IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ トラタニ株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-枕 図1A
  • 特開-枕 図1B
  • 特開-枕 図2
  • 特開-枕 図3
  • 特開-枕 図4
  • 特開-枕 図5
  • 特開-枕 図6
  • 特開-枕 図7
  • 特開-枕 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165025
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】枕
(51)【国際特許分類】
   A47G 9/10 20060101AFI20241121BHJP
【FI】
A47G9/10 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080832
(22)【出願日】2023-05-16
(71)【出願人】
【識別番号】505406486
【氏名又は名称】トラタニ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087653
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴江 正二
(72)【発明者】
【氏名】虎谷 生央
【テーマコード(参考)】
3B102
【Fターム(参考)】
3B102AA02
3B102AA09
3B102AB07
(57)【要約】
【課題】頭が枕の縦方向(身長方向)上側にずれ動く事態になったとしてもこの動きを止めることができ、しかも、呼吸に悪影響を及ぼさない枕を提供する。
【解決手段】本発明の枕では、主支持部60で、左の所定領域SA7および右の所定領域SA7に対して面状に圧力を加えて支持し、主支持部60よりも支持の高さが低い副支持部80は、仰臥した人の上項線SA4よりも頭頂側の頭部に対して圧力を加えて支持する。この枕には、仰臥した人の身長方向上側への頭のずれ動きを規制する主規制部90を備え、主規制部90には、上記人の頭頂中央部HD1に対向する部位にそことの当接を避ける凹部93を設ける。一方、この枕には、仰臥した人の側頭筋MAの下方には圧力を加えて支持する部材がない。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上方へ突出している弾性を有した部材であり、仰臥した人の後頭骨の上項線と下項線との間の領域のうち、少なくとも、僧帽筋が後頭骨に付着する部分の左端から左の胸鎖乳突筋が後頭骨に付着する部分までの領域および僧帽筋が後頭骨に付着する部分の右端から右の胸鎖乳突筋が後頭骨に付着する部分までの領域に対して圧力を加えて面状に支持する主支持部と、
弾性を有し、上記主支持部よりも支持の高さが低く設定され、上記人の上項線よりも頭頂側の頭部に対して圧力を加えて支持する副支持部と、
上記副支持部に対して上記主支持部とは反対側に位置し、上記副支持部より高く突出させて、上記人の身長方向上側への頭のずれ動きを規制する主規制部とを備え、
上記主規制部には、上記人の頭頂中央部に対向する部位に上記頭頂中央部との当接を避ける凹部を設けており、
上記人の側頭筋の下方には圧力を加えて支持する部材がないことを特徴とする枕。
【請求項2】
上記凹部内の鉛直方向下方には穴を設けて上記副支持部の厚み面を外に露呈させるように構成したことを特徴とする請求項1に記載の枕。
【請求項3】
上方へ突出している弾性を有した部材であり、仰臥した人の後頭骨の上項線と下項線との間の領域のうち、少なくとも、僧帽筋が後頭骨に付着する部分の左端から左の胸鎖乳突筋が後頭骨に付着する部分までの領域および僧帽筋が後頭骨に付着する部分の右端から右の胸鎖乳突筋が後頭骨に付着する部分までの領域に対して圧力を加えて面状に支持する主支持部と、
弾性を有し、上記主支持部よりも支持の高さが低く設定され、上記人の上項線よりも頭頂側の頭部に対して圧力を加えて支持する副支持部と、
上記副支持部に対して上記主支持部とは反対側に位置し、上記副支持部より高く突出させて、上記人の身長方向上側への頭のずれ動きを規制する主規制部とを備え、
上記主規制部には、上記人の頭頂中央部に対向する部位に上記主規制部の素材の反発力よりも低い低反発素材を設けており、
上記人の側頭筋の下方には圧力を加えて支持する部材がないことを特徴とする枕。
【請求項4】
上記低反発素材の鉛直方向下方には穴を設けて上記副支持部の厚み面を外に露呈させるように構成したことを特徴とする請求項3に記載の枕。
【請求項5】
上記低反発素材の鉛直方向下方にも低反発素材を設けて上記副支持部の厚み面に対向させるように構成したことを特徴とする請求項3に記載の枕。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は枕に関し、特に、使用者の呼吸を楽にする枕の機能に関する。
【背景技術】
【0002】
寝姿勢でも呼吸が楽であることは睡眠の質に欠かせない。したがって、枕には、使用者の呼吸を楽にする機能が求められる。特に仰臥位で呼吸を楽にするには、頭の角度を適切な値に維持する必要がある。頭が前屈しすぎれば(すなわち、顎が下がりすぎれば)気道が圧迫されるので息が苦しくなりかねず、逆に頭が後屈しすぎれば(すなわち、顎が上がりすぎれば)舌根がのどに沈下するので無呼吸を引き起こしかねない。そこで、たとえば特許文献1には、首から後頭部まで支持し、後頭部の支持力を低減させて、顎が下がらないようにした枕が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭62-139188号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1のような枕の場合、枕の圧力分布が後頭部から首にかけて広範囲にわたるので、頭のずれ動きが生じやすい。特に頭のずれ動きが枕の縦方向(身長方向)である場合、圧力分布の中心が頭の重心から枕の縦方向の上下へ大きく外れやすい。それに伴うトルクによって頭の角度が大きく傾き、呼吸が妨げられることになる。また、頭の寝返りを起こしやすくなるので、寝違えも起こしやすくなる。
なお、上記「頭の寝返り」とは、仰臥した人の首から頭にかけてこれらのみが左右横方向に旋回することをいう。
【0005】
本発明の目的は上記の課題を解決することであり、頭が枕の縦方向(身長方向)にずれ動き易いのをずれ動きが始まろうとする段階に着目し、この段階を改善することで効果的にずれ動きを抑制して頭の角度が大きく傾かないように安定的に維持し、しかも、呼吸に悪影響をもたらさず、むしろ呼吸が楽になるようにするとともに、頭の寝返りが起こりにくくなり、寝違えも起こりにくくなるようにすること、さらに、たとえ頭が枕の縦方向(身長方向)上側にずれ動く事態になったとしてもこの動きを止めることができ、しかも、呼吸に悪影響を及ぼさない枕を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による枕は、
上方へ突出している弾性を有した部材であり、仰臥した人の後頭骨の上項線と下項線との間の領域のうち、少なくとも、僧帽筋が後頭骨に付着する部分の左端から左の胸鎖乳突筋が後頭骨に付着する部分までの領域および僧帽筋が後頭骨に付着する部分の右端から右の胸鎖乳突筋が後頭骨に付着する部分までの領域に対して圧力を加えて面状に支持する主支持部と、
弾性を有し、上記主支持部よりも支持の高さが低く設定され、上記人の上項線よりも頭頂側の頭部に対して圧力を加えて支持する副支持部と、
上記副支持部に対して上記主支持部とは反対側に位置し、上記副支持部より高く突出させて、上記人の身長方向上側への頭のずれ動きを規制する主規制部とを備え、
上記主規制部には、上記人の頭頂中央部に対向する部位に上記頭頂中央部との当接を避ける凹部を設けており、
上記人の側頭筋の下方には圧力を加えて支持する部材がないことを特徴とする。
【0007】
ところで、上記「仰臥した人の後頭骨の上項線と下項線との間の領域のうち、僧帽筋が後頭骨に付着する部分の左端から左の胸鎖乳突筋が後頭骨に付着する部分までの領域」については、以下、「左の所定領域」という。
また、上記「仰臥した人の後頭骨の上項線と下項線との間の領域のうち、僧帽筋が後頭骨に付着する部分の右端から右の胸鎖乳突筋が後頭骨に付着する部分までの領域」については、以下、「右の所定領域」という。
また、枕は、通常枕カバーで覆われるが、本発明の枕は、枕カバーで覆うものも、枕カバーで覆わない枕も双方含める意味の枕である。
【0008】
本発明において、「後頭骨」とは、頭蓋の後部と底部とを成す皿状の骨SAをいう(図1A図1B参照)。「外後頭隆起」とは、後頭骨SAの外表面の中央部に位置する凸部SA1をいう。「上項線」とは、図1Bに示すとおり外後頭隆起SA1の直下から乳様突起SC1の根元まで左右横方向に弓状に引いた線SA4をいう。「下項線」とは、同図に示すとおり上項線の下方であって乳様突起SC1の先端部(下端部)まで左右横方向に弓状に引いた線SA5をいう。「頭頂骨」とは、頭蓋の頂部と左右の側上部とを成す一対の矩形状の骨SBをいう。「側頭骨」とは、頭蓋の左右の側下部を成す一対の台形状の骨SCをいう。図1Aが示すように、胸鎖乳突筋MBの付着MB1は、後頭骨SAにおける上項線SA4から側頭骨SCにおける上項線SA4さらに側頭骨SCにおける乳様突起SC1の範囲まで付着されているものである。
【0009】
また、本発明において、副支持部の支持の高さに関し、副支持部が「主支持部よりも支持の高さが低く設定されており」とは、仰臥した人の頭の該当部位を主支持部と副支持部に載せ、沈み込んだ後の主支持部と副支持部の支持の高さを比較した場合に、副支持部の支持の高さが主支持部の支持の高さよりも低く設定されているという意味である。
【0010】
また、「圧力を加えて支持する」とは、仰臥した人の該当箇所の重み(体圧)が主支持部に加わった場合に、その反作用として、上記該当箇所に対し押し返しの弾性圧力(弾性反発力)が加えられるが、この押し返しの弾性圧力(弾性反発力)が加えられて所望の高さに支持する(ささえる)という意味である。したがって、単に接触している程度あるいは弾性反発力が微々たるものに過ぎない場合には、圧力を加えて所望の高さに支持する(ささえる)ということではない。
また、「圧力を加えて面状に支持する」とは、上記押し返しの弾性圧力(弾性反発力)が加えられて所望の高さに支持する場合に、面状に支持する(ささえる)という意味である。したがって、1本線で線状に当てつけているに過ぎない場合には、面状に支持するものではなく、安定的な支持にならないから、圧力を加えて面状に支持するということではない。逆に、点状に接触させるための多数の突起群(点状突起群)を設け、この点状突起群で支持を行う場合には、当てつけ面積が面そのものよりは大幅に減るが、面と同様の安定的な支持を行うものであるから、面状に支持する範疇のものであり、面状に支持する構成に含む意味である。
【0011】
さらに、「圧力を加えて支持する部材がない」とは、該当箇所(側頭筋)に上記押し返しの弾性圧力(弾性反発力)が積極的に加えられず、側頭筋が強く圧迫されて血流障害が発生しやすくなってしまうような支持部材がないことを意味する。したがって、上記該当箇所に空間を設けたり、あるいは、上記該当箇所に圧力が積極的に加わらないように構造改変したりした場合には、当然、支持する部材がないことを意味するが、上記「圧力を加えて支持する部材がない」とは、このような場合に限られるものではない。すなわち、たとえ上記該当箇所に部材が存在していても、その部材が非常にソフトであり、上記主支持部に大きな悪影響を及ぼしたり、あるいは、上記側頭筋を強く圧迫し血流障害を発生しやすくしたりするような部材ではない場合には、それは上記圧力を加えて支持する部材がないことを意味するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の枕によれば、主支持部より副支持部の支持の高さを低く設定したこと、支持の高さを高くした主支持部は斜め下方に向く後頭骨SAの上記左右の所定領域SA7(図1B参照)に圧力を加えて面状に支持すること、この面状に支持する左右の所定領域SA7は頭の重心Gの位置に近いこと(図6参照)等から、頭の重みが主支持部に集中する。この集中によって、頭が枕の縦方向に簡単に動き始めてしまう事態が阻止されて大きなずれ動きに発展するのを効果的に抑制することができ、頭の角度をより安定的に維持することができる。つまり、難しいとされていた頭の角度が簡単に大きく傾いてしまうことを効果的に防止することができる。
【0013】
また、本発明は、主支持部で圧力を加えて面状に支持する部位が後頭骨SAにおける上記左右の所定領域SA7であるから、圧迫ストレスがなく、呼吸に悪影響をもたらさないとともに、頭の重みが主支持部に集中して主支持部が窪むため、頭の寝返りが起こりにくくなり、寝違えも起こりにくくなる。
【0014】
むしろ、本発明は、頸椎の全体を直立時と同じように湾曲形状(アーチ状)に維持し、気道と首の筋肉群、特に呼吸筋である胸鎖乳突筋MB、前斜角筋、中斜角筋、後斜角筋(図示せず)が圧迫されない。その結果、気道が仰臥時でも直立時と同程度に確保することができるとともに、呼吸筋がスムーズに動くようになり、呼吸が楽である。
【0015】
また、仰臥位の状態で寝るといっても、常に顔を真上に向けた状態で寝るとは限らず、顔を少し横向き加減にして寝る場合も多い。このような状態で寝る仰臥位の人に対しても、側頭筋MAの下方に圧力を加えて支持する部材がなく、側頭筋MAの圧迫による血流障害(血流の悪化)がない。この血流障害が防止されているため、側頭筋MAおよびこれにつながる首・肩などの筋肉の緊張、めまい、頭痛、自律神経の乱れが起きず、呼吸が楽である。
【0016】
また、本発明には、頭が枕の縦方向(身長方向)上側へ大きくずれ動くのを阻止するための主規制部90を備えている。この主規制部90を備えている場合に、頭頂中央部HD1が主規制部90に突き当たると、頭頂中央部HD1が主規制部90に面状に当接するのみならず、頭頂中央部HD1は主規制部90から強い反発力を受け、頭頂中央部HD1が強圧迫状態で枕の縦方向(身長方向)上側に動くのを阻止されることになる。しかし、頭頂中央部HD1が主規制部90に長く強圧迫されていると、呼吸時に肺の膨縮と共に動作する頭の前後方向の動き(つまり、図6の矢印BMに示す前後方向の動き、以下「頭のうなずき運動」という。)が長く拘束され、息の吸い込みと吐き出しが十分に行えなくなるという問題が新たに知見された。すなわち、人が呼吸をしながら仰臥位の状態で寝ている時には、息を吸うと頭が図6のBMのin方向(下側)に僅かに動き、息を吐くと頭が図6のBMのex方向(上側)に僅かに動くのであるが、この動きが許容されず完全に拘束されると、息の吸い込みと吐き出しが十分に行えず、呼吸が不完全になり、良好な呼吸状態にならないのである。したがって、呼吸を良好な状態に確保するには、頭のずれ動きが主規制部によって阻止されている状態においても、上記頭のうなずき運動が許容されて、息の吸い込みと吐き出しが十分に行えるようにしていなければならないのである。
【0017】
この頭のうなずき運動の許容に関して、本発明では、上記人の頭頂中央部HD1(図1A、図1B参照)に対向する主規制部90の部位に上記頭頂中央部HD1との当接を避ける凹部93(一例の図5図6参照)を設けている。これによって、頭頂中央部HD1は主規制部90に面状に強圧迫を受けず、上記頭のうなずき運動が確保され、息の吸い込みと吐き出しが十分に行えて、良好な呼吸状態にすることができるのである。なお、頭の縦方向(身長方向)上側へのずれ動きの規制は、凹部93の左右両側のへりで行われることになるが、このへりとの当接は細幅であることから、頭のうなずき運動が阻止されてしまう状態までにはならないものである。
【0018】
ところで、上記凹部93内の鉛直方向下方については、穴54(図6参照)を設けて上記副支持部の厚み面を外に露呈させるようにしてもよい。このように構成すると、副支持部の圧縮変形および復帰変形がより容易になり、上記頭のうなずき運動をより十分に行うことができる利点がある。
【0019】
また、上記発明では、上記凹部93によって頭頂中央部HD1が主規制部90に強圧迫を受けず、頭のうなずき運動を許容して、息の吸い込みと吐き出しが十分に行えるようにしたが、この構成に限らず、他の発明として、頭頂中央部HD1に対向する主規制部90の部位に主規制部90の反発力よりも低い低反発素材930を設ける構成にしてもよい(一例の図7図8参照)。このように構成しても、頭頂中央部HD1は主規制部90に対して強圧迫が避けられ、上記頭のうなずき運動が確保されて、息の吸い込みと吐き出しが十分に行え、良好な呼吸状態にすることができるものである。なお、上記低反発素材930としては、低反発ウレタンフォーム、スポンジ、低反発チップ、わた、低反発ジェルなどを使用することで主規制部90からの強圧迫を避けることができるが、勿論、これ以外の柔らかな低反発素材であってもよい。また、低反発素材930の設け方としては、上記凹部93に嵌着や接着などの適宜の手段を採用して設けることができるが、低反発チップやわたなどのばらけるものに対しては、袋に詰めて袋の外面を上記凹部93に嵌着や接着すればよい。低反発ウレタンフォームの場合は、成形により一体に設けることも可能である。
【0020】
また、上記低反発素材930の鉛直方向下方に穴54(図8参照)を設けて上記副支持部の厚み面を外に露呈させるようにしてもよい。このように構成すると、前述のとおり副支持部の圧縮変形および復帰変形がより容易になり、上記頭のうなずき運動をより十分に行うことができる利点がある。
【0021】
さらに、上記低反発素材930の鉛直方向下方にも低反発素材930を設けて上記副支持部の厚み面に対向させるように構成してもよい。このように構成しても、主規制部90の反発力とは異なり、低反発素材930の反発力が弱いため、副支持部の圧縮変形および復帰変形が容易になり、頭のうなずき運動をより十分に行うことができる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1A】人の頭蓋の斜視図である。
図1B】人の後頭部の図である。
図2】本発明の実施形態による枕の斜視図である。
図3図2に示す枕の前面図である。
図4図3のA-A断面図である。
図5図2に示す枕と人の頭および首との対応関係を示す後面図である。
図6図2に示す枕の使用状態における図3のA-A線断面図である。
図7】他の発明(低反発素材930を使用した発明)を示し、枕と人の頭および首との対応関係を示す後面図である。
図8】上記他の発明を示し、枕の使用状態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。図1Aは人の頭蓋の斜視図、図1Bは人の後頭部の斜視図である。図1A図1Bにおいて、HDは人の頭、SAは後頭骨、SA1は外後頭隆起、SA2は後頭骨の上項線と下項線との間の領域、SA3は後頭骨の頭頂側の領域、SA4は上項線、SA5は下項線、SA6は後頭骨の下端線、SA7は後頭骨に付着する僧帽筋の左端から後頭骨に付着する左の胸鎖乳突筋の部分までの領域(左の所定領域)および後頭骨に付着する僧帽筋の右端から後頭骨に付着する右の胸鎖乳突筋の部分までの領域(右の所定領域)、SBは頭頂骨、SB1は頭頂骨の後頭側の領域、SCは側頭骨、SC1は乳様突起、MAは側頭筋、MBは胸鎖乳突筋、MB1は胸鎖乳突筋の付着、MBPは後頭骨に付着する左右の胸鎖乳突筋、TRは僧帽筋、TR1は僧帽筋の左端、TR2は僧帽筋の右端、NCは人の首、C1からC7は第1頸椎から第7頸椎である。
【0024】
図2は本発明の実施形態による枕10の斜視図であり、図3は枕10の前面図(正面図)、図4は枕10の左右横方向の中心線CLに沿った断面図、つまり、図3のA-A断面図、図5は枕10と人の頭HDおよび首NCとの対応関係を示す後面図(背面図)、図6は枕10の使用状態における図3のA-A断面図である。
【0025】
図2から図6にそれぞれ示したX軸、Y軸およびZ軸は、互いに直交している。本実施形態では、X軸方向が仰臥した人の身長方向に一致する枕10の上下縦方向であり、X1方向が上方向、X2方向が下方向である。また、Y軸方向が枕10の左右横方向であり、Y1方向が左方向、Y2方向が右方向である。さらに、Z軸方向が枕10の前後厚さ(高さ)方向であり、Z1方向が前方向、Z2方向が後方向である。
【0026】
枕10は、図2から図6に示すように、
(1A) 上方へ突出している弾性を有した部材であり、仰臥した人の後頭骨SAの上項線SA4と下項線SA5との間の領域SA2のうち、少なくとも、僧帽筋TRが後頭骨SAに付着する部分の左端TR1から左の胸鎖乳突筋MBPが後頭骨SAに付着する部分までの領域領域(左の所定領域)SA7および僧帽筋TRが後頭骨SAに付着する部分の右端TR2から右の胸鎖乳突筋MBPが後頭骨SAに付着する部分までの領域(右の所定領域)SA7に対して圧力を加えて面状に支持する主支持部60と、
(1B) 弾性を有し、上記主支持部60よりも支持の高さが低く設定され、上記人の上項線SA4よりも頭頂側の頭部に対して圧力を加えて支持する副支持部80と、
(1C) 上記副支持部80に対して上記主支持部60とは反対側に位置し、上記副支持部80より高く突出させて、上記人の身長方向上側(図ではX1方向)への頭HDのずれ動きを規制する主規制部90とを備え、
(1D) 上記主規制部60には、上記人の頭頂中央部HD1に対向する部位に上記頭頂中央部HD1との当接を避ける凹部93を設けており、
(1E) 上記人の側頭筋MAの下方には圧力を加えて支持する部材がない。
【0027】
また、枕10は、図2から図6に示すように、
(2A) 上記凹部93内の鉛直方向下方には穴54を設けて上記副支持部80の厚み面(図6に示す穴54の引出線の位置)を外に露呈させるように構成している。
【0028】
次に、図2から図6を用いて、枕10についてさらに説明する。
枕10は、図2から図6に示すように、平坦な矩形板状であり、枕10の中央部に仰臥した人の頭HDが載るとともに、枕10の中央部の下側(図ではX2方向)に上記人の首NCが載るように構成されている。
【0029】
枕10は、前ベース20と、前ベース20の後方(図ではZ2方向)に配置する後ベース50を備える。前ベース20と後ベース50はいずれも弾性を有する平坦な矩形板状の弾性ウレタンフォームよりなり、前ベース20の後面とそれに対向する後ベース50の前面とが接着されている。前ベース20と後ベース50との間では枕10の左右横方向(図ではY軸方向)に延びる長辺と枕10の縦方向(身長方向)(図ではX軸方向)に延びる短辺とのそれぞれの長さが共通であり、また厚さ(高さ)(図ではZ軸方向の寸法)も共通である。
【0030】
仰臥した人の頭HDが載せられる前ベース20の中央部には穴21が設けられている。穴21は前ベース21の前面と後面との間を貫通し、枕10の中央部の厚さをその周りの厚さよりも薄くするとともに、後ベース50の中央部51を露呈させる。穴21の形状は仰臥した人の頭HDにおける上項線SA4より頭頂側の後頭部の外形に見合う形状に形成されている。具体的には、上項線SA4より頭頂側の後頭部における左右側面に沿うように、枕10の縦方向(身長方向)(図ではX軸方向)に延びる直線状の左右側辺211と、頭頂中央部に沿うように、枕10の縦方向上側(図ではX1方向)に向かって凸の弧状に湾曲し、上記左右側辺211の上側(図ではX1方向)の端部同士をつなぐ上側辺212と、上項線SA4に沿うように、枕10の縦方向上側(図ではX1方向)に向かって凸の弓状に湾曲し、上記左右側辺211の下側(図ではX2方向)の端部同士をつなぐ下側辺213とを有し、これら四辺で枕10の四方(図ではX1方向とX2およびY1方向とY2方向)を閉じた閉(穴)形状に形成されている。穴21の左右横方向(図ではY軸方向)の幅は上項線SA4より頭頂側の後頭部における左右横方向(図ではY軸方向)の幅よりも少しだけ広く、穴21の縦方向(図ではX軸方向)の長さは上項線SA4より頭頂側の後頭部における身長方向(図ではX軸方向)の長さと同等である。
【0031】
また、前ベース20の穴21の下側辺213と前ベース20の下側(図ではX2方向)の長辺との間の前ベース20の部位22について、その部位22の縦方向(図ではX軸方向)の長さは、仰臥した人の頭HDの上項線SA4から首側の後頭骨の下端線SA6までの長さ、つまり、上項線SA4より首側の後頭部における縦方向(図ではX軸方向)の長さよりも長く、上項線SA4から首側の後頭骨の下端線SA6を超えて首NCの第7頸椎C7までの長さよりも短い長さに設定されている(本実施形態では上項線SA4から首側の後頭骨の下端線SA6を超えて首NCの第5頸椎C5までの長さに設定されている。)。
【0032】
以上の構造において、後頭骨SAの頭頂側の領域SA3を前ベース20の穴21の中央部に位置させるように、仰臥した人の頭HDを枕10の中央部に載せるとともに、枕10の中央部の下側(図ではX2方向)に上記人の首NCを載せることにより、前ベースの穴21の下側辺213、つまり、前ベース20の部位22における上側(図ではX1方向)の端辺が上項線SA4に対応し、前ベース20の穴21には上項線SA4より頭頂側の後頭部が収まり、前ベース20の穴21により露呈された後ベース50の中央部51に後頭骨SAの頭頂側の領域SA3が載る。
【0033】
また、前ベース20の部位22のうち上側(図ではX1方向)の領域23が仰臥した人の左右の所定領域SA7および左右の乳様突起SC1を含む上項線SA4より首側の後頭部に対向し、この領域23に上項線SA4より首側の後頭部が載る。
【0034】
また、前ベース20の部位22のうち下側(図ではX2方向)の領域24が仰臥した人の首NCの第1頸椎C1から第5頸椎C5までに対向し、この領域24に首NCの第1頸椎C1から第5頸椎C5までが載る。
【0035】
従って、枕10では、前ベース20の部位22のうち上側(図ではX1方向)の領域23とその後方(図ではZ2方向)に位置する後ベース50の部位52が、上方へ突出している弾性を有した部材であり、仰臥した人の後頭骨SAの上項線SA4と下項線SA5との間の領域SA2のうち、少なくとも、僧帽筋TRが後頭骨SAに付着する部分の左端TR1から左の胸鎖乳突筋MBPが後頭骨SAに付着する部分までの領域領域(左の所定領域)SA7および僧帽筋TRが後頭骨SAに付着する部分の右端TR2から右の胸鎖乳突筋MBPが後頭骨SAに付着する部分までの領域(右の所定領域)SA7に対して圧力を加えて面状に支持することができ、上記主支持部60として機能し、上記主支持部60を備える。なお、図示例では、主支持部60の左右両端部外側に主支持部60の高さと同じにした乳様突起支持用の支持部26も一体に形成しているが、この乳様突起支持用の支持部26は、主支持部60の高さよりもより高くなるように形成してもよく、さらに、乳様突起支持用の支持部26は主支持部60と一体に形成する場合に限らず、別体に形成するようにしてもよい。この乳様突起支持用の支持部26によって、胸鎖乳突筋MBの付着部MB1が支持されて、仰臥した人に対して、上記付着部MB1のみならず、胸鎖乳突筋MBの長手方向全体に亘って緊張が緩められ、呼吸時の胸鎖乳突筋MBの動きがよくなり、呼気、吸気ともスムーズになって、呼吸が楽になる。
【0036】
また、枕10では、前ベース20の穴21により露呈された後ベース50の中央部51が、弾性を有し、上記した前ベース20の部位22のうち上側(図ではX1方向)の領域23とその後方(図ではZ2方向)に位置する後ベース50の部位52から成る主支持部60よりも支持の高さが低く設定され、上記人の上項線SA4よりも頭頂側の頭部に対して圧力を加えて支持することができ、上記副支持部80として機能し、上記副支持部80を備える。
【0037】
図5図6が示すように、上記人の側頭筋MAに対して、その下方から圧力を加えて支持するような部材を設けないようにしている。したがって、上記人の側頭筋MAに対しては、その下方より圧力が加えられない。
【0038】
以上の構造にすることで、仰臥位の人に対して、側頭筋MAの下方に圧力を加えて支持する部材がないので、側頭筋MAの圧迫による血流障害(血流の悪化)がない。この血流障害が防止されているため、側頭筋MAおよびこれにつながる首・肩などの筋肉の緊張、めまい、頭痛、自律神経の乱れが起きず、呼吸が楽である。
【0039】
また、枕10では、前ベース20の部位22のうち下側(図ではX2方向)の領域24とその後方(図ではZ2方向)に位置する後ベース50の部位53が、弾性を有し、仰臥した人の首NCの第1頸椎C1から第5頸椎C5までの後方に位置し、上記人の首NCの第1頸椎C1から第5頸椎C5までの後面に対して圧力を加えて支持することができ、上記首支持部150として機能し、上記首支持部150を備える。
【0040】
また、枕10では、前ベース20の部位22の上側(図ではX1方向)の領域23における左右横方向(図ではY軸方向)の両端の部位25を、仰臥した人の側頭骨SCの乳様突起SC1の左右両外側に位置させ、上記両端の部位25の直ぐ内側の部位26が、仰臥した人の側頭骨SCの乳様突起SC1に対向するようにする。そして、上記両端の部位25には、軟質発泡樹脂から成る直方体形状のブロック体30が設けられ、ブロック体30の後面とそれに対向する上記両端の部位25の前面とが接着されている。
【0041】
以上の構造において、後頭骨SAの頭頂側の領域SA3を前ベース20の穴21の中央部に位置させるように、仰臥した人の頭HDを枕10の中央部に載せるとともに、枕10の中央部の下側(図ではX2方向)に上記人の首NCを載せることにより、上記ブロック体30が上記人の側頭骨SCの乳様突起SC1の左右両外側(図ではY軸方向外側)において、上記人の頭HDの寝返りを規制し、寝返りを防ぐ。つまり、上記人の首NCから頭HDにかけてこれらのみが左右横方向(図ではY軸方向)に旋回してしまうのを防ぐ。
【0042】
従って、枕10では、上記ブロック体30が、上記人の側頭骨SCの乳様突起SC1の左右両外側において、上記人の頭HDの寝返りを規制する側方規制部95として機能し、上記側方規制部95が設けられている。
【0043】
なお、前ベース20の部位22の左右両外側には平坦な矩形板状の弾性ウレタンフォームよりなるストッパー96が設けられている。ストッパー96の後面とそれに対向する前ベース20の前面とが接着されている。ストッパー96は、その内側の側面を側方規制部95の外側の側面に当接させ、側方規制部95が上記人の頭の寝返り圧力によって左右外側に容易に押し退けられるのを防ぐようにする。側方規制部95とストッパー96は別体に設けたが、一体物として形成してもよい。
【0044】
また、枕10の主規制部90は、前ベース20の上側(図ではX1方向)の長辺と、この長辺と平行な直線であって、前ベース20の穴21における左右側辺211の上側(図ではX1方向)の端部を通過する図示しない直線との間の前ベース20の前方(図ではZ1方向)に配置される平坦な矩形板状の弾性ウレタンフォームよりなり、主規制部90の後面とそれに対向する前ベース20の前面とが接着されている。主規制部90の厚さ(高さ)は前ベース20および後ベース50の厚さ(高さ)と同等以上である。主規制部90には前面視で前ベース20の穴21に対して重なる部分を切除する切欠き部91が設けられ、ベース20の穴21における上側辺212に沿って枕10の縦方向上側(図ではX1方向)に向かって凸の弧状に湾曲し、前ベース20の前面に立ち上がる主規制壁92が形成されている。
【0045】
上記主規制部90には、頭頂中央部HD1に対向する部位に当該頭頂中央部HD1との当接を避ける凹部93を副支持部80の上表面の位置まで設ける。つまり、凹部93は、主規制部90が仰臥した人の頭頂中央部HD1に対して面状に当接し強圧迫を与えるのを回避するように、仰臥した人の頭頂中央部HD1に対向する主規制壁92の部分を身長方向上側に向けてに窪ませている(図ではX1方向に窪ませている。)。
【0046】
また、凹部93内の鉛直方向下方には副支持部80の厚み面を外に露呈させる穴54を後ベース50の下表面の位置まで設ける。つまり、穴54は、主規制部90に設けた凹部93内の鉛直方向下方の部位を副支持部80の上表面より低くすることで、副支持部80の厚み面を外に露呈させる。
【0047】
以上の構造にすることで、上記段落〔0016〕〔0017〕で説明したとおり、頭HDが枕10の縦方向(身長方向)上側へ大きくずれ動くのを阻止するための主規制部90を備えていても、頭頂中央部HD1は主規制部90に面状に強圧迫を受けないので、呼吸時の頭のうなずき運動(つまり、図6の矢印BMに示す前後方向の僅かな動き)が拘束されず、息の吸い込みと吐き出しが十分に行えて、良好な呼吸状態を確保することができる。なお、穴54は図示の貫通の穴に限られず、貫通しない有底の穴であってもよい。
【0048】
上記の枕10では、仰臥した人の頭頂中央部HD1に対向する主規制部90の部位に、上記頭頂中央部HD1との当接を避ける凹部93を設ける構成にしたが、これに限らず、図7および図8に示すように、凹部93からその鉛直方向の穴54まで主規制部90の素材の反発力よりも低い低反発素材930(例えば、低反発ウレタンフォーム、スポンジ、低反発チップ、わた、低反発ジェルなどの低反発素材)を嵌着や接着などの適宜の手段で設けるようにしてもよい。この場合、低反発チップやわたなどのばらけるものは、図示しないが袋に詰めて袋の外面を上記凹部93および穴54に嵌着や接着すればよい。
【0049】
このように構成しても、低反発素材930によって頭頂中央部HD1は主規制部90に面状に強圧迫を受けないので、呼吸時の頭のうなずき運動が拘束されず、息の吸い込みと吐き出しが十分に行えて、良好な呼吸状態を確保することができる。
【0050】
なお、凹部93に設ける低反発素材930は、その凹部93までとし、その鉛直方向下方の穴54(空間)にまでは設けないようにしてもよいし、その鉛直方向下方の穴54(空間)自体を設けないようにしてもよい。
【0051】
上記で説明した枕10は本発明の一例にすぎず、本発明は、請求の範囲から逸脱しない範囲内で適宜構造変更して実施することができる。例えば、主支持部60、副支持部80、主規制部90等の形状、サイズ、硬さの具合は多様に変更されてもよい。
【0052】
また、枕10は複数の部品を組み立てて構成されたが、勿論、これら複数の部品を極力一体成形化するようにしてもよい。
【0053】
また、上記の枕10では、主支持部60と首支持部150が一連につながった一体物として構成したが、別体として構成してもよい。この場合、主支持部60と首支持部150の間に空間を設けることもでき、首支持部150は首NCの第1頸椎C1から第7頸椎C7のうち、任意の頸椎を支持することができるようになる。
【0054】
また、上記の枕10では、首支持部150の高さは主支持部60の高さと同等であるが、主支持部60の前面より低く設定しても高く設定してもよい。
【符号の説明】
【0055】
54 穴
60 主支持部
80 副支持部
90 主規制部
93 凹部
930 低反発素材
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8