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特開2024-165028研磨状態評価システムおよびプログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165028
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】研磨状態評価システムおよびプログラム
(51)【国際特許分類】
   B24B 49/12 20060101AFI20241121BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20241121BHJP
【FI】
B24B49/12
B24B37/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080840
(22)【出願日】2023-05-16
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100135703
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 英隆
(72)【発明者】
【氏名】高見 文宣
【テーマコード(参考)】
3C034
3C158
【Fターム(参考)】
3C034AA19
3C034BB93
3C034CA22
3C034CA26
3C034CB03
3C034CB11
3C034CB13
3C034DD20
3C158AA07
3C158AB01
3C158AB04
3C158AB06
3C158AC02
3C158BA01
3C158BB02
3C158BB06
3C158BB08
3C158BB09
3C158BC03
3C158CB01
3C158EA11
3C158EB01
(57)【要約】
【課題】作業者による研磨の作業を評価することにより、ムラやくもりを抑えた研磨面を得られるようにする。
【解決手段】研磨状態評価システム100は、作業子が押し付けられることで研磨された被研磨物の表面状態を評価する。当該システム100は、予め用意された、目標とされる表面状態を表す第1情報を記憶する記憶部と、測定機から第2情報を取得する通信インタフェースとを有している。第2情報は、研磨された被研磨物からの拡散反射光に基づいて生成された、被研磨物の表面状態を表す情報である。当該システム100はさらに、第1情報によって表される第1表面状態と第2情報によって表される第2表面状態との差分に応じた情報を生成する処理部を備えている。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業子が押し付けられることで研磨された被研磨物の表面状態を評価する研磨状態評価システムであって、
予め用意された、目標とされる表面状態を表す第1情報を記憶する記憶部と、
測定機から第2情報を取得する通信インタフェースであって、前記第2情報は、研磨された前記被研磨物からの拡散反射光に基づいて生成された、前記被研磨物の表面状態を表す情報である、通信インタフェースと、
前記第1情報によって表される第1表面状態と前記第2情報によって表される第2表面状態との差分に応じた情報を生成する処理部と
を備える研磨状態評価システム。
【請求項2】
前記測定機は、光を受けて、受けた光の光量に応じた信号を出力する受光素子を有する受光部を有しており、
前記拡散反射光は、光源から放射された光のうち、前記被研磨物において拡散反射され、前記受光部によって検出された光の一部である、請求項1に記載の研磨状態評価システム。
【請求項3】
前記被研磨物の研磨状態を決定する研磨作業の作業条件を示す作業情報を取得する取得部をさらに備え、
前記作業情報は、研磨時の前記作業子の圧力、位置、速度、加速度、スラリー状態のうちの少なくとも1つを含み、
前記処理部は、前記第1情報、前記第2情報および前記作業情報に基づいて、前記被研磨物の表面状態の良否、研磨方向、力の強弱、スラリー状態のいずれかに関する研磨状態を推定する、請求項1に記載の研磨状態評価システム。
【請求項4】
前記処理部が生成した前記情報を出力する出力部をさらに備えた、請求項3に記載の研磨状態評価システム。
【請求項5】
前記処理部は、前記差分に応じた情報に基づいて前記被研磨物の研磨状態を推定し、推定した前記研磨状態に基づき研磨作業を支援する支援情報を生成し、
前記出力部は、前記支援情報を出力する、
請求項4に記載の研磨状態評価システム。
【請求項6】
前記第1情報は、目標とされる表面状態を有する被研磨物の拡散反射光の光量の分布を表す第1データであり、
前記データは、所定範囲内の研磨時に形成される研磨痕を、光源および前記光源から放射され拡散反射された拡散反射光を受光する受光部を備えた測定機によって計測して取得されたデータである、
請求項1~5のいずれか1項に記載の研磨状態評価システム。
【請求項7】
前記第2情報は、研磨作業の評価対象である被研磨物の拡散反射光の光量を含む第2データであり、
前記第2データは、前記被研磨物の研磨後の表面を、光源および前記光源から放射され拡散反射された拡散反射光を受光する受光部を備えた測定機によって計測して取得されたデータである、
請求項6に記載の研磨状態評価システム。
【請求項8】
前記光源は、XY平面の少なくとも2つ以上の放射方向を有する、請求項7に記載の研磨状態評価システム。
【請求項9】
前記処理部は、前記XY平面の放射方向の角度毎に、前記第1情報によって表される第1表面状態と前記第2情報によって表される第2表面状態との差分に応じた情報を生成する、請求項8に記載の研磨状態評価システム。
【請求項10】
前記出力部は、前記第1情報および前記第2情報の各々に基づく前記拡散反射光の光量の差分情報が、予め定められた閾値以上である所定範囲について、研磨作業を支援するための支援情報を出力する、請求項9に記載の研磨状態評価システム。
【請求項11】
前記出力部は、前記支援情報として、研磨作業時の荷重の偏りをなくすための提案、および/または、研磨作業者の研磨運動の癖を修正するための提案を出力する、請求項10に記載の研磨状態評価システム。
【請求項12】
作業子が押し付けられることで研磨された被研磨物の表面状態を評価する研磨状態評価システムに含まれるコンピュータによって実行されるプログラムであって、
前記プログラムは前記コンピュータに、
記憶部に予め記憶された、目標とされる表面状態を表す第1情報を読み出す処理と、
通信インタフェースを介して、測定機から、研磨された前記被研磨物からの拡散反射光に基づいて生成された、前記被研磨物の表面状態を表す第2情報を取得する処理と、
前記第1情報によって表される第1表面状態と前記第2情報によって表される第2表面状態との差分に応じた情報を生成する処理と
を実行させる、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、工作物を研磨する研磨作業における研磨作業後の被研磨物の研磨状態を評価するシステム及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回転する研磨工具の押し付け荷重を精密に測定し、制御する研磨装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。図13は、特許文献1に記載された従来の研磨装置を示す図である。図13において、研磨ヘッドは、その先端に研磨パッド90が設けられた工具軸91を有している。工具軸91は、流体軸受92により、工具軸91に沿う方向、すなわちスラスト方向、に移動可能に支持されている。工具軸91は、制御手段95が制御する変位機構98によってスラスト方向の荷重の荷重を受けながら、回転駆動手段97によって回転駆動される。これにより、工具軸91の研磨パッド90は被研磨面89に押し付けられながら回転し、被研磨面89を研磨する。
【0003】
演算手段94は、回転駆動手段97が工具軸91を回転させている最中であっても、差動トランス93によって測定されたスラスト方向の押込み長から、被研磨面89に対する研磨パッド90の研磨荷重を演算することができる。回転駆動手段97は差動トランス93よりも上側に設けられており、研磨加重の測定に関わる可動部に含まれない。これにより、可動部を軽量化でき、より高精度に研磨荷重を測定することができるため、安定した精密な研磨加工を実現し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-79079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1記載の従来の研磨装置は、砥粒の粘度やエッジ状態やバラつき、研磨軌跡の規則性などに由来する、研磨ムラやくもりを制御できない。研磨ムラやくもりは、研磨痕の重なり合わせによるもので粗さのパラメータには現れず、特定方向からのライティングでの観察時に確認される。
【0006】
本開示の目的は、ムラやくもりを抑えた研磨面を得られるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様の研磨状態評価システムは、作業子が押し付けられることで研磨された被研磨物の表面状態を評価する。当該システムは、予め用意された、目標とされる表面状態を表す第1情報を記憶する記憶部と、測定機から第2情報を取得する通信インタフェースであって、前記第2情報は、研磨された前記被研磨物からの拡散反射光に基づいて生成された、前記被研磨物の表面状態を表す情報である、通信インタフェースと、前記第1情報によって表される第1表面状態と前記第2情報によって表される第2表面状態との差分に応じた情報を生成する処理部とを備えている。
【発明の効果】
【0008】
本開示の研磨評価システムを用いて、作業者による研磨の作業を評価する情報を生成することにより、その情報を参照した作業者の作業が改善され、それによりムラやくもりを抑えた研磨面を得られるようにすることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示の実施形態1における研磨状態評価システムのシステム構成を示す図
図2A】本開示の実施形態1における拡散反射光測定機の構成を示す側面図
図2B】本開示の実施形態1における拡散反射光測定機の構成を示す平面図
図3A】研磨状態評価システムが用いられる研磨作業の様子を示す側面図
図3B】研磨状態評価システムが用いられる研磨作業の様子を示す平面図
図4】本開示の実施形態1における研磨状態評価および研磨支援のフローチャート
図5A】本開示の実施形態1における研磨痕の拡散反射光の測定処理S3の具体的な手順を示す図
図5B図5Aで測定した光量を角度別にプロットした図
図6】本開示の実施形態1における目標の表面状態にて測定した拡散反射光の角度別分布をプロットした図
図7】本開示の実施形態1における目標表面状態と研磨後の表面状態との結果を比較するための図
図8A】本開示の実施形態1における研磨軌跡の一部を示す図
図8B】1本の研磨痕を抜き出し、XY平面上の角度を示す図
図8C】研磨パッドの円弧運動のXYの方向の比が同じになるような改善後研磨軌跡を示す図
図9】改善前後の角度別の拡散反射光の光量と、円弧運動時の荷重分布とを示す図
図10】本開示の実施形態2における研磨軌跡の重なりと測定箇所による角度別の拡散反射光の光量の例を示す図
図11】本開示の実施形態3における砥粒の状態と角度別拡散反射光の光量を示す図
図12】提示する支援情報を判定するためのフローチャート
図13】支援情報の例を示す図
図14】特許文献1に記載された従来の研磨装置を示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、適宜図面を参照しながら、実施形態を詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。なお、発明者は、当業者が本開示を十分に理解するために添付図面および以下の説明を提供するのであって、これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。
【0011】
(実施形態1)
【0012】
1.システム構成
図1は、本開示の実施形態1における研磨状態評価システム100の構成を示すブロック図である。
図1において、研磨状態評価システム100は、作業者X1が作業子X2を押し付けて研磨した作業対象物Y1の研磨状態を評価するシステムである。本開示でいう「研磨」とは、被研磨物である物体の表面を研ぎ磨いて滑らかにすることを意味する。「研磨」の一例は、被研磨物である作業対象物Y1の表面である加工面を、パッド等の作業子X2で繰り返し擦ることによって表面部分を削り、平滑にしていく作業である。
【0013】
研磨状態評価システム100は、図1に示すように、制御部1と、測定部2と、出力部3と、作業情報取得部4とを備える。
【0014】
制御部1は、例えばPCである。制御部1は、第1記憶部5と、第2記憶部6と、処理部7と、通信インタフェース15とを含む。
第1記憶部5は第1情報を記憶し、第2記憶部6は第2情報を記憶する。
第1情報は、目標とされる表面状態を表す情報であり、例えば、熟練者が確認して適正な表面状態であると認定した際の反射光の値である。制御部1では、この値が閾値として利用される。
第2情報は、例えば測定部2によって測定された、研磨作業の評価対象である被研磨物の表面状態を表す情報である。後述のように、測定部2では、研磨された被研磨物からの拡散反射光が計測され、表面状態が取得される。
【0015】
なお、第1記憶部5および第2記憶部6は説明の便宜上別個の記憶部として説明しているが、それぞれが、1台の記憶装置の異なる記憶領域であってもよい。
【0016】
処理部7は、後述する演算を行う演算回路であり、例えば中央演算処理装置(CPU)である。実施形態1における処理部7である演算回路は、MPUまたはGPU等の種々のプロセッサで実現されてもよく、1つまたは複数のプロセッサで構成されてもよい。
【0017】
通信インタフェース15は、制御部1が外部の機器等とデータを授受するための接続端子、通信回路等である。通信インタフェース15は、例えばUSB(登録商標)端子、イーサネット(登録商標)端子等の有線通信端子、Wi-Fi(登録商標)規格に準拠した無線通信を行う無線通信回路である。
【0018】
測定部2は、目標表面状態や研磨後の被研磨物などを測定し、測定結果である拡散反射光の測定データ9を制御部1へと渡す。
【0019】
測定部2の具体的な構成を説明する。図2Aは本開示の実施形態1における拡散反射光測定機8の構成を示す側面図であり、図2Bは本開示の実施形態1における拡散反射光測定機8の構成を示す平面図である。拡散反射光測定機8は、支持台21と、光源22と、受光部23とを備えている。支持台21は、XYZ方向に駆動し研磨後の金型などの作業対象物Y1を固定する。光源22は、所定の波長帯域の光、例えば可視光、を放射する。光源22の配置および光の配向は、光源22が固定した作業対象物Y1の所定の箇所を照らすことができるよう調整されている。受光部23は拡散反射光L3を受光する。
【0020】
図2Aに示すように、光源22は、作業対象物Y1の測定箇所24に光を放射するために高さ方向に所定の角度θと距離で配置され、測定箇所24を中心にXZ平面上の角度θの調整機能を有する。本実施形態では角度θは45°に固定されているが、測定面状態や各部材が干渉しない10°から80°の範囲で配置すればよい。また作業対象物Y1の測定箇所24の傾斜に応じて一定の角度になるように制御しても良い。測定箇所24を測定対象物Y1の中心にしているが、この限りではない。例えば測定対象物Y1の周縁部を測定箇所24にしてもよい。
【0021】
図2Bに示すように光源22は、作業対象物Y1の測定箇所24を中心として、XY平面上を回転する機能を備えており、所定の角度αピッチで回転し、それぞれの角度において光を放射する。なお、本実施形態においては一つの光源22を回転させる例を挙げたが、複数の光源を所定の角度ピッチで配置し順番に放射しても良い。
【0022】
受光部23は、測定箇所24の直上に配置されており、光源22から放射された光L1が作業対象物Y1の測定箇所24にあたり反射した拡散反射光L3を受光する。光源22から放射された光L1のうち、ほとんどの光は測定対象物Y1表面の鏡面にて正反射し正反射光L2となる。そのため、拡散反射光L3は、正反射光L2以外の光のうちさらに直上に反射した光である。拡散反射光L3を検出するためには、光源22からの光の量を強くするか、環境光を低減可能な暗幕内でデータ取得をすることが好ましい。
【0023】
再び図1を参照する。作業情報取得部4は、被研磨物に対する作業子X1の圧力、位置、速度、加速度、スラリー状態のうちの少なくとも1つを含む作業情報12を取得し、取得された作業情報12を制御部1へ渡す。作業情報取得部4は、例えばカメラ10、圧力センサ11を含む。
【0024】
出力部3は、制御部1を通過して処理された作業情報12、測定結果、またはそれらを元に推察された支援情報を出力し、作業者X1に提示する。出力部3は、例えばモニタなどの表示装置である。例えば制御部1がノート型PCである場合、出力部3は、制御部1と一体化されたディスプレイであり得る。
【0025】
実施形態1の研磨状態評価システム100を利用することにより、作業者X1は、作業情報12や測定結果、またはそれらを元に推察された支援情報に従って研磨作業を行うことが出来る。これにより、従来の研磨装置を用いて研磨した場合と比較して、ムラやくもりが抑えられた研磨面を得ることができる。
【0026】
2.研磨作業について
図3A及び図3Bは、本開示の実施形態1における作業者の研磨の状態を示す図である。作業対象物Y1は、例えば金型であり、金型基材Y11と、めっき層Y12とを有している。実施形態1では、図3A及び図3Bに示すように、作業者X1は、作業子X2としてのパッドを操作し、作業対象物Y1としての金型の加工面Y12を、作業子X2で繰り返し擦ることによって、作業対象物Y1の研磨作業を行う。このとき、作業者X1は、手の指先で作業子X2としてのパッドを、適当な力で作業対象物Y1に押し付けた状態で、作業対象物Y1の表面上を滑らせるように、作業子X2を繰り返し移動させることで、作業対象物Y1の研磨を行う。
【0027】
実施形態1では、遊離砥粒方式の研磨を実現するべく、図3Aに示すように、作業対象物Y1の加工面であるめっき層Y12と、作業子X2としてのパッドとの間には、スラリーY2を介在させた状態で、研磨作業が行われる。スラリーY2は、砥粒を混ぜ込んだ液体であって、このようなスラリーY2を用いることで、遊離砥粒方式の研磨が可能となる。つまり、作業対象物Y1との間にスラリーY2が介在した状態で、作業子X2が移動させられることによって、スラリーY2中の砥粒が作業対象物Y1の加工面であるめっき層Y12上を潤滑に移動しつつ、作業対象物Y1の遊離砥粒方式の研磨を実現する。つまり、スラリーY2は、研磨作業に関連する作業関連材であって、より詳細には、作業子X2による研磨作業を補助する補助材料として機能する。
【0028】
ところで、実施形態1では、例えば、樹脂ミラー又は樹脂レンズ等の光学部品の成型用の金型が、作業対象物Y1である場合を想定している。このような金型においては、金型の表面の仕上がりが成型品(光学部品)の特性にも影響し得るため、その研磨作業は非常に繊細な作業となる。また、この種の金型においては、表面が様々な曲面(自由曲面)を含み、かつ個体ごとにその表面の形状が異なることも相まって、その研磨作業の自動化を図ることは困難である。例えば、研磨作業に際しての作業子X2の動きが単調過ぎると、作業子X2の動きの規則性に応じて金型の表面に虹面が生じる等、金型の表面の仕上がりが劣化する可能性がある。つまり、この金型の研磨作業にあっては、作業対象物Y1の面形状等の様々な要素に応じて、作業子X2の微妙な操作の調整が必要であって、作業者X1の熟練度によって研磨作業の仕上がりにも差が生じ得る。そして、研磨作業の仕上がりが成型品の特性にも影響することを考えると、このような金型の研磨作業に関しては、作業者X1に、いわゆる熟練者のような比較的高いスキルが要求される。
【0029】
なお、「研磨」は、機械的な研磨だけでなく、例えば、化学的機械研磨(CMP:Chemical Mechanical Polishing)等も含んでいる。化学的機械研磨は、砥粒自体が有する表面化学作用又はスラリーY2に含まれる化学成分の作用にて、化学的に作業対象物Y1の表面を溶融又は変質させ、砥粒による機械的な研磨を補助することで、相乗的に研磨の速度及び質を向上させる手法である。
【0030】
3.研磨作業の流れと、研磨状態評価システムの動作
図4は、研磨状態評価システム100における研磨状態評価および研磨支援のフローチャートである。実施形態1の研磨状態評価システム100での研磨状態評価及び作業支援のフローは、ステップS1~S9として示されている。各処理は、制御部1の処理部7(図1)によって行われる。一方、図4において参照符号が付されていない処理は、研磨状態評価システム100の処理部7以外の構成要素が実行する。例えば「拡散反射光測定」および「測定角度毎の換算反射光の光量算出」は測定部2によって実行される。また、「作業状態計測」および「情報出力」は、それぞれ作業情報取得部4および出力部3によって実行される。以下では、処理部7が実行するステップS1~S9を詳細に説明する。なお、ステップS1~S9は、例えばコンピュータプログラムの命令として実装され得る。そのようなコンピュータプログラムは、制御部1の読み出し専用メモリ(ROM)に格納されており、コンピュータである処理部7によって実行される。
【0031】
目標設定受付処理S1では、処理部7はユーザによって定められる目標設定のパラメータを受け付ける。例えば熟練者が研磨したマスター金型などの角度αの所定ピッチ送りの拡散反射光の光量を測定、算出し、そのデータを用いて、不図示の入力装置、例えばキーボード、マウス、タッチパネル等を利用して研磨状態評価システム100に設定する。処理部7は設定内容を表すパラメータを受け付ける。
【0032】
研磨作業待ちおよび作業情報取得処理S2では、実施形態1においては、処理部7は、作業者X1が行う研磨作業の終了を待つ。作業者X1が行う研磨作業とは、作業者X1が作業子X2としてのパッドを操作し、作業対象物Y1としての金型の加工面Y11を、作業子X2で繰り返し擦ることによって、作業対象物Y1を研磨する作業である。この際、処理部7は必要な作業情報12を取得する。作業情報12とは、作業子の圧力、位置、速度、加速度、スラリー状態などの、被研磨物の研磨状態を決定する研磨作業の作業条件を示す情報である。なお、作業情報12は作業子の圧力、位置、速度、加速度、スラリー状態の全てを常に含む必要はない。これらのうちの少なくとも1つを含めばよく、より好ましくは2以上、さらに好ましくは全てを含めばよい。
【0033】
拡散反射光測定処理S3では、処理部7は、例えば拡散反射光測定機8に指示して、被研磨物の被研磨面の所定箇所とその範囲を測定させる。なお被研磨物の被研磨面はすでに研磨されているとする。この測定により、処理部7は、拡散反射光測定データ9を取得する。
【0034】
測定角度毎の拡散反射光の光量算出処理S4では、処理部7は、拡散反射光測定処理S3で取得した拡散反射光測定データ9を用い、放射角度α毎の拡散反射光の光量を算出し、相対比較する。処理S4の詳細は、後に図5A図5B等を参照しながら詳述する。
【0035】
目標との差分計算処理S5では、処理部7は、目標設定処理S1で設定された目標と、処理S4で算出した値との差分を計算する。
【0036】
結果出力処理S6では、処理部7は、差分計算処理S5で計算した目標値と結果の差分を出力部3から出力する。なお、ここで言う「出力」は、必ずしも出力部3からの出力のみに限定されず、例えば処理部7からの、不図示の通信回線を介した研磨評価システム100の外部への出力であってもよい。
【0037】
作業終了判定処理S7では、処理部7は、結果出力処理S6で出力した値が、予め設定した閾値以内であるか否かを判定する。処理部7が、出力した値が閾値以内であると判定すれば作業終了である。
【0038】
出力した値が閾値を超えた場合には、処理部7は、支援方針の決定処理S8を実行する。すなわち処理S8において、処理部7は、研磨作業処理S2にて取得した作業情報12と、目標と結果の差分の角度別光量分布より推定される研磨時の状態とに基づいて、目標値に近づけるための支援方針(支援内容とその重み割合)を決定する。処理S8の詳細は、後に図8A図8Cを参照しながら詳述する。
その後、処理部7は支援方針の出力処理S9を実行する。処理S9において、処理部7は支援情報を出力する。
【0039】
4.研磨面の評価方法
図5Aは、図3の研磨痕の拡散反射光測定処理S3の具体的な手順を示す図である。
本実施形態では、測定箇所24を中心として所定の距離離れた位置よりXY平面上の円周上の45°ピッチで、光源22の位置を決定する。図5Aでは、光源22は複数存在するかのように記載されているが、これは便宜のためである。上述のように光源22は1つであっても複数であってもよい。
光源22は、位置決めの都度、光L1を放射し、受光部23にて拡散反射光L3を受光する。これにより、所定の角度αピッチで位置決めされた角度ごとに拡散反射光L3の光量が測定される。なお本実施形態では角度α=45°、つまり45°ピッチで光を放射して拡散反射光L3の光量を測定したが、更に小さい角度に分割しても良い。また、ある特定の研磨痕のみ確認したい場合はその角度のみの測定でも良い。例えば、V字の研磨痕を確認したい場合には、360°を所定の角度αピッチで位置決めしなくてもよく、例えば
180°を所定の角度αピッチで位置決めすればよい。また本実施形態では、測定箇所24は、金型の中心付近のみとしているが、全面を所定ピッチで分割した測定や、研磨にフィードバックしたい必要箇所のみの測定でも良い。研磨時に圧力、方向を計測することにより、拡散反射光を取得した結果と照らし合わせて研磨者のクセを見抜くこと、修正することが可能である。
【0040】
図5Bは、図5Aで測定した拡散反射光の光量を角度別にプロットし、破線で接続した図である。光量は5段階のレベルで相対値として出力しプロットした。光量のレベルを表す1~5の数字が90°方向に併記されている。なお、図面では、記載の便宜上、当該数字が省略されることがある。
【0041】
図5Bに示す結果の場合、90°と270°の拡散反射光の光量が多い。この場合、0°から180°の方向に傾斜強度の高い研磨痕があるか、または0°から180°方向の研磨痕の頻度が高い、またはその両方であることが考えられる。
【0042】
(目標形状の設定)
図6は、目標の表面状態にて測定した拡散反射光の角度別分布をプロットした図である。細かい破線が目標表面状態を表し、粗い破線が閾値を表している。
【0043】
図6では、図5Bの研磨後と図6の目標表面とを同じ比率でプロットし、閾値を2.5以下と設定した。今回はあらゆるライティング角度と目視観察角度で均一な面にしたく目標の光量を上限閾値として一律に設定した。しかしながら、角度別のバラつき範囲での設定や、角度別の光量の設定でもよい。また上限閾値ではなく下限閾値として、意図的にムラやクモリを発生させても良い。また商品のスペックによって、場所によって変えてもよい。
【0044】
(目標形状との比較、差分抽出)
図7は、研磨後の角度別光量に基づく表面状態と、目標表面状態から設定した閾値との関係を示す図である。図7の(a)は、目標表面状態から設定した閾値を、研磨後の表面状態を示す図5に記入したグラフである。細かい破線が研磨後の表面状態を表し、粗い破線が閾値を表している。図7の(b)は、研磨後の表面状態(細かい破線)の角度毎の拡散反射光の光量と閾値との差分を示すグラフである。
【0045】
図7の(b)に示す差分の結果を見ると、例えば0°および180°の角度から放射した光に基づく拡散反射光の光量は閾値以下であり、目標の表面状態を満足している。よって、研磨時のスラリーサイズや種類には特に問題はない。この例の場合、0°から180°方向に傾斜強度の高い研磨痕があるか、または0°から180°方向の研磨痕の頻度が高い、またはその両方であることが考えられる。
【0046】
図7の(b)に示す差分の結果から、作業者X1は、特定の方向について強い研磨を行っている、または高頻度で研磨を行っていることを意識することができる。それにより、作業者X1は、その方向について研磨時の押し付け力を弱めたり、研磨の頻度を減らしたりして、ムラやくもりを抑えた研磨面を得ることが可能になる。
【0047】
(研磨状態推定の例1)
図8A図8Cは、研磨軌跡の一部を示す図である。以下、図8A図8Cにより、図4の処理S7にてNO判定の場合の処理S8を経由するフローの一例が説明される。
【0048】
図8Aは金型の上面図であり、金型上面に改善前研磨軌跡14を確認できる。図8Aに示す改善前研磨軌跡14は、研磨作業時に、作業情報取得部4のカメラ10にて撮影された映像から、研磨パッドの中心部の経路の一部を切り出して得られる。
【0049】
図8Bは、1本の研磨痕を抜き出し、XY平面上の角度を示す図である。実際には研磨軌跡に沿って作業子(X2)下のスラリーにて多数の研磨痕が刻まれることとなる。
【0050】
改善前研磨軌跡14から分かるように、作業者の研磨時の研磨パッドの円弧運動はY方向に長い楕円となっているため、0°と180°方向に多くの研磨痕が刻まれていることが推察できる。このようにカメラ10から抽出された軌跡と図7(b)を合わせて検証することで、制御部1内の処理部7は、図7(b)に示す0°と180°付近の方向の研磨痕の成分が多くなったことが、閾値を超えた原因であると推定される。
【0051】
図8Cは、研磨評価システム100が支援情報として出力部3に提示した、改善後研磨軌跡15の一例を示している。処理部7は、図8Cに示す研磨パッドの円弧運動のXYの方向の比が同じになるような改善後研磨軌跡15を支援情報として作業者に提示する。提示は、文字、画像および/または音声等、作業者が認知可能な種々の方法を利用可能である。
【0052】
(円弧運動荷重バラつき)
図9は、改善前後の角度別拡散反射光の光量(a)および(d)と、円弧運動時の荷重分布(b)および(c)を示す図である。以下、図3の処理S7にてNO判定の場合の処理S8、及び処理S9を経由するフローの一例である。
【0053】
図9の(a)は、改善前の角度別の拡散反射光の光量をプロットした図である。135°および315°付近で光量が多く閾値を越えていることが分かり、45°および225°付近は閾値内であることが分かる。
【0054】
図9の(b)は、作業子X2を繰り返し円弧運動させながら移動させた際に研磨パッドにかかる荷重の角度別の平均値の比を示す図である。円弧運動は、例えば作業者X1が手の指先で作業子X2としてのパッドを、適当な力で作業対象物Y1に押し付けながら、作業対象物Y1の表面上を滑らせるように行われる。荷重および運動のデータは、圧力センサ11およびカメラ10にて取得される。
【0055】
図9の(b)によれば、荷重は-40°と140°付近で高いことが理解される。つまり、その角度方向において被研磨物に深い研磨痕が入ったと考えられる。それにより、これらの角度から放射した光が深い研磨痕により他の角度から放射した場合よりも相対的に多く拡散反射したと考えられる。よって、図9(a)の拡散反射光の光量ムラの原因は円弧運動時の作業者X1の癖による荷重の偏りであると推定される。このような考え方に沿って、制御部1内の処理部7は、拡散反射光の光量ムラが発生している角度方向に、研磨時の荷重の偏りが発生していると判定することができ、その偏りをなくすよう、ユーザに改善の提案を行うことができる。その提案は支援情報としてユーザに提供され得る。
【0056】
図9の(c)は、図9の(a)および(b)より推定された研磨時の円弧運動時に支援情報である。図9の(b)において、-140°と-40°付近は閾値内に入っていることから、この部分の荷重範囲で円弧運動の癖を修正し研磨すればよいことが分かる。作業者X1に支援情報の荷重分布になるように作業計測時に使用した圧力センサ11を用いても良い。
【0057】
図9の(d)は、改善後の角度別拡散反射光の光量をプロットした図である。
本実施形態においても、研磨評価システム100の出力部3は、推定した研磨状態に基づき研磨作業を支援する情報、すなわち支援情報、を出力してもよい。作業者X1に当人の癖を認識させるような支援情報を与えることで、研磨痕の方向別の強度バラつきが十分低減された、または無くなった、ムラのない均一な研磨面を得ることが出来る。そのようにして得られた研磨面は鏡面とも言い得る。
【0058】
5.効果
以上のように、本実施形態の研磨状態評価システム100は、作業者X1が作業子X2を被研磨物Y1に押し付けることで研磨された被研磨物Y1の表面状態を評価するシステムまたは装置の一例である。研磨状態評価システム100は、記憶装置の一例である第1記憶部5および第2記憶部6と、CPU等の演算回路の一例である処理部7とを有している。第1記憶部5は、予め用意された、目標とされる表面状態を表す第1情報を記憶する。第2記憶部6は、研磨された被研磨物を計測することによって取得された、被研磨物の表面状態を表す第2情報を記憶する。処理部7は、目標状態と被研磨物の表面状態との差分を算出して(S5)出力する(S6)。
【0059】
以上の研磨状態評価システム100によれば、作業者X1が、出力された差分に基づいて、例えば研磨時の押し付け力を弱めたり、研磨の頻度を減らしたりすることで、ムラやくもりを抑えた研磨面を得ることが可能になる。例えば、研磨評価システム100から提示された改善後研磨軌跡15を確認しながら作業者が研磨作業を行うことにより、研磨軌跡は改善され、研磨表面は、目標表面状態により近い状態になるよう研磨される。これにより、研磨品質の改善を見込むことができる。
【0060】
本実施形態において、研磨評価システム100は、被研磨物の研磨状態を決定する研磨作業の作業条件を示す作業情報を取得する作業情報取得部4をさらに備えている。作業情報は、研磨時の作業子の圧力、位置、速度、加速度、スラリー状態のうちの少なくとも1つを含んでいる。処理部7は、第1情報、第2情報および作業情報に基づいて、被研磨物の表面状態の良否、研磨方向、力の強弱、スラリー状態のいずれかに関する研磨状態を推定する。
【0061】
さらに本実施形態において、研磨状態評価システム100は、処理部7が推定した結果を出力する出力部3をさらに備えている。
【0062】
また本実施形態において、研磨評価システム100の出力部3は、推定した研磨状態に基づき研磨作業を支援する情報を出力してもよい。
【0063】
本実施形態において出力部3は、第1情報と第2情報のそれぞれにおける光量の差分情報が、予め定められた閾値以上である所定範囲において、研磨作業を支援する情報を出力してもよい。
【0064】
(実施形態2:軌跡の規則正し過ぎる重なり)
図10は、本開示の実施形態2にかかる、研磨軌跡の重なりと測定箇所による研磨痕の方向別強度を示す図である。図10の処理は、図3の処理S7にてNO判定の場合の処理S8、及び処理S9を経由するフローの他の一例である。
【0065】
図10の(a)は金型の上面平面図に、カメラで撮影した研磨軌跡を重ねた図である。図10(b)は研磨軌跡の部分拡大図である。なお、図10では、円弧運動の重ね合わせである研磨軌跡のY方向の送りピッチが円弧サイズとほぼ同じ場合を想定している。やや極端な例であるが理解の便宜のために採用した。
【0066】
図10の(c)は、円弧運動の軌跡の頂点付近が重なった箇所Pcの角度別拡散反射光の光量を破線でプロットした図である。図10の(c)によれば、0°と180°の光量が多いことが分かる。図10の(d)は円弧運動のY方向移動部の軌跡の個所Pdの研磨痕の方向別強度を表した図である。図10の(c)に比べると、図10の(d)では全体的な研磨痕の強度と頻度が少なく、90°と270°付近の研磨痕が比較的多い。
【0067】
このことから研磨時の円弧運動のサイズや、送りピッチが規則正しい場合には、研磨後表面にムラができやすいことが分かる。よって、制御部1の処理部7は、角度別の拡散反射光の光量から、研磨時に測定された作業情報から研磨状態を推定し、その研磨状態の発生要因は、研磨軌跡の重なり合わせであると推定し得る。このように研磨軌跡と表面状態の関係が分かると、処理部7は、円弧運動のY方向の送りピッチを1/2や1/3へ変更したり、都度ランダムに可変にしたりするなど改善を提案する、すなわち支援情報を提示することが可能となる。この支援情報に従ってユーザが研磨作業を行うと、ムラやクモリが十分低減された均一な面性状の研磨面を得ることが可能となる。
【0068】
さらに処理部7は、図10(b)に示される研磨軌跡と、図10の(c)に示される角度別の拡散反射光の光量とを利用して、どのような経路で磨いくことが好適かを示す支援情報をモニタ3に提示することも可能である。
【0069】
(実施形態3:スラリー粒子エッジ形状について)
図11は、本開示の実施形態3にかかる、砥粒の状態と研磨痕の方向性別強度を示す図である。図11の処理は、図3の処理S7にてNO判定の場合の処理S8、及び処理S9を経由するフローのさらに他の一例である。
【0070】
図11の(a)は、改善前の角度別拡散反射光の光量をプロットした図である。135°と315°付近の光量が多いことが理解される。図11の(b)は図11の(a)の際の円弧運動時の荷重の角度別の平均値を表したグラフである。-40°と-140°付近の荷重は高いが、実施形態1に関連して説明したほどのバラつきはない。
【0071】
図11の(c)は研磨剤のスラリーの状態のイメージ図である。本例では、実施形態2において破砕されエッジの尖った砥粒を用いている。今回の結果は、スラリーの補充タイミングより、図11の(d)のようにエッジが丸くなる前に研磨が完了したと推定される。すなわち制御部1の処理部7は、-40°と-140°付近の荷重の高さ、および実施形態1に関連して説明したほどのバラつきが大きくないことにより、エッジが丸くなる前に研磨が完了したと推定し得る。この状況は作業状態のカメラ11を用いた計測にて確認できる。このことから、支援情報として、粒径の細かなスラリーに変更するか、スラリー補充後砥粒エッジが十分なくなりなじむまで研磨することが求められる。あるいは、処理部7は、研磨剤を加えるタイミングを遅らせるよう、支援情報を提示してもよい。
【0072】
支援情報は種々考えられ、処理部7は、角度別拡散反射光の光量に応じて提示する内容を決定することが可能である。
【0073】
図12は、提示する支援情報を判定するためのフローチャートである。このフローチャートは、図4に示すステップS7およびS8の処理の詳細であり、処理部7によって実行される。
【0074】
まずステップS7について説明する。ステップS7では、処理部7は、角度別拡散反射光の光量が閾値以内か否かを判定する。閾値以内であれば「OK」として、支援情報を提示することなく処理を終了する。一方、角度別拡散反射光の光量が閾値を超えている場合には、処理はステップS81に進む。以後のステップS81およびS82は、図4に示すステップS8の詳細な処理である。
【0075】
ステップS81において、処理部7は、拡散反射光の角度別の偏りの有無を判定する。偏りがない場合には支援情報1を提示する。一方、偏りがある場合には、処理はステップS12に進む。典型的には、拡散反射光の角度別の光量が、図9の(d)の細かい破線で示すように表される場合には、処理部7は偏りがないと判定する。他の例として、光量のレベルを表す1~5で表現したときに、拡散反射光の角度別の全ての光量が、±1の範囲内に収まる場合には、処理部7は偏りがないと判定してもよい。範囲は適宜決定することができる。
【0076】
ステップS82において、処理部7は、作業情報との相関を判定する。処理部7は、相関が弱いと判定した場合には支援情報2を提示し、強いと判定した場合には支援情報3を提示する。相関の強弱は、例えば相関係数が0.5を基準として判断することができる。処理部7は、相関係数が0.5以上の場合には相関が強い、相関係数が0.5未満の場合には相関が弱いと判定してもよい。
【0077】
作業情報と拡散反射光の角度別の偏りとの相関係数の算出にあたっては、取得した作業情報の研磨時の軌跡データによる研磨痕の方向と、及びそれらに紐づいた圧力、速度、加速度のデータを用いる。相関係数を算出するための式は周知であるため、式の記載は省略する。
【0078】
なお、作業情報との相関に代えて、または加えて、作業の関連性も考慮することができる。例えば、研磨時の円弧運動の送りピッチの規則性や、軌跡の重なり具合を考慮して、支援情報2を提示するか、支援情報3を提示するかを決定してもよい。
【0079】
図13は、支援情報1~3の例を示している。このように、角度別拡散反射光の光量、
荷重の偏り、および作業情報との相関等に応じて、提示する支援情報の内容を変更する。これにより、作業者ごとにより好適な支援情報を提供できる。
【0080】
以上、本開示の種々の実施形態を説明した。
上述の説明では、くもりやムラが十分低減された研磨面を得るための単一の原因とその支援情報の例を挙げたが、この他にも研磨時の速度や加速度のバラつき、パッドの硬さや空間なども要因となりえる。またいくつかの要因が複合された場合も考えられるが、研磨状態評価システムと研磨時の状態を計測し知見を蓄積することでこれら複合原因を支援情報として提示することが可能である。
【0081】
出力部3が出力する情報として研磨方法等を提案する支援情報を例示したが、支援情報はこのような提案に限られない。例えば、出力部3は、図7(a)に示されるような、角度別または特定の角度について、研磨後の表面状態を反映する光量と、目標表面状態から設定した閾値との差分値を出力してもよい。または出力部3は、角度ごとに、差分が大きい/小さい、差分が許容範囲内か否かを出力してもよい。角度別または特定の角度について差分値に関する情報があれば、改善を図ることが可能なユーザも存在すると考えられるからである。つまり、出力部3が出力する情報は差分値等であっても支援情報であり、本開示にかかる研磨状態評価システム100が行う評価の結果を表しているといえる。
【0082】
なお実施形態の説明では、くもりやムラが十分低減された概ね均一な面状態の研磨面を得ることを目的としたが、同様の手法により、あえて拡散反射光の光量と方向性をコントロールすることも可能であり、特定の方向からのライティングで曇って見えるようにすることや、所定規則性を与えて研磨し敢えてムラを作り模様にすることも考えられる。
【0083】
なお実施形態の説明では、主として光学部品の研磨としたが、車のボディなど他の研磨が必要な工程でも活用可能である。
【0084】
なお実施形態の説明では、人による研磨を例示したが、本開示は装置化された研磨時にも適用可能であり、同等の効果を得ることが出来る。
【0085】
図1に示す研磨評価システム100では、全ての構成要素が1つの筐体内に設けられる必要はない。例えば、測定部2、出力部3および作業情報取得部4は、それぞれが制御部1と通信可能に接続された別個のハードウェアであってもよい。このとき制御部1は、例えばCPUおよびメモリを有するコンピュータシステムであり得る。一方、研磨評価システム100の全ての構成要素が1つの筐体内に設けられた場合には、研磨評価システム100は1台の装置であり得る。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本開示は、作業子が押し付けられることで研磨された被研磨物の表面状態を評価する評価システムに利用可能である。
【符号の説明】
【0087】
1 制御部
2 測定部
3 出力部
4 作業情報取得部
5 第1記憶部
6 第2記憶部
7 処理部
8 拡散反射光測定機
9 拡散反射光測定データ
10 カメラ
11 圧力センサ
12 作業情報
13 結果・支援情報
100 研磨状態評価システム
21 支持台
22 光源
23 受光部
24 測定箇所
X1 作業者
X2 作業子
Y1 作業対象物
Y11 金型基材
Y12 加工面(めっき層)
Y2 スラリー
L1 光源から放射された光
L2 正反射光
L3 拡散反射光
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図9
図10
図11
図12
図13
図14