(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165024
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】水中塔型構造物の制震構造
(51)【国際特許分類】
E02D 27/34 20060101AFI20241121BHJP
E02D 27/42 20060101ALI20241121BHJP
E02D 27/52 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
E02D27/34 B
E02D27/42 A
E02D27/52 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080831
(22)【出願日】2023-05-16
(71)【出願人】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100172096
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 理太
(74)【代理人】
【識別番号】100088719
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 博史
(72)【発明者】
【氏名】吉田 誠
(72)【発明者】
【氏名】白 可
(72)【発明者】
【氏名】三好 俊康
(72)【発明者】
【氏名】三浦 成久
(72)【発明者】
【氏名】松本 正一郎
(72)【発明者】
【氏名】肥後 陽介
(72)【発明者】
【氏名】音田 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】澤村 康生
【テーマコード(参考)】
2D046
【Fターム(参考)】
2D046DA05
2D046DA12
2D046DA32
(57)【要約】
【課題】洋上風力発電設備等の塔型構造物全体の制震性を高め、地震動等による洋上風力発電設備等のモノパイル式基礎等の基礎用筒状体への負担を軽減することができる水中塔型構造物の制震構造の提供。
【解決手段】水中塔型構造物の制震構造8は、基礎部4の外周面から水平方向に所定の長さで突出した支持部材9,9…と、支持部材9を介して基礎部4の外周面に一定の距離を隔てて支持され、基礎部4の周方向に配置された制震部材10とを備え、制震部材10は、少なくとも一部が水中に配置されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水底に立設された基礎部上に一定の高さを有する塔部が支持されてなる水中塔型構造物の制震構造において、
前記基礎部の外周部又は内周部から水平方向に所定の長さで突出した支持部材と、該支持部材を介して前記基礎部の外周部又は内周部に一定の距離を隔てて支持され、前記基礎部の周方向に配置された制震部材とを備え、
前記制震部材は、少なくとも一部が水中に配置されていることを特徴とする水中塔型構造物の制震構造。
【請求項2】
前記基礎部は、水底に立設された周方向に隣り合う複数の支柱を備え、
前記制震部材は、前記基礎部の全周を囲むように又は前記複数の支柱に囲まれた内部空間内に配置され、前記支持部材を介して前記基礎部に支持されている請求項1に記載の水中塔型構造物の制震構造。
【請求項3】
水底に立設された複数の支柱を備えた基礎部上に一定の高さを有する塔部が支持されてなる水中塔型構造物の制震構造において、
少なくとも何れかの前記支柱は、該支柱の外周面から水平方向に所定の長さで突出した支持部材と、該支持部材を介して前記各支柱の外周面から一定の距離を隔てて支持され、前記各支柱の周方向に配置された制震部材とを備え、
前記制震部材は、少なくとも一部が水中に配置されていることを特徴とする水中塔型構造物の制震構造。
【請求項4】
複数の前記制震部材が周方向に連続又は断続して隣り合った配置にそれぞれ前記支持部材を介して前記基礎部の外周部又は内周部に支持されている請求項1に記載の水中塔型構造物の制震構造。
【請求項5】
複数の前記制震部材が周方向に連続又は断続して隣り合った配置にそれぞれ前記支持部材を介して前記支柱の外周面に支持されている請求項3に記載の水中塔型構造物の制震構造。
【請求項6】
前記制震部材は、前記基礎部の外周よりも大きな筒状に形成されている請求項1に記載の水中塔型構造物の制震構造。
【請求項7】
前記制震部材は、前記支柱の外周よりも大きな筒状に形成されている請求項3に記載の水中塔型構造物の制震構造。
【請求項8】
前記制震部材は、前記基礎部の内周よりも小さな筒状に形成されている請求項1に記載の水中塔型構造物の制震構造。
【請求項9】
前記制震部材は、円錐台筒状又は円筒状である請求項6又は7に記載の水中塔型構造物の制震構造。
【請求項10】
前記制震部材は、円錐台筒状又は円筒状である請求項8に記載の水中塔型構造物の制震構造。
【請求項11】
前記制震部材は、多角形筒状である請求項6又は7に記載の水中塔型構造物の制震構造。
【請求項12】
前記制震部材は、多角形筒状である請求項8に記載の水中塔型構造物の制震構造。
【請求項13】
前記支持部材は、前記基礎部側又は前記制震部材側の何れか一方に支持された上下に向けた棒状の挿入部材を有する雄支持部材と、該挿入部材が挿入される筒状の被挿入部を有し、前記基礎部側又は前記制震部材側の何れか他方に支持された雌支持部材とを備え、前記挿入部材が被挿入部に挿入されることによって前記雄支持部材と前記雌支持部材とが互いに係合するようにした請求項1又は3に記載の水中塔型構造物の制震構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洋上風力発電装置等の水中塔型構造物の制震構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギー政策の一環として再生可能エネルギーが注目され、風力発電は、重要な電源確保手段として位置付けられている。
【0003】
特に、洋上風力発電は、陸上に比べて風況が良好であること、居住区域から離れているため騒音等の環境負担が少ないこと等から導入が促進されている。
【0004】
洋上風力発電設備では、一般に、設置水域の水深が浅い場合、水底に立設されたモノパイル式基礎、ジャケット式基礎、トリパイル式基礎、トリポッド式基礎、重力式基礎等の基礎部上に一定の高さを有する塔部が支持され、塔部の上端部に風車(ナセル・ロータ)等からなる風力発電用装置を支持させた着床式のものが用いられている(例えば、特許文献1を参照)。
【0005】
基礎部の代表的なものであるモノパイル式基礎は、一般的且つコストが安いことから着床式洋上風力発電装置の基礎として欧州等で広く用いられているが、地震が多発する日本においては、その基礎となるモノパイル式基礎への地震動の影響が大きく、特に大水深の水域に設置する場合、地震動によってモノパイル式基礎に大きな変形が生じるおそれがあることから、この種の塔型構造物の設計は厳格に行われている。
【0006】
即ち、この種の塔型構造物では、下部が地盤に貫入・支持されており、地震発生時等に大きな曲げモーメントやせん断力が作用することから、安全性を確保するため、当該曲げモーメントやせん断力に対抗できるように予め塔型構造物の基礎部分であるモノパイルやジャケット(以下、モノパイル等という)の外径や肉厚を大きくする必要がある。
【0007】
また、近年では、洋上風力発電装置の大型化が進んでおり、地震発生時等にモノパイル等の基礎部を含む塔部全体に作用する大きな曲げモーメントやせん断力に対応すべく、塔型構造物の基礎部分であるモノパイル等の外径や肉厚が大型化する傾向にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述の如き従来の技術では、塔型構造物の基礎部であるモノパイル等の外径や肉厚が大きくなると、当該モノパイルの製造コスト、輸送コスト及び建設コストが増大するという問題がある。
【0010】
また、モノパイル等が大型化すると、取り回しや打設により大型の作業船を使用する必要があるとともに、モノパイルを打設する際に時間を要するため、モノパイル式基礎の施工におけるコストの増加、工期の長期化及び安全上のリスクが高まるという問題があった。
【0011】
特に、モノパイル式基礎は、1本杭の基礎であり、地盤によっては地盤との共振により過大な荷重が生じても、構造・形状が単純であるがゆえに、形状の修正などの設計的な工夫による地震荷重の低減が困難であり、過大な設計強度や基礎形状となるリスクがあった。
【0012】
よって、モノパイルの大型化に伴うモノパイル式基礎の施工に要するコスト増加、工期の長期化及び安全上のリスクを軽減するためには、地震動等による塔型構造物への応力負担を軽減し、モノパイルの外径や肉厚を小さくすることが望まれる。
【0013】
また、モノパイル式以外のジャケット式、トリパイル式、トリポッド式、重力式等の基礎部においても、同様の理由から大型化が余儀なくされており、それに伴うコストの増加、工期の長期化及び安全上のリスク増大が課題となっている。
【0014】
そこで、本発明は、このような従来の問題に鑑み、洋上風力発電設備等の塔型構造物全体の制震性を高め、地震動等による洋上風力発電設備等のモノパイル式基礎等の基礎用筒状体への負担を軽減することができる水中塔型構造物の制震構造の提供を目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述の如き従来の問題を解決するための請求項1に記載の発明の特徴は、水底に立設された基礎部上に一定の高さを有する塔部が支持されてなる水中塔型構造物の制震構造において、前記基礎部の外周部又は内周部から水平方向に所定の長さで突出した支持部材と、該支持部材を介して前記基礎部の外周部又は内周部に一定の距離を隔てて支持され、前記基礎部の周方向に配置された制震部材とを備え、前記制震部材は、少なくとも一部が水中に配置されていることにある。
請求項2に記載の発明の特徴は、請求項1の構成に加え、前記基礎部は、水底に立設された周方向に隣り合う複数の支柱を備え、前記制震部材は、前記基礎部の全周を囲むように又は前記複数の支柱に囲まれた内部空間内に配置され、前記支持部材を介して前記基礎部に支持されていることにある。
【0016】
請求項3に記載の発明の特徴は、水底に立設された複数の支柱を備えた基礎部上に一定の高さを有する塔部が支持されてなる水中塔型構造物の制震構造において、少なくとも何れかの前記支柱は、該支柱の外周面から水平方向に所定の長さで突出した支持部材と、該支持部材を介して前記各支柱の外周面から一定の距離を隔てて支持され、前記各支柱の周方向に配置された制震部材とを備え、前記制震部材は、少なくとも一部が水中に配置されていることにある。
【0017】
請求項4に記載の発明の特徴は、請求項1の構成に加え、複数の前記制震部材が周方向に連続又は断続して隣り合った配置にそれぞれ前記支持部材を介して前記基礎部の外周部又は内周部に支持されていることにある。
【0018】
請求項5に記載の発明の特徴は、請求項3の構成に加え、複数の前記制震部材が周方向に連続又は断続して隣り合った配置にそれぞれ前記支持部材を介して前記支柱の外周面に支持されていることにある。
【0019】
請求項6に記載の発明の特徴は、請求項1の構成に加え、前記制震部材は、前記基礎部の外周よりも大きな筒状に形成されていることにある。
【0020】
請求項7に記載の発明の特徴は、請求項3の構成に加え、前記制震部材は、前記支柱の外周よりも大きな筒状に形成されていることにある。
【0021】
請求項8に記載の発明の特徴は、請求項1の構成に加え、前記制震部材は、前記基礎部の内周よりも小さな筒状に形成されていることにある。
【0022】
請求項9に記載の発明の特徴は、請求項6又は7の構成に加え、前記制震部材は、円錐台筒状又は円筒状であることにある。
【0023】
請求項10に記載の発明の特徴は、請求項8の構成に加え、前記制震部材は、円錐台筒状又は円筒状であることにある。
【0024】
請求項11に記載の発明の特徴は、請求項6又は7の構成に加え、前記制震部材は、多角形筒状であることにある。
【0025】
請求項12に記載の発明の特徴は、請求項8の構成に加え、前記制震部材は、多角形筒状であることにある。
【0026】
請求項13に記載の発明の特徴は、請求項1又は3の構成に加え、前記支持部材は、前記基礎部側又は前記制震部材側の何れか一方に支持された上下に向けた棒状の挿入部材を有する雄支持部材と、該挿入部材が挿入される筒状の被挿入部を有し、前記基礎部側又は前記制震部材側の何れか他方に支持された雌支持部材とを備え、前記挿入部材が被挿入部に挿入されることによって前記雄支持部材と前記雌支持部材とが互いに係合するようにしたことにある。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る水中塔型構造物の制震構造は、請求項1乃至3の構成を具備することによって、地震動等による外力によって基礎部が揺動すると、制震部材が水の抵抗を受けて揺れを吸収し、基礎に作用する外力を低減するとともに、制震部材より内側で生じるスロッシング効果によってエネルギーを吸収し、その制震効果によって塔型構造物全体への負担を軽減することができる。また、塔型構造物全体への負担が軽減されることによって、地震時の塔型構造物へ作用する断面力を軽減することができ、その分、モノパイル等の基礎部の外径や肉厚等の規模を小さくすることができる。
【0028】
また、本発明において、請求項4乃至5の構成を具備することによって、基礎部の態様に合わせて適切に制震部材を配置することができる。
【0029】
さらに、本発明において、請求項6乃至8の構成を具備することによって、基礎部又は支柱が揺動した際に制震部材に作用する水の抵抗を効果的に生じさせることができる。
【0030】
さらに、本発明において、請求項9乃至10の構成を具備することによって、全方位に対応でき、且つ、隙間が無いので高い制震効果を得ることができる。また、モノパイル等と同様の制作方法で安価に製作することができる。さらに、基礎部が円錐台状の場合には、制震部材を円錐台筒状とすることで基礎部の形状に適合させることができる。
【0031】
さらに、本発明において、請求項11乃至12の構成を具備することによって、揺動する方向に対する水の抵抗を受ける部分の面積を大きくし、水による抵抗を高めることができる。
【0032】
また、本発明において、請求項13の構成を具備することによって、施工現場において基礎部に対し容易に制震部材の着脱を行うことができる。特に、制震部材をモノパイルとトランジッションピースとのように上下に連結される複数の部材に跨って支持させる場合に効率よく施工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本発明に係る水中塔型構造物の制震構造の実施態様の一例を示す正面図である。
【
図2】同上の制震構造部分を示す拡大断面図である。
【
図4】同上の他の実施態様を示す拡大平面図である。
【
図5】(a)は同上の他の実施態様を示す拡大平面図、(b)は同正面図である。
【
図6】同上の支持部材の態様を示す拡大正面図であって、(a)は取付時の状態、(b)は同雌雄支持部材が係合した状態を示す図である。
【
図7】同上の支持部材の取り付け位置の他の実施態様を示す断面図である。
【
図8】同上の水中塔型構造物の振動モードの振動波の状態を示すグラフである。
【
図9】本発明に係る水中塔型構造物の制震構造の制震効果を示すグラフである。
【
図10】(a)水中塔型構造物の制震構造の他の態様を示す正面図、(b)は同A-A線矢視断面図である。
【
図11】(a)同上の水中塔型構造物の制震構造の他の態様を示す正面図、(b)は同A-A線矢視断面図である。
【
図12】(a)は水中塔型構造物の制震構造の他の態様を示す平面図、(b)は同正面図である。
【
図13】同上の水中塔型構造物の制震構造の他の態様を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
次に、本発明に係る水中塔型構造物の制震構造8の実施態様を
図1~
図13に示した実施例に基づいて説明する。尚、図中符号1は水底地盤、符号2は水面である。また、本実施例は、水中塔型構造物として着床式洋上風力発電設備を例に説明する。
【0035】
水中塔型構造物である着床式洋上風力発電設備(以下、水中塔型構造物という)は、
図1に示すように、水底地盤1に立設された基礎部4と、基礎部4上に連結された中空筒状の塔本体部5と、塔本体部5の上端部に支持された風車設備6(ナセル・ロータ)とを備え、基礎部4及び塔本体部5とで塔型を成している。
【0036】
本実施例では、基礎部4としてモノパイル式基礎を用いた場合について説明し、水底地盤1に貫入された状態で水底地盤1に立設されてなるモノパイルからなる基礎部4(以下、単に基礎部4という)の上端にトランジッションピース7を介して塔本体部5が連結されている。
【0037】
尚、基礎部4の態様は、本実施例に限定されず、トランジッションピースを用いず、基礎部4の上端に直接塔本体部5が連結されるようにしてもよく、態様によってトランジッションピース7も基礎部4に含まれるものとする。
【0038】
基礎部4は、鋼管等によって構成され、上下端が開口した円筒状等の筒状の本体部4aと、本体部4aの上端部に一体に形成された上方が先細りとなる円錐台筒状の連結部4bとを備え、連結部4bの外側にトランジッションピース7のスカート部7aが嵌合され、連結部4bとスカート部7aとの間にグラウトが注入されることによって、基礎部4とトランジッションピース7とが連結されている。
【0039】
尚、基礎部4を構成するモノパイルの態様は、円筒状に限定されず、例えば、多角形筒状等であってもよい。
【0040】
基礎部4は、
図1、
図2に示すように、下側が所定の深さまで水底地盤1に貫入され、上側が所定の高さ分だけ水面2より突出した状態に打設され、水中でトランジッションピース7が連結されている。尚、基礎部4の水底地盤1からの突出高さは、上述の実施例に限定されず、例えば、基礎部4の上端が水面2上に突出し、気中でトランジッションピース7と連結されていてもよい。
【0041】
また、この水中塔型構造物3は、制震構造8を具備し、地震動等の外力による負担が軽減されるようになっている。
【0042】
この制震構造8は、
図2,
図3に示すように、基礎部4の外周面から水平方向に所定の長さで突出した支持部材9,9…と、支持部材9,9…を介して基礎部4の外周部(外周面)に一定の距離を隔てて支持され、少なくとも一部が水中に配置されてなる制震部材10とを備え、地震動等による外力によって基礎部4が揺動すると、制震部材10が水の抵抗を受けて揺れを吸収するようになっている。
【0043】
制震部材10は、鋼材によって基礎部4の外径より大きい円筒状に形成され、支持部材9,9…を介して基礎部4の外周部(外周面)に一定の距離を隔てて支持され、基礎部4の周方向に配置され基礎部4を囲むようになっている。
【0044】
この制震部材10は、下端が水底地盤1より所定の高さだけ上方に位置し、且つ、上端が水面2より所定の高さだけ突出するように高さが設定されていることが望ましい。尚、制震部材10は、下端が水底地盤1より所定の高さだけ上方に位置していれば、上端が水面2下に位置した状態、即ち、制震部材10の全部が水中に没していてもよい。
【0045】
また、制震部材10の態様は、上述の実施例に限定されず、例えば、制震部材10を
図4に示すように多角形筒状に形成してもよく、
図5に示すように、板状の複数の制震部材11,11…が周方向に連続又は断続して隣り合った配置にそれぞれ支持部材9,9…を介して基礎部4の外周部(外周面)に支持されたものであってもよい。
【0046】
支持部材9,9…は、
図6に示すように、制震部材10側に支持された上下方向に向けた棒状の挿入部材12aを有する雄支持部材12と、基礎部4側に支持され、挿入部材12aが挿入される筒状の被挿入部13aを有する雌支持部材13とを備え、挿入部材12aが被挿入部13aに挿入されることによって雌雄支持部材12,13が互いに係合し、制震部材10を基礎部4に取り付けられるようにしている。
【0047】
雄支持部材12は、基端が制震部材10の基礎部4側の面である内周面に固定され、水平方向内側に突出した支持部12bの先端に挿入部材12aが固定され、挿入部材12aの下部が下向きに延出している。
【0048】
また、挿入部材12aには、下端より一定の高さ位置に円形鍔状のフランジ部12cを備え、このフランジ部12cが被挿入部13aに支持されるようになっている。
【0049】
雌支持部材13は、基端が基礎部4の制震部材10側の面である外周面に固定され、水平方向外側に突出した支持部13bの先端に円筒状の被挿入部13aが筒軸方向を上下に向けて固定され、挿入部材12aが挿入できるようになっている。
【0050】
そして、挿入部材12aを被挿入部13aに挿入することによって、挿入部材12aのフランジ部12cが被挿入部13aの上面に当接し、雌雄支持部材12,13が互いに係合され、雌雄支持部材12,13からなる支持部材9,9…を介して塔型構造物の基礎部4と制震部材10との間で相互に外力を伝達できるようになっている。
【0051】
尚、雌雄支持部材12,13は、雄支持部材12を基礎部4の制震部材10側の面である外周面に挿入部材12aの先端を上向きにして設置し、雌支持部材13を制震部材10の基礎部4側の面である内周面に被挿入部13aの筒軸方向を上下に向けて固定してもよい。
【0052】
また、支持部材9,9…の態様は、上述の実施例に限定されず、例えば、支持部材9,9…がI形鋼、角形鋼、C形鋼等の一の棒状や梁状の部材によって構成され、この支持部材9,9…の一端が基礎部4の外周部(外周面)に溶接やボルト締め等によって強固に固定されるとともに、他端が制震部材10の内周面に溶接やボルト締め等によって強固に固定されるようにしてもよい。
【0053】
この場合、基礎部4を水底部に立設する前に予め制震部材10を基礎部4に固定しておいてもよい。
【0054】
各支持部材9,9…は、それぞれ周方向に等間隔で少なくとも3カ所に配置され、且つ、上下方向に少なくとも2カ所(本実施例では2カ所)に配置され、基礎部4に制震部材10が安定して支持されるようになっている。
【0055】
尚、支持部材9,9…の上下方向の設置位置は、
図7に示すように、複数設置されるものの一部を基礎部4の外周部(外周面)に固定し、他をトランジッションピース7の外周部(外周面)に固定するようにしてもよい。
【0056】
このように構成された水中塔型構造物3は、支持部材9,9…を介して基礎部4の外周部(外周面)に一定の距離を隔てて支持され、少なくとも一部が水中に配置されてなる制震部材10を備えているので、地震動等による外力によって基礎部4が揺動すると、支持部材9,9…を介して制震部材10に外力が伝達され、制震部材10が基礎部4とともに揺動するので、制震部材10が水の抵抗を受けて揺れを吸収することができる。
【0057】
また、制震部材10の上端が水面2から突出している場合には、制震部材10の内側の水が地震波と共振して水面2が大きくうねる現象、所謂スロッシング現象が生じることによって、地震動等によって生じたエネルギーが吸収され、揺れを低減させることができる。
【0058】
さらに、この種の水中塔型構造物3では、
図8に示すように、二次以上の高次モードの振動の影響で曲げモーメントが水底地盤1内で最も大きくなるおそれがあるところ、制震部材10を水底地盤1に立設された基礎部4に設けることによって、
図9に示すように、曲げモーメントに好適に対抗することができ、高次モードの振動に対しても有効な制震効果を発揮することができる。
【0059】
尚、上述の実施例では、モノパイル式基礎を基礎部4とした場合について説明したが、本発明は、モノパイル式以外のジャケット式、トリパイル式、トリポッド式、重力式等の基礎部にも適用することができる。
【0060】
例えば、
図10に示すように、ジャケット式基礎やトリパイル式基礎のように、水底地盤1に立設された複数の支柱15,15…を有する基礎部16(本実施例ではジャケット式基礎16)の場合には、少なくとも3本の支柱15,15…からなる基礎部16の全周を制震部材10で囲むようにすることができる。尚、上述の実施例と同様の構成には同一符号を付して説明を省略する。
【0061】
本実施例では、水底に立設された4本の支柱15,15…の周方向で互いに隣り合う支柱15,15間が水平材17又は斜材18によって連結されて櫓状のジャケット式基礎部16を成し、ジャケット式基礎部16の上端部に塔本体部5を接続している。
【0062】
そして、ジャケット式基礎部16の外周部を構成する各支柱15の外周面に所定の長さで突出した支持部材9,9…をジャケット式基礎部16に対し水平方向外側に向けて設け、各支持部材9,9…を介してジャケット式基礎部16を全周に亘って囲むように制震部材10がジャケット式基礎部16の外周部、即ち、各支柱15,15…に対し一定の距離を隔てて支持されている。尚、制震部材10は、少なくとも一部が水中に配置される。
【0063】
尚、
図11に示すように、ジャケット式基礎部16を構成する周方向で隣り合う各支柱15に囲まれた基礎部4の内部に向けて所定の長さで突出した支持部材9,9…を各支柱15,15…に支持させ、各支持部材9,9…を介してジャケット式基礎部16の内部に筒状又は周方向に連続した制震部材10を設けるようにしてもよい。
【0064】
ここで、ジャケット式基礎の外周部とは、空間認識上、周方向で隣り合う支柱間を境界として内外に隔てられた外側空間側に現れる基礎部の外周部分であり、ジャケット式基礎の内周部とは、上記境界に隔てられた内側空間側に現れる基礎部の内周部分である。
【0065】
尚、上述の実施例では、支柱15に支持部材9を支持させた場合について説明したが、強度上問題なければ水平材17又は斜材18に支持部材9を支持させるようにしてもよい。
【0066】
これによって地震時には、複数の支柱15,15…を有する基礎部16が一体となって有効な制振効果を発することができる。
【0067】
また、トリパイル式基礎やジャケット式基礎のように、水底に立設された複数の支柱20,20…を備えた基礎部4の場合には、
図12に示すように、支柱20毎に制震部材10を備えるようにしてもよい。尚、上述の実施例と同様の構成には同一符号を付して説明を省略する。
【0068】
即ち、この実施例では、支柱20が支柱20の外周部(外周面)から水平方向に所定の長さで突出した支持部材9,9…と、支持部材9,9…を介して支柱の外周部(外周面)から一定の距離を隔てて支持され、支柱の周方向に配置された制震部材10を備え、この制震部材10の少なくとも一部が水中に配置される。
【0069】
尚、
図10に示す実施例では、すべての支柱20に制震部材10を備える場合について説明したが、複数の支柱の一部にのみ制震部材10を設けてもよい。
【0070】
また、上述の実施例では、基礎部4の外側に制震部材10を設置する場合について説明したが、
図13に示すように、基礎部4の内周面から水平方向に所定の長さで突出した支持部材9,9…を介して基礎部4の内側に、基礎部4の内周面に一定の距離を隔てて基礎部4の周方向に配置された基礎部4より内径の小さな筒状の制震部材21を支持させるようにしてもよい。尚、上述の実施例と同様の構成には同一符号を付して説明を省略する。
【0071】
尚、本発明は、上述した各実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能である。例えば、上述した基礎部4の外側に制震部材10を設置するとともに、基礎部4の内側に制震部材10を設置するようにしてもよい。これによって地震時には、内外の制震部材10の相乗効果により一層の制振効果を発することができる。
【符号の説明】
【0072】
1 水底地盤
2 水面
3 水中塔型構造物
4 基礎部
5 塔本体部
6 風車設備
7 トランジッションピース
8 制震構造
9 支持部材
10 制震部材
11 制震部材
12 雄支持部材
13 雌支持部材
15 支柱
16 ジャケット式基礎部
17 水平材
18 斜材
20 支柱
21 制震部材