(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165019
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】レーダ装置
(51)【国際特許分類】
G01S 7/36 20060101AFI20241121BHJP
G01S 7/02 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
G01S7/36
G01S7/02 216
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080824
(22)【出願日】2023-05-16
(71)【出願人】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109612
【弁理士】
【氏名又は名称】倉谷 泰孝
(74)【代理人】
【識別番号】100116643
【弁理士】
【氏名又は名称】伊達 研郎
(74)【代理人】
【識別番号】100184022
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 美保
(72)【発明者】
【氏名】鳥丸 達郎
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AD09
5J070AF06
5J070BH10
(57)【要約】
【課題】ナルビームが適用される範囲内にターゲットがいる場合、妨害波だけでなくターゲットからの受信信号も抑圧され、ターゲットの探知が困難となる課題があった。
【解決手段】予めシミュレーション等により、電波妨害SOJ(Stand-Off Jamming)の到来方向と目標とでなす角度と、Diagonal Loading値μとを関連付けしたテーブルを作成する。アダプティブ・ナル・ビーム・フォーミング処理フローにおいて、測角処理より得られた角度情報とテーブルに基づき、ナルビームの深さに関与するDiagonal Loading値を最適化する。これにより、SOJ影響下においてもターゲット探知を可能とした。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アダプティブ・ナル・ビーム・フォーミング(Adaptive Null Beam Forming)の機能を有し、受信信号から目標を探知するレーダ装置であって、
予め、妨害電波の到来方向と目標の位置する方向とがなす角度と、対応するDiagonal Loading値とが関連付けされたテーブルを備え、
取得した前記角度から、前記テーブルに基づき得られたDiagonal Loading値を用いてANBF処理によるビームを形成するビーム形成部を備えることを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
前記角度は、超分解能測角手法により得られた前記到来方向と、ANBFによる前記目標の追尾情報により得られた目標の位置する方向とから算出された角度であることを特徴とする請求項1記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記超分解能測角手法は、MUSIC(MUltiple SIgnal Classification)、あるいは、ESPRIT(Estimation of Signal Parameters via Rotational Invariance Technique)であることを特徴とする請求項2記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記ビーム形成部は、前記テーブルに基づき得られたDiagonal Loading値と、妨害波相関行列Rxxとを用いて相関行列RDLを求め、
前記相関行列RDLの逆行列であるRDL
-1と、受信信号から算出したステアリングベクトルとを乗算しビーム形成ウェイトを算出し、受信信号に乗算することを特徴とする請求項1記載のレーダ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、妨害電波下における対電子妨害電波対抗手段として、高性能なアダプティブ・ナル・ビーム・フォーミング(Adaptive Null Beam Forming:以下「ANBF」と略す)を有するレーダ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
目標を探知するレーダ装置において、レーダ射程外からの妨害機からの電波妨害(Stand-Off Jamming:以下「SOJ」と略す)により、探知したい目標の信号は影響を受ける。電波妨害に対する対抗手段として、レーダを送信せず妨害機からの妨害波を測定するリスニング期間を設け、リスニング期間に測定したデータからSOJの到来方向にナルビームを形成し、妨害波信号の抑圧を図るANBFがある(非特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】B. D. Carlson, “Covariance matrix estimating errors and diagonal loading in adaptive arrays”, IEEE Trans. on AES, vol.24, no.4, pp.397-401, July 1988
【非特許文献2】岡村敦, “ビーム空間処理により収束を高速化したアダプティブ・ナル・ビームフォーミング”, 電子情報通信学会技術研究報告. SANE, 宇宙・航空エレクトロニクス 93(66), 69-77, 1993-05-26
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
目標を探知するレーダ装置の運用において、レーダ装置を搭載した自機から見てSOJの到来方向と、探知したい目標のなす角度が十分広い場合、ANBFは有効である。
しかしながら、SOJの到来方向と、探知したい目標のなす角度が小さい、すなわちナルビームが適用される範囲内に目標がいる場合、ナルビームにより妨害機からの妨害波だけでなく目標からの受信信号も抑圧されてしまい、目標の検出が困難となるという課題があった。
【0005】
この発明は係る課題を解決するためになされたものであり、SOJの到来方向と、探知したい目標のなす角度が小さい場合であっても、探知したい目標からの受信信号の抑圧を防いで、目標を正確に探知可能なレーダ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係るレーダ装置は、アダプティブ・ナル・ビーム・フォーミング(Adaptive Null Beam Forming)の機能を有し、目標を探知するレーダ装置であって、予め、妨害電波の到来方向と目標の位置する方向とがなす角度と、対応するDiagonal Loading値とが関連付けされたテーブルを備え、取得した前記角度から、前記テーブルに基づき得られたDiagonal Loading値を用いてANBF処理によるビームを形成するビーム形成部を備えるようにした。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係るレーダ装置によれば、ビーム形成ウェイトのDiagonal Loading値をSOJの到来方向の測角結果より最適化することができ、最適化したDiagonal Loading値を用いてナルビームを形成することで、探知したい目標の受信信号の抑圧を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施の形態に係るレーダ装置の構成を説明する図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係るANBF時ウェイト形成処理フローを説明する図である。
【
図3】本実施の形態に係るレーダ装置と従来のレーダ装置によるアダプティブ・ナル・ビーム・フォーミング(ANBF)の差異を説明する図である。
【
図4】ウェイトの変化によるナルビームの遷移イメージの従来技術と本発明との差異を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の実施の形態に係るレーダ装置を説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0010】
また、以下では、主に本発明に係るビーム形成部での処理について説明し、従来と同じ構成や処理内容については詳細な説明を省略する。
【0011】
実施の形態.
図1は、本実施の形態に係るレーダ装置1000の構成を説明する図である。
本実施の形態に係るアダプティブアンテナ機能を有するレーダ装置1000は、アレイアンテナ100、ビーム形成部200、信号処理部300を備える。また、本発明に係る信号処理や情報の入出力、外部との通信を行うもので、信号処理のプログラムを実行するプロセッサ400や、プログラムに使用するメモリ410、入出力装置420、通信装置430、入出力インタフェース440を備える。
アレイアンテナ100によって受信された信号は、ビーム形成部200によって特定の方向にビーム形成される。信号処理部300では、ビーム形成部200で形成された信号を処理し、目標の探知を行う。
【0012】
アレイアンテナ100は、素子アンテナ101と送受信モジュール102からなるサブアレイを複数備える。
【0013】
ビーム形成部200は、受信部201、妨害波サンプリングデータ取得部202、妨害波相関行列演算部203、Diagonal Loading処理部208、Diagonal Loading後逆相関行列計算処理部209、ステアリングベクトル計算処理部210、ビーム形成ウェイト計算処理部211、受信信号乗算部212、さらに本実施の形態に係る最適化信号処理部213を備える。
【0014】
ここで、受信部201は、アレイアンテナ100を構成するサブアレイのチャンネルから得られる信号を受信する。
妨害波サンプリングデータ取得部202は、受信部201が出力する受信信号ベクトルとスナップショット数を乗じた数の妨害波サンプリングデータを取得する。
妨害波相関行列演算部203は、サブアレイアンテナによって受信された妨害波の相関行列(妨害波相関行列)を算出する。Diagonal Loading処理部208は、Diagonal Loading値を算出する。逆相関行列計算処理部209は、妨害波相関行列を入力しその逆行列(相関逆行列)を算出する。ステアリングベクトル計算処理部210、ビーム形成ウェイト計算処理部211、受信信号乗算部212は、荷重係数を算出し受信信号に乗算してビームを形成する。
【0015】
さらに、本実施の形態に係る最適化信号処理部213は超分解能測角処理部204、妨害波角度推定処理部205、目標追尾情報取得部206、最適化処理部207を備え、Diagonal Loadingの値を最適化する処理を実行する。最適化信号処理部213の処理については後述する。
【0016】
次に、ビーム形成部200の動作について
図2の処理フローを参照し、説明する。
【0017】
アダプティブアンテナ機能を有するレーダ装置は、特定の方向へのビーム形成を行うことができると共に、特定の方向とは別の方向から入射する妨害波を抑圧するが、妨害波を抑圧するためには、アレイアンテナを構成している複数の送受信サブアレイアンテナによって受信された妨害波の相関行列(妨害波相関行列)を算出し、妨害波相関行列の逆行列(相関逆行列)をもとに、妨害波方向に対してナル(Null)を形成する荷重係数を算出し、受信信号に乗算してビーム形成することを行う必要がある。これにより、特定の方向の利得が保持されつつ、妨害波方向の利得が抑圧され、目標の探知性能が向上する。しかしながら、前述の通り、SOJの到来方向と、探知したい目標のなす角度が小さい、すなわちナルビームが適用される範囲内に目標がいる場合、ナルビームにより妨害機からの妨害波だけでなく目標からの受信信号も抑圧されてしまい、目標の検出が困難となる。
そこで本実施の形態に係るレーダ装置1000においては、最適化信号処理部213を備えて、課題の解決を図った。
【0018】
図2において、まず、受信部201はサブアレイのチャンネルから受信した信号から受信信号ベクトルを求める(ステップS01)。
【0019】
妨害波サンプリングデータ取得部202は、あらかじめ設定されたリスニング期間で、サブアレイのチャンネルから受信した信号から妨害波信号を取得する(S02)。
リスニング期間中のスナップショット数をNとし、アレイアンテナ100から電波を送信せず、受信のみの状態のリスニング期間中にn(1≦n≦N)番目にサンプリングした信号の受信部201での受信信号ベクトルをX(n)とする。
ここでは、サンプリングするサブアレーチャンネル数をMとする。式(1)中のTは転置を意味する。
【0020】
【0021】
式(1)により得られたX(n)を妨害波サンプリングデータとする。
【0022】
妨害波相関行列演算部3は、この妨害波サンプリングデータX(n)を用いて妨害波相関行列Rxxを求める(S03)。
妨害波相関行列Rxxはnに対して和を取り、全スナップショット数で平均化する。式(2)中のHはエルミート共役を意味する。
【0023】
【0024】
次に超分解能測角処理部204は、算出した妨害波相関行列Rxxを用いて超分解能測角の処理を施す(S04)。
超分解能測角の手法として例えば、MUSIC(MUltiple SIgnal Classification)や、ESPRIT(Estimation of Signal Parameters via Rotational Invariance Technique)が代表として挙げられる。超分解能測角処理部204は妨害波相関行列Rxxに対し超分解能測角の処理を施す。
【0025】
妨害波角度推定処理部205は、処理後の妨害波相関行列Rxxから電波妨害SOJの到来方向を推定する(S05)。
【0026】
一方、目標追尾情報取得部206は、アダプティブ・ナル・ビーム・フォーミング(ANBF)処理直前までに得られていた追尾情報より目標の追尾位置情報を推定する(S06)。推定した目標の追尾位置情報と、推定した電波妨害SOJの到来方向から、目標と電波妨害SOJとのなす角度を算出することができる。
【0027】
次に、最適化処理部207は、目標と電波妨害SOJとのなす角度に基づいて、Diagonal Loading値μの最適化処理を実行する(S07)。
ここでの最適化処理とは、目標と電波妨害SOJとのなす角度とμ値とで、予め角度依存のμ値に関するテーブルを用意しておき、このテーブルから選定することを行う。テーブルは事前にシミュレーション等で作成したものを使用することができる。
ここでのDiagonal Loading値μがANBF処理におけるナルビームの深さを決定する。
【0028】
Diagonal Loading処理部208は、選定したDiagonal Loading値μを用いて、妨害波相関行列RxxにDiagonal Loadingを施した相関行列RDLを求める(S08)。
【0029】
【0030】
ここで、IはM×Mの単位行列である。
【0031】
逆相関行列計算演算部209は式(3)で求めた妨害波相関行列RDLから、妨害波相関逆行列RDL
-1を求める(S09)。
【0032】
ステアリングベクトル計算処理部210と、ウェイト計算処理部211と、受信信号乗算部212は、従来のように、受信信号ベクトルX(n)から算出したステアリングベクトルとRDL
-1とを乗算してビーム形成ウェイトを得て、受信信号に乗算する(S10~S12)。なお、ここでの計算は従来と同じため詳細は省略する。
【0033】
図3は、本実施の形態に係るレーダ装置1000と従来のレーダ装置によるアダプティブ・ナル・ビーム・フォーミング(ANBF)の差異を模した図であり、目標とするターゲット14、電波妨害を発する妨害機15、電波妨害SOJ16、本実施の形態に係るレーダ装置1000を搭載する自機17の位置関係を示す。
【0034】
ここでは、SOJ16到来方向とターゲット14のなす角度18が十分大きくない場合の例を表している。
実線で表した従来のANBF後のビームパターン(イメージ)19では、妨害機15からのSOJ16とともにターゲット14からの受信信号も抑圧され、ターゲット14の検出が困難となるが、破線で表した本実施の形態に係るANBF後のビームパターン(イメージ)20では、妨害機15からのSOJ16に対してはナルビームを向けつつ、ターゲット14に対しては受信信号の抑圧を低減することができる。
【0035】
図4は、
図3の例で示した位置関係における、電波の到来角度(横軸)と受信信号の相対強度(縦軸)の関係を示したものであり、実線21は従来のANBFによるものであり、破線21は本実施の形態に係るANBFによるものである。
本実施の形態に係るレーダ装置においては、実線21のように電波妨害SOJ16の受信強度を抑圧しつつ、ターゲット14からの受信強度の抑圧を低減することができている。
【0036】
以上のように、本実施の形態に係るレーダ装置1000においては、電波妨害SOJの到来方向と目標との角度と、最適なDiagonal Loading値μとを関連付けしたテーブルを予めシミュレーション等で作成しておき、最適なDiagonal Loading値μを用いて、ANBF(アダプティブ・ナル・ビーム・フォーミング)処理でのウエイトを形成するようにした。これにより、最適化したDiagonal Loading値μを用いてナルビームを形成することで、妨害波に対してナルビームを向けつつ探知したい目標の受信信号の抑圧を防ぎ、目標を正しく探知することが可能となる。
本発明に係るレーダ装置は、航空機や艦船などに用いられるレーダや通信装置等に利用可能である。
【符号の説明】
【0037】
14 目標とするターゲット、15 妨害機、16 電波妨害SOJ、17 レーダ装置搭載の自機、18 SOJ16の到来方向とターゲット14のなす角度(十分大きくない角度)、19 従来のANBF後のビームパターン(イメージ)、20 本実施の形態に係るANBF後のビームパターン(イメージ)、100 アレイアンテナ、200 ビーム形成部、201 サブアレーチャンネルから得られる信号の受信部、202 受信信号ベクトル×スナップショット数の妨害波サンプリングデータ取得部、203 妨害波相関行列演算部、204 超分解能測角処理部、205 妨害波の角度推定処理部、206 目標の追尾情報取得部、207 Diagonal Loading最適化処理部、208 Diagonal Loading処理部、209 逆相関行列計算処理部、210:嵩上げ補正データ及びステアリングベクトル計算処理部、211:ビーム形成ウェイト計算処理部、212:受信信号乗算部、213:最適化信号処理部、300 信号処理部、
1000 レーダ装置。