する。これにより、光導波路の上面の反応検出領域近傍に第2抗体が固定化された磁性粒子が保持される。
【0035】
光導波路を導波する光は、光導波路の上面近傍に固定される磁性粒子により散乱および吸収される。この結果、光導波路を導波する光は、減衰されて光導波路から出射されることになる。すなわち、入射光L1は、第1抗体と、磁性粒子に固定化される第2抗体とを結びつける抗原の量、言い換えれば、反応槽内に収容された抗原の量に応じて減衰される。
【0036】
光検出器312は、光導波路から出射された光を受光し、システム制御回路36に対して、光強度のデータを所定の時間間隔で供給する。
【0037】
ステップS3では、磁場発生器32が、システム制御回路36の制御に従って、下磁場の印加を開始する。具体的には、検査カートリッジ1の下方に配置される下磁場発生器は、反応槽内の磁性粒子に鉛直下向きの磁力を印加して沈降を速めるために下磁場を発生させる。発生された鉛直下向きの磁場および重力に従って、第2抗体が固定化された磁性粒子は、磁力線に沿って整列し、鉛直下方向の力を受けて下降する。第2抗体は、光源を介して反応槽の下面に位置する反応検出領域に固定された第1抗体と結合する。
【0038】
ステップS4では、磁場発生器32が、システム制御回路36からの制御に従って、所定のタイミングで下磁場の印加を停止する。
【0039】
ステップS5では、磁場発生器32が、システム制御回路36からの制御に従って、上磁場の印加を開始する。具体的には、上磁場発生器は、検査カートリッジ1が分析装置3にセットされた場合に、検査カートリッジ1の上方に位置する。上磁場発生器は、反応槽において鉛直上向きに磁性粒子を引き上げるために上磁場を発生させる。この鉛直上向きの磁場により、抗原を介して第1の抗体と結合しなかった第2抗体で修飾された磁性粒子は、鉛直上方向の力を受けて上昇する。このとき、上磁場発生器は、所定の強さの磁場を発生させることで、未反応の磁性粒子を選択的にセンシング領域から遠ざける。すなわち、上磁場発生器は、発生させる磁場の強さを調整することで、光導波路の上面に固定される、第1抗体と抗原を介して結合した第2抗体で修飾された磁性粒子のみをセンシング領域に留めることが可能となる。
【0040】
ステップS6では、反応槽内の反応が収束したと考えられるタイミングで、システム制御回路36は、光検出器312から継続的に供給される光強度のデータの1つの値を測定値として取得する。
【0041】
ステップS7では、判定機能364によりシステム制御回路36が、ステップS7で取得した測定値と記憶回路35に記憶された閾値TAとを比較することで、例えば陽性または陰性を判定する。
【0042】
ステップS8では、出力制御機能365によりシステム制御回路36が、判定結果をユーザに提示または報知する。
【0043】
次に、出射光の光強度の時系列変化の一例について
図3を参照して説明する。
図3は、縦軸が光強度を示し、横軸が時刻を示す、光強度の時系列変化のグラフCである。
【0044】
検査カートリッジ1の反応槽に対して検査溶液が滴下され、検査溶液が反応槽に充填されると、測定される光強度が増加する。これは、反応検出領域を含む光導波路上面に第1の抗体の変性を防止するために塗布した水溶性の膜が溶解するためである。
【0045】
その後、下磁場が印加されると、上述のように、反応槽の検査溶液中の第2抗体が固定された磁性粒子は、抗原を介して反応検出領域上に固定された第1抗体と結合する。またセンシング領域には、第2抗体が固定された磁性粒子が次々に侵入するため、センシング領域内の散乱・吸収体の量が増加して光強度は減少する。光強度の減少率は、時間とともに小さくなり、ある光強度値、ここではA01で平衡状態に達する。このとき磁性粒子はチェーン状に複数繋がり、クラスターを形成している。このときセンシング領域にある磁性粒子の数は見かけ上少なくなっている。
【0046】
その後、下磁場の印加が停止されると、第2抗体が固定化された磁性粒子は、下磁場から解放されるため、上記クラスターがブラウン運動で分散され、自然沈降を開始する。なお、下磁場の印加を停止してから所定期間は、いわゆるオーバーシュートが発生し、光強度が増加に転じた後、短期間で減少に転じる。オーバーシュートが収束すると、その後は光強度が減少する。これは、第2抗体が固定化された磁性粒子が次々にセンシング領域に侵入するため、散乱・吸収体の量が増加し、減少率が大きくなるからである。一定期間経過すると、第2抗体が固定化された磁性粒子の自然沈降も収束し、ある光強度値、ここでは光強度値A03に収束する。
【0047】
光強度値A03に収束した状態において、第2抗体が固定化された磁性粒子は、センシング領域に留まる。磁性粒子がセンシング領域に留まった状態で光導波路の上面において近接場光が発生すると、センシング領域に留まっている磁性粒子がこの近接場光を散乱および吸収し、近接場光を減衰させる。すなわち、センシング領域において近接場光が減衰されることにより、光導波路内を導波する光も減衰される。言い換えれば、センシング領域に留まる磁性粒子の量が多いほど、光導波路から出力される光の強度が低下する。
【0048】
磁場が無い状態では、センシング領域に留まる磁性粒子は、測定対象である抗原を介して光導波路の上面に固定された第1抗体と、磁性粒子に固定化される第2抗体とが結合したものに限られない。すなわち、未反応の磁性粒子もセンシング領域に留まりうる。このため、検出対象物質に含まれる抗原の正確な濃度を測定するためには、測定に関与しない、すなわち抗原と結合していない第2抗体が固定化された磁性粒子をセンシング領域から遠ざける必要がある。そこで、上磁場を印加することにより、未反応の磁性粒子を、センシング領域から上方へ遠ざけ、反応槽に再び浮遊させる。
【0049】
これにより、最終的にセンシング領域に留まる磁性粒子は、抗原を介して光導波路の上面に固定された第1抗体と、第2抗体とが抗原を介して結合したものがほとんどとなり、ある光強度値、ここでは光強度値A02で平衡状態に達する。光強度値A02と閾値TAとが比較されることで、判定結果が得られる。
【0050】
次に、センサチップ2の構成例について
図4を参照して説明する。
図4は、センサチップ2部分を上面側からみた図である。
センサチップ2は、反応検出領域21と、非反応検出領域22と、グレーティング23aと、グレーティング23bとを含む。センサチップ2は、光検出方式の検体検査に用いられる平面型の光学式センサチップである。
【0051】
反応検出領域21は、センサチップ2の中心部に位置し、抗体がセンサチップ2の上面(光導波路の上面)に固定(塗布)される領域である。ここでは2つの独立した領域として、反応検出領域21が2列形成される。また、反応検出領域21は、表面に検出対象物質と結合する物質を有する。反応検出領域が形成される部分を検出面ともいう。
【0052】
また、反応検出領域21の表面が親液性を有するように処理される。親液性とは、液体に対する接触角が略90度よりも小さくなる性質をいい、液体が水の場合は、親水性とも呼ぶ。例えば、親液性を有する膜で反応検出領域をコーティングすればよい。コーティングの材料としては、例えば、水溶性の高分子(多糖類、セルロース誘導体、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、たんぱく質など)または、これらの誘導体の1つもしくは混合物が利用されればよい。または、水溶性の低分子(糖類、二糖類、多価アルコール)あるいはこれらの誘導体の1つ若しくは混合物でもよい。さらには、高分子と低分子とを含んでもよい。
【0053】
非反応検出領域22は、センサチップ2の上面のうち、反応検出領域21以外の部分である。具体的には、反応検出領域21それぞれが独立領域となるように、1列ごとに反応検出領域21の周囲を囲む領域である。また、非反応検出領域22は、疎液性(撥液性)を有するように形成される。撥液性とは、液体に対する接触角が略90度よりも大きくなる性質をいい、液体が水の場合は、疎水性(撥水性)とも呼ぶ。疎液性を有する材料としては、アクリル、エポキシ、ポリ塩化ビニル、アクリルなどが挙げられる。非反応検出領域22は、例えば、これらの疎液性を有する材料によるコーティングが施されればよい。
非反応検出領域22の領域では液体が弾かれるため、非反応検出領域22は、親液性を有する反応検出領域21に検査溶液を留める役割を果たす。
【0054】
グレーティング23aは、光を反射(回折)させる構造を有し、光導波路に光を入射させる位置に配置される。
グレーティング23bは、光を反射(回折)させる構造を有し、光導波路内の光を外部に反射させる位置に配置される。
【0055】
次に、本実施形態に係る検査カートリッジ1の上面図について
図5に示す。
図5に示すように、検査カートリッジ1の筐体11上面には、滴下孔13と通気孔14とが形成される。筐体11は、例えばポリ塩化ビニルなどで生成され、疎液性を有する。滴下孔13は滴下デバイス(図示せず)から検査溶液を滴下する開口である。滴下孔13は、筐体11外面(上面)から内面(下面)に向かって開口の面積が狭くなるように形成されている。説明の便宜上、筐体11の上面に形成される開口を実線で示し、下面に形成される開口を破線で示す。具体的には、筐体11上面の開口131は円形状であり、筐体11下面の開口132は、矩形状である。通気孔14は、検査溶液が検査カートリッジ1内に充填されるにつれて押し出される空気を排出するための開口である。
【0056】
次に、検査カートリッジ1の筐体11の下面、言い換えれば、筐体11と接続されたセンサチップ2に対する対向面について
図6に示す。
筐体11の下面111には、滴下孔13の開口132と通気孔14の開口とがそれぞれ形成される。また、下面111には、センサチップ2の反応検出領域とで流路を形成する流路上面部112が形成される。ここでは、2つの反応検出領域21に対して形成されるため、2つの流路上面部112が形成される。
【0057】
次に、センサチップ2に対する滴下孔13と通気孔14との位置関係について
図7の概念図を参照して説明する。
図7は、センサチップ2と筐体11の下面111(すなわち、センサチップ2の検出面に対応する対向面)とを積層方向(z軸方向)から見た図である。説明の便宜上、センサチップ2の上面図に、筐体11の下面111に形成される滴下孔13と通気孔14とのそれぞれの開口を破線で重畳表示する。
図7に示すように、滴下孔13の開口132の少なくとも一部分が、センサチップ2と対向面との積層方向、すなわちz軸方向から見て、反応検出領域21の端部に沿った形状であり、かつ、開口132の形状の少なくとも一部分が反応検出領域21の端部とほぼ重なるように形成される。具体的には、z軸方向から見た場合に、開口132の形状である矩形の右側の長辺が、2つ反応検出領域21のそれぞれの矩形の左側の短辺と重なるように、開口132が形成される。このように、開口132は、反応検出領域21の直上に位置しないように形成される。
【0058】
なお、開口132と反応検出領域21との重なりの程度は、z軸から見た場合に辺同士が完全に重なることに限らない。例えば、開口132と反応検出領域21とで多少重複した領域が存在するように開口132が形成でもよいし、開口132と反応検出領域21の端部とが重複しないまでも、限りなく接近するような位置に開口132の形状が形成されてもよい。
【0059】
また、本実施形態では、反応検出領域21の端部が直線(短辺)である場合を想定するが、端部が曲率を有した半円状であってもよいし、その他の形状であってもよい。この場合、開口132も反応検出領域21の端部の形状に合わせて形成されればよい。
【0060】
次に、検査カートリッジ1を
図7のA-A’面で切断した場合の断面図を
図8に示す。
検査カートリッジ1は、筐体11にセンサチップ2が筐体11の下面側から貼り付けられた構成である。センサチップ2の反応検出領域21を含む検出面とセンサチップ2に対向する筐体11の下面111との間には空間が形成され、当該空間が反応槽15となる。また、上述したように、滴下孔13は、筐体11上面から下面111に向かって開口の大きさが狭くなるテーパー形状を有する。滴下孔13は、検査溶液が反応槽15にスムーズに送液される大きさを想定し、例えば、通気孔14よりも大きい径であればよい。また、滴下孔13のテーパー形状は、滴下デバイスが滴下孔13内に挿入可能なように、滴下デバイスの外周形状に合わせて設計された形状でもよい。これにより、滴下デバイスを滴下孔13に深く挿入できるため、微量の検査溶液であっても、液量を無駄にすることなく反応槽15に送液できる。さらに、筐体11の下面111に形成される開口132の大きさは、上面の開口131と比較して小さいため、反応槽15に入射する光量を抑制でき、検査において不要な外光の影響を低減できる。
【0061】
また、滴下孔13を形成するx軸方向端部側の筐体壁部11aは、滴下孔13のテーパーの角度に沿って形成されることを想定するが、これに限らず、反応検出領域21の方へより近づくように形成されてもよい。すなわち、下面111に形成される開口を通過した検査溶液が反応検出領域以外で留まる領域を可能な限り少なくし、検査溶液が反応検出領域21に送液されるようにしてもよい。
【0062】
センサチップ2は、ここでは図示しないが、透明基板と光導波路とを含む。透明基板は、樹脂または光学ガラスなどで形成され、光源311から入射してきた光を光導波路へ通過させる。また、透明基板は、光導波路を通過した光を外部に、すなわち光検出器312に向けて通過させる。なお、透明基板は、光導波路とは異なる屈折率の素材で形成され、光導波路との境界面で光を全反射させる。つまり、光を光導波路内に閉じ込めるクラッドとしての役割を果たす。また、透明基板は、光導波路を物理的に保護する役割も果たす。
【0063】
光導波路は、透明基板の上に積層され、内部を光が通過する。すなわち、光導波路は、光ファイバーにおけるコア(心材)同様の役割を果たす。光が透過する材料、例えば樹脂または光学ガラスにより形成される。樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂またはアクリル樹脂を用いることができる。光導波路の上面に、反応検出領域21が形成される。
【0064】
次に、検査カートリッジ1を
図7のB-B’面で切断した場合の断面図を
図9に示す。
図9に示すように、反応槽15には、筐体11(側面と流路上面部112)と隔離壁11bと反応検出領域21aとで、x軸方向に向かって検査溶液が反応検出領域21a全面に濡れ広がる第1流路91aが形成される。同様に、筐体11(側面と流路上面部112)と隔離壁11bと反応検出領域21bとで第2流路91bが形成される。第1流路91aと第2流路91bとは、筐体11の一部である隔離壁11bによってそれぞれ独立した流路となる。隔離壁11bは、反応検出領域21aおよび反応検出領域21bの間に配置され、反応検出領域21それぞれを隔てるための部材である。隔離壁11bは、筐体11の一部として一体成型されることを想定するが、疎液性を有する別の材料による部品で形成されてもよい。
【0065】
次に、本実施形態に係る筐体下面の開口132の第1例について
図10に示す。
図10は、A-A’断面における開口132の形状周辺を拡大した斜視図である。なお、説明の便宜上、筐体11の下面111に加え、z軸の正方向側の筐体11の一部も図示する。
図10に示すように、滴下孔13の開口132の形状の少なくとも一部分は、反応検出領域21の方向に向かって傾斜したテーパー形状を有する構造133である。すなわち、滴下孔13は、筐体11の上面から下面111に向かってテーパー形状を有するが、滴下孔13の深さ方向の所定の位置から下面111の開口に向かって、反応検出領域21の方へ拡がるテーパー形状を有する。なお、構造133は、直線的なテーパー形状に限らず、反応検出領域21に向かって曲率を有する形状であってもよい。このように、構造133により、検査溶液を反応検出領域21にさらに送液しやすくなる。
【0066】
次に、本実施形態に係る筐体下面の開口132の第2例について
図11に示す。
図11に示す開口132は、構造133のような反応検出領域21に向かうテーパー形状を有さず、滴下孔13のテーパー形状を維持した形状である。
【0067】
次に、本実施形態に係る開口132の形状の第3例について
図12に示す。
図12は、反応検出領域を含む流路側はテーパー形状を有さない一方、隔離壁11bはテーパーを有する形状としてもよい。
なお、
図11および
図12において、流路上面部112は、センサチップ2側に堤を有するように形成されてもよい。後述するように、流路上面部112に試薬が塗布乾燥されて固定される利用例もあり、この場合は乾燥するまで流路上面部112に試薬が留まりやすくなるような
図11または
図12の構造を用いてもよい。
【0068】
図10から
図12までに示したいずれの形状であっても、滴下孔13に対して2つの反応検出領域21が対称に配置されているため、滴下孔13から滴下された検査溶液は、2つの反応検出領域21に対し略同量送液される。よって、検査溶液が微量(滴下デバイスによる1~2滴)であっても反応検出領域21に均等に送液できる。
【0069】
次に、検査カートリッジ1に検査溶液が滴下された場合の検査溶液の送液状態について、
図13の概念図を参照して説明する。
図13は、
図8の断面図であり、
図13左図は、検査カートリッジ1の滴下孔13に対して滴下デバイス(図示せず)により検査溶液90が滴下された直後の状態を示す。滴下孔13は、上面側ほど直径が大きくなるテーパー形状であるため、検査者は検査溶液90を確実に滴下しやすくなる。
【0070】
図13中央図は、検査溶液90が滴下された後に、流路91に流入する直前の状態例を示す。z軸方向から見た場合、下面111の開口132の形状の一部分が、反応検出領域21と重なるように形成されているため、反応検出領域21以外の反応に寄与しない部分に留まらずに流路91の方に液体が濡れ拡がる(送液される)。また、この際、
図9に示したように第1流路91aと第2流路91bとは、下面111の開口132の形状に対して対象に配置されているため、略同量の検査溶液90が第1流路91aと第2流路91bとにそれぞれ流れ込むこととなる。
【0071】
図13右図は、検査溶液90が反応検出領域21に濡れ広がり、流路91に検査溶液90が充填された状態を示す。
図13右図に示すように、滴下された検査溶液90は、親液性を有する反応検出領域21のほうに濡れ拡がるため、1~2滴といった微量の検査溶液90であっても、第1流路および第2流路の各反応検出領域21に検査溶液90を送液することができる。
【0072】
なお、上述の例では、反応検出領域21が2列である2つの流路を形成することを想定するが、反応検出領域21が1列である1つの流路でもよいし、3以上の流路が形成されてもよい。この場合、反応検出領域21に塗布される抗体は、流路ごとに異なってもよいし、同一でもよい。特に、反応検出領域21が3以上形成される場合は、少なくとも2つの流路が同じ抗体であってもよい。
【0073】
3以上の流路がある場合でも同様に、滴下孔13および開口132の形状は、例えば
図10から
図12に示すような形状で形成されればよい。すなわち、3つの流路があれば、2つの隔離壁11bが形成され、開口132の少なくとも一部分が、3つの反応検出領域21の端部に沿った形状でありかつz軸方向から見た場合に、3つの反応検出領域21の端部に重なるように形成されればよい。
【0074】
次に、検査カートリッジ1の第1変形例について
図14を参照して説明する。
図14は、
図8と同様の断面図であるが、反応検出領域21の対向面、つまり流路上面部112に、補助部材16が配置される。補助部材16は、滴下孔13が存在する端部と反対方向の端部に向かって下方に傾斜する、言い換えれば、滴下孔13から検査溶液が流路91に送液される方向に向かって、当該流路91が狭くなるように形成される。補助部材16は、筐体11との一体成型であってもよいし、疎液性を有する材料が上面側に貼り付けられてもよい。
図14の構造によれば、流路の容積が小さくなり、さらには流路の径の大きさによってはさらに毛細管現象も生じるため、貯留部12から検査溶液がさらに流路へ流れやすくなる。
【0075】
次に、検査カートリッジ1の第2変形例について
図15を参照して説明する。
図15は、
図8と同様の断面図である。第2変形例では、滴下孔13の筐体11上面周囲に堤17を形成してもよい。堤17を形成することで、検査溶液を滴下孔13に滴下しやすくなることに加え、検査溶液が反応槽15から溢れにくくなる。堤17は、筐体と一体成型でもよいし、疎液性を有する別材料により生成され、筐体11上面に接着されてもよい。
【0076】
次に、検査カートリッジ1の第3変形例について
図16を参照して説明する。
図16では、反応検出領域21の対向面、つまり流路上面部112に位置する壁面の少なくとも一部の領域に、検出対象物質を検出するための試薬18が塗布乾燥され固定される。試薬18が固定される場合は、固定される厚みを考慮して、筐体11の流路上面部112が凹構造で形成されてもよい。
また、試薬18が均一に塗布乾燥されるように親水膜によるコーティングまたは微細な多数の凸構造で形成されてもよい。凸構造は、直方体、円柱、円錐または角錐、あるいは半球状などであればよい。
【0077】
試薬18が固定されている場合、検査溶液の代わりに、検出対象物質を含む試料液を滴下することで、流路内で試料液と試薬18とが混合されつつ、検査溶液として反応検出領域21に濡れ拡がることになる。よって、例えば検出対象物質と試薬とを検査カートリッジ1の滴下前に混合する必要がなく、検査工程を簡略化でき、検査者の負担も低減できる。
また、試薬18を塗布乾燥する場合は、筐体11の下面が上面となるように反転させて作業を実施するが、開口132が
図11または
図12に示す形状、さらには流路上面部112の長手方向端部を堤形状とすることで、塗布乾燥された試薬18が、滴下孔13または通気孔14に流出せず、流路上面部112内に留めることができる。
【0078】
なお、上述した本実施形態に係る検査カートリッジ1は、粘膜上皮を含む検査溶液や血液などの比較的粘性の低い液体はもちろん、痰、鼻汁などといった粘性の高い液体にも適用可能である。
【0079】
以上に示した本実施形態によれば、滴下孔の開口形状の少なくとも一部分が、反応検出領域の端部に沿った形状であり、滴下孔は、筐体下面、つまりセンサチップの対向面と前記センサチップとの積層方向から見て、筐体下面の開口形状の少なくとも一部分と反応検出領域の端部とが重なるように形成される。さらに、滴下孔のうちセンサチップ側の開口、つまり、センサチップの対向面に形成された滴下孔の開口が狭くなるように設計される。これにより、反応に寄与しない反応槽内の領域を削減でき効率的に送液できる。また、反応検出領域直上に開口が形成される場合と比較して反応槽内に不要な外光が入射しにくくなり、測定精度を向上させることができる。すなわち、効率的かつ精度の高い検査を実施できる。
【0080】
なお、上記説明において用いた「プロセッサ」という文言は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、或いは、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)、プログラマブル論理デバイス(例えば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)、複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、及びフィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA))などの回路を意味する。プロセッサが例えばCPUである場合、プロセッサは記憶回路に保存されたプログラムを読み出し実行することで機能を実現する。一方、プロセッサが例えばASICである場合、プログラムが記憶回路に保存される代わりに、当該機能がプロセッサの回路内に論理回路として直接組み込まれる。なお、本実施形態の各プロセッサは、プロセッサごとに単一の回路として構成される場合に限らず、複数の独立した回路を組み合わせて1つのプロセッサとして構成し、その機能を実現するようにしてもよい。さらに、図における複数の構成要素を1つのプロセッサへ統合してその機能を実現するようにしてもよい。すなわち、効率的かつ精度の高い検査を実施できる。
【0081】
いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、実施形態同士の組み合わせを行なうことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0082】
1 検査カートリッジ
2 センサチップ
3 分析装置
11 筐体
11a 筐体壁部
11b 隔離壁
13 滴下孔
14 通気孔
15 反応槽
16 補助部材
17 堤
18 試薬
21,21a,21b 反応検出領域
22 非反応検出領域
23a,23b グレーティング
31 検知ユニット
32 磁場発生器
33 出力ユニット
34 入力インタフェース回路
35 記憶回路
36 システム制御回路
90 検査溶液
91a 第1流路
91b 第2流路
111 下面
112 流路上面部
131,132 開口
311 光源
312 光検出器
331 表示回路
332 報知器
333 プリンタ
361 光源制御機能
362 磁場制御機能
363 演算機能
364 判定機能
365 出力制御機能