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特開2024-165046セラミド産生促進剤およびセラミド合成酵素遺伝子の発現増強剤
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  • 特開-セラミド産生促進剤およびセラミド合成酵素遺伝子の発現増強剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165046
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】セラミド産生促進剤およびセラミド合成酵素遺伝子の発現増強剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/9789 20170101AFI20241121BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20241121BHJP
   C12N 15/52 20060101ALN20241121BHJP
【FI】
A61K8/9789
A61Q19/00
C12N15/52 Z ZNA
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080866
(22)【出願日】2023-05-16
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(71)【出願人】
【識別番号】507307260
【氏名又は名称】宇航人ジャパン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】309033932
【氏名又は名称】株式会社フィネス
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(74)【代理人】
【識別番号】100219483
【弁理士】
【氏名又は名称】宇野 智也
(72)【発明者】
【氏名】清水 邦義
(72)【発明者】
【氏名】楊 建標
(72)【発明者】
【氏名】祖父江 守恒
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AA121
4C083AA122
4C083CC02
4C083EE12
4C083FF01
(57)【要約】
【課題】新規のセラミド産生促進剤およびセラミド合成酵素遺伝子の発現増強剤を提供する。
【解決手段】サジー種子オイルを有効成分として含有する、セラミド産生促進剤。サジー種子オイルを有効成分として含有する、セラミド合成酵素遺伝子の発現増強剤。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サジー種子オイルを有効成分として含有する、セラミド産生促進剤。
【請求項2】
前記サジー種子オイルが、サジー種子の超臨界二酸化炭素抽出物および/または亜臨界二酸化炭素抽出物である、請求項1に記載のセラミド産生促進剤。
【請求項3】
サジー種子オイルを有効成分として含有する、セラミド合成酵素遺伝子の発現増強剤。
【請求項4】
前記セラミド合成酵素遺伝子が、CERS2、CERS3およびCERS4からなる群から選択される1以上である、請求項3に記載のセラミド合成酵素遺伝子の発現増強剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミド産生促進剤およびセラミド合成酵素遺伝子の発現増強剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セラミドは皮膚における主要な細胞間脂質成分であり、特にバリア機能において大きな役割を果たす。セラミドが不足すると水分を保持することができず乾燥した肌となり、バリア機能が低下して外からの刺激を受けやすい状態になるため、さまざまな肌トラブルを引き起こすと考えられている。また、近年、皮膚のバリア機能以外にも様々な生体内の機能にセラミドが関与していることが報告されている。
【0003】
セラミドの生合成や代謝には、複数の酵素が関与しており、そのうちの一つにセラミド合成酵素がある。例えば、加齢などの影響によってセラミド合成酵素の働きが減退すると、セラミド量が減少して細胞間脂質のバランスが乱れ、肌のバリア機能や水分保持能が低下して肌の乾燥の原因になると言われている。セラミドの産生を促進することで、肌のバリア機能の改善や水分保持能の向上などが期待できる。このセラミド合成酵素の発現増強に関するものとして、特許文献1などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-170780号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、新規のセラミド産生促進剤およびセラミド合成酵素遺伝子の発現増強剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1> サジー種子オイルを有効成分として含有する、セラミド産生促進剤。
<2> 前記サジー種子オイルが、サジー種子の超臨界二酸化炭素抽出物および/または亜臨界二酸化炭素抽出物である、前記<1>に記載のセラミド産生促進剤。
<3> サジー種子オイルを有効成分として含有する、セラミド合成酵素遺伝子の発現増強剤。
<4> 前記セラミド合成酵素遺伝子が、CERS2、CERS3およびCERS4からなる群から選択される1以上である、前記<3>に記載のセラミド合成酵素遺伝子の発現増強剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、新規のセラミド産生促進剤およびセラミド合成酵素遺伝子の発現増強剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】セラミド合成酵素遺伝子発現評価試験の評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を変更しない限り、以下の内容に限定されない。なお、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値又は物性値を含む表現として用いるものとする。
【0010】
本発明は、サジー種子オイルを有効成分として含有する、セラミド産生促進剤に関するものである。また、本発明は、サジー種子オイルを有効成分として含有する、セラミド合成酵素遺伝子の発現増強剤に関するものである。以下、本発明のセラミド産生促進剤およびセラミド合成酵素遺伝子の発現増強剤をまとめて「本発明の剤」と記載する。
【0011】
(サジー種子オイル)
サジー種子オイルは、サジーの種子から抽出された油分(疎水性成分)である。サジー(沙棘、学名:Hippophae rhamnoides L.、英語名:Sea buckthorn)は、ユーラシア大陸原産のグミ科ヒッポファエ属の植物である。サジーの種子は、果実そのものや果実を加工した後の残渣などから取り出して用いることができる。例えば、サジー果実を圧搾や裏ごしして液やピューレなどの果汁等に加工するときに除去される残渣から種子を選別しオイルの抽出に用いることができる。残渣等から選別した種子は、適宜、水で洗浄し乾燥させてからオイルの抽出に用いることができる。
【0012】
オイルの抽出方法は特に限定されず、公知の方法を利用することができ、サジーの種子を、適宜、破砕や粉砕した後、超臨界二酸化炭素抽出法や、亜臨界二酸化炭素抽出法、水蒸気蒸留法、有機溶媒抽出法、圧搾抽出法などの抽出方法により抽出し得られた抽出物をサジー種子オイルとして利用することができる。
【0013】
中でも、低温で抽出でき、熱に弱い成分も壊さずに抽出することができる超臨界二酸化炭素抽出法や亜臨界二酸化炭素抽出法を利用することが好ましく、サジー種子オイルは、サジー種子の超臨界二酸化炭素抽出物および/または亜臨界二酸化炭素抽出物であることが好ましい。具体的には、サジー種子オイルは、超臨界状態または亜臨界状態の二酸化炭素を抽出溶媒として用い、サジー種子から油分を抽出し、二酸化炭素を除去する工程を有する方法により得ることが好ましい。抽出条件は、二酸化炭素が超臨界状態または亜臨界状態となる温度、圧力であればよく、例えば、温度20~80℃、圧力10~60MPaや、温度30~80℃、圧力10~50MPa、温度31~60℃、圧力15~40MPa、温度31~40℃、圧力20~30MPaである。
【0014】
(セラミド合成酵素遺伝子)
本発明の剤は、セラミドの合成を促進することができる。また、本発明の剤は、セラミドの生合成に関与する酵素のうち、セラミド合成酵素(ceramide synthase)遺伝子の発現を増強することができる。遺伝子の発現増強とは、遺伝子(DNA)の転写産物および/または遺伝子にコードされたタンパク質が増加することである。具体的には、本発明の剤は、セラミド合成酵素遺伝子からmRNAへの転写を誘導または促進することや、mRNAからセラミド合成酵素への翻訳を誘導または促進することができる。
【0015】
セラミド合成酵素の遺伝子は、CERS1からCERS6までの6種類が報告されている。この中でも、本発明の剤は、CERS2、CERS3およびCERS4からなる群から選択される1以上の遺伝子の発現を増強するために用いることが好ましい。CERS2は、腎臓、肝臓および腸など多くの細胞組織で大量に発現している遺伝子であり、CERS3は、ケラチノサイトで発現している遺伝子であり、CERS4は、皮膚に限らず白血球、心臓および肝臓でも発現している遺伝子である。なお、前記遺伝子は、NCBI(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)に記載のOfficial symbolに従って遺伝子の略称で記載している。
【0016】
本発明の剤は、水溶液や乳化液、分散液、エマルジョンなどの液状;ゲル状や軟膏状、ペースト状、クリーム状などの半固形状;固形状など種々の形態で使用することができる。例えば、化粧水、化粧液、クリーム、乳液、日やけ止め、洗浄料、パック、化粧用油、ボディリンス、マッサージ料、頭皮料、洗髪料、ヘアリンス、リップケア化粧料等の任意の外用剤の形態とすることができる。外用剤の場合、1日1回~数回程度、各外用剤の形態で一般的な量を使用することで、その効果を奏することができる。
【0017】
本発明の剤は、その形態等に応じて、サジー種子オイルのみで構成しても、サジー種子オイルに加えて、医薬品や、医薬部外品、化粧品等の技術分野で公知の基材や添加剤などの他の成分を含んでもよい。本発明の剤中のサジー種子オイルの含有量は、本発明の効果を達成できる範囲であれば特に限定されないが、好ましくは、0.5v/v%以上であり、0.6v/v%以上や、0.8v/v%以上、1v/v%以上などとしてもよい。本発明の剤中のサジー種子オイルの含有量の上限は特に限定はなく、形態等に応じて、90v/v%以下や50v/v%以下、10v/v%以下、5v/v%以下などとすることができる。
【実施例0018】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0019】
1.試験試料(サジー種子オイル)
H.rhamnoidesの果実(内モンゴル産)を用いたサジー果汁加工後の残渣(種子、果皮の一部を含む)から種子を選別し、飲用水で洗浄した。その後、乾燥させたものを粉砕し、超臨界二酸化炭素抽出(圧力24~26MPa、温度31.25℃、時間3.5時間)により油分を溶解・分離し、褐色透明の抽出液を得た。充填は無菌条件で包装・密封を行った。
【0020】
2.試験方法
(1)評価サンプル
・サジー種子オイル
終濃度:0.2v/v%、0.4v/v%、0.5v/v%
・コントロール
エタノール、終濃度:0.5v/v%
【0021】
(2)実験方法
・細胞培養
ヒト表皮角化細胞(HaCaT細胞)は、Dulbecco’s Modified Eagle Medium (DMEM)(高グルコース)(含1v/v%ペニシリン-ストレプトマイシンおよび10v/v%ウシ胎児血清(FBS))を用いて、コンフルエントになるまでφ10cmディッシュにて前培養した。その後、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄し、培地に再懸濁後、24穴プレートに1.0×105cells/wellの濃度で播種しCO2インキュベーター(37℃,5%CO2)でオーバーナイト培養した。
【0022】
・サンプル添加
HaCaT細胞播種から24時間後、サンプルを含む無血清のDMEM(高グルコース)(含1v/v%ペニシリン-ストレプトマイシン)を各ウェル1mLずつ加え、CO2インキュベーター(37℃,5%CO2)で48時間培養した。
【0023】
・リアルタイムPCRによる遺伝子の発現量変化
サンプル添加48時間後のHaCaT細胞を回収し、RNeasy Mini kit(Qiagen)を用いてtotal RNAを抽出した。ReverTra Ace qPCR RT Master Mix with gDNA Remover(TOYOBO)にて、抽出したtotal RNAからcDNAを合成した。合成したcDNAを鋳型としてAriaMX(Agilent)装置でリアルタイムPCRを行った。リアルタイムPCR反応には、THUNDERBIRD SYBR qPCR Mix(TOYOBO)を用いた。リアルタイムPCR反応には、セラミド合成酵素遺伝子CERS2用プライマーとして配列番号1(5’-CCGATTACCTGCTGGAGTCAG-3’)で表されるフォワードプライマーおよび配列番号2(5’-GGCGAAGACGATGAAGATGTTG-3’)で表されるリバースプライマーを、セラミド合成酵素遺伝子CERS3用プライマーとして配列番号3(5’-ACATTCCACAAGGCAACCATTG-3’)で表されるフォワードプライマーおよび配列番号4(5’-CTCTTGATTCCGCCGACTCC-3’)で表されるリバースプライマーを、セラミド合成酵素遺伝子CERS4用プライマーとして配列番号5(5’-GGAGGCCTGTAAGATGGTCA-3’)で表されるフォワードプライマーおよび配列番号6(5’-GAGGACCAGTCGGGTGTAGA-3’)で表されるリバースプライマーを、内部標準β-アクチン用プライマーとして配列番号7(5’-GGGTCAGAAGGACTCCTATG-3’)で表されるフォワードプライマーおよび配列番号8(5’-GTAACAATGCCATGTTCAAT-3’)で表されるリバースプライマーを使用した。リアルタイムPCR反応条件として、95℃、60秒の初期変性後、95℃、15秒での変性、60℃、60秒のアニーリング/伸長という2ステップのPCR反応を40サイクル行った。
【0024】
3.評価結果
図1に、セラミド合成酵素遺伝子発現評価試験の評価結果を示す。図1は、コントロールを1としたときの相対値を示す図(n=3、平均値±SD.、**はp<0.01)であり、コントロールおよびサジー種子オイル各濃度において、左から順に、CERS2、CERS3、CERS4の評価結果である。図1に示すように、CERS2、CERS3およびCERS4いずれも、0.5v/v%サジー種子オイル添加により、コントロールと比較して約2倍の発現上昇が確認できた。以上の結果より、サジー種子オイルは、セラミド合成酵素遺伝子を活性化し、セラミド産生を増加することが期待できる。
図1
【配列表】
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