(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165045
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】ミシン
(51)【国際特許分類】
D05B 19/14 20060101AFI20241121BHJP
【FI】
D05B19/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080865
(22)【出願日】2023-05-16
(71)【出願人】
【識別番号】000002244
【氏名又は名称】株式会社ジャノメ
(74)【代理人】
【識別番号】110003476
【氏名又は名称】弁理士法人瑛彩知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】赤羽 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】真船 潤
【テーマコード(参考)】
3B150
【Fターム(参考)】
3B150CB03
3B150CE01
3B150CE04
3B150CE09
3B150CE24
3B150CE27
3B150GD02
3B150GD15
3B150GD24
3B150GG01
3B150GG06
3B150JA02
3B150LA15
3B150LB01
3B150NA72
3B150NA80
3B150NB02
3B150NB18
3B150NC02
3B150QA06
3B150QA07
(57)【要約】
【課題】従来のミシンは、今動かしている被縫製物の縫製速度がどの程度であるか、使用者が把握することができるようにはなっていない。
【解決手段】ミシンであって、所定の縫いピッチを設定するように構成された縫いピッチ設定ユニットと 、被縫製物の移動を検出するように構成された移動検出ユニットと、移動検出ユニットにより検出される被縫製物の移動量に基づいて被縫製物の移動速度を算出し、この移動速度と所定の縫いピッチとに基づいて、針を動作させるミシンモータの回転速度Rを算出するように構成された制御ユニットと、ミシンモータの上限回転速度Rmaxに対する回転速度Rの大きさを知らせるように構成された報知部と、を有する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミシンであって、
所定の縫いピッチを設定するように構成された縫いピッチ設定ユニットと、
被縫製物の移動を検出するように構成された移動検出ユニットと、
前記移動検出ユニットにより検出される被縫製物の移動量に基づいて該被縫製物の移動速度を算出し、該移動速度と前記所定の縫いピッチとに基づいて、針を動作させるミシンモータの回転速度を算出するように構成された制御ユニットと、
前記ミシンモータの上限回転速度に対する前記回転速度の大きさを知らせるように構成された報知部と、を有する、ミシン。
【請求項2】
前記報知部は、表示の変化又は音の変化で知らせるように構成される、請求項1に記載のミシン。
【請求項3】
前記上限回転速度を設定する上限値設定ユニットをさらに有する、請求項1に記載のミシン。
【請求項4】
前記報知部は、算出された前記回転速度が前記上限回転速度を超えた場合に、前記回転速度が前記上限回転速度を超えたことを示す情報を表示する、又は、音により報知する、請求項1~3のいずれか1項に記載のミシン。
【請求項5】
前記制御ユニットは、算出された前記回転速度が前記上限回転速度を超えた場合に前記ミシンモータを停止させるように構成される、請求項1~3のいずれか1項に記載のミシン。
【請求項6】
前記制御ユニットは、算出された前記回転速度が前記上限回転速度を超えた場合に、前記上限回転速度で前記ミシンモータを制御するように構成される、請求項1~3のいずれか1項に記載のミシン。
【請求項7】
針を動作させるミシンモータと、被縫製物の移動を検出する移動検出ユニットと、前記ミシンモータを制御する制御ユニットと、を含むミシンを制御するためのプログラムであって、
当該プログラムを実行する前記制御ユニットが、
前記移動検出ユニットにより検出される被縫製物の移動量に基づいて該被縫製物の移動速度を算出し、該移動速度と所定の縫いピッチとに基づいて、前記ミシンモータの回転速度を算出し、
前記ミシンモータの上限回転速度に対する前記回転速度の大きさを報知部により報知させる、ように作動する、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
ミシンに設けられている自動送り機構により被縫製物を送って縫製を行うのではなく、使用者が自由に被縫製物を移動させて縫製を行う、フリーモーションとも呼ばれる縫製方法を実施できるミシンが知られている。このミシンは、使用者により動かされる被縫製物の移動を検出し、その移動速度に応じた縫製速度(針を動作させるミシンモータの回転速度)の制御を実行することにより、所定の縫いピッチで縫製できるように構成されている。
【0003】
そして、例えば特許文献1に開示されるように、被縫製物の移動を検出する装置の検出周期を、単位時間当たりの被縫製物の移動量に応じて変化させることで、ノイズの影響を低減して移動検出精度の向上を図ったミシンも提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1などのフリーモーション縫製技術では、使用者があまりに速く被縫製物を動かしてしまうと、たとえ検出周期を調節したとしても、縫製速度の追従制御が追い付かず、設定された縫いピッチで縫製できずに縫いピッチが乱れることがある。つまり、追従可能な被縫製物の移動速度には上限がある。このため、被縫製物は上限移動速度以下の移動速度で動かす必要があるが、従来のミシンでは、今動かしている被縫製物について縫製速度がどの程度であるか、使用者が把握することができるようにはなっていない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、例えば特許請求の範囲に記載の構成を採用する。
本願は、上記課題を解決する構成や方法を複数含んでいるが、その一例をあげるならば、ミシンに関する。このミシンは、所定の縫いピッチを設定するように構成された縫いピッチ設定ユニットと、被縫製物の移動を検出するように構成された移動検出ユニットと、移動検出ユニットにより検出される被縫製物の移動量に基づいて被縫製物の移動速度を算出し、この移動速度と所定の縫いピッチとに基づいて、針を動作させるミシンモータの回転速度を算出するように構成された制御ユニットと、ミシンモータの上限回転速度に対する回転速度の大きさを知らせるように構成された報知部と、を有する。
【発明の効果】
【0007】
上記のミシンによると、使用者は、今の縫製速度を視覚的に把握することができる。
本発明のその他の態様については、以下に述べる発明を実施する形態の説明の中で開示される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】
図1に例示したミシンにおける押さえの部分を拡大し一部断面にして示す図の例である。
【
図3】制御ユニットの実施例を示したブロック図の例である。
【
図5】制御ユニットにより実行される制御の実施例1を示すフローチャートの例である。
【
図6】制御ユニットにより実行される制御の実施例2を示すフローチャートの例である。
【
図7】制御ユニットにより実行される制御の実施例3を示すフローチャートの例である。
【
図8】制御ユニットにより実行される制御の実施例4を示すフローチャートの例である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施する形態に関し、具体的な実施例を例示して説明する。
【0010】
図1は、ミシンの実施例を示している。ミシン1は、内蔵されたミシンモータ(図示せず)から周知のリンク機構を介して針2を動作させ、押さえ3により押さえた被縫製物(図示せず)が使用者により移動させられるとこれに同調して縫い動作を実行する(フリーモーション縫い)。縫い動作により上糸と下糸と(図示せず)を交差させて被縫製物に縫い目を形成する。上糸は糸コマ(図示せず)から提供され針2に通される。下糸はボビン(図示せず)に収納されてミシン1の内部に収容される。被縫製物(例えば布)は、押さえ3と針板4とにより挟持される。ミシンモータの働きにより針2が下降し、被縫製物を貫通してボビンに近接する。釜(図示せず)の働きにより上糸と下糸とが交差し、針2が上昇して被縫製物から抜けると縫い目が形成される。フリーモーションではない、通常縫いの場合は、自動送り機構(図示せず)の働きにより被縫製物が自動的に所定量前方へ送られ、同様にして次の縫い目が形成される。この動作の繰り返しにより、所定間隔で縫い目のある直線状の連続した縫製パターンが被縫製物に施される。縫いピッチとはその縫い目と縫い目との間隔のことである。
【0011】
フリーモーション縫いは、曲線など使用者任意の縫製パターンを得るために、ミシン1の上記自動送り機構を使用せずに、使用者が手で被縫製物を動かしながらミシン1の縫い動作を実行する手法である。
図1に示す押さえ3は、このフリーモーション縫いに適した押えとなっている。
図2に、本例における押さえ3の部分を拡大して示してある。なお、
図2では、説明のため押さえ3を一部切断(ハッチング部)して記載している。
【0012】
押さえ3には、円状の孔を有する押さえ部3aが設けられている。この押さえ部3aと針板4との間に被縫製物が置かれ、押さえ部3aの孔を通って針2が被縫製物に刺さる。押さえ部3aは針2の上下動を阻害せず、且つ、針2の刺さる場所周辺の被縫製物の上に位置しているため、針2の上下動による被縫製物の上下のバタツキを抑制し、確実な縫い目の形成を支援する。押さえ3は、針2の動作に合わせて上下動可能な押さえ棒5に取り付けられている。なお、押さえ3は着脱可能であり、通常縫い用の押さえと交換することができる。ミシン1のモードを通常縫いとフリーモーション縫いとで切り替えるときに適切な押さえに交換可能である。
【0013】
この押さえ3に、
図2に示すとおり、移動検出ユニット105が組み込まれている。被縫製物の移動を検出するためのユニット105は、例えばイメージセンサを使用して構成されており、イメージセンサにより被縫製物の表面を撮像して得られるイメージデータを画像処理することにより、被縫製物の移動に関する情報を取得する。他にも、光学式センサを使用することもでき、光学式センサは、可視光線や赤外線などを使用して被縫製物の表面形状を読み取り、被縫製物の移動量を検知する。さらに例をあげれば、被縫製物と接触するトラックボールを組み込んで、被縫製物の移動に従って動くトラックボールの回転動から被縫製物の移動量を検知する移動検出ユニットも可能である。
【0014】
本例では、移動検出ユニット105を着脱式の押さえ3に組み込んであるが、移動検出ユニット105は、ミシン1の本体部に設ける例も可能である。さらに、被縫製物の上側に移動検出ユニット105を設ける例を示しているが、被縫製物の下側に設ける例も可能である。
【0015】
ミシン1は、使用者から操作し易い位置に、スタートストップキー7、スピードコントローラ8、タッチパネル式の表示装置102を備えている。スタートストップキー7は縫い動作の開始/停止操作を行うためのもので、本例では押しボタンとして構成されている。スピードコントローラ8は、本例ではスライドつまみであり、使用者がつまみを左右にスライドさせた位置に応じて出力が変化するアナログデバイスである。一例としてスライドつまみを示しているが、回転つまみなどとしてもよい。また、入力をデジタル信号で処理するデジタルデバイスで実装してもよい。表示装置102は、一例として、タッチパネル式で、液晶パネルディスプレイを用いて実装され、ミシン1の機能や動作状態を表示し、また、設定画面などで各種パラメータをタッチ入力するために使用される。特に、本例の場合、使用者は、設定画面を表示した表示装置102の所定領域をタッチすることで縫いピッチの設定入力を行うことができる。
【0016】
さらに、ミシン1には、入出力端子を通してフットコントローラ(図示せず)を接続することができる。フットコントローラは、踏み込むことで縫い動作開始、離すことで縫い動作停止、踏み込み量に応じて縫製速度調節、を行うこともできる。
【0017】
本例においては、
図2に示すように、押さえ3の正面(使用者に向いている面)に、報知部107が設けられている。報知部107は、本例の場合、横に並べた発光素子(LED)からなる横長矩形のインジケータで、使用者が容易に視認できるようになっている。報知部107は、この他にも、音で報知するスピーカーを使用する例、視覚のインジケータと聴覚のスピーカーとを併用する例、なども可能である。
【0018】
[制御ユニットの実施例]
図3に、ミシン1に搭載され、縫い動作を制御するように構成された制御ユニット100の実施例をブロック図で示す。制御ユニット100は、例えばASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field-Programmable Gate Array)、PLC(Programmable Logic Controller)により構成されるプロセッサ(CPU)であり、外部又は内部のメモリに記憶されたコンピュータプログラムを実行して縫い動作を制御する。
【0019】
制御ユニット100は、操作装置101及び表示装置102を制御し、操作装置101及び表示装置102から出力される信号を受信する。操作装置101は、上述のスタートストップキー7、スピードコントローラ8、及びフットコントローラを含む。また、制御ユニット100には、縫いピッチ設定ユニット103、上限値設定ユニット104、及び移動検出ユニット105が接続される。上限値設定ユニット104には、後述するようにミシンモータ106の回転速度の上限が設定、記憶されている。また、縫いピッチ設定ユニット103には使用者が希望する縫いピッチPを設定、記憶することができ、使用者によって操作装置101を介して縫製前に設定される。
【0020】
そして、制御ユニット100は、これらの装置及びユニットと連携して、針2を駆動するミシンモータ106及び報知部107を制御する。本例の場合、移動検出ユニット105と報知部107とは、
図2に例示する押さえ3に組み込まれている。なお、少なくとも縫いピッチ設定ユニット103及び上限値設定ユニット104は、ぞれぞれ、制御ユニット100におけるソフトウェアモジュールあるいはハードウェアモジュールとして構成することもできるし、制御ユニット100とは別のデバイスとして設けることもできる。
【0021】
[報知部の実施例]
報知部107の実施例を
図4に示す。第1実施例の報知部107は、横に並べた発光素子からなる横長矩形のインジケータで、使用者が容易に視認できるように例えば押さえ3の正面に設けられる。報知部107は、現在の被縫製物の移動速度に関する情報、被縫製物の上限移動速度に関する情報、そして、現在のミシン1のモードに関する情報を、消灯/点灯/点灯領域の変化として使用者に視覚的に表示する。
【0022】
図4中、(1)はミシン1の停止状態で、移動検出ユニット105による被縫製物の移動検出が行われていない移動非検出モードにある。報知部107は全領域が消灯していて、ミシン1が停止している状態であることを使用者に知らせている。
【0023】
(2)は待機状態で、使用者が操作装置101の、例えばスタートストップキー7を操作して、ミシン1が運転(フリーモーション縫い)できる状態で待機している状態である。移動検出ユニット105による被縫製物の移動検出を行う移動検出モードが開始されているが、使用者は、未だ被縫製物を動かしていない。制御ユニット100は、報知部107の初期領域W0のみを部分的に点灯させる。報知部107の初期領域W0のみが点灯することにより、フリーモーション縫いの運転の準備がされ、ミシン1が待機していることを、使用者に知らせている。
【0024】
(3)は移動検出状態で、使用者が被縫製物を動かして縫製を始めている。移動検出ユニット105が被縫製物の移動を検出し、この検出信号を受信する制御ユニット100が後述するようにしてミシンモータ106の回転速度Rを算出する。制御ユニット100は、予め設定されているミシンモータ106の上限回転速度Rmaxに対する回転速度Rの大きさR/Rmaxに従って報知部107の対応する速度監視領域W=R/Rmaxを点灯させる(つまり点灯領域はW0+R/Rmax)。なお、被縫製物の移動速度Sと縫いピッチPとからミシンモータ106の回転速度Rは算出され、ミシンモータ106の上限回転速度Rmaxと縫いピッチPとから上限移動速度Smaxは算出される。縫いピッチPは縫製条件として縫いピッチ設定ユニット103に縫製前に設定されるものであるため、縫製中において、移動速度Sが算出されると一義的に回転速度Rも算出され、また、上限回転速度Rmaxが設定されると一義的に上限移動速度Smaxも算出される。そして、それぞれの比率である速度監視領域W=R/RmaxとW=S/Smaxは同じ値となる。そのため、この速度監視領域W=R/Rmaxは、上限移動速度Smaxに対する被縫製物の移動速度Sの大きさ(比率)も表しているため、使用者は、自分の動かしている被縫製物の移動速度Sの変化、特に、上限移動速度Smaxに対し今の移動速度Sがどの程度であるか、を視覚的に簡単に把握することができる。
【0025】
(4)は上限移動速度検出状態で、使用者が上限移動速度Smax以上で被縫製物を動かしたときの表示状態である。前述したように、ミシンモータ106の上限回転速度Rmaxと縫いピッチPとから算出される上限移動速度Smaxは、縫いピッチPを維持して縫製することができる被縫製物の移動速度Sの上限であると言い換えることもできる。したがって、使用者が上限移動速度Smax以上で被縫製物を動かした場合、制御ユニット100は、ミシンモータ106を上限回転速度Rmax以上で駆動させることはできないため、結果、設定された縫いピッチPを維持して縫製することができなくなる。そこで、制御ユニット100は、移動検出ユニット105の検出信号に基づいて算出される被縫製物の移動速度Sが上限移動速度Smax以上になると、報知部107の領域Wmax=S≧Smaxを点灯させる(つまり点灯領域はW0+Wmaxであり報知部107の全領域)ことで、使用者に、被縫製物の移動速度Sが上限移動速度Smaxを超過しており、設定された縫いピッチPが維持されていない縫製となってしまっていることを知らせる。
【0026】
上記の報知部107の実施例では、複数の発光素子を用いて横長矩形としたインジケータで視覚表示する例を示したが、他にも例をあげると、1つ以上の発光素子の点滅間隔により視覚表示するインジケータも可能である。この場合、例えば、(1)停止状態で消灯、(2)待機状態で最大間隔の点滅(最もゆっくり点滅)、(3)移動検出状態で、検出された移動速度Sに応じて間隔を変化させて点滅(点滅の速さが可変)、(4)上限移動速度検出状態で全灯(点滅せず点灯を維持)あるいは色が変わる、という制御とすることができる。別の例では、報知部107としてスピーカーを使用し、音の変化により移動速度Sを知らせることもできる。この場合、例えば、(1)停止状態で無音、(2)待機状態で最大間隔の発音(最も間隔のあいたピ・・ピ・・ピ・・など)、(3)移動検出状態で、検出された移動速度Sに応じて間隔を変化させて発音(早くなるにつれて徐々に間隔が短くなるピ・ピ・ピ・、上限移動速度直前では連続音でピーなど)、(4)上限移動速度検出状態で音が変わる(ブザー音のブーに変わるなど)、という制御とすることができる。
【0027】
また、報知部107を押さえ3に設ける例を示したが、報知部107は、表示装置102に表示する例も可能であるし、その他、使用者から視認できる適当な箇所に設けることもできる。例えば表示装置102に報知部107を表示する場合、図示した例のように点灯領域を変化させる表示の他にも、ミシンモータの回転速度又は被縫製物の移動速度を数値表示してもよいし、自動車のスピードメーターのように指針を回転させるような表示を行ってもよい。
【0028】
以上の報知部107を使用して制御ユニット100により実行されるフリーモーション縫いの制御について、
図5~
図8にそれぞれフローチャートの例を示し、実施例を説明する。
【0029】
[制御ユニットによる制御の実施例1]
図5に、実施例1の制御を説明するフローチャートを示す。
開始:ミシン1の電源が入れられるが、使用者がフリーモーション縫いの運転開始操作をする前は、ミシン1はステップS1の停止状態にある。制御ユニット100は、移動検出ユニット105による被縫製物の移動検出を行っておらず、移動非検出モードにあり、報知部107を全領域消灯とし(
図4の(1))、ミシン1が停止している状態であることを使用者に知らせる。
【0030】
ステップS2へ進んで、制御ユニット100は、操作装置101の例えばスタートストップキー7が使用者により操作されるなど、運転開始操作の有無を監視する。操作装置101の運転開始操作は、ボタンをプッシュするスタートストップキー7の操作以外にも、例えば、フットコントローラの踏み込みを運転開始操作として検知する例もある。このような運転開始操作がなければ(いいえ)、ステップS2が繰り返される。操作装置101による運転開始操作があると(はい)、ステップS3で制御ユニット100は、移動検出モードに切り換わり、移動検出ユニット105による被縫製物の移動検出を開始する。ステップS3においては、ミシン1の運転が開始できる状態であるが、使用者が未だ被縫製物を動かしていない。したがって制御ユニット100は、ミシンモータ106は駆動させずに報知部107を待機状態に制御し、報知部107の初期領域W0のみを部分的に点灯させ(
図4の(2))、縫製待機にあることを使用者に知らせている。
【0031】
報知部107を待機状態にした制御ユニット100は、ステップS4で、移動検出ユニット105により被縫製物の移動を監視する。移動検出ユニット105により被縫製物の移動が検出されなければ(いいえ)、ステップS5へ進んで、制御ユニット100は、ミシンモータ106を停止させると共に報知部の領域Wを消灯させる。なお、この例のステップS5では、ミシンモータ106を停止させることにしているが、ステップS5の別の例では、極低速(1秒間で針が一往復する程度)でミシンモータ106を回転させる制御としてもよい。この極低速制御によって止め縫い等を実施することができる。
【0032】
ステップS4で移動検出ユニット105により被縫製物の移動が検出されれば(はい)、ステップS6へ進んで、制御ユニット100は、移動検出ユニット105の検出信号から単位時間当りの被縫製物の移動量を取得し、この移動量に基づいて被縫製物の移動速度Sを算出する。そしてステップS7で、制御ユニット100は、算出した移動速度Sと、縫いピッチ設定ユニット103により設定されている縫いピッチPとから、ミシンモータ106の回転速度Rを算出する。
【0033】
回転速度Rを算出した制御ユニット100は、ステップS8で、上限回転速度Rmaxを取得し、回転速度Rがその上限回転速度Rmaxに達するか否か(R<Rmax)監視する。
ミシンモータ106の上限回転速度Rmaxは、本実施形態のミシンにおけるフリーモーション縫いの上限速度であり、例えば、ミシンモータ106のハード的に上限(応答性能など)の回転速度として予め制御ユニットに記憶されていてもよいし、あるいは、使用者のスキル等を考慮し、予め使用者により設定され上限値設定ユニットに記憶された上限回転速度でもよい。
【0034】
ステップS8で制御ユニット100は、算出した回転速度Rが上限回転速度Rmaxに達しなければ(はい)、ステップS9で、回転速度Rに応じて報知部107の速度監視領域W=R/Rmaxを点灯させる(
図4の(3))。続いて制御ユニット100は、ステップS10で、ステップS7で算出した回転速度Rに従ってミシンモータ106を駆動する。そして、ステップS11で制御ユニット100は、使用者による操作装置101の運転停止操作があるか否かを監視する。操作装置101の運転停止操作は、例えば、スタートストップキー7の操作(ボタンのプッシュ)や、フットコントローラの開放などがある。運転停止操作がなければ(いいえ)、制御ユニット100は、ステップS4以降のプロセスを繰り返す。運転停止操作があった場合(はい)、制御ユニット100は、ステップS12でミシンモータ106を停止させる制御を行う。
【0035】
一方、ステップS8で回転速度Rが上限回転速度Rmax以上になっていれば(いいえ)、制御ユニット100は、ステップS13で、速度監視領域Wの全領域(Wmax)、つまり、報知部107の全領域W0+Wmaxを点灯させる(
図4の(4))。続いて制御ユニット100は、ステップS14でミシンモータ106を停止させる制御を行い、一例としてステップS15で、表示装置102において上限移動速度超過表示を行って、被縫製物を動かすスピードが速過ぎたことを使用者に知らせる。これらの制御により、縫い目が不均一になってしまう前に、縫製を中止にすることができる。
【0036】
ステップS12又はステップS14でミシンモータ106を停止させた制御ユニット100は、ステップS16で、移動検出ユニット105による被縫製物の移動検出モードを移動非検出モードに切り換え、ミシン1を停止状態とし、報知部107を全領域消灯(
図4の(1))としてミシン1が停止している状態であることを使用者に知らせる。
【0037】
[制御ユニットによる制御の実施例2]
図6に、実施例2の制御を説明するフローチャートを示す。
なお、実施例2の制御のステップS1~S13及びS16に関しては、前述した実施例1と同一である。したがってここでは、実施例1と異なるステップS20を中心に説明する。
【0038】
ステップS8において回転速度Rが上限回転速度Rmax以上になっていた場合(いいえ)、ステップS13において制御ユニット100は、報知部107の全領域(W0+Wmax)を点灯させる。その後、実施例1ではミシンモータ106を停止させるが(S14)、実施例2においては、ミシンモータ106を上限回転速度Rmaxで駆動させて、ステップS11に移行することで縫製を継続させる(ステップS20)。
【0039】
したがって、実施例2の制御においては、被縫製物の移動速度Sが上限移動速度Smaxを超過した場合、設定された縫いピッチPを維持することはできないものの縫製自体は継続させることができる。
【0040】
つまり、実施例1の制御は、縫目ピッチの正確さをより重視した制御方法であり、実施例2の制御は、縫製の継続をより重視した制御方法といえる。ミシン1はこれら2つの制御方法のどちらかを採用するか、または、切り替え可能とし、使用者が操作装置101を介してどちらの制御とするかを設定するようにしてもよい。
【0041】
[制御ユニットによる制御の実施例3]
図7に、実施例3の制御を説明するフローチャートを示す。
なお、実施例3は実施例1の変形例であり、ミシンモータ106の回転速度Rと上限回転速度Rmaxとから速度監視領域W(=R/Rmax)を求めた実施例1に対し、実施例3は、被縫製物の移動速度Sと上限移動速度Smaxとから速度監視領域W(=S/Smax)を求める制御を行っている。ただし、前述したように速度監視領域W=R/Rmax=S/Smaxであるため、実施例1と実施例3どちらの制御方法であっても、その結果(速度監視領域Wの増減量やそのタイミング)は同一である。
【0042】
また、実施例3の制御のステップS1~S6及びS10~S16に関しては、前述した実施例1と同一である。したがってここでは、実施例1と異なるステップS30~S34を中心に説明する。
【0043】
ステップS6において、制御ユニット100は、移動検出ユニット105の検出信号から単位時間当りの被縫製物の移動量を取得し、この移動量に基づいて被縫製物の移動速度Sを算出する。
【0044】
そして、実施例1ではその後、算出した移動速度Sと、縫いピッチPとから、ミシンモータ106の回転速度Rを算出し(ステップS7)、その回転速度Rが上限回転速度Rmaxに達するか否か(R<Rmax)を監視する(ステップS8)。
【0045】
一方、実施例3においては、縫いピッチ設定ユニット103により設定されている縫いピッチPと、上限値設定ユニット104により設定されている上限回転速度Rmaxとから、上限移動速度Smaxを算出し(ステップS30)、移動速度Sがその上限移動速度Smaxに達するか否か(S<Smax)を監視する(ステップS31)。
【0046】
移動速度Sが上限移動速度Smaxに達しなければ(はい)、制御ユニット100は、ステップS32で、移動速度Sと縫いピッチPとからミシンモータ106の回転速度Rを算出する。そして制御ユニット100は、ステップS33で、移動速度Sに応じて報知部107の速度監視領域W=S/Smaxを点灯させる(
図4の(3))。
【0047】
[制御ユニットによる制御の実施例4]
図8に、実施例4の制御を説明するフローチャートを示す。
なお、実施例4は実施例2の変形例であり、ミシンモータ106の回転速度Rと上限回転速度Rmaxとから速度監視領域W(=R/Rmax)を求めた実施例2に対し、実施例4は、被縫製物の移動速度Sと上限移動速度Smaxとから速度監視領域W(=S/Smax)を求める制御を行っている。ただし、前述したように速度監視領域W=R/Rmax=S/Smaxであるため、実施例2と実施例4どちらの制御方法であっても、その結果(速度監視領域Wの増減量やそのタイミング)は同一である。
【0048】
また、実施例4の制御のステップS1~S6及びS10~S13、S16、S20に関しては、前述した実施例1又は実施例2と同一である。したがってここでは、実施例2と異なるステップS40~S43を中心に説明する。
【0049】
ステップS6において、制御ユニット100は、移動検出ユニット105の検出信号から単位時間当りの被縫製物の移動量を取得し、この移動量に基づいて被縫製物の移動速度Sを算出する。
【0050】
そして、実施例2ではその後、算出した移動速度Sと、縫いピッチPとから、ミシンモータ106の回転速度Rを算出し(ステップS7)、その回転速度Rが上限回転速度Rmaxに達するか否か(R<Rmax)を監視する(ステップS8)。
【0051】
一方、実施例4においては、縫いピッチ設定ユニット103により設定されている縫いピッチPと、上限値設定ユニット104により設定されている上限回転速度Rmaxとから、上限移動速度Smaxを算出し(ステップS40)、移動速度Sがその上限移動速度Smaxに達するか否か(S<Smax)を監視する(ステップS41)。
【0052】
移動速度Sが上限移動速度Smaxに達しなければ(はい)、制御ユニット100は、ステップS42で、移動速度Sと縫いピッチPとからミシンモータ106の回転速度Rを算出する。そして制御ユニット100は、ステップS43で、移動速度Sに応じて報知部107の速度監視領域W=S/Smaxを点灯させる(
図4の(3))。
【0053】
以上の実施例を例示して説明した実施の形態によれば、報知部107により、使用者は、ミシンモータ106の上限回転速度Rmaxに対し、現在の回転速度Rがどの程度であるかを知ることができる。又は、使用者は、被縫製物の上限移動速度Smaxに対し、今の移動速度Sがどの程度であるかを直接的に知ることができる。したがって、使用者は、縫い目が不均一になる前に縫製を中止することができるし、上限移動速度Smaxを越えることなく被縫製物を動かすことができ、安定したピッチの縫い目を作成することができる。
【0054】
本発明は上述した実施例に限定されるものではなく、本発明には様々な変形例が含まれる。例えば、上述した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるわけではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、削除する、他の構成を追加・置換することなどが可能である。
【0055】
上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリ、ハードディスク(HDD)やSSD(Solid State Drive)等の記録装置、又は、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に記録することができる。
【0056】
接続線、制御線、情報線などは説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全てのものを示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【0057】
上述の実施例は少なくとも以下の形態を開示する。
[1]
ミシン1であって、
所定の縫いピッチPを設定するように構成された縫いピッチ設定ユニット103と、
被縫製物の移動を検出するように構成された移動検出ユニット105と、
移動検出ユニット105により検出される被縫製物の移動量に基づいて被縫製物の移動速度Sを算出し、移動速度Sと所定の縫いピッチPとに基づいて、針2を動作させるミシンモータ106の回転速度Rを算出するように構成された制御ユニット100と、
ミシンモータ106の上限回転速度Rmaxに対する回転速度Rの大きさを知らせるように構成された報知部107と、を有する、ミシン1。
[2]
報知部107は、表示の変化又は音の変化で、上限回転速度Rmaxに対する回転速度Rの大きさを知らせるように構成される。
[3]
ミシン1は、上限回転速度Rmaxを設定する上限値設定ユニット104をさらに有する。
[4]
報知部107は、算出された回転速度Rが上限回転速度Rmaxを超えた場合に、回転速度Rが上限回転速度Rmaxを超えたことを示す情報を表示する、又は、音により報知する。
[5]
制御ユニット100は、算出された回転速度Rが上限回転速度Rmaxを超えた場合にミシンモータ106を停止させるように構成される。
[6]
制御ユニット100は、算出された回転速度Rが上限回転速度Rmaxを超えた場合に、上限回転速度Rmaxでミシンモータ106を制御するように構成される。
[7]
針2を動作させるミシンモータ106と、被縫製物の移動を検出する移動検出ユニット105と、ミシンモータ106を制御する制御ユニット100と、を含むミシン1を制御するためのプログラム(又はプログラムを記録した記録媒体)であって、
当該プログラムを実行する制御ユニット100が、
移動検出ユニット105により検出される被縫製物の移動量に基づいて被縫製物の移動速度Sを算出し、移動速度Sと所定の縫いピッチPとに基づいて、ミシンモータ106の回転速度Rを算出し、
ミシンモータ106の上限回転速度Rmaxに対する回転速度Rの大きさを報知部107により報知させる、ように作動する、プログラム。
【0058】
以上、本発明に関し、いくつかの実施例を示し説明した。しかし、当該実施例以外にも、以上の説明で理解される本発明の思想に基づいて種々の実施形態を想到し得る。
【符号の説明】
【0059】
1 ミシン
2 針
3 押さえ
4 針板
5 押さえ棒
7 スタートストップキー
8 スピードコントローラ
100 制御ユニット
101 操作装置
102 表示装置
103 縫いピッチ設定ユニット
104 上限値設定ユニット
105 移動検出ユニット
106 ミシンモータ
107 報知部