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特開2024-165032フルオロアルキル基を有する芳香族化合物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165032
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】フルオロアルキル基を有する芳香族化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 17/363 20060101AFI20241121BHJP
   C07C 25/13 20060101ALI20241121BHJP
   C07C 39/27 20060101ALI20241121BHJP
   C07C 43/225 20060101ALI20241121BHJP
   C07C 37/055 20060101ALN20241121BHJP
   H01L 21/3065 20060101ALN20241121BHJP
【FI】
C07C17/363
C07C25/13
C07C39/27
C07C43/225 A
C07C37/055
H01L21/302 101C
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080848
(22)【出願日】2023-05-16
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ハステロイ
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋詰 都
(72)【発明者】
【氏名】江藤 友亮
【テーマコード(参考)】
4H006
5F004
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AB70
4H006AB80
4H006AC26
4H006BA06
4H006BB12
4H006BC10
4H006BC11
4H006BC37
4H006EA21
4H006FC52
4H006FE13
4H006FE74
5F004AA02
5F004BA11
5F004DA00
5F004DB03
5F004EA03
(57)【要約】      (修正有)
【課題】フルオロアルキル基を有する芳香族化合物の効率的な製造方法を提供する。
【解決手段】一般式(1):

[式中、Rは、フルオロアルキル基を示す。nは2~5の整数を示す。]で表される化合物の製造方法であって、出発化合物であるエステル(例えばトリフルオロ酢酸ペンタフルオロフェニル)を加熱する工程を備え、前記加熱工程は、(1)バッチ式を採用し、170℃以上に加熱する、又は(2)連続流通式を採用し、500℃以上に加熱するのいずれかを満たす、製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):
【化1】
[式中、
は同一又は異なって、フルオロアルキル基を示す。
nは2~5の整数を示す。]
で表される化合物の製造方法であって、
一般式(2):
【化2】
[式中、R及びnは前記に同じである。]
で表される化合物を加熱する工程
を備え、前記加熱工程は、
(1)バッチ式を採用し、170℃以上に加熱する、又は
(2)気相連続流通式を採用し、500℃以上に加熱する
のいずれかを満たす、製造方法。
【請求項2】
前記Rがパーフルオロアルキル基である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記nが5である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記(1)を満たし、且つ、前記加熱工程は、ゲージ圧で0.05~1.00MPaの条件下で行われる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記(2)を満たし、且つ、前記加熱工程は、反応容器として熱伝導性容器を用いる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
一般式(1):
【化3】
[式中、
は同一又は異なって、フルオロアルキル基を示す。
nは2~5の整数を示す。]
で表される化合物と、
一般式(3):
【化4】
[式中、nは前記に同じである。]
で表される化合物、及び/又は一般式(4):
【化5】
[式中、R及びnは前記に同じである。]
で表される化合物とを含有する、組成物。
【請求項7】
前記一般式(1)で表される化合物1モルに対して、前記一般式(3)で表される化合物及び/又は前記一般式(4)で表される化合物を合計で30モル以下含有する、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
さらに、一般式(5):
【化6】
[式中、nは前記に同じである。]
で表される化合物を含有する、請求項6に記載の組成物。
【請求項9】
エッチングガス、クリーニングガス、又はデポジットガスとして用いられる、請求項6~8のいずれか1項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、フルオロアルキル基を有する芳香族化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フルオロアルキル基を有する芳香族化合物の製造方法としては、例えば、トリフルオロ酢酸フェニル又はトリフルオロ酢酸4-フルオロフェニルを原料として、650℃に加熱しながら、石英ガラス管に原料をフローして熱脱酸し、それぞれトリフルオロメチルベンゼン及び1-フルオロ-4-フルオロフェニルベンゼンを得ることが知られている(例えば、非特許文献1参照)。この結果、トリフルオロ酢酸フェニルを原料とした場合は目的物の収率は15.5%、トリフルオロ酢酸4-フルオロフェニルを原料とした場合は目的物の収率は2.0%である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Journal of Fluorine Chemistry, 32 (1986) 467-470
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、フルオロアルキル基を有する芳香族化合物を効率よく製造することができる新規な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の構成を包含する。
【0006】
項1.一般式(1):
【0007】
【化1】
【0008】
[式中、
は同一又は異なって、フルオロアルキル基を示す。
nは2~5の整数を示す。]
で表される化合物の製造方法であって、
一般式(2):
【0009】
【化2】
【0010】
[式中、R及びnは前記に同じである。]
で表される化合物を加熱する工程
を備え、前記加熱工程は、
(1)バッチ式を採用し、170℃以上に加熱する、又は
(2)気相連続流通式を採用し、500℃以上に加熱する
のいずれかを満たす、製造方法。
【0011】
項2.前記Rがパーフルオロアルキル基である、項1に記載の製造方法。
【0012】
項3.前記nが5である、項1又は2に記載の製造方法。
【0013】
項4.前記(1)を満たし、且つ、前記加熱工程は、ゲージ圧で0.05~1.00MPaの条件下で行われる、項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【0014】
項5.前記(2)を満たし、且つ、前記加熱工程は、反応容器として熱伝導性容器を用いる、項1~4のいずれか1項に記載の製造方法。
【0015】
項6.一般式(1):
【0016】
【化3】
【0017】
[式中、
は同一又は異なって、フルオロアルキル基を示す。
nは2~5の整数を示す。]
で表される化合物と、
一般式(3):
【0018】
【化4】
【0019】
[式中、nは前記に同じである。]
で表される化合物、及び/又は一般式(4):
【0020】
【化5】
【0021】
[式中、R及びnは前記に同じである。]
で表される化合物とを含有する、組成物。
【0022】
項7.前記一般式(1)で表される化合物1モルに対して、前記一般式(3)で表される化合物及び/又は前記一般式(4)で表される化合物を合計で30モル以下含有する、項6に記載の組成物。
【0023】
項8.さらに、一般式(5):
【0024】
【化6】
【0025】
[式中、nは前記に同じである。]
で表される化合物を含有する、項6又は7に記載の組成物。
【0026】
項9.エッチングガス、クリーニングガス、又はデポジットガスとして用いられる、項6~8のいずれか1項に記載の組成物。
【発明の効果】
【0027】
本開示によれば、フルオロアルキル基を有する芳香族化合物を製造することができる新規な方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本明細書において、「含有」は、「含む(comprise)」、「実質的にのみからなる(consist essentially of)」、及び「のみからなる(consist of)」のいずれも包含する概念である。
【0029】
また、本明細書において、数値範囲を「A~B」で示す場合、A以上B以下を意味する。
【0030】
本開示において、「選択率」とは、反応生成物(気相連続流通式では反応器出口からの流出ガス)における原料化合物以外の化合物の合計モル量に対する、当該反応生成物(気相連続流通式では反応器出口からの流出ガス)に含まれる目的化合物の合計モル量の割合(モル%)を意味する。
【0031】
本開示において、「転化率」とは、反応器に供給される原料化合物のモル量に対する、反応生成物(気相連続流通式では反応器出口からの流出ガス)に含まれる原料化合物以外の化合物の合計モル量の割合(モル%)を意味する。
【0032】
本開示において、「収率」とは、反応器に供給される原料化合物のモル量に対する、反応生成物(気相連続流通式では反応器出口からの流出ガス)に含まれる目的化合物の合計モル量の割合(モル%)を意味する。
【0033】
1.フルオロアルキル基を有する芳香族化合物の製造方法
本開示の製造方法は、
一般式(1):
【0034】
【化7】
【0035】
[式中、
は同一又は異なって、フルオロアルキル基を示す。
nは2~5の整数を示す。]
で表される化合物の製造方法であって、
一般式(2):
【0036】
【化8】
【0037】
[式中、R及びnは前記に同じである。]
で表される化合物を加熱する工程
を備え、前記加熱工程は、
(1)バッチ式を採用し、170℃以上に加熱する、又は
(2)気相連続流通式を採用し、500℃以上に加熱する
のいずれかを満たす。
【0038】
(1-1)出発化合物(一般式(2))
本開示の製造方法において、一般式(2)で表される化合物は、一般式(2):
【0039】
【化9】
【0040】
[式中、
は同一又は異なって、フルオロアルキル基を示す。
nは2~5の整数を示す。]
で表される化合物である。
【0041】
一般式(2)において、Rで示されるフルオロアルキル基は、少なくとも1個の水素原子がフッ素原子で置換されたアルキル基を意味する。
【0042】
本開示では、(他のハロゲン原子とは異なり、)電気陰性度が高いフッ素原子が多いほどフルオロアルキルアニオンが安定で生成しやすく、熱脱酸反応に必要な結合の開裂が起こりやすく、熱脱酸反応が進行しやすい点において、フルオロアルキル基におけるフッ素原子の数が多いことが好ましい。このため、フルオロアルキル基としては、パーフルオロアルキル基が好ましい。なお、パーフルオロアルキル基は、全ての水素原子がフッ素原子で置換されたアルキル基を意味する。一方、カルボニル基の炭素原子とα位の酸素との結合が開裂しやすい場合は、副生成物であるエーテル化合物やアルコール化合物が生成しやすくなる。このため、フッ素原子の数が多い場合、フルオロアルキルアニオンが安定で生成しやすく、熱脱酸反応に必要な結合の開裂が起こりやすいことから、これらの副生成物の生成も抑制しやすくなる。
【0043】
フルオロアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれも採用することができる。なかでも、転化率、収率、選択率等の観点から、直鎖状フルオロアルキル基が好ましい。
【0044】
このフルオロアルキル基の炭素数は、特に制限されるわけではないが、転化率、収率、選択率等の観点から、1~5が好ましく、1~4がより好ましく、1~3がさらに好ましい。
【0045】
このようなフルオロアルキル基としては、具体的には、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、フルオロエチル基(1-フルオロエチル基、2-フルオロエチル基等)、ジフルオロエチル基(1,1-ジフルオロエチル基、2,2-ジフルオロエチル基等)、トリフルオロエチル基(2,2,2-トリフルオロエチル基等)、テトラフルオロエチル基(1,1,2,2-テトラフルオロエチル基、1,2,2,2-テトラフルオロエチル基等)、ペンタフルオロエチル基等が挙げられる。
【0046】
一般式(2)において、nは、ベンゼン環に結合するフッ素原子の数を意味しており、2~5の整数を示す。非特許文献1にも示されるように、ベンゼン環に結合するフッ素原子が存在すると、目的物の収率は著しく低下する。フッ素原子の数が増えるほどその傾向は顕著であるため、非特許文献1からは、ベンゼン環に結合するフッ素原子が2個以上である場合は、反応はほとんど進行しないと考えるのが通常である。それに対して、本開示では、ベンゼン環に結合するフッ素原子が2個以上であっても、バッチ式(要件(1))及び気相連続流通式(要件(2))のそれぞれに特有の条件を採用することにより目的物を生成することができる。つまり、ベンゼン環に結合するフッ素原子の数が多くとも目的物を生成することができる点において、本開示は有用であり、nは、好ましくは3~5の整数、より好ましくは4又は5、さらに好ましくは5である。
【0047】
上記のような条件を満たす出発物質としての一般式(2)で表される化合物としては、具体的には、
【0048】
【化10】
【0049】
等が挙げられる。
【0050】
上記の一般式(2)で表される化合物は、公知又は市販品を用いることができる。また、上記の一般式(2)で表される化合物は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。
【0051】
(1-2)反応
本開示の反応では、上記した一般式(2)で表される化合物において、基-OCORが熱脱酸され、脱炭酸反応により、基-OCO-が脱離して基-Rとなる。
【0052】
この際、Rや、ベンゼン環上の水素原子及びフッ素原子は、本開示の反応によっても変わらず残存する。つまり、基-OCORが熱脱酸され、基-OCO-が脱離して基-Rとなること以外の構造は維持される。
【0053】
この結果、一般式(1)で表される化合物が得られる。
【0054】
この本開示の反応は、反応容器中に出発物質を一括して仕込むバッチ式と、出発物質を反応容器中に連続して供給しながら生成物を反応容器から抜き出す気相連続流通式のいずれの方式でも採用できる。ただし、いずれの方式を採用するかによって条件は異なるので、詳細は後述する。なお、バッチ式を採用したほうが、分離が困難な副生成物が生成されにくい。
【0055】
また、上記した反応は、液相で行うこともできるし、気相で行うこともできる。
【0056】
(1-3)バッチ式(要件(1))
本開示の製造方法においてバッチ式の反応を採用する場合、使用される反応容器は、反応に耐え得るものであれば特に制限されず、形状や構造は特に限定されない。低温においても反応を進行させ、目的物である一般式(1)で表される化合物が得られやすい観点からは、耐圧反応容器を使用することが好ましい。
【0057】
本開示の製造方法では、反応容器に制限はないが、例えば、オートクレーブ等の圧力容器に、原料物質としての一般式(2)で表される化合物を仕込み、ヒーター等にて170℃以上まで昇温させ、一定時間反応することが好ましい。この際、気相反応を採用することもできるし、液相反応を採用することもできる。また、液相反応を採用する場合は、溶媒中で、攪拌下に反応を進行させることが好ましい。非特許文献1では、500℃以下の反応温度では原料を回収することになることが記載されているので、極めて低温で脱炭酸反応が進行することは予想外の結果である。
【0058】
反応容器の材質としては、例えば、ガラス、ステンレス、鉄、ニッケル、鉄ニッケル合金等が挙げられる。
【0059】
本開示の製造方法において、バッチ式の液相反応を採用する場合、使用することができる溶媒としては、特に制限されるわけではなく、非極性溶媒も極性溶媒も使用できるが、転化率、収率、選択率等の観点から、非極性溶媒が好ましい。また、溶媒としては、反応温度において熱分解しない溶媒が好ましい。反応温度は170℃以上であるため、熱分解しない溶媒であるか、熱分解温度が175℃以上であることが好ましい。具体的には、使用できる溶媒としては、例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン等の脂肪族有機溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、トリフルオロトルエン、クロロベンゼン等の芳香族有機溶媒;ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム等の脂肪族ハロゲン化炭化水素;N-メチルピロリドン等のラクタム化合物;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等のエーテル化合物;アセトン等のケトン化合物等が挙げられる。これらの溶媒は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。
【0060】
非極性溶媒の使用量は、溶媒量であれば特に制限はなく、過剰量とすることができ、転化率、収率、選択率等の観点から、一般式(2)で表される化合物100質量部に対して、80~10000質量部が好ましく、100~1000質量部がより好ましい。
【0061】
本開示の製造方法は、バッチ式の反応容器(オートクレーブ等)を用いて反応系を密閉させて、反応を行うことが好ましい。反応雰囲気としては、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス雰囲気中で反応を行うことが好ましい。
【0062】
本開示の製造方法において、バッチ式を採用する場合の反応温度は、副生成物である高沸点化合物の生成を抑制しやすく、熱脱酸反応を効率よく進行させやすい観点から、170℃以上、好ましくは180~300℃、より好ましくは190~240℃である。反応温度が170℃未満では、副反応のみが進行し、熱脱酸反応は進行しないため、目的物を生成することができず、収率及び選択率に劣る。
【0063】
なお、本開示の製造方法において、反応温度は、一度の昇温操作で最高到達温度まで昇温することもできるし、複数回の昇温操作に分けて段階的に最高到達温度まで昇温することもできる。
【0064】
本開示の製造方法では、バッチ式の反応圧力は、用いる反応容器内部の圧力を意味する。本開示の製造方法では、特に制限されるわけではないが、反応温度を低くしても転化率、収率、選択率等を向上させやすい観点から、加圧することが好ましい。具体的には、反応圧力は、0.05~1.00MPaが好ましく、0.1~0.5MPaがより好ましい。なお、本明細書において、反応圧力は、通常、ゲージ圧を意味する。加圧の際には、反応容器を密閉させて、反応系に対して、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを吹き込むことで、反応系内の圧力を上昇させることができる。このように、反応容器を密閉して加圧することで、出発物質から脱離したフルオロアルキル基と、一般式(2)から基-OCOR部分が脱離した芳香族化合物とが衝突することによって目的物である一般式(1)で表される化合物が生成されやすい。
【0065】
なお、反応時間は特に制限はなく、反応を十分に進行させることができる時間とすることができ、具体的には、反応系内で組成に変化がなくなるまで反応を進行させることができる。
【0066】
本開示の製造方法では、液相反応を採用する場合、連続相槽型反応器(CSTR)に背圧弁を接続する等の方法により、液を抜き出しながら、若しくは生成物をガス化させて抜き出しながら、連続且つ加圧での反応形態で行うこともできる。
【0067】
反応終了後は、必要に応じて常法にしたがって精製処理を行い、一般式(1)で表される化合物を得ることができる。
【0068】
(1-4)気相連続流通式(要件(2))
本開示において、反応器に原料物質を連続的に仕込み、当該反応器から目的物を連続的に抜き出す気相連続流通式の反応を採用する場合、500℃以上に加熱する。
【0069】
気相連続流通式を採用する場合、反応容器(反応管)としては、非特許文献1にも記載のように、石英等の副反応の発生を抑制することができる反応容器(反応管)を採用されることが多い。ただし、本開示の製造方法では、一般式(2)においてnが2以上であり、安定性が高い原料物質を使用しており、熱エネルギーを伝達しやすくすることで、出発物質から脱離したフルオロアルキル基と、一般式(2)から基-OCOR部分が脱離した芳香族化合物とが衝突することによって目的物である一般式(1)で表される化合物が生成されやすいため、副反応の懸念はありつつも、反応容器(反応管)としては熱伝導性容器(熱伝導管)を採用することが好ましい。
【0070】
使用できる反応容器の材質としては、特に制限されるわけではないが、副反応の起こりにくさも考慮し、ハステロイ(ニッケル基合金)、鉄、ステンレス、銅、ニッケル等が好ましい。
【0071】
なお、反応容器(反応管)の形状及び構造は特に限定されない。反応容器(反応管)としては、例えば、縦型反応器、横型反応器、多管型反応器等が挙げられる。
【0072】
本開示の製造方法において、気相連続流通式を採用する場合、反応雰囲気としては、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス雰囲気中で反応を行うことが好ましい。
【0073】
本開示の製造方法において、気相連続流通式を採用する場合の反応温度は、500℃以上、好ましくは550~750℃、より好ましくは600~700℃である。反応温度が500℃未満では、反応がほとんど起こらないうえに副反応のみが進行し、熱脱酸反応は進行しないため、目的物を生成することができない。
【0074】
本開示の製造方法では、気相連続流通式を採用する場合、反応圧力は特に制限はなく、減圧下、常圧下及び加圧下のいずれも採用できる。
【0075】
本開示の製造方法では、気相連続流通式を採用する場合、反応時間は、特に制限されるわけではないが、転化率、収率、選択率等の観点から、原料物質をフローする時間として、1~10分が好ましく、1~5分がより好ましく、1~2分がさらに好ましい。
【0076】
本開示の製造方法では、気相連続流通式を採用する場合、出発化合物を充填する流量は、特に制限されるわけではないが、転化率、収率、選択率等の観点から、1~100mL/minが好ましく、2~50mL/minがより好ましく、5~20mL/minがさらに好ましい。
【0077】
なお、本開示の製造方法を、CaCl等の触媒の存在下に行うことも可能であるが、反応効率は特段変わらないので、副反応の懸念も考慮して触媒非存在下に反応を行うことが好ましい。
【0078】
反応終了後は、必要に応じて常法にしたがって精製処理を行い、一般式(1)で表される化合物を得ることができる。
【0079】
(1-5)目的化合物(一般式(1))
このようにして生成される目的化合物は、一般式(1):
【0080】
【化11】
【0081】
[式中、
は同一又は異なって、フルオロアルキル基を示す。
nは2~5の整数を示す。]
で表される化合物である。
【0082】
一般式(1)において、R及びnは前記したとおりである。
【0083】
つまり、本開示で生成される目的化合物である一般式(1)で表される化合物は、具体的には、
【0084】
【化12】
【0085】
等が挙げられる。
【0086】
2.組成物
以上のようにして、一般式(1)で表される化合物を得ることができるが、一般式(1)で表される化合物は、一般式(1):
【0087】
【化13】
【0088】
[式中、
は同一又は異なって、フルオロアルキル基を示す。
nは2~5の整数を示す。]
で表される化合物と、
一般式(3):
【0089】
【化14】
【0090】
[式中、nは前記に同じである。]
で表される化合物、及び/又は一般式(4):
【0091】
【化15】
【0092】
[式中、R及びnは前記に同じである。]
で表される化合物とを含有する組成物の形で得られることが多い。
【0093】
一般式(1)で表される化合物については、上記したとおりである。
【0094】
また、一般式(3)において、nは上記したものを採用できる。
【0095】
このため、一般式(3)で表される化合物としては、例えば、
【0096】
【化16】
【0097】
等が挙げられる。
【0098】
また、一般式(4)において、R及びnは上記したものを採用できる。好ましい具体例も同様である。
【0099】
このため、一般式(4)で表される化合物としては、例えば、
【0100】
【化17】
【0101】
等が挙げられる。
【0102】
本開示の製造方法において、一般式(3)で表される化合物及び/又は一般式(4)で表される化合物の合計含有量は、特に制限されるわけではないが、一般式(1)で表される化合物1モルに対して、30モル以下、特に0.001~20モルとすることができる。
【0103】
本開示の組成物は、本開示の製造方法により得られ得るものであるが、本開示の製造方法においてバッチ式を採用する場合には、本開示の組成物として、一般式(1)で表される化合物と、一般式(3)で表される化合物とを含む組成物が得られやすい。この場合、一般式(3)で表される化合物の含有量は、特に制限されるわけではないが、一般式(1)で表される化合物1モルに対して、0.10モル以下、特に0.001~0.10モルとすることができる。
【0104】
また、本開示の製造方法において気相連続流通式を採用する場合には、本開示の組成物として、一般式(1)で表される化合物と、一般式(3)で表される化合物及び一般式(4)で表される化合物とを含む組成物が得られやすい。この場合、一般式(3)で表される化合物の含有量は、特に制限されるわけではないが、一般式(1)で表される化合物1モルに対して、1.0~3.0モル、特に1.5~2.0モルとすることができる。また、一般式(4)で表される化合物の含有量は、特に制限されるわけではないが、一般式(1)で表される化合物1モルに対して、10.0~27.0モル、特に15.0~18.0モルとすることができる。
【0105】
本開示の組成物は、さらに、一般式(5):
【0106】
【化18】
【0107】
[式中、nは前記に同じである。]
で表される化合物を含むこともできる。
【0108】
一般式(5)において、nは上記したものを採用できる。
【0109】
このため、一般式(5)で表される化合物としては、例えば、
【0110】
【化19】
【0111】
等が挙げられる。
【0112】
本開示の組成物が一般式(5)で表される化合物を含む場合、一般式(5)で表される化合物の含有量は、特に制限されるわけではないが、一般式(1)で表される化合物1モルに対して、5~80モル、特に7~50モルとすることができる。
【0113】
なお、一般式(3)で表される化合物、一般式(4)で表される化合物、及び一般式(5)で表される化合物は、一般式(1)で表される化合物とは、ガスクロマトグラフィーでは保持時間が近似しているため、精製処理をしたとしても、完全に除去することは困難である。
【0114】
このため、本開示の組成物には、精製処理が施された組成物と、精製処理が施されていない組成物のいずれも包含する。
【0115】
本開示の製造方法としてバッチ法を採用していた場合は、
精製処理が施された組成物では、本開示の組成物の総量を100体積%として、一般式(1)で表される化合物の含有量は、90.00~99.99体積%(特に95.00~99.98体積%)とすることができ、一般式(3)で表される化合物の含有量は、0.01~10.00体積%(特に0.02~5.00体積%)とすることができ、一般式(5)で表される化合物の含有量は、0~5.00体積%(特に0.01~3.00体積%)とすることができ;
精製処理が施されていない組成物では、本開示の組成物の総量を100モル%として、一般式(1)で表される化合物の含有量は、1.50~10.00モル%(特に2.00~8.00モル%)とすることができ、一般式(3)で表される化合物の含有量は、0.01~0.30モル%(特に0.02~0.20モル%)とすることができ、一般式(5)で表される化合物の含有量は、45.00~98.00モル%(特に50.00~95.00モル%)とすることができる。
【0116】
本開示の製造方法として気相連続流通式を採用していた場合は、
精製処理が施された組成物では、本開示の組成物の総量を100体積%として、一般式(1)で表される化合物の含有量は、85.00~99.98体積%(特に90.00~99.95体積%)とすることができ、一般式(3)で表される化合物の含有量は、0.01~10.00体積%(特に0.02~5.00体積%)とすることができ、一般式(4)で表される化合物の含有量は、0.01~10.00体積%(特に0.02~5.00体積%)とすることができ、一般式(5)で表される化合物の含有量は、0~5.00体積%(特に0.01~3.00体積%)とすることができ;
精製処理が施されていない組成物では、本開示の組成物の総量を100モル%として、一般式(1)で表される化合物の含有量は、1.0~3.0モル%(特に1.5~2.0モル%)とすることができ、一般式(3)で表される化合物の含有量は、2.0~5.0モル%(特に2.5~4.0モル%)とすることができ、一般式(4)で表される化合物の含有量は、25.0~30.0モル%(特に26.0~29.0モル%)とすることができ;一般式(5)で表される化合物の含有量は、45.0~65.0モル%(特に50.0~60.0モル%)とすることができる。
【0117】
このような本開示の組成物は、エッチングガス、クリーニングガス、デポジットガス等の各種用途に有効利用できる。
【0118】
以上、本開示の実施形態を説明したが、特許請求の範囲の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能である。
【実施例0119】
以下に実施例を示し、本開示の特徴を明確にする。本開示はこれら実施例に限定されるものではない。
【0120】
実施例及び比較例においては、基質としては、一般式(2)において、Rがトリフルオロメチル基、nが5であるトリフルオロ酢酸ペンタフルオロフェニルを使用した。
【0121】
実施例1~3及び比較例1(バッチ式)
反応容器であるステンレス(SUS)製オートクレーブに撹拌子、トリフルオロ酢酸ペンタフルオロフェニルを、表1に示す仕込み量だけ加えた。気相反応である実施例1~2及び比較例1はそのままとし、液相反応である実施例3及び比較例1~2は溶液の濃度が1mol/Lとなるようにクロロベンゼンを加えた。その後、反応容器を密閉後、表1に示す温度までに昇温し、表1に示す時間加熱した。ただし、実施例1及び比較例1については、表1に示すように段階的に昇温した。この結果、加熱とともに加圧され、反応系中の圧力は、実施例1~2では0.13MPa、実施例3では0.31MPa、比較例1では0.20MPaとなった。
【0122】
反応終了後、ガスクロマトグラフィー((株)島津製作所製、商品名「GC-2014」)、を用いてガスクロマトグラフィー/質量分析法(GC/MS)により質量分析を行い、生成物を確認した。
【0123】
質量分析の結果から、実施例1~3では、目的物として、オクタフルオロトルエンが生成したことが確認できた。
【0124】
結果を表1に示す。なお、表1において、「C7F8」はオクタフルオロトルエンを意味し、「F5PhOH」はペンタフルオロフェノールを意味し、「HB」は構造不明の高沸点化合物を意味し、「5Fbenzene」はペンタフルオロベンゼンを意味する。
【0125】
【表1】
【0126】
実施例4及び比較例2~6(気相連続流通式)
反応管であるハステロイ管(外径1.5cm)に、比較例8では触媒としてCaCl0.75g加えた。実施例4及び比較例2~5では、触媒を使用せずにハステロイ管をそのまま使用した。窒素雰囲気下、25℃で24時間乾燥した後、圧力を常圧とし、トリフルオロ酢酸ペンタフルオロフェニルを、表1に示す仕込み量だけ流通させた。この際、比較例6では、トリフルオロ酢酸ペンタフルオロフェニルとCaCl触媒との接触時間(W/F)が5.00g・sec/ccとなるように調整した。
【0127】
反応は、気相連続流通式で進行させた。
【0128】
反応管を200~650℃で加熱して反応を開始した。
【0129】
反応開始1.5時間後に除害塔を通った留出分を集めた。
【0130】
反応終了後、ガスクロマトグラフィー((株)島津製作所製、商品名「GC-2014」)、を用いてガスクロマトグラフィー/質量分析法(GC/MS)により質量分析を行い、生成物を確認した。
【0131】
質量分析の結果から、実施例4では、目的化合物として、オクタフルオロトルエンが生成したことが確認された。
【0132】
結果を表2に示す。なお、表2において、「C7F8」はオクタフルオロトルエンを意味し、「F5PhOH」はペンタフルオロフェノールを意味し、「5Fbenzene」はペンタフルオロベンゼンを意味し、「ether」はオクタフルオロアニソールを意味する。
【0133】
【表2】
【0134】
実施例5~6及び比較例7
実施例3~4で得られた混合物を常法にて精製し、表3に示す流量比(体積比)の組成物を実施例5~6の組成物として得た。なお、実施例3で得られた混合物を精製した組成物が実施例5の組成物、実施例4で得られた混合物を精製した組成物が実施例6の組成物である。また、比較例7は、市販のオクタフルオロトルエンをそのまま使用した。表3において、「C7F8」はオクタフルオロトルエンを意味し、「F5PhOH」はペンタフルオロフェノールを意味し、「5Fbenzene」はペンタフルオロベンゼンを意味し、「ether」はオクタフルオロアニソールを意味する。
【0135】
得られた組成物をICP(Inductive Coupled Plasma)、放電電力1000W、バイアス電力300W、圧力10mTorr、電子密度8×1010~2×1011cm-3、電子温度5~7eVのエッチング条件で、シリコン基板上に形成した1000μm厚さの酸化シリコン(SiO)膜と、シリコン基板上に形成した5000μm厚さのアモルファスカーボン膜(ACL膜)のエッチング速度を測定し、その際のSiO膜とACL膜とのエッチング速度の比(SiO膜のエッチング速度/ACL膜のエッチング速度)を対ACL選択比とした。なお、SiO膜は常法にしたがい形成し、ACL膜は既報(Producer(登録商標) APFTM PECVD - Applied Materials)に準拠して形成した。結果、対ACL選択比(SiO膜のエッチング速度/ACL膜のエッチング速度)を表3に示す。
【0136】
【表3】
【手続補正書】
【提出日】2024-08-20
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):
【化1】
[式中、
同一又は異なって、フルオロアルキル基を示す。
nは2~5の整数を示す。]
で表される化合物の製造方法であって、
一般式(2):
【化2】
[式中、R及びnは前記に同じである。]
で表される化合物を加熱する工程
を備え、前記加熱工程は、
(1)バッチ式を採用し、170~300℃に加熱する、又は
(2)気相連続流通式を採用し、反応容器として熱伝導性容器を用い、550~750℃に加熱する
のいずれかを満たす、製造方法。
【請求項2】
前記Rがパーフルオロアルキル基である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記nが5である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記(1)を満たし、且つ、前記加熱工程は、ゲージ圧で0.05~1.00MPaの条件下で行われる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
一般式(1):
【化3】
[式中、
同一又は異なって、フルオロアルキル基を示す。
nは2~5の整数を示す。]
で表される化合物と、
一般式(3):
【化4】
[式中、nは前記に同じである。]
で表される化合物、及び/又は
一般式(4):
【化5】
[式中、R及びnは前記に同じである。]
で表される化合物とを含有する、組成物。
【請求項6】
前記一般式(1)で表される化合物1モルに対して、前記一般式(3)で表される化合物及び/又は前記一般式(4)で表される化合物を合計で30モル以下含有する、請求項に記載の組成物。
【請求項7】
さらに、
一般式(5):
【化6】
[式中、nは前記に同じである。]
で表される化合物を含有する、請求項に記載の組成物。
【請求項8】
エッチングガス、クリーニングガス、又はデポジットガスとして用いられる、請求項のいずれか1項に記載の組成物。